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特許7136157銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子
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  • 特許-銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20220906BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20220906BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20220906BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220906BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
C22C9/00
H01B1/02 A
H01B5/02 A
C22F1/00 612
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/08 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020112695
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022022629
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2022-03-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】福岡 航世
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
(72)【発明者】
【氏名】森川 健二
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
(72)【発明者】
【氏名】森 広行
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186623(JP,A)
【文献】特開平03-072041(JP,A)
【文献】特開2016-056414(JP,A)
【文献】特開2008-255416(JP,A)
【文献】特開2001-152267(JP,A)
【文献】特開平04-280935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00-9/10
H01B 1/02
H01B 5/02
C22F 1/00
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgの含有量が10massppm超え100massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、前記不可避不純物のうち、Sの含有量が10massppm以下、Pの含有量が10massppm以下、Seの含有量が5massppm以下、Teの含有量が5massppm以下、Sbの含有量が5massppm以下、Biの含有量が5masppm以下、Asの含有量が5masppm以下とされるとともに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量が30massppm以下とされており、
Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6以上50以下の範囲内とされており、
導電率が97%IACS以上、半軟化温度が200℃以上とされ、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)が20%以上とされ、
圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)と、圧延方向に直交する方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)との比RS/RSが1.0超えであることを特徴とする銅合金。
【請求項2】
Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
圧延方向に平行な方向における引張強度が200MPa以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅合金。
【請求項4】
平均結晶粒径が5μm以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銅合金からなることを特徴とする銅合金塑性加工材。
【請求項6】
厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内の圧延板であることを特徴とする請求項5に記載の銅合金塑性加工材。
【請求項7】
表面にSnめっき層又はAgめっき層を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の銅合金塑性加工材。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材からなることを特徴とする電子・電気機器用部品。
【請求項9】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材からなることを特徴とする端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子、放熱部材等の電子・電気機器用部品に適した銅合金、この銅合金からなる銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、端子、放熱部材等の電子・電気機器用部品には、導電性の高い銅又は銅合金が用いられている。
ここで、電子機器や電気機器等の大電流化にともない、電流密度の低減およびジュール発熱による熱の拡散のために、これら電子機器や電気機器等に使用される電子・電気機器用部品においては、導電率に優れた無酸素銅等の純銅材が適用されている。
しかしながら、純銅材においては、高温での硬度低下のしにくさを表す耐熱性や、熱によるばねのへたり具合を表す耐応力緩和特性が不十分であり、高温環境下での使用ができないといった問題があった。
