(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】抗セクレトグラニンIII(SCG3)抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220906BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220906BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220906BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220906BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220906BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220906BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220906BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220906BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220906BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220906BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220906BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220906BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220906BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220906BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220906BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20220906BHJP
A61P 17/12 20060101ALI20220906BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220906BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20220906BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220906BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20220906BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20220906BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220906BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220906BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220906BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220906BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/18 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P27/02
A61P9/00
A61P27/06
A61P29/00
A61P7/00
A61P3/10
A61P35/00
A61P35/02
A61P19/02
A61P19/00
A61P25/00
A61P37/06
A61P9/10
A61P3/04
A61P17/06
A61P17/12
A61P17/00
A61P37/08
A61P31/18
A61P11/00
A61P11/06
A61P11/02
A61P1/04
A61P1/02
A61P1/16
A61P15/00
A61K39/395 N
(21)【出願番号】P 2019523840
(86)(22)【出願日】2017-11-06
(86)【国際出願番号】 US2017060189
(87)【国際公開番号】W WO2018089305
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-11-05
(32)【優先日】2016-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514155153
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マイアミ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ リー
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル イー.ルブラン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイウェン ワン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ジェイ.ローゼンフェルド
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/010532(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/014819(WO,A2)
【文献】Yue Wang,Cancer Letters,2014年,352,169-178
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照抗体のセクレトグラニンIIIとの結合を交差阻止する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記参照抗体が
、配列番号11~16のCDRを含む抗
体である、抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
前記参照抗体が
、配列番号9を含む重鎖可変領域および配列番号10を含む軽鎖可変領域を含む抗体
である、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
セクレトグラニンIIIに結合し、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
(i)(a)CDR-H1が、配列番号11を含み;(b)CDR-H2が、配列番号12を含み;(c)CDR-H3が、配列番号13を含み;(d)CDR-L1が、配列番号14を含み;(e)CDR-L2が、配列番号15を含み;および(f)CDR-L3が、配列番号16を含むか;
(ii)(a)CDR-H1が、配列番号27を含み;(b)CDR-H2が、配列番号4を含み;(c)CDR-H3が、配列番号28を含み;(d)CDR-L1が、配列番号22を含み;(e)CDR-L2が、配列番号29を含み;および(f)CDR-L3が、配列番号24を含むか;
(iii)(a)CDR-H1が、配列番号27を含み;(b)CDR-H2が、配列番号4を含み;(c)CDR-H3が、配列番号28を含み;(d)CDR-L1が、配列番号32を含み;(e)CDR-L2が、配列番号29を含み;および(f)CDR-L3が、配列番号24を含むか;あるいは
(iv)(a)CDR-H1が、配列番号3を含み;(b)CDR-H2が、配列番号4を含み;(c)CDR-H3が、配列番号28を含み;(d)CDR-L1が、配列番号22を含み;(e)CDR-L2が、配列番号29を含み;および(f)CDR-L3が、配列番号24を含む、
抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
(a)CDR-H1が、配列番号11を含み;(b)CDR-H2が、配列番号12を含み;(c)CDR-H3が、配列番号13を含み;(d)CDR-L1が、配列番号14を含み;(e)CDR-L2が、配列番号15を含み;および(f)CDR-L3が、配列番号16を含む、請求項3に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
(a)CDR-H1が、配列番号27を含み;(b)CDR-H2が、配列番号4を含み;(c)CDR-H3が、配列番号28を含み;(d)CDR-L1が、配列番号22を含み;(e)CDR-L2が、配列番号29を含み;および(f)CDR-L3が、配列番号24を含む、請求項3に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
(a)CDR-H1が、配列番号27を含み;(b)CDR-H2が、配列番号4を含み;(c)CDR-H3が、配列番号28を含み;(d)CDR-L1が、配列番号32を含み;(e)CDR-L2が、配列番号29を含み;および(f)CDR-L3が、配列番号24を含む、請求項3に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
(a)CDR-H1が、配列番号3を含み;(b)CDR-H2が、配列番号4を含み;(c)CDR-H3が、配列番号28を含み;(d)CDR-L1が、配列番号22を含み;(e)CDR-L2が、配列番号29を含み;および(f)CDR-L3が、配列番号24を含む、請求項3に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
配列番号9を含む重鎖可変領域および配列番号10を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
4に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
配列番号25を含む重鎖可変領域および配列番号26を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
5に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
配列番号30を含む重鎖可変領域および配列番号31を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
6に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
配列番号38を含む重鎖可変領域および配列番号33を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
7に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
配列番号34を含む重鎖可変領域および配列番号35を含む軽鎖可変領域を含む、請求項
7に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
配列番
号9と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン
、および配列番号10と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
配列番号25と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、および配列番号26と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
配列番号30と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、および配列番号31と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
配列番号38と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、および配列番号33と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;あるいは
配列番号34と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、および配列番
号35
と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
、
を含む、請求項
3~7のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項14】
前記抗原結合フラグメントが、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、または一本鎖可変フラグメント(scFv)である、請求項1~1
3のいずれかに記載の抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項15】
請求項1
~14のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸。
【請求項16】
請求項
15に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項17】
請求項
16に記載の発現ベクターを遺伝子導入した宿主細胞。
【請求項18】
請求項1~
14のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合フラグメントおよび生理学的に許容可能な希釈剤、賦形剤または担体を含む医薬組成物。
【請求項19】
請求項1~
14のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたは請求項
18に記載の医薬組成物を含むキット。
【請求項20】
治療を必要としている対象の新生血管型加齢黄斑変性を治療する
ための、請求項
18に記載の医薬組成
物。
【請求項21】
前
記医薬組成物が、脈絡膜新生血管またはポリープ状脈絡膜血管症を抑制するための有効量で投与される、請求項2
0に記載
の医薬組成物。
【請求項22】
治療を必要としている対象の糖尿病性網膜症を治療する
ための、請求項
18に記載の医薬組成
物。
【請求項23】
治療を必要としている対象の未熟児網膜症を治療する
ための、請求項
18に記載の医薬組成
物。
【請求項24】
治療を必要としている対象の、場合により、血管新生緑内障、角膜血管新生、翼状片、網膜静脈閉塞症、ならびに近視、炎症状態、遺伝性網膜ジストロフィー、および鎌状赤血球網膜症由来の網膜および黄斑の血管新生から選択される眼の血管新生関連疾患を治療する
ための、請求項
18に記載の医薬組成
物。
【請求項25】
前
記医薬組成物が、網膜血管漏出を低減するための有効量で投与される、請求項
22~24のいずれかに記載
の医薬組成物。
【請求項26】
前
記医薬組成物が、網膜血管新生または脈絡膜新生血管を低減するための有効量で投与される、請求項
22~25のいずれかに記載
の医薬組成物。
【請求項27】
前
記医薬組成物が、硝子体内に投与される、請求項
20~26のいずれかに記載
の医薬組成物。
【請求項28】
治療を必要としている対象の癌を治療する
ための、請求項
18に記載の医薬組成
物。
【請求項29】
前記対象が、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、眼癌、腎臓癌、白血病、肺癌、リンパ腫、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、脳癌、甲状腺癌、肝臓癌、口腔癌、中咽頭癌、食道癌、または胃癌から選択される癌を有する、請求項
28に記載
の医薬組成物。
【請求項30】
前記対象が、網膜芽細胞腫、ぶどう膜黒色腫、および眼内リンパ腫から選択される眼癌である、請求項
29に記載
の医薬組成物。
【請求項31】
前
記医薬組成物が、細胞増殖を抑制するための有効量で投与される、請求項
20~30のいずれかに記載
の医薬組成物。
【請求項32】
治療を必要としている対象の、場合により、関節炎、滑膜炎、骨髄炎、骨棘形成、多発性硬化症、血管奇形、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、移植動脈症、肥満症、乾癬、いぼ、アレルギー性皮膚炎、瘢痕ケロイド、化膿性肉芽腫、水疱形成疾患、AIDS患者におけるカポジ肉腫、原発性肺高血圧症、喘息、鼻ポリープ、炎症性腸疾患、歯周病、肝硬変、腹水、腹膜癒着、子宮内膜症、子宮出血、卵巣嚢胞、卵巣過剰刺激、再狭窄、および嚢胞性繊維症から選択される血管新生関連疾患を治療する
ための、請求項
18に記載の医薬組成
物。
【請求項33】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントが、約5μg/(対象のkg体重)~約400mg/(対象のkg体重)の量で投与される、請求項
20~32のいずれかに記載
の医薬組成物。
【請求項34】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントが、約0.05mg~約10mgの量で、前記対象の眼に投与される、請求項
20~32のいずれかに記載
の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利に関する声明
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された米国国立衛生研究所認可番号第R01GM094449号に基づく政府の支援によりなされた。米国政府は本発明に対し一定の権利を有する。
【0002】
関連出願への相互参照および電子申請データの参照による組み込み
本出願は、2016年11月8日出願の米国特許仮出願第62/419,195号の優先権を主張する。この開示は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
本出願は、本開示の別の部分として、コンピュータ可読形式の配列表を含む。この配列表はその全体が参照により組み込まれ、次のように特定される:ファイル名:51085A_Seqlisting.txt;サイズ23,905バイト;作成:2017年11月6日。
【0004】
発明の分野
本開示は、概して抗セクレトグラニンIII抗体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0005】
糖尿病性網膜症(DR)および加齢黄斑変性(AMD)は、視力喪失の主要な原因である。DRは、世界中で、約93百万人を冒し、その内の約28百万人は、視力を脅かす糖尿病性黄斑浮腫(DME)および増殖糖尿病網膜症(PDR)である。初期段階のDRは、内皮細胞(EC)および周皮細胞のアポトーシス、血管漏出ならびに白血球粘着を特徴とし、無細胞毛細血管、毛細血管瘤、網膜静脈閉塞症、DMEおよびPDRに進行し得る。AMDには、乾燥型(萎縮型)および湿潤型(新生血管型または滲出型)の2種の臨床型がある。脈絡膜新生血管(CNV)を有する新生血管型AMD(nAMD)は、AMDに罹患した個体の10~20%が罹患するが、AMDによる重度視力喪失の全症例の約90%がこの疾患に起因する。
【0006】
血管新生因子は、網膜血管漏出を有するDME、網膜血管新生を有するPDR、およびnAMDの発病で重要な役割を果たす。LUCENTIS(ラニビズマブ)およびEYLEA(アフリベルセプト)を含む、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)阻害剤の承認は、DRおよびnAMD治療法における大きなブレークスルーであった(Schwartz et al.Expert Opin Emerg Drugs.2014;19(3):397-405;Shao et al.Dev Ophthalmol.2016;55:125-36)。しかし、抗VEGF療法は、効力が限られており、DRおよびnAMDの50%に満たない症例においてのみ視力を改善できるにすぎず(Dedania and Bakri Clin Ophthalmol.2015;9:533-42)、その他の血管新生因子がこれらの疾患の発病に関与している可能性を示唆している。限られた選択肢のために、1つの抗VEGF薬物への反応が不十分な患者は、作用機序が類似であるにもかかわらず、別のVEGF阻害剤に切り替えられることが多い(Pinheiro-Costa et al.Ophthalmologica.2014;232(3):149-55)。さらに、ほとんどの血管新生因子は、正常および疾患の血管の両方の血管新生を調節するため、これらの標的に対する治療は、正常な血管および細胞に有害な影響を与え得る。したがって、全てのVEGF阻害剤は、硝子体内投与によるAMD治療に対してのみ承認されている。単回の硝子体内注射では副作用の割合が低いにもかかわらず、反復硝子体内注射は、眼内炎、網膜剥離、眼圧上昇および白内障などの眼に対する有害作用の原因となる場合がある。初期段階または危険性が高い対象のDME、PDRおよびnAMDの予防には、VEGF阻害剤の反復硝子体内注射が必要となる。したがって、抗VEGF療法は、DME、PDRまたはnAMDの予防用としては承認されていない。既存の治療のこの問題を解決するために、硝子体内注射の頻発を避けるまたは頻度を減らすために、局所的点眼によるまたは持続性のあるDRおよびAMDに対する新規の治療法が必要である。
【0007】
