(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】電力制御方法、及び、電力制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2021501167
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2019005900
(87)【国際公開番号】W WO2020170315
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正治 満博
(72)【発明者】
【氏名】川村 弘道
(72)【発明者】
【氏名】北内 俊
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特許第6414324(JP,B2)
【文献】特開2008-141937(JP,A)
【文献】特開2006-217776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM制御に用いられるデューティ指令値を算出し、前記デューティ指令値とキャリア信号との比較結果に応じたPWM信号を生成し、該PWM信号に基づいてインバータを駆動させることによりPWM電圧を負荷に供給する、電力制御方法であって、
前記PWM電圧において発生する位相のずれに応じて、前記ずれの補償に用いる補償量を求め、
前記キャリア信号の周期に応じて、前記補償量を補正し、
前記補正された補償量を用いて、前記キャリア信号の強度が増加中か減少中かに応じて、前記デューティ指令値を補正する、電力制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電力制御方法であって、
前記PWM信号の生成において、前記キャリア信号の周期を所定の繰り返し規則での切り替えを、さらに行い、
前記周期、及び、前記繰り返し規則に応じて、前記補償量を補正する、電力制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電力制御方法であって、
前記周期の半分が前記デューティ指令値の算出時間より短い場合には、前記補償量をゼロに補正する、電力制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電力制御方法であって、
前記繰り返し規則で切り替えられる特定の周期において前記補償量がゼロに補正される場合には、
前記特定の周期とは異なる周期に応じて補正される前記補償量は、前記繰り返し規則における前記特定の周期への切り替え割合に応じて、算出される、電力制御方法。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載の電力制御方法であって、
負荷の運転状態に応じて、1つの前記キャリア信号の周期を固定的に用いる第1モード、及び、前記キャリア信号の周期を前記パターンで切り替える第2モードのうちのいずれかのモードの選択を、さらに行い、
前記第2モードの前記パターンにおける一部の周期に応じて補正された前記補償量は、前記第1モードにおける周期に応じて補正された前記補償量よりも大きい、電力制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電力制御方法であって、
前記負荷は、電動機であり、
前記電動機の回転数が閾値よりも低く、かつ、トルク指令値が閾値よりも大きい場合には、前記第2モードを選択し、それ以外の場合には、前記第1モードを選択する、電力制御方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の電力制御方法であって、
前記補償量は、デッドタイム付加の処理において付加される時間に応じて定められる、電力制御方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電力制御方法であって、
前記補償量は、前記PWM信号の生成から、前記PWM電圧の負荷への印加までの伝達遅延に応じて定められる、電力制御方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の電力制御方法であって、
前記補償量は、前記デューティ指令値の生成に用いられる測定値の検出遅延に応じて定められる、電力制御方法。
【請求項10】
直流電源と、
PWM信号に応じて前記直流電源から出力される直流の電圧を交流のPWM電圧に変換し、
前記PWM電圧を負荷に出力するインバータと、
前記PWM信号を生成する制御部と、を有する電力制御装置であって、
前記制御部は、
前記負荷の状態に応じて前記デューティ指令値を算出し、
前記PWM電圧において発生する位相のずれに応じて、前記ずれの補償に用いる補償量を求 め、
前記キャリア信号の周期に応じて、前記補償量を補正し、
前記補正された補償量を用いて、前記キャリア信号の強度が増加中か減少中かに応じて、前記デューティ指令値を補正し、
前記デューティ指令値と補正された前記キャリア信号との比較結果に応じて、前記PWM信号を生成する、電力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力制御方法、及び、電力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電源によってモータなどの交流で駆動される負荷を制御する方法として、パルス幅変調(PWM)制御が知られている。PWM制御においては、直流電源と負荷との間にインバータが設けられ、インバータがPWM信号によりスイッチング制御されることで、擬似的な交流電力が負荷に供給される。
【0003】
詳細には、所定の周期で、A/D変換などのサンプリングによって負荷に流れる電流を検出し、検出された電流値に基づいてデューティ指令値を算出し、デューティ指令値とキャリア波とを比較する。そして、比較結果に応じてPWM信号を生成し、PWM信号の立ち上がりと立ち下がりとのタイミングでインバータが制御される。このような制御により、擬似的な交流電力を負荷に印加することができる。
【0004】
PWM制御の1つの方式である三角波比較PWM方式においては、キャリア波として三角波が用いられる。そのため、PWM信号の立ち上がりと立ち下がりとのタイミングの中間点が、三角波のピークである山及び谷の双方または一方と一致する。これにより、三角波であるキャリア波の山および谷の片方または両方のタイミングでサンプリングを行うことで、サンプリングがPWM信号の立ち上がりと立ち下がりとの中間点で行われることになる。その結果、サンプリングとスイッチング制御との時間差が大きくなるので、サンプリングにより得られる電流値にスイッチング制御に起因する高調波電流(PWM高調波電流)が混入しにくくなる。
【0005】
一般に、負荷が複数の相の交流電力により駆動される場合には、相ごとに対をなす2つのスイッチング素子を備えるインバータが用いられる。この1対のスイッチング素子が同時にスイッチング制御されるのを防ぐために、スイッチング制御を一定時間だけ遅延させるデッドタイム付加が行われる。しかしながら、デッドタイム付加を行うことにより、PWM信号の位相が遅れるおそれがある。
【0006】
JP6414324Bには、キャリア波の増加又は減少の状態に応じてデューティ指令値を補正する技術が開示されている。このようにデューティ指令値が補正されることにより、キャリア波の状態に応じてPWM信号の位相が予め進められ、デッドタイム付加に起因するPWM信号の位相の遅れを相殺できる。その結果、サンプリングにより得られる電流値に高調波電流が混入するおそれが低減され、PWM制御の精度低下を抑制することができる。
【発明の概要】
【0007】
デューティ指令値の算出には、サンプリングや、デューティ指令値の算出などの演算時間を要する。キャリア波の周波数によっては、周波数によって定まるサンプリングの周期が、演算時間よりも短くなる場合がある。このような場合には、サンプリングを開始してから、次のサンプリングを行うべきタイミングまでの間にデューティ指令値の演算が完了せず、所望の周期でPWM信号を生成できないため、負荷の制御精度が低下するおそれがある。
【0008】
近年、スペクトル拡散変調と称される複数のキャリア周波数を高速でランダムに切り替える変調方法や、強電素子の温度保護等を目的としてキャリア周波数を切り替える変調手法が検討されている。これらの変調手法においても、サンプリング周期がデューティ指令値の演算時間よりも短くなってしまうと、負荷の制御精度が低下するおそれがある。
【0009】
このような場合に、JP6414324Bに開示された技術を適用しても、サンプリング周期がデューティ指令値の演算時間よりも短くなる以上、所望の周期でデューティ指令値を算出できず、負荷の制御精度の低下を抑制することができない。
【0010】
本発明の一態様の電力制御方法は、PWM制御に用いられるデューティ指令値を算出し、デューティ指令値とキャリア信号との比較結果に応じたPWM信号を生成し、該PWM信号に基づいてインバータを駆動させることによりPWM電圧を負荷に供給する。電力制御方法においては、PWM電圧において発生する位相のずれに応じて、ずれの補償に用いる補償量を求め、キャリア信号の周期に応じて、補償量を補正し、補正された補償量を用いて、キャリア信号の強度が増加中か減少中かに応じて、デューティ指令値を補正する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、電力制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、変調制御部の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、変調制御部の処理に用いられるグラフである。
【
図4】
図4は、PWM変換器の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、デューティ指令値の算出制御を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、PWM制御の他の一例の説明図である。
【
図9】
図9は、比較例におけるPWM制御の説明図である。
【
図10】
図10は、固定モードにおけるモータの電流と回転数との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、拡散モードにおけるモータの電流と回転数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態における電力制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0014】
電力制御装置100は、電気的な負荷であるモータ200を制御する装置である。例えば、モータ200は、ハイブリッド自動車や電動自動車などに搭載される電動機であり、電力制御装置100によってモータ200が制御されることで、車両が走行する。
【0015】
電力制御装置100は、直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力をモータ200に供給する。電力制御装置100は、トルク制御部1と、dq軸/UVW相変換器2と、PWM(Pulse Width Modulation)変換器3と、インバータ(INV)4と、バッテリ5と、バッテリ電圧検出器6と、電流検出器7u及び7vと、モータ回転速度演算器8と、UVW相/dq軸変換器9と、変調制御部10とを備える。電力制御装置100は、1つのコントローラにより構成され、記憶されているプログラムが実行することで、トルク制御部1から変調制御部10までのそれぞれによる処理を、1つのコントローラで行ってもよい。
