(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】高強度熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220906BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20220906BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220906BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20220906BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220906BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20220906BHJP
B21B 45/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/00 301A
C22C38/06
C22C38/60
C21D8/02 A
C21D9/46 T
B21B3/00 A
B21B45/00 L
(21)【出願番号】P 2019187486
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛
(72)【発明者】
【氏名】ドアン ティーフィン
(72)【発明者】
【氏名】後藤 聡太
(72)【発明者】
【氏名】海野 貴徳
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/080554(WO,A1)
【文献】特開2016-183414(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031165(WO,A1)
【文献】特開2017-057460(JP,A)
【文献】特開2016-050334(JP,A)
【文献】特開2007-231409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/06
C22C 38/60
C21D 8/02
C21D 9/46
B21B 3/00
B21B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.08~0.30%、
Si:3.0%以下、
Mn:1.0~4.0%、
P:0.100%以下、
S:0.02%以下、
Al:1.0%以下、
N:0.008%以下を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、
鋼組織は、鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板の幅中央位置における、
ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率が鋼組織全体に対して20%以下、マルテンサイトと下部ベイナイトの合計面積率が鋼組織全体に対して65~100%であり、
鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板のエッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および鋼板の幅中央位置における、前記ポリゴナルフェライトと前記フレッシュマルテンサイトと前記残留オーステナイトの合計面積率の標準偏差が7.0%以下であることを特徴とする高強度熱延鋼板。
【請求項2】
前記成分組成に加えてさらに、質量%で、
Cr:0.005~2.0%、
Ni:0.005~2.0%、
Cu:0.005~2.0%、
Mo:0.005~2.0%、
V:0.005~2.0%、
Nb:0.005~0.20%、
Ti:0.005~0.20%、
B:0.0001~0.0050%、
Ca:0.0001~0.0050%、
REM:0.0001~0.0050%、
Sb:0.0010~0.10%、
Sn:0.0010~0.50%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高強度熱延鋼板の製造方法であって、
前記成分組成を有するスラブを加熱し、
次いで、熱間圧延を施すに際し、
粗圧延後、仕上げ圧延した後、
Ms点~Bs点の温度域の滞留時間が7s以下となる条件でMs点以上の温度Tまで冷却し、
その後該温度Tから(Ms点-30℃)以下の冷却停止温度までを、(Ms点-30℃)~Ms点の温度域の平均冷却速度が100℃/s以上となる条件で冷却し、(Ms点-30℃)以下の温度で巻き取り、その後1℃/s未満の平均冷却速度で50℃以下まで冷却することを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記熱間圧延では、鋼板エッジ部を加熱することを特徴とする請求項3に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用部品の素材として好適な、高強度熱延鋼板及び高強度熱延鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性改善と燃費向上の観点から、自動車用部品に用いられる鋼板には、高強度化が求められている。特に自動車の足回り部品などに用いられる熱延鋼板においては、耐変形特性が重要であり、耐変形特性の観点から高YSを有することが望まれている。しかしながら、高強度化を実現する複合組織鋼板を素材として用いる場合には、従来鋼板ではあまり認められなかった材質変動が鋼板面内で生じやすくなり、所望の成形性が得られなくなる場合がある。そこで、このような材質変動に起因した成形性ばらつきを低減するため、様々な鋼板が開発されてきた。