抗VEGF療法はまた、小児の失明の最もよくある原因である、未熟児網膜症(ROP)の治療での使用に対しても評価されてきた。ROPは、米国で毎年14,000~16,000人の未熟児が罹患し、他の国でも同様の高率の発病である。ROPは、病理学的網膜血管新生(NV)を特徴とし、重度視力障害、さらには失明さえも伴う部分的または完全網膜剥離へと進行し得る。ROPの乳幼児は、成人期に、網膜剥離、近視、斜視、弱視および緑内障などの他の眼疾患を発症する高いリスクを有すると考えられている(Davidson and Quinn,Pediatrics.2011;127(2):334-9)。ROPは現在、レーザー療法または寒冷療法により治療されている(Hellstrom et al.,Lancet.2016;40(3):189-202)。都合の悪いことに、どちらの治療も、中心視野を確保するために周辺視野を破壊し、根底にある原因のROPに対処しない。VEGF阻害剤を用いたいくつかの臨床試験は、ROPに対して、限られた効力しか示さず(Sankar et al.,Cochrane Database Syst.Rev.2016;2:CD009734)、また、ROPに対する抗VEGF療法の安全性は、大きな懸念である。VEGFは、胎児および新生児段階での血管形態形成および網膜発生にとって非常に重要である。VEGF受容体1または2のホモ接合欠失を有するマウスは、子宮中で死亡する(Fong et al.,Nature.1995;376(6535):66-70;Shalaby et al.,Nature.1995;376(6535):62-6)。同様に、単一VEGFアレルの欠失を有するマウスは、胎児期致死性である(Ferrara et al.,Nature.1996;380(6573);439-42)。ROPを治療するためのVEGF阻害剤の認可外使用はまた、顕著な有害転帰と関連する(Beharry et al,Semin Perinatol.2016;40(3)189-202)。これらの知見は、未熟児における抗VEGF療法に関する大きな安全性の懸念を生じさせる。したがって、限られた効力および安全性が原因で、VEGF阻害剤は、nAMD対して承認後、10年以上にわたり、ROP療法に対しては承認されておらず、ROPに対するFDA認可薬物は現時点で存在しない。
【0008】
DR、nAMD、およびROPに対する、高い効力、VEGFに依存しない機序、および柔軟な投与経路を有する新規抗血管新生治療薬の開発は、優先事項であり、また、癌を含む他の疾患の治療にとっても有効であり得る。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、セクレトグラニンIII(Scg3)に特異的に結合する抗体、ならびにこれらのフラグメントおよび誘導体、ならびに糖尿病性網膜症(DR)、新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)、未熟児網膜症(ROP)、および癌を含む疾患の治療におけるそれらの使用に関する。
【0010】
一態様では、本開示は、参照抗体のScg3との結合を交差阻止する抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、この参照抗体は、配列番号3~8の相補性決定領域(CDR)を含む抗体;配列番号11~16のCDRを含む抗体;配列番号19~24のCDRを含む抗体;配列番号27、4、28、22、29、および24のCDRを含む抗体;配列番号27、4、28、32、29、および24のCDRを含む抗体;ならびに配列番号3、4、28、22、29、および24のCDRを含む抗体からなる群より選択される。例えば、参照抗体は、配列番号1を含む重鎖可変領域および配列番号2を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号9を含む重鎖可変領域および配列番号10を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号17を含む重鎖可変領域および配列番号18を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号25を含む重鎖可変領域および配列番号26を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号30を含む重鎖可変領域および配列番号31を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号38を含む重鎖可変領域および配列番号33を含む軽鎖可変領域を含む抗体;ならびに配列番号34を含む重鎖可変領域および配列番号35を含む軽鎖可変領域を含む抗体からなる群より選択される。
【0011】
別の態様では、本開示は、セクレトグラニンIIIに結合し、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、(a)CDR-H1は、配列番号3、11、19、および27からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、(b)CDR-H2は、配列番号4、12、および20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、(c)CDR-H3は、配列番号5、13、21、および28からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、(d)CDR-L1は、配列番号6、14、22、および32からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、(e)CDR-L2は、配列番号7、15、23、および29からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、ならびに(f)CDR-L3は、配列番号8、16、および24からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントは、(a)配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H1;(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H2;(c)配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H3;(d)配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L1;(e)配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L2;および(f)配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L3、を含む。別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、(a)配列番号11で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H1;(b)配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H2;(c)配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H3;(d)配列番号14で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L1;(e)配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L2;および(f)配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L3、を含む。さらに別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、(a)配列番号19で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H1;(b)配列番号20で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H2;(c)配列番号21で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H3;(d)配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L1;(e)配列番号23で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L2;および(f)配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L3、を含む。一例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、(a)配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H1;(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H2;(c)配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H3;(d)配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L1;(e)配列番号29で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L2;および(f)配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L3、を含む。別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、(a)配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H1;(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H2;(c)配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H3;(d)配列番号32で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L1;(e)配列番号29で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L2;および(f)配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L3、を含む。さらに別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、(a)配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H1;(b)配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H2;(c)配列番号28で示されるアミノ酸配列を含むCDR-H3;(d)配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L1;(e)配列番号29で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L2;および(f)配列番号24で示されるアミノ酸配列を含むCDR-L3、を含む。
【0012】
別の態様では、本開示は、セクレトグラニンIIIに結合し、配列番号1、9、17、25、30、38、または34を含む重鎖可変領域および配列番号2、10、18、26、31、33、または35を含む重鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号1を含む重鎖可変領域および配列番号2を含む軽鎖可変領域を含む。別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号9を含む重鎖可変領域および配列番号10を含む軽鎖可変領域を含む。さらに別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号17を含む重鎖可変領域および配列番号18を含む軽鎖可変領域を含む。一例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号25を含む重鎖可変領域および配列番号26を含む軽鎖可変領域を含む。別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号30を含む重鎖可変領域および配列番号31を含む軽鎖可変領域を含む。さらに別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号38を含む重鎖可変領域および配列番号33を含む軽鎖可変領域を含む。別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号34を含む重鎖可変領域および配列番号35を含む軽鎖可変領域を含む。別の態様では、本開示は、セクレトグラニンIIIに結合し、配列番号1、9、17、25、30、38、または34に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号2、10、18、26、31、33、または35に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0013】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載の抗体または抗原結合フラグメントをコードする核酸を提供する。一態様では、本開示は、本明細書に記載の抗体または抗原結合フラグメントをコードする核酸を含む発現ベクターおよび前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0014】
一態様では、本開示は、本明細書に記載の抗体または抗原結合フラグメントおよび生理学的に許容可能な希釈剤、賦形剤または担体を含む医薬組成物を提供する。別の態様では、本開示は、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたは前記抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を含むキットを提供する。
【0015】
本開示は、本明細書に記載の抗体および抗原結合フラグメントの医学的使用も提供する。一態様では、治療有効量の本明細書に記載の抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物を投与すること含む、治療を必要としている対象のnAMDを治療する方法を提供する。例えば、抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物が、CNVおよび/またはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)を抑制するための有効量で投与される。これらの内の後者のPCVは、nAMDの変種であると考えられている。
【0016】
一態様では、治療を必要としている対象の糖尿病性網膜症を治療する方法が提供され、該方法は、治療有効量の本明細書に記載の抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物を投与することを含む。別の態様では、治療を必要としている対象の未熟児網膜症を治療する方法が提供され、該方法は、治療有効量の本明細書に記載の抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物を投与することを含む。例えば、抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物は、網膜血管漏出および/または網膜血管新生および/または脈絡膜新生血管を低減するための有効量で投与される。
【0017】
一態様では、治療を必要としている対象の癌を治療する方法が提供され、該方法は、治療有効量の本明細書に記載の抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物を投与することを含む。例えば、抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物は、腫瘍量を低減させる(例えば、腫瘍サイズを低減させるまたは体内の癌細胞の数を低減させる)ための有効量で投与される。
【0018】
別の態様では、治療を必要としている対象の血管新生関連疾患を治療する方法が提供され、該方法は、治療有効量の本明細書に記載の抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物を投与することを含む。例えば、血管新生関連疾患は、血管新生緑内障、角膜血管新生、翼状片、網膜静脈閉塞症、ならびに近視、炎症状態、遺伝性網膜ジストロフィー、および鎌状赤血球網膜症由来の網膜および黄斑の血管新生、関節炎、滑膜炎、骨髄炎、骨棘形成、多発性硬化症、血管奇形、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、移植動脈症、肥満症、乾癬、いぼ、アレルギー性皮膚炎、瘢痕ケロイド、化膿性肉芽腫、水疱形成疾患、カポジ肉腫(例えば、AIDS患者における)、原発性肺高血圧症、喘息、鼻ポリープ、炎症性腸疾患、歯周病、肝硬変、腹水、腹膜癒着、子宮内膜症、子宮出血、卵巣嚢胞、卵巣過剰刺激、再狭窄、および嚢胞性繊維症から選択される疾患である。
【0019】
前述の概要は、本発明の全ての態様を規定することを意図するものではなく、本開示の他の特徴および利点は、図面を含む以下の詳細な説明から明らかになるであろう。本開示は、統合された文書として関連付けることを意図しており、たとえ、特徴の組み合わせが、本開示の同じ文章、段落、またはセクション中に一緒に認められない場合でも、本明細書に記載の特徴の全ての組み合わせが意図されていることを理解されたい。さらに、本開示は、追加の態様として、特に上記した変化よりも、多少とも狭い範囲の本発明の全ての実施形態を含む。「a」または「an」と共に記載または請求された本開示の態様に関しては、文脈からより限定された意味が明確に要求されない限り、これらの用語は、「1つまたは複数」を意味すると理解されたい。1セットの内の1つまたは複数として記載される要素に関しては、セット内の全ての組み合わせが意図されていると理解されたい。本開示の態様が、特徴「を含む(comprising)」として記載される場合、実施形態もまた、特徴「からなる(consisting of)」または特徴「から本質的になる(consisting essentially of)」ことが意図されている。本開示の態様が「治療の方法(methods of treatment)」として記載される場合、参照された疾患または傷害のための開示抗体またはその抗原結合フラグメントの使用が意図されていることは理解されよう。例えば、本開示は、治療を必要としている対象の新生血管型加齢黄斑変性を治療する;治療を必要としている対象の糖尿病性網膜症を治療する;または治療を必要としている対象の未熟児網膜症を治療する;場合により、治療を必要としている対象の、血管新生緑内障、角膜血管新生、翼状片、網膜静脈閉塞症、近視、炎症状態、遺伝性網膜ジストロフィー、および鎌状赤血球網膜症由来の網膜および黄斑の血管新生から選択される眼の血管新生関連疾患を治療するための本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントの使用を意図している。本開示の追加の特徴および変形例は、本出願の全体から当業者には明白であり、全てのこのような特徴は、本開示の態様として意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1-1】血管新生因子としてのScg3のインビトロ特性評価を示す。
図1Aは、48ウェルプレート(n=4)中で、Scg3(1μg/mL)またはVEGF(50ng/mL)により処理したヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)を用いた内皮増殖アッセイの結果を示し、
図1Bは、Scg3(1μg/mL)、VEGF(50ng/mL)で処理した、または親和性精製抗Scg3ポリクローナル抗体(pAb)(2μg/mL)(n=8)で処理したヒト網膜毛細血管内皮細胞(HRMVEC)を用いた内皮増殖アッセイの結果を示す。細胞数は48時間で定量化した。
図1C~1Eは、HUVECを用いた管形成アッセイおよび視野当たりの合計チューブ長さ(
図1C)、視野当たりのチューブの数(
図1D)および視野当たりの分岐点の数(n=4)(
図1E)の定量の結果を示す。
図1Fは、Scg3(15ng/ml)、VEGF(2.5ng/mL)、または抗Scg3 pAb(30μg/mL)(n=8)で処理したHRMVECのスフェロイド発芽(平均発芽長さ)を示す。
図1Gは、VEGFおよびScg3(n=3)で処理したHRMVECの移動を示す。
【
図1-2】
図1Hは、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)(対照)、VEGF(100ng/mL)およびScg3(1μg/mL)(n=3)で処理した細胞の内皮透過性を示す。PBS、VEGF、またはScg3と共にFITC-デキストランをトランスウェルインサートを備えた下段チャンバーに加え、24時間後、上段チャンバーから培地を集め、漏出FITCを定量した。
図1Iは、Scg3(15ng/ml)、VEGF(2.5ng/mL)、または抗Scg3 pAb(30μg/mL)(n=8)で処理したHUVECのスフェロイド発芽(平均発芽長さ)を示す。
【
図2】糖尿病のおよび健康な動物の角膜血管新生の定量化を示す。
図2Aは、PBS、Scg3、ヘパトーマ由来成長因子関連タンパク質3(HRP-3またはHdgfrp3)、およびVEGFで処理した健康なおよび糖尿病のマウスの角膜血管の合計数を示す(左側のバー=健康なマウス;右側のバー=糖尿病マウス)。
図2Bは、血管分岐点の数を示す。
図2Cは、合計血管新生スコアを示す。試験は盲検法で行い、n値は、分析した角膜の数を示す。統計的有意性は、1元配置分散分析検定を用いて計算した。
【
図3-1】糖尿病性網膜症の抗Scg3治療を示す。
図3Aは、硝子体内注射を介して、抗Scg3 pAb、無関係の抗原に対する模擬アフィニティー精製pAb、抗Scg3モノクローナル抗体(mAb)クローン49(全て0.36μg/μL/眼)、アフリベルセプト(2μg/μL/眼)またはPBSで処理した、ストレプトゾトシン(STZ)誘導糖尿病マウスのDRの抗Scg3治療を示す。
図3Bは、抗Scg3 mAbが、Scg3(1μg/mL)、VEGF(50ng/mL)、または抗Scg3 mAb(2μg/mL)(n=3)で処理した細胞中のScg-3-誘導HRMVEC増殖を抑制したことを示す。
