(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20220906BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220906BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20220906BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20220906BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
A23L2/00 G
A23L2/00 E
A23L2/02 A
A23L2/02 B
A23L2/02 C
A23L2/02 E
A23L19/00 A
A23L19/00 Z
C12N9/10
(21)【出願番号】P 2021007740
(22)【出願日】2021-01-21
(62)【分割の表示】P 2019043612の分割
【原出願日】2015-11-30
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2014249258
(32)【優先日】2014-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591014581
【氏名又は名称】日本オリゴ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】市川 晋太郎
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特許第6829277(JP,B2)
【文献】特許第6529515(JP,B2)
【文献】特開2005-013197(JP,A)
【文献】特開平08-173109(JP,A)
【文献】特表2009-516527(JP,A)
【文献】特表2010-518817(JP,A)
【文献】特許第3173805(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0216652(US,A1)
【文献】Biotechnology Letters ,1995年,Vol.17, No.7,pp.741-744
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラクトオリゴ糖を糖組成で2.6%以上含み、二糖を糖組成で39.5%以下含み、粘度が1.559mPa/s以上であり、かつ、濁度が187以上である、低カロリー化果汁であって、果汁がオレンジ果汁、グレープフルーツ果
汁およびマンゴー果汁からなる群から選択される、前記低カロリー化果汁。
【請求項2】
オレンジ果汁であり、フラクトオリゴ糖を糖組成で6%以上含み、二糖を糖組成で39.5%以下含み、かつ、濁度が238以上である、請求項1に記載の低カロリー化果汁。
【請求項3】
グレープフルーツ果汁であり、フラクトオリゴ糖を糖組成で2.6%以上含み、二糖を糖組成で20.7%以下含む、請求項1に記載の低カロリー化果汁。
【請求項4】
マンゴー果汁であり、フラクトオリゴ糖を糖組成で8.2%以上含み、二糖を糖組成で20.7%以下含み、かつ、濁度が471以上である、請求項1に記載の低カロリー化果汁。
【請求項5】
フラクトオリゴ糖を糖組成で4.7%以上含み、二糖を糖組成で11.7%以下含み、粘度が1.559mPa/s以上であり、かつ、濁度が52以上である、低カロリー化リンゴ果汁。
【請求項6】
100%果汁飲料である、請求項1
~4のいずれか一項に記載の低カロリー化果汁
又は請求項5に記載の低カロリー化リンゴ果汁。
【請求項7】
果汁のミックスジュース又は野菜汁のミックスジュース或いは果汁及び野菜汁のミックスジュースを、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理することを特徴とする低カロリー化ミックスジュース飲料の製造方法。
【請求項8】
果汁のミックスジュース又は野菜汁のミックスジュース或いは果汁及び野菜汁のミックスジュースを、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理することにより、前記ミックスジュースに含まれる蔗糖からフラクトオリゴ糖を生成することを特徴とするミックスジュースの低カロリー化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁或いは野菜汁の香味及び汁液特性を維持しつつ、果汁或いは野菜汁のカ
ロリーを低減化した低カロリー化果汁或いは野菜汁、該果汁或いは野菜汁を含有する飲料
及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
果汁或いは野菜汁飲料は、旧来よりその香味、さらには健康維持・増進、美容・美肌へ
の寄与といった観点で広く好まれてきた。実際に、果汁或いは野菜汁飲料には、各種栄養
素に加え、ビタミン類、ミネラル、食物繊維といった健康機能性素材が多く含まれている
。
【0003】
果汁・野菜汁飲料のうち、基本的に果汁或いは野菜汁のみからなる飲料、すなわち、1
00%の果汁或いは野菜汁飲料は、その香味、ナチュラル感、健康機能性に対する期待値
