(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】レーザーマイクロダイセクション装置、レーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置、および、試料の採取方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20220906BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
G01N1/28 G
G01N1/28 J
G01N1/04 X
(21)【出願番号】P 2020539421
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019033087
(87)【国際公開番号】W WO2020045291
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2018159784
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)開発課題「LC-MS対応質量分析イメージング前処理装置の開発」の委託研究の産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】澤田 誠
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/053039(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163385(WO,A1)
【文献】特開2010-081884(JP,A)
【文献】特開2004-170930(JP,A)
【文献】国際公開第2005/026811(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/026812(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00ー 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイセクションレーザー光を照射することで試料を採取するレーザーマイクロダイセクション装置であって、
該レーザーマイクロダイセクション装置は、
ダイセクションレーザー光を照射するためのレーザー照射部と、
前記レーザー照射部から照射されたダイセクションレーザー光を平行光にする第1レンズと、
前記平行光の周辺部分の光を遮蔽する絞り部と、
前記絞り部で絞った平行光を集光する第2レンズと
を含む、レーザーマイクロダイセクション装置。
【請求項2】
光路調整部材
を更に含む、請求項1に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
【請求項3】
試料を載置することができ、前記試料を移動することができる試料移動装置と、
採取した試料を回収するための熱溶融性フィルムを含むデバイスを載置することができ、載置した前記デバイスを移動することができるデバイス移動装置と、
を更に含む、請求項1に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
【請求項4】
試料を載置することができ、前記試料を移動することができる試料移動装置と、
採取した試料を回収するための熱溶融性フィルムを含むデバイスを載置することができ、載置した前記デバイスを移動することができるデバイス移動装置と、
を更に含む、請求項2に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
【請求項5】
前記試料移動装置が水平方向に移動し、前記デバイス移動装置が水平方向及び垂直方向に移動する、
または、
前記試料移動装置が水平方向及び垂直方向に移動し、前記デバイス移動装置が水平方向に移動する、
請求項3に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
【請求項6】
前記試料移動装置が水平方向に移動し、前記デバイス移動装置が水平方向及び垂直方向に移動する、
または、
前記試料移動装置が水平方向及び垂直方向に移動し、前記デバイス移動装置が水平方向に移動する、
請求項4に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
【請求項7】
