(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】転舵制御装置及び転舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20220906BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220906BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220906BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20220906BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20220906BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2022540506
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2022005617
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2021063430
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【氏名又は名称】尾林 章
(72)【発明者】
【氏名】北爪 徹也
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-58240(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104568(WO,A1)
【文献】特開2019-104476(JP,A)
【文献】特開2019-127185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
B62D 6/00-6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵操作部に作用する操作に基づいて、転舵機構に操舵補助力を付与するアクチュエータに対する電流指令値を演算する指令値演算部と、
前記転舵機構の転舵位置を検出する位置検出部と、
前記位置検出部が検出した前記転舵位置に基づいて前記転舵機構の終端位置を学習する終端位置学習部と、
前記位置検出部が検出した転舵位置が、前記終端位置学習部が学習した前記終端位置の近傍にある場合に、前記指令値演算部が演算した前記電流指令値を補正する指令値補正部と、
前記学習した終端位置と所定位置との比較結果、及び前記学習した終端位置から演算された前記転舵機構のストローク長と所定長との比較結果に基づいて、前記指令値補正部による前記電流指令値の補正量を制限する補正量制限部と、
を備えることを特徴とする転舵制御装置。
【請求項2】
前記補正量制限部は、前記学習した終端位置が前記所定位置よりも前記転舵機構の中立位置に近く且つ演算された前記ストローク長が前記所定長以下である場合の前記補正量の制限値の大きさを、前記学習した終端位置が前記所定位置よりも前記転舵機構の中立位置から遠く且つ演算された前記ストローク長が前記所定長以下である場合の前記制限値の大きさよりも小さくすることを特徴とする請求項1に記載の転舵制御装置。
【請求項3】
前記補正量制限部は、前記学習した終端位置が前記所定位置よりも前記転舵機構の中立位置から遠く且つ演算された前記ストローク長が前記所定長以下である場合の前記補正量の制限値の大きさを、演算された前記ストローク長が前記所定長より長い場合の前記制限値の大きさよりも小さくすることを特徴とする請求項1又は2に記載の転舵制御装置。
【請求項4】
前記終端位置学習部は、
前記転舵機構に加わる回転力が第1所定値以下である時に前記位置検出部が検出した前記転舵位置のうち前記転舵機構の中立位置から最も離れた転舵位置を記憶する第1記憶部と、
前記位置検出部が検出した前記転舵位置を前記転舵機構の中立方向へ第2所定値だけずらした位置のうち前記中立位置から最も離れた転舵位置を記憶する第2記憶部と、
前記第1記憶部及び前記第2記憶部に記憶された転舵位置のうちより前記中立位置から遠い方を、前記終端位置学習部が記憶する前記終端位置として記憶する第3記憶部と、
を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の転舵制御装置。
【請求項5】
前記終端位置学習部は、
前記第3記憶部に記憶されている前記転舵機構の左右の終端位置のうち一方の終端位置よりも前記中立位置から離れた前記転舵位置を前記位置検出部が検出した場合に、前記位置検出部によって検出された前記転舵位置と、前記第3記憶部に記憶されている左右の終端位置のうち他方の終端位置と、に基づいて前記転舵機構のストロークを算出するストローク算出部と、
前記ストローク算出部が算出した前記ストロークが閾値を超えている場合に、前記ストロークが前記閾値を超えた超過分に基づいて、前記位置検出部により検出された転舵位置を補正する転舵位置補正部と、
前記ストローク算出部が算出した前記ストロークが前記閾値を超えている場合に、前記一方の終端位置と前記他方の終端位置とが所定間隔離れるように第1記憶部、前記第2記憶部及び前記第3記憶部に記憶される前記他方の終端位置を補正する終端位置補正部と、
を備えることを特徴とする請求項4に記載の転舵制御装置。
【請求項6】
前記終端位置学習部は、前記回転力が前記第1所定値以下であり且つ前記車両の操舵操作部に作用する操作力が第3所定値以下の時に前記位置検出部が検出した前記転舵位置のうち前記転舵機構の中立位置から最も離れた転舵位置を前記第1記憶部に記憶する、ことを特徴とする請求項4又は5に記載の転舵制御装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の転舵制御装置と、前記転舵制御装置により駆動制御されて前記車両の操向輪を転舵するアクチュエータと、を備えることを特徴とする転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵制御装置及び転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の転舵機構において転舵角が増加して機械的な最大舵角に至ると、転舵機構のラック軸がストローク端に達してそれ以上は転舵角を増加できなくなる。このようにラック軸がストローク端に達した状態となることを「端当て」と称する。また、ラック軸のストローク端を「ラックエンド」と表記することがある。
高い転舵速度で端当てが起こると、大きな衝撃や打音(異音)が発生して運転者が不快に感じるおそれがある。特許文献1には、操舵角の絶対値の最大値をラックエンド位置として学習し、センサで検出した操舵角が学習したラックエンド位置の近傍にある場合に操舵角の増大を抑制して、端当て時の衝撃を緩和する技術が記載されている。
以下、センサで検出した操舵角に基づいて学習した仮想的なラックエンド位置を「仮想ラックエンド位置」と表記し、物理的な実際のラックエンド位置を「実ラックエンド位置」と表記することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、仮想ラックエンド位置として適切な位置(例えば、実ラックエンド位置に十分に近い位置)を学習する前に、端当て時の衝撃緩和のために操舵角の増大を抑制すると、その時点の仮想ラックエンド位置の学習値を超えて操舵することが難しくなり、仮想ラックエンド位置の学習が妨げられる。
一方で、適切な仮想ラックエンド位置を学習するまで端当て時の衝撃緩和を過度に制限すると、端当てにより大きな衝撃が発生して操舵機構に損傷が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、端当てによる操舵機構の損傷を抑制しつつ仮想ラックエンド位置を学習することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による転舵制御装置は、車両の操舵操作部に作用する操作に基づいて、転舵機構に操舵補助力を付与するアクチュエータに対する電流指令値を演算する指令値演算部と、転舵機構の転舵位置を検出する位置検出部と、位置検出部が検出した転舵位置に基づいて転舵機構の終端位置を学習する終端位置学習部と、位置検出部が検出した転舵位置が、終端位置学習部が学習した終端位置の近傍にある場合に、指令値演算部が演算した電流指令値を補正する指令値補正部と、学習した終端位置と所定位置との比較結果、及び学習した終端位置から演算された転舵機構のストローク長と所定長との比較結果に基づいて、指令値補正部による電流指令値の補正量を制限する補正量制限部と、を備える。
