(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】光ファイバレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/067 20060101AFI20220906BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20220906BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01S3/067
G02B6/02 411
G02B6/036
G02B6/02 416
(21)【出願番号】P 2019087569
(22)【出願日】2019-05-07
【審査請求日】2019-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和男
(72)【発明者】
【氏名】井上 大介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 覚
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 朋也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】アリンダム ハルダー
【審査官】本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-179404(JP,A)
【文献】国際公開第03/067723(WO,A1)
【文献】特開平08-330651(JP,A)
【文献】特開2014-081497(JP,A)
【文献】特開2007-273600(JP,A)
【文献】特開2003-008114(JP,A)
【文献】特開平11-074593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0144673(US,A1)
【文献】米国特許第08204349(US,B2)
【文献】米国特許第05187759(US,A)
【文献】米国特許第05121460(US,A)
【文献】国際公開第2011/077984(WO,A1)
【文献】特開2017-181777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/067
G02B 6/02
G02B 6/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1FBGが形成されている第1ファイバと、
前記第1FBGの反射率と比して低い反射率の第2FBGが形成されている第2ファイバと、
一端に前記第1ファイバが接続され、他端に前記第2ファイバが接続され、希土類元素が添加されている添加割合については、コアの中心側の部分が前記コアの縁側の部分に対して高い希土類添加ファイバと、
を備え、
前記コアは、前記希土類元素が添加されている添加部分と、前記添加部分の中心側に形成され前記希土類元素が添加されていない中心側非添加部分と、前記添加部分の外側に形成され前記希土類元素が添加されていない外側非添加部分とから構成され、前記添加部分の屈折率が、前記中心側非添加部分の屈折率および前記外側非添加部分の屈折率と異なる光ファイバレーザ装置。
【請求項2】
前記中心側非添加部分の直径は、1μm以上2μm以下である請求項
1に記載の光ファイバレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、希土類添加ファイバの両端に、FBG(ファイバブラッググレーティング)が形成された光ファイバを夫々接続して、レーザ光を出力する光ファイバレーザ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、光ファイバレーザ装置に備えられた希土類添加ファイバでは、希土類元素がコア全体に一様に分布している。このように、希土類元素が全体に一様に分布しているコアを有する希土類添加ファイバを用いて、高強度のレーザ光を出力しようとすると、シングルモード(=単峰性)のレーザ光とはならず、集光特性の低いマルチモードのレーザ光になってしまう。
【0005】
