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特許7136438弾性係数推定装置、弾性係数推定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】弾性係数推定装置、弾性係数推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/30 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
G01N3/30 P
G01N3/30 N
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018102123
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019207135
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390019998
【氏名又は名称】東亜道路工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(74)【代理人】
【識別番号】100119415
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 充
(74)【代理人】
【識別番号】100168310
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼橋 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 想
(72)【発明者】
【氏名】塚本 真也
(72)【発明者】
【氏名】梅田 隼
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-060611(JP,A)
【文献】国際公開第2008/032661(WO,A1)
【文献】特開2003-044827(JP,A)
【文献】特開2001-318070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0046289(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FWD(Falling Weight Deflectometer)試験の実施により得られる、路面の撓み量を含む測定データを入力する、入力部と、
道路をなす各層それぞれの弾性係数を要素とする複数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを用いて計算された、前記複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量について、前記測定データに含まれる路面の撓み量に対する適合度を示す評価スコアを算出する、スコア算出部と、
前記評価スコアに基づいて、前記複数の弾性係数セットのうち少なくとも1つ以上の弾性係数セットを選択する、選択部と、
前記選択された弾性係数セットに含まれる弾性係数を、FWD試験の実施地点における道路をなす各層の弾性係数の推定結果として出力する、出力部と、
を備え、
前記選択部は、前記評価スコアが所定の値以上である複数の弾性係数セットを出力し、
隣接するFWD試験の実施地点において推定された複数の弾性係数セットに含まれる中間層の特定層の弾性係数に対して統計処理を施して代表値を算出し、前記評価スコアが所定の値以上である複数の弾性係数セットから、前記代表値を中心とする所定の範囲に含まれている中間層の特定層の弾性係数を含む弾性係数セットを推定結果とする弾性係数セットの絞り込みを行う、絞込部をさらに備える、弾性係数推定装置。
【請求項2】
前記複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量を計算する解析部をさらに、備え、
前記解析部は、
弾性理論に基づく解析により、前記複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の歪み量を計算する、請求項1の弾性係数推定装置。
【請求項3】
道路をなす各層それぞれの弾性係数の取り得る範囲を定め、前記弾性係数の取り得る範囲から選択した各層の弾性係数を組み合わせて、前記複数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを生成する、リスト生成部をさらに備える、請求項1又は2の弾性係数推定装置。
【請求項4】
前記リスト生成部は、
前記弾性係数の取り得る範囲を網羅するように各層の弾性係数を選択し、前記弾性係数リストを生成する、請求項3の弾性係数推定装置。
【請求項5】
前記リスト生成部は、
道路をなす各層の標準的な弾性係数に基づき、前記弾性係数の取り得る範囲を定める、請求項3又は4の弾性係数推定装置。
【請求項6】
前記スコア算出部は、
前記測定データに含まれる路面の撓み量と、前記弾性係数リストを用いて計算された路面の撓み量との誤差を前記評価スコアとして算出する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の弾性係数推定装置。
【請求項7】
前記スコア算出部は、
前記測定データに含まれる路面の撓み量と、前記弾性係数リストを用いて計算された路面の撓み量との重み付き2乗誤差を前記評価スコアとして算出する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の弾性係数推定装置。
【請求項8】
前記選択部は、
FWD試験により測定された撓み量と、弾性理論による解析により計算される撓み量と、道路をなす各層それぞれの弾性係数と、前記計算された撓み量が前記測定された撓み量に適合しているか否かが判断された結果と、を教師データとして構築された学習モデルに基づき、前記少なくとも1つ以上の弾性係数セットを選択する、請求項1に記載の弾性係数推定装置。
【請求項9】
前記学習モデルを構築する、学習部をさらに備える、請求項8の弾性係数推定装置。
【請求項10】
前記学習部は、前記推定された弾性係数セットの弾性係数が修正された場合に、前記修正された弾性係数に基づき再学習を行う、請求項9の弾性係数推定装置。
【請求項11】
前記絞込部は
前記隣接するFWD試験の実施地点における特定層の特徴に合致しない弾性係数セットを削除することで、前記絞込処理を行う、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の弾性係数推定装置。
【請求項12】
前記リスト生成部は、
第1の弾性係数リストを生成すると共に、前記第1の弾性係数リストに基づき算出された評価スコアに基づき、前記第1の弾性係数リストを補完する第2の弾性係数リストを生成する、請求項3乃至5のいずれか一項に記載の弾性係数推定装置。
【請求項13】
前記リスト生成部は、
前記第1の弾性係数リストに含まれる弾性係数セットのうち、前記評価スコアが1番目と2番目に高い弾性セットの差分領域を特定し、前記特定された差分領域を網羅するように前記第2の弾性係数リストに含まれる弾性係数セットを生成する、請求項12の弾性係数推定装置。
【請求項14】
前記リスト生成部は、
前記第1の弾性係数リストに含まれる弾性係数セットの前記評価スコアが所定の値よりも低い場合に、前記第1の弾性係数リストを拡充して前記第2の弾性係数リストを生成する、請求項12の弾性係数推定装置。
【請求項15】
弾性係数推定装置において、
FWD(Falling Weight Deflectometer)試験の実施により得られる、路面の撓み量を含む測定データを入力するステップと、
道路をなす各層それぞれの弾性係数を要素とする複数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを用いて計算された、前記複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量について、前記測定データに含まれる路面の撓み量に対する適合度を示す評価スコアを算出するステップと、
前記評価スコアに基づいて、前記複数の弾性係数セットのうち少なくとも1つ以上の弾性係数セットを選択するステップと、
前記選択された弾性係数セットに含まれる弾性係数を、FWD試験の実施地点における道路をなす各層の弾性係数の推定結果として出力するステップと、
を含み、
前記選択するステップは、
前記評価スコアが所定の値以上である複数の弾性係数セットを出力するステップと、