【0016】
モータ200は、多相交流で駆動する電動機である。本実施形態では、モータ200は、UVW相の三相交流電流により駆動する。また、モータ200に隣接して、回転子位置検出器201が設けられている。
【0017】
回転子位置検出器201は、例えば、レゾルバであって、所定周期でモータ200の回転子の位置を検出する。回転子位置検出器201は、回転子の電気角θを示す検出信号を、dq軸/UVW相変換器2、モータ回転速度演算器8、及び、UVW相/dq軸変換器9に出力する。
【0018】
トルク制御部1は、不図示の上位コントローラから、モータ200の駆動力を決定するトルク指令値T*を取得する。例えば、上位コントローラにおいては、アクセルペダルの踏込み量などの車両の運転状態に応じて、トルク指令値T*が算出される。
【0019】
トルク制御部1には、さらに、バッテリ電圧検出器6により検出されるバッテリ5のバッテリ電圧検出値Vdcが入力されるとともに、モータ200に流れる電流のd軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqと、モータ200の回転数Nとが入力される。
【0020】
d軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqは、モータ200へ供給される三相交流電流のうちのU相電流iu及びV相電流ivが電流検出器7u及び7vにより検出され、U相電流iu及びV相電流ivがUVW相/dq軸変換器9によって変換されることにより、求められる。
【0021】
モータ200の回転数Nは、モータ回転速度演算器8によって、以下のように取得される。所定周期で、回転子位置検出器201は、レゾルバにより検出される信号をサンプリング(A/D変換)することにより電気角θを求める。モータ回転速度演算器8は、あるタイミングで電気角θを取得すると、その電気角θと前のタイミングで取得された電気角θとの差分を求め、差分から単位時間あたりの電気角θの変化量を算出する。そして、モータ回転速度演算器8は、電気角θの単位時間あたりの変化量から、モータ200の回転数Nを算出する。
【0022】
トルク制御部1は、入力されるトルク指令値T*と、バッテリ電圧検出値Vdcと、d軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqと、モータ200の回転数Nと基づいて、電流ベクトル制御演算を実行することにより、d軸電圧指令値vd
*及びq軸電圧指令値vq
*を算出する。トルク制御部1は、d軸電圧指令値vd
*及びq軸電圧指令値vq
*を、dq軸/UVW相変換器2に出力する。
【0023】
dq軸/UVW相変換器2は、次式(1)に示されるように、回転子位置検出器201にて求められた電気角θに基づいて、トルク制御部1により算出されたd軸電圧指令値vd
*及びq軸電圧指令値vq
*を、三相PWM電圧指令値であるU相PWM電圧指令値vu
*、V相電圧指令値vv
*及びW相電圧指令値vw
*に変換する。そして、dq軸/UVW相変換器2は、変換された三相PWM電圧指令値vu
*、vv
*及びvw
*を、PWM変換器3に出力する。
【0024】
【0025】
PWM変換器3は、バッテリ電圧検出器6から出力されるバッテリ電圧検出値Vdc、dq軸/UVW相変換器2により変換された三相PWM電圧指令値vu
*、vv
*及びvw
*、及び、電流検出器7u及び7vにより検出されるU相電流iu及びV相電流ivの入力を受け付ける。PWM変換器3は、さらに、変調制御部10から出力されるキャリア波に関するキャリア周期tc、制御周期tt、及び、補正量Kdlyの入力を受け付ける。PWM変換器3は、これらの入力に基づいて、パルス幅変調制御(PWM制御)に使用されるパルス信号であるPWM信号Puu、Pul、Pvu、Pvl、Pwu及びPwlを生成する。
【0026】
PWM変換器3は、三相PWM電圧指令値vu
*、vv
*及びvw
*に基づいてデューティ指令値を算出し、そのデューティ指令値とキャリア波とを比較し、比較結果に応じてPWM信号Puu、Pul、Pvu、Pvl、Pwu及びPwlを生成する。なお、PWM変換器3は、制御周期ttごとに、PWM信号を生成する。
【0027】
インバータ4は、PWM変換器3から出力されるPWM信号Puu、Pul、Pvu、Pvl、Pwu及びPwlに基づいてスイッチング素子が制御されることにより、バッテリ5の直流電力を疑似的な交流電力に変換し、変換された交流電力をモータ200の各相に供給する。
【0028】
本実施形態において、インバータ4は、3相6アームで構成される。すなわち、インバータ4は、6つのスイッチング素子(アーム)を備え、UVWの3相で駆動される。詳細には、インバータ4は、各相と対応してバッテリ5に対して並列に接続される3つの配線を備え、それぞれの配線に直列に接続された1対のスイッチング素子を有する。そして、それらの配線において、直列に接続された1対のスイッチング素子の間がモータ200と接続される。なお、スイッチング素子としては、例えば、電界効果トランジスタ等で構成されたパワー素子が用いられ、制御端子(例えばゲート端子)に供給されるパルス信号であるPWM信号のレベルに応じて、オンとオフとが切り替えられる。
【0029】
バッテリ5は、本実施形態においては電力制御装置100の一部として構成されているが、電力制御装置100とは別体として構成されてもよい。バッテリ5は、直流電源であって、例えば、車載用のリチウムイオン電池である。
【0030】
以下では、各相において、モータ200の電源端子とバッテリ5の正極端子との間に接続されたスイッチング素子を上段のスイッチング素子と称し、モータ200の電源端子とバッテリ5の負極端子との間に接続されたスイッチング素子を下段のスイッチング素子と称する。また、バッテリ5の正極端子と負極端子の両端には、バッテリ電圧検出値Vdcだけの電位差が生じている。説明の便宜上、正極端子に生じる電位を「+Vdc/2」とし、負極端子に生じる電位を「-Vdc/2」として説明する。
【0031】
上段のスイッチング素子は、オン(導通状態)のときにバッテリ5の正極端子に生じる電位「+Vdc/2」をモータ200に供給し、オフ(非導通状態)のときに電位の供給を停止する。一方、下段のスイッチング素子は、オンのときにバッテリ5の負極端子に生じる電位「-Vdc/2」をモータ200に供給し、オフのときにモータ200への電位の供給を停止する。
【0032】
PWM変換器3により生成されるPWM信号Puu、Pul、Pvu、Pvl、Pwu及びPwlに基づいて、インバータ4に設けられる6つのスイッチング素子それぞれの導通状態(オン/オフ)が制御される。これにより、バッテリ5の直流電力が擬似的に交流電力に変換されて、変換された交流電力がモータ200に供給される。
【0033】
以下では、PWM変換器3における制御について、代表的に、U相に対応する一対のスイッチング素子のうちの上段のスイッチング素子へのPWM信号Puuと、下段のスイッチング素子へのPWM信号Pulとの生成処理について説明する。なお、VW相についても、同様に、PWM変換器3は、V相に対応するPWM信号Pvu及びPvlと、W相に対応するPWM信号Pwu及びPwlとを出力する。
【0034】
PWM変換器3は、U相PWM電圧指令値vu
*とバッテリ電圧検出値Vdcとに基づいて、デューティ指令値を求める。PWM変換器3は、求めたデューティ指令値と、振幅がバッテリ電圧検出値Vdcであり周期がキャリア周期tcであるキャリア波とを比較し、比較結果に応じて、上段のスイッチング素子に対するPWM信号Puuと、下段のスイッチング素子に対するPWM信号Pulとを出力する。
【0035】
PWM信号Puuがハイレベルである場合には、上段のスイッチング素子がオンとなり、モータ200のU相端子には「+Vdc/2」の電位が供給される。PWM信号Pulがハイレベルである場合には、下段のスイッチング素子がオンとなり、モータ200のU相端子には「-Vdc/2」の電位が供給される。これらの上段と下段とのスイッチング素子の制御により、モータ200のU相端子の両端にVdcの電位差を生じさせることができる。
【0036】
なお、PWM変換器3は、上段と下段とからなる1対のスイッチング素子が同時にオンになるのを防止するために、PWM信号Puu及びPulにおいて切り替えタイミングに対してデッドタイムtdtを付加し、切り替えタイミングがデッドタイムtdtだけ遅延されたPWM信号Puu及びPulをインバータ4に出力する。
【0037】
インバータ4は、PWM信号Puu及びPulのレベルに基づいてスイッチング素子のオン/オフが切り替えられることにより、モータ200のU相コイルにU相PWM電圧vuを供給する。その結果、モータ200のU相のコイルに対して、交流の電流iuが流れる。このように、PWM変換器3における処理によって、インバータ4を介してモータ200に交流電流が供給される。
【0038】
電流検出器7u及び7vは、それぞれ、モータ200に供給されるU相電流iu及びV相電流ivを検出する。電流検出器7uは、インバータ4とモータ200のU相コイルとの間に設けられるU相電力線上に設けられ、電流検出器7vは、インバータ4とモータ200のV相コイルとの間のV相電力線上に設けられる。電流検出器7u及び7vは、検出されたU相電流iu及びV相電流ivを、PWM変換器3及びUVW相/dq軸変換器9に出力する。
【0039】
UVW相/dq軸変換器9は、電流検出器7u及び7vから出力されるU相電流iu及びV相電流ivに対する検出信号を取得し、各検出信号についてアナログ信号からデジタル信号にA/D変換するサンプリング処理を行うことにより、U相電流iu、及び、V相電流ivを求める。そして、UVW相/dq軸変換器9は、次式(2)に従って、U相電流iu、及び、V相電流ivと、回転子位置検出器201により求められた電気角θの検出値とに基づいて、d軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqを算出する。式(2)においては、U相電流iu、V相電流iv、及び、W相電流iwの総和がゼロとなる性質が利用されている。
【0040】
【0041】
UVW相/dq軸変換器9は、算出されたd軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqを、トルク制御部1に出力する。このようにして、トルク制御部1においては、d軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqを用いて、d軸電圧指令値vd
*及びq軸電圧指令値vq
*に対するフィードバック制御が行われる。
【0042】
図2は、変調制御部10の詳細な構成を示すブロック図である。変調制御部10は、拡散モード判定部11と、キャリア周期判定部12と、制御周期判定部13と、PWMパルスタイミング判定部14と、を有する。
【0043】
変調制御部10は、キャリア波の周波数を固定的に用いる固定モード、又は、複数のキャリア信号の周波数を所定の繰り返し規則に基づいて切り替える拡散モードのいずれかのモードであるか判定する。なお、モータ200が比較的低回転かつ低負荷である場合には、インバータ3の動作に起因する振動が共振してしまい騒音が発生するおそれがある。そこで、拡散モードが選択されることにより、複数のキャリア波の周波数が用いられることになるため、共振が抑制されるので騒音の低減を図ることができる。