本発明の課題は、希土類元素がコア全体に一様に分布している場合と比して、シングルモードのレーザ光を効果的に出力することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の参考例1に係る光ファイバレーザ装置は、第1FBGが形成されている第1ファイバと、前記第1FBGの反射率と比して低い反射率の第2FBGが形成されている第2ファイバと、一端に前記第1ファイバが接続され、他端に前記第2ファイバが接続され、希土類元素が添加されている添加割合については、コアの中心側の部分が前記コアの縁側の部分に対して高い希土類添加ファイバと、を備え、前記コアは、前記希土類元素が添加されている添加部分と、前記添加部分の外側に形成され前記希土類元素が添加されていない非添加部分とから構成され、前記添加部分の屈折率が、前記非添加部分の屈折率と異なり、前記添加部分の直径をDaとし、前記コアの直径をDbとすると、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
Db/2≦Da≦(3・Db)/4・・・・・(1)
【0007】
上記構成によれば、第1ファイバへ入力された励起光は、希土類添加ファイバのコアに添加された希土類元素を励起する。これにより、励起状態となった希土類元素は、特定の波長の自然放出光を放出する。この自然放出光は、第2ファイバへ入力され、第2FBGによって反射される。
【0008】
第2FBGによって反射された光は、第1FBG(第1ファイバブラッググレーティング)と第2FBG(第2ファイバブラッググレーティング)との間を往復することで、励起状態となった希土類元素によって増幅される。さらに、増幅されることで、発振条件を超えた光は、第2FBGを通過してレーザ光として出力される。
【0009】
ここで、希土類元素が添加されている添加割合については、コアの中心側の部分が前記コアの縁側の部分に対して高くなっている。このため、第1FBGと第2FBGとの間を光が複数回往復することで、コアの中心側の部分を通過する光が増幅され、シングルモードのレーザ光が出力される。このように、希土類元素がコア全体に一様に分布している場合と比して、シングルモードのレーザ光を効果的に出力することができる。
【0011】
上記構成によれば、添加部分の直径Daが、(3・Db)/4より大きい場合、又はDb/2より小さい場合と比して、シングルモードであるLP01モードの増幅度合が高くなることで、シングルモードのレーザ光を効果的に出力することができる。
【0012】
本発明の参考例2に係る光ファイバレーザ装置は、参考例1に記載の光ファイバレーザ装置において、前記コアの縁側の部分には、励起光を吸収せずに、出力される波長帯の光を吸収する吸収部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、出力される波長帯の光を吸収する吸収部がコアの縁側の部分に形成されていることで、コアの縁側の部分から出力される光の利得が低くなる。このため、出力される波長帯の光を吸収する吸収部がコアの縁側の部分に形成されていない場合と比して、シングルモードのレーザ光を効果的に出力することができる。
本発明の請求項1に係る光ファイバレーザ装置は、第1FBGが形成されている第1ファイバと、前記第1FBGの反射率と比して低い反射率の第2FBGが形成されている第2ファイバと、一端に前記第1ファイバが接続され、他端に前記第2ファイバが接続され、希土類元素が添加されている添加割合については、コアの中心側の部分が前記コアの縁側の部分に対して高い希土類添加ファイバと、を備え、前記コアは、前記希土類元素が添加されている添加部分と、前記添加部分の中心側に形成され前記希土類元素が添加されていない中心側非添加部分と、前記添加部分の外側に形成され前記希土類元素が添加されていない外側非添加部分とから構成され、前記添加部分の屈折率が、前記中心側非添加部分の屈折率および前記外側非添加部分の屈折率と異なることを特徴とする。
本発明の請求項2に係る光ファイバレーザ装置は、請求項1に記載の光ファイバレーザ装置において、前記中心側非添加部分の直径は、1μm以上2μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、希土類元素がコア全体に一様に分布している場合と比して、シングルモードのレーザ光を効果的に出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る光ファイバレーザ装置に備えられた希土類添加ファイバを示した断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る光ファイバレーザ装置に備えられた希土類添加ファイバの屈折率の分布を示した屈折率分布図である。
