(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】コードリール
(51)【国際特許分類】
B65H 75/48 20060101AFI20220906BHJP
G09F 1/10 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
B65H75/48 Z
G09F1/10 E
G09F1/10 H
(21)【出願番号】P 2018147279
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000149099
【氏名又は名称】株式会社大阪クリップ
(74)【代理人】
【識別番号】100152700
【氏名又は名称】泉谷 透
(74)【代理人】
【識別番号】100158768
【氏名又は名称】深見 達也
(72)【発明者】
【氏名】糸井 和生
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-172259(JP,A)
【文献】実開平06-087377(JP,U)
【文献】国際公開第2016/136819(WO,A1)
【文献】実開平03-101275(JP,U)
【文献】特開平10-071417(JP,A)
【文献】特開平02-100969(JP,A)
【文献】特開2000-218091(JP,A)
【文献】実開昭55-078662(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 49/00-49/38
B65H 57/00-57/28
B65H 75/34-75/50
G09F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カード状物を保持するホルダーを身体あるいは衣服に支持するコードリールであって、
本体ケースと、
当該本体ケースに回転可能に設けられたボビンと、
当該ボビンに巻かれたコードと、
上記コードを引き出した際に、当該コードを巻き取る方向に上記ボビンを回転する方向に付勢する付勢手段と、
上記コードを取り出すために上記本体ケースに設けられた上記ボビンの回転軸を通る鉛直線上に中心を有し、上記本体ケースの下方に向けて開口する1つのコード取出し穴と、
を有し、
上記コード取出し穴には、上記鉛直線に対して上記ボビンの
コードが引出し\巻取りされる側の回転接線方向に傾斜し、上記本体ケース内と上記コード取出し穴との間に上記コードを通過させる
金属製の直管であるコードガイドを設けてなる、
ことを特徴とするコードリール。
【請求項2】
カード状物を保持するホルダーを身体あるいは衣服に支持するコードリールであって、
本体ケースと、
当該本体ケースに回転可能に設けられたボビンと、
当該ボビンに巻かれたコードと、
上記コードを引き出した際に、当該コードを巻き取る方向に上記ボビンを回転する方向に付勢する付勢手段と、
上記コードを取り出すために上記本体ケースに設けられた上記ボビンの回転軸を通る鉛直線上に中心を有し、上記本体ケースの下方に向けて開口する1つのコード取出し穴と、
を有し、
上記コード取出し穴には、上記鉛直線に対して上記ボビンのコードが引出し\巻取りされる側の回転接線方向から上記鉛直線方向へと湾曲し、上記本体ケース内と上記コード取出し穴との間に上記コードを通過させる金属製の湾曲管であるコードガイドを設けてなる、
ことを特徴とするコードリール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカードや名札といったカード状物を保持するホルダー、あるいは鍵を身体あるいは衣服に支持するコードリールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、オフィスにおいては、名札を兼ねたICカードで扉を解錠するシステムが広く
用いられている。あるいは、鉄道等の改札でも、交通系のICカードが用いられている。このようなICカードのホルダーには、首から掛けたり、胸ポケットにフックで留めたりするタイプのホルダーがある。
【0003】
そして、ホルダーからICカードを取り出す必要が無いように、コードリールが設けられ、コードリールからコードが伸びることで、ICカードを読み取り装置にタッチさせることができるカードホルダーが普及している(例えば、特許文献1)。
鍵を支持するキーホルダーについても同様の物がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているようなカードホルダーにおいては、内部にボビン(リール巻き)が設けられ、このボビンに巻かれたコードが、コードリールに設けられたコード取出し穴から外部に出ている。すなわち、ボビンの回転接線方向と垂直に近い角度で、コードがコード取出し穴から引き出される。
【0006】
