(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/38 20060101AFI20220906BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20220906BHJP
H05K 3/20 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H05K3/38 D
H01L23/12 D
H05K3/20 Z
(21)【出願番号】P 2019049483
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】北原 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】大橋 東洋
【審査官】柴垣 宙央
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-192823(JP,A)
【文献】特開2012-38825(JP,A)
【文献】特開2009-246146(JP,A)
【文献】特開2010-109042(JP,A)
【文献】特開2018-2571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/38
H01L 23/12
H05K 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と金属板とをろう材を介して積層して積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体の両面をグラファイトシートとカーボンシートとが積層されることにより構成されるクッションシートで挟んで、前記カーボンシートと前記積層体とが接するように配置する配置工程と、これらを厚さ方向に加圧及び加熱することにより、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する接合工程と、を備え、
前記グラファイトシートの厚さは、0.8mm以上であり、
前記グラファイトシートの表面には、内径5mm以下で前記グラファイトシートの厚さ方向に延びる複数の凹部が形成されており、前記複数の凹部は、平面視で三角形の頂点となる位置にそれぞれ配置され、横方向に隣り合う前記凹部の中心間のピッチが9mm以下、縦方向に隣り合う前記凹部の中心間のピッチが9mm以下であり、
0.1MPaの加圧力で押圧したときの前記複数の凹部が形成されているグラファイトシートの圧縮量が0.1mm以上0.15mm以下であることを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記複数の凹部は、平面視で正三角形の頂点となる位置にそれぞれ配置され、前記横方向に隣り合う前記凹部の中心間のピッチと前記縦方向に隣り合う前記凹部の中心間のピッチとが同一であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記複数の凹部は、前記グラファイトシートを厚さ方向に貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記クッションシートは、前記グラファイトシートの両面に前記カーボンシートが配置されることにより構成されており、
前記配置工程では、前記積層体及び前記カーボンシートを交互に積層することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板等の絶縁回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁回路基板として、窒化アルミニウムを始めとするセラミックス基板からなる絶縁基板の一方の面に回路層が形成されるとともに、他方の面に金属層が形成されたパワーモジュール用基板が知られている。
このパワーモジュール用基板は、以下のように製造される。まず、セラミックス基板の一方の面に、ろう材を介してアルミニウム又は銅からなる金属板を積層し、他方の面に、ろう材を介してアルミニウム又は銅からなる金属板を積層して積層体を形成し、積層体をその積層方向に所定の圧力で加圧しながら、ろう材が溶融する温度以上に加熱した後冷却し、これによりセラミックス基板と各金属板とを接合する。
このような絶縁回路基板には、金属板(回路層)の上にはんだ材を介して半導体素子が搭載され、パワーモジュールとなる。
【0003】
