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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】ビスイミドフェノール化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20220906BHJP
   C08G 73/16 20060101ALI20220906BHJP
   C08G 73/12 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C07D487/04 137
C07D487/04 CSP
C08G73/16
C08G73/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022537207
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2022009634
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021066665
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】引地 達也
(72)【発明者】
【氏名】若原 大暉
(72)【発明者】
【氏名】大西 展義
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-533324(JP,A)
【文献】特開2017-202981(JP,A)
【文献】特開2021-24827(JP,A)
【文献】BRUMA, M et al.,Ordered polyesterimides,REVUE ROUMAINE DE CHIMIE,1985年,Vol. 30, No. 3,p.239-244
【文献】KOTON, M. M et al,Synthesis and properties of new polybenzimidazole ester imides,VYSOKOMOLEKULYARNYE SOEDINENIYA. SERIYA B. KRATKIE SOOBSHCHENIYA,1975年,Vol.17, No.1,p.18-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるビスイミドフェノール化合物。
【化1】
(一般式(1)において、R及びRは、各々独立して、水素原子、水酸基又は炭素数1~10の有機基を示し、R及びRのうち2個以上は水酸基であり、nは、各々独立して、1~5の整数である。)
【請求項2】
及びRのうち、それぞれ1個以上は水酸基である、
請求項1に記載のビスイミドフェノール化合物。
【請求項3】
下記一般式(2)で表されるビスイミドフェニルエステル酸二無水物。
【化2】
(一般式(2)において、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~10の有機基を示し、mは、各々独立して、1~4の整数であり、Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示す。)
【請求項4】
下記一般式(3)で表される構成単位を有する、ポリアミック酸。
【化3】
(一般式(3)において、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~10の有機基を示し、mは、各々独立して、1~4の整数であり、Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示し、Bは、各々独立して、2価の芳香族基又は2価の脂肪族基を示す。)
【請求項5】
酸二無水物に由来する構成単位の総量に対して、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位の含有量が、10モル%~100モル%である、
請求項4に記載のポリアミック酸。
【請求項6】
下記一般式(4)で表される構成単位を有する、
ポリイミド。
【化4】
(一般式(4)において、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~10の有機基を示し、mは、各々独立して、1~4の整数であり、Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示し、Bは、各々独立して、2価の芳香族基又は2価の脂肪族基を示す。)
【請求項7】
酸二無水物に由来する構成単位の総量に対して、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位の含有量が、10モル%~100モル%である、
請求項6に記載のポリイミド。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のビスイミドフェノール化合物、請求項3に記載のビスイミドフェニルエステル酸二無水物、請求項4又は5に記載のポリアミック酸、又は、請求項6又は7に記載のポリイミドを含む、
樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビスイミドフェノール化合物、及び、それから誘導されるビスイミドフェニルエステル酸二無水物、ポリアミック酸、及びポリイミド、並びに、これらを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、耐熱性に加え、機械物性、耐薬品性、難燃性、電気特性等の点において優れた特性を有しているために、成形材料、複合材料、電気・電子部品等の分野において幅広く用いられている。
【0003】
近年、電気自動車の航続距離を延ばすために主機モータの小型軽量化及び高電圧化が進展している。主機モータでは導体表面を絶縁被膜でコートした巻線が用いられており、主機モータに電流を流すとこの巻線間や巻線とコアの間などで電位差が生じる。主機モータの高電圧化に伴って、この電位差により部分放電が生じやすくなる。このような部分放電が生じると絶縁被膜を損傷し、その損傷が進行すると絶縁破壊が生じる。
【0004】