【0003】
特許文献1には、フェライト粒間の硬さばらつきを制御することで、成形性を向上させた高強度熱延鋼板に関する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、冷却と保持の製造条件を制御することにより鋼板組織を焼き戻しマルテンサイト主体とすることで、YSばらつきの小さい高強度熱延鋼板に関する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、面内のマルテンサイト粒径のばらつきを制御することで加工性の面内安定性を高めた鋼板に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/22025号
【文献】特開2016-183414号公報
【文献】国際公開第2016/31165号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、鋼板の板厚方向の特定の領域におけるフェライト粒間の硬さばらつきを規定するものであり、面内のより広範の領域における硬さのばらつき、ひいては成形性に重要なYSのばらつきについては考慮されておらず、改善の余地がある。
【0008】
特許文献2は、鋼板のエッジ近傍、幅方向1/4位置および幅中央部といったポイントでのYS差を低減させているのみで、成形性に重要なより細かい面内のYSばらつきについては考慮されておらず、改善の余地がある。
【0009】
特許文献3も、鋼板のエッジ近傍、幅方向1/4位置および幅中央位置といったポイントでの穴拡げ率のばらつきを低減させているのみで、より細かい面内の材質ばらつきについては考慮されていない。また特許文献3は、YSのばらつきによる変形の偏りで成形性が低下することについても考慮されておらず、改善の余地がある。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、自動車用部品の素材として好適な、面内のYSばらつきが小さい高強度熱延鋼板及び高強度熱延鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、高強度化を実現する複合組織鋼板では、その製造過程において従来鋼板ではあまり認められなかった加熱や冷却のむらに起因した材質変動が鋼板面内で生じやすくなることに着目した。特にYSが加熱や冷却のむらに対して敏感に変動しやすい。
【0012】
そして、本発明者らは、上記した目的を達成するため、鋭意研究を重ねた。その結果、高強度鋼板のYSのばらつきは、鋼板面内のポリゴナルフェライト、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトのばらつきに大きく依存することを見出した。
【0013】
また、本発明では高YS、高TSを得るために、鋼組織は、鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板の幅中央位置において、ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率が鋼組織全体に対して20%以下、マルテンサイトと下部ベイナイトの合計面積率が鋼組織全体に対して65~100%とすることが有効であることを見出した。なお、本発明では鋼板面内のばらつきの評価に際して、鋼板面内の代表位置として、鋼板のエッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%の位置、10%の位置、15%の位置、20%の位置、25%の位置、30%の位置および鋼板の幅中央位置を対象とした。これらの代表位置を評価することで、鋼板面内で局所的に生じる水乗り等による組織変動を漏れなく抽出できる。
【0014】
すなわち、YSのばらつき低減の観点からは、鋼板面内でこれらの組織の面積率の変動を抑制することが重要であり、その面積率の合計値のばらつきを標準偏差で7.0%以下とすることで、顕著にYSの面内ばらつきが小さくなることを知見した。この知見に基づき、特定の成分組成および特定の鋼組織に調整するとともに、この鋼組織の面積率のばらつきを上記特定の範囲内とすることで上記課題を解決できることを見出した。さらに、製造条件として熱間圧延において好ましい条件があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
なお、本発明において「面内」とは、鋼板面上のあらゆる位置を意味するが、具体的にはその代表位置として、鋼板のエッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および鋼板の幅中央位置とする。
また、YSの(面内)ばらつきが小さいとは、熱延鋼板の幅エッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および熱延鋼板の幅中央位置における、YSの標準偏差の値が100MPa以下であることを意味する。
【0016】
本発明は、以下のものを提供する。
[1] 質量%で、
C:0.08~0.30%、
Si:3.0%以下、
Mn:1.0~4.0%、
P:0.100%以下、
S:0.02%以下、
Al:1.0%以下、
N:0.008%以下を含み、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、