図3Cは、対照ウサギIgG(0.36μg/μL/眼)、抗Scg3 mAb(クローン49)(0.36μg/μL/眼)、またはアフリベルセプト(2μg/μL/眼)(n=3~4)で処理した、Ins2
Akita糖尿病マウスのDRの抗Scg3治療を示す。
【
図3-2】
図3Dは、抗Scg3 mAbクローン78(0.36μg/μL/眼、n=4)で処理した、STZ誘導糖尿病マウスのDRの抗Scg3治療を示す。統計的有意性は、1元配置分散分析検定を用いて計算した。抗Scg3 mAb クローン7、クローン16、クローン49、クローン153、クローン162、およびクローン190の存在下での、
図3EはScg3に対するクローン49との競合的結合、および
図3FはScg3に対するクローン78との競合的結合を示す(n=3)。単鎖可変フラグメント(scFV)単独に対するt検定で、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図3-3】
図3Dは、抗Scg3 mAbクローン78(0.36μg/μL/眼、n=4)で処理した、STZ誘導糖尿病マウスのDRの抗Scg3治療を示す。統計的有意性は、1元配置分散分析検定を用いて計算した。抗Scg3 mAb クローン7、クローン16、クローン49、クローン153、クローン162、およびクローン190の存在下での、
図3EはScg3に対するクローン49との競合的結合、および
図3FはScg3に対するクローン78との競合的結合を示す(n=3)。単鎖可変フラグメント(scFV)単独に対するt検定で、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図4】OIRの抗Scg3治療を示す。
図4Aは、対照ウサギIgG(0.36μg/μL/眼)、アフリベルセプト(2μg/μL/眼)、抗Scg3 pAb(0.36μg/μL/眼)または抗Scg3 mAb(クローン49)(0.36μg/μL/眼)(n=4~13)で処理した、Ins2
Akita糖尿病マウスのOIRの代表的画像を示す。矢頭は、血管新生(NV)およびNVタフトを示す。
図4Bは、NVの定量、
図4CはNVタフト数を示し、
図4Dは分岐点の定量化を示す。統計的有意性は、1元配置分散分析検定を用いて計算した。
【
図5-1】レーザー誘導CNV漏出の抗Scg3治療を示す。マウスは、0日目にレーザー光凝固で処理された。PBS対照ウサギIgG(0.36μg/μL/眼)、アフリベルセプト(2μg/μL/眼)、抗Scg3 pAb(0.36μg/μL/眼)または抗Scg3 mAb(クローン49)(0.36μg/μL/眼)を3日目に硝子体内に注射した。
図5Aは、7日目のフルオレセイン血管造影画像を示し、
図5Bは、
図5AのCNV蛍光強度の定量化を示す。8日目にマウスを屠殺した。
【
図5-2】
図5CはCNV 3D体積の定量化を示し、
図5DはCNV病変部サイズの定量化を示し、
図5EはCNV血管密度(すなわち、蛍光強度)を示す。レーザースポットの数は、バーの下部に示されており、対照IgGに対する統計的有意性は1元配置分散分析検定を用いて計算した。
【
図6】抗Scg3 mAbによるScg3機能活性の中和を示す。
図6Aは、抗Scg3 mAbがHRMVECのScg3誘導増殖を抑制したことを示す。細胞を、Scg3(1μg/mL)と共に、抗Scg3クローン49mAb(2μg/mL)の存在下または非存在下で48時間インキュベートした。ウェル当たりの細胞数を定量化した(n=6)。
図6Bは、抗Scg3 mAbが、SrcキナーゼのScg3誘導活性化を阻止したことを示す。HRMVECを、Scg3(1μg/mL)と共に、抗Scg3クローン49 mAb(2μg/mL)の存在下または非存在下で10分間インキュベートし、ウェスタンブロットにより分析した。
図6Cは、リン酸化Src(P-Src)シグナル強度(n=5)の定量化を示す。
【
図7-1】マトリゲル誘導CNVの抗Scg3治療を示す。
図7Aは、代表的なフルオレセイン血管造影画像を示す。0日目にマトリゲルを網膜下に注射した。ウサギ対照IgG(25μg/kg体重)、マウス対照IgG1(25μg/kg)、アフリベルセプト(250μg/kg)、抗Scg3 pAb(25μg/kg)または抗Scg3 mAbクローン49もしくはクローン78(25μg/kg)を0、2、および4日目に皮下に注射した。フルオレセイン血管造影を7日目に実施し、CNV漏出を分析した。
図7Bは、ウサギ対照IgG、マウス対照IgG1、アフリベルセプト、抗Scg3 pAbまたは抗Scg3 mAbクローン49で処理したマウスのCNV漏出の定量化を示す。試験したマウスの数は、バーの下部に示されており、統計的有意性は1元配置分散分析検定を用いて計算した。
【
図7-2】
図7Cは、抗Scg3 mAbクローン78で処理したマウスの代表的なフルオレセイン血管造影画像を示す。
図7Dは、対照IgGおよび抗Scg3 mAbクローン78で処理したマウスのCNV漏出の定量化を示す。
【
図8】抗Scg3およびVEGF発現の調節を示す。
図8Aは、Scg3がVEGF発現を調節しない、またはその逆も同じであることを示す、Scg3(1μg/mL)およびVEGF(100ng/mL)で処理したHRMVECのウェスタンブロットを示す(n=6)。
図8Bは、Scg3発現の定量化を示す(n=5)。
図8Cは、VEGF発現の定量化を示す(n=3)。
【
図9-1】癌の抗Scg3治療を示す。
図9Aは、Scg3が腫瘍関連内皮リガンドであることを示す、比較リガンドミクス分析を示す。
【
図9-2】
図9Bは、抗Scg3 mAbの腹腔内投与が、対照マウスIgG1に比べて、マウス中のヒト乳癌異種移植片のサイズを有意に小さくすることを示す(n=4)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示は、抗Scg3抗体、ならびにそれらのフラグメントおよび誘導体、ならびに例えば、DR、nAMD、ROP、および癌の治療におけるそれらの使用法を提供する。
【0022】
セクレトグラニンIII(Scg3または1B1075)は、グラニンファミリーに属し、これは、分泌顆粒の生合成を調節する(Hosaka and Watanabe.Endocrine journal.2010;57(4):275-86;Taupenot et al.N Engl J Med.2003;348(12):1134-49)。グラニンファミリーの他のメンバーには、クロモグラニンA(CgA)、クロモグラニンB(CgB)およびセクレトグラニンII~VII(Scg2~7)が挙げられる(Helle KB.Biol Rev Camb Philos Soc.2004;79(4):769-94)。CgAは、血管新生を調節する(Helle and Corti.Cell Mol Life Sci.2015;72(2):339-48)。Scg3は、CgAの結合相手であり、分泌顆粒生合成およびペプチドホルモン分泌において重要な役割を果たす(Hosaka and Watanabe.Endocrine journal.2010;57(4):275-86)。Scg3は、機能障害性β-細胞から分泌される報告されており、そのため、1型糖尿病で発現上昇され得る(Dowling et al.Electrophoresis.2008;29(20):4141-9)。Scg3は、糖尿病の血管合併症(Rask-Madsen and King.Cell Metab.2013;17(1):20-33)の内の1つである、動脈硬化病変中で活性化血小板から放出される(Coppinger et al.Blood.2004;103(6):2096-104)。それの他のファミリーメンバーと同様に、Scg3は、細胞外間隙中の分泌され得る古典的なシグナルペプチドである(Dowling et al.Electrophoresis.2008;29(20):4141-9)。
【0023】
Scg3は、細胞リガンドまたは血管新生因子としては報告されてこなかった。抗血管新生療法の標的としてのScg3は、米国特許出願第14/708,073号で考察されている。この特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。本開示は、抗Scg3療法、例えば、DR、nAMD、および癌の治療および予防のための、特有の疾患関連活性、高い効力、最小限の副作用、柔軟な投与経路およびVEGFからの明確なシグナル伝達経路の利点を提供する抗Scg3 mAbに関する。
【0024】
次の定義は、熟練開業医の本開示の理解を支援するのに有用であろう。別に定めのない限り、本開示で使用される科学技術用語は、当業者により一般的に理解されている意味を有するものとする。さらに、文脈により別義が要求されない限り、単数形の用語は、複数を含み、複数形の用語は、単数を含むものとする。一般に、本明細書に記載の、細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学およびタンパク質ならびに核酸化学およびハイブリダイゼーションに関連して使われる、およびこれらの技術で使われる命名法は、当該技術分野でよく知られ、一般的に使用されているものである。本発明の実施には、分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学における、当業者の範囲内にある多くの従来技術が使用される。このような技術は、例えば、Molecular Cloning:a Laboratory Manual 3rd edition,J.F.Sambrook and D.W.Russell,ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001;Recombinant Antibodies for Immunotherapy,Melvyn Little,ed.Cambridge University Press 2009;“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,ed.,1984);“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,ed.,1987);“Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.);“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987,and periodic updates);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis et al.,ed.,1994);“A Practical Guide to Molecular Cloning”(Perbal Bernard V.,1988);“Phage Display:A Laboratory Manual”(Barbas et al.,2001)にさらに詳細に記載されている。 製造業者の説明書を含む、当業者に広く知られ、信頼されている標準的プロトコルを含むこれらの文献およびその他の文献の内容は、本開示の一部として、参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「抗体(antibody)」または「抗体(複数形)(antibodies)」は、生化学的および生物工学的技術におけるそれらの通常の意味を有する。本明細書で使われる場合の用語の意味内の抗体に含まれるのは、内在性遺伝子を活性化することを伴うプロセス、ならびに細胞培養で作られた抗体および遺伝子導入植物および動物中で作られたものを含む外来性発現構築物の発現を伴うプロセスにより作られたものを含む、生物源から単離されたもの、例えば、ハイブリドーマにより産生された抗体、組換えDNA技術により作製された抗体(時には、本明細書では組換え抗体とも呼ばれる)、ならびにペプチド合成および半合成を含む、化学合成を含む方法により作製された抗体である。別義が明示的に記載されている場合を除き、本明細書で使われる場合にこの用語の範囲内に入るものは特に、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、および多価(例えば、二重特異性)抗体である。一態様では、抗体はポリクローナル抗体ではない。プロトタイプの抗体は、ジスルフィド結合により一緒に連結された、2つの同一の軽鎖-重鎖二量体からなる四量体糖タンパク質である。2種のタイプの脊椎動物軽鎖、カッパおよびラムダが存在する。各軽鎖は、定常領域および可変領域からなる。カッパおよびラムダ軽鎖は、それらの定常領域配列で区別される。5種のタイプの脊椎動物重鎖:アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、およびミューがあり、これらは抗体の、それぞれ、IgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとしてのアイソタイプを定義する。各重鎖は、可変領域および定常領域からなり、これらは通常3つのドメインを含む。VHおよびVL領域は、CDRと呼ばれる超可変性領域と、その領域の間に介在するフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域に、さらに細分できる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRからなり、アミノ末端からカルボキシ末端へ次の順で配列される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖は、2つの領域:可変(Fv)領域とも呼ばれるFab(フラグメント、抗原結合)領域、およびFc(フラグメント、結晶性)領域、を形成する。重鎖および軽鎖の可変領域(Fv)は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常(Fc)領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1の構成成分(C1q)を含む宿主組織または因子への結合を媒介し得る。本明細書において参照される場合、用語の「抗体(antibody)」および「抗体(複数形)(antibodies)」は、全体の、完全長抗体(例えば、2つの重鎖および2つの軽鎖を有する免疫グロブリン)を含む。本明細書に記載の抗体の特徴はまた、その抗原結合領域(単一または複数)または単鎖が保持される、その任意のフラグメントまたはこれらの誘導体にも当てはまることは理解されよう。
【0026】
用語の抗体の「抗原結合領域」は、抗原特異性を付与する領域または部分を意味し、したがって、~の抗原結合フラグメント(antigen-binding fragments of)は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の部分(例えば、HLA-ペプチド複合体)を含む。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語の「フラグメント」は、対応する完全長抗体に比較して、アミノ末端および/またはカルボキシ末端の欠失を有するポリペプチドを意味する。用語の「フラグメント」内に包含される抗体フラグメントの例には、Fabフラグメント;VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価のフラグメント;F(ab’)2フラグメント;ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメント;VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;VHドメインからなる単一ドメイン抗体(dAb)(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);単離CDR;ならびにscFvが含まれる。
【0028】
用語の「誘導体」は、例えば、別の化学部分(例えば、ポリエチレングリコールまたはアルブミン、例えば、ヒト血清アルブミンなど)への結合、リン酸化、および/またはグリコシル化により化学修飾されている抗体またはその抗原結合フラグメントを意味する。
【0029】
「scFv」は、組換え法を用いて、FvフラグメントのVLおよびVHの2つのドメインを合成リンカーで連結することにより改変できる一価分子である(例えば、Bird et al.Science,1988;242:423-426;and Huston et al.Proc.Natl.Acad.Sci.1988;85:5879-5883を参照されたい)。このような単鎖抗原結合ペプチドも、用語の「抗体」内に包含されることが意図されている。これらの抗体フラグメントは、当業者に既知の従来技術を使用して得られ、フラグメントは完全な抗体の場合と同じ方法で有用性に関しスクリーニングされる。
【0030】
用語の「交差阻止する(cross-block)」、「交差阻止された(cross-blocked)」および「交差阻止(cross-blocking)」は、本明細書では同じ意味で用いられ、抗体またはその他の抗原結合タンパク質のその他の抗体または抗原結合タンパク質のScg3への結合を妨げる(例えば、抑制する)能力を意味する。交差阻止の検出方法については以下に記載する。
【0031】
用語の「治療的に有効な」または「有効な」は、対象の状態および投与される特定の抗体またはその抗原結合フラグメントに依存する。この用語は、目的の臨床的効果を達成するのに有効な量を意味する。有効量は、治療される状態の性質、活性が望まれる時間の長さ、ならびに対象の年齢および状態で変化し、最終的には、医療提供者により決定される。種々の態様では、治療有効量は、血管新生(例えば、PDR)、内皮細胞および/または周皮細胞のアポトーシス、血管漏出(例えば、網膜血管漏出)、白血球粘着、無細胞毛細血管、毛細血管瘤、網膜静脈閉塞症、血管新生(例えば、脈絡膜および網膜)、視力喪失および前述のいずれかの組み合わせを含む本明細書に記載の疾患または障害(例えば、DR、nAMD、ROP、および過剰の血管新生に関連する疾患)に関連する症状の発症を防ぐ、遅らせる、またはその症状の重症度を下げるのに効果的な量である。別の態様では、治療有効量は、腫瘍量を減らす、細胞増殖(例えば、癌細胞増殖)を抑制する、腫瘍サイズを小さくする、腫瘍増殖を抑制するのに、または前述のいずれかの組み合わせに効果的な量である。
【0032】
用語の「治療すること(treating)」、「治療する(treat)」、「治療(treatment)」などは、防止的(例えば、予防的)、対症的、救済的、および治癒的療法を含む。
【0033】
本開示は、Scg3に特異的に結合する抗体およびその抗原結合フラグメント、例えば、抗Scg3モノクローナル抗体を提供する。一態様では、Scg3に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含み、(a)CDR-H1は、配列番号3、11、19、および27からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、(b)CDR-H2は、配列番号4、12、および20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、(c)CDR-H3は、配列番号5、13、21、および28からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、(d)CDR-L1は、配列番号6、14、22、および32からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、(e)CDR-L2は、配列番号7、15、23、および29からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、ならびに(f)CDR-L3は、配列番号8、16、および24からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。別の態様では、セクレトグラニンIIIに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号1、9、17、25、30、38、または34に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号2、10、18、26、31、33、または35に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0034】
本明細書に記載の抗体および抗原結合フラグメントに関する配列情報は、表1に提供される(CDR配列は下線を付けた)。
【表1-1】
【表1-2】
【0035】
一例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含み、(a)CDR-H1は、配列番号3を含み;(b)CDR-H2は、配列番号4を含み;(c)CDR-H3は、配列番号5を含み;(d)CDR-L1は、配列番号6を含み;(e)CDR-L2は、配列番号7を含み;および(f)CDR-L3は、配列番号8を含む。場合により、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号2に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0036】
別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含み、(a)CDR-H1は、配列番号11を含み;(b)CDR-H2は、配列番号12を含み;(c)CDR-H3は、配列番号13を含み;(d)CDR-L1は、配列番号14を含み;(e)CDR-L2は、配列番号15を含み;および(f)CDR-L3は、配列番号16を含む。場合により、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号9に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号10に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0037】
さらに別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含み、(a)CDR-H1は、配列番号19を含み;(b)CDR-H2は、配列番号20を含み;(c)CDR-H3は、配列番号21を含み;(d)CDR-L1は、配列番号22を含み;(e)CDR-L2は、配列番号23を含み;および(f)CDR-L3は、配列番号24を含む。場合により、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号17に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号18に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0038】