このような部分放電を防ぐために絶縁樹脂の厚さを厚くすることが考えられる。しかしながら、絶縁被膜が厚くなると、その分、導体の体積割合が小さくなる。そうすると、主機モータの体格を大きくする必要がでてきたり、電気抵抗が大きくなったりするため、小型化及び高出力化に反する結果となる。
【0005】
そこで、特許文献1には、部分放電による侵食の抑制を目的として、絶縁被膜に無機フィラーを一定量含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-128995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は部分放電が発生したときに侵食されにくくするものであるため、いずれは部分放電によって絶縁樹脂が侵食されて絶縁破壊が生じる。そのため、主機モータの小型軽量化及び高電圧化に伴う部分放電に対する根本的な解決策として、部分放電を発生させないような低誘電率な絶縁被膜材料の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、低誘電率を有する新規なビスイミドフェノール化合物、及び、それから誘導されるビスイミドフェニルエステル酸二無水物、ポリアミック酸、及びポリイミド、並びに、これらを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した。その結果、所定の構造を有する新規なビスイミドフェノール化合物ポリイミドを用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
下記一般式(1)で表される、ビスイミドフェノール化合物。
【化1】
(一般式(1)において、R及びRは、各々独立して、水素原子、水酸基又は炭素数1~10の有機基を示し、R及びRのうち2個以上は水酸基であり、nは、各々独立して、1~5の整数である。)
〔2〕
及びRのうち、それぞれ1個以上は水酸基である、
〔1〕に記載のビスイミドフェノール化合物。
〔3〕
下記一般式(2)で表されるビスイミドフェニルエステル酸二無水物。
【化2】
(一般式(2)において、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~10の有機基を示し、mは、各々独立して、1~4の整数であり、Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示す。)
〔4〕
下記一般式(3)で表される構成単位を有する、ポリアミック酸。
【化3】
(一般式(3)において、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~10の有機基を示し、mは、各々独立して、1~4の整数であり、Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示し、Bは、各々独立して、2価の芳香族基又は2価の脂肪族基を示す。)
〔5〕
酸二無水物に由来する構成単位の総量に対して、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位の含有量が、10モル%~100モル%である、
〔4〕に記載のポリアミック酸。
〔6〕
下記一般式(4)で表される構成単位を有する、ポリイミド。
【化4】
(一般式(4)において、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~10の有機基を示し、mは、各々独立して、1~4の整数であり、Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示し、Bは、各々独立して、2価の芳香族基又は2価の脂肪族基を示す。)
〔7〕
酸二無水物に由来する構成単位の総量に対して、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位の含有量が、10モル%~100モル%である、
〔6〕に記載のポリイミド。
〔8〕
〔1〕又は〔2〕に記載のビスイミドフェノール化合物、〔3〕に記載のビスイミドフェニルエステル酸二無水物、〔4〕又は〔5〕に記載のポリアミック酸、又は、〔6〕又は〔7〕に記載のポリイミドを含む、
樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低誘電率を有する新規なビスイミドフェノール化合物、及び、それから誘導されるビスイミドフェニルエステル酸二無水物、ポリアミック酸、及びポリイミド、並びに、これらを含む樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
1.ビスイミドフェノール化合物
本実施形態のビスイミドフェノール化合物は、下記一般式(1)で表される。
【化5】
(一般式(1)において、R及びRは、各々独立して、水素原子、水酸基又は炭素数1~10の有機基を示し、R及びRのうち2個以上は水酸基であり、nは、各々独立して、1~5の整数である。)
【0014】
及びRのうち2個以上は水酸基であり、Rが2個以上の水酸基であってもよいし、Rが2個以上の水酸基であってもよいし、R及びRのそれぞれが1個以上の水酸基であってもよい。このなかでも、R及びRがそれぞれ1個以上は水酸基であることが好ましく、R及びRがそれぞれ1個の水酸基を有することがより好ましい。このようにR及びRがそれぞれ1個以上は水酸基を有することにより、ビスイミドフェノール化合物を用いて得られるポリアミック酸又はポリイミドは、上記ビスイミドフェノール骨格を主鎖に含む構造を有するものとなり、誘電率がより低下する傾向にある。
【0015】
一般式(1)中、R及びRにより示される炭素数1~10の有機基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基;メチルフェニル基等のアラルキル基;ビニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルケニル基が挙げられる。このなかでも、アルキル基、シクロアルキル基が好ましい。有機基の炭素数は、1~10であり、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4である。
【0016】
一般式(1)中、nは、それぞれのベンゼン環に対するR及びRの置換数を示し、1~5であり、好ましくは1~3であり、より好ましくは1~2である。
