(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】地盤注入剤濃度推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/24 20060101AFI20220906BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220906BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20220906BHJP
B09C 1/10 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
G01N33/24 Z
G01N21/64 Z
B09C1/08 ZAB
B09C1/10
(21)【出願番号】P 2018550041
(86)(22)【出願日】2017-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2017031018
(87)【国際公開番号】W WO2018087996
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2016221687
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】清塘 悠
(72)【発明者】
【氏名】清水 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】中島 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】清水 大和
(72)【発明者】
【氏名】奥田 信康
(72)【発明者】
【氏名】古川 靖英
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐二
(72)【発明者】
【氏名】向井 一洋
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 薫
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-308690(JP,A)
【文献】特許第5971606(JP,B1)
【文献】特開2015-024401(JP,A)
【文献】特開2006-275940(JP,A)
【文献】特開2004-170085(JP,A)
【文献】米国特許第05370478(US,A)
【文献】特開2014-081233(JP,A)
【文献】DUWIG, C. et al.,Quantifying fluorescent tracer distribution in allophanic soils to image solute transport,European Journal of Soil Science,英国,British Society of Soil Science,2008年02月,Vol.59/No.1,pp.94-102
【文献】BARBER, J.A.S. and PARKIN, C.S.,Fluorescent tracer technique for measuring the quantity of pesticide deposited to soil following spray applications,Crop Protection,Elsevier Science Ltd.,2003年02月,Vol.22/No.1,pp.15-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/24
G01N 33/15
G01N 21/64
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入剤と、地盤内で前記注入剤と同様の挙動を示す指標剤と、が添加された注入液を注水井戸から前記地盤へ注入する工程と、
前記注水井戸から離れた場所における地下水の前記指標剤の濃度を測定する工程と、
前記指標剤の濃度から地下水中の前記注入剤の推定濃度を算出する工程と、
を備え、
前記推定濃度は、
前記指標剤の濃度と、
前記注入剤及び前記指標剤の吸着・分解試験をそれぞれ実施して測定された吸着・分解特性の違いから導出された係数と、
を用いて算出される、
地盤注入剤濃度推定方法。
【請求項2】
前記注入剤は、汚染物質を分解する浄化剤及び前記浄化剤の生物的分解を活性化させる活性剤の少なくとも一方とされた、請求項1に記載の地盤注入剤濃度推定方法。
【請求項3】
前記指標剤は蛍光染料である、
請求項2に記載の地盤注入剤濃度推定方法。
【請求項4】
前記浄化剤及び前記活性剤を前記注水井戸から前記地盤へ注入し、
前記浄化剤と同様の挙動を示す一方の前記指標剤と、前記活性剤と同様の挙動を示す他方の前記指標剤とが異なる種類とされた、
請求項2に記載の地盤注入剤濃度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地盤注入剤濃度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005-305282号公報には、微生物を利用して汚染土壌の浄化を行なう土壌浄化方法が示されている。この土壌浄化方法においては、微生物の栄養となる硝酸塩溶液を汚染土壌に注入し、汚染土壌の地下水における硝酸濃度を測定して硝酸塩溶液の過不足を判断し、硝酸塩溶液の注入量を制御している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特開2005-305282号公報では、汚染土壌を浄化する微生物の栄養となる硝酸塩溶液の汚染土壌の地下水における濃度を直接測定している。しかし、汚染土壌へ注入する浄化剤や、浄化剤の浄化作用を促進させる活性剤など、土壌へ注入する注入剤には、濃度の測定が困難なものがある。