鋼組織は、鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板の幅中央位置における、
ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率が鋼組織全体に対して20%以下、マルテンサイトと下部ベイナイトの合計面積率が鋼組織全体に対して65~100%であり、
鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板のエッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および鋼板の幅中央位置における、前記ポリゴナルフェライトと前記フレッシュマルテンサイトと前記残留オーステナイトの合計面積率の標準偏差が7.0%以下であることを特徴とする高強度熱延鋼板。
[2] 前記成分組成に加えてさらに、質量%で、
Cr:0.005~2.0%、
Ni:0.005~2.0%、
Cu:0.005~2.0%、
Mo:0.005~2.0%、
V:0.005~2.0%、
Nb:0.005~0.20%、
Ti:0.005~0.20%、
B:0.0001~0.0050%、
Ca:0.0001~0.0050%、
REM:0.0001~0.0050%、
Sb:0.0010~0.10%、
Sn:0.0010~0.50%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする[1]に記載の高強度熱延鋼板。
[3] [1]または[2]に記載の成分組成を有するスラブを加熱し、
次いで、熱間圧延を施すに際し、
粗圧延後、仕上げ圧延した後、Ms点~Bs点の温度域の滞留時間が7s以下となる条件でMs点以上の温度Tまで冷却し、その後該温度Tから(Ms点-30℃)以下の冷却停止温度までを、(Ms点-30℃)~Ms点の温度域の平均冷却速度が100℃/s以上となる条件で冷却し、(Ms点-30℃)以下で巻き取り、その後1℃/s未満の平均冷却速度で50℃以下まで冷却することを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
[4] 前記熱間圧延では、鋼板エッジ部を加熱することを特徴とする[3]に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
【0017】
なお、本発明において「高強度」とは、YSが900MPa以上、TSが1180MPa以上の強度を有することを意味する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、自動車用部品の素材として好適な、面内のYSばらつきが小さい高強度熱延鋼板が得られる。
本発明の高強度熱延鋼板を用いれば、自動車部品等の部品製造の際の形状のばらつき低減を実現することができる。これにより、形状が安定した高強度部品等の製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の高強度熱延鋼板及び高強度熱延鋼板の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
<高強度熱延鋼板>
本発明の高強度熱延鋼板は、熱間圧延ままの黒皮、熱間圧延後さらに酸洗する白皮と称される熱延鋼板である。また、本発明が目的とする高強度熱延鋼板は、板厚が0.6mm以上10.0mm以下であることが好ましく、自動車用部品の素材として用いる場合には1.0mm以上6.0mm以下であることがより好ましい。また、板幅は、500mm以上1800mm以下であることが好ましく、700mm以上1400mm以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明の高強度熱延鋼板は、特定の成分組成と、特定の鋼組織とを有する。ここでは、成分組成、鋼組織の順に説明する。
【0022】
まず、本発明の高強度熱延鋼板の成分組成について説明する。なお、成分組成の含有量を表す「%」は「質量%」を意味するものとする。
本発明の高強度熱延鋼板の成分組成は、質量%で、C:0.08~0.30%、Si:3.0%以下、Mn:1.0~4.0%、P:0.100%以下、S:0.02%以下、Al:1.0%以下、N:0.008%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
【0023】
C:0.08~0.30%
Cは、マルテンサイトや下部ベイナイトを生成させてTSを上昇させるのに有効な元素である。C含有量が0.08%未満ではこのような効果が十分得られず、1180MPa以上のTSが得られない。一方、C含有量が0.30%を超えるとフレッシュマルテンサイトや残留オーステナイトが増大する。またこれらの組織の鋼板面内ばらつきが顕著になり、本発明の鋼組織が得られなくなる。したがって、C含有量は0.08~0.30%とする。C含有量は、1180MPa以上のTSをより安定的に得る観点から、好ましくは0.09%以上とする。YSばらつきをより安定的に抑制する観点から、好ましくは0.25%以下、より好ましくは0.20%とする。
【0024】
Si:3.0%以下(0%を含まない)
Siは、鋼を固溶強化したり、マルテンサイトの焼き戻し軟化を抑制することでTSを上昇させたり、面内のYSばらつきの低減に有効な元素である。Si含有量が3.0%を超えると、ポリゴナルフェライトが過剰に生成して本発明の鋼組織が得られなくなる。したがって、Si含有量は3.0%以下とする。Si含有量は、好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.0%以下とする。1180MPa以上のTSをより安定的に得る観点から、およびYSばらつきをより安定的に抑制する観点から、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.3%以上とする。