【0017】
本実施形態のビスイミドフェノール化合物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)に対して、o-,m-,又はp-アミノフェノールを反応させる方法などが挙げられる。
【0018】
2.ビスイミドフェニルエステル酸二無水物
本実施形態のビスイミドフェニルエステル酸二無水物は、下記一般式(2)で表される。
【化6】
(一般式(2)において、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~10の有機基を示し、mは、各々独立して、1~4の整数であり、Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示す。)
【0019】
一般式(2)中、R及びRにより示される炭素数1~10の有機基としては、特に限定されないが、例えば、R及びRにおいて例示したものと同様のものが挙げられる。また、mは、それぞれのベンゼン環に対するR及びRの置換数を示し、1~4であり、好ましくは1~3であり、より好ましくは1~2である。
【0020】
Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示し、好ましくは芳香環である。このような構造を有することにより、耐熱性がより向上する傾向にある。なお、芳香環は3価のベンゼン環であり、脂環は3価のシクロヘキシル環ともいえる。
【0021】
ビスイミドフェニルエステル酸二無水物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上記ビスイミドフェノール化合物に対して、無水トリメリット酸クロリドや核水添無水トリメリット酸クロリドを反応させる方法などが挙げられる。
【0022】
3.ポリアミック酸
本実施形態のポリアミック酸は、下記一般式(3)で表される構成単位を有し、必要に応じて、他の構成単位を有していてもよい。
【化7】
(一般式(3)において、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~10の有機基を示し、mは、各々独立して、1~4の整数であり、Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示し、Bは、各々独立して、2価の芳香族基又は2価の脂肪族基を示す。)
【0023】
一般式(3)中、R及びRにより示される炭素数1~10の有機基としては、特に限定されないが、例えば、R及びRにおいて例示したものと同様のものが挙げられる。また、一般式(3)中、mは、それぞれのベンゼン環に対するR及びRの置換数を示し、1~4であり、好ましくは1~3であり、より好ましくは1~2である。
【0024】
Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示し、芳香環又は脂環を示し、好ましくは芳香環である。このような構造を有することにより、耐熱性がより向上する傾向にある。なお、芳香環は3価のベンゼン環であり、脂環は3価のシクロヘキシル環ともいえる。
【0025】
Bは、各々独立して、2価の芳香族基又は2価の脂肪族基を示す。このような2価の芳香族基としては、特に限定されないが、例えば、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、4,4’-ビフェニレン、5-クロロ-1,3-フェニレン、5-メトキシ-1,3-フェニレン等の2価の単環式芳香族基;1,4-ナフチレン、2,6-ナフチレン、1,4-アントリレン、9,10-アントリレン、3,4-ペリレニレン等の2価の縮合多環式芳香族基;2,2-プロピリデンビス(1,4-フェニレン)、2,2-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロピリデン)ビス(1,4-フェニレン)、カルボニルビス(1,4-フェニレン)、オキシビス(1,4-フェニレン)、スルホニルビス(1,4-フェニレン)、9,9-フルオレニリデンビス(1,4-フェニレン)等のフェニル、ビフェニル等の単環式芳香族基が酸素原子、カルボニル基、エステル基、メチレン、エチリデン、1-メチルエチリデン、1,1-プロピリデン、1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、シクロヘキシリデン、フェニルメチレン、ナフチルメチレン、1-フェニルエチリデン、等の連結基により相互に連結された2価の非縮合多環式芳香族基等が挙げられる。上記芳香族基はメチル基やエチル基等の置換基を有していてもよい。
【0026】
また、2価の脂肪族基としては、特に限定されないが、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチルレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基、ドデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基等の2価の直鎖脂肪族基;イソプロピレン基、イソブチレン基、ターシャリーブチレン基、ネオペンチレン基、2-ヘキシレン基、2-オクチレン基、2-デシレン基、2-ドデシレン基、2-ヘキサデシレン基、2-オクタデシレン基等の2価の分岐脂肪族基;シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロオクチレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロヘキサデシレン基、シクロオクタデシレン基等の2価の環状脂肪族基等が挙げられる。
【0027】
本実施形態のポリアミック酸は、一般式(3)で表されるアミック酸のホモポリマーであってもよいし、酸二無水物に由来する構成単位として、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位以外のその他の構成単位を有するコポリマーであってもよい。この場合、本実施形態のポリアミック酸は、一般式(3)で表されるアミック酸の構成単位と、他のアミック酸の構成単位のブロックコポリマーであってよいし、ランダムコポリマーであってもよい。
【0028】