一例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含み、(a)CDR-H1は、配列番号27を含み;(b)CDR-H2は、配列番号4を含み;(c)CDR-H3は、配列番号28を含み;(d)CDR-L1は、配列番号22を含み;(e)CDR-L2は、配列番号29を含み;および(f)CDR-L3は、配列番号24を含む。場合により、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号25に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号26に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0039】
別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含み、(a)CDR-H1は、配列番号27を含み;(b)CDR-H2は、配列番号4を含み;(c)CDR-H3は、配列番号28を含み;(d)CDR-L1は、配列番号32を含み;(e)CDR-L2は、配列番号29を含み;および(f)CDR-L3は、配列番号24を含む。場合により、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号30に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号31に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0040】
さらに別の例では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含み、(a)CDR-H1は、配列番号3を含み;(b)CDR-H2は、配列番号4を含み;(c)CDR-H3は、配列番号28を含み;(d)CDR-L1は、配列番号22を含み;(e)CDR-L2は、配列番号29を含み;および(f)CDR-L3は、配列番号24を含む。場合により、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号38または34に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および配列番号33または35に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0041】
配列番号1、9、17、25、30、38、または34に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号2、10、18、26、31、33、または35に少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む本明細書で開示の抗体またはその抗原結合フラグメントのいずれかに関して、重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変領域は、前述の配列番号の1つに、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である。
【0042】
一態様では、抗原結合フラグメントは、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、またはscFvである。
【0043】
別の態様では、本開示は、参照抗体のセクレトグラニンIIIとの結合を交差阻止する抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、この参照抗体は、配列番号3~8のCDRを含む抗体;配列番号11~16のCDRを含む抗体;配列番号19~24のCDRを含む抗体;配列番号27、4、28、22、29、および24のCDRを含む抗体;配列番号27、4、28、32、29、および24のCDRを含む抗体;ならびに配列番号3、4、28、22、29、および24のCDRを含む抗体からなる群より選択される。例えば、参照抗体は、配列番号1を含む重鎖可変領域および配列番号2を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号9を含む重鎖可変領域および配列番号10を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号17を含む重鎖可変領域および配列番号18を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号25を含む重鎖可変領域および配列番号26を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号30を含む重鎖可変領域および配列番号31を含む軽鎖可変領域を含む抗体;配列番号38を含む重鎖可変領域および配列番号33を含む軽鎖可変領域を含む抗体;ならびに配列番号34を含む重鎖可変領域および配列番号35を含む軽鎖可変領域を含む抗体からなる群より選択される。
【0044】
抗体またはその抗原結合フラグメントは、任意の好適な方法を使用して、例えば、免疫された動物から単離して、組換えでまたは人工的に生成して、または遺伝子改変により産生される。例えば、特異的抗原に結合するモノクローナル抗体は、当業者に既知の方法により得ることが可能である(例えば、Kohler et al.Nature 256:495,1975;Coligan et al.(eds.),Current Protocols in Immunology,1:2.5.12.6.7(John Wiley & Sons 1991);米国再発行特許第32,011号、米国特許第4,902,614号、同第4,543,439号、および同第4,411,993号;Monoclonal Antibodies,Hybridomas:A New Dimension in Biological Analyses,Plenum Press,Kennett,McKearn,and Bechtol(eds.)(1980);およびAntibodies:A Laboratory Manual,Harlow and Lane(eds.),Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988);DNA Cloning 2:Expression Systems,2nd Edition,Glover et al.(eds.),page 93(Oxford University Press 1995)、中のPicksley et al.“Production of monoclonal antibodies against proteins expressed in E.coli,”を参照されたい)。モノクローナル抗体は、例えば、当技術分野において既知の遺伝子導入またはノックアウトを含む、動物、例えば、ラット、ハムスター、ウサギ、または好ましくはマウスに、ヒトScg3またはそのフラグメントを含む免疫原を、当該技術分野において既知の方法および本明細書に記載の方法に従って注射することにより得ることができる。特異的抗体産生の存在は、最初の注射後、または追加抗原注射後に、血清試料を採取して、当該技術分野において既知のおよび本明細書に記載のいずれかの免疫検出方法を用いて、ヒトScg3またはペプチドに結合する抗体の存在を検出することによりモニターし得る。目的の抗体を産生する動物から、リンパ系細胞、最も一般的には脾臓またはリンパ節由来の細胞を取り出して、Bリンパ球を得る。Bリンパ球はその後、薬物感作された骨髄腫細胞融合パートナー、好ましくは免疫された動物と同系で、必要に応じ、その他の望ましい特性(例えば、内在性Ig遺伝子産物、例えば、P3X63-Ag8.653(ATCC番号CRL1580);NSO、SP20を発現できない性質)を有するものと融合されて、不死真核細胞株のハイブリドーマを産生する。リンパ系(例えば、脾臓)細胞および骨髄腫細胞は、ポリエチレングリコールまたは非イオン洗剤などの膜融合促進剤と共に数分間混合され、その後、ハイブリドーマの増殖を促進するが融合していない骨髄腫細胞の増殖は促進しない選択培地上に低密度で播種され得る。好ましい選択培地は、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)である。十分な時間、通常は約1~2週間の後に、細胞のコロニーが観察される。単一コロニーが単離され、細胞により産生された抗体は、当該技術分野において既知のおよび本明細書に記載の種々のイムノアッセイの内のいずれか1つを用いて、ヒトScg3に対する結合活性の試験がなされ得る。ハイブリドーマは、クローニングされ(例えば、限界希釈クローニングまたは軟寒天プラーク単離により)、Scg3特異的抗体を産生する陽性クローンが選択され、培養される。ハイブリドーマ培養由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養上清から単離し得る。マウスモノクローナル抗体の産生のための別法は、ハイブリドーマ細胞を同系マウス、例えば、モノクローナル抗体を含有する腹水の形成を促進するように処理された(例えば、プリスタンで初回抗原刺激を受けた)マウスの腹膜腔中に注射することである。モノクローナル抗体は、単離して、種々の十分に確立された技術により精製できる。このような単離技術には、タンパク質-Aセファロースを用いた親和性クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーが含まれる(例えば、Coligan at pages 2.7.1-2.7.12 and pages 2.9.1-2.9.3;Baines et al.,“Purification of Immunoglobulin G(IgG),” in Methods in Molecular Biology,Vol.10,pages 79-104(The Humana Press,Inc.1992)を参照されたい)。モノクローナル抗体は、特定の抗体の性質(例えば、重鎖または軽鎖アイソタイプ、結合特異性、など)に基づいて選択された適切なリガンドを用いた親和性クロマトグラフィーにより精製され得る。固体支持体上に固定される好適なリガンドの例には、プロテインA、プロテインG、抗定常領域(軽鎖または重鎖)抗体抗イディオタイプ抗体、およびTGFベータ結合タンパク質、またはそのフラグメントもしくは変種が挙げられる。
【0045】
抗体のフラグメント、誘導体、または類似体はまた、当該技術分野において既知の技術を用いて容易に作製できる。抗体由来の抗原結合フラグメントは、例えば、抗体のタンパク質加水分解、例えば、従来の方法による完全抗体のペプシンまたはパパイン消化により得ることができる。例えば、抗体フラグメントは、抗体をペプシンで酵素切断して、F(ab’)2と呼ばれる5Sフラグメントを得ることによって産生できる。このフラグメントは、チオール還元剤を使用してさらに切断して、3.5SのFab’一価フラグメントを産生することができる。必要に応じ、この切断反応は、ジスルフィド連結の切断から生じるスルフヒドリル基に対する保護基を使用して実施できる。別の方法として、パパインを使用する酵素切断により、2つの一価FabフラグメントおよびFcフラグメントが直接的に産生される。これらの方法は、例えば、Goldenberg,米国特許第4,331,647号;Nisonoff et al.,Arch.Biochem.Biophys.89:230,1960;Porter,Biochem.J.73:119,1959;Methods in Enzymology 1:422(Academic Press 1967)中の、Edelman et al.,;およびCurrent Protocols in Immunology(Coligan J.E.et al.,eds),John Wiley & Sons,New York(2003),pages 2.8.1-2.8.10 and 2.10A.1-2.10A.5中の、Andrews,S.M.and Titus,J.A.により記載されている。抗体を切断する他の方法、例えば、一価の軽鎖-重鎖フラグメント(Fd)を形成させるための重鎖の分離、フラグメントのさらなる切断、または他の酵素的、化学的もしくは遺伝学的な技術などもまた、フラグメントが、完全な抗体によって認識される抗原に結合する限り、使用し得る。
【0046】
抗体またはそのフラグメントはまた、遺伝子的に改変することもできる。例えば、種々の態様では、抗体または抗体フラグメントは、例えば、組換えDNA操作技術により生成された可変領域ドメインを含む。これに関しては、抗体可変領域は、必要に応じ、抗体のアミノ酸配列中の挿入、欠失、または変更により改変されて、目的の抗体が産生される。目的のCDRをコードするポリヌクレオチドが、例えば、抗体産生細胞のmRNAを鋳型として使用して、ポリメラーゼ連鎖反応または可変領域を合成する遺伝子合成を用いて、作製される(例えば、Monoclonal Antibodies:Production,Engineering and Clinical Application,Ritter et al.(eds.),page 166(Cambridge University Press 1995)中の、Courtenay Luck,“Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies,”;Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Birch et al.,(eds.),page 137(Wiley Liss,Inc.1995)中の、Ward et al.,“Genetic Manipulation and Expression of Antibodies,”;およびEnzymology,2:106-110,1991中の、Larrick et al.,Methods:A Companion to Methodsを参照されたい)。現在の抗体操作技術は、少なくとも1つのCDRおよび必要に応じ、1つまたは複数の第1の抗体由来のフレームワークアミノ酸および第2の抗体由来の可変領域ドメインの残りの部分を含有する遺伝子改変可変領域ドメインの構築を可能とする。このような技術は、例えば、抗体をヒト化するまたは結合標的に対するその親和性を改善するために使用される。ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンの重可変鎖および軽可変鎖のCDRが、ヒト可変ドメイン中に移されている抗体である。定常領域は存在する必要はないが、存在する場合は、種々の実施形態では、それらは、必要に応じ、ヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち、少なくとも約85~90%、約95%またはそれ超同一である。したがって、いくつかの事例では、ヒト化免疫グロブリンのすべての部分は、場合によりCDRを除いて、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。例えば、一態様では、ヒト化抗体は、宿主抗体の高頻度可変領域の残基が、マウス、ラット、ウサギまたは目的の特異性、親和性および能力を有する非ヒト霊長類などの非ヒト種からの高頻度可変領域の残基(ドナー抗体)によって置換されているヒト免疫グロブリン(宿主抗体)である。
【0047】
抗体の抗原結合フラグメントの1つの形態は、1個または複数の抗体の相補性決定領域(CDR)を含むペプチドである。CDR(「最小認識単位」または「高頻度可変領域」とも呼ばれる)は、目的のCDRをコードするポリヌクレオチドを構築することによって得ることができる。このようなポリヌクレオチドは、例えば、抗体産生細胞のmRNAを鋳型として用いて可変領域を合成するためのポリメラーゼ連鎖反応を使用することにより調製される(例えば、Enzymology 2:106,1991中の、Larrick et al.,Methods:A Companion to Methods;Monoclonal Antibodies:Production,Engineering and Clinical Application,Ritter et al.(eds.),page 166(Cambridge University Press 1995)中の、Courtenay-Luck,“Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies,”;およびMonoclonal Antibodies:Principles and Applications,Birch et al.,(eds.),page 137(Wiley-Liss,Inc.1995)中の、Ward et al.,“Genetic Manipulation and Expression of Antibodies”を参照されたい)。
【0048】
したがって、一実施形態では、その抗原結合フラグメントは、本明細書に記載の通り、少なくとも1つの本明細書に記載のCDRを含む。その抗原結合フラグメントは、少なくとも2つの、3つの、4つの、5つのまたは6つの本明細書に記載のCDRを含み得る。抗体またはその抗原結合フラグメントは、本明細書に記載の抗体の少なくとも1つの可変領域ドメインをさらに含み得る。可変領域ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成物のものでよく、一般に、具体的に本明細書に記載され、1つまたは複数のフレームワーク配列に隣接しているまたはインフレームである、ヒトScg3への結合に関与する少なくとも1つのCDR配列、例えば、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3および/または軽鎖CDRを含む。一般論として、可変(V)領域ドメインは、任意の好適な配列の免疫グロブリン重(VH)鎖可変ドメインおよび/または軽(VL)鎖可変ドメインであり得る。したがって、例えば、V領域ドメインは、単量体であってよく、また、VHまたはVLドメインであってよく、これは、以下に記載のように、少なくとも1x10-7M以下の親和性でScg3に独立に結合できる。あるいは、V領域ドメインは、二量体であってよく、VH-VH、VH-VL、またはVL-VL二量体を含み得る。V領域二量体は、非共有結合で結合した、少なくとも1つのVHおよび少なくとも1つのVL鎖を含む(以降では、Fvと呼ぶ)。必要に応じ、鎖は、直接に、例えば、ジスルフィド結合を介して2つの可変ドメイン間で共有結合して、またはリンカー、例えば、ペプチドリンカーを介して、共有結合して、単鎖Fv(scFv)を形成し得る。
【0049】
可変領域ドメインは、任意の天然の可変ドメインまたはその遺伝子改変型であってよい。遺伝子改変型は、組換えDNA操作技術を用いて生成された可変領域ドメインを意味する。このような遺伝子改変型には、例えば、特異的抗体のアミノ酸配列中でまたはアミノ酸配列に対し、挿入、欠失、または変更により、特異的抗体可変領域から、生成したものを含む。特定の例としては、少なくとも1つのCDRおよび必要に応じ、1つまたは複数の第1の抗体由来のフレームワークアミノ酸および第2の抗体由来の可変領域ドメインの残りの部分を含有する遺伝子改変可変領域ドメインが含まれる。
【0050】
特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ポリマー、脂質、またはその他の部分と化学結合し得る。例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントは、限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、またはポリプロピレングリコールを含む、1個または複数の水溶性ポリマー付加物を含み得る。例えば、米国特許第4,640,835号;同第4,496,689号;同第4,301,144号;同第4,670,417号;同第4,791,192号;および同第4,179,337号を参照されたい。特定の実施形態では、抗体または抗原結合フラグメント誘導体は、1種または複数のモノメトキシポリエチレングリコール、デキストラン、セルロース、またはその他の炭水化物系ポリマー、ポリ(N-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)およびポリビニルアルコール、ならびにこのようなポリマーの混合物を含む。特定の実施形態では、1種または複数の水溶性ポリマーは、1つまたは複数の側鎖にランダムに結合される。特定の実施形態では、PEGは、抗体などの結合剤の治療能力を改善するように作用し得る。特定のこのような方法は、例えば、米国特許第6,133,426号で考察されている。この特許は、目的に応じて、参照により本明細書に組み込まれる。
【0051】
抗体またはそのフラグメントは、Scg3に優先的に結合し、これは、抗体またはそのフラグメントが、無関係の対照タンパク質に対する結合よりも高い親和性でScg3に結合することを意味する。より好ましくは抗体またはそのフラグメントは、Scg3またはその一部を特異的に認識し、結合する。「特異的結合」は、抗体またはそのフラグメントが、無関係の対照タンパク質に対する親和性よりも、少なくとも5、10、15、20、25、50、100、250、500、1000、または10,000倍大きい親和性で、Scg3に対し結合することを意味する。いくつかの変形例では、抗体またはそのフラグメントは、実質的に独占的にScg3に結合する、すなわち、結合親和性の測定可能な差異のおかげで、その他の既知のポリペプチド(例えば、その他のグラニン)からScg3を区別できる。抗体またはそのフラグメントは、1x10-7以下、1x10-8以下、1x10-9以下、1x10-10以下、1x10-11以下、または1x10-12以下のScg3に対する結合親和性を有し得る。親和性は、親和性ELISAアッセイにより測定し得る。特定の実施形態では、親和性は、BIAcore(GE Healthcare Bio-Sciences,Pittsburgh,PA)またはOctet(Pall ForteBio,Menlo Park,CA)アッセイにより測定し得る。特定の実施形態では、親和性は、速度論的方法により測定し得る。特定の実施形態では、親和性は、平衡/溶液法により測定し得る。このような方法は、本明細書でさらに詳細に記載される、または当該技術分野において既知である。