【0025】
Mn:1.0~4.0%
Mnは、マルテンサイトや下部ベイナイトを生成させてTSを上昇させるのに有効な元素である。Mn含有量が1.0%未満ではこうした効果が十分得られず、ポリゴナルフェライト等が生成して、YSやTSが低下する。一方、Mn含有量が4.0%を超えるとフレッシュマルテンサイトや残留オーステナイトが生成して本発明の鋼組織が得られなくなる。したがって、Mn含有量は1.0~4.0%とする。Mn含有量は、1180MPa以上のTSをより安定的に得る観点から、好ましくは1.2%以上とする。YSばらつきをより安定的に抑制する観点から、好ましくは3.6%以下、より好ましくは3.1%以下とする。
【0026】
P:0.100%以下(0%を含まない)
Pは、溶接性が劣化するため、その量は極力低減することが望ましい。本発明ではP含有量が0.100%まで許容できる。したがって、P含有量は0.100%以下とする。下限は特に規定しないが、P含有量が0.001%未満では生産能率の低下を招くため、0.001%以上が好ましい。
【0027】
S:0.02%以下(0%を含まない)
Sは、溶接性を劣化させるため、その量は極力低減することが好ましいが、本発明ではS含有量が0.02%まで許容できる。したがって、S含有量は0.02%以下とする。下限は特に規定しないが、S含有量が0.0002%未満では生産能率の低下を招くため、0.0002%以上が好ましい。
【0028】
Al:1.0%以下(0%を含まない)
Alは、脱酸剤として作用し、脱酸工程で添加することが好ましい。脱酸剤として用いる観点からは、Al含有量は0.01%以上が好ましい。多量にAlを含有するとポリゴナルフェライトが多量に生成して本発明の鋼組織が得られなくなる。本発明ではAl含有量が1.0%まで許容される。したがって、Al含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.50%以下とする。
【0029】
N:0.008%以下(0%を含まない)
Nが増加すると介在物が増加して加工性が低下するため、その量は極力低減することが好ましいが、本発明ではN含有量が0.008%までは許容される。したがって、N含有量は0.008%以下とする。下限は特に規定しないが、N含有量が0.001%未満では生産能率の低下を招くため、0.001%以上が好ましい。
【0030】
残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0031】
上記成分が本発明の高強度熱延鋼板の基本の成分組成である。必要に応じて、さらに以下の元素を適宜含有することができる。
【0032】
Cr:0.005~2.0%、Ni:0.005~2.0%、Cu:0.005~2.0%、Mo:0.005~2.0%、V:0.005~2.0%、Nb:0.005~0.20%、Ti:0.005~0.20%、B:0.0001~0.0050%、Ca:0.0001~0.0050%、REM:0.0001~0.0050%、Sb:0.0010~0.10%、Sn:0.0010~0.50%のうちから選ばれる1種または2種以上
Cr、Ni、Cuは、マルテンサイトや下部ベイナイトを生成させ、高強度化に寄与する有効な元素である。このような効果を得るため、Cr、Ni、Cuを含有する場合には、それぞれ含有量をCr:0.005~2.0%、Ni:0.005~2.0%、Cu:0.005~2.0%にすることが好ましい。Cr、Ni、Cuのそれぞれの含有量が上記の上限を超えると、フレッシュマルテンサイトや残留オーステナイトが残りやすくなって本発明の鋼組織が得られなくなる場合がある。Cr含有量は、より好ましくは0.1%以上とし、より好ましくは0.6%以下とする。Ni含有量は、より好ましくは0.1%以上とし、より好ましくは0.6%以下とする。Cu含有量は、より好ましくは0.1%以上とし、より好ましくは0.6%以下とする。
【0033】
Mo、V、Nb、Tiは炭化物を形成して、析出強化により高強度化に寄与する有効な元素である。このような効果を得るため、Mo、V、Nb、Tiを含有する場合には、それぞれ含有量をMo:0.005~2.0%、V:0.005~2.0%、Nb:0.005~0.20%、Ti:0.005~0.20%にすることが好ましい。Mo、V、Nb、Tiのそれぞれの含有量が上記の上限を超えると、炭化物が粗大化して焼入れ性が低下し、本発明の鋼組織が得られなくなる場合がある。Mo含有量は、より好ましくは0.05%以上とし、より好ましくは0.6%以下とする。V含有量は、より好ましくは0.05%以上とし、より好ましくは0.3%以下とする。Nb含有量は、より好ましくは0.01%以上とし、より好ましくは0.1%以下とする。Ti含有量は、より好ましくは0.01%以上とし、より好ましくは0.2%以下とする。
【0034】
Bは鋼板の焼入れ性を高め、マルテンサイトや下部ベイナイトを生成させ、高強度化に寄与する有効な元素である。このような効果を得るため、Bを含有する場合には、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。一方、B含有量が0.0050%を超えるとB系化合物が増加して、焼入れ性が低下し、本発明の鋼組織が得られなくなる場合がある。したがって、Bを含有する場合には、含有量を0.0001~0.0050%とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0005%以上とし、より好ましくは0.0040%以下とする。
