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特許7136196誘電体磁器組成物及びセラミック電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物及びセラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/495 20060101AFI20220906BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20220906BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20220906BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C04B35/495
H01B3/12 335
H01B3/12 326
H01B3/12 338
H01B3/12 304
H01B3/12 320
H01B3/12 329
H01B3/12 312
H01B3/12 313
H01B3/12 322
H01B3/12 324
H01G4/12 090
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
H01G4/30 201D
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020513132
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2019010830
(87)【国際公開番号】W WO2019198418
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018076092
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 武史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 ゆかり
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-274607(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163842(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01B 3/12
H01G 4/30
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分と第二成分とからなり、
第一成分が、下記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対する含有割合が、CaO換算で0.00~35.85mol%のCaの酸化物と、SrO換算で0.00~47.12mol%のSrの酸化物と、BaO換算で0.00~51.22mol%のBaの酸化物と、TiO換算で0.00~17.36mol%のTiの酸化物と、ZrO換算で0.00~17.36mol%のZrの酸化物と、SnO換算で0.00~2.60mol%のSnの酸化物と、Nb換算で0.00~35.32mol%のNbの酸化物と、Ta換算で0.00~35.32mol%のTaの酸化物と、V換算で0.00~2.65mol%のVの酸化物と、からなり、
該第一成分は、Caの酸化物、Srの酸化物及びBaの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、Tiの酸化物及びZrの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、Nbの酸化物及びTaの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、を必須成分として含有し、且つ、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対するCaO換算のCaの酸化物、SrO換算のSrの酸化物及びBaO換算のBaの酸化物の合計の含有割合が48.72~51.22mol%であり、TiO換算のTiの酸化物、ZrO換算のZr酸化物及びSnO換算のSnの酸化物の合計の含有割合が15.97~17.36mol%であり、Nb換算のNbの酸化物、Ta換算のTa酸化物及びV換算のVの酸化物の合計の含有割合が31.42~35.31mol%であり、
第二成分として、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計質量に対する含有割合が、MnO換算で0.005~3.500質量%のMnの酸化物(a)と、CuO換算で0.080~20.000質量%のCuの酸化物及びRuO換算で0.300~45.000質量%のRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を少なくとも含有すること、
を特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
第一成分と第二成分とからなり、
第一成分として、下記一般式(1):
(1)
(式(1)中、Aは、一般式(2):Ba1-x-ySrCa(2)(式(2)中、0≦x≦0.920、0≦y≦0.700である。)で表される。Mは、Ti、Zr及びSnから選ばれる少なくとも1種である。Mは、Nb、Ta及びVから選ばれる少なくとも1種である。5.70≦a≦6.30、1.90≦b≦2.10、7.20≦c≦8.80、27.45≦d≦32.50である。)
で表される化合物(但し、Snを含有する場合は、TiO換算のTiの酸化物、ZrO換算のZrの酸化物及びSnO換算のSnの酸化物の合計mol数に対するSnO換算のSnの酸化物の含有割合が15.00mol%以下であり、Vを含有する場合は、Nb換算のNbの酸化物、Ta換算のTaの酸化物及びV換算のVの酸化物の合計mol数に対するV換算のVの酸化物の含有割合が7.50mol%以下である。)を含有し、
第二成分として、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対する含有割合が、MnO換算で0.005~3.500質量%のMnの酸化物(a)と、CuO換算で0.080~20.000質量%のCuの酸化物及びRuO換算で0.300~45.000質量%のRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を少なくとも含有すること、
を特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項3】
第一成分と第二成分とからなり、
下記一般式(3):
α・Caη1 θ1 φ1ω1-β・Srη2 θ2 φ2ω2-γ・Baη3 θ3 φ3ω3 (3)
(式(3)中、η1、η2及びη3は、それぞれ独立して5.70~6.30の範囲内の値である。θ1、θ2及びθ3は、それぞれ独立して0.95~1.05の範囲内の値である。φ1、φ2及びφ3は、それぞれ独立して0.90~1.10の範囲内の値である。ω1、ω2及びω3はそれぞれ独立して27.45~32.50の範囲内の値である。Mは、一般式(4):Ti2-ρ-σZrρSnσ(4)(式(4)中、0≦ρ≦2.0、0≦σ≦0.3である。)で表される。Mは、一般式(5):Nb8-π-ψTaπψ(5)(式(5)中、0≦π≦8.0、0≦ψ≦0.6である。)で表される。α、β及びγは、α+β+γ=1.00を満たす。)
で表され、3元組成図上の任意の点を(α,β,γ)と表すときに、点A=(0.05,0.95,0.00)、点B=(0.70,0.30,0.00)、点C=(0.70,0.00,0.30)、点D=(0.00,0.00,1.00)、点E=(0.00,0.90,0.10)を結ぶ線分で囲まれる範囲内にある化合物を第一成分として含有し、
第二成分として、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対する含有割合が、MnO換算で0.005~3.500質量%のMnの酸化物(a)と、CuO換算で0.080~20.000質量%のCuの酸化物及びRuO換算で0.300~45.000質量%のRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を少なくとも含有すること、
を特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記第一成分が、前記3元組成図において、点A’=(0.05,0.95,0.00)、点B’=(0.60,0.40,0.00)、点C’=(0.70,0.20,0.10)、点D’=(0.70,0.10,0.20)、点E’=(0.55,0.00,0.45)、点F’=(0.40,0.00,0.60)、点G’=(0.10,0.10,0.80)、点H’=(0.00,0.00,1.00)、点I’=(0.00,0.40,0.60)、点J’=(0.20,0.40,0.40)、点K’=(0.00,0.70,0.30)、点L’=(0.00,0.90,0.10)を結ぶ線分で囲まれる範囲内にある化合物であることを特徴とする請求項3記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
第二成分として、Dの酸化物(Dは、Li、Mg、Si、Cr、Al、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、In、W、Mo、Y、Hf、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも1種である。)を含有することを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
タングステンブロンズ型結晶相を含有することを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
25℃における比誘電率が100.0以上であることを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
25℃における比誘電率が200.0以上であることを特徴とする請求項7記載の誘電体磁器組成物。
【請求項9】
25℃における比誘電率が300.0以上であることを特徴とする請求項8記載の誘電体磁器組成物。
【請求項10】
静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲において-50.0%~50.0%の範囲内であることを特徴とする請求項1~9いずれか1項記載の誘電体磁器組成物。
【請求項11】
静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲において-33.0%~22.0%の範囲内であることを特徴とする請求項1~10いずれか1項記載の誘電体磁器組成物。
【請求項12】
25℃における誘電損失(tanδ)が10.0%以下であり且つ200℃における誘電損失(tanδ)が10.0%以下であることを特徴とする請求項1~11いずれか1項記載の誘電体磁器組成物。
【請求項13】
200℃における絶縁抵抗値が100MΩ以上であることを特徴とする請求項1~12いずれか1項記載の誘電体磁器組成物。
【請求項14】
請求項1~13いずれか1項記載の誘電体磁器組成物で形成されている誘電体層と、導電成分として卑金属を含む電極層と、を含むことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項15】
