(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】動力工具
(51)【国際特許分類】
B23D 49/16 20060101AFI20220906BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20220906BHJP
B27G 3/00 20060101ALI20220906BHJP
B27B 19/09 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B23D49/16
B25F5/00 Z
B27G3/00 F
B27B19/09
(21)【出願番号】P 2020523548
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019015939
(87)【国際公開番号】W WO2019235065
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2018110245
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094983
【氏名又は名称】北澤 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095946
【氏名又は名称】小泉 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100192337
【氏名又は名称】福本 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100206092
【氏名又は名称】金 佳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100208535
【氏名又は名称】松坂 光邦
(72)【発明者】
【氏名】仲野 領祐
(72)【発明者】
【氏名】横山 仁一
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-320456(JP,A)
【文献】特開2001-088050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0188162(US,A1)
【文献】国際公開第2018/100941(WO,A1)
【文献】特開2005-319542(JP,A)
【文献】米国特許第02631619(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 49/16
B25F 5/00
B27G 3/00
B27B 19/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内で回転駆動する駆動源と、
前記ハウジング内に支持され、前記駆動源の駆動力によって動作する駆動体と、
前記駆動体の周囲に配置され、少なくとも空気または潤滑剤を含む流体を内包し、前記駆動源の駆動に起因する外力によって前記流体を外部へ排出する保持部と、
前記駆動体の外周面をシールするシール部と、を有し、
前記保持部は、前記シール部を支持すると共に、前記外力によって前記シール部に前記潤滑剤を供給し、
前記駆動体は、前記ハウジングに対して移動可能であり、
前記保持部は、前記ハウジングの少なくとも一部に対して位置決めされ、前記シール部が前記駆動体の移動に伴って移動することにより、前記シール部が前記保持部の少なくとも一部を付勢することで前記保持部に前記外力が伝達され、前記駆動体の外周面に前記潤滑剤が供給されることを特徴とする動力工具。
【請求項2】
前記外力は、前記シール部を介して前記保持部に伝達されることを特徴とする請求項
1に記載の動力工具。
【請求項3】
前記保持部は弾性体であり、前記潤滑剤を充填する潤滑剤収容部と、所定方向に窪み前記シール部の少なくとも一部を収容する収容部とが形成され、前記保持部の少なくとも一部が前記シール部により押圧され弾性変形することによって前記潤滑剤収容部と前記収容部とが連通することを特徴とする請求項
1又は2に記載の動力工具。
【請求項4】
前記保持部は、前記駆動体の外周面に対向し前記外周面に向けて突出する湾曲面を有することを特徴とする請求項
1に記載の動力工具。
【請求項5】
前記シール部は、Oリングを有することを特徴とする請求項
1乃至
3のいずれか一項に記載の動力工具。
【請求項6】
前記ハウジングには、
前記駆動体の一部が挿通されて外部に連通する開口部が設けられ、前記保持部は前記外力により前記開口部に向けて前記流体を排出することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の動力工具。
【請求項7】
前記保持部には、前記ハウジング内部から前記ハウジング外部へ前記流体が流れることを許容し、且つ、前記ハウジング外部から前記ハウジング内部へ前記流体が流れることを抑制する逆止弁部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の動力工具。
【請求項8】
前記駆動体は所定方向に延びる駆動軸であり、
前記逆止弁部は、前記駆動軸の軸線に向かって延出し前記駆動軸の軸方向に直交する方向に対して傾斜する延出部を有することを特徴とする請求項
7に記載の動力工具。
【請求項9】
前記保持部は、前記流体を内包するための空間を画成する弾性部材を有し、
前記保持部は、前記弾性部材が前記外力に応じて変形して前記空間の容積が減少することにより、外部へ前記空間内の前記流体を排出することを特徴とする請求項8に記載の動力工具。
【請求項10】
ハウジングと、
前記ハウジング内で回転駆動する駆動源と、
前記ハウジング内に支持され、前記駆動源の駆動力によって動作する軸状の駆動体と、
前記駆動体の周囲に配置され、少なくとも空気または潤滑剤を含む流体を内包し、前記駆動源の駆動に起因する外力によって前記流体を外部へ排出する保持部と、を有し、
前記保持部は、前記流体を内包するための空間を画成する弾性部材を有し、
前記保持部は、前記弾性部材が前記外力に応じて変形して前記空間の容積が減少することにより、外部へ前記空間内の前記流体を排出することを特徴とす
る動力工具。
【請求項11】
前記弾性部材には、前記駆動
体を挿通させる貫通穴が形成され、前記弾性部材が前記駆動
体の駆動に応じて変形して前記空間の容積が減少することにより、前記貫通穴を介して前記流体が前記ハウジング外部へ排出されることを特徴とする請求項
9又は10に記載の動力工具。
【請求項12】
前記弾性部材の少なくとも一部を支持する支持部をさらに有し、前記支持部と前記弾性部材の少なくとも一部との間において、前記空間内への前記流体の流入を許容する吸気部が設けられることを特徴とする請求項
10又は
11に記載の動力工具。
【請求項13】
前記駆動
体は、所定方向に延び、前記弾性部材には、前記貫通穴と連通する溝が形成され、前記潤滑剤は前記溝に充填されていることを特徴とする請求項
11に記載の動力工具。
【請求項14】
前記駆動体は、前記ハウジングに対して往復動可能に構成され、
前記駆動源の駆動力の伝達経路上において、前記駆動源と前記駆動体との間に介在し前記駆動源の駆動力を受けて回転するギヤ部と、前記駆動源の駆動力の伝達経路上において、前記ギヤ部と前記駆動体との間に介在し前記ギヤ部の回転運動を前記駆動体の往復動に変換する運動変換機構部と、をさらに有していることを特徴とする請求項1乃至
13のいずれか一項に記載の動力工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木材、鋼材、金属パイプ等(被切断材)を切断する動力工具として先端工具に鋸刃を採用した往復動工具が広く用いられている。このような先端工具に鋸刃を採用した往復動工具としては、モータと、モータの回転力を往復動に変換する運動変換手段と、ハウジングに往復動可能に支持されハウジングに形成された開口部から一端部が延出し先端に鋸刃を装着可能なプランジャと、を備えたセーバソーが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
従来のセーバソーにおいては、一般に、切断作業中に発生する粉塵(切粉)がハウジング内に侵入しないよう防塵機能を有するシール部がハウジングの開口部周辺に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のセーバソーにおけるシール部では、作業時に発生する粉塵がハウジング内に侵入することを十分に抑制することができず、粉塵による動作不良や、耐久性の低下を生じさせる恐れがあった。
【0006】
そこで本発明は、防塵性の高い動力工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、ハウジングと、前記ハウジング内で回転駆動する駆動源と、前記ハウジング内に支持され、前記駆動源の駆動力によって動作する駆動体と、前記駆動体の周囲に配置され、少なくとも空気または潤滑剤を含む流体を内包し、前記駆動源の駆動に起因する外力によって前記流体を外部へ排出する保持部を有することを特徴とする動力工具を提供している。
【0008】
上記構成によれば、排出される流体を利用して防塵性を高めることができる。
【0009】
また、前記駆動体の外周面をシールするシール部を有し、前記保持部は、前記シール部を支持すると共に、前記外力によって前記シール部に前記潤滑剤を供給することが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、駆動部の駆動に伴いシール部に潤滑剤が供給されるため、シール部の劣化(摩耗)を抑制することができる。これにより、作業時に発生する粉塵がハウジング内に侵入することを好適に抑制することが可能となる。
【0011】