ダイセクションレーザー光を照射する箇所の試料の位置座標及び採取試料を回収する箇所のデバイスの位置座標を関連付けて記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された試料の位置座標及びデバイスの位置座標に基づき、前記試料移動装置及び前記デバイス移動装置を駆動制御する移動装置駆動制御部と、
を更に含む、請求項5に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
【請求項8】
ダイセクションレーザー光を照射する箇所の試料の位置座標及び採取試料を回収する箇所のデバイスの位置座標を関連付けて記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された試料の位置座標及びデバイスの位置座標に基づき、前記試料移動装置及び前記デバイス移動装置を駆動制御する移動装置駆動制御部と、
を更に含む、請求項6に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載のレーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置。
【請求項10】
レーザーマイクロダイセクション装置を用いた試料の採取方法であって、
該試料の採取方法は、
レーザー照射部からダイセクションレーザー光を照射する照射工程と、
前記照射工程で照射されたダイセクションレーザー光を平行光にするダイセクションレーザー光平行工程と、
前記ダイセクションレーザー光平行工程で平行化した平行光の周辺部分を遮蔽する絞り工程と、
前記絞り工程で絞った平行光を集光する集光工程と、
熱溶融性フィルムを含むデバイスと試料を密着した状態で、前記集光工程で集光したダイセクションレーザー光をデバイスおよび試料に照射して試料をデバイスに採取する試料採取工程と、
を含む、試料の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、レーザーマイクロダイセクション装置、レーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置、および、試料の採取方法に関する。特に、試料片から小さなサイズの試料を精度よくデバイスに採取できるレーザーマイクロダイセクション装置、レーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置、および、試料の採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生命科学の研究では、ある分子が生体試料のどの場所に存在しているのか、又、生体試料中の興味のある場所にどのような分子が存在しているのかを精度よく分析することが求められている。
【0003】
生体試料を分析する際には、試料を採取して単に分析するのではなく、顕微鏡により観察している試料にどの様な分子が含まれているのかを併せて表示する質量分析イメージングが要望されている。当該要望を実現する装置としては、顕微鏡で生体試料を観察し、そして、生体試料を質量分析することができる質量顕微鏡が市販されている。
【0004】
また、本発明者らは、(1)レーザーマイクロダイセクション装置に搭載したオンライン連動座標再現ステージ(測定試料の固定装置)を改良し、座標再現機能ソフトウェアを改造することで、空間分解能を向上できること、(2)座標再現機能を用いて位置決定をしているため、連続する組織切片間の位置情報を正確に再現でき、3次元での質量分析イメージングも実現できること、を見出し特許出願している(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/053039号公報
【文献】国際公開第2016/163385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1および2に記載されている技術を用いることで、生体試料の近接した部分を連続的に分析することができる。ところで、生体試料をより詳細に分析するためには、小さなサイズの生体試料を精度よく連続的に採取できることが望ましい。現状のレーザーマイクロダイセクション装置では、生体試料に照射するダイセクションレーザー光(以下、「レーザー光」と記載することがある。)の照射条件を調整することで、採取する試料のサイズを調整している。
【0007】
しかしながら、現状のレーザーマイクロダイセクション装置では、小さな試料(数μmレベル)を採取する場合、レーザー光の照射条件を調整しても(1)試料が採取できない、あるいは、(2)所期のサイズより大きな試料が採取されてしまう、という問題がある。
