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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】不活化装置および不活化方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
A61L2/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021014891
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118401
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2021-11-12
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 龍志
(72)【発明者】
【氏名】奥村 善彦
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-136145(JP,A)
【文献】特開2018-023935(JP,A)
【文献】Care222 iシリーズ ダウンライトタイプ(i-DU) カタログ,日本,ウシオライティング株式会社,2021年01月,1-2頁
【文献】高塚威,空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集,第7巻,2020年09月,133-136頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00-12/14
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が存在する空間内において、前記空間内に存在する微生物および/またはウイルスを不活化する波長範囲の光を放射する光源を備える光照射ユニットと、
前記光源による前記光の照射を制御する制御部と、を備え、
前記光は、200nm~235nmの波長範囲にある紫外線であり、
前記光源は、当該光源から基準身長を有する人の眼までの距離が2m未満となる位置に設置され、前記人の上方から床面に向けて前記紫外線を放射するように構成されており、
前記制御部は、前記基準身長を有する前記人の眼における前記紫外線の実効入射照度が一定の照度範囲内となるように前記光源を制御し、
前記照度範囲は、3.5μW/cm以下であることを特徴とする不活化装置。
【請求項2】
前記照度範囲は、1μW/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の不活化装置。
【請求項3】
記照度範囲の下限値は、前記床面における前記紫外線の実効入射照度が、当該床面での前記不活化に最低限必要な照度となるときの、前記人の眼の高さにおける前記紫外線の実効入射照度であることを特徴とする請求項1または2に記載の不活化装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記空間内の人に照射される前記紫外線の照射量が7mJ/cm以上150mJ/cm以下となるように前記光源を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の不活化装置。
【請求項5】
前記人の眼における前記紫外線の実効入射照度は、前記光源から前記人の眼への前記紫外線の入射角度に基づいて算出される照度であることを特徴とする請求項1または2に記載の不活化装置。
【請求項6】
前記光源は、エキシマランプ、LEDおよびコヒーレント光源のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の不活化装置。
【請求項7】
前記光源は、中心波長222nmの紫外線を放射することを特徴とする請求項1または2に記載の不活化装置。
【請求項8】
前記光源はLEDであって、
前記LEDは、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LEDおよび酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LEDのいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の不活化装置。
【請求項9】
前記光源はLEDであって、
前記光照射ユニットは、前記LEDを冷却する冷却部材を有することを特徴とする請求項1または2に記載の不活化装置。
【請求項10】
前記光源はエキシマランプであって、
前記光照射ユニットは、前記エキシマランプを収容し、導電性の金属からなる筐体を有することを特徴とする請求項1または2に記載の不活化装置。
【請求項11】
前記光照射ユニットは、前記光源を内部に収容し、前記光源から発せられる光の少なくとも一部を出射する光出射窓を有する筐体を備え、
前記光出射窓には、200nm~235nm以外の波長範囲の光の透過を阻止する光学フィルタが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の不活化装置。
【請求項12】
人が存在する空間内において、前記空間内に存在する微生物および/またはウイルスを不活化する波長範囲の光として200nm~235nmの波長範囲にある紫外線を放射する光源であって、当該光源から基準身長を有する人の眼までの距離が2m未満となる位置に設置され、前記人の上方から床面に向けて前記紫外線を放射するように構成された光源を制御して、前記基準身長を有する前記人の眼における前記紫外線の実効入射照度が3.5μW/cm以下となるような前記紫外線を前記空間内に照射することを特徴とする不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害な微生物やウイルスを不活化する不活化装置および不活化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療施設、学校、役所、劇場、ホテル、飲食店等、頻繁に人が集まったり人が出入りしたりする施設は、バクテリアやカビ等の微生物が繁殖しやすく、またウイルスが蔓延しやすい環境にある。特に、上記施設における狭い空間(病室、トイレ、エレベータ内などの閉鎖空間)や人が密集するような空間では、このような傾向が顕著となる。