【0004】
本開示は、上記事実を考慮して、地盤へ注入した注入剤の濃度を推定できる地盤注入剤濃度推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1態様の地盤注入剤濃度推定方法は、注入剤と、地盤内で前記注入剤と同様の挙動を示す指標剤と、が添加された注入液を注水井戸から前記地盤へ注入する工程と、前記注水井戸から離れた場所における前記指標剤の濃度を測定する工程と、前記指標剤の濃度から前記注入剤の濃度を推定する工程と、を備えている。
【0006】
汚染浄化、地盤改良、蓄熱、遮水などの目的のため地盤へ注入剤を注入する場合、この注入剤を効果的に機能させるためには、地下水における注入剤の濃度を適切に管理する必要がある。しかし、注入剤の濃度を直接測定するためには、採取した地下水を試験室に持ち込んで大規模な設備で測定しなければならない場合があり、手間がかかる。また、注入剤が低濃度で計測そのものが困難であったり、計測は可能だが、注入剤の溶解や分散により、注入剤が到達したかどうかの判別が困難であるというような課題がある。
【0007】
本開示の第1態様の地盤注入剤濃度推定方法では、注水井戸から離れた場所における地下水の指標剤の濃度を測定する。この指標剤は、地盤内で注入剤と同様の挙動を示すため、指標剤の濃度から注入剤の濃度を推定することができる。
【0008】
このため、地盤の地下水における注入剤の濃度を知ることができる。これにより、地下水における注入剤の濃度を適切に管理して、注入剤を効果的に機能させることができる。
【0009】
本開示の第2態様の地盤注入剤濃度推定方法は、注入剤を添加する注入液を加温して注水井戸から地盤へ注入する工程と、前記注水井戸から離れた場所における地盤内温度を測定する工程と、前記地盤内温度から前記注入剤の濃度を推定する工程と、を備えている。
【0010】
本開示の第2態様の地盤注入剤濃度推定方法では、注入剤を添加する注入液を加温し、注水井戸から離れた場所における地盤内温度を測定する。加温された注入液により地盤内の温度が変化するため、地盤内温度変化から注入剤の濃度を推定することができる。
【0011】
このため、地盤内の地下水における注入剤の濃度を知ることができる。これにより、地下水における注入剤の濃度を適切に管理して、注入剤を効果的に機能させることができる。
【0012】
本開示の第3態様の地盤注入剤濃度推定方法は、前記注入剤は、汚染物質を分解する浄化剤及び前記浄化剤の生物的分解を活性化させる活性剤の少なくとも一方とされている。
【0013】
本開示の第3態様の地盤注入剤濃度推定方法では、注入液に浄化剤又は活性剤を添加することで、地盤を浄化することができる。地盤内の汚染物質を効果的に分解するためには、地盤の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を適切に管理する必要がある。しかし、浄化剤及び活性剤の濃度を直接測定する場合は、採取した地下水を試験室に持ち込んで大規模な設備で測定する必要があり、手間がかかる。
【0014】
しかし本開示の第3態様の地盤注入剤濃度推定方法では、注水井戸から離れた場所における地下水の指標剤の濃度を測定する。この指標剤は、地盤内で浄化剤又は活性剤と同様の挙動を示すため、指標剤の濃度から浄化剤又は活性剤の濃度を推定することができる。
【0015】
このため、地盤の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を知ることができる。これにより、地盤の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を適切に管理して、汚染物質を効果的に分解することができる。
【0016】
本開示の第4態様の地盤注入剤濃度推定方法は、前記指標剤は蛍光染料である。
【0017】
本開示の第4態様の地盤注入剤濃度推定方法では、注水井戸から離れた場所における地下水の蛍光染料の濃度から浄化剤又は活性剤の濃度を推定する。蛍光染料の濃度は、蛍光測定器により光強度として定量的に測定することができる。このため、一定の精度が担保できる。
【0018】
本開示の第5態様の地盤注入剤濃度推定方法は、前記浄化剤及び前記活性剤を前記注水井戸から前記地盤へ注入し、前記浄化剤と同様の挙動を示す一方の前記指標剤と、前記活性剤と同様の挙動を示す他方の前記指標剤とが異なる種類とされている。
【0019】
本開示の第5態様の地盤注入剤濃度推定方法では、浄化剤及び活性剤が地盤へ注入される。そして、浄化剤、活性剤にはそれぞれ異なる種類の指標剤が用いられる。このため、それぞれの濃度から、浄化剤、活性剤それぞれの濃度を推定することができる。
【0020】
したがって、浄化剤及び活性剤を混合して地盤へ注入しても、地盤の地下水におけるそれぞれの濃度を的確に推定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示に係る地盤注入剤濃度推定方法によると、地盤へ注入した注入剤の濃度を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】本開示の第1実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムの概略構成を示す平面図である。
【
図1B】本開示の第1実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムの概略構成を示す立断面図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムにおける観測井戸と測定装置との関係を示す立断面図である。
【
