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特許7136212銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20220906BHJP
   B23K 20/00 20060101ALI20220906BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20220906BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C04B37/02 B
B23K20/00 310N
B23K20/00 310H
H05K1/02 F
H05K3/38 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020539467
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033427
(87)【国際公開番号】W WO2020045386
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018159663
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/02
B23K 20/00
H05K 1/02
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム酸化物からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との間には、前記セラミックス部材側にマグネシウム酸化物層が形成され、
このマグネシウム酸化物層と前記銅部材との間に、Cuの母相中にMgが固溶するとともにMgの含有量が0.01原子%以上3原子%以下の範囲内とされたMg固溶層が形成されていることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記セラミックス部材の接合面から前記銅部材側に向けて50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下であることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
アルミニウム酸化物からなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間には、前記セラミックス基板側にマグネシウム酸化物層が形成され、このマグネシウム酸化物層と前記銅板との間に、Cuの母相中にMgが固溶するとともにMgの含有量が0.01原子%以上3原子%以下の範囲内とされたMg固溶層が形成されていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項4】
前記セラミックス基板の接合面から前記銅板側に向けて50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下であることを特徴とする請求項3に記載の絶縁回路基板。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の銅/セラミックス接合体を製造する銅/セラミックス接合体の製造方法であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との間に、Mgを配置するMg配置工程と、
前記銅部材と前記セラミックス部材とをMgを介して積層する積層工程と、
Mgを介して積層された前記銅部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、
を備えており、
前記Mg配置工程では、Mg量を0.17mg/cm以上3.48mg/cm以下の範囲内とすることを特徴とする銅/セラミックス接合体の製造方法。
【請求項6】
前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされ、加熱温度が500℃以上850℃以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項5に記載の銅/セラミックス接合体の製造方法。
【請求項7】
請求項3又は請求項4に記載の絶縁回路基板の製造方法であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間に、Mgを配置するMg配置工程と、
前記銅板と前記セラミックス基板とをMgを介して積層する積層工程と、
Mgを介して積層された前記銅板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、
を備えており、
前記Mg配置工程では、Mg量を0.17mg/cm以上3.48mg/cm以下の範囲内とすることを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされ、加熱温度が500℃以上850℃以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項7に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム酸化物からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
本願は、2018年8月28日に日本に出願された特願2018-159663号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、例えばアルミニウム酸化物からなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。絶縁回路基板としては、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して金属層を形成したものも提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、回路層及び金属層を構成する第一の金属板及び第二の金属板を銅板とし、この銅板をDBC法によってセラミックス基板に直接接合した絶縁回路基板が提案されている。このDBC法においては、銅と銅酸化物との共晶反応を利用して、銅板とセラミックス基板との界面に液相を生じさせることにより、銅板とセラミックス基板とを接合している。