【
図3】(A)(B)本発明の第1実施形態に係る光ファイバレーザ装置に用いられた光ファイバ、及び希土類添加ファイバを示した断面図である。
【
図4】(A)(B)本発明の第1実施形態に係る光ファイバレーザ装置に用いられた光ファイバに形成された第1FBG、及び第2FBGを示した断面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る光ファイバレーザ装置を示した概略構成図である。
【
図6】本発明の第1実施形態の光ファイバレーザ装置に備えられた実施例に係る希土類添加ファイバ、及び比較例に係る希土類添加ファイバの解析結果をグラフで示した図面である。
【
図7】(A)(B)本発明の第1実施形態の光ファイバレーザ装置において、レーザ光の発振モードを説明するのに用いた図面である。
【
図8】(A)(B)本発明の第1実施形態の光ファイバレーザ装置において、レーザ光の発振モードを説明するのに用いた図面である。
【
図9】(A)(B)本発明の第1実施形態に対する比較形態に係る光ファイバレーザ装置に用いられた希土類添加ファイバを示した断面図、及び拡大断面図である。
【
図10】本発明の第1実施形態に対する比較形態に係る光ファイバレーザ装置を示した概略構成図である。
【
図11】(A)(B)本発明の第2実施形態に係る光ファイバレーザ装置に用いられた希土類添加ファイバを示した断面図、及び拡大断面図である。
【
図12】本発明の第2実施形態に係る光ファイバレーザ装置に備えられた希土類添加ファイバの屈折率の分布を示した屈折率分布図である。
【
図13】本発明の第2実施形態に係る光ファイバレーザ装置を示した概略構成図である。
【
図14】本発明の実施形態に対する変形形態に係る光ファイバレーザ装置に備えられた希土類添加ファイバの屈折率の分布を示した屈折率分布図である。
【
図15】本発明の実施形態に対する変形形態に係る光ファイバレーザ装置に備えられた希土類添加ファイバの屈折率の分布を示した屈折率分布図である。
【
図16】本発明の実施形態に対する変形形態に係る光ファイバレーザ装置に備えられた希土類添加ファイバの屈折率の分布を示した屈折率分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で第2実施形態とあるのは、参考形態と読み替えるものとする。
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る光ファイバレーザ装置の一例について
図1~
図10を用いて説明する。なお、図中に示す矢印Hは、装置上下方向(鉛直方向)を示し、矢印Wは、装置幅方向(水平方向)を示す。
【0017】
(全体構成)
光ファイバレーザ装置10は、
図5に示されるように、所定の波長領域の励起光を出力する励起光源20と、第1ファイバブラッググレーティング32(以下「第1FBG32」)が形成されている光ファイバ30と、希土類添加ファイバ50とを有している。さらに、光ファイバレーザ装置10は、第2ファイバブラッググレーティング82(以下「第2FBG82」)が形成されている光ファイバ80を有している。
【0018】
そして、励起光源20、光ファイバ30、希土類添加ファイバ50、及び光ファイバ80は、装置幅方向の一方側から他方側へこの順番で並んでいる。光ファイバ30は、第1ファイバの一例であって、光ファイバ80は、第2ファイバの一例の一例である。
【0019】
〔励起光源20〕
励起光源20は、例えば、半導体レーザ等であって、
図5に示されるように、光ファイバ30の一端に対向するように配置されている。そして、励起光源20は、光ファイバ30の一端に向けて、励起光を出力するようになっている。本実施形態では、励起光源20は、例えば、波長が975〔nm〕の励起光を出力するようになっている。
【0020】
〔光ファイバ30、光ファイバ80〕
-光ファイバ30-
光ファイバ30は、
図5に示されるように、一端が励起光源20と対向し、装置幅方向に延びるように直線状に配置されている。そして、光ファイバ30の一端は、励起光源20に融着されている。この光ファイバ30は、
図3(A)に示されるように、コア34と、コア34を被覆しているクラッド36と、クラッド36を被覆している樹脂クラッド38とを有している。
【0021】