【0052】
種々の態様では、抗体もしくはその抗原結合フラグメントは、本明細書に記載の細胞ベースアッセイ、および/または本明細書に記載のインビボアッセイでScg3機能を調節する、および/または本出願で記載の1つの抗体の結合を交差阻止する、および/または本出願に記載の抗体の1つにより、Scg3結合から交差阻止される。したがって、このような抗体もしくはその抗原結合フラグメントは、本明細書に記載のアッセイを用いて、特定できる。
【0053】
本開示の抗体または抗原結合フラグメントは、結合剤が結合特異性を保持する限りにおいて、本明細書で提供されるアミノ酸配列に対して、少なくとも1個のアミノ酸置換を有し得ることは理解されよう。したがって、抗体またはその抗原結合フラグメントに対する改変は、本発明の範囲に包含される。これらには、抗体またはその抗原結合フラグメントのScg3結合機能を破壊しない、保存的または非保存的であり得る、アミノ酸置換を含み得る。保存的アミノ酸置換は、生物学的システムによって合成されるのではなく、化学的ペプチド合成によって通常組み込まれる非天然のアミノ酸残基も包含し得る。これらには、ペプチド模倣体およびその他の逆転型または反転型のアミノ酸部分が含まれる。保存的アミノ酸置換は、その位置におけるアミノ酸残基の極性または電荷にほとんどあるいはまったく影響しないように天然のアミノ酸残基の標準的残基による置換を含み得る。非保存的置換は、1つのクラスのアミノ酸またはアミノ酸模倣物質のメンバーの異なった物理的性質(例えば、サイズ、極性、疎水性、電荷)を有する別のクラス由来のメンバーとの交換を含み得る。このような置換残基は、非ヒト抗体と相同なヒト抗体領域に、または分子の非相同領域中に導入され得る。
【0054】
さらに、当業者なら、それぞれの目的のアミノ酸残基の位置に1つのアミノ酸置換を含む試験変種を生成し得る。その後、当業者に既知の活性アッセイを用いて変種をスクリーニングできる。このような変種を用いて、好適な変種に関する情報を収集し得る。例えば、特定のアミノ酸残基への変更により活性の破壊、望ましくない活性の低下または不適切な活性を生じることがわかった場合、このような変更を有する変種は回避され得る。換言すれば、このような定型的な実験から収集した情報に基づいて、当業者は、単独でまたはその他の変異と組み合わせてさらなる置換を回避すべきアミノ酸を容易に特定できる。
【0055】
当業者なら、よく知られた技術を用いて、本明細書に記載のポリペプチドの好適な変種を決定できるであろう。特定の実施形態では、当業者なら、活性にとって重要でないと考えられている部位を標的とすることにより、活性を破壊することなく、変更し得る好適な分子の部分を特定し得る。特定の実施形態では、類似のポリペプチド中で保存されている残基および分子の部分を特定できる。特定の実施形態では、生物活性または構造に重要であり得る部分であっても、生物活性を破壊することなく、またはポリペプチド構造に悪影響を及ぼすことなく、保存的アミノ酸置換に供し得る。
【0056】
さらに、当業者なら、類似のポリペプチド中の活性または構造に重要な残基を特定する構造-機能研究を再検討できる。このような比較を考慮すれば、類似のタンパク質中の活性または構造に重要なアミノ酸残基に対応するタンパク質中のアミノ酸残基の重要性を予測することができる。当業者ならこのように予測された重要なアミノ酸残基に対する、化学的に類似のアミノ酸置換を選択し得る。
【0057】
また、当業者なら、類似のポリペプチドの三次元構造に関連して、当該ポリペプチドの三次元構造およびアミノ酸配列を解析できる。このような情報を考慮すれば、当業者なら、抗体の三次元構造に関連して、抗体のアミノ酸残基のアライメントを予測し得る。特定の実施形態では、当業者なら、タンパク質の表面上にあると予測されるアミノ酸残基に対して根本的な変更を生じないように選択し得る。理由は、このような残基がその他の分子との重要な相互作用に関与し得るためである。
【0058】
抗体またはその抗原結合フラグメントが、上記表1の少なくとも1つのCDRと、および/または表1の少なくとも1つの抗体のScg3との結合を交差阻止する、および/または表1の少なくとも1つの抗体によりScg3に対する結合から交差阻止される、抗Scg3抗体のCDRと、および/または抗Scg3抗体のCDRと、少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を有する場合、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、本開示の範囲内にある。この場合、細胞ベースアッセイで、抗Scg3抗体は、Scg3の効果を阻止できる。抗体またはその抗原結合フラグメントが、上記表1の少なくとも1つの抗体の可変領域と、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を有し、表1の少なくとも1つの抗体のScg3との結合を交差阻止し、および/または表1の少なくとも1つの抗体によりScg3との結合を交差阻止され、および/または細胞ベースアッセイでScg3の効果を阻止できる場合、この抗体またはその抗原結合フラグメントは同様に、本発明の範囲内にある。
【0059】
一態様では、本開示は、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸を提供する。本開示はまた、前記核酸を含む発現ベクターを提供する。各CDR配列をコードする核酸は、CDRのアミノ酸配列を基準にして決定し得、オリゴヌクレオチド合成技術、部位特異的変異誘発およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を必要に応じて用いて、任意の所望の抗体可変領域フレームワークおよび定常領域ポリヌクレオチド配列と一緒に合成され得る。可変領域フレームワークおよび定常領域のコーディングは、ジェンバンクなどの遺伝子配列データベースから、当業者に広く利用可能である。
【0060】
一態様では、本開示は、本明細書に記載の抗体または抗原結合フラグメントをコードする発現ベクターまたは核酸を遺伝子導入された宿主細胞を提供する。特定の実施形態では、抗体フラグメントの発現は、大腸菌などの原核生物宿主細胞中で実施するのが好ましい場合がある(例えば、Pluckthun et al.,Methods Enzymol.1989;178:497-515を参照されたい)。特定のその他の実施形態では、抗体またはそのフラグメントの発現は、酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、およびPichia pastoris)、動物細胞(哺乳動物細胞を含む)または植物細胞を含む真核生物宿主細胞中で実施するのが好ましい場合がある。好適な動物細胞の例には、骨髄腫(マウスNSO系統など)、COS、CHO、またはハイブリドーマ細胞が挙げられるが、これらに限定されない。植物細胞の例には、タバコ、トウモロコシ、大豆、およびイネ細胞が挙げられる。このようにして抗体を産生させるための特定の方法は、一般に周知であり、日常的に使用されている。例えば、基本的分子生物学的手順は、Maniatis et al.Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1989に記載されている。また、Maniatis et al.,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,(2001)も参照されたい。DNA塩基配列決定法を実施でき(例えば、Sanger et al.,PNAS 1977;74:5463に記載のように)、部位特異的変異誘発が当該技術分野において既知の方法に従って実施できる(Kramer et al.,Nucleic Acids Res.1984;12:9441;Kunkel Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1985;82:488-92;Kunkel et al.,Methods in Enzymol.1987;154:367-82)。さらに、多くの刊行物に、DNA操作、発現ベクターの生成ならびに適切な細胞の形質転換および培養による抗体の作製に適した技術が記載されている(Mountain A and Adair,J R in Biotechnology and Genetic Engineering Reviews(ed.Tombs,M P,10,Chapter 1,1992,Intercept,Andover,UK);“Current Protocols in Molecular Biology”,1999,F.M.Ausubel(ed.),Wiley Interscience,New York)。抗体などのいくつかのタンパク質は、種々の翻訳後修飾を受け得ることは、当業者に理解されよう。これらの修飾のタイプと程度は、多くの場合、タンパク質発現に使用される宿主細胞株ならびに培養条件に依存する。このような修飾には、グリコシル化、メチオニン酸化、ジケトピペラジン形成、アスパラギン酸異性化およびアスパラギン脱アミド化におけるバラツキを含み得る。高頻度な修飾は、カルボキシペプチダーゼの作用に起因するカルボキシ末端塩基性残基(リシンまたはアルギニンなど)の損失である(Harris,RJ.Journal of Chromatography 1995;705:129-134に記載のように)。
【0061】
必要に応じ、抗体またはその抗原結合フラグメントの親和性は、いくつかの親和性成熟プロトコルのいずれかにより改善され、これらのプロトコルには、CDRの維持(Yang et al.,J.Mol.Biol.,1995;254:392-403)、チェーンシャッフリング(Marks et al.,Bio/Technology 1992;10:779-783)、大腸菌の変異株の使用(Low et al.,J.Mol.Biol.,250,350-368,1996)、DNAシャフリング(Patten et al.,Curr.Opin.Biotechnol.,8,724-733,1997)、およびファージディスプレイ(Thompson et al.,J.Mol.Biol.,256,7-88,1996)が挙げられる。他の親和性成熟の方法は、Vaughan et al.,Nature Biotechnology 1998;16,535-539で考察されている。
【0062】
抗体またはそのフラグメントの親和性、ならびに抗体またはそのフラグメントが結合を抑制する程度は、従来技術、例えば、Scatchard et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.51:660-672(1949)に記載の技術を使用して、または表面プラズモン共鳴法(SPR:Biacore)またはOctetアッセイを用いて、当業者により決定できる。SPRでは、標的分子は固相上に固定され、フローセルに沿って流れる移動相中のリガンドに曝露される。固定された標的へのリガンドの結合が生じると、局所的屈折率が変化し、SPR角度の変化に繋がり、反射光の強度の変化を検出することにより、この変化をリアルタイムでモニターできる。SPRシグナルの変化の速度が分析でき、結合相と解離相に対する見かけの速度定数が得られる。これらの値の比は、見かけの平衡定数(親和性)を与える(例えば、Wolff et al.Cancer Res.53:2560-65(1993)を参照されたい)。Octet親和性定量化では、抗原はビオチンで標識され、プローブ上のストレプトアビジンに結合する。抗原への抗体結合は、反射光の強度の変化により、Biacoreの場合と類似の方式で定量される。抗体結合親和性は、類似の方法で定量できる(Estep et al.,MAbs.5:270-278(2013))。
【0063】
本発明による抗体は、いずれかの免疫グロブリンクラス、例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、またはIgAに属し得る。種々の実施形態では、抗体はIgG2またはIgG4などのIgGである。これは、動物、例えば、家禽(例えば、ニワトリ)および、限定されないが、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはその他のげっ歯類、雌ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ヒト、またはその他の霊長類を含む哺乳動物から得られる、またはそれらに由来し得る。抗体は内在化する抗体であってよい。抗体の産生は、例えば、米国特許出願公開第2004/0146888A1号に広範な視点から開示されている。
【0064】
抗体またはその他の結合剤が別のもののScg3への結合を妨害できる程度、および、その結果として、本発明に従って交差阻止すると言えるかどうかは、競合結合アッセイを用いて決定できる。1つの特に好適な定量アッセイは、表面プラズモン共鳴技術を用いて相互作用の程度を測定できる、Biacoreの装置を使用する。別の好適な定量的交差阻止アッセイはOctetアッセイである。別の好適な定量的交差阻止アッセイは、ELISA系手法を使用して、Scg3への結合の観点から、抗体間、または他の結合剤間の競合を測定する。交差阻止(すなわち、競合)アッセイは、国際公開第2006/119107号などにおけるような、当該技術分野においてに記載されている。
【0065】
一態様では、本開示は、薬学的および生理学的に許容可能な担体、賦形剤、または希釈剤と共に、本明細書に記載の抗Scg3抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を提供する。抗Scg3抗体を含む組成物は、限定されないが、錠剤、カプセル、移植片、デポー、液剤、貼付剤、トローチ剤、クリーム剤、ゲル、軟膏、ローション、噴霧剤、点耳剤、および点眼薬を含む任意の好適な剤形であり得る。採用される特定の担体は、溶解度および抗体または共療法剤との反応性のないことなどの物理化学的考慮によって、および投与経路によってのみ制限される。生理学的に許容可能な担体は、当該技術分野で周知である。注射用途に適した例示的剤型としては、無菌水溶液もしくは水分散液、および無菌の注射可能溶液または分散液の即時調製用の無菌粉末が挙げられる(例えば、米国特許第5,466,468号を参照されたい)。注射可能製剤は、例えば、Pharmaceutics and Pharmacy Practice,J.B.Lippincott Co.,Philadelphia.Pa.,Banker and Chalmers.eds.,pages 238-250(1982)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs,Toissel,4th ed.,pages 622-630(1986)でさらに記載されている。一態様では、抗Scg3抗体を含む医薬組成物は、例えば、キット中で、このような医薬組成物の使用に関する説明書を提供する包装材料と共に、容器内に入れられる。通常、このような説明書は、試薬濃度、ならびに、特定の実施形態では、医薬組成物の再構成に必要となり得る、賦形剤成分または希釈剤(例えば、水、生理食塩水またはPBS)の相対量を記載する明白な表現を含む。担体は、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、ビークル、コーティング、希釈剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝液、担体溶液、懸濁液、コロイド、などをさらに含み得る。薬剤的活性物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。従来の媒体または薬剤が有効成分と相いれない場合を除き、治療用組成物中でのそれらの使用が意図されている。補充用の有効成分も、組成物中に組み入れることができる。語句の「薬学的に許容可能な」は、ヒトに投与される場合、アレルギー性または類似の不都合な反応を生じない、分子実体および組成物を意味する。
【0066】
このような医薬組成物の好適な投与方法は、当該技術分野において周知である。2種以上の経路が薬剤(本明細書に記載の抗体または抗原結合フラグメントなど)の投与に使用できるが、特定の経路により、別の経路より速やかな、およびより効果的な反応が得られる場合がある。状況に応じて、抗Scg3抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物は、体腔中に適用または注入される、皮膚または粘膜を通して、吸収される、摂取される、吸入される、眼に投与される、および/または循環中に導入される。例えば、特定の状況では、薬剤を含む医薬組成物を、経口で、静脈内、皮下、腹腔内の、脳内(実質内)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈内、病巣内、髄内、髄腔内、脳室内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所的、舌下、尿道、腟、または直腸手段により、徐放システムにより、埋め込み装置により注入または点滴を介して、送達するのが望ましいであろう。必要に応じ、組成物(または抗体もしくはその抗原結合フラグメント)は、関心領域に供給する動脈内または静脈内投与を介して限局的に投与される。あるいは、組成物は、目的の分子が吸収または封入されている膜、スポンジ、または別の適切な材料の埋め込みにより、例えば、Mylonas et al.,Curr Eye Res.Epub September 9,2016,and Birch et al.,Am J Ophthalmol.2013;156(2):283-292に記載のように、局所投与される。埋め込み装置が使われる場合、一態様では、その装置は、任意の好適な組織または器官中に埋め込まれ、目的の分子の送達は、例えば、拡散、時限放出ボーラス、または継続投与による。他の態様では、薬剤は、腫瘍切除またはその他の外科手術中に、露出組織に直接に投与される。一態様では、医薬組成物は、眼に局所投与され、例えば、眼科的に、眼内に、結膜に、角膜内に、硝子体内に、および/または眼球後方に投与される。治療薬送達手法は、当業者には周知であり、そのいくつかは、例えば、米国特許第5,399,363号にさらに記載されている。
【0067】
特定の対象に対する特定の投与計画は、一部は、使用される抗体または抗原結合フラグメント、投与される抗体または抗原結合フラグメントの量、投与経路、および何らかの副作用の原因と程度に依存する。本発明では、対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物)に対する抗体または抗体フラグメントの量は、適度な時間枠にわたり目的の応答を達成するのに十分である必要がある。種々の態様では、方法は、例えば、約0.1μg/kg~約400mg/kgまたはそれ超(例えば、0.1μg/kg~約100mg/kgまたはそれ超)を投与することを含む。例えば、投与量は、約0.1μg/kg~約10mg/kg;または約5μg/kg~約100mg/kg;または約10μg/kg~約100mg/kg;または約1mg/kg~約50mg/kg;または約2mg/kg~約30mg/kg;または約3mg/kg~約25mg/kg;または約3mg/kg~約25mg/kg;または約5mg/kg~約10mg/kg;または約10mg/kg~約20mg/kg;または約10mg/kg~約30mg/kg;または約50mg/kg~約300mg/kg;または約100mg/kg~約250mg/kg;または約100mg/kg~約200mg/kgの範囲である。種々の態様では、方法は、例えば、約0.05mg~約10mgをヒト対象の眼に、例えば、約0.1mg~約0.5mg、約0.05mg~約1mg、約0.2mg~約2mg、約0.5mg~約2.5mg、約2mg~約4mg、または約1mg~約5mgをヒト対象の眼に投与することを含む。一部の状態または病状は、長期の治療を必要とし、これには、複数の投与(例えば、毎日、週3回、週1回、2週毎に1回、または毎月1回を、3日間、7日間、2週間、3週間、1ヶ月間、3ヶ月間、6ヶ月間、9ヶ月間、12ヶ月間、15ヶ月間、18ヶ月間、21ヶ月間、2年間、またはそれ超の治療期間にわたる投与)に対し、複数用量の抗Scg3療法剤の投与を必要としても、そうでなくてもよい。
【0068】
一態様では、本開示は、治療を必要としている対象の新生血管型加齢黄斑変性を治療する方法を提供し、該方法は、治療有効量の本明細書に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはそれを含む医薬組成物を投与することを含む。一態様では、抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物は、脈絡膜新生血管を抑制するための有効量で投与される。
【0069】
別の態様では、本開示は、治療を必要としている対象の糖尿病性網膜症(糖尿病性黄斑浮腫(DME)および/または増殖糖尿病網膜症(PDR))または未熟児網膜症を治療する方法を提供し、該方法は、治療有効量の本明細書に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはそれを含む医薬組成物を投与することを含む。一態様では、抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物は、網膜血管漏出および/または網膜血管新生を抑制するための有効量で投与される。
【0070】
一態様では、抗体またはその抗原結合フラグメント、またはそれを含む医薬組成物は、脈絡膜新生血管および/または網膜血管新生を抑制するための有効量で投与される。脈絡膜新生血管および/または網膜血管新生は、抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物の投与前に比べて、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または、少なくとも100%抑制される。脈絡膜および/または網膜血管新生を測定する方法は、当技術分野において既知であり、例えば、血管造影を含む画像処理技術(例えば、フルオレセインまたはインドシアニングリーンを使って)、および光干渉断層撮影(OCT)を含む。
【0071】
