(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】シリンダヘッド
(51)【国際特許分類】
F02F 1/42 20060101AFI20220906BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
F02F1/42 A
F02F1/24 B
(21)【出願番号】P 2020565701
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050943
(87)【国際公開番号】W WO2020145156
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019000832
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(72)【発明者】
【氏名】小島 光高
(72)【発明者】
【氏名】石井 広司
(72)【発明者】
【氏名】村田 真一
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003602(JP,A)
【文献】特開2014-008638(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093256(WO,A1)
【文献】特開平11-182367(JP,A)
【文献】特開2018-003601(JP,A)
【文献】米国特許第05842342(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/42
F02F 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室に連通する吸気ポートが設けられているとともに、前記吸気ポートの内面に沿って配置された樹脂部を有するシリンダヘッドであって、
前記シリンダヘッドの外部に向けて開口する注入口と、
前記注入口から前記吸気ポートまで延設され、溶融樹脂が前記注入口から注入された際に前記樹脂部まで流れる樹脂通路と、
前記注入口と異なる位置で前記外部に向けて開口する排出口と、
前記吸気ポートから前記排出口まで延設され、前記溶融樹脂が前記注入口から注入された際に前記吸気ポート内のガスが前記外部へ向けて流れるガス通路と、を備え、
前記樹脂通路の前記吸気ポートの内面における開口と前記ガス通路の前記吸気ポートの内面における開口とは、
前記吸気ポートから前記燃焼室に流れる吸気の流れ方向において互いに離隔する
ことを特徴とする、シリンダヘッド。
【請求項2】
前記樹脂通路の前記吸気ポートの内面における開口と前記ガス通路の前記吸気ポートの内面における開口とは、シリンダブロックと接合されるシリンダヘッド下面側から見て前記吸気ポートの前記流れ方向に沿う中心線を挟んで配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載のシリンダヘッド。
【請求項3】
前記エンジンが多気筒エンジンであって、前記シリンダヘッドには複数の前記吸気ポートが並設されており、
前記排出口が、互いに隣接する二つの前記吸気ポート間に形成され、
前記ガス通路が、前記排出口の両側に位置する前記吸気ポートのそれぞれから前記排出口まで延設されている
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のシリンダヘッド。
【請求項4】
前記エンジンが多気筒エンジンであって、前記シリンダヘッドには複数の前記吸気ポートが並設されており、
前記注入口が、互いに隣接する二つの前記吸気ポート間に形成され、
前記樹脂通路が、前記注入口から前記注入口の両側に位置する前記吸気ポートのそれぞれまで延設されている
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリンダヘッド。
【請求項5】
前記樹脂通路の前記吸気ポートの内面における開口が、前記ガス通路の前記吸気ポートの内面における開口よりも吸気の流れ方向の上流側に位置する
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリンダヘッド。
【請求項6】
前記排出口が、シリンダブロックと接合されるシリンダヘッド下面に開口する
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のシリンダヘッド。
【請求項7】
前記注入口及び前記排出口を閉鎖する閉鎖部を備える
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のシリンダヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエンジンのシリンダヘッドは、例えばアルミニウムやアルミニウム合金を用いた鋳造によって成型されており、熱伝導率が比較的高い。そのため、燃焼室へと繋がる吸気ポートは、燃焼室から伝わる熱によって加熱され、吸気ポートを流通する吸気の温度上昇を招く。吸気の温度が上昇すると吸入空気量が減少するとともにノッキングが発生しやすくなり、エンジン性能を低下させる可能性がある。このような課題に対し、例えば特許文献1には、吸気ポートの内面に樹脂製の断熱部材を配置して、吸気の温度上昇を抑制するようにしたエンジンの吸気通路構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている断熱部材は、樹脂の射出成型により形成されている。このように断熱材としての樹脂部を射出成型により形成する場合、樹脂部となる溶融樹脂を吸気ポートの内面に沿って流し、所定の形状になるように固化させる。しかしながら、溶融樹脂が吸気ポートの内面に沿って適切に広がらないと、樹脂部が所定の形状にならず、吸気ポートの内面に沿った樹脂部を適切に配置することができない。
