(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】洗掘抑制方法および洗掘抑制シート
(51)【国際特許分類】
E02D 27/52 20060101AFI20220906BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20220906BHJP
E02D 27/32 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
E02D27/52 A
E02D27/12 Z
E02D27/32 Z
(21)【出願番号】P 2021169915
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2021-09-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230129964
【氏名又は名称】尋木 浩司
(72)【発明者】
【氏名】石坂 修
(72)【発明者】
【氏名】土橋 和敬
(72)【発明者】
【氏名】井坂 慎吾
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-064940(JP,A)
【文献】特開2020-041315(JP,A)
【文献】特開2016-204863(JP,A)
【文献】実公平04-019074(JP,Y2)
【文献】米国特許出願公開第2012/0128436(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/52
E02D 27/12
E02D 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭を打設する水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制方法において、
前記水底地盤上に透水性を有する洗掘抑制シートを敷設し、前記杭を前記洗掘抑制シートの打設目標範囲に貫通させて前記水底地盤に打設する際に、前記打設目標範囲を緊張した状態にすることを特徴とする洗掘抑制方法。
【請求項2】
杭を打設する水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制方法において、
透水性を有する透水性シート部材と、前記杭を貫通させて打設する前記透水性シート部材の打設目標範囲に重ねて一体化された伸び抑制シート部材とを有する洗掘抑制シートを前記水底地盤上に敷設し、前記杭を前記透水性シート部材の前記打設目標範囲および前記伸び抑制シートに貫通させて前記水底地盤に打設することを特徴とする洗掘抑制方法。
【請求項5】
杭が打設される水底地盤上に敷設されて前記水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制シートであって、
透水性を有する透水性シート部材を有し、かつ、
前記杭が前記透水性シート部材の打設目標範囲に貫通して前記水底地盤に打設される際に、前記透水性シート部材の一部の領域である前記打設目標範囲を前記透水性シート部材の前記打設目標範囲の周辺領域よりも緊張させた状態にする緊張維持構造を有することを特徴とする洗掘抑制シート。
【請求項6】
杭が打設される水底地盤上に敷設されて前記水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制シートであって、
透水性を有する透水性シート部材を有し、かつ、
前記透水性シート部材の一部の領域は前記杭が貫通して打設される打設目標範囲として予め設定されていて、前記打設目標範囲の周辺領域には重ねられずに前記打設目標範囲に重ねて一体化された伸び抑制シート部材を有することを特徴とする洗掘抑制シート。
【請求項8】
杭が打設される水底地盤上に敷設されて前記水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制シートであって、