なお、本実施形態のポリアミック酸において、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位とは、一般式(3)からジアミンに由来する構成単位(-NH-B-)を除いた下記一般式(3’)で表される構成単位をいうものとする。
【化8】
【0029】
本実施形態のポリアミック酸において、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位の含有量は、酸二無水物に由来する構成単位の総量に対して、好ましくは10~100モル%であり、より好ましくは30~100モル%であり、さらに好ましくは50~100モル%であり、よりさらに好ましくは70~100モル%であり、さらにより好ましくは80~100モル%であり、特に好ましくは90~100モル%である。ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位の含有量が上記範囲内であることにより、誘電率がより低下する傾向にある。
【0030】
また、一般式(3)で表される構成単位以外の構成単位を構成するその他の酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、2,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、9,9-ビス(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン二無水物、9,9-ビス(4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0031】
本実施形態のポリアミック酸の重量平均分子量は、好ましくは3000~150000であり、より好ましくは3500~100000であり、さらに好ましくは3500~75000である。
【0032】
本実施形態のポリアミック酸の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上記ビスイミドフェニルエステル酸二無水物とジアミンとを重縮合する方法が挙げられる。この際、必要に応じて上記その他の酸二無水物を併用してもよい。また、ジアミンも1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、ジアミンとしては、上記Bにおける2価の芳香族基又は2価の脂肪族基を有するジアミンが挙げられる。このようなジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ナフチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、2,4-ジアミノクロロベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-[4-(4-アミノフェノキシフェニル)][4-(3-アミノフェノキシフェニル)]プロパン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-[4-(4-アミノフェノキシフェニル)][4-(3-アミノフェノキシフェニル)]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等が挙げられる。
【0034】
ジアミンと酸二無水物との重縮合は、有機溶媒中で実施することができる。当該重縮合に用いる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、N,N-ジエチルメトキシアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ピリジン、ピコリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチル尿素等を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0035】
4.ポリイミド
本実施形態のポリイミドは、下記一般式(4)で表される構成単位を有する。
【化9】
(一般式(4)において、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~10の有機基を示し、mは、各々独立して、1~4の整数であり、Aは、各々独立して、芳香環又は脂環を示し、Bは、各々独立して、2価の芳香族基又は2価の脂肪族基を示す。)
【0036】
一般式(4)中、R及びRにより示される炭素数1~10の有機基としては、特に限定されないが、例えば、R及びRにおいて例示したものと同様のものが挙げられる。また、式(4)中、mは、それぞれのベンゼン環に対するR及びRの置換数を示し、1~4であり、好ましくは1~3であり、より好ましくは1~2である。
【0037】
さらに、一般式(4)中、A及びBとしては、特に限定されないが、例えば、一般式(3)において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0038】
本実施形態のポリイミドは、一般式(4)で表されるポリイミドのホモポリマーであってもよいし、酸二無水物に由来する構成単位として、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位以外のその他の構成単位を有するコポリマーであってもよい。この場合、本実施形態のポリイミドは、一般式(4)で表されるポリイミドの構成単位と、他のポリイミドの構成単位のブロックコポリマーであってよいし、ランダムコポリマーであってもよい。
【0039】
なお、本実施形態のポリイミドにおいて、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位とは、一般式(4)からジアミンに由来する構成単位(-N-B-)を除いた下記一般式(4’)で表される構成単位をいうものとする。
【化10】
【0040】
本実施形態のポリイミドにおいて、ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位の含有量は、酸二無水物に由来する構成単位の総量に対して、好ましくは10~100モル%であり、より好ましくは30~100モル%であり、さらに好ましくは50~100モル%であり、よりさらに好ましくは70~100モル%であり、さらにより好ましくは80~100モル%であり、特に好ましくは90~100モル%である。ビスイミドフェニルエステル酸二無水物に由来する構成単位の含有量が上記範囲内であることにより、誘電率がより低下する傾向にある。
