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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】クロマトグラフィー用検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
G01N21/41 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020537910
(86)(22)【出願日】2018-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2018030660
(87)【国際公開番号】W WO2020039478
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100221372
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 信治
(72)【発明者】
【氏名】長井 悠佑
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-168347(JP,A)
【文献】特開2002-296181(JP,A)
【文献】実開平05-094753(JP,U)
【文献】特開平07-318489(JP,A)
【文献】特開2004-170218(JP,A)
【文献】特開昭64-053132(JP,A)
【文献】特公昭48-016856(JP,B1)
【文献】特開平10-334362(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0206290(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光を発する固体発光素子であって、前記測定光の光束の中心領域は光量が安定している一方で、前記測定光の光束の周縁領域の光量は前記中心領域よりも変動が大きい固体発光素子と、
前記測定光の光路上に配置されたフローセルと、
前記フローセルを経た前記測定光を検出するための検出部と、
前記固体発光素子から前記検出部までの間における前記測定光の光路上に設けられ、前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の周縁領域の光量変動の影響を低減する光量変動低減素子と、を備え、
前記光量変動低減素子は、前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の中心領域のみを前記フローセルへ導き、前記中心領域よりも変動が大きい前記測定光の光束の周縁領域を遮光する、
クロマトグラフィー用検出器。
【請求項2】
前記光量変動低減素子は、開口遮光板である、請求項1に記載のクロマトグラフィー用検出器。
【請求項3】
前記開口遮光板は、前記固体発光素子から発せられる測定光の光束のうち周縁側の50%以上の光を遮光して中心領域のみを抽出するものである、請求項2に記載のクロマトグラフィー用検出器。
【請求項4】
前記固体発光素子からの測定光を集光し、前記開口遮光板に照射する第1のレンズと、
前記開口遮光板を通過した測定光を集光し、前記フローセルに照射する第2のレンズと、をさらに備えている、請求項2又は3に記載の クロマトグラフィー用検出器。
【請求項5】
前記光量変動低減素子は、前記固体発光素子の発光面の周縁領域を覆って当該周縁領域から発せられる光を遮光するマスクである、請求項1に記載のクロマトグラフィー用検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、示差屈折率検出器や吸光度検出器といったクロマトグラフィー用の検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー用の検出器として示差屈折率検出器が知られている。示差屈折率検出器は、隔壁によって仕切られた試料セルと参照セルを有するフローセルに対してスリットを介して測定光を照射し、フローセルを経た測定光のスリット像を受光素子上に結像させてそのスリット像の変位量を測定することにより、試料セルを流れる試料溶液と参照セルを流れる参照溶液との屈折率差の変化を検出するものである(特許文献1参照。)。
【0003】
近年、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)などの固体発光素子が検出器用の光源として使用される場合が多い。上記のように、示差屈折率検出器は受光素子上に結像されたスリット像の変位量によって屈折率変化を検出するものであるため、光源からの光量が一定でない場合には、スリット像の実際の位置が不変であっても、光源の光量変動がスリット像の変位として誤検出され、屈折率の変化として出力されてしまう。そのため、示差屈折率検出器では、本来屈折率変化として認識されるべき要素以外の要素の変化によって屈折率変化が誤検出されないよう、光学系の温調や光源の高精度な(低ノイズな)駆動電源の採用などの対策が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-223507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような対策が採られているにも拘わらず、屈折率変化の誤検知やノイズの増大、感度の悪化といった問題が起こることがわかった。その原因を検証すると、LED等の固体発光素子の発光面の中心領域は光量が安定している一方で、発光面の周縁領域の光量は中心領域よりも変動が大きく、その周縁領域の光量変動が屈折率変化の誤検知等の原因となっていることがわかった。これは、はんだ付けやCANパッケージ化、樹脂封止といった固体発光素子のチップ実装時のバラツキや、ウエハからチップを切り出す際にチップに蓄積される応力の違い、プロセスの変化点(洗浄の有無など)、母材の変化といった原因により発生していると考えられる。