【0035】
Ca、REMは、介在物の形態制御により加工性の向上に有効な元素である。このような効果を得るため、Ca、REMを含有する場合には、それぞれ含有量をCa:0.0001~0.0050%、REM:0.0001~0.0050%にすることが好ましい。Ca、REMの含有量が上記の上限を超えると、介在物量が増加して加工性が劣化する場合がある。Ca含有量は、より好ましくは0.0005%以上とし、より好ましくは0.0030%以下とする。REM含有量は、より好ましくは0.0005%以上とし、より好ましくは0.0030%以下とする。
【0036】
Sbは脱窒、脱硼等を抑制して、鋼の強度低下抑制に有効な元素である。このような効果を得るため、Sbを含有する場合には、含有量を0.0010~0.10%にすることが好ましい。Sbの含有量が上記の上限を超えると、鋼板の脆化を招く場合がある。Sb含有量は、より好ましくは0.0050%以上とし、より好ましくは0.050%以下とする。
【0037】
Snはパーライトを抑制して、鋼の強度低下抑制に有効な元素である。このような効果を得るため、Snを含有する場合には、含有量を0.0010~0.50%にすることが好ましい。Snの含有量が上記の上限を超えると、鋼板の脆化を招く場合がある。Sn含有量は、より好ましくは0.0050%以上とし、より好ましくは0.050%以下とする。
【0038】
なお、Cr、Ni、Cu、Mo、V、Nb、Ti、B、Ca、REM、Sb、Snの含有量が、上記の下限値未満であっても、本発明の効果を害さない。したがって、これらの成分の含有量が上記下限値未満の場合は、これらの元素を不可避的不純物として含むものとして扱う。
【0039】
また、本発明では、Zr、Mgの不可避的不純物元素を合計で0.002%まで含んでも構わない。Zr、Mgの含有量の合計が0.002%を超えると、介在物が増加して加工性の低下を招きやすくなる。
【0040】
続いて、本発明の高強度熱延鋼板の鋼組織について説明する。
本発明の高強度熱延鋼板の鋼組織は、鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板の幅中央位置における、ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率が鋼組織全体に対して20%以下、マルテンサイトと下部ベイナイトの合計面積率が鋼組織全体に対して65~100%であり、鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板のエッジから幅中央方向へ板厚全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および鋼板の幅中央位置における、ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率の標準偏差が7.0%以下である。
【0041】
鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板の幅中央位置における、ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率:20%以下
本発明では、高YSを達成するために、鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板の幅中央位置における領域のポリゴナルフェライト、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトの面積率の合計を調整することが有効である。
ここで「鋼板の板厚1/4位置」とは、厳密に板厚の1/4位置のみに限定される必要はなく、板厚をtとするとき、鋼板表面から板厚方向1/4t位置±100μmの領域を指す。また、「鋼板の幅中央位置」とは、厳密に板幅1/2位置のみに限定される必要はなく、板幅方向に対して、板幅の1/2位置±10mmの領域を指す。
また、ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトはYSを低下させる組織であり、これらの組織の面積率の合計が鋼組織全体に対して20%を超えるとYSの顕著な低下を招く。したがって、上記領域におけるポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの面積率の合計は、20%以下とする。YSの高位安定化の観点から、好ましくは15%以下とする。好ましくは0%以上とする。
【0042】
鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板の幅中央位置における、マルテンサイトと下部ベイナイトの合計面積率:65~100%
本発明では、上記と同様の理由により、鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板の幅中央位置における領域のマルテンサイトおよび下部ベイナイトの面積率の合計を調整することが有効である。
【0043】
また、マルテンサイトと下部ベイナイトは、本発明のYSおよびTSを得るのに必要な組織である。このような効果は、マルテンサイトと下部ベイナイトの面積率の合計を、鋼組織全体に対して65%以上とすることで得られる。したがって、上記領域におけるマルテンサイトと下部ベイナイトの面積率の合計は65~100%とする。YSおよびTSの高位安定化の観点より、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上とする。