隣接するFWD試験の実施地点において推定された複数の弾性係数セットに含まれる中間層の特定層の弾性係数に対して統計処理を施して代表値を算出するステップと、
前記評価スコアが所定の値以上である複数の弾性係数セットから、前記代表値を中心とする所定の範囲に含まれている中間層の特定層の弾性係数を含む弾性係数セットを推定結果とする弾性係数セットの絞り込みを行うステップを含む、弾性係数推定方法。
【請求項16】
弾性係数推定装置に搭載されたコンピュータに、
FWD(Falling Weight Deflectometer)試験の実施により得られる、路面の撓み量を含む測定データを入力する処理と、
道路をなす各層それぞれの弾性係数を要素とする複数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを用いて計算された、前記複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量について、前記測定データに含まれる路面の撓み量に対する適合度を示す評価スコアを算出する処理と、
前記評価スコアに基づいて、前記複数の弾性係数セットのうち少なくとも1つ以上の弾性係数セットを選択する処理と、
前記選択された弾性係数セットに含まれる弾性係数を、FWD試験の実施地点における道路をなす各層の弾性係数の推定結果として出力する処理と、
を実行させ、
前記選択する処理は、
前記評価スコアが所定の値以上である複数の弾性係数セットを出力する処理と、
隣接するFWD試験の実施地点において推定された複数の弾性係数セットに含まれる中間層の特定層の弾性係数に対して統計処理を施して代表値を算出する処理と、
前記評価スコアが所定の値以上である複数の弾性係数セットから、前記代表値を中心とする所定の範囲に含まれている中間層の特定層の弾性係数を含む弾性係数セットを推定結果とする弾性係数セットの絞り込みを行う処理を含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性係数推定装置、弾性係数推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
舗装された道路の物理量を取得して、当該道路の状態を評価する際に、FWD(Falling Weight Deflectometer)試験が用いられる(例えば、特許文献1参照)。FWD試験では、評価対象となる路面に重りを落下し、その衝撃で発生する撓みをセンサ(撓みセンサ)により測定する。
【0003】
その後、FWD試験により得られた測定を用いた解析が行われる。当該解析では、複数層から構成される道路の各層における弾性係数を推定する。具体的には、FWD試験により得られた撓み量から道路の各層における弾性係数が推定される。なお、当該測定された撓み量からの弾性係数の推定は、多層弾性理論等の弾性理論に基づき行われる。多層弾性理論を初めとした弾性理論による解析は、道路上の任意の点に生じる応力、歪み、撓みを弾性理論から計算し解析する手法である。例えば、道路を構成する各層の材料を、弾性体の層と仮定する多層弾性理論による解析や、道路を構成する各層の材料を弾性体と仮定し微小な要素で表現する有限要素法による解析が、上記弾性理論による解析として用いられる。上記解析(測定された撓み量から弾性係数を推定)は、FWD試験により得られた沈下データから逆に弾性係数を求める逆解析である。
【0004】
非特許文献1には、FWD試験の結果を用いて弾性係数を推定するために使用されるソフトウェアが開示、提供されている。非特許文献1に開示されたソフトウェアに各層の弾性係数(仮定された弾性係数)を入力すると、当該入力された弾性係数に応じた撓み量が出力される。つまり、非特許文献1には、弾性係数から各層の撓み量を計算する(順解析する)ソフトウェアが開示されている。
【0005】
作業者は、当該出力された撓み量とFWD試験により得られた撓み量を比較し、上記ソフトウェアによる解析結果がFWD試験の結果に適合するか否かを判断する。作業者が、解析結果とFWD試験の結果が適合していない(一致していない)と判断すれば、上記ソフトウェアに入力する各層の弾性係数を変更し、再び上記2つの撓み量(解析結果の撓み量、FWD試験による撓み量)の比較を行う。
【0006】
2つの撓み量が略一致すると判断されると、推定された弾性係数と標準的な弾性係数の値(道路の状態が正常時の弾性係数の値)が比較され、道路を構成する部材の評価(構成材の劣化、損傷の判定)が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平08-060611号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】舗装工学委員会、“1. General Analysis of Multi‐layered Elastic Systems (GAMES)”、2018年4月12日、[online]、[平成30年4月12日検索]、インターネット〈URL:http://www.jsce.or.jp/committee/pavement/downloads/〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
なお、上記先行技術文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。以下の分析は、本発明者らによってなされたものである。
【0010】
多層弾性理論等の弾性理論に基づく計算によれば、撓み量から直接弾性係数を導出することができない。そのため、上述のように、作業者がソフトウェアに入力する弾性係数の値を仮定する工程が道路の状態評価のフローに含まれている。
【0011】
しかし、弾性係数を仮定する手法、弾性係数を修正する手法、弾性係数を再設定する手法等は確立されたものはなく、解析を実施する作業者(評価者、解析者)の経験に基づき弾性係数が変更されているのが実情である。つまり、解析に用いる弾性係数の変更は、作業者の経験則に基づく主観的なプロセスとなっている。
【0012】
また、解析結果(推定された撓み量)と試験結果(FWD試験による撓み量)の適合、不適合の判断も作業者の経験則に基づき行われている。そのため、作業者が最終的に決定した解析結果よりも適合度の高い弾性係数が存在する可能性がある。つまり、最終的に解析結果を採用するか否かの判断も作業者の経験則に基づく主観的なプロセスとなっている。
【0013】
以上のように、道路評価には主に2つの主観的プロセスが存在し、作業者によっては弾性係数の推定(特定)に多くの時間を費やしたり、精度のよい弾性係数を得ることが困難であったりする。
【0014】
本発明は、短時間で精度の高い弾性係数を推定することに寄与する、弾性係数推定装置、弾性係数推定方法及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明乃至開示の第1の視点によれば、FWD(Falling Weight Deflectometer)試験の実施により得られる、路面の撓み量を含む測定データを入力する、入力部と、道路をなす各層それぞれの弾性係数を要素とする複数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを用いて計算された、前記複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量について、前記測定データに含まれる路面の撓み量に対する適合度を示す評価スコアを算出する、スコア算出部と、前記評価スコアに基づいて、前記複数の弾性係数セットのうち少なくとも1つ以上の弾性係数セットを選択する、選択部と、前記選択された弾性係数セットに含まれる弾性係数を、FWD試験の実施地点における道路をなす各層の弾性係数の推定結果として出力する、出力部と、を備える、弾性係数推定装置が提供される。
【0016】
本発明乃至開示の第2の視点によれば、弾性係数推定装置において、FWD(Falling Weight Deflectometer)試験の実施により得られる、路面の撓み量を含む測定データを入力するステップと、道路をなす各層それぞれの弾性係数を要素とする複数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを用いて計算された、前記複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量について、前記測定データに含まれる路面の撓み量に対する適合度を示す評価スコアを算出するステップと、前記評価スコアに基づいて、前記複数の弾性係数セットのうち少なくとも1つ以上の弾性係数セットを選択するステップと、前記選択された弾性係数セットに含まれる弾性係数を、FWD試験の実施地点における道路をなす各層の弾性係数の推定結果として出力するステップと、を含む、弾性係数推定方法が提供される。