【0004】
特許文献2には、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、銅板を接合することにより回路層及び金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。この絶縁回路基板においては、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。この活性金属ろう付け法では、活性金属であるTiが含有されたろう材を用いているため、溶融したろう材とセラミックス基板との濡れ性が向上し、セラミックス基板と銅板とが良好に接合されることになる。
【0005】
特許文献3には、高温の窒素ガス雰囲気下で銅板とセラミックス基板とを接合する際に用いられる接合用ろう材として、Cu-Mg-Ti合金からなる粉末を含有するペーストが提案されている。この特許文献3においては、窒素ガス雰囲気下にて560~800℃で加熱することによって接合する構成とされており、Cu-Mg-Ti合金中のMgは昇華して接合界面には残存せず、かつ、窒化チタン(TiN)が実質的に形成しないものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平04-162756号公報
【文献】特許第3211856号公報
【文献】特許第4375730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、DBC法によってセラミックス基板と銅板とを接合する場合には、接合温度を1065℃以上(銅と銅酸化物との共晶点温度以上)にする必要があることから、接合時にセラミックス基板が劣化してしまうおそれがあった。また、窒素ガス雰囲気等で接合した場合には、接合界面に雰囲気ガスが残存してしまい、部分放電が発生しやすいといった問題があった。
【0008】
特許文献2に開示されているように、活性金属ろう付け法によってセラミックス基板と銅板とを接合する場合には、ろう材がAgを含有しており、接合界面にAgが存在することから、マイグレーションが生じやすく、高耐圧用途には使用することができなかった。また、接合温度が900℃と比較的高温とされていることから、セラミックス基板が劣化してしまうおそれがあった。さらに、セラミックス基板の接合面近傍に、チタン窒化物相やTiを含む金属間化合物相が生成し、高温動作時にセラミック基板に割れが発生するおそれがあった。
【0009】
特許文献3に開示されているように、Cu-Mg-Ti合金からなる粉末を含有するペーストからなる接合用ろう材を用いて窒素ガス雰囲気下で接合した場合には、接合界面にガスが残存し、部分放電が発生しやすいといった問題があった。また、ペーストに含まれる有機物が接合界面に残存し、接合が不十分となるおそれがあった。さらに、セラミックス基板の接合面近傍に、Tiを含む金属間化合物相が生成し、高温動作時にセラミック基板に割れが発生するおそれがあった。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合されるとともに、耐マイグレーション性に優れ、かつ、高温動作時におけるセラミックス割れの発生を抑制できる銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、上述の銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム酸化物からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との間には、前記セラミックス部材側にマグネシウム酸化物層が形成され、このマグネシウム酸化物層と前記銅部材との間に、Cuの母相中にMgが固溶するとともにMgの含有量が0.01原子%以上3原子%以下の範囲内とされたMg固溶層が形成されていることを特徴としている。
【0012】
この構成の銅/セラミックス接合体においては、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム酸化物からなるセラミックス部材との間において、前記セラミックス部材側にマグネシウム酸化物層が形成されている。このマグネシウム酸化物層は、セラミックス部材と銅部材の間に配設されたマグネシウム(Mg)とセラミックス部材中の酸素(O)とが反応することにより形成されるものであり、セラミックス部材が十分に反応していることになる。
酸化マグネシウム層と前記銅部材との間に、Cuの母相中にMgが固溶したMg固溶層が形成されているので、セラミックス部材と銅部材の間に配設されたMgが銅部材側に十分に拡散していることになる。
したがって、銅部材とセラミックス部材との接合界面において界面反応が十分に進行しており、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合された銅/セラミックス接合体を得ることができる。
【0013】
Cu部材とセラミックス部材の接合界面に、Ti,Zr,Nb,Hfが存在していないので、Ti,Zr,Nb,Hfの窒化物相やTi,Zr,Nb,Hfを含む金属間化合物相が生成せず、高温動作時においてもセラミックス部材の割れを抑制することができる。
Cu部材とセラミックス部材の接合界面にAgが存在していないので、耐マイグレーション性にも優れている。
【0014】
本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記セラミックス部材の接合面から前記銅部材側に向けて50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下であることが好ましい。
この場合、前記セラミックス部材の接合面から前記銅部材側に向けて50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下とされているので、セラミックス部材の接合面近傍に、硬くて脆い金属間化合物相が多く存在せず、高温動作時のセラミックス部材の割れを確実に抑制することが可能となる。
【0015】
本発明の絶縁回路基板は、アルミニウム酸化物からなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記銅板と前記セラミックス基板との間には、前記セラミックス基板側にマグネシウム酸化物層が形成され、このマグネシウム酸化物層と前記銅板との間に、Cuの母相中にMgが固溶するとともにMgの含有量が0.01原子%以上3原子%以下の範囲内とされたMg固溶層が形成されていることを特徴としている。
