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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】絶縁銅線および電気コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/06 20060101AFI20220906BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01F5/06 Q
H01B7/02 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021025623
(22)【出願日】2021-02-19
(62)【分割の表示】P 2019061635の分割
【原出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2021082836
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】漆原 誠
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-107227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/06
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角銅線と、前記平角銅線の表面を被覆する絶縁皮膜とを有する絶縁銅線であって、
前記絶縁皮膜は、アミド結合を有する高分子材料を含み、
前記絶縁皮膜を引き剥すことによって前記絶縁銅線の表面に形成された剥離面において、窒素原子または炭素原子と結合した銅原子が、酸素原子と結合した銅原子よりも多く存在し、かつ剥離面から深さ方向に酸素を10原子%以上含有する酸素含有層が形成されていて、
前記剥離面は、飛行時間型二次イオン質量分析法によって測定されるCuC イオンの二次イオン強度とCuO イオンとCu イオンの合計二次イオン強度との比が10以上12以下の範囲内にあり、
前記絶縁銅線をエッジワイズ曲げ加工にて、90度に折り曲げて作製した直線部とL字状折り曲げ部を持つコイルの前記L字状折り曲げ部の前記絶縁皮膜の表面を、光学顕微鏡を用いて20倍の倍率で観察したときに、凹凸の有無が確認されないことを特徴とする絶縁銅線。
【請求項2】
前記絶縁銅線をエッジワイズ曲げ加工にて、90度に折り曲げて作製した前記直線部と前記L字状折り曲げ部を持つコイルの前記L字状折り曲げ部の曲げ半径が3.25mmである請求項1に記載の絶縁銅線。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁銅線を巻回して形成した電気コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁銅線およびこの絶縁銅線を巻回して形成した電気コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁銅線は、銅線と、この銅線の表面を被覆する絶縁皮膜とを有する。この絶縁銅線を巻回して形成した電気コイルは、モータや変圧器などの各種電気機器用の電気コイルとして用いられている。電気コイルの材料として用いる絶縁銅線では、コイル状に巻回する際に、銅線と絶縁皮膜とが剥離して、絶縁皮膜に浮きやシワが発生し、絶縁不良となることがある。このため、絶縁銅線は、銅線と絶縁皮膜との密着性が高いことが要求される。
【0003】
銅線と絶縁皮膜との密着性が向上した絶縁銅線として、特許文献1には、絶縁皮膜の材料として、融点または軟化点が220℃以上のエンジニアリングプラスチックを用い、銅線は表面に厚さ5nm以上300nm以下の酸化皮膜を有する絶縁銅線が記載されている。また、特許文献2には、絶縁皮膜の材料としてポリオレフィンスルフィド樹脂およびポリエーテルエーテルケトン樹脂などの熱可塑性樹脂を用い、銅線の絶縁層と接触する部分をSEM-EDXにより加速電圧20kVで組成分析したときの酸素の原子数aと銅の原子数bとの原子数比a/bを0.25以下とした絶縁銅線が記載されている。
【0004】
特許文献3には、絶縁皮膜が、銅線の主成分と同一の金属又はその金属を含む化合物からなる無機粒子を含有し、絶縁皮膜における銅線周面から厚み800nmの内側層での無機粒子の含有率が0.78面積%以上0.89面積%以下であり、その内側層が、ポリエステルイミド系樹脂、フェノキシ樹脂およびチオール系化合物を含む絶縁銅線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-154511号公報