【0017】
本発明乃至開示の第3の視点によれば、弾性係数推定装置に搭載されたコンピュータに、FWD(Falling Weight Deflectometer)試験の実施により得られる、路面の撓み量を含む測定データを入力する処理と、道路をなす各層それぞれの弾性係数を要素とする複数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを用いて計算された、前記複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量について、前記測定データに含まれる路面の撓み量に対する適合度を示す評価スコアを算出する処理と、前記評価スコアに基づいて、前記複数の弾性係数セットのうち少なくとも1つ以上の弾性係数セットを選択する処理と、前記選択された弾性係数セットに含まれる弾性係数を、FWD試験の実施地点における道路をなす各層の弾性係数の推定結果として出力する処理と、を実行させるプログラムが提供される。
なお、このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記録することができる。記憶媒体は、半導体メモリ、ハードディスク、磁気記録媒体、光記録媒体等の非トランジェント(non-transient)なものとすることができる。本発明は、コンピュータプログラム製品として具現することも可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明乃至開示の各視点によれば、短時間で精度の高い弾性係数を推定することに寄与する、弾性係数推定装置、弾性係数推定方法及びプログラムが、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態の概要を説明するための図である。
図2】第1の実施形態に係る道路評価システムの概略構成の一例を示す図である。
図3】道路構成の一例を示す図である。
図4】第1の実施形態に係るFWD試験の動作の一例を示すフローチャートである。
図5】第1の実施形態に係る道路評価動作の一例を示すフローチャートである。
図6】第1の実施形態に係る弾性係数推定装置の処理構成の一例を示す図である。
図7】データ入力部が取得する測定データを説明するための図である。
図8】リスト生成部により生成される弾性係数リストを説明するための図である。
図9】解析部の動作を説明するための図である。
図10】表示部の動作を説明するための図である。
図11】第1の実施形態に係る弾性係数推定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図12】第1の実施形態に係る弾性係数推定装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図13】第2の実施形態に係る弾性係数推定装置の処理構成の一例を示す図である。
図14】第2の実施形態に係る弾性係数推定装置の処理構成の一例を示す図である。
図15】第3の実施形態に係る弾性係数推定装置の処理構成の一例を示す図である。
図16】第3の実施形態に係る絞込部の動作の一例を示すフローチャートである。
図17】解析処理を並列実行する弾性係数推定装置の構成を説明するための図である。
図18】評価スコアを弾性係数リストの生成にフィードバックする弾性係数推定装置の構成を説明するための図である。
図19】評価スコアをフィードバックする弾性係数推定装置の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
初めに、一実施形態の概要について説明する。なお、この概要に付記した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、この概要の記載はなんらの限定を意図するものではない。また、各図におけるブロック間の接続線は、双方向及び単方向の双方を含む。一方向矢印については、主たる信号(データ)の流れを模式的に示すものであり、双方向性を排除するものではない。さらに、本願開示に示す回路図、ブロック図、内部構成図、接続図などにおいて、明示は省略するが、入力ポート及び出力ポートが各接続線の入力端及び出力端のそれぞれに存在する。入出力インターフェイスも同様である。
【0021】
一実施形態に係る弾性係数推定装置100は、入力部101と、スコア算出部102と、選択部103と、出力部104と、を備える(図1参照)。入力部101は、FWD(Falling Weight Deflectometer)試験の実施により得られる、路面の撓み量を含む測定データを入力する。スコア算出部102は、道路をなす各層それぞれの弾性係数を要素とする複数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを用いて計算された、複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量について評価スコアを算出する。当該評価スコアは、測定データに含まれる路面の撓み量に対する適合度を示す。選択部103は、評価スコアに基づいて、複数の弾性係数セットのうち少なくとも1つ以上の弾性係数セットを選択する。出力部104は、選択された弾性係数セットに含まれる弾性係数を、FWD試験の実施地点における道路をなす各層の弾性係数の推定結果として出力する。
【0022】
弾性係数推定装置100は、多数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを用いて多層弾性理論等の弾性理論に基づく解析の結果により得られる多数の解析データ(弾性係数セットに対応する撓み量)のなかから、測定データに適合するデータを推定結果として抽出する。弾性係数リストには、取り得る可能性がある弾性係数の組み合わせが網羅された弾性係数セットが含まれるので、作業者が「弾性係数を仮定する」という主観的プロセスは不要となる。そのため、経験の浅い作業者であっても、弾性係数推定装置100に測定データを入力することで、適切な弾性係数を短時間で取得できる。また、弾性係数推定装置100は、多数の弾性係数セットから計算される多数の解析データのうち測定データに対する適合度が所定値以上である解析データを作業者に提供する。そのため、弾性係数推定装置100により提供される各層の弾性係数は高い推定精度を有する。
【0023】
以下に具体的な実施の形態について、図面を参照してさらに詳しく説明する。なお、各実施形態において同一構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0024】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について、図面を用いてより詳細に説明する。
【0025】
図2は、第1の実施形態に係る道路評価システムの概略構成の一例を示す図である。図2を参照すると、道路評価システムは、FWD試験システム10と、弾性係数推定装置20と、を含んで構成される。
【0026】
FWD試験システム10は、FWD試験を実施するためのシステムであり、重錘11、撓みセンサ12、インターフェイス13等を含む。
【0027】
FWD試験システム10では、重錘11を落下させ、当該重錘11が路面に落下した際の衝撃により生じる路面の撓みを複数の撓みセンサ12にて計測する。複数の撓みセンサ12は、インターフェイス13と接続されている。インターフェイス13は、各撓みセンサ12の出力値をA/D(Analog to Digital)変換し、複数の撓みセンサ12による測定データ(撓み量;路面の変位量)として弾性係数推定装置20に出力する。
【0028】
FWD試験システム10は、当業者にとって明らかであるため、さらなる詳細な説明は省略する。また、以降の説明において、重錘11の直下に取り付けられた撓みセンサ12の位置を「D0」と表記する。同様に、重錘11の直下に取り付けられた撓みセンサ12の次の撓みセンサ12の位置を「D1」と表記する。
【0029】
