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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】ポリエステル、接着剤およびフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/189 20060101AFI20220906BHJP
   C09J 167/00 20060101ALI20220906BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C08G63/189
C09J167/00
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021205734
(22)【出願日】2021-12-20
(62)【分割の表示】P 2021536729の分割
【原出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022033184
(43)【公開日】2022-02-28
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2020060683
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晃一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 航
(72)【発明者】
【氏名】川楠 哲生
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-046771(JP,A)
【文献】特開2011-048926(JP,A)
【文献】特開平06-128363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/189
C09J 167/00
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を構造単位として有し、多価カルボン酸成分を100モル%としたときに、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を50モル%以上含有し、多価アルコール成分を100モル%としたときに、炭素数36のダイマージオール成分を40モル%以上含有し、10GHzにおける比誘電率(εc)が3.0以下、誘電正接(tanδ)が0.008以下であるポリエステル。
【請求項2】
ガラス転移温度が-30℃以上である請求項1に記載のポリエステル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエステルを含有する接着剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリエステルを含有するフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、接着剤およびフィルムに関する。更に詳しくは、誘電特性に優れるポリエステル、ならびにそれを含有する接着剤およびフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはコーティング剤、インキおよび接着剤等に用いられる樹脂組成物の原料として広く使用されており、一般に多価カルボン酸と多価アルコールから構成される。多価カルボン酸と多価アルコールの選択と組合せによる柔軟性や、分子量の高低を自由にコントロールできるため、コーティング剤用途や接着剤用途をはじめ、様々な用途で広く使用されている。
【0003】
その中でもポリエステルは銅を含む金属との接着性に優れており、エポキシ樹脂などの硬化剤を配合してフレキシブルプリント配線板(FPC)などの接着剤に使用されてきた。(例えば、特許文献1)。
【0004】
FPCは、優れた屈曲性を有することから、パソコン(PC)やスマートフォンなどの多機能化、小型化に対応することができ、そのため狭く複雑な内部に電子回路基板を組み込むために多く使用されている。近年、電子機器の小型化、軽量化、高密度化、高出力化が進み、これらの流行から配線板(電子回路基板)の性能に対する要求がますます高度なものとなっている。特にFPCにおける伝送信号の高速化に伴い、信号の高周波化が進んでいる。これに伴い、FPCには、高周波領域での低誘電特性(低誘電率、低誘電正接)の要求が高まっている。また、FPCに用いられる基材についても、従来のポリイミド(PI)やポリエチレンテレフタレート(PET)だけでなく、低誘電特性を有する液晶ポリマー(LCP)やシンジオタクチックポリスチレン(SPS)などの基材フィルムが提案されている。このような、低誘電特性を達成するため、FPCの基材や接着剤の誘電体損失を低減する方策がなされている。接着剤としてはポリオレフィンとエポキシの組み合わせ(特許文献2)等の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平6-104813
【文献】WO2016/047289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のポリエステル樹脂は、比誘電率および誘電正接が高く、上述の低誘電特性を有しておらず高周波領域のFPCに不適である。また、特許文献2に記載の接着剤は補強板や層間に使用される接着剤の耐熱性に優れるとは言い難い。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、溶剤溶解性、耐熱性、タック性に優れ、比誘電率および誘電正接の低い、誘電特性に優れたポリエステル、およびそれを含有する接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0009】
多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を構造単位として有し、多価カルボン酸成分を100モル%としたときに、ナフタレンジカルボン酸成分を50モル%以上含有し、多価アルコール成分を100モル%としたときに、ダイマージオール成分を20モル%以上含有するポリエステル。
【0010】
前記ポリエステルはガラス転移温度が-30℃以上であることが好ましい。
【0011】
10GHzにおける比誘電率(εc)が3.0以下、誘電正接(tanδ)が0.008以下であるポリエステル。
【0012】
前記ポリエステルを含有する接着剤。