前記卑金属がニッケル及び銅から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項14記載のセラミック電子部品。
【請求項16】
前記誘電体層と前記電極層が複数積層されていることを特徴とする請求項14又は15いずれか1項記載のセラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物及び当該誘電体磁器組成物を誘電体層として用いるセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のエンジンルーム周辺等の過酷な温度環境に搭載される機器向けに、150℃を超える高温環境で作動する電子部品の要求が年々高まっている。特に、近年の自動車市場では、安全性および環境性能の向上をねらいとして各機能の電子制御化が急速に進んでおり、電子機器の搭載率が増加している。なかでもエンジンルーム内に搭載される電子機器は過酷な温度環境にさらされるため、電子部品においては高い信頼性に加えて高い耐熱性が求められている。
【0003】
従来、このような要求を満たすコンデンサ等のセラミック電子部品としては、その誘電体層にジルコン酸カルシウムなどの常誘電性を示す磁器組成物(常誘電体)が用いられてきた。しかしながら、常誘電体から構成される誘電体層を有する電子部品は、磁器組成物の比誘電率が低く、高容量のコンデンサを得ることができない。
【0004】
代表的なセラミックスコンデンサ用磁器組成物として知られているチタン酸バリウム(BaTiO)は、高い比誘電率を持つが、強誘電転移温度と呼ばれる特性温度において比誘電率がピークを持ち、120℃以上になると特性が急速に低下する。
【0005】
そのため、高温環境(例えば、150℃以上)であっても、高い比誘電率を有する誘電体磁器組成物の開発が求められていた。
【0006】
また、近年、セラミック電子部品においては、内部電極の材質としてニッケルや銅などの卑金属を用いることが多い。卑金属を内部電極層として用いる場合、誘電体層と内部電極とを同時焼成するため、焼成中に当該卑金属が酸化しないよう、誘電体層を構成する磁器組成物を含めて還元雰囲気下で焼成される。
【0007】
非特許文献1には、一般式M2+ 4+ Nb30で表されるタングステンブロンズ構造の誘電体磁器組成物が記載されている。この非特許文献1においては、実験試料(サンプル)を得るために、磁器組成物原料を混合した後、これを1000℃前後で15時間、焼成し、得られた物を粉砕及び乾燥させて成形した後、更に1250~1350℃で5~6時間、焼結させている。
【0008】
また、特許文献1~11でも、種々のタングステンブロンズ構造の誘電体磁器組成物の検討が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Mat. Res. Bull.,Vol. 27(1992),pp. 677-684 ; R. R. Neurgaonkar,J. G. Nelson and J. R. Oliver
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-211975号公報
【文献】特開2007-197277号公報
【文献】特開平11-043370公報
【文献】特開2000-169215公報
【文献】特開2008-189487公報
【文献】国際公開WO08/102608号パンフレット
【文献】国際公開WO06/114914号パンフレット
【文献】特開2013-180906公報
【文献】特開2013-180907公報
【文献】特開2013-180908公報
【文献】特開2012-169635公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、非特許文献1では、タングステンブロンズ構造の誘電体磁器組成物そのものの特性について、学術的な観点から検討が行われている一方、その応用(アプリケーション)については何ら考慮されていない。すなわち、非特許文献1においては、誘電体磁器組成物は、通常の環境雰囲気下である実験室内で焼成されているが、本発明者等が、前記一般式で示されるタングステンブロンズ構造の誘電体磁器組成物について詳細な検討を行った結果、特定の添加成分と共に、近年、誘電体磁器組成物に対して要求される還元雰囲気下で焼成及び焼結を行った場合には、非特許文献1の報告とは全く特性の異なる誘電体磁器組成物が得られることが分かった。
【0012】
また、特許文献1~11においてもタングステンブロンズ構造の誘電体磁器組成物について検討が行われているが、何れも「還元雰囲気下で焼成可能である」、「十分に高い比誘電率が得られる」、「幅広い温度領域での誘電特性が良好である」、「誘電損失が小さい」といった作用効果を同時に奏し得るものは得られていない。
【0013】
また、前述した高い耐熱性が要求される誘電体磁器組成物においては、上記の性能に加えて更に、高温環境下で高い絶縁抵抗値を示すものが望まれる。
【0014】
従って、本発明の目的は、還元雰囲気下で焼成が可能であり、比誘電率が高く、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品の誘電体層として用いた場合に、高温環境下、例えば、150~200℃といった条件下においても静電容量の変化が少なく、25℃及び200℃における誘電損失が小さく、高温環境下での絶縁抵抗値が高い誘電体磁器組成物、及びこれを誘電体層として用いるセラミック電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、第一成分と第二成分とからなり、
第一成分が、下記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対する含有割合が、CaO換算で0.00~35.85mol%のCaの酸化物と、SrO換算で0.00~47.12mol%のSrの酸化物と、BaO換算で0.00~51.22mol%のBaの酸化物と、TiO換算で0.00~17.36mol%のTiの酸化物と、ZrO換算で0.00~17.36mol%のZrの酸化物と、SnO換算で0.00~2.60mol%のSnの酸化物と、Nb換算で0.00~35.32mol%のNbの酸化物と、Ta換算で0.00~35.32mol%のTaの酸化物と、V換算で0.00~2.65mol%のVの酸化物と、からなり、
該第一成分は、Caの酸化物、Srの酸化物及びBaの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、Tiの酸化物及びZrの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、Nbの酸化物及びTaの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、を必須成分として含有し、且つ、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対するCaO換算のCaの酸化物、SrO換算のSrの酸化物及びBaO換算のBaの酸化物の合計の含有割合が48.72~51.22mol%であり、TiO換算のTiの酸化物、ZrO換算のZr酸化物及びSnO換算のSnの酸化物の合計の含有割合が15.97~17.36mol%であり、Nb換算のNbの酸化物、Ta換算のTa酸化物及びV換算のVの酸化物の合計の含有割合が31.42~35.31mol%であり、
第二成分として、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計質量に対する含有割合が、MnO換算で0.005~3.500質量%のMnの酸化物(a)と、CuO換算で0.080~20.000質量%のCuの酸化物及びRuO換算で0.300~45.000質量%のRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を少なくとも含有すること、
を特徴とする誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0016】
また、本発明(2)は、第一成分と第二成分とからなり、
第一成分として、下記一般式(1):
(1)
(式(1)中、Aは、一般式(2):Ba1-x-ySrCa(2)(式(2)中、0≦x≦0.920、0≦y≦0.700である。)で表される。Mは、Ti、Zr及びSnから選ばれる少なくとも1種である。Mは、Nb、Ta及びVから選ばれる少なくとも1種である。5.70≦a≦6.30、1.90≦b≦2.10、7.20≦c≦8.80、27.45≦d≦32.50である。)
で表される化合物(但し、Snを含有する場合は、TiO換算のTiの酸化物、ZrO換算のZrの酸化物及びSnO換算のSnの酸化物の合計mol数に対するSnO換算のSnの酸化物の含有割合が15.00mol%以下であり、Vを含有する場合は、Nb換算のNbの酸化物、Ta換算のTaの酸化物及びV換算のVの酸化物の合計mol数に対するV換算のVの酸化物の含有割合が7.50mol%以下である。)を含有し、
第二成分として、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対する含有割合が、MnO換算で0.005~3.500質量%のMnの酸化物(a)と、CuO換算で0.080~20.000質量%のCuの酸化物及びRuO換算で0.300~45.000質量%のRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を少なくとも含有すること、
を特徴とする誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0017】
また、本発明(3)は、第一成分と第二成分とからなり、
下記一般式(3):
α・Caη1 θ1 φ1ω1-β・Srη2 θ2 φ2ω2-γ・Baη3 θ3 φ3ω3 (3)
(式(3)中、η1、η2及びη3は、それぞれ独立して5.70~6.30の範囲内の値である。θ1、θ2及びθ3は、それぞれ独立して0.95~1.05の範囲内の値である。φ1、φ2及びφ3は、それぞれ独立して0.90~1.10の範囲内の値である。ω1、ω2及びω3はそれぞれ独立して27.45~32.50の範囲内の値である。Mは、一般式(4):Ti2-ρ-σZrρSnσ(4)(式(4)中、0≦ρ≦2.0、0≦σ≦0.3である。)で表される。Mは、一般式(5):Nb8-π-ψTaπψ(5)(式(5)中、0≦π≦8.0、0≦ψ≦0.6である。)で表される。α、β及びγは、α+β+γ=1.00を満たす。)
で表され、3元組成図上の任意の点を(α,β,γ)と表すときに、点A=(0.05,0.95,0.00)、点B=(0.70,0.30,0.00)、点C=(0.70,0.00,0.30)、点D=(0.00,0.00,1.00)、点E=(0.00,0.90,0.10)を結ぶ線分で囲まれる範囲内にある化合物を第一成分として含有し、
第二成分として、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対する含有割合が、MnO換算で0.005~3.500質量%のMnの酸化物(a)と、CuO換算で0.080~20.000質量%のCuの酸化物及びRuO換算で0.300~45.000質量%のRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を少なくとも含有すること、
を特徴とする誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0018】