の高さから特に好まれる。
【0004】
一方で、近年のダイエット志向や食生活における健康志向の高まりを受けて、飲料分野
においても低カロリー飲料の市場が定着してきており、果汁或いは野菜汁飲料においても
、この方向から低カロリー化、低糖類化の要望が高まりつつある。
【0005】
一般に飲料を低カロリー化する場合、単に甘味料として添加する蔗糖や異性化糖の添加
量を抑制することや、蔗糖や異性化糖に代えて、各種糖アルコール等の低カロリー甘味料
やスクラロース等の高甘味度甘味料を用いることにより、カロリーを低減さらにはゼロに
調整することが可能である。しかしながら、果汁或いは野菜汁飲料の場合には、果汁或い
は野菜汁自体が本来蔗糖や果糖等の糖類を含有しており、糖類を減らすために果汁或いは
野菜汁それ自体の使用量を低減すると、本来持っていた香味や各種栄養素、元来有する健
康機能性を同じだけ損なってしまう。
【0006】
そこで、果汁或いは野菜汁中の糖類を選択的に除去する試みがされている。例えば、特
許文献1では、果汁を限外濾過膜で濾過し、糖類が低減された浸透果汁に濾過していない
果汁を混合する等することにより、低カロリージュースを製造する方法が開示されており
、特許文献2には、限外濾過膜およびナノ濾過膜を組み合わせて利用することで、糖酸比
が高い或いは糖類濃度が低い果汁を得る方法が開示されている。しかしながら、これら方
法では糖類とともに他の低分子成分も非選択的に除去されてしまうため、果汁或いは野菜
汁が本来有する風味が削がれてしまう問題があった。
【0007】
一方、果汁或いは野菜汁中の糖類を、酵素処理によってカロリーがより低い物質に変換
する試みもなされている。特許文献3には、人参汁や、サトウキビ搾汁液のような蔗糖を
含有する農産物を原料として、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のような
微生物から調製されたフラクトシルトランスフェラーゼ活性を有する粗酵素剤を作用させ
て、フラクトオリゴ糖が生成、含有された液状食品素材を製造する方法について、また、
特許文献4には、果汁のような蔗糖を含有する飲食品中の該蔗糖を、アスペルギルス・ジ
ャポニカス(Aspergillus japonicus)由来のフラクトシルトランスフェラーゼ活性を有
する粗酵素剤で処理して、蔗糖の濃度レベルの低減と、フラクトオリゴ糖の生成による可
溶性食物繊維の濃度レベルの向上とを同時に実現したジュース等の飲食品について開示さ
れている。
【0008】
ここで、フラクトオリゴ糖とは、フルクトースがβ-(2,1)結合により蔗糖と結合
したオリゴ糖で、蔗糖と比較してカロリー、甘味ともに約半分であり、食物繊維様の特性
をもち、乳酸菌やビフィズス菌の増殖促進、腸内の微生物群の促進、病原菌の抑制、腸活
動の促進、及び免疫強化等の生理機能、健康機能を有することが知られている。上記特許
文献3、4は、蔗糖含量を低減させることで糖類、カロリーを低減しつつ、健康機能性を
有するフラクトオリゴ糖を生成させることで新たな価値をもたらす非常に有望な技術であ
ると考えられるが、これら技術が実際の飲料製造に用いられ商品として市販された事例は
知られていない。
【0009】
その他、酵素による糖の変換を利用した技術として、特許文献5では、果実の圧搾ジュ
ース、或いは破砕ピューレに、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas・mobilis)由来のレ
バンスクラーゼ活性を有する粗酵素剤を作用させて、原材料の果実ジュース又はピューレ
中で糖鎖が10以上連なったレバンを生成させる方法について開示されている。レバンは
フラクトオリゴ糖同様に蔗糖と比較してカロリーが半分であり、この方法によって低カロ
リーの果実ジュース又はピューレを得ることが出来るものの、レバンはフラクトオリゴ糖
ほど明確な健康機能性も持ち合わせていない他、甘味を示さないため飲料の味質低下が避
けられない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平10-271980号公報
【文献】特表平6-503480号公報(特許第2725889号公報)
【文献】特開平8-173109号公報(特許第2852206号公報)
【文献】特表2009-516527号公報
【文献】特表2010-518817号公報(特許第5094880号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、果汁或いは野菜汁の香味及び汁液特性を十分に維持しつつ、該果汁或
いは野菜汁を含む飲料の糖類ひいてはカロリーを低減化し、加えて、該果汁或いは野菜汁
を含む飲料と比較してより健康機能性が高められた、フラクトオリゴ糖含有低カロリー化
果汁或いは野菜汁飲料を提供することにある。ここで言及する低カロリー化又はカロリー
低減化は低糖類化又は糖類低減化を内包している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、果汁或いは野菜汁をフラクトシルトランスフェ
ラーゼ粗酵素剤で処理し内在する蔗糖をフラクトオリゴ糖へインサイチュウ変換しつつ飲
料の低カロリー化を図る方法について検討する中で、従来、該酵素反応に用いられたフラ
クトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤は、該酵素剤が併せ持つ他の酵素活性によって果汁
或いは野菜汁の清澄化や濃厚感の低下をもたらし、香味及び汁液特性に悪影響を生じる課
題があったことを見出し、該問題を解決するために、ペクチナーゼ活性を実質的に有さず
清澄化を引き起こさないフラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤を見出し、利用するこ
とにより、果汁或いは野菜汁の香味及び汁液特性の変更を抑制し、該香味及び汁液特性を
維持した低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料を製造することが可能であることを見出し、
本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、果汁或いは野菜汁を、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラ
クトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理したことを特徴とする、フラクトオリゴ糖を
含有し、果汁或いは野菜汁の香味及び汁液特性を維持した低カロリー化果汁或いは野菜汁
、該低カロリー化果汁或いは野菜汁を含有する飲料、およびそれらの製造方法を含む。
【0014】
本発明は、果汁或いは野菜汁を、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルト
ランスフェラーゼ粗酵素剤で処理することを特徴とする、果汁或いは野菜汁の香味及び汁
液特性を維持した低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料の製造方法の発明を包含する。
【0015】
本発明は、果汁或いは野菜汁を、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラクトシルト
ランスフェラーゼ粗酵素剤で処理することにより、果汁或いは野菜汁の香味及び汁液特性
を維持しつつ、果汁或いは野菜汁に含まれる蔗糖をフラクトオリゴ糖へ特異的に変換する
ことを特徴とする、果汁或いは野菜汁の香味及び汁液特性を維持した果汁或いは野菜汁飲
料の低カロリー化方法の発明を包含する。
【0016】
すなわち具体的には本発明は、[1]果汁或いは野菜汁を、ペクチナーゼ活性を実質的
に有さないフラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理したことを特徴とする低カロ
リー化果汁或いは野菜汁飲料や、[2]果汁或いは野菜汁飲料が、100%の果汁或いは
野菜汁飲料であることを特徴とする[1]に記載の低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料や
、[3]果汁或いは野菜汁の、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフラトシルトランス
フェラーゼ粗酵素剤による処理が、果汁或いは野菜汁に含まれる蔗糖からフラクトシルト
ランスフェラーゼによりフラクトオリゴ糖を生成することによる低カロリー化処理である
ことを特徴とする[1]又は[2]に記載の低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料や、[4
]果汁或いは野菜汁が、オレンジ果汁、グレープフルーツ果汁、リンゴ果汁、ニンジン汁
から選択される1又は2以上の果汁或いは野菜汁を含むことを特徴とする[1]~[3]
のいずれかに記載の低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料や[5]低カロリー化果汁或いは
野菜汁飲料が、容器詰果汁或いは野菜汁飲料であることを特徴とする[1]~[4]のい
ずれかに記載の低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料からなる。
【0017】
また、本発明は、[6]果汁或いは野菜汁を、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフ
ラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理することを特徴とする低カロリー化果汁或
いは野菜汁飲料の製造方法や、[7]果汁或いは野菜汁を、ペクチナーゼ活性を実質的に
有さないフラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理することにより、果汁或いは野
菜汁に含まれる蔗糖からフラクトオリゴ糖を生成することを特徴とする果汁或いは野菜汁
の低カロリー化方法からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、100%の果汁或いは野菜汁飲料のような、果汁或いは野菜汁飲料において
、果汁或いは野菜汁の香味及び汁液特性を維持しつつ、該果汁或いは野菜汁飲料のカロリ
ーを低減化した低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施例における「各種粗酵素剤による果汁処理試験」において、各種酵素処理を実施したオレンジ果汁の清澄化状況を示す図である。