【0005】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、吸気ポートの内面に沿って配置される樹脂部を成型しやすくすることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示するシリンダヘッドは、エンジンの燃焼室に連通する吸気ポートが設けられているとともに、前記吸気ポートの内面に沿って配置された樹脂部を有するシリンダヘッドであって、前記シリンダヘッドの外部に向けて開口する注入口と、前記注入口から前記吸気ポートまで延設され、溶融樹脂が前記注入口から注入された際に前記樹脂部まで流れる樹脂通路と、前記注入口と異なる位置で前記外部に向けて開口する排出口と、前記吸気ポートから前記排出口まで延設され、前記溶融樹脂が前記注入口から注入された際に前記吸気ポート内のガスが前記外部へ向けて流れるガス通路と、を備え、前記樹脂通路の前記吸気ポートの内面における開口と前記ガス通路の前記吸気ポートの内面における開口とは、前記吸気ポートから前記燃焼室に流れる吸気の流れ方向において互いに離隔している。
【0007】
(2)前記樹脂通路の前記吸気ポートの内面における開口と前記ガス通路の前記吸気ポートの内面における開口とは、シリンダブロックと接合されるシリンダヘッド下面側から見て前記吸気ポートの前記流れ方向に沿う中心線を挟んで配置されていることが好ましい。
【0008】
(3)前記エンジンが多気筒エンジンであって、前記シリンダヘッドには複数の前記吸気ポートが並設されており、前記排出口が、互いに隣接する二つの前記吸気ポート間に形成され、前記ガス通路が、前記排出口の両側に位置する前記吸気ポートのそれぞれから前記排出口まで延設されていることが好ましい。
【0009】
(4)前記エンジンが多気筒エンジンであって、前記シリンダヘッドには複数の前記吸気ポートが並設されており、前記注入口が、互いに隣接する二つの前記吸気ポート間に形成され、前記樹脂通路が、前記注入口から前記注入口の両側に位置する前記吸気ポートのそれぞれまで延設されていることが好ましい。
【0010】
(5)前記樹脂通路の前記吸気ポートの内面における開口が、前記ガス通路の前記吸気ポートの内面における開口よりも吸気の流れ方向の上流側に位置することが好ましい。
(6)前記排出口が、シリンダブロックと接合されるシリンダヘッド下面に開口することが好ましい。
(7)前記注入口及び前記排出口を閉鎖する閉鎖部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
開示のシリンダヘッドによれば、ガス通路を設けることで溶融樹脂の流動性が向上するため、溶融樹脂が吸気ポートの内面に沿って広がりやすくなる。したがって、溶融樹脂が行き渡らずに樹脂部の一部に空間ができるようなことがなく、樹脂部を成型しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第一実施形態に係るシリンダヘッドの吸気側部分をエンジンの前側から見た模式的な正面図である。
【
図2】
図1のシリンダヘッドを吸気側から見た模式的な側面図(
図1のA方向矢視図)である。
【
図4】
図1のシリンダヘッドの吸気ポート内を示す断面図(
図1のB-B矢視断面図)である。
【
図5】(a)は、
図1のシリンダヘッドにおける注入口及び排出口の配置を示す断面図(
図3のC-C矢視断面図)であり、(b)は
図5(a)から樹脂部を省略した図である。
【
図6】
図4の吸気ポートの一つを拡大して樹脂部を省略した図である。
【
図7】第二実施形態に係るシリンダヘッドの下面図である。
【
図8】
図7のシリンダヘッドの吸気ポート内を示す断面図(
図4に対応する図)である。
【
図9】(a)は、
図7のシリンダヘッドにおける注入口及び排出口の配置を示す断面図(
図7のD-D矢視断面図)であり、(b)は
図9(a)から樹脂部及び閉鎖部を省略した図である。
【
図10】
図7のシリンダヘッドにおける樹脂通路の構成を示す断面図〔
図9(b)のE-E矢視断面図〕である。
【
図11】
図8の吸気ポートの一つを拡大して樹脂部を省略した図である。
【
図13】(a)は、
図7のシリンダヘッドの吸気ポートを成型するための中子の一例を示す平面図であり、(b)は
図13(a)のG-G矢視断面図である。
【
図14】変形例に係る排出口及びガス通路を示す断面図〔
図9(b)に対応する図〕である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、実施形態としてのシリンダヘッドについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0014】
[1.第一実施形態]
[1-1.シリンダヘッドの構造]
図1は、第一実施形態に係るシリンダヘッド1の吸気側部分をエンジンの前側から見た模式的な正面図であり、
図2はシリンダヘッド1の側面図(
図1のA方向矢視図)である。シリンダヘッド1は、例えば車両に搭載されるエンジンを構成する部品である。本実施形態では、四つの気筒が一列に並設され、一つの気筒に二つの吸気弁と二つの排気弁とが設けられるエンジンのシリンダヘッド1を例示する。また、本実施形態のエンジンには、燃焼室2(
図3参照)に燃料を噴射する筒内噴射弁(図示略)と、吸気ポート3に燃料を噴射するポート噴射弁(図示略)とが装備される。
【0015】
以下、シリンダヘッド1に対してシリンダブロック(図示略)が固定される側を「下側」とし、この逆側を「上側」としてシリンダヘッド1の上下方向を定める。シリンダヘッド1の上下方向は、エンジンが車両等に搭載されたときの上下方向(鉛直方向)と必ずしも一致していなくてよい。以下、単に「上下方向」という場合には、シリンダヘッド1の上下方向を意味する。なお、
