IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-マルチプレクサ 図1
  • 特許-マルチプレクサ 図2
  • 特許-マルチプレクサ 図3
  • 特許-マルチプレクサ 図4
  • 特許-マルチプレクサ 図5
  • 特許-マルチプレクサ 図6
  • 特許-マルチプレクサ 図7
  • 特許-マルチプレクサ 図8
  • 特許-マルチプレクサ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】マルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/72 20060101AFI20220906BHJP
   H04B 1/525 20150101ALI20220906BHJP
【FI】
H03H9/72
H04B1/525
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019130856
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021016116
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】岡田 圭司
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-074539(JP,A)
【文献】国際公開第2009/025106(WO,A1)
【文献】特開2011-172191(JP,A)
【文献】特開2017-204743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/525
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通端子と第1端子とに接続された第1フィルタ回路と、
前記共通端子と第2端子とに接続された第2フィルタ回路と、
前記第1フィルタ回路の一部と並列に接続された付加回路と、を備え、
前記第1フィルタ回路は、前記共通端子と前記第1端子とを結ぶ信号経路上に配置された1以上の直列共振子と前記信号経路上の対応するノードとグランドとの間に配置された1以上の並列共振子とを有し、前記1以上の直列共振子のうち前記第1端子に最も近い直列共振子は、前記ノードのいずれも介することなく直列接続された複数の分割共振子によって構成され、
前記付加回路は、圧電基板において、弾性波伝搬方向に並置された複数のIDT(InterDigital Transducer)電極からなる共振子群とキャパシタとを有し、前記共振子群の一端は前記キャパシタを介して前記共通端子に接続され、前記共振子群の他端は隣接する前記分割共振子の間の前記信号経路にキャパシタを介さずに接続され、
前記第1端子に最も近い前記直列共振子は、3以上の分割共振子によって構成され、
前記共振子群の前記他端は、前記分割共振子のうち前記第1端子に最も近い前記分割共振子以外の2の前記分割共振子の間の前記信号経路に接続される、
マルチプレクサ。
【請求項2】
前記共振子群の前記他端と前記第1端子との間に位置する前記分割共振子のうち少なくとも2つの分割共振子は、容量および前記圧電基板における面積の少なくとも一方において互いに異なる、
請求項に記載のマルチプレクサ。
【請求項3】
前記共振子群の前記他端と前記第1端子との間に位置する前記分割共振子のうち、前記第1端子に最も近い前記分割共振子が、前記容量および前記圧電基板における前記面積の少なくとも一方において、最も大きい、
請求項に記載のマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加回路を有するマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、付加回路としてのキャンセル回路を有するマルチプレクサが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
図9は、特許文献1に記載されたマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。図9に示されるように、マルチプレクサ7は、送信フィルタ回路60と、受信フィルタ回路70と、キャンセル回路80と、を備える。
【0004】
送信フィルタ回路60と受信フィルタ回路70とは、端子P0で共通接続される。この構成により、マルチプレクサ7は、端子P1にて受信された高周波信号を、送信フィルタ回路60を経由して端子P0から出力し、かつ、端子P0にて受信された高周波信号を、受信フィルタ回路70を経由して端子P2から出力するデュプレクサとして機能する。
【0005】
送信フィルタ回路60は、送信周波数帯域を通過帯域とするフィルタである。送信フィルタ回路60は、直列共振子61、62、63および64ならびに並列共振子65、66、67および68からなるラダー型の共振子フィルタで構成される。並列共振子65とグランドとの間および並列共振子66、67とグランドとの間に特性調整用のインダクタ91および92がそれぞれ接続される。直列共振子62、63および64は、分割共振子である。