【0008】
本出願における開示は、上記問題点を解決するためになされたものであり、鋭意研究を行ったところ、(1)レーザー照射部から照射されたレーザー光を一度平行光にし、(2)平行光の周辺部分の光を遮蔽することで平行光を絞り、(3)絞った光を集光して試料に照射することで、従来と比較して、採取したい試料のサイズが小さくても、精度よく試料を採取できること、を新たに見出した。
【0009】
すなわち、本出願における開示の目的は、レーザーマイクロダイセクション装置、レーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置、および、試料の採取方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願における開示は、以下に示す、レーザーマイクロダイセクション装置、レーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置、および、試料の採取方法に関する。
【0011】
(1)ダイセクションレーザー光を照射することで試料を採取するレーザーマイクロダイセクション装置であって、
該レーザーマイクロダイセクション装置は、
ダイセクションレーザー光を照射するためのレーザー照射部と、
前記レーザー照射部から照射されたダイセクションレーザー光を平行光にする第1レンズと、
前記平行光の周辺部分の光を遮蔽する絞り部と、
前記絞り部で絞った平行光を集光する第2レンズと
を含む、レーザーマイクロダイセクション装置。
(2)光路調整部材
を更に含む、上記(1)に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(3)試料を載置することができ、前記試料を移動することができる試料移動装置と、
採取した試料を回収するための熱溶融性フィルムを含むデバイスを載置することができ、載置した前記デバイスを移動することができるデバイス移動装置と、
を更に含む、上記(1)または(2)に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(4)前記試料移動装置が水平方向に移動し、前記デバイス移動装置が水平方向及び垂直方向に移動する、
または、
前記試料移動装置が水平方向及び垂直方向に移動し、前記デバイス移動装置が水平方向に移動する、
上記(3)に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(5)ダイセクションレーザー光を照射する箇所の試料の位置座標及び採取試料を回収する箇所のデバイスの位置座標を関連付けて記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された試料の位置座標及びデバイスの位置座標に基づき、前記試料移動装置及び前記デバイス移動装置を駆動制御する移動装置駆動制御部と、
を更に含む、上記(4)に記載のレーザーマイクロダイセクション装置。
(6)上記(1)~(5)の何れか一つに記載のレーザーマイクロダイセクション装置を含む分析装置。
(7)レーザーマイクロダイセクション装置を用いた試料の採取方法であって、
該試料の採取方法は、
レーザー照射部からダイセクションレーザー光を照射する照射工程と、
前記照射工程で照射されたダイセクションレーザー光を平行光にするダイセクションレーザー光平行工程と、
前記ダイセクションレーザー光平行工程で平行化した平行光の周辺部分を遮蔽する絞り工程と、
前記絞り工程で絞った平行光を集光する集光工程と、
熱溶融性フィルムを含むデバイスと試料を密着した状態で、前記集光工程で集光したダイセクションレーザー光をデバイスおよび試料に照射して試料をデバイスに採取する試料採取工程と、
を含む、試料の採取方法。
【発明の効果】
【0012】
本出願で開示するレーザーマイクロダイセクション装置は、従来と比較して、採取したい試料が小さい場合でも、所期のサイズの試料を精度よく採取できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るLMD1aの概略を示す図である。
【
図2】
図2は、試料の採取原理を説明するための図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係るLMD1aが、従来と比較して、小さなサイズの試料を精度よく採取できる原理を説明するための図である。
【
図4】