【0007】
また、本発明の他の一態様による転舵装置は、上記の転舵制御装置と、転舵制御装置により駆動制御されて車両の操向輪を転舵するアクチュエータと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、端当てによる大きな衝撃や打音(異音)の発生を抑制しつつ仮想ラックエンド位置を学習できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
【
図2】
図1に示すコントローラの機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】衝撃緩和制御を実施する操舵角の範囲の一例の説明図である。
【
図4】衝撃緩和制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】(a)はばね定数テーブルの特性例を示す特性図であり、(b)は粘性定数テーブルの特性例を示す特性図である。
【
図6】終端位置学習部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】(a)は操舵角の変化に伴うコラム出力軸トルクの変化の例の説明図であり、(b)は(a)のコラム出力軸トルクが生じた時の終端位置の学習値の例の説明図である。
【
図8】(a)は実ラックエンド位置の概念図であり、(b)は仮想ラックエンド位置の学習開始前の状態の概念図であり、(c)は右側の仮想ラックエンド位置を学習した状態の概念図であり、(d)は左側の仮想ラックエンド位置を学習した状態の概念図であり、(e)は仮想ラックエンドの学習を完了したとみなした状態の概念図であり、(f)は実ラックエンド近傍まで仮想ラックエンドの学習を続けた状態の概念図である。
【
図9】(a)は実ラックエンド位置の概念図であり、(b)は
図8(f)と同じ状態を示す概念図であり、(c)はオフセット誤差が発生した直後の状態の概念図であり、(d)は左側の仮想ラックエンド位置の学習位置を更新した状態の概念図であり、(e)は操舵角センサが検出した操舵角の補正と右側の仮想ラックエンド位置の学習値のリセットの概念図であり、(f)は更に左側の仮想ラックエンド位置の学習位置を更新した状態の概念図であり、(g)は仮想ラックエンドの学習を完了したとみなした状態の概念図であり、(h)は更に左側の仮想ラックエンド位置の学習位置を更新した状態の概念図である。
【
図10】
図8(b)~(f)及び
図9(b)~(h)の状態における制限値の例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(構成)
図1は、実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。ステアリングホイール(操向ハンドル)1のコラム軸(操舵軸)2i及び2oは、減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、インターミディエイトシャフト4、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向輪8L、8Rに連結されている。
【0012】
コラム入力軸2iとコラム出力軸2oとは、コラム入力軸2iとコラム出力軸2oとの間の回転角のずれによって捩れるトーションバー(図示せず)によって連結されている。
インターミディエイトシャフト4は、軸部材4cと、軸部材の両端に取り付けられたユニバーサルジョイント4a及び4bを有する。ユニバーサルジョイント4aはコラム出力軸2oに連結され、ユニバーサルジョイント4bはピニオンラック機構5に連結される。
【0013】
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。
操舵軸2(コラム軸2i及び2o)には操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、操舵軸2(コラム軸2i及び2o)には、ステアリングホイール1の操舵角θhを検出する操舵角センサ14が設けられている。
【0014】
また、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム出力軸2oに連結されている。電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置を制御するコントローラ30には、バッテリ13から電力が供給されるとともに、イグニション(IGN)キー11を経てイグニションキー信号が入力される。
なお、操舵補助力を付与する手段は、モータに限られず、様々な種類のアクチュエータを利用可能である。
【0015】
コントローラ30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された操舵角θhに基づいてアシスト制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。
なお、操舵角センサ14は必須のものではなく、モータ20の回転軸の回転角度を検出する回転角センサから得られる回転角度に、トルクセンサ10のトーションバーの捩れ角を加えて操舵角θhを算出してもよい。
【0016】
コントローラ30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明するコントローラ30の機能は、例えばコントローラ30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0017】
なお、コントローラ30を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラ30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントローラ30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0018】
図2は、実施形態のコントローラ30の機能構成の一例を示すブロック図である。コントローラ30は、基本指令値演算部40と、加算器41と、減算器42と、電流制御部43と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部44と、インバータ(INV)45と、終端位置学習部46と、制御回転変位設定部47と、微分部48と、衝撃緩和制御部49と、電流検出器50と、学習状態判定部51と、衝撃緩和制御出力制限部52を備える。
基本指令値演算部40は、トルクセンサ10からの操舵トルクThと車速センサ12からの車速Vhと基づいて、モータ20の駆動電流の制御目標値である基本電流指令値Iref1を演算する。
本実施形態では、右操舵方向にモータ20の操舵補助力を発生させる基本電流指令値Iref1の値を正値と定義し、左操舵方向に操舵補助力を発生させる基本電流指令値Iref1の値を負値と定義する。
【0019】
加算器41は、衝撃緩和制御出力制限部52から出力される衝撃緩和制御出力Iref2’を基本電流指令値Iref1に加算することにより基本電流指令値Iref1を補正し、補正後の基本電流指令値Iref1を電流指令値Iref3として出力する。
衝撃緩和制御出力制限部52は、衝撃緩和制御部49から出力される衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を、学習状態判定部51から出力される制限値0、Limit1又はLimit2で制限し、衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を、制限値0、(-Limit1)又は(-Limit2)で制限することによって衝撃緩和制御出力Iref2’を設定する。
【0020】
衝撃緩和制御部49は、操舵角θhがラックエンド位置に近づいた場合に、操舵角θhの増加を抑制することにより端当てによる衝撃や打音(異音)を緩和する。衝撃緩和制御部49が端当てによる衝撃や異音を緩和する制御を「衝撃緩和制御」と表記することがある。