図3】本開示の第1実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムにおける測定装置において励起光及び蛍光の光強度と波長の関係を示すグラフである。
【
図4A】本開示の実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムにおいて、不透水層によって上下に分断されて形成された2層の帯水層の汚染地盤を浄化する変形例を示す平面図である。
【
図4B】本開示の実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムにおいて、不透水層によって上下に分断されて形成された2層の帯水層の汚染地盤を浄化する変形例を示す立断面図である。
【
図5A】本開示の実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムにおける測定装置において、互いの励起波長帯域及び蛍光波長帯域が近接した2種類の蛍光染料の励起光及び蛍光の光強度と波長の関係を示すグラフである。
【
図5B】本開示の実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムにおける測定装置において、互いの励起波長帯域及び蛍光波長帯域が重複した2種類の蛍光染料の励起光及び蛍光の光強度と波長の関係を示すグラフである。
【
図5C】本開示の実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムにおける測定装置において、互いの励起波長帯域及び蛍光波長帯域が離れた2種類の蛍光染料の励起光及び蛍光の光強度と波長の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、複数の図面において同じ符号で表された共通の構成要素については、説明を省略する場合がある。
【0024】
[第1実施形態]
(全体構成)
第1実施形態における地盤注入剤濃度推定システムは、
図1A、
図1Bに示す地下地盤10に含まれる汚染物質を分解するための汚染地盤浄化システム20に適用される。汚染地盤浄化システム20は、地下地盤10に構築された揚水井戸22、注水井戸24、観測井戸26及び遮水壁28と、地表面GLの上部に構築され、地下地盤10、揚水井戸22及び注水井戸24の間で地下水を循環させる浄化装置30と、観測井戸26から採取された地下水を分析する測定装置40と、を備えている。
【0025】
(汚染地盤)
地下地盤10は、地表面GLよりも下方の地盤であって、地下水が流れる帯水層12及び地下水が流れない不透水層14を備えている。この地下地盤10のうち、汚染物質が基準値(例えば汚染物質の種類毎に定められた値)以上含まれている部分を、汚染地盤Eとする。「汚染物質」とは、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー、ベンゼン等の有機物、六価クロム、シアン等の無機化合物、及びガソリンや軽油等の鉱油類等の油分を含む概念である。
【0026】
なお、
図1Bにおいては、地下水位HLを一点鎖線で図示しており、地下地盤内での地下水の流れの向きを破線の矢印で図示している。なお、この地下水の流れは注水井戸24から地下地盤10へ、後述する浄化剤等を含む注入液を注入し、更に揚水井戸22から地下水を揚水することで発生する流れである。
【0027】
(揚水井戸)
揚水井戸22は、地下地盤10から地下水を揚水する揚水手段であり、揚水ポンプPにより帯水層12の地下水を吸い上げて、浄化装置30に送ることができる。
図1A、
図1Bにおいて揚水ポンプPは揚水井戸22(揚水井戸22a、22b)の外部に設置されているが、これは構成を説明するためであり、揚水ポンプPは揚水井戸22の内部に設置されているものとする。但し揚水ポンプPは、揚水井戸22の外部に設置してもよい。また、揚水井戸22は汚染地盤Eと遮水壁28との間に配置されており、下端の深度が汚染地盤Eの深度以下となるように地下地盤10に埋設されている。
【0028】
図1Aにおいては図示の便宜上、2本の揚水井戸22a、22bのみを記載しているが、本開示の実施形態はこれに限らず、任意の本数を敷地の広さ等に応じて適宜配置して構わない。
【0029】
なお、揚水井戸22は汚染地盤Eに配置されていてもよい。また、揚水井戸22による揚水の具体的な方法や、揚水井戸22の形状、サイズ等については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0030】
(注水井戸)
注水井戸24(注水井戸24a、24b)は、浄化装置30で生成された注入液を地下地盤10に注入する注入手段であり、図示しないポンプ等により注入液を地下地盤10内に送ることができる。また、注水井戸24は、汚染地盤Eと遮水壁28との間(汚染地盤Eからみて揚水井戸22の反対側)に配置された井戸であり、下端の深度が汚染地盤Eの深度以下となるように地下地盤10に埋設されている。
【0031】
図1Aにおいては図示の便宜上、2つの注水井戸24a、24bのみを記載しているが、本開示の実施形態はこれに限らず、任意の数を敷地の広さ等に応じて適宜配置して構わない。
【0032】
なお、注水井戸24は汚染地盤Eに配置されていてもよい。また、注水井戸24による注入液の注入の具体的な方法や、注水井戸24の形状、サイズ等については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0033】
(観測井戸)
観測井戸26(観測井戸26a、26b、26c)は、地下の状態を観測する観測手段である。ここで、「地下の状態」とは、観測井戸26が埋設された位置における地下地盤10中の状態を示しており、例えば地下水位、地盤内温度、地下水における後述する浄化剤、活性剤、指標剤の濃度、地下水における汚染物質濃度などを含む。