図3はシリンダヘッド1の下面図(シリンダヘッド1をその下面1b側から見た図)であり、
図4は吸気ポート3の内部を示す断面図(
図1のB-B矢視断面図)である。
【0016】
図2に示すように、シリンダヘッド1は、例えばアルミニウムやアルミニウム合金を用いた鋳造によって成型されたシリンダヘッド本体10と、吸気ポート3の内面に沿って配置された樹脂部20とを有する。シリンダヘッド本体10は、シリンダヘッド1の本体部を構成するものである。シリンダヘッド1のうち、樹脂部20以外の構成(上述した吸気ポート3や後述する取付孔5,6及びボス部8等)は、シリンダヘッド本体10に設けられる。なお、
図2,
図4及び後述する
図5(a)ではわかりやすいように、樹脂部20にドットを付して示す。
【0017】
シリンダヘッド1には、吸気ポート3と、ポート噴射弁の取付孔5と、筒内噴射弁の取付孔6と、筒内噴射弁に接続されるデリバリーパイプが固定されるボス部8とが、気筒ごとに形成されている。吸気ポート3及び各取付孔5,6は、シリンダヘッド1の吸気側の壁部1aに開口している。また、ボス部8は、この壁部1aのうち、筒内噴射弁の取付孔6に隣接する位置に設けられている。なお、この壁部1aにおける吸気ポート3の開口3e(上流端)には、図示しない吸気マニホールドが接続される。
図2~
図4及び後述する
図5(a),(b)では、四つの気筒のそれぞれに同様に設けられる取付孔5,6やボス部8等の符号を、一つの気筒にのみ付す。
【0018】
シリンダヘッド1の下面1b(以下、「シリンダヘッド下面1b」ともいう)は、上下方向と直交する平面状に加工されており、シリンダブロックとの接合面となる。
図3に示すように、シリンダヘッド下面1bには、シリンダの上部を形成する燃焼室2が凹設されている。シリンダヘッド1は、シリンダヘッド下面1bとシリンダブロックの上面との間にガスケット(図示略)が介装された状態で、シリンダブロックと結合される。すなわち、シリンダヘッド下面1bとシリンダブロックとは接合される。
【0019】
本実施形態のシリンダヘッド1には、四つの吸気ポート3が一列に並設されている。以下、四つの吸気ポート3が並ぶ方向D1を「ポート並設方向D1」という。また、四つの吸気ポート3を互いに区別する場合は、四つの吸気ポート3をエンジンの前側から順に、第一吸気ポート3A,第二吸気ポート3B,第三吸気ポート3C,第四吸気ポート3Dという。ポート並設方向D1は、エンジンの前後方向及びシリンダ列方向(気筒が並ぶ方向)のそれぞれと一致するとともに、上下方向と直交する。
【0020】
図4に示すように、各吸気ポート3は、二つの吸気バルブ孔4を介して燃焼室2と連通する二股形状に形成されている。各吸気ポート3において、吸気は開口3eから吸気バルブ孔4へと向かう方向D2に流れる。以下、この吸気の流れ方向D2を「吸気方向D2」という。なお、
図4には、吸気ポート3の吸気方向D2に沿う中心線Oを一点鎖線で示している。この中心線Oは、吸気ポート3のうち、二股に分岐する部位よりも上流側の部位において、吸気方向D2に直交する断面の中心点を結んだ線に相当する。
【0021】
図3に示すように、本実施形態のシリンダヘッド1は、互いに隣接する二つの吸気ポート3の外壁間に架設されたリブ部7と、各吸気ポート3の外壁から下方に突設された円柱状の台座部9とを備えている。リブ部7は、シリンダヘッド1を補強する機能をもつ。本実施形態では、第一吸気ポート3A及び第二吸気ポート3Bの外壁間と、第二吸気ポート3B及び第三吸気ポート3Cの外壁間と、第三吸気ポート3C及び第四吸気ポート3Dの外壁間とのそれぞれに、リブ部7が形成されている場合を例示する。各リブ部7は、筒内噴射弁の取付孔6及びボス部8よりも吸気ポート3の上流側(吸気マニホールド側)に配置される。
【0022】
台座部9は、吸気ポート3と上下方向において重なる位置に設けられる。本実施形態では、四つの台座部9が四つの吸気ポート3のそれぞれに対して同様に配置されている場合を例示する。具体的には、台座部9は、筒内噴射弁の取付孔6及びボス部8よりも吸気ポート3の上流側(吸気マニホールド側であって各吸気ポート3の開口3eの近傍)に位置するとともに、筒内噴射弁の取付孔6及びボス部8のそれぞれとポート並設方向D1において重ならないように設けられている。
【0023】
図4に示すように、樹脂部20は、シリンダヘッド本体10の熱が吸気へ伝わるのを抑制する断熱部材である。樹脂部20は、シリンダヘッド本体10の材質よりも熱伝導率の低い樹脂で形成されており、より好ましくは耐熱性の高い樹脂で形成される。樹脂部20は、吸気ポート3の全長のうち、吸気バルブ孔4側の部分(下流部)を除いた部分の内面に沿って配置されている。樹脂部20は、射出成型によって形成される。
【0024】
図5(a)は
図3のC-C矢視断面図であり、
図5(b)は
図5(a)から樹脂部20を省略した図(すなわち、樹脂部20が配置される前のシリンダヘッド本体10の断面図)である。
図5(b)に示すように、シリンダヘッド1は、樹脂部20を射出成型する際に、樹脂部20となる溶融樹脂を吸気ポート3の内面に供給するための構成として、注入口11,樹脂通路12,排出口13及びガス通路14を備えている。なお、
図5(b)及び後述する
図6中の各吸気ポート3内に示す二点鎖線は、樹脂部20の射出成型時に用いられる型の輪郭線である。
【0025】