【0041】
本実施形態のポリイミドの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上記ポリアミック酸を脱水閉環してイミド化する方法が挙げられる。
【0042】
イミド化としては、例えば、加熱イミド化法または化学イミド化法が挙げられる。加熱イミド化法としては、例えば、ポリアミック酸溶液をガラス、金属等の表面平滑な基板上に流延後、加熱して脱水閉環する方法(a)、あるいは、ポリアミック酸溶液をそのまま加熱して脱水閉環する方法(b)が挙げられる。これらの方法におけるポリアミック酸溶液の溶媒としては、例えば、ポリアミック酸の製造に使用されるものと同様の有機溶媒を挙げることができる。
【0043】
加熱イミド化法(a)では、ポリアミック酸溶液を基板上に流延して形成された薄膜を、常圧下または減圧下で加熱することにより、フィルム状のポリイミドを得ることができる。この場合の脱水閉環のための加熱温度は、通常、100~400℃、好ましくは150~350℃であり、反応中徐々に温度を上げることが好ましい。
【0044】
また、加熱イミド化法(b)では、ポリアミック酸溶液を加熱することにより、ポリイミドが粉末ないし溶液として得られる。この場合の脱水閉環のための加熱温度は、通常、80~300℃、好ましくは100~250℃である。
【0045】
加熱イミド化法(b)に際しては、副生する水の除去を容易とするため、水と共沸し、特に反応系外で水と容易に分離しうる成分、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素を脱水剤として存在させることもできる。さらに、加熱イミド化法(b)に際しては、脱水閉環を促進するため、第三級アミン、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-i-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン等の脂肪族第三級アミン類;N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の芳香族第三級アミン類;ピリジン、キノリン、イソキノリン等の複素環式第三級アミン類等の触媒を用いてもよい。
【0046】
化学イミド化法としては、例えば、ポリアミック酸を脱水環化させる閉環剤を用い、溶液状態でポリイミド化する方法(c)が挙げられる。これにより、ポリイミドは粉末あるいは溶液として得られる。
【0047】
この方法で使用される溶媒としても、例えば、ポリアミック酸の製造に使用されるものと同様の有機溶媒を挙げることができる。また、化学イミド化法(c)に使用される閉環剤としては、特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸の如き酸無水物等を挙げることができる。これらの閉環剤は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0048】
化学イミド化法(c)における反応温度は、通常、0~200℃である。なお化学イミド化法においても、加熱イミド化法の場合と同様に第三級アミンを触媒として使用することができる。
【0049】
加熱イミド化法または化学イミド化法によりポリイミドが粉末として得られた場合は、ろ過、噴霧乾燥、水蒸気蒸留等の適宜の方法により、ポリイミド粉末を媒体から分離回収することができる。本実施形態のポリイミドのイミド化率は、50%以上、好ましくは90%以上である。
【0050】
5.樹脂組成物
本実施形態の樹脂組成物は、上記ビスイミドフェノール化合物、上記ビスイミドフェニルエステル酸二無水物、上記ポリアミック酸、又は、上記ポリイミドを含み、必要に応じて、その他の樹脂や無機充填剤等を含んでいてもよい。
【0051】
本実施形態の樹脂成形物は、低い誘電率を有するため、ハイブリッド車や電気自動車などの駆動用モータ、発電機、補機モータなどに使用される電線の被覆材として好適に用いることができる。また、その他、高周波用及び/又は高電圧用電線の保護膜、あるいは回路基板用の絶縁膜としても好適に用いることができる。
【実施例
【0052】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
〔NMR測定〕
1H-NMRは、テトラメチルシランを内部標準として含む重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6;重水素化率D99.9%,0.05vol%TMS)に、測定サンプルを溶解し、1H-NMR測定を行った。NMR装置はBRUKERCorporation製ASCEND TM 500を利用した。
【0054】
〔誘電率〕
空洞共振器摂動法(Agilent 8722ES,アジレントテクノロジー株式会社製)にて、実施例10~15、比較例1で得られたポリイミドフィルムの10GHzの誘電率を3回実施し、その平均値を求めた。
【0055】
〔重量平均分子量〕
下記測定条件により、実施例10~15で得られたポリアミック酸のポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量を測定した。
(測定条件)
装置 :CBM-20A、SIL-10ADvp、LC-10ADvp、DGU-12A、SPD-10Avp、CTO-10Avp、RID-10A、FRC-10A(いずれも株式会社島津製作所製)
カラム :Shodex GPC K-804
カラム温度 :50℃
移動相 :N-メチルピロリドン(LiBr(30mM),HPO(30mM))
移動相流量 :0.7mL/分
分子量標準物質:ポリメチルメタクリレート(Shodex M-75)
【0056】
〔実施例1〕