【0044】
そして、変調制御部10は、判定されたモードに応じたキャリア周期tc、制御周期tt、及び、補正量Kdlyを出力する。固定モードにおいては1つのキャリア周期tcのキャリア波が固定的に用いられ、拡散モードにおいては、キャリア周期tcの異なるキャリア波の組み合わせが用いられ、キャリア周期tcが所定の繰り返し規則で変化する。なお、固定モードは第1モードの一例であり、拡散モードは第2モードの一例である。
【0045】
表1には、判定されるモードに応じた、キャリア周期tc、制御周期tt、及び、補正量Kdlyが示されている。また、変調制御部10は、制御周期ttごとに、0-4をカウントし、4の次に0へとリセットされるカウンタを有する。変調制御部10は、拡散モードと判定される場合には、カウンタの値に応じても出力を変化させる。なお、以下において、固定モードにおけるキャリア波のキャリア周期tcを、基本周期tbaseと称するものとする。
【0046】
【0047】
固定モードの場合には、キャリア波のキャリア周期tcは、基本周期tbaseであり、制御周期ttは、基本周期tbaseの半分のtbase/2である。補正量Kdlyは、後述の式(7)により定まる第1補正量K1となる。
【0048】
拡散モードの場合には、カウンタが0-3の場合には、キャリア周期tcは基本周期tbaseであり、制御周期ttはtbase/2であり、固定モードと等しい。補正量Kdlyは、後述の式(8)により定まる第2補正量K2となる。カウンタが4の場合には、キャリア周期tcはtbase/2であり、制御周期ttはtbase/2であり、補正量Kdlyはゼロとなる。
【0049】
拡散モードの場合には、カウンタが0-4のうち4の場合にのみキャリア周期tcが変化する。すなわち、5回の制御周期ttのうち、4回において、キャリア周期tcがtbaseであり、補正量Kdlyが第2補正量K2であり、1回において、キャリア周期tcがtbase/2であり、補正量Kdlyがゼロである。
【0050】
拡散モード判定部11は、
図3に示されるグラフを用いて、回転数N、及び、トルク指令値T
*に基づいて、固定モード、又は、拡散モードのいずれかを選択する。固定モードにおいては、基本周期t
baseのキャリア波が固定的に用いられ、拡散モードにおいては、t
base、t
base/2の2つの異なるキャリア周期t
cのキャリア波が、所定の繰り返し規則に基づいて切り替えられる。拡散モード判定部11は、選択されたモードを示す信号を、キャリア周期判定部12、及び、PWMパルスタイミング判定部14に出力する。
【0051】
図3は、回転数N、及び、トルク指令値T
*との関係を示すグラフである。トルク指令値T
*がトルク閾値T
th1より大きいと同時に、回転数Nが第1閾値N
th1よりも大きく、かつ、第2閾値N
th2よりも小さい場合に、拡散モード判定部11は、拡散モードを選択する。それ以外の場合には、拡散モード判定部11は、固定モードを選択する。すなわち、回転数Nが比較的低く、かつ、トルク指令値T
*が大きい場合には、拡散モードが選択される。なお、第1閾値N
th1を用いず、トルク指令値T
*がトルク閾値T
th1より大きく、かつ、回転数Nが第2閾値N
th2よりも小さい場合に、拡散モードを選択してもよい。
【0052】
再び
図2を参照すれば、キャリア周期判定部12は、固定モードが選択される場合には、キャリア波のキャリア周期t
cとして基本周期t
baseを出力する。さらに、キャリア周期判定部12は、カウンタを有し、拡散モードが選択されている場合に、制御周期t
tごとにカウンタをカウントアップする。キャリア周期判定部12は、拡散モードが選択される場合であって、カウンタが0~3の間には、キャリア周期t
cとしてt
baseを出力する。キャリア周期判定部12は、拡散モードが選択されている場合であって、カウンタが4の場合には、キャリア周期t
cとしてt
base/2を出力する。キャリア周期判定部12は、このようなキャリア周期t
cを、制御周期判定部13、及び、PWMパルスタイミング判定部14に加えて、
図1に示されるPWM変換器3へ出力する。
【0053】
制御周期判定部13は、入力に関わらず、制御周期ttとしてtbase/2を、PWMパルスタイミング判定部14、及び、PWM変換器3へと出力する。
【0054】
PWMパルスタイミング判定部14は、拡散モード判定部11からの入力信号が固定モードを示す場合には、補正量Kdlyとして第1補正量K1を出力する。PWMパルスタイミング判定部14は、拡散モード判定部11からの入力信号が拡散モードを示す場合には、キャリア周期tcがtbaseの時に補正量Kdlyとして第2補正量K2を出力し、キャリア周期tcがtbase/2の時に補正量Kdlyとしてゼロを出力する。PWMパルスタイミング判定部14は、このような補正量KdlyをPWM変換器3へと出力する。
【0055】
このように、PWMパルスタイミング判定部14においては、拡散モード判定部11により選択されるモード、及び、キャリア周期判定部12により定まるキャリア周期tcに基づいて、後述する式(7)、(8)に従って、補正量Kdlyが定められる。
【0056】
図4は、PWM変換器3の詳細な構成を示すブロック図である。
図5は、PWM変換器3の処理にて用いられるキャリア波を示す図である。
【0057】
PWM変換器3は、デューティ指令値演算部31と、デッドタイム補償処理部32と、パルスタイミング補正処理部33と、PWM変換処理部34と、デッドタイム付加処理部35とを有する。本実施形態においては、これらのブロックのうち、デューティ指令値演算部31、デッドタイム補償処理部32、及び、パルスタイミング補正処理部33については、汎用的なコントローラによってプログラムが実行されることで、ソフトウェアとしてこれらの機能が実現される。PWM変換処理部34、及び、デッドタイム付加処理部35については、特定の機能を備えるマイコンにより、ハードウェアとしてこれらの機能が実現される。
【0058】
また、本実施形態のPWM制御においては、キャリア信号として、
図5に示されるキャリア波が用いられる。例えば、キャリア信号の生成は、カウンタによって実現されており、時間の経過と共にカウント値を増減させることでキャリア波を生成する。なお、本実施形態では、PWM変換処理部34は、このようなカウンタを有しておりキャリア波を内部にて生成する。
【0059】
再び
図4を参照すれば、デューティ指令値演算部31は、次式(3)に従って、dq軸/UVW相変換器2から出力されるU相PWM電圧指令値v
u
*と、バッテリ電圧検出器6から出力されるバッテリ電圧検出値V
dcと、キャリア波の振幅K
Dに基づいて、モータ200に印加されるU相PWM電圧v
uを生成するためのデューティ指令値D
u01
*を演算する。なお、キャリア波の振幅K
Dは、デューティ指令値演算部31に予め記憶されている。また、デューティ指令値演算部31におけるデューティ指令値D
u01
*の演算は、制御周期t
tごとに行われる。
【0060】
【0061】
式(3)によれば、U相PWM電圧指令値vu
*が大きくなるほどデューティ指令値Du01
*は大きくなり、バッテリ電圧検出値Vdcが小さくなるほどデューティ指令値Du01
*を大きくなる。デューティ指令値演算部31は、演算されたデューティ指令値Du01
*をデッドタイム補償処理部32に出力する。
【0062】
ここで、後段のデッドタイム付加処理部35によるデッドタイムtdtの付加に起因して、PWM電圧のパルス幅が変化する。デッドタイム補償処理部32は、デューティ指令値Du01
*に対してデッドタイム補償処理を行うことで、この後段のデッドタイム付加に起因する変化に対して、補償を行う。このような補償処理は、デッドタイム補償と称される。
【0063】
本実施形態では、デッドタイム補償処理部32は、次式(4)に従って、デューティ指令値Du01
*に対して、U相電流iuの極性(正負)に基づいてsgn(iu)によって符号を定め、補償量「2KDtdt/tc」を加算又は減算することで、デューティ指令値Du02
*を算出する。なお、この式において変調制御部10によって求められるキャリア周期tcが用いられる。デッドタイムtdtは、デッドタイム補償処理部32に予め記憶されている。
【0064】
【0065】
具体的に、デッドタイム補償処理部32は、U相電流iuがプラスである場合、すなわちU相電流iuがインバータ4からモータ200へ流れる場合には、U相PWM電圧vuのオフ期間が短くなるようにデューティ指令値Du01
*に対する補償を行う。なお、オフ期間とは、バッテリ5の負極端子の電位がモータ200のU相に印加される期間である。一方、U相電流iuがマイナスである場合、すなわちU相電流iuがモータ200からインバータ4へ流れる場合には、デッドタイム補償処理部32は、U相PWM電圧vuのオフ期間が長くなるようにデューティ指令値Du01
*に対する補償を行う。
【0066】
式(4)によれば、デッドタイム補償処理部32は、キャリア波の振幅KD及びキャリア周期tcと、デッドタイムtdtとを用いて、補償量「2KDtdt/tc」を算出する。
【0067】
U相電流iuがプラスである場合、すなわちU相電流iuがインバータ4からモータ200へ流れる場合には、デッドタイム補償処理部32は、U相PWM電圧vuのオフ期間が短くなるように、デューティ指令値Du01
*に対し補償量「2KDtdt/tc」を加算することによりデューティ指令値Du02
*を算出する。
【0068】
一方、U相電流iuがマイナスである場合、すなわちU相電流iuがモータ200からインバータ4へ流れる場合には、デッドタイム補償処理部32は、U相PWM電圧vuのオフ期間が長くなるように、デューティ指令値Du01
*に対し補償量「2KDtdt/tc」を減算することによりデューティ指令値Du02
*を算出する。
【0069】
パルスタイミング補正処理部33は、デューティ指令値Du02
*に対する補正を行うことでデューティ指令値Du03
*を算出する。このパルスタイミング補正処理部33による補正により、PWM信号の位相(ハイレベルとローレベルとの切り替えタイミング)が補正されて、U相PWM電圧vuのパルス幅の中間値をキャリア波の山及び谷の双方または一方と一致させることができる。
【0070】
詳細には、パルスタイミング補正処理部33は、次式(5)に従って、三角波の変化量ΔCの極性に応じて、変調制御部10により定まる補正量Kdlyの符号を切り替え、デューティ指令値Du02
*に対して補正量Kdlyの加算又は減算を行うことで、デューティ指令値Du03
*を算出する。
【0071】
【0072】
式(5)の右辺第2項に示されるように、補正量Kdlyに対する正負の符号は、符号関数sgn(ΔC)によって定まる。補正量Kdlyは、表1に示されるように、後述の式(7)、(8)によって定められる。ΔCは、キャリア波の変化量であり、1回の制御演算中に互いに異なるタイミングで取得した2つの三角波のカウント値の差分である。本実施形態では、キャリア波の変化量ΔCは、次式(6)に従って、今回のキャリア波の取得値C2から前回のキャリア波の取得値C1を減算することで算出される。
【0073】
【0074】