【0006】
このような固体発光素子の発光面内における光量のバラツキは、固体発光素子を示差屈折率検出器の光源として用いた場合だけでなく、吸光度検出器などの検出器の光源として用いた場合にも悪影響を与える。
【0007】
そこで、本発明は、固体発光素子を光量の安定した検出器用の光源として用いることができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るクロマトグラフィー用検出器は、測定光を発する固体発光素子と、前記測定光の光路上に配置されたフローセルと、前記フローセルを経た前記測定光を検出するための検出部と、前記固体発光素子から前記検出部までの間に設けられ、前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の周縁領域の光量変動の影響を低減する光量変動低減素子と、を備えている。
【0009】
前記光量変動低減素子として、前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の中心領域のみを前記フローセルへ導く開口遮光板を用いることができる。
【0010】
前記開口遮光板は、前記固体発光素子から発せられる測定光の光束のうち周縁側の50%以上の光を遮光して中心領域のみを抽出するものであってもよい。
【0011】
好ましい実施形態では、前記固体発光素子からの測定光を集光し、前記開口遮光板に照射する第1のレンズと、前記開口遮光板を通過した測定光を集光し、前記フローセルに照射する第2のレンズと、をさらに備えている。
【0012】
また、前記光量変動低減素子として、前記固体発光素子の発光面の周縁領域を覆って当該周縁領域から発せられる光を遮光するマスクを用いることもできる。
【0013】
また、前記光量変動低減素子として、前記固体発光素子から発せられる前記測定光の光束の中心領域とその周囲領域とを混合して前記フローセルへ導く光拡散板を用いることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るクロマトグラフィー用検出器では、固体発光素子から発せられる測定光の光束の周縁領域の光量変動の影響を低減する光量変動低減素子を備えているので、固体発光素子の発光面の周縁領域から発せられる光の光量変動の影響が小さくなる。これにより、固体発光素子を光量の安定した検出器用の光源として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】クロマトグラフィー用検出器の一実施例を示す概略構成図である。
図2】同実施例において光量変動低減素子により遮光される測定光の周縁領域を説明するための概念図である。
図3】光量変動低減素子の変形例を示す図である。
図4】光量変動低減素子のさらなる変形例を示す図である。
図5】光量変動低減素子の配置の有無と受光素子の検出信号の安定性との関係性についての検証結果を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、クロマトグラフィー用検出器の1つである示差屈折率検出器の一実施例について図面を用いて説明する。
【0017】
図1に示されているように、示差屈折率検出器は、フローセル2、固体発光素子4、レンズ5、開口遮光板8、レンズ10、ミラー12、ゼログラス14、受光素子16及び演算制御装置20を備えている。固体発光素子4はLED又はLDである。フローセル2は、固体発光素子4から発せられる測定光6の光軸上に配置されている。フローセル2は試料セル2aと参照セル2bをもち、それらのセル2a,2bが透明な隔壁によって仕切られている。
【0018】
フローセル2の前方にはレンズ10が配置され、後方にフローセル2を透過した測定光6を反射させるミラー12が配置されている。ミラー12により反射された測定光6aの光路上にフォトダイオードなどの受光素子16が設けられており、ミラー12で反射してフローセル2を透過した測定光6aが受光素子16上に結像される。反射後の測定光6aの光路上のレンズ10と受光素子16との間に、受光素子16上に結像された測定光6aの像を平行移動させるためのゼログラス14が配置されている。受光素子16には演算処理装置20が接続されている。
【0019】
固体発光素子4から発せられた測定光6はレンズ5で集光された後、開口遮光板8を通り、さらにレンズ10を通ってフローセル2に照射され、フローセル2を透過してミラー12で反射される。ミラー12で反射した測定光6aは再びフローセル2を透過してレンズ10によって受光素子16上に結像される。受光素子16は2つの受光領域16Aと16Bを備え、それぞれの受光領域への入射光量に基づく検出信号が演算処理装置20に取り込まれるようになっている。
【0020】
試料セル2a内と参照セル2b内の屈折率差が変化すると、フローセル2を通過する測定光6の光路に変化が生じ、受光素子16の受光面に結像する測定光6aの像が一定方向へ変位する。受光素子16の受光領域16Aと16Bは、測定光6aの像の変位方向に並んで隣接配置されている。
【0021】
試料セル2a内と参照セル2b内の屈折率差が0であるときに、測定光6aの像が受光領域16A,16Bの境界部分を跨ぐようにして受光素子16の受光面上に結像されるように調整される。試料セル2a内に試料成分が導入されて試料セル2a内の屈折率が変化すると、試料セル2a内と参照セル2b内の屈折率差が変化し、受光素子16の受光面に結像する測定光6aの像が変位する。その変位を受光領域16Aと16Bの検出信号値の差分をとることにより検出し、試料セル2a内と参照セル2b内の屈折率差を求める。
【0022】