図2に示すFWD試験システム10の構成は例示であって、その構成を限定する趣旨ではない。例えば、図2には10個の撓みセンサ12を図示しているが、撓みセンサ12の数を限定する趣旨ではない。また、インターフェイス13の機能が弾性係数推定装置20に含まれており、撓みセンサ12と弾性係数推定装置20を直接接続する構成であってもよい。
【0030】
本願開示にて評価の対象とする道路の構造は、例えば、図3のとおりとする。図3を参照すると、路体の上に路床、下層路盤、上層路盤、基層、表層の順に各層が積層されている。第1の実施形態に係る道路評価システムでは、これら5層を道路評価の対象とする。
【0031】
また、以降の説明において、各層を表層から順に、レイヤ1(L1)、レイヤ2(L2)、レイヤ3(L3)、レイヤ4(L4)、レイヤ5(L5)と表記する。
【0032】
図3に示す構造は例示であって、対象とする道路の構造を限定する趣旨ではない。6層以上の構造を持つ道路や4層以下の構造を持つ道路も本願開示の対象となるのは勿論である。
【0033】
次に、図4及び図5を参照しつつ、第1の実施形態に係る道路評価システムの動作の概略を説明する。
【0034】
図4は、第1の実施形態に係るFWD試験の動作の一例を示すフローチャートである。
【0035】
初めに、FWD試験システム10を搭載した測定車両が移動し、評価対象とする測定地点で停止する(ステップS01)。
【0036】
その後、撓みセンサ12等のセンサユニットが路面に設置される(ステップS02)。
【0037】
次に、気温、路面温度等が測定される(ステップS03)。当該温度測定は、FWD試験システム10に内蔵されたセンサを用いても良いし、作業者等が温度計を用いて測定してもよい。
【0038】
その後、FWD試験が実行される。具体的には、重錘11を落とし(ステップS04)、路面の変位が測定される(ステップS05)。なお、図4には1回のFWD試験の実施が記載されているが、実際には、1つの測定地点において複数回のFWD試験が行われることが多い。
【0039】
FWD試験が終了すると、必要な測定地点でのFWD試験が実施されたか否かが判定される(ステップS06)。
【0040】
測定すべき測定地点が残っていれば(ステップS06、No分岐)、測定車両は次の測定地点に向けて移動(ステップS07)し、ステップS01以降の処理が繰り返される。測定地点が残っていなければ(ステップS06、Yes分岐)、処理を終了する。
【0041】
図5は、第1の実施形態に係る道路評価動作の一例を示すフローチャートである。
【0042】
初めに、作業者等は、測定区間(複数の測定地点からなる区間)の道路における各層の厚み、ポアソン比等のデータを取得する(ステップS11)。当該データは、道路敷設時の設計資料や現場での測定により取得する。
【0043】
次に、作業者等は、測定区間の道路における各層の弾性係数の標準値を取得する(ステップS12)。当該弾性係数の標準値は、道路に異常が認められない場合の弾性係数の値であり、道路敷設時の資料等から決定する。
【0044】
次に、FWD試験の結果を用いて各測定地点における弾性係数の推定が行われる(ステップS13)。当該推定処理は、図2に示す弾性係数推定装置20により実行される。弾性係数推定装置20による当該処理の詳細は後述する。ステップS13の実行により、FWD試験により得られた測定データ(路面の撓み量)に適合する各層の弾性係数が得られる。
【0045】
各層の弾性係数は図4のステップS03にて取得された温度情報により補正される(ステップS14)。
【0046】
その後、作業者等は、温度補正後の弾性係数とステップS12にて準備した弾性係数を比較し、道路状態を評価する(ステップS15)。具体的には、温度補正後の弾性係数が標準的な弾性係数よりも大きく解離していれば、測定地点における道路状態は異常(例えば、道路に損傷あり)と判断される。あるいは、温度補正後の弾性係数が、標準的な弾性係数を中心とする所定の範囲内に収まっていれば、測定地点における道路状態は正常(問題なし)と判断される。
【0047】
続いて、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20について説明する。
【0048】
[装置の処理構成]
図6は、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20の処理構成(処理モジュール)の一例を示す図である。図6を参照すると、弾性係数推定装置20は、データ入力部201と、リスト生成部202と、解析部203と、スコア算出部204と、選択部205と、出力部206と、制御部207と、を含んで構成される。
【0049】
上記各処理モジュールは互いに情報交換可能に構成されている。なお、図6を含む図面において制御部207と他の処理モジュールとの接続線は図示を省略している。
【0050】
データ入力部201は、インターフェイス13が出力するFWD試験の結果を入力する手段である。具体的には、データ入力部201は、FWD試験が実施されることで得られる路面の撓み量を含む測定データを取得する。
【0051】
例えば、データ入力部201は、図7(a)に示すような測定データをインターフェイス13から取得する。図7(a)に示すとおり、測定データには、撓みセンサ12が置かれた位置(センサ位置)と当該センサ位置における撓み量が含まれる。また、各測定データと測定地点(測定座標)の対応付けを可能とするため、測定データが取得された場所に関する情報も測定データに含まれる。
【0052】
測定データに含まれるセンサ位置と撓み量の関係をグラフ化すると、図7(b)に示すような撓み曲線が得られる。なお、図7(b)ではセンサ位置D0及びFWD試験前の路面位置をXY座標系における原点に設定している
【0053】
データ入力部201は、取得した測定データをスコア算出部204に引き渡す。
【0054】
図6に説明を戻す。リスト生成部202は、弾性理論に基づく解析(例えば、多層弾性理論による解析、有限要素法による解析)にて使用する弾性係数リストを生成する手段である。リスト生成部202が生成する弾性係数リストには、道路をなす各層それぞれの弾性係数を要素とする複数の弾性係数セットが含まれる。
【0055】
リスト生成部202は、弾性係数リストを自動的に生成する。より具体的には、リスト生成部202は、道路をなす各層それぞれの弾性係数の取り得る範囲を定め、当該弾性係数の取り得る範囲から選択した各層の弾性係数を組み合わせて、複数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを生成する。例えば、リスト生成部202は、弾性係数の取り得る範囲を網羅するように各層の弾性係数を選択し、弾性係数リストを生成する。
【0056】
なお、リスト生成部202が、弾性係数の取り得る範囲から選択する弾性係数の刻み幅(分解能)は、スコア算出部204等の処理負荷等に応じて適宜決定する。つまり、1MPaごとに弾性係数を選択するのか、10MPaごとに弾性係数を決定するのかといった事項はシステム全体の負荷、処理スピード等を考慮して決定すればよい。
【0057】
ここで、図8(a)に示すように、各層について取り得る弾性係数として10個を想定した場合を考える。この場合、各層の弾性係数の組み合わせを網羅的に作成すると、図8(b)に示すような弾性係数リストが生成される。リスト生成部202は、例えば、5層それぞれの層の弾性係数が取り得る値として10個ずつを想定した場合、10個の弾性係数セットからなる弾性係数リストを生成する。
【0058】
図8に示す弾性係数リスト等は例示であって、リスト生成部202が仮定する弾性係数の範囲や生成する弾性係数セットの数を限定する趣旨ではないのは勿論である。また、各層における弾性係数の数は同じである必要もなく、上記の例では、レイヤ1の弾性係数として10個、レイヤ2の弾性係数として5個をそれぞれ用意してもよい。また、5層の全てに複数の弾性係数を用意する必要もなく、道路の状況等によっては、特定層の弾性係数には標準的な値をそのまま使用してもよい。
【0059】
このように、リスト生成部202は、各層の弾性係数が取り得る値を複数用意し、各層の弾性係数の組み合わせを網羅する弾性係数リストを生成する。
【0060】
また、リスト生成部202は、道路をなす各層の標準的な弾性係数に基づき、上記弾性係数の取り得る範囲を定めることができる。より具体的には、リスト生成部202は、各層の標準的な弾性係数を中心として所定の範囲を決定し、各層の弾性係数が取り得る弾性係数を当該所定の範囲から選択することができる。つまり、リスト生成部202は、道路が異常な状態(損傷状態)であることを想定しても現実的にあり得ない領域の弾性係数を除外してもよい。
【0061】