透水性を有する透水性シート部材と、前記杭が貫通して打設される前記透水性シート部材の打設目標範囲に重ねて一体化された伸び抑制シート部材とを有し、かつ、前記打設目標範囲を囲む仕切り枠部を有することを特徴とする洗掘抑制シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗掘抑制方法および洗掘抑制シートに関し、さらに詳しくは、簡素な構成でありながら、杭を打設した水底地盤の洗掘を効果的に抑制できる洗掘抑制方法および洗掘抑制シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電装置は水底地盤に打設した杭(パイル)の上部に、風車を有する上部構造体を固定した構造になっている。波浪や潮流による水流が杭に当たると下降流が生じ、それに伴い、杭の根元付近の水底土砂を洗掘する馬蹄形渦および後流渦が発生する。杭を打設した水底の洗掘が進行すると杭の支持力が低下し、杭の傾倒などの要因となる。従来では、水底地盤に杭を打設した後に、杭の周辺領域に石材を敷き詰めることで、水底地盤の洗掘を抑制している。しかしながら、この工法では、杭を打設してから石材を敷き詰め終わるまでに杭の周辺領域の洗掘が進行してしまう。また、杭の周辺領域に石材を敷き詰める施工には多大な労力を要し、石材により杭が損傷する恐れもある。
【0003】
そこで、杭を打設した時点から水底の洗掘を抑制できる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の発明では、洋上風車の基礎杭が貫通可能な筒状の壁部と、その壁部の下端部から外方向に延在する底面部とを備えた基礎補助構造物を水底地盤に据付けて、その基礎補助構造物に基礎杭を挿通させた状態で打設する。しかしながら、この方法では、水底から水上まで延在する重厚長大な基礎補助構造物を製造する必要があり、基礎補助構造物の搬送作業や据付作業に多大なコストと労力を要する。また、水流が基礎補助構造物に当たることで生じる下降流が基礎補助構造物の外側に伝播するため、基礎補助構造物の外側の水底土砂が洗掘される恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、簡素な構成でありながら、杭を打設した水底地盤の洗掘を効果的に抑制できる洗掘抑制方法および洗掘抑制シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の洗掘抑制方法は、杭を打設する水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制方法において、前記水底地盤上に透水性を有する洗掘抑制シートを敷設し、前記杭を前記洗掘抑制シートの打設目標範囲に貫通させて前記水底地盤に打設する際に、前記打設目標範囲を緊張した状態にすることを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の別の洗掘抑制方法は、杭を打設する水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制方法において、透水性を有する透水性シート部材と、前記杭を貫通させて打設する前記透水性シート部材の打設目標範囲に重ねて一体化された伸び抑制シート部材とを有する洗掘抑制シートを前記水底地盤上に敷設し、前記杭を前記透水性シート部材の前記打設目標範囲および前記伸び抑制シートに貫通させて前記水底地盤に打設することを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の洗掘抑制シートは、杭が打設される水底地盤上に敷設されて前記水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制シートであって、透水性を有する透水性シート部材を有し、かつ、前記杭が前記透水性シート部材の打設目標範囲に貫通して前記水底地盤に打設される際に、前記透水性シート部材の一部の領域である前記打設目標範囲を前記透水性シート部材の前記打設目標範囲の周辺領域よりも緊張させた状態にする緊張維持構造を有することを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の別の洗掘抑制シートは、杭が打設される水底地盤上に敷設されて前記水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制シートであって、透水性を有する透水性シート部材を有し、かつ、前記透水性シート部材の一部の領域は前記杭が貫通して打設される打設目標範囲として予め設定されていて、前記打設目標範囲の周辺領域には重ねられずに前記打設目標範囲に重ねて一体化された伸び抑制シート部材を有することを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明のさらに別の洗掘抑制シートは、杭が打設される水底地盤上に敷設されて前記水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制シートであって、透水性を有する透水性シート部材を有し、かつ、前記杭が前記透水性シート部材の打設目標範囲に貫通して前記水底地盤に打設される際に前記打設目標範囲を緊張させた状態にする緊張維持構造を有し、かつ、前記打設目標範囲を囲む仕切り枠部を有することを