また、前記外力は、前記シール部を介して前記保持部に伝達されることが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、保持部からシール部までの距離を短くすることで、駆動部の駆動に伴ったシール部への潤滑剤供給を好適に行うことができる。
【0013】
また、前記駆動部は、前記ハウジングに対して移動可能であり、前記保持部は、前記ハウジングの少なくとも一部に対して位置決めされ、前記シール部が前記駆動部と一体に移動することにより前記保持部の少なくとも一部を付勢することで前記シール部と前記駆動部との間に前記潤滑剤が供給されることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、シール部に対する潤滑剤の不足が生じたタイミングで、駆動部の駆動に伴いシール部周辺に潤滑剤が供給されるため、適切な時期に適切な量の潤滑剤をシール部に供給でき、それ以上のシール部の劣化(摩耗)を抑制することができる。これにより、作業時に発生する粉塵がハウジング内に侵入することを好適に抑制することが可能となる。
【0015】
また、前記保持部は、弾性体であり、前記潤滑剤が充填された潤滑剤収容部及び所定方向に窪み前記シール部の少なくとも一部を収容する収容部が形成され、前記保持部の少なくとも一部が前記シール部により押圧され弾性変形することによって前記潤滑剤収容部と前記収容部とが連通することが好ましい。
【0016】
これによれば、簡易な構成で、シール部に潤滑剤を供給することが可能となる。
【0017】
また、前記保持部には、駆動部に向けて突出する湾曲面が設けられていることが好ましい。
【0018】
このような構成によれば、シール部からの押圧により保持部が好適に変形することが可能となる。
【0019】
また、前記シール部は、Oリングを有することが好ましい。
【0020】
このような構成によれば、Oリングの劣化等によりOリングが駆動部と一体に移動する場合において、駆動部の駆動に伴いOリングが保持部の一部を押圧することによりシール部と駆動部との間に潤滑剤が供給されるため、それ以上のOリングの劣化(摩耗)を抑制することができる。これにより、作業時に発生する粉塵がハウジング内に侵入することを好適に抑制することが可能となる。
【0021】
また、前記ハウジングには、駆動体の一部が挿通されて外部に連通する開口部が設けられ、前記保持部は前記外力により開口部に向けて前記流体を排出するように構成することが好ましい。
【0022】
このような構成によれば、外部に連通する開口部から内部に粉塵が侵入してくることを抑制できる。
【0023】
また、前記保持部には、前記ハウジング内部から前記ハウジング外部へ前記流体が流れることを許容し、且つ、前記ハウジング外部から前記ハウジング内部へ前記流体が流れることを抑制する逆止弁部が設けられていることが好ましい。
【0024】
このような構成によれば、ハウジングの外部から内部に粉塵等が侵入することを好適に抑制できる。
【0025】
また、前記駆動体は所定方向に延びる駆動軸であり、前記逆止弁部は、前記駆動軸の軸線に向かって延出し前記駆動部の軸方向に直交する方向に対して傾斜する延出部を有することが好ましい。
【0026】
このような構成によれば、駆動軸が伸びる方向に移動して近接する粉塵等の侵入を好適に抑制できる。
【0027】
また、前記保持部は、前記流体を内包するための空間を画成する弾性部材を有し、前記保持部は、前記弾性部材が前記外力に応じて変形して前記空間の容積が減少することにより、外部へ前記空間内の前記流体を排出することが好ましい。
【0028】
このような構成によれば、流体の排出を好適に行うことができる。
【0029】
また、前記弾性部材には、前記駆動軸を挿通させる貫通穴が形成され、前記弾性部材が前記駆動軸の駆動に応じて変形して前記空間の容積が減少することにより、前記貫通穴を介して前記流体が前記ハウジング外部へ排出されることが好ましい。
【0030】
このような構成によれば、駆動軸周辺にある粉塵を外部に排出させることができる。
【0031】
また、前記弾性部材の少なくとも一部を支持する支持部を有し、前記支持部と前記弾性部材の少なくとも一部との間において、前記空間内への前記流体の流入を許容する吸気部が設けられることが好ましい。
【0032】
このような構成によれば、流体の排出を繰り返し行うことが可能となる。
【0033】
また、前記駆動軸は所定方向に延び、前記弾性部材には、前記貫通穴と連通する溝が形成され、前記潤滑剤は前記溝に充填されていることを特徴とする請求項12に記載の動力工具。
【0034】
このような構成によれば、溝に潤滑剤が充填されているため、潤滑剤の排出を長い間行うことができ、ハウジング内部への粉塵侵入を好適に抑制できる。
【0035】
また、前記駆動部は、前記ハウジングに対して往復動可能に構成され、前記駆動源の駆動力の伝達経路上において、前記駆動源と前記駆動部との間に介在し前記駆動源の駆動力を受けて回転するギヤ部と、前記駆動源の駆動力の伝達経路上において、前記ギヤ部と前記駆動部との間に介在し前記ギヤ部の回転運動を前記駆動部の往復動に変換する運動変換機構部と、をさらに有し、前記シール部が前記駆動部と一体に移動することにより前記保持部の少なくとも一部を押圧することで前記シール部に潤滑剤が供給されることが好ましい。
【0036】
このような構成によれば、シール部の劣化等によりシール部が駆動部と一体に往復動する場合において、駆動部の往復動に伴いシール部が保持部の一部を押圧することによりシール部と駆動部との間に潤滑剤が供給されるため、それ以上のシール部の劣化(摩耗)を抑制することができる。これにより、作業時に発生する粉塵がハウジング内に侵入することを好適に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の動力工具によれば、作業時に発生する粉塵が動力工具本体内に侵入することを好適に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの内部構造を示す断面側面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーのプランジャ、防塵機構部、本体ケース及びプランジャカバーを示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーのプランジャの前部、ブレード装着部、防塵機構部及びその周辺を示す断面詳細図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの第1防塵機構の弾性体を示す図であり、(a)は後面図、(b)は右側面図、(c)は正面図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの第1防塵機構の弾性体の断面側面図であり、(A)は
図4(a)のVA-VA線断面図、(B)は
図4(a)のVB-VB線断面図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーのプランジャの前部、ブレード装着部、防塵機構部及びその周辺を示す断面詳細図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの作業時における内部構造を示す断面側面図であり、切替部が押圧姿勢であり、且つ、ブレード装着部が前方位置に位置する状態が示されている。
【
図8】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの作業時における内部構造を示す断面側面図であり、切替部が押圧姿勢であり、且つ、ブレード装着部が後方位置に位置する状態が示されている。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの作業時における内部構造を示す断面側面図であり、切替部が解除姿勢であり、且つ、ブレード装着部が前方位置に位置する状態が示されている。
【
図10】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの作業時における内部構造を示す断面側面図であり、切替部が解除姿勢であり、且つ、ブレード装着部が後方位置に位置する状態が示されている。
【
図11】切替部が解除姿勢である場合における作業時のセーバソーのプランジャの先端部分のギヤハウジングの本体ケースに対する挙動を模式的に示す図である。
【
図12】
図11の(i)点に対応し、プランジャの前部、ブレード装着部、防塵機構部及びその周辺を示す断面詳細図である。
【
図13】
図11の(ii)点に対応し、プランジャの前部、ブレード装着部、防塵機構部及びその周辺を示す断面詳細図である。
【
図14】
図11の(iii)点に対応し、プランジャの前部、ブレード装着部、防塵機構部及びその周辺を示す断面詳細図である。
【
図15】
図11の(iv)点に対応し、プランジャの前部、ブレード装着部、防塵機構部及びその周辺を示す断面詳細図である。
【
図16】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの防塵機構部の第2防塵機構の効果を説明する図であり、ブレード装着部が前方位置に位置する状態が示されている。
【
図17】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの防塵機構部の第2防塵機構の効果を説明する図であり、ブレード装着部が前方位置から後方に移動する状態が示されている。
【
図18】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの防塵機構部の第2防塵機構の効果を説明する図であり、ブレード装着部が後方位置に位置する状態が示されている。
【