そこで、特許文献1には、Mgを0.005mass%以上0.1mass%未満の範囲で含む銅圧延板が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載された銅圧延板においては、Mgを0.005mass%以上0.1mass%未満の範囲で含み、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有しているので、Mgを銅の母相中に固溶させることで、導電率を大きく低下させることなく、耐熱性および耐応力緩和特性を向上させることが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-056414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、上述の電子・電気機器用部品を構成する銅材においては、大電流が流された際の発熱を十分に抑制するために、また、純銅材が用いられていた用途に使用可能なように、導電率をさらに向上させることが求められている。さらに、導電率を十分に向上させることにより、従来、純銅材が用いられていた用途においても良好に使用することが可能となる。
また、上述の電子・電気機器用部品は、エンジンルーム等の高温環境下で使用されることが多く、電子・電気機器用部品を構成する銅材においては、従来にも増して耐熱性および耐応力緩和特性を向上させる必要がある。
【0006】
ここで、大電流用途で小型化が要求される電子・電気機器用部品として、例えば、プレスフィット端子、音叉型端子、音叉型端子付きバスバー等が挙げられる。これら小型端子等の電子・電気機器用部品においては、ばねとして主に圧延方向に伸縮させて使用するため、長手方向(圧延方向)における耐応力緩和特性が特に重視される。
このような電子・電気機器用部品に用いられる銅材においては、圧延方向に平行な方向の耐応力緩和特性が圧延方向に直交する方向の耐応力緩和特性よりも優れていることが求められる。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高い導電率と優れた耐熱性および耐応力緩和特性を有するとともに、圧延方向に平行な方向の耐応力緩和特性が圧延方向に直交する方向の耐応力緩和特性よりも優れた銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電子機器用部品、端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、高い導電率と優れた耐熱性および耐応力緩和特性をバランス良く両立させるためには、Mgを微量添加するとともに、Mgと化合物を生成する元素の含有量を規制することが必要であることが明らかになった。すなわち、Mgと化合物を生成する元素の含有量を規制して、微量添加したMgを適正な形態で銅合金中に存在させることにより、従来よりも高い水準で導電率と耐熱性とをバランス良く向上させることが可能となるとの知見を得た。
さらに、Mgを微量添加した銅材の表面に機械的表面処理を行うことで、耐応力緩和特性が向上するとともに、耐応力緩和特性に異方性が生じるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の銅合金は、Mgの含有量が10massppm超え100massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、前記不可避不純物のうち、Sの含有量が10massppm以下、Pの含有量が10massppm以下、Seの含有量が5massppm以下、Teの含有量が5massppm以下、Sbの含有量が5massppm以下、Biの含有量が5masppm以下、Asの含有量が5masppm以下とされるとともに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量が30massppm以下とされており、Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6以上50以下の範囲内とされており、導電率が97%IACS以上、半軟化温度が200℃以上とされ、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RSが20%以上とされ、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)と、圧延方向に直交する方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)との比RS/RSが1.0超えであることを特徴としている。
【0010】
この構成の銅合金によれば、Mgと、Mgと化合物を生成する元素であるS,P,Se,Te,Sb,Bi,Asの含有量が上述のように規定されているので、微量添加したMgが銅の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく耐熱性および耐応力緩和特性を向上させることができ、具体的には導電率を97%IACS以上、半軟化温度を200℃以上、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RSを20%以上とすることができる。
そして、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)と、圧延方向に直交する方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)との比RS/RSが1.0超えとされているので、圧延方向に平行な方向における耐応力緩和特性に優れており、例えば、プレスフィット端子、音叉型端子、音叉型端子付きバスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0011】
ここで、本発明の銅合金においては、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、Agを上述の範囲で含有しているので、Agが粒界近傍に偏析し、粒界拡散が抑制され、耐応力緩和特性をさらに向上させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の銅合金においては、圧延方向に平行な方向における引張強度が200MPa以上であることが好ましい。