図4は、第2の実施形態に係るLMD1bの概略を示す図である。
【
図5】
図5は、試料の採取方法の第1の実施形態のフローチャートである。
【
図6】
図6は、第3の実施形態に係るLMD1cの概略を示す図である。
【
図7】
図7は、記憶装置と移動装置駆動制御部の概略について説明するための図である。
【
図8】
図8は、図面代用写真で、レーザー光照射後のホットメルトフィルムスライドの位相差写真である。円がレーザー光により溶融した箇所である。
【
図9】
図9A~9Dは、図面代用写真で、実施例1において、
図9Aは試料の写真、
図9Bは
図9Aの拡大写真で矢印部分が切り出す試料部分(ミトコンドリア)、
図9Cは設定した照射条件でホットメルトフィルムスライドにレーザー光を照射した時の位相差写真、
図9Dは試料をホットメルトフィルムスライドに採取した時の写真である。
【
図10】
図10は、図面代用写真で、比較例1において、試料を採取した後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、レーザーマイクロダイセクション装置(以下、「LMD」と記載することがある。)、LMDを含む分析装置、および、試料の採取方法の各実施形態について、詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0015】
(LMDの第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るLMD1aの概略を示す図である。LMD1aは、レーザー光Lを照射するためのレーザー照射部2と、レーザー照射部2から照射されたレーザー光Lを平行光にする第1レンズ3と、平行光Lの周辺部分の光を遮蔽する絞り部4と、絞り部4で絞った平行光Lを集光する第2レンズ5と、を少なくとも含んでいる。
【0016】
レーザー照射部2は、試料Sと後述するデバイスにレーザー光を照射し、試料Sをデバイスに採取できれば特に制限はない。例えば、半導体レーザー(GaAs)等の赤外線レーザー、N2レーザー等の紫外線レーザーが挙げられる。
【0017】
第1レンズ3は、レーザー照射部2から照射されたレーザー光Lを平行光にすることができれば特に制限はなく、コリメーターレンズ等が挙げられる。
【0018】
絞り部4は、平行光Lの周辺部分を遮蔽することができれば特に制限はない。例えば、平行光Lの断面が略円形状の場合、平行光Lの断面の直径より小さな直径を有する板部材が挙げられ、具体的には、カメラ等の光学機器に用いられている絞りを用いればよい。なお、絞り部4は、絞り機能があれば他の機能を併せ持つ部材を用いてもよい。例えば、絞り機能とレーザー光Lの光束を拡張する機能を有するビームエクスパンダー等を用いることもできる。
【0019】
第2レンズ5は、絞り部4で絞った平行光Lを集光することができれば特に制限はなく、例えば、対物レンズが挙げられる。
【0020】
次に、
図1乃至
図3を参照して、第1の実施形態に係るLMD1aが、従来のLMDと比較して、小さなサイズの試料を精度よく採取できる原理を説明する。先ず、
図2を参照して、試料の採取原理を説明する。第1の実施形態に係るLMD1aは、熱溶融性フィルムを含むデバイス7と試料Sを密着させ、両者が密着した状態でレーザー光Lを照射することで、デバイス7の熱溶融性フィルムが溶融し、溶融したフィルム部分が試料を剥ぎ取ることで、所期の部分の試料をデバイス7に採取できる。ところで、
図3Aに示すように、レーザー照射部2から照射されるレーザー光は、レーザー光の中心の強度が大きく、中心から離れるほど強度が小さくなり、且つ、レーザー光の周辺部分の強度の減少具合は緩やかになる。そのため、レーザー照射部2から照射されたレーザー光を単に対物レンズ等で集光した場合は、
図3Aに示す強度分布のレーザー光をそのまま集光することになる。したがって、デバイス7および試料Sに照射するレーザー光の強度は位置によるばらつきが大きくなる。
【0021】
一方、第1の実施形態に係るLMD1aは、レーザー照射部2から照射されたレーザー光Lを第1レンズ3で一度平行光にする。次に、絞り部4で平行光の周辺部分を遮蔽することで、
図3Bに示すように、強度の減少具合が緩やかになる周辺部分の光が絞られたシャープな強度分布を有するレーザー光が得られる。そして、絞ったレーザー光を第2レンズ5で集光することで、従来と比較して、強度のばらつきが少なく、且つ、照射領域とそれ以外の領域で強度が明確に異なるレーザー光Lを、デバイス7および試料Sに照射できる。したがって、設定した採取試料のサイズと実際に採取した試料のサイズの解離を小さくできる。