作業者等は、リスト生成部202が弾性係数リスト(弾性係数セット)を生成するために必要な情報を予め弾性係数推定装置20に入力しておく。例えば、上記各層の標準的な弾性係数、上記所定の範囲、上記所定の範囲における弾性係数の刻み幅(分解能)等に関する情報が予め弾性係数推定装置20に入力される。
【0062】
さらに、弾性係数推定装置20が、上記弾性係数リストを生成するために必要な情報を入力するためのGUI(Graphical User Interface)等を用意し、作業者等から適宜情報を取得してもよいことは勿論である。
【0063】
リスト生成部202は、生成した弾性係数リストを解析部203に引き渡す。
【0064】
図6に説明を戻す。解析部203は、リスト生成部202から取得した弾性係数リストを用いて多層弾性理論等の弾性理論に基づく解析を実行し、仮定された弾性係数セットに対応する撓み量を解析データとして出力する手段である。より具体的には、解析部203は、複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量を計算する。その際、解析部203は、多層弾性理論等の弾性理論に基づく解析により、複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の歪み量を計算する。つまり、解析部203は、弾性係数リストに含まれる各弾性係数セットの弾性係数を多層弾性理論等の弾性理論に基づく解析に利用する仮定された弾性係数として扱い、解析データを生成する。
【0065】
解析部203は、非特許文献1に開示されたソフトウェア、アルゴリズムにより実現できる。解析部203は、弾性係数セットに含まれる各層の弾性係数(弾性係数初期値)やFWD試験の諸条件(載荷版半径等)を入力すると、FWD試験の実施地点を中心とした各地点における撓み量を計算する。作業者等は、解析部203に入力する情報のうちFWD試験の条件等を予め弾性係数推定装置20に入力しておく。
【0066】
解析部203が出力する解析データは、弾性係数セットと対応する上記計算された各地点における撓み量からなる。解析部203が弾性係数セットの弾性係数を用いて解析を実行して得られた解析データをグラフ化すると、各弾性係数セットに対応した撓み曲線が得られる。例えば、図9に示すような、各弾性係数セットに対応した撓み曲線が得られる。ここで、仮定する各層の弾性係数が異なれば、道路を構成する各層の撓み量が異なる。その結果、図9に示すように、各弾性係数セットに応じた形状の異なる撓み曲線が得られる。
【0067】
図6に説明を戻す。スコア算出部204は、弾性係数リストを用いて計算された、複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量について、測定データに含まれる路面の撓み量に対する適合度を示す評価スコアを算出する手段である。つまり、スコア算出部204は、解析部203により計算された複数の解析データそれぞれの解析データに関し、測定データに対する適合度(類似度)を示す評価スコアを算出する。
【0068】
具体的には、スコア算出部204は、解析部203から取得した各解析データに対応する撓み曲線に関し、測定データから得られる撓み曲線への適合度を示す評価スコアを算出する。例えば、スコア算出部204は、下記の式(1)に示すように、センサ位置ごとに測定データの撓み量と解析データの撓み量の誤差(2乗誤差)を計算し、当該計算した2乗誤差の総和を各弾性係数セットの評価スコアSとして算出する。
【0069】
[式1]
【0070】
式(1)において、iは撓みセンサ12の位置を特定するサフィックスである。NはFWD試験システム10に含まれる撓みセンサ12の個数である。xは位置iにおける解析データの撓み量を示し、yは位置iにおける測定データの撓み量を示す。
【0071】
スコア算出部204は、算出した評価スコア、当該評価スコアを算出する際の基礎となったデータ(測定データ、解析データ)を選択部205に引き渡す。
【0072】
選択部205は、評価スコアに基づいて、複数の弾性係数セットのうち少なくとも1つ以上の弾性係数セットを選択する手段である。具体的には、選択部205は、算出された評価スコアが最も良い弾性係数セットを選択する。選択部205は、選択したデータ(最も評価スコアのよい弾性係数セットを含む解析データ)を出力部206に引き渡す。
【0073】
つまり、選択部205は、上記式(1)により計算される2乗誤差が最小となる解析データ(弾性係数セット、対応する撓み量)を出力部206に引き渡す。その際、選択部205は、評価スコアの最も良い弾性係数セットを抽出する際の基礎となった測定データも出力部206に引き渡す。
【0074】
出力部206は、選択部205により選択された弾性係数セットに含まれる弾性係数を、FWD試験の実施地点における道路をなす各層の弾性係数の推定結果として出力する手段である。つまり、出力部206は、選択部205から取得した弾性係数セットに含まれる各層の弾性係数を測定データから推定された弾性係数として出力する。
【0075】
例えば、出力部206は、図10に示すような画像を液晶パネル等に表示する。図10を参照すると、測定データから得られる撓み曲線と、当該測定データに適合すると推定された弾性係数と、が表示されている。さらに、出力部206は、図10に示すように、当該測定データに適合する弾性係数を抽出するにあたり、評価スコアを算出した弾性係数セットの総数や評価スコアを表示してもよい。
【0076】
なお、選択部205は、所定の値よりも評価スコアが高い複数の解析データを選択してもよい。つまり、選択部205は、測定データに類似する複数の解析データを出力部206に引き渡し、出力部206は、これらの解析データ(推定された複数の弾性係数セット)を表示してもよい。この場合、作業者等は、自らの知見に基づいて、弾性係数推定装置20から提示された複数の弾性係数セット(各層の弾性係数)のうち測定データに適合すると考えられる弾性係数を選択してもよい。
【0077】
図6に説明を戻す。制御部207は、弾性係数推定装置20の全体を制御する手段である。特に、制御部207は、図6に示す各処理モジュールの起動等を制御する。
【0078】
[ハードウェア構成]
続いて、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20のハードウェア構成を説明する。
【0079】
図11は、弾性係数推定装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。弾性係数推定装置20は、所謂、情報処理装置(コンピュータ)により実現され、図11に例示する構成を備える。例えば、弾性係数推定装置20は、内部バスにより相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)21、メモリ22、入出力インターフェイス23及び通信手段であるNIC(Network Interface Card)24等を備える。
【0080】
なお、図11に示す構成は、弾性係数推定装置20のハードウェア構成を限定する趣旨ではない。弾性係数推定装置20には、図示しないハードウェアも含まれていてもよいし、必要に応じてNIC24等を備えていなくともよい。
【0081】
メモリ22は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等である。
【0082】
入出力インターフェイス23は、図示しない入出力装置のインターフェイスとなる手段である。入出力装置には、例えば、表示装置、操作デバイス等が含まれる。表示装置は、例えば、液晶ディスプレイ等である。操作デバイスは、例えば、キーボードやマウス等である。また、インターフェイス13と接続されるインターフェイスボード等も入出力インターフェイス23に含まれる。
【0083】
上述の弾性係数推定装置20の各処理モジュールは、例えば、メモリ22に格納されたプログラムをCPU21が実行することで実現される。また、そのプログラムは、ネットワークを介してダウンロードするか、あるいは、プログラムを記憶した記憶媒体を用いて、更新することができる。さらに、上記処理モジュールは、半導体チップにより実現されてもよい。即ち、上記処理モジュールが行う機能を何らかのハードウェア、及び/又は、ソフトウェアで実行する手段があればよい。
【0084】
[装置の動作]