【文献】特開2017-10613号公報
【文献】特許第6368241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年の電気機器の小型、軽量化にともなって、電気コイルの小型化や高密度化が要求されている。しかしながら、電気コイルの小型化や高密度化のために絶縁銅線を小径でコイル状に巻回する場合、あるいは幅の広い平角銅線をエッジワイズ曲げ加工する場合には、銅線と絶縁皮膜とが剥離しやすくなり、得られる電気コイルに絶縁皮膜の浮きやシワが発生しやくなる。従来の絶縁銅線では、小径でコイル状に巻回した場合や幅の広い平角銅線をエッジワイズ曲げ加工した場合では、銅線と絶縁皮膜との密着性が不十分となる場合があった。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、銅線と絶縁皮膜との密着性が高く、コイル状に巻回する際に銅線と絶縁皮膜とが剥離しにくい絶縁銅線、および絶縁皮膜の浮きやシワの発生が抑制された電気コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の絶縁銅線は、平角銅線と、前記平角銅線の表面を被覆する絶縁皮膜とを有する絶縁銅線であって、前記絶縁皮膜は、アミド結合を有する高分子材料を含み、前記絶縁皮膜を引き剥すことによって前記絶縁銅線の表面に形成された剥離面において、窒素原子または炭素原子と結合した銅原子が、酸素原子と結合した銅原子よりも多く存在し、かつ剥離面から深さ方向に酸素を10原子%以上含有する酸素含有層が形成されていて、前記剥離面は、飛行時間型二次イオン質量分析法によって測定されるCuC イオンの二次イオン強度とCuO イオンとCu イオンの合計二次イオン強度との比が10以上12以下の範囲内にあり、前記絶縁銅線をエッジワイズ曲げ加工にて、90度に折り曲げて作製した直線部とL字状折り曲げ部を持つコイルの前記L字状折り曲げ部の前記絶縁皮膜の表面を、光学顕微鏡を用いて20倍の倍率で観察したときに、凹凸が確認されないことを特徴としている。
【0009】
このような構成とされている本発明の絶縁銅線は、絶縁皮膜を引き剥すことによって前記絶縁銅線の表面に形成された剥離面において、窒素原子または炭素原子と結合した銅原子が、酸素原子と結合した銅原子よりも多く存在するので、銅線と絶縁皮膜との密着性が高くなる。
【0010】
剥離面において検出される、窒素原子または炭素原子と結合した銅原子は、銅線から絶縁皮膜に拡散して、絶縁高分子材料のアミド結合(-NH-CO-)を構成する窒素原子または炭素原子と結合した銅原子であり、高分子材料との親和性が高い銅原子であると考えられる。
【0011】
一方、剥離面において検出される、酸素原子と結合した銅原子は、銅線から絶縁皮膜に拡散した酸化銅に由来する銅原子であり、高分子材料との親和性が低い銅原子であると考えられる。また、絶縁皮膜を引き剥すことによって形成された剥離面は、絶縁銅線の中で最も銅線と絶縁皮膜との密着性が弱く、剥離しやすい部分である。
【0012】
すなわち、本発明の絶縁銅線は、剥離面に、高分子材料との親和性が高い銅原子(窒素原子または炭素原子と結合した銅原子)が、高分子材料との親和性が低い銅原子(酸素原子と結合した銅原子)よりも多く存在するのであるから、剥離面が生成しにくく、コイル状に巻回する際に銅線と絶縁皮膜とが剥離しにくくなる。
【0013】
ここで、本発明の絶縁銅線においては、酸素含有層の酸素含有量の最大値が、剥離面から1nm以上10nm以下の位置にあることが好ましい。
【0014】
本発明の電気コイルは、上述の絶縁銅線を巻回して形成したものである。
このような構成されている本発明の電気コイルは、上述の絶縁銅線を巻回して形成したものであり、コイル状に巻回する際に、銅線と絶縁皮膜とが剥離しにくいので、絶縁皮膜の浮きやシワが発生しにくい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、その目的は、銅線と絶縁皮膜との密着性が高く、コイル状に巻回する際に銅線と絶縁皮膜とが剥離しにくい絶縁銅線、および、絶縁皮膜の浮きやシワの発生が抑制された電気コイルを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態である絶縁銅線の横断面図である。
図2図1に示す絶縁銅線の絶縁皮膜を引き剥した状態を示す横断面図である。