【0006】
受信フィルタ回路70は、受信周波数帯域を通過帯域とするフィルタである。受信フィルタ回路70は、直列共振子71および72ならびに並列共振子73および74からなるラダー型の共振子フィルタと、縦結合共振子型フィルタ75と、で構成される。縦結合共振子型フィルタ75は、互いに並列に接続された縦結合型共振器76および77で構成される。
【0007】
キャンセル回路80は、縦結合型共振器81とキャパシタ82とで構成され、送信フィルタ回路60の一部と並列に接続される。具体的には、縦結合型共振器81の一端はキャパシタ82を介して端子P0に接続され、縦結合型共振器81の他端は送信フィルタ回路60における直列共振子61と62との間の信号経路にキャパシタを介さずに接続される。キャパシタ82は共振子で構成される。
【0008】
キャンセル回路80は、送信フィルタ回路60を流れる非所望の周波数帯域(例えば、受信周波数帯域)の信号である非所望信号に対し、逆位相でかつ好ましくは同振幅のキャンセル信号を生成する。送信フィルタ回路60とキャンセル回路80とを合わせた回路において非所望信号とキャンセル信号とが加算され非所望信号の振幅が減少することにより、送信経路の減衰特性および送受間のアイソレーション特性(以下、総称して電気特性と言う)が向上する。
【0009】
マルチプレクサ7では、端子P1から見た、送信フィルタ回路60とキャンセル回路80とを合わせたインピーダンスを、送信フィルタ回路60の直列共振子61で調整できる。これにより、縦結合型共振器81の端子P1側のキャパシタが省略できるので、より小型化されたマルチプレクサ7によって、電気特性を向上する効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2018-74539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のマルチプレクサは小型化に優れる反面、電気特性を十分に向上させることが難しい場合がある。
【0012】
そこで、本発明は、付加回路を有しかつ小型化と電気特性の向上とを両立するマルチプレクサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るマルチプレクサは、共通端子と第1端子とに接続された第1フィルタ回路と、前記共通端子と第2端子とに接続された第2フィルタ回路と、前記第1フィルタ回路の一部と並列に接続された付加回路と、を備え、前記第1フィルタ回路は、前記共通端子と前記第1端子とを結ぶ信号経路上に配置された1以上の直列共振子と前記信号経路上の対応するノードとグランドとの間に配置された1以上の並列共振子とを有し、前記1以上の直列共振子のうち前記第1端子に最も近い直列共振子は、前記ノードのいずれも介することなく直列接続された複数の分割共振子によって構成され、前記付加回路は、圧電基板において、弾性波伝搬方向に並置された複数のIDT(InterDigital Transducer)電極からなる共振子群とキャパシタとを有し、前記共振子群の一端は前記キャパシタを介して前記共通端子に接続され、前記共振子群の他端は隣接する前記分割共振子の間の前記信号経路にキャパシタを介さずに接続され、前記第1端子に最も近い前記直列共振子は、3以上の分割共振子によって構成され、前記共振子群の前記他端は、前記分割共振子のうち前記第1端子に最も近い前記分割共振子以外の2の前記分割共振子の間の前記信号経路に接続される。
【発明の効果】
【0014】
上記のマルチプレクサによれば、付加回路の共振子群が、第1フィルタ回路の第1端子に最も近い直列共振子を構成する分割共振子のうち隣接する分割共振子間の信号経路に接続される。これにより、付加回路は、第1フィルタ回路の少なくとも1の分割共振子を介在して、第1端子に接続される。
【0015】
そのため、第1端子から見た、第1フィルタ回路と付加回路とを合わせたインピーダンスを、第1フィルタ回路の分割共振子で調整できる。これにより、付加回路内の第1端子側のキャパシタが省略できるので、マルチプレクサが小型化される。
【0016】
また、付加回路の共振子群を、第1フィルタ回路の第1端子に最も近い直列共振子と次に近い直列共振子との間の信号経路に接続する構成と比べて、付加回路と並列に接続される第1フィルタ回路の部分がより長くなる。これにより、有効なキャンセル信号の生成が容易になるので、電気特性をより効果的に向上させることが可能になる。
【0017】
以上により、小型化と電気特性の向上とを両立するマルチプレクサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態に係るマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。
図2】IDT電極の構造の一例を模式的に示す平面図および断面図である。
図3】比較例1に係るマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。