図20】本発明の第1の実施の形態に係るセーバソーの防塵機構部の第2防塵機構の効果を説明する図であり、ブレード装着部が後方位置から前方位置に復帰した状態が示されている。
【
図21】本発明の第2の実施の形態に係るセーバソーのプランジャの前部、ブレード装着部、防塵機構部及びその周辺を示す断面詳細図である。
【
図23】本発明の第2の実施の形態に係るセーバソーの効果を説明する図であり、防塵機構部及びその周辺を示す断面詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の第1の実施の形態に係る動力工具の一例であるセーバソー1について説明する。以下の説明においては、
図1に示されている「上」を上方向、「下」を下方向、「前」を前方向、「後」を後方向と定義する。また、セーバソー1を後から見た場合の「右」を右方向、「左」を左方向と定義する。本明細書において寸法、数値等について言及した場合には、当該寸法及び数値等と完全に一致する寸法及び数値だけでなく、略一致する寸法及び数値等(例えば、製造誤差の範囲内である場合)を含むものとする。「同一」、「直交」、「平行」、「一致」、「面一」、「一定」、「対称」等についても、同様に「略同一」、「略直交」、「略平行」、「略一致」、「略面一」、「略一定」、「略対称」等を含むものとする。
【0040】
セーバソー1は、木材、鋼材、パイプ等(被切断材)を切断するための電動式の往復動工具である。
図1に示されているように、セーバソー1は、電池パックPを着脱可能なハウジング2と、モータ3と、制御基板4と、コントロール部5と、ギヤ部6と、プランジャ7と、ブレードQ(
図2参照)を取り付け可能なブレード装着部8と、防塵機構部9とを有している。
【0041】
ハウジング2は、セーバソー1の外郭をなしており、モータハウジング21と、ハンドルハウジング22と、ギヤハウジング23と、フロントカバー24とを有している。
【0042】
モータハウジング21及びハンドルハウジング22は、ハウジング2の中央部分を通り且つ左右方向に直交する分割面(仮想面)で分割された分割ハウジングとして構成されており、それぞれの分割された右側部分と左側部分とは、分割面に関して対称に構成されている。
【0043】
図1に示されているように、モータハウジング21は、円筒部211と、延出部212とを有している。円筒部211は、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、モータ3と、制御基板4とを収容している。延出部212は、円筒部211の後部の下端から後下方へ延びる略円筒形状をなしている。
【0044】
図1に示されているように、ハンドルハウジング22は、側面視略コ字状をなしており、モータハウジング21の後方に位置している。ハンドルハウジング22は、把持部221と、第1接続部222と、第2接続部223とを有している。
【0045】
把持部221は、作業時に作業者によって把持される部分であり、上下方向に延びている。把持部の前部上部には、モータ3の始動及び停止を制御するための手動操作可能なトリガ22Aが設けられている。
【0046】
第1接続部222は、把持部221の上端部から前方に延出している。第1接続部222の前端部は、モータハウジング21の円筒部211の後部の上端部と接続されている。
【0047】
第2接続部223は、ハンドルハウジング22の下部をなし、前後方向に延びている。第2接続部223の前端部は、モータハウジング21の延出部212の後端部と接続されている。
【0048】
また、第2接続部223の下端部には、電池パックPを接続可能な電池接続部223Aが設けられている。電池接続部223Aには、電池パックPの図示せぬ端子部と接続される電池接続端子部223Bが設けられている。
【0049】
図1に示されているように、ギヤハウジング23は、モータハウジング21の円筒部211から前方に延びている。ギヤハウジング23は、ギヤ部6、プランジャ7を収容している。ギヤハウジング23の前端部には、切断作業時に被切断材に当接させるベース23Dが設けられている。ギヤハウジング23は、本体ケース230、プランジャカバー231、一対の摺動メタル232A、232B、ベアリング233、カバー234及び切替部235を主に有している。
【0050】
図2に示されているように、本体ケース230は、前後方向に延びる略円筒形状なしている。本体ケース230は、ギヤハウジング23内の構成要素を支持している。本体ケース230は、本体ケース230の上下方向の中央を通り且つ上下方向に直交する分割面(仮想面)で分割された分割ハウジングとして構成されている。また、
図3に示されているように、本体ケース230は、開口部23A、第1延出部23B及び第2延出部23Cを有している。
【0051】
開口部23Aは、本体ケース230の内周面から本体ケース230の内方に延出する壁を有している。当該壁は、本体ケース230の内周面の周方向全域に亘り設けられ、その延出端面によって、開口23aが形成されている。開口23aによって、ハウジング2(ギヤハウジング23)と外部とが連通している。開口部23A(開口23a)には、プランジャ7が挿通される。開口部23Aは、本発明における「開口部」の一例である。
【0052】
第1延出部23Bは、開口23aよりも後方に位置し、本体ケース230の上部の内周面から本体ケース230の内方に延出している。
【0053】
第2延出部23Cは、第1延出部23Bよりも後方に位置し、本体ケース230の下部の内周面から本体ケース230の内方に延出している。
【0054】
図1及び
図2に示されているプランジャカバー231は、前後方向に延出する金属製部材である。プランジャカバー231の前部には、摺動メタル232Aが設けられる摺動メタル配設部231aが形成され、後部には、摺動メタル232Bが設けられる摺動メタル配設部231bが形成されている。摺動メタル配設部231a、231bは、前後方向に延びると共に上方に矩形状に窪んでいる。また、プランジャカバー231は、揺動軸231Aと、防塵機構収容部231B(
図3参照)とを有している。
【0055】
揺動軸231Aは、プランジャカバー231の前部の下部に設けられ、左右方向に延びている。揺動軸231Aの左端部及び右端部は、本体ケース230に支持されている。プランジャカバー231は、揺動軸231Aの軸線を中心として、本体ケース230に対して、上下方向に揺動可能に構成されている。
【0056】
図3に示されているように、防塵機構収容部231Bは、プランジャカバー231の前部を形成し、前後方向に延びている。防塵機構収容部231Bは、筒部231Cと、底部231Dとを有している。
【0057】
筒部231Cは、前後方向に延びる中空の筒状に形成されている。底部231Dは、筒部231Cの後端部と接続され、筒部231Cの内方に向かって延びるように設けられている。底部231Dの略中央部には貫通孔が形成され、当該貫通孔にはプランジャ7が挿通されている。筒部231Cの内周面と底部231Dの前面とによって画成された空間には、防塵機構部9の後部が収容されている。
【0058】
また、
図1及び
図2に示されているように、本体ケース230とプランジャカバー231との間には、スプリング231Eが設けられている。スプリング231Eは、プランジャカバー231の後部を下方に付勢している。
【0059】
摺動メタル232Aは、プランジャカバー231の摺動メタル配設部231aに固定され、摺動メタル232Bは、プランジャカバー231の摺動メタル配設部231bに固定されている。摺動メタル232A、232Bのそれぞれには前後方向に延びる貫通孔232a、232bが形成され、当該貫通孔232a、232bには、プランジャ7が挿通されている。これにより、プランジャカバー231は、摺動メタル232A及び232Bを介して、前後方向に往復摺動可能にプランジャ7を支持している。また、
図2に示されているように、摺動メタル232Bは、円筒部232Cを有している。
【0060】
円筒部232Cは、摺動メタル232Bの前端部をなし、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。円筒部232Cの外径は、ベアリング233の内輪部の径と略同径に構成されている。
【0061】
図1及び
図2に示されているベアリング233は、円筒部232Cに設けられている。詳細には、ベアリング233の内輪部は、円筒部232Cの外面に固定され、且つ、ベアリング233の外輪部は、円筒部232Cに対して回転可能に構成されている。
【0062】
図1に示されているカバー234は、ギヤハウジング23の下部を形成し、断面視略台形状に形成されると共に下方に突出するように設けられている。カバー234は、ギヤ部6の下部を覆うように配置され、ギヤ部6の下部を支持している。
【0063】
切替部235は、図示せぬ左右方向に延出する軸を中心にして回転可能に本体ケース230に設けられている。切替部235は、左右方向に垂直な断面が略半月状に形成されている。切替部235は、プランジャカバー231及び摺動メタル232Bを上方に押圧する押圧姿勢と、押圧を解除する解除姿勢との間で姿勢を変えることが可能に構成されている。本実施の形態においては、略半月状の断面が略前方を向いている切替部235の姿勢が押圧姿勢であり(
図7、
図8参照)、略半月状の断面が略上方を向いている切替部235の姿勢が解除姿勢である(
図9、
図10参照)。言い換えると、側面視において切替部235がなす半月形状における弦の部分が上下方向に延びている状態が押圧姿勢であり、側面視において切替部235がなす半月形状における弦の部分が前後方向に延びている状態が解除姿勢である。
【0064】
図1に示されているフロントカバー24は、モータハウジング21の前端から前方に延び、前方に向かうに従って縮径する略円筒形状をなし、ギヤハウジング23の外周面略全域を覆っている。フロントカバー24は、例えば摩擦係数の大きい樹脂などの絶縁性及び断熱性の高い弾性部材からなる。