【
図2】本発明の実施例における「清澄化と濁度の関係」の試験において、オレンジ果汁、グレープフルーツ果汁、リンゴ果汁の濁度と清澄化程度の関係を示す図である。図中、[2-A]はオレンジ果汁について、[2-B]はグレープフルーツ果汁について、及び、[2-C]はリンゴ果汁について、それぞれの実測濁度における。清澄化の外観状況についての写真を示す。
【
図3-1】本発明の実施例における「FTase粗酵素処理果汁の外観及び官能評価」の試験において、各種酵素処理オレンジ果汁の官能評価結果を示すグラフである。「甘味」についての官能評価結果を示す。
【
図3-2】本発明の実施例における「FTase粗酵素処理果汁の外観及び官能評価」の試験において、各種酵素処理オレンジ果汁の官能評価結果を示すグラフである。「酸味」についての官能評価結果を示す。
【
図3-3】本発明の実施例における「FTase粗酵素処理果汁の外観及び官能評価」の試験において、各種酵素処理オレンジ果汁の官能評価結果を示すグラフである。「濃厚感」についての官能評価結果を示す。
【
図3-4】本発明の実施例における「FTase粗酵素処理果汁の外観及び官能評価」の試験において、各種酵素処理オレンジ果汁の官能評価結果を示すグラフである。「外観」についての官能評価結果を示す。
【
図3-5】本発明の実施例における「FTase粗酵素処理果汁の外観及び官能評価」の試験において、各種酵素処理オレンジ果汁の官能評価結果を示すグラフである。「おいしさ」についての官能評価結果を示す。
【
図3-6】本発明の実施例における「FTase粗酵素処理果汁の外観及び官能評価」の試験において、各種酵素処理オレンジ果汁の官能評価結果を示すグラフである。「総合評価」についての官能評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<製造に用いる果汁或いは野菜汁>
本発明の低カロリー化果汁或いは野菜汁の製造に用いられる果汁の原料としては、蔗糖
を含む果汁であればよく、オレンジ(みかんを含む)、グレープフルーツ、リンゴ、ブド
ウ、ピーチ、イチゴ、バナナ、パイナップル、マンゴーの果汁、その他果実飲料品質表示
基準に記載されている果汁を挙げることができ、特に好ましい果汁の原料としては、オレ
ンジ、グレープフルーツ、リンゴである。また、野菜汁の原料としては、蔗糖を含む野菜
汁ならよく、ニンジン、ホウレンソウ、玉ねぎ、トマト、セロリー、パプリカ、カボチャ
、コーン等の野菜汁を挙げることができ、特に好ましい野菜汁の原料としては、ニンジン
である。
【0021】
本発明の低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料の製造に用いられる果汁或いは野菜汁は、
上記果汁の原料或いは野菜汁の原料それぞれのうち2以上のミックスジュースとしても良
く、また、果汁と野菜汁が混合されたミックスジュースとしても良い。
【0022】
果汁或いは野菜汁の香味と汁液特性を重視する観点から、果汁或いは野菜汁本来が持つ
混濁した色調と濃厚感を維持したものであることが望ましい。本発明の低カロリー化果汁
或いは野菜汁飲料の製造に用いられる果汁或いは野菜汁は、ストレートまたは濃縮物のい
ずれも用いることができる。また、目的とする果汁或いは野菜汁飲料が低濃度の場合には
、水または他の飲用可能な液体と混合した希釈果汁或いは野菜汁を用いることもできる。
【0023】
<粗酵素剤>
本発明の低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料の製造に用いられる粗酵素剤は、蔗糖からフ
ラクトオリゴ糖を生成させる活性を有し、且つ、ペクチナーゼ活性を実質的に有さないフ
ラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤である。ここで、「ペクチナーゼ活性を実質的に
有さない」とは、果汁或いは野菜汁を処理した場合に顕著な清澄化作用または粘度低下作
用を引き起こす活性を有さないことを指し、具体的には本明細書実施例中の試験1に記載
のオレンジ果汁を用いた酵素処理試験を行った場合に、フラクトオリゴ糖を糖組成比10
%以上生成し、且つ、処理後濁度が処理前に対して35%以上維持される場合にペクチナ
ーゼ活性を実質的に有さないとする。また、ここで「粗酵素剤」とは、食品の工業生産用
に販売される酵素剤で一般的に採用される、比較的安価且つ安全な試薬や濾過膜分離等の
分離抽出手段により得られる酵素剤を意味し、液体クロマトグラフィー等による分画精製
といった高度且つ高コストな分離精製手段を用いて調製された酵素剤は含まない。本発明
の粗酵素剤は、本明細書実施例中の試験1に開示される製造方法に従って調製することが
できる。
【0024】
<粗酵素剤の処理方法、低カロリー化果汁或いは野菜汁の製造方法>
本発明で低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料の製造に用いられる粗酵素剤の処理は、果汁
或いは野菜汁中の蔗糖1gあたり1U以上を目安に添加する。好ましくは5U/1g蔗糖
、特に好ましくは10U/1g蔗糖である。粗酵素剤添加後25℃で24時間を目安に反