また、本発明(4)は、前記第一成分が、前記3元組成図において、点A’=(0.05,0.95,0.00)、点B’=(0.60,0.40,0.00)、点C’=(0.70,0.20,0.10)、点D’=(0.70,0.10,0.20)、点E’=(0.55,0.00,0.45)、点F’=(0.40,0.00,0.60)、点G’=(0.10,0.10,0.80)、点H’=(0.00,0.00,1.00)、点I’=(0.00,0.40,0.60)、点J’=(0.20,0.40,0.40)、点K’=(0.00,0.70,0.30)、点L’=(0.00,0.90,0.10)を結ぶ線分で囲まれる範囲内にある化合物であることを特徴とする(3)の誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0019】
また、本発明(5)は、第二成分として、Dの酸化物(Dは、Li、Mg、Si、Cr、Al、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、In、W、Mo、Y、Hf、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも1種である。)を含有することを特徴とする(1)~(4)いずれかの誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0020】
また、本発明(6)は、タングステンブロンズ型結晶相を含有することを特徴とする(1)~(5)いずれかの誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0021】
また、本発明(7)は、25℃における比誘電率が100.0以上であることを特徴とする(1)~(6)いずれかの誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0022】
また、本発明(8)は、25℃における比誘電率が200.0以上であることを特徴とする(7)の誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0023】
また、本発明(9)は、25℃における比誘電率が300.0以上であることを特徴とする(8)の誘電体磁器組成物を提供するものであるを提供するものである。
【0024】
また、本発明(10)は、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲において-50.0%~50.0%の範囲内であることを特徴とする(1)~(9)いずれかの誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0025】
また、本発明(11)は、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲において-33.0%~22.0%の範囲内であることを特徴とする(1)~(10)いずれかの誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0026】
また、本発明(12)は、25℃における誘電損失(tanδ)が10.0%以下であり且つ200℃における誘電損失(tanδ)が10.0%以下であることを特徴とする(1)~(11)いずれかの誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0027】
また、本発明(13)は、200℃における絶縁抵抗値が100MΩ以上であることを特徴とする(1)~(12)いずれかの誘電体磁器組成物を提供するものである。
【0028】
また、本発明(14)は、(1)~(13)いずれかの誘電体磁器組成物で形成されている誘電体層と、導電成分として卑金属を含む電極層と、を含むことを特徴とするセラミック電子部品を提供するものである。
【0029】
また、本発明(15)は、前記卑金属がニッケル及び銅から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(14)のセラミック電子部品を提供するものである。
【0030】
また、本発明(16)は、前記誘電体層と前記電極層が複数積層されていることを特徴とする(14)又は(15)いずれかのセラミック電子部品を提供するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、還元雰囲気下で焼成が可能であり、比誘電率が高く、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品の誘電体層として用いた場合に、150~200℃の高温条件下においても静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で-50.0%~50.0%の範囲内(以下、±50.0%以内と記すことがある。)であり、25℃及び200℃における誘電損失が小さく、高温環境下での絶縁抵抗値が高い誘電体磁器組成物、及びこれを誘電体層として用いるセラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る誘電体磁器組成物の好適な組成範囲を示す三角図である。
図2】本発明に係る誘電体磁器組成物の更に好適な組成範囲を示す三角図である。
図3】参考試料8のSEM像(10,000倍)である。
図4】参考試料15のSEM像(10,000倍)である。
図5】参考試料66のSEM像(10,000倍)である。
図6】参考試料8、15及び66の静電容量変化率の推移を示すグラフである。
図7】参考試料15及び78の静電容量変化率の推移を示すグラフである。
図8】セラミックコンデンサを図解的に示した断面図である。
図9】参考試料15のX線回折測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。なお、本発明において数値範囲の表記“○~△”は、特に断らない限り、○及び△の数値を含むものとする。
【0034】
(セラミックコンデンサ1)
図8に示すセラミックコンデンサ1は、全体として直方体形状の積層体10を備えている。積層体10は、積層された複数の誘電体層3と、誘電体層3の異なる界面に沿って形成される複数の内部電極2a、2bにより構成される。内部電極2a、2bは、積層体10内において交互に配置され、それぞれ積層体10の異なる端部で外部電極4と電気的に接合している。外部電極4の上には、必要に応じてニッケル、銅、ニッケル-銅合金などからなる第1のめっき層や、その上に更に半田、錫などからなる第2のめっき層が形成されても良い。
【0035】
このように、複数の内部電極2a、2bは、積層体10の積層方向に互いに重なり合った状態で形成されることにより、隣り合う内部電極2a、2bとの間で電荷を蓄える。また内部電極2a、2bと外部電極4とが電気的に接続されることにより、当該電荷が取り出される。
【0036】
(内部電極2a、2b)
本発明において内部電極2a、2bには、導電成分として卑金属が用いられる。導電成分としての卑金属としては、ニッケル、銅、アルミニウムなどの純金属の他、当該金属成分を含む合金や混合物あるいは複合物であっても良い。そして、導電成分としての卑金属として、特に好ましくは、ニッケル及び銅から選ばれる1種である。また、本発明の作用効果を阻害しないのであれば、内部電極2a、2bには、卑金属以外の導電成分や後出の共材などが含まれていてもよい。
【0037】
内部電極2a、2bは、如何なる手法で形成されても良く、一例としては、当該卑金属を含む金属粉末をバインダ成分と共に混練することにより得られる導電ペーストを用いて形成する方法が挙げられる。導電ペーストを用いる場合は、内部電極2a、2bの形成方法としては、スクリーン印刷のような印刷法により形成することが、特に好ましい。なお、当該導電ペーストには、金属粉末の焼結を制御するための所謂共材として、後述する本発明の誘電体磁器組成物と同じ成分の誘電体磁器組成物粉末を含んでも良い。また、内部電極2a、2bは、その他、インクジェット法、蒸着法、めっき法など、公知の手法によっても形成される。
【0038】
(誘電体層3)
誘電体層3は、後述する本発明の誘電体磁器組成物で構成されることによって、高い比誘電率を維持しつつ、幅広い温度領域、特に200℃前後の高温領域においても静電容量の変化が小さく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失(tanδ)が共に10.0%以下となる。しかも、本発明の誘電体磁器組成物は、耐還元性に優れており、内部電極の導電成分として卑金属を用い、還元雰囲気下で同時焼成する場合であっても、還元され難く、半導体化しない。
【0039】
(誘電体磁器組成物)
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物は、第一成分と第二成分とからなり、
第一成分が、下記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対する含有割合が、CaO換算で0.00~35.85mol%のCaの酸化物と、SrO換算で0.00~47.12mol%のSrの酸化物と、BaO換算で0.00~51.22mol%のBaの酸化物と、TiO換算で0.00~17.36mol%のTiの酸化物と、ZrO換算で0.00~17.36mol%のZrの酸化物と、SnO換算で0.00~2.60mol%のSnの酸化物と、Nb換算で0.00~35.32mol%のNbの酸化物と、Ta換算で0.00~35.32mol%のTaの酸化物と、V換算で0.00~2.65mol%のVの酸化物と、からなり、
該第一成分は、Caの酸化物、Srの酸化物及びBaの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、Tiの酸化物及びZrの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、Nbの酸化物及びTaの酸化物から選ばれる少なくとも1種と、を必須成分として含有し、且つ、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対するCaO換算のCaの酸化物、SrO換算のSrの酸化物及びBaO換算のBaの酸化物の合計の含有割合が48.72~51.22mol%であり、TiO換算のTiの酸化物、ZrO換算のZr酸化物及びSnO換算のSnの酸化物の合計の含有割合が15.97~17.36mol%であり、Nb換算のNbの酸化物、Ta換算のTa酸化物及びV換算のVの酸化物の合計の含有割合が31.42~35.31mol%であり、
第二成分として、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計質量に対する含有割合が、MnO換算で0.005~3.500質量%のMnの酸化物(a)と、CuO換算で0.080~20.000質量%のCuの酸化物及びRuO換算で0.300~45.000質量%のRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を少なくとも含有すること、
を特徴とする誘電体磁器組成物である。
【0040】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物は、第一成分と、第二成分と、からなる。なお、本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物において、誘電体磁器組成物中に含まれる酸化物の内、第一成分として含まれる酸化物以外は全て第二成分として含まれる。