続いて、図面を参照しつつ、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20の動作を説明する。図12は、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20の動作の一例を示すフローチャートである。
【0085】
弾性係数推定装置20は、インターフェイス13が出力する測定データを取得する(ステップS101)。
【0086】
弾性係数推定装置20は、弾性係数リストを生成する(ステップS102)。
【0087】
弾性係数推定装置20は、生成された弾性係数リストを用いて多層弾性理論等の弾性理論に基づく解析を実行する(ステップS103)。当該解析により、弾性係数リストに含まれる複数の弾性係数セットそれぞれに対応する路面の撓み量が計算される。
【0088】
弾性係数推定装置20は、計算された撓み量(解析データ)に関する評価スコアを算出する(ステップS104)。
【0089】
弾性係数推定装置20は、評価スコアに基づき、FWD試験の実施地点における道路をなす各層の弾性係数として出力する弾性係数を選択する(ステップS105)。具体的には、弾性係数推定装置20は、算出された評価スコアが最も良い解析データに対応する弾性係数セットを上記推定結果として選択する。
【0090】
弾性係数推定装置20は、測定データから推定された弾性係数を出力する(ステップS106)。例えば、弾性係数推定装置20は、上述のように、推定結果を含む画面を液晶パネル等に表示してもよいし、推定結果を印刷してもよい。あるいは、弾性係数推定装置20は、推定結果を含むメールを所定のアドレス等に送信してもよい。
【0091】
なお、上述のように、弾性係数推定装置20は、評価スコアの高い、複数の弾性係数セットを出力してもよい。つまり、弾性係数推定装置20は、評価スコアに基づき、解析データをランキング付けし、当該ランキングの高い弾性係数の推定結果を作業者に提示してもよい(ランクの低い結果は提示しない)。その場合、作業者は、ランキング付けされた弾性係数のうち、自身の知見に基づいて、最適と考えられる弾性係数を最終的に採用することができる。
【0092】
以上のように、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20は、多数の弾性係数セットからなる弾性係数リストを用いて多層弾性理論等の弾性理論に基づく解析を実行する。当該弾性係数リストを用いた解析により、取り得る可能性がある弾性係数の組み合わせが網羅され測定データに適合する弾性係数セット(各層の弾性係数)が自動的に推定される。つまり、作業者による「弾性係数の仮定」という主観的プロセスが排除され、経験の浅い作業者が道路評価を担当する場合であっても適切な弾性係数が短時間で提供される。また、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20では、本来、検討すべき弾性係数の組み合わせを予め計算するため、作業者が、解析結果を採用せず計算(シミュレーション)を再実行するか否かを判断する主観的プロセスが不要となる。即ち、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20は、作業者の主観的プロセスが入り込む余地がない(あるいは少ない)ため、測定データの入力から推定結果の出力までの時間を一定にすることができる。
【0093】
さらに、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20では、弾性係数リストから多数の解析データを算出し、当該多数の解析データのうち測定データへの適合度が高い解析データを抽出している。つまり、多数の弾性係数セットから計算される多数の解析データのうち測定データに対する適合度(類似度)が所定値以上である解析データがフィルタリングにより残され、作業者に提供される。そのため、当該フィルタリングされた後の弾性係数セットによる各層の弾性係数は高い推定精度を有する。このように、第1の実施形態に係る弾性係数推定装置20は、短時間で精度の高い弾性係数を推定し、作業者に提供できる。
【0094】
[第2の実施形態]
続いて、第2の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0095】
第1の実施形態では、複数の解析データのなかから測定データに適合する解析データを抽出し、当該抽出された解析データに対応する弾性係数セットを推定結果としている。その際、スコア算出部204は、複数の解析データ(複数の弾性係数セットから生成された各座標の撓み量を要素とするデータ列)それぞれの評価スコアを算出し、選択部205が測定データに適合する解析データを選択(抽出)している。
【0096】
第2の実施形態では、ディープラーニングに代表されるAI(Artificial Intelligence)を用いて、選択部205が測定データに適合する解析データを選択する場合について説明する。
【0097】
図13は、第2の実施形態に係る弾性係数推定装置20の処理構成(処理モジュール)の一例を示す図である。図6及び図13を参照すると、第2の実施形態に係る弾性係数推定装置20は、学習部208と学習モデル記憶部209をさらに備える。また、第2の実施形態では、選択部205の動作が第1の実施形態とは異なる。以下、これらの相違点を中心に説明する。
【0098】
学習部208は、選択部205が使用する学習モデルを生成する手段である。より具体的には、学習部208は、道路評価の専門家がFWD試験に対して下した判断結果を教師データとして用いて上記学習モデルを生成する。例えば、FWD試験により測定データが得られると、道路評価の専門家は、弾性係数を仮定した多層弾性理論等の弾性理論に基づく撓み量を計算し、当該計算された撓み量が測定データの撓み量に適合しているか否かを専門的な知見に基づき判断している。学習部208は、過去のFWD試験により測定された撓み量と、多層弾性理論等の弾性理論による解析により計算される撓み量と、各層の弾性係数(弾性係数セット)と、当該計算された撓み量に対する専門家の判断(採用の可否)と、を一組の教師データとして入力する。学習部208は、専門家が上記判断に用いたデータ(測定された撓み量、計算される撓み量、撓み量計算のために仮定された弾性係数セット)と専門家の判断結果(計算された撓み量が測定された撓み量に適合するか否かが判断された結果)を教師データとして用いて学習モデルを生成する。学習部208は、上記のような教師データを大量に用いて、学習モデルを生成し、当該生成された学習モデルを学習モデル記憶部209に格納する。上記のようにして生成された学習モデルに、弾性係数セットを入力することで、当該入力された弾性係数セットによる撓み曲線と類似する撓み曲線を作り出す弾性係数(仮定された各層の弾性係数)及び2つの撓み曲線間の類似度が得られる。
【0099】
選択部205は、スコア算出部204から取得した複数の弾性係数セットのうち少なくとも1つ以上の弾性係数セットを、学習モデル記憶部209に格納された学習モデルを用いて選択する。具体的には、選択部205は、スコア算出部204から取得した弾性係数セットのそれぞれを学習モデルに入力する。その結果、選択部205は、各弾性係数セットについて学習モデルの基礎となった撓み曲線(専門家が選択した曲線)への類似度を取得する。選択部205は、例えば類似度が最も高い弾性係数セットを選択し、出力部206に引き渡す。あるいは、選択部205は、複数の弾性係数セットのうち評価スコアが所定値以上の弾性係数セットを選択し、当該選択された弾性係数セットについて学習モデルによる選択を行ってもよい。
【0100】
なお、上記説明では、弾性係数推定装置20の内部に学習部208を備える構成を説明したが、学習モデルの生成を他の装置にて実行し、生成された学習モデルを学習モデル記憶部209に格納してもよい。
【0101】
また、出力部206が、複数の弾性係数セットを表示し、作業者が最適な弾性係数を選択することや提示された弾性係数を修正することがあり得る。この場合、例えば、作業者が提示された弾性係数を修正した場合には、学習部208は、当該修正された弾性係数を用いて学習モデルを再構築(再学習)してもよい(図14参照)。なお、作業者による修正結果を利用した再学習は、1解析ごとに学習するオンライン型の学習でもよいし、一定の結果が蓄積された後に学習を行うミニバッチ型の学習でもよい。
【0102】
以上のように、第2の実施形態に係る弾性係数推定装置20は、学習モデルを用いて測定データに適合する弾性係数を抽出する。その結果、道路評価の専門家が有する知識に基づく精度の良い弾性係数が自動的に抽出される。
【0103】
[第3の実施形態]