応させるが、温度と時間は果汁或いは野菜汁の種類や酵素添加量にあわせ適宜調整が可能
であり、高温での長時間反応は糖の分解を招くことに留意する。ミックスジュースなどの
ように2以上の果汁或いは野菜汁を用いる場合にはそれぞれを粗酵素剤処理したのちに混
合する場合、それぞれを混合したのちにまとめて粗酵素剤処理する場合のいずれの方法も
用いることができる。濃縮果汁或いは野菜汁に処理する場合には、濃縮前、濃縮中、濃縮
後のいずれのタイミングで処理しても良い。
【0025】
<低カロリー化果汁或いは野菜汁>
本発明の低カロリー化果汁或いは野菜汁は、果汁或いは野菜汁を、ペクチナーゼ活性を実
質的に有さないフラクトシルトランスフェラーゼ粗酵素剤で処理することにより得られ、
フラクトオリゴ糖を含有し、果汁或いは野菜汁の香味及び汁液特性を維持した低カロリー
化果汁或いは野菜汁である。本発明の低カロリー化果汁或いは野菜汁中のフラクトオリゴ
糖含量は、果汁或いは野菜汁の種類とその蔗糖含量、粗酵素剤の処理程度により調製でき
るが、フラクトオリゴ糖の有効量は3~8g/dayと言われており、整腸作用等の健康
機能性付与の観点からは、ジュースのBrixを果実飲料品質表示基準または果実飲料の
日本農林規格に従って100%に調節した時に0.6g/100ml以上、好ましくは1
.2g/100ml以上となるよう含有させると良い。
【0026】
本発明の低カロリー化果汁或いは野菜汁はその濁度或いは粘度が高く維持される。酵素
処理前の果汁或いは野菜汁の濁度に対する酵素処理後の濁度の比率、すなわち濁度維持率
は35%以上、好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上である。本発明の低カ
ロリー化果汁或いは野菜汁は、濃縮工程を経ないストレート、又は、保存及び輸送効率を
考慮し例えばBrix33°や66°などの濃縮果汁或いは野菜汁としても良い。
【0027】
<飲料及びその製造法>
本発明における果汁或いは野菜汁飲料は、本発明の低カロリー化果汁或いは野菜汁を含有
する飲料であり、本発明の低カロリー化果汁或いは野菜汁からなる飲料を含む。好ましく
は、本発明の低カロリー化果汁或いは野菜汁を100%果汁或いは100%野菜汁相当の
Brix値に調整した、100%の果汁或いは野菜汁飲料を挙げることができる。また、
各種糖アルコール、スクラロース或いはアセスルファムK等の低カロリーまたはノンカロ
リーの高甘味度甘味料の他、酸味料、増粘剤等飲料に添加可能な食品添加物を適宜添加し
ても良い。PETボトルや紙容器等に充填・殺菌された容器詰飲料とすることもできる。
原料果汁或いは野菜汁に酵素処理を行う以外、従来の果汁或いは野菜汁飲料と製法に違い
は無いため、「ソフトドリンクス」(株式会社光琳)等関連書籍を参照して製造すること
ができる。
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に
限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
<試験例1:各種粗酵素剤による果汁処理試験>
フラクトシルトランスフェラーゼ活性を有する各種粗酵素剤を調製し、果汁に処理し、
その酵素活性や処理済果汁の汁液特性に与える影響を比較した。
【0030】
(酵素の調製・入手)
特許文献4で望ましいFTase活性を有する粗酵素剤として記載のある市販の粗酵素
剤Pectinex Urtra SP-L(ノボザイム社)を入手した(粗酵素剤SP-L)。次に、
特許文献3でフラクトシルトランスフェラーゼ(FTase)生産株として記載されており、
実施例に使われているAspergillus・niger IAM2020株を入手した(この株はJC
Mに移管されており、JCM5546として保管されている。ここでは2020株と表記
する。)。この2020株を特許文献3の実施例5に記載の方法に準じて培養および抽出
し、粗酵素剤2020株を得た。すなわち、ペプトン1w/v%、 肉エキス1w/v%
、NaCl0.5w/v%を含む溶液をオートクレーブし培養液とした(培地(2):特
許に記載の培地No.)。ここに植菌し、30℃で9日間静置培養した。菌体を回収し、
湿重量の4倍のPBSを添加し、ホモジェナイザーで菌を破砕した。これを2日放置し、
消化液を限外濾過フィルターで5倍に濃縮し、これを粗酵素液とした。また、フラクトオ
リゴ糖含有シロップの製造方法を開示した特許第3173805号公報で用いられている
オウレオバシジウム属菌(FERM-P No.4257として寄託されている)から、
同特許公報に記載の培養・抽出方法を用いて粗酵素剤ABを得た。
【0031】
(粗酵素剤のフラクトシルトランスフェラーゼ活性測定)
10%の蔗糖を含有するpH5.0の40mMの酢酸ナトリウム緩衝液に調製・入手し
た各粗酵素を添加し、40℃で反応させた。1時間後に酵素を熱失活させ、HPLCで糖
組成を分析した。転移活性(Ut)はケストース及びニストースの生成量、分解活性(U
h)はフルクトースの生成量を測定して算出した。Uの定義は一般的な定義である、1分
あたり1μmolの分子を生成する酵素活性とした。
【0032】
(オレンジ果汁との反応)
濃縮オレンジ果汁(Brix33)100gに対して準備した計4種のFTase粗酵