【0022】
絞り部4で絞るレーザー光の量は、レーザー照射部2から照射される光の質(強度分布)に応じて適宜決めればよい。また、絞り部4で絞った光の量が多い場合、換言すると、第2レンズ5で集光するレーザー光の量が少ない場合は、必要に応じてレーザー照射部2の出力を調整すればよい。
【0023】
(LMDの第2の実施形態)
図4を参照して、第2の実施形態に係るLMD1bの概略を説明する。第2の実施形態に係るLMD1bは、光路調整部材6を備える点で第1の実施形態に係るLMD1aと異なり、その他の点では、第1の実施形態と同様である。なお、本明細書において「光路調整部材」とは、レーザー照射部2から照射されたレーザー光の進行方向を変更できる部材、及び/又は、レーザー光の進行をガイドする部材を意味する。光路調整部材6は、レーザー光の進行方向を変更及び/又はガイドできるものであれば特に制限はなく、例えば、光ファイバー、ミラー、或いは、ミラーを組合わせたミラー系等が挙げられる。
図4に示す例では、絞り部4と第2レンズ5との間に光ファイバー6が配置されているが、光源2と第1レンズ3の間に配置してもよい。また、図示は省略するが、ミラー、ミラー系を配置してもよい。第2の実施形態に係るLMD1bは、光路調整部材6を備えるため、LDM1bを構成する部材の配置の自由度が向上する。
【0024】
(試料の採取方法の第1の実施形態)
図5を参照して、LMD1aおよびLMD1bを用いた試料の採取方法の第1の実施形態について説明する。
図5は試料の採取方法の第1の実施形態のフローチャートである。
【0025】
図5に示すように、試料の採取方法の第1の実施形態は、照射工程(ST1)と、ダイセクションレーザー光平行工程(ST2)と、絞り工程(ST3)と、集光工程(ST4)と、試料採取工程(ST5)と、を含む。照射工程(ST1)では、レーザー照射部2からダイセクションレーザー光を照射する。ダイセクションレーザー光平行工程(ST2)では、照射工程(ST1)で照射されたダイセクションレーザー光を平行光にする。絞り工程(ST3)では、ダイセクションレーザー光平行工程(ST2)で平行化した平行光の周辺部分の光を遮蔽する。集光工程(ST4)では、絞り工程(ST3)で絞った平行光を集光する。そして、試料採取工程(ST5)では、デバイス7と試料Sが密着した状態で、集光工程(ST4)で集光したダイセクションレーザー光Lを照射することでデバイス7を溶融し、その後、デバイス7と試料Sを分離する際に溶融したデバイスが試料Sを剥ぎ取ることで、試料Sをデバイス7に採取できる。
【0026】
(LMDの第3の実施形態)
図6を参照して、第3の実施形態に係るLMD1cの概略を説明する。第3の実施形態に係るLMD1cは、デバイス移動装置20、試料移動装置21、を更に含む点で、第1および第2の実施形態に係るLMD1a、1bと異なり、その他の点では同様である。
【0027】
図6は、第3の実施形態に係るLMD1c(
図6中の点線で囲った部分)の概略を示す図である。
図6に示す例では、デバイス移動装置20、試料移動装置21に加え、試料を観察するための光を照射する光源22、画像を取得するためのCCD等の撮像装置23を含んでいる。なお、第1レンズと絞り部は、レーザー照射部2と第2レンズ5の間に設けられている。
図6に示す例では、ダイセクションレーザー光をデバイスの下方から照射するため、レーザー照射部2は、デバイス移動装置20より下方に配置されている。また、図示は省略するが、第3の実施形態では、記憶装置及び移動手段駆動制御部を含んでいてもよい。
【0028】
第3の実施形態では、熱溶融性フィルムを含むデバイス7と試料Sを密着する動作を自動化している。デバイス移動装置20は、デバイスを載置することができ、載置したデバイス7を移動できれば特に制限はない。例えば、図示は省略するが、デバイス移動装置20は、デバイス7を載置することができるデバイス載置台と、デバイス載置台を水平方向(X,Y軸方向)に移動するための駆動原及び該駆動原の駆動力をデバイス載置台に伝達する駆動力伝達機構を含んでいる。駆動原としては、パルスモーター、超音波モーター等を用いればよい。また、駆動力伝達機構は、例えば、顕微鏡等に使われているデバイス(チップ)載置台を水平方向に駆動するための駆動力伝達機構等、公知のものを用いればよい。
【0029】