この場合、圧延方向に平行な方向における引張強度が十分に高く、例えば、プレスフィット端子、音叉型端子、音叉型端子付きバスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0013】
さらに、本発明の銅合金においては、平均結晶粒径が5μm以上であることが好ましい。
この場合、平均結晶粒径が5μm以上とされているので、原子拡散の経路となる結晶粒界が少なくなり、耐応力緩和特性を確実に向上させることができる。
【0014】
本発明の銅合金塑性加工材は、上述の銅合金からなることを特徴としている。
この構成の銅合金塑性加工材によれば、上述の銅合金で構成されていることから、導電性、耐熱性、耐応力緩和特性に優れており、大電流用途、高温環境下で使用される端子、放熱部材等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0015】
ここで、本発明の銅合金塑性加工材においては、厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内の圧延板であってもよい。
この場合、厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内の圧延板であることから、この銅合金塑性加工材(圧延板)に対して打ち抜き加工や曲げ加工を施すことで、端子、放熱部材等の電子・電気機器用部品を成形することができる。
【0016】
また、本発明の銅合金塑性加工材においては、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有することが好ましい。
この場合、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有しているので、端子、放熱部材等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。なお、本発明において、「Snめっき」は、純Snめっき又はSn合金めっきを含み、「Agめっき」は、純Agめっき又はAg合金めっきを含む。
【0017】
本発明の電子・電気機器用部品は、上述の銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。なお、本発明における電子・電気機器用部品とは、端子、放熱部材等を含むものである。
この構成の電子・電気機器用部品は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【0018】
本発明の端子は、上述の銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。
この構成の端子は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い導電率と優れた耐熱性および耐応力緩和特性を有するとともに、圧延方向に平行な方向の耐応力緩和特性が圧延方向に直交する方向の耐応力緩和特性よりも優れた銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電子機器用部品、端子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態である銅合金の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態である銅合金について説明する。
本実施形態である銅合金は、Mgの含有量が10massppm超え100massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、前記不可避不純物のうち、Sの含有量が10massppm以下、Pの含有量が10massppm以下、Seの含有量が5massppm以下、Teの含有量が5massppm以下、Sbの含有量が5massppm以下、Biの含有量が5masppm以下、Asの含有量が5masppm以下とされるとともに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量が30massppm以下とされている。
【0022】
そして、Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6以上50以下の範囲内とされている。
なお、本実施形態である銅合金においては、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内であってもよい。
【0023】
また、本実施形態である銅合金においては、導電率が97%IACS以上とされ、半軟化温度が200℃以上とされ、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RSが20%以上とされている。
そして、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)と、圧延方向に直交する方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)との比RS/RSが1.0超えとされている。
【0024】
なお、本実施形態である銅合金においては、圧延方向に平行な方向における引張強度が200MPa以上であることが好ましい。
さらに、本実施形態である銅合金においては、平均結晶粒径が5μm以上であることが好ましい。
【0025】
ここで、本実施形態の銅合金において、ここで、上述のように成分組成、各種特性を規定した理由について以下に説明する。
【0026】
(Mg)
Mgは、銅の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、耐熱性を向上させる作用効果を有する元素である。また、Mgを母相中に固溶させることにより、耐応力緩和特性が向上することになる。
ここで、Mgの含有量が10massppm以下の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。一方、Mgの含有量が100massppmを超える場合には、導電率が低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を10massppm超え100massppm以下の範囲内に設定している。
【0027】
