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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】ピストン式圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 27/12 20060101AFI20220906BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20220906BHJP
   F04B 39/10 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
F04B27/12 P
F04B39/00 103F
F04B39/10 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019096983
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020026792
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018151731
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】西井 圭
(72)【発明者】
【氏名】島田 賢
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 久弥
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-306680(JP,A)
【文献】特開2006-161720(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1763979(KR,B1)
【文献】特開平07-119631(JP,A)
【文献】特開平05-321828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/12
F04B 39/00
F04B 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダボアが形成されたシリンダブロックを有し、吸入室と、吐出室と、斜板室と、軸孔とが形成されたハウジングと、
前記軸孔内に回転可能に支承された駆動軸と、
前記駆動軸の回転によって前記斜板室内で回転可能であり、前記駆動軸に垂直な平面に対する傾斜角度が一定である固定斜板と、
前記シリンダボア内に圧縮室を形成し、前記固定斜板に連結されるピストンと、
前記圧縮室内の冷媒を前記吐出室に吐出させる吐出弁と、
前記駆動軸に設けられ、前記駆動軸と一体回転するとともに、制御圧力に基づいて駆動軸心方向に前記駆動軸に対して移動可能である移動体と、
前記制御圧力を制御する制御弁とを備え、
前記シリンダブロックには、前記シリンダボアに連通する第1連通路が形成され、
前記移動体には、前記駆動軸の回転に伴い間欠的に前記第1連通路と連通する第2連通路が形成され、
前記移動体の前記駆動軸心方向の位置に応じて、前記圧縮室から前記吐出室に吐出される冷媒の流量が変化するピストン式圧縮機であって、
前記駆動軸内には、前記駆動軸と前記移動体とによって区画され、制御通路によって前記制御弁と接続することにより、内部が前記制御圧力とされる制御圧室が設けられ
前記駆動軸内及び前記移動体内には、前記制御圧室と区画されて前記吸入室と前記第2連通路とに連通する連通室が設けられ、
前記移動体によって前記第1連通路と前記第2連通路とが連通され、
前記駆動軸を前記第1連通路に露出させることにより、前記駆動軸によって前記第1連通路と前記第2連通路とが非連通とされていることを特徴とするピストン式圧縮機。
【請求項2】
複数のシリンダボアが形成されたシリンダブロックを有し、吸入室と、吐出室と、斜板室と、軸孔とが形成されたハウジングと、
前記軸孔内に回転可能に支承された駆動軸と、
前記駆動軸の回転によって前記斜板室内で回転可能であり、前記駆動軸に垂直な平面に対する傾斜角度が一定である固定斜板と、
前記シリンダボア内に圧縮室を形成し、前記固定斜板に連結されるピストンと、
前記圧縮室内の冷媒を前記吐出室に吐出させる吐出弁と、
前記駆動軸に設けられ、前記駆動軸と一体回転するとともに、制御圧力に基づいて駆動軸心方向に前記駆動軸に対して移動可能である移動体と、
前記制御圧力を制御する制御弁とを備え、
前記シリンダブロックには、前記シリンダボアに連通する第1連通路が形成され、
前記移動体には、前記駆動軸の回転に伴い間欠的に前記第1連通路と連通する第2連通路が形成され、
前記移動体の前記駆動軸心方向の位置に応じて、前記圧縮室から前記吐出室に吐出される冷媒の流量が変化するピストン式圧縮機であって、
前記駆動軸内には、前記駆動軸と前記移動体とによって区画され、制御通路によって前記制御弁と接続することにより、内部が前記制御圧力とされる制御圧室が設けられ、
前記吸入室内の冷媒を前記圧縮室に吸入させる吸入弁をさらに備え、
圧縮行程又は吐出行程にある前記圧縮室は、第1特定圧縮室とされ、
再膨張行程又は吸入行程にある前記圧縮室は、第2特定圧縮室とされ、
前記第2連通路は、前記第1特定圧縮室に連通する前記第1連通路と、前記第2特定圧縮室に連通する前記第1連通路とに連通することにより、前記第1特定圧縮室内から前記第2特定圧縮室内へ冷媒を導入させることを特徴とするピストン式圧縮機。
【請求項3】
前記制御通路は、前記軸孔の内周面又は前記駆動軸の外周面に環状に形成された環状溝と、
前記ハウジングに形成され、前記制御弁と前記環状溝とを接続する接続路と、
前記駆動軸に形成され、前記駆動軸の径方向に延びて前記環状溝と前記制御圧室とに連通する径路とを有している請求項1又は2記載のピストン式圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピストン式圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来のピストン式圧縮機(以下、単に圧縮機という。)が開示されている。この圧縮機は、ハウジングと、駆動軸と、固定斜板と、複数のピストンと、吐出弁と、制御弁とを備えている。
【0003】
ハウジングは、シリンダブロックを有している。シリンダブロックには、複数のシリンダボアが形成されている他、シリンダボアに連通する第1連通路が形成されている。また、ハウジングには、吸入室、吐出室、斜板室及び軸孔が形成されている。
【0004】
駆動軸は、軸孔内に回転可能に支承されている。固定斜板は、駆動軸の回転によって斜板室内で回転可能であり、駆動軸に垂直な平面に対する傾斜角度が一定である。ピストンは、シリンダボア内に圧縮室を形成し、固定斜板に連結される。圧縮室と吐出室との間には、圧縮室内の冷媒を吐出室に吐出させるリード弁式の吐出弁が設けられている。
【0005】
また、この圧縮機では、ハウジングにおいて、吸入室と吐出室との間となる位置に制御圧室が形成されている。制御圧室は、制御弁が冷媒の圧力を制御することにより、内部の圧力が制御圧力とされている。制御圧室内には、制御ピストンが設けられている。
【0006】
そして、この圧縮機では、駆動軸に移動体が設けられている。移動体は、軸孔内で駆動軸と一体回転可能である。また、移動体は、駆動軸に移動体が設けられた状態で、制御ピストンと当接している。これにより、この圧縮機では、制御圧力に基づいて移動体が駆動軸に対して駆動軸心方向に移動可能である。より詳細には、制御圧力に基づいて制御ピストンが制御圧室内を移動することにより、移動体が駆動軸に対して駆動軸心方向に移動可能である。移動体には、吸入室と連通する第2連通路が形成されている。第2連通路は、移動体の駆動軸心方向の位置によって、駆動軸の1回転当たりでの第1連通路との駆動軸心周りの連通角度が変化するように形成されている。
【0007】
この圧縮機では、第1連通路と第2連通路とが連通することにより、吸入室内の冷媒が第2連通路及び第1連通路を経て圧縮室に吸入される。この際、移動体の駆動軸心方向の位置によって、第2連通路と第1連通路との駆動軸心周りの連通角度が変化することで、圧縮室内に吸入される冷媒の流量が変化する。こうして、この圧縮機では、圧縮室から吐出室へ吐出する冷媒の流量を変化させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-119631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、車両等への搭載性を向上させるため、圧縮機には小型化が要求される。この点、上記従来の圧縮機では、ハウジングに対し、吐出室及び吸入室だけでなく、制御圧室も形成されている。このため、ハウジングには、制御圧室を形成するためのスペースを確保することが必要となることから、ハウジングの大型化が不可避である。これにより、この圧縮機では、小型化が難しい。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、制御圧力に基づいて移動体が駆動軸心方向に移動することで圧縮室から吐出室に吐出される冷媒の流量を変化可能であり、かつ、小型化を実現可能なピストン式圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のピストン式圧縮機は、複数のシリンダボアが形成されたシリンダブロックを有し、吸入室と、吐出室と、斜板室と、軸孔とが形成されたハウジングと、
前記軸孔内に回転可能に支承された駆動軸と、
前記駆動軸の回転によって前記斜板室内で回転可能であり、前記駆動軸に垂直な平面に対する傾斜角度が一定である固定斜板と、
前記シリンダボア内に圧縮室を形成し、前記固定斜板に連結されるピストンと、
前記圧縮室内の冷媒を前記吐出室に吐出させる吐出弁と、