試料移動装置21は、試料Sが載置したスライドを載置することができ、載置した試料Sを移動できれば特に制限はない。例えば、図示は省略するが、試料Sを載置したスライドを一端に載置することができ他端はアーム支柱に取り付けることができるアーム、該アームを水平方向(X,Y軸方向)に回転及び垂直方向(Z軸方向)に移動することができるアーム支柱で構成すればよい。アームを水平方向に回転及び垂直方向に移動するためには、駆動原及び該駆動原の駆動力を伝達してアームを回転及び垂直方向に移動するための駆動力伝達機構を設ければよい。駆動原としては、パルスモーター、超音波モーター等を用いればよい。また、駆動力伝達機構は、例えば、自動分析装置のサンプル移動用のアーム機構等、水平方向に回転及び垂直方向に移動することができる公知のアーム機構を用いればよい。
【0030】
なお、
図6に示す例では、デバイス移動装置20の上方に試料移動装置21が設けられているが、LMD1cの構成要素の配置は、適宜変更してもよい。例えば、試料移動装置21の上方にデバイス移動装置20を設けてもよい。その場合は、例えば、試料移動装置21が水平方向に移動し、デバイス移動装置20が水平方向及び垂直方向に移動するように構成してもよい。また、レーザー照射部2をLMD1cの上方に設け、試料Sおよびデバイス7の上方からレーザー光Lを照射してもよい。或いは、光ファイバー等の光学系を用いることで、レーザー照射部2を配置した位置とは反対方向からレーザー光Lを照射できるようにしてもよい。
【0031】
デバイス7は、レーザー光Lを照射することで、照射した部分に密着している試料Sを採取試料として回収できるものであれば特に制限はないが、試料Sの加熱変性を防止するとの観点から、融点が約50-70℃程度の熱溶融性フィルムを含むことが好ましい。熱溶融性フィルムとしては、例えば、エチルビニルアセテート(EVA)、ポリオレフィン、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン等が挙げられる。デバイス7は、熱溶融性フィルムのみで形成してもよいし、熱溶融性フィルムを加工したものでもよい。例えば、熱溶融性フィルム表面に撥水性インキを印刷することで、熱溶融性フィルム表面に親水領域と疎水領域を形成してもよく、熱溶融性フィルムを基板上に塗布することで、デバイス7を形成してもよい。また、必要に応じて、熱溶融性フィルムには、レーザー光源の波長域のスペクトルを選択的に吸収するため、ナフタレンシアニン染料等の有機染料等、用いるレーザー照射部2の波長域に応じて好適な有機染料を添加してもよい。
【0032】
また、図示は省略するが、第3の実施形態に係るLMD1cは、デバイス7の熱溶融性フィルムと試料を密着するための押圧デバイスを設けてもよい。押圧デバイスの詳細は、国際公開公報第2016/163385号公報を参照することができる。
【0033】
図7を参照して、記憶装置と移動装置駆動制御部の概略について説明する。記憶装置は、レーザー光を照射する箇所の試料Sの位置座標及び採取試料を回収する箇所のデバイス7の位置座標を関連付けて記憶する。また、移動装置駆動制御部は、記憶装置に記憶された試料Sの位置座標及びデバイス7の位置座標に基づき、試料移動装置及びデバイス移動装置を駆動制御する。例えば、
図7Aの試料Sから、a、b、cのように試料を連続的に切り出す場合、(i)デバイス移動装置20により、デバイス7をレーザー光が照射される位置に移動する。(ii)次に、試料移動装置21により、試料Sのaに示す位置の試料が
図7Bに示すデバイス7の採取試料aを回収する箇所a’に重なる位置に移動する。(iii)次に、試料移動装置21を垂直方向に移動することで試料Sとデバイス7を密着させる。なお、デバイス移動装置20と試料移動装置21の配置関係によっては、デバイス移動装置20を垂直方向に移動してもよい。(iV)レーザー光Lを照射することで、試料Sのaの箇所から採取した試料をデバイス7のa’の位置に回収し、次いで、試料移動装置21(デバイス移動装置20)を垂直方向に移動することで試料Sをデバイス7から離し、デバイス7の予め決められた箇所に、採取試料aを回収する。採取試料b、cについても、上記(i)~(iV)の手順を繰り返せばよい。
図7に示す方法により、採取する前の個々の試料の間隔(Aμm)より、デバイス7に回収する試料の間隔(Bμm)を大きくした場合、分析の空間分解能を向上することができる。第3の実施形態に係るLMD1cを用いた試料の採取方法は、
図5に示す試料採取工程(ST5)において、デバイス移動装置20および試料移動装置21を用いて試料Sとデバイス7を密着する以外は、試料の採取方法の第1の実施形態と同様である。
【0034】