衝撃緩和制御部49は、端当てによる衝撃や打音を緩和するために操舵角θhの増加を抑制する電流指令値を衝撃緩和制御出力Iref2として出力する。右操舵時における衝撃緩和制御出力Iref2は負の値を持ち、正の基本電流指令値Iref1の大きさを減少させる。一方で、左操舵時における衝撃緩和制御出力Iref2は正の値を持ち、負の基本電流指令値Iref1の大きさを減少させる。例えば衝撃緩和制御部49は、操舵反力を発生させる電流指令値を出力してよい。
【0021】
衝撃緩和制御出力制限部52は、左操舵時における衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を、学習状態判定部51から出力される制限値0又は正の制限値Limit1、Limit2に制限し、右操舵時における衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を制限値0又は負の制限値(-Limit1)、(-Limit2)に制限する。
衝撃緩和制御部49、学習状態判定部51の詳細は後述する。
【0022】
加算器41が演算した電流指令値Iref3は減算器42に入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの偏差(Iref3-Im)が演算される。その偏差(Iref3-Im)は、PI制御等の電流制御部43で制御され、電流制御された電圧制御値VrefがPWM制御部44に入力されてデューティを演算され、PWM信号でインバータ45を介してモータ20をPWM駆動する。モータ20のモータ電流値Imは電流検出器50で検出され、減算器42に入力されてフィードバックされる。
加算器41及び衝撃緩和制御部49は、特許請求の範囲に記載の「指令値補正部」の一例であり、学習状態判定部51及び衝撃緩和制御出力制限部52は、特許請求の範囲に記載の「補正量制限部」の一例である。
【0023】
終端位置学習部46は、操舵角センサ14が検出した操舵角θhに基づいて、転舵機構の終端位置である仮想ラックエンド位置θevr及びθevlを学習する。θevrは、右操舵時の仮想ラックエンド位置であり正の値を有する。θevlは、左操舵時の仮想ラックエンド位置であり負の値を有する。
さらに、左右の実ラックエンド位置の中央位置(以下「ラック中立位置」と表記することがある)と、操舵角センサ14で検出したコラム軸の操舵角θhの中立位置(以下「操舵角中立位置」と表記することがある)との間に誤差が発生することがある。このような誤差を、以下「オフセット誤差」と表記することがある。
オフセット誤差は、例えばインターミディエイトシャフト4の誤組付け等の理由により発生する。終端位置学習部46は、オフセット誤差Ofsを推定し、操舵角センサ14が検出した操舵角θhからオフセット誤差Ofsを減算して補正した補正操舵角θh1を出力する。終端位置学習部46の詳細は後述する。
【0024】
制御回転変位設定部47は、補正操舵角θh1がラックエンド位置に近づいて、衝撃緩和制御が実施される範囲(以下「衝撃緩和制御実施範囲」と表記することがある)内にあるときに、補正操舵角θh1が仮想ラックエンド位置θevr及びθevlにどれくらい近いかを示す制御回転変位θrを設定する。
図3を参照する。右操舵の場合(すなわち補正操舵角θh1が正値の場合)には、閾値θthR<θh1となる範囲が衝撃緩和制御実施範囲であり、左操舵の場合(すなわち補正操舵角θh1が負の場合)には、閾値θthL>θh1となる範囲が衝撃緩和制御実施範囲である。
【0025】
閾値θthR及びθthLは、それぞれ仮想ラックエンド位置θevr及びθevlに基づいて設定される。例えば、右操舵の閾値θthRは、仮想ラックエンド位置θevrから正の所定値Δθを減算した値(θevr-Δθ)であってよく、左操舵の閾値θthLは、仮想ラックエンド位置θevlに所定値Δθを加算した値(θevl+Δθ)であってよい。
【0026】
制御回転変位θrは、例えば衝撃緩和制御実施範囲外(すなわちθthL≦θh1≦θthR)ではゼロ(「0」)に設定され、右操舵の衝撃緩和制御実施範囲内では、補正操舵角θh1から閾値θthRを減じた差(θh1-θthR)が大きくなるほど、より大きな制御回転変位θrが設定される。一方で、左操舵の衝撃緩和制御実施範囲内では、補正操舵角θh1から閾値θthLを減じた差(θh1-θthL)が小さくなるほど(すなわち絶対値|θh1-θthL|がより大きくなるほど)、より小さな負の制御回転変位θr(絶対値|θr|はより大きくなる)が設定されてよい。
【0027】
言い換えれば、補正操舵角θh1が閾値θthRより大きい範囲では、補正操舵角θh1の増大に応じて正の制御回転変位θrが増大し、補正操舵角θh1が閾値θthLより小さい範囲では補正操舵角θh1の減少に応じて負の制御回転変位θrが減少する。
例えば、制御回転変位設定部47は、補正操舵角θh1が閾値θthRよりも大きい場合に差分θh1-θthRを制御回転変位θrに設定し、補正操舵角θh1が閾値θthLよりも小さい場合に差分θh1-θthLを制御回転変位θrに設定してよい。
【0028】
図2を参照する。微分部48は、操舵角センサ14が検出した操舵角θhを微分して、操舵角速度ωを算出する。
衝撃緩和制御部49は、制御回転変位θrと操舵角速度ωとに基づいて衝撃緩和制御出力Iref2を設定する。
図4は、衝撃緩和制御部49の機能構成の一例を示すブロック図である。衝撃緩和制御部49は、ばね定数テーブル60と、乗算器61及び63と、粘性定数テーブル62と、加算器64と、反転器65と、リミッタ66を備える。
【0029】
ばね定数テーブル60は操舵系のバネ定数k0を算出するデータテーブルである。バネ定数k0は、
図5(a)に示すように制御回転変位θrが増加するのに応じて変化領域の中央部で比較的急峻に増加(非線形増加)する特性を有している。なお、制御回転変位θrが負値の場合の特性は、バネ定数k0軸(縦軸)を対称軸とした線対称な特性である。
また、粘性定数テーブル62は操舵系の粘性定数μを算出するデータテーブルである。粘性定数μは、
図5(b)に示すように制御回転変位θrが増加するのに応じて全体的に比較的緩やかに漸増(非線形増加)する特性を有している。なお、制御回転変位θrが負値の場合の特性は、粘性定数μ軸(縦軸)を対称軸とした線対称な特性である。
【0030】
ばね定数テーブル60からのバネ定数k0は乗算器61で制御回転変位θrと乗算されて乗算結果(k0×θr)が加算器64に入力される。また、粘性定数テーブル62からの粘性定数μは乗算器63で操舵角速度ωと乗算されて乗算結果(μ×ω)が加算器64に入力される。加算器64の加算結果(=k0×θr+μ×ω)は、反転器65及びリミッタ66に入力され、符号が反転されて最大値を制限された衝撃緩和制御出力Iref2が設定される。
【0031】
なお、
図4の衝撃緩和制御部49の構成はあくまでも例示であり、本発明は上述の構成に限定されるものではない。衝撃緩和制御部49は、補正操舵角θh1がラックエンド位置に近づいた場合に、操舵角θhの増加を抑制する衝撃緩和制御出力Iref2を出力できる構成を有していれば足りる。
【0032】
次に、終端位置学習部46の詳細を説明する。終端位置学習部46は、転舵機構に加わる回転力が第1所定値以下である時に操舵角センサ14が検出した操舵角θhのうち操舵角中立位置から最も離れた操舵角(正の操舵角θhの場合には最大操舵角、負の操舵角θhの場合には最小転舵角)を、仮想ラックエンドの第1候補θm1として求める。
例えば、コラム出力軸2oに印加されているコラム出力軸トルクTcが所定値T1以下の場合に仮想ラックエンドの第1候補θm1を求めてもよい。
終端位置学習部46は、転舵機構に加わる回転力が第1所定値以下であり、且つ操舵操作部に作用する操作力が第3所定値以下の時に操舵角センサ14が検出した操舵角θhのうち操舵角中立位置から最も離れた操舵角を、仮想ラックエンドの第1候補θm1として求めてもよい。
例えば、コラム出力軸トルクTcが所定値T1以下且つ操舵トルクThが所定値T2以下の場合に第1候補θm1を求めてもよい。
【0033】
また、終端位置学習部46は、操舵角センサ14が検出した操舵角θhを、操舵角中立位置の方向へ第2所定値だけずらした角度のうち操舵角中立位置から最も離れた操舵角(すなわち、正の操舵角θhの場合には最大操舵角から第2所定値を減じた角度、負の操舵角θhの場合には最小転舵角に第2所定値を加えた角度)を、仮想ラックエンドの第2候補θm2として求める。第2所定値として、例えば誤差として考えられる最大値を設定してよい。
【0034】