前記駆動軸に設けられ、前記駆動軸と一体回転するとともに、制御圧力に基づいて駆動軸心方向に前記駆動軸に対して移動可能である移動体と、
前記制御圧力を制御する制御弁とを備え、
前記シリンダブロックには、前記シリンダボアに連通する第1連通路が形成され、
前記移動体には、前記駆動軸の回転に伴い間欠的に前記第1連通路と連通する第2連通路が形成され、
前記移動体の前記駆動軸心方向の位置に応じて、前記圧縮室から前記吐出室に吐出される冷媒の流量が変化するピストン式圧縮機であって、
前記駆動軸内には、前記駆動軸と前記移動体とによって区画され、制御通路によって前記制御弁と接続することにより、内部が前記制御圧力とされる制御圧室が設けられ
前記駆動軸内及び前記移動体内には、前記制御圧室と区画されて前記吸入室と前記第2連通路とに連通する連通室が設けられ、
前記移動体によって前記第1連通路と前記第2連通路とが連通され、
前記駆動軸を前記第1連通路に露出させることにより、前記駆動軸によって前記第1連通路と前記第2連通路とが非連通とされていることを特徴とする。
【0012】
本発明の圧縮機では、制御圧力に基づいて、移動体が駆動軸心方向に移動する。これにより、この圧縮機では、圧縮室から吐出室に吐出される冷媒の流量が変化する。
【0013】
ここで、この圧縮機では、駆動軸と移動体とによって区画されることにより、駆動軸内に制御圧室が設けられている。このため、この圧縮機では、ハウジングに対して、制御圧室を形成するためのスペースが不要となることから、ハウジングを小型化することができる。
【0014】
したがって、本発明の圧縮機によれば、制御圧力に基づいて移動体が駆動軸心方向に移動することで圧縮室から吐出室に吐出される冷媒の流量を変化可能であり、かつ、小型化を実現できる。
【0015】
特に、本発明の圧縮機では、制御圧室を駆動軸内に設けることにより、制御圧室を小型化することができる。これにより、制御弁によって制御圧力とされる冷媒の流量を少なくしつつ、制御圧力によって移動体を駆動軸心方向に好適に移動させることができる。このため、この圧縮機では、制御性を高くすることができる。
【0016】
制御通路は、軸孔の内周面又は駆動軸の外周面に環状に形成された環状溝と、ハウジングに形成され、制御弁と環状溝とを接続する接続路と、駆動軸に形成され、駆動軸の径方向に延びて環状溝と制御圧室とに連通する径路とを有していることが好ましい。この場合には、駆動軸が回転しても、制御圧室と制御弁とを制御通路によって常に接続できるため、制御圧室内の制御圧力を好適に調整することができる。
【0017】
本発明の圧縮機において、駆動軸内及び移動体内には、制御圧室と区画されて吸入室と第2連通路とに連通する連通室が設けられている。また、移動体によって第1連通路と第2連通路とが連通されている。そして、駆動軸を第1連通路に露出させることにより、駆動軸によって第1連通路と第2連通路とが非連通とされている。
【0018】
このため、移動体が第1連通路と、第2連通路とを連通することで、連通室及び第1、2連通路を通じて、吸入室内の冷媒を圧縮室に吸入させることができる。この際、移動体の駆動軸心方向の位置に応じて、圧縮室に吸入させる冷媒の流量を変化させたり、圧縮室に吸入された冷媒の一部を連通室に排出させたりすることによって、圧縮室から吐出室に吐出される冷媒の流量を変化させることができる。
【0019】
また、本発明のピストン式圧縮機は、複数のシリンダボアが形成されたシリンダブロックを有し、吸入室と、吐出室と、斜板室と、軸孔とが形成されたハウジングと、
前記軸孔内に回転可能に支承された駆動軸と、
前記駆動軸の回転によって前記斜板室内で回転可能であり、前記駆動軸に垂直な平面に対する傾斜角度が一定である固定斜板と、
前記シリンダボア内に圧縮室を形成し、前記固定斜板に連結されるピストンと、
前記圧縮室内の冷媒を前記吐出室に吐出させる吐出弁と、
前記駆動軸に設けられ、前記駆動軸と一体回転するとともに、制御圧力に基づいて駆動軸心方向に前記駆動軸に対して移動可能である移動体と、
前記制御圧力を制御する制御弁とを備え、
前記シリンダブロックには、前記シリンダボアに連通する第1連通路が形成され、
前記移動体には、前記駆動軸の回転に伴い間欠的に前記第1連通路と連通する第2連通路が形成され、
前記移動体の前記駆動軸心方向の位置に応じて、前記圧縮室から前記吐出室に吐出される冷媒の流量が変化するピストン式圧縮機であって、
前記駆動軸内には、前記駆動軸と前記移動体とによって区画され、制御通路によって前記制御弁と接続することにより、内部が前記制御圧力とされる制御圧室が設けられ、
前記吸入室内の冷媒を前記圧縮室に吸入させる吸入弁をさらに備え
圧縮行程又は吐出行程にある前記圧縮室は、第1特定圧縮室とされ
再膨張行程又は吸入行程にある前記圧縮室は、第2特定圧縮室とされ
前記第2連通路は、前記第1特定圧縮室に連通する前記第1連通路と、前記第2特定圧縮室に連通する前記第1連通路とに連通することにより、前記第1特定圧縮室内から前記第2特定圧縮室内へ冷媒を導入させることを特徴とする。
【0020】
の圧縮機では、移動体の駆動軸心方向の位置に応じて、第1特定圧縮室内から第2特定圧縮室内へ導入される冷媒の流量を変化させることが可能となる。これにより、吸入弁を通じて吸入室から第2特定圧縮室に吸入される冷媒の流量が変化するため、この圧縮機でも、第1特定圧縮室から吐出室に吐出される冷媒の流量を変化させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の圧縮機によれば、制御圧力に基づいて移動体が駆動軸心方向に移動することで圧縮室から吐出室に吐出される冷媒の流量を変化可能であり、かつ、小型化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、最大流量時における断面図である。
図2図2は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、最少流量時における断面図である。
図3図3は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、駆動軸及び移動体等を示す分解図である。
図4図4は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、キャップを示す断面図である。
図5図5は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、図4のC-C断面を示す断面図である。
図6図6は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、第1移動体を圧縮機の後方側から見た背面図である。
図7図7は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、第2移動体を圧縮機の後方側から見た背面図である。
図8図8は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、最大流量時における駆動軸及び移動体等を示す要部拡大断面図である。
図9図9は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、最少流量時における駆動軸及び移動体等を示す要部拡大断面図である。
図10図10は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、図1のA-A断面を示す要部拡大断面図である。
図11図11は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、図1に示す位置よりも移動体が前方に移動した状態を示す図10と同様の要部拡大断面図である。
図12図12は、実施例1のピストン式圧縮機に係り、図2のB-B断面を示す要部拡大断面図である。
図13図13は、実施例2のピストン式圧縮機に係り、最大流量時における断面図である。
図14図14は、実施例2のピストン式圧縮機に係り、最少流量時における断面図である。
図15図15は、実施例2のピストン式圧縮機に係り、最大流量時における駆動軸及び移動体等を示す要部拡大断面図である。
図16図16は、実施例2のピストン式圧縮機に係り、最少流量時における駆動軸及び移動体等を示す要部拡大断面図である。
図17図17は、実施例2のピストン式圧縮機に係り、図13のD-D断面を示す要部拡大断面図である。
図18図18は、実施例2のピストン式圧縮機に係り、図13に示す位置よりも移動体が後方に移動した状態を示す図17と同様の要部拡大断面図である。
図19図19は、実施例2のピストン式圧縮機に係り、図14のE-E断面を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。これらの圧縮機は、片頭ピストン式圧縮機である。これらの圧縮機は、車両に搭載されており、空調装置の冷凍回路を構成している。
【0024】
(実施例1)
図1及び図2に示すように、実施例の圧縮機は、ハウジング1と、駆動軸3と、固定斜板5と、複数のピストン7と、弁形成プレート9aと、移動体10と、制御弁13とを備えている。弁形成プレート9aは、本発明の「吐出弁」の一例である。
【0025】
ハウジング1は、フロントハウジング17と、リヤハウジング19と、シリンダブロック21とを有している。本実施例では、フロントハウジング17が位置する側を圧縮機の前方側とし、リヤハウジング19が位置する側を圧縮機の後方側として、圧縮機の前後方向を規定している。また、図1及び図2の紙面の上方を圧縮機の上方側とし、紙面の下方を圧縮機の下方側として、圧縮機の上下方向を規定している。そして、図3以降では、図1及び図2に対応させて前後方向及び上下方向を表示する。なお、実施例における前後方向等は一例であり、本発明の圧縮機は、搭載される車両に対応して、その姿勢が適宜変更される。