例えば、有害で感染性の高い微生物やウイルスは、当該ウイルス等に感染した人が施設内の所定の空間を出入りすることにより、当該空間における床や壁等の表面上で増殖したり、当該空間内を浮遊したりする。そのため、その空間に入った次の人にウイルス等が感染し、場合によっては感染症が施設内で蔓延することもある。
【0003】
以上のような状況を改善するために、人(場合によっては動物)が集まったり出入りしたりする施設においては、上記したような有害な微生物(例えば、感染性微生物)を消毒したり、ウイルスを不活化したりする措置が求められる。
床や壁等の上記空間を取り囲む表面については、例えば、作業員によってアルコール等の消毒剤を散布する、消毒剤を染み込ませた布等で拭き取る、あるいは殺菌紫外線を照射する等の除染作業が行われる。また、空間内を浮遊する微生物やウイルス等については、例えば、紫外線照射による殺菌・不活化が行われる。
特許文献1には、密閉室を除染する除染装置として、使用者がいないときに除染対象空間に紫外線(UVC光)を照射し、当該空間を殺菌する装置が開示されている。
【0004】
除染(殺菌)用途に使用される紫外線の波長域は、例えば、200~320nmである。殺菌に特に効果的な波長は、DNAの吸収が大きい260nm付近である。よって、殺菌用光源としては、波長253.7nmの紫外線を放出する低圧水銀ランプが用いられることが多い。なお近年は、ピーク波長が例えば275nmである紫外線LEDも採用されている。
しかしながら、上記した波長域の紫外線は、人や動物に悪影響を及ぼす。例えば、紅斑や皮膚のDNA損傷による癌の誘発や、眼の障害(充血(結膜炎)・角膜の炎症など)が起こる。特に、通常は成層圏のオゾン層により吸収され地表に到達しないUV-C領域の波長(200~280nm)も上記光源からは放出されるので、人や動物に与える影響は重大となる。
【0005】
一方で、222nmの紫外線の人や動物に対する安全性に関する研究も、近年報告され始めている。
例えば非特許文献1には、アルビノラットの眼に対して、波長222nmの紫外線と、波長254nmの紫外線とを、照射量30mJ/cm、150mJ/cm、600mJ/cmの条件でそれぞれ照射し、急性角膜損傷を評価した結果が開示されている。ここでは、波長254nmの場合は150mJ/cm以上で角膜炎が発生したが、波長222nmの場合は、照射量が600mJ/cmであっても角膜に損傷が発生しなかったことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-528258号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sachiko Kaidzu, et al.、“Evaluation of acute corneal damage induced by 222-nm and 254-nm ultraviolet light in Sprague-Dawley rats”、FREE RADICAL RESEARCH、2019、VOL. 53、NO. 6、p.611-617
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)によれば、人体への1日(8時間)あたりの紫外線照射量には波長ごとに許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。
上記のACGIHやJIS Z 8812等の人や動物の安全に関する規格におけるTLV値は紫外線照射量(Dose量)であり、上記非特許文献1における安全性に関する研究報告も、人や動物に対して照射する紫外線の影響について、紫外線照射量を変数にしたものである。
このように、人に対する紫外線の影響度は、紫外線の波長と照射量とに依存すると考えられてきた。しかしながら、本発明者らが鋭意研究した結果、紫外線照射量を抑えたとしても、人の眼に対して悪影響があることが新たに分かった。
【0009】
そこで、本発明は、有害な微生物やウイルスを効率的に不活化することができるとともに、人の眼への悪影響が小さく、眼の安全性を確保することが可能な不活化装置および不活化方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る不活化装置の一態様は、人が存在する空間内において、前記空間内に存在する微生物および/またはウイルスを不活化する波長範囲の光を放射する光源を備える光照射ユニットと、前記光源による前記光の照射を制御する制御部と、を備え、前記光は、200nm~235nmの波長範囲にある紫外線であり、前記光源は、当該光源から基準身長を有する人の眼までの距離が2m未満となる位置に設置され、前記人の上方から床面に向けて前記紫外線を放射するように構成されており、前記制御部は、前記基準身長を有する前記人の眼における前記紫外線の実効入射照度が一定の照度範囲内となるように前記光源を制御し、前記照度範囲は、3.5μW/cm以下である。
【0011】
本発明者らは、人や動物の細胞に悪影響の少ない光とされる波長200~235nmの紫外線の人の眼に対する影響が、紫外線の照度(人の眼における実効入射照度)に依存することを見出した。そして、人の眼における紫外線の実効入射照度が一定の照度範囲内である場合、人の眼に対して悪影響の無いことも突き止めた。
上記のように、人の眼における紫外線の実効入射照度が3.5μW/cm以下となるように光源を制御することで、人の眼の安全性を確保しつつ、上記空間内の微生物やウイルスを不活化することができる。
【0012】
らに、上記の不活化装置において、前記照度範囲は、1μW/cm以上とすることができる。
この場合、人の眼の安全性を確実に確保しつつ、空間内の微生物やウイルスを適切に不活化することができる。
【0013】
さらに、上記の不活化装置において、前記照度範囲の下限値は、前記床面における前記紫外線の実効入射照度が、当該床面での前記不活化に最低限必要な照度となるときの、前記人の眼の高さにおける前記紫外線の実効入射照度であってもよい。
この場合、人の眼の安全性を確保しつつ、床面に付着した微生物やウイルスについても適切に不活化することができる。
【0014】
また、上記の不活化装置において、前記制御部は、前記空間内の人に照射される前記紫外線の照射量が7mJ/cm以上150mJ/cm以下となるように前記光源を制御してもよい。
この場合、人の眼の安全性を確保しつつ、空間内の微生物やウイルスを適切に不活化することができる。