【0034】
観測井戸26には図示しない各種センサーが設置されており、これらのセンサーによって、上述した地下水位、地盤内温度、地下水における浄化剤及び活性剤の濃度などを測定し、これらの測定値を浄化装置30における制御部38に電気信号で伝達する。
【0035】
なお、これらのセンサーは揚水井戸22及び注水井戸24の内部にも設置されている。すなわち、揚水井戸22及び注水井戸24はそれぞれ、観測手段としても機能する。また、
図1A、
図1Bにおいては、図が煩雑になる事を避けるため、各種センサーと制御部38とに接続された信号線の図示は省略している。
【0036】
また、観測井戸26の内部又は外部には図示しない揚水ポンプが設置され、観測井戸26の所定の深度の地下水を採取し、この採取した地下水を地上に設置した測定装置40まで揚水することができる。
【0037】
なお、観測井戸26は、遮水壁28で囲われた地下地盤10内の複数箇所に埋設されており、
図1Aにおいては図示の便宜上、3つの観測井戸26a、26b、26cのみを記載している。但し本開示の実施形態はこれに限らず、任意の数の観測井戸26を敷地の広さ等に応じて適宜配置することができる。
【0038】
(遮水壁)
遮水壁28は、汚染地盤Eの周囲を囲むように地下地盤10に配置された鋼製矢板(シートパイル)の遮水手段であり、遮水壁28内外の地下水の流れを遮断している。すなわち、遮水壁28の「外側」の地下地盤10における地下水の流れと、遮水壁28の「内側」の地下地盤10における地下水の流れとを、相互に影響を及ぼさないようにしている。
【0039】
図1Bに示すように、遮水壁28の下端は不透水層14に根入れされている。これにより、汚染地盤Eは遮水壁28と不透水層14とで囲まれ、汚染物質が遮水壁28の外側の地下地盤10へ流出することが抑制されている。
【0040】
(浄化装置)
浄化装置30は、揚水井戸から揚水された地下水を浄化し、後述する浄化剤や活性剤を添加して地下地盤10へ戻すための装置であり、水処理・加温装置32、添加槽36及び制御部38を含んで構成される。
【0041】
(水処理・加温装置)
水処理・加温装置32は、揚水井戸から揚水された地下水から、揮発性汚染物質や油分を分離(及び抽出)する。また、水処理・加温装置32は、後述する制御部38により温調される図示しないヒーターにより、浄化された地下水を加温する。水処理・加温装置32によって地下水を加温することにより、地下地盤10内で汚染物質を生物分解する分解微生物の増殖を促進したり、分解微生物の活性を上げたりすることができる。
【0042】
(添加槽)
添加槽36は、地下水に対して浄化剤又は活性剤のうち少なくとも一方と指標剤とを添加して注入液を生成する。具体的には、後述する制御部38により制御された投入装置(図示省略)から、添加槽36内部の地下水に浄化剤又は活性剤のうち少なくとも一方と指標剤とが添加され、攪拌されて注水井戸24から地下地盤10へ注入する注入液が生成される。
【0043】
なお、浄化剤及び活性剤は、本開示における注入剤の一例である。「浄化剤」とは地下地盤10内で汚染物質を分解する物質のことであり、例として、汚染物質を生物分解するデハロコッコイデス、デハロサルファイド等の「分解微生物」や、汚染物質を化学分解する「化学分解剤」がある。化学分解剤の具体例としては、鉄系スラリー等の「還元剤」や、過酸化水素、加硫酸塩、フェントン試薬、過マンガン酸、過炭酸塩などの「酸化剤」が挙げられる。
【0044】
なお、第1実施形態においては、浄化剤として分解微生物(デハロコッコイデス)を用いている。また、添加槽36においては、浄化剤に加えて活性剤を添加することもできるが、詳しい実施形態については後述する。
【0045】
「指標剤」とは地下地盤10(汚染地盤Eを含む)内で浄化剤又は後述する活性剤と同様の挙動を示す物質であり、低濃度状態でも、大規模な設備を用いることなく、原位置(例えば汚染地盤E上又は近傍の建物内など)で濃度の測定が容易な物質である。例として蛍光染料、ハロゲンイオン、放射性同位体などが挙げられる。このうち、蛍光染料としてはウラニン、エオシン、ローダミンB、ローダミンWT、ピラニン、アミノG酸、ナフチオン酸ナトリウム、スルホローダミンG等を用いることができるが、第1実施形態においては蛍光染料(エオシン)を用いている。
【0046】
ここで、「浄化剤又は活性剤と同様の挙動を示す」とは具体的に、地下水に対する指標剤の密度、粘性、吸着・分解特性などが浄化剤又は活性剤と同程度であることを示す。
【0047】
また、「同程度」とは、完全に一致している場合のほか、試験により測定可能な程度の僅かな差が生じる程度を含む。
【0048】
このため、指標剤は、地下地盤10の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を測定するための物質(トレーサー)として用いられる。指標剤の濃度を測定することで、地下地盤10の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を推定することができる。
【0049】
なお、本実施形態においては添加槽36で地下水に対して指標剤を添加して注入液を生成するものとしたが、この指標剤を用いずに、地下地盤10の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を推定することもできる。
【0050】
この場合は地下水の温度を測定する。すなわち、水処理・加温装置32で加温された注入液は地下地盤10の地下水と混ざり温度を上昇させるので、地下水の温度が注入液の注入を開始する前よりも高くなると、温度を測定した場所に浄化剤又は活性剤が到達していると判断できる。さらに、この温度変化を測定することで、地下地盤10の地下水における浄化剤又は活性剤の濃度を推定できる。
【0051】