なお、耐熱性および耐応力緩和特性をさらに向上させるためには、Mgの含有量の下限を20massppm以上とすることが好ましく、30massppm以上とすることがさらに好ましく、40massppm以上とすることがより好ましい。
また、導電率をさらに高くするためには、Mgの含有量の上限を90massppm以下とすることが好ましく、80massppm以下とすることがさらに好ましく、70massppm以下とすることがより好ましい。
【0028】
(S,P,Se,Te,Sb,Bi,As)
上述のS,P,Se,Te,Sb,Bi,Asといった元素は、一般的に銅合金に混入しやすい元素である。そして、これらの元素は、Mgと反応し化合物を形成しやすく、微量添加したMgの固溶効果を低減するおそれがある。このため、これらの元素の含有量は厳しく制御する必要がある。
そこで、本実施形態においては、Sの含有量を10massppm以下、Pの含有量を10massppm以下、Seの含有量を5massppm以下、Teの含有量を5massppm以下、Sbの含有量を5massppm以下、Biの含有量を5masppm以下、Asの含有量を5masppm以下に制限している。
さらに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を30massppm以下に制限している。
【0029】
なお、Sの含有量は、9massppm以下であることが好ましく、8massppm以下であることがさらに好ましい。
Pの含有量は、6massppm以下であることが好ましく、3massppm以下であることがさらに好ましい。
Seの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
Teの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
Sbの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
Biの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
Asの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
さらに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量は、24massppm以下であることが好ましく、18massppm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
(〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕)
上述のように、S,P,Se,Te,Sb,Bi,Asといった元素は、Mgと反応して化合物を形成しやすいことから、本実施形態においては、Mgの含有量と、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量との比を規定することで、Mgの存在形態を制御している。
Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が50を超えると、銅中にMgが過剰に固溶状態で存在しており、導電率が低下するおそれがある。一方、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6未満では、Mgが十分に固溶しておらず、耐熱性および耐応力緩和特性が十分に向上しないおそれがある。
よって、本実施形態では、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕を0.6以上50以下の範囲内に設定している。
【0031】
なお、導電率をさらに高くするためには、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕の上限を35以下とすることが好ましく、25以下とすることがさらに好ましい。
また、耐熱性および耐応力緩和特性をさらに向上させるためには、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕の下限を0.8以上とすることが好ましく、1.0以上とすることがさらに好ましい。
【0032】
(Ag:5massppm以上20massppm以下)
Agは、250℃以下の通常の電子・電気機器の使用温度範囲ではほとんどCuの母相中に固溶することができない。このため、銅中に微量に添加されたAgは、粒界近傍に偏析することとなる。これにより粒界での原子の移動は妨げられ、粒界拡散が抑制されるため、耐応力緩和特性が向上することになる。
ここで、Agの含有量が5massppm以上の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることが可能となる。一方、Agの含有量が20massppm以下である場合には、導電率が確保されるとともに製造コストの増加を抑制することができる。
以上のことから、本実施形態では、Agの含有量を5massppm以上20massppm以下の範囲内に設定している。
【0033】
なお、耐応力緩和特性をさらに向上させるためには、Agの含有量の下限を6massppm以上とすることが好ましく、7massppm以上とすることがさらに好ましく、8massppm以上とすることがより好ましい。また、導電率の低下およびコストの増加を確実に抑制するためには、Agの含有量の上限を18massppm以下とすることが好ましく、16massppm以下とすることがさらに好ましく、14massppm以下とすることがより好ましい。
【0034】
(その他の不可避不純物)
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、Al,B,Ba,Be,Ca,Cd,Cr,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mo,Ni,W,Mn,Re,Ru,Sr,Ti,Os,Co,Rh,Ir,Pb,Pd,Pt,Au,Zn,Zr,Hf,Hg,Ga,In,Ge,Y,Tl,N,Si,Sn,Li等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
ここで、これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、総量で0.1mass%以下とすることが好ましく、0.05mass%以下とすることがさらに好ましく、0.03mass%以下とすることがより好ましく、さらには0.01mass%以下とすることが好ましい。