素剤SP-L、2020株、ABをそれぞれ100U添加し、25℃で24時間反応させ
た。反応後、酵素を熱失活させ、Brix11に調整して各種測定を行った(粗酵素剤S
P-L、2020株、AB)。酵素を添加していない対象区も設けた。
【0033】
(果汁中の糖組成分析)
各サンプル果汁或いは野菜汁中に含まれる糖の組成はHPLC(島津製作所)で以下の
条件で分析した。すなわち、各サンプル汁液を水で希釈し、糖が2%程度含まれる溶液と
した。遠心上清をフィルター濾過し、濾液をアセトニトリルと混合し、50%アセトニト
リル溶液とした。これをHPLCで分析することにより糖濃度を算出した。HPLC分析
のカラムはAsahipakNH2P-50 4E (Shodex) を使用し、カラム温度は30℃、流
速は1 ml/min、移動相は70%アセトニトリル溶液とした。糖の検出には示差屈折率検
出器を用いた。
【0034】
(濁度測定)
酵素反応で得られた果汁を4℃で2日間放置し、外観の判定(清澄化有無)を行った。
また、濁度は各サンプルを常温にて800gで10分間遠心し、上清のOD650を分光
光度計(GeneQuant 1300、GE社)でODを測定した後、カオリン濁度標準液100
0度(和光純薬工業)の希釈液のOD測定から得られたOD-濁度補正式に基づき濁度に
変換した。
【0035】
(清澄化有無)
外観観察により、清澄化が明らかに認められる場合は「有」、Controlと比較して区別
がつかない場合は「無」として判定した。
【0036】
(結果)
結果を表1に示す。また、反応後各サンプルの清澄化有無について
図1に示す。
【0037】
【0038】
粗酵素剤SP-L、2020株、ABのいずれの区においても、フラクトオリゴ糖の生
成が確認された。特許文献3の記載に準じて調製した粗酵素剤B(2020株由来)は、
当該公報記載レベルのFTase活性(5.1Ut/ml、1.5Uh/ml、3.4U
t/Uh)を有していたものの、今回得た他の粗酵素剤と比較してFTase活性が低く
不十分であった。濁度については、粗酵素剤SP-Lおよび2020株で対照区と比較し
て顕著に低下しており、外観上も清澄化してしまっていた。このような清澄化はこれら酵
素がFTase活性と同時に有しているペクチナーゼ活性によって引き起こされたものと
考えられる。一方、粗酵素剤ABでは対照区と比較しても十分な濁度を維持しており、外
観上も清澄化は認められなかった。
【0039】
以上から、従来、果汁或いは野菜汁に処理されていた粗酵素剤は果汁を清澄化させる作
用を併せ持ち、100%の果汁或いは野菜汁と同様の汁液特性を求める観点からは、実用
上大きな課題があることが明らかとなった。また、本試験で初めて、十分なFTase活
性を有し、且つ、清澄化を起こさない、すなわち実質的にペクチナーゼ活性を有さない粗
酵素剤が存在することが明らかとなった。
【0040】
<試験2:ペクチナーゼ活性を実質的に有さないFTase粗酵素剤のスクリーニング
>
試験1において、果汁或いは野菜汁への適用が特に好適な、ペクチナーゼ活性を実質的
に有さないFTase粗酵素剤が存在することが明らかとなった。そこで保有菌株から同
様の粗酵素剤が得られるか検討した。
【0041】
(方法)
保有するアスペルギルス属菌各菌株について、試験1の粗酵素剤ABと同様に、特許第
3173805号公報に記載の培養・抽出方法(菌体を培養後、細胞膜破壊し、更に、限
外ろ過により濃縮・精製する)を用いてそれぞれ粗酵素剤を得た。得られた粗酵素剤を用
いて、試験1と同一の方法でオレンジ果汁に反応させ、糖組成、濁度の測定および清澄化
の有無を確認した。
【0042】
(結果)
検討の結果、Aspergullus japonicusの1菌株由来の粗酵素剤AJが、清澄化を起こさ
ない、すなわち実質的にペクチナーゼ活性を有さず、粗酵素剤ABと同様の高いFTas
e活性を持つことが判明し、以後の試験には粗酵素剤ABとともに用いることとした。本
試験の結果から、上記手順によるスクリーニングにより、様々な菌株から実質的にペクチ
ナーゼ活性を有しないフラクトシルトランスフェラーゼ活性を有する粗酵素剤を選抜でき
ることが示された。
【0043】
<試験3:各粗酵素剤の各種果汁での評価>
オレンジ果汁以外の果汁について各FTase粗酵素剤を評価した。
【0044】
(方法)
試験1および2で用いた「SP-L」、「AJ」、「AB」の計3種粗酵素剤を、Br
ix33に調整された濃縮オレンジ、濃縮リンゴ、濃縮グレープフルーツ果汁にそれぞれ
1U/mlとなるように添加し、25℃で24時間反応させた。90℃、10分間置き酵
素を失活させたのち、それぞれの液が100%相当になるようにBrixを調整(オレン
ジ=Brix11、リンゴ=Brix10、グレープフルーツ=Brix9)し、試験1
と同様に糖組成および濁度を測定し、清澄化の有無を確認した。
【0045】
(結果)
いずれの果汁でも表2の通りオリゴ糖が生成した。ただし、生成するオリゴ糖の量はそ
れぞれの果汁が元来含んでいる蔗糖の割合に依存し果汁間で差がみられた。また、粗酵素
剤「SP-L」を用いた場合はオレンジ果汁、グレープフルーツ果汁、リンゴ果汁全てで
清澄化が起こったのに対して、粗酵素剤AJおよびABを用いた場合は濁度の多少の減少
は観察されたが、外観上清澄化は確認できないレベルであった。
【0046】