終端位置学習部46は、第1候補θm1及び第2候補θm2のうち操舵角中立位置から最も離れた操舵角を、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlとして求める。
これにより、トルクにより発生する捩れなどの影響を低減することができ、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlと実ラックエンド位置との誤差を小さくすることができる。
【0035】
図6は、終端位置学習部46の機能構成の一例を示すブロック図である。終端位置学習部46は、出力軸トルク算出部70と、選択部71と、第1記憶部72と、遅延部73及び77と、レートリミッタ74と、補正位置算出部75と、第2記憶部76と、第3記憶部78と、リミッタ79と、ストローク算出部80と、オフセット誤差算出部81と、減算器82と、終端位置補正部83を備える。
【0036】
出力軸トルク算出部70は、コラム出力軸2oに印加されているコラム出力軸トルクTcを算出する。
例えば出力軸トルク算出部70は、モータ20の電流指令値Iref3や電流検出器50で検出したモータ電流値Imにモータトルク定数及び減速ギア3の減速比を乗算して推定したモータトルクをコラム出力軸トルクTcとして算出してよい。
例えば、出力軸トルク算出部70は、モータ20の電流指令値Iref3にモータトルク定数及び減速ギア3の減速比を乗算して推定したモータトルクと、トルクセンサ10で検出した操舵トルクThとの和をコラム出力軸トルクTcとして算出してよい。
【0037】
また例えば、出力軸トルク算出部70は、電流検出器50で検出したモータ電流値Imにモータトルク定数及び減速ギア3の減速比を乗算して推定したモータトルクと、トルクセンサ10で検出した操舵トルクThとの和をコラム出力軸トルクTcとして算出してよい。
また、出力軸トルク算出部70は、モータ20の角度センサの検出値を2階微分してモータ角加速度を求め、慣性モーメントを乗算することで慣性トルクを推定し、上述のように求めたコラム出力軸トルクTcに慣性トルクを追加してもよい。
コラム出力軸トルクTcは、「転舵機構に加わる回転力」の一例である。操舵トルクThは、「車両の操舵操作部に作用する操作力」の一例である。
【0038】
減算器82は、操舵角センサ14が検出した操舵角θhから、オフセット誤差算出部81が算出したオフセット誤差Ofsを減算して補正操舵角θh1を算出する。オフセット誤差算出部81によるオフセット誤差Ofsの算出については後述する。
選択部71は、コラム出力軸トルクTcと操舵トルクThの値に応じて、補正操舵角θh1及び遅延部73の出力のうち一方を選択して第1記憶部72に出力する。遅延部73は、第1記憶部72に記憶されて出力される仮想ラックエンドの第1候補θm1を遅延させて出力している。
例えば選択部71は、コラム出力軸トルクTcが所定値T1以下且つ操舵トルクThが所定値T2以下の場合に検出した操舵角θhから算出された補正操舵角θh1を選択して第1記憶部72に出力し、それ以外の場合に遅延部73の出力を第1記憶部72に出力してもよい。
【0039】
第1記憶部72は、遅延部73の出力と補正操舵角θh1のうち、操舵角中立位置から離れている方を、仮想ラックエンドの第1候補θm1として記憶する。
これにより、コラム出力軸トルクTcが所定値T1以下且つ操舵トルクThが所定値T2以下の場合に算出された補正操舵角θh1が、それまで第1記憶部72に記憶されている第1候補θm1よりも操舵角中立位置から離れていれば、補正操舵角θh1で第1記憶部72に記憶される第1候補θm1を更新する。
なお選択部71は、コラム出力軸トルクTcが所定値T1以下の場合に補正操舵角θh1を選択して第1記憶部72に出力し、それ以外の場合に遅延部73の出力を第1記憶部72に出力してもよい。
レートリミッタ74は、第1記憶部72から出力される第1候補θm1と第3記憶部から出力される操舵角θoを入力する。レートリミッタ74は、遅延部(図示せず)により遅延された操舵角θoに対して第1候補θm1の変化率を制限し、変化率を制限された後の第1候補θm1’を第3記憶部78に出力する。
【0040】
補正位置算出部75は、補正操舵角θh1を、操舵角中立位置の方向へ第2所定値だけずらした角度を算出する。すなわち、補正操舵角θh1が正の場合には補正操舵角θh1から第2所定値を減じた角度を出力する。補正操舵角θh1が負の場合には補正操舵角θh1から第2所定値を加えた角度を出力する。
第2記憶部76は、補正位置算出部75の出力と遅延部77の出力のうち、操舵角中立位置から離れている方を、仮想ラックエンドの第2候補θm2として記憶する。遅延部77は、第2記憶部76に記憶されて出力される仮想ラックエンドの第2候補θm2を遅延させて出力している。
【0041】
これにより、補正位置算出部75の出力(すなわち、補正操舵角θh1を操舵角中立位置の方向へ第2所定値だけずらした角度)が、それまで第2記憶部76に記憶されている第2候補θm2よりも操舵角中立位置から離れていれば、補正位置算出部75の出力で、第2記憶部76に記憶される第2候補θm2を更新する。
第3記憶部78は、レートリミッタ74により変化率を制限された第1候補θm1’と第2候補θm2のうち、操舵角中立位置から離れた操舵角θoを記憶して出力する。
リミッタ79は、第3記憶部78から出力された操舵角θoの大きさを制限して、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlとして出力する。
【0042】
図7(a)及び
図7(b)を参照して、本実施形態による仮想ラックエンドの学習例を説明する。説明の簡単のため、オフセット誤差Ofsを0(すなわち、操舵角θh=補正操舵角θh1)とし、コラム出力軸トルクTcが所定値T1以下の場合に検出した操舵角θhが、それまで第1記憶部72に記憶されている第1候補θm1よりも操舵角中立位置から離れていれば、第1候補θm1を更新する場合について述べる。
【0043】
図7(a)は、操舵角θhの変化に伴うコラム出力軸トルクTcの変化の例の説明図である。図中の矢印は操舵方向を示している。
切り増し操舵の際には、操舵角θhがθ1を超えたときにコラム出力軸トルクTcが所定値T1を超え、その後の切り戻し操舵の際には、操舵角θhがθ2より小さくなったとき(θ2>θ1)にコラム出力軸トルクTcが所定値T1より小さくなっている。
図7(b)は
図7(a)のコラム出力軸トルクTcが生じた時の右操舵の仮想ラックエンドの学習値の例の説明図である。破線が操舵角θhを示し、一点鎖線が第1候補θm1を示し、二点鎖線が第2候補θm2を示し、実線が第3記憶部78からの出力θo(リミッタ79による制限前の仮想ラックエンド位置θevr及びθevl)を示す。なお、一点鎖線および二点鎖線を他の線と重ならないようにずらして表示している。
【0044】
時刻t1において操舵角θhが増大して切り増し操舵が開始すると、コラム出力軸トルクTcが所定値T1以下である間(すなわち操舵角θhがθ1以下である間)は、操舵角θh(破線)を第1候補θm1(一点鎖線)として学習する。切り増し操舵中、第1候補θm1(一点鎖線)はθ1まで増加する。
また、操舵角θhよりも第2所定値だけ減じた角度を第2候補θm2(二点鎖線)として学習する。
【0045】
このため、レートリミッタ74により変化率を制限された第1候補θm1’が第2候補θm2(二点鎖線)よりも大きい間(時刻t1~時刻t2)は、第1候補θm1’が第3記憶部78の出力θo(実線)として選択され、時刻t2において第2候補θm2が第1候補θm1’を超えると、第2候補θm2が出力θo(実線)として選択される。
【0046】
その後、時刻t3において操舵角θhの増加が止まって一定値となると、第2候補θm2(二点鎖線)の増加も止まる。このため、その後はレートリミッタ74により変化率を制限された第1候補θm1’が第3記憶部78の出力θo(実線)として選択される。
上記の通り、第1候補θm1(一点鎖線)はθ1まで増加するので、第3記憶部78の出力θo(実線)は、第1候補θm1に遅れてθ1まで増加する。時刻t4にてθ1まで至ると、出力θo(実線)は増加を停止する。
【0047】
その後に、操舵角θhの減少が始まって切り戻し操舵が開始すると、時刻t5において操舵角θhがθ2まで減少する。するとコラム出力軸トルクTcが所定値T1以下となる。このため、角度θ2を第1候補θm1(一点鎖線)として学習する。