このような絶縁回路基板の製造過程では、金属板とセラミックス基板との接合に用いられる溶融ろうが金属板とセラミックス基板との間から染み出して金属板の側面を伝って這い上がる現象が生じる。表面に這い上がった溶融ろうは、いわゆるろうシミとなり、外観を損なう問題だけでなく、半導体素子を接合する際に用いるはんだ材の濡れ性の悪化につながることが懸念される。
この回路層のろうシミの発生を抑制する技術として、例えば、特許文献1には、セラミックス基板の表面にろう材を介して金属板を積層し、これらを積層方向に加圧する際に、金属板の周縁部の押圧力を周縁部より内側の中央部に比べて大きくすることで、回路層のろうシミの発生を抑制することが開示されている。また、特許文献2には、上記積層体を押圧する際に、カーボンシートの両面にグラファイトシートを接合したクッションシートを用いることにより、荷重を均一化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-165807号公報
【文献】特開2012-38825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、上記積層体を加圧する接合冶具の構造が複雑化し、絶縁回路基板の製造コストが増加する他、ろうシミの発生を完全に抑制することが難しい。また、上記特許文献2に記載のクッションシートを用いる方法であっても、特にセラミックス基板に銅板を接合する際には、これらの積層体を加圧する加圧力が小さいため、積層体の表面に応じる応力を均等化することが難しい。このため、高信頼性の要求から、接合条件としてより高温での接合となってしまい、溶融ろうの金属板の側面の這い上がりが発生しやすくなっており、ろうシミの発生を完全に抑制することが難しい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、金属板とセラミックス基板との接合性を損なうことなく、ろうシミの発生を抑制し、半導体素子のはんだ接合性を高めることができる絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、セラミックス基板と金属板とをろう材を介して積層して積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体の両面をグラファイトシートとカーボンシートとが積層されることにより構成されるクッションシートで挟んで、前記カーボンシートと前記積層体とが接するように配置する配置工程と、これらを厚さ方向に加圧及び加熱することにより、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する接合工程と、を備え、前記グラファイトシートの厚さは、0.8mm以上であり、前記グラファイトシートの表面には、内径5mm以下で前記グラファイトシートの厚さ方向に延びる複数の凹部が形成されており、前記複数の凹部は、平面視で三角形の頂点となる位置にそれぞれ配置され、横方向に隣り合う前記凹部の中心間のピッチが9mm以下、縦方向に隣り合う前記凹部の中心間のピッチが9mm以下であり、0.1MPaの加圧力で押圧したときの前記複数の凹部が形成されているグラファイトシートの圧縮量が0.1mm以上0.15mm以下である。
【0008】
ここで、カーボンシートとは、たとえば、コークスやコールタールピッチ等を主原料として、静水圧成形法により形成され、等方的な構造と特性を持つものである。また、グラファイトシートとは、たとえば、酸処理した天然黒鉛を膨張化処理し、予備成形およびロール圧延することにより形成され、接合面(荷重が負荷された面)の面圧を均等にする均圧性を有するものである。また、ろうシミとは、接合工程においてセラミックス基板と金属板との接合面から染み出した溶融ろうが金属板の側面を這い上がり、金属板の表面で固化したものをいう。
【0009】
本発明では、グラファイトシートに複数の凹部が形成されていることから、接合工程においてクッションシートを介して積層体を加圧する際に、小さい荷重でもグラファイトシートが複数の凹部が形成されていないグラファイトシートに比べてつぶれやすくなる。このため、グラファイトシート(クッションシート)の均圧性を高めて、金属板とセラミックス基板との接合面に均一に加圧力を作用させることができ、これらの間からの溶融ろうの染み出しを防止して、金属板の表面のろうシミの発生を抑制できる。したがって、半導体素子のはんだ接合性を高めることができる。
【0010】