パルスタイミング補正処理部33は、式(6)に従って算出された変化量ΔCがゼロよりも大きい場合には、キャリア波が増加中の区間であると判定し、変化量ΔCがゼロよりも小さい場合には、キャリア波が減少中の区間であると判定する。なお、パルスタイミング補正処理部33は、キャリア波の2つのカウント値でなく、互いに異なるタイミングで3つ以上のカウント値を取得し、それらの複数のカウント値に基づいてキャリア波の増減を判定してもよい。
【0075】
そして、キャリア波が増加中の区間である場合には、パルスタイミング補正処理部33は、デューティ指令値Du02
*に対して補正量Kdlyを加算して、デューティ指令値Du03
*を求める。算出されるデューティ指令値Du03
*が用いられる次区間は減少中の区間であるため、補正量Kdlyを加算することで、PWM信号の位相が進む。
【0076】
一方、キャリア波が減少中の区間である場合には、パルスタイミング補正処理部33は、デューティ指令値Du02
*に対して補正量Kdlyを減算して、デューティ指令値Du03
*を求める。算出されるデューティ指令値Du03
*が用いられる次区間は増加中の区間であるため、補正量Kdlyを減算することで、PWM信号の位相が進む。
【0077】
このように、パルスタイミング補正処理部33は、キャリア波が増加中か減少中かに応じて補正量Kdlyを増減させることで、デューティ指令値Du03
*を算出する。そして、パルスタイミング補正処理部33は、補正後のデューティ指令値Du03
*をPWM変換処理部34に出力する。このようなデューティ指令値Du03
*が用いられることにより、後段の処理で求められるPWM信号の位相を予め進めることができる。
【0078】
PWM変換処理部34は、デューティ指令値Du03
*とキャリア波との比較を行い、PWM信号Puu0及びPul0を生成する。なお、この比較処理は、一般に、コンペアマッチングと称される。デューティ指令値Du03
*は、PWM変換処理部34の機能を実現するマイコンのレジスタに記憶されて、キャリア波と比較される。なお、この処理において用いられるキャリア波のキャリア周期tcは、変調制御部10からの出力に応じて定められる。
【0079】
デューティ指令値Du03
*は、キャリア波の山又は谷となるタイミング、すなわち、制御周期ttごとに更新される。そのため、制御周期ttがtbase/2の場合には、キャリア波の山又は谷となるタイミングから、次に山又は谷となるタイミングまでにおいて、同じデューティ指令値Du03
*が用いられる。制御周期ttがtbaseの場合には、キャリア波が山となるタイミングから、次に山となるタイミングまで、もしくは、キャリア波が谷となるタイミングから、次に谷となるタイミングまで、同じデューティ指令値Du03
*が用いられる。
【0080】
PWM変換処理部34は、例えば、
図7に示されるようにU相電流i
uがマイナスである場合には、デューティ指令値D
u03
*がキャリア波よりも小さいときに、PWM信号P
uu0をローレベルに設定する。PWM変換処理部34は、デューティ指令値D
u03
*がキャリア波よりも大きいときに、PWM信号P
uu0をハイレベルに設定する。下段のスイッチング素子に対するPWM信号P
ul0は、上段のスイッチング素子に対するPWM信号P
uu0に対して、レベルが反転するように設定される。PWM変換処理部34は、このように生成されたPWM信号P
uu0及びP
ul0を、デッドタイム付加処理部35に出力する。
【0081】
デッドタイム付加処理部35は、PWM変換処理部34により算出されたPWM信号Puu0及びPul0に対してデッドタイムtdtを付加する処理を行い、PWM信号Puu及びPulを生成する。
【0082】
本実施形態では、デッドタイム付加処理部35は、PWM信号Puu0及びPul0のそれぞれに対して、立ち上がりタイミングをデッドタイムtdtだけ遅延させることで、PWM信号Puu及びPulを生成する。デッドタイム付加処理部35は、生成されたPWM信号Puu及びPulを、インバータ4に出力する。
【0083】
PWM信号Puu0及びPul0の立ち上がりタイミングをデッドタイムtdtだけ遅延させることで、一対のスイッチング素子が同時にオンとなりモータ200のU相の端子の電圧が不安定になることを抑制できる。
【0084】
次に、式(5)において用いられる補正量Kdlyについて説明する。表1に示されるように、固定モードの場合には、補正量Kdlyは、第1補正量K1となり、拡散モードの場合には、カウンタが0~3の時に、補正量Kdlyは第2補正量K2となり、カウンタが4の時に補正量Kdlyはゼロとなる。これらの第1補正量K1、第2補正量K2はそれぞれ以下のように求められる。
【0085】
PWM信号Puu及びPulが遅延する要因として、デッドタイム付加処理部35によるデッドタイムtdtの付加以外に、PWM信号の伝達回路における遅延時間である伝達遅延tdly_c、スイッチング素子の操作に起因する遅延時間である操作遅延tdly_s、及び、センサや入力回路などにおけるサンプリングに起因する遅延時間である検出遅延tdly_csなどが考えられる。なお、操作遅延tdly_sは、スイッチング素子のオン操作の遅れ時間とオフ操作の遅れ時間の平均値とする。
【0086】
これらの遅延に起因して、生成されるU相PWM電圧vuや、測定されるU相電流iuにおいて位相が遅延するおそれがある。そこで、パルスタイミング補正処理部33は、デューティ指令値Du02
*を補正することで、PWM信号Puu及びPulの位相のずれが抑制されるように、デューティ指令値Du03
*を生成する。
【0087】
固定モードにて用いられる第1補正量K1は、次式(7)のように定められる。
【0088】
【0089】
第1補正量K1に対して、時間単位からキャリア波の振幅への単位系の変換をすると、デッドタイムtdtの半値と、伝達遅延tdly_c、検出遅延tdly_cs、及び、操作遅延tdly_sとの合計に相当する時間、すなわち、「tdlt/2+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」となる。なお、この単位系の変換は、キャリア波の半周期「tc/2」において、キャリア波が振幅の2倍の「2KD」だけ変化することに基づいて行われる。
【0090】
すなわち、第1補正量K1は、電力制御装置100において発生する遅延に応じて定められており、これらの遅延を補償する補償量に相当する。なお、式(7)の第1補正量K1に含まれる遅延成分は、発生する遅延の一例であり、第1補正量K1に、これらの遅延の一部が含まれていなくてもよいし、その他の遅延が含まれていてもよい。
【0091】
また、拡散モードにて用いられる第2補正量K2は、次式(8)のように定めることができる。
【0092】
【0093】
第2補正量K2が第1補正量K1の、1.25倍(5/4倍)となる理由は、以下のとおりである。拡散モードにおける補正量Kdlyは、5つの制御周期ttのうち(カウンタ:0~4)、4つ(カウンタ:0~3)において第2補正量K2が用いられ、1つ(カウンタ:4)においてゼロとなる。一方、固定モードにおける補正量Kdlyは、固定的に第1補正量K1が用いられる。そのため、式(8)が成立することにより、5つの制御周期ttの全体をまとめて考察すれば、固定モードと拡散モードとで補正量Kdlyの和は5K1となり等しくなる。
【0094】
なお、上述のように、式(7)に示される第1補正量K1を用いた補正を行うことにより、第1補正量K1の時間単位への換算値であるデッドタイムtdtの半値と、伝達遅延tdly_c、検出遅延tdly_cs、及び、操作遅延tdly_sとの合計に相当する時間、すなわち、「tdlt/2+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ、PWM信号の位相を変化させることができる。以下の説明の便宜上、第1補正量K1に起因する位相の変化量をtfwdとして、次式のように定義する。
【0095】
【0096】
すなわち、式(7)に示される第1補正量K1を用いた補正により、tfwdだけ位相を補償できる。また、式(8)に示される第2補正量K2を用いた補正により、第1補正量K1による位相の変化量の1.25倍、すなわち、1.25tfwdだけ位相を補償できる。
【0097】
図6は、デューティ指令値の算出制御の一例を示すフローチャートである。この算出制御は、制御周期t
tごとに繰り返し実行される。なお、このフローチャートにおける制御は、電力制御装置100において記憶されているプログラムが実行されることにより、実現されてもよい。
【0098】
ステップS501において、電力制御装置100(電流検出器7u及び7v)は、アナログ的に取得された電流値をA/D変換して、U相電流iu及びV相電流ivを取得する。同時に、電力制御装置100は、回転子位置検出器201から、アナログ的に検出された回転子の位置をA/D変換して得られた電気角θを取得する。
【0099】
ステップS502において、電力制御装置100(UVW相/dq軸変換器9)は、式(2)に基づき、ステップS501にて得られたU相電流iu及びV相電流iv、及び、電気角θに応じて、d軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqを求める。同時に、電力制御装置100(モータ回転速度演算器8)は、電気角θに基づいて回転数Nを演算する。
【0100】
ステップS503において、電力制御装置100(変調制御部10)は、トルク指令値T
*と、回転数Nとに基づき、
図3に示されるグラフを用いて、拡散モード、又は、固定モードのいずれかを選択する。同時に、電力制御装置100(変調制御部10)は、式(7)に基づいて、発生する遅延を補償するための補償量として、第1補正量K
1を算出する。
【0101】
ステップS504において、電力制御装置100(変調制御部10)は、拡散モードが選択されるか否かを判断し、その判断結果に応じて、次の処理を行う。
【0102】
固定モードが選択され、拡散モードが選択されない場合には(S504:No)、電力制御装置100(変調制御部10)は、次に、ステップS505の処理を行う。拡散モードが選択される場合には(S504:Yes)、電力制御装置100(変調制御部10)は、次に、ステップS506の処理を行う。
【0103】
ステップS505において、電力制御装置100(変調制御部10)は、表1に示されるように、キャリア周期tcとして基本周期tbaseを、制御周期ttとしてtbase/2を、補正量Kdlyとして第1補正量K1を出力する。すなわち、この処理において、ステップS503で算出された補償量である第1補正量K1に対して1を乗ずる補正をし、補正量Kdlyが算出される。
【0104】
一方、ステップS506おいて、電力制御装置100(変調制御部10)は、カウンタを制御周期ttごとにカウントアップするとともに、カウンタが4よりも小さいか否かを判定する。
【0105】
カウンタが4よりも小さい場合には(S506:Yes)、電力制御装置100(変調制御部10)は、次に、ステップS507の処理を行う。ステップS507においては、電力制御装置100(変調制御部10)は、キャリア周期tcとして基本周期tbaseを、制御周期ttとしてtbase/2を、補正量Kdlyとして第2補正量K2を設定する。すなわち、この処理において、ステップS504で算出された補償量である第1補正量K1に対して1.25を乗ずる補正をし、補正量Kdlyが算出される。
【0106】