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明のさらに別の洗掘抑制シートは、杭が打設される水底地盤上に敷設されて前記水底地盤の洗掘を抑制する洗掘抑制シートであって、透水性を有する透水性シート部材と、前記杭が貫通して打設される前記透水性シート部材の打設目標範囲に重ねて一体化された伸び抑制シート部材とを有し、かつ、前記打設目標範囲を囲む仕切り枠部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水底地盤上に敷設した洗掘抑制シートに杭を貫通させて水底地盤に打設することで、杭を水底地盤に打設した時点から洗掘抑制シートによって杭の周辺領域の水底地盤の洗掘を抑制できる。さらに、洗掘抑制シートが透水性を有していることで、水底地盤に敷設した洗掘抑制シートの揚圧力が高まることを抑制でき、洗掘抑制シートが水底地盤から浮き難くなる。それ故、簡素な構成でありながら、杭を打設した水底地盤の洗掘を効果的に抑制できる。
【0011】
さらに、前者の洗掘抑制方法および洗掘抑制シートによれば、杭を洗掘抑制シートの打設目標範囲に貫通させて水底地盤に打設する際に、打設目標範囲を緊張した状態にすることで、洗掘抑制シートの打設目標範囲に杭を円滑に貫通させ易くなる。後者の洗掘抑制方法および洗掘抑制シートによれば、洗掘抑制シートを構成する透水性シート部材の杭が貫通して打設される打設目標範囲に、伸び抑制シート部材が重ねて一体化されていることで、杭を洗掘抑制シートに貫通させて打設する際に、伸び抑制シート部材により洗掘抑制シートの打設目標範囲が伸びることが抑制される。それ故、洗掘抑制シートの打設目標範囲に杭を円滑に貫通させ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る実施形態の洗掘抑制シートが杭の周辺領域に敷設された状態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1の洗掘抑制シートを拡大して縦断面視で例示する説明図である。
【
図3】
図1の洗掘抑制シートを横断面視で例示する説明図である。
【
図4】
図1の洗掘抑制シートの杭を打設する以前の状態を平面視で例示する説明図である。
【
図5】
図4の状態から洗掘抑制シートを貫通させて杭を打設した状態を横断面視で例示する説明図である。
【
図6】杭に設置した洗掘抑制体の別の実施形態を横断面視で例示する説明図である。
【
図7】本発明に係る別の実施形態の洗掘抑制シートが杭の周辺領域に敷設された状態を横断面視で例示する説明図である。
【
図8】
図7の洗掘抑制シートの杭を打設する以前の状態を平面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の洗掘抑制方法および洗掘抑制シートを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0014】
図1~
図5に例示する本発明の洗掘抑制シート1は、杭30が打設される水底地盤G上に敷設されて水底地盤Gの洗掘を抑制する。
図1に示すように、この実施形態では、洋上風力発電装置20の基礎となる杭(パイル)30が打設された水底地盤Gに適用した洗掘抑制シート1を例示している。洋上風力発電装置20は、油圧ハンマ等の杭打機を使用して杭30を水底地盤Gに打設した後に、杭30の上部に風車を有する上部構造体40を固定することで構築する。
【0015】
図2および
図3に示すように、この洗掘抑制方法では、水底地盤G上に透水性を有する洗掘抑制シート1を敷設し、杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に貫通させて水底地盤Gに打設する。この実施形態では、さらに、杭30を水底地盤Gに打設した後に、水底地盤G上の杭30の根元部分に洗掘抑制体10を設置している。
【0016】
洗掘抑制シート1は、透水性を有する透水性シート部材2と、杭30が貫通して打設される透水性シート部材2の打設目標範囲に重ねて一体化された伸び抑制シート部材3とを有している。洗掘抑制シート1は、さらに、杭30が透水性シート部材2の打設目標範囲に貫通して水底地盤Gに打設される際に、打設目標範囲を緊張させた状態にする緊張維持構造を有している。洗掘抑制シート1の打設目標範囲は、洗掘抑制シート1の中央に設定されている。
【0017】
透水性シート部材2および伸び抑制シート部材3は、例えば、水底地盤Gの土砂が通過しない程度に目が細かい布材やメッシュ材で構成される。伸び抑制シート部材3は、透水性シート部材2よりも伸縮性の低いシート部材で構成される。伸び抑制シート部材3は、非伸縮性のシート部材で構成することが好ましい。