【0041】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物に係る第一成分は、必須成分としての、Caの酸化物、Srの酸化物及びBaの酸化物から選ばれる1種以上と、Tiの酸化物及びZrの酸化物から選ばれる1種以上と、Nbの酸化物及びTaの酸化物から選ばれる1種以上と、任意成分としての、Snの酸化物及びVの酸化物から選ばれる1種以上と、からなる。
【0042】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物において、第一成分に占める各酸化物の含有量であるが、下記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対する含有割合で、CaO換算のCaの酸化物の含有量が0.00~35.85mol%であり、SrO換算のSrの酸化物の含有量が0.00~47.12mol%であり、BaO換算のBaの酸化物の含有量が0.00~51.22mol%であり、TiO換算のTiの酸化物の含有量が0.00~17.36mol%であり、ZrO換算のZrの酸化物の含有量が0.00~17.36mol%であり、SnO換算のSnの酸化物の含有量が0.00~2.60mol%であり、Nb換算のNbの酸化物の含有量が0.00~35.32mol%であり、Ta換算のTaの酸化物の含有量が0.00~35.32mol%であり、V換算のVの酸化物の含有量が0.00~2.65mol%である。
【0043】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物では、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対するCaO換算のCaの酸化物、SrO換算のSrの酸化物及びBaO換算のBaの酸化物の合計の含有割合は、48.72~51.22mol%、好ましくは49.37~50.62mol%である。
【0044】
また、本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物では、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対するTiO換算のTiの酸化物、ZrO換算のZrの酸化物及びSnO換算のSnの酸化物の合計の含有割合は、15.97~17.36mol%であり、好ましくは16.32~17.01mol%である。また、第一成分がSnを含有する場合は、TiO換算のTiの酸化物、ZrO換算のZrの酸化物及びSnO換算のSnの酸化物の合計mol数に対するSnO換算のSnの酸化物の含有割合が15.00mol%以下である。
【0045】
また、本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物では、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計mol数に対するNb換算のNbの酸化物、Ta換算のTaの酸化物及びV換算のVの酸化物の合計の含有割合は、31.42~35.31mol%であり、好ましくは32.20~34.43mol%である。また、第一成分がVを含有する場合は、Nb換算のNbの酸化物、Ta換算のTaの酸化物及びV換算のVの酸化物の合計mol数に対するV換算のVの酸化物の含有割合が7.50mol%以下である。
【0046】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物は、第二成分として、(a)成分、すなわち、Mnの酸化物と、(b)成分、すなわち、Cuの酸化物、あるいは、Ruの酸化物、あるいは、Cuの酸化物及びRuの酸化物と、を少なくとも含有する。つまり、本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物は、必須の第二成分として、Mnの酸化物と、Cuの酸化物及びRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方と、を含有する。
【0047】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物において、Mnの酸化物の含有量は、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計質量に対し、MnO換算で0.005~3.500質量%、好ましくは0.005~2.000質量%、特に好ましくは0.010~1.500質量%である。
【0048】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物において、Cuの酸化物の含有量は、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計質量に対し、CuO換算で0.080~20.000質量%、好ましくは0.100~5.000質量%、特に好ましくは0.200~2.000質量%である。
【0049】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物において、Ruの酸化物の含有量は、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計質量に対し、RuO換算で0.300~45.000質量%、好ましくは0.500~20.000質量%、特に好ましくは1.000~10.000質量%である。
【0050】
なお、本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物において、第二成分がCuの酸化物とRuの酸化物の両方を含有する場合は、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計質量に対して、それぞれCuO換算、RuO換算したときのCuの酸化物とRuの酸化物の合計が45.000質量%以下であることが好ましい。
【0051】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物が、第二成分として、上記含有量のMnの酸化物を含有することにより、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品の誘電体層として用いた場合に、150~200℃の高温条件下においても静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失(以下、単にtanδと記すことがある。)が小さくなる。
【0052】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物では、第一成分の含有量を上記含有量とし、且つ、第二成分として、Mnの酸化物を上記含有量で含有させることにより、150~200℃の高温条件下における静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失が小さくなるとの効果を奏するが、本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物では、第二成分として、Cuの酸化物及びRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方を上記含有量で含有することにより、第一成分を上記含有量とし且つ第二成分のMnの酸化物を上記含有量で含有させることによる効果、すなわち、150~200℃の高温条件下における静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失が小さくなるとの効果に大きな影響を与えることなく、高温環境下での絶縁抵抗値を高くすることができる。
【0053】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物は、第二成分として、Mnの酸化物(a)と、Cuの酸化物及びRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を含有するが、それに加えて、任意に(a)成分及び(b)成分以外の酸化物(以下、(c)成分とも記載する。)を含有することができる。第二成分は、耐還元性やその他の特性を改善するために、本発明の誘電体磁器組成物に添加される。(b)成分以外の第二成分の酸化物換算の合計質量(すなわち、(a)成分と(c)成分の合計質量)の割合は、上記の酸化物に換算したときの第一成分の合計質量に対し、好ましくは10.000質量%以下、特に好ましくは0.100~5.500質量%である。
【0054】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物が含有する第二成分の任意成分((c)成分)としては、Dの酸化物(Dは、Li、Mg、Si、Cr、Al、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、In、W、Mo、Y、Hf、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも1種である。)が好ましく、Mgの酸化物、Siの酸化物、Yの酸化物が特に好ましい。
【0055】
なお、上記Dの酸化物の質量は、LiについてはLiOに、MgについてはMgOに、SiについてはSiOに、CrについてはCrに、AlについてはAlに、FeについてはFeに、CoについてはCoOに、NiについてはNiOに、ZnについてはZnOに、GaについてはGaに、GeについてはGeOに、InについてはInに、WについてはWOに、MoについてはMoOに、YについてはYに、HfについてはHfOに、LaについてはLaに、CeについてはCeOに、PrについてはPr11に、NdについてはNdに、SmについてはSmに、EuについてはEuに、GdについてはGdに、TbについてはTbに、DyについてはDyに、HoについてはHoに、ErについてはErに、TmについてはTmに、YbについてはYbに、LuについてはLuに換算した値である。
【0056】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物は、X線回折等の結晶構造解析を行った場合に、タングステンブロンズ型結晶相の存在を示すことが好ましい。本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物の平均グレインサイズは、好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。
【0057】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物は、第一成分と第二成分とからなり、
第一成分として、下記一般式(1):
(1)
(式(1)中、Aは、一般式(2):Ba1-x-ySrCa(2)(式(2)中、0≦x≦0.920、0≦y≦0.700である。)で表される。Mは、Ti、Zr及びSnから選ばれる少なくとも1種である。Mは、Nb、Ta及びVから選ばれる少なくとも1種である。5.70≦a≦6.30、1.90≦b≦2.10、7.20≦c≦8.80、27.45≦d≦32.50である。)
で表される化合物(但し、Snを含有する場合は、TiO換算のTiの酸化物、ZrO換算のZrの酸化物及びSnO換算のSnの酸化物の合計mol数に対するSnO換算のSnの酸化物の含有割合が15.00mol%以下であり、Vを含有する場合は、Nb換算のNbの酸化物、Ta換算のTaの酸化物及びV換算のVの酸化物の合計mol数に対するV換算のVの酸化物の含有割合が7.50mol%以下である。)を含有し、