続いて、第3の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0104】
第1、第2の実施形態では、1つの測定地点における測定データに適合する弾性係数を推定している。ここで、通常、測定データには誤差が含まれるものであり、評価スコアの高い解析データの弾性係数セットが道路の状態を最も的確に表現しているとは限らない。つまり、評価スコアだけで評価対象とする道路の状態を示す弾性係数を確定することが難しい場合もある。
【0105】
第3の実施形態では、上記測定データに含まれる誤差を考慮し、より正確に弾性係数を推定する弾性係数推定装置20について説明する。
【0106】
図15は、第3の実施形態に係る弾性係数推定装置20の処理構成(処理モジュール)の一例を示す図である。図6図15を参照すると、第3の実施形態に係る弾性係数推定装置20は、絞込部210をさらに備える。また、第3の実施形態では、制御部207やスコア算出部204等の動作が第1の実施形態とは異なる。以下、これらの相違点を中心に説明する。
【0107】
第3の実施形態では、隣接する測定地点の推定結果である弾性係数セットを用いて、作業者等に提供する弾性係数セットを絞り込む。
【0108】
制御部207は、複数の測定地点を含む区間を一区切りの測定区間とし、当該測定区間ごとに各測定地点の弾性係数セットを絞り込むようにスコア算出部204、選択部205、絞込部210等を制御する。
【0109】
制御部207は、作業者等から測定区間の開始と測定区間の終了に関する指示(情報)を入力する。制御部207は、測定区間の開始が入力されると、各測定地点における弾性係数の推定動作をスコア算出部204、選択部205に指示する。
【0110】
スコア算出部204は、第1の実施形態と同様の動作により、各解析データに対する評価スコアを算出する。その後、選択部205は、当該算出された評価スコアに対して閾値処理を施し、所定の値以上の評価スコアを持つ複数の弾性係数セットを絞込部210に引き渡す。スコア算出部204及び選択部205は、各測定地点について上記動作を繰り返す。
【0111】
スコア算出部204及び選択部205の上記動作により、絞込部210には、各測定地点における評価スコアが所定値以上である複数の弾性係数セットが蓄積されていく。
【0112】
制御部207は、測定区間の終了が入力されると、絞込部210に対して、各測定地点における複数の弾性係数セットからさらに測定データに適応する可能性の高い弾性係数セットを絞り込むように指示する。
【0113】
絞込部210は、隣接するFWD試験の実施地点(撓み量測定地点)において推定された弾性係数セットに基づき、評価スコアが所定の値以上である複数の弾性係数セットから、推定結果とする弾性係数セットの絞り込みを行う手段である。より具体的には、絞込部210は、道路を構成する各層が有する特徴(特性)に基づいて、各測定地点における複数の弾性係数セットのなかから推定結果として用いる弾性係数セットを絞り込む。
【0114】
例えば、レイヤ1は道路の最上位層であるので、天候等の影響を受けやすく隣接する測定地点間での弾性係数が異なることも多い。対して、中間層(例えば、レイヤ3)は、隣接する測定地点間での弾性係数はほぼ同じであることが多い。絞込部210は、このような特徴を利用し、各測定地点における複数の弾性係数セットの絞り込みを行う。
【0115】
図16は、絞込部210の動作の一例を示すフローチャートである。
【0116】
初めに、絞込部210は、1つの測定区間に含まれる複数の測定地点のなかから1つの測定地点を選択する(ステップS201)。
【0117】
次に、絞込部210は、当該選択した測定地点に隣接する測定地点(以下、隣接測定地点と表記する)における複数の弾性係数セットそれぞれに含まれる特定層の弾性係数に統計処理を施す(ステップS202)。例えば、上記レイヤ3の持つ特徴に着目すると、絞込部210は、隣接測定地点における複数の弾性係数セットに含まれるレイヤ3の弾性係数に対して統計処理を施す。
【0118】
例えば、絞込部210は、レイヤ3における複数の弾性係数の平均値、最頻値、中央値等を算出する。つまり、絞込部210は、隣接測定地点のレイヤ3における弾性係数の傾向を示す代表値を算出する。
【0119】
次に、絞込部210は、先に選択した測定地点における複数の弾性係数セットそれぞれに含まれる特定層の弾性係数が、先に算出された隣接測定地点における特定層の代表値を中心とする所定の範囲に含まれているか否かを判定する(ステップS203)。
【0120】
絞込部210は、選択した測定地点における弾性係数が上記所定の範囲に含まれていなければ(ステップS203、No分岐)、当該弾性係数を含む弾性係数セットを削除する(ステップS204)。絞込部210は、選択した測定地点における弾性係数が上記所定の範囲に含まれていれば(ステップS203、Yes分岐)、当該弾性係数を含む弾性係数セットを残す(特段の処理をしない)。
【0121】
絞込部210は、上記比較処理と対応する削除処理を選択した測定地点の各弾性係数セットについて絞り込みを実行する(ステップS205)。絞込部210は、選択した測定地点における弾性係数セットの絞込が完了すると、次の測定地点に対象を移し、同様の処理を繰り返す(ステップS206)。
【0122】
なお、特定層の弾性係数に対する統計処理は、絞込部210による絞り込み処理の結果に対して行われても良いし、事前に統計処理を各測定地点の弾性係数に実行しておくことで絞込部210の絞り込み前の結果に統計処理を行ってもよい。
【0123】
上記説明した絞込部210の絞り込み処理により、隣接する測定地点における特定層(例えば、レイヤ3)において計算された弾性係数から大きく解離している弾性係数セットが削除される。その結果、特定層の特徴(例えば、レイヤ3では隣接する測定地点の弾性係数がほぼ同じ)に合致しない弾性係数セットはノイズの影響により抽出されたものとして排除できる。
【0124】
なお、隣接する測定地点の特定層における弾性係数の代表値と選択された測定地点の弾性係数の比較に基づく弾性係数セットの削除(フィルタリング)は、隣接する測定地点間における弾性係数の類似度(相関度)に基づくフィルタリングと捉えることができる。また、第3の実施形態では、解析データの弾性係数の類似度に基づき、隣接する測定地点における弾性係数のフィルタリングを実行しているが、隣接する測定地点における撓み量の類似度に基づき同様のフィルタリングを行ってもよい。
【0125】
第3の実施形態では、隣接測定地点における特定層の代表値を統計処理により算出しているが、作業者等が隣接測定地点における特定層の代表値を選択(設定)してもよい。
【0126】
以上のように、第3の実施形態では、評価スコアの高い複数の弾性係数セットのうち、特定層の特徴に合致しない弾性係数セットを削除(フィルタリング)することで、より精度の高い推定結果を作業者に提示する。
【0127】
[変形例]
上記第1乃至第3の実施形態にて説明した弾性係数推定装置20の構成及び動作は例示であって、種々の変形が可能である。例えば、弾性係数推定装置20は、以下のような構成又は動作であってもよい。
【0128】
例えば、上記実施形態では、弾性係数推定装置20の内部にリスト生成部202、解析部203を含む構成を説明したが、これらの処理モジュールは他の装置に実装し、解析部203による解析結果を弾性係数推定装置20に入力してもよい。つまり、弾性係数リストの生成や当該弾性係数リストを用いた解析データ(弾性係数セットに対応する撓み量)の計算には、測定データを必要としないので別装置で事前に計算しておくこともできる。換言すれば、別装置により計算された解析データを弾性係数推定装置20の記憶部に格納し、スコア算出部204は当該記憶部に格納された解析データを用いて評価スコアを算出してもよい。また、解析部203による解析処理に測定データは影響を与えないので、解析部203は、弾性係数推定装置20の初回起動時に一度動作すれば十分である。
【0129】
上記実施形態では、弾性係数推定装置20には1つの解析部203が含まれる場合を説明したが、複数の解析部203が含まれ、各解析部203が弾性係数リストに基づく解析を並列実行してもよい(図17参照)。この場合、図17に示すように、リスト生成部202は、生成した弾性係数リストを分割し、当該分割された弾性係数リストを解析部203-1~203-M(Mは正の整数)に引き渡す。解析部203-1~203-Mのそれぞれは、上記解析処理を実行し、解析データをスコア算出部204に提供する。なお、解析の並列実行には、複数のCPUに解析処理を割り当てて実現してもよいし、複数のコンピュータに解析処理を割り当てるグリッドコンピューティングの手法を採用してもよい。