【0015】
さらに、上記の不活化装置において、前記人の眼における前記紫外線の実効入射照度は、前記光源から前記人の眼への前記紫外線の入射角度に基づいて算出される照度であってもよい。
この場合、光源から放射される紫外線が人の眼に垂直入射するのか、垂直入射に対して所定の角度をもって入射するのかを考慮して光源を制御することができ、人の眼の安全性を適切に確保することができる。
【0017】
さらに、上記の不活化装置において、前記光源は、エキシマランプ、LEDおよびコヒーレント光源のいずれかであってもよい。
エキシマランプ、LEDおよびコヒーレント光源は、従来の不活化装置の紫外線光源として利用されてきた低圧水銀ランプと比較して、振動や気圧変化、温度変化の影響を受けにくい。すなわち、振動や気圧変化、温度変化を受けても、放出される光の照度が不安定になりにくい。そのため、エキシマランプやLED、コヒーレント光源を光源として用いることで、不活化装置が振動や気圧変化、温度変化を受ける環境で使用される場合であっても、安定して光を放出することができ、殺菌、不活化を適切に行うことができる。
【0018】
また、上記の不活化装置において、前記光源は、中心波長222nmの紫外線を放射してもよい。
この場合、紫外線照射による人体への悪影響を適切に抑制しつつ、微生物やウイルスを効果的に不活化することができる。
【0019】
さらにまた、上記の不活化装置において、前記光源はLEDであって、前記LEDは、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LEDおよび酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LEDのいずれかであってもよい。
この場合、振動や気圧変化、温度変化の影響を受けにくいLEDを用いて、例えば人体に悪影響の少ない200nm~235nmの波長範囲にある紫外線を放射し、適切に微生物やウイルスを不活化することができる。
【0020】
また、上記の不活化装置において、前記光源はLEDであって、前記光照射ユニットは、前記LEDを冷却する冷却部材を有していてもよい。
この場合、LEDの熱上昇を適切に抑制することができ、LEDから安定した光を放出させることができる。
【0021】
さらに、上記の不活化装置において、前記光源はエキシマランプであって、前記光照射ユニットは、前記エキシマランプを収容し、導電性の金属からなる筐体を有していてもよい。
この場合、エキシマランプから発生する高周波ノイズが筐体外部へ発信されることを抑制することができる。これにより、筐体外部に設けられた制御システムへの制御指令がエキシマランプからの高周波ノイズの影響を受けることを抑制することができ、当該制御指令の不具合を抑制することができる。
【0022】
また、上記の不活化装置において、前記光照射ユニットは、前記光源を内部に収容し、前記光源から発せられる光の少なくとも一部を出射する光出射窓を有する筐体を備え、前記光出射窓には、200nm~235nm以外の波長範囲の光の透過を阻止する光学フィルタが設けられていてもよい。
この場合、人体や動物への悪影響の少ない波長域の光のみを照射することができる。
【0023】
さらに、本発明に係る不活化方法の一態様は、人が存在する空間内において、前記空間内に存在する微生物および/またはウイルスを不活化する波長範囲の光として200nm~235nmの波長範囲にある紫外線を放射する光源であって、当該光源から基準身長を有する人の眼までの距離が2m未満となる位置に設置され、前記人の上方から床面に向けて前記紫外線を放射するように構成された光源を制御して、前記基準身長を有する前記人の眼における前記紫外線の実効入射照度が3.5μW/cm 以下となるような前記紫外線を前記空間内に照射する。
このように、空間内に存在する人の眼における紫外線の実効入射照度が一定の照度範囲内となるように光源を制御することで、人の眼の安全性を確保しつつ、上記空間内の微生物やウイルスを不活化することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、有害な微生物やウイルスを効率的に不活化することができるとともに、人の眼への悪影響が小さく、眼の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】たんぱく質の紫外線吸光スペクトルを示す図である。
図2】人の眼に対する評価実験の実験系を示す模式図である。
図3】光学フィルタの一例における光透過率の分光分布を示す図である。
図4】実験結果を示す図である。
図5】本実施形態における不活化装置を備える不活化システムの一例である。
図6】紫外線照射ユニットの構成例を示す模式図である。
図7】エキシマランプの構成例を示す模式図である。
図8】エキシマランプの別の例を示す模式図である。
図9】エキシマランプの別の例を示す模式図である。
図10】紫外線照射ユニットの別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、人が存在する空間内において紫外線照射を行い、当該空間内に存在する微生物やウイルスを不活化する不活化装置について説明する。
なお、本実施形態における「不活化」とは、微生物やウイルスを死滅させる(又は感染力や毒性を失わせる)ことを指すものである。また、「人が存在する空間」は、実際に人が居る空間に限定されず、人が出入りする空間であって人が居ない空間を含む。
【0027】
ここで、上記空間は、例えば、オフィス、商業施設、医療施設、駅施設、学校、役所、劇場、ホテル、飲食店等の施設内の空間や、自動車、電車、バス、タクシー、飛行機、船等の乗物内の空間を含む。なお、上記空間は、病室、会議室、トイレ、エレベータ内などの閉鎖された空間であってもよいし、閉鎖されていない空間であってもよい。
【0028】
本実施形態における不活化装置は、人や動物の細胞への悪影響が少ない波長200~235nmの紫外線を、人が存在する領域に対しても照射して、当該領域内の物体表面や空間に存在する有害な微生物やウイルスを不活化するものである。ここで、上記物体は、人体、動物、物を含む。
実用上、除染(殺菌)用途に使用される紫外線の波長域は、200~320nmとされており、特に、微生物やウイルスが保有する核酸(DNA、RNA)の吸収が大きい260nm付近の紫外線を用いることが一般的となっている。しかしながら、このような260nm付近の波長域の紫外線は、人や動物に悪影響を及ぼす。例えば、紅斑や皮膚のDNA損傷による癌の誘発や、眼の障害(充血(結膜炎)・角膜の炎症など)を引き起こす。