【0018】
透水性シート部材2が伸縮性を有している場合には、透水性シート部材2だけでは、杭30を貫通させる際に、透水性シート部材2に意図しない伸びや撚れが生じ、杭30が透水性シート部材2に円滑に貫通し難い場合がある。そこで、杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に貫通させて水底地盤Gに打設する際に、透水性シート部材2の打設目標範囲の伸びを抑制する伸び抑制シート部材3を、透水性シート部材2の打設目標範囲に重ねて一体化している。この実施形態では、透水性シート部材2と伸び抑制シート部材3とを縫い合わせて一体化しているが、例えば、透水性シート部材2と伸び抑制シート部材3とを接着剤や溶着等で接着することもできる。伸び抑制シート部材3は前述した杭30が打設される際に、洗掘抑制シート1の打設目標範囲を緊張させた状態にする緊張維持構造としても機能する。
【0019】
この実施形態では、緊張維持構造として、さらに、洗掘抑制シート1の打設目標範囲を囲む仕切り枠部4が設けられている。この実施形態では、仕切り枠部4として帯状のベルトが、洗掘抑制シート1の打設目標範囲を囲むように平面視で環状に配置されている。この実施形態の仕切り枠部4(ベルト)は、透水性シート部材2および伸び抑制シート部材3に縫い付けられて、透水性シート部材2および伸び抑制シート部材3と一体化されている。
【0020】
洗掘抑制シート1の周縁には、洗掘抑制シート1の撚れを抑制する周縁部5が設けられている。この実施形態では、周縁部5として帯状のベルトが、洗掘抑制シート1(透水性シート部材2)の周縁に平面視で環状に縫い付けられて一体化されている。
【0021】
仕切り枠部4と周縁部5にはそれぞれ、錘部材7を連結可能な連結部6が設けられている。この実施形態では、錘部材7として金属製のチェーンが用いられており、連結部6に錘部材7(チェーン)が連結具8によって連結されている。連結部6は任意で設けることができる。例えば、仕切り枠部4または周縁部5のいずれか一方だけに連結部6を設けることもできる。仕切り枠部4と周縁部5は、帯状のベルトに限らず、例えば、板状部材や棒状部材などで構成することもできる。
図4に示すように、洗掘抑制シート1の打設目標範囲には杭30を貫通させ易いように放射状にスリット9が形成されている。スリット9は任意で設けることができる。
【0022】
洗掘抑制体10は、透水性を有し、かつ、水底地盤Gの土砂が通り抜けることを抑制する多孔構造である本体部11を有している。本体部11は、水底地盤G上の杭30の根元部分に環状に外嵌めされる。この実施形態の洗掘抑制体10はさらに、本体部11を杭30に締め付ける紐状体12を有している。
【0023】
本体部11の多孔構造は、多数の空隙が入り組んだ構造であることが好ましい。本体部11は、例えば、網状部材によって形成される。より具体的には、本体部11は、例えば、シート状の網状部材をロール状(巻物状)に巻くことで形成される。本体部11を前述した構造にする場合には、重なり合う網状部材の網目どうしがずれるように巻き、シート状の網状部材が例えば、5層以上、好ましくは10層以上、より好ましくは30層以上重なる構造にすることが好ましい。
【0024】
本体部11は、他にも例えば、糸状樹脂が立体的に絡み合った網状部材(立体網状樹脂材)によって形成することもできる。本体部11は、他にも例えば、網状部材により形成されている筒状で環状になる袋部材と、網状部材により形成されて袋部材に充填される芯部材とを有する構成にすることもできる。本体部11を形成する素材は特に限定されないが、例えば、ポリエステルやポリプロピレン、ポリエチレンなどの合成繊維で形成するとよい。
【0025】
この実施形態では、円柱状の本体部11を例示しているが、本体部11は杭30に環状に外嵌めできる形状であればよく、例えば、多角柱状や円筒状、多角筒状などのその他の形状にすることもできる。本体部11の比重は、杭30が打設されている水域の水(淡水或いは海水)の比重よりも大きいことが好ましい。具体的には、本体部11の比重は1.05以上、より好ましくは1.20以上であるとよい。本体部11を比較的比重の小さい素材で形成する場合には、本体部11に錘を設けて比重を調整することもできる。
【0026】
次に、洗掘抑制シート1を使用した洗掘抑制方法の作業手順を説明する。
【0027】
図4に示すように、吊治具等を用いて洗掘抑制シート1を水底地盤Gに向かって吊り降ろし、水底地盤G上に洗掘抑制シート1を敷く。次いで、