図3】本発明例1で得られた絶縁銅線を、剥離面から深さ方向にオージェ電子分光法により元素分析した組成分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態である絶縁銅線について、添付した図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である絶縁銅線の横断面図である。図2は、図1に示す絶縁銅線の絶縁皮膜を引き剥した状態を示す横断面図である。
【0018】
図1に示すように、絶縁銅線10は、平角銅線11と、平角銅線11の表面を被覆する絶縁皮膜12とを有する。
平角銅線11は、断面が矩形であって、短辺で形成されたエッジ面と長辺で形成されたフラット面とを有する。平角銅線11の材料としては、銅および銅合金を用いることができる。銅および銅合金としては特に制限はなく、従来の絶縁銅線で用いられているものを使用することができる。平角銅線11の表面には、酸素を10原子%以上含有する酸素含有層13が形成されている。酸素含有層13の酸素は、主としてCuOあるいはCuOとして含有されている。
【0019】
絶縁皮膜12は、ポリアミドイミドから形成されている。絶縁皮膜12の膜厚は、10μm以上50μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0020】
図2に示すように、絶縁銅線10は、絶縁皮膜12を引き剥すことによって剥離面14が形成される。剥離面14は、絶縁銅線10において平角銅線11と絶縁皮膜12とが最も剥離しやすい部分である。絶縁皮膜12を引き剥す方法としては、JIS C 5012:1993(プリント配線板試験方法)の機械的性能試験(導体の引き剥がし強さ)に記載されている方法を用いることができる。なお、剥離面14のサイズは、JIS C 5012:1993の記載されているサイズである必要はなく、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)およびオージェ電子分光法(AES)によって分析できるサイズであればよく、例えば5mm程度であればよい。
【0021】
剥離面14は、窒素原子または炭素原子と結合した銅原子が、酸素原子と結合した銅原子よりも多く存在する。窒素原子または炭素原子と結合した銅原子は、平角銅線11から絶縁皮膜12に拡散した銅原子が、絶縁皮膜12に含まれているポリアミドイミドのアミド結合(-NH-CO-)あるいはイミド結合(-CONHCO-)を構成する窒素原子または炭素原子と結合したものであると考えられる。よって、窒素原子または炭素原子と結合した銅原子は、絶縁皮膜との親和性が高い。酸素原子と結合した銅原子は、平角銅線11の表面に生成した酸化銅が、絶縁皮膜12に拡散したものであると考えられる、よって酸素原子と結合した銅原子は、絶縁皮膜12との親和性が低い。すなわち、剥離面14には、ポリアミドイミドと結合した銅原子が酸化銅を形成している銅原子よりも多く存在している。剥離面14は、絶縁銅線10の中で最も平角銅線11と絶縁皮膜12との密着性が弱く、剥離しやすい部分である。すなわち、本実施形態の絶縁銅線10は、剥離面14に、ポリアミドイミドとの親和性が高い銅原子(窒素原子または炭素原子と結合した銅原子)が、ポリアミドイミドとの親和性が低い銅原子(酸素原子と結合した銅原子)よりも多く存在するのであるから、剥離面14自体が生成しにくく、コイル状に巻回する際に平角銅線11と絶縁皮膜12とが剥離しにくくなる。
【0022】
窒素原子または炭素原子と結合した銅原子と、酸素原子と結合した銅原子の量は、飛行時間型二次イオン質量分析法により測定することができる。本実施形態では、飛行時間型二次イオン質量分析法によって測定されるCuC イオンの二次イオン強度とCuOイオンとCuイオンの合計二次イオン強度との比(CuC /Cu比)が2以上50以下の範囲内とされている。CuC イオンは、窒素原子または炭素原子と結合した銅原子を含むイオンである。CuOイオンおよびCuイオンは酸素原子と結合した銅原子を含むイオンである。本実施形態の絶縁銅線10は、剥離面14を形成するために要する引き剥がし強さが高くなる。CuC /Cu比は、4以上20以下の範囲内にあることが好ましい。
【0023】