【0026】
フロントハウジング17は、径方向に延びる前壁17aと、前壁17aと一体をなして、前壁17aから駆動軸3の駆動軸心O方向で後方に延びる周壁17bとを有しており、略円筒状をなしている。駆動軸心Oは、圧縮機の前後方向と平行に延びている。
【0027】
前壁17aには、第1ボス部171と、第2ボス部172と、第1軸孔173とが形成されている。第1ボス部171は駆動軸心O方向で前方に向かって突出している。第1ボス部171内には軸封装置25が設けられている。第2ボス部172は後述する斜板室31内において、駆動軸心O方向で後方に向かって突出している。第1軸孔173は、駆動軸心O方向で前壁17aを貫通している。
【0028】
リヤハウジング19には、吸入室28と、吸入口28aと、吐出室29と、吐出口29aとが形成されている。吸入室28は、リヤハウジング19の中心側に位置している。吸入口28aは、吸入室28と連通しており、リヤハウジング19の軸方向に延びてリヤハウジング19の外部に開いている。吸入口28aは、配管を介して蒸発器と接続している。これにより、吸入室28は、蒸発器を経た低圧の冷媒ガスが吸入口28aから吸入されることで吸入圧力となっている。吐出室29は環状に形成されており、吸入室28の外周側に位置している。吐出口29aは、吐出室29と連通しており、リヤハウジング19の径方向に延びてリヤハウジング19の外部に開いている。吐出口29aは、配管を介して凝縮器と接続している。吸入口28a及び吐出口29aの形状は適宜設計可能である。なお、配管、蒸発器及び凝縮器の図示は省略する。
【0029】
シリンダブロック21は、フロントハウジング17とリヤハウジング19との間に位置している。図10図12に示すように、シリンダブロック21には、シリンダボア21a~21fが形成されている。シリンダボア21a~21fは、それぞれ周方向に等角度間隔で配置されている。図1及び図2に示すように、シリンダボア21a~21fは、それぞれ駆動軸心O方向に延びている。なお、シリンダボア21a~21fの個数は適宜設計可能である。
【0030】
シリンダブロック21は、フロントハウジング17と接合されることにより、フロントハウジング17の前壁17a及び周壁17bとの間に斜板室31を形成している。斜板室31は、図示しない連絡通路によって吸入室28と連通している。
【0031】
また、シリンダブロック21には、第2軸孔23が形成されている。第1軸孔173及び第2軸孔23は、本発明の「軸孔」の一例である。第2軸孔23は、シリンダブロック21の中心側に位置しており、シリンダブロック21を駆動軸心O方向に貫通している。第2軸孔23の後方側は、シリンダブロック21が弁形成プレート9aを介してリヤハウジング19と接合されることにより、吸入室28内に位置する。これにより、第2軸孔23は吸入室28と連通している。
【0032】
一方、第2軸孔23の前方側には、環状溝24が形成されている。環状溝24は、第2軸孔23に円環状に凹設されており、第2軸孔23の内周面に臨んでいる。環状溝24は接続路26と接続している。接続路26は、シリンダブロック21からリヤハウジング19に亘って駆動軸心O方向に延びている。
【0033】
また、図10図12に示すように、シリンダブロック21には、第1連通路22a~22fが形成されている。第1連通路22a~22fの一端側はシリンダボア21a~21fとそれぞれ連通している。第1連通路22a~22fは、それぞれシリンダブロック21の径方向に延びている。これにより、第1連通路22a~22fの他端側は、第2軸孔23と連通している。
【0034】
図1及び図2に示すように、弁形成プレート9aは、リヤハウジング19とシリンダブロック21との間に設けられている。この弁形成プレート9aを介して、リヤハウジング19とシリンダブロック21とが接合されている。
【0035】
弁形成プレート9aは、バルブプレート90と、吐出弁プレート92と、リテーナプレート93とを有している。バルブプレート90には、シリンダボア21a~21fに連通する6つの吐出孔911が形成されている。シリンダボア21a~21fは、各吐出孔911を通じて吐出室29に連通する。
【0036】
吐出弁プレート92は、バルブプレート90の後面に設けられている。吐出弁プレート92には、弾性変形によって各吐出孔911を開閉可能な6つの吐出リード弁92aが設けられている。リテーナプレート93は、吐出弁プレート92の後面に設けられている。リテーナプレート93は、吐出リード弁92aの最大開度を規制する。
【0037】
駆動軸3は、駆動軸本体33とキャップ35とで構成されており、駆動軸心O方向でハウジング1の前方側から後方側に向かって延びている。駆動軸本体33は、駆動軸3の前側部分を構成している。駆動軸本体33は、ねじ部33aと、第1径部33bと、第2径部33cとを有している。ねじ部33aは、駆動軸本体33の前端、すなわち、駆動軸3の前端に位置している。このねじ部33aを介して駆動軸3は、図示しないプーリや電磁クラッチ等と連結されている。第1径部33bは、ねじ部33aの後端と連続しており、駆動軸心O方向に延びている。
【0038】
第2径部33cは、第1径部33bの後端と連続しており、駆動軸心O方向に延びている。第2径部33cは、第1径部33bよりも小径に形成されている。図3に示すように、第2径部33cには、第1軸路33dが形成されている。第1軸路33dは、第2径部33c内を駆動軸心O方向に延びており、第2径部33cの後端面、つまり駆動軸本体33の後端面に開口している。また、第2径部33cには、第1径路33eが形成されている。図8及び図9に示すように、第1径路33eは、第1軸路33dと連通しつつ、第2径部33c内を径方向に延びており、第2径部33cの外周面に開口している。
【0039】
図1及び図2に示すように、キャップ35は、駆動軸3の後側部分を構成している。図1図5に示すように、キャップ35は、第2軸孔23とほぼ同径をなす円筒状をなしており、駆動軸心O方向に延びている。図4及び図5に示すように、キャップ35には、案内窓35aが形成されている。案内窓35aは、キャップ35を周方向に半周に亘って形成されており、駆動軸心O方向に延びている。一方、キャップ35において、駆動軸心Oを挟んで案内窓35aの反対側に位置する部分は、本体部35bとされている。本体部35bは、案内窓35aに対向して駆動軸心O方向に延びる半円形の樋形状をなしている。
【0040】
また、図4に示すように、キャップ35において、案内窓35aに後向きに面する部分は、第1規制面301とされており、案内窓35aに前向きに面する部分は、第2規制面302とされている。また、図3に示すように、キャップ35において、第1規制面301と第2規制面302との間に位置し、案内窓35aに面して駆動軸心O方向に延びる部分、すなわち、本体部35bにおいて、駆動軸3が後述するR1方向に回転する際の先行側となる端面は、案内面303とされている。
【0041】
キャップ35内には、第2軸路35cが形成されている。第2軸路35cは、駆動軸心O方向に延びており、キャップ35を前後に貫通している。第2軸路35cは、第1径部351と、第2径部352と、第3径部353とで構成されている。第1径部351と、第2径部352と、第3径部353とは、互いに同軸をなしている。
【0042】
第1径部351は、駆動軸本体33の第2径部33cとほぼ同径に形成されている。第1径部351は、キャップ35の前端面に開口しており、後方に向かって延びている。第2径部352は、第1径部351の後端と接続しており、後方に向かって延びている。第2径部352は、図3に示す第1軸路33dとほぼ同径であって、第1径部351よりも小径に形成されている。これにより、第1径部351と第2径部352との間には、図4に示す第1段部354が形成されている。また、第1径部351と第2径部352とは、案内窓35aと連通している。これにより、第1、2径部351、352は、案内窓35aと連通する箇所において、キャップ35の外部と連通している。第3径部353は、第2径部352の後端と接続して後方に向かって延びており、キャップ35の後端面に開口している。第3径部353は、第2径部352よりも小径に形成されている。これにより、第2径部352と第3径部353との間には第2段部355が形成されている。
【0043】
また、キャップ35の前端側には、第1環状凹溝356と第2環状凹溝357とが形成されている。第1環状凹溝356には第1シールリング358が設けられており、第2環状凹溝357には第2シールリング359が設けられている。第1、2シールリング358、359は、PTFE等の樹脂で形成されている。また、キャップ35の前端側において、第1環状凹溝356と第2環状凹溝357との間、すなわち、第1シールリング358と第2シールリング359との間となる位置には、第2径路35dが形成されている。第2径路35dは、第1径部351と連通しつつ、キャップ35内を径方向に延びており、キャップ35の外周面に開口している。
【0044】
図8及び図9に示すように、駆動軸本体33の第2径部33cは、キャップ35に圧入されている。より具体的には、第2軸路35cの第1径部351に対して、第2径部33cの後端側が圧入されている。そして、第2径部33cの後端が第1段部354に当接することにより、第1径部351内で第2径部33cが位置決めされる。この際、第1径路33eと第2径路35dとを整合させて連通させる。これらの第1径路33eと第2径路35dとは、本発明の「径路」の一例である。このように、駆動軸本体33とキャップ35とが一体化されることにより、駆動軸3が形成されている。
【0045】
図1及び図2に示すように、駆動軸3は、駆動軸本体33の第1径部33bを第1軸孔173に支承させるとともに、キャップ35を第2軸孔23に支承させることにより、ハウジング1に回転可能に挿通されている。これにより、駆動軸3は駆動軸心O周りで回転可能となっている。より具体的には、本実施例では、駆動軸3は、図10図12に示すR1方向に回転する。