注入口11は、溶融樹脂を射出する射出機40の先端が挿入されて溶融樹脂が供給(注入)される供給口(開口)である。一方、排出口13は、注入口11への溶融樹脂の注入時に吸気ポート3内のガス(空気)を追い出すためのガス抜き口(開口)である。注入口11及び排出口13はいずれも、シリンダヘッド1の外部に向けて開口している。本実施形態では、注入口11及び排出口13が各吸気ポート3に対して設けられている場合を例示する。すなわち、注入口11及び排出口13は、吸気ポート3ごとに専用化されている。また、注入口11及び排出口13の配置は、各吸気ポート3において同様である。
【0026】
本実施形態の注入口11は、台座部9に形成されている。注入口11は、上下方向において吸気ポート3と重なって(すなわち吸気ポート3の下方に)設けられている。また、注入口11は、吸気方向D2において筒内噴射弁の取付孔6及びボス部8よりも上流側に位置し、ポート並設方向D1において筒内噴射弁の取付孔6及びボス部8のそれぞれと重ならずに(ずれて)位置する。なお、四つの注入口11は、互いに等しい円形状である。
【0027】
樹脂通路12は、溶融樹脂が注入口11から注入された際に樹脂部20まで流れる空間である。本実施形態の樹脂通路12は、注入口11と同様に、各吸気ポート3に対して同様に配置されている。樹脂通路12は、各注入口11からこの注入口11が設けられた吸気ポート3の内面まで延設されている。言い換えると、樹脂通路12は、一つの注入口11と、この注入口11が設けられた一つの吸気ポート3とを連通している。本実施形態の樹脂通路12は、上下方向に延設されている。
【0028】
樹脂通路12は、注入口11を通じてシリンダヘッド1の外部に開口するとともに、吸気ポート3の内面にも開口している。以下、各吸気ポート3の内面における樹脂通路12の開口15を「樹脂入口15」という。樹脂入口15は、樹脂部20が射出成型される際に、吸気ポート3において溶融樹脂の入口となる部位である。本実施形態の樹脂入口15は、注入口11と略等しい円形状である。
【0029】
各排出口13は、注入口11と異なる位置に設けられる。
図3に示すように、本実施形態では、各注入口11が筒内噴射弁の取付孔6及びボス部8よりも吸気マニホールド側に位置するのに対し、各排出口13が注入口11やボス部8よりも燃焼室2側に位置しており、シリンダヘッド下面1bに開口している。また、
図5(b)に示すように、本実施形態の排出口13は上下方向において吸気ポート3と重なって(すなわち吸気ポート3の下方に)設けられている。なお、四つの排出口13は、互いに等しい円形状である。
【0030】
ガス通路14は、溶融樹脂が注入口11から注入された際に、吸気ポート3内から追い出されたガスがシリンダヘッド1の外部へ向けて流れる空間である。本実施形態のガス通路14は、排出口13と同様に、各吸気ポート3に対して同様に配置されている。ガス通路14は、各吸気ポート3の内面からこの吸気ポート3に対して設けられた排出口13まで延設されている。言い換えると、ガス通路14は、一つの吸気ポート3と、これに対して設けられた一つの排出口13とを連通している。ガス通路14は、吸気ポート3の内面に開口するとともに、排出口13を通じてシリンダヘッド1の外部にも開口している。
【0031】
本実施形態のガス通路14は、上下方向に延設されている。ガス通路14の横断面(上下方向と直交する断面)の形状は、円形状である。以下、各吸気ポート3の内面におけるガス通路14の開口16を「樹脂出口16」という。樹脂出口16は、樹脂部20が射出成型される際に、吸気ポート3においてガス及び溶融樹脂の出口となる部位である。
【0032】
図6は、
図4中の第四吸気ポート3Dを拡大して樹脂部20を省略した図である。
図6に例示するように、一つの吸気ポート3の内面における樹脂入口15と樹脂出口16とは、吸気方向D2において互いに離隔して(ずれて)位置する。本実施形態では、樹脂入口15が樹脂出口16よりも吸気方向D2の上流側に位置する。また、一つの吸気ポート3の内面における樹脂入口15と樹脂出口16とは、上下方向から見て(例えば下面視で)、上述した中心線Oを挟んで(すなわち中心線Oの両側に)配置されている。このように、本実施形態の樹脂入口15と樹脂出口16とは、吸気ポート3を上下方向から見た場合、ポート並設方向D1及び吸気方向D2のそれぞれにおいて互いに離隔して位置するとともに、両者の間には中心線Oが介在する。
【0033】
[1-2.シリンダヘッドの製造方法]
ここでは、シリンダヘッド本体10の吸気ポート3内に樹脂部20を配置することでシリンダヘッド1を製造する方法について説明する。上述したように、樹脂部20は、射出成型により形成される。具体的には、まずシリンダヘッド本体10の吸気ポート3内に型〔
図5(b)及び
図6中の二点鎖線参照〕を配置し、溶融樹脂を供給する空間を吸気ポート3の内面と型の外面とで区画する。次いで、射出機40の先端を注入口11に挿入し、射出機40から樹脂通路12に溶融樹脂を注入する。
【0034】
樹脂通路12に注入された溶融樹脂は、樹脂通路12を通じて吸気ポート3の各内面へと供給される。この溶融樹脂は、吸気ポート3の内面に沿って流れ、吸気ポート3の内面と型の外面との間の空間に広がっていく。これに伴い、吸気ポート3内のガスは、ガス通路14を通じてシリンダヘッド本体10の外部へ向けて追い出され、排出口13から排出される。
【0035】
吸気ポート3の内面と型の外面との間の空間が溶融樹脂で充填されたら、注入口11への溶融樹脂の注入を停止する。そして、溶融樹脂が固化すると、吸気ポート3内に樹脂部20が形成される。その後、吸気ポート3内に配置していた型を取り去れば、シリンダヘッド1が完成する。
【0036】
[1-3.作用,効果]