LMD1を含む分析装置(分析方法)としては、切り出した試料を分析できれば特に制限はない。例えば、LC-MS、HPLC-蛍光分光機、HPLC-電気化学的検出器等のクロマトグラフィーを含む分析装置;電子線マイクロアナライザ;X線光電子分光装置等の元素分析装置;PCRまたはLCRで遺伝子を増幅しシークエンサーを用いて試料に含まれるDNA配列の解析を行う核酸配列分析装置;試料に含まれる核酸を鋳型にDNAをハイブリダイズするDNAチップ、タンパク質に抗体を反応させる抗体チップ等のマイクロチップ分析装置;等が挙げられる。分析装置は、
図1に示すように、LMD1で採取した試料を分析できるように、LMD1と一体化すればよい。
【0035】
第1~第3の実施形態に示すLMD1は、上記のとおり、比較的均一なレーザー光を照射できる。したがって、試料の採取以外にも、レーザーアブレーションによる治療装置、加工装置等にも用いることができる。
【0036】
以下に実施例を掲げ、実施形態を具体的に説明するが、本願で開示する発明の範囲を限定、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
〔LMDの作製〕
以下の部材を用いて、LMDを作製した。なお、各部材は、(1)~(6)の順にレーザー光が進むように配置した。
(1)レーザー照射部2:半導体レーザードライバー(Lumix社製、DS11-LA04V06)
(2)光路調整部材6:光ファイバー(ソーラボ社製、PAF-X-7-B)
(3)第1レンズ3:調整可能型FCコリメータ(ソーラボ社製、CFC-2X-B)
(4)光路調整部材6:高安定型キネマティックミラーホルダー(オプトシグマ社製、MHG-HS30-NL)
(5)絞り部4:5~10倍可変ガリレイビームエキスパンダ(ソーラボ社製、BE02-05-B)
(6)第2レンズ5:対物レンズ10,20,50,100倍(オリンパス社製、LMPlanFL)
【0038】
〔試料の調整〕
以下の手順により、レーザーマイクロダイセクション用の試料を調整した。
(1)試料として、OS3グリア前駆細胞株(理研細胞バンク RCB1593)を使用した。
(2)P1 dishに、十分に洗浄し乾熱滅菌処理したカバースリップ3枚を入れた。
(3)1×105cells/P1の濃度で、OS3細胞を播きこんだ。
(4)Mi medium中で4日間培養した。(Mi medium:MEM medium supplemented with 10%FBS、0.2% glucose、5mg/ml insulin)
(5)Mitotracker(登録商標) Orange(Thermo Fisher Scientific社製、M7511)250nMを添加し、1時間インキュベーションした。
(6)ミトコンドリアが標識されたことを顕微鏡下で確認した。
(7)レーザーマイクロダイセクション用として、カバースリップに付着したOS3細胞を以下のようにサンプリングした。
(8)培養液を捨て、カバースリップをPBSで1回洗浄した。
(9)カバースリップを、70%エタノールに室温で10min浸漬することで、カバースリップ上の細胞を固定した。
(10)固定した細胞を、100%エタノールで1min処理を2回実施し、脱水処理を行った。
(11)キシレンで2min処理を2回実施し、脱水処理を行った。
【0039】
〔試料の採取〕
(1)レーザー光の照射条件の調整
試料を採取するデバイスには、スライドガラス上に熱溶融性樹脂がコーティングされたホットメルトフィルムスライド(東洋ケム社製、SG-100スライド、(NU-079))を用いた。
作製したLMDの対物レンズを100倍に設定した。次に、実際に試料を採取する前に、LMDのレーザー照射部2のパワーを調整しながらホットメルトフィルムスライドに集光したレーザー光を照射した。
図8は、レーザー光照射後のホットメルトフィルムスライドの位相差写真で、円がレーザー光の照射により溶融した箇所である。レーザー照射部2のパワーを調整することで、ホットメルトフィルムスライドの溶融する大きさが変化することを確認した。
実施例1において、採取試料であるミトコンドリアの大きさは、約1.2μmである。したがって、ホットメルトフィルムスライドが溶融する大きさが約1.2μmとなるレーザー光の照射条件を、試料を約1.2μmの大きさで採取する照射条件とした。具体的には、レーザーパワー20%(1.56V、138mA)、レーザー照射時間15msec/1回、照射回数1回を、実施例1のレーザー光の照射条件とした。
(2)試料(ミトコンドリア)の採取