【0046】
ここで、キャップ35が第2軸孔23に支承されることにより、図8及び図9に示すように、環状溝24と第2径路35d及び第1径路33eとが対向する。これにより、第1、2径路33e、35dを通じて、環状溝24と第1軸路33dとが連通する。そして、第1、2シールリング358、359によって、第2軸孔23内と環状溝24との間が封止される。また、キャップ35が第2軸孔23に支承されることで、キャップ35の後端が第2軸孔23内から突出しつつ吸入室28内に延びる状態となる。これにより、第3径部353を通じて、第2軸路35cが吸入室28と繋がっている。一方、図1及び図2に示すように、第1ボス部171内では、軸封装置25に駆動軸3が挿通される。これにより、軸封装置25は、ハウジング1の内部とハウジング1の外部との間を封止する。
【0047】
また、キャップ35が第2軸孔23に支承されることにより、図10図12に示すように、案内窓35aは、第1連通路22a~22fのうち、再膨張行程又は吸入行程の圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fに対向する。一方、本体部35bは、圧縮行程又は吐出行程の圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fに対向する。
【0048】
図1及び図2に示すように、固定斜板5は、駆動軸本体33の第2径部33cに圧入されることで、駆動軸3に固定されている。この際、固定斜板5は、第2径部33cと第1径部33bとの間に形成された段部33fに当接することで、駆動軸本体33に対する位置決めがされている。こうして、固定斜板5は、斜板室31内に配置されており、駆動軸3が回転することによって、斜板室31内で駆動軸3とともに回転可能となっている。ここで、固定斜板5は、駆動軸3に垂直な平面に対する傾斜角度が一定となっている。また、斜板室31内において、第2ボス部172と固定斜板5との間には、スラスト軸受6が設けられている。
【0049】
各ピストン7は、シリンダボア21a~21f内にそれぞれ収容されている。各ピストン7と、弁形成プレート9aとにより、図10図12に示すように、シリンダボア21a~21f内に圧縮室45a~45fがそれぞれ形成されている。圧縮室45a~45fは、それぞれ第1連通路22a~22fと連通している。
【0050】
図1及び図2に示すように、各ピストン7には、係合部7aが形成されている。係合部7a内には、半球状のシュー8a、8bがそれぞれ設けられている。これらのシュー8a、8bによって、ピストン7は固定斜板5に連結されている。これにより、各シュー8a、8bは、固定斜板5の回転をピストン7の往復動に変換する変換機構として機能する。このため、ピストン7は、それぞれシリンダボア21a~21f内をピストン7の上死点とピストン7の下死点との間で往復動することが可能となっている。以下では、ピストン7の上死点及びピストン7の下死点について、それぞれ上死点及び下死点と記載する。
【0051】
図3に示すように、移動体10は、第1移動体11と第2移動体12とで構成されている。第1移動体11は、周壁部11aと立壁部11bとを有している。図6及び図10図12に示すように、周壁部11aは、キャップ35とほぼ同径をなす半円の樋状に形成されており、表面111と裏面112と摺動面113とを有している。摺動面113は、表面111と裏面112とに連続している。また、図8及び図9に示すように、周壁部11aは、駆動軸心O方向に延びている。ここで、周壁部11aにおける駆動軸心O方向の長さは、案内窓35aにおける駆動軸心O方向の長さに比べて短く設定されている。そして、周壁部11aには、第2連通路41が形成されている。
【0052】
第2連通路41は、表面111から裏面112まで貫通している。また、図1~3に示すように、第2連通路41は、周壁部11aにおいて、前後方向に延びるように形成されている。また、第2連通路41は、後端から前端に向かうにつれて、次第に周壁部11aの周方向に大きく形成されている。つまり、周壁部11aの周方向に小さく形成された第1部位411が第2連通路41の後端側に位置しており、周壁部11aの周方向に大きく形成された第2部位412が第2連通路41の前端側に位置している。なお、第2連通路41の形状は適宜設計可能である。
【0053】
図8及び図9に示すように、立壁部11bは、周壁部11aの裏面112に対して一体で形成されている。立壁部11bは、第1移動体11の後方側に配置されており、駆動軸心O方向に直交して上下に延びる板状をなしている。図6に示すように、立壁部11bには、半円状をなす切欠き部114が形成されている。なお、切欠き部114の形状は適宜設計可能である他、切欠き部114の形成を省略することもできる。
【0054】
図3図7図9に示すように、第2移動体12は、第1軸路33d及び第2軸路35cの第2径部352とほぼ同径をなす略円筒状に形成されている。第2移動体12の後端には、平面状をなす係合部12aが形成されている。また、第2移動体12には、連絡路12bが形成されている。連絡路12bは、第2移動体12内を駆動軸心O方向に延びており、第2移動体12の後端に開口している。また、連絡路12bにおける係合部12a側は、第2移動体12の外周面に開口している。ここで、図8及び図9に示すように、連絡路12bは、第2移動体12内を駆動軸心O方向に貫通しておらず、第2移動体12の前端には開口していない。これにより、第2移動体12には、平面状をなす第1面121と第2面122とが形成されている。第1面121は、第2移動体12の前端面を構成しており、前方に面している。第2面122は、連絡路12bの前方に位置しており、後方に面している。なお、係合部12aは、立壁部11bと係合可能であれば、形状を適宜設計可能である。
【0055】
また、第2移動体12において、第1面121と第2面122との間、つまり、連絡路12bよりも前方側となる箇所には、リング溝12cが形成されている。リング溝12cには、Oリング37が設けられている。
【0056】
第2移動体12は、係合部12aを案内窓35a側に向けた状態、つまり、連絡路12bを案内窓35aに対向させた状態で、キャップ35の第2径部352内に配置されている。また、キャップ35内において、第2移動体12は、前端側を第1軸路33d内に進入させている。これにより、第1軸路33d内、すなわち駆動軸3内には、駆動軸本体33と第2移動体12とによって区画された制御圧室27が設けられている。制御圧室27は、第1径路33e及び第2径路35dを通じて、環状溝24と連通している。これらの接続路26、環状溝24及び第1、2径路33e、35dによって、第2給気通路13cが形成されている。また、制御圧室27と、第2径部352との間は、Oリング37によって封止されている。
【0057】
ここで、環状溝24は第2軸孔23に円環状に凹設されているため、駆動軸3が回転しても、環状溝24と第2径路35d及び第1径路33eとは、常に対向する。このため、駆動軸3が回転しても、環状溝24と第1軸路33d、ひいては、環状溝24と制御圧室27とは、常に連通するようになっている。
【0058】
また、キャップ35内、すなわち駆動軸3内には、連絡路12b、第2径部352及び第3径部353によって、連通室39が形成されている。連通室39は、第2移動体12によって、制御圧室27と区画されている。つまり、連通室39と制御圧室27とは非連通となっている。一方、連通室39は、吸入室28と連通している。これにより、連通室39は、吸入圧力となっている。
【0059】
第1移動体11は、立壁部11bをキャップ35内に進入させた状態で、案内窓35a内に設けられている。そして、第1移動体11は、摺動面113をキャップ35の案内面303に当接させている。これにより、第1移動体11の周壁部11aは、駆動軸心Oを挟んでキャップ35の本体部35bの反対側に位置して、第2軸孔23内に露出する。ここで、周壁部11aは、キャップ35とほぼ同径をなす半円の樋状であることから、第1移動体11は、案内窓35a内に設けられることにより、本体部35bとともに第2軸孔23とほぼ同径をなす円筒体を構成する。これにより、第1移動体11は、キャップ35が第2軸孔23内に配置されることにより、本体部35bとともに第2軸孔23と整合する。
【0060】
さらに、第1移動体11は、案内窓35a内に設けられた状態で、立壁部11bを第2移動体12の係合部12aに当接させている。これにより、立壁部11bと係合部12aとが係合されることで、第1移動体11と第2移動体12とが組み付けられている。こうして、連通室39は、第2連通路41と対向しつつ、第2連通路41と連通する。つまり、連通室39は、吸入室28と第2連通路41とに連通する。
【0061】
移動体10は、キャップ35、ひいては駆動軸3が駆動軸心O周りに回転することにより、駆動軸3とともに駆動軸心O周りに回転可能となっている。ここで、立壁部11bと係合部12aとが係合することにより、第2移動体12は、第1軸路33d内及び第2径部352内において、第1移動体11から独立して駆動軸心O周りに回転することが規制されている。
【0062】
また、移動体10において、第1移動体11の立壁部11bと、第2移動体12の第2面122とには、吸入圧力が作用する。一方、第2移動体12の第1面121には、制御圧力が作用する。なお、制御圧力については後述する。
【0063】
そして、立壁部11bと係合部12aとが係合することにより、第1移動体11と第2移動体12とが駆動軸心O方向に一体で移動可能となっている。具体的には、第1移動体11は、摺動面113が案内面303に案内されることで、案内窓35a内を駆動軸心O方向で前後に移動可能となっている。一方、第2移動体12は、第1軸路33d及び第2径部352内を摺動することにより、駆動軸心O方向で前後に移動可能となっている。こうして、移動体10は、軸孔23内において、駆動軸3に対して駆動軸心O方向で前後に移動可能となっている。