(1)上述したシリンダヘッド1では、注入口11と異なる位置に排出口13が形成され、吸気ポート3から排出口13までガス通路14が延設されるため、注入口11への溶融樹脂の注入時に、吸気ポート3内のガスをガス通路14及び排出口13を通じて外部へと排出することができる。このように、ガス通路14を設けることで溶融樹脂の流動性が向上するため、溶融樹脂が吸気ポート3の内面に沿って広がりやすくなる。これにより、吸気ポート3内に溶融樹脂をよりスムーズに供給することができる。したがって、溶融樹脂が行き渡らずに樹脂部20の一部に空間ができるようなことがなく、樹脂部20を成型しやすくすることができる。
【0037】
また、上述したシリンダヘッド1では、吸気ポート3内に樹脂部20が配置されるため、吸気ポート3の内面と吸気ポート3内を流れる吸気との間で樹脂部20が断熱材として機能する。これにより、吸気ポート3の内面から吸気に伝わる熱が低減されるため、吸気の温度上昇を抑制することができる。よって、吸入空気量の減少とノッキングの発生とを抑制でき、エンジン性能の向上を図ることができる。
【0038】
(2)また、上述したシリンダヘッド1では、樹脂入口15と樹脂出口16とが吸気方向D2において互いに離隔して位置するため、溶融樹脂が樹脂入口15から樹脂出口16に向かって流れる過程で、溶融樹脂を吸気ポート3の内面に沿わせながら吸気方向D2に流すことができる。これにより、溶融樹脂を吸気方向D2に広がりやすくすることができる。さらに、樹脂入口15と樹脂出口16とが上下方向(例えばシリンダヘッド下面1b側)から見て吸気ポート3の吸気方向D2に沿う中心線Oを挟んで配置されているため、溶融樹脂が樹脂入口15から樹脂出口16に向かって流れる過程で、溶融樹脂を吸気ポート3の内面に沿わせながらポート並設方向D1にも流すことができる。これにより、溶融樹脂をポート並設方向D1にも広がりやすくすることができる。したがって、樹脂部20を成型しやすくすることができる。
【0039】
(3)上述したシリンダヘッド1では、吸気ポート3の内面において、樹脂入口15が樹脂出口16よりも吸気方向D2の上流側に位置するため、注入口11を上流側(吸気マニホールド側)に寄せて配置しやすくできる。これにより、シリンダヘッド1に設けられる筒内噴射弁の取付孔6やボス部8といった構成に対し、注入口11を離隔させて配置しやすくなる。すなわち、注入口11を効率良く配置できることから、注入口11と他の構成との干渉を回避しやすくできる。
【0040】
(4)また、排出口13がシリンダヘッド下面1bに開口しているため、シリンダヘッド1の製造時に、シリンダヘッド下面1bを加工するのと同時に排出口13を加工することができる。これにより、排出口13の加工が容易になるため、製造コストの削減を図ることができる。
【0041】
[2.第二実施形態]
[2-1.シリンダヘッドの構造]
図7は、第二実施形態に係るシリンダヘッド1′の下面図である。本実施形態に係るシリンダヘッド1′は、上述した第一実施形態のシリンダヘッド1に対して、互いに隣接する二つの吸気ポート3で注入口11′及び樹脂通路12′を共用化した点が異なる。すなわち、シリンダヘッド1′では、二つの吸気ポート3に対し一つの注入口11′と一つの樹脂通路12′とが設けられる。
【0042】
以下、第一実施形態で説明した要素と同一又は対応する要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。なお、
図7及び後述する
図8,
図9(a),(b)では、四つの気筒のそれぞれに同様に設けられる取付孔5,6やボス部8等の符号を、一つの気筒にのみ付す。また、
図8,
図9(a)及び後述する
図12ではわかりやすいように、樹脂部20にドットを付して示す。
【0043】
図7に示すように、シリンダヘッド1′(シリンダヘッド本体10′)は、上述した台座部9に代えて、リブ部7に形成された座面9′を備えている。座面9′は、互いに隣接する二つの吸気ポート3間において、シリンダヘッド下面1bと平行に設けられる。本実施形態では、第一吸気ポート3A及び第二吸気ポート3B間のリブ部7と、第三吸気ポート3C及び第四吸気ポート3D間のリブ部7とのそれぞれに対して一体的に設けられた座面9′を例示する。各座面9′は、シリンダヘッド下面1bと同じ側(下側)を向く平面状に形成される。各座面9′は、リブ部7と共に、筒内噴射弁の取付孔6及びボス部8よりも吸気ポート3の上流側(吸気マニホールド側)に配置される。
【0044】
図8に示すように、本実施形態では、四つの吸気ポート3内に配置される樹脂部20のうち、互いに隣接する二つの樹脂部20が、その相互間に設けられた樹脂部分21によって連結されている。以下、互いに隣接する二つの樹脂部20の間に設けられた樹脂部分21を「連結樹脂部21」という。連結樹脂部21は、本実施形態のシリンダヘッド本体10′に対して樹脂部20を成型する際に形成されるものである。本実施形態の連結樹脂部21は、第一吸気ポート3A及び第二吸気ポート3Bに配置される二つの樹脂部20の間と、第三吸気ポート3C及び第四吸気ポート3Dに配置される二つの樹脂部20の間とのそれぞれに設けられている。
【0045】
上述したように、本実施形態では注入口11′が二つの吸気ポート3で共用化されている。言い換えると、注入口11′は、二つの吸気ポート3に対して一つだけ設けられている。なお、排出口13は、第一実施形態のものと比べて、第一吸気ポート3A及び第三吸気ポート3Cに対する配置が異なるものの、各吸気ポート3に対して設けられている。すなわち、本実施形態においても、排出口13は吸気ポート3ごとに専用化されている。
【0046】
図7に示すように、本実施形態の注入口11′は、上述した座面9′が一体的に設けられた各リブ部7に形成されており、各座面9′に開口している。具体的には、注入口11′は、第一吸気ポート3A及び第二吸気ポート3Bの間と、第三吸気ポート3C及び第四吸気ポート3Dの間とのそれぞれに設けられている。なお、二つの注入口11′は、互いに等しい円形状である。
【0047】