なお、グラファイトシートの厚さが0.8mm未満であると、つぶれ代が少ないために均一に潰れにくい。また、複数の凹部の内径が5mmを超えるとグラファイトシートが均一に潰れにくい。さらに、上記各ピッチが9mmを超えるとグラファイトシートが均一に潰れにくくなる。
また、0.1MPaの加圧力で押圧したときの複数の凹部が形成されたグラファイトシートの圧縮量が0.1mm未満であると、均一な荷重分布とはならず、上記圧縮量が0.15mmを超えると、均圧性が無くなり荷重不均一となり得る。
【0011】
本発明の絶縁回路基板の製造方法の好ましい態様としては、前記複数の凹部は、平面視で正三角形の頂点となる位置にそれぞれ配置され、前記横方向に隣り合う前記凹部の中心間のピッチと前記縦方向に隣り合う前記凹部の中心間のピッチとが同一であるとよい。
【0012】
上記各態様では、複数の凹部が上記各条件に基づいて配置されているので、接合工程においてクッションシートを介して積層体を加圧する際にグラファイトシートが均一に潰れやすくなる。このため、クッションシートによる荷重が積層体に均一にかかることから、金属板とセラミックス基板とをより確実に接合でき、かつ、金属板の表面のろうシミの発生を抑制できる。
【0013】
本発明の絶縁回路基板の製造方法の好ましい態様としては、前記複数の凹部は、前記グラファイトシートを厚さ方向に貫通する貫通孔であるとよい。
上記態様では、グラファイトシートに複数の凹部を容易に形成できる。
【0014】
本発明の絶縁回路基板の製造方法の他の態様としては、前記クッションシートは、前記グラファイトシートの両面に前記カーボンシートが配置されることにより構成されており、前記配置工程では、前記積層体及び前記クッションシートを交互に積層してもよい。
【0015】
上記態様では、積層体及びクッションシートを交互に積層して、これらを加圧及び加熱することにより複数の絶縁回路基板を製造でき、製造コストを低減できる。また、グラファイトシートに複数の凹部を形成することで均圧性を高めているので、例えば、クッションシートの厚さを小さくでき、これにより多くの絶縁回路基板を効率よく製造できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、金属板とセラミックス基板との接合性を損なうことなく、ろうシミの発生を抑制し、半導体素子のはんだ接合性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
【
図2】上記実施形態の絶縁回路基板の製造装置を示す側面図である。
【
図3】上記実施形態の絶縁回路基板の製造方法における配置工程を示す図である。
【
図4】上記実施形態のクッションシートの断面を示す断面図である。
【
図5】上記実施形態のクッションシートのグラファイトシートの平面図である。
【
図6】上記実施形態の第1変形例に係るグラファイトシートの平面図である。
【
図7】上記実施形態の第2変形例に係るグラファイトシートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る絶縁回路基板の製造方法の実施形態について説明する。
図1は、絶縁回路基板10を適用したパワーモジュール50を示す全体図である。
【0019】
[絶縁回路基板の概略構成]
本発明に係る絶縁回路基板の製造方法により製造される絶縁回路基板10は、
図1に示すように、いわゆるパワーモジュール用基板であり、絶縁回路基板10の表面には、
図1に示すように、素子60が搭載されパワーモジュール50となる。この素子60は、半導体を備えた電子部品であり、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の種々の半導体素子が選択される。この場合、素子60は、図示を省略するが、上部に上部電極部が設けられ、下部に下部電極部が設けられており、下部電極部が回路層4の上面にSn-Ag-Cu系、Zn-Al系若しくはPb-Sn系等のはんだ材61等により接合されることで、素子60が回路層4の上面に搭載される。また、素子60の上部電極部は、はんだ等で接合されたリードフレーム等を介して回路層4の回路電極部等に接続され、パワーモジュール50が製造される。
【0020】
絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板20と、セラミックス基板20の一方の面に接合された回路層4と、セラミックス基板20の他方の面に接合された放熱層3とを備える。