演算処理装置20は、この示差屈折率検出器内に設けられたコンピュータや、この示差屈折率検出器に接続された専用の又は汎用のコンピュータによって実現されるものである。演算処理装置20は、受光素子16の各受光領域16A、16Bの検出信号値に基づいてフローセル2における試料セル2aと参照セル2bとの屈折率差を求める機能を有する。
【0023】
この実施例では、フローセル2と固体発光素子4との間に開口遮光板8が設けられている。開口遮光板8は、図2に示されているように、固体発光素子4から発せられてレンズ5を通過した測定光6の光束の周縁領域を遮光して中心領域のみを抽出するためのものである。すなわち、開口遮光板8は、固体発光素子4から発せられた光束のうち光量変動の大きい周縁領域を遮光することによって光量変動の影響を低減する光量変動低減素子を構成する。
【0024】
開口遮光板8は、固体発光素子4から発せられる測定光6の光束のうち周縁側の50%以上の光を遮光して中心領域のみを抽出する。本来的に、示差屈折率検出器の光源とフローセルとの間にはスリットが設けられるが、このスリットは平行光を取り出すためのものであって光量の安定している光束の中心領域のみを抽出するためのものではない。
【0025】
固体発光素子4の発光面の周縁領域から発せられた光の光量が不安定であるという知見は本発明者によって初めて得られたものである。さらに、示差屈折率検出器等の検出器では、フローセルを通過して受光部に到達する光の光量が小さいと検出感度の低下やS/Nの増大といった問題があるため、光源から発せられた光の大部分を遮光するということはこれまでは考えられないことである。
【0026】
固体発光素子4の発光面の周縁領域から発せられた光を遮光するという観点からすれば、図3に示されているように、固体発光素子4の発光面の周縁領域上に、アルミニウムなどの金属や、酸化物、誘電体からなる等からなるマスク8’を光量変動低減素子として配置してもよい。マスク8’により、固体発光素子4から発せられた測定光6の光束の中心領域のみを抽出することができる。
【0027】
また、図4に示されているように、固体発光素子4から発せられる測定光6の光軸上に、測定光6の中心領域の光と周縁領域の光とを混合する、すなわち、光量の不安定性を光束内において均一化させるための光拡散板9を配置してもよい。光拡散板9としては、光拡散機能をもつマイクロレンズアレイ(例えば、LSD(レンズ拡散板:株式会社オプティカルソリューションズの製品))などを用いることができる。このような光拡散板9により、固体発光素子4から発せられる測定光6の光束内で光が混合されて光量の不安定性が光束内において均一化し、光束の周縁領域の光量変動の影響が低減される。
【0028】
図5は、開口遮光板や光拡散板といった光量変動低減素子の配置の有無と受光素子16の検出信号の安定性との関係性についての検証結果を示すデータである。
【0029】
図5の検証では、試料セル2aと参照セル2bとの屈折率差が変化しない条件下で、固体発光素子4(LED)からの測定光6の光軸上に、開口遮光板8を設置した場合、光拡散板9(LSD)を配置した場合、及び光量変動低減素子を配置しなかった場合、のそれぞれについて検出信号の変動を監視した。この検証で使用した開口遮光板8は、測定光6の光束の周縁側を70%程度遮光するように設計されたものである。
【0030】
試料セル2aと参照セル2bとの間の屈折率差が変化しない場合、理論上は、受光素子16の信号強度が一定となるはずである。しかしながら、図5のように、光量変動低減素子を配置しない場合には、信号強度に大きなノイズが含まれているとともに、信号強度が約100~1100の間で変動している。このように信号強度が変動すると、受光素子16に結像される測定光6aの像の変位として誤検出され、試料セル2aと参照セル2bとの屈折率差の変化として誤検知されてしまう。一方で、測定光6の光軸上に開口遮光板8や光拡散板9を配置した場合には、信号強度に含まれるノイズが小さく、受光素子16の信号強度が安定している。このため、試料セル2aと参照セル2bとの屈折率差の変化が誤検知されることはない。
【0031】
このように、光量変動低減素子を用いて測定光6の光束の中心領域のみを抽出したり光束の中心領域と周縁領域とを混合したりすることによって、固体発光素子4の発光面の周縁領域から発せられる光の光量変動が検出信号に与える影響を低減することができ、固体発光素子4を光量の安定した検出器用の光源として使用することが可能となる。
【0032】
また、本発明者は、開口遮光板8の開口の幅寸法と受光素子16の信号強度との関係性についても検証を実施した。その検証結果は以下の通りである。
開口幅寸法(mm) ノイズ量(ASTM)
1.92 67.42
1.37 59.84
0.70 43.53
0.50 22.21
0.42 18.64
【0033】
上記の検証結果から、開口遮光板8の開口幅寸法が小さいほどノイズ量も小さくなることがわかる。これは、測定光6の光束の中心側へ近づくほど光量が安定しており、逆に、測定光6の光束の周縁側へ近づくほど光量変動が大きいことを示している。
【0034】
以上において説明した実施例では、開口遮光板8、光拡散板9といった光量変動低減素子を固体発光素子4とフローセル2との間の測定光6の光軸上に配置しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、フローセル2と受光素子16との間の測定光6aの光軸上に光量変動低減素子を配置してもよい。
【0035】
また、上記実施例では、クロマトグラフィー用検出器として示差屈折率検出器を例に挙げて説明したが、固体発光素子を光源として使用する吸光度検出器などの検出器に対しても同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
2 フローセル
2a 試料セル
2b 参照セル
4 固体発光素子
5,10 レンズ
6,6a 測定光
12 ミラー
14 ゼログラス
16 受光素子
20 演算処理装置
図1
図2
図3
図4
図5