【0029】
そのため、上記のように260nm付近の紫外線を用いて除染(殺菌)する従来の紫外線照射システムでは、人や動物の安全性を考慮し、人や動物が存在しないときに紫外線の照射を行い、照射領域に人が存在する場合は紫外線の放出を停止するように構成している。
ところが、空間内で有害な微生物が繁殖したり、微生物やウイルスが浮遊したり、空間を取り囲む表面に付着するのは、有害な微生物やウイルスを有する人(感染者)や動物が、上記空間に出入りすることに起因することが多い。よって、本来的には、除染(殺菌)用途の紫外線照射システムでは、空間や空間を取り囲む表面のみならず、その領域に存在する人や動物表面も除染することが効率的となる。
【0030】
図1は、たんぱく質の紫外線吸光スペクトルを示す図である。
この図1に示すように、たんぱく質は、波長200nmに吸光ピークを有し、波長240nm以上では紫外線が吸収されにくいことがわかる。つまり、波長240nm以上の紫外線は、人の皮膚を透過しやすく、皮膚内部まで浸透する。そのため、人の皮膚内部の細胞がダメージを受けやすい。これに対して、波長200nm付近の紫外線は、人の皮膚表面(例えば角質層)で吸収され、皮膚内部まで浸透しない。そのため、皮膚に対して安全である。
一方で、波長200nm未満の紫外線は、オゾン(O)を発生し得る。これは、波長200nm未満の紫外線が酸素を含む雰囲気中に照射されると、酸素分子が光分解されて酸素原子を生成し、酸素分子と酸素原子との結合反応によってオゾンが生成されるためである。
【0031】
したがって、波長200~240nmの波長範囲は、人や動物に安全な波長範囲であるといえる。なお、人や動物に安全な波長範囲は、好ましくは波長200~237nm、より好ましくは波長200~235nm、さらに好ましくは200~230nmである。
本実施形態における不活化装置は、人や動物に安全な波長範囲である波長200~235nmの紫外線を用い、従来のように、紫外線が人に照射されないように構成するのではなく、人が存在する空間に対しても紫外線を照射するものである。
【0032】
なお、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)によれば、人体への1日(8時間)あたりの紫外線照射量には波長ごとに許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。
上記の安全規格の考え方は、TLV値を超える照射量の紫外線が人に照射されると、人における紫外線の照射部位に良くない影響が発現するという考え方である。
このことは、紫外線の照射量が大きいほど、人への悪影響の度合いが大きくなることを示唆している。例えば、紫外線の照射部位が皮膚の場合は皮膚がんの影響度、眼の場合は角膜炎の影響度を考慮している。
【0033】
このように、人に対する紫外線の影響度は、紫外線の波長と照射量(ドーズ量)とに依存すると考えられてきた。しかしながら、紫外線照射量を抑えたとしても、人の眼に対して悪影響があることが新たにわかった。
本発明者らが鋭意研究した結果、人の眼については、照射される紫外線の照射量のみに起因する急性障害とは別に、紫外線の照度に依存する現象があることを発見した。
【0034】
紫外線照射量(ドーズ量)に影響する眼の急性障害としては、例えば紫外線角膜炎がある。角膜炎は、紫外線照射量が多くなると、角膜上皮のダメージ量およびダメージ深さが増し、角膜上皮の何層かが、アポトーシスを起こして剥がれ落ち、目に砂が入った感じとなり、角膜上皮の下にある神経が表面に出て、2~3日、新しい角膜上皮が作られるまで、夜も眠れないほどの痛みが出る障害である。この角膜炎を発症する紫外線照射量は、マウスに対する波長222nmの紫外線照射の実験では600mJ/cm以上とされている。
一方、人の場合、もっと低い紫外線照射量で、障害とまでは言えないが、日常生活上、好ましくない現象が起きることを発見した。例えば、紫外線照射後、一定時間多量の涙が出る、不快感があるといった現象である。
【0035】
そこで、本発明者らは、人の眼に紫外線を照射して、その影響を評価した。このような人の眼に対する評価(特に上記のように人に対して安全とされる波長200~240nmの紫外線の人の眼に及ぼす影響の評価は、1970年台にこの領域の波長別テストが1例あるだけで、その後一切おこなわれず、波長200~240nmの詳細な評価は、本発明者らが初めて行ったものである。
【0036】
図2は、人の眼に対する評価実験の実験系を示す模式図である。
この図2に示すように、人の眼500に対して、光源装置501から放射された紫外線(UV)を垂直入射し、紫外線照射後の眼500の状態を調査した。
光源装置501としては、中心波長が222nmであるKrClエキシマランプを搭載し、当該KrClエキシマランプからの光を外部に放出するKrClエキシマランプ光源装置を用いた。
【0037】
なお、KrClエキシマランプは、図3の実線Lに分光スペクトルを示すように、人や動物に悪影響を及ぼす波長240nmよりも長い領域の紫外線も放出する。よって、今回は、波長235nmよりも長い波長域の紫外線(UV-C)を遮断する光学フィルタ502を、KrClエキシマランプ光源装置501と眼500との間に設置した。今回使用した光学フィルタ502の分光透過率特性を図3の破線aに示す。
この例の光学フィルタ502は、合成石英ガラスよりなる基板の一面にHfO層およびSiO層が交互に積層されてなる誘電体多層膜が形成されて構成されている。誘電体多層膜におけるHfO層の厚みは約240nm、SiO層の厚みは1460nmで、HfO層およびSiO層の層数は総数33層である。また、基板の他面には、HfO層およびSiO層によるAR(Anti-Reflection)コーティングが施されている。
【0038】
図4は、人の眼に対する評価実験の実験結果である。
図4に示すように、片眼または両眼に対して上記した紫外線を照射する実験を8回実施した(実験1~8)。
紫外線照射量(ドーズ量)は、25.7mJ/cm~205mJ/cmであり、各実験における眼球表面の照度および照射時間は、図4に示す表の通りである。