【0016】
この構成の絶縁回路基板においては、銅板とセラミックス基板とが確実に接合されるとともに、耐マイグレーション性に優れており、高耐圧条件下においても信頼性高く使用することができる。
高温動作時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制することができ、高温条件下においても信頼性高く使用することができる。
【0017】
本発明の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板の接合面から前記銅板側に向けて50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下であることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板の接合面から前記銅板側に向けて50μmまでの領域における金属間化合物相の面積率が15%以下とされているので、セラミックス基板の接合面近傍に、硬くて脆いCu-Mg金属間化合物相が多く存在せず、高温動作時のセラミックス基板の割れを確実に抑制することが可能となる。
【0018】
本発明の銅/セラミックス接合体の製造方法は、上述した銅/セラミックス接合体を製造する銅/セラミックス接合体の製造方法であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との間に、Mgを配置するMg配置工程と、前記銅部材と前記セラミックス部材とをMgを介して積層する積層工程と、Mgを介して積層された前記銅部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、を備えており、前記Mg配置工程では、Mg量を0.17mg/cm以上3.48mg/cm以下の範囲内とすることを特徴としている。
【0019】
この構成の銅/セラミックス接合体の製造方法によれば、前記銅部材と前記セラミックス部材との間にMgを配置し、これらを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理するので、接合界面にガスや有機物の残渣等が残存することがない。
Mg配置工程では、Mg量を0.17mg/cm以上3.48mg/cm以下の範囲内としているので、界面反応に必要な液相を十分に得ることができる。よって、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合された銅/セラミックス接合体を得ることが可能となる。
接合にTi,Zr,Nb,Hfを用いていないので、セラミックス部材の接合面近傍に、Ti,Zr,Nb,Hfの窒化物相や、Ti,Zr,Nb,Hfを含む金属間化合物相が存在せず、高温動作時におけるセラミックス部材の割れを抑制可能な銅/セラミックス接合体を得ることができる。
接合にAgを用いていないので、耐マイグレーション性に優れた銅/セラミックス接合体を得ることができる。
【0020】
本発明の銅/セラミックス接合体の製造方法においては、前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされ、加熱温度が500℃以上850℃以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされているので、セラミックス部材と銅部材とMgとを密着させることができ、加熱時にこれらの界面反応を促進させることができる。
前記接合工程における加熱温度をCuとMgの共晶温度よりも高い500℃以上としているので、接合界面において十分に液相を生じさせることができる。一方、前記接合工程における加熱温度を850℃以下としているので、液相が過剰に生成することを抑制できる。また、セラミックス部材への熱負荷が小さくなり、セラミックス部材の劣化を抑制することができる。
【0021】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、上述した絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、前記銅板と前記セラミックス基板との間に、Mgを配置するMg配置工程と、前記銅板と前記セラミックス基板とをMgを介して積層する積層工程と、Mgを介して積層された前記銅板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、を備えており、前記Mg配置工程では、Mg量を0.17mg/cm以上3.48mg/cm以下の範囲内とすることを特徴としている。
【0022】
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記銅板と前記セラミックス基板との間にMgを配置し、これらを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理するので、接合界面にガスや有機物の残渣等が残存することがない。
Mg配置工程では、Mg量を0.17mg/cm以上3.48mg/cm以下の範囲内としているので、界面反応に必要な液相を十分に得ることができる。よって、銅板とセラミックス基板とが確実に接合された絶縁回路基板を得ることが可能となる。また、接合にTi,Zr,Nb,Hfを用いていないので、セラミックス基板の接合面近傍に、Ti,Zr,Nb,Hfの窒化物相やTi,Zr,Nb,Hfを含む金属間化合物相が存在せず、高温動作時におけるセラミックス基板の割れを抑制可能な絶縁回路基板を得ることができる。
接合にAgを用いていないので、耐マイグレーション性に優れた絶縁回路基板を得ることができる。
【0023】
本発明の絶縁回路基板の製造方法においては、前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされ、加熱温度が500℃以上850℃以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされているので、セラミックス基板と銅板とMgとを密着させることができ、加熱時にこれらの界面反応を促進させることができる。