図9(b)に示すように、本実施形態の樹脂通路12′は、注入口11′からその両側の二つの吸気ポート3のそれぞれまで延設されている。言い換えると、樹脂通路12′は、注入口11′とその両側の各吸気ポート3とを連通している。なお、本実施形態の樹脂入口15′は、注入口11′と比べて開口面積が大きく形成されている。
図9(a)に示すように、樹脂通路12′内で固化した溶融樹脂は、上述した連結樹脂部21となる。
【0048】
本実施形態の樹脂通路12′は、注入口11′から座面9′に対して垂直に延びる注入部12aと、注入部12aに対し交差して二つの吸気ポート3まで延びる分配部12bとを有し、T字状に分岐した形状をなす。注入部12aは、射出機40の先端が接続されて溶融樹脂が供給される部位である。本実施形態の注入部12aは、注入口11′から上方へまっすぐに延びている。すなわち、注入部12aは、互いに隣接する二つの吸気ポート3間で上下方向に延設されている。なお、注入部12aの横断面(上下方向と直交する断面)の形状は、円形状である。
【0049】
分配部12bは、注入部12aを流れる溶融樹脂を二つの吸気ポート3へ分配する部位である。
図10に示すように、分配部12bは、互いに隣接する二つの吸気ポート3間において吸気方向D2に沿って延び、両側の二つの吸気ポート3のそれぞれに連通する。本実施形態の分配部12bは、ポート並設方向D1と吸気方向D2とのそれぞれに沿ってまっすぐに延びている。
【0050】
また、本実施形態の分配部12bは、吸気方向D2及び上下方向に沿う断面の形状が、吸気方向D2に延びる長軸をもつ長円形状とされている。すなわち、分配部12bは、吸気方向D2の長さ寸法Lが、ポート並設方向D1及び吸気方向D2に対して直交する方向の高さ寸法Hよりも大きく設定されている(H<L)。また、本実施形態の分配部12bは、上述した長さ寸法Lが、ポート並設方向D1の幅寸法W(
図11参照)よりも大きく設定されている(W<L)。
【0051】
図8に示すように、本実施形態では、各注入口11′が上下方向において吸気ポート3と重ならない(ポート並設方向D1にずれている)のに対し、各排出口13は吸気ポート3と重なって(吸気ポート3の下方に)設けられている。なお、
図11に示すように、本実施形態においても、一つの吸気ポート3の内面における樹脂入口15′と樹脂出口16とは、吸気方向D2において互いに離隔して(ずれて)位置するとともに、上下方向から見て(例えば下面視で)上述した中心線Oを挟んで配置されている。
【0052】
図9(a)及び
図12に示すように、本実施形態に係るシリンダヘッド1′は、注入口11′及び排出口13を閉鎖するキャップ(閉鎖部)50を備えている。本実施形態のキャップ50は、注入口11′及び排出口13を密閉する機能をもつ。注入口11′に装着されるキャップ50は、注入口11′に内嵌する形状とされ、樹脂部20がシリンダヘッド本体10′に形成された後、各注入口11′に嵌挿される。同様に、排出口13に装着されるキャップ50は、排出口13に内嵌する形状とされ、樹脂部20がシリンダヘッド本体10′に形成された後、各排出口13に嵌挿される。
【0053】
[2-2.シリンダヘッドの製造方法]
ここでは、まず、第二実施形態に係るシリンダヘッド本体10′における吸気ポート3,注入口11′及び樹脂通路12′の成型方法について説明する。上述したように、シリンダヘッド本体10′は鋳造により成型される。シリンダヘッド本体10′は、図示しない鋳型(例えば上型,下型)により外形状が成型されるとともに、吸気ポート3,注入口11′及び樹脂通路12′といった内部の空間が、例えば
図13(a),(b)に示すような中子30を用いて成型される。
【0054】
中子30は、吸気ポート3となる位置に配置される吸気ポート部33と、注入口11′となる位置に配置される注入口部31と、樹脂通路12′となる位置に配置される樹脂通路部32とを有する。また、本実施形態の中子30は、各吸気ポート部33において吸気ポート3の開口3eとなる位置から延出した延出部34と、互いに隣接する延出部34同士を連結する連結部35とを更に有する。
【0055】
延出部34及び連結部35は、シリンダヘッド本体10′の吸気ポート3よりも上流側に配置される部位である。四つの吸気ポート部33は、延出部34及び連結部35を介して連結されることで、一体に(一つの中子30として)設けられている。以下、四つの吸気ポート部33を互いに区別する場合は、四つの吸気ポート部33をエンジンの前側から順に、第一吸気ポート部33A,第二吸気ポート部33B,第三吸気ポート部33C,第四吸気ポート部3Dという。これらの吸気ポート部33A~33Dは、それぞれ吸気ポート3A~3Dに対応するものである。
【0056】
上述したように、本実施形態の注入口11′及び樹脂通路12′は、第一吸気ポート3A及び第二吸気ポート3Bの間と、第三吸気ポート3C及び第四吸気ポート3Dの間とのそれぞれに配置される。このため、中子30では、注入口部31及び樹脂通路部32が、第一吸気ポート部33A及び第二吸気ポート部33Bの間と、第三吸気ポート部33C及び第四吸気ポート部33Dの間との二箇所に配置されている。
【0057】
図13(b)に示すように、樹脂通路部32は、注入部12aとなる位置に配置される注入中子部32aと、分配部12bとなる位置に配置される分配中子部32bとを有する。上述したように、本実施形態では、第一吸気ポート3A及び第二吸気ポート3Bを連通する分配部12bと、第三吸気ポート3C及び第四吸気ポート3Dを連通する分配部12bとの二つが設けられる。このため、中子30では、第一吸気ポート部33A及び第二吸気ポート部33Bが分配中子部32bで連結され、第三吸気ポート部33C及び第四吸気ポート部34Dも分配中子部32bで連結されている。
【0058】