各実験は、すべて人の眼球に対して実施した。そして、人の眼球に対する上記した紫外線(光学フィルタ502にて波長235nm以上の紫外線をカットした、中心波長222nmのKrCLエキシマランプ光)の照射の影響は、当該紫外線を照射して10分~120分(2時間)後に涙が顕著に出てきたか、眼に対する不快感があるかで判断した。
【0039】
図4の「涙」の欄において、「×」は涙が出なかった場合を示し、少量の場合は「△」、そして多量の場合は「〇」、さらに多い場合は「◎」で示した。また、図4の「不快感」の欄において、「×」は不快感がなかった場合を示し、「△」、「〇」、「◎」の順に不快感が大きいことを示す。
上述したように、従来、紫外線の照射量が大きいほど、人への悪影響の度合いが大きくなると考えられてきた。
しかしながら、図4で示されるように、紫外線の照射量と、涙や不快感等の度合いとは、必ずしも正の相関を示していない。
【0040】
例えば、実験1の右眼と実験3の両眼とで結果を比較すると、紫外線照射量は、実験3が205mJ/cm、実験1が120mJ/cmであり、実験3における紫外線照射量は実験1における紫外線照射量の約1.7倍大きいにもかかわらず、実験3の場合の方が実験1の場合より、涙、不快感といった人の眼への影響の度合いが小さい。
また、実験2の片眼、実験4の両眼、実験6の両眼、実験7の両眼の場合、紫外線照射量は25.7mJ/cm~27.3mJ/cmとほぼ同じであるにもかかわらず、人の眼への影響の度合いは、実験4、実験6が影響なし、実験7が涙の分泌があるが不快感はなし、実験2が涙の分泌および不快感の両方ともある程度大きいという結果となった。
【0041】
以上の結果より、少なくとも人の眼への影響の度合いは、紫外線照射量が大きくなるほど大きくなるわけではないことが判明した。
【0042】
さらに、眼の表面での照度の観点から実験1の右眼と実験3の両眼の結果を比較すると、眼の表面での照度は、実験3が6.2μW/cm、実験1が4000μW/cmであり、実験1における照度が実験3における照度の約645倍となっている。そして、実験1の場合の方が、実験2の場合よりも人の眼への影響が大きい。
また、眼の表面での照度の観点から実験2の片眼、実験4の両眼、実験6の両眼、実験7の両眼の結果を比較すると、照度が小さい順に実験4および実験6が3.5μW/cm、実験7が6.2μW/cm、実験2が30μW/cmであり、人の眼への影響が小さい順も実験4および実験6、実験7、実験2の順となっている。
【0043】
よって、少なくとも人の眼への影響の度合いは、眼における紫外線の照度が大きくなるほど大きくなることが初めて分かった。
【0044】
また、人の眼における照度が同じ場合は、紫外線照射量が大きいほど、人の眼への影響が大きくなることが分かった。
例えば、実験3、実験7、実験8の両眼においては、眼における照度は、比較的小さい6.2μW/cmで同じである。しかしながら、紫外線照射量が205mJ/cmの実験3の場合の方が、紫外線照射量が25.7mJ/cmの実験7や、紫外線照射量が49.5mJ/cmの実験8の場合よりも、人の眼への影響が大きかった。
【0045】
図4に示す実験結果から得られた以上の知見により、人の眼における紫外線の照度が3.5μW/cm以下である場合、人の眼において涙の分泌が起こっても少量であり、また不快感の発現が起こらないことが分かった。
こうして得られた知見に基づき、更に、人の眼における紫外線の照度が3.5μW/cmであって、紫外線照射量が150mJ/cmであるときの人の眼の影響を調べたが、この場合においても、人の眼において涙の分泌は少量であり不快感の発現は無かった。
【0046】
なお、人の眼における紫外線の照度は、ウイルス不活化の観点から、1μW/cm以上であることが好ましい。
ウイルス(例えば新型コロナウイルス)を90%不活化するのに最低限必要な紫外線照射量は、0.6mJ/cmである。例えば、図5に示すように、人300が存在する空間である所定の施設200の天井201に中心波長222nmの紫外線を放射する不活化装置100を設置し、床面202に向けて下方に紫外線(UV)を放射する不活化システム1000について考える。ここで、床面202から天井201(不活化装置100の光放射面)までの高さを2.5m、床面202から人300の眼までの高さを1.7mとすると、人300の眼の高さにおける照度は、床面202での照度の約11倍となり、人300の眼の高さでの紫外線照射量が6.6mJ/cmあれば、床面202での紫外線照射量は0.6mJ/cmとなる。
【0047】
人の眼における紫外線の照度が1μW/cmの場合、110分の照射時間で人300の眼の高さでの紫外線照射量が6.6mJ/cmに達する。つまり、人の眼における紫外線の照度が1μW/cmあれば、2時間弱の照射時間で床面202のウイルス不活化が可能であるということであり、実際的である。このように、床面202における紫外線の照度が、床面202でのウイルス不活化に最低限必要な照度となるときの人の眼の高さにおける紫外線の照度を、人の眼における照度の照度範囲の下限値として設定すれば、人の眼の安全性の確保とウイルス不活化との実現が可能となる。
【0048】
以上をまとめると、人の眼における紫外線の照度が1μW/cm以上3.5μW/cm以下である場合、人の眼において涙の分泌が発生しても少量であり、不快感の発現が起こらないことが分かった。
なお、ここでいう「人の眼における照度」は、人の眼における実効入射照度(人の眼に入射する光の照度の実効値)であり、紫外線光源から人の眼への紫外線の入射角度に基づいて算出される照度である。眼に対しての垂直入射に対して30°の角度を持った入射の場合、垂直入射における照度にCos30°=0.86を乗じた値を実効入射照度とすることができる。
【0049】
また、人の眼における紫外線の照度は、実際に人の眼の位置でセンサ等により測定した値に限らず、計算により求めた値であってもよい。例えば、図5に示すように、紫外線光源が、人の上方から床面に向けて紫外線を放射するように構成されている場合、人の身長を一律、所定の基準身長(例えば180cm)として、紫外線光源の床面からの設置高さから上記基準身長(基準高さ)の値を差し引いた値を紫外線光源から照射対象(人の眼)までの距離として取得することができる。この場合、取得された距離と、紫外線光源から放射される紫外線の光度とに基づいて、人の眼における照度を算出することができる。なお、上記基準身長をもとに導出される人の眼の高さ(例えば170cm)を上記基準高さとして、人の眼における照度を算出してもよい。
【0050】