図5に示すように、洗掘抑制シート1に錘部材7を設置して洗掘抑制シート1を水底地盤G上に固定する。この実施形態では、仕切り枠部4と周縁部5に設けられている連結部6に錘部材7としてチェーンを連結具8によって連結する。例えば、陸上や船上で予め洗掘抑制シート1に錘部材7を連結しておき、錘部材7が連結された状態の洗掘抑制シート1を水底地盤G上に敷設することもできる。
【0028】
次いで、透水性シート部材2と伸び抑制シート部材3とが重なっている洗掘抑制シート1の打設目標範囲を貫通させて杭30を水底地盤Gに打設する。杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に貫通させる際には、洗掘抑制シート1の打設目標範囲(透水性シート部材2の打設目標範囲および伸び抑制シート部材3)を緊張させた状態にする。この実施形態では、仕切り枠部4によって洗掘抑制シート1の打設目標範囲の外周が拘束されていることで、杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に貫通させる際には、洗掘抑制シート1の打設目標範囲が緊張した状態に維持される。さらに、伸び抑制シート部材3によって透水性シート部材2の打設目標範囲の伸びが抑制される。
【0029】
杭30を打設した後には、
図2および
図3に示すように、水底地盤G上の杭30の根元部分に洗掘抑制体10を設置する。具体的には、水底地盤G上の杭30の根元部分に本体部11を環状に外嵌めする。この実施形態では、円柱状の本体部11を杭30の外周に環状に外嵌めし、本体部11の外周に環状に巻き付けた紐状体12によって、本体部11を杭30に締め付けて、紐状体12の端部どうしを固定具13によって固定している。紐状体12によって本体部11を締め付ける強さは、本体部11が杭30の外周面に当接した状態を維持しつつ、本体部11が水底地盤Gに当接する位置まで自重で自然に下降する程度の強さに設定するとよい。
【0030】
このように、本発明では、水底地盤G上に敷設した洗掘抑制シート1に杭30を貫通させて水底地盤Gに打設することで、杭30を水底地盤Gに打設した時点から洗掘抑制シート1によって杭30の周辺領域の水底地盤Gの洗掘を抑制できる。さらに、洗掘抑制シート1が透水性を有していることで、水底地盤Gに敷設した洗掘抑制シート1の揚圧力が高まることを抑制でき、洗掘抑制シート1が水底地盤Gから浮き難くなる。透水性を有する洗掘抑制シート1を用いることで、吊治具等を用いて洗掘抑制シート1を水底地盤Gに向かって吊り降ろす作業も行い易くなる。また、洗掘抑制シート1に杭30を貫通させると、洗掘抑制シート1の一部が杭30に追従して水底地盤G中に挿入された状態になるので、杭30の根元部分において杭30の外周面と洗掘抑制シート1の貫通孔の内周縁との間にすき間が生じ難くなる。それ故、簡素な構成でありながら、杭30を打設した水底地盤Gの洗掘を効果的に抑制できる。
【0031】
杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に貫通させて水底地盤Gに打設する際に、洗掘抑制シート1の打設目標範囲を緊張した状態にすると、洗掘抑制シート1の打設目標範囲に杭30を円滑に貫通させ易くなる。これに伴い、杭30の打設後に洗掘抑制シート1に意図しない位置ずれや撚れが生じることを防ぐことができる。
【0032】
洗掘抑制シート1が、透水性シート部材2の打設目標範囲に重ねて一体化された伸び抑制シート部材3を有する構成にすると、杭30を洗掘抑制シート1に貫通させる際に、透水性シート部材2よりも伸縮性の低い伸び抑制シート部材3によって、透水性シート部材2の打設目標範囲が伸びることを抑制できる。それ故、洗掘抑制シート1の打設目標範囲に杭30をより円滑に貫通させ易くなる。
【0033】
洗掘抑制シート1に仕切り枠部4を設けると、仕切り枠部4によって洗掘抑制シート1の打設目標範囲の外周が拘束されることで、杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に貫通させる際に、洗掘抑制シート1の打設目標範囲が張った状態に維持される。それ故、洗掘抑制シート1に杭30を円滑に貫通させ易くなる。また、仕切り枠部4を設けることで、杭30を洗掘抑制シート1に貫通させる際に、洗掘抑制シート1の打設目標範囲に生じる裂け目が仕切り枠部4よりも外側に広がることを堰き止めることができる。さらに、仕切り枠部4に連結部6を設けると、仕切り枠部4の連結部6に錘部材7を連結することで、杭30を洗掘抑制シート1に貫通させる際に、仕切り枠部4が位置ずれすることを抑制できる。それ故、洗掘抑制シート1の打設目標範囲をより確実に緊張した状態に維持することができる。
【0034】