セラミックス基板20は、回路層4と放熱層3の間の電気的接続を防止する絶縁基板であって、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、若しくはAl
2O
3(アルミナ)等の酸化物系セラミックス等により構成されている。このセラミックス基板20は、厚さが0.3mm~1.0mmとされている。また、セラミックス基板20は、平面視で矩形板状に形成され、回路層4及び放熱層3のそれぞれよりも若干大きく形成されている。
【0021】
放熱層3は、無酸素銅等の銅又はジルコニウム添加銅合金等の銅合金により構成されている。この放熱層3の厚さは、0.3mm以上1.6mmとされている。また、放熱層3は、平面視で矩形板状に形成され、回路層4と同じサイズとされている。
回路層4は、放熱層3と同様に、無酸素銅等の銅又はジルコニウム添加銅合金等の銅合金により構成されている。この回路層4は、厚さが0.3mm~1.6mmとされている。また、回路層4は、平面視で矩形板状に形成され、セラミックス基板20よりも若干小さく形成され、放熱層3と同じサイズに形成されている。
これら放熱層3及び回路層4は、Ag-Cu-Ti系のろう材11を介してセラミックス基板20に接合されている。
【0022】
ヒートシンク7は、アルミニウム合金の押し出し成形によって形成され、その長さ方向に沿って冷却水を流通させるための多数の流路7aが形成されている。このヒートシンク7は、ろう付、はんだ付、ボルト等によって絶縁回路基板10に接合される。
なお、本実施形態では、ヒートシンク7には、多数の流路7aが形成されていることとしたが、これに限らず、多数の流路7aに代えて、絶縁回路基板10とは反対方向側の面から突出する複数のフィンを備えることとしてもよい。また、ヒートシンク7を備えていなくてもよい。
【0023】
[絶縁回路基板の製造方法]
次に、本実施形態の絶縁回路基板10の製造方法について説明する。
その製造方法は、セラミックス基板20と放熱層用金属板30及び回路層用金属板40とをろう材11を介して積層して積層体101を形成する積層体形成工程と、積層体101の両面をグラファイトシート121とカーボンシート122とが積層されることにより構成されるクッションシート120で挟んで、カーボンシート122と積層体101とが接するように配置する配置工程と、これらを厚さ方向に加圧及び加熱することにより、セラミックス基板20と放熱層用金属板30及び回路層用金属板40とを接合する接合工程と、を備えている。以下、工程ごとに説明する。
【0024】
(積層体形成工程)
まず、銅合金からなる金属素材を打ち抜いて形成された回路層用金属板40をセラミックス基板20の一方の面にろう材11を介して積層するとともに、銅合金からなる金属素材を打ち抜いて形成された放熱層用金属板30をセラミックス基板20の他方の面にろう材11を介して積層して積層体101とする。このろう材11は、Ag-Cu-Ti系ろう材ペーストが塗布されることにより構成され、その厚さ(塗布厚)は10μm~30μmに設定されている。
なお、ろう材11は、箔状に形成されていてもよい。
【0025】
次に、絶縁回路基板10の製造装置100について説明する。
図2に示すように、絶縁回路基板10の製造装置100は、ろう材11を介在させてセラミックス基板20と各金属板30,40とを積層してなる積層体101(
図3参照)を複数積み重ねた状態で、図に矢印で示すように厚さ方向に加圧する加圧装置110と、複数の積層体101間に配置されるクッションシート120(
図4参照)とを備える。
【0026】
加圧装置110は、ベース板111と、ベース板111の上面の四隅に垂直に取り付けられたガイドポスト112と、これらガイドポスト112の上端部に固定された固定板113と、これらベース板111と固定板113との間で上下移動自在にガイドポスト112に支持された加圧板114と、固定板113と加圧板114との間に設けられて加圧板114を下方に付勢するばね115とを備えている。固定板113および加圧板114は、ベース板111に対して平行に配置されている。積層体101およびクッションシート120は、固定板113と加圧板114との間に交互に積層されて、ばね115の付勢力によって厚さ方向(積層方向)に加圧される。ばね115の付勢力による積層体101に対する加圧力は、0.1MPa以上10MPaである。
【0027】
クッションシート120は、加圧装置110における付勢力を均一に各積層体101に対して伝えるために配置される。クッションシート120は、
図4に示すように、グラファイトシート121の両面にカーボンシート122が配置されている。