同じ紫外線照射量であっても、照度が3.5μW/cm以下の場合に涙の分泌や不快感が生じない理由は、必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。
波長222nmの紫外線は、眼の角膜上皮第1層に吸収され、それ以上深くには透過しない。波長222nmの紫外線を吸収した角膜上皮第1層は、当該紫外線によるダメージを受ける。しかしながら、角膜上皮第1層においてダメージを受けた部分は、ターンオーバー(metabolic turnover:代謝回転)により自然に消えていく。このターンオーバースピードは10時間程度である。
よって、波長222nmの紫外線によるダメージによって起こる角膜上皮第1層のアポトーシス(apoptosis)の速度が、角膜上皮第1層のターンオーバー速度を上回らなければ、角膜上皮第2層以深にダメージが発生することはなく、涙の分泌や不快感が現れないものと予想される。
【0051】
すなわち、人の眼に対して照度3.5μW/cm以下での紫外線照射を行った場合、角膜上皮第1層のアポトーシス速度がターンオーバー速度を上回らないということが、本発明者らによって初めて見出された。
よって、人に対して安全とされている波長200~235nmの紫外線による殺菌・不活化を行う不活化装置において、人の眼における照度が3.5μW/cm以下であれば、紫外線光源を比較的長時間のぞき込んだとしても、眼の不快感、多量の涙の分泌といった症状は発生しないので、人の眼への入射の問題を考慮する必要がなく、殺菌・不活化のための不活化装置の配置の自由度が高くなる。
【0052】
なお、人の眼における紫外線照射量は、7mJ/cm以上150mJ/cm以下であることが好ましい。
上述したように、図5に示す不活化システム1000において、床面202での紫外線照射量を、ウイルスを90%不活化するのに最低限必要な紫外線照射量(0.6mJ/cm)とするには、人300の眼の高さでは6.6mJ/cmの紫外線照射量が必要である。したがって、人の眼における紫外線照射量は、7mJ/cm以上に設定することが好ましい。
また、人の眼における照度が3.5μW/cmの場合、1日8時間照射した場合の紫外線照射量は100mJ/cm、12時間照射した場合の紫外線照射量は150mJ/cmである。ACGIHやJIS Z 8812等の人や動物の安全に関する規格におけるTLV値は、1日8時間の紫外線照射量(ドーズ量)で規定されているが、運用上12時間の照射が必要である場合を考慮し、人の眼における紫外線照射量は、150mJ/cm以下に設定することが好ましい。
【0053】
以上のように、本実施形態の不活化装置100は、人が存在する空間内において200nm~235nmの波長範囲にある紫外線を放射して、当該空間内に存在する微生物および/またはウイルスを不活化する。ここで、不活化装置100は、空間内に存在する人の眼における紫外線の実効入射照度が一定の照度範囲内となるように紫外線光源を制御する。具体的には、不活化装置100は、空間内に存在する人の眼における紫外線の実効入射照度が1μW/cm以上3.5μW/cm以下となるように紫外線光源を制御する。
さらに、不活化装置100は、空間内の人に照射される紫外線の照射量が7mJ/cm以上150mJ/cm以下となるように紫外線光源を制御してもよい。
これにより、人が存在する空間内において、人の眼に紫外線が入射し得る状況であっても、人の眼の安全性を確保しつつ、上記空間内の微生物やウイルスを適切に不活化することができる。
【0054】
図6は、上述した不活化装置100の構成例を示す模式図である。
この図6では、主として紫外線照射に関する部分である紫外線照射ユニット10を示している。
紫外線照射ユニット10は、導電性の金属からなる筐体11と、筐体11内部に収容された紫外線光源12と、を備える。
紫外線光源12は、例えば、中心波長222nmの紫外線を放出するKrClエキシマランプとすることができる。なお、紫外線光源12は、KrClエキシマランプに限定されるものではなく、200nm~235nmの波長範囲にある紫外線を放射する光源であればよい。
【0055】
また、紫外線照射ユニット10は、エキシマランプ12に給電する給電部16と、エキシマランプ12の照射および非照射や、エキシマランプ12から放出される紫外線の光量等を制御する制御部17と、を備える。
エキシマランプ12は、筐体11内において、支持部18によって支持されている。
筐体11には、光出射窓となる開口部11aが形成されている。この開口部11aには窓部材11bが設けられている。窓部材11bは、例えば石英ガラスからなる紫外線透過部材や、不要な光を遮断する光学フィルタ等を含むことができる。
なお、筐体11内には、複数本のエキシマランプ12を配置することもできる。エキシマランプ12の数は特に限定されない。
【0056】
上記光学フィルタとしては、例えば、波長域200nm~235nmの光を透過し、それ以外のUV-C波長域の光(236nm~280nmの光)をカットする波長選択フィルタを用いることができる。
ここで、波長選択フィルタとしては、例えば、図3に示すHfO層およびSiO層による誘電体多層膜フィルタを用いることができる。
なお、波長選択フィルタとしては、SiO層およびAl層による誘電体多層膜を有する光学フィルタを用いることもできる。
このように、光出射窓に光学フィルタを設けることで、エキシマランプ12から人に有害な光が放射されている場合であっても、当該光が筐体11の外に漏洩することをより確実に抑えることができる。
【0057】
以下、紫外線照射ユニット10における紫外線光源として使用されるエキシマランプ12の構成例について具体的に説明する。
図7(a)は、エキシマランプ12の管軸方向における断面の模式図であり、図7(b)は、図7(a)のA-A断面図である。
この図7(a)および図7(b)に示すように、エキシマランプ12は、両端が気密に封止された長尺な直円管状の放電容器13を備える。放電容器13は、例えば、合成石英ガラスや溶融石英ガラスなどの紫外線を透過する光透過性を有する誘電体材料より構成されている。放電容器13の内部には放電空間が形成されており、この放電空間には、紫外線を発生するバリア放電用ガス(以下、「放電ガス」ともいう。)として希ガスとハロゲンガスとが封入されている。本実施形態では、希ガスとしてクリプトン(Kr)、ハロゲンガスとして塩素ガス(Cl)を用いる。