上記〔試料の調整〕で作製した試料とホットメルトフィルムスライドを密着し、上記(1)で設定した照射条件で、レーザー光をフィルム側から照射した。
図9Aは試料の写真、
図9Bは
図9Aの拡大写真で矢印部分が切り出す試料部分(ミトコンドリア)、
図9Cは設定した照射条件でホットメルトフィルムスライドにレーザー光を照射した時の位相差写真、
図9Dは試料をホットメルトフィルムスライドに採取した時の写真である。
図9Cおよび
図9Dに示すように、実施例1のLMDを用いて試料を採取すると、設定した大きさとほぼ同じ大きさの試料を、ホットメルトフィルムスライドに採取できることを確認した。
【0040】
<比較例1>
〔LMDの作製〕
実施例1の第1レンズ3、絞り部4を使用しなかった点、及び第2レンズ5(対物レンズ)の倍率以外は、実施例1と同様の手順でLMDを作製した。
【0041】
〔試料の採取〕
(1)レーザー光の照射条件の調整
実施例1と同様の手順で、ホットメルトフィルムスライドが溶融する大きさが約1.2μmとなるレーザー光の照射条件及び対物レンズを調整した。具体的には、対物レンズ10倍、レーザーパワー30%(0.14V、145mA)、レーザー照射時間3msec/1回、照射回数1回を、比較例1の照射条件とした。
(2)試料(ミトコンドリア)の採取
実施例1と同様の手順で試料の採取を行った。
図10は比較例1で採取した試料の写真である。
図10から明らかなように、実施例1と同様に位相差写真でホットメルトフィルムが約1.2μm溶融した照射条件でレーザー光を照射しても、比較例1の場合は、採取した試料の大きさは約8.5μmで、実施例1と比較して大きくなった。
【0042】
<比較例2>
〔試料の採取〕
(1)レーザー光の照射条件の調整
図8に示すように、位相差写真では、ホットメルトフィルムが溶融した周囲にはハローと呼ばれる、熱が伝わった部分も観察されている。したがって、比較例2では、ハロー部分も含めた直径が約1.2μmとなるレーザー光の照射条件を調整した。具体的には、対物レンズ100倍、レーザーパワー30%(0.14V、145mA)、レーザー照射時間3msec/1回、照射回数1回を、比較例2のレーザー光の照射条件とした。
【0043】
(2)試料(ミトコンドリア)の採取
比較例1と同様の手順で試料の採取を行った。しかしながら、比較例2では、試料を採取できなかった。
【0044】
以上のとおり、実施例1のLMDを用いて試料を採取した時は、所期のサイズの試料を採取できた。これは、
図2Bに示すように、周辺部分を遮蔽した後で集光したレーザー光をデバイスおよび試料に照射したことから、レーザー光の照射領域内の強度は比較的均一で、且つ、レーザー光の照射領域とそれ以外では強度が明確に異なるため、所期の範囲のデバイスが溶融し、溶融した部分の試料を剥ぎ取ったためと考えられる。
【0045】
一方、比較例1では、所期のサイズより大きい試料が採取された。これは、
図2Aに示すように、比較例1のレーザー光は中心から周辺部分に向けて、強度が緩やかに弱くなるため、
図2Bに示すように、レーザー光の照射領域とそれ以外の領域で強度を明確に区別することができない。そのため、
図8の位相差写真に示す熱溶融性フィルムが溶解した範囲の外側にも、実際には中心部より弱いレーザー光が照射されている。そして、本来であれば、試料を剥ぎ取る程に溶融しない部分に、中心部に照射されたレーザー光による発熱の余熱が加わったため、所期の範囲より広範囲で試料を剥ぎ取る接着性が生じ、その結果、所期の大きさ以上の範囲の試料が採取されてしまったと考えられる。
【0046】
また、比較例2では、試料を採取できなかった。これは、ハローを含めたため、デバイスを溶融するのに必要なレーザー光のパワーが不足したためと考えられる。換言すると、従来のLMDでは、単に対物レンズを用いてデバイスおよび試料に照射するレーザー光を小さくした場合、試料を採取できないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本出願で開示するLMDは、サイズの小さな試料を精度よく採取できる。したがって、医療機関や大学医学部などの研究機関、一般病院等において、組織分析のための装置として利用が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1、1a、1b、1c…レーザーマイクロダイセクション装置、2…レーザー照射部、3…第1レンズ、4…絞り部、5…第2レンズ、6…光路調整部材、7…デバイス、20…デバイス移動装置、21…試料移動装置、22…光源、23…撮像装置、L…ダイセクションレーザー光、S…試料