このため、レートリミッタ74により変化率を制限された第1候補θm1’が増加を開始し、第3記憶部78の出力θo(実線)として選択される。出力θo(実線)は時刻t6にてθ2となるまで増加して、その後は一定となる。
【0048】
以上のように学習した第3記憶部78の出力θo(実線)、すなわちリミッタ79による制限前の仮想ラックエンド位置θevr及びθevlと、単に操舵角θhから第2所定値(例えば最大誤差推定値)を減じた角度を学習した場合(二点鎖線)と、を比較すると第3記憶部78の出力θoの方が、操舵角中立点からより遠い操舵角として学習することができる。このため、実ラックエンド位置により近い操舵角を仮想ラックエンド位置θevr及びθevlとして学習できる。
【0049】
次に、学習状態判定部51について説明する。
図2を参照する。学習状態判定部51は、終端位置学習部46から出力される仮想ラックエンド位置θevr及びθevlに基づいて終端位置学習部46による仮想ラックエンド位置の学習状態を判定する。
学習状態判定部51は、仮想ラックエンド位置の学習状態の判定結果に応じて、左操舵時における衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を制限する制限値として、0又は正の制限値Limit1、Limit2のいずれかを衝撃緩和制御出力制限部52に出力する。
【0050】
制限値Limit2は制限値Limit1よりも大きな値であり、例えば、端当てによる衝撃や打音(異音)を効果的に防げるように十分に大きな値に設定してよい。一方で、制限値Limit1は、ある程度の衝撃や打音(異音)を許容するが、端当てによる操舵機構の損傷を防げる値に設定してよい。
また学習状態判定部51は、仮想ラックエンド位置の学習状態の判定結果に応じて、右操舵時における衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を制限する制限値として、0又は負の制限値(-Limit1)、(-Limit2)のいずれかを衝撃緩和制御出力制限部52に出力する。
【0051】
具体的には、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlの学習開始前の初期値として、それぞれ正の初期値θint及び負の初期値(-θint)を、第1記憶部72、第2記憶部76、第3記憶部78に記憶しておく。
初期値θint及び(-θint)は、実ラックエンド位置よりも外側となることがないように(すなわち初期値θint及び(-θint)が実ラックエンド位置よりも操舵角中立点から遠くなることがないように)適宜設定してよい。例えばθint=(ラックストローク最小値-ラックエンド最大値)となるように設定してよい。
【0052】
ここで「ラックストローク最小値」は、仮想ラックエンド位置θevr、θevl間のラックストロークとして算出されうる値のばらつきの最小値(例えば製造公差の下限値)に設定してよい。
また「ラックエンド最大値」は、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlとして学習されうる値の絶対値の最大値であり、ラックエンド最大値=(ラックストローク最大値/2)+(ラック中立位置と操舵角中立位置とのオフセット誤差の推定値)となるように設定してよい。
また「ラックストローク最大値」は、仮想ラックエンド位置θevr、θevl間のラックストロークとして算出されうる値のばらつきの最大値であり、例えば製造公差の上限値に仮想ラックエンド位置θevl、θevrの学習誤差を加算した値に設定してよい。
【0053】
学習状態判定部51は、終端位置学習部46から出力される右側の仮想ラックエンド位置θevrが、所定の学習閾値θlth未満である場合に、右側の仮想ラックエンド位置θevrの学習が行われていないと判定して、衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を制限する制限値として「0」を出力する。
「学習閾値θlth」には、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlとして学習されうる値の絶対値の最小値を設定してよく、例えば学習閾値θlth=(ラックストローク最小値/2)-(ラック中立位置と操舵角中立位置とのオフセット誤差の推定値)となるように設定してよい。
【0054】
同様に、左側の仮想ラックエンド位置θevlが、負の学習閾値(-θlth)より大きい場合(すなわち絶対値|θevl|が絶対値|θlth|未満である場合)に、左側の仮想ラックエンド位置θevlの学習が行われていないと判定して、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を制限する制限値として「0」を出力する。
【0055】
学習状態判定部51は、右側の仮想ラックエンド位置θevrが、所定の学習閾値θlth以上になると、右側の仮想ラックエンド位置θevrの学習が行われたと判定して、衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を制限する制限値として「-Limit1」を出力する。
同様に、左側の仮想ラックエンド位置θevlが、負の学習閾値(-θlth)以下である場合(すなわち絶対値|θevl|が絶対値|θlth|以上である場合)に、左側の仮想ラックエンド位置θevlの学習が行われたと判定して、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を制限する制限値として「Limit1」を出力する。
【0056】
さらに、学習状態判定部51は、右側の仮想ラックエンド位置θevrと左側の仮想ラックエンド位置θevlとの間の距離をラックストロークStとして算出する。
仮想ラックエンド位置θevr及びθevlの学習値の絶対値が大きくなり、ラックストロークStが上記の「ラックストローク最小値」より長くなると、学習状態判定部51は、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlの学習が完了したと判定して、衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を制限する制限値として「-Limit2」を出力し、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を制限する制限値として「Limit2」を出力する。
【0057】
次に、仮想ラックエンド位置の学習状態の変化に応じて、学習状態判定部51が出力する制限値が変化する様子の一例を説明する。
図8(a)は実ラックエンド位置の概念図であり、
図8(b)は仮想ラックエンド位置の学習開始前の状態の概念図であり、
図8(c)は右側の仮想ラックエンド位置θevrを学習した状態の概念図であり、
図8(d)は左側の仮想ラックエンド位置θevlを学習した状態の概念図であり、
図8(e)は仮想ラックエンドθevr及びθevlの学習を完了したとみなした状態の概念図であり、
図8(f)は実ラックエンド近傍まで仮想ラックエンドの学習を続けた状態の概念図である。
また、
図10の表中の制限値Aは、
図8(b)~
図8(f)の状態において学習状態判定部51が出力する制限値を示す。
【0058】
図8(b)~
図8(f)において”0[deg]”は、操舵角中立位置を示している。後述の
図9(b)~
図9(h)においても同様である。
図8(b)~
図8(f)において、操舵角中立位置はラック中立位置(実ラックエンド位置の中央位置)に略一致している。
仮想ラックエンド位置の学習開始前の状態(
図8(b))では、終端位置学習部46から出力される右側の仮想ラックエンド位置θevrは、操舵角中立位置を基準としてθintであり、学習閾値θlthよりも小さい。
【0059】
このため、学習状態判定部51は、右側の仮想ラックエンド位置θevrの学習が行われていないと判定して、衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を制限する制限値として「0」を出力する(
図10参照)。
また、終端位置学習部46から出力される左側の仮想ラックエンド位置θevlは、操舵角中立位置を基準として(-θint)であり、学習閾値(-θlth)よりも大きい。このため、学習状態判定部51は、左側の仮想ラックエンド位置θevlの学習が行われていないと判定して、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を制限する制限値として「0」を出力する(