したがって、コードを引き出す際には、コードとコード取出し穴とは、非常に狭いポイントで接触する。そのため、コードにもコード取出し穴にも、ポイントで大きな摩擦力が生じるため、摩耗が生じやすい。実際には、コード取出し穴には金属等の管体(ハトメ)が設けられ、コード取出し穴の摩耗はほとんど生じない。一方、コードの引き出しが繰り返されることで、コードは徐々に摩耗し、最終的には切断に至る。
以上のように、コードリールの寿命は、コードの摩耗が支配的な要因である。
【0007】
実は、このようなコードの摩耗が問題となるのは、カードホルダーに使用されるコードリール特有の課題である。他の目的で使用されるコードリールにおいては、コードの摩耗は大きな問題にはならない。例えば、掃除機の電源コードのリールの場合、ボビンの回転接線方向に平行にコード取出し穴が開口している。したがって、電源コードを引き出す際に、電源コードは真っすぐに引き出され、コード取出し穴と強く摩擦が生じることは無い。
【0008】
他方、カードホルダーに使用されるコードリールにおいては、上述したように、ボビンの回転接線方向と垂直に近い角度で、コードがコード取出し穴から引き出される。これは、コードを引き出す際に、使用者が違和感を感じないようにするためである。すなわち、身体や衣服にカードホルダーを支持した状態で、ホルダー部を持ってICカードを読み取り装置にタッチさせる。この際には、コードが伸びることで、身体や衣服への支持部からホルダー部が略直線的に伸びていく。この時に、コードリールの中心がこの直線上から外れていると、使用者はアンバランス、非対称といった違和感を感じる。したがって、カードホルダーに使用されるコードリールにおいては、ボビンの回転接線方向と垂直に近い角度で、コードがコード取出し穴から引き出される。
【0009】
コードの摩耗を低減するために、コードを耐摩耗性が高い材質で構成することも一案であるが、材料コストが増大するというコスト上の問題が生じる。
また、コードを太くすることも考えられるが、コードを収納するための体積が増加し、コードリールが大型化し、且つ重くなるという問題が生じる。コードリールは常に身に着けるものであるため、小型で軽量なものが望まれる。さらに、コードの剛性が大きくなることで、コードを巻き取るゼンマイ等の付勢手段も強力なものが必要となり、コストが増
大する。
あるいは、ボビンの回転軸をコードリールの筐体の中心より、どちらかに寄せることで、コードをボビンの回転接線方向により近い角度で取り出すこともできるが、やはり、コードリールが大型化するという問題が生じる。
【0010】
コードが切れてICカードを紛失することは、セキュリティ、個人情報等の観点から、大きな問題を引き起こすことも稀ではない。したがって、カードホルダー用のコードリールは、耐久性に優れていることが最重要な要件のひとつである。しかしながら、コードの摩耗を抑制し、耐久性を向上させる試みは、ほとんどなされていないのが現状である。
【0011】
鍵を保持するためのキーホルダーについても同様である。
【0012】
本発明は、上記の問題点を考慮し、材料コストの増大が無く、また、コードリールが大型化したり重くなったりすることもなく、コードの摩耗の問題を抑制できる、耐久性に優れたカードホルダーやキーホルダーに適したコードリールを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に記載したコードリールは、
カード状物を保持するホルダーを身体あるいは衣服に支持するコードリールであって、
本体ケースと、
当該本体ケースに回転可能に設けられたボビンと、
当該ボビンに巻かれたコードと、
上記コードを引き出した際に、当該コードを巻き取る方向に上記ボビンを回転する方向に付勢する付勢手段と、
上記コードを取り出すために上記本体ケースに設けられた上記ボビンの回転軸を通る鉛直線上に中心を有し、上記本体ケースの下方に向けて開口する1つのコード取出し穴と、
を有し、
上記コード取出し穴には、上記鉛直線に対して上記ボビンのコードが引出し\巻取りされる側の回転接線方向に傾斜し、上記本体ケース内と上記コード取出し穴との間に上記コードを通過させる金属製の直管であるコードガイドを設けてなる、
ことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項2に記載したコードリールは、
カード状物を保持するホルダーを身体あるいは衣服に支持するコードリールであって、
本体ケースと、
当該本体ケースに回転可能に設けられたボビンと、
当該ボビンに巻かれたコードと、
上記コードを引き出した際に、当該コードを巻き取る方向に上記ボビンを回転する方向に付勢する付勢手段と、
上記コードを取り出すために上記本体ケースに設けられた上記ボビンの回転軸を通る鉛直線上に中心を有し、上記本体ケースの下方に向けて開口する1つのコード取出し穴と、