別の態様では、抗体またはその抗原結合フラグメント、またはそれを含む医薬組成物は、治療前に比べて、網膜血管漏出を低減するための有効量で投与される。網膜血管漏出は、抗体、その抗原結合フラグメント、または医薬組成物の投与前に比べて、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または、少なくとも100%抑制される。網膜血管漏出を測定する方法は、当技術分野において既知であり、例えば、網膜透過性アッセイ(例えば、エバンスブルー色素または蛍光標識を使って)、ならびに血管造影を含む画像処理技術(例えば、フルオレセインまたはインドシアニングリーンを使って)、およびOCTを含む。
【0072】
別の態様では、抗体またはその抗原結合フラグメント、またはそれを含む医薬組成物は、癌を治療するための有効量で投与される。この方法は、癌細胞を、一定量の本明細書に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはそれを含む医薬組成物と接触させて、癌細胞の増殖を抑制または腫瘍増殖を調節することを含む。いくつかの実施形態では、癌細胞は対象中にあり、接触させることが治療有効量の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物をその対象に投与することを含む。本開示の抗体およびその抗原結合フラグメントは、癌細胞増殖をインビトロおよびインビボで抑制する方法で(例えば、対象の癌を治療する方法で)使用できる。癌および腫瘍の例には、限定されないが、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、眼癌(例えば、網膜芽細胞腫、ぶどう膜黒色腫、および眼内リンパ腫)、腎臓癌、白血病、肺癌、リンパ腫、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、脳癌、甲状腺癌、肝臓癌、口腔癌、中咽頭癌、食道癌、および胃癌が挙げられる。
【0073】
癌細胞増殖を「抑制すること」は、増殖の100%の防止を必要とするものではない。任意の増殖速度の低下が意図されている。同様に、腫瘍増殖を「調節すること」は、腫瘍のサイズを小さくすること、腫瘍増殖を遅らせること、または既存の腫瘍のサイズの増大を抑制することを意味する。腫瘍の完全な消滅は要求されない;何らかの腫瘍サイズの縮小または腫瘍増殖の緩徐化は、対象における有益な生物学的効果と見なされる。腫瘍量、容積、および/または長さは、当該技術分野において既知の方法、例えば、ノギス、超音波撮像、コンピュータ断層撮影(CT)法、磁気共鳴画像法(MRI)、光学撮像(例えば、バイオルミネセンスおよび/または蛍光撮像)、デジタルサブトラクション血管造影(DSA)、陽電子放出断層撮影(PET)法および/またはその他の画像分析を使用して評価できる。腫瘍細胞増殖はまた、例えば、DNA合成、代謝作用、細胞増殖に関連する抗原、および/またはATPを測定する、細胞アッセイを使って分析できる。種々の実施形態では、本開示の方法は、腫瘍サイズを、少なくとも約5%(例えば、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、または少なくとも約80%)減少させる。これに関しては、癌細胞増殖は、例えば、本発明の方法を使用しない場合(例えば、本開示の抗体または抗原結合フラグメントに曝露されない生物学的対応対照の対象または供試体)に観察される増殖のレベルに比べて、少なくとも約5%、少なくとも約10%または少なくとも約20%抑制される。効果は、例えば、腫瘍サイズの減少、癌マーカーのレベルの低下もしくは維持、または細胞集団の縮小もしくは維持により検出される。いくつかの実施形態では、増殖は、本開示の抗体またはその抗原結合フラグメントの非存在下での増殖に比べて、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、または少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、またはそれ超(約100%)低減される。
【0074】
別の態様では、抗体またはその抗原結合フラグメント、またはそれを含む医薬組成物は、過剰血管新生に関連する疾患を治療するための有効量で投与される。血管新生関連疾患の例には、限定されないが、血管新生緑内障、角膜血管新生、翼状片、網膜静脈閉塞症、ならびに近視、炎症状態、遺伝性網膜ジストロフィー、および鎌状赤血球網膜症由来の網膜および黄斑の血管新生を含む眼の疾患;ならびに関節炎、滑膜炎、骨髄炎、骨棘形成、多発性硬化症、血管奇形、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、移植動脈症、肥満症、乾癬、いぼ、アレルギー性皮膚炎、瘢痕ケロイド、化膿性肉芽腫、水疱形成疾患、カポジ肉腫(例えば、AIDS患者における)、原発性肺高血圧症、喘息、鼻ポリープ、炎症性腸疾患、歯周病、肝硬変、腹水、腹膜癒着、子宮内膜症、子宮出血、卵巣嚢胞、卵巣過剰刺激、再狭窄、および嚢胞性繊維症を含む非眼疾患が挙げられる(例えば、Carmeliet,Nature Medicine 2003;9(6):654-660 ;and Houtman,FASEB Breakthroughs in Bioscience 2010;p.1-17を参照されたい)。
【0075】
人体に対し実施される方法の特許化を禁止する司法管区では、ヒト対象に対する組成物の「投与」の意味は、ヒト対象が任意の技術(例えば、経口、吸入、局所投与、注射、挿入など)により自己投与する制御された物質の処方に限定されるものとする。種々の態様では、本開示は、抗体またはその抗原結合フラグメントの、本明細書に記載の糖尿病性網膜症および脈絡膜新生血管およびその他の眼関連の病気を含む眼障害の治療のための、ならびに、本明細書に記載の癌の治療のための薬物の調製における使用を提供する。本開示は、抗体またはその抗原結合フラグメントの、本明細書に記載の糖尿病性網膜症および脈絡膜新生血管およびその他の眼関連の病気を含む眼障害の治療、ならびに、本明細書に記載の癌の治療における使用をさらに提供する。本明細書に記載の糖尿病性網膜症および脈絡膜新生血管およびその他の眼関連の病気を含む眼障害の治療における使用、ならびに、本明細書に記載の癌の治療における使用のための本明細書に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。人体に対し実施される方法の特許化が禁止されない司法管区では、組成物の「投与」は、人体に対する実施される方法および前述の動作の両方が含まれる。
【0076】
以下の実施例は例示であって、限定することを意図したものではない。
【0077】
実施例
実施例1
糖尿病性網膜症のための抗Scg3療法
材料および方法
抗体。組換えHRP-3を、LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載されているようにして調製した。抗Scg3 mAb(クローン49およびクローン78、マウスIgG1)をヒトScg3(Sino Biological)に対し産生し、無血清ハイブリドーマ馴化培地からプロテインGカラムを使って精製した。抗c-Myc mAbを9E10ハイブリドーマの馴化培地から精製し、マウス対照IgG1として使用した。対照ウサギIgGをウサギ血清から精製した。
【0078】
糖尿病マウス。ストレプトゾシン(STZ;Sigma)またはモッククエン酸緩衝液を用いて、C57BL/6マウス(6週齡、雄;Jackson Laboratory)の1型糖尿病を誘導した。手短に説明すると、マウスを4時間絶食させた後、5日の連続日の間、腹腔内注射によりSTZ(40μg/g体重)またはクエン酸ナトリウム緩衝液(137mM、pH4.5)を受けた。STZをクエン酸緩衝液(7.5mg/ml)に溶解直後に、注射した。通常STZ処理の2週後に開始して、マウスの血糖を2週に1回モニターし、血糖≧350mg/dLの場合は、糖尿病患者とみなした。マウスをSTZ後4ヶ月間加齢させてDRを発症させた。
【0079】
4~6週齡までに高血糖を発症したヘテロ接合のIns2Akitaマウス(Jackson Laboratory)の血糖をモニターした。雄では、糖尿病表現型および関連合併症が雌より重篤で、進行性である。Ins2Akitaの雄は、6月齢で網膜血管漏出を発症し、そのため、この調査で抗Scg3療法に選択された。
【0080】
クローンファージ。クローンファージをCaberoy et al.J Biomol Screen.2009;14(6):653-61に記載のように構築した。手短に説明すると、停止コドン不含緑色蛍光タンパク質(GFP)のコード配列は、PCRにより増幅し、消化して、NotIおよびXhoI部位でT7Bio3Cファージベクター(Caberoy et al.J Mol Recognit.2010;23(1):74-83)中にクローニングし、GFPファージを生成した。人工のコドンを有する野性型ヒトVEGF1-110(hVEGF)のコード配列を設計し、メーカー(GenScript)に委託して合成し、NotIおよびXhoI部位でT7Bio3C中にクローニングし、hVEGF-ファージを生成した。両方のクローンファージを塩基配列決定により確認した。
【0081】
OPDライブラリー精製。マウス成体眼およびE18胚由来のオープンリーディングフレームファージディスプレイ(OPD)ライブラリーは以前に記載された(Caberoy et al.J Biomol Screen.2009;14(6):653-61;Caberoy et al.J Mol Recognit.2010;23(1):74-83)。非選択ライブラリーの次世代DNA塩基配列決定法(NGS)分析は、組み合わせライブラリーは、少なくとも9,500の異なるタンパク質からなることを示した。修正を加えた、Novagen T7Select Systemマニュアル(Millipore)に従って、OPDライブラリーおよび対照クローンファージを増幅し、精製した。手短に説明すると、BLT5615細菌をLB培地中で0.5のOD600まで培養し、イソプロピル β-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG;1mM)を用いて、37℃で30分間、振盪しながら誘導した。ライブラリーまたは対照クローンファージ(約4x109プラーク形成単位(pfu))を、IPTG誘導されたBLT5615(200ml)に加え、37℃で振盪しながら溶菌までインキュベートした。DNアーゼI(40μg)と共に、追加の15分のインキュベーション後、2つのライブラリーを同じファージ力価でプールし、ライブラリー表現を改善した。hVEGFファージおよびGFPファージを同じ力価で混合し、プールライブラリー中に1:1,000比率で希釈した。NaCl(10g)を添加し溶解した後、組み合わせたライブラリー溶解物を13,200xg、4℃で10分間遠心分離した。ポリエチレングリコール8000(PEG-8000、40g)を上清に加え、溶解して、これを、4℃で一晩インキュベートし、同じ条件下で遠心分離した。ファージペレットをトリス-NaCl緩衝液(1MのNaCl、10mMのトリス塩酸、pH8.0、1mMのEDTA)に再懸濁し、遠心分離した。上清を不連続CSCl勾配液(20.8%、31.25%、41.7%および62.5%、w/v)上に置き、Beckman SW41ローターで、35,000rpm、23℃で60分間、遠心分離した。41.7%CsClのすぐ上のファージバンドを集め、PBSに対し透析し、ファージプラークアッセイにより滴定した。
【0082】
インビボ結合選択。糖尿病および対照C57BL/6マウス(23週齡またはSTZの4ヶ月後)をケタミン(90μg/g)およびキシラジン(8μg/g)の腹腔内注射により麻酔した。精製ライブラリーを麻酔したマウスの静脈内に注射し(3匹のマウス/群/ラウンド、1x1012pfu/マウス)、20分間循環させた。非結合ファージをPBSによる心臓内灌流により除去した。網膜を単離し、1%トリトンX-100含有PBS中でホモジナイズし、内皮結合ファージを放出させた。一定分量のライセートを用いて、記載のように、プラークアッセイによりファージ力価を定量化した。ライセート中の残りのファージをIPTG誘導されるBLT5615細菌中で増幅し、上記のように再精製した。精製ファージを次のインビボ選択のラウンドの入力として用いた。3ラウンドの選択後、濃縮したファージクローンのcDNAインサートを、プライマー:5’-GCGGTTCAGGCTCGCGGCCG-3’(配列番号36)および5’-CCGCTCCCACTACCCTCGAG-3’(配列番号37)を用いて、PCRで増幅した。400~1,500bpのPCR産物をアガロースゲルから精製し、NGSで特定した。
【0083】
比較リガンドミクスデータ分析。NGSデータをNCBI CCDSデータベースに対し整列させて、濃縮リガンドを特定した。NGSにより特定されたcDNAインサートのコピー数は、それらの同族リガンドの網膜内皮に対する相対的結合活性を表し、カイ二乗検定により定量的に比較して、DR関連リガンドを特定した。NGSデータのCCDS IDをユニプロット受入番号にバッチ変換し、PANTHERおよびDAVIDにより分析した。特定されたリガンドは、遺伝子オントロジー(GO)用語「Cellular Component」および「Biological Process」に基づいて分類した。
【0084】
細胞増殖アッセイ。4~8継代のHRMVEC(Cell Systems)またはHUVEC(Lonza)をScg3、VEGF165またはPBS対照と共に、示した濃度で、96または48ウェルプレート中で、LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載のように、培養した。必要な場合には、親和性精製抗Scg3 pAbまたはmAbを、Amicon遠心力フィルターユニット(10kDa)中でPBSで3回洗浄し、濃縮して、細胞に加えた。新しい培地、成長因子および抗体を24時間毎に加えた。各ウェル中の細胞を48時間でトリプシン消化により集め、PBS中に1mMのトリパンブルーと共に再懸濁し、定量した。
【0085】
管形成アッセイ。アッセイを、LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載されているようにして実施した。手短に説明すると、マトリゲルをEBM-2培地中で1:4(vol/vol)に希釈し、96ウェルプレート(50μ/ウェル)中で播種し、37℃で30分間、固化させた。HUVECを無血清293SFM II培地(Life Technologies)中で一晩飢餓状態にし、採取して、マトリゲル(15,000細胞/ウェル)上に播種した。細胞をScg3、VEGFまたはPBSと共に、293SFM II培地中、37℃で4時間インキュベートした。明視野画像を取得した。視野当たりの、合計チューブ長さ、チューブの数および分岐点の数を、ImageJソフトウェア(NIH)を用いて定量化した。
【0086】
創傷治癒アッセイ。LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載されているようにしてインビトロ創傷治癒アッセイにより細胞遊走を分析した。手短に説明すると、HRMVECを12ウェルプレート中で約90~100%集密度まで培養し、0.2%FBSを補充した293SFM II培地中で3時間、飢餓状態にした。無菌200μlの先端部を用いて、各ウェル中に境界の明確な約1mm幅の引っ掻き傷を作製した。濯いだ後で、Scg3またはVEGFの存在下で、新しい0.2%のFBS含有293SFM II培地中で細胞を培養した。0時間および20時間に、位相差顕微鏡により細胞遊走をモニターした。元の引っ掻き傷内の遊走細胞により覆われた露出領域のパーセンテージをImageJを用いて定量化した。
【0087】
インビトロ内皮透過性アッセイ。アッセイを、Martins-Green et al.Methods Enzymol.2008;443(137-53)に記載のように実施した。HUVECを24ウェルプレートのトランスウェルインサート中に播種し、コンフルエンスまで培養した。FITC-デキストラン(3~5kDa)(1mg/ml)をScg3、VEGFまたはPBSと共に、下段チャンバーに加えた。24時間後、上段チャンバー中のFITC濃度を、蛍光プレートリーダーを用いて定量化し、検量線に対し計算した。
【0088】
スフェロイド発芽。HRMVECと共に、アッセイをLeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載されているようにして実施した。 手短に説明すると、1.2%(w/v)のメチルセルロースをEBM-2培地中に溶解することによりメトセル溶液を調製し、5,000xg、4℃で2時間、遠心分離してデブリを除去した。80%コンフルエンスで細胞を採取し、計数して、20%のメトセルおよび10%ウシ胎仔血清(FBS)含有EBM-2培地に再懸濁し、非接着性96ウェル丸底プレートに750個細胞/ウェルで播種し、24時間培養した。スフェロイドを採取し、フィブリノーゲン(2.5mg/ml)およびアプロチニン(0.05mg/ml)含有EBM-2培地に再懸濁し、24ウェルプレートに播種した(約50スフェロイド/ml/ウェル)。トロンビン(12単位/ml)を各ウェルに添加することにより凝血を誘導した。スフェロイド包埋フィブリンゲルを室温で5分間、その後、37℃で20分間凝血させた。抗Scg3 mAbを含むまたは含まない場合について、0.05mg/mlのアプロチニン含有基礎培地中で、フィブリンゲルをScg3、VEGFまたはPBSと共に48時間インキュベートした。位相差顕微鏡を使って写真を取得し、平均発芽長さをImageJで定量化した。
【0089】
タンパク質プルダウン。Scg3(5μg/ml)をアフリベルセプト、VEGFR-FcまたはVEGFR2-Fc(5μg/ml)共に、0.5%トリトンX-100およびBSA(1mg/ml)含有PBS溶液中で、4℃で1時間インキュベートした。プロテインGビーズ(20μl)を加え、4℃で30分間、転倒回転させながらインキュベートした。ビーズをPBSを用いて遠心分離により3回洗浄し、低pH緩衝剤(100mM グリシン、pH2.7)で溶出し、抗Scg3 pAbを使ってウェスタンブロットにより分析した。
【0090】
ERK活性化。ERK1/2活性化を、LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載のように検出した。HUVECを293SFM II培地中で15分間x3回、37℃でプレインキュベーションし、他の成長因子の影響を低減した。細胞をScg3、VEGFまたはPBSと共に、EBM-2培地中、37℃で10または30分間インキュベートし、溶解し、リン酸化ERK1/2(pEKR1/2)、ERK1/2またはβ-アクチンに対する抗体を使って、ウェスタンブロットにより分析した。
【0091】
Akt活性化。Akt活性化を、ERK活性化と類似の方法で実施した。HUVECを293SFM II培地中で15分間x4回、プレインキュベーションした。細胞をScg3、VEGFまたはPBSと共に、37℃で10分間インキュベートし、溶解し、リン酸化Akt T308(pAkt)、総Aktまたはβ-アクチンに対する抗体を使って、ウェスタンブロットにより分析した。
【0092】
免疫組織化学。マウス網膜の免疫組織化学的分析を、親和性精製抗Scg3 pAbを使って、Guo et al.Molecular biology of the cell.2015;26(12):2311-20に記載のように実施した。手短に説明すると、麻酔したマウス(C57BL/6、8週齡)を10%ホルマリンで心臓内潅流した。眼を単離し、4℃で一晩固定した。角膜および水晶体を取りだした後、眼杯をショ糖勾配溶液と共に4℃でインキュベートし(10%および20%で各3時間;30%で一晩)、続けて、3ラウンドの凍結-解凍およびOCT(最適切断温度化合物)包埋を実施した。7μm厚さの凍結組織切片を、抗Scg3 pAbと、続けて、Alexa Fluor488標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とインキュベートした。核をDAPIで可視化した。シグナルを共焦点顕微鏡により分析した。
【0093】
網膜および硝子体液中でのScg3発現。硝子体液(2μl/眼)を、4ヶ月糖尿病および同年齢対照マウスから収集した。それらの網膜を単離し、SDS-PAGEローディングバッファー中でホモジナイズした。抗Scg3 pAbまたは抗β-アクチン抗体を用いて、ウェスタンブロットにより試料を分析した。
【0094】
角膜血管新生アッセイ。アッセイを、LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載されているようにして実施した。 手短に説明すると、滅菌Whatman濾紙(グレード3)を小片(0.125mm2/片)に切断し、Scg3(0.25μg/μl)、VEGF(0.1μg/μl)、HRP-3(1μg/μl)またはPBSの溶液中に4℃で2時間浸漬した。浸漬した濾紙を麻酔したC57BL/6マウス(8週齡;1濾紙/角膜;2つのポケット/マウス、1つの眼は常にPBS用)の角膜ポケット中に移植した。6日後、角膜血管新生を細隙灯顕微鏡を使って評価し、撮影した。角膜中への新規発芽血管の数、それらの分岐点および半定量的スコアを定量化し、他眼中のPBSに対し正規化した。その後、マウスをCO2で安楽死させて、直ちに蛍光DiI色素で心臓内潅流した。フラットマウント角膜を共焦点顕微鏡により分析し、DiI標識血管を検出した。
【0095】
エバンスブルーアッセイ。網膜血管漏出をScheppke et al.J Clin Invest.2008;118(6):2337-46に記載のように、エバンスブルー(EB)アッセイにより定量した。手短に説明すると、親和性精製抗Scg3 pAb、無関係の抗原(Plekha1)に対する親和性精製pAb(モック対照)、ウサギ対照IgG、抗Scg3 mAbおよびマウス対照IgG1を、Amicon遠心力フィルターユニット(10kDa)中でPBSで3回洗浄し、濃縮した。抗Scg3 mAb、モック親和性精製pAb、ウサギ対照IgG、抗Scg3 mAb、マウス対照IgG1(0.36μg/1μl/眼)またはアフリベルセプト(2μg/1μl/眼)を糖尿病マウスの片方の眼の硝子体内に注射し、反対側の眼にPBSを注射した。硝子体内注射の1.5時間後に、EB(0.15mg/g体重)を静脈内に注射した。EB注射の2.5時間後に、予め温めた(37℃)クエン酸ナトリウム溶液(100mM、pH4.5)を用いて、麻酔したマウスを心臓内潅流した。網膜を単離し、フォルムアミド(50μl/網膜)と共に70℃で一晩インキュベートしてEBを抽出した。溶液を180,000xg、4℃で1時間遠心分離した。上清中のEBを620nmおよび740nm(バックグラウンド)で定量化し、検量線と比較した。EB注射マウスから血液試料を集めた後、心臓内灌流し、3,550xg、25℃で15分間遠心分離後、希釈して、同じ波長で定量化した。EB漏出を次式で計算した:[漏出EB濃度(mg/ml)/網膜重量(mg)]/[血中EB濃度(mg/ml)x循環時間(時間)]。データは、反対側の眼中のPBSに正規化し、漏出の減少のパーセンテージとして表した。