【0013】
前記ポリエステルを含有するフィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステルは、溶剤溶解性、耐熱性、タック性に優れ、かつ誘電特性に優れている。このため、高周波領域のFPC用接着剤およびフィルムとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態について以下に詳述する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、既述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できる。
【0016】
本発明のポリエステルは、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分との重縮合物によって得ることのできる化学構造からなり、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とはそれぞれ1種または2種以上の選択された成分からなるものである。
【0017】
本発明のポリエステルは、全多価カルボン酸成分100モル%のうち、ナフタレンジカルボン酸成分を50モル%以上含有する。好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは80モル%以上であり、特に好ましくは90モル%以上であり、100モル%でも差し支えない。ナフタレンジカルボン酸成分を多く使用することでポリエステルの誘電特性が向上する。
【0018】
ナフタレンジカルボン酸成分としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、いずれも使用でき、2種以上を使用してもよい。中でも2,6-ナフタレンジカルボン酸が重合時の反応性および入手性に優れるため好ましい。
【0019】
本発明のポリエステルは、ナフタレンジカルボン酸成分以外の多価カルボン酸成分を含有することができる。ナフタレンジカルボン酸成分以外の多価カルボン酸成分としては、特に限定されないが、多価カルボン酸成分としては、芳香族多価カルボン酸成分または脂環族多価カルボン酸成分であることが好ましく、芳香族ジカルボン酸成分または脂環族ジカルボン酸成分であることがより好ましい。共重合成分として芳香族多価カルボン酸成分または脂環族多価カルボン酸成分を使用することで優れた誘電特性を発現することができる。
【0020】
芳香族ジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、またはこれらのエステルなどを使用することができる。
【0021】
脂環族ジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、水素添加ナフタレンジカルボン酸などを使用することができる。
【0022】
本発明のポリエステルは、全多価アルコール成分100モル%のうち、ダイマージオールを20モル%以上含有する。好ましくは30モル%以上であり、さらに好ましくは40モル%以上である。ダイマージオールを多く使用することでポリエステルの誘電特性および溶剤溶解性が向上する。
【0023】
上記ダイマージオールは、C10~24の不飽和脂肪酸を二量化して得られた炭素数20~48のダイマー酸およびそれらを水添して得られる飽和ダイマー酸のカルボキシル基を還元することで得られる。また、ダイマージオールの原料としては、植物油を用いてもよい。さらにダイマージオールはC10~24の不飽和脂肪酸の三量体であるトリマーやトリマーを水添して得られる飽和トリマーを含んでいてもよい。
【0024】
本発明のポリエステルは、ダイマージオール以外の多価アルコール成分を含有することができる。ダイマージオール以外の多価アルコールとしては、特に限定されないが、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-n-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールなどの脂肪族多価アルコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族多価アルコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコールなどが使用でき、これらの内から、1種、または2種以上を使用できる。中でも、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0025】
本発明のポリエステルには、3価以上の多価カルボン酸成分および/または3価以上の多価アルコール成分を共重合することもできる。3価以上の多価カルボン酸成分としては、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)などの芳香族カルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸などの脂肪族カルボン酸などが挙げられ、これらを1種、又は2種以上の使用が可能である。3価以上の多価アルコール成分としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、α-メチルグルコース、マンニトール、ソルビトールが挙げられ、これらより1種、又は2種以上の使用が可能である。ただし、3価以上の多価カルボン酸成分および/または3価以上の多価アルコール成分の共重合量が多いと、ポリエステルの誘電特性が悪化する場合があるため好ましくない。3価以上の多価カルボン酸成分および/または3価以上の多価アルコール成分を共重合する場合、多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の合計200モル%のうち、5モル%以下が好ましく、より好ましくは4モル%以下である。
【0026】
本発明のポリエステルの10GHzにおける誘電正接は0.008以下が好ましく、0.005以下がより好ましい。誘電正接の低いポリエステルであることによって、低誘電特性の良好な接着剤組成物を形成することができる。
【0027】
本発明のポリエステルの10GHzにおける比誘電率は3.0以下が好ましく、2.6以下がより好ましい。比誘電率の低いポリエステルであることによって、低誘電特性の良好な接着剤組成物を形成することができる。
【0028】