【0064】
また、第2連通路41は、駆動軸3が回転することによって、図10図12に示すように、第1連通路22a~22fと間欠的に連通する。そして、第2連通路41は、第1移動体11の案内窓35a内における位置に応じて、駆動軸3の1回転当たりで第1連通路22a~22fと連通する駆動軸心O周りの連通角度が変化する。以下、駆動軸3の1回転当たりで第1連通路22a~22fと第2連通路41とが連通する駆動軸心O周りの連通角度を単に連通角度と記載する。なお、図4図9では、説明を容易にするため、図1及び図2に示す状態よりも、駆動軸3及び固定斜板5が駆動軸心O周りに回転した状態でキャップ35や第1、2移動体11、12を図示している。また、図8図12では、説明を容易にするため、第2連通路41の形状等を簡略化して図示している。後述する図15~19についても同様である。
【0065】
また、図8及び図9に示すように、キャップ35内において、第2段部355と、第1移動体11の立壁部11bとの間には、付勢ばね43が設けられている。付勢ばね43は、第1移動体11及び第2移動体12、つまり、移動体10をキャップ35の前方に向けて付勢している。
【0066】
図1及び図2に示すように、制御弁13は、リヤハウジング19に設けられている。制御弁13は、リヤハウジング19に形成された検知通路13aによって吸入室28と接続している。また、制御弁13は、リヤハウジング19に形成された第1給気通路13bによって吐出室29と接続している。さらに、制御弁13は、接続路26、ひいては第2制御通路13cによって、制御圧室27と接続している。制御圧室27には、第1、2給気通路13b、13c及び制御弁13を通じて、吐出室29内の冷媒ガスの一部が導入される。また、制御圧室27は、図示しない抽気通路によって斜板室28と接続している。これにより、制御圧室27の冷媒ガスは、抽気通路によって、吸入室28に導出される。
【0067】
制御弁13は、検知通路13aを通じて吸入室28内の冷媒ガスの圧力である吸入圧力を感知することにより、弁開度を調整する。これにより、制御弁13は、第1、2給気通路13b、13cを経て、吐出室29から制御圧室27に導入される冷媒ガスの流量を調整する。具体的には、制御弁13は、弁開度を大きくすることにより、第1、2給気通路13b、13cを経て吐出室29から制御圧室27に導入される冷媒ガスの流量を増大させる。一方、制御弁13は、弁開度を小さくすることにより、第1、2給気通路13b、13cを経て吐出室29から制御圧室27に導入される冷媒ガスの流量を減少させる。こうして、制御弁13は、制御圧室27から吸入室28に導出される冷媒ガスの流量に対して、吐出室29から制御圧室27に導入される冷媒ガスの流量を変化させることで、制御圧室27の冷媒ガスの圧力である制御圧力を制御する。なお、制御圧室27は、抽気通路によって斜板室31と接続しても良い。
【0068】
以上のように構成された圧縮機では、駆動軸3が駆動軸心O周りで回転することにより、斜板室31内で固定斜板5が回転する。これにより、ピストン7がシリンダボア21a~21f内を上死点と下死点との間で往復動する。このため、圧縮室45a~45fでは、内部の冷媒ガスが再膨張する再膨張行程と、吸入室28から冷媒ガスを吸入する吸入行程と、内部の冷媒ガスを圧縮する圧縮行程と、圧縮された冷媒ガスを吐出室29に吐出する吐出行程とが繰り返し行われることとなる。吐出室29内の冷媒ガスは、吐出口29aを経て凝縮器に吐出される。
【0069】
具体的には、この圧縮機において、駆動軸3が図1図2及び図10図12に示す回転角度にある際、圧縮室45aは、再膨張行程乃至吸入行程の初期段階となる。そして、圧縮室45a、圧縮室45b及び圧縮室45cの順で吸入行程が進行する。つまり、圧縮室45bは吸入行程の中期段階となる。そして、圧縮室45cは、吸入行程の後期段階となり、ピストン7が下死点に位置する。一方、圧縮室45d、圧縮室45e及び圧縮室45fの順で圧縮行程が進行する。つまり、圧縮室45fは、圧縮行程の後期段階から吐出行程に移行する段階にあり、ピストン7が上死点に位置する。
【0070】
そして、この圧縮機では、第1移動体11が案内窓35a内に設けられることにより、第1移動体11は、再膨張行程又は吸入行程の圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fに対向する。より具体的には、駆動軸3が図1図2及び図10図12に示す回転角度にある際、第1移動体11は、圧縮室45aに連通する第1連通路22aと、圧縮室45aに隣り合う圧縮室45bに連通する第1連通路22bと、圧縮室45bに隣り合う圧縮室45cに連通する第1連通路22cとに対向する。そして、駆動軸3が図10に示す状態よりもさらにR1方向に回転すれば、圧縮室45fが再膨張行程乃至吸入行程の初期段階に移行することから、第1移動体11は、圧縮室45fに連通する第1連通路22fと、圧縮室45aに連通する第1連通路22aと、圧縮室45bに連通する第1連通路22bとに対向する。こうして、駆動軸3が回転することにより、第1移動体11は、再膨張行程又は吸入行程の圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと順次対向する。
【0071】
これにより、吸入行程の圧縮室45a~45fには、連通室39、第2連通路41及び第1連通路22a~22fを通じて、吸入室28内の冷媒ガスが吸入される。
【0072】
一方、キャップ35の本体部35bは、駆動軸心Oを挟んで案内窓35aの反対側、すなわち、第1移動体11の反対側に位置している。このため、本体部35bは、第1連通路22a~22fのうち、圧縮行程又は吐出行程の圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと対向する。より具体的には、駆動軸3が図1図2及び図10図12に示す回転角度にある際、本体部35bは、圧縮室45dに連通する第1連通路22dと、圧縮室45eに連通する第1連通路22eと、圧縮室45fに連通する第1連通路22fとに対向する。こうして、本体部35は、駆動軸3が回転することにより、圧縮行程又は吐出行程の圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fに順次対向する。
【0073】
そして、この圧縮機では、移動体10を駆動軸3に対して駆動軸心O方向に移動させることにより、駆動軸3の1回転当たりで吸入室28から圧縮室45a~45fに吸入される冷媒ガスの流量、ひいては、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を変更することができる。
【0074】
具体的には、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を増大させる場合には、制御弁13が弁開度を大きくすることで、吐出室29から制御圧室27に導入される冷媒ガスの流量を増大させる。こうして、制御弁13が制御圧室27の制御圧力を増大させる。これにより、制御圧力と吸入圧力との差圧である可変差圧が大きくなる。
【0075】
このため、移動体10では、第2移動体12が付勢ばね43の付勢力に抗しつつ、図9に示す位置から第1軸路33d内及び第2径部352内を駆動軸心O方向で後方に移動し始める。これにより、第1移動体11は、案内窓35a内を駆動軸心O方向で後方に移動し始める。このため、第2連通路41は、第1連通路22a~22fに対して後方に相対移動する。こうして、この圧縮機では、連通角度が徐々に大きくなる。
【0076】
そして、可変差圧が最大となることにより、図8に示すように、移動体10では、第1移動体11が案内窓35a内を最も後方に移動した状態となり、第2規制面302と当接する。これにより、第1軸路33d内及び第2径部352内における第2移動体12の後方への移動も規制される。このように、第1移動体11が案内窓35a内を最も後方に移動することにより、第2連通路41では、第2部位412において第1連通路22a~22fと連通する状態となる。これにより、この圧縮機では、連通角度が最大となる。
【0077】
このため、図10に示すように、第1移動体11は、第1連通路22a~22cと第2連通路41とを連通させる。すなわち、第1移動体11は、再膨張行程乃至吸入行程の初期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、吸入行程の中期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、吸入行程の後期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、第2連通路41とを連通させる。一方、本体部35bは、第1連通路22d~22fと第2連通路41とを非連通にする。すなわち、本体部35bは、圧縮行程又は吐出行程にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、第2連通路41とを非連通にする。
【0078】
このように、連通角度が最大となることにより、圧縮室45a~45fには、吸入行程の初期段階から後期段階までの間に、連通室39、第2連通路41及び第1連通路22a~22fを通じて、吸入室28から冷媒ガスが吸入される。このため、吸入室28から圧縮室45a~45fに吸入される冷媒ガスの流量が最も多くなる。こうして、この圧縮機では、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量が最大となる。