【0096】
酸素誘導網膜症(OIR)。OIRを、LeBlanc et al.Mol Vis.2016;22L374-86;Connor et al.Nat Protoc.2009;4(11):1565-73に記載されているように実施した。手短に説明すると、生後の7日目(P7)のマウス(C57BL/6)を制御チャンバー中で75%酸素に曝露した。P12で、抗Scg3 pAb、対照IgG、抗Scg3 mAb(0.36μg/1μl/眼)、アフリベルセプト(2μg/1μl/眼)またはPBSを麻酔したマウスの硝子体内に注射し、注射後にマウスを室内気に戻した。P17で、CO2吸入によりマウスを安楽死させた。単離網膜をAlexa Fluor488-イソレクチンB4で染色し、フラットマウントして、共焦点顕微鏡により分析した。血管新生を、Connor et al.Nat Protoc.2009;4(11):1565-73に記載のように定量化した。さらに、網膜全体にわたり新生血管タフトの数を定量化した。一定の領域中の分岐点の数を、各網膜の同じ領域中で定量化した。全てのデータを非注射眼に対し正規化した。
【0097】
統計。データを平均±SEMとして表した。群間差異を1元配置分散分析検定またはスチューデントのt検定により解析した。NGSデータセットをカイ二乗検定により比較した。
【0098】
結果
定量的リガンドミクスプロファイリング。血管新生因子などの細胞リガンドを技術的に難易度の高い、低スループットの手法の従来方式で特定した。病原性リガンドを治療可能性の観点で詳細に記述することはなおさら困難である。この課題に取り組むために、オープンリーディングフレームファージディスプレイ(OPD)を細胞リガンドの偏りのない特定を目的として、受容体情報のない状況下で開発した。リガンドミクスの第1のパラダイムとして、OPDを次世代塩基配列決定法(NGS)とさらに組み合わせて、細胞全体に及ぶ内皮リガンドを全体的にマッピングした。この実施例では、比較リガンドミクスを糖尿病および対照マウスに適用し、DR関連内皮リガンドを系統的に特定し、それらの病理学的役割および治療可能性を調査した。
【0099】
マウスのDRを確立するために、β膵島細胞を破壊するストレプトゾトシン(STZ)で1型糖尿病を誘導し、高血糖マウスを4ヶ月間加齢させてDRを発症させた。予想通り、糖尿病マウスにおける網膜血管漏出の3.4倍増加が観察された。リガンドミクス分析のために、3ラウンドのインビボ結合選択で糖尿病マウスおよびモック処理対照マウスにOPDライブラリーを静脈内注射し、網膜内皮リガンドを濃縮した(Fieger et al.J Biol Chem.2003;278(30):27390-8)。濃縮クローンの全てのcDNAインサートをNGSで分析した。合計で489,126個および473,965個の有効な配列リードを特定し、NCBI CCDSデータベース中の1,548個(糖尿病網膜)および844個(健康な網膜)のタンパク質と整列させた。特定したリガンドは、多様な細胞プロセスに関与しており、その内の約11.5%が、血管新生、アポトーシス、細胞遊走および接着に関連する。
【0100】
NGSにより特定されたcDNAインサートのコピー数は、それらの同族リガンドの内皮結合活性と相関している。この相関を確認するために、ヒトVEGF(hVEGF-ファージ、陽性対照)または緑色蛍光タンパク質(GFP-ファージ、陰性対照)を発現する2つのクローンファージを構築した。hVEGF-ファージは、野性型ヒトVEGFタンパク質を提示するが、最大限度のサイレント変異のための人工的改変コドンを有し、内在性VEGFとはNGSにより区別できる。同じ力価の非マウスコドンを有するhVEGF-ファージおよびGFP-ファージをマウスOPDライブラリー中に希釈(1:1,000)した後、インビボ選択を実施し、濃縮ライブラリークローン中でNGSにより同時に特定した。3ラウンドの選択後の、NGS(GFP-ファージ対VEGF-ファージ)におけるGFP-ファージの枯渇およびhVEGF-ファージの相対的濃縮により、コピー数がそれらのインビボ結合活性の差異を反映していることが確認された。さらに、この結果により、GFP-ファージを非特異的結合のベースラインとして確定した。417/844および817/1,548の単離リガンドが、このベースラインを上回って、それぞれ、健康な網膜および糖尿病の網膜に特異的に結合することが明らかになった。
【0101】
比較リガンドミクスによるDR高発現リガンドとしてのScg3の特定。糖尿病のおよび健康な網膜の全リガンドームプロファイルのための全体的結合活性パターンは、比較的類似していた。しかし、より詳細な比較により、個別リガンドのわずかな差異が明らかになった。Scg3は、糖尿病網膜中で1,731コピーが検出されたが、健康な網膜中ではコピーは検出されず、その受容体は、糖尿病の内皮上で発現上昇され得ることを意味している。対照的に、ヘパトーマ由来成長因子関連タンパク質3(Hdgfrp3、HRP-3)の糖尿病網膜に対する内皮の結合活性は、227倍低減され、糖尿病ではその受容体の発現が低減され得ることを意味している。VEGF結合活性は5.9倍のみ低減し、VEGF受容体の網膜内皮発現が、4ヶ月糖尿病マウスで、わずかに変化したことを示唆している。
【0102】
比較リガンドミクスの概念実証として、カイ二乗(χ
2)検定により糖尿病と対照網膜とを対比した全リガンドームプロファイルの定量的比較を実施した。合計1,772個の非冗長性リガンドの内から特定された、1,114個のDR関連内皮リガンド(p<0.05)が存在し、これらは、それらの上昇したまたは低減した糖尿病網膜内皮に対する結合に基づいて、「DR高発現」および「DR低発現」リガンドとして特徴付けられた。しかし、糖尿病:対照のカイ二乗値対結合活性比率のプロットは、最小限であるが、統計的に有意な、2つの状態間の結合活性の変化を有する多くのリガンドを明らかにした。疾患関連リガンドの特定の信頼性を改善するために、DR高発現またはDR低発現リガンドを、次のより厳密な、恣意的判定基準:p<0.001;糖尿病:対照結合活性≧10または≦0.1;DRまたは対照中のコピー数≧30;によりに定義した。これらの基準を用いて、353個のDR高発現リガンドおよび105個のDR低発現リガンドを得た(表2)。Scg3およびHRP-3は、それぞれ、DR高発現リガンドおよびDR低発現リガンドとして特定された。Scg2はまた、糖尿病網膜血管に対する増大した結合を有することが見出された(表3)が、その比較的低い結合活性に起因して、DR高発現リガンドとしては認定されなかった。全ての特定されたリガンドに対する活性プロットを用いた全体的結合活性パターンの変化を分析した。結果は、全体リガンドームの内皮結合活性は、糖尿病マウスで大きく変化した(ピアソン相関係数:1,772リガンドに対しr=0.498)。
【表2】
【表3-1】
【表3-2】
【0103】
比較リガンドミクスの妥当性は、いくつかの既知のおよび推定糖尿病関連内皮リガンドの特定により裏付けられた(表2および3)。アミロイド前駆体タンパク質(APP)由来のアミロイドβは、既知の内皮リガンドであり、RAGE(高度糖化最終生成物に対する受容体)に結合し、これは、糖尿病性内皮上に発現上昇している(Caberoy et al.EMBO J.2010;29(23):3898-910)。C1qbは、C1q補体因子のサブユニットで、少なくとも2種の内皮受容体、cC1qRおよびgC1qR/p33と相互作用し、炎症促進性のサイトカインを産生する(Vogel et al.Journal of Cellular Biochemistry.1994;54(3):299-308)。C1qは、動脈硬化病変の部位にかなりの量で存在し(Peerschke et al.Mol Immunol.2004;41(8):759-66)、これは、最もよくある糖尿病性血管合併症の1つである。ヘパトーマ由来成長因子(HDGF)は、既知の分裂促進的内皮リガンドである(Oliver et al.J Clin Invest.1998;102(6):1208-19)。HRP-3は、HDGFと同じタンパク質ファミリーであり(Izumoto et al.Biochem Biophys Res Commun.1997;238(1):26-32)、この実施例で、独立にDR低発現血管新生因子として実証されたので、HDGFも同様にDR低発現リガンドである可能性を示唆する。最後に、フィブロネクチン1(Fn1)、コラーゲンIV型α3(Col4a3)およびカドヘリン1(Cdh1)などの接着性分子の糖尿病網膜内皮上での受容体発現上昇は、DRにおける白血球粘着に寄与し得る(ask-Madsen et al.Cell Metab.2013;17(1):20-33;Forbes et al.Physiol Rev.2013;93(1):137-88)。
【0104】
新規血管新生因子としてのScg3の独立検証。比較リガンドミクスの妥当性を実証するために、DR高発現Scg3およびDR低発現HRP-3を、それらの明確に異なる疾患関連パターンの独立検証のために選択した。これらの2つの非常にまれなリガンドを選択した。理由は、糖尿病網膜内皮への結合活性におけるそれらの高倍率変化のためである。さらに、HRP-3をリガンドミクスにより健康な網膜中の血管新生因子として最近特定した(LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904)。Scg3も同様に血管新生因子であるかを判定するために、いくつかのインビトロ機能的分析を実施した。Scg3はヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)およびヒト網膜毛細血管内皮細胞(HRMVEC)の増殖を有意に促進する(
図1Aおよび1B)。追加の分析は、Scg3がECの管形成を刺激することを示した。顕微鏡分析での、チューブ長さ、分岐点の数およびチューブの数の定量化により、Scg3が管形成を誘導することを確認した(
図1C~E)。さらに、この結果は、Scg3がHRMVECのスフェロイド発芽を有意に促進することを明らかにした(
図1F)。創傷治癒アッセイは、Scg3がHRMVECの移動を容易にすることを示し(
図1G)、インビトロ透過性アッセイは、Scg3が内皮透過性を誘導することを示した(
図1H)。全てのこれらのアッセイでは、VEGFは、陽性対照として機能し、内皮の増殖、管形成、移動および透過性を有意に刺激した。
【0105】
糖尿病および対照マウスの網膜および硝子体液中でのScg3発現を特徴付けた。免疫組織化学は、Scg3が網膜神経節細胞、内網状層および外網状層、光受容体内節および網膜色素上皮(RPE)細胞中で発現したことを明らかにした。内および外顆粒層ならびに視細胞外節中では、わずかなScg3シグナルしか検出されなかった。この発現パターンは、分泌顆粒中における神経伝達物質の貯蔵および輸送を調節するその役割と一致した。結果は、Scg3が、糖尿病および対照網膜のホモジネート中で類似のレベルで発現することをさらに明らかにした。Scg3分泌は、ウェスタンブロットによる、マウスの眼の無細胞の硝子体液中のその存在により実証された。興味深いことに、Scg3は、健康なマウスに比べて、4ヶ月糖尿病マウスの硝子体液中で有意に発現上昇しており、Scg3分泌が、調節されたCTLA-4の分泌と類似して、調節されたプロセスであり得ることを意味している(Valk et al.Trends Immunol.2008;29(6):272-9)。
【0106】
疾患高発現および疾患低発現血管新生因子の検証。DR高発現Scg3およびDR低発現HRP-3を疾患関連血管新生因子として検証するために、糖尿病および対照マウスで、角膜ポケットアッセイを実施した。Scg3は糖尿病マウス中で、健康なマウスに比べて、選択的に血管新生を誘導した。対照的に、HRP-3は、健康なマウス中で血管新生を選択的に刺激したが、糖尿病マウス中では刺激しなかった。予想通り、VEGFを用いて対照アッセイは、健康なおよび糖尿病マウスの両方で血管新生を促進した。これらの調査結果は、細隙灯検査により観察されただけでなく、親油性の蛍光DiI色素での角膜血管の染色によっても実証された。角膜血管、分岐点および包括的スコアの定量化は、Scg3およびHRP-3の逆の血管新生パターンを裏付けた(
図2A~2C)。定量化はまた、包括的スコアが、対照マウスにおけるよりも、糖尿病マウス中のVEGFに対して、より高い血管新生活性を示したことを除いて、VEGFは健康なおよび糖尿病マウス中で類似の活性を有することを実証した(
図2C)。データは、Scg3およびHRP-3は、それぞれ、本物の糖尿病高発現および糖尿病低発現血管新生因子であり、これは、さらには、定量的および比較リガンドミクスの妥当性を裏付けていることを示した。
【0107】
Scg3およびVEGFの別の受容体シグナル伝達経路。糖尿病および対照マウスの角膜血管新生活性の別々のパターンは、Scg3およびVEGFが異なる受容体およびシグナル伝達経路を有し得ることを示唆している。実際に、Scg3は、ヒトIgG Fcに融合したVEGF受容体1(VEGFR1)の第2の結合ドメインおよびVEGFR2の第3のドメインからなる遺伝子改変キメラ受容体であるアフリベルセプトと相互作用できなかった。この知見は、VEGFR1-FcおよびVEGFR2-Fcを用いたタンパク質プルダウンアッセイにより、独立に実証された。Scg3およびVEGFの両方がERK1/2を活性化したが、VEGFのみが、Aktのリン酸化を刺激し、Scg3は刺激しなかった。これらのデータは、別々の受容体を有するScg3およびVEGFが、別々に血管新生を調節するようにそれらの細胞内シグナル伝達を部分的に収束させ得ることを示した。
【0108】
抗Scg3療法は糖尿病網膜血管漏出を軽減する。DRにおける血管新生因子の病原性の役割を考慮して、DR高発現Scg3を、糖尿病網膜血管漏出を軽減する抗血管新生療法の標的として評価した。親和性精製抗Scg3ポリクローナル抗体(pAb)は、Scg3誘導HRMVEC増殖を阻止できた(
図1B)が、抗Scg3 pAb単独では、内皮増殖に対し効果はなかった。pAbの中和活性を、スフェロイド発芽アッセイにより独立に確認した(
図1F)。重要なのは、抗Scg3療法剤の硝子体内注射が、アフリベルセプトと類似の治療効力で、STZ誘導糖尿病マウス中の網膜血管漏出を有意に低減したことである(
図3A)。対照として、無関係の抗原に対するモック親和性精製pAbは、糖尿病網膜血管漏出に対する抑制はなかった。
【0109】
抗Scg3療法の独立検証。しかし、親和性精製および種々の対照にもかかわらず、pAbは、オフターゲット効果により、他のタンパク質を非特異的に認識し得る。pAbとは異なり、モノクローナル抗体(mAb)は、他のタンパク質と最小限の交差反応しかせず、標的検証ならびに治療のための選択的試薬として十分に評価できる。抗Scg3 mAb(クローン49およびクローン78)を開発し、これらは、ヒトおよびマウスScg3を認識した。Scg3中和mAb クローン49またはクローン78の硝子体内注射は、STZ誘導糖尿病マウスの網膜血管漏出を軽減し(
図3Aおよび3D)、HRMVECのScg3誘導増殖を中和し(
図3B)、Scg3が、DRの抗血管新生療法のための本物の標的であることを示している。
【0110】
インスリン2遺伝子中に変異を有するIns2
Akitaマウスは、自然に1型糖尿病を発症する(Wang et al.J Clin Invest.1999;103(1):27-37)。これを用いて、抗Scg3 mAbの治療効力を独立に検証した。マウスは、6月齢で網膜血管漏出を発症する。抗Scg3 mAbの硝子体内注射は、アフリベルセプトと類似の効力で、Ins2
Akitaマウスの網膜漏出を有意に抑制し(
図3C)、DR療法の標的として、Scg3をさらに裏付けた。
【0111】
クローン49および表1に記載の他の抗Scg3 mAbに対し、Scg3への競合的結合を評価した。抗Scg3 scFv クローン49(
図3D)およびクローン78(
図3E)を発現させ、精製した。ELISAプレート上に予め固定したScg3に対するそれらの結合活性を、scFv結合を阻止するための過剰の抗Scg3 クローン7、クローン16、クローン49、クローン78、クローン153、クローン162、およびクローン190 mAbの存在下、または非存在下で、定量化した。結合scFvをELISAアッセイにより検出した。結合アッセイはまた、Octet RED96システム(Pall ForteBio)を用いて、Estep et al.,MAbs 2013;5:270-278に記載のように、実施した。両タイプの結合アッセイは、クローン48およびクローン78がScg3に結合したが、相互に阻止をしないことを示し、それらがScg3上の異なるエピトープに結合することを示す。両方の結合アッセイはまた、クローン153、クローン162、およびクローン190が、Scg3の結合に関し、クローン78と競合したことを実証し、これらのmAbの間で共通のエピトープを示す。
【0112】
網膜血管新生の抗Scg3療法。疾患発症の10~20年後にPDRを発症し得る糖尿病患者とは対照的に、糖尿病げっ歯類は、おそらく、それらの比較的短い寿命に起因して、PDRに進行しない。酸素誘導網膜症(OIR)は、未熟児網膜症(ROP)の動物モデルであり、網膜血管新生を有する増殖網膜症の代用モデルとして広く使用されてきた(Stahl et al.Invest Ophthalmol Vis Sci.2010;51(6):2813-26;Connor et al.Nat Protoc.2009;4(11):1565-73)。抗Scg3療法のOIRにより誘導された網膜血管新生を防ぐ能力を評価した。Scg3中和pAbの硝子体内注射は、新生血管タフトおよび蛇行血管を特徴とするOIR誘導病理学的血管新生を改善した。血管密度、新生血管タフトおよび血管分岐点の定量化は、抗Scg3が、OIR誘導血管新生を有意に抑制したことを示した(
図4A~4D)。類似の治療効果は、アフリベルセプトの場合も観察された。これらのデータは、PDR患者ならびにROP患者に対する抗Scg3の治療可能性を示している。
【0113】
考察
比較リガンドミクス。リガンド結合活性を全体的に定量化する定量的リガンドミクスの信頼性は、米国特許出願第14/708,073号でさらに考察されている。この特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。比較リガンドミクスを、病気状態で改変結合を有する疾患関連リガンドの系統的記述に適用した。DRに対する抗Scg3療法の実証の成功は、この手法の有用性を裏付けた。まとめると、これらの知見は、比較リガンドミクスによる内在性リガンドの結合活性のプロファイリングは、疾患関連リガンドを系統的に特定するための強力な手法であり、疾患関連リガンドの病原性寄与および治療可能性を規定するように拡張でき、状況に依存して疾患発病を加速または遅延させ得ることを示した。
【0114】
比較リガンドミクスの大きな利点を、DR高発現Scg3により実証した。健康な細胞における比較的低結合活性を有する疾患高発現リガンドは、従来のリガンドスクリーニング手法では、見落とす可能性が高い。その結果、Scg3は、血管新生因子としては報告されてこなかった。比較リガンドミクス分析は、疾患高発現リガンドを効率的に選別し、続けて、健康なおよび疾患細胞または状態における追加の機能的分析を行うことができる。
【0115】
Scg3は、リガンドミクスにより、糖尿病および健康な網膜中にそれぞれ、1,731コピーおよび0コピーを含む、DR高発現リガンドとして特定された(表2)。これらの数は、NGSにより分析された配列合計数に基づいて、同時に、増加または低下する。したがって、健康な網膜内皮に対する低減したScg3結合は、Scg3受容体の絶対的非存在を示すものではなく、むしろ、その比較的低い発現を示唆するものと思われる。実際に、統計的に有意ではないにしても、弱いScg3血管新生活性が、健康な角膜中でインビボ血管新生アッセイで検出された(Scg3対PBS)。さらに、Scg3は、比較的高用量で、HUVECを刺激でき、非糖尿病ECのScg3による調節が、その他の機能アッセイにより検出できることを示唆している。
【0116】
DR関連血管新生リガンドとしてのScg3。Scg3の機能的役割は、明確になっておらず、内分泌および神経内分泌細胞中の分泌顆粒生合成およびホルモンペプチド分泌の制御因子として、大きく特徴付けられてきた(Hosaka et al.Endocrine journal.2010;57(4):275-86)。しかし、分泌されたScg3は、何らかの細胞を外因的に調節するためのリガンドとして記載されて来なかった。本実施例は、Scg3がDR関連血管新生因子であることを発見した。糖尿病網膜漏出およびOIR誘導網膜血管新生の抗Scg3治療は、Scg3がこれらの2つの疾患モデルにおける病原性リガンドであり、DMEおよびPDRの抗血管新生療法のための有望な標的であることを示した。限られた治療選択肢のために、1つの抗VEGF薬物への反応が不十分なDME患者は、作用機序が類似であるにもかかわらず、別のVEGF阻害剤に切り替えられることが多い。異なるシグナル伝達経路を標的とする抗血管新生療法の開発は、抗VEGF耐性DRの代替または併用療法を容易にするであろう。
【0117】
別々の血管新生活性パターンに基づいて、Scg3およびVEGFは、異なる受容体シグナル伝達経路を有することが示された。VEGFは3つの受容体、VEGFR1、2および3を有する。最初の2つの受容体は、眼の血管新生の発病で重要な役割を果たし(Robinson et al.J Cell Sci.2001;114(Pt 5):853-65)、一方、VEGFR3は、リンパ脈管新生に関与する(Kaipainen et al.Proc Natl Acad Sci U S A.1995;92(8):3566-70)。実験は、Scg3がVEGFR1および2に結合しないことをタンパク質プルダウンおよびELISAにより独立に確認した。いくつかの血管新生因子はVEGF発現を誘導し得るので(Matei et al.Cancer Biol Ther.2007;6(12):1951-9)、Scg3がVEGF発現を発現上昇させないこと、または逆も同じであることをさらに確認した。これらのデータは、Scg3およびVEGFは、異なる血管新生活性領域を有することを示し、それらの阻害剤によりDRに対する代替または併用療法を支持した。