クラッド36の屈折率は、コア34の屈折率よりも低くされ、樹脂クラッド38の屈折率は、クラッド36の屈折率よりも大幅に低くされている。また、コア34を構成する材料としては、ゲルマニウムやリンやアルミニウムが添加された石英が挙げられ、クラッド36を構成する材料としては、ドーパントが添加されていない石英が挙げられる。さらに、樹脂クラッド38を構成する材料としては、紫外線硬化樹脂が挙げられる。
【0022】
本実施形態では、コア34の直径が40〔μm〕とされ、クラッド36の直径が400〔μm〕とされ、樹脂クラッド38の直径が800〔μm〕とされている。
【0023】
また、光ファイバ30に形成されている第1FBG32は、
図4(A)に示されるように、回折格子40を有している。さらに、回折格子40は、光ファイバ30のコア34において、光ファイバ30の長手方向に沿って一定の間隔で配置されると共にコア34と比して屈折率が高い高屈折率部40aと、一対の高屈折率部40aの間でコア34と同じ屈折率の低屈折率部40bとを有している。なお、
図4(A)(B)の左右方向(図中矢印z)は、ファイバの長手方向を示し、上下方向(図中矢印r)は、半径方向を示す。
【0024】
本実施形態では、第1FBG32によって反射される光の反射中心波長(ブラッグ波長)は、例えば、1080〔nm〕とされている。また、第1FBG32によって99〔%〕以上の反射率で光が反射されるように、各部の寸法、及び物性値等が決められている。
【0025】
-光ファイバ80-
光ファイバ80は、
図5に示されるように、装置幅方向に延びるように直線状に配置されている。この光ファイバ80は、
図3(A)に示されるように、コア84と、コア84を被覆しているクラッド86と、クラッド86を被覆している樹脂クラッド88とを有している。
【0026】
光ファイバ80の各部材の直径は、光ファイバ30の各部材の直径と同様とされており、光ファイバ80の各部材を構成する材料は、光ファイバ30の各部材を構成する材料と同様とされている。
【0027】
また、光ファイバ80に形成されている第2FBG82は、
図4(B)に示されるように、回折格子90を有している。さらに、回折格子90は、光ファイバ80のコア84において、光ファイバ80の長手方向に沿って一定の間隔で配置されると共にコア84と比して屈折率が高い高屈折率部90aと、一対の高屈折率部90aの間でコア84と同じ屈折率の低屈折率部90bとを有している。
【0028】
本実施形態では、第2FBG82によって反射される光の反射中心波長(ブラッグ波長)は、第1FBG32と同様で、例えば、1080〔nm〕とされている。さらに、第2FBG82によって反射される光の反射率は、第1FBG32によって反射される光の反射率と比して低くされている。本実施形態では、例えば、第2FBG82によって10〔%〕の反射率で光が反射されるように、各部の寸法、及び物性値等が決められている。
【0029】
〔希土類添加ファイバ50〕
希土類添加ファイバ50は、
図5に示されるように、装置幅方向において、光ファイバ30と光ファイバ80との間に配置されている。また、希土類添加ファイバ50は、内部に応力が発生しないように大きな径でコイル状に巻かれている。
【0030】
この希土類添加ファイバ50は、
図3(B)に示されるように、希土類元素が添加されたコア54と、コア54を被覆しているクラッド56と、クラッド56を被覆している樹脂クラッド58とを有している。
【0031】
クラッド56の屈折率は、コア54の屈折率よりも低くされ、樹脂クラッド58の屈折率は、クラッド56の屈折率よりも大幅に低くされている。また、コア54を構成する材料としては、希土類元素の一例であるイッテルビウム(Yb)が添加された石英が挙げられ、クラッド56を構成する材料としては、ドーパントが添加されていない石英が挙げられる。さらに、樹脂クラッド58を構成する材料としては、紫外線硬化樹脂が挙げられる。なお、希土類元素が添加されているコア54の部分については、詳細を後述する。
【0032】
また、本実施形態では、コア54の直径が40〔μm〕とされ、クラッド56の直径が400〔μm〕とされ、樹脂クラッド58の直径が500〔μm〕とされている。さらに、希土類添加ファイバ50の長さは、9〔m〕以上とされている。
【0033】
また、希土類添加ファイバ50の一端は、アーク放電加工によって光ファイバ30の他端に融着されている(
図5参照)。具体的には、光ファイバ30のコア34及びクラッド36と、希土類添加ファイバ50のコア54及びクラッド56とが、アーク放電によって融着されている(
図3(A)、(B)参照)。