なお、放電ガスとしては、クリプトン(Kr)と臭素(Br)との混合ガスを用いることもできる。この場合、エキシマランプ(KrBrエキシマランプ)は、中心波長207nmの紫外線を放出する。
【0058】
また、放電容器13内部の放電空間には、第一電極(内部電極)14が配設されている。内部電極14は、例えばタングステンなどの電気導電性および耐熱性を有する金属よりなる金属素線が、放電容器13の内径よりも小さなコイル径によってコイル状に巻回されて形成されてなるコイル状の電極である。この内部電極14は、放電容器13の中心軸(管軸)に沿って伸び、放電容器13の内周面に接触することのないように配設されている。
また、内部電極14の両端の各々には、内部電極用リード部材14aの一端が電気的に接続されている。内部電極用リード部材14aの他端側部分は、各々、放電容器13の外端面から外方に突出している。
【0059】
放電容器13の外周面には、第二電極(外部電極)15が設けられている。外部電極15は、例えばタングステンなどの電気導電性および耐熱性を有する金属よりなる金属素線から構成される網状の電極である。この外部電極15は、放電容器13の外周面に沿って放電容器13の中心軸方向に伸びるように設けられている。図7(a)および図7(b)に示すエキシマランプ12においては、網状電極である外部電極15は、筒状の外形を有しており、放電容器13の外周面に密接した状態で設けられている。
このような構成により、放電空間内において、内部電極14と外部電極15とが放電容器13の管壁(誘電体材料壁)を介して対向する領域に、放電領域が形成される。
【0060】
さらに、外部電極15の一端および一方の内部電極用リード部材14aの他端には、各々、給電線16bを介して給電部16(図6参照)が備える高周波電源16aが接続されている。高周波電源16aは、内部電極14と外部電極15との間に高周波電圧を印加することのできる電源である。
また、外部電極15の他端には、リード線16cの一端が電気的に接続されており、このリード線16cの他端は、接地されている。すなわち、外部電極15は、リード線16cを介して接地されている。なお、この図7(a)および図7(b)に示すエキシマランプ12においては、一方の内部電極用リード部材14aは給電線16bと一体のものとされている。
【0061】
内部電極14と外部電極15との間に高周波電力を印加すると、放電空間において誘電体バリア放電が生じる。この誘電体バリア放電により、放電空間に封入されている放電ガス(バリア放電用ガス)の原子が励起され、励起二量体(エキシプレックス)が生成される。この励起二量体が元の状態(基底状態)に戻るときに、固有の発光(エキシマ発光)が生じる。すなわち、上記放電ガスはエキシマ発光用ガスである。
【0062】
なお、エキシマランプの構成は、図7(a)および図7(b)に示す構成に限定されるものではない。例えば、図8(a)および図8(b)に示すエキシマランプ12Aのように、二重管構造の放電容器13Aを備える構成であってもよい。
このエキシマランプ12Aが備える放電容器13Aは、円筒状の外側管と、外側管の内側において外側管と同軸上に配置され、当該外側管よりも内径が小さい円筒状の内側管と、を有する。外側管と内側管とは、図8(a)の左右方向の端部において封止されており、両者の間には円環状の内部空間が形成されている。そして、この内部空間内に放電ガスが封入されている。
【0063】
内側管の内壁面13aには膜状の第一電極(内側電極)14Aが設けられ、外側管の外壁面13bには網状またはメッシュ状の第二電極(外側電極)15Aが設けられている。そして、内側電極14Aおよび外側電極15Aは、それぞれ給電線16bを介して高周波電源16aと電気的に接続されている。
【0064】
高周波電源16aによって内側電極14Aと外側電極15Aとの間に高周波の交流電圧が印加されることにより、外側管と内側管の管体を介して放電ガスに対して電圧が印加され、放電ガスが封入されている放電空間内で誘電体バリア放電が生じる。これにより放電ガスの原子が励起されて励起二量体が生成され、この原子が基底状態に移行する際にエキシマ発光を生じる。
【0065】
また、エキシマランプの構成は、例えば、図9(a)および図9(b)に示すエキシマランプ12Bのように、放電容器13Bの一方の側面に一対の電極(第一電極14B、第二電極15B)を配置した構成であってもよい。ここでは、一例として、図9(a)のZ方向に2本の放電容器13Bが並べて配置されているものとする。
図9(a)に示すように、第一電極14Bおよび第二電極15Bは、放電容器13Bにおける光取出し面とは反対側の側面(-X方向の面)に、放電容器13Bの管軸方向(Y方向)に互いに離間して配置されている。
そして、放電容器13Bは、これら2つの電極14B、15Bに接触しながら跨るように配置されている。具体的には、2つの電極14B、15BにはそれぞれY方向に延伸する凹溝が形成されており、放電容器13Bは、電極14B、15Bの凹溝に嵌め込まれている。
【0066】
第一電極14Bおよび第二電極15Bは、それぞれ給電線16bを介して高周波電源16aと電気的に接続されている。第一電極14Bと第二電極15Bとの間に高周波の交流電圧が印加されることで、放電容器13Bの内部空間において励起二量体が生成され、エキシマ光がエキシマランプ12Bの光取出し面(+X方向の面)から放射される。
ここで、電極14B、15Bは、エキシマランプ12Bから放射される光に対して反射性を有する金属材料により構成されていてもよい。この場合、放電容器13Bから-X方向に放射された光を反射して+X方向に進行させることができる。電極14B、15Bは、例えばアルミニウム(Al)やステンレスなどから構成することができる。
【0067】
なお、エキシマランプは、上述したように高周波電力が印加されて高周波点灯を行うので、高周波ノイズが発生する。しかしながら、上記のようにエキシマランプを収容する筐体11を導電性の金属によって構成することで、エキシマランプからの高周波ノイズが筐体11外部へ発信されることを抑制することができる。これにより、紫外線照射ユニット10近傍に設置された他の制御システムへの制御指令が、この高周波ノイズによる外乱を受けることを抑制することができ、当該制御指令に不具合が生じないようにすることができる。
【0068】
上記のように、本実施形態における不活化装置100においては、紫外線光源であるエキシマランプとして、波長222nmにピークを有する紫外線を放出するKrClエキシマランプ、または、波長207nmにピークを有する紫外線を放出するKrBrエキシマランプを用いることが好ましい。