【0118】
抗Scg3療法のその他の潜在的利点は、最小限の副作用および柔軟な投与経路である。単一VEGFアレルの欠失を有するマウスの胎仔致死性(Ferrara et al.Nature.1996;380(6573):439-42)と対照的に、Scg3遺伝子(すなわち、1B1075遺伝子、Scg3ブロッカーに100%等価)のホモ接合欠失を有するマウスは正常な表現型を示し(Kingsley et al.EMBO J.1990;9(2):395-9)、抗Scg3療法は、最小限の副作用を有し得ることを示唆する。抗血管新生療法の可能な臨床適用は、疾患発症の前のDME/PDRの予防である(Jeganathan VS.Current pharmaceutical biotechnology.2011;12(3):369-72)。しかし、硝子体内注射関連および無関係の有害作用により、抗VEGF療法は、DME/PDRの予防に対し、限られたベネフィット・リスク比を有する。最小限の副作用を有する全身性抗Scg3療法は、ベネフィット・リスク比を改善し、PDR/DMEの予防のための可能性を開くことができる。ルセンティスと同様に、Scg3中和mAbは、抗Scg3療法の基礎から臨床への移行のためにヒト化できる。
【0119】
VEGFは、胎児および新生児段階での血管および網膜発生にとって非常に重要である。VEGF受容体1または2のホモ接合欠失を有するマウスは、子宮中で死亡する(Fong et al.,Nature.1995;376:66-70;Shalaby et al.,Nature.1995;376:62-66)。同様に、単一VEGFアレルの欠失を有するマウスは、胎児期致死性である(Ferrara et al.,Nature.1996;380;439-442)。全てのVEGFまたはVEGFRノックアウトマウスでは、早死には、脈管形成の重度障害に起因し、これは、次に、胚形成に影響を与える。未熟児におけるROPの抗VEGF療法は、有害副作用と関連付けられてきた(Beharry et al.,Semin Perinatol.2016;40:189-202;Lepore et al.,Ophthalmology.2014;121:2212-2219)。効力および安全性の不確定性に起因して(Sanker et al.,Cohrane Database Syst.Rev.2016;2:CD009734)、VEGF阻害剤は、ROP治療用としては承認されなかった。本実施例は、抗Scg3療法がOIRに対し高い効力を有することを確立した。Scg3の高い疾患選択性は、抗Scg3療法が正常な血管に対し最小限の副作用を有し得ることを示す。この考えは、Scg3遺伝子(すなわち、1B1075遺伝子、Scg3ブロッカーに100%等価)のホモ接合欠失を有するマウスの報告された正常表現型により裏付けられ(Kingsley et al.EMBO J.1990;9:395-399)、脈管形成および胚形成に対する最小限の有害作用を示唆する。
図4の結果は、抗Scg3抗体が、高い効力と安全性を有する、ROPのための有望な薬物療法剤であることを示す。
【0120】
まとめると、比較リガンドミクスによる高スループットスクリーニングを実施し、疾患関連リガンドを系統的に特定した。Scg3は、糖尿病の血管系で選択的に血管新生を誘導するが健康な血管系では誘導しない、特有の血管新生因子として、およびDME、PDR、およびROPの抗血管新生療法の有望な標的として特徴付けられた。抗Scg3抗体は、OIR誘導される病理学的網膜血管新生を顕著に軽減し、抗Scg3療法がDMEおよびPDRを治療し、加えて、ROPに対する高い効力と安全性を有する最初の薬物療法になり得ることを示す。
【0121】
実施例2
CNVのための抗Scg3療法
材料および方法
抗体。親和性精製抗Scg3 pAbをProteintech(Rosemont,IL,USA)から入手した。抗Scg3 mAb(クローン49およびクローン78、マウスIgG1)を生成し、無血清ハイブリドーマ馴化培地からプロテインGカラムを使って精製した(Kim et al.Clin Immunol.2011;138(1):60-6)。全ての抗体をAmicon遠心力フィルターユニット(10kDaカットオフ、Millipore,Billerica,MA,USA)中でリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。
【0122】
細胞培養。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)は以前に記載されている(LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904)。ヒト網膜毛細血管内皮細胞(HRMVEC)ならびに血清含有完全クラシック培地キットおよびCultureBoostをCell Systems(Kirkland,WA)から入手した(LeBlanc et al.Mol Vis.2016;22:374-86)。ヒトVEGF165および抗VEGF抗体をR&D systems(Minneapolis、MN)から入手した。アフリベルセプトは、Regeneron Pharmaceuticals(Tarrytown,NY)で製造された。4~8継代のHRMVECを、Scg3(Sino Biological, Beijing,China)または培地対照と共に、96ウェルプレート中で抗Scg3 mAbの存在下または非存在下で、LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載のように、培養した。各ウェル中の細胞を48時間でトリプシン消化により集め、定量した。
【0123】
スフェロイド発芽アッセイ。HUVECを用い、LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載されているようにしてアッセイを実施した。 手短に説明すると、1.2%(w/v)のメチルセルロース(Sigma,St.Louis,MO)をEBM-2培地(Lonza,Allendale,NJ)中に溶解することによりメトセル溶液を調製し、5,000xg、4℃で2時間遠心分離してデブリを除去した。80%コンフルエンスで細胞を採取し、計数して、20%のメトセルおよび10%ウシ胎仔血清(FBS)含有EBM-2培地に再懸濁し、非接着性96ウェル丸底プレートに750個細胞/ウェルで播種し、24時間培養した。スフェロイドを採取し、フィブリノーゲン(2.5mg/ml)およびアプロチニン(0.05mg/ml)含有EBM-2培地に再懸濁し、24ウェルプレートに播種した(約50スフェロイド/ml/ウェル)。トロンビン(12単位/ml)を各ウェルに添加することにより凝血を誘導した。スフェロイド包埋フィブリンゲルを室温で5分間、その後、37℃で20分間凝血させた。0.05mg/mlのアプロチニン含有基礎培地中で、フィブリンゲルをScg3、VEGFまたはPBSと共に48時間インキュベートした。位相差顕微鏡を使って写真を取得し、平均発芽長さをImageJソフトウェア(NIH)で定量化した。
【0124】
Src活性化。Src活性化を、LeBlanc et al.PLoS One.2015;10(5):e0127904に記載のように検出した。HRMVECを、0.2%FBS補充EBM-2培地中で一晩インキュベートして、他の成長因子の影響を減らした。細胞をScg3またはPBSと共に、抗Scg3 mAb含有または非含有EBM-2培地中、37℃で10分間インキュベートし、溶解し、リン酸化Src(P-Src)、Srcまたはβ-アクチン(Santa Cruz Biotechnology,Dallas,TX)に対する抗体を使って、ウェスタンブロットにより分析した。ウェスタンブロットシグナルをデジタル化した。
【0125】
Scg3およびVEGF発現。HRMVECを6ウェルプレートに播種し、Scg3、VEGFまたはPBSと共に、2%FBS補充EBM-2培地中で48時間インキュベートした。洗浄後、細胞を収集し、抗Scg3 mAbおよび抗VEGF抗体を用いて、ウェスタンブロットにより分析した。ウェスタンブロットシグナルをデジタル化した。
【0126】
レーザー誘導CNVの治療。C57BL/6マウス(6~7週齡、Jackson Laboratory、Bar Harbor,ME)を、以前に記載のようにレーザー光凝固に供し(アルゴンレーザー、532nm、100mW、100ms、100μm、4スポット/網膜)、CNVを0日目に誘導した(LeBlanc et al.Mol Vis.2016;22:374-86)。脈絡膜出血を有する病変および線状病変または融合病変を、Poor et al.Invest Ophthalmol Vis Sci.2014;55(10):6525-34に記載のように、除外した。3日目に、抗Scg3 pAb、対照IgG、抗Scg3 クローン49 mAb(0.36μg/1μl/眼)、アフリベルセプト(2μg/1μl/眼)またはPBSを硝子体内に注射した。マウス中の2μg/眼のアフリベルセプトは、それらの相対的硝子体体積を基準にして、nAMD療法の場合のヒトの2mg/眼と同等である。7日目に、フルオレセインナトリウム(0.1ml、2.5%)の腹腔内注射を受けたマウスの、注射の6分後のフルオレセイン血管造影法により、CNV漏出を分析した。レーザースポットの強度をImageJを使って定量化した。8日目に、網膜色素上皮(RPE)-脈絡膜層-強膜複合体の眼杯を単離し、Alexa Fluor488-イソレクチンB4で染色し、フラットマウントして、共焦点顕微鏡により分析した(LeBlanc et al.Mol Vis.2016;22(374-86);Chan et al.PLoS One.2015;10(3):e0120587)。 CNV 3D体積をz-スタック画像からデコンボリューションし、Volocityソフトウェアを用いて定量化した。各病変の最大CNV z-スタック画像の領域サイズおよびその蛍光強度を定量化し、ImageJを使って、CNVサイズおよび血管密度を決定した。データをPBS対照に対し正規化した。
【0127】
マトリゲル誘導CNVの治療。成長因子低減マトリゲル(Corning,Corning,NY)をPBSで1:4に希釈し、0日目に、Cao et al.Invest Ophthalmol Vis Sci.2010;51(11):6009-17に記載のように、C57BL/6マウス(6~7週齡、0.8l/網膜)の網膜下腔に注射した。0、2および4日目に、抗Scg3 pAb、ウサギ対照IgG、抗Scg3 mAb、マウス対照IgG1(抗c-Myc、クローン9E10)(Developmental Studies Hybridoma Bank,Iowa City,IA)、アフリベルセプトまたはPBSを皮下に注射した。人的バイアスを避けるために、試薬を盲検法試験として符号化した。7日目に、フルオレセイン血管造影法を実施し、上記のようにCNV漏出を分析した。
【0128】
統計分析。データを平均±SEMとして表し、1元配置分散分析検定により分析した。P<0.05の差異を有意と見なした。
【0129】
結果
新規血管新生因子としてのScg3のインビトロ特性評価。3D内皮のスフェロイド発芽アッセイを実施して、Scg3のインビトロ血管新生活性を特徴付けた。結果は、Scg3がHUVECの新芽形成を有意に刺激することを示した(P<0.001、
図1I)。陽性対照として、VEGFは、類似の内皮新芽形成を誘導し(P<0.01)、Scg3が血管新生因子であることをさらに裏付けた。
【0130】
中和pAbを用いたレーザー誘導CNVの抗Scg3療法。CNV発病に対するScg3の可能な寄与を調査するために、抗Scg3 pAbによるマウスのCNVを軽減する能力を分析した。マウスのCNVをレーザー光凝固により誘導した。抗Scg3 pAb、対照IgG(0.36μg/眼)またはアフリベルセプト(2μg/眼)を光凝固の3日後に硝子体内に注射した。7日目のフルオレセイン血管造影は、抗Scg3 pAbがアフリベルセプトと類似の効力でCNV血管漏出を有意に低減することを示した(P<0.05、
図5Aおよび5B)。眼杯中のCNV血管をAlexa Fluor488-イソレクチンB4で標識し、共焦点顕微鏡により分析した。抗Scg3 pAbは、CNVのサイズを顕著に縮小した。CNV 3D体積、病変面積および血管密度の定量化により、抗Scg3 pAbがアフリベルセプトと類似の効力でCNVを有意に抑制することが明らかになった(
図5D~5E)。
【0131】
中和mAbを用いたレーザー誘導CNVの抗Scg3療法。親和性精製にもかかわらず、複数のエピトープを認識する抗Scg3 pAbは、オフターゲット効果により、他のタンパク質に非特異的に結合し得る。モノクローナル抗体は、他のタンパク質と最小限の交差反応しかせず、したがって、標的検証ならびに治療のための選択的試薬として十分に評価できる。抗Scg3クローン49 mAbの中和活性を特徴付けるために、Scg3がHRMVECの増殖を有意に誘導すること(P<0.05)およびそのmAbがScg3誘導される増殖を抑制すること(P<0.05、
図6A)が実証された。これらの結果は、Scg3が、内皮細胞の増殖を促進する血管新生因子であること、およびクローン49 mAbがScg3中和抗体であることを確信させた。さらに、シグナル伝達調査は、Scg3がHRMVEC中のSrcキナーゼのリン酸化を有意に刺激すること(P<0.05)、およびクローン49 mAbがScg3誘導Src活性化を阻止すること(P<0.05、
図6Bおよび6C)を明らかにした。クローン49 mAbを用いたデータは、抗Scg3 pAbの治療活性は、Scg3がCNV発病における重要な役割を果たすことを実証し、CNVの抗血管新生療法のための有望な標的であることを確信させた。
【0132】
マトリゲル誘導CNVの抗Scg3療法。Scg3の病原性の役割を検証するために、Cao et al.Invest Ophthalmol Vis Sci.2010;51(11):6009-17に記載のように、マトリゲル(0.8μl/網膜)を網膜下腔に注射してCNVを誘導することにより、別のCNVのマウスモデルを生成した。硝子体内注射の副作用を回避するために、このCNVモデルで全身性抗Scg3療法の概念実証について調べた。0、2および4日目に、抗Scg3 pAb、クローン49またはクローン78 mAb、対照ウサギIgG、マウスIgG1マウスIgG1(25μg/kg体重)、アフリベルセプト(250μg/kg)またはPBSを皮下に注射した。フルオレセイン血管造影は、抗Scg3 pAbがマトリゲル誘導CNVを有意に防止した(P<0.01、ウサギ対照IgGに対して)ことを示した(
図7Aおよび7B)。結果は、クローン49 mAb(P<0.01、対照マウスIgG1に対して)(
図7Aおよび7B)およびクローン78 mAb(P<0.05、対照IgGに対して)(
図7Cおよび7D)で独立に立証された。陽性対照として、アフリベルセプトもまた、マトリゲル誘導CNVを有意に抑制した(
図7B)。
【0133】
Scg3およびVEGF発現の交差調節。血小板由来成長因子(PDGF)、繊維芽細胞増殖因子2(FGF-2)および上皮増殖因子(EGF)などの多くの血管新生因子が、VEGF発現を上方制御できる(Wang et al.Cancer research.1999;59(7):1464-72;Seghezzi et al.J Cell Biol.1998;141(7):1659-73;Maity et al.Cancer research.2000;60(20):5879-86)。したがって、それらは、VEGFを介して血管新生を間接的に促進し得る。この可能性を調査するために、HRMVEC中のVEGF発現に対するScg3の効果を分析した。結果は、Scg3はVEGF発現を上方制御しない、または逆もまた同じであることを示した(
図8A~8C)。陽性対照として、VEGFは、以前にKweider et al.J Biol Chem.2011;286(50):42863-72で報告されているように、自身の発現を有意に促進した(P<0.005)。これらの結果は、Scg3およびVEGFが相互の発現を調節できないことを示した。
【0134】
考察
この調査は、Scg3をCNVにおける血管新生因子として、および有望なnAMD療法の標的として特徴付けた。他の血管新生因子と比較して、Scg3はその疾患関連性の理由で、独特である。Scg3は正常な血管に結合しない、またはその血管新生を誘導しない。したがって、抗Scg3療法は、CNV血管に対して比較的高い選択性を有するはずである。さらに、Scg3(すなわち、1B1075遺伝子、Scg3阻害に100%等価)遺伝子を除去したマウスは、正常な表現型を有し(37)、抗Scg3が正常血管および他の細胞に対し最小限の副作用を有し得ることを示唆している。実際に、過剰の高用量でのScg3中和mAbの硝子体内注射は網膜毒性がないこと、および高濃度のクローン49 mAbは、FITCアネキシンV標識を用いて検出可能なHRMVECのアポトーシスを誘導しないことが明らかになった。これらの知見は、CNVの全身性抗Scg3療法に可能性を開くものである。
図7の結果は、高効力を有する、マトリゲル誘導CNVの全身性抗Scg3療法を実証している。柔軟な投与経路を有する抗Scg3は、眼の硝子体内注射関連有害作用を回避するであろう。この実施例は、皮下注射によるCNVの全身性抗Scg3療法を概念実証として示したが、全身療法に対する効力を最大化するために、異なる選択肢、例えば、異なる注射部位、持続放出製剤およびペグ化抗体による半減期の延長などが探索されるであろう。
【0135】
抗Scg3 mAbおよびアフリベルセプトの両方は、レーザーまたはマトリゲル誘導CNVを顕著に回復させ、50%を超える抑制がなされた。さらに、機構的調査は、Scg3およびVEGFの両方がERK1/2キナーゼを活性化することを示した。重要な問題点は、Scg3およびVEGFが、CNVの堅牢な抑制およびERK1/2の活性化のために、同じ受容体経路を共有するかどうかということであった。Scg3はVEGF受容体(VEGFR)に結合しないということがわかった。さらに、VEGFは、Aktキナーゼおよびシグナル伝達性転写因子3(STAT3)を活性化するが、Scg3はそれらを活性化しなかった。この調査は、Scg3はVEGF発現を上方制御し得ない、または逆もまた同じであることをさらに明らかにした(
図8A)。まとめるとこれらの結果は、Scg3がVEGFとは独立したシグナル伝達機序を有する血管新生因子であることを示し、代替療法またはそれらの阻害剤とのnAMDの併用療法のための分子的機序を提供した。Scg3およびVEGFは、別々の細胞内のシグナル伝達経路を活性化する異なる受容体を有し得、これは、最終的に、いくつかの共通のシグナル伝達分子(例えば、EKR1/2)に収束して、血管新生を調節する。したがって、Scg3の阻害剤との併用療法は、CNV療法の効力を相乗的にまたは付加的に改善する可能性を有し得る。
【0136】
まだ探求されていない領域は、nAMDの予防療法である。例えば、片側の眼に、AMDになりやすい遺伝子、喫煙歴、ドルーゼンまたはCNVを有する患者は、nAMDを発症する高いリスクがある。注射関連有害作用のために、硝子体内の抗VEGF療法は、CNV発症前のnAMD予防に対して、比較的低いベネフィット・リスク比を有する。最小限の副作用を有する全身性抗Scg3療法であれば、この比を改善し、それにより、高リスク群の患者のnAMDを予防する可能性を開くであろう。したがって、Scg3は、nAMDの治療および予防のための有望な標的である。
【0137】
実施例3
癌のための抗Scg3療法
比較リガンドミクス分析は、Scg3が、マウスの網膜芽細胞腫に198コピーが結合し、正常な網膜にはゼロコピーが結合することが明らかになった(
図9A)。ヒトMDA-MB-231乳癌細胞(2x10
6細胞/マウス)を免疫不全NSGマウスの側面乳房体中に移植した。約160mm
3のサイズに腫瘍成長後、マウスを抗Scg3 mAbクローン49または対照マウスIgG1(5mg/kg体重)の腹腔内の注射により処理した。腫瘍サイズを定量後、合計4種の処理による次の処理を実施した。
【0138】
抗Scg3抗体で処理した動物は、対照マウスIgGで処理したマウスに比べて、有意により小さい腫瘍体積を示した(
図9B)。対照IgGで処理した腫瘍と比較すると、腫瘍増殖は抗Scg3 mAbによる最初の処理後、有意に低下した。追加の抗Scg3 mAbによる処理は、測定した全ての時点で、腫瘍増殖を有意に抑制した。体重減少、食欲減退、被毛の逆立ちまたは呼吸困難などの副作用の臨床徴候は観察されず、抗Scg3 mAbは最小限の副作用であることが実証された。
【0139】
前述の実施例は、Scg3は、正常な血管では最小限の結合活性および血管新生活性を有するが、複数の血管疾患の場合には、その結合活性および血管新生活性を顕著に上方制御することを示す。血管発生および網膜発生とって不可欠であるVEGFとは対照的に、Scg3は、正常な血管および網膜形態形成では、最小限の役割しか果たさない。Scg3遺伝子のホモ接合欠失を有するマウスは、正常な表現型を有すると報告されたが(Kingsley et al.EMBO J.1990;9(2):395-9)、一方で、単一VEGFアレルの欠失を有するマウスは、胎児期致死性である(Ferrara et al.,Nature.1996;380(6573);439-442)。抗Scg3 mAbを含む抗Scg3療法は、DR、CNV/PCVを有するnAMD、ROP、および癌に関連する症状を治療するのに効果的であり、現在の抗VEGF療法選択肢に対する有望な代替療法を提供する。
【0140】
本明細書で引用された全ての出版物および特許出願は、あたかもそれぞれの出版物または特許出願が具体的かつ個々に、参照により組み込まれると示されるように参照により本明細書に組み込まれる。前述の発明は、理解を明確にする目的で図および例を用いて詳細に記載されているが、本開示の教示に照らして、添付の請求項の精神または範囲から逸脱することなく、特定の変更および修正を行ってもよいことは、当業者に容易に明らかとなろう。
【配列表】