また、これらの不可避不純物のそれぞれの含有量の上限は、10massppm以下とすることが好ましく、5massppm以下とすることがさらに好ましく、2massppm以下とすることがより好ましい。
【0035】
(導電率:97%IACS以上)
本実施形態である銅合金においては、導電率が97%IACS以上とされている。導電率を97%IACS以上とすることにより、通電時の発熱を抑えて、純銅材の代替として端子、バスバー、放熱部材等の電子・電気機器用部品として良好に使用することが可能となる。
なお、導電率は97.5%IACS以上であることが好ましく、98.0%IACS以上であることがさらに好ましく、98.5%IACS以上であることがより好ましく、99.0%IACS以上であることがより一層好ましい。
【0036】
(半軟化温度:200℃以上)
本実施形態である銅合金において、半軟化温度が高い場合には、高温でも銅材の回復、再結晶による軟化現象が起きにくいことから、高温環境下で使用される通電部材への適用が可能となる。
このため、本実施形態においては、1時間の熱処理での半軟化温度が200℃以上とされていることが好ましい。本実施形態では、半軟化温度は、ビッカース硬度を測定することにより評価した。
なお、1時間の熱処理での半軟化温度は、225℃以上であることがさらに好ましく、250℃以上であることがより好ましく、275℃以上であることが一層好ましい。
【0037】
(圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS
本実施形態である銅合金においては、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RSが20%以上とされていることが好ましい。
この条件における残留応力率が高い場合には、高温環境下で使用した場合であっても永久変形を小さく抑えることができ、接圧の低下を抑制することができる。よって、本実施形態である銅圧延板は、自動車のエンジンルーム周りのような高温環境下で使用される端子等として良好に使用することが可能となる。
なお、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RSは、30%以上とすることが好ましく、40%以上とすることがさらに好ましく、50%以上とすることがより好ましい。
【0038】
(圧延方向に平行な方向と圧延方向に直交する方向の残留応力率の比)
大電流用途で小型化が要求される電子・電気機器用部品(例えば、プレスフィット端子、音叉型端子、音叉型端子付きバスバー等)においては、長手方向(圧延方向)の耐応力緩和特性が重要な特性となる。
ここで、圧延方向に平行な方向の残留応力率と圧延方向に直交する方向(幅方向)の残留応力率とは、トレードオフの関係であるため、本実施形態では、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)と、圧延方向に直交する方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)との比RS/RSを1.0超えとしている。
なお、残留応力率の比RS/RSは、1.10以上とすることが好ましく、1.20以上とすることがより好ましく、1.30以上とすることがさらに好ましく、1.40以上とすることが一層好ましい。
【0039】
(圧延方向に平行な方向における引張強度:200MPa以上)
本実施形態である銅合金において、圧延方向に平行な方向における引張強度が200MPa以上である場合には、小型端子等の電子・電気機器用部品の素材として特に適するものとなる。なお、特に引張強さの上限は定めないが、コイル巻きされた条材を用いる際のコイルの巻き癖による生産性低下を回避するため、引張強さは450MPa以下とすることが好ましい。
なお、圧延方向に平行な方向における引張強度さの下限は、245MPa以上であることがさらに好ましく、275MPa以上であることがより好ましく、300MPa以上であることが最も好ましい。
【0040】
(結晶粒径:5μm以上)
本実施形態である銅合金においては、結晶粒の粒径が微細になりすぎると、原子の拡散経路となる結晶粒界が多数存在することとなり、耐応力緩和特性は低下するおそれがある。また、結晶粒径が粗大とすることにより、上述する圧延方向に平行な方向と圧延方向に直交する方向の残留応力率の比RS/RSを大きくなる傾向にある。
以上のことから、本実施形態の銅合金においては、最適な耐応力緩和特性を得るため、平均粒径を5μm以上とすることが好ましい。なお、本実施形態では、双晶境界も粒界として結晶粒径を測定している。
平均結晶粒径の下限は8μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。なお、結晶粒径の上限は特に定めないが、必要以上に粗大化すると、強度低下が生じ、さらに再結晶のための熱処理を高温、長時間とする必要があるため、製造コストの増加が懸念されることから、200μm以下が好ましい。
【0041】
次に、このような構成とされた本実施形態である銅合金の製造方法について、図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0042】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
ここで、銅原料は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。
【0043】
溶解時においては、Mgの酸化を抑制するため、また水素濃度低減のため、HOの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0044】
(均質化/溶体化工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程においてMgが偏析で濃縮することにより発生したCuとMgを主成分とする金属間化合物等が存在することがある。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を300℃以上1080℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、鋳塊内において、Mgを均質に拡散させたり、Mgを母相中に固溶させたりする。なお、この均質化/溶体化工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