第二成分として、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対する含有割合が、MnO換算で0.005~3.500質量%のMnの酸化物(a)と、CuO換算で0.080~20.000質量%のCuの酸化物及びRuO換算で0.300~45.000質量%のRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を少なくとも含有すること、
を特徴とする誘電体磁器組成物である。
【0058】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物は、第一成分と、第二成分と、からなる。なお、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物において、誘電体磁器組成物中に含まれる酸化物の内、第一成分として含まれる酸化物以外は全て第二成分として含まれる。
【0059】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物において、第一成分は、下記一般式(1):
(1)
で表される化合物である。
【0060】
一般式(1)中、Aは、一般式(2):Ba1-x-ySrCa(2)(式(2)中、0≦x≦0.920、0≦y≦0.700である。)で表される。つまり、Aは、Ba単体であっても、Ca、Sr及びBaのうちのいずれか2種の組み合わせ(Ca及びSr、Ca及びBa、Sr及びBa)であっても、Ca、Sr及びBaの組み合わせであってもよい。
【0061】
一般式(1)中、Mは、Ti、Zr及びSnから選ばれる少なくとも1種である。但し、Mは、Ti及びZrから選ばれる1種以上が必須である。つまり、Mは、Ti単独、Zr単独、Ti及びSnの組み合わせ、Zr及びSnの組み合わせ、Ti及びZrの組み合わせ、Ti、Zr及びSnの組み合わせである。
【0062】
一般式(1)中、Mは、Nb、Ta及びVから選ばれる少なくとも1種である。但し、Mは、Nb及びTaから選ばれる1種以上が必須である。つまり、Mは、Nb単独、Ta単独、Nb及びVの組み合わせ、Ta及びVの組み合わせ、Nb及びTaの組み合わせ、Nb、Ta及びVの組み合わせである。
【0063】
一般式(1)中、aは、5.70≦a≦6.30の範囲であり、bは、1.90≦b≦2.10の範囲であり、cは、7.20≦c≦8.80の範囲であり、dは、27.45≦d≦32.50である。
【0064】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物が、Snを含有する場合は、TiO換算のTiの酸化物、ZrO換算のZrの酸化物及びSnO換算のSnの酸化物の合計mol数に対するSnO換算のSnの酸化物の含有割合が15.00mol%以下である。また、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物が、Vを含有する場合は、Nb換算のNbの酸化物、Ta換算のTaの酸化物及びV換算のVの酸化物の合計mol数に対するV換算のVの酸化物の含有割合が7.50mol%以下である。
【0065】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物は、第二成分として、(a)成分、すなわち、Mnの酸化物と、(b)成分、すなわち、Cuの酸化物、あるいは、Ruの酸化物、あるいは、Cuの酸化物及びRuの酸化物と、を少なくとも含有する。つまり、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物は、必須の第二成分として、Mnの酸化物と、Cuの酸化物及びRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方と、を含有する。
【0066】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物において、Mnの酸化物の含有量は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対し、MnO換算で0.005~3.500質量%、好ましくは0.005~2.000質量%、特に好ましくは0.010~1.500質量%である。
【0067】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物において、Cuの酸化物の含有量は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対し、CuO換算で0.080~20.000質量%、好ましくは0.100~5.000質量%、特に好ましくは0.200~2.000質量%である。
【0068】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物において、Ruの酸化物の含有量は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対し、RuO換算で0.300~45.000質量%、好ましくは0.500~20.000質量%、特に好ましくは1.000~10.000質量%である。
【0069】
なお、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物において、第二成分がCuの酸化物とRuの酸化物の両方を含有する場合は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対して、それぞれCuO換算、RuO換算したときのCuの酸化物とRuの酸化物の合計が45.000質量%以下であることが好ましい。
【0070】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物が、第二成分として、(a)成分、すなわち、上記含有量のMnの酸化物を含有することにより、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品の誘電体層として用いた場合に、150~200℃の高温条件下においても静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失が小さくなる。
【0071】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物では、第一成分の含有量を上記含有量とし、且つ、第二成分として、Mnの酸化物を上記含有量で含有させることにより、150~200℃の高温条件下における静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失が小さくなるとの効果を奏するが、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物では、第二成分として、Cuの酸化物及びRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方を上記含有量で含有することにより、第一成分を上記含有量とし且つ第二成分のMnの酸化物を上記含有量で含有させることによる効果、すなわち、150~200℃の高温条件下における静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失が小さくなるとの効果に大きな影響を与えることなく、高温環境下での絶縁抵抗値を高くすることができる。
【0072】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物は、第二成分として、Mnの酸化物(a)と、Cuの酸化物及びRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を含有するが、それに加えて、任意に(a)成分及び(b)成分以外の酸化物(以下、(c)成分とも記載する。)を含有することができる。第二成分は、耐還元性やその他の特性を改善するために、本発明の誘電体磁器組成物に添加される。(b)成分以外の第二成分の酸化物換算の合計質量(すなわち、(a)成分と(c)成分の合計質量)の割合は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対し、好ましくは10.000質量%以下、特に好ましくは0.100~5.500質量%である。
【0073】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物が含有する第二成分の任意成分((c)成分)としては、Dの酸化物(Dは、Li、Mg、Si、Cr、Al、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、In、W、Mo、Y、Hf、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも1種である。)が好ましく、Mgの酸化物、Siの酸化物、Yの酸化物が特に好ましい。
【0074】
なお、上記Dの酸化物の質量は、LiについてはLiOに、MgについてはMgOに、SiについてはSiOに、CrについてはCrに、AlについてはAlに、FeについてはFeに、CoについてはCoOに、NiについてはNiOに、ZnについてはZnOに、GaについてはGaに、GeについてはGeOに、InについてはInに、WについてはWOに、MoについてはMoOに、YについてはYに、HfについてはHfOに、LaについてはLaに、CeについてはCeOに、PrについてはPr11に、NdについてはNdに、SmについてはSmに、EuについてはEuに、GdについてはGdに、TbについてはTbに、DyについてはDyに、HoについてはHoに、ErについてはErに、TmについてはTmに、YbについてはYbに、LuについてはLuに換算した値である。
【0075】
本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物は、X線回折等の結晶構造解析を行った場合に、タングステンブロンズ型結晶相の存在を示し、その平均グレインサイズは、好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。
【0076】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、第一成分と第二成分とからなり、
下記一般式(3):
α・Caη1 θ1 φ1ω1-β・Srη2 θ2 φ2ω2-γ・Baη3 θ3 φ3ω3 (3)
(式(3)中、η1、η2及びη3は、それぞれ独立して5.70~6.30の範囲内の値である。θ1、θ2及びθ3は、それぞれ独立して0.95~1.05の範囲内の値である。φ1、φ2及びφ3は、それぞれ独立して0.90~1.10の範囲内の値である。ω1、ω2及びω3はそれぞれ独立して27.45~32.50の範囲内の値である。Mは、一般式(4):Ti2-ρ-σZrρSnσ(4)(式(4)中、0≦ρ≦2.0、0≦σ≦0.3である。)で表される。Mは、一般式(5):Nb8-π-ψTaπψ(5)(式(5)中、0≦π≦8.0、0≦ψ≦0.6である。)で表される。α、β及びγは、α+β+γ=1.00を満たす。)
で表され、3元組成図上の任意の点を(α,β,γ)と表すときに、点A=(0.05,0.95,0.00)、点B=(0.70,0.30,0.00)、点C=(0.70,0.00,0.30)、点D=(0.00,0.00,1.00)、点E=(0.00,0.90,0.10)を結ぶ線分で囲まれる範囲内にある化合物を第一成分として含有し、
第二成分として、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対する含有割合が、MnO換算で0.005~3.500質量%のMnの酸化物(a)と、CuO換算で0.080~20.000質量%のCuの酸化物及びRuO換算で0.300~45.000質量%のRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を少なくとも含有すること、