なお、温度測定においては必ずしも観測井戸の地下水の温度を測定する必要はなく、例えば地下地盤10に埋設した熱電対により地下地盤10の温度を測定してもよい。指標剤を用いずに地下地盤10又は地下水の温度から注入剤の濃度を推定する方法は、他の実施形態についても適用できる。
【0052】
(測定器)
図2には、観測井戸26と測定装置40との関係を説明するための立断面図が示されている。測定装置40は、ヘッダー42と、蛍光測定器44とを含んで構成されている。
【0053】
観測井戸26a、26b、26cの内部の地下水は、各井戸内部に設置された図示しない揚水ポンプにより所定の深度の水が揚水され、測定装置40のヘッダー42を介して蛍光測定器44へ送られる。
【0054】
ヘッダー42は、複数の配管を1つにまとめるための集合配管部材であり、図示しない電磁弁やバルブを開閉することで、観測井戸26a、26b、26cそれぞれから揚水された地下水のうち、どの地下水を蛍光測定器44へ送るかを選択することができる。
【0055】
蛍光測定器44は、ヘッダー42から送られてきた地下水に含まれる指標剤としての蛍光染料が発する光の強度を測定することができる。具体的には、光源装置から地下水に励起光を照射したときに、地下水に含まれる蛍光染料が発生する蛍光の光強度Cを測定できる。具体例として
図3には、励起光の波長と蛍光の波長それぞれの光強度が示されている。
【0056】
この光強度Cから蛍光染料の濃度を算出することができるが、この蛍光染料の濃度を、光強度Cの関数としてF(C)[mg/l]として表すと、浄化剤(分解微生物)の推定濃度X[mg/l]を次のように表すことができる。
【0057】
(浄化剤の推定濃度X)=α×[蛍光染料の濃度F(C)]・・・・・・(1式)
α:係数
【0058】
係数αは、浄化剤(分解微生物)及び蛍光染料の吸着・分解試験をそれぞれ実施することで測定される吸着・分解特性の違いから導出される。なお、上述したとおり地下水に対する指標剤の吸着・分解特性は浄化剤と同程度とされているが、このように係数αを算出できる程度の差は備えていてもよい。
【0059】
(制御部)
制御部38は、観測井戸26、注水井戸24及び揚水井戸22それぞれに設置されたセンサーによって測定された地下水位、地盤内温度、地下水における浄化剤又は活性剤の濃度などの情報を、電気信号として受信する。そして受信した情報に応じて、水処理・加温装置32、添加槽36、揚水ポンプPを駆動制御する。
【0060】
(測定方法)
第1実施形態の地盤注入剤濃度推定システムでは、
図2に示すように、まず添加槽36で、注水井戸24から地下地盤10へ注入する注入液に、浄化剤としての分解微生物(デハロコッコイデス)と、指標剤としての蛍光染料(エオシン)を添加する。ここで、注入液における分解微生物の濃度と、蛍光染料の濃度とを等しくする。すなわち、注入液においてそれぞれの濃度の関係は、次のように表される。
【0061】
(分解微生物の濃度):(蛍光染料の濃度)=1:1 ・・・・・・(1-1式)
【0062】
次に、添加槽36から注水井戸24へ、分解微生物(デハロコッコイデス)及び蛍光染料(エオシン)が添加された注入液が注入される。注水井戸24へ注入された注入液は、
図1A、
図1Bに示す揚水ポンプPが揚水井戸22から地下水を揚水して地下水の水勾配を生成することで、目標とする速度で注水井戸24から地下地盤10及び汚染地盤Eへ拡散する。
【0063】
このとき、分解微生物(デハロコッコイデス)と蛍光染料(エオシン)とは、地下水に対する密度、粘性、吸着・分解特性などが浄化剤又は活性剤と同程度であるため、
図2にそれぞれS及びTで示したように、ほぼ等しいスピードで拡散する。
【0064】
但し、分解微生物(デハロコッコイデス)と蛍光染料(エオシン)とは、吸着・分解特性に僅かな差異があるため、地下地盤10に拡散する過程で、地下水中における濃度に差が生じる。このため、地下水におけるそれぞれの濃度の関係は、吸着・分解特性に応じた係数αを用いて、次のように推定される。
【0065】
(分解微生物の推定濃度):(蛍光染料の濃度)=α:1 ・・・・(1-2式)
【0066】
次に、
図2に示すように注水井戸24から離れた場所に設けられた観測井戸26a、26b、26cの内部に備えられた揚水ポンプ(図示省略)が観測井戸26a、26b、26c内部の地下水を採取して、地下水が蛍光測定器44へ送られる。この蛍光測定器により、蛍光染料(エオシン)の光強度Cが測定され、蛍光染料(エオシン)の濃度F(C)[g/l]が算出される。
【0067】
ここで、分解微生物の推定濃度X[g/l]と、蛍光染料(エオシン)の濃度F(C)[g/l]を、(1-2式)の左辺に代入すると、次のように表される。
【0068】
(分解微生物の推定濃度X):[蛍光染料の濃度F(C)]=α:1 ・・(1-3式)
【0069】
この(1-3式)を変形することにより、上述した(1式)が得られ、分解微生物の濃度が算出される。
【0070】
なお、本実施形態においては、注入液における分解微生物の濃度と、蛍光染料の濃度とを等しくしたが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば注入液における分解微生物の濃度と蛍光染料の濃度の比率を(a:1)とした場合、(1式)の右辺にaを掛けることで、分解微生物の推定濃度が算出される。
【0071】
このaの値は任意であるが、蛍光染料には汚染物質分解効果を期待しないので、蛍光染料は分解微生物の濃度を算出するために必要な程度含まれていればよく、例えばa=60程度でもよい。
【0072】
(作用・効果)
分解微生物が添加された注入液が地下水に希釈されると、地下水中の分解微生物の濃度は、一般的な計測手法(定量的リアルタイムPCR等の定量的PCR法)で測定可能な検出限界値(102copies/mlオーダー)よりも低くなる。このため、希釈された状態で地下水中の分解微生物の濃度測定は難しい。