【0045】
ここで、加熱温度が300℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中にCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が1080℃を超えると、銅素材の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度を300℃以上1080℃以下の範囲に設定している。
なお、後述する粗圧延の効率化と組織の均一化のために、前述の均質化/溶体化工程S02の後に熱間加工を実施してもよい。この場合、加工方法に特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。また、熱間加工温度は、300℃以上1080℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0046】
(粗加工工程S03)
所定の形状に加工するために、粗加工を行う。なお、この粗加工工程S03における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するために、あるいは寸法精度の向上のため、冷間または温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。加工率については、20%以上が好ましく、30%以上がさらに好ましい。また、加工方法については、特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
【0047】
(中間熱処理工程S04)
粗加工工程S03後に、加工性向上のための軟化、または再結晶組織にするために熱処理を実施する。
この際、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましく、Agが添加された場合には、Agの粒界への偏析の局在化を防ぐことができる。なお、中間熱処理工程S04と後述する上前加工工程S05を繰り返し実施してもよい。
ここで、この中間熱処理工程S04が実質的に最後の再結晶熱処理となるため、この工程で得られた再結晶組織の結晶粒径は最終的な結晶粒径にほぼ等しくなる。そのため、この中間熱処理工程S04では、平均結晶粒径が5μm以上となるように、適宜、熱処理条件を選定することが好ましい、例えば700℃では1秒から120秒程度保持することが好ましい。
【0048】
(上前加工工程S05)
中間熱処理工程S04後の銅素材を所定の形状に加工するため、上前加工を行う。なお、この上前加工工程S05における温度条件は特に限定はないが、加工時の再結晶を抑制するため、または軟化を抑制するために冷間、または温間加工となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。また、加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、圧延加工を選択した場合、圧延率の増加に伴いRS/RSは大きくなる傾向があるため、圧延率は5%以上とすることが好ましい。また、コイルに巻き取った際の巻き付けを容易にするために耐力を450MPa以下とするには、圧延率は90%以下とすることが好ましい。
また、加工方法については、特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
【0049】
(機械的表面処理工程S06)
上前加工工程S05後に、機械的表面処理を行う。機械的表面処理は、所望の形状がほぼ得られた後に表面近傍に圧縮応力を与える処理であり、耐応力緩和特性を向上させる効果がある。
機械的表面処理は、ショットピーニング処理、ブラスト処理、ラッピング処理、ポリッシング処理、バフ研磨、グラインダー研磨、サンドペーパー研磨、テンションレベラー処理、1パス当りの圧下率が低い軽圧延(1パス当たりの圧下率1~10%とし3回以上繰り返す)など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
Mgを添加した銅合金に、この機械的表面処理を加えることで、耐応力緩和特性が大きく向上することになる。
【0050】
(仕上熱処理工程S07)
次に、機械的表面処理工程S06によって得られた塑性加工材に対して、含有元素の粒界への偏析の抑制および残留ひずみの除去のため、仕上熱処理を実施してもよい。
熱処理温度は、100℃以上500℃以下の範囲内とすることが好ましい。なお、この仕上熱処理工程S07においては、再結晶による強度の大幅な低下を避けるように、熱処理条件(温度、時間、冷却速度)を設定する必要がある。例えば450℃では0.1秒から10秒程度保持、250℃では1分から100時間とすることが好ましい。この熱処理は、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理の方法は特に限定はないが、製造コスト低減の観点から、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。
さらに、上述の上前加工工程S05、機械的表面処理工程S06、仕上熱処理工程S07を、繰り返し実施してもよい。
【0051】
このようにして、本実施形態である銅合金(銅合金塑性加工材)が製出されることになる。なお、圧延により製出された銅合金塑性加工材を銅合金圧延板という。
ここで、銅合金塑性加工材の板厚を0.1mm以上とした場合には、大電流用途での導体としての使用に適している。また、銅合金塑性加工材の板厚を10.0mm以下とすることにより、プレス機の荷重の増大を抑制し、単位時間あたりの生産性を確保することができ、製造コストを抑えることができる。
このため、銅合金塑性加工材(銅合金圧延材)の板厚は0.1mm以上10.0mm以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、銅合金塑性加工材(銅合金圧延材)の板厚の下限は0.5mm以上とすることが好ましく、1.0mm以上とすることがより好ましい。一方、銅合金塑性加工材(銅合金圧延材)の板厚の上限は9.0mm未満とすることが好ましく、8.0mm未満とすることがより好ましい。