【0065】
図1に示されるモータ3は、DCブラシレスモータであり、回転軸31と、ピニオン32と、ロータ33と、ステータ34と、ファン35と、弾性体36とを有している。モータ3は、本発明における「駆動源」の一例である。
【0066】
回転軸31は、前後方向に延び、前後方向に延びる軸線Aを中心として回転可能に且つハウジング2に対して前後方向に移動可能にハウジング2に支持されている。軸線Aは、左右方向に延び回転軸31の軸心を通る線である。
【0067】
ピニオン32は、回転軸31の前端部に回転軸31と一体に設けられており、回転軸31と一体に同軸回転する。
【0068】
ロータ33は、永久磁石を有しており、回転軸31と同軸一体回転するように回転軸31に固定されている。
【0069】
ステータ34は、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、スター型接続された3つのステータコイルを有している。ステータ34は、モータハウジング21の円筒部211内に収容された状態でハウジング2に対して固定されている。
【0070】
ファン35は、ピニオン32の後方において、回転軸31と一体回転可能に回転軸31と一体回転可能に回転軸31に固定されている。
【0071】
弾性体36は、弾性変形可能なゴム製の部材であり、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。本実施の形態においては、回転軸31に働くスラスト力が非常に大きくなった際に、回転軸31及び回転軸31と一体に構成された部材が後方に移動することにより、弾性体36が後方に圧縮されるため、回転軸31及びギヤ部6に加わる衝撃を緩和することができる。つまり、回転軸31及びギヤ部6の衝撃に対する耐久性を向上させることができ、回転軸31及びギヤ部6の破損及び変形を抑制することが可能となる。
【0072】
制御基板4は、前面視略環形状をなしており、モータ3の後方に設けられている。制御基板4上には、モータ3の回転軸31の位置検出のためのホール素子及びモータ3を制御するための6個のFET等が設けられている。
【0073】
コントロール部5は、コントロールボックス51と、パネル52とを有している。
【0074】
コントロールボックス51は、略直方体状に形成され、ハンドルハウジング22の第2接続部223内に配置されている。コントロールボックス51は、ユーザのトリガ22Aに対する操作及びホール素子41から出力される信号に応じて駆動信号を6個のFETに選択的に出力し、モータ3の回転方向及び回転速度等を制御する制御基板部(制御部)を収容している。制御基板部は、例えば、マイコン及び駆動信号出力回路等によって構成されている。
【0075】
パネル52は、モータハウジング21の延出部212の周壁に嵌め込まれ、コントロールボックス51と電気的に接続されている。パネル52の延出方向の端面には、作業者が視認可能な表示部が設けられており、作業者は表示部に表示されたバッテリー残量表示や切断速度表示等を確認しながら、作業を行うことが可能である。
【0076】
図1に示されているように、ギヤ部6は、中間軸60と、伝達ギヤ部61と、カウンタウェイト部62とを有している。
【0077】
中間軸60は、上下方向に延びる略円柱形状をなしている。中間軸60は、大径のボールベアリングと小径のニードルベアリングとによってギヤハウジング23に上下方向に延びる軸線Bを中心として回転可能に支承されている。軸線Bは、モータ3の回転軸31と直交し、上下方向に延び、中間軸60の軸心を通る線である。
【0078】
伝達ギヤ部61は、ベベルギヤ610と、オービタルガイド611と、ピン612と、ニードルベアリング613と、コネクティングピース614とを有している。ベベルギヤ610は、ウェイト610Aを有している。
【0079】
ベベルギヤ610は、平面視略円形状をなし、モータ3のピニオン32と噛合している。ベベルギヤ610は、モータ3の駆動力を受けて回転する。ベベルギヤ610は、中間軸60にネジによって固定されており、軸線Bを中心に、中間軸60と一体に回転可能である。ベベルギヤ610は、平面視において、反時計回り方向に回転する。なお、ベベルギヤ610は、鋼材の削り出し加工によって形成され、歯切りがなされたギヤである。ベベルギヤ610は、ウェイト610Aを有している。ベベルギヤ610は、本発明における「ギヤ部」の一例である。
【0080】
ウェイト610Aは、ベベルギヤ610において、軸線Bに関してピン612の反対側に位置するように構成されている。ウェイト610Aは、ベベルギヤ610の他の部分と一体に形成された錘であり、ベベルギヤ610の一部分をなしている。言い換えると、ウェイト610Aは、ベベルギヤ610に設けられ、ベベルギヤ610と一体に回転可能である。ウェイト610Aは、ベベルギヤ610の内ウェイト610A以外の部分の合成質量よりも大きな質量を有している。
【0081】
オービタルガイド611は、軸線Bを中心にベベルギヤ610と一体回転可能に設けられている。オービタルガイド611は、平面視において、軸線Bを中心とする略円形状をなし、ベベルギヤ610と同一の外径を有している。また、オービタルガイド611の上端は、中間軸60に対して斜めに交差する方向に延びる平面で切断したように形成されている。言い換えると、オービタルガイド611の上端は、左右方向及び前後方向に対して平行に延びる仮想の平面に対し、傾きを持つように形成されている。
【0082】
また、オービタルガイド611の上端は、ギヤハウジング23のベアリング233と当接可能に構成されている。詳細には、切替部235が解除姿勢であるとき、オービタルガイド611の上端はベアリング233と当接し、ベアリング233を介してプランジャカバー231の後部を支持する。ベベルギヤ610が回転するとき、ベアリング233は、回転しながらオービタルガイド611の上端の形状に沿ってオービタルガイド611の高さに応じて上下方向に往復動を行う。このベアリング233の上下方向の往復動によって、ギヤハウジング23のプランジャカバー231は、揺動軸231Aの軸心を中心として、上下方向に揺動する。また、本体ケース230とプランジャカバー231との間に設けられたスプリング231Eがプランジャカバー231の後部を下方に付勢するため、切替部235が解除姿勢である場合において、ベアリング233とオービタルガイド611の上端面とが好適に当接し、ブレード装着部8に取付けられたブレードQに好適にオービタル運動をさせることが可能となる。また、切替部235が押圧姿勢であるとき、オービタルガイド611の上端はベアリング233と離間する。そのため、ベベルギヤ610が回転しても、ベアリング233の上下方向の位置は、一定に保たれる。また、オービタルガイド611には、軸線Bに関して偏心した位置にオービタルガイド611を上下方向に貫通する貫通孔が形成されている。
【0083】
ピン612は、上下方向に延びる略円柱形状をなしている。ピン612の下部は、ベベルギヤ610の軸線Bに関して偏心した位置に圧入により固定されている。ピン612の上部は、ベベルギヤ610の上面からオービタルガイド611の貫通孔を介して軸線B方向に突出している。
【0084】
ニードルベアリング613は、ピン612の上部に設けられている。言い換えると、ニードルベアリング613は、ピン612の突出端に設けられている。ニードルベアリング613は、ピン612に対して回転可能である。
【0085】
コネクティングピース614は、上下方向に延びる略円筒形状に形成されている。コネクティングピース614の内周面には、ニードルベアリング613が回転可能に設けられている。これにより、コネクティングピース614は、ピン612に対して回転可能である。
【0086】
カウンタウェイト部62は、ベベルギヤ610の下方において、モータ3の回転軸31の軸線Aに関してベベルギヤ610と上下に対向するように配置される。カウンタウェイト部62は、ベベルギヤ620と、ウェイト620Aとを有している。
【0087】
ベベルギヤ620は、その後部においてピニオン32と噛合し、ベアリングを介して中間軸60に対して軸線Bを中心に回転可能に構成されている。ベベルギヤ620は、平面視において、時計回り方向に回転する。つまり、ベベルギヤ610とは、逆方向に回転する。ベベルギヤ620の有する歯の数は、ベベルギヤ610の有する歯の数と等しい。
【0088】
ウェイト620Aは、カウンタウェイト部62の他の部分と一体に形成された錘であり、カウンタウェイト部62の一部分をなしている。ウェイト620Aは、カウンタウェイト部62におけるウェイト620A以外の部分の合成質量よりも大きな質量を有している。
【0089】
ここで、本実施の形態においては、伝達ギヤ部61、つまり、平面視における反時計回り方向に一体に回転するベベルギヤ610、オービタルガイド611、ピン612、ニードルベアリング613及びコネクティングピース614の合成体としての重心(以下の説明においては、「伝達ギヤ部61の重心」と呼ぶ)と当該重心(伝達ギヤ部61の重心)と軸線Bとの間の距離との積は、カウンタウェイト部62、つまり、平面視における時計回り方向に一体に回転するカウンタウェイト部62の合成体としての重心(以下の説明においては、「カウンタウェイト部62の重心」と呼ぶ)と当該重心(カウンタウェイト部62の重心)と軸線Bとの間の距離との積に略等しくなるように構成されている。このような構成によれば、伝達ギヤ部61及びカウンタウェイト部62が同一の大きさの角速度で互いに反対方向に回転したとき、伝達ギヤ部61に発生する遠心力の大きさと、カウンタウェイト部62に発生する遠心力の大きさとを略等しくすることが可能となる。これにより、プランジャ7の往復動方向と直交する方向の振動が往復動工具に発生することを好適に抑制することが可能となる。
【0090】