本発明のポリエステルのガラス転移温度は-30℃以上であることが好ましく、より好ましくは-20℃以上である。ガラス転移温度を-30℃以上の範囲にすることで、良好な誘電特性を発現する。さらに樹脂表面のタック性(粘着性)が抑制される傾向にあり、樹脂の取り扱い性が向上する。また、ガラス転移温度は100℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度を100℃以下にすることで、80℃程度の低温でもラミネートすることができる。また、ガラス転移温度が低いほど、接着強度は良好となる傾向がある。
【0029】
本発明のポリエステルを製造する重合縮合反応の方法としては、例えば、1)多価カルボン酸と多価アルコールを公知の触媒存在下で加熱し、脱水エステル化工程を経て、脱多価アルコール・重縮合反応を行う方法、2)多価カルボン酸のアルコールエステル体と多価アルコールを公知の触媒存在下で加熱、エステル交換反応を経て、脱多価アルコール・重縮合反応を行う方法、3)解重合を行う方法などがある。前記1)2)の方法において、酸成分の一部またはすべてを酸無水物に置換しても良い。
【0030】
本発明のポリエステルを製造する際には、従来公知の重合触媒、例えば、テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンオキシアセチルセトネートなどのチタン化合物、三酸化アンチモン、トリブトキシアンチモンなどのアンチモン化合物、酸化ゲルマニウム、テトラ-n-ブトキシゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、その他、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、コバルト、アルミニウムなどの酢酸塩などを使用することが出来る。これらの触媒は1種、または2種以上を併用することができる。
【0031】
本発明のポリエステルの数平均分子量は5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましい。また、100000以下であることが好ましく、50000以下であることがより好ましく、30000以下であることがさらに好ましい。前記の範囲内であると、溶剤へ溶解した際の取り扱いがしやすく、接着強度が良好となり、また誘電特性に優れるため、好ましい。
【0032】
本発明のポリエステルの酸価は、200eq/10g以下であることが好ましく、100eq/10g以下であることがより好ましく、50eq/10g以下であることがさらに好ましく、40eq/10g以下であることが特に好ましく、30eq/10g以下であることが最も好ましい。樹脂酸価を上記範囲内とすることによって低誘電特性やポットライフに優れ、イソシアネート硬化系においては基材密着性、架橋性が高まる効果も期待できる。
【0033】
本発明のポリエステルの酸価を上げる方法としては、例えば、(1)重縮合反応終了後に、3価以上の多価カルボン酸および/または3価以上の無水多価カルボン酸を添加し、反応させる方法(酸付加)や、(2)重縮合反応時に、熱、酸素、水などを作用させ、意図的に樹脂変質を行う、などの方法があり、これらを任意で行うことが出来る。前記酸付加方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3,4,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートなどが挙げられ、これらを1種、又は2種以上の使用が可能である。好ましくは無水トリメリット酸である。
【0034】
本発明のポリエステルは、接着剤として使用できる。特に、本発明のポリエステルは誘電特性に優れるため、高周波領域のFPC用接着剤に好適である。
本発明のポリエステルを接着剤として使用する場合、さらに硬化剤を含み、接着剤組成物とすることができる。硬化剤としては、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート、ポリカルボジイミド等を用いることができる。これらの硬化剤で架橋することによって、樹脂の凝集力を高め、耐熱性を向上させることができる。耐熱性と誘電特性への影響が少ないことから、ポリイソシアネートが好ましい。硬化剤の含有量は、ポリエステル100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上であり、さらに好ましくは1質量部以上であり、特に好ましくは2質量部以上である。前記下限値以上とすることで、十分な硬化効果が得られ、優れた接着性およびハンダ耐熱性を発現することができる。また、30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは20質量部以下であり、さらに好ましくは15質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以下である。前記上限値以下とすることで、ポットライフ性および低誘電特性が良好となる。すなわち、上記範囲内とすることで、接着性、ハンダ耐熱性およびポットライフ性に加え、優れた低誘電特性を有する接着剤組成物を得ることができる。
【0035】
本発明のポリエステルは、フィルムとして使用できる。本発明のポリエステルをフィルムとして使用する場合、ポリエステルをそのままフィルム状に加工して使用してもよいし、さらにガラス繊維やシリカなどの各種フィラーを分散したものをフィルム状に加工して使用することもできる。本発明のフィルムの厚みや形状は特に限定されず、しばしばシートと呼称される形態もこれに含む。
本発明のフィルムは誘電特性に優れるため、高速伝送用のリジッド基盤やFPCのCCLベースフィルムとして好適である。
【実施例
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本実施例および比較例において、単に部とあるのは質量部を示すこととする。
【0037】
(1)ポリエステルの組成の測定
400MHzのH-核磁気共鳴スペクトル装置(以下、NMRと略記することがある)を用い、ポリエステルを構成する多価カルボン酸成分、多価アルコール成分のモル比定量を行った。溶媒には重クロロホルムを使用した。なお、酸後付加によりポリエステルの酸価を上げた場合には、酸後付加に用いた酸成分以外の酸成分の合計を100モル%として、各成分のモル比を算出した。
【0038】
(2)ガラス転移温度の測定