カウンタが4である場合、すなわち、カウンタが4より小さくない場合には(S506:No)、電力制御装置100(変調制御部10)は、次に、ステップS508の処理を行う。ステップS508においては、電力制御装置100(変調制御部10)は、キャリア周期tcとしてtbase/2を、制御周期ttとしてtbase/2を、補正量Kdlyとしてゼロを設定する。すなわち、この処理において、ステップS504で算出された補償量である第1補正量K1に対して0を乗ずる補正をし、補正量Kdlyが算出される。
【0107】
ステップS509において、電力制御装置100(トルク制御部1)は、トルク指令値T*と、バッテリ電圧検出値Vdcと、回転数Nと、d軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqとに基づいて、電流ベクトル制御によって、d軸電圧指令値vd
*及びq軸電圧指令値vq
*を算出する。
【0108】
ステップS510において、電力制御装置100(dq軸/UVW相変換器2)は、式(1)に従って、電気角検出値θに基づいて、d軸電圧指令値vd
*及びq軸電圧指令値vq
*を三相PWM電圧指令値vu
*、vv
*及びvw
*に変換する。
【0109】
ステップS511において、電力制御装置100(PWM変換器3のデューティ指令値演算部31)は、式(3)に従い、三相PWM電圧指令値vu
*、vv
*及びvw
*と、バッテリ電圧検出値Vdcとを用いて、デューティ指令値Du01
*、Dv01
*及びDw01
*を演算する。
【0110】
ステップS512において、電力制御装置100(PWM変換器3のデッドタイム補償処理部32)は、式(4)に従って、デューティ指令値Du01
*、Dv01
*及びDw01
*に対してデッドタイム付加に対する補償処理を行い、デューティ指令値Du02
*、Dv02
*及びDw02
*を算出する。
【0111】
ステップS513において、電力制御装置100(PWM変換器3のパルスタイミング補正処理部33)は、キャリア周期tcが制御周期ttよりも大きいか否かを判定する。そして、キャリア周期tcが制御周期ttよりも大きい場合には(S513:Yes)、電力制御装置100(パルスタイミング補正処理部33)は、次に、ステップS514を実行する。一方、キャリア周期tcが制御周期ttよりも大きくない場合には(S513:No)、電力制御装置100(パルスタイミング補正処理部33)は、次に、ステップS517を実行する。
【0112】
ステップS514において、電力制御装置100(パルスタイミング補正処理部33)は、式(6)に従って、キャリア波の強度が増加中か減小中かを判断する。そして、キャリア波が増加中である場合には(S514:Yes)、電力制御装置100(パルスタイミング補正処理部33)は、補正量Kdlyを加算するために、次にステップS515の処理を行う。キャリア波が増加中でなく減少中である場合には(S514:No)、電力制御装置100(パルスタイミング補正処理部33)は、補正量Kdlyを減算するために、次にステップS516の処理を行う。
【0113】
ステップS515において、電力制御装置100(パルスタイミング補正処理部33)は、式(5)に従って、キャリア波が増加区間でありsgn(ΔC)が正となるため、デューティ指令値Du02
*、Dv02
*及びDw02
*に補正量Kdlyを加算して、デューティ指令値Du03
*、Dv03
*及びDw03
*を算出する。
【0114】
ステップS516において、電力制御装置100(パルスタイミング補正処理部33)は、式(5)に従って、キャリア波が減少区間でありsgn(ΔC)が負となるため、デューティ指令値Du02
*、Dv02
*及びDw02
*から補正量Kdlyを減算して、デューティ指令値Du03
*、Dv03
*及びDw03
*を算出する。
【0115】
キャリア周期tc及び制御周期ttは、ステップS505~S508において定められ、これらのうち、ステップS505、S506における設定によれば、キャリア周期tcが制御周期ttよりも大きくなり(S513:Yes)、補正量Kdlyの加算又は減算が行われる(S515、S516)。ステップS507における設定によれば、キャリア周期tcが制御周期ttよりも小さくなり(S513:No)、補正量Kdlyの加減は行われず、デューティ指令値Du03
*、Dv03
*及びDw03
*が、デューティ指令値Du02
*、Dv02
*及びDw02
*となる。
【0116】
ステップS517において、電力制御装置100(PWM変換器3)は、ステップS515またはS516にて算出されたデューティ指令値Du03
*、Dv03
*及びDw03
*を、次区間での演算に用いるデューティ指令値として、マイコンのレジスタにセットする。そして、デューティ指令値の算出制御は終了する。
【0117】
なお、ステップS501~S517で示されたデューティ指令値の算出制御の後において、電力制御装置100(PWM変換器3のPWM変換処理部34)は、デューティ指令値Du03
*、Dv03
*及びDw03
*とキャリア波とを比較して、PWM信号Puu0、Pul0、Pvu0、Pvl0、Pvu0及びPvl0を生成する。
【0118】
そして、電力制御装置100(PWM変換器3のデッドタイム付加処理部35)は、PWM信号Puu0、Pul0、Pvu0、Pvl0、Pwu0及びPwl0にデッドタイムtdtを付加することで、PWM信号Puu、Pul、Pvu、Pvl、Pwu及びPwlを生成する。デッドタイム付加処理部35は、PWM信号Puu及びPulをU相の一対のスイッチング素子に、PWM信号Pvu及びPvlをV相のスイッチング素子に、PWM信号Pwu及びPwlをW相のスイッチング素子に出力する。
【0119】
電力制御装置100(インバータ4)は、PWM信号Puu、Pul、Pvu、Pvl、Pwu及びPwlに基づいて各相において対をなすスイッチング素子が駆動されると、モータ200の各相に三相PWM電圧vu、vv、及びvwをそれぞれ供給する。
【0120】
このようにして、電力制御装置100は、モータ200に対して擬似的な交流電圧である三相PWM電圧vu、vv、及びvwを供給する。
【0121】
図7は、固定モードにおけるPWM制御の一例の説明図である。なお、説明の便宜上、この図にはU相に関する制御のみ示されている。
【0122】
この図の例においては、固定モードが選択されているので、前述の表1に示されるように、キャリア周期tcは基本周期tbaseとなり、制御周期ttはtbase/2となり、補正量Kdlyは式(7)に示される第1補正量K1となる。そのため、制御演算は、キャリア周期tcの半分ごとに行われ、また、キャリア周期tcは減少中の区間と増加中の区間により構成されるため、A/D変換及び制御演算は、増加区間又は減少区間ごとになされる。
【0123】
図上方には、キャリア波が示されている。以下では、左部に示されるキャリア波の減少区間を区間a、中央部に示される区間a後の増加区間を区間b、右部に示される区間b後の減少区間を区間cと称する。区間aにおいては、デューティ指令値Du03
*の算出までの処理が示され、区間b及びcにおいては、U相PWM電圧vuの算出までの処理が示されるとともに、電力制御装置100のインバータ4とモータ200との間で実際に流れるU相電流iuが示されている。
【0124】
図上部においては、区間b及びcにおいては、キャリア波に加えて、デューティ指令値Du01
*、及び、デューティ指令値Du02
*が点線で、デューティ指令値Du03
*が実線で示されている。
【0125】
その下部には、デューティ指令値Du03
*を用いて定まるPWM信号Puu0及びPul0、及び、デッドタイムtdtが付加されたPWM信号Puu及びPulが示されている。さらに、それらの下部には、モータ200に印加されるU相PWM電圧vuと、U相電流iuの実値、及び、電流検出器7uによる検出値とが示されている。なお、この例においては、U相電流iuがマイナス、すなわちU相電流iuがモータ200からインバータ4へ流れる場合が示されている。
【0126】
区間aでは、区間の開始タイミングから始まるA/D変換区間において、電力制御装置100、及び、モータ200の状態が検出される。そして、A/D変換区間に続く制御演算区間において、デューティ指令値Du02
*、及び、補正量Kdlyが算出され、デューティ指令値Du02
*から補正量Kdlyを減じることで、区間bにおいて用いられるデューティ指令値Du03
*が算出される。
【0127】
そして、区間aに続く区間bにおいては、前区間aで算出されたデューティ指令値Du03
*とキャリア波との比較などが行われ、PWM信号Puu、Pulが生成される。PWM信号Puu、Pulに応じてインバータ4が制御されることにより、モータ200へU相PWM電圧vuが印加されて、U相電流iuが流れる。
【0128】
なお、説明の便宜上、区間b、cにおいては、区間aで算出されたデューティ指令値Du02
*、及び、補正量Kdlyが用いられて、デューティ指令値Du03
*が算出されるものとする。
【0129】
以下では、これらの処理の詳細について説明する。
【0130】
区間aにおいては、まず、A/D変換区間において、電流検出器7uにおけるサンプリング(A/D変換)によってU相電流iuが取得される(S501)。
【0131】
A/D変換区間に続く制御演算区間において、トルク制御部1による演算、及び、dq軸/UVW相変換器2による演算(S502)により、三相PWM電圧指令値vu
*、vv
*及びvw
*が算出される(S503)。そして、d軸電圧指令値vd
*及びq軸電圧指令値vq
*が算出され(S509)、座標変換が行われて、三相PWM電圧指令値vu
*、vv
*及びvw
*が算出される(S510)。
【0132】
PWM変換器3において、デューティ指令値演算部31は、式(3)に従って、デューティ指令値Du01
*を算出する。デッドタイム補償処理部32は、U相電流iuが負であるので、式(4)に従って、デューティ指令値Du01
*に対して補償量「2KDtdt/tc」を減算することにより、デューティ指令値Du02
*を算出する。
【0133】
その後、パルスタイミング補正処理部33は、2つのタイミングでキャリア波の値C1、C2を取得し、式(6)に従って、キャリア波の増減を判断する。また、この図の例においては、固定モードが選択されているので(S504:No)、変調制御部10は、表1に示されるように、補正量Kdlyを式(7)に示される第1補正量K1とする。
【0134】
区間aにおいては、キャリア波が減少中であるため、パルスタイミング補正処理部33は、式(5)に従って、デューティ指令値Du02
*に対して補正量Kdlyを減算することで、デューティ指令値Du03
*を算出する(S516)。
【0135】
なお、区間bにおいては、キャリア波が増加中であるため、式(5)に従って、パルスタイミング補正処理部33は、区間aにて算出された補正量Kdlyを、デューティ指令値Du02
*に対して加算することで、デューティ指令値Du03
*を算出する(S515)。
【0136】
次に、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du02
*を用いることによる、PWM電圧の位相の変化について説明する。
【0137】
式(4)に示されるように、U相電流iuがマイナスでありsgn(iu)が負となるので、デューティ指令値Du02
*は、デューティ指令値Du01