図4】比較例2に係るマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。
図5】端子P1から見たマルチプレクサのインピーダンスの一例を示すスミスチャートである。
図6】マルチプレクサの端子P1、P0間の通過特性の一例を示すグラフである。
図7】マルチプレクサの端子P1、P2間のアイソレーション特性の一例を示すグラフである。
図8】変形例に係るマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。
図9】従来例に係るマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、実施の形態および図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。なお、以下の実施の形態において、「接続される」とは、配線導体で直接接続される場合だけでなく、他の回路素子を介して電気的に接続される場合も含まれる。
【0020】
実施の形態に係るマルチプレクサについて、送信フィルタ回路と、受信フィルタ回路と、送信フィルタ回路の一部と並列に接続された付加回路と、を備えるデュプレクサの例を挙げて説明する。
【0021】
図1は、実施の形態に係るマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。図1に示されるように、マルチプレクサ1は、端子P0、P1、P2、送信フィルタ回路10、受信フィルタ回路20、および付加回路30を有する。端子P0は、例えば、図示しないアンテナ素子に接続される。
【0022】
ここで、端子P0、P1およびP2は、それぞれ、共通端子、第1端子および第2端子の一例であり、送信フィルタ回路10および受信フィルタ回路20は、それぞれ、第1フィルタ回路および第2フィルタ回路の一例である。
【0023】
送信フィルタ回路10は、所定の送信周波数帯域を通過帯域とするフィルタ回路であり、端子P0と端子P1とに接続される。送信フィルタ回路10の一端および他端はそれぞれ端子P0、P1に直接接続されてもよく、図示しない他の回路素子を介して接続されてもよい。
【0024】
送信フィルタ回路10は、直列共振子11~14と、並列共振子15~18と、インダクタ41~44からなるラダー型の共振子フィルタで構成される。
【0025】
直列共振子11~14は、端子P0と端子P1とを結ぶ信号経路である直列腕上に配置される。並列共振子15~18は、直列腕上の対応するノードとグランドとを結ぶ信号経路である並列腕上に配置される。インダクタ41は、直列腕上の直列共振子11と端子P1との間に配置され、インダクタ43、44は並列腕上に配置される。
【0026】
端子P1に最も近い直列共振子11は、並列共振子15~18が接続されたいずれのノードも介することなく直列接続された複数の分割共振子11a、11bおよび11cによって構成される。同様に、直列共振子12~14および並列共振子15~17の各々も、他の共振子が接続されたいずれのノードも介することなく直列接続された複数の分割共振子によって構成されてもよい。
【0027】
受信フィルタ回路20は、所定の受信周波数帯域を通過帯域とするフィルタ回路であり、端子P0と端子P2とに接続される。受信フィルタ回路20の一端および他端はそれぞれ端子P0、P2に直接接続されてもよく、図示しない他の回路素子を介して接続されてもよい。
【0028】
受信フィルタ回路20の構成は、特には限定されない。受信フィルタ回路20は、一例として、図9に示される受信フィルタ回路70と同じ構成であってもよい。すなわち、受信フィルタ回路20は、ラダー型のフィルタ回路と縦結合共振子型フィルタとで構成されてもよい(図示せず)。
【0029】
付加回路30は、弾性波伝搬方向に並置されたIDT電極33および34からなる共振子群31とキャパシタ32とを有し、送信フィルタ回路10の一部と並列に接続される。具体的には、共振子群31の一端はキャパシタ32を介して端子P0に接続され、共振子群31の他端は分割共振子11aと11bとの間の信号経路にキャパシタを介さずに接続される。
【0030】
共振子群31は、IDT電極間での表面波の結合を利用して信号を伝達する縦結合共振子型フィルタを構成してもよく、IDT電極間での表面波の伝搬を利用して信号を伝達するトランスバーサル型フィルタを構成してもよい。共振子群31は、3以上のIDT電極からなってもよい(図示せず)。
【0031】
共振子群31は、付加回路30を通過する信号の位相を制御し、キャパシタ32は、付加回路30を通過する信号の振幅を制御する。これにより、付加回路30は、送信フィルタ回路10を漏洩するキャンセル対象の信号(例えば、受信周波数帯域の信号成分)と相殺される信号(つまりキャンセル信号)を生成する。
【0032】
キャンセル信号は、キャンセル対象の信号成分と合算されたときに合算結果の振幅がキャンセル対象の信号成分の振幅より小さくなる信号であり、キャンセル対象の信号成分に対し、逆位相でかつ好ましくは同振幅の信号である。
【0033】