プランジャ7は、モータ3の駆動力の伝達経路上においてベベルギヤ610とブレード装着部8との間に介在している。プランジャ7は、前後方向に延び、プランジャカバー231の前部及び後部に配置された一対の摺動メタル232A、232Bを介して、プランジャカバー231に対して前後方向に往復動可能に支持されている。具体的には、プランジャ7は、軸線Cに沿って往復動する。ここで、軸線Cは、プランジャ7の軸心を通る線である。プランジャ7の前端部は開口23aからギヤハウジング23外部に延出している。また、プランジャ7は、プランジャカバー231の揺動軸231Aを中心とする揺動に伴って、上下に揺動可能である。また、プランジャ7には、ピンガイド71が設けられている。プランジャ7は、本発明における「駆動部」、「駆動体」、「駆動軸」の一例である。
【0091】
ピンガイド71は、モータ3の回転力の伝達経路上において、ベベルギヤ610とプランジャとの間に介在し、ベベルギヤ610の回転運動をプランジャ7の往復動に変換する。ピンガイド71は、プランジャ7の前後方向における中間部よりも後部且つ後端部よりも前部にプランジャ7と一体に設けられている。ピンガイド71の下部には、左右方向に延びると共に上方に窪むガイド溝71aが形成されている。ガイド溝71aの前後方向の幅は、ピン612の直径よりも僅かに大きく形成されている。コネクティングピース614は、ガイド溝71aに接続され、ピン612の上部は、ニードルベアリング613及びコネクティングピース614と共に、左右方向に移動可能にガイド溝71aに収容されている。つまり、ピン612は、ピンガイド71に対して前後方向の移動が規制され、左右方向の移動が許容されている。より詳細には、コネクティングピース614がピン612の上部に対して回転することにより、ピン612、ニードルベアリング613及びコネクティングピース614は、ガイド溝71aを左右方向に移動する。また、ピンガイド71は、ピン612に対して上下方向に移動可能である。ピンガイド71は、本発明における「運動変換機構部」の一例である。
【0092】
ブレード装着部8は、プランジャ7の前端部に設けられ、材料を切断するためのブレードQを装着可能に構成されている。ブレード装着部8は、軸線Cに沿って往復動可能である。
【0093】
次に、
図2乃至
図6を参照しながら、防塵機構部9の構成について、説明する。
図2に示されているように、防塵機構部9は、第1防塵機構91と、第2防塵機構92とを有している。
【0094】
図3に示されているように、第1防塵機構91は、ギヤハウジング23の開口部23Aに設けられ、プランジャ7の外周面を取り囲むように配置されている。具体的には、第1防塵機構91は開口23aに隣接して設けられる。
図2及び
図3に示されているように、第1防塵機構91は、第1挟持部材911と、第2挟持部材912と、弾性体913とを有している。第1防塵機構91は、本発明における「排出機構部」及び「保持部」の一例である。第1挟持部材911及び第2挟持部材912は、本発明における「支持部」の一例である。
【0095】
図2及び
図3に示されている第1挟持部材911は、金属製の部材であり、その前面がギヤハウジング23の開口23aを形成する壁の後面と当接するようにギヤハウジング23内に配置されている。第1挟持部材911は、円板部911Aと、縁部911Bとを有している。
【0096】
円板部911Aは、後面視において略円形状をなしている。円板部911Aの内周面911aの直径は、プランジャ7の直径よりも大きく構成され、内周面911aには、プランジャ7が挿通されている。
【0097】
縁部911Bは、第1挟持部材911の外縁部をなし、円板部911Aの径方向外方の端部から後方に筒状に延出している。
【0098】
第2挟持部材912は、金属製の部材であり、円筒部912Aと、当接部912Bとを有している。
【0099】
円筒部912Aは、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。円筒部912Aの径方向における略中央部には、貫通孔912aが形成されている。貫通孔912aの内径は、プランジャ7の外径と同一に構成され、貫通孔912aには、プランジャ7が挿通されている。プランジャ7は、円筒部912A(第2挟持部材912)に対して往復摺動可能である。
【0100】
当接部912Bは、第2挟持部材912の後部をなし、後面視略円環状をなしている。
図3に示されているように、当接部912Bは、側面視において、所定の曲率で円筒部912Aの後端から後方に向かうに従って円筒部912Aの径方向外方へ延びた後、直線的に円筒部912Aの径方向外方へ延びるように形成されている。当接部912Bの後面は、プランジャカバー231の防塵機構収容部231Bの筒部231Cの前面及び第2防塵機構92の前面と当接している。
【0101】
図4及び
図5に示されている弾性体913は、前後方向に厚みを有し、ゴムや樹脂等の弾性部材により構成されている。弾性体913は、正面視及び後面視において、下方上円状に形成されている。言い換えると、弾性体913の下部は、略直方体状に形成され、上部は、所定の曲率を有する半円状に形成されている。また、弾性体913の略中央部には、前後方向に貫通する貫通孔913bが形成されている。貫通孔913bには、第2挟持部材912の円筒部912A及び円筒部912Aに挿通されたプランジャ7が挿通されている。弾性体913は、本体部9130と、第1縁部913Aと、第2縁部913Bと、逆止弁部913Cと、第1環状突起913Dと、第2環状突起913Eと、第3環状突起913Fとを有している。弾性体913は、本発明における「弾性部材」の一例である。
【0102】
本体部9130は、弾性体913の本体部分をなしている。
図4(c)、
図5(A)、(B)に示されているように、本体部9130の前部には、前面視において円形状をなし、本体部9130の前面から後方に窪む環状凹部9130aが形成されている。また、
図4(a)、
図5(A)、(B)に示されているように、本体部9130の後部には、後面視において円形状をなし、本体部9130の後面から前方に窪む環状凹部9130bが形成されている。
【0103】
図4(b)に示されているように、第1縁部913A及び第2縁部913Bは、弾性体913の本体部9130から貫通孔913bの径方向外方に僅かに突出している。また、
図4(b)に示されているように、本体部9130の側面、第1縁部913A及び第2縁部913Bによって、貫通孔913bの径方向内方に窪む保持溝913aが形成されている。
【0104】
逆止弁部913Cは、ギヤハウジング23内部からギヤハウジング23外部へ流体(本実施の形態では空気または油)が流れることを許容し、且つ、ギヤハウジング23内部からギヤハウジング23内部へ流体が流れることを抑制するように構成されている。
図5(A)に示されているように、逆止弁部913Cは、壁部913Gと、延出部913Hとを有している。壁部913Gは、前後方向に延びる略円筒形状をなし、貫通孔913bを形成する部分である。
【0105】
延出部913Hは、壁部913Gの前部に設けられている。延出部913Hは、貫通孔913bの径方向内方に向かって前方に傾斜して延出する。言い換えると、延出部913Hは、プランジャ7の軸線Cに向かって延出しプランジャ7の軸線C方向に直交する方向に対して傾斜している。なお、延出部913Hに外力が働いていない状態においては、
図5(A)に示されているように、延出部913Hが前方へ傾斜する角度は、角度αである。
【0106】
図5に示されているように、第1環状突起913Dは、前面視略環状をなし、環状凹部9130aを形成する底面から前方に突出している。第2環状突起913Eは、前面視略環状をなし、環状凹部9130aを形成する底面から前方に突出している。前面視において、第2環状突起913Eは、第1環状突起913Dよりも貫通孔913bの径方向内方に位置している。
【0107】
また、第1環状突起913D及び第2環状突起913Eが環状凹部9130aを形成する底面から突出していることにより、第1環状溝913c及び第2環状溝913dが形成されている。第1環状溝913c及び第2環状溝913dのそれぞれは、前面視において、略環形状をなしている。前面視において、第2環状溝913dは、第1環状溝913cよりも貫通孔913bの径方向内方に形成されている。また、第2環状溝913dには、油が充填されている。なお、本実施の形態においては、油は粘性を持ったグリスである。すなわち、本実施の形態における油は非ニュートン流体の性質を有し、与えられる応力の大きさによって流動性が変化する。第2環状溝913dは、本発明における「溝」の一例である。油は、本発明における「流体」の一例である。
【0108】
また、
図4(a)及び(c)に示されているように、弾性体913には、本体部9130を前後方向に貫通する複数の貫通孔913eが形成されている。本実施の形態においては、貫通孔913eは、4つ形成されている。
図4(c)に示されているように、複数の貫通孔913eは、第2環状溝913dと重なる位置に形成されている。これにより、
図5(B)に示されているように、複数の貫通孔913eと第2環状溝913dとは、連通している。これにより、第2環状溝913dに充填された油は、複数の貫通孔913eに流入することが可能である。
【0109】
図4(a)に示されているように、第3環状突起913Fは、後面視略環状をなし、本体部9130の後面から後方に突出している(
図5参照)。
【0110】
ここで、第1防塵機構91の各構成要素のギヤハウジング23内における配置関係について説明する。
図6に示されているように、弾性体913は、第1挟持部材911及び第2挟持部材912によって挟み込まれるようにして、ギヤハウジング23内に配置されている。言い換えると、第1挟持部材911及び第2挟持部材912は、弾性体913を支持している。
【0111】