を特徴とする誘電体磁器組成物である。
【0077】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、第一成分と、第二成分と、からなる。なお、本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物において、誘電体磁器組成物中に含まれる酸化物の内、第一成分として含まれる酸化物以外は全て第二成分として含まれる。
【0078】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、第一成分が、図1に示すCaη1 θ1 φ1ω1-Srη2 θ2 φ2ω2-Baη3 θ3 φ3ω3の3元組成図上の点を(α,β,γ)で表すときに(但し、α、β及びγは、α+β+γ=1.00を満たす。)、点A=(0.05,0.95,0.00)、点B=(0.70,0.30,0.00)、点C=(0.70,0.00,0.30)、点D=(0.00,0.00,1.00)、点E=(0.00,0.90,0.10)を結ぶ線分で囲まれる範囲内にある化合物(以下、図1に示す3元組成図上の点A、点B、点C、点D、点Eを結ぶ線分で囲まれる範囲内にある化合物と記載することもある。)である。第一成分の組成が上記範囲内にあることにより、25℃における比誘電率が100以上となり、強誘電性を示す。
【0079】
また、本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、好ましくは第一成分が、図2に示すCaη1 θ1 φ1ω1-Srη2 θ2 φ2ω2-Baη3 θ3 φ3ω3の3元組成図上において、点A’=(0.05,0.95,0.00)、点B’=(0.60,0.40,0.00)、点C’=(0.70,0.20,0.10)、点D’=(0.70,0.10,0.20)、点E’=(0.55,0.00,0.45)、点F’=(0.40,0.00,0.60)、点G’=(0.10,0.10,0.80)、点H’=(0.00,0.00,1.00)、点I’=(0.00,0.40,0.60)、点J’=(0.20,0.40,0.40)、点K’=(0.00,0.70,0.30)、点L’=(0.00,0.90,0.10)を結ぶ線分で囲まれる範囲内にある化合物(以下、図2に示す3元組成図上の点A’、点B’、点C’、点D’、点E’、点F’、点G’、点H’、点I’、点J’、点K’、点L’を結ぶ線分で囲まれる範囲内にある化合物と記載することもある。)である。第一成分の組成が上記範囲内にあることにより、25℃において200以上の比誘電率が得られやすく、強誘電性を示す。なお、図2に示す「Caη1 θ1 φ1ω1-Srη2 θ2 φ2ω2-Baη3 θ3 φ3ω3」の3元組成図は、図1に示す「Caη1 θ1 φ1ω1-Srη2 θ2 φ2ω2-Baη3 θ3 φ3ω3」の3元組成図と同じである。
【0080】
但し、本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物に係る「Caη1 θ1 φ1ω1-Srη2 θ2 φ2ω2-Baη3 θ3 φ3ω3」の3元組成図において、η1、η2及びη3は、それぞれ独立して5.70~6.30の範囲内の値である。θ1、θ2及びθ3は、それぞれ独立して0.95~1.05の範囲内の値である。φ1、φ2及びφ3は、それぞれ独立して0.90~1.10の範囲内の値である。ω1、ω2及びω3はそれぞれ独立して27.45~32.50の範囲内の値である。Mは、一般式(4):Ti2-ρ-σZrρSnσ(4)(式(4)中、0≦ρ≦2.0、0≦σ≦0.3である。)で表される。Mは、一般式(5):Nb8-π-ψTaπψ(5)(式(5)中、0≦π≦8.0、0≦ψ≦0.6である。)で表される。
【0081】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、第二成分として、(a)成分、すなわち、Mnの酸化物と、(b)成分、すなわち、Cuの酸化物、あるいは、Ruの酸化物、あるいは、Cuの酸化物及びRuの酸化物と、を少なくとも含有する。つまり、本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、必須の第二成分として、Mnの酸化物と、Cuの酸化物及びRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方と、を含有する。
【0082】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物において、Mnの酸化物の含有量は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対し、MnO換算で0.005~3.500質量%、好ましくは0.005~2.000質量%、特に好ましくは0.010~1.500質量%である。
【0083】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物において、Cuの酸化物の含有量は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対し、CuO換算で0.080~20.000質量%、好ましくは0.100~5.000質量%、特に好ましくは0.200~2.000質量%である。
【0084】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物において、Ruの酸化物の含有量は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対し、RuO換算で0.300~45.000質量%、好ましくは0.500~20.000質量%、特に好ましくは1.000~10.000質量%である。
【0085】
なお、本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物において、第二成分がCuの酸化物とRuの酸化物の両方を含有する場合は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対して、それぞれCuO換算、RuO換算したときのCuの酸化物とRuの酸化物の合計が45.000質量%以下であることが好ましい。
【0086】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物が、第二成分として、(a)成分、すなわち、上記含有量のMnの酸化物を含有することにより、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品の誘電体層として用いた場合に、150~200℃の高温条件下においても静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失が小さくなる。
【0087】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物では、第一成分の含有量を上記含有量とし、且つ、第二成分として、Mnの酸化物を上記含有量で含有させることにより、150~200℃の高温条件下における静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失が小さくなるとの効果を奏するが、本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物では、第二成分として、Cuの酸化物及びRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方を上記含有量で含有することにより、第一成分を上記含有量とし且つ第二成分のMnの酸化物を上記含有量で含有させることによる効果、すなわち、150~200℃の高温条件下における静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内となり、25℃及び200℃における誘電損失が小さくなるとの効果に大きな影響を与えることなく、高温環境下での絶縁抵抗値を高くすることができる。
【0088】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、第二成分として、Mnの酸化物(a)と、Cuの酸化物及びRuの酸化物のうちのいずれか一方又は両方(b)と、を含有するが、それに加えて、任意に(a)成分及び(b)成分以外の酸化物(以下、(c)成分とも記載する。)を含有することができる。第二成分は、耐還元性やその他の特性を改善するために、本発明の誘電体磁器組成物に添加される。(b)成分以外の第二成分の酸化物換算の合計質量(すなわち、(a)成分と(c)成分の合計質量)の割合は、第一成分をCaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vに換算したときの第一成分の合計質量に対し、好ましくは10.000質量%以下、特に好ましくは0.100~5.500質量%である。
【0089】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物が含有する第二成分の任意成分((c)成分)としては、Dの酸化物(Dは、Li、Mg、Si、Cr、Al、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、In、W、Mo、Y、Hf、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも1種である。)が好ましく、Mgの酸化物、Siの酸化物、Yの酸化物が特に好ましい。
【0090】
なお、上記Dの酸化物の質量は、LiについてはLiOに、MgについてはMgOに、SiについてはSiOに、CrについてはCrに、AlについてはAlに、FeについてはFeに、CoについてはCoOに、NiについてはNiOに、ZnについてはZnOに、GaについてはGaに、GeについてはGeOに、InについてはInに、WについてはWOに、MoについてはMoOに、YについてはYに、HfについてはHfOに、LaについてはLaに、CeについてはCeOに、PrについてはPr11に、NdについてはNdに、SmについてはSmに、EuについてはEuに、GdについてはGdに、TbについてはTbに、DyについてはDyに、HoについてはHoに、ErについてはErに、TmについてはTmに、YbについてはYbに、LuについてはLuに換算した値である。
【0091】
本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、X線回折等の結晶構造解析を行った場合に、タングステンブロンズ型結晶相の存在を示し、その平均グレインサイズは、好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。
【0092】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物及び本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、25℃における比誘電率は高ければ高いほど好ましく、100.0以上、好ましくは200.0以上であり、組成によっては、300.0以上、更には400.0以上、更には500.0以上であることが好ましい。