ここで、キャンセル対象の信号成分とキャンセル信号とが逆位相であるとは、-180°以上180°以下の範囲内で両者の位相差の絶対値が90°より大きいことをいう。これは、キャンセル対象の信号成分とキャンセル信号とが互いに逆方向の位相成分を有することと等しい。
【0034】
また、キャンセル信号はキャンセル対象の信号成分と同振幅であることが好ましいが、振幅が異なっても構わない。キャンセル信号とキャンセル対象の信号成分との位相差に応じて、両者の合算結果の振幅がキャンセル対象の信号成分の振幅よりも小さくなる場合は、減衰特性を向上させることができる。
【0035】
次に、IDT電極の基本的な構造について説明する。
【0036】
図2は、IDT電極50の基本的な構造の一例を模式的に表す平面図及び断面図である。図2に示されるIDT電極50の構造は、付加回路30におけるIDT電極33、34に適用される他、送信フィルタ回路10における直列共振子11~14および並列共振子15~17を構成する個々の分割共振子および並列共振子18に適用される。なお、図2の例は、IDT電極50の基本的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数および長さなどは、図2の例には限定されない。
【0037】
IDT電極50は、互いに対向する一対の櫛歯状電極50a、50bからなる。櫛歯状電極50aは、互いに平行な複数の電極指51aと、複数の電極指51aを接続するバスバー電極52aとで構成されている。櫛歯状電極50bは、互いに平行な複数の電極指51bと、複数の電極指51bを接続するバスバー電極52bとで構成されている。電極指51aおよび51bは、弾性波の伝搬方向であるX軸方向と直交する方向に延びるように形成されており、互いに間挿し合うように配置されている。
【0038】
IDT電極50の形状および大きさを規定するパラメータを電極パラメータと言う。電極パラメータの一例として、電極指51aまたは電極指51bのX軸方向における繰り返し周期である波長λ、X軸方向に見て電極指51a、51bが重複する長さである交差幅L、電極指51a、51bのライン幅W、および隣り合う電極指51a、51b間のスペース幅Sが挙げられる。
【0039】
電極指51a、51bを合わせた電極指の本数の1/2である対数、電極指51a、51bを合わせた電極指の繰り返し周期であるピッチ(W+S)、ピッチに占めるライン幅の割合であるデューティ比W/(W+S)も、電極パラメータの一例である。
【0040】
電極指51a、51b、およびバスバー電極52a、52bは、圧電基板59上に形成された電極層53で構成されている。
【0041】
一例として、電極層53は、銅、アルミニウムなどの金属またはこれらの合金で構成され、圧電基板59は、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムなどを含有する圧電体層で構成されてもよい。電極層53は、図示していない密着層を介在して圧電基板59上に形成されてもよい。電極層53は、保護層54で被覆されてもよい。
【0042】
圧電基板59は、圧電体層一層からなってもよいし、少なくとも一部に圧電性を有する積層型基板であってもよい。少なくとも一部に圧電性を有する積層型基板は、支持基板と、支持基板上に形成されており、圧電薄膜を伝搬する弾性波音速より伝搬するバルク波音速が高速である高音速膜と、高音速膜上に積層されており、圧電薄膜を伝搬する弾性バルク波音速より伝搬するバルク波音速が低速である低音速膜と、低音速膜上に積層された圧電薄膜と、で構成された積層体であってもよい。また、支持基板は、高音速膜と支持基板を兼ねる、シリコン基板などの高音速支持基板であってもよい。
【0043】
IDT電極50の容量および圧電基板59上での面積は、電極パラメータに応じて規定される。
【0044】
次に、上記のように構成されたマルチプレクサ1の効果を、比較例との対比に基づいて説明する。以下では、マルチプレクサ1を実施例として参照する。
【0045】
図3は、比較例1に係るマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。図3のマルチプレクサ3では、付加回路30の共振子群31が、送信フィルタ回路10の直列共振子11と12との間の信号経路に接続されている。
【0046】
図4は、比較例2に係るマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。図4のマルチプレクサ4では、付加回路30の共振子群31が、送信フィルタ回路10の直列共振子11の端子P1側の端部とインダクタ41との間の信号経路に接続されている。
【0047】
図5は、端子P1から見たマルチプレクサの送信周波数帯域におけるインピーダンスの一例を示すスミスチャートである。図5の例において、スミスチャートの中心に表される特性インピーダンスは50Ωである。
【0048】
図6は、マルチプレクサの端子P1、P0間の通過特性の一例を示すグラフである。図6では、特に送信周波数帯域での通過特性が拡大して示される。
【0049】
図7は、マルチプレクサの端子P1、P2間のアイソレーション特性の一例を示すグラフである。