詳細には、弾性体913は、ギヤハウジング23の第1延出部23Bが弾性体913の保持溝913a内に位置するようにギヤハウジング23内に収容される。また、第1環状突起913D及び第2環状突起913Eの突出端部が第1挟持部材911の円板部911Aの後面と当接している。また、第3環状突起913Fの突出端部が第2挟持部材912の当接部912Bの前面と当接している。また、弾性体913の下部は、ギヤハウジング23の開口部23Aの壁及び第2延出部23Cとの間に嵌め込まれている。これにより、弾性体913の前後方向の位置が位置決めされている。
【0112】
また、
図6に示されているように、第1挟持部材911の縁部911Bの外周面が環状凹部9130aを形成する内周面と当接している。これにより、弾性体913の上下方向の位置が位置決めされている。
【0113】
また、弾性体913がギヤハウジング23内に配置されている状態において、逆止弁部913Cの延出部913Hは、第2挟持部材912の円筒部912Aの内周面に密着している。この状態において、延出部913Hが前方へ傾斜する角度は、角度α(
図5(A)参照)よりも大きくなる。
【0114】
また、延出部913Hが円筒部912Aの外周面に密着し、第1環状突起913D及び第2環状突起913Eが円板部911Aの後面と当接し、第3環状突起913Fが当接部912Bの前面と当接することにより、第2環状溝913d及び複数の貫通孔913eを含み、少なくとも外力が作用していない状態において、第1防塵機構91外部との連通が遮断された空間91aが画成されている。また、本実施の形態においては、第2挟持部材912の当接部912Bと第3環状突起913Fとによって、第1防塵機構91に所定の外力が作用した場合において、空間91a内への空気(流体)の流入を許容する吸気部91Aが形成されている。吸気部91Aと逆止弁部913Cとは、離間している。空間91aは、本発明における「空間」の一例である。吸気部91Aは、本発明における「吸気部」及び「吸入部」の一例である。空気は、本発明における「流体」の一例である。
【0115】
図2に示されているように、第2防塵機構92は、第1保持部材921と、第2保持部材922と、環状部材923と、Oリング924とを有している。第2防塵機構92、及び第1保持部材921及び第2保持部材922は、本発明における「保持部」の一例である。環状部材923及びOリング924は、本発明における「シール部」の一例である。
【0116】
第1保持部材921は、ゴムや樹脂等の弾性部材により構成され、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。
図6に示されているように、第1保持部材921には、環状突起921Aが設けられている。
【0117】
環状突起921Aは、前面視略環状をなす突起である。本実施の形態において、環状突起921Aは、第1保持部材921の外周面に複数設けられ、且つ、第1保持部材921の前面にも複数設けられている。第1保持部材921は、プランジャカバー231の防塵機構収容部231Bに圧入されている。詳細には、第1保持部材921の外周面に位置する環状突起921Aが防塵機構収容部231Bの筒部231Cの内周面と当接することにより押圧力が発生し、第1保持部材921の前面に位置する環状突起921Aが第2挟持部材912の当接部912Bの後面と当接することにより押圧力が発生し、第1保持部材921の後面が第2保持部材922の前面と当接することにより、第1保持部材921はプランジャカバー231に対して固定されている。つまり、第1保持部材921は、ギヤハウジング23の一部であるプランジャカバー231に対して位置決めされている。
【0118】
また、第1保持部材921の径方向における略中央部には、第1保持部材921を前後方向に貫通する貫通孔921cが形成されている。貫通孔921cの直径は、プランジャ7の直径よりも大きく構成され、貫通孔921cには、プランジャ7が挿通されている。
【0119】
また、第1保持部材921の前部には、第1保持部材921の内周面から第1保持部材921の径方向外方に窪み環状部材923を収容する環状部材収容部921aが形成されている。また、第1保持部材921の後部には、第1保持部材921の内周面から第1保持部材921の径方向外方に窪みOリング924を収容するOリング収容部921bが形成されている。貫通孔921c、環状部材収容部921a及びOリング収容部921bは、前後方向において連通している。
【0120】
第2保持部材922は、ゴムや樹脂等の弾性部材により構成され、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。第2保持部材922には、環状突起922Aが設けられている。
【0121】
環状突起922Aは、後面視略環状をなす突起である。本実施の形態において、環状突起922Aは、第2保持部材922の外周面及び後面のそれぞれに1つずつ設けられている。第2保持部材922は、プランジャカバー231の防塵機構収容部231Bに圧入されている。詳細には、第2保持部材922の外周面に位置する環状突起922Aが防塵機構収容部231Bの筒部231Cの内周面と当接することにより押圧力が発生し、第2保持部材922の後面に位置する環状突起922Aが防塵機構収容部231Bの底部231Dの前面と当接することにより押圧力が発生し、第2保持部材922の前面が第1保持部材921の後面と当接することにより、第2保持部材922は、プランジャカバー231に対して固定されている。つまり、第2保持部材922は、ギヤハウジング23の一部であるプランジャカバー231に対して位置決めされている。
【0122】
また、第2保持部材922は、湾曲面922Bを有している。湾曲面922Bは、所定の曲率を有し、プランジャ7の外周面に対向し当該外周面に向けて突出している。このように第2保持部材922のプランジャ7の外周面に対向する面が湾曲していることにより、第2保持部材922がOリング924から後方へ押圧され変形する場合において、第2保持部材922とプランジャ7とが接触することが好適に抑制され、第2保持部材922は好適に変形することが可能である。また、湾曲面922Bによって、第2保持部材922を前後方向に貫通する貫通孔922bが規定されている。第2保持部材922の前後方向の略中央部における貫通孔922bの直径は、プランジャ7の直径よりも大きく構成され、貫通孔922bには、プランジャ7が挿通されている。湾曲面922Bは、本発明における「湾曲面」の一例である。
【0123】
また、第2保持部材922には、潤滑油収容部922aが形成されている。潤滑油収容部922aは、第2保持部材922の前面から後方に窪み、前面視略環状をなしている。第2防塵機構に外力が作用していない、または外力が小さい状態において、潤滑油収容部922aと第1保持部材921のOリング収容部921bとは、連通していない。すなわち、第2防塵機構への外力が十分に小さいとき、潤滑油収容部922aは閉塞された空間を形成し、当該空間に潤滑油が保持されている。なお、潤滑油収容部922aは必ずしも完全に閉塞させる必要はなく、潤滑油の流出が抑制されるような構成でもよい。本実施の形態においては、潤滑油は、グリスである。潤滑油は、本発明における「潤滑剤」及び「流体」の一例である。潤滑油収容部922aは、本発明における「潤滑剤収容部」の一例である。
【0124】
なお、第1保持部材921及び第2保持部材922は、環状部材923及びOリング924を取り囲んで環状部材923及びOリング924をプランジャ7の外周面に接触するように支持すると共に潤滑油を収容する保持部を構成している。
【0125】
環状部材923は、本実施の形態では油を含浸させたフェルトにより構成されている。環状部材923は、前後方向に厚みを有する環状をなし、第1保持部材921に形成された環状部材収容部921aに収容されている。環状部材923は、第1保持部材921によってプランジャ7の外周面と接触するように保持されている。環状部材923は、プランジャ7の外周面を取り囲みプランジャ7の外周面をシールしている。環状部材923の前面は、第1防塵機構91の第2挟持部材912の当接部912Bの後面と当接している。また、環状部材923には、その径方向における略中央部に環状部材923を前後方向に貫通する貫通孔923aが形成されている。貫通孔923aは、その内径がプランジャ7の外形と同一となるように形成され、貫通孔923aには、プランジャ7が挿通されている。このように、環状部材923としてフェルトを配設することにより、万が一高温の鉄粉や液体等がギヤハウジング23の開口23aから侵入した場合も、Oリング924の変形等を抑制することが可能であり、防塵性及び防水性の低下を抑制可能となる。また、環状部材923のフェルトには、油が含浸されるため、Oリング924とプランジャ7との摺動性を高めることが可能となる。
【0126】
Oリング924は、ゴムや樹脂等の弾性部材により構成されている。Oリング924は、第1保持部材921に形成されたOリング収容部921bに収容されている。Oリング924は、プランジャ7の外周面を取り囲みプランジャ7の外周面をシールしている。Oリング924は、環状をなしている。Oリング924の内周面924aは、その内径がプランジャ7の外形よりも僅かに小さくなるように形成されている。Oリング924を弾性変形させることにより、内周面924aには、プランジャ7が挿通されている。このときに、Oリング924は、その弾性によりプランジャ7の外周面に密着する。これにより、プランジャ7の外周との封止性が向上される。なお、Oリング924とプランジャ7との接触面には、予めグリスが塗布され、当該グリスが乾くまでは、プランジャ7はOリング924に対して好適に往復摺動可能である。
【0127】
次に、
図7乃至
図10を参照しながら、本実施の形態に係るセーバソー1を用いた被切断材(例えば、金属パイプ)の切断作業及び切断作業時のセーバソー1の動作について、説明する。