【0044】
なお、鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板の幅中央位置における領域では、上記以外の組織(以下、「その他の組織」と称する場合がある。)としては上部ベイナイト、パーライト等が挙げられる。その他の組織の含有は、上記した本発明の鋼組織の条件を満たす限り許容できる。しかし、面内のYSばらつき低減の観点からは、その他の組織は、各組織の合計面積率で20%以下が好ましい。
【0045】
本発明では、上記した各組織の面積率は実施例に記載の方法で測定した値を採用する。
【0046】
鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板のエッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および鋼板の幅中央位置における、ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率の標準偏差:7.0%以下
本発明では、面内ばらつきの評価に際し、面内の代表位置として、鋼板のエッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%の位置、10%の位置、15%の位置、20%の位置、25%の位置、30%の位置および鋼板の幅中央位置を対象とした。これら代表位置を評価することで、鋼板面内で局所的に生じる水乗り等による組織変動を漏れなく抽出できる。
【0047】
また、この7つの位置でのポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率の標準偏差が7.0%を超えると、YSばらつきが大きくなる。したがって、鋼板の板厚1/4位置で、かつ鋼板のエッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および鋼板の幅中央位置でのポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率の標準偏差は、7.0%以下とする。好ましくは6.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下とする。
【0048】
なお、標準偏差σは、以下の式(1)により計算した。
【0049】
【0050】
<高強度熱延鋼板の製造方法>
本発明の高強度熱延鋼板は、上記成分組成を有するスラブを加熱し、次いで、熱間圧延を施すに際し、粗圧延後、仕上げ圧延した後、Ms点~Bs点の温度域の滞留時間が7s以下となる条件でMs点以上の温度Tまで冷却し、その後該温度Tから(Ms-30℃)以下の冷却停止温度までを、(Ms点-30℃)~Ms点の温度域の平均冷却速度が100℃/s以上となる条件で冷却し、(Ms-30℃)以下の温度で巻き取り、その後1℃/s未満の平均冷却速度で50℃以下まで冷却することにより製造する。
以下、詳しく説明する。なお、上記した温度は鋼板の幅中央部の温度であり、上記した平均冷却速度は鋼板の幅中央部の冷却速度である。
【0051】
Ms点~Bs点の温度域の滞留時間:7s以下
仕上げ圧延後、Ms点~Bs点の温度域の滞留時間が7s以下となる条件で、Ms点以上の温度Tまで冷却する。Ms点~Bs点の温度域の滞留時間が7sを超えるとベイナイト変態量のばらつきや上部ベイナイトの増大等を招き、本発明の鋼組織が得られない。したがって、Ms点~Bs点の温度域の滞留時間は7s以下とする。好ましくは6s以下、より好ましくは5s以下、さらに好ましくは4s以下とする。特に滞留時間の下限は規定しないが、鋼板の形状安定性の観点より、1s以上とすることが好ましい。
【0052】
また、Ms点以上の温度T(℃)まで冷却および該温度Tで冷却停止することで、鋼板面内の温度を温度T近傍に安定化することができる。ここで「温度T」とは、一次冷却における冷却停止温度である。温度Tは、好ましくは、(Ms点+30℃)~(Ms点+200)℃の温度域における任意の温度とする。
【0053】
該滞留時間は、例えばMs点~Bs点の温度域において、冷却、保持、加熱を含む場合、Ms点~Bs点の温度域での平均冷却速度、平均加熱速度および温度Tでの保持時間を調整することで滞留時間を調整できる。
なお、Ms点はマルテンサイト変態が開始する温度であり、フォーマスタ試験により求める。Bs点はベイナイト変態が開始する温度であり、以下の式より求める。
Bs(℃)=830-270[C]-90[Mn]-37[Ni]-70[Cr]-83[Mo]
ここで、[C]、[Mn]、[Ni]、[Cr]、[Mo]は鋼中のC、Mn、Ni、CrおよびMoの含有量で、単位は質量%である。当該元素が含有されていない場合は0とする。
【0054】
(Ms点-30℃)~Ms点の温度域の平均冷却速度:100℃/s以上
上記した冷却の後、温度Tから(Ms点-30℃)以下の冷却停止温度までを、(Ms点-30℃)~Ms点の温度域の平均冷却速度が100℃/s以上となる条件で冷却(二次冷却)する。(Ms点-30℃)~Ms点の温度域の平均冷却速度が100℃/s未満ではマルテンサイト変態が十分進行しないためにその後のベイナイト変態量のばらつきを招き、本発明の鋼組織が得られない。したがって、(Ms点-30℃)~Ms点の温度域の平均冷却速度は100℃/s以上とする。好ましくは150℃/s以上、より好ましくは200℃/s以上とする。特に上限は設けないが、鋼板の形状安定性の観点より、この温度域の平均冷却速度は好ましくは2000℃/s以下とする。なお、本発明において、平均冷却速度とは冷却を開始する温度から冷却を停止する温度までの温度差を冷却所要時間で除したものである。