【0034】
さらに、希土類添加ファイバ50の他端は、アーク放電加工によって光ファイバ80の一端に融着されている(
図5参照)。具体的には、光ファイバ80のコア84及びクラッド86と、希土類添加ファイバ50のコア54及びクラッド56とが、アーク放電によって融着されている(
図3(A)、(B)参照)。
【0035】
(要部構成)
次に、希土類元素が添加されているコア54の部分について、
図1、
図2を用いて説明する。
図1には、希土類添加ファイバ50の長手方向に対して直交する方向に希土類添加ファイバ50を切断した断面が示されている。さらに、
図2には、希土類添加ファイバの屈折率の分布を示した屈折率分布図が示されている。
図2の上下方向(図中矢印n)は、屈折率の高低を示し、高さが高い程、屈折率が高くなっている。また、
図2の左右方向(図中矢印r)は、希土類添加ファイバ50の半径方向を示している。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0036】
希土類添加ファイバ50のコア54は、前述したように、希土類元素が添加された石英であり、コア54の直径は、40〔μm〕とされている。
【0037】
さらに、希土類元素は、
図1、
図2に示されるように、希土類元素の長手方向から見て、コア54の中心側の部分に添加されており、希土類元素が添加されている添加部分54aは、断面円状とされている。なお、添加部分54aについては、図中でドットを付して示している。
【0038】
ここで、「コア54の中心側の部分」とは、希土類添加ファイバ50の長手方向から見て、コア54の中心Cを含み、かつ、クラッド56と離間した部分である。
【0039】
そして、本実施形態では、希土類元素が添加されている添加部分54aは、コア54と同心円とされた直径20〔μm〕以上で、30〔μm〕以下の予め定められた直径Daの円柱状の部分である。換言すれば、コア54の直径をDbとすると、希土類元素が添加されている添加部分54aは、Db/2以上で、(3・Db)/4以下の予め定められた直径Daの円柱状の部分である。このように、本実施形態では、希土類元素が添加されている添加割合については、コア54の中心側の部分がコア54の縁側の部分に対して高くされている。
【0040】
そして、添加部分54aにおける希土類元素の添加割合は、0.5〔質量%〕以上で、10〔質量%〕以下の予め定められた値とされている。また、希土類元素の添加割合については、励起状態となって特定の波長の自然放出光を放出する観点から多い方が好ましく、濃度が部分的に偏らない観点から少ない方が好ましい。このため、希土類元素の添加割合については、1〔質量%〕以上で、2〔質量%〕以下が好ましい。
【0041】
なお、コア54において希土類元素が添加されている添加部分54aについては、電子プローブマイクロアナライザー (Electron Probe Micro Analyzer; EPMA)を用いて分析することで、特定することができる。
【0042】
(作用)
次に、光ファイバレーザ装置10の作用について、比較形態に係る光ファイバレーザ装置510と比較しつつ説明する。先ず、光ファイバレーザ装置510の構成について、光ファイバレーザ装置10と異なる部位を主に説明する。なお、光ファイバレーザ装置510の作用についても、光ファイバレーザ装置10と異なる部位を主に説明する。
【0043】
〔光ファイバレーザ装置510の構成〕
光ファイバレーザ装置510は、
図10に示されるように、励起光源20と、光ファイバ30と、希土類添加ファイバ550と、光ファイバ80とを有している。さらに、希土類添加ファイバ550は、装置幅方向において、光ファイバ30と光ファイバ80との間に配置されている。また、希土類添加ファイバ550は、内部に応力が発生しないように大きな径でコイル状に巻かれている。
【0044】
この希土類添加ファイバ550は、
図9(A)に示されるように、希土類元素が添加されたコア554と、コア554を被覆しているクラッド56と、クラッド56を被覆している樹脂クラッド58とを有している。コア554は、希土類元素が添加された石英であり、コア554の直径は、40〔μm〕とされている。そして、希土類元素は、コア554全体に一様に添加されている。換言すれば、希土類元素は、コア554全体に一様に分布している。なお、本実施形態では、コア554における希土類元素の添加割合は、0.5〔質量%〕以上で、10〔質量%〕以下とされている。
【0045】
〔発振モード解析〕