このようなグラファイトシート121は、例えば、酸処理した天然黒鉛を膨張化処理し、予備成形およびロール圧延することにより形成されたものであり、均圧性を有し、その厚さは、0.8mm以上とされている。また、カーボンシート122は、例えば、コークスやコールタールピッチ等を主原料として、静水圧成形法により形成され、等方的な構造と特性を持つものであり、その厚さは、0.5mm以上3.0mm以下とされている。
なお、グラファイトシート121の厚さが0.8mm未満であると、つぶれ代が少ないためにグラファイトシート121が均一に潰れにくい。また、グラファイトシート121の厚さは、1.2mm以下であることが好ましい。グラファイトシート121の厚さが1.2mmを超えると、例えば、厚くなりすぎるために積層高さが大きくなり、特に複数組の積層体101を積み重ねて同時に接合する際に不安定となり、組み立て作業性が悪くなる可能性がある。
【0028】
また、グラファイトシート121には、
図4及び
図5に示すように、複数の凹部124が形成されている。この複数の凹部124は、グラファイトシート121を厚さ方向に貫通する貫通孔により構成され、接合工程により加圧された際に、グラファイトシート121が潰れる際に面方向に張り出させて、積層体101の表面に生じる応力を均等化するため、すなわち、均圧性を向上させるために設けられている。このような複数の凹部124は、0.1MPaの加圧力で押圧したときのグラファイトシート121の圧縮量が0.1mm以上0.15mm以下となるように形成されている。
なお、0.1MPaの加圧力で押圧したときの複数の凹部124が形成されたグラファイトシート121の圧縮量が0.1mm未満であると、均一な荷重分布とはならず、上記圧縮量が0.15mmを超えると、均圧性が無くなり荷重不均一となり得る。
【0029】
具体的には、複数の凹部124は、
図5に示すように、グラファイトシート121の厚さ方向に延びる内径5mm以下の貫通孔により構成され、平面視で三角形d1の頂点となる位置にそれぞれ配置され、横方向に隣り合う凹部124の中心間のピッチ(以下、横ピッチという)p2が9mm以下、縦方向に隣り合う凹部124の中心間のピッチ(以下、縦ピッチという)p1が9mm以下に設定されている。
なお、複数の凹部124の内径が5mmを超えるとグラファイトシート121が均一に潰れにくい。さらに、上記縦ピッチp1及び横ピッチp2が9mmを超えるとグラファイトシート121が均一に潰れにくくなる。また、製造の観点から、複数の凹部124の内径は、2mm以上、上記縦ピッチp1及び横ピッチp2は、4mm以上であることが望ましい。
【0030】
なお、本実施形態では、上記三角形d1は、正三角形であるため、横方向に隣り合う凹部124の中心間のピッチ(横ピッチp2)と、縦方向に隣り合う凹部124の中心間のピッチ(縦ピッチp1)とは、同じ距離となる。すなわち、グラファイトシート121に形成された複数の凹部124は、
図4に示すように、隣り合う凹部124の中心間の距離が同じに設定されている。
【0031】
(配置工程)
次に、
図2に示すように、このようなクッションシート120と積層体101とを交互に積層することにより、積層体101をクッションシート120で挟んで、カーボンシート122と積層体101とが接するように配置する。
【0032】
(接合工程)
そして、
図2に示すように、積層体101及びクッションシート120を厚さ方向に加圧する加圧装置110を熱処理炉等に入れて積層方向に荷重をかけながら真空中で加熱することにより、各積層体101のセラミックス基板20と各金属板30,40とを接合する。この場合、積層方向への加圧は0.1MPa~1.0MPa、加熱温度は800℃~930℃とするとよい。また、ろう材11は、Ag-Cu-Ti系ろう材ペーストを塗布厚10μm~30μmで塗布することにより形成される。さらに、Ag-Cu-Ti系ろう材の他、Cu-P系ろう材を用いることもできる。
【0033】
ここで、積層体101を加圧及び加熱すると、ろう材11は溶融して溶融ろうとなり、セラミックス基板20と各金属板30,40の接合に用いられない余剰な溶融ろうが発生する。この点、本実施形態では、グラファイトシート121に複数の凹部124を設けているため、積層体101の加圧時にグラファイトシート121が潰れやすい。これにより、グラファイトシート121が潰れる際に面方向に張り出して、積層体101の表面に生じる応力(加圧力)を均等化する。これにより、各金属板30,40の側面への溶融ろうの這い上がりを抑制している。