を有し、
上記コード取出し穴には、上記鉛直線に対して上記ボビンのコードが引出し\巻取りされる側の回転接線方向から上記鉛直線方向へと湾曲し、上記本体ケース内と上記コード取出し穴との間に上記コードを通過させる金属製の湾曲管であるコードガイドを設けてなる、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るコードリールは上記のように構成されているので、コードの摩耗を低減し、コードの寿命を大幅に改善できる。
【0016】
また、コードリールの大きさや重さは従来品と変わることが無い。
製造コストもほとんど増加しない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るコードリールを備えたカードホルダーの正面図と側面図である。
【
図2】本発明に係るコードリールの本体ケース内の斜視図であり、コードや付勢手段は取り外した状態の図である。
【
図3】本発明に係るコードリールの内部の上面図である。
【
図4】本発明に係るコードリールの
図3における点線四角部の部分拡大図である。
【
図5】参考図であり、従来のコードリールの部分拡大図である。
【
図6】本発明の実施の形態2に係るコードリールの部分拡大図である。
【
図7】本発明の実施の形態3に係るコードリールの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
以下に、本発明に係るコードリールの構成、使用方法および長所等について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明の最適な一例であって、特に本発明をこの一例に限定するものではない。
【0019】
図1はコードリールを備えたカードホルダーの正面図と側面図であり、左図が正面図、右図が側面図である。コードリールの本体ケース1のコード取出し穴2からコード3を引き出すことができる。コード3は手を離すと、本体ケース1内に設けられた付勢手段によって自動的に本体ケース1内に巻き戻される。コード3の先端には連結具4やホルダー取付部5が設けられ、ICカードや名札等のカード状物を入れるホルダーを保持することができる。
カード状物を入れるホルダーの代わりに、鍵を取り付ければキーホルダーとしても使用できる。
【0020】
身体等支持具6a、6bは、コードリールを身体や衣服、あるいはリュック等のかばん類に取り付けるためのものである。身体等支持具6aに紐を通すことによって、首から吊り下げることができる。あるいは、フックである身体等支持具6bにより、胸ポケットやズボンのベルト等に引っかけて使用することもできる。
【0021】
<コードリールの構成>
次に、コードリールの構成について、
図2と
図3を用いて説明する。
図2は、コードリールの本体ケース1内の斜視図であり、コード3や付勢手段9は取り外した状態の図である。
図3は、コードリールの内部の上面図である。また、
図4は、
図3における点線四角部の部分拡大図である。
【0022】
図2に示すように、本体ケース1の略中心には固定軸である回転軸7が立設している。回転軸7の中央には、付勢手段固定部7aが設けられている。本体ケース1の直径は、例えば3cm程度である。
ボビン8は、この回転軸7を回転軸として回転できる。
【0023】
図3に示すように、ボビン8の内側には付勢手段9が設けられている。ここでは、付勢手段は例えばゼンマイである。ゼンマイの一端は付勢手段固定部7aに、他端はボビン8に設けられた付勢手段固定部8aに固定されている。
【0024】
ボビン8の外側にはコード3が巻かれている。コード3は例えばナイロンである。切れにくい材質であることが望ましい。コード3の長さは、例えば70cm程度である。コード3の一端はボビン8に固定され、他端はコード取出し穴2より外部に出ている。この他端を引っ張ることでボビン8が回転し、ボビン8の回転に伴って付勢手段9であるゼンマイが伸びる。この伸びたゼンマイが元に戻ろうとする復元力(弾性力)により、コード3は巻き戻される。
【0025】
コード取出し穴2は、ボビン8の回転軸7、およびコード取出し穴2近傍における上記ボビン8の回転接線方向のいずれにも略垂直な方向に向かって開口している。すなわち、ボビン8のひとつの略直径方向に開口している。そして、コード取出し穴2近傍のコード3を引き出す際に当接する部位に、コード取出し穴2の開口方向から引き出すコード3側に傾斜したコードガイド10を有している。
【0026】
コードガイド10は、例えば金属やセラミックの管体である。部品コスト面からは金属の管体が望ましい。コードガイド10を管体とすることで、コード3を引き出す際に強く当接する部位(
図3において、コード取出し穴2の左側)だけではなく、コード取出し穴2の右側にもコード3が当たることを防止し、コード取出し穴2の内壁全体が摩耗することを防止できる。