【0093】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物及び本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物の静電容量変化率は、-55℃~200℃の温度範囲において、±50.0%以内であり、好ましくは-33.0%~22.0%の範囲内である。なお、本発明において、静電容量変化率とは、後述する方法により得られる値である。
【0094】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物及び本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物では、25℃における誘電損失(tanδ)が10.0%以下であり且つ200℃における誘電損失(tanδ)が10.0%以下であり、高周波特性が良好である。
【0095】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物及び本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物では、200℃における絶縁抵抗値が100MΩ以上、好ましくは200MΩ以上、特に好ましくは1000MΩ以上である。
【0096】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物及び本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、150~200℃の高温条件下においても静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で-50.0%~50.0%の範囲内であり、25℃及び200℃における誘電損失が小さいことに加えて、高温環境下での絶縁抵抗値が高いことが要求される用途の電子部品用として、好適である。
【0097】
本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物及び本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物は、還元雰囲気下で焼成が可能である。
【0098】
(外部電極4)
外部電極4は、通常、積層体10を同時焼成した後の端部に外部電極用導電ペーストを付与し、これを焼き付けることによって形成されるが、本発明はこれに限られるものではなく、熱硬化型樹脂や熱可塑性樹脂を含むペーストを用いて加熱処理して外部電極4が形成されても良い。外部電極用導電ペーストに使用される導電成分は、特に限定されず、例えば、ニッケル、銅、銀、パラジウム、白金、金などの純金属の他、当該金属成分を含む合金や混合物又は複合物であっても良い。また、その他、必要に応じて導電ペーストにはガラスフリットが添加されることもある。また、外部電極4は積層体10と共に同時に焼成される場合もある。
【0099】
(セラミックコンデンサ1の製造方法)
セラミックコンデンサ1は、本発明の第一の形態の誘電体磁器組成物、本発明の第二の形態の誘電体磁器組成物又は本発明の第三の形態の誘電体磁器組成物を用いる他は、公知の方法により製造される。以下、その一例を説明する。
【0100】
先ず、誘電体層3を形成するための出発原料を準備する。出発原料の一例としては、CaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vなどの酸化物、及び焼成により当該酸化物が生成される炭酸塩、硝酸塩などが挙げられる。
【0101】
これらの出発原料を、目的とする組成になるよう秤量し、混合して、得られた混合物を空気中において700~900℃程度の温度で3~6時間程度仮焼する。次いで、得られた生成物を微粉砕して、得られた誘電体原料を第一成分用原料とする。
【0102】
また、Mn源としてMnOやMnCOなどのMn化合物と、第二成分としてCuの酸化物を含有させる場合は、Cu源として、CuOやCuO、Cu(NO、Cu(OH)、CuCOなどのCu化合物と、第二成分としてRuの酸化物を含有させる場合は、Ru源として、RuOやRuO、Ru(CO)12などのRu化合物と、その他、必要に応じて添加されるLi、Mg、Si、Cr、Al、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、In、W、Mo、Y、Hf、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuなどを含む化合物を第二成分用原料として準備する。
【0103】
次いで、これらの第一成分用原料と第二成分用原料を、適宜のバインダ成分中で混練及び分散し、誘電体ペースト又は誘電体スラリーを調製する。なお、誘電体ペースト又は誘電体スラリーには、必要に応じて、可塑剤等の添加物が含まれても良い。
【0104】
次いで、得られた誘電体ペースト又は誘電体スラリーをシート状に成形し、次いで、得られたグリーンシートの表面に前述の内部電極用の導電ペーストを用いて導体パターンを形成する。これを所定回数繰り返して積層し、圧着して未焼成の積層体(以下、グリーンチップという)を得る。
【0105】
次いで、グリーンチップに対して、必要に応じて脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理条件は、特に限定されず、例えば、保持温度180~400℃で1~3時間の加熱処理が挙げられる。
【0106】
次いで、グリーンチップを、還元雰囲気下において、1150~1350℃程度で焼成し、焼成済の積層体10(以下、焼結体10という)を得る。
【0107】
その後、焼結体10に対して、必要に応じて再酸化処理(以下、アニールという)を行う。アニール条件は当業界において広く用いられている公知の条件で良いが、例えば、アニール時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度は1100℃以下とすることが好ましい。
【0108】
上記のようにして得られた焼結体10に対し、端面研磨を施した後、外部電極用導電ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成し、必要に応じて外部電極4の表面に前述のめっき層を形成する。
【0109】
こうして得られたセラミックコンデンサ1は、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0110】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に適用される。
【0111】
例えば、上記ではセラミックコンデンサについて説明したが、インダクタやアクチュエータなど、他のセラミック電子部品についても同様に実施することができる。
【0112】
以下、本発明を具体的な実験例に基づき説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、以下において記載する誘電体磁器組成物の組成は、原料組成(仕込組成)や結晶構造分析によって推定されるものであり、本明細書中においても同様である。
【実施例
【0113】
はじめに、第一成分の含有量の規定と、Mn酸化物の添加効果について、確認試験を行った(参考資料1~90及び参考資料91~107)。
(参考例1)
(1)誘電体磁器組成物参考試料1~90の作製
第一成分の出発原料として、CaCO、SrCO、BaCO、TiO、ZrO、SnO、Nb、Ta、Vの各粉末を、酸化物換算で表1、表3及び表5に示す比率になるよう秤量し、ボールミルで純水を用いて20時間湿式混合した。
次に、得られた各混合物を100℃で乾燥した後、大気中、750~900℃で3時間仮焼し、再び同様にボールミルで細かく粉砕し、第一成分用誘電体原料とした。
また、第二成分として、MnCOを18.2mg、MgOを32mg、SiOを58.6mg、Yを89.5mgずつ秤量し、これらを混合したものを準備し、第二成分用原料とした。但し、参考試料43では上記第二成分用原料の内、SiOを除いたMnCO、MgO及びYの3成分のみとした。参考試料44では第二成分用原料としてMgOを除いたMnCO、SiO及びYの3成分のみとした。参考試料45ではYを除いたMnCO、MgO及びSiOの3成分のみとした。参考試料78及び79ではMnCOを除いたMgO、SiO及びYの3成分のみとした。また、参考試料41では、上記第二成分用原料の内、MnCOの量を0.404mgに変更し、参考試料42ではMnCOの量を0.198gに変更し、参考試料80ではMnCOの量を2.055gに変更した。
また、ポリビニルアルコール濃度が6質量%となるように、イオン交換水とポリビニルアルコールを容器に投入し、90℃で1時間混合して、ポリビニルアルコール水溶液を準備した。
そして、各第一成分用誘電体原料25gと上記量の第二成分用原料とを混合し、これらの混合物に対し、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が10質量%となるように、原料混合物にポリビニルアルコール水溶液を添加し、乳鉢中で混合及び造粒して造粒粉を作製した。
更に得られた造粒粉を直径14.0mmの金型に投入して、1ton/cmの圧力でプレス成形することによって、円板状のグリーン成形体を得た。
次いで、得られたグリーン成形体を還元性雰囲気中で焼成することによって、焼結体を作製した。この際の焼成では、昇温速度を300℃/hr、保持温度を1150~1300℃、保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは加湿した水素/窒素混合ガス(水素濃度0.5%)とし、加湿にはウェッター(ウェッター温度35℃)を用いた。
【0114】
次いで、得られた焼結体に対して、焼結体の2つの主面に直径8mmのIn-Ga電極を塗布することにより、参考試料1~90にそれぞれ対応する円板状のセラミックコンデンサを得た。
【0115】
(2)誘電体磁器組成物参考試料1~90の分析
上述のようにして得られた参考試料1~90に対応する円板状のセラミックコンデンサに対して、以下に示す方法により、グレインサイズ、結晶相、比誘電率、静電容量変化率及び誘電損失(tanδ)をそれぞれ分析した。その結果を表2、表4及び表6に示す。
【0116】
<グレインサイズ>
各コンデンサの表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、無作為に抽出した20個の結晶粒子の粒界から求めた円相当径の平均値をグレインサイズとした。なお、図3図5は、それぞれ、参考試料8、15及び66のSEM像である。
【0117】
<結晶相>
X線回折測定により、結晶相の特定を行った。代表例として参考試料15のX線回折測定の結果を図9に示す。図中の下段はリファレンスのタングステンブロンズ型結晶相であり、参考試料15がタングステンブロンズ型結晶相を含有することを確認できた。その他の試料を含めたX線回折測定結果を表2、表4及び表6に示す。なお、表中の符号“T”はタングステンブロンズ型結晶相の存在を確認できたことを示す。
【0118】
<比誘電率>
各コンデンサに対し、基準温度25℃において、LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)を用いて、周波数1kHz、測定電圧1Vrmsとして静電容量Cを測定した。その後、焼結体の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づいて比誘電率を算出した。また基準温度200℃においても同様にして比誘電率を算出した。
なお、比誘電率は高い方が好ましく、25℃において100.0以上であれば良好とした。
【0119】
<静電容量変化率>