*よりも補償量「2KDtdt/tc」だけ小さい。補償量「2KDtdt/tc」を用いた補正により、補償量「2KDtdt/tc」の時間単位への換算値、すなわち、デッドタイムtdtの半値「tdt/2」だけ、PWM電圧の位相を変化させることができる。
【0138】
区間bにおいては、増加区間であり、補償量「2KDtdt/tc」だけ減少させてデューティ指令値Du02
*が求められるため、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du02
*を用いることで、デッドタイムtdtの半値「tdt/2」だけ、PWM電圧の位相を進めることができる。区間cにおいては、減少区間であるため、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du02
*を用いることで、デッドタイムtdtの半値「tdt/2」だけ、PWM電圧の位相を遅らせることができる。
【0139】
そこで、デューティ指令値Du01
*がキャリア波よりも小さい区間をt1とすれば、デューティ指令値Du02
*がキャリア波よりも小さい区間t2は、t1よりもデッドタイムtdtだけ長くなり、「t2=t1+tdt」となる。従って、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du02
*を用いることで、U相PWM電圧vuのパルス幅をデッドタイムtdtだけ長くできる。
【0140】
次に、デューティ指令値Du02
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることによる、PWM電圧の位相の変化について説明する。
【0141】
式(5)によれば、デューティ指令値Du02
*に対して補正量Kdlyを用いて補正をすることで、デューティ指令値Du03
*が算出される。補正量Kdlyは、式(7)に示される第1補正量K1と等しいため、デューティ指令値Du02
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、デッドタイムtdtの半値と、伝達遅延tdly_c、検出遅延tdly_cs、及び、操作遅延tdly_sとの合計時間「tdt/2+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」、すなわち、式(9)に示されるtfwdだけ、U相PWM電圧vuの位相が変化する。
【0142】
区間bは増加区間であり、補正量Kdlyを減算してデューティ指令値Du03
*が得られるため、デューティ指令値Du02
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、tfwdだけ位相が進む。区間cは減少区間であるので、デューティ指令値Du02
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、tfwdだけ位相が進む。したがって、区間b及びcの両者において、デューティ指令値Du02
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、tfwdだけ位相が進む。
【0143】
ここで、デューティ指令値Du02
*、及び、デューティ指令値Du03
*による制御タイミングの変化をまとめて説明すれば、以下のようになる。
【0144】
区間bにおいては、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du02
*を用いることにより、デッドタイムtdtの半分「tdt/2」だけ位相が進み、デューティ指令値Du02
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることにより、「tfwd=tdt/2+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ位相が進む。その結果、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、「tdt+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけU相PWM電圧vuの位相が進
む。
【0145】
区間cにおいては、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du02
*を用いることにより、デッドタイムtdtの半分「tdt/2」だけ位相が遅れ、デューティ指令値Du02
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることにより、「tfwd=tdt/2+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ位相が進む。デッドタイムtdtの半分「tdt/2」については位相の進みと遅れとがキャンセルされるので、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、「tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけU相PWM電圧vuの位相が進む。
【0146】
以下では、デューティ指令値Du03
*を用いてU相PWM電圧vuがどのように算出されるのかについて説明する。
【0147】
PWM変換処理部34は、デューティ指令値Du03
*とキャリア波とを比較し、比較結果に応じてPWM信号Puu0及びPul0を生成する。デューティ指令値Du03
*がキャリア波よりも大きい場合には、PWM信号Puu0はハイレベルとなり、デューティ指令値Du03
*がキャリア波よりも小さい場合には、PWM信号Puu0はローレベルとなり、さらに、PWM変換処理部34は、PWM信号Puu0のレベルを反転させることで、PWM信号Pul0を生成する。
【0148】
ここで、PWM信号Puu0及びPul0の切り替えタイミングは、デューティ指令値Du02
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、区間b及びcの両者において、補正量Kdlyに応じた時間だけ位相が進む。そのため、デューティ指令値Du03
*により定まるPWM信号Puu0のローレベル区間、及び、PWM信号Pul0のハイレベル区間は、デューティ指令値Du02
*がキャリア波よりも小さい区間t2と等しくなる。なお、上述のように、「t2=t1+tdt」が成立している。
【0149】
デッドタイム付加処理部35は、PWM信号Puu0及びPul0のそれぞれについて、立ち上がりタイミングをデッドタイムtdtだけ遅らせることで、PWM信号Puu、Pulを算出する。
【0150】
PWM信号Puuのローレベル区間は、PWM信号Puu0のローレベル区間と比較すると、デッドタイムtdt分だけ長くなり、「t2+tdt」となる。PWM信号Pulのハイレベル区間は、PWM信号Pui0のハイレベル区間と比較すると、デッドタイムtdt分だけ短くなり、「t2-tdt」となる。なお、この「t2-tdt」は、「t1」と等しい。
【0151】
また、PWM信号Puu、Puuの両者がローレベルである場合には、上側と下側のスイッチング素子がオフとなるが、U相電流iuはマイナスであり、モータ200から電力制御装置100へと電流iが流れる。そのため、インバータの構成上、上側のスイッチング素子に併設されたダイオードだけが導通状態となり、U相PWM電圧vuの電位は「Vdc/2」となるので、U相PWM電圧vuにおいて電位が「-Vdc/2」となるパルス幅は、PWM信号Pulのハイレベル区間と等しくなる。その結果、デューティ指令値Du03
*を用いた場合のU相PWM電圧vuのパルス幅はt1であり、デューティ指令値Du01
*を用いた場合と等しくなる。
【0152】
PWM信号Puu及びPulによってインバータ4が制御される。PWM信号Puuがローレベル、かつ、PWM信号Pulがハイレベルである状態では、U相配線に「-Vdc/2」の電位が供給され、それ以外の状態では、U相配線に「Vdc/2」の電位が供給される。供給される電位が変化するタイミングから、U相PWM電圧vuが変化するタイミングまでは、伝達遅延tdly_cと操作遅延tdly_sとの和である「tdly_c+tdly_s」だけ遅延する。
【0153】
そして、U相PWM電圧vuの変化に応じて、擬似的な交流電流であるU相電流iuが流れる。U相電流iuは、U相配線の電圧が「Vdc/2」から「-Vdc/2」に変化するときに最大となり、U相配線の電圧が「-Vdc/2」から「Vdc/2」に変化するときに最小となる。そして、U相電流iuの測定値は、その実値に対して、検出遅延tdly_csだけ遅れている。
【0154】
従って、区間bにおいては、U相電流iuの検出値は、デューティ指令値Du03
*により定まるPWM信号Pul0に対して、デッドタイムtdtと、伝達遅延tdly_c、操作遅延tdly_s、及び、検出遅延時間tdly_csとの和、すなわち、「tdt+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ遅延する。
【0155】
区間cにおいては、U相電流iuの検出値における最小値(谷)と対応するPWM信号Pul0の立ち下がりタイミングにおいて、デッドタイムtdtが付加されない。そのため、U相電流iuの検出値は、PWM信号Puu0に対して、伝達遅延tdly_c、操作遅延tdly_s、及び、検出遅延時間tdly_csの和、すなわち、「tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ遅延する。
【0156】
上述のように、区間bにおいて、U相電流iuが検出されるタイミングは、デッドタイム補償前のPWM信号Puu0及びPWM信号Pul0の切り替えタイミングに対して、「tdt+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ位相が遅延する。しかしながら、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、PWM信号の切り替えタイミングは、「tdt+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ位相が進む。
【0157】
区間cにおいて、U相電流iuが検出されるタイミングは、デッドタイム補償前のPWM信号Puu0及びPWM信号Pul0の切り替えタイミングに対して、「tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ位相が遅延する。しかしながら、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、PWM信号の切り替えタイミングは、「tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ位相が進む。
【0158】
このように、区間b、cの両者において、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、発生する位相の遅延分だけ予め位相が進められるように補正がされるので、発生する遅延は相殺される。
【0159】
U相PWM電圧vuが「-Vdc/2」と「Vdc/2」との間で切り替えられることにより、高調波を含む電流が流れる。そのため、理想的には、これらの切り替えタイミング、すなわち、U相電流iuがピークとなる山及び谷の中間においてA/D変換が行われるのが好ましい。
【0160】