また、剥離面14から深さ方向(平角銅線11に向かう方向)にオージェ電子分光法により元素分析することによって測定される酸素を10原子%以上含有する酸素含有層13の膜厚(図2のd)は2nm以上30nm以下の範囲内とされている。酸素含有層13の酸素は、主として銅と結合して、CuOまたはCuOを形成している。酸素含有層13の膜厚が薄くなりすぎると、平角銅線11と絶縁皮膜12との密着性が低下するおそれがある。一方、酸素含有層13の膜厚が厚くなりすぎると、コイル状に巻回する際に酸素含有層13に亀裂が生じて、平角銅線11と絶縁皮膜12とが剥離するおそれがある。酸素含有層13の膜厚は、3nm以上20nm以下の範囲内にあることが好ましい。酸素含有層13は、剥離面14の近傍に酸素含有量の最大値を示すことが好ましい。酸素含有量の最大値は、剥離面14から1nm以上10nm以下の位置にあることが好ましい。酸素含有量の最大値は、20原子%以上50原子%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0024】
図3は、後述の本発明例1で得られた絶縁銅線10を、剥離面14から深さ方向にオージェ電子分光法により元素分析した組成分布図である。図3の組成分布図において、横軸は剥離面14からの深さを表し、縦軸は検出された元素の合計を100原子%とした元素の含有量を表す。図3の組成分布図において、剥離面14から深さ方向に進むに従って、C(炭素)の濃度は低下し、O(酸素)の濃度は一旦上昇した後、低下に転じ、Cu(銅)の濃度は上昇を続けることがわかる。酸素含有層13の膜厚は10nmであり、酸素含有量は剥離面14から5nm付近の深さに最大値を示している。この組成分布図から、剥離面14から深さ方向に進むに従って、銅とポリアミドイミドとが結合した化合物の含有量が低下し、これにともなって酸化銅の含有量が上昇した後、酸化銅の含有量が低下に転じて、銅の含有量が上昇すると考えられる。
【0025】
次に、本実施形態の絶縁銅線10の製造方法について説明する。
本実施形態の絶縁銅線10は、例えば、平角銅線11の表面にポリアミドイミド膜を形成するポリアミドイミド膜形成工程と、加熱により、ポリアミドイミド膜を平角銅線11に焼き付けて絶縁銅線を得る絶縁銅線作製工程と、絶縁銅線10を加熱処理する加熱処理工程とを含む方法により製造することができる。
【0026】
ポリアミドイミド膜形成工程において、平角銅線11の表面にポリアミドイミド膜を形成する方法としては、電着法およびディップ法を用いることができる。電着法は、有機溶剤に電荷を有するポリアミドイミド粒子が分散されている電着液に、平角銅線11と電極とを浸漬し、この平角銅線11と電極との間に直流電圧を印加することによって、平角銅線11の表面にポリアミドイミド粒子を電着させてポリアミドイミド膜を形成する方法である。ディップ法は、有機溶剤にポリアミドイミドが溶解しているワニスに、平角銅線11を浸漬して、平角銅線11の表面にワニスを塗布してポリアミドイミド膜を形成する方法である。
【0027】
絶縁銅線作製工程では、ポリアミドイミド膜形成工程で得られたポリアミドイミド膜付き平角銅線11を、焼付炉を用いて加熱する。焼付炉としては、例えば、電気炉を用いることができる。加熱温度は、ポリアミドイミド膜の形成に用いる液体(電着液またはワニス)の有機溶剤の沸点以上で、かつポリアミドイミドの分解温度未満であり、通常は、200℃以上350℃以下の範囲内である。加熱時間は、ポリアミドイミド膜の膜厚や温度などの条件によって異なるが、例えば、1分以上10分以下の範囲内である。
【0028】
加熱処理工程では、絶縁銅線作製工程で得られた絶縁銅線10を加熱処理して、絶縁銅線10の平角銅線11に含まれる銅と絶縁皮膜12に含まれるポリアミドとを結合させると共に、酸素含有層13を成長させる。加熱温度は、180℃以上で、かつポリアミドイミドの融点未満の範囲内である。加熱時間は、絶縁皮膜12の膜厚や温度などの条件によって異なるが、例えば、10分以上45分以下の範囲内、より好ましくは10分以上40分以下の範囲内である。加熱処理工程は、絶縁銅線作製工程と連続して行ってもよい。例えば、絶縁銅線作製工程後、焼付炉の内部温度を降温することによって、絶縁銅線10を加熱してもよい。
【0029】
本発明の一実施形態である電気コイルは、上述の絶縁銅線10を巻回して形成したものである。絶縁銅線10の曲げ加工方法は、平角銅線11のエッジ面を内側にして曲げるエッジワイズ曲げ加工であってもよいし、フラット面を内側にして曲げるフラットワイズ曲げ加工であってもよい。