【0052】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金においては、Mgの含有量が10massppm超え100massppm以下の範囲内とされ、Mgと化合物を生成する元素であるSの含有量を10massppm以下、Pの含有量を10massppm以下、Seの含有量を5massppm以下、Teの含有量を5massppm以下、Sbの含有量を5massppm以下、Biの含有量を5masppm以下、Asの含有量を5masppm以下、さらに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を30massppm以下に制限しているので、微量添加したMgを銅の母相中に固溶させることができ、導電率を大きく低下させることなく、耐熱性および耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。
【0053】
そして、Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6以上50以下の範囲内に設定しているので、Mgが過剰に固溶して導電率を低下させることなく耐熱性を十分に向上させることが可能となる。
よって、本実施形態の銅合金によれば、導電率を97%IACS以上、1時間の熱処理後の半軟化温度を200℃以上、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RSを20%以上とすることができ、高い導電率と優れた耐熱性および耐応力緩和特性とを両立することが可能となる。
【0054】
そして、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)と、圧延方向に直交する方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)との比RS/RSが1.0超えとされているので、圧延方向に平行な方向における耐応力緩和特性に優れており、例えば、プレスフィット端子、音叉型端子、音叉型端子付きバスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0055】
本実施形態において、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされている場合には、Agが粒界近傍に偏析し、粒界拡散が抑制され、耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態において、圧延方向に平行な方向における引張強度が200MPa以上である場合には、圧延方向に平行な方向における引張強度が十分に高く、例えば、プレスフィット端子、音叉型端子、音叉型端子付きバスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0057】
さらに、本実施形態において、平均結晶粒径が5μm以上である場合には、原子拡散の経路となる結晶粒界が少なくなり、耐応力緩和特性をさらに確実に向上させることができる。
【0058】
本実施形態である銅合金塑性加工材は、上述の銅合金で構成されていることから、導電性、耐応力緩和特性に優れており、端子、放熱部材等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
また、本実施形態である銅合金塑性加工材を、厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内の圧延板とした場合には、銅合金塑性加工材(圧延板)に対して打ち抜き加工や曲げ加工を施すことで、端子、放熱部材等の電子・電気機器用部品を比較的容易に成形することができる。
なお、本実施形態である銅合金塑性加工材の表面にSnめっき層又はAgめっき層を形成した場合には、端子、放熱部材等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0059】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用部品(端子、放熱部材等)は、上述の銅合金塑性加工材で構成されているので、大電流用途、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態である銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品(端子等)について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、銅合金(銅合金塑性加工材)の製造方法の一例について説明したが、銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例
【0061】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
帯溶融精製法により、純度99.999mass%以上の純銅からなる原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。
【0062】
得られた銅溶湯内に、6N(純度99.9999mass%)以上の高純度銅と2N(純度99mass%)以上の純度を有する純金属を用いて作製した各種0.1mass%母合金を用いて表1,2に示すに示す成分組成に調製し、断熱材(イソウール)鋳型に注湯して、鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約30mm×幅約60mm×長さ約150~200mmとした。
【0063】
得られた鋳塊に対して、Arガス雰囲気中において、各種温度条件で1時間の加熱を行い、酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、所定の大きさに切断を行った。
その後、適宜最終厚みになる様に厚みを調整して切断を行った。切断されたそれぞれの試料について、表3,4に記載された条件にて粗圧延を行った後、最終的に得られる特性評価用の条材が再結晶により表3、4に記載された結晶粒径となるように中間熱処理を実施した。
【0064】
次に、表3,4に記載された条件にて上前圧延(上前加工工程)を実施した。
そして、これらの試料に表3,4に記載された手法で機械的表面処理工程を施した。
なお、ブラスト研磨は、湿式ブラスト法によって行い、セラミック系研磨材を用い、0.2MPaの圧縮エアーにより加速することで実施した。