そして、前記接合工程における加熱温度をCuとMgの共晶温度よりも高い500℃以上としているので、接合界面において十分に液相を生じさせることができる。一方、前記接合工程における加熱温度を850℃以下としているので、液相が過剰に生成することを抑制できる。また、セラミックス基板への熱負荷が小さくなり、セラミックス基板の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合されるとともに、耐マイグレーション性に優れ、かつ、高温動作時におけるセラミックス割れの発生を抑制できる銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、上述の銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態である絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態である絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)の回路層(銅部材)及び金属層(銅部材)とセラミックス基板(セラミックス部材)との接合界面の模式図である。
図3】本発明の実施形態である絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)の製造方法を示すフロー図である。
図4】本発明の実施形態である絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)の製造方法を示す説明図である。
図5】本発明例3の銅/セラミックス接合体における銅板とセラミックス基板の接合界面の観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
【0027】
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、銅部材である銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とが接合されることにより構成された絶縁回路基板10とされている。
図1に、本発明の実施形態である絶縁回路基板10及びこの絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0028】
このパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側(図1において上側)に第1はんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方側(図1において下側)に第2はんだ層8を介して接合されたヒートシンク51と、を備えている。
【0029】
絶縁回路基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、アルミニウム酸化物の一種であるアルミナで構成されている。セラミックス基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、セラミックス基板11の厚さは0.635mmが好ましい。
【0030】
回路層12は、図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12を構成する銅板22として、無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面されている。回路層12の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、回路層12の厚さは0.6mmが好ましい。
【0031】
金属層13は、図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面に銅又は銅合金からなる銅板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13を構成する銅板23として、無酸素銅の圧延板が用いられている。金属層13の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、金属層13の厚さは0.6mmが好ましい。
【0032】
ヒートシンク51は、前述の絶縁回路基板10を冷却するためのものであり、本実施形態においては、熱伝導性が良好な材質で構成された放熱板とされている。本実施形態においては、ヒートシンク51は、熱伝導性に優れた銅又は銅合金で構成されている。ヒートシンク51と絶縁回路基板10の金属層13とは、第2はんだ層8を介して接合されている。
【0033】
セラミックス基板11と回路層12(銅板22)、及び、セラミックス基板11と金属層13(銅板23)とは、図4に示すように、Mg膜25を介して接合されている。
セラミックス基板11と回路層12(銅板22)との接合界面及びセラミックス基板11と金属層13(銅板23)との接合界面においては、図2に示すように、セラミックス基板11側に形成されたマグネシウム酸化物層31と、Cuの母相中にMgが固溶したMg固溶層32と、が積層された構造とされている。
【0034】
マグネシウム酸化物層31は、例えば、MgOで構成されている。マグネシウム酸化物層31の厚さは、0.05μm以上1.0μm以下の範囲内とされており、好ましくは、0.1μm以上0.5μm以下の範囲内とされている。このマグネシウム酸化物層31は、セラミックス基板11の酸素(O)とMg膜25のマグネシウム(Mg)とが反応することで形成されたものである。
【0035】
このMg固溶層32におけるMgの含有量は、0.01原子%以上3原子%以下の範囲内とされている。Mg固溶層32の厚さは、0.1μm以上150μm以下の範囲内とされており、好ましくは、0.1μm以上80μm以下の範囲内とされている。
【0036】
本実施形態においては、セラミックス基板11の接合面から銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)側に向けて50μmまでの領域における金属間化合物相の面積率が15%以下であることが好ましい。
上述のように、接合界面における金属間化合物相の面積率が抑制されていれば、Mg固溶層32の内部には、CuとMgを含むCu-Mg金属間化合物相が分散されていてもよい。Cu-Mg金属間化合物相としては、例えばCuMg、CuMg等が挙げられる。
【0037】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、図3及び図4を参照して説明する。
【0038】
(Mg配置工程S01)