【0047】
<試験4:清澄化と濁度の関係>
試験1で用いた粗酵素剤「SP-L」はペクチナーゼとして市販されている。本粗酵素
剤を用いてペクチナーゼ処理程度の異なる各種果汁を調製し、どの程度の濁度までであれ
ば外観上許容されるか清澄化程度の関係について試験を実施した。
【0048】
(方法)
試験1で用いた粗酵素剤「SP-L」を1U/mlとなるようBrix33に調整した
濃縮オレンジ果汁、濃縮グレープフルーツ果汁及び濃縮リンゴ果汁にそれぞれ添加し、2
5℃で24時間反応させた。90℃、10分間置き酵素を失活させたのち、それら処理済
果汁と非酵素処理果汁(Control)とを、100%果汁相当Brixまで希釈し、表3に
ある通り7000μl:0μlから0μl:7000μlまで複数段階で混合し、高から
低までの濁度段階を作成し、それぞれの濁度を測定(実測濁度)するとともに、Control
に対する濁度の比(濁度維持率:%)を算出した。また、清澄化の程度を◎:清澄化して
いないか目立たない、○:清澄化がよく抑えられている、△:清澄化が抑えられている、
×:清澄化している、の4段階で評価した。
【0049】
(結果)
オレンジ果汁は他2種果汁と比較してControlの濁度が高く、Controlに対する濁度維持
率の許容範囲が幾分広いものの、果汁の種類を問わず、非酵素処理果汁に対する濁度維持
率が35%以上の場合に清澄化が認められるものの抑えられており、程度が、50%以上
では清澄化がよく抑えられており、70%以上では清澄化していないか目立たなかった。
これら試験区では非酵素処理の果汁と比較しても汁液特性が維持されていると判断できる
。清澄化と濁度の関係についての外観状況についての写真を
図2に示す。
図2中、[2-
A]はオレンジ果汁について、[2-B]はグレープフルーツ果汁について、及び、[2
-C]はリンゴ果汁について、それぞれの実測濁度における清澄化の外観状況についての
写真を示す。
【0050】
【0051】
<試験5:FTase粗酵素処理果汁の外観及び官能評価>
FTase粗酵素剤により処理した果汁の外観及び官能評価について以下の通り試験を
実施した。
【0052】
(方法)
粗酵素剤は、SP-L及び、SP-Lと同じくFTase活性とペクチナーゼ活性を併
せ持つ「Viscozyme」(ノボザイム社、以下粗酵素剤Viscoとする)、及び、自家製
造の粗酵素剤AJ及び粗酵素剤AB、以上計4種を使用した。各粗粗酵素剤を1U/ml
となるようにそれぞれBrix33の濃縮オレンジ果汁120mlに添加し、フルクトオ
リゴ糖の濃度が7~8%程度(カテゴリーA)、12~15%%程度(カテゴリーB)、
17~20%程度(カテゴリーC)となるように25℃で4~24時間の間でそれぞれ3
段階の反応時間で反応させた。それぞれ100%果汁相当になるよう、Brix11に水
で希釈し、試飲サンプル計12サンプルとした。サンプルは瓶に入れ、ウォーターバス中
で80℃到達後10分保持して酵素活性を失活させた。対象区はBrix11に調整した
非酵素処理オレンジ果汁とした。
【0053】
(測定および官能評価)
試飲サンプルの糖組成、濁度測定、外観の観察は上記試験と同様に実施した。試飲サン
プルの粘度は果汁を8000rpm(Gmax:8340g、Gmin:4250g)で遠心し、
上清を粘度計(Automated micro viscometer, Amton Paar社製)を用いて測定した。キャ
ピラリーは1.6mm径、ボールは1.5mm径(7.850g/cm3)を用いた。官
能評価は6名の訓練されたパネラーにより行われ、評価項目は「甘味」「酸味」「濃度感
」「(オレンジジュースとしての)外観」「おいしさ」「総合評価(外観含む)」とし、
10を強い(良い)、0を最も弱い(悪い)として直線状の任意の位置に印をつけ数値化
した後、各パネラーの評点の平均値で評価した。数値が高いほど評価が高いことを示す。
【0054】
(結果)
各サンプルの糖組成、濁度、粘度について、表4に示す。また、官能評価結果を
図3に
まとめた。[
図3-1]は、「甘味」について、[
図3-2]は、「酸味」について、[
図3-3]は、「濃厚感」について、[
図3-4]は、「外観」について、[
図3-5]
は、「おいしさ」について、[
図3-6]は、「総合評価」についての可能評価結果を示
す。
【0055】
【0056】
最終的に試飲したサンプルの糖組成を分析した結果、(2)の12~15%のオリゴ糖
に調製したサンプルのうち「AJ」と「Visco」が想定よりもオリゴ糖濃度が高くなった
が、各粗酵素剤について糖組成で6%~18%程度のフラクトオリゴ糖を生成した。ペク
チナーゼ活性を有する「SP-L」と「Visco」で反応させたサンプルは、反応時間すな
わち酵素処理の軽重によらず清澄化が起こっており、濁度が大幅に低下していた。一方「
AJ」や「AB」は全てのサンプルで対照区比70%以上の濁度を維持していた。本試験
では粘度も計測したが、「SP-L」と「Visco」で反応させたサンプルは反応時間によ
らず粘度が1.3mPa/s程度まで低下しており、果汁に含まれていたペクチンがほぼ
分解されているものと考えられる。一方で「AJ」や「AB」の粘度は、反応時間と共に
低下する傾向が観察されたが、1.77~1.57mPa/sと濁度同様に維持されてい
た。
【0057】