図10参照)。
【0060】
その後に、
図8(c)に示すように右側の仮想ラックエンド位置θevrを学習する。右側の仮想ラックエンド位置θevrが学習閾値θlth以上となるので、学習状態判定部51は、右側の仮想ラックエンド位置θevrの学習が行われたと判定して、衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を制限する制限値として「-Limit1」を出力する。一方で、左側の仮想ラックエンド位置θevlは変わらないので、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を制限する制限値として「0」を出力する(
図10参照)。
【0061】
その後に、
図8(d)に示すように左側の仮想ラックエンド位置θevlを学習する。左側の仮想ラックエンド位置θevlが負の学習閾値(-θlth)以下となるので、学習状態判定部51は、左側の仮想ラックエンド位置θevlの学習が行われたと判定する。しかし、ラックストロークStがラックストローク最小値以下であるので、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlの学習が完了したと判定しない。
このため、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を制限する制限値として「Limit1」を出力する。また、下限値を制限する制限値として「-Limit1」を出力する。
【0062】
その後に、
図8(e)に示すように右側の仮想ラックエンド位置θevrを学習することにより、ラックストロークStが、ラックストローク最小値よりも長くなる。このため学習状態判定部51は、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlの学習が完了したと判定し、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値及び下限値を制限する制限値としてそれぞれ「Limit2」、「-Limit2」を出力する。
【0063】
その後に、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlの学習が繰り返されることにより、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlは実ラックエンド位置に接近する(
図8(f)参照)。
学習状態判定部51は、ラックストロークStがラックストローク最大値を超えるまで、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値及び下限値を制限する制限値としてそれぞれ「Limit2」、「-Limit2」を出力する。
【0064】
次に、ラック中立位置と操舵角中立位置との間にオフセット誤差が発生した場合の動作について説明する。
図9(a)は、実ラックエンド位置の概念図であり、
図9(b)は、
図8(f)と同じ図でありオフセット誤差がない状態を示しており、
図9(c)はオフセット誤差が発生した直後の状態の概念図である。
図9(b)の操舵角中立位置はラック中立位置(実ラックエンド位置の中央位置)に略一致しており、
図9(c)の操舵角中立位置はラック中立位置からΔθだけ右側にずれている。すなわち、操舵角中立位置よりもΔθだけ左側へ操舵すると、ラック5bがラック中立位置となる。
【0065】
オフセット誤差が発生すると、正常に衝撃緩和制御に実施することができない。
図9(c)の例では、右側の仮想ラックエンド位置θevrが実ラックエンド位置よりも外側に位置してしまうために、必要な衝撃や異音の低減を行うことができない。
このため、終端位置学習部46は、上記のとおりラック中立位置と操舵角中立位置との間のオフセット誤差Ofsを推定し、操舵角センサ14が検出した操舵角θhからオフセット誤差Ofsを減算して補正した補正操舵角θh1を出力する。
【0066】
図6を参照する。ストローク算出部80は、ラックストロークStを算出する。オフセット誤差算出部81は、ラックストロークStを、所定のラックストローク最大値と比較する。
ラックストロークStがラックストローク最大値を超えた場合、オフセット誤差算出部81は、オフセット誤差が発生したと判定する。そして、ラックストロークStからラックストローク最大値を減算した差分を、オフセット誤差Ofs=(ラックストロークSt-ラックストローク最大値)として算出する。
【0067】
図9(d)は、オフセット誤差が発生した後に左側の仮想ラックエンド位置θevlを学習した状態の概念図である。
操舵角中立位置がラック中立位置よりも右側にずれているため、新たに左側の仮想ラックエンド位置θevlを学習したときに、仮想ラックエンド位置θevr、θevl間のラックストロークStがラックストローク最大値を超えている。オフセット誤差算出部81は、ラックストロークStからラックストローク最大値を減算した差分(ラックストロークSt-ラックストローク最大値)を、オフセット誤差Ofsとして算出する。
【0068】
以下の説明において、左右の仮想ラックエンド位置のうち、ラックストローク最大値を超えるラックストロークStが算出された時に学習した仮想ラックエンド位置を「一方の仮想ラックエンド位置」と表記することがある。また、左右の仮想ラックエンド位置のうち、一方の仮想ラックエンド位置でない方の仮想ラックエンド位置を「他方の仮想ラックエンド位置」と表記することがある。
図9(c)の例のように、操舵角中立位置がラック中立位置から右側にずれていれば、左側の仮想ラックエンド位置が一方の仮想ラックエンド位置となり、右側の仮想ラックエンド位置が他方の仮想ラックエンド位置となる。反対に、操舵角中立位置がラック中立位置から左側にずれていれば、右側の仮想ラックエンド位置が一方の仮想ラックエンド位置となり、左側の仮想ラックエンド位置が他方の仮想ラックエンド位置となる。
【0069】
図6を参照する。減算器82は、操舵角センサ14が検出した操舵角θhから、オフセット誤差算出部81が算出したオフセット誤差Ofsを減算して補正操舵角θh1を算出する。
終端位置補正部83は、第1記憶部72が記憶する第1候補θm1、第2記憶部76が記憶する第2候補θm2、第3記憶部78が記憶する操舵角θoを、オフセット誤差Ofsに応じて補正する。
図9(e)を参照して、これらの補正処理を説明する。
【0070】
減算器82が、操舵角θhからオフセット誤差Ofsを減算することにより、
図9(e)に示すように、操舵角中立位置(”0[deg]”の位置)が移動する。
一方で、
図9(d)で学習した左側の仮想ラックエンド位置θevl(すなわち、一方の仮想ラックエンド位置)は、基点となる操舵角中立位置が移動する前の学習値であるため、
図9(e)のように操舵角中立位置を移動させるとこれに伴って左側の仮想ラックエンド位置θevlを補正する必要がある。
【0071】
終端位置補正部83は、第1記憶部72に記憶されている左側の仮想ラックエンド位置の第1候補θm1をオフセット誤差Ofsで補正する。左側の仮想ラックエンド位置は負値であるため、オフセット誤差Ofsを加算して補正する。第2記憶部76及び第3記憶部78に記憶されている第2候補θm2及び操舵角θoも同様に補正する。
一方の仮想ラックエンド位置が右側の仮想ラックエンド位置である場合(すなわち正値である場合)には、オフセット誤差Ofsを減算して補正する。
【0072】
また、終端位置補正部83は、他方の仮想ラックエンド位置(
図9(e)の例では、右側の仮想ラックエンド位置θevr)を、仮想ラックエンド位置θevr、θevl間のラックストロークStが、所定のラックストローク最小値となるように補正(リセット)する。これにより、他方の仮想ラックエンド位置を実ラックエンド位置よりも内側に補正できる。
【0073】
図9(f)を参照する。更に新しい左側の仮想ラックエンド位置θevlを学習すると、オフセット誤差算出部81は、更新前後の仮想ラックエンド位置θevlの変化量Δθevlを算出する。
オフセット誤差算出部81は、新しい左側の仮想ラックエンド位置θevlを学習する前のオフセット誤差Ofsに変化量Δθevlを加えることによってオフセット誤差Ofsを更新する。これによって、操舵角中立位置を変化量Δθevlだけ更に移動する。
【0074】