コード取出し穴2は、本体ケースと一体に樹脂の成型により形成されるため、摩耗しやすい。そのため、金属等の管体を用いて、摩耗を防止することが必要である。
【0027】
<検証実験>
次に、この構成のコードリールの耐久性を調べる実験を行った。
コードはナイロン製であり、直径が0.5mm、長さが70cmである。コードを20cm引っぱりだし、付勢手段によって戻す動作を1往復とし、コードが切れるまで往復動作を繰り返した。サンプル数は3である。
【0028】
1つのサンプルは、コードは切れなかったが、116.8万往復で付勢手段に不具合が生じた。他の二つのサンプルは、それぞれ237万往復、282万往復でコードが切断した。
平均の耐久往復回数は、コードは切断しなかったが付勢手段に不具合が生じたサンプルも含めると、約211.9万往復であった。付勢手段に不具合が生じたサンプルを含めない場合は、259.5万往復であった。
【0029】
上記の結果と比較するために、従来品についても同様の実験を行った。従来品は
図5に示すように、傾けた管体のコードガイド10の代わりに、コード取出し穴2に平行に管体100を設けたものである。使用したコードや実験方法は、上記と同様である。
なお、
図5において、
図4と同じ部位に関しては同じ符号を付している。
【0030】
4個のサンプルについて実験を行った。それぞれ、7.5万往復、22万往復、50.1万往復、70万往復でコードが切断した。平均の耐久往復回数は、37.4万往復であった。
【0031】
以上のように、本実施の形態のコードリールは、従来品に比べて6倍から7倍と、大幅に耐久性が向上していることを確認できた。
図5に示す従来品は、白抜き矢印で示す箇所で強い摩耗が生じていたために、耐久性が小さかったと考えられる。
【0032】
実施の形態2.
実施の形態1においては、
図4に示すように、コード取出し穴2近傍のコード3を引き出す際に当接する部位に、コード取出し穴2の開口方向より引き出すコード3側に向かって傾斜したコードガイド10を設けた。本実施の形態2においては、
図6に示すように、コードガイド10の代わりに、コードガイド20を設けた。すなわち、コード取出し穴近傍2のコード3を引き出す際に当接する部位に、コード取出し穴2から本体ケース1内部に向かって、コード取出し穴2の開口方向より引き出すコード3側に向かって湾曲したしたコードガイド30を有している。
なお、
図6において、
図4と同じ部位に関しては同じ符号を付している。
【0033】
コードガイド30として、金属やセラミック製の湾曲した管体を用いることで、コード取出し穴2の内壁全体が摩耗することを防止できる。
また、実施の形態1と同様の耐久性に関する検証実験を行ったところ、
図4に示す構成と同等以上の耐久性が得られることを確認した。
【0034】
実施の形態3.
実施の形態1においては、
図4に示すように、コード取出し穴2近傍のコード3を引き出す際に当接する部位に、コード取出し穴2の開口方向から引き出すコード3側に傾斜したコードガイド10を設けた。本実施の形態3においては、
図7に示すように、コードガイド10の代わりに、金属やセラミック製の回転プーリー30を設けた。
なお、
図7において、
図4と同じ部位に関しては同じ符号を付している。
【0035】
実施の形態1や実施の形態2と同様の耐久性に関する検証実験を行ったところ、
図4に示す構成と同等以上の耐久性が得られることを確認した。
【0036】
<本発明のまとめ>
以上、実施の形態1から3に示したように、コード取出し穴の近傍において、コードを適切にガイドすることにより、コードの摩耗を低減し、耐久性を飛躍的に向上できることが確認できた。
このように、わずかな設計変更を行うだけで良いため、コードリールの大きさや重さは従来品と変わることが無く、また、製造コストもほとんど増加しない。
【0037】
前述したように、コードの摩耗が問題となるのは、カードホルダー(あるいは、キーホルダー)に使用されるコードリール特有の課題である。その他の用途のコードリールにおいては、ボビンの回転接線方向において、コードを取出しできるため、コードの摩耗は大きな問題とはならないためである。
【0038】
したがって、本発明におけるコードリールは、カードホルダーあるいは、キーホルダーに使用されるコードリールとして、非常に適したものであり、コードが切れてICカード等の紛失を防止することができるという、セキュリティ、個人情報等の観点から要求されるカードホルダー用のコードリールに対する最重要な要件を満足するものである。
【符号の説明】
【0039】
1 本体ケース
2 コード取出し穴
3 コード
4 連結具
5 ホルダー取付部
6a、6b 身体等支持具
7 回転軸
7a 付勢手段固定部
8 ボビン
8a 付勢手段固定部
9 付勢手段
10 コードガイド
20 コードガイド
30 プーリー
100 管体