【0073】
これに対して蛍光染料は、地下水に希釈され低濃度になった状態でも、蛍光測定器を用いて光強度を測定することができる。そして、この光強度から、蛍光染料の濃度を算出することができる。
【0074】
また、分解微生物と蛍光染料とは、地下水に対する密度、粘性、吸着・分解特性などが同程度である。このため、地下水における蛍光染料の濃度がわかれば、分解微生物の濃度を推定することができる。
【0075】
これにより、地下地盤10及び汚染地盤Eの地下水における分解微生物の濃度を適切に管理して、汚染物質を効果的に分解することができる。
【0076】
[第2実施形態]
第1実施形態では指標剤として蛍光染料(エオシン)を用いているが、第2実施形態では指標剤としてハロゲンイオンを用いている。この場合、浄化剤(分解微生物)の推定濃度X[copies/ml]は、指標剤(ハロゲンイオン)の濃度G(D)[mg/l]を用いて次のように表すことができる。なお、指標剤(ハロゲンイオン)の濃度G(D)は、蛍光測定器44に代えて電気伝導率計を用いて測定される電気伝導率D[S/m]の関数である。
【0077】
(浄化剤の推定濃度X)=β×[指標剤の濃度G(D)]・・・・・・・・(2式)
β:係数
【0078】
係数βは、第1実施形態の(1式)における係数αと同様、浄化剤(分解微生物)及び指標剤(ハロゲンイオン)の吸着・分解試験をそれぞれ実施し、吸着・分解特性の違いから導出される。
【0079】
なお、指標剤としてのハロゲンイオンの濃度G(D)[mg/l]は、電気伝導率計に代えてイオンメーターを用いて測定されるイオン濃度[mol/l]から算出してもよい。
【0080】
さらに、指標剤としては、ハロゲンイオンの他、放射性同位体を用いることもできる。この場合、(2式)における指標剤の濃度G(D)[mg/l]は、放射線測定器を用いて測定される放射線量[Bq]から算出する。
【0081】
[第3実施形態]
第1、第2実施形態においては、添加槽36で注入液に「浄化剤」を添加したが、第3実施形態においては、「浄化剤」に代えて「活性剤」を添加する。
【0082】
「活性剤」とは分解微生物の生物分解を活性化させる物質のことであり、水素徐放剤、有機物、PH調整剤、微量栄養素又は微量元素等を用いることができる。
【0083】
このうち、有機物としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸若しくはクエン酸又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩若しくはカルシウム塩、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ペプトン、トリプトン、酵母エキス、フミン酸又は植物油等を用いることができる。
【0084】
また、PH調整剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム、カリウムの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム又はリン酸三ナトリウム等を用いることができる。
【0085】
また、微量栄養素としては、ビタミンB12、ビタミンB1、パントテン酸、ビオチン、葉酸等を用いることができる。
【0086】
さらに、微量元素としては、Co、Zn、Fe、Mg、Ni、Mo、B等を用いることができる。
【0087】
これらの活性剤も、地下水に対する密度、粘性、吸着・分解特性などが指標剤と同程度であるため、第1実施形態における浄化剤と同様、指標剤を用いて濃度を推定することができる。
【0088】
本実施形態で用いられる活性剤は酵母エキスとされ、指標剤としては蛍光染料(エオシン)が用いられている。そして、活性剤(酵母エキス)の推定濃度Y[mg/l]は、蛍光染料の濃度F(C)[mg/l]を用いて次のように表すことができる。
【0089】
(活性剤の推定濃度Y)=γ×[蛍光染料の濃度F(C)]・・・・・・・(3式)
γ:係数
【0090】
[第4実施形態]
第3実施形態においては指標剤として蛍光染料を用いているが、第4実施形態においては指標剤としてハロゲンイオンを用いている。この場合、活性剤(酵母エキス)の推定濃度Y[mg/l]は、指標剤(ハロゲンイオン)の濃度X(D)[mg/l]を用いて次のように表すことができる。なお、指標剤としては、ハロゲンイオンの他、放射性同位体を用いることもできる。
【0091】
(活性剤の推定濃度Y)=δ×[指標剤の濃度G(D)]・・・・・・・・(4式)
δ:係数
【0092】
[第5実施形態]
第1~第4実施形態では、添加槽36で注入液に「浄化剤」又は「活性剤」の何れか1種類と「指標剤」とを添加したが、第5実施形態では、「浄化剤」及び「活性剤」の双方と「指標剤」とを添加する。
【0093】
具体的には、浄化剤として分解微生物(デハロコッコイデス)と化学分解剤(過酸化水素)とを用い、活性剤として酵母エキスを用いている。また、分解微生物の指標剤としてハロゲンイオンを用い、化学分解剤の指標剤として放射性同位体を用い、活性剤(酵母エキス)の指標剤として蛍光染料を用いている。
【0094】
浄化剤としての分解微生物(デハロコッコイデス)及び化学分解剤(過酸化水素)の濃度は、何れも上述の(2式)を用いて推定される。但し(2式)における係数βは、分解微生物(デハロコッコイデス)、化学分解剤(過酸化水素)、ハロゲンイオン及び放射性同位体の吸着分解特性に応じて適宜書き換えられる。また、活性剤(酵母エキス)の濃度は、上述の(3式)を用いて推定される。
【0095】
第5実施形態においては、観測井戸26から採取した地下水のハロゲンイオンの濃度、放射性同位体の放射線量、蛍光染料の光強度を測定することにより、分解微生物、化学分解剤、活性剤の濃度を推定することができる。