終端位置補正部83は、第1記憶部72に記憶されている一方の仮想ラックエンド位置(左側の仮想ラックエンド位置)の第1候補θm1を変化量Δθevlで補正する。左側の仮想ラックエンド位置は負値であるため、変化量Δθevlを加算して補正する。第2記憶部76及び第3記憶部78に記憶されている第2候補θm2及び操舵角θoも同様に補正する。
一方の仮想ラックエンド位置が右側の仮想ラックエンド位置である場合(すなわち正値である場合)には、変化量Δθevlを減算して補正する。
また、他方の仮想ラックエンド位置(
図9(f)の例では、右側の仮想ラックエンド位置θevr)を、仮想ラックエンド位置θevr、θevl間のラックストロークStが、ラックストローク最小値となるように補正(リセット)する。
【0075】
図9(g)を参照する。新しい右側の仮想ラックエンド位置θevr(すなわち他方の仮想ラックエンド位置)を学習した場合には、オフセット誤差算出部81は、オフセット誤差Ofsを更新しない。すなわち、操舵角中立位置を移動させない。
また、終端位置補正部83も、第1記憶部72が記憶する第1候補θm1、第2記憶部76が記憶する第2候補θm2、第3記憶部78が記憶する操舵角θoを補正しない。これにより、右側の仮想ラックエンド位置θevrのみ、操舵角中立位置から遠ざかるように更新される。
【0076】
図9(h)を参照する。
図9(g)において新しい右側の仮想ラックエンド位置θevrを学習した後は、更に新しい左側の仮想ラックエンド位置θevl(すなわち一方の仮想ラックエンド位置)を学習しても、ラックストロークStが所定のラックストローク最小値となるように右側の仮想ラックエンド位置θevrを補正(リセット)しない。
図9(f)と同様に、オフセット誤差算出部81がオフセット誤差Ofsを更新し(すなわち操舵角中立位置を修正し)移動し、終端位置補正部83は、左側の仮想ラックエンド位置θevlを補正する。このとき、右側の仮想ラックエンド位置θevrは、仮想ラックエンド位置θevrにオフセット誤差Ofsを加算することで補正される。
また、更に新しい右側の仮想ラックエンド位置θevr(すなわち他方の仮想ラックエンド位置)すると、操舵角中立位置、左側の仮想ラックエンド位置θevl(すなわち一方の仮想ラックエンド位置)を変えずに、右側の仮想ラックエンド位置θevrのみ変化する。
【0077】
続いて、オフセット誤差が発生した場合の学習状態判定部51の動作について説明する。学習状態判定部51は、右側の仮想ラックエンド位置θevrと左側の仮想ラックエンド位置θevlから算出したラックストロークStがラックストローク最大値より長くなると、オフセット誤差が発生したと判定する。
オフセット誤差が発生したと判定した場合、学習状態判定部51は、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値及び下限値を制限する制限値の各々を「0」にリセットする。
【0078】
その後、上記説明と同様に、右側の仮想ラックエンド位置θevrが、所定の学習閾値θlth以上になると、衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を制限する制限値として「-Limit1」を出力する。左側の仮想ラックエンド位置θevlが、負の学習閾値(-θlth)以下になると、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を制限する制限値として「Limit1」を出力する。ラックストロークStがラックストローク最小値より長くなると、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値及び下限値を制限する制限値としてそれぞれ「Limit2」、「-Limit2」を出力する。
【0079】
図9(a)~
図9(f)及び
図10を参照して、オフセット誤差が発生した場合において学習状態判定部51が出力する制限値の一例を説明する。
図10の表中の制限値Aは、
図9(b)~
図9(h)の状態において学習状態判定部51が出力する制限値を示す。
図9(b)は
図8(f)と同じであり、オフセット誤差が発生する前の状態を示している。学習状態判定部51は、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値及び下限値を制限する制限値としてそれぞれ「Limit2」、「-Limit2」を出力する。
【0080】
その後に、インターミディエイトシャフト4の誤組付け等の理由によりオフセット誤差が発生すると
図9(c)に示す状態となる。この段階では、新たな仮想ラックエンドθevr及びθevlの学習がまだ行われていないので、学習状態判定部51が算出するラックストロークStの値は
図9(b)の状態と同じ値のままである。したがって、学習状態判定部51は、まだオフセット誤差が発生したと判定しておらず、まだ制限値を「0」にリセットしていない。このため「Limit2」、「-Limit2」を出力する。
【0081】
図9(d)において新しい左側の仮想ラックエンド位置θevlを学習すると、ラックストロークStがラックストローク最大値よりも長くなる。このため学習状態判定部51は、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値及び下限値を制限する制限値を「0」にリセットする。
また、
図9(e)のように左側の仮想ラックエンド位置θevlが負の学習閾値(-θlth)以下となるので、学習状態判定部51は、左側の仮想ラックエンド位置θevlの学習が行われたと判定し、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値を制限する制限値として「Limit1」を出力する。
【0082】
一方で、右側の仮想ラックエンド位置θevrは、仮想ラックエンド位置θevr、θevl間のラックストロークStがラックストローク最小値となるように補正(リセット)されるので、ラックストロークStがラックストローク最小値よりも長くならない。このため、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlの学習が完了したと判定されず、また、右側の仮想ラックエンド位置θevrが学習閾値θlth未満であるため、衝撃緩和制御出力Iref2の下限値を制限する制限値として「0」の出力が維持される。
図9(f)の状態も同様である。
【0083】
図9(g)を参照する。新しい右側の仮想ラックエンド位置θevr(すなわち他方の仮想ラックエンド位置)を学習し、ラックストロークStがラックストローク最小値よりも長くなると、学習状態判定部51は、仮想ラックエンド位置θevr及びθevlの学習が完了したと判定し、衝撃緩和制御出力Iref2の上限値及び下限値を制限する制限値としてそれぞれ「Limit2」、「-Limit2」を出力する。
図9(h)でも同様に衝撃緩和制御出力Iref2の上限値及び下限値を制限する制限値としてそれぞれ「Limit2」、「-Limit2」を出力する。
【0084】
以上の説明のように、本実施形態の転舵制御装置は、学習した仮想ラックエンド位置と学習閾値θlthとの比較結果、学習した仮想ラックエンド位置から演算されたラックストロークStとラックストローク最小値との比較結果に基づいて、仮想ラックエンド位置の学習程度に応じて衝撃緩和制御出力Iref2を段階的に制限できる。これにより端当てによる操舵機構の損傷を抑制しつつ仮想ラックエンド位置を学習できる。
【0085】
例えば、本実施形態の学習状態判定部51が出力する制限値(
図10の表中の制限値A)を、
図10の表中の制限値Bとを比較する。
制限値Bは、
図9(c)においてオフセット誤差が発生する前は、制限値Aと同様に学習閾値θlthとラックストロークとに基づいて仮想ラックエンド位置の学習状態を判定し、オフセット誤差の発生後はラックストロークのみで学習状態を判定した場合の例である。
【0086】
制限値Bによれば、オフセット誤差が発生する前(
図8(b)~
図8(f))の状態)では、制限値Aと同様に衝撃緩和制御出力Iref2を段階的に制限できる。オフセット誤差が発生した後(
図9(d)~
図9(h)の状態)は、ラックストロークStがラックストローク最小値を超えたか否かで、衝撃緩和制御出力Iref2を出力するか否かを制御する。