【0055】
なお、冷却は、例えば冷却剤の吹き付けや冷却剤への浸漬により行うことが挙げられる。冷却剤としては水等が挙げられる。
【0056】
冷却停止温度:(Ms点-30℃)以下
冷却停止温度が(Ms点-30℃)を超えるとマルテンサイト変態が十分進行しないためにその後のベイナイト変態量のばらつきや上部ベイナイトの増大等を招き、本発明の鋼組織が得られない。したがって、冷却停止温度は(Ms点-30℃)以下とする。好ましくは(Ms点-40℃)以下とする。特に冷却停止温度の下限は設けないが、常温未満の温度管理は困難となるため、好ましくは10℃以上、より好ましくは25℃以上とする。
【0057】
巻き取り温度:(Ms点-30℃)以下
巻き取り温度が(Ms点-30℃)を超えると残留オーステナイトの増大等を招いて本発明の鋼組織が得られなくなるため、巻き取り温度は(Ms点-30℃)以下とする。特に下限は設けないが、常温未満の温度管理は困難となるため、好ましくは10℃以上、より好ましくは25℃以上とする。
【0058】
巻き取り温度から50℃以下までの平均冷却速度:1℃/s未満
巻き取り温度から50℃以下までの平均冷却速度が1℃/s以上となると、ベイナイト変態の進行が不十分となり、フレッシュマルテンサイトや残留オーステナイトが増大して本発明の鋼組織が得られなくなる。したがって、巻き取り温度から50℃以下までの平均冷却速度は1℃/s未満とする。好ましくは0.5℃/s未満とする。
【0059】
なお、熱間圧延では、エッジ部からの抜熱や水乗りにより鋼板面内の温度ばらつきが生じやすい。そのため、エッジマスクによりエッジ部からの抜熱を抑え、鋼板面内の温度ばらつきを低減することは有効である。多くの場合、温度管理は鋼板中央部を対象として行うが、変態の遅い高強度鋼板が変態点近傍の温度にさらされるとき、面内の温度の高低があると大きな鋼組織差を生じ、さらに変態発熱によりこの差がより一層大きくなる。したがって、高強度鋼板の面内の材質安定化のためには変態点近傍での鋼組織変化を抑制することが肝要となる。
ここで、エッジマスクとは、熱延鋼板の幅方向端部(エッジ部)をマスキングし、冷却水を遮断することを指す。したがって、エッジマスクは熱間圧延の仕上げ圧延後の冷却工程の際に行うことが好ましい。エッジマスクを適用する場合、必要な冷却量を確保しつつエッジ部の過冷を抑制する観点より、熱延鋼板のエッジ部におけるマスク領域は50~300mm(したがって、幅方向両端部のマスク幅の合計は100~600mm)とすることが好ましい。
【0060】
本発明によれば、鋼板中央部を制御対象温度として、Ms点~Bs点の温度域の滞留時間が7s以下であれば、面内でのベイナイト変態を十分抑制し、4s以下であれば完全に抑制できる。このようにして鋼組織ばらつきの小さい状態として、その後のMs点~(Ms点-30℃)の温度域の平均冷却速度を100℃/s以上とする。これにより、この温度域で生成する組織をマルテンサイトのみとし、且つ一定量以上のマルテンサイトを鋼板面内で均一に生成させる。その後の緩冷却で均一に下部ベイナイトを生成させるとともに、先に生成したマルテンサイトをオートテンパさせることでフレッシュマルテンサイトや残留オーステナイトを抑制し、本発明の下部ベイナイトとマルテンサイトを主体とした鋼組織を得ることができる。
【0061】
本発明は、上記熱間圧延において、さらに粗圧延の前、粗圧延の後、仕上げ圧延の前、仕上げ圧延の後、仕上げ圧延のスタンド間の少なくともいずれかにおいて、鋼板エッジ部をヒーター等で加熱することが好ましい。これにより組織およびYSのばらつきをより一層低減させることができる。
【0062】
鋼板エッジ部を加熱する場合、鋼板幅方向において、エッジ部から200mmのまでの領域を加熱することが好ましい。各加熱位置おける加熱方式は特に限定されないが、誘導加熱方式が好ましい。
【0063】
加熱量は、エッジ部が、エッジ部の加熱前の温度に対して20℃以上高くなるように加熱を実施することが好ましい。鋼板の幅方向において、幅位置による温度差低減の観点より、エッジ部の加熱による温度上昇量は100℃以下となるように加熱されることが好ましい。
【0064】
上記した製造方法の条件以外は特に限定しないが、以下のように適宜条件を調整して製造することが好ましい。
例えば、スラブ加熱温度は、偏析除去や析出物固溶等の観点からは1100℃以上が好ましく、エネルギー効率等の観点からは1300℃以下が好ましい。仕上げ圧延は、加工性の低下を招く粗粒低減等の観点から4パス以上とすることが好ましい。仕上げ圧延温度は、加工性の低下を招く扁平粒低減等の観点から850℃以上程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0065】
表1に示す成分組成の鋼を転炉により溶製し、連続鋳造法でスラブとした後、表2に示す条件でスラブの加熱および仕上げ圧延を7パスとする熱間圧延を行った。次いで、一部の鋼板に対しては酸洗処理を行って熱延鋼板を作製した。そして、得られた熱延鋼板を用いて、以下の試験方法に従い、組織観察、引張特性の評価を行った。得られた熱延鋼板の板幅は1000mmであった。
【0066】
なお、表2中の「Ms点~Bs点の温度域の滞留時間」は、Ms点~Bs点の温度域の平均冷却速度および温度Tでの保持時間を調整することで滞留時間を調整した。
また、一部の熱延鋼板においては、仕上げ圧延前においてエッジ部の加熱を実施した。エッジ部の加熱には誘導加熱式のヒーターを用いた。