【0096】
これにより、汚染地盤Eが、例えばテトラクロロエチレンなどの汚染物質及び六価クロムなどの汚染物質によって汚染されている場合において、それぞれの汚染物質に適した浄化剤として用いる「分解微生物」及び「化学分解剤」の濃度と、分解微生物の活性を高める「活性剤」の濃度とを適切に管理して、汚染物質を効果的に分解することができる。
【0097】
[第6実施形態]
第5実施形態においては浄化剤、活性剤を何れも用いているが、本開示の実施形態はこれに限らず、浄化剤のみを複数種類用いたり、活性剤のみを複数種類用いてもよい。また、指標剤としては、ハロゲンイオン、放射性同位体を用いず、蛍光染料のみを複数用いてもよい。
【0098】
例えば第6実施形態においては、注入液に活性剤として酵母エキス及び水素徐放剤(ポリ乳酸エステル)を添加し、それぞれの指標剤として、種類の異なる蛍光染料(エオシン及びウラニン)を用いている。
【0099】
これにより、酵母エキス及び水素徐放剤(ポリ乳酸エステル)の濃度をそれぞれ推定することができる。また、指標剤として蛍光染料のみを用いるので、電気伝導率計や放射線測定器を用いる必要がなく、蛍光測定器のみで複数種類の活性剤の濃度を推定することができる。
【0100】
以上の実施形態は、それぞれ組み合わせて用いることもできる。例えば「浄化剤」及び「活性剤」の双方と「指標剤」とを添加した第5実施形態と、指標剤として異なる種類の蛍光染料を用いた第6実施形態を組み合わせてもよい。この場合、注入液には、例えば浄化剤としての分解微生物と、活性剤としての酵母エキスと、分解微生物の指標剤としての蛍光染料(ウラニン)と、酵母エキスの指標剤としての蛍光染料(エオシン)とを添加することができる。
【0101】
すなわち、上述した浄化剤、活性剤、指標剤の組み合わせ方は任意であり、1種類の浄化剤と1種類の指標剤、複数種類の浄化剤と複数種類の指標剤、1種類の活性剤と1種類の指標剤、複数種類の活性剤と複数種類の指標剤、1種類の浄化剤及び1種類の活性剤と2種類の指標剤、複数種類の浄化剤及び複数種類の活性剤と複数種類の指標剤、など様々に組み合わせて用いることができる。但し、浄化剤としての還元剤(例えば鉄系スラリー)は、活性剤と組み合わせて用いないほうが望ましい。
【0102】
[変形例]
第1~第5実施形態に係る地盤注入剤濃度推定システムの各種変形例について説明する。例えば、第1~第5実施形態においては、
図1Bに示すように、不透水層14の上方に形成された「1層の」帯水層12の汚染地盤Eを浄化しているが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば
図4Bに示すように、帯水層12が不透水層16によって上下に分断されて形成された「2層の」帯水層12A、12Bの汚染地盤E1、E2を浄化することもできる。あるいは、「3層以上の」帯水層を浄化することもできる。
【0103】
「2層の」帯水層12A、12Bの汚染地盤E1、E2を浄化する場合、下側の帯水層12Bに設置した揚水井戸22(揚水井戸22a、22b)、注水井戸24(注水井戸24a、24b)、観測井戸26(観測井戸26a、26b、26c)とは別に、上側の帯水層12Aにも揚水井戸62(揚水井戸62a、62b)、注水井戸64(注水井戸64a、64b)、観測井戸66(観測井戸66a、66b)を設置する。
【0104】
そして、
図4Aに示すように、帯水層12B、揚水井戸22及び注水井戸24の間で地下水を循環させる浄化装置30とは別に、帯水層12A、揚水井戸62及び注水井戸64の間で地下水を循環させる浄化装置50を設ける。このようにすることで、不透水層16によって上下に分断された2つの帯水層12A、12Bをそれぞれ浄化することができる。浄化装置50は、浄化装置30と同様に、水処理・加温装置52、添加槽56及び制御部58を備えている。なお、浄化装置30の制御部38と、浄化装置50の制御部58とは、一つにまとめてもよい。
【0105】
ところで、帯水層12A、12Bを浄化する浄化剤の指標剤として蛍光染料を用いる場合、不透水層16の厚みが薄い部分や亀裂を通って、帯水層12Aから帯水層12Bへ蛍光染料が流出し、帯水層12Bにおいて2つの蛍光染料が混合される可能性がある。あるいは、帯水層12Bから帯水層12Aへ蛍光染料が流出し、帯水層12Aにおいて2つの蛍光染料が混合される可能性がある。
【0106】
例えば
図5Aに示すように、互いの励起波長帯域及び蛍光波長帯域が近接した蛍光染料daと蛍光染料dbとが混合されると、蛍光染料daの蛍光波長と蛍光染料dbの励起波長とが干渉しあう。これにより蛍光染料daの蛍光波長が検出し難くなる可能性がある。
【0107】
または
図5Bに示すように、互いの励起波長帯域及び蛍光波長帯域が重複した蛍光染料daと蛍光染料dcとが混合されると、蛍光染料daの蛍光波長と蛍光染料dcの励起波長とが干渉しあう。また、蛍光染料daの蛍光波長と蛍光染料dcの蛍光波長とが干渉しあう。これにより蛍光染料daの蛍光波長、蛍光染料dcの蛍光波長が検出し難くなる可能性がある。
【0108】
これらの
図5A、
図5Bに示した例のような光の干渉を抑制するため、不透水層16で隔てられた帯水層12A、12Bに用いる2つの蛍光染料は、
図5Cに示す蛍光染料da、ddのように、お互いの励起波長帯域及び蛍光波長帯域が十分に離れているものを選定することが好ましい。なお、蛍光染料daの蛍光波長が検出し難くなる光の干渉として
図5A、
図5Bに示したものは一例であり、干渉パターンはこれに限らない。例えば、蛍光染料daの励起波長と、別の蛍光染料の蛍光波長又は励起波長とが干渉すると、蛍光染料daの蛍光波長が影響を受けて検出し難くなる場合がある。
【0109】
なお、