このためオフセット誤差の発生後は、仮想ラックエンド位置の学習結果から算出したラックストロークStがラックストローク最小値を超えるまで、衝撃緩和制御出力Iref2が「0」に制限される。この間は衝撃緩和制御が実施されないため、端当てにより大きな衝撃や打音(異音)が発生したり操舵機構に損傷が生じるおそれがある。
【0087】
さらに、
図10の表中の制限値Cは、ラックストロークのみで学習状態を判定した場合の例である。
制限値Cで衝撃緩和制御出力Iref2を制限する場合には、オフセット誤差が発生する前(
図8(b)~
図8(f)の状態)もオフセット誤差が発生した後(
図9(d)~
図9(h)の状態)も、ラックストロークStがラックストローク最小値を超えたか否かで、衝撃緩和制御出力Iref2を出力するか否かを制御する。
このため、仮想ラックエンド位置の学習結果から算出したラックストロークStがラックストローク最小値を超えるまで、衝撃緩和制御出力Iref2が「0」に制限される。この間は衝撃緩和制御が実施されないため、端当てにより大きな衝撃や打音(異音)が発生したり操舵機構に損傷が生じるおそれがある。
【0088】
以上、本発明の転舵制御装置を電動パワーステアリング装置に適用する実施形態を説明したが、本発明の転舵制御装置は、車両の操向輪を転舵する力をアクチュエータで発生させる転舵制御装置であれば、電動パワーステアリング装置以外の転舵制御装置にも広く適用できる。例えば、ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ(SBW:Steer-By-Wire)式の操舵装置に適用してもよい。この場合には、コラム出力軸トルクTcを算出する際にモータトルクに操舵トルクThを加算しなくてもよい。
【0089】
また、学習閾値を複数設定してもよい。例えば、二つの学習閾値θlth1及びθlth2(θlth1<θlth2)を設定し、仮想ラックエンド位置との比較結果に応じた制限値「Limit11」及び「Limit12」(Limit11<Limit12<Limit2)を設定してよい。このようにすることで、衝撃緩和制御出力Iref2’の変化を少なくすることができる。
【0090】
(実施形態の効果)
(1)車両の操舵操作部に作用する操作に基づいて、転舵機構に操舵補助力を付与するモータ20に対する電流指令値を演算する基本指令値演算部40と、転舵機構の転舵位置を検出する操舵角センサ14と、操舵角センサ14が検出した転舵位置に基づいて転舵機構の終端位置を学習する終端位置学習部46と、操舵角センサ14が検出した転舵位置が、終端位置学習部が学習した終端位置の近傍にある場合に、指令値演算部が演算した電流指令値を補正する衝撃緩和制御部49及び加算器41と、学習した終端位置と所定位置との比較結果、及び学習した終端位置から演算された転舵機構のストローク長と所定長との比較結果に基づいて、衝撃緩和制御部49による電流指令値の補正量を制限する学習状態判定部51、衝撃緩和制御出力制限部52とを備える。
【0091】
これにより、学習した終端位置と所定位置との比較結果、学習した終端位置から演算されたストローク長と所定長との比較結果に基づいて、終端位置の学習程度に応じて衝撃緩和制御部49による電流指令値の補正量を段階的に制限できる。これにより端当てによる操舵機構の損傷を抑制しつつ仮想ラックエンド位置を学習できる。
【0092】
(2)学習状態判定部51、衝撃緩和制御出力制限部52は、学習した終端位置が所定位置よりも転舵機構の中立位置に近く且つ演算されたストローク長が所定長以下である場合の補正量の制限値の大きさを、学習した終端位置が所定位置よりも転舵機構の中立位置から遠く且つ演算されたストローク長が所定長以下である場合の制限値の大きさよりも小さくしてよい。これにより、終端位置の学習程度に応じて衝撃緩和制御部49による電流指令値の補正量を段階的に制限できる。
【0093】
(3)学習状態判定部51、衝撃緩和制御出力制限部52は、学習した終端位置が所定位置よりも転舵機構の中立位置から遠く且つ演算されたストローク長が所定長以下である場合の補正量の制限値の大きさを、演算されたストローク長が所定長より長い場合の制限値の大きさよりも小さくしてよい。これにより、終端位置の学習程度に応じて衝撃緩和制御部49による電流指令値の補正量を段階的に制限できる。
【0094】
(4)終端位置学習部46は、転舵機構に加わる回転力が第1所定値以下である時に位置検出部が検出した転舵位置のうち転舵機構の中立位置から最も離れた転舵位置を記憶する第1記憶部72と、位置検出部が検出した転舵位置を転舵機構の中立方向へ第2所定値だけずらした位置のうち中立位置から最も離れた転舵位置を記憶する第2記憶部76と、第1記憶部72及び第2記憶部76に記憶された転舵位置のうちより中立位置から遠い方を、終端位置学習部46が記憶する終端位置として記憶する第3記憶部78と、を備えてもよい。
これにより、転舵機構に加わる回転力による操舵機構の捩れの影響の少ない仮想ラックエンド位置を学習できる。このため、仮想ラックエンド位置と実ラックエンド位置の誤差を低減できる。
【0095】
(5)終端位置学習部46は、第3記憶部78に記憶されている転舵機構の左右の終端位置のうち一方の終端位置よりも中立位置から離れた転舵位置を位置検出部が検出した場合に、位置検出部によって検出された転舵位置と、第3記憶部78に記憶されている左右の終端位置のうち他方の終端位置と、に基づいて転舵機構のラックストロークStを算出するストローク算出部80と、ストローク算出部80が算出したラックストロークStが閾値を超えている場合に、ラックストロークStが閾値を超えた超過分に基づいて、位置検出部により検出された転舵位置を補正する減算器82と、ストローク算出部80が算出したラックストロークStが閾値を超えている場合に、一方の終端位置と他方の終端位置とが所定間隔離れるように第1記憶部72、第2記憶部76及び第3記憶部78に記憶される他方の終端位置を補正する終端位置補正部と83と、を備えてもよい。
これにより、ラック中立位置と操舵角中立位置との間のオフセット誤差があっても、オフセット誤差を吸収し、仮想ラックエンド位置を学習した後は、車両の状態に適した衝撃緩和制御を実施できる。
【0096】
(6)終端位置学習部46は、転舵機構に加わる回転力が第1所定値以下であり且つ車両の操舵操作部に作用する操作力が第3所定値以下の時に、位置検出部が検出した転舵位置のうち転舵機構の中立位置から最も離れた転舵位置を第1記憶部72に記憶してよい。
これにより、転舵機構に加わる回転力と操舵操作部に作用する操作力による転舵機構の捩れの影響の少ない仮想ラックエンド位置を学習できる。
【0097】
1…ステアリングホイール、2i…コラム入力軸、2o…コラム出力軸、3…減速ギア、4…インターミディエイトシャフト、4a、4b…ユニバーサルジョイント、4c…軸部材、5…ピニオンラック機構、5a…ピニオン、5b…ラック、6a、6b…タイロッド、7a、7b…ハブユニット、8L、8R…操向輪、10…トルクセンサ、11…イグニションキー、12…車速センサ、13…バッテリ、14…操舵角センサ、20…モータ、30…コントローラ、40…基本指令値演算部、41、64…加算器、42、82…減算器、43…電流制御部、44…PWM制御部、45…インバータ、46…終端位置学習部、47…制御回転変位設定部、48…微分部、49…衝撃緩和制御部、50…電流検出器、51…学習状態判定部、52…衝撃緩和制御出力制限部、60…ばね定数テーブル、61、63…乗算器、62…粘性定数テーブル、65…反転器、66、79…リミッタ、70…出力軸トルク算出部、71…選択部、72…第1記憶部、73、77…遅延部、74…レートリミッタ、75…補正位置算出部、76…第2記憶部、78…第3記憶部、80…ストローク算出部、81…オフセット誤差算出部、83…終端位置補正部
【要約】
端当てによる大きな衝撃や打音(異音)の発生を抑制しつつ仮想ラックエンド位置を学習する。転舵制御装置は、転舵機構に操舵補助力を付与するアクチュエータに対する電流指令値を演算する指令値演算部(40)と、位置検出部が検出した転舵機構の転舵位置に基づいて転舵機構の終端位置を学習する終端位置学習部(46)と、位置検出部が検出した転舵位置が、学習した終端位置の近傍にある場合に、指令値演算部(40)が演算した電流指令値を補正する指令値補正部(41、49)と、学習した終端位置と所定位置との比較結果、及び学習した終端位置から演算された転舵機構のストローク長と所定長との比較結果に基づいて、指令値補正部(41、49)による前記電流指令値の補正量を制限する補正量制限部(51、52)を備える。