示差走査型熱量計(SII社、DSC-200)を用いて測定した。試料(ポリエステル)5mgをアルミニウム抑え蓋型容器に入れ密封し、液体窒素を用いて-50℃まで冷却した。次いで150℃まで20℃/分の昇温速度にて昇温させ、昇温過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前(ガラス転移温度以下)のベースラインの延長線と、吸熱ピークに向かう接線(ピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線)との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)とした。
【0039】
(3)数平均分子量の測定
ポリエステルの試料を、樹脂濃度が0.5重量%程度となるようにテトラヒドロフランで溶解および/または希釈し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過したものを測定用試料とした。テトラヒドロフランを移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF-802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。
【0040】
(4)酸価の測定
ポリエステルの試料0.2gを40mlのクロロホルムに溶解し、0.01Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、ポリエステル10gあたりの当量(eq/10g)を求めた。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0041】
以下、本発明のポリエステル、および比較例となるポリエステルの製造例を示す。
【0042】
(実施例1)
ポリエステル(a1)の製造例
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器に2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル326部、ダイマージオール(Croda社、Pripol2033)1520部、触媒としてオルトチタン酸テトラブチルを全酸成分に対して0.03モル%仕込み、160℃から220℃まで4時間かけて昇温、脱水工程を経ながらエステル化反応を行った。次に重縮合反応工程は、系内を20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに250℃まで昇温を進めた。次いで、0.3mmHg以下まで減圧し、60分間の重縮合反応を行った後、これを取り出した。得られたポリエステル(a1)はNMRによる組成分析の結果、モル比で2,6-ナフタレンジカルボン酸/ダイマージオール=100/100[モル比]であった。また、ガラス転移温度は-17℃であった。得られたポリエステル(a1)について、溶剤溶解性、タック性、耐熱性、比誘電率および誘電正接の各評価を実施した。評価結果を表1に記載した。
【0043】
(実施例2~8、比較例1~7)
ポリエステル(a2)~(a14)の製造例
ポリエステル(a1)の製造例に準じ、原料の種類と配合比率を変更して、ポリエステル(a2)~(a14)を合成した。物性および評価結果を表1に記載した。なお、PTMG1000はポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1000)である。
【0044】
比誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)
トルエンに固形分濃度が30質量%となるように溶解したポリエステルを厚さ100μmのテフロン(登録商標)シートに、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。次いでテフロン(登録商標)シートを剥離して試験用の樹脂シートを得た。その後得られた試験用樹脂シートを8cm×3mmの短冊状にサンプルを裁断し、試験用サンプルを得た。比誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)は、ネットワークアナライザー(アンリツ社製)を使用し、空洞共振器摂動法で、温度23℃、周波数10GHzの条件で測定した。
<比誘電率の評価基準>
◎:2.3以下
○:2.3を超え、3.0以下
×:3.0を超える
<誘電正接の評価基準>
◎:0.005以下
○:0.005を超え、0.008以下
×:0.008を超える
【0045】
タック性
トルエンに固形分濃度が30質量%となるように溶解したポリエステルワニスをポリエステルフィルム(東洋紡製E5101、厚み50μm、コロナ処理面)に、乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。室温(23℃)にて、乾燥した接着剤シートを幅25mm、長さ200mmに切断し、接着剤層面を圧延銅箔基材(JX金属株式会社製、BHYシリーズ)に貼り付け、上から2kgのゴムローラーで20mm/秒の速度で2往復させ、接着剤シートを圧着させた。その後、剥離速度300mm/分の条件で180°剥離し、剥がれた基材の状態を確認した。基材に糊残りが無く界面剥離したものを○、接着剤層が基材側に転写されるものを×とした。
<タック性の評価基準>
○:糊残りが無く界面剥離
×:糊残りがある、または接着剤層が基材側に転写
【0046】
溶剤溶解性
ポリエステルをトルエンへ固形分濃度が60質量%または50質量%となるように80℃で6時間攪拌しながら溶解した際の溶解性について次の基準で評価した。
<溶剤溶解性の評価基準>
◎:固形分濃度60質量%で溶け残りなく完全に溶解
○:固形分濃度50質量%で溶け残りなく完全に溶解
×:固形分濃度50質量%で樹脂の溶け残りあり
【0047】
耐熱性
示差熱・熱重量同時測定装置(株式会社島津製作所、DTG-60)を用いて測定した。ポリエステル50mgを白金セルに入れ、流速20ml/minの窒素雰囲気下、5℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温した。高温での分解が進行し、重量が初期の95%となる温度を5%重量減少温度とし、耐熱性の指標とした。
<耐熱性の評価基準>
○:5%重量減少温度が300℃以上
×:5%重量減少温度が300℃未満
【0048】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のポリエステルは、溶剤溶解性、耐熱性、タック性に優れ、比誘電率および誘電正接が低く、高周波領域のFPC用接着剤およびフィルムとして有用である。