【0030】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁銅線10によれば、剥離面14において、窒素原子または炭素原子と結合した銅原子が、酸素原子と結合した銅原子よりも多く存在するので、平角銅線11と絶縁皮膜12との密着性が高くなる。また、剥離面14から深さ方向に形成されている酸素含有層13の膜厚が2nm以上とされているので、平角銅線11と絶縁皮膜12との密着性が高くなる。さらに、酸素含有層13の膜厚が30nm以下と薄いので、コイル状に巻回する際に酸素含有層13に亀裂が生じることによって、平角銅線11と絶縁皮膜12とが剥離することが起こりにくくなる。
【0031】
また、本実施形態の電気コイルは、上述の絶縁銅線10を巻回して形成したものであり、コイル状に巻回する際に、平角銅線11と絶縁皮膜12とが剥離しにくいので、絶縁皮膜12の浮きやシワが発生しにくい。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態の絶縁銅線10においては、銅線として平角銅線11を用いているが、銅線の種類はこれに限定されるものではない。銅線として、断面が円状の丸銅線を用いてもよい。また、絶縁皮膜12の材料としてポリアミドイミドを用いているが、絶縁皮膜12の材料はこれに限定されるものではない。絶縁皮膜12の材料は、銅原子と結合できるアミド結合を有する高分子材料であればよい。
【実施例
【0033】
次に、本発明の作用効果を実施例により説明する。
【0034】
[本発明例1]
(1)ポリアミドイミド膜付き平角銅線の作製
銅線として、短辺の長さが1.5mmであって、長辺の長さが6.5mmの平角銅線を用意した。
ポリアミドイミド粒子を2質量%含有する電着液に、上記の平角銅線と電極とを浸漬し、平角銅線を正極とし、電極を負極として直流電圧を印加して、平角銅線の表面に、加熱によって生成する絶縁皮膜の厚さが40μmとなるようにPAI粒子を電着させて、ポリアミドイミド膜を形成した。
【0035】
(2)絶縁銅線の作製
上記(1)で得られたポリアミドイミド膜付き平角銅線を、焼付炉(電気炉)に投入し、300℃で5分間加熱して、ポリアミドイミド膜を平角銅線に焼き付けて絶縁銅線を作製した。その後、焼付炉の炉内温度を2℃/分の降温速度で降下させながら、40分間加熱処理を行った後に、絶縁銅線を焼付炉から取り出して、室温まで放冷した。
【0036】
[本発明例2]
前記(2)の絶縁銅線の作製において、ポリアミドイミド膜付き平角銅線を300℃で5分間加熱して作製した絶縁銅線を、焼付炉の炉内温度を3℃/分の降温速度で降下させながら、25分間加熱処理を行った後に、絶縁銅線を焼付炉から取り出して、室温まで放冷したこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を得た。
【0037】
[本発明例3]
前記(2)の絶縁銅線の作製において、ポリアミドイミド膜付き平角銅線を300℃で5分間加熱して作製した絶縁銅線を、250℃に保持された電気炉に移して、その電気炉内で10分間保持し、次いで、200℃に保持された電気炉に移して、その電気炉内で10分間保持した後、絶縁銅線を電気炉から取り出して、室温まで放冷したこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を得た。ただし、本発明例3は、参考例である。
【0038】
[比較例1]
前記(2)の絶縁銅線の作製において、ポリアミドイミド膜付き平角銅線を300℃で5分間加熱して作製した絶縁銅線を、直ちに焼付炉から取り出して、室温まで放冷したこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を得た。
【0039】
[比較例2]
前記(2)の絶縁銅線の作製において、ポリアミドイミド膜付き平角銅線を300℃で5分間加熱して作製した絶縁銅線を、焼付炉の炉内温度を2℃/分の降温速度で降下させながら、120分間加熱処理を行った後に、絶縁銅線を焼付炉から取り出して、室温まで放冷したこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を得た。
【0040】
[比較例3]
前記(2)の絶縁銅線の作製において、ポリアミドイミド膜付き平角銅線を300℃で5分間加熱して作製した絶縁銅線を、250℃に保持された電気炉に移して、その電気炉内で20分間保持し、次いで、200℃に保持された電気炉に移して、その電気炉内で30分間保持した後、絶縁銅線を電気炉から取り出して、室温まで放冷したこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁銅線を得た。
【0041】
[評価]