窒素フローしながら500mL三口フラスコに1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下、「HPMDA」と略す)44.8g、о-アミノフェノール48.0g、酢酸300mLを加え110℃で6時間撹拌と還流を行い、常温まで放冷した。2LのHOの入った3Lビーカーに反応液を注ぎ込むと白色沈殿が生成した。その後、生成した白色沈殿を桐山漏斗用濾紙5Cで水洗・濾過を十分に行った。濾物を回収し、100℃で真空乾燥を終夜行うことで白色粉末61.97g(収率76.2%)を得た。以下に得られた化合物の構造式と1H-NMRの結果を示す。
【0057】
【化11】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6):
δ9.72(s,2H)、δ7.28~7.24(m,2H)、δ7.10(br、2H)、δ6.95~6.93(d,2H)、δ6.88~6.87(t,2H)、δ3.26~3.20(m,4H)、δ2.28(s,2H)、δ1.87~1.73(br,2H)
【0058】
〔実施例2〕
窒素フローしながら500mL三口フラスコにHPMDA44.8g、m-アミノフェノール48.0g、酢酸300mLを加え110℃で6時間撹拌と還流を行い、常温まで放冷した。2LのHOの入った3Lビーカーに反応液を注ぎ込むと白色沈殿が生成した。その後、生成した白色沈殿を桐山漏斗用濾紙5Cで水洗・濾過を十分に行った。濾物を回収し、100℃で真空乾燥を終夜行うことで白色粉末72.2g(収率88.0%)を得た。以下に得られた化合物の構造式と1H-NMRの結果を示す。
【0059】
【化12】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6):
δ9.69(s,2H)、δ7.26~7.22(t,2H)、δ6.80~6.78(m,2H)、δ6.68~6.65(m,4H)、δ3.18~3.15(m,4H)、δ2.36~2.23(m,2H)、δ1.95~1.88(m,2H)
【0060】
〔実施例3〕
窒素フローしながら500mL三口フラスコにHPMDA44.8g、p-アミノフェノール48.0g、酢酸300mLを加え110℃で6時間撹拌と還流を行い、常温まで放冷した。2LのHOの入った3Lビーカーに反応液を注ぎ込むと白色沈殿が生成した。その後、生成した白色沈殿を桐山漏斗用濾紙5Cで水洗・濾過を十分に行った。濾物を回収し、100℃で真空乾燥を終夜行うことで白色粉末76.8g(収率94.5%)を得た。以下に得られた化合物の構造式と1H-NMRの結果を示す。
【0061】
【化13】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6):
δ9.70(s,2H)、δ7.01~6.99(m,4H)、δ6.81~6.79(m,4H)、δ3.18(m,4H)、δ2.37~2.36(m,2H)、
δ1.95~1.88(m,2H)
【0062】
〔実施例4〕
窒素フローしながら300mL三口フラスコに実施例1で得られたビスイミドフェノール15.0g、安定剤不含超脱水THF60mL、ピリジン9.0gを加え、30分間撹拌した(容器A)。窒素フローしながら100mLナスフラスコに無水トリメリット酸クロリド17.6g、安定剤不含超脱水THF20mLを溶解させた(容器B)。容器Aを氷浴しながら容器B中の溶液をゆっくりと滴下した。氷浴で2時間撹拌後、室温で22時間反応を行うことで白色沈殿を生成した。三口フラスコ中から白色沈殿を取り出し、桐山ロート用濾紙5Cで十分に水洗し過剰量のピリジンとピリジン塩酸塩を除去した。十分に水洗した後に60℃で真空乾燥を行った。真空乾燥後の白色粉末を無水酢酸100mL、90℃中で2時間撹拌を行うことで閉環処理をした。その後、無水酢酸溶液中にトルエンを添加しエバポレーターで溶媒を留去することで白色粉末を得た。得られた白色粉末全量をアセトニトリル100mL、100℃中で1時間撹拌し熱時濾過を行った。濾物をジエチルエーテルで置換し、100℃で真空乾燥することで白色粉末15.8g(収率56.7%)を得た。以下に得られた化合物の構造式と1H-NMRの結果を示す。
【0063】
【化14】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6):
δ8.58~8.39(m,4H)、δ8.26~8.09(m,2H)、δ7.62~7.32(m,8H)、δ3.11~3.04(m,4H)、δ2.22~1.37(m,4H)
【0064】
〔実施例5〕
窒素フローしながら300mL三口フラスコに実施例2で得られたビスイミドフェノール15.0g、安定剤不含超脱水THF40mL、ピリジン9.0gを加え、30分間撹拌した(容器A)。窒素フローしながら100mLナスフラスコに無水トリメリット酸クロリド17.6g、安定剤不含超脱水THF20mLを溶解させた(容器B)。容器Aを氷浴しながら容器B中の溶液をゆっくりと滴下した。氷浴で2時間撹拌後、室温で22時間反応を行うことで白色沈殿を生成した。三口フラスコ中から白色沈殿を取り出し、桐山ロート用濾紙5Cで十分に水洗し過剰量のピリジンとピリジン塩酸塩を除去した。十分に水洗した後に60℃で真空乾燥を行った。真空乾燥後の白色粉末を無水酢酸100mL、90℃中で2時間撹拌を行うことで閉環処理をした。その後、無水酢酸溶液中にトルエンを添加しエバポレーターで溶媒を留去することで白色粉末を得た。得られた白色粉末全量をアセトニトリル100mL,100℃中で1時間撹拌し熱時濾過を行った。濾物をジエチルエーテルで置換し、100℃で真空乾燥することで白色粉末8.4g(収率30.0%)を得た。以下に得られた化合物の構造式と1H-NMRの結果を示す。
【0065】
【化15】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6):
δ8.63~8.59(m,4H)、δ8.29~8.27(m,2H)、δ7.60~7.58(m,2H)、δ7.46~7.45(m,2H)、δ7.31~7.24(m,4H)、δ3.27~3.23(m,4H)、δ2.42~2.26(m,2H)、δ2.03~1.99(m,2H)
【0066】
〔実施例6〕