【0079】
一方、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を減少させる場合には、制御弁13が弁開度を小さくすることで、吐出室29から制御圧室27に導入される冷媒ガスの流量を減少させる。こうして、制御弁13が制御圧室27の制御圧力を減少させる。これにより、可変差圧が小さくなる。
【0080】
このため、移動体10では、第1、2移動体11、12が付勢ばね43の付勢力によって、図8に示す位置から駆動軸心O方向で前方に移動し始める。つまり、第1移動体11が案内窓35a内を駆動軸心O方向で前方に移動し始めるとともに、第2移動体12が第1軸路33d内及び第2径部352内を駆動軸心O方向で前方に移動し始める。これにより、第2連通路41は、第1連通路22a~22fに対して前方に相対移動する。このため、第2連通路41では、第2部位412よりも第1移動体11の周壁部11aの周方向に小さく形成された部位において、第1連通路22a~22fと連通する状態となる。こうして、この圧縮機では、連通角度が徐々に小さくなる。
【0081】
この状態では、図11に示すように、第1移動体11は、第1連通路22a、22bと第2連通路41とを連通させる。すなわち、第1移動体11は、再膨張行程乃至吸入行程の初期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、吸入行程の中期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、第2連通路41とを連通させる。また、この際も、本体部35bは、圧縮行程又は吐出行程にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、第2連通路41とを非連通とする。また、この状態では、第1移動体11の周壁部11aにより、第1連通路22cのように、吸入行程の後期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、第2連通路41とが非連通とされる。
【0082】
このように、連通角度が小さくなることにより、圧縮室45a~45fには、吸入行程の初期段階から中期段階までの間に、連通室39、第2連通路41及び第1連通路22a~22fを通じて、吸入室28から冷媒ガスが吸入される。このため、連通角度が最大である場合に比べて、吸入室28から圧縮室45a~45fに吸入される冷媒ガスの流量が減少する。こうして、この圧縮機では、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量が減少する。
【0083】
そして、制御弁13が制御圧室27の制御圧力をさらに減少させることで、可変差圧が最小となる。これにより、図9に示すように、移動体10では、第1移動体11が案内窓35a内を最も前方に移動した状態となり、第1規制面301と当接する。これにより、第1軸路33d内及び第2径部352内における第2移動体12の前方への移動も規制される。このように、第1移動体11が案内窓35a内を最も前方に移動することにより、第2連通路41は、第1部位411において第1連通路22a~22fと連通する状態となる。これにより、この圧縮機では、連通角度が最小となる。
【0084】
このため、図12に示すように、第1移動体11は、第1連通路22aと第2連通路41とを連通させる。すなわち、第1移動体11は、再膨張行程乃至吸入行程の初期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fのみ、第2連通路41と連通させる。この際も、本体部35bは、圧縮行程又は吐出行程にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、第2連通路41とを非連通とする。また、周壁部11aにより、第1連通路22b、22cと第2連通路41とが非連通とされる。すなわち、周壁部11aにより、吸入行程の中期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、吸入行程の後期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fと、第2連通路41とが非連通とされる。
【0085】
このように、連通角度が最小となることにより、圧縮室45a~45fには、吸入行程の初期段階にあるときだけ、連通室39、第2連通路41及び第1連通路22a~22fを通じて、吸入室28から冷媒ガスが吸入される。このため、吸入室28から圧縮室45a~45fに吸入される冷媒ガスの流量が最も少なくなる。こうして、この圧縮機では、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量が最少となる。
【0086】
そして、この圧縮機では、駆動軸本体33と第2移動体12とによって区画されることにより、駆動軸3内に制御圧室27が設けられている。このため、この圧縮機では、リヤハウジング19を含め、ハウジング1に対して、制御圧室27を形成するためのスペースが不要となっている。このため、ハウジング1を小型化することが可能となっている。
【0087】
したがって、実施例1の圧縮機によれば、制御圧力に基づいて移動体10が駆動軸心O方向に移動することで圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を変化可能であり、かつ、小型化を実現できる。
【0088】
特に、この圧縮機では、制御圧室27を駆動軸3内に設けることにより、制御圧室27を小型化することができる。これにより、制御弁13によって制御圧力とされる冷媒ガスの流量を少なくしつつ、制御圧力と吸入圧力との可変差圧によって、第2移動体12、ひいては移動体10を駆動軸心O方向に好適に移動させることが可能となっている。このため、この圧縮機では、制御性が高くなっている。
【0089】
また、この圧縮機では、制御弁13と制御圧室27とは、第2給気通路13c、すなわち接続路26、環状溝24及び第1、2径路33e、35dを通じて接続されている。このため、この圧縮機では、駆動軸3が回転しても、制御圧室27と制御弁13とを常に接続させることが可能となっている。このため、この圧縮機では、制御圧室27内の制御圧力を好適に調整することが可能となっている。
【0090】
さらに、この圧縮機では、第1、2シールリング358、359によって、第2軸孔23内と環状溝24との間が封止されている。このため、環状溝24から第2径路35d及び第1径路33eを経て制御圧室27に流通する冷媒ガスが環状溝24の外部に漏れ難くなっている。この点においても、この圧縮機では、制御圧室27内の制御圧力を好適に調整することが可能となっている。
【0091】
さらに、この圧縮機では、第1、2給気通路13b、13cを経て吐出室29から制御圧室27に導入される冷媒ガスの流量を制御弁13によって変化させる入れ側制御を行っている。このため、制御圧室27を迅速に高圧にすることができ、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を速やかに増大させることができる。
【0092】
(実施例2)
図13及び図14に示すように、実施例2の圧縮機では、実施例1の圧縮機における弁形成プレート9a及び移動体10に換えて、弁形成プレート9b及び移動体14を備えている。弁形成プレート9bは、本発明の「吐出弁」及び「吸入弁」の一例である。弁形成プレート9aと同様、弁形成プレート9bも、リヤハウジング19とシリンダブロック21との間に設けられている。これにより、この圧縮機でも、弁形成プレート9bを介して、リヤハウジング19とシリンダブロック21とが接合されている。
【0093】
弁形成プレート9bは、バルブプレート90、吐出弁プレート92及びリテーナプレート93に加えて、吸入弁プレート91を有している。そして、弁形成プレート9bでは、バルブプレート90及び吸入弁プレート91に対し、弁形成プレート9aと同様の6つの吐出孔911が形成されている。また、バルブプレート90、吐出弁プレート92及びリテーナプレート93には、シリンダボア21a~21fに連通する6つの吸入孔910が形成されている。これにより、この圧縮機では、シリンダボア21a~21fは、各吸入孔910を通じて吸入室28に連通するとともに、各吐出孔911を通じて吐出室29に連通する。
【0094】
吸入弁プレート91は、バルブプレート90の前面に設けられている。吸入弁プレート91には、弾性変形によって各吸入孔910を開閉可能な6つの吸入リード弁91aが設けられている。各吸入リード弁91aは、シリンダブロック21に形成されたリテーナ溝20によって開度が規制されるようになっている。
【0095】
移動体14は、第1移動体11と第2移動体16とで構成されている。ここで、この圧縮機では、実施例1の圧縮機に比べて、第2連通路41の前後方向の長さが短く設定されている。また、図15及び図16に示すように、この圧縮機では、第1移動体11の立壁部11bに対して、切欠き部114が形成されていない。
【0096】
第2移動体16は、第1軸路33d及び第2軸路35cの第2径部352とほぼ同径をなす略円柱状に形成されている。つまり、第2移動体16は中実に形成されており、前方側に面する第1面161と、後方側に面する第2面162とが形成されている。また、第2移動体16の後端には、平面状をなす係合部16aが形成されている。また、第2移動体16の前方側には、リング溝16bが形成されている。リング溝16bには、Oリング37が設けられている。なお、係合部16aについても、立壁部11bと係合可能であれば、形状を適宜設計可能である。
【0097】