図4に示すように、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、及び、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、それぞれMgを配置する。本実施形態では、Mgを蒸着することによって、Mg膜25を形成している。
このMg配置工程S01では、配置するMg量を0.17mg/cm以上3.48mg/cm以下の範囲内としている。
【0039】
(積層工程S02)
次に、銅板22とセラミックス基板11を、Mg膜25を介して積層するとともに、セラミックス基板11と銅板23を、Mg膜25を介して積層する。
【0040】
(接合工程S03)
次に、積層された銅板22、セラミックス基板11、銅板23を、積層方向に加圧するとともに、真空炉内に装入して加熱し、銅板22とセラミックス基板11と銅板23を接合する。
接合工程S03における加圧荷重は、0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
接合工程S03における加熱温度は、500℃以上850℃以下の範囲内とすることが好ましい。
接合工程S03における真空度は、1×10-6Pa以上5×10-2Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
加熱温度での保持時間は、5min以上180min以下の範囲内とすることが好ましい。
加熱温度(接合温度)から480℃まで降温する際の降温速度は、特に限定されないが、20℃/min以下が好ましく、15℃/min以下がさらに好ましい。また、降温速度の下限値は、特に限定されないが、2.5℃/min以上としてもよく、5℃/min以上としてもよい。
【0041】
以上のように、Mg配置工程S01と、積層工程S02と、接合工程S03とによって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0042】
(ヒートシンク接合工程S04)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク51を接合する。 絶縁回路基板10とヒートシンク51とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、第2はんだ層8を介して絶縁回路基板10とヒートシンク51とをはんだ接合する。
【0043】
(半導体素子接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
以上の工程により、図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0044】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、無酸素銅からなる銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とアルミニウム酸化物(アルミナ)からなるセラミックス基板11とがMg膜25を介して接合されており、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)との間、及び、セラミックス基板11と金属層13(銅板22)の間には、セラミックス基板11側にマグネシウム酸化物層31が形成されている。このマグネシウム酸化物層31は、銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とセラミックス基板11との間に介在するMgとセラミックス基板11中の酸素とが反応することにより形成されるものであり、セラミックス基板11が十分に反応していることになる。
したがって、銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とセラミックス基板11との接合界面において界面反応が十分に進行しており、銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とセラミックス基板11とが確実に接合された絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。
【0045】
銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とセラミックス基板11の接合界面にTi,Zr,Nb,Hfが存在していないので、Ti,Zr,Nb,Hfの窒化物相やTi,Zr,Nb,Hfを含む金属間化合物相が生成せず、高温動作時においてもセラミックス基板11の割れを抑制することができる。銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とセラミックス基板11の接合界面におけるTi,Zr,Nb,Hfの合計含有量は0.3mass%以下であることが好ましく、0.1mass%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
セラミックス基板11と銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)の接合界面にAgが存在していないので、耐マイグレーション性に優れている。銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とセラミックス基板11の接合界面におけるAgの含有量は0.2mass%以下であることが好ましく、0.1mass%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本実施形態において、セラミックス基板11の接合面から銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)側に向けて50μmまでの領域における金属間化合物相の面積率が15%以下である場合には、セラミックス基板11の接合面近傍に、硬くて脆い金属間化合物相が多く存在せず、高温動作時のセラミックス基板11の割れを確実に抑制することが可能となる。