窒素フローしながら300mL三口フラスコに実施例3で得られたビスイミドフェノール15.0g、安定剤不含超脱水THF40mL、ピリジン9.0gを加え、30分間撹拌した(容器A)。窒素フローしながら100mLナスフラスコに無水トリメリット酸クロリド17.6g、安定剤不含超脱水THF20mLを溶解させた(容器B)。容器Aを氷浴しながら容器B中の溶液をゆっくりと滴下した。氷浴で2時間撹拌後、室温で22時間反応を行うことで白色沈殿を生成した。三口フラスコ中から白色沈殿を取り出し、桐山ロート用濾紙5Cで十分に水洗し過剰量のピリジンとピリジン塩酸塩を除去した。十分に水洗した後に60℃で真空乾燥を行った。真空乾燥後の白色粉末を無水酢酸100mL、90℃中で2時間撹拌を行うことで閉環処理をした。その後、無水酢酸溶液中にトルエンを添加しエバポレーターで溶媒を留去することで白色粉末を得た。得られた白色粉末全量をアセトニトリル100mL、100℃中で1時間撹拌し熱時濾過を行った。濾物をジエチルエーテルで置換し、100℃で真空乾燥することで白色粉末13.7g(収率49.3%)を得た。以下に得られた化合物の構造式と1H-NMRの結果を示す。
【0067】
【化16】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6):
δ8.64~8.59(m,4H)、δ8.28~8.27(m,2H)、δ7.49~7.47(m,4H)、δ7.38~7.36(m,4H)、δ3.28~3.26(m,4H)、δ2.34~2.04(m,4H)
【0068】
〔実施例7〕
窒素フローしながら300mL三口フラスコに実施例1で得られたビスイミドフェノール15.0g、安定剤不含超脱水THF40mL、ピリジン9.0gを加え、30分間撹拌した(容器A)。窒素フローしながら100mLナスフラスコに核水添無水トリメリット酸クロリド18.1g、安定剤不含超脱水THF30mLを溶解させた(容器B)。容器Aを氷浴しながら容器B中の溶液をゆっくりと滴下した。氷浴で2時間撹拌後、室温で22時間反応を行ことで白色沈殿を生成した。三口フラスコ中から白色固体を取り出し、桐山ロート用濾紙5Cで十分に水洗し過剰量のピリジンとピリジン塩酸塩を除去した。十分に水洗した後に60℃で真空乾燥を行った。真空乾燥後の白色粉末を無水酢酸50mL、90℃中で2時間撹拌を行うことで閉環処理をした。無水酢酸溶液を90℃に保持した状態で1,4-ジオキサン100mLを添加することで白色沈殿が生成した。生成した白色沈殿を桐山ロート用濾紙5Cで濾過し、ジエチルエーテルで十分に洗浄し、80℃で真空乾燥することで白色粉末1.37g(収率4.84%)を得た。以下に得られた化合物の構造式と1H-NMRの結果を示す。
【0069】
【化17】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6):
δ7.53~7.49(m,2H)、δ7.40~7.24(m,6H)、δ3.55~3.53(m,2H)、δ3.28~3.25(m,6H)、δ2.70~2.67(m,2H)、δ2.41~2.22(m,4H)、δ2.17~2.14(m,2H)、δ2.07~2.01(m,2H)、δ1.92~1.72(br,4H)、δ1.67~1.59(m,2H)、δ1.40~1.38(m,2H)
【0070】
〔実施例8〕
窒素フローしながら300mL三口フラスコに実施例2で得られたビスイミドフェノール15.0g、安定剤不含超脱水THF40mL、ピリジン9.0gを加え、30分間撹拌した(容器A)。窒素フローしながら100mLナスフラスコに核水添無水トリメリット酸クロリド18.1g、安定剤不含超脱水THF30mLを溶解させた(容器B)。容器Aを氷浴しながら容器B中の溶液をゆっくりと滴下した。氷浴で2時間撹拌後、室温で22時間反応を行ことで白色沈殿を生成した。三口フラスコ中から白色固体を取り出し、桐山ロート用濾紙5Cで十分に水洗し過剰量のピリジンとピリジン塩酸塩を除去した。十分に水洗した後に60℃で真空乾燥を行った。真空乾燥後の白色粉末を無水酢酸100mL、90℃中で2時間撹拌を行うことで閉環処理をした。無水酢酸溶液を常温まで放冷した後、ジエチルエーテル500mLの入った1Lビーカー中に撹拌しながら滴下することで白色沈殿が生成した。生成した白色沈殿を桐山ロート用濾紙5Cで濾過し、ジエチルエーテルで十分に洗浄し、80℃で真空乾燥することで白色粉末13.0g(収率46.0%)を得た。以下に得られた化合物の構造式と1H-NMRの結果を示す。
【0071】
【化18】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6):δ7.51~7.49(m,2H)、δ7.21~7.14(m,4H)、δ7.07~(m,2H)、δ3.58~3.54(m,1H)、δ3.38~3.34(m,4H)、δ3.25~3.19(m,4H)、δ2.79~2.75(m,1H)、δ2.42~1.47(m,16H)
【0072】
〔実施例9〕
窒素フローしながら300mL三口フラスコに実施例3で得られたビスイミドフェノール15.0g、安定剤不含超脱水THF40mL、ピリジン9.0gを加え、30分間撹拌した(容器A)。窒素フローしながら100mLナスフラスコに核水添無水トリメリット酸クロリド18.1g、安定剤不含超脱水THF30mLを溶解させた(容器B)。容器Aを氷浴しながら容器B中の溶液をゆっくりと滴下した。氷浴で2時間撹拌後、室温で22時間反応を行ことで白色沈殿を生成した。三口フラスコ中から白色固体を取り出し、桐山ロート用濾紙5Cで十分に水洗し過剰量のピリジンとピリジン塩酸塩を除去した。十分に水洗した後に60℃で真空乾燥を行った。真空乾燥後の白色粉末を無水酢酸100mL、90℃中で2時間撹拌を行うことで閉環処理をした。無水酢酸溶液を常温まで放冷した後、ジエチルエーテル500mLの入った1Lビーカー中に撹拌しながら滴下することで白色沈殿が生成した。生成した白色沈殿を桐山ロート用濾紙5Cで濾過し、ジエチルエーテルで十分に洗浄し、80℃で真空乾燥することで白色粉末14.2g(収率50.0%)を得た。以下に得られた化合物の構造式と1H-NMRの結果を示す。
【0073】
【化19】
1H-NMR(500MHz,DMSO-d6):
δ7.29~7.26(m,4H)、δ7.24~7.21(m,4H)、δ3.58~3.54(m,2H)、δ3.40~3.34(m,2H)、δ3.23~3.21(m,4H)、δ2.81~2.77(m,2H)、δ2.37~2.36(m,2H)、δ2.30~2.27(m,2H)、δ2.09~2.07(m,2H)、δ2.06~1.99(m,4H)、δ1.85~1.70(m,4H)、δ1.52~1.49(m,2H)