このような中子30を鋳型の内部に配置した状態で、シリンダヘッド本体10′となる材料(例えばアルミニウムやアルミニウム合金)を溶かした溶湯を湯口から流し込み、固化させることで、シリンダヘッド本体10′が成型される。なお、このシリンダヘッド本体10′の吸気ポート3内に樹脂部20を配置する過程では、注入口11′から樹脂通路12′の注入部12aに注入された溶融樹脂が、分配部12bを通じて二つの吸気ポート3の各内面へと供給される。そして、この溶融樹脂が固化すると、吸気ポート3内に樹脂部20が形成されるとともに、樹脂通路12′内に連結樹脂部21が形成される。また、本実施形態では、このように樹脂部20が形成された後、
図12に示すように、キャップ50が注入口11′及び排出口13の各々に嵌挿されることで、注入口11′及び排出口13が閉鎖される。
【0059】
[2-3.作用,効果]
本実施形態に係るシリンダヘッド1′では、互いに隣接する二つの吸気ポート3間に注入口11′が設けられ、この注入口11′から両側の吸気ポート3のそれぞれまで樹脂通路12′が延設される。このため、樹脂部20を成型する際、一つの注入口11′に溶融樹脂を注入すれば、樹脂通路12′を通じて二つの吸気ポート3の各内面に溶融樹脂を供給することができる。すなわち、二つの吸気ポート3において、溶融樹脂の注入口11′を共用化することができる。よって、吸気ポート3ごとに注入口11を設ける第一実施形態の構成と比較して、注入口11′の個数を削減することができる。つまり、シリンダヘッド1′の狭いスペースに効率良く注入口11′を配置できることから、シリンダヘッド1′の大型化を回避できる。また、個々の注入口11′の形状及び配置の自由度を高められる。
【0060】
また、樹脂通路12′が二つの吸気ポート3のそれぞれまで延設されるため、樹脂部20の成型が完了した状態では、二つの吸気ポート3間に樹脂通路12′内で固化した樹脂(連結樹脂部21)が配置される。これにより、吸気ポート3間における断熱効果を高めることができる。したがって、吸気の温度上昇を抑制することができる。このため、吸入空気量の減少とノッキングの発生とを抑制でき、エンジン性能の向上を図ることができる。
【0061】
なお、樹脂通路12′が設けられることで、吸気ポート3及び樹脂通路12′の鋳造で用いる中子30では、吸気ポート部33の二つが樹脂通路部32で互いに連結される。すなわち、中子30では、互いに隣接する二つの吸気ポート部33を、延出部34及び連結部35だけでなく、樹脂通路部32によっても連結することができる。これにより、吸気ポート部33同士の位置関係が保持されやすくなるため、中子30の形状を安定化することができる。したがって、シリンダヘッド1′における吸気ポート3の位置精度を向上させることができる。
【0062】
本実施形態のシリンダヘッド1′には、注入口11′及び排出口13を閉鎖するキャップ50が設けられるため、シリンダヘッド本体10′と樹脂部20との密閉度合いを高めることができる。樹脂部20は溶融樹脂の固化によって形成されることから、シリンダヘッド本体10′の壁面と樹脂部20との間には元々隙間が生じにくいものの、上述したキャップ50が設けられることで、たとえ熱引き等により両者間に隙間ができたとしても、注入口11′及び排出口13からの吸気漏れを抑えることができる。また、キャップ50がシリンダヘッド本体10′や樹脂部20とは別体(別部品)で形成されるため、キャップ50を注入口11′及び排出口13に装着するだけで、注入口11′及び排出口13を容易に閉鎖することができる。
【0063】
注入口11′がシリンダヘッド下面1bと平行な座面9′に開口しており、樹脂通路12′がこの注入口11′から座面9′に対して垂直に延びる注入部12aを有するため、溶融樹脂を注入する際に、シリンダヘッド下面1bを水平に配置すれば、座面9′も水平に配置できるとともに注入部12′を鉛直方向に延ばすことができる。これにより、樹脂部20を成型する際に、シリンダヘッド本体10の姿勢を保持しやすくできるとともに、溶融樹脂の注入方向を鉛直方向とすることができる。よって、溶融樹脂を注入しやすくすることができる。
【0064】
樹脂通路12′が、互いに隣接する二つの吸気ポート3間で吸気方向D2に沿って延びるとともにこれらの吸気ポート3のそれぞれに連通する分配部12bを有するため、樹脂部20の成型が完了した状態では、吸気方向D2に沿って延びる樹脂(連結樹脂部21)を二つの吸気ポート3間に配置できる。これにより、吸気ポート3間の断熱効果を吸気方向D2にわたって高めることができる。また、上述した中子30では、二つの吸気ポート部33が分配中子部32bで連結されるため、二つの吸気ポート部33を吸気方向D2に沿う広範囲にわたって連結することができる。これにより、吸気ポート部33同士の位置関係がより保持されやすくなるため、中子30の形状を更に安定化することができ、シリンダヘッド1′における吸気ポート3の位置精度を更に向上させることができる。
【0065】
注入口11′が、互いに隣接する二つの吸気ポート3の外壁間に架設されたリブ部7に形成されているため、リブ部7で吸気ポート3の間を補強できるとともに、リブ部7を注入口11′の台座部として活用することができる。これにより、注入口11′に専用の台座部を設ける場合と比べてスペース効率が高められるため、シリンダヘッド1′の大型化を抑えながら、吸気ポート3の周辺の強度及び剛性を高めることができる。
【0066】
樹脂入口15′の開口面積が注入口11′の開口面積と比べて大きいため、注入口11′に注入された溶融樹脂を樹脂入口15′から吸気ポート3内へよりスムーズに供給することができる。したがって、樹脂部20をより成型しやすくすることができる。なお、上述した実施形態と同様の構成からは同様の効果が得られる。
【0067】
[3.変形例]