比誘電率の測定と同様な条件(アジレント・テクノロジー社製4284A、周波数1kHz、測定電圧1Vrms)で、-55℃から200℃の温度領域における各温度tの静電容量Cを測定した。そして、基準となる25℃の静電容量C25から、静電容量変化率=((C-C25)/C25)×100(%)(以下、静電容量変化率をΔC/C25と記すことがある。)を算出した。
なお、静電容量変化率は0に近い方が好ましく、±50.0%以内であれば良好とした。
また、参考試料8、15及び66について、-55℃から200℃までの静電容量変化率の推移を、図6に記した。なお、図中の符号“×”は参考試料8、“○”は参考試料15、“△”は参考試料66の静電容量変化率である。更に、参考試料15及び78について、-55℃から200℃までの静電容量変化率の推移を、図7に記した。図中の符号“○”は参考試料15、“×”は参考試料78の静電容量変化率である。
【0120】
<誘電損失(tanδ)>
各コンデンサ試料について、LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)を用いて、周波数1kHz、測定電圧1Vrmsとしてtanδを測定した。tanδは25℃及び200℃において、共に10.0%以下であれば良好とした。
【0121】
(表1)
【0122】
なお、表1、表3及び表5中、第一成分の酸化物換算組成は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計mol数に対する各酸化物の表中に記載する酸化物換算のmol%である。また、Mn酸化物の含有量は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対するMnO換算のMn酸化物の質量%であり、また、第二成分の酸化物の合計含有量は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対する第二成分の酸化物の合計の質量%である。
【0123】
【表2】
【0124】
(表3)
【0125】
【表4】
【0126】
(表5)
【0127】
【表6】
【0128】
(3)評価
以上の分析結果から、図1の線分A-B-C-D-Eにより囲まれる範囲内にある試料は、25℃における比誘電率が100.0以上であった。すなわち、これらの試料は、強誘電性を有していることが確認できた。また、図1の線分A-B-C-D-Eにより囲まれる範囲内にある試料は、静電容量の変化率が-55℃~200℃の温度範囲で±50.0%以内であり、25℃及び200℃における誘電損失(tanδ)が10.0%以下である。
更に、図2の線分点A’-点B’-点C’-点D’-点E’-点F’-点G’-点H’-点I’-点J’-点K’-点L’により囲まれる範囲内にある試料は、25℃における比誘電率が200.0以上であった。
中でも参考試料番号5、8、12、15、17、18、23~25、27、29~36、38、41、43~45は、比誘電率が500.0以上を示しており、特に好ましい。
また、参考試料番号1~4、7~13、16~18、23~28、38~40、46、47、49~62、87~90は、-55℃から200℃の温度領域における静電容量変化率ΔC/C25が-33.0%~+22.0%を示し、特に温度特性が優れている。
【0129】
これらに対し、参考試料番号65~86では、比誘電率、静電容量変化率及びtanδのうちの1以上の性能に関して良好な特性が得られなかった。
また、図6に示される通り、参考試料8、15を用いた場合には、静電容量変化率は-55℃から200℃の温度範囲において-30.0%~30.0%の範囲内にあるが、参考試料66は150℃を越えたあたりから静電容量変化率が急激に増加していることが分かる。
また、参考試料15と参考試料78は、第二成分としてのMnの酸化物の有無のみが異なる試料であるが、図7に示される通り、両者の特性が大きく異なっていることが分かる。
【0130】
(参考例2)
上述した第一成分原料を酸化物換算で表7に示す組成になるよう秤量し、更に、第二成分原料としてMnCO及びSiOを酸化物換算で表7に示す組成になるよう秤量した以外は参考例1と同様にして参考試料91~107を作製し、それぞれの試料に対応する円板状のセラミックコンデンサを得た。
その後、参考例1と同様に、グレインサイズ、結晶相、比誘電率、静電容量変化率及び誘電損失(tanδ)を測定し、その結果を表8に示した。
これらの結果から、酸化物換算の第一成分の合計質量に対し、第二成分としてのMnO換算のMn含有量が3.500質量%以下の試料では、比誘電率、静電容量変化率及びtanδについて良好な結果が得られていることが分かる。
【0131】
(表7)
【0132】
なお、表7中、第一成分の酸化物換算組成は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計mol数に対する各酸化物の表中に記載する酸化物換算のmol%である。また、Mn酸化物の含有量は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対するMnO換算のMn酸化物の質量%であり、また、第二成分の酸化物の合計含有量は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対する第二成分の酸化物の合計の質量%である。
【0133】
【表8】
【0134】
以上の結果より、第一成分の含有量が本発明の規定量の範囲から外れているか、あるいは、Mnの酸化物の含有量が本発明の規定量の範囲から外れている試料との比較から、第一成分の含有量が本発明の規定量の範囲にあり、且つ、Mnの酸化物の含有量が本発明の規定量の範囲にあり、Cuの酸化物及びRuの酸化物を含有しない試料は、150~200℃の高温条件下においても静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で-50.0%~50.0%の範囲内であり、25℃及び200℃における誘電損失が小さくなるとの効果を奏することがわかる。
【0135】
(実施例1及び比較例1)
(1)誘電体磁器組成物試料1~64の作製
第一成分の出発原料として、CaCO、SrCO、BaCO、TiO、ZrO、Nb、Taの各粉末を、酸化物換算で表9及び表11に示す比率になるよう秤量し、ボールミルで純水を用いて20時間湿式混合した。
次に、得られた各混合物を100℃で乾燥した後、大気中、750~900℃で3時間仮焼し、再び同様にボールミルで細かく粉砕し、第一成分用誘電体原料とした。
また、第二成分として、MnCOを41.2mg、MgOを72.2mg、SiOを53.9mgずつ秤量し、これらを混合したものを準備し、第二成分用原料とした。但し、試料1~3、5、10、12~19、26~31、32~52では、上記第二成分用原料をそれぞれ1.3倍量用いた。また、試料2~19、33、34、36、37、39、40、42、43、45、46、48、49、51、52では、第二成分用原料として、上記原料の他、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対してCuOを0.036~27.000質量%準備した。さらに、試料20~31、34、37、40、43、46、49、52では、第二成分用原料として、上記原料の他、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対してRuOを0.100~60.000質量%準備した。
また、ポリビニルアルコール濃度が6質量%となるように、イオン交換水とポリビニルアルコールを容器に投入し、90℃で1時間混合して、ポリビニルアルコール水溶液を準備した。
そして、各第一成分用誘電体原料25gと上記量の第二成分用原料とを混合し、これらの混合物に対し、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が10質量%となるように、原料混合物にポリビニルアルコール水溶液を添加し、乳鉢中で混合及び造粒して造粒粉を作製した。
更に得られた造粒粉を直径14.0mmの金型に投入して、1ton/cmの圧力でプレス成形することによって、円板状のグリーン成形体を得た。
次いで、得られたグリーン成形体を還元性雰囲気中で焼成することによって、焼結体を作製した。この際の焼成では、昇温速度を300℃/hr、保持温度を1100~1300℃、保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは加湿した水素/窒素混合ガス(水素濃度0.5%)とし、加湿にはウェッター(ウェッター温度35℃)を用いた。
【0136】
<絶縁抵抗値>
各コンデンサ試料について、デジタル超高抵抗/微少電流計(株式会社エーディーシー製8340A)を用いて、印加電圧200Vとして絶縁抵抗値を測定した。絶縁抵抗値は200℃において、100MΩ以上であれば良好とした。
【0137】
【表9】
【0138】
なお、表9及び表11中、第一成分の酸化物換算組成は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計mol数に対する各酸化物の表中に記載する酸化物換算のmol%である。また、Mn酸化物の含有量は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対するMnO換算のMn酸化物の質量%であり、Cu酸化物の含有量は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対するCuO換算のCu酸化物の質量%であり、Ru酸化物の含有量は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対するRuO換算のRu酸化物の質量%であり、また、第二成分の酸化物の合計含有量は、第一成分の各酸化物成分の表中に記載する酸化物換算の合計質量に対する第二成分の酸化物の合計の質量%である。
【0139】
【表10】
【0140】
【表11】
【0141】
【表12】
【0142】
以上の結果から、第一成分の含有量が本発明の規定量の範囲であり、且つ、Mnの酸化物を本発明の規定量の範囲で含有し、且つ、Cuの酸化物又はRuの酸化物のいずれか一方又は両方を本発明の規定量の範囲で含有することにより、25℃における比誘電率が高く、150~200℃の高温条件下においても静電容量の変化が少なく、静電容量変化率が-55℃~200℃の温度範囲で-50.0%~50.0%の範囲内であり、25℃及び200℃における誘電損失が小さく、且つ、200℃における絶縁抵抗値が高くなることが確認された。
そして、第一成分の含有量が本発明の規定量の範囲にあり、且つ、Mnの酸化物の含有量が本発明の規定量の範囲にあるが、Cuの酸化物及びRuの酸化物を含有しない参考試料との比較から、第一成分の含有量が本発明の規定量の範囲であり、且つ、Mnの酸化物を本発明の規定量の範囲で含有し、且つ、Cuの酸化物又はRuの酸化物のいずれか一方又は両方を本発明の規定量の範囲で含有することにより、比誘電率や静電容量変化率及び誘電損失に関する作用効果に大きな影響を与えることなく、絶縁抵抗値を高くできることがわかる。
【0143】
なお、上記した例では、単板型のセラミックコンデンサについて評価を行ったが、誘電体層と内部電極とが積層された積層型のセラミックコンデンサについても、同様の結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0144】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体層
3 内部電極層
4 外部電極
10 積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9