次に、希土類添加ファイバ50、550について、各発振モードに対する増幅度合についてシミュレーションによって解析したため、この解析について説明する。
【0046】
先ず、発振モードについて説明する。本解析における発振モードは、LP01モード、LP02モード、LP03モード、及びLP04モードの4種である。
【0047】
図7(A)(B)、
図8(A)(B)には、X軸及びY軸をコアの断面における位置を示す座標軸とし、Z軸を放射強度としたグラフが示されている。
【0048】
LP01モードとは、
図7(A)に示されるように、コアの中心で出力が最も高く、周囲に比して出力が高い極値が一箇所であるシングルモード(=単峰性)である。また、LP02モードとは、
図7(B)に示されるように、コアの中心で出力が最も高くなるが、コアの中心を囲むように、周囲に比して出力が高い極値が環状に生じるマルチモードである。
【0049】
さらに、LP03モードとは、
図8(A)に示されるように、コアの中心で出力が最も高くなるが、コアの中心を囲むように、周囲に比して出力が高い極値が二重の環状に生じるマルチモードである。LP04モードとは、
図8(B)に示されるように、コアの中心で出力が最も高くなるが、コアの中心を囲むように、周囲に比して出力が高い極値が三重の環状に生じるマルチモードである。
【0050】
-解析仕様-
1.実施例1として、希土類元素が、コア54と同心円とされた直径20〔μm〕の添加部分54aに添加されている希土類添加ファイバ50を用いた。
【0051】
2.実施例2として、希土類元素が、コア54と同心円とされた直径25〔μm〕の添加部分54aに添加されている希土類添加ファイバ50を用いた。
【0052】
3.実施例3として、希土類元素が、コア54と同心円とされた直径30〔μm〕の添加部分54aに添加されている希土類添加ファイバ50を用いた。
【0053】
4.比較例として、希土類元素が、コア554全体に一様に添加されている希土類添加ファイバ550を用いた。
【0054】
-解析結果-
図6には、横軸を発振モードとし、縦軸を発振モードの増幅度合(以下単に「増幅度合」と記載することがある)としたグラフが示されている。グラフ中の実線が、実施例1の解析結果であり、グラフ中の一点鎖線が、実施例2の解析結果であり、グラフ中の二点鎖線が、実施例3の解析結果である。また、グラフ中の破線が、比較例の解析結果である。
【0055】
比較例については、
図6のグラフに示されるように、LP01モードの増幅度合と、LP02モードの増幅度合と、LP03モードの増幅度合と、LP04モードの増幅度合とが同様となる結果が得られた。つまり、比較例では、全てのモードが同様の度合で増幅する結果が得られた。
【0056】
実施例1、2、3については、
図6のグラフに示されるように、LP01モードの増幅度合が、他の発振モードの増幅度合と比して高くなる結果が得られた。ここで、LP02モードの増幅度合に対するLP01モードの増幅度合の比を増幅比とする。そうすると、実施例1の増幅比は、1.4となり、実施例2の増幅比は、1.6となり、実施例3の増幅比は、1.2となる。比較例の増幅比は、1.0となる。
【0057】
つまり、希土類元素が添加されている部分の直径が25〔μm〕の場合の増幅比が最も高く、希土類元素が添加されている部分の直径が25〔μm〕より大きく又は小さくなると、増幅比が低くなる。すなわち、コア54の直径をDbとすると、希土類元素が添加されている部分の直径Daが、(5・Db)/8の場合の増幅比が最も高く、希土類元素が添加されている部分の直径が、(5・Db)/8より大きく又は小さくなると増幅比が低くなる。なお、コアの直径と希土類元素が添加されている部分の直径との比によって、各発振モードの増幅度合が変化するとう知見に基づき、希土類元素が添加されている部分を無次元化した。
【0058】
-解析結果に対する考察-
比較例については、前述したように、希土類元素が、コア554全体に一様に添加されている。このため、各発振モードの増幅度合が同様となると考える。
【0059】
実施例1、2,3については、前述したように、希土類元素が、コア54の中心側の部分に添加されている。このため、LP01モードの増幅度合が、他の発振モードの増幅度合と比して高くなったと考える。
【0060】
〔光ファイバレーザ装置10、510の作用〕
次に、光ファイバレーザ装置10、510の作用について説明する。
【0061】
図5、