【0034】
以上説明したように、上記実施形態の絶縁回路基板10の製造方法によれば、グラファイトシート121に複数の凹部124が形成されていることから、接合工程においてクッションシート120を介して積層体101を加圧する際に、小さい荷重でもグラファイトシート121がつぶれやすくなる。このため、グラファイトシート121(クッションシート120)の均圧性を高めて、金属板30,40とセラミックス基板20との接合面に均一に加圧力を作用させることができ、これらの間から溶融ろうの染み出しを防止して、金属板30,40の表面のろうシミの発生を抑制できる。したがって、回路層4への素子60のはんだ接合性を高めることができる。
【0035】
また、複数の凹部124が上記各条件に基づいて配置されているので、接合工程においてクッションシート120を介して積層体101を加圧する際にグラファイトシート121が均一に潰れやすくなる。このため、クッションシート120による加圧力が積層体101に均一にかかることから、金属板30,40とセラミックス基板20とをより確実に接合でき、かつ、金属板30,40の表面のろうシミの発生を抑制できる。また、複数の凹部124が貫通孔により構成されているので、グラファイトシート121に複数の凹部124を容易に形成できる。
【0036】
さらに、積層体101及びクッションシート120を交互に積層して、これらを加圧及び加熱することにより複数の絶縁回路基板10を同時に製造でき、製造コストを低減できる。また、グラファイトシート121に複数の凹部124を形成することで均圧性を高めているので、例えば、クッションシート120の厚さを小さくでき、これにより多くの絶縁回路基板10を効率よく製造できる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、三角形d1を正三角形としたが、これに限らず、
図6に示すような、直角三角形d2により構成してもよい。この場合であっても、横方向に隣り合う凹部124の中心間のピッチp2及び、縦方向に隣り合う凹部124の中心間のピッチp1が9mm以下(望ましくは4mm以上)であればよい。すなわち、グラファイトシート121に形成された複数の凹部124は、
図6に示すように、隣り合う凹部124の中心間の距離が異なっていてもよい。
【0038】
上記実施形態では、グラファイトシート121に形成された複数の凹部124は、グラファイトシート121を厚さ方向に貫通する貫通孔により構成されることとしたが、これに限らない。例えば、複数の凹部は、
図7に示すように、グラファイトシート121の上面121aからグラファイトシート121の厚さ方向に延びる複数の孔125と、グラファイトシート121の下面121bから上記厚さ方向に延びる複数の孔126と、により構成されてもよい。これら複数の孔125,126のそれぞれは、グラファイトシート121の各面121a,121bからグラファイトシート121の厚さの略半分の位置まで厚さ方向に延びている。この内径は、上記実施形態の内径w1と同一であり、5mm以下(望ましくは2mm以上)とされている。また、横方向に隣り合う孔125,126の中心間のピッチと、縦方向に隣り合う孔125,126の中心間のピッチとは、9mm以下(望ましくは4mm以上)とされている。すなわち、グラファイトシート121に形成される複数の凹部は、貫通孔でなくてもよい。
【0039】
また、グラファイトシート121の片面にのみグラファイトシート121の厚さ方向に延びる複数の孔により複数の凹部が形成されてもよい。この場合、一方の面にのみ複数の孔が形成されているので、複数の孔の長さは、例えば、グラファイトシート121の厚さの2/3以上であることが好ましい。このような構成でも、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0040】
上記実施形態では、積層体101とクッションシート120とが交互に積層される例を示したが、これに限らず、例えば、1つの積層体101を2つのクッションシート120により挟んで加圧する場合にも、本発明を適用できる。この場合、クッションシート120は、グラファイトシート121の一方の面にのみカーボンシート122が設けられていてもよい。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の効果について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1~6及び比較例1~3の試料を構成する部材には、板厚0.32mm、100mm×100mmの窒化珪素セラミックスからなるセラミックス基板を用意するとともに、セラミックス基板の一方の面にAg-Cu28質量%-Ti2質量%のろう材ペーストを塗布厚20μmで塗布し、板厚20mm、40mm×40mmの無酸素銅からなる金属板4枚重ね合わせた積層体を用意した。この積層体を表1に示す厚さでのグラファイトシートとその両面に厚さ1.0mmのカーボンシートとを重ね合わせたクッションシートで挟持し、