【0074】
〔実施例10〕
窒素フローしながら300mLセパラブルフラスコに4,4’-ジアミノジフェニルエーテル (以下、「ODA」と略す)1.0gとモレキュラーシーブス4Åで十分に脱水したN-メチルピロリドン(以下、「NMP」と略す)11.1gを入れて溶解した。この溶液を氷浴しながら実施例4で得られた酸二無水物3.8gを加え初期の全溶質濃度30重量%より重合反応を開始した。メカニカルスターラーで150rpmにて1時間撹拌後、アルミブロックバスにて50℃に加温し23時間反応させることでポリアミック酸を得た。得られたポリアミック酸の重量平均分子量は39,071であった。得られたポリアミック酸溶液を基材に塗布し、100℃で1時間乾燥後、200℃で1時間、250℃で30分間加熱し基材から剥離することでポリイミドフィルムを得た。このポリイミドの10GHzにおける誘電率は2.71であった。
【0075】
〔実施例11〕
窒素フローしながら300mLセパラブルフラスコにODA 1.0gとモレキュラーシーブス4Åで十分に脱水したNMP11.1gを入れて溶解した。この溶液を氷浴しながら実施例5で得られた酸二無水物3.8gを加え初期の全溶質濃度30重量%より重合反応を開始した。メカニカルスターラーで150rpmにて24時間撹拌しポリアミック酸を得た。得られたポリアミック酸の重量平均分子量は22,291であった。得られたポリアミック酸溶液を基材に塗布し、100℃で1時間乾燥後、200℃で1時間、250℃で30分間加熱し基材から剥離することでポリイミドフィルムを得た。このポリイミドの10GHzにおける誘電率は2.62であった。
【0076】
〔実施例12〕
窒素フローしながら300mLセパラブルフラスコにODA1.0gとモレキュラーシーブス4Åで十分に脱水したNMP11.1gを入れて溶解した。この溶液を氷浴しながら実施例6で得られた酸二無水物3.8gを加え初期の全溶質濃度30重量%より重合反応を開始した。重合開始から4時間後にNMP8.0gを加えた。その後、メカニカルスターラーで200rpmにて20時間撹拌しポリアミック酸を得た。得られたポリアミック酸の重量平均分子量は67,403であった。得られたポリアミック酸溶液を基材に塗布し、100℃で1時間乾燥後、200℃で1時間、250℃で30分間加熱し基材から剥離することでポリイミドフィルムを得た。このポリイミドの10GHzにおける誘電率は2.69であった。
【0077】
〔実施例13〕
窒素フローしながら300mLセパラブルフラスコにODA0.26gとモレキュラーシーブス4Åで十分に脱水したNMP2.94gを入れて溶解した。この溶液を氷浴しながら実施例7で得られた酸二無水物1.00gを加え初期の全溶質濃度30重量%より重合反応を開始した。メカニカルスターラーで150rpmにて48時間撹拌しポリアミック酸を得た。得られたポリアミック酸の重量平均分子量は23,312であった。得られたポリアミック酸溶液を基材に塗布し、100℃で1時間乾燥後、200℃で1時間、250℃で30分間加熱し基材から剥離することでポリイミドフィルムを得た。このポリイミドの10GHzにおける誘電率は2.57であった。
【0078】
〔実施例14〕
窒素フローしながら300mLセパラブルフラスコにODA 1.0gとモレキュラーシーブス4Åで十分に脱水したNMP11.3gを入れて溶解した。この溶液を氷浴しながら実施例8で得られた酸二無水物3.8gを加え初期の全溶質濃度30重量%より重合反応を開始した。メカニカルスターラーで150rpmにて48時間撹拌しポリアミック酸を得た。得られたポリアミック酸の重量平均分子量は3,765であった。得られたポリアミック酸溶液を基材に塗布し、100℃で1時間乾燥後、200℃で1時間、250℃で30分間加熱し基材から剥離することでポリイミドフィルムを得た。このポリイミドの10GHzにおける誘電率は2.70であった。
【0079】
〔実施例15〕
窒素フローしながら300mLセパラブルフラスコにODA1.0gとモレキュラーシーブス4Åで十分に脱水したNMP11.3gを入れて溶解した。この溶液を氷浴しながら実施例9で得られた酸二無水物3.8gを加え初期の全溶質濃度30重量%より重合反応を開始した。メカニカルスターラーで150rpmにて48時間撹拌しポリアミック酸を得た。得られたポリアミック酸の重量平均分子量は13,877であった。得られたポリアミック酸溶液を基材に塗布し、100℃で1時間乾燥後、200℃で1時間、250℃で30分間加熱し基材から剥離することでポリイミドフィルムを得た。このポリイミドの10GHzにおける誘電率は2.68であった。
【0080】
〔比較例1〕
比較例1にはカプトン(登録商標、東レ・デュポン株式会社製)を用いた。このポリイミドは10GHzにおける誘電率が2.87であった。
【表1】
【0081】
さらに、耐熱評価として実施例10及び12のガラス転移温度を測定したところ、実施例10のポリイミドのガラス転移温度は265℃であり、実施例12のポリイミドのガラス転移温度は260℃であり、十分な耐熱性を有することも確認できた。
【0082】
なお、ガラス転移温度は、株式会社日立ハイテクサイエンス製、高感度示差走査熱量計DSC7020を用いて測定した。具体的には、窒素雰囲気下、30℃から昇温速度10℃/分で350℃まで昇温し、そこから降温速度20℃/分で30℃まで降温した。さらに繰り返し30℃から昇温速度10℃/分で350℃まで昇温し、2回目のサイクルの変曲点からポリイミドのガラス転移温度を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、新規なビスイミドフェノール化合物、及び、それから誘導されるビスイミドフェニルエステル酸二無水物、ポリアミック酸、及びポリイミドは、ハイブリッド車や電気自動車などの主機モータ、発電機、補機モータなどに使用される電線の被覆材、あるいは、その他高周波用及び/又は高電圧用電線の保護膜として産業上の利用可能性を有する。
【要約】
下記一般式(1)で表されるビスイミドフェノール化合物。
【化1】
(一般式(1)において、R及びRは、各々独立して、水素原子、水酸基又は炭素数1~10の有機基を示し、R及びRのうち2個以上は水酸基であり、nは、各々独立して、1~5の整数である。)