【0128】
切断作業を行う場合、作業者は、ブレード装着部8にブレードQを装着し、被切断材にベース23Dを押し当てる。この状態で、トリガ22Aに対して引操作を行うと、コントロールボックス51に収容された制御部が6個のFETを制御し、電池パックPの電力がモータ3へ供給され、モータ3が駆動を開始する。モータ3が駆動を開始すると、回転軸31及びピニオン32が回転し、ピニオン32と噛合するベベルギヤ610が上下方向に延びる軸線Bを中心として回転を開始する。このベベルギヤ610の回転によって、ピン612が軸線Bを中心とした周回運動を行う。このピン612の周回運動における前後方向の成分のみがピンガイド71に伝達され、プランジャ7、ピンガイド71、ブレード装着部8及びブレード装着部8に装着されたブレードQのそれぞれが最も前方に位置する状態(以下の説明においては、前方位置と呼ぶ、
図7及び
図9参照)と、それぞれが最も後方に位置する状態(以下の説明においては、後方位置と呼ぶ、
図8及び
図10参照)との間を一体に軸線C方向に往復動する。
【0129】
これと同時に、ベベルギヤ610は、噛合するピニオン32によって駆動される。ベベルギヤ610とカウンタウェイト部62との歯の数は等しいため、カウンタウェイト部62は、ベベルギヤ610と逆方向に、同じ大きさの角速度で回転する。ベベルギヤ610及びカウンタウェイト部62それぞれの回転に伴い、伝達ギヤ部61の重心及びカウンタウェイト部62の重心は、軸線Bを中心として互いに逆方向に、且つ、同じ大きさの角速度で回転し、円運動を行う。
【0130】
ここで、切替部235が押圧姿勢である場合、切替部235がプランジャカバー231の後部を上方へ押圧し、オービタルガイド611の上端とベアリング233とは、離間した状態が維持される。これにより、プランジャカバー231及びプランジャ7は、揺動軸231Aを中心に揺動することはない。言い換えると、切替部235が押圧姿勢である場合において、プランジャ7の軸心を通る軸線Cは前後方向(水平軸O)に対して所定角度傾斜した状態を維持し、プランジャ7は軸線Cに沿って前後方向に往復動する。
【0131】
一方、切替部235が解除姿勢である場合、ベアリング233の外輪部は、オービタルガイド611の上端に回転しながら当接し、オービタルガイド611の上端の形状に沿って、上下方向に往復動する。このベアリング233の上下方向の往復動によって、ギヤハウジング23のプランジャカバー231及びプランジャ7は、揺動軸231Aの軸心を中心として、上下方向に揺動する。このため、切断作業時におけるブレードQは、左右側面視において、楕円運動、いわゆるオービタル運動(
図11参照)を行いながら、被切断材を切断する。これにより、ブレードQが後方に移動する際に被切断材に勢いよく食い込み、作業効率が向上する。なお、プランジャ7が揺動する空間を確保するため、開口23aの内周面はプランジャ7と離間している。
【0132】
次に、
図11乃至
図15を参照しながら、本実施の形態に係るセーバソー1において、第1防塵機構91を設けたことによる効果について説明する。ここで、
図11は、切替部235が解除姿勢である場合における作業時のプランジャ7先端(
図11において黒点で表す)のギヤハウジング23の本体ケース230に対する挙動を模式的に示す図であり、水平軸Oは、前後方向に対して平行な線である。
【0133】
プランジャ7先端が
図11に示す(i)に位置するときに、
図12に示されているように、軸線Cは水平軸Oと平行となっている。この状態から、プランジャ7先端は、
図11の(i)から(ii)へ向かう矢印が示すように、前方に向かうに従い上昇した後に下降する。
【0134】
図13は、
図11の(ii)に対応する図であり、プランジャ7先端が本体ケース230に対して下降していく場合における防塵機構部9及びその周辺部の状態が示されている。ここで、プランジャ7先端は、プランジャ7がプランジャカバー231の揺動軸231Aを中心に揺動することに伴い上下動する。
図12に示すようにプランジャ7先端が下降する場合には、プランジャ7後部が上方へ持ち上がり、プランジャ7の軸線を通る軸線Cは水平軸Oに対して傾斜する。このときに、プランジャ7が挿通された第2挟持部材912及びプランジャカバー231もプランジャ7と一体に揺動する。
図12から
図13の過程(
図11の(i)から(ii)の過程)においては、プランジャ7、プランジャカバー231及び第2挟持部材912は、本体ケース230に対して、
図12及び
図13の時計回り方向に揺動する。
【0135】
この状態において、第1防塵機構91の上部においては、第2挟持部材912の円筒部912Aがプランジャ7の外周から時計回り方向に回転するような押圧を受けることにより、弾性体913の逆止弁部913Cの壁部913Gの後部を上方へ押圧する。また、第2挟持部材912の当接部912Bが時計回り方向に回転しつつ、時計回り方向に回転するプランジャカバー231の防塵機構収容部231Bの前端面に前方に向かって押圧されることにより、弾性体913の第3環状突起913Fと当接しながら弾性体913の後部を前方に押圧する。これにより、弾性体913は、弾性変形し、空間91aの容積が減少する。空間91aの容積が減少することに伴い、空間91a内における圧力が上昇し始める。
【0136】
また、第1防塵機構91の下部においては、第2挟持部材912の円筒部912Aがプランジャ7の外周から時計回り方向に回転するような押圧を受けることにより、弾性体913の逆止弁部913Cの壁部913Gの前部を下方へ押圧する。これにより、弾性体913は、弾性変形し、空間91aの容積が減少する。空間91aの容積が減少することに伴い、空間91a内における圧力が上昇し始める。
【0137】
この状態からさらに、
図14(
図11の(iii))に示されているように、プランジャ7先端が本体ケース230に対して下降すると、第1防塵機構91の上部においては、第2挟持部材912の円筒部912Aが弾性体913の逆止弁部913Cの壁部913Gの後部を上方へさらに押圧し、当接部912Bが弾性体913の後部を前方にさらに押圧する。また、第1防塵機構91の下部においては、円筒部912Aが壁部913Gの前部を下方へさらに押圧する。これにより、弾性体913は、さらに弾性変形し、空間91aの容積がさらに減少する。空間91aの容積が減少することに伴い、空間91a内における圧力がさらに上昇する。
【0138】
このときに、空間91a内の圧力が所定値よりも高くなり、空間91a内の空気及び第2環状溝913dに充填された油が貫通孔913eを介して逆止弁部913Cから排出される。詳細には、圧力が所定値よりも高くなると、逆止弁部913Cの延出部913Hが前方に時計回り方向に回動し、延出部913Hと円筒部912Aの外周面との間に隙間が生じる。当該隙間から空気または油(あるいはその両方)が排出される。なお、空気または油を排出した後、延出部913Hは、すぐに、反時計回り方向に回動し、再び円筒部912Aの外周面と密着する。これにより、空間91a内に粉塵が侵入することが抑制される。
【0139】
このように、第1防塵機構91は、プランジャ7の駆動に起因する外力に応じて変形することによりハウジング2の外部へ空気及び油を排出する。これにより、作業時(プランジャ7の駆動時)において、開口23aからハウジング2内に粉塵が入り込みそうになっても、開口23aから外部に排出された空気及び油(グリス)が粉塵の侵入を効果的に抑制するので、作業時に発生する粉塵のハウジング2内への侵入を好適に抑制することが可能となる。特に、オービタル機構によるプランジャ7の揺動範囲を確保するため、開口23aが大きめに開口しているので、この開口23aから粉塵が侵入する恐れがあるが、開口23aに油(グリス)が送られるので、開口23aの内部及びその周囲の空間に油(グリス)が留まり、開口23aに蓋(シール)をするようなかたちとなる。従って、粘性の高い油(グリス)がプランジャ7の揺動に対応し、流動して開口23aを塞ぐので、より効果的に粉塵がハウジング2内に侵入するのを抑制できる。このように、本実施形態の構成によれば、油(グリス)をオービタル機構のために開口した開口23aに対応するシール材として利用できるので、粉塵がハウジング2内に侵入するのを抑制できる。
【0140】
また、逆止弁部913Cは、上記の通り、ハウジング2内部からハウジング外部へ空気が流れることを許容し、且つ、ハウジング2外部からハウジング2内部へ空気が流れることを抑制している。これにより、作業時に発生する粉塵のハウジング2内への侵入を好適に抑制することが可能となる。
【0141】
また、逆止弁部913Cは、弾性体913が外力に応じて変形して空間91aの容積が減少すること伴い、ハウジング2外部へ空間91a内の空気及び油を排出するため、作業時に発生する粉塵のハウジング2内への侵入を好適に抑制することが可能となる。
【0142】
図15(
図11の(iv))に示すように、プランジャ7先端が下方から上昇してくると、プランジャ7、プランジャカバー231及び第2挟持部材912は一体に
図14の反時計回り方向に揺動する。このときに、第1防塵機構91の上部においては、第2挟持部材912の円筒部912Aによる弾性体913の逆止弁部913Cの壁部913Gの後部に対する上方への押圧、及び、当接部912Bによる弾性体913の後部に対する押圧は緩和される。また、第1防塵機構91の下部においては、円筒部912Aによる弾性体913の逆止弁部913Cの壁部913Gの前部に対する下方への押圧は緩和される。これにより、弾性体913は、元に戻るように弾性変形し、空間91aの容積が増大する。空間91aの容積が増大することに伴い、空間91a内における圧力が小さくなる。
【0143】