この圧縮機においても、第2移動体16は、係合部16aを案内窓35a側に向けた状態で、キャップ35の第2径部352内に配置されている。そして、第2移動体16は、前端側を第1軸路33d内に進入させている。こうして、この圧縮機では、駆動軸3内には、駆動軸本体33と第2移動体16とによって区画された制御圧室27が設けられている。
【0098】
また、移動体14では、立壁部11bと係合部16aとが係合されることで、第1移動体11と第2移動体16とが組み付けられている。これにより、立壁部11bと、第2移動体16の第2面162とには、吸入圧力が作用する。一方、第2移動体16の第2面161には、制御圧力が作用する。ここで、この圧縮機では、立壁部11bに切欠き部114が形成されておらず、また、第2移動体16が中実に形成されている。このため、実施例1の圧縮機と異なり、この圧縮機では、駆動軸3内に連通室39が形成されていない。これにより、この圧縮機では、吸入室28と第2連通路41とが非連通となっている。
【0099】
この圧縮機では、図13図14に示す各吸入リード弁91aが各吸入孔910を開くことにより、吸入行程にある圧縮室45a~45fに対して、吸入圧力の冷媒ガスが吸入される。ここで、圧縮室45a~45fのうち、圧縮行程又は吐出行程にある圧縮室45a~45fを第1特定圧縮室451と規定し、再膨張行程又は吸入行程にある圧縮室45a~45fを第2特定圧縮室452と規定する。
【0100】
具体的には、この圧縮機では、駆動軸3が図13図14及び図17図19に示す回転角度にある際、圧縮室45aは、圧縮行程の後期段階から吐出工程に移行する段階にあり、ピストン7が上死点に位置する。そして、圧縮室45bは、再膨張行程乃至吸入行程の初期段階となる。つまり、圧縮室45b、圧縮室45c及び圧縮室45dの順で吸入行程が進行する。これにより、圧縮室45cは、吸入行程の中期段階となる。また、圧縮室45dは、吸入行程の後期段階となり、ピストン7が下死点に位置する。一方、圧縮室45e、圧縮室45f及び圧縮室45aの順で圧縮工程が進行する。これにより、圧縮室45eは、圧縮行程の初期段階となり、圧縮室45fは、圧縮行程の中期段階となる。このように、駆動軸3が図13図14及び図17図19に示す回転角度にある場合には、圧縮室45e、圧縮室45f及び圧縮室45aが第1特定圧縮室451となり、圧縮室45b~45dが第2特定圧縮室452となる。そして、第1特定圧縮室451のうち、圧縮室45a内が最も高圧となる。
【0101】
また、この圧縮機では、キャップ35が第2軸孔23に支承されることにより、案内窓35a、ひいては、案内窓35a内に設けられた第1移動体11は、最も高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、その第1特定圧縮室451に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fと、その第2特定圧縮室452に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fとに対向する。また、キャップ35の本体部35bは、2番目に高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、3番目に高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、その第1特定圧縮室451に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fとに対向する。つまり、駆動軸3が図17に示す回転角度にある場合には、案内窓35a及び第1移動体11は、第1連通路22aと、第1連通路22bと、第1連通路22cとに対向する。また、本体部35bは、第1連通路22fと、第1連通路22eと、第1連通路22dとに対向する。
【0102】
そして、駆動軸3が図17に示す状態よりもさらにR1方向に回転すれば、圧縮室45fが最も高圧の状態にある第1特定圧縮室451となり、圧縮室45eが2番目に高圧の状態にある第1特定圧縮室451となる。このため、案内窓35a及び第1移動体11は、第1連通路22fと、第1連通路22aと、第1連通路22bとに対向する。そして、本体部35bは、第1連通路22eと、第1連通路22dと、第1連通路22cとに対向する。このように、連通窓35a及び第1移動体11は、駆動軸3が回転することにより、最も高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、その第1特定圧縮室451に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fと、その第2特定圧縮室452に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fとに順次対向する。一方、本体部35bは、2番目に高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、3番目に高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、その第1特定圧縮室451に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fとに順次対向する。この圧縮機における他の構成は、実施例1の圧縮機と同様であり、同一の構成については、同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0103】
この圧縮機でも、移動体14を駆動軸心O方向に移動させることにより、駆動軸3の1回転当たりで吸入室28から圧縮室45a~45fに吸入される冷媒ガスの流量、ひいては、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を変更することができる。
【0104】
具体的には、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を増大させる場合には、制御弁13によって制御圧室27の制御圧力を減少させ、可変差圧を小さくする。
【0105】
このため、移動体14では、第1、2移動体11、16が付勢ばね43の付勢力によって、図16に示す位置から駆動軸心O方向で前方に移動し始める。つまり、第1移動体11が案内窓35a内を駆動軸心O方向で前方に移動し始めるとともに、第2移動体16が第1軸路33d内及び第2径部352内を駆動軸心O方向で前方に移動し始める。これにより、第2連通路41は、第1連通路22a~22fに対して前方に相対移動することで、この圧縮機では、連通角度が徐々に小さくなる。
【0106】
そして、制御弁13によって、制御圧室27の制御圧力をさらに減少させて、可変差圧を最小にすることにより、図15に示すように、第1移動体11が案内窓35a内を最も前方に移動した状態となる。上記のように、この圧縮機では、実施例1の圧縮機に比べて、第2連通路41の前後方向の長さが短く設定されている。このため、第1移動体11が案内窓35a内を最も前方に移動した状態では、第1移動体11では、周壁部11aの表面111が第1連通路22a~22fと対向することで、第1連通路22a~22fと第2連通路41とが非連通となる。このため、連通角度が最小、つまりゼロとなる。このため、この場合には、駆動軸3が駆動軸心O周りで回転しても、第2連通路41は、第1連通路22a~22fのいずれとも非連通の状態となる(図17参照)。
【0107】
こうして、連通角度が最小である場合には、ピストン7が上死点から下死点に向けて移動し、圧縮室45a~45fの容積が拡大して圧縮室45a~45f内の圧力が吸入室28よりも低くなることで、吸入リード弁91aが開いて吸入室28と圧縮室45a~45f、より詳細には、吸入室28と第2特定圧縮室452とが連通する。このため、吸入室28から吸入圧力の冷媒ガスが圧縮室45a~45fに吸入される。これにより、連通角度が最小である場合には、吸入室28から圧縮室45a~45fに吸入される冷媒ガスの流量が最大となる。そして、吸入室28から圧縮室45a~45fに吸入された冷媒ガスは、圧縮工程で圧縮された後、吐出工程において吐出リード弁92aが開くことにより、吐出室29に吐出される。この結果、この圧縮機では、吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量が最大となる。
【0108】
一方、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を減少させる場合には、制御弁13が制御圧室27の制御圧力を増大させる。これにより、可変差圧が大きくなる。
【0109】
このため、移動体14では、第2移動体16が付勢ばね43の付勢力に抗しつつ、図15に示す位置から第1軸路33d内及び第2径部352内を駆動軸心O方向で後方に移動し始める。これにより、第1移動体11が案内窓35a内を駆動軸心O方向で後方に移動し始めることで、第2連通路41は、第1連通路22a~22fに対して後方に相対移動する。このため、第2連通路41は、第1部位411において第1連通路22a~22fと連通する状態となる。これにより、この圧縮機では、連通角度が最小よりも大きくなる。
【0110】
これにより、第2連通路41は、図18に示す第1連通路22a及び第1連通路22bのように、最も高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、その第1特定圧縮室451に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fとに連通する。このため、第2連通路41を通じて、圧縮室45a内の高圧の冷媒ガスの一部が圧縮室45b内に導入される。
【0111】