本発明例1~3および比較例1~3で得られた絶縁銅線について、JIS C5012:1993(プリント配線板試験方法)に準拠して、絶縁皮膜を引き剥がして剥離面を形成した。そして、絶縁銅線の剥離面に対して、CuC イオンの二次イオン強度とCuOイオンとCuイオンの合計二次イオン強度との比(CuC /Cu比)、および酸素含有層の膜厚を、下記の方法により測定した。また、絶縁銅線の剥離面が形成されていない部分について、コイル状に巻回したときの密着性を、下記の方法により評価した。これらの結果を、下記の表1に示す。
なお、表1における熱処理条件には、上記絶縁銅線作製工程および加熱処理工程における熱処理の条件を合わせて記載した。
【0042】
(CuC /Cu比)
剥離面に対して、飛行時間型二次イオン質量分析装置(PHI nanoTOFII、UlVAC-PHI社製)を用い、一次イオンをBi (30kV)、分析エリアを50μmの測定条件にて、負のフラグメントイオンを検出した。検出された負のフラグメントイオンのうち、m/z=78.9のピークをCuOイオン、m/z=114.9のピークをCuC イオン、m/z=141.8のピークをCuイオンとして、その二次イオン強度を読み取って、CuC /Cu比を算出した。
【0043】
(酸素含有層の膜厚)
オージェ電子分光分析装置(PHI700、アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、剥離面をArイオンでエッチングしながら、15秒毎にオージェ電子スペクトルを得た。Arイオンの加速電圧1kV、電子ビームの加速電圧は3kVとし、ステーのTilt角は30°とした。得られたオージェ電子スペクトルの強度から、元素相対感度係数を用いた相対感度係数法により、検出された元素の原子%を算出した。また、エッチング時間を、あらかじめ測定したオージェ電子分光分析装置のエッチングレート(1nm/分)を用いて剥離面からの深さに換算して、横軸を剥離面からの深さとし、縦軸を検出された元素の含有量(原子%)とした組成分布図を作成した。そして、得られた組成分布図から酸素濃度が10原子%を連続して超えている部分の深さを読み取り、これを酸素含有層の膜厚とした。なお、オージェ電子分光分析装置のエッチングレートは、膜厚20nmのSiO2膜を用いて測定した。
【0044】
(コイル状に巻回したときの密着性)
絶縁銅線を、直径が6.5mmの丸棒に添ってエッジワイズ曲げ加工にて、曲げ半径が3.25mmとなるようにL字状(90度)に折り曲げて、直線部とL字状折り曲げ部を持つコイル(エッジワイズコイル)を作製した。
平角銅線と絶縁皮膜との密着性は、コイル内側のL字状折り曲げ部の絶縁皮膜の表面状態により評価した。まず、コイル内側のL字状折り曲げ部の絶縁皮膜の表面を、光学顕微鏡を用いて20倍の倍率で観察して、凹凸の有無を確認した。次に、絶縁皮膜の表面に凹凸が確認されたものは、曲げ方向に対して垂直方向から、凹凸が確認された部分を拡大観察(300倍)して、凹凸がない部分を通るベースラインを引き、凸部の高さ(凸部の最も高い位置とベースラインとの距離)を測定した。絶縁皮膜の表面に凹凸が確認されなかった場合を「◎」、絶縁皮膜の表面に凹凸が確認されたが、凸部の高さが5μm未満の場合を「○」、凸部の高さが5μm以上の場合を「×」と評価した。
【0045】
【表1】
【0046】
飛行時間型二次イオン質量分析法によって測定される剥離面のCuC イオンの二次イオン強度とCuOイオンとCuイオンの合計二次イオン強度との比(CuC /Cu比)が本発明の範囲内にあって、かつ剥離面から深さ方向にオージェ電子分光法により元素分析することによって測定される酸素含有層の膜厚が本発明の範囲内にある本発明例1~3の絶縁銅線は、いずれもエッジワイズ曲げ加工によりコイル状に巻回したときに、絶縁皮膜の表面に凹凸が確認されず、平角銅線と絶縁皮膜との密着性が高くなった。
これに対して、剥離面のCuC /Cu比が本発明の範囲よりも低く、かつ酸素含有層の膜厚が本発明の範囲よりも薄い比較例1の絶縁銅線はエッジワイズ曲げ加工によりコイル状に巻回したときに、絶縁皮膜の表面に5μm以上の凸部が確認され、平角銅線と絶縁皮膜との密着性が低くなった。また、剥離面のCuC /Cu比は本発明の範囲内にあるが、酸素含有層の膜厚が本発明の範囲よりも厚い比較例2、3の絶縁銅線についてもエッジワイズ曲げ加工によりコイル状に巻回したときに、絶縁皮膜の表面に5μm以上の凸部が確認され、平角銅線と絶縁皮膜との密着性が低くなった。
【符号の説明】
【0047】
10 絶縁銅線
11 平角銅線
12 絶縁皮膜
13 酸素含有層
14 剥離面
図1
図2
図3