セラミックス基板11の接合面から銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)側に向けて50μmまでの領域における金属間化合物相の面積率は、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)の製造方法によれば、銅板22,23とセラミックス基板11との間にMg(Mg膜25)を配置するMg配置工程S01と、Mg膜25を介して銅板22、23とセラミックス基板11とを積層する積層工程S02と、積層された銅板22、セラミックス基板11、銅板23を、積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程S03と、を備えているので、接合界面にガスや有機物の残渣等が残存することがない。
【0049】
Mg配置工程S01では、Mg量を0.17mg/cm以上3.48mg/cm以下の範囲内としているので、界面反応に必要な液相を十分に得ることができる。よって、銅板22,23とセラミックス基板11とが確実に接合された絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。
接合にTi,Zr,Nb,Hfを用いていないので、セラミックス基板11の接合面近傍に、Ti,Zr,Nb,Hfの窒化物相やTi,Zr,Nb,Hfを含む金属間化合物相が存在せず、高温動作時におけるセラミックス基板11の割れを抑制可能な絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。
接合にAgを用いていないので、耐マイグレーション性に優れた絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。
【0050】
Mg量が0.17mg/cm未満の場合には、発生する液相の量が不足し、接合率が低下するおそれがあった。また、Mg量が3.48mg/cmを超える場合には、発生する液相の量の過剰となり、液相が接合界面から漏れ出し、所定の形状の接合体を製造できないおそれがある。また、Cu-Mg金属間化合物相が過剰に生成し、セラミックス基板11に割れが生じるおそれがあった。
以上のことから、本実施形態では、Mg量を0.17mg/cm以上3.48mg/cm以下の範囲内としている。
Mg量の下限は、0.24mg/cm以上とすることが好ましく、0.32mg/cm以上とすることがさらに好ましい。一方、Mg量の上限は、2.38mg/cm以下とすることが好ましく、1.58mg/cm以下とすることがさらに好ましい。
【0051】
本実施形態においては、接合工程S03における加圧荷重が0.049MPa以上とされているので、セラミックス基板11と銅板22,23とMg膜25とを密着させることができ、加熱時にこれらの界面反応を促進させることができる。接合工程S03における加圧荷重が3.4MPa以下とされているので、接合工程S03におけるセラミックス基板11の割れ等を抑制することができる。
接合工程S03における加圧荷重の下限は、0.098MPa以上とすることが好ましく、0.294MPa以上とすることがさらに好ましい。一方、接合工程S03における加圧荷重の上限は、1.96MPa以下とすることが好ましく、0.98MPa以下とすることがさらに好ましい。
【0052】
本実施形態では、接合工程S03にける加熱温度を、CuとMgの共晶温度よりも高い500℃以上としているので、接合界面において十分に液相を生じさせることができる。一方、接合工程S03における加熱温度を850℃以下としているので、液相が過剰に生成することを抑制できる。また、セラミックス基板11への熱負荷が小さくなり、セラミックス基板11の劣化を抑制することができる。
接合工程S03における加熱温度の下限は、600℃以上とすることが好ましく、680℃以上とすることがさらに好ましい。一方、接合工程S03における加熱温度の上限は、800℃以下とすることが好ましく、760℃以下とすることがさらに好ましい。
【0053】
本実施形態では、接合工程S03における真空度を、1×10-6Pa以上5×10-2Pa以下の範囲内とした場合には、Mg膜25の酸化を抑制することができ、セラミックス基板11と銅板22,23とを確実に接合することが可能となる。
接合工程S03における真空度の下限は、1×10-4Pa以上とすることが好ましく、1×10-3Pa以上とすることがさらに好ましい。一方、接合工程S03における真空度の上限は、1×10-2Pa以下とすることが好ましく、5×10-3Pa以下とすることがさらに好ましい。
【0054】
本実施形態では、接合工程S03における加熱温度での保持時間を、5min以上180min以下の範囲内とした場合には、液相を十分に形成することができ、セラミックス基板11と銅板22,23とを確実に接合することが可能となる。
接合工程S03における加熱温度での保持時間の下限は、10min以上とすることが好ましく、30min以上とすることがさらに好ましい。一方、接合工程S03における加熱温度での保持時間の上限は、150min以下とすることが好ましく、120min以下とすることがさらに好ましい。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層又は金属層を構成する銅板を、無酸素銅の圧延板として説明したが、これに限定されることはなく、他の銅又は銅合金で構成されたものであってもよい。
本実施形態においては、回路層及び金属層を銅板で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、回路層及び金属層の少なくとも一方が銅板で構成されていれば、他方は、アルミニウム板等の他の金属板で構成したものであってもよい。
【0056】
本実施形態では、Mg配置工程において、Mg膜を蒸着によって成膜するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の方法でMg膜を成膜してもよく、Mg箔を配置してもよい。また、CuとMgのクラッド材を配置してもよい。
さらに、Mgペースト及びCu-Mgペーストを塗布してもよい。また、CuペーストとMgペーストを積層して配置してもよい。このとき、Mgペーストは銅板側あるいはセラミックス基板側のいずれに配置してもよい。また、Mgとして、MgHを配置してもよい。
【0057】
ヒートシンクとして放熱板を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、ヒートシンクの構造に特に限定はない。例えば、冷媒が流通する流路を有するものや冷却フィンを備えたものであってもよい。また、ヒートシンクとしてアルミニウムやアルミニウム合金を含む複合材(例えばAlSiC等)を用いることもできる。