図10に示す励起光源20が、波長が975〔nm〕の励起光を光ファイバ30の一端に向けて出力する。この励起光は、光ファイバ30のクラッド36及びコア34(
図3(A)参照)へ入力される。そして、光ファイバ30を伝搬した励起光は、希土類添加ファイバ50、550へ入力される。
【0062】
希土類添加ファイバ50、550へ入力された励起光は、希土類添加ファイバ50、550のコア54、554に添加された希土類元素に吸収される。これにより、希土類元素は励起状態となり、励起状態となった希土類元素は、特定の波長の自然放出光を放出する。そして、希土類添加ファイバ50、550のコア54、554(
図3(B)参照)を伝搬した自然放出光は、光ファイバ80へ入力される。
【0063】
さらに、光ファイバ80へ入力された自然放出光のうち第2FBG82の反射波長帯(本実施形態では、1080〔nm〕)の光は、第2FBG82によって反射される。第2FBG82によって反射された光は、再度希土類添加ファイバ50、550へ入力される。
【0064】
希土類添加ファイバ50、550に再度入力された光は、希土類元素の誘導放出により増幅される。その後、増幅された光は、再度光ファイバ30へ入力される。
【0065】
光ファイバ30へ入力された光のうち第1FBG32の反射波長帯(本実施形態では、1080〔nm〕)の光は、第1FBG32によって反射される。また、第1FBG32で反射された光は、再度希土類添加ファイバ50へ入力される。希土類添加ファイバ50に再度入力された光は、希土類元素の誘導放出により増幅される。その後、増幅された光は、光ファイバ80へ入力される。
【0066】
このように、光が第1FBG32と第2FBG82との間を往復することで、伝搬する光は、徐々に増幅される。そして、発振条件を超えた光が、第2FBG82を透過して、光ファイバレーザ装置10、510からレーザ光として出力される。
【0067】
ここで、光ファイバレーザ装置510については、希土類元素は、コア554全体に一様に添加されている。このため、前述の解析結果で説明したように、各発振モードの増幅度合が同様となっている。そこで、光が第1FBG32と第2FBG82との間を光が複数回往復しても、シングルモードのレーザ光を選択的に出力することは困難である。
【0068】
これに対して、光ファイバレーザ装置10については、希土類元素は、コア54の中心側の部分に添加されている。このため、前述の解析結果で説明したように、LP01モードの増幅度合が、他の発振モードの増幅度合と比して高くなっている。
【0069】
そこで、第1FBG32と第2FBG82との間を光が複数回往復することで、LP01モードが他の発振モードと比して増幅され、LP01モードのレーザ光が、光ファイバレーザ装置10から出力される。換言すれば、シングルモードのレーザ光が、光ファイバレーザ装置10から出力される。
【0070】
(まとめ)
以上説明したように、光ファイバレーザ装置10では、希土類元素がコア554全体に一様に添加されている光ファイバレーザ装置510を用いる場合と比して、シングルモードのレーザ光を効率良く出力することができる。
【0071】
また、換言すれば、光ファイバレーザ装置10では、希土類元素がコア554全体に一様に添加されている光ファイバレーザ装置510を用いる場合と比して、集光特性の高いレーザ光を出力することができる。
【0072】
また、光ファイバレーザ装置10では、コア54の直径をDbとすると、希土類元素が添加されている部分の直径Daは、下記式(1)を満たす。
【0073】
Db/2≦Da≦(3・Db)/4・・・・・(1)
【0074】
このため、直径Daが、(3・Db)/4より大きい場合、又は直径Daが、Db/2より小さい場合と比して、シングルモードのレーザ光を効率良く出力することができる。
【0075】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る光ファイバレーザ装置の一例について
図11~
図13を用いて説明する。なお、第2実施形態については、第1実施形態と異なる部分を主に説明する。
【0076】
第2実施形態に係る光ファイバレーザ装置210は、
図13に示されるように、励起光源20と、光ファイバ30と、希土類添加ファイバ250と、光ファイバ80とを有している。さらに、希土類添加ファイバ250は、装置幅方向において、光ファイバ30と光ファイバ80との間に配置されている。また、希土類添加ファイバ250は、内部に応力が発生しないように大きな径でコイル状に巻かれている。