【0050】
図5から、端子P1から見たマルチプレクサの送信周波数帯域におけるインピーダンスは、実施例および比較例1では良好な整合状態にあるのに対し、比較例2ではショート側へずれていることが分かる。また、図6から、端子P1、P0間の送信周波数帯域における挿入損失は、実施例および比較例1ではほぼ同じであるのに対し、比較例2ではより大きいことが分かる(図6の拡大部分)。この差は、図5に見られる整合のずれに起因する。
【0051】
図7から、端子P1、P2間の受信周波数帯域における挿入損失の最小値は、実施例および比較例2ではほぼ同じであるのに対し、比較例1ではより小さいことが分かる(受信周波数帯域の低域端)。つまり、比較例1では、実施例および比較例2と比べて、受信周波数帯域の信号成分に対する端子P1、P2間のアイソレーションが悪いことが分かる。この差は、比較例1では、実施例および比較例2と比べて、付加回路30と並列に接続される送信フィルタ回路10の部分がより短く、そのため、有効なキャンセル信号を生成しにくくなることで生じる。
【0052】
このように、実施例では、比較例2と比べて、端子P1、P0間の送信周波数帯域における減衰に優れ、かつ比較例1と比べて、端子P1、P2間の受信周波数帯域におけるアイソレーションに優れる。つまり、実施例では、比較例1および2と比べて、より良好な電気特性が得られる。
【0053】
この結果から、実施例のマルチプレクサ1において、小型化と電気特性の向上とが両立できることが分かる。
【0054】
マルチプレクサ1では、付加回路30の共振子群31が、送信フィルタ回路10の分割共振子11aと11bとの間の信号経路に接続されているが、この例には限られない。
【0055】
図8は、変形例に係るマルチプレクサの構成の一例を示す回路図である。図8のマルチプレクサ2では、付加回路30の共振子群31が、送信フィルタ回路10の分割共振子11bと11cとの間の信号経路に接続される。マルチプレクサ2によっても、マルチプレクサ1と同様の効果が得られる。
【0056】
マルチプレクサ2は、第1フィルタ回路の第1端子に最も近い直列共振子が3以上の分割共振子によって構成される場合に、付加回路の共振子群が、分割共振子のうち第1端子に最も近い分割共振子以外の2の分割共振子の間の信号経路に接続される一例である。
【0057】
このような構成では、付加回路の共振子群は、2以上の分割共振子(マルチプレクサ2の例では、分割共振子11aおよび11b)を介して第1端子に接続される。
【0058】
このとき、共振子群と第1端子との間に位置する分割共振子のうち少なくとも2の分割共振子は、容量および圧電基板上での面積の少なくとも一方において互いに異なっていてもよい。
【0059】
具体的に、マルチプレクサ2の例では、分割共振子11aおよび11bが、容量および圧電基板上での面積の少なくとも一方において互いに異なっていてもよい。これにより、分割共振子11aおよび11bをその役割に応じて設計することが可能になるので、分割共振子の設計を合理化できる。
【0060】
例えば、第1端子に最も近い分割共振子、つまり、分割共振子11aを大容量または大面積に設けることで、電流密度を低減させて耐電力性および低歪性を確保してもよい。また、分割共振子11bを端子P1から見たマルチプレクサ2の整合に適した容量に設けてもよい。
【0061】
以上、本発明の実施の形態に係るマルチプレクサについて説明したが、本発明は、個々の実施の形態には限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つ又は複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0062】
例えば、実施の形態ではデュプレクサの例を挙げて説明したが、本発明の適用は、デュプレクサには限られない。例えば、単に周波数帯域が異なる複数の信号を分波および合波するダイプレクサ、トリプレクサ、クアッドプレクサなどに適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、付加回路を有するマルチプレクサとして、携帯電話機などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1、2、3、4、7 マルチプレクサ
10、60 送信フィルタ回路
11、12、13、14、61、62、63、64、71、72 直列共振子
11a、11b、11c 分割共振子
15、16、17、18、65、66、67、68、73、74 並列共振子
20、70 受信フィルタ回路
30 付加回路
31 共振子群
32、82 キャパシタ
33、34、50 IDT電極
41、42、43、44、91、92 インダクタ
50a、50b 櫛歯状電極
51a、51b 電極指
52a、52b バスバー電極
53 電極層
54 保護層
59 圧電基板
75 縦結合共振子型フィルタ
76、77、81 縦結合型共振器
80 キャンセル回路
P0、P1、P2 端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9