ヒートシンクの天板部や放熱板と金属層との間に、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層を設けてもよい。
【0058】
本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【実施例
【0059】
(本発明例1~12)
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
40mm角のアルミニウム酸化物(アルミナ)からなるセラミックス基板の両面に、表1に示すようにMgを配置した銅板(無酸素銅、37mm角、厚さ0.15mm)を積層し、表1に示す接合条件で接合し、銅/セラミックス接合体を形成した。セラミックス基板の厚さは厚さ0.635mmとした。また、接合時の真空炉の真空度は5×10-3Paとした。
従来例では、セラミックス基板と銅板の間に、Ag-28mass%Cu-5mass%Tiの活性ろう材を、Ag量が5.2mg/cmとなるように配置した。
また、接合工程S03において、接合温度(表1の「温度(℃)」)から480℃まで降温する際、降温速度は、5℃/minの速度で降温するように制御した。なお、降温速度は、ガス冷却時のガス分圧(冷却ファンによる循環有無)で制御する。
【0060】
このようにして得られた銅/セラミックス接合体について、接合界面を観察して、マグネシウム酸化物層、Mg固溶層、Cu-Mg金属間化合物相を確認した。また、銅/セラミックス接合体の初期接合率、冷熱サイクル後のセラミックス基板の割れ、マイグレーション性を、以下のように評価した。
【0061】
(マグネシウム酸化物層)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率4万倍で観察し、得られた元素マッピングにおいて、MgとOが共存する領域が存在した場合を、マグネシウム酸化物層「有」と評価した。
【0062】
(Mg固溶層)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、EPMA装置(日本電子株式会社製JXA-8539F)を用いて、倍率2000倍、加速電圧15kVの条件で接合界面を含む領域(400μm×600μm)を観察し、セラミックス基板表面から銅板側に向かって10μm間隔で、銅板の厚さに応じて10点以上20点以下の範囲で定量分析を行い、Mg濃度が0.01原子%以上である領域をMg固溶層とした。
【0063】
(Cu-Mg金属間化合物相の面積率)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、電子線マイクロアナライザー(日本電子株式会社製JXA-8539F)を用いて、倍率2000倍、加速電圧15kVの条件で接合界面を含む領域(400μm×600μm)のMgの元素MAPを取得し、Mgの存在が確認された領域内での定量分析の5点平均で、Cu濃度が5原子%以上、かつ、Mg濃度が30原子以上70原子%以下を満たした領域をCu-Mg金属間化合物相とした。
そして、セラミックス基板の接合面から銅板側に向けて50μmまでの領域における金属間化合物相の面積率(%)を算出した。
【0064】
(初期接合率)
銅板とセラミックス基板との接合率は、超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて以下の式を用いて求めた。初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち銅板の接合面の面積とした。超音波探傷像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(初期接合率)={(初期接合面積)-(剥離面積)}/(初期接合面積)
【0065】
(セラミックス基板の割れ)
冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSA-72ES)を使用し、気相で、-50℃×10分←→150℃×10分の300サイクルを実施した。
上述の冷熱サイクルを負荷した後のセラミックス基板の割れの有無を評価した。
【0066】
(マイグレーション)
回路層において絶縁分離された回路パターン間距離0.5mm、温度85℃、湿度85%RH、電圧DC50Vの条件で、2000時間放置後に、回路パターン間の電気抵抗を測定し、抵抗値が1×10Ω以下となった場合を短絡した(マイグレーションが発生した)と判断し、マイグレーションの評価を「B」とした。上記と同じ条件で、2000時間放置後に、回路パターン間の電気抵抗を測定し、抵抗値が1×106Ωより大きい場合は、マイグレーションが発生しなかったと判断し、マイグレーションの評価を「A」とした。
【0067】
評価結果を表2に示す。また、本発明例3の観察結果を図5に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
Mg配置工程において、Mg量が0.11mg/cmと本発明の範囲よりも少ない比較例1においては、接合時に液相が不足したため、接合体を形成することができなかった。このため、その後の評価を中止した。
Mg配置工程において、Mg量が5.54mg/cmと本発明の範囲よりも多い比較例2においては、接合時に液相が過剰に生成したため、液相が接合界面から漏れ出し、所定の形状の接合体を製造できなかった。このため、その後の評価を中止した。
【0071】
Ag-Cu-Tiろう材を用いてセラミックス基板と銅板を接合した従来例においては、マイグレーションの評価が「B」と判断された。接合界面にAgが存在したためと推測される。
【0072】
これに対して、本発明例1~12においては、初期接合率も高く、セラミックス基板の割れも確認されなかった。また、マイグレーションも良好であった。
また、図5に示すように、接合界面を観察した結果、セラミックス基板側にマグネシウム酸化物層が形成されているのが確認された。また、Mg固溶層32が観察された。
【0073】
(本発明例21~32)
本発明例21~32に係る銅/セラミックス接合体は、上記本発明例1~12で作製した銅/セラミックス接合体と同様に作製し、得られた銅/セラミックス接合体について、CuMgの面積率、および、超音波接合界面を、以下のように評価した。
本発明例21~32に係る銅/セラミックス接合体のMg固溶層、Cu-Mg金属間化合物相の面積率、および、銅/セラミックス接合体の初期接合率の評価は、上記本発明例1~12で行った評価と同様に行った。