上述したシリンダヘッド1,1′の構成は一例であって、上述したものに限られない。例えば、直列四気筒エンジンのシリンダヘッドでなくてもよいし、筒内噴射弁及びポート噴射弁の両方を備えたエンジンのシリンダヘッドでなくてもよい。なお、吸気ポート3の形状は、上述したような二股形状に限定されない。また、リブ部7やボス部8が省略されてもよい。
【0068】
上述した中子30の構成は一例である。中子30は、上述した構成に加えて、排出口13及びガス通路14となる位置に配置される部分を更に有していてもよい。また、延出部34及び連結部35が省略されてもよい。なお、注入口11,11′と樹脂通路12,12′と排出口13とガス通路14とは、中子を用いて形成されるものに限らず、例えば、穴あけ加工により形成されてもよい。
【0069】
注入口11,11′の位置及び個数は、上述したものに限定されない。例えば上述した第二実施形態に係るシリンダヘッド1′において、第二吸気ポート3B及び第三吸気ポート3Cの間に注入口11′が設けられてもよい。また、上述した第二実施形態では、二つの吸気ポート3に対して一つの注入口11′が設けられる場合を例示したが、三つ以上の吸気ポート3に対して一つの注入口11′が設けられてもよい。例えば、第二吸気ポート3B及び第三吸気ポート3C間に注入口11′を設け、第一吸気ポート3A及び第二吸気ポート3B間と、第三吸気ポート3C及び第四吸気ポート3Dとをそれぞれ上述した分配部12aと同様の構成で連結すれば、一つの注入口11′から四つの吸気ポート3のそれぞれに溶融樹脂を供給できる。この場合、シリンダヘッド1′において注入口11′の個数を一つに削減することができる。
【0070】
排出口13の位置及び個数も、上述したものに限定されない。注入口11′を複数の吸気ポート3で共用化するのと同様に、排出口13を複数の吸気ポート3で共用化してもよい。例えば
図14に示すように、上述した第二実施形態に係るシリンダヘッド1′において、第二吸気ポート3B及び第三吸気ポート3Cのそれぞれに対して設けられた排出口13を一つの排出口13′に統合してもよい。より具体的には、互いに隣接する第二吸気ポート3B及び第三吸気ポート3C間に排出口13′を形成し、第二吸気ポート3B及び第三吸気ポート3C(すなわち、排出口13′の両側の吸気ポート3)のそれぞれから排出口13′までガス通路14′を延設してもよい。
【0071】
この場合、溶融樹脂の注入時に、二つの吸気ポート3内のガスを一つの排出口13′からまとめて排出することができる。すなわち、二つの吸気ポート3において、ガスの排出口13′を共用化することができる。よって、吸気ポート3ごとに排出口13を設ける構成と比較して、排出口13,13′の個数を削減することができる。これにより、シリンダヘッドの狭いスペースをより効率良く利用でき、シリンダヘッドの大型化を回避できるとともに、個々の排出口13,13′の形状及び配置の自由度を高められる。
【0072】
また、この場合、ガス通路14′が二つの吸気ポート3のそれぞれまで延設されるため、ガス通路14′内にも溶融樹脂を流して固化させれば、上述した連結樹脂部21と同様に、吸気ポート3間における断熱効果を高めることができる。さらに、吸気ポート3の鋳造で用いる中子にガス通路14′に対応する部分を設ければ、この中子においてガス通路14′に対応する部分が、上述した中子30における樹脂通路部32と同様に、吸気ポート3に対応する部分の二つを連結する。このため、中子の形状を安定化できるとともに、シリンダヘッドにおける吸気ポート3の位置精度を向上させることができる。
【0073】
なお、
図14には二つの吸気ポート3に対して一つの排出口13′が設けられる場合を例示したが、三つ以上の吸気ポート3に対して一つの排出口13′が設けられてもよい。また、
図14には第二実施形態に係るシリンダヘッド1′において排出口13′が二つの吸気ポート3で共用化される場合を例示したが、これと同様に、第一実施形態に係るシリンダヘッド1において排出口が二つの吸気ポート3で共用化されてもよい。
【0074】
上述した樹脂入口15,15′及び樹脂出口16の配置は一例である。樹脂入口15,15′と樹脂出口16とは、吸気方向D2において互いに離隔していなくてもよいし、シリンダヘッド下面1b側から見て吸気ポート3の上述した中心線Oを挟んで配置されていなくてもよい。また、例えば、樹脂入口15,15′が樹脂出口16よりも吸気方向D2の下流側に位置してもよい。
【0075】
また、樹脂通路12,12′及びガス通路14の形状も、上述したものに限定されない。例えば、樹脂通路12及び樹脂通路12′の注入部12aは、上下方向に対して傾斜して延びていてもよいし、湾曲していてもよい。また、樹脂通路12′の分配部12bは、樹脂の特性によるため、断面形状が円形であってもよく、また、円形や長円形状以外であってもよい。なお、分配部12bの長さ寸法L,幅寸法W及び高さ寸法Hの大小関係も、上述したものに限定されない。
【0076】
注入口11,11′から注入された溶融樹脂は、少なくとも吸気ポート3の内面に沿って配置される樹脂部20となればよく、樹脂通路12,12′及び排出通路14,14′には樹脂(溶融樹脂が固化したもの)が配置されなくてもよい。また、上述したキャップ50は、第二実施形態のシリンダヘッド1′に限らず、例えば第一実施形態のシリンダヘッド1にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1,1′ シリンダヘッド
1b 下面(シリンダヘッド下面)
2 燃焼室
3 吸気ポート
7 リブ部
10,10′ シリンダヘッド本体
11,11′ 注入口
12,12′ 樹脂通路
13,13′ 排出口
14,14′ ガス通路
15,15′ 樹脂入口(樹脂通路の開口)
16 樹脂出口(ガス通路の開口)
20 樹脂部
50 キャップ(閉鎖部)
O 中心線