ここで、第2連通路41が第1部位411において第1連通路22a~22fと連通する状態では、第1連通路22cのように、吸入行程の中期段階にある圧縮室45a~45fに連通する第1連通路22a~22fは、周壁部11aの表面111に対向することで、第2連通路41とは非連通となる。また、第1連通路22d~22fのように、2番目に高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、3番目に高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、その第1特定圧縮室451に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fとについては、キャップ35の本体部35bと対向することで、第2連通路41とは非連通となる。
【0112】
このように、連通角度が最小よりも大きくなることで、第2連通路41を通じて、最も高圧の第1特定圧縮室451内の冷媒ガスが第2特定圧縮室452内に導入され、第2特定圧縮室452内で再膨張する。つまり、吐出行程にある圧縮室45a~45f内の冷媒ガスが、再膨張行程乃至吸入行程の初期段階にある圧縮室45a~45f内に導入されて再膨張する。このため、ピストン7が上死点から下死点に向かって移動しても、第2特定圧縮室452内の圧力が吸入室28内の吸入圧力よりも低くならないと、吸入リード弁91aは開かず、その間は吸入室28から冷媒ガスが第2特定圧縮室452内に吸入されない。このため、この圧縮機では、吸入行程の際、圧縮室45a~45fに吸入される冷媒ガスの流量が減少することで、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量が減少する。
【0113】
つまり、この圧縮機では、連通角度が最小よりも大きくなることで、連通角度が最小である場合に比べて、冷媒ガスを圧縮する際の仕事量が減少するとともに、冷媒ガスが再膨張する際の仕事量も減少することになる。
【0114】
そして、可変差圧が最大となることで、図16に示すように、第1移動体11は案内窓35a内を最も後方に移動した状態となる。これにより、第2連通路41は、第2部位412において、第1連通路22a~22fと連通する状態となる。こうして、連通角度が最大となる。
【0115】
これにより、第2連通路41は、図19に示す第1連通路22a~22cと連通する。つまり、第2連通路41は、最も高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、その第1特定圧縮室451に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fと、その第2特定圧縮室452に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fとに連通する。これにより、第2連通路41を通じて、圧縮室45a内の高圧の冷媒ガスの一部が圧縮室45b、45c内に導入される。なお、この状態においても、2番目に高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、3番目に高圧の状態にある第1特定圧縮室451に連通する第1連通路22a~22fと、その第1特定圧縮室451に隣り合う第2特定圧縮室452に連通する第1連通路22a~22fとについては、キャップ35の本体部35bと対向することで、第2連通路41とは非連通となる。
【0116】
こうして、連通角度が最大の状態では、第2連通路41を通じて、吐出行程にある圧縮室45a~45fから、再膨張行程乃至吸入行程の初期段階にある圧縮室45a~45fと、吸入行程の中期段階にある圧縮室45a~45fとに冷媒ガスが導入される。すなわち、最も高圧の第1特定圧縮室451内から第2特定圧縮室452内に導入される冷媒ガスの流量が増大する。この結果、この圧縮機では、吸入行程の際、圧縮室45a~45fに吸入される冷媒ガスの流量がより減少することで、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量が最少となる。つまり、連通角度が最大の状態では、冷媒ガスを圧縮する際の仕事量がより減少するとともに、冷媒ガスが再膨張する際の仕事量もより減少することになる。この圧縮機における他の作用は実施例1の圧縮機と同様である。
【0117】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0118】
例えば、実施例1、2の圧縮機を両頭ピストン式圧縮機として構成しても良い。
【0119】
また、実施例1、2の圧縮機について、キャップ35における第1シールリング358と第2シールリング359との間となる位置に、第2軸孔23に臨みつつ、第1、2径路33e、35dと連通する環状溝を形成し、この環状溝と制御弁13とを接続路26によって接続する構成としても良い。
【0120】
さらに、実施例1、2の圧縮機について、環状溝24の形成を省略し、駆動軸3の回転によって、第1、2径路33e、35dと接続路26とが間欠的に連通することで、制御圧室27と制御弁13とが間欠的に接続される構成としても良い。
【0121】
また、実施例1の圧縮機について、制御弁13が制御圧室27の制御圧力を減少させることで、連通角度が増大する構成としても良い。また、実施例2の圧縮機について、制御弁13が制御圧室27の制御圧力を増大させることで、連通角度が増大する構成としても良い。
【0122】
さらに、実施例1の圧縮機について、連通角度の変化により、圧縮室45a~45f内から第1連通路22a~22f及び第2連通路41を通じて連通室39に排出する冷媒ガスの流量を変化させることで、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を変化させる構成としても良い。
【0123】
また、実施例2の圧縮機について、第2連通路41を通じて、2番目に高圧の第1特定圧縮室451から第2特定圧縮室452に冷媒ガスを導入する構成、つまり、圧縮行程にある圧縮室45a~45fから、再膨張行程や吸入行程にある圧縮室45a~45fに冷媒ガスを導入する構成としても良い。
【0124】
さらに、実施例1、2の圧縮機について、各シュー8a、8bに換えて、固定斜板5の後面側にスラスト軸受を介して揺動板を支持するとともに、揺動板とピストン7とをコンロッドによって連接するワッブル型の変換機構を採用しても良い。
【0125】
また、実施例1、2の圧縮機について、第2移動体12、16は、第2径部352と摺動せずに、第2移動体12、16と第2径部352との間に間隙が形成されていても良い。
【0126】
また、実施例の圧縮機1、2では、第1移動体11の案内窓35a内における位置、すなわち、移動体10、14の駆動軸心O方向の位置に応じて、連通角度を変化させることにより、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を変化させている。しかし、これに限らず、移動体10、14の駆動軸心O方向の位置に応じて、第1連通路22a~22fと第2連通路41との連通面積が変化することにより、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を変化させる構成としても良い。
【0127】
また、実施例1、2圧縮機において、外部から制御弁13への電流のONとOFFとを切り替えて制御圧力を制御する外部制御を行っても良く、外部からの電流に依らずに制御圧力を制御する内部制御を行っても良い。ここで、制御弁13への電流をOFFにすることによって弁開度を大きくするように構成すると、圧縮機の停止時において、弁開度が大きくなり、制御圧室27の制御圧力を低くできる。このため、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量が最少の状態で圧縮機を起動できることから、起動ショックを低減することができる。
【0128】
さらに、実施例1、2の圧縮機において、抽気通路を経て制御圧室27から吸入室28に導出される冷媒ガスの流量を制御弁13によって変化させる抜き側制御を行っても良い。この場合には、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量を変化させるに当たって使用する吐出室29内の冷媒ガスの量を少なくできることから、圧縮機の効率を上げることができる。また、この場合、制御弁13への電流をOFFにすることによって弁開度を大きくするように構成すると、圧縮機の停止時において、弁開度が大きくなり、制御圧室27の制御圧力を低くできる。このため、圧縮室45a~45fから吐出室29に吐出される冷媒ガスの流量が最少の状態で圧縮機を起動できることから、起動ショックを低減することができる。
【0129】
また、実施例1、2の圧縮機において、制御弁13に換えて、抽気通路と給気通路との両者で開度を調整可能な三方弁を採用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は車両の空調装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0131】
1…ハウジング
3…駆動軸
5…固定斜板
7…ピストン
9a…弁形成プレート(吐出弁)
9b…弁形成プレート(吐出弁、吸入弁)
10…移動体
13…制御弁
13c…制御通路
14…移動体
21…シリンダブロック
21a~21f…シリンダボア
22a~22f…第1連通路
23…第2軸孔(軸孔)
24…環状溝
26…接続路
27…制御圧室
28…吸入室
29…吐出室
31…斜板室
33e…第1径路(径路)
35d…第2径路(径路)
39…連通室
41…第2連通路
45a~45f…圧縮室
173…第1軸孔(軸孔)
451…第1特定圧縮室
452…第2特定圧縮室
O…駆動軸心
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