本発明例21~32の評価結果を表3に示す。
【0074】
(降温速度)
接合工程S03において、接合温度(表3の「温度(℃)」)から480℃まで降温する際、降温速度は、表3に示す速度で制御した。
【0075】
(CuMgの面積率)
上記Cu-Mg金属間化合物相のうち、CuMgの面積率(%)を以下の計算式で定義し、算出した。
CuMgの面積率(%)=CuMgの面積/(CuMgの面積+CuMgの面積)×100
「CuMgの面積」は、Mg濃度が30at%以上60at%未満の領域とし、「CuMgの面積」は、Mg濃度が60at%以上70at%未満の領域とした。
【0076】
(超音波接合)
得られた銅/セラミックス接合体に対して、超音波金属接合機(超音波工業株式会社製:60C-904)を用いて、銅端子(10mm×5mm×1.5mm厚)をコプラス量0.5mmの条件で超音波接合した。
接合後に、超音波探傷装置(株式会社日立ソリューションズ製FineSAT200)を用いて、銅板とセラミックス基板の接合界面を検査し、セラミックス割れが観察されたものを「C」、銅板とセラミックス基板の接合界面を検査し、剥離が観察されたものを「B」、どちらも確認されなかったものを「A」と評価した。
【0077】
【表3】
【0078】
接合工程S03後の降温速度によって、CuMgの面積率の値、および、超音波接合の接合性が変化した。
表3に示す結果から、降温速度は、20℃/min以下が好ましく、15℃/min以下がさらに好ましいことが明らかとなった。
表3に示す結果から、Cu-Mg金属間化合物相のうち、CuMgの面積率は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましいことが明らかとなった。
【0079】
(本発明例41~52)
本発明例41~52に係る銅/セラミックス接合体は、上記本発明例1~12で作製した銅/セラミックス接合体と同様に作製し、得られた銅/セラミックス接合体について、酸化マグネシウム層の厚さ、および、セラミックス割れサイクル数を、以下のように評価した。
本発明例41~52に係る銅/セラミックス接合体のMg固溶層、および、銅/セラミックス接合体の初期接合率の評価は、上記本発明例1~12で行った評価と同様に行った。
本発明例41~52の評価結果を表4に示す。
【0080】
(酸化マグネシウム層の厚さ)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率2万倍で観察し、得られた元素マッピングにおいて、MgとOが共存する領域が存在した場合を、酸化マグネシウム層と同定した。なお、酸化マグネシウム層は、マグネシア(MgO)、スピネル(MgAl)のいずれかを含有していてもよい。
そして、観察視野内において、酸化マグネシウム層の面積を観察幅で割ることによって、酸化マグネシウム層の厚さを算出した。
【0081】
(セラミックス割れサイクル数)
冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSA-72ES)を使用し、気相で、-50℃×10分←→175℃×10分の300サイクルを実施し、冷熱サイクル試験をした。
10サイクル毎にセラミックス基板の割れの有無を確認した。なお、セラミックス割れの有無は、超音波探傷装置(日立パワーソリューションズ製FineSAT200)による界面検査から判定した。なお、表4において、「>300」は300サイクル後に割れが確認されなかったことを示す。
【0082】
【表4】
【0083】
酸化マグネシウム層の厚さが0.05μm以上2.00μm以下の範囲内とされた本発明例41~52においては、-50℃から175℃の過酷な冷熱サイクル試験を実施した場合であっても、セラミックス割れが発生した冷熱サイクルが170回以上であり、冷熱サイクル信頼性に優れていることが確認された。
酸化マグネシウム層の厚さが0.05μm以上0.80μm以下の範囲内とされた本発明例41~45、47、50~51においては、-50℃から175℃の過酷な冷熱サイクル試験を実施した場合であっても、セラミックス割れが発生した冷熱サイクルが270回以上であり、より冷熱サイクル信頼性に優れていることが確認された。
特に、酸化マグネシウム層の厚さが0.05μm以上0.07μm以下の範囲内とされた本発明例41~43においては、冷熱サイクルを300サイクル負荷後においてもセラミックス基板の割れが確認されておらず、冷熱サイクル信頼性に特に優れていることが確認された。
以上のことから、さらに冷熱サイクル信頼性を確保するためには、酸化マグネシウム層を0.05μm以上2.00μm以下の範囲内とするのが好ましく、0.05μm以上0.80μm以下の範囲内とするのがより好ましく、0.05μm以上0.07μm以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0084】
以上のことから、本発明例によれば、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合されるともに、耐マイグレーション性に優れ、かつ、高温動作時におけるセラミックス割れの発生を抑制できる銅/セラミックス接合体(絶縁回路基板)を提供可能であることが確認された。
【0085】
本発明例によれば、接合温度から480℃までの降温温度の速度を制御することにより、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合され、超音波接合性に優れた銅/セラミックス接合体(絶縁回路基板)を提供可能であることが確認された。また、本発明例によれば、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体(絶縁回路基板)を提供可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合されるとともに、耐マイグレーション性に優れ、かつ、高温動作時におけるセラミックス割れの発生を抑制できる銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、上述の銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0087】
10 絶縁回路基板
11 セラミックス基板
12 回路層
13 金属層
22、23 銅板
31 マグネシウム酸化物層
32 Mg固溶層
図1
図2
図3
図4
図5