図4(B)で示した不透水層16の厚みが十分に大きく亀裂などが無い場合、帯水層12A、12Bを浄化する浄化剤の指標剤として同じ蛍光染料を用いてもよい。同じ蛍光染料を用いても、これらの蛍光染料が混合される可能性は低い。
【0110】
また、第1~第5実施形態においては、
図1A、
図1Bに示す遮水壁28の材質を鋼製矢板(シートパイル)としているが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば凍土、粘土、コンクリート、セメント改良体等を用いることができる。また、遮水壁28は必ずしも設ける必要はない。遮水壁28を設けない場合は、地下水の流れの上流側に注水井戸24を配置し、下流側に揚水井戸22を設置することが望ましい。これにより、注水井戸24から地下地盤10に注入した注入液を円滑に地下地盤10へ浸透させることができる。
【0111】
また、第1~第5実施形態においては、
図1A、
図1Bに示す水処理・加温装置32において、地下水に空気を送り込むことで水質改善するものとしたが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば水質改善の方法として、地下水に浄化剤を添加し反応させて水質改善する方法、地下水に含まれる汚染物質を吸着することで地下水と汚染物質との分離を図る方法などを用いてもよい。
【0112】
浄化剤として汚染物質を生物分解する分解微生物を用いて地下水を浄化する場合には、栄養塩や酸素を混入したり、新たに分解微生物を混入したりしても良い。さらに、注水井戸24による注入液の注入を円滑に実施するため、凝集剤を混入したりしても良い。
【0113】
また、第1~第5実施形態においては、ヒーターにより水処理・加温装置32で浄化された地下水を加温するものとしたが、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば空調機器(図示省略)の熱媒体と、水処理・加温装置32で浄化された地下水とを熱交換させることにより地下水を加温しても良い。さらに、汚染地盤E上又は近傍の建物からの排熱や蒸気などを利用して加温してもよい。なお、分解微生物が所定の活性で活動している場合等は、加温は必ずしも必要ではない。
【0114】
なお、上述した各実施形態における地盤注入剤濃度推定システムは、地下地盤10に含まれる汚染物質を分解するための汚染地盤浄化システム20に適用され、注入剤として浄化剤や活性剤を用いているが、本開示の実施形態はこれに限らない。
【0115】
例えば地盤注入剤濃度推定システムを、地下地盤10の液状化対策のための地盤改良システムに適用することもできる。この場合、注入剤としては過冷却水溶液、気泡混合水、固化材などが用いられ、指標剤としては、汚染地盤浄化システム20と同様に、蛍光染料、ハロゲンイオン、放射性同位体などが用いられる。あるいは、指標剤の使用に変えて地下水の温度測定により注入剤の濃度を推定することもできる。
【0116】
なお、過冷却水溶液は、エリスリトール、酢酸ナトリウム3水塩、酢酸ナトリウム10水塩などの水溶液であり、過冷却状態で地下地盤10へ注入され、地下水における過冷却水溶液の濃度が所定の濃度に到達した時点で、結晶を投入又は刺激を加えて結晶化させる。これにより地下地盤10を固化させて地盤改良する。
【0117】
また、気泡混合水は、水にファインバブル(直径100μm以下の気泡)、マイクロバブル(直径1~100μmの気泡)又はウルトラファインバブル(直径1μm以下の気泡)を混合した液体であり、これを地下地盤10へ注入することで、地下地盤10における地下水に所定の濃度の気泡を含ませ不飽和状態にする。これにより、地震時における地下地盤10の粒子間の間隙水圧の上昇を抑制し、液状化を発生しにくくすることができる。
【0118】
また、固化材としては、粘土・セメント系(ベントナイト、セメントなど)、超微粒子系(ハイブリッドシリカ(登録商標)など)、特殊スラグ系(シラクソル(登録商標)-UFなど)などの懸濁液型非水ガラス系固化材、アルカリ性(RMG-S5など)、中性・酸性(クリーンファームなど)の懸濁液型水ガラス系固化材、アルカリ性(アルシリカ(登録商標)など)、中性・酸性(ハードライザー(登録商標)など)、特殊中性・酸性(エコリヨン(登録商標))、特殊シリカ(エコシリカ(登録商標)など)などの水ガラス系溶液型無機系固化材、アルカリ性(RSG-3)の水ガラス系溶液型有機系固化材などを用いることができる。
【0119】
さらに、地盤注入剤濃度推定システムは、地下地盤10の地中熱を利用するための蓄熱システムに適用することもできる。この場合、注入剤としては過冷却水溶液などの蓄熱材が用いられ、指標剤としては、汚染地盤浄化システム20と同様に、蛍光染料、ハロゲンイオン、放射性同位体などが用いられる。
【0120】
なお、過冷却水溶液として用いられるエリスリトール、酢酸ナトリウム3水塩、酢酸ナトリウム10水塩などは、水やコンクリートと比較して大きな熱容量を備えているため、蓄熱材としての機能を発揮しやすい。
【0121】
さらに、地盤注入剤濃度推定システムは、地下地盤10を掘削する際に地下水位を低下させるための遮水システムに適用することもできる。この場合、注入剤としては過冷却水溶液や固化材が用いられ、指標剤としては、汚染地盤浄化システム20と同様に、蛍光染料、ハロゲンイオン、放射性同位体などが用いられる。あるいは、指標剤に変えて、地下水の温度を測定することにより注入剤の濃度を推定することもできる。
【0122】
このように、本開示に係る地盤注入剤濃度推定システムは、様々な態様で実施することができる。
【0123】
2016年11月14日に出願された日本国特許出願2016-221687号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載されたすべての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。