洗掘抑制シート1に周縁部5を設けると、水中において洗掘抑制シート1を安定して敷設し易くなる。さらに、周縁部5に連結部6を設けると、周縁部5の連結部6に錘部材7を連結することで、水中において洗掘抑制シート1が暴れ難くなり、洗掘抑制シート1をより敷設し易くなる。また、水中において洗掘抑制シート1が弛むことや浮き上がることを抑制でき、洗掘抑制シート1により水底土砂の飛散を抑制するにはより有利になる。
【0035】
杭30の外周面と洗掘抑制シート1の貫通孔の内周縁との間にすき間がある場合には、この実施形態のように、杭30の根元部分に洗掘抑制体10を設置することで、そのすき間を速やかに塞ぐことができる。さらに、透水性を有して多孔構造である本体部11を水底地盤G上の杭30の根元部分に環状に外嵌めすることで、水流が杭30に当たることで生じる下降流が本体部11の多孔構造に流入して効果的に減衰され、杭30の根元付近において馬蹄形渦および後流渦が発生し難くなる。それ故、杭30の周辺領域の洗掘を抑制するには益々有利になる。
【0036】
上記では、水底地盤Gに杭30を打設した後に、洗掘抑制体10を巻装する場合を例示したが、例えば、杭30に予め洗掘抑制体10を巻装しておき、洗掘抑制体10を装着した状態の杭30を水底地盤Gに打設することもできる。この場合には、杭30を打設し終えたときに洗掘抑制体10が水底地盤G上の杭30の根元部分に位置するように、打設前の杭30に対する洗掘抑制体10の設置位置を設定しておくとよい。
【0037】
洗掘抑制体10は例えば、
図6に例示するような構成にすることもできる。この実施形態の本体部11は、紐状体12が挿通可能な筒状に形成されている。この本体部11は、複数の分割体11aで構成されている。それぞれの分割体11aの貫通孔14に紐状体12が挿通していて、紐状体12により複数の分割体11aが連結されている。
【0038】
図7および
図8に洗掘抑制シート1を使用した洗掘抑制構造のさらに別の実施形態を例示する。この実施形態では、
図1~
図5に例示した実施形態と、洗掘抑制シート1と錘部材7の構成が異なっている。この実施形態の洗掘抑制シート1には、仕切り枠部4と周縁部5は設けられていない。この実施形態では、洗掘抑制シート1の周縁に錘部材7として石材を詰めた袋体を載置することで、洗掘抑制シート1を水底地盤G上に固定している。さらに、杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に貫通させて水底地盤Gに打設する際に、洗掘抑制シート1の打設目標範囲を緊張した状態にするために、洗掘抑制シート1の打設目標範囲を囲む様に、洗掘抑制シート1上に錘部材7として石材を詰めた袋体を載置している。
【0039】
このように、洗掘抑制シート1の打設目標範囲を囲むように錘部材7を設置することで、杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に貫通させて水底地盤Gに打設する際に、洗掘抑制シート1の打設目標範囲の外周が錘部材7によって拘束される。それ故、洗掘抑制シート1の打設目標範囲を緊張した状態に維持でき、杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に円滑に貫入し易くなる。
【0040】
なお、洗掘抑制シート1は、洋上風力発電装置20を構成する杭30に限らず、その他の水底地盤Gに打設される杭30に設置することもできる。上記で例示した実施形態では、伸び抑制シート部材3を有する洗掘抑制シート1を例示したが、例えば、透水性シート部材2を伸縮性の低いシート部材で構成する場合には、伸び抑制シート部材3を有さない構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 洗掘抑制シート
2 透水性シート部材
3 伸び抑制シート部材
4 仕切り枠部
5 周縁部
6 連結部
7 錘部材
8 連結具
9 スリット
10 洗掘抑制体
11 本体部
11a 分割体
12 紐状体
13 固定具
14 貫通孔
20 洋上風力発電装置
30 杭
40 上部構造体
G 水底地盤
【要約】
【課題】簡素な構成でありながら、杭を打設した水底地盤の洗掘を効果的に抑制できる洗掘抑制方法および洗掘抑制シートを提供する。
【解決手段】水底地盤G上に透水性を有する洗掘抑制シート1を敷設し、杭30を洗掘抑制シート1の打設目標範囲に貫通させて水底地盤Gに打設する際に、洗掘抑制シート1の打設目標範囲を緊張した状態にする。或いは、透水性を有する透水性シート部材2と、杭30を貫通させて打設する透水性シート部材2の打設目標範囲に重ねて一体化された伸び抑制シート部材3とを有する洗掘抑制シート1を水底地盤G上に敷設し、杭30を透水性シート部材2の打設目標範囲および伸び抑制シート部材3に貫通させて水底地盤Gに打設する。
【選択図】
図2