【0067】
組織観察(各相の面積率)
ポリゴナルフェライト、下部ベイナイト、マルテンサイト、フレッシュマルテンサイト、残留オーステナイトの面積率とは、観察面積に占める各組織の面積の割合のことである。これらの面積率は、得られた熱延鋼板よりサンプルを切り出し、圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、3%ナイタールで腐食し、鋼板表面から板厚方向に500μm位置をSEM(走査型電子顕微鏡)で1500倍の倍率でそれぞれ3視野撮影した。得られた2次電子像の画像データからMedia Cybernetics社製のImage-Proを用いて各組織の面積率を求め、視野の平均面積率を各組織の面積率とする。画像データにおいて、ポリゴナルフェライトは黒、下部ベイナイトは方位のそろった炭化物を含む灰色または明灰色、マルテンサイトは複数の方位の炭化物を含む灰色または明灰色、フレッシュマルテンサイトおよび残留オーステナイトは炭化物を含まない白または明灰色、として区別される。なお、本発明において、マルテンサイトはオートテンパードマルテンサイトや焼戻しマルテンサイトであっても構わない。炭化物は白色の点状または線状である。また、本発明では基本的には含有しないが、パーライトは黒色と白色の層状組織として区別でき、上部ベイナイトは炭化物または島状のマルテンサイトを含む暗灰色として区別できる。
【0068】
得られた各組織の面積率を用いて合計面積率を求め、その合計面積率を表3に示す。なお、表3中の「V1」はポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率を意味し、「V2」はマルテンサイトと下部ベイナイトの合計面積率を意味し、「V3」はその他の組織の合計面積率を意味する。
【0069】
また、上述のように高強度鋼板特性のばらつきは、上記V1の標準偏差で評価した。V1の標準偏差は、得られた熱延鋼板の幅エッジから幅中央方向へ全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および熱延鋼板の幅中央位置よりサンプルを切り出し、上述と同様の方法で各位置における各組織の面積率を求めた。そして、ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率を求め、これら7つの標準偏差により評価した。本発明では、標準偏差は以下の式(2)で求める。本実施例では、式(2)においてn=7とした。ここでは、熱延鋼板の幅中央位置から一方のエッジまでの片側のみで、上記7点の標準偏差を求めて上記ばらつきとした。当然、熱延鋼板の幅中央位置から一方のエッジまで、および該幅中央位置から他方のエッジまでの両側(すなわち、熱延鋼板の全幅方向の領域)を用いて、同様に標準偏差を求めて上記ばらつきとしても良い。
なお、本発明では、ポリゴナルフェライトとフレッシュマルテンサイトと残留オーステナイトの合計面積率のばらつきは、V1の標準偏差の値が7.0%以下を合格とした。
【0070】
【0071】
得られたV1の標準偏差を表3に示す。なお、表3中の「σV1」は、熱延鋼板の幅エッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および熱延鋼板の幅中央位置における、上記V1の標準偏差を意味する。
【0072】
引張試験
得られた熱延鋼板より、圧延方向に対して平行方向にJIS5号引張試験片(JIS Z 2201)を採取し、歪速度が10-3/sとするJIS Z 2241の規定に準拠した引張試験を行い、YSおよびTSを求めた。なお、本発明では、YSは900MPa以上、TSは1180MPa以上を合格とした。
【0073】
また、YSばらつきは、次のように評価した。得られた熱延鋼板の幅エッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および熱延鋼板の幅中央位置より、圧延方向に対して平行方向にJIS5号引張試験片(JIS Z 2201)を採取した。この試験片を用いて、歪速度が10-3/sとするJIS Z 2241の規定に準拠した引張試験を行い、それぞれYSを求め、これら7つの標準偏差により評価した。なお、本発明では、YSばらつき、すなわちYSの標準偏差の値が100MPa以下を合格とした。この場合を「優れた面内YS安定性を有する」と称する。YSの標準偏差σは以下の式(1)で求める。本実施例では、式(1)においてn=7とした。
【0074】
【0075】
得られたYSの標準偏差を表3に示す。なお、表3中の「σYS」は、熱延鋼板の幅エッジから幅中央方向へ鋼板全幅に対して5%、10%、15%、20%、25%、30%の各位置および熱延鋼板の幅中央位置における、YSの標準偏差の値(YSばらつき)を意味する。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
発明例は、いずれも優れた面内YS安定性を有する高強度鋼板である。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、所望の強度が得られていないか、優れた面内YS安定性が得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、YSが900MPa以上かつTSが1180MPa以上で、優れた面内YS安定性を有する高強度熱延鋼板を得ることができる。本発明の高強度鋼板を自動車部品用途に使用すると、自動車の衝突安全性改善と燃費向上に大きく寄与することができる。