固定モードにおいては、式(7)に示される第1補正量K1を用いることで、検出されるU相電流iuのピークの中間においてキャリア波がピーク(山及び谷)となる。その結果、キャリア波のピークにおいてA/D変換により得られる電流値にスイッチングに起因する高周波成分が混入するのを抑制できる。
【0161】
図8は、拡散モードが設定されている場合におけるPWM制御の一例の説明図である。この図においては、6つの区間a~fが示されており、これらの区間が制御周期t
tの長さとなっている。区間a~fのそれぞれにおいて、区間の先頭からA/D変換と制御演算とが行われて、次区間のデューティ指令値D
u03
*が算出される。なお、説明の便宜上、区間a~fにおいては、デューティ指令値D
u02
*は一定であるものとする。
【0162】
区間bにおいては、変調制御部10の有するカウンタが4であり、ステップS508に従い、区間cにおいて用いられるパラメータが定められる。すなわち、区間cでは、キャリア周期tcは基本周期tbase/2となり、制御周期ttはtbase/2となり、補正量Kdlyはゼロとなる。
【0163】
区間a、b、d、及びeにおいては、ステップS507に従い、キャリア周期tcは基本周期tbaseとなり、制御周期ttはtbase/2となり、補正量Kdlyは、第2補正量K2となる。なお、式(8)に示されるように、第2補正量K2は第1補正量K1の1.25倍に相当する。
【0164】
以下ではそれぞれの区間について詳細に説明する。
【0165】
区間a及びbにおいて、キャリア周期tcは基本周期tbaseであり、制御周期ttはtbase/2である。キャリア波は、1つの基本周期tbaseの間に、1つの増加区間と1つの減少区間とが存在するため、増加区間及び減少区間の長さがtbase/2であり、制御周期ttと等しい。そのため、増加区間が区間aに相当して、区間の先頭においてA/D変換と制御演算とが行われる。同様に、減少区間が区間bに相当して、区間の先頭においてA/D変換と制御演算とが行われる。
【0166】
区間cにおいては、キャリア周期tcは基本周期tbase/2であり、制御周期ttはtbase/2である。キャリア波の基本周期tbase/2の間に、増加区間と減少区間とが存在する。そして、制御周期ttが基本周期と等しくtbase/2であるため、増加区間の先頭においてのみ制御演算が行われ、減少区間ではA/D変換及び制御演算は行われない。
【0167】
区間d及びeは、区間a及びbと同様に、キャリア周期tcが基本周期tbaseであるキャリア波における増加区間及び減少区間であり、それぞれの区間の先頭においてA/D変換と制御演算とが行われる。
【0168】
ここで、それぞれの区間において、デューティ指令値Du02
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることにより、PWM信号の位相が変化するか検討する。
【0169】
区間a、b、d、eにおいては、式(5)に示されるような補正量Kdly、すなわち、第2補正量K2に相当する時間「1.25tfwd」だけ、デューティ指令値とキャリア波との交点、すなわち、PWM信号Puu0の位相が変化する。
【0170】
区間a、dにおいては、キャリア波は増加区間であり、式(5)において補正量Kdlyの減算がなされるので、PWM信号Puu0の位相は「1.25tfwd」だけ進む。区間b、eにおいては、キャリア波は減少区間であり、式(5)において補正量Kdlyの加算がなされるので、PWM信号Puu0の位相は「1.25tfwd」だけ進む。このため、区間a、b、d及びeにおいては、PWM信号Puu0の位相は「1.25tfwd」だけ進む。
【0171】
区間cにおいては、表1に示されるように、補正量Kdlyはゼロであるので、PWM信号Puu0の位相は変化しない。区間cには、キャリア波の増加区間と減少区間とが存在するため、PWM信号Puu0には2回の切り替えタイミングが存在しているが、これらの2つの切り替えタイミングの位相は変化しない。
【0172】
ここで、PWM信号Puu0がハイレベルである区間、及び、ローレベルである区間について検討する。
【0173】
区間aにおける立ち下がりから、区間bにおける立ち上がりまでの間におけるローレベル区間については、立ち下がり及び立ち上がりのタイミングが、共に1.25tfwdだけ位相が進む。そのため、ローレベル区間の中央値は、1.25tfwdだけ位相が進む。すなわち、固定モードにおける位相の進みであるtfwdと比較すると、0.25tfwdだけ進みに超過がある。
【0174】
区間bにおける立ち上がりから区間cにおける立ち下がりまでの間におけるハイレベル区間については、区間bの立ち上がりのタイミングは1.25tfwdだけ進むが、区間cの立ち下がりのタイミングは変化しない。そのため、ハイレベル区間の中央値は、1.25tfwdの半値に相当する0.675tfwdだけ進む。この場合、固定モードにおける位相の進みであるtfwdと比較すると、0.375tfwdだけ進みに不足がある。
【0175】
区間cにおける立ち下がりから立ち上がりまでの間がローレベル区間については、区間cにおいては補正量Kdlyがゼロであるので、このローレベル区間において位相の変化はない。
【0176】
区間cにおける立ち上がりから区間dにおける立ち下がりまでの間におけるハイレベル区間については、区間bにおける立ち上がりから区間cにおける立ち下がりまで間におけるハイレベル区間と同様の位相の進みがある。すなわち、このハイレベル区間の中央値は、0.675tfwdだけ進み、固定モードにおける位相の進みに対して0.375tfwdだけ進みに不足がある。
【0177】
区間dにおける立ち下がりから区間eにおける立ち上がりまでの間におけるローレベル区間については、区間aにおける立ち下がりから区間bにおける立ち上がりまでの間におけるローレベル区間と同様の位相の進みがある。すなわち、このローレベル区間の中央値は、1.25tfwdだけ位相が進み、固定モードにおける位相の進みに対して0.25tfwdだけ進みに超過がある。
【0178】
区間eにおける立ち上がりから区間fにおける立ち下がりまで間におけるハイレベル区間については、区間aにおける立ち下がりから区間bにおける立ち上がりまでの間におけるローレベル区間と同様の位相の進みがある。すなわち、このハイレベル区間の中央値は、1.25tfwdだけ位相が進み、固定モードにおける位相の進みに対して0.25tfwdだけ進みに超過がある。
【0179】
ここで、区間a~dの5区間を1セット、正確には区間aにおけるPWM信号Puu0のレベル変化から区間fにおけるPWM信号Puu0のレベル変化までの区間を1セットして位相の進みを考えると、区間a、d及びeの3区間で0.25tfwdだけ超過があり、区間a及びdの2区間で0.25tfwdだけ不足がある。その結果、次式に示されるように、位相の進みにおける超過と不足との和は、共に0.75tfwdとなるので、両者は相殺される。
【0180】
【0181】
すなわち、本実施形態における動作を説明すれば、以下のようになる。区間cにおいては、キャリア波のキャリア周期tcがtbase/2となり、増加区間、及び、減少区間はそれぞれtbase/4となる。そのため、増加区間又は減少区間においてはA/D変換及び制御演算を完了させることができないが、制御周期ttはtbase/2であるので、増加区間のみでA/D変換及び制御演算が行われる。なお、区間cにおいては、補正量Kdlyがゼロであり、位相に変化はない。
【0182】
区間a、b、d及びeにおいては、式(5)に示される補正量K
dlyとして、固定モードで用いられる第1補正量K
1の1.25倍の第2補正量K
2が用いられるので、固定モードの1.25倍の位相が進む。そのため、
図8及び式(9)に示されるように、区間a~fの1セットを検討すれば、PWM信号のハイレベル区間及びローレベル区間の位相の進みは、全体として、固定モードにおける位相の進みと同じとなる。
【0183】
このようにして、キャリア波のキャリア周期tcが変化して、区間cのような増加区間又は減少区間においてA/D変換及び制御演算を完了させることができない区間が存在しても、表1に示されるパラメータを用いることにより、全体としては、位相の進みにおける超過と不足とが相殺される。
【0184】
図9は、拡散モードが設定されている場合のPWM制御の比較例の説明図である。この図においては、表1において、カウンタが0-3の場合の補正量K
dlyが第1補正量K
1であるものとする。
【0185】
このような例においては、PWM信号Puuの立ち上がり及び立ち下がりは、区間a、b、d及びeにおいてはtfwdだけ位相が進み、区間cにおいては位相が変化しない。
【0186】
まず、区間aの立ち下がりから区間bの立ち上がりまでの間のローレベル区間、区間dの立ち下がりから区間eの立ち上がりまでの間のローレベル区間、及び、区間eの立ち上がりから区間fの立ち下がりまでの間のハイレベル区間について検討する。これらの区間においては、期間の始点と終点において位相がtfwdだけ位相が進み、区間の中央値はtfwdだけ位相が進む。そのため、位相の進みは、固定モードと同じである。
【0187】
次に、区間bの立ち上がりから区間cの立ち下がりまでの間のハイレベル区間、及び、区間cの立ち上がりから区間dの立ち下がりまでの間のハイレベル区間について検討する。これらの区間においては、それぞれ、期間の始点と終点のうちのいずれか一方において位相がtfwdだけ位相が進むので、区間の中央値はtfwd/2だけ位相が進む。そのため、固定モードにおける位相の進みと比較すると、位相の進みがtfwd/2だけ不足する。
【0188】
したがって、区間a~dの5区間、正確には区間aにおけるPWM信号Puu0のレベル変化から区間fのレベル変化までの区間の全体としては、位相の進みの不足と超過とが相殺されず、全体として位相の進みに不足が生じて、遅れが発生してしまう。
【0189】
次に、
図10、11を用いて、各モードが選択される場合における、補正量K
dlyとモータ200に流れる電流値との関係について説明する。
【0190】
図10は、固定モードにおける、モータ200における回転数Nと電流iとの関係を示すグラフである。
【0191】
図11は、拡散モードにおける、モータ200における回転数Nと電流iとの関係を示すグラフである。
【0192】
これらの図においては、左から右に向かって回転数Nが大きくなり、下から上に向かって電流iが大きくなる。また、モータ200に供給される電流iが一定となるように制御された状態において、回転数Nの変化に応じたモータ200に実際に流れる定格電流iが示されている。電力制御装置100において発生する遅延に起因してPWMパルス信号の位相が変化すると、A/D変換タイミングがPWMパルスに対して相対的にずれてしまう。そのため、PWM高調波が混入してしまい、回転数Nの増加に応じて電流iが減少してしまう。
【0193】
これらの図には、補正量Kdlyを変化させた場合の電流iが示されている。補正量KdlyはゼロからKfまで変化され、0、Ka、Kb、Kc、Kd、Ke、Kfの順に大きくなる。固定モード、及び、拡散モードのそれぞれにおいて、回転数Nの増加に対する電流iの減少率は、補正量Kdlyが大きくなるほど小さくなる。そして、固定モードにおいて、補正量KdlyがKfである場合には、回転数Nの増加に応じて電流iは略変化しない。
【0194】