KrClエキシマランプから放出される波長222nmの紫外線や、KrBrエキシマランプから放出される波長207nmの紫外線は、いずれも人や動物に安全であって、微生物の殺菌やウイルスの不活化を行うことができる光である。よって、空間内の殺菌・不活化領域に人や動物が存在していても、紫外線照射による殺菌・不活化作業を行うことができる。
【0069】
なお、上記実施形態においては、紫外線光源としてエキシマランプを用いる場合について説明したが、紫外線光源としてLEDを用いることもできる。
図10は、紫外線光源としてLED19を用いた紫外線照射ユニット10の一例である。この図10においては、紫外線照射ユニット10は、複数のLED19を備えている。
【0070】
上記したように、除染(殺菌)用途に使用される紫外線の波長域は、200~320nmであり、特に効果的な波長は、核酸(DNA、RNA)の吸収が大きい260nm付近である。
よって、紫外線照射ユニット10に搭載される紫外線光源としてのLED19も、波長200~320nmの紫外線を放出するものが採用される。具体的には、例えば窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LED、窒化アルミニウム(AlN)系LED等を採用することができる。AlGaN系LEDは、アルミニウム(Al)の組成を変化させることにより200~350nmの波長範囲の深紫外域(deep UV:DUV)で発光する。また、AlN系LEDは、ピーク波長210nmの紫外線を放出する。
【0071】
ここで、AlGaN系LEDとしては、中心波長が200~237nmの範囲内となるようにAlの組成を調整することが好ましい。上記したように、この波長範囲の紫外線であれば、人や動物に安全であって、微生物の殺菌やウイルスの不活化を適切に行うことが可能である。例えば、Alの組成を調整することで、放出する紫外線の中心波長が222nmであるAlGaN系LEDとすることも可能である。
【0072】
また、LEDとして酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)系LEDを採用することもできる。MgZnO系LEDは、マグネシウム(Mg)の組成を変化させることにより190~380nmの波長範囲の深紫外域(deep UV:DUV)で発光する。
【0073】
ここで、MgZnO系LEDとしては、中心波長が200~237nmの範囲内となるようにMgの組成を調整することが好ましい。
上記したように、この波長範囲の紫外線であれば、人や動物に安全であって、微生物の殺菌やウイルスの不活化を適切に行うことが可能である。例えば、Mgの組成を調整することで、放出する紫外線の中心波長が222nmであるMgZnO系LEDとすることも可能である。
【0074】
ここで、上記のような紫外線(特に深紫外域の紫外線)を放出するLEDは、発光効率が数%以下と低く、発熱が大きい。また、LEDの発熱が大きくなると、当該LEDから放出される光の強度が小さくなり、また放出光の波長シフトも発生する。そのため、LEDの熱上昇を抑制するために、図10に示すように、LED19を冷却部材(例えば、熱を放熱する放熱フィン)20に設置することが好ましい。
このとき、図10に示すように、冷却部材20の一部を紫外線照射ユニット10の筐体11から突出させてもよい。この場合、冷却部材20の一部に外気が当たることになり、冷却部材20の放熱が効率良く進み、結果としてLED19の熱上昇を適切に抑制することができる。
【0075】
なお、上記の中心波長222nmの紫外線を放出するAlGaN系LEDおよびMgZnO系LEDは、中心波長222nmからある程度広がりを有する波長範囲の紫外線を放出し、当該LEDから放出される光には、僅かながら人や動物に安全ではない波長の紫外線も含まれる。そのため、紫外線光源がエキシマランプである場合と同様、波長範囲200~237nm以外の波長を有するUV-C波長域の光をカットする誘電体多層膜フィルタ(光学フィルタ)を用いることが好ましい。
なお、上記光学フィルタとしては、より好ましくは波長200~235nm以外の波長を有するUV-C波長域の光をカットするもの、さらに好ましくは200~230nm以外の波長を有するUV-C波長域の光をカットするものであってもよい。これは光源がエキシマランプの場合でも同様である。
【0076】
ただし、上記の中心波長210nmの紫外線を放出するAlN-LEDは、上記光学フィルタは不要である。
また、紫外線光源がエキシマランプであっても、LEDであっても、当該紫外線光源の光放射面での照度や紫外線光源から紫外線の被照射面までの距離等によっては、被照射面での人や動物に安全ではない波長の紫外線の照度が許容値以下となる場合がある。したがって、このような場合には、上記光学フィルタを設ける必要はない。
【0077】
また、上記実施形態においては、紫外線光源として、エキシマレーザや波長変換レーザなどのコヒーレント光源を用いることができる。レーザ光源としては、例えば、中心波長222nmのレーザ光を放出するKrClエキシマレーザを用いることができる。また、KrClエキシマレーザとしては、例えば、マイクロ波励起式の小型のKrClエキシマレーザが採用されうる。
【0078】
本発明によれば、人や動物の細胞に悪影響の少ない光とされる波長200~235nmの紫外線の実効入射照度が一定の照度範囲内である場合、人の眼に対して悪影響が無いことを初めて見出したことにより、空間内に存在する人の眼における紫外線の実効入射照度が一定の照度範囲内となるように光源を制御することで、人の眼の安全性を確保しつつ、上記空間内の微生物やウイルスを不活化することができる。
このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに、肝炎、水系感染症およびその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【符号の説明】
【0079】
10…紫外線照射ユニット、11…筐体、12…エキシマランプ、13…放電容器、14…第一電極、15…第二電極、16…給電部、17…制御部、18…支持部、19…LED、20…冷却部材、100…不活化装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10