【0077】
この希土類添加ファイバ250は、
図11(A)に示されるように、希土類元素が添加されたコア254と、コア254を被覆しているクラッド56と、クラッド56を被覆している樹脂クラッド58とを有している。
【0078】
コア254は、前述したように、希土類元素が添加された石英であり、コア254の直径は、40〔μm〕とされている。具体的には、希土類元素は、
図11(B)、
図12に示されるように、コア254の中心側の部分に添加されており、希土類元素が添加されている添加部分254aは、断面円状とされている。具体的には、希土類元素が添加されている添加部分54aは、コア54と同心円とされた直径20〔μm〕以上で、30〔μm〕以下の予め定められた直径Daの円柱状の部分である。
【0079】
さらに、コア254の縁側の部分で、かつ、添加部分54aとは異なる部分には、励起光を吸収せずに出力される波長帯の光を吸収する吸収部254bが形成されている。吸収部254bは、全周に亘って形成されており、励起光の波長が975〔nm〕で、希土類元素としてイッテルビウム(Yb)が用いられている場合には、一例として、サマリウム(Sm)が石英に添加されている円筒状の部分であり、他の部分と比して、出力される波長帯の光を20〔%〕程度吸収するようになっている。
【0080】
このように、コア254の縁側の部分に、出力される波長帯の光を吸収する吸収部254bが形成させることで、コア254の縁側の部分から出力される光の放射強度が弱くなる。このため、吸収部254bが形成されていない場合と比して、シングルモードのレーザ光を効率良く出力することができる。
【0081】
他の第2実施形態の作用は、第1実施形態の作用と同一である。
【0082】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記第1、第2実施形態では、希土類元素は、コア54、254の中心側の部分に添加され、コア54、254の縁側の部分には、希土類元素が添加されなかったが、コアの縁側の部分に、希土類元素が添加されてもよい。希土類元素が添加されている添加割合について、コア54の中心側の部分がコア54の縁側の部分に対して高ければよい。
【0083】
また、上記第1、第2実施形態では、希土類元素が添加されている添加部分54a、254aは、断面円状とされたが、断面矩形等の他の形状であってもよい。添加部分54a、254aが、クラッド56と離間していればよい。しかし、この場合には、添加部分54a、254aが、断面円状であることで奏する作用は奏しない。
【0084】
また、上記第1、第2実施形態では、希土類添加ファイバ50、250のコア54、254に、イッテルビウム(Yb)、が添加されたが、例えば、励起光源20として、400〔mm〕帯の波長を有する窒化ガリウム(GaN)の半導体レーザの等を用いる場合には、エルビウム(Er)、ジスプロシウム(Dy)又はツリウム(Tm)を希土類元素として用いてもよい。
【0085】
また、上記第2実施形態では、吸収部254bには、一例としてサマリウム(Sm)が添加されたが、吸収するレーザ光の波長によっては、ユウロピウム(Eu)等を添加してもよい。
【0086】
また、上記第1実施形態では、特に説明しなかったが、
図14に示されるように、添加部分54aの屈折率が、コア54において添加部分54aを除く部分の屈折率と比して高くてもよく、
図15に示されるように、低くてもよい。
【0087】
また、上記第1実施形態では、特に説明しなかったが、
図16に示されるように、添加部分54aの屈折率が、コア54において添加部分54aを除く部分の屈折率と比して低くてもよい。さらに、コア54の中心で、直径1〔μm〕以上で、2〔μm〕以下の円柱状の中心部分54cについては、希土類元素が添加されておらず、添加部分54aと比して屈折率が高くなっている。また、中心部分54cについては、コア54において希土類元素が添加されていない部分と比して屈折率が高くてもよい。希土類元素が添加されている添加割合について、コア54の中心側の部分がコア54の縁側の部分に対して高ければよい。
【符号の説明】
【0088】
10 光ファイバレーザ装置
30 光ファイバ(第1ファイバの一例)
50 希土類添加ファイバ
54 コア
54a 添加部分
80 光ファイバ(第2ファイバの一例)
82 第2FBG
210 光ファイバレーザ装置
250 希土類添加ファイバ
254 コア
254a 添加部分
254b 吸収部