官能評価の結果、「甘味」は糖組成の残存蔗糖量と高い相関を示し、反応時間が長くな
るにつれて低下した。また、酸味は甘味と逆相関しており、甘味が低下すると酸味を感じ
やすくなることがわかる。甘味や酸味は酵素反応時間、すなわち蔗糖の消費度に影響され
るので、専らFTase処理の程度と関連するため、粗酵素剤の種類による違いは少なか
った。一方、濃厚感については濁度および粘度とよく相関がみられた。「SP-L」や「
Visco」を用いた場合に低下し、「AJ」や「AB」では維持される傾向が確認された。
「外観」については「AJ」や「AB」はコントロールと遜色ない結果であった。「おい
しさ」についてはカテゴリAの「AJ」や「AB」はコントロールよりも高い結果となっ
た。これは甘いのが苦手で甘くないジュースを好む被験者がいた影響が大きいと考えられ
た。反応が進み蔗糖濃度が低下するに従い「おいしさ」は低下しており、「おいしさ」へ
の「甘味」の影響は大きいものと考えられるが、「SP-L」や「Visco」に比べて「A
J」や「AB」はおいしさを維持していた。これは「AJ」や「AB」が良く維持してい
る濃度感が「おいしさ」の判断に大きく影響を与えたものと考えられる。また、「外観」
を加えた総合評価ではその差はより顕著になった。
【0058】
<試験6:野菜汁での評価および官能評価>
野菜汁でのFTase粗酵素剤処理の効果を試験5と同様に評価した。
【0059】
(方法)
粗酵素剤は、SP-L及び、自家製造の粗酵素剤AJ及び粗酵素剤AB、以上計3種を
使用した。各粗酵素剤を1U/mlとなるようにそれぞれBrix33の濃縮ニンジン汁
120mlに添加し、25℃で24時間反応させた。それぞれ100%野菜汁相当になる
よう、Brix6に水で希釈し計3サンプルとした。サンプルは瓶に入れ、ウォーターバ
ス中で80℃到達後10分保持して酵素活性を失活させた。対象区はBrix6に調整し
た非酵素処理ニンジン汁とした。
【0060】
(測定および官能評価)
試飲サンプルの糖組成、濁度測定、粘度測定については試験5と同様に測定し、清澄化
有無については試験1と同様に判断した。ただし、ニンジンは高い濁度を示すため、濁度
測定にあたってはサンプルを5倍希釈した後に遠心し、上清のODを測定後、数値を5倍
して算出した。また、官能評価は濃厚感についてのみ評価を実施し、訓練されたパネラー
3名が対照区との比較により、◎同等の濃厚感が維持されている、○:濃厚感低下が抑え
られている、△:濃厚感が低下している、×:濃厚感が大きく低下している、の3段階で
評価した。
【0061】
(結果)
各サンプルの糖組成、濁度、粘度、清澄化程度、濃厚感官能評価結果について、表5に
示す。
【0062】
【0063】
ニンジンにおいても、いずれの粗酵素剤を用いても二糖(蔗糖)からフラクトオリゴ糖
の生成が見られた。なお、ニンジンはオレンジ、グレープフルーツ、リンゴといった果汁
と比較して蔗糖を多く含むことが知られており、本試験においてもフラクトオリゴ糖が多
量に生成されていた。ニンジンの場合、果汁の試験例と異なり、「SP-L」と「AJ」
及び「AB」との間に濁度には大きな違いは無く、外観上も「SP-L」含め全ての試験
区で清澄化が認められなかった。
【0064】
しかしながら、粘度については、「AJ」、「AB」がControlとほぼ同等の粘度を維
持している一方で「SP-L」は明らかに低下していた。濃厚感について評価したところ
、測定値から推測できる通り、「AJ」,「AB」は多少の濃厚感の低下はあるもののco
ntrolと比較して許容範囲であったのに対して、「SP-L」は明らかに濃厚感が低下し
ていた。なお、蔗糖が消費され甘味が低下していることから、「AJ」、「AB」粗酵素
剤処理による多少の濃厚感の低下はやむを得ないものと考えられる。
【0065】
<試験7:その他果汁・野菜の酵素処理>
本技術が特定の果汁・野菜汁に限定されず、蔗糖を含む幅広い果汁・野菜汁に応用可能
であることを確認するため、マンゴー、カボチャ、コーンの搾汁液でのFTase粗酵素
剤処理の効果を評価した。
【0066】
(方法)
それぞれの液をBrix33となるように調整し、粗酵素剤AJを1U/mlとなるよ
うに添加した。25℃で24時間反応させた後、試験6と同様の方法で酵素を失活させた
。カボチャ、コーンは原液相当のBrix(それぞれ3.5、15)に調整、マンゴーは
Brix=5に調整し、試験5と同様に糖組成、濁度、粘度を測定した。また清澄化の有
無を試験1と同様に判断した。
【0067】
(結果)
各果汁・野菜汁の糖組成、濁度、粘度、清澄化程度について表6に示す
【0068】
【0069】
試験7で評価したいずれの果汁・野菜汁においても蔗糖の割合に応じたフラクトオリゴ
糖の生成が確認された。また、濁度および粘度の低下は無いかあってもごくわずかであり
、清澄化も見られなかった。これらの結果から、オレンジやニンジンに限らず、幅広い範
囲の蔗糖を含む果汁・野菜汁に本技術が適用できると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、100%の果汁或いは野菜汁飲料のような果汁或いは野菜汁飲料において、
果汁或いは野菜汁の香味及び汁液特性を維持しつつ、該果汁或いは野菜汁飲料のカロリー
を低減化した低カロリー化果汁或いは野菜汁飲料を提供する。