図2に示した加圧装置を用いて積層体を積層方向に加圧及び加熱してこれらを接合した。この際、積層方向の加圧力R1は0.1MPa、加熱温度は830℃とし、60分保持した。
なお、グラファイトシートには、表1に示す内径の複数の凹部(グラファイトシートを厚さ方向に貫通する貫通孔)をそれぞれ実施例1~5及び比較例1~3ごとに形成しており、その詳細は、表1に示すとおりである。
そして、得られた各試料につき、以下の実験を行うことにより金属板の表面に生じたろうシミ量を評価した。
【0043】
(グラファイトシートの圧縮量の測定方法)
グラファイトシートの圧縮量は、上記積層体を上記クッションシートで挟持して積層し、これらを
図2に示した加圧装置の高さを加圧前後で測定して、その変化分を全てグラファイトシートの圧縮量であると、みなし、その変化分をグラファイトシートの枚数で除することにより算出した。
なお、加圧前の加圧装置の高さは、積層体の反り等の影響があるため、加圧前の加圧装置の高さは、0.01MPaの加圧力で積層体を押圧した際の高さとした。
【0044】
(ろうシミ量の評価)
ろうシミ量の評価は、光学顕微鏡を用いて、金属板の表面(セラミックス基板との接合面とは反対側の面)の各辺のランダムな三か所のろうシミ幅を測定した。このろうシミ幅は、金属板の表面の各辺(端縁)から表面の中心に向かう幅を測定し、これらの最大値をろうシミ幅とした。このろうシミ幅が0.2mm未満のものを良好「A」と評価し、ろうシミ幅が0.2mm以上0.4mm未満のものを可「B」と評価し、ろうシミ幅が0.4mmを超えているものについては不可「C」と評価した。
【0045】
【0046】
表1からわかるように、0.1MPaの加圧力で押圧したときの複数の凹部が形成されたグラファイトシートの圧縮量が0.1mm以上0.15mm以下で、グラファイトシートの厚さが0.8mm以上1.2mm以下であり、複数の凹部の内径が5mm以下で、横方向に隣り合う凹部の中心間のピッチ(横ピッチp2)が9mm以下、縦方向に隣り合う凹部の中心間のピッチ(縦ピッチp1)が9mm以下である実施例1~6は、ろうシミの評価が「B」以上であった。特に、実施例1~3、5及び6は、グラファイトシートが1.00mm以上と厚いため、ろうシミの評価が「A」であった。
【0047】
一方、比較例1は、縦ピッチp1及び横ピッチp2が12mmと大きかったため、ろうシミの評価が「C」となり、比較例2は、グラファイトシートの厚さが0.6mmと小さすぎたため、複数の凹部を形成しても、グラファイトシートの均圧性が小さく、上記圧縮量が0.06mmと小さかったため、ろうシミの評価が「C」であった。また、比較例3は、縦ピッチp1及び横ピッチp2のいずれもが10mmと大きすぎたため、上記圧縮量も0.08mmと小さく、グラファイトシートが均一に潰れず、積層体を均一の加圧力で押圧することができなかったため、ろうシミの評価が「C」であった。
【0048】
また、比較例4は、複数の凹部が形成されていないため、上記圧縮量が0.06mmと小さかったため、ろうシミの評価が「C」であった。一方、比較例5は、複数の凹部の内径、縦ピッチp1及び横ピッチp2が上記範囲内ではあるものの、上記圧縮量が0.27mmと大きすぎたため、ろうシミ評価が「C」であった。また、比較例6は、複数の凹部の内径が6.0mmと大きすぎたため、上記圧縮量が0.17mmと大きすぎたため、ろうシミ評価が「C」であった。
【符号の説明】
【0049】
3 放熱層
4 回路層
7 ヒートシンク
7a 流路
10 絶縁回路基板
11 ろう材
20 セラミックス基板
30 放熱層用金属板
40 回路層用金属板
50 パワーモジュール
60 素子
61 はんだ材
100 製造装置
101 積層体
110 加圧装置
111 ベース板
112 ガイドポスト
113 固定板
114 加圧板
115 ばね
120 クッションシート
121 グラファイトシート
122 カーボンシート
124 凹部(貫通孔)
125 126 孔(凹部)
d1 d2 三角形