また、補正量Kdlyが同じである場合には、回転数Nの増加に対する電流iの減少率は、拡散モードの方が、固定モードよりも大きい。そのため、流れる電流iを同じにしようとすると、拡散モードにおける補正量Kdlyを、固定モードにおける補正量Kdlyよりも大きくする必要がある。
【0195】
例えば、
図10に示される固定モードにおいて、回転数N
1、かつ、補正量K
bである場合に、電流i
1となる。
図11に示される拡散モードにおいて、回転数N
1、かつ、補正量K
cである場合に、電流i
1である。そして、補正量K
cは、補正量K
bの1.25倍であるものとする。
【0196】
このような場合には、第1補正量K1として補正量Kbを用いると、第2補正量K2は補正量Kcとなる。そのため、回転数がN1で等速制御されている場合において、固定モードと拡散モードとの間でモード変更があったとしても、電流iは変化しない。したがって、固定モードと拡散モードとのモード変化をスムーズに行うことができる。
【0197】
このように、
図10、11に示されるように、回転数Nに応じた電流iの減少率は、拡散モードの方が固定モードよりも小さい。また、補正量K
dlyが大きくなるほど、電流iの減少率は小さい。そのため、同じ回転数Nにおいて、モータ200に流れる電流iを等しくするためには、拡散モードにおける第2補正量K
2は、固定モードにおける第1補正量K
1よりも大きくする必要がある。
【0198】
本実施形態においては、拡散モードの補正量Kdlyは、第2補正量K2であり、固定モードの補正量Kdlyである第1補正量K1の1.25倍であるため、第1補正量K1よりも大きい。そのため、固定モードと拡散モードとの間でモード変化を行う場合に、電流iの変化が生じにくいので、モータ200のトルク段差などの発生が抑制され、制御特性を向上させることができる。
【0199】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0200】
本実施形態の電力制御方法によれば、電力制御装置100は、PWM電圧において発生する位相のずれtfwdを補償する第1補正量K1を算出する(S504)。そして、電力制御装置100は、第1補正量K1に対してキャリア信号の制御周期ttに応じた補正を行うことで補正量Kdlyを求め(S508)、補正量Kdlyを用いてキャリア信号が増加中か減少中かに応じて前記デューティ指令値を補正する(S514~516)。
【0201】
詳細には、
図6のフローチャートに示されるように、固定モードであるステップS505においては、キャリア周期t
cがt
base/2であり、補正量K
dlyとして第1補正量K
1がそのまま設定される。拡散モードであるステップS506においては、キャリア周期t
cがt
baseであり、補正量K
dlyとして第1補正量K
1が1.25倍された第2補正量K
2が設定される。さらに、ステップS507においては、キャリア周期t
cがt
base/2である場合に、補正量K
dlyとしてゼロが設定される。
【0202】
ステップS507の処理において、キャリア周期tcがtbase/2である場合には、サンプリング及びデューティ指令値の算出に要する処理の周期が、キャリア波が山または谷となる間隔よりも短くなる。そのため、キャリア波が山または谷となるタイミングでサンプリングを行うことができない。このような場合において、さらに補正量Kdlyを用いてデューティ指令値を補正してしまうと、生成されるPWM信号のパルス幅が所望の値から乖離してしまい、好ましくない。そこで、キャリア周期tcに応じて、第1補正量K1をゼロとして設定することで、PWM信号における指令値との乖離を抑制することができる。これにより、モータ200の制御精度を向上させることができる。
【0203】
本実施形態の電力制御方法によれば、拡散モードにおいては、キャリア周期tcがtbase、tbase/2と異なる周期の間で、カウンタに応じた繰り返し規則で切り替えられる。カウンタが0-3であり、キャリア周期tcがtbaseの場合には、補正量Kdlyとして第2補正量K2が用いられる。カウンタが4であり、キャリア周期tcがtbase/2の場合には、補正量Kdlyとしてゼロが用いられる。このように、キャリア周期tcが異なるキャリア波を所定の繰り返し規則で切り替える場合であっても、最終的に生成されるPWM信号の全体としての位相の進みと遅れとを相殺できるので、モータ200の制御精度を向上させることができる。
【0204】
より詳細には、第2補正量K2は、電力制御装置100における遅延時間であるtfwdに応じた第1補正量K1の1.25(5/4)倍である。これは、カウンタが0-4である5カウントのうち0-3である4カウントにおいて第2補正量K2が用いられ、カウンタが4である1カウントにおいてゼロが用いられることに起因する。
【0205】
5カウントをまとめて考察すれば、5カウントにおいて補正量Kdlyが第1補正量K1となる固定モードと、4カウントにおいて補正量Kdlyが第2補正量K2となり、かつ、1カウントにおいて補正量Kdlyがゼロとなる拡散モードとでは、全体として補正量Kdlyの総和が等しい。
【0206】
このような理由により、拡散モードにおける第2補正量K2は、キャリア周波数の組み合わせにおいて補正量がゼロとなるキャリア周波数の占める割合に応じて算出される。このように、全体としての遅延を等しくできる。そのため、固定モードと拡散モードとの間における遷移において遅延の差が発生しないので、モード切替に起因するトルク段差の発生を抑制できるので、モータ200の制御精度を向上させることができる。
【0207】
本実施形態の電力制御方法によれば、
図6のフローチャートに示されるように、ステップS507においては、キャリア周期t
cがt
base/2である場合に、補正量K
dlyとしてゼロが設定される。なお、キャリア周期t
cがt
base/2である場合には、山及び谷の間隔はt
base/4であり、サンプリング及びデューティ指令値の演算時間よりも短い。
【0208】
そのため、制御周期ttをtbase/4として、キャリア波が山及び谷の両者のタイミングでサンプリングを開始しようとしても、制御周期ttの間においてデューティ指令値の演算が完了しない。そのため、制御周期ttを、tbase/2とする必要がある。
【0209】
このような制御周期ttにおいては、PWM信号のスイッチングタイミングが2つ存在するので、キャリア信号の増減に応じてデューティ指令値を補正すると、2つのスイッチングタイミングがそれぞれ進み及び遅れるため、所望のパルス幅から乖離してしまう。そこで、拡散モードにおいてキャリア周期tcがtbase/2となり、キャリア波が山及び谷の両者のタイミングでサンプリングを開始できない場合には、補正量Kdlyをゼロとして算出することで、PWM信号のパルス幅を所望の幅に近づけることができる。これにより、モータ200の制御精度を向上させることができる。
【0210】
本実施形態の電力制御方法によれば、拡散モードにおいては、5カウントのうち1カウントにおいて補正量Kdlyがゼロとなり、残りの4カウントにおいては、第1補正量K1の1.25倍であり、第1補正量K1よりも大きい第2補正量K2が用いられる。
【0211】
図10、11に示されるように、固定モードにおける回転数の増加に応じた電流の減少率は、拡散モードにおける減少特性よりも、大きい。そのため、同じ回転数N
1でモータ200を制御する状態において、拡散モードにおいて比較的大きな第2補正量K
2が用いられた場合の電流値i
1と、固定モードにおいて第1補正量K
1が用いられた場合の電流値i
1とが略等しくなる。
【0212】
そのため、固定モードと拡散モードとの間のモード変化に起因して、電流値が略変化しないので、トルク変動を抑制することができる。これにより、モータ200の制御精度を向上させることができる。
【0213】
本実施形態の電力制御方法によれば、
図3に示されるように、比較的回転数Nが小さく、かつ、比較的トルク指令値T
*が大きい場合に、拡散モードが選択される。回転数Nが小さく高負荷の場合には、インバータの動作に起因する共振により騒音が発生するおそれがある。このような場合に拡散モードが選択され、キャリア波の周期を変化させて一部のキャリア波の周期を短くして高周波数とすることで、騒音の発生を抑制することができる。
【0214】
本実施形態の電力制御装置100によれば、式(5)に示されるように、デューティ指令値Du03
*の算出に用いられる補正量Kdlyは、固定モードにおいては第1補正量K1であるとともに、拡散モードにおいては第2補正量K2またはゼロである。また、式(8)に示されるように、第2補正量K2は、第1補正量K1を1.25倍することで求められる。なお、式(7)にて示されるように、第1補正量K1には、デッドタイムtdtに起因する成分が含まれているため、いずれのモードにおいても、補正量Kdlyには、デッドタイムtdtに起因する成分が含まれている。
【0215】
図7に示されるように、デューティ指令値D
u01
*に替えてデューティ指令値D
u02
*を用いることで、デッドタイムt
dtの半値である「t
dt/2」だけPWM信号の位相が変化する。区間bのキャリア波の増加区間では位相が進み、区間cの減少区間では位相が遅れる。さらに、デューティ指令値D
u02
*に替えてデューティ指令値D
u03
*を用いることで、区間bの増加区間では、t
fwdだけスイッチングタイミングが進み。区間cの減少区間ではt
fwdだけ位相が進む。
【0216】
その結果、デューティ指令値Du01
*に替えてデューティ指令値Du03
*を用いることで、区間bの増加区間では「tdt+tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ位相が進み、区間cの減少区間では「tdly_c+tdly_s+tdly_cs」だけ位相が進む。ここで、デッドタイム付加に起因するPWM信号のパルス幅の変化は、区間bにおいて発生し、区間cにおいて発生しない。
【0217】
したがって、区間bにおいては、デューティ指令値Du03
*を用いることで、予めデッドタイムtdtだけ、位相が進んでいるので、デッドタイム付加に起因する位相の変化が抑制される。
【0218】
なお、区間cにおいては、デッドタイム付加に起因してPWM信号のパルス幅は変化しないので、デューティ指令値Du03
*を用いることにより予めデッドタイムtdtだけ位相を変化させることは行われてにない。その結果、パルス幅の変化を抑制されるので、電流のサンプリングタイミングがインバータのスイッチングタイミングから時間的に離間でき、検出値におけるPWM高調波の混入を抑制できるので、PWM電圧制御の精度の向上を図ることができる。
【0219】
本実施形態の電力制御装置100によれば、式(7)にて示されるように、第1補正量K
1は、PWM信号の伝達回路における遅延時間である伝達遅延t
dly_c、スイッチング素子の操作に起因する遅延時間である操作遅延t
dly_s、及び、センサや入力回路などにおけるサンプリングに起因する遅延時間である検出遅延t
dly_csなどに起因する成分を含む。そのため、第1補正量K
1を用いた補正によりデューティ指令値D
u03
*が算出されることで、
図7に示されるように、PWM信号の生成や、実際にモータ200が電流iに流れる際に発生するこれらの遅延を抑制することができる。その結果、検出値におけるPWM高調波の混入を抑制できるので、PWM電圧制御の精度の向上を図ることができる。
【0220】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。