【0130】
あるいは、弾性係数推定装置20の一部又は全部の機能がインターネット上のクラウドシステムにて実現されてもよい。即ち、弾性係数推定装置20をなす各処理モジュールは物理的に1つの装置にて実行される必要はなく、複数の装置が協働して弾性係数推定装置20の機能を実現してもよい。
【0131】
上記実施形態では、スコア算出部204の算出した評価スコアは解析データのフィルタリングやランキング付けに利用されているが、当該評価スコアを弾性係数リストの生成に利用してもよい。つまり、スコア算出部204により算出された評価スコアをリスト生成部202の弾性係数リスト生成動作にフィードバックしてもよい(図18参照)。
【0132】
例えば、リスト生成部202は、最初に、弾性係数間の距離が広い(刻み幅が大きい)第1の弾性係数リストを生成し、解析部203に当該第1の弾性係数リストに基づく解析を実行させる。その後、スコア算出部204は、当該第1の弾性係数リストに基づき生成された第1の解析データに関する評価スコアを算出する。その後、スコア算出部204は、第1の弾性係数リスト、第1の解析データ、評価スコアをリスト生成部202に引き渡す。リスト生成部202は、これらスコア算出部204から取得したデータに基づき、第2の弾性係数リストを生成する。例えば、第2の弾性係数リストは、上記第1の弾性係数リストに含まれる弾性係数セットのうち特定の弾性係数セット間の弾性係数の刻み幅を小さくした弾性係数セットを含むものである。
【0133】
例えば、図8(a)に示す例において、第1の弾性係数リストに用いる弾性係数間の刻み幅を図19(a)の通りに設定したとする。図19(a)では、所定範囲の弾性係数から2個飛ばしの弾性係数が選択されている。図19(a)に示す弾性係数から第1の弾性係数リストを生成すると、図19(b)の通りとなる。スコア算出部204は、第1の弾性係数リストに基づき計算された解析データの評価スコアを算出する。ここでは、図19(b)に示すNo1とNo2の弾性係数リストの評価スコアが1番目、2番目に高いものとする。リスト生成部202は、当該事実に基づき、評価スコアが1番高い弾性係数セットと2番目に高い弾性係数セットの差分領域を網羅するように、第2の弾性係数リストを生成する。図19(b)の例では、弾性係数リストNo1とNo2の差分領域は、レイヤ5ではK50~K53であるので、リスト生成部202は、当該差分領域を網羅する第2の弾性係数リストを生成する。具体的には、図19(c)に示すような第2の弾性係数リストが生成される。スコア算出部204は、第2の弾性係数リストに基づき計算された解析データに関する評価スコアを算出し、評価スコアの良い弾性係数セットを選択部205に引き渡す。
【0134】
このように、弾性係数推定装置20は、第1の弾性係数リストを生成すると共に、当該第1の弾性係数リストに基づき算出された評価スコアに基づき、第1の弾性係数リストを補完する第2の弾性係数リストを生成する。より具体的には、弾性係数推定装置20は、初めに目の粗い弾性係数セットを含む弾性係数リストを生成し、その結果に基づき、より目の細かい弾性係数セットを含む弾性係数リストを生成する。この場合、目の粗い弾性係数セットにより最適な弾性係数セットが存在する範囲が絞り込まれ、当該絞り込まれた弾性係数セットのなかから最終的な弾性係数セットが決定されるので、弾性係数推定装置20の処理が低減される。なお、上記説明では、1回のフィードバック動作を説明したが、2回以上のフィードバック動作を実行しても良いことは勿論である。
【0135】
スコア算出部204により生成された評価スコアのフィードバックに関し、上記動作とは異なる動作も可能である。例えば、リスト生成部202は、各層の標準的な弾性係数近傍の弾性係数を含む弾性係数リストを生成する。スコア算出部204は、当該弾性係数リストに基づき計算された解析データの評価スコアを算出する。その後、スコア算出部204は、算出した評価スコアの値が十分高いものであれば、当該成績の良い評価スコアに対応する弾性係数セットを選択部205、出力部206に引き渡す。一方、算出した評価スコアの値が不十分であれば、スコア算出部204はその旨をリスト生成部202に通知する。通知を受けたリスト生成部202は、より範囲を拡張した弾性係数セットを生成し、解析部203に引き渡す。スコア算出部204は、当該拡張された弾性係数リストに基づき計算された解析データに対し評価スコアを算出し、上記判定処理(評価スコアは十分高い、又は、不十分)を繰り返す。評価対象とする道路は状態の良いものであり、各層の弾性係数は標準値からの解離が少ないと想定される場合、最初の弾性係数リストにより成績のよい評価スコアが直ぐに得られると考えられ、スコア算出等に要する処理時間を削減できる。
【0136】
作業者が、弾性係数推定装置20に対し、弾性係数リストの生成に関するポリシを入力し、当該ポリシに基づき弾性係数リストが生成、又は、選択されてもよい。例えば、作業者が入力するポリシとして「網羅型」、「簡略型」、「バランス型」の3種類を用意する。網羅型のポリシが入力された場合には、弾性係数推定装置20は、第1の実施形態にて説明したような図8に示す弾性係数リストを生成する。あるいは、簡略型のポリシが入力された場合には、弾性係数推定装置20は、図19(b)に示すような弾性係数リストを生成する。あるいは、バランス型のポリシが入力された場合には、図19を参照して説明したような2段階の弾性係数リストを生成する。このように、作業者の用途やニーズに合わせ、弾性係数推定装置20が使用する弾性係数リストを選択してもよい。
【0137】
上記実施形態では、式(1)を用いた2乗誤差を評価スコアの算出に用いる場合を説明したが、重み付きの2乗誤差を評価スコアに用いても良い。例えば、スコア算出部204は、下記の式(2)に示す評価スコアSを算出してもよい。
【0138】
[式2]
【0139】
式(2)において、Wはセンサ位置ごとの重みを示す。当該重みの選択に関し、例えば、測定地点(図2のD0の位置)の重みは大きくし、測定地点から遠いD9の重みは小さくする等の対応を行う。このような重みの選択により、測定地点における測定データを重要視することができる。即ち、スコア算出部204は、測定地点からの距離に応じて誤差に乗算する重みを変更し、評価スコアを算出してもよい。
【0140】
また、式(1)や式(2)に示す2乗誤差を評価スコアの算出に用いるのではなく、絶対誤差の総和を評価スコアの算出に利用してもよい。この場合にも、センサ位置に応じて絶対誤差の重み付けをしてもよい。
【0141】
さらに、コンピュータの記憶部に、上述したコンピュータプログラムをインストールすることにより、コンピュータを弾性係数推定装置として機能させることができる。さらにまた、上述したコンピュータプログラムをコンピュータに実行させることにより、コンピュータにより弾性係数推定方法を実行することができる。
【0142】
また、上述の説明で用いた複数のフローチャートでは、複数の工程(処理)が順番に記載されているが、各実施形態で実行される工程の実行順序は、その記載の順番に制限されない。各実施形態では、例えば各処理を並行して実行する等、図示される工程の順番を内容的に支障のない範囲で変更することができる。また、上述の各実施形態は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【0143】
なお、引用した上記の特許文献等の各開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択(部分的削除を含む)が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0144】
10 FWD試験システム
11 重錘
12 撓みセンサ
13 インターフェイス
20、100 弾性係数推定装置
21 CPU(Central Processing Unit)
22 メモリ
23 入出力インターフェイス
24 NIC(Network Interface Card)
101 入力部
102、204 スコア算出部
103、205 選択部
104、206 出力部
201 データ入力部
202 リスト生成部
203、203-1~203-M 解析部
207 制御部
208 学習部
209 学習モデル記憶部
210 絞込部
図1
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