このときに、空間91a内の圧力が所定値よりも小さくなると、吸気部91Aから空気が流入する。詳細には、第2挟持部材912の当接部912Bの前面と弾性体913の第3環状突起913Fとの当接が解除され、それにより生じた隙間から本体ケース230内の空気が第1防塵機構91内に流入する。なお、このときに、逆止弁部913Cの延出部913Hは円筒部912Aの外周面と密着しているため、逆止弁部913Cを介する本体ケース230内への粉塵の侵入は抑制されている。
【0144】
次に、
図16乃至
図20を参照しながら、本実施の形態に係るセーバソー1において、第2防塵機構92を設けたことによる効果について、詳細に説明する。なお、第2防塵機構92は、プランジャ7の前後方向の往復動に起因して効果が発生するものであるため、
図16乃至
図20において、作業中におけるプランジャ7の軸線Cの水平軸Oに対する傾きは省略してある。仮にプランジャ7がプランジャカバー231の揺動軸231Aを中心に上下方向に揺動する場合でも、本実施の形態における以下に説明する効果と同様の効果が得られることは当業者に理解されるところである。
【0145】
上述のように、Oリング924とプランジャ7の接触面には、予めグリスが塗布されているため、基本的にプランジャ7は第1保持部材921のOリング収容部921bに収容されたOリング924に対して好適に往復摺動可能である。
【0146】
しかしながら、継続した作業等により、予め塗布された油(グリス)が減少、または無くなってしまった場合、Oリング924とプランジャ7との間における摩擦が増大し、当該Oリング924が摩耗しやすくなってしまう可能性がある。このような状態を放置することにより、早期にOリング924が損傷し、防塵性が低下してしまう可能性があった。
【0147】
本実施の形態においては、
図16に示されるプランジャ7及びブレード装着部8が前方位置に位置する状態から
図17に示されるようにプランジャ7及びブレード装着部8が後方に向かって移動する場合において、プランジャ7の外周面とOリング924との間に発生する摩擦力によって、Oリング924がプランジャ7と一体に後方に移動する。すなわち、Oリング924はプランジャ7から動力を受けてプランジャカバー231内を移動する。
【0148】
この状態において、第2保持部材922はプランジャカバー231に対して位置決めされているため、Oリング924は第2保持部材922の径方向内方の前面を所定の押圧力で後方に押圧する。このときに、第2保持部材922は弾性変形する。
【0149】
この状態から、
図18及び
図19に示されているように、プランジャ7及びブレード装着部8がさらに後方に移動し、後方位置に位置する状態となると、第2保持部材922は、
図17に示されている状態からさらに弾性変形する。なお、拡大図となる
図19においては、第2保持部材922の弾性変形の様子をより詳細に示す。このときに、第2保持部材922の潤滑油収容部922aと、第1保持部材921のOリング収容部921b、貫通孔921c及び環状部材収容部921aとが連通する。換言すれば、潤滑油収容部922aとプランジャ7の外周とを連通する通路が形成される。また、Oリング924の移動によって、潤滑油を保持する潤滑油収容部922aの一部が弾性変形する。これにより、潤滑油収容部922aに保持された潤滑油に力が加わるので、高い粘性を持った潤滑油でもプランジャ7の外周に移動させることができる。このように、Oリング924がプランジャ7によって移動することで、潤滑油収容部922aとプランジャ7の外周とを連通する通路が形成され、かつ潤滑油を保持する潤滑油収容部922aの一部が弾性変形するので、潤滑油がOリング収容部921b及び環状部材収容部921aに移動(流動)し、供給される。そして、Oリング収容部921bに供給された潤滑油は、Oリング924とプランジャ7との接触面に付着する。これにより、プランジャ7はOリング924に対して好適に往復摺動可能となる。また、環状部材収容部921aに収容された環状部材923にも潤滑油が供給され、Oリング924とプランジャ7との摺動性を効率的に高めることが可能である。なお、本実施の形態においては、潤滑油収容部922aとプランジャ7の外周とを連通する通路が形成される点と、潤滑油を保持する潤滑油収容部922aの一部が弾性変形する点の2点を組み合わせることで好適に潤滑油を移動させるように構成したが、いずれか1点の特徴のみでも効果を奏することができる。すなわち、駆動軸となるプランジャ7からの外力によって、潤滑油収容部922aとプランジャ7の外周とを連通する通路が形成される、または拡大されるような構成であっても良い。この場合、潤滑油収容部922aが弾性変形しない場合であっても、粘性が小さい潤滑油であれば、その流動性によってプランジャ7の外周に移動させることができる。また、プランジャ7からの外力によって、潤滑油を収容する潤滑油収容部922aの少なくとも一部が弾性変形する構成であってもよい。この場合、潤滑油収容部922aとプランジャ7の外周とを連通する通路に変化が無くても、弾性変形によって伝達される力によってプランジャ7の外周に潤滑油を移動させることができる。
【0150】
その後、
図20に示されているように、プランジャ7及びブレード装着部8が前方に移動する場合には、第2保持部材922の元の形状に戻ろうとする弾性力により、Oリング924は前方に押圧され、第1保持部材921のOリング収容部921bに位置する状態に復帰する。
【0151】
上記のように、プランジャ7の駆動に伴いOリング924が第2保持部材922を押圧することによりOリング924とプランジャ7の外周面との間に潤滑剤が供給されるため、Oリング924の劣化(摩耗)を抑制することができる。これにより、作業時に発生する粉塵がハウジング2内に侵入することを好適に抑制することが可能となる。特に、Oリング924周辺の潤滑剤が不足したタイミングで潤滑剤が供給されるように構成できるので、適切な時期に適切な量の潤滑剤をOリング924周辺に供給できる。
【0152】
次に、
図21乃至
図23を参照しながら、本発明の第2の実施の形態に係る動力工具の一例であるセーバソー100について説明する。セーバソー100は、基本的に第1の実施の形態に係るセーバソー1と同一の構成を有しており、セーバソー1と同一の構成については、同一の参照番号を付し説明を適宜省略し、相違する構成及びより詳細に説明すべき構成について主に説明する。また、セーバソー1と同一の構成については、上記において説明した効果と同様の効果を奏する。
【0153】
図21に示されているように、第2の実施の形態に係るセーバソー100においては、第2防塵機構92に替えて、第2防塵機構192が設けられている。第2防塵機構192は、第1保持部材1921と、第2保持部材1922とを有している。第2保持部材1922には、第1の実施の形態に係るセーバソー1の第2保持部材922と異なり、潤滑油収容部922aが設けられていない。それ以外の構成については、第2保持部材1922は、第2保持部材1922と同様の構成を有しているため、第2保持部材1922に関しこれ以上の説明は省略する。
【0154】
第1保持部材1921には、潤滑油収容部1921dが形成されている。なお、潤滑油収容部1921dが形成されていること以外については、第1保持部材1921は、第1の実施の形態に係るセーバソー1の第1保持部材921と同様の構成を有しているため、第1保持部材の構成に関しこれ以上の説明は省略する。
【0155】
上記の構成によると、
図22及び
図23に示されているように、プランジャ7及びブレード装着部8が前方に向かって移動する場合において、プランジャ7の外周面とOリング924との間に発生する摩擦力によって、Oリング924がプランジャ7と一体に後方に移動する。
【0156】
この状態において、第1保持部材1921がプランジャカバー231に対して位置決めされているため、Oリング924は第1保持部材1921の径方向内方の後面を前方に所定の押圧力で押圧する。このときに、第1保持部材1921は、弾性変形し、第1保持部材1921の潤滑油収容部1921dと、Oリング収容部921b、貫通孔1921c及び環状部材収容部1921aとが連通する。これにより、潤滑油収容部1921dに収容された潤滑油がOリング収容部1921b及び環状部材収容部1921aに供給される。詳細には、Oリング924とプランジャ7との接触面に潤滑油が供給され、これにより、プランジャ7はOリング924に対して好適に往復摺動可能となる。また、環状部材収容部1921aに収容された環状部材923にも潤滑油が供給され、Oリング924とプランジャ7との摺動性を効率的に高めることが可能となる。
【0157】
上記のように、プランジャ7の駆動に伴いOリング924が第1保持部材1921を押圧することによりOリング924とプランジャ7の外周面との間に潤滑油が供給されるため、Oリングの劣化(摩耗)を抑制することができる。これにより、作業時に発生する粉塵がハウジング2内に侵入することを好適に抑制することが可能となる。
【0158】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。本実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0159】
本実施の形態においては、往復駆動するプランジャ7を駆動軸としたが、回転駆動する回転軸を駆動軸としてもよい。すなわち、回転軸によって流体(空気または潤滑油)を内包する保持部に外力が伝達され、当該保持部の外部に流体が排出されるような構成でも良い。
【0160】
本実施の形態においては、動力工具としてセーバソーを例に説明したが、本発明はセーバソー以外のモータで駆動される動力工具、例えば、ジグソー、レプシロソーやハンマ、ハンマドリル等の動力工具にも適用可能である。
【符号の説明】
【0161】
1…セーバソー、2…ハウジング、3…モータ、4…制御基板、5…コントロール部、6…ギヤ部、7…プランジャ、8…ブレード装着部、9…防塵機構部