ポリッシング処理は、SiO系の砥粒を用い、フェルトのポリッシングパッドを使用して実施した。
グラインダー研磨は、番手#400の軸受ホイルを用い、1分間に4500回転の速度で研磨を行った。
その後、表3,4に記載の条件で仕上熱処理を行い、それぞれ表3,4に記載された厚さ×幅約60mmの条材を製出した。
【0065】
得られた条材について、以下の項目について評価を実施した。
【0066】
(組成分析)
得られた鋳塊から測定試料を採取し、Mgは誘導結合プラズマ発光分光分析法で、その他の元素はグロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて測定した。なお、測定は試料中央部と幅方向端部の2カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。その結果、表1,2に示す成分組成であることを確認した。
【0067】
(平均結晶粒径)
得られた特性評価用条材から20mm×20mmのサンプルを切り出し、SEM-EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、平均結晶粒径を測定した。表3,4に測定した結晶粒径を示した。
圧延面を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。その後、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、後方散乱電子線回折による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を大角粒界とし、15°未満を小角粒界とした。この際、双晶境界も大角粒界とした。また、各サンプルで100個以上の結晶粒が含まれるように測定範囲を調整した。得られた方位解析結果から大角粒界を用いて結晶粒界マップを作成し、JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を結晶粒径として記載した。
【0068】
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。評価結果を表3,4に示す。
【0069】
(耐応力緩和特性)
耐応力緩和特性試験は、日本伸銅協会技術標準JCBA-T309:2004の片持はりねじ式に準じた方法によって応力を負荷し、180℃の温度で30時間保持後の残留応力率を測定した。評価結果を表3,4に示す。
試験方法としては、各特性評価用条材から圧延方向に対して平行な方向に試験片(幅10mm)および圧延方向に対して直交する方向(幅方向)に試験片をそれぞれ採取し、試験片の表面最大応力が耐力の80%となるよう、初期たわみ変位を2mmと設定し、スパン長さを調整した。上記表面最大応力は次式で定められる。
表面最大応力(MPa)=1.5Etδ0/Ls 2
ただし、
E:ヤング率(MPa)
t:試料の厚さ(mm)
δ:初期たわみ変位(2mm)
:スパン長さ(mm)
である。
180℃の温度で、30時間保持後の曲げ癖から、残留応力率を測定し、耐応力緩和特性を評価した。なお残留応力率は次式を用いて算出した。
残留応力率(%)=(1-δt0)×100
ただし、
δ:180℃で30時間保持後の永久たわみ変位(mm)-常温で24時間保持後の永久たわみ変位(mm)
δ:初期たわみ変位(mm)
である。
【0070】
上述のようにして、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)と、圧延方向に直交する方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)とを測定し、これらの比RS/RSを表3,4に記載した。
【0071】
(機械的特性)
特性評価用条材からJIS Z 2241に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、引張強度を測定した。なお、試験片は、圧延方向に平行な方向で採取した。評価結果を表3,4に示す。
【0072】
(半軟化温度)
半軟化温度(初期値と完全焼鈍値の中間値となる加熱温度)は日本伸銅協会のJCBA T325:2013を参考に、1時間の熱処理でのビッカース硬度による等時軟化曲線を取得することで評価した。なお、ビッカース硬度の測定面は圧延面とした。評価結果を表3,4に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
比較例1は、Mgの含有量が本発明の範囲よりも少ないため、半軟化温度が低く、耐熱性が不十分であった。また、残留応力率が低く、耐応力緩和特性が不十分であった。
比較例2は、Mgの含有量が本発明の範囲を超えており、導電率が低くなった。
比較例3は、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6未満であり、残留応力率が低く、耐応力緩和特性が不十分であった。
比較例4は、Sの含有量が10massppmを超えており、残留応力率が低く、耐応力緩和特性が不十分であった。
比較例5は、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量が30massppmを超えており、残留応力率が低く、耐応力緩和特性が不十分であった。
比較例6は、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)と、圧延方向に直交する方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)との比RS/RSが1.0以下であった。
【0078】
これに対して、本発明例1~24においては、導電率と耐熱性および耐応力緩和特性とがバランス良く向上されていることが確認された。また、圧延方向に平行な方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)と、圧延方向に直交する方向における180℃、30時間での残留応力率RS(%)との比RS/RSが1.0を超えており、圧延方向に平行な方向における耐応力緩和特性に特に優れていた。
以上のことから、本発明例によれば、高い導電率と優れた耐熱性を有するとともに、圧延方向に平行な方向の耐応力緩和特性が圧延方向に直交する方向の耐応力緩和特性よりも優れた銅合金を提供可能であることが確認された。
図1