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特許7136557温度検知材料、及びそれを用いた温度逸脱時間の推定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】温度検知材料、及びそれを用いた温度逸脱時間の推定システム
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/16 20210101AFI20220906BHJP
   G01K 11/12 20210101ALI20220906BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20220906BHJP
   C09D 11/50 20140101ALI20220906BHJP
【FI】
G01K11/16
G01K11/12 B
C09K9/02 C
C09D11/50
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017244633
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2019113323
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】會田 航平
(72)【発明者】
【氏名】森 俊介
(72)【発明者】
【氏名】坪内 繁貴
(72)【発明者】
【氏名】武田 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】川崎 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 康太郎
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0247900(US,A1)
【文献】特開2000-131152(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203851(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/203850(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038292(WO,A1)
【文献】特許第3176018(JP,B2)
【文献】特許第5366044(JP,B2)
【文献】特許第6896408(JP,B2)
【文献】特許第3578391(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K11
C09K9
C09D11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化により色変化する示温材が分散媒に分散した構造を有する温度検知材料であって、
前記示温材は、所定温度以上または所定温度以下で顕色を開始するとともに、温度に依存して色変化速度が変化し、
前記示温材の平均粒子径が観察時の分解能以下であって、
前記温度検知材料における前記示温材の体積分率は10%以上76%未満であることを特徴とする温度検知材料。
【請求項2】
請求項1に記載の温度検知材料であって、
前記示温材の平均粒子径は20μm以下であることを特徴とする温度検知材料。
【請求項3】
請求項2に記載の温度検知材料であって、
前記示温材がマイクロカプセルに内包された構造、又は前記示温材がマトリックス材料中に分散した相分離構造を有することを特徴とする温度検知材料。
【請求項4】
請求項3に記載の温度検知材料であって、
前記マトリックス材料は、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン、ポリスチレン、テルペン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンオイルのいずれかであることを特徴とする温度検知材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の温度検知材料であって、
前記示温材の平均粒子径が5μm以下であることを特徴とする温度検知材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の温度検知材料であって、
前記示温材が前記温度検知材料において占める体積分率が10%以上50%以下であることを特徴とする温度検知材料。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の温度検知材料であって、
前記示温材は、所定温度以上で顕色を開始する場合には、昇温過程において所定温度で顕色を開始し、顕色した状態から融解させることにより消色する材料であることを特徴とする温度検知材料。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の温度検知材料であって、
前記示温材は、所定温度以下で顕色を開始する場合には、降温過程において所定温度で顕色を開始し、顕色した状態から加熱により融解させることで消色する材料であることを特徴とする温度検知材料。
【請求項9】
物品に添付された請求項7または8に記載の温度検知材料の色情報を取
得する読取装置と、
前記温度検知材料の温度毎の時間と色濃度の関係を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された前記温度検知材料の温度毎の時間と色濃度の関係と、前記読取装置により取得された色濃度情報と、から、前記所定温度以上又は以下となってから経過した時間を推定する処理装置と、を備えることを特徴とする温度逸脱時間の推定システム。
【請求項10】
請求項に記載の温度逸脱時間の推定システムであって、
前記処理装置は、さらに複数の温度検知材料の色濃度を用いて、前記経過した時間を推定することを特徴とする温度逸脱時間の推定システム。
【請求項11】
請求項又は10に記載の温度逸脱時間の推定システムであって、
前記処理装置は、さらに温度情報を用いて、前記経過した時間を推定することを特徴とする温度逸脱時間の推定システム。
【請求項12】
請求項乃至11のいずれか一項に記載の温度逸脱時間の推定システムであって、前記読取装置は、画像から色情報を算出し取得する装置、または対象物に投光された光の反射量若しくは吸収量から色情報を算出して取得する装置であることを特徴とする温度逸脱時間の推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度検知材料、及びそれを用いた温度逸脱時間の推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮食品、冷凍食品や、ワクチン、バイオ医薬品等の低温保存医薬品は、生産、輸送、消費の流通過程の中で、途切れることなく低温に保つコールドチェーンが必要である。流通時の温度を絶えず測定・記録するため、通常、運送コンテナには時間と温度を連続的に記録可能なデータロガーを搭載した場合が多く、製品にダメージがあればその責任の所在を明らかにすることが可能である。一方、データロガーはその価格およびサイズから製品の個別管理には不向きである。
【0003】
製品個別の品質を管理する場合は、データロガーではなく温、比較的安価な温度インジケータを利用する方法がある。温度インジケータはデータロガーほどの記録精度はないものの、製品個別に貼付け可能であり、あらかじめ設定された温度を上回るか、下回るかした場合に表面が染色されるため、温度環境の変化を知ることが可能である。
【0004】
しかしながら、温度インジケータは不可逆的に色が変化するという性質があるため、製品管理に使用する前の温度管理が必要になる。また、再利用ができないことが課題となっている。
【0005】
製品個別への温度インジケータの貼付を想定した場合、医薬品など高価な製品の管理には、偽造防止というニーズがあり、温度逸脱した後のインジケータにおいて完全な不可逆性が求められる。しかしながら、生鮮食品などの安価な製品の管理では、コスト面から、使用温度範囲で不可逆であれば十分であり、完全な不可逆性以上に、温度インジケータの再利用や、常温での輸送、常温での保管にニーズがある。そのため、ある簡便な手法で色の初期化ができる温度インジケータが求められている。
【0006】
また、生鮮食品やバイオ医薬品など、温度と時間に依存して品質が劣化する製品を管理する場合は、時間と温度の積算で色が変化する時間温度インジケータ(Time-Temperature Indicator)が利用される。このような時間温度インジケータとしては、例えば、温度により粘性が変化するインクが浸透材中を浸透することで色を変化させるものなどが挙げられる。しかしながら、この時間温度インジケータの場合、インク単体では時間温度インジケータとしての機能を果たさないため、インジケータの構造が複雑になり低価格化が難しいという課題がある。さらに、再利用ができないという課題がある。
【0007】
色の初期化が可能な温度検知インクとして、特許文献1には、比較的低温の加熱により、消色状態から発色状態となり、その後の冷却によっても発色状態を維持ができ、加熱により消色状態を経て再び発色状態に復帰し得る変色挙動を示す可逆熱変色性組成物を内包する可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が開示されている。
【0008】
特許文献2には、温度により発色の濃度が異なり、環境温度下では不可逆性で、結晶-非結晶又は相分離-非相分離で色が変化する示温部材が開示されている。この示温部材の発色時の色が吸収する波長の光を照射してその反射光強度又は透過光強度を検知することにより温度管理を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-106005号公報
【文献】特開2001-091368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した通り、簡便な手法で色の初期化が可能であり、時間と温度の積算で色が変化し、所定の温度範囲内では色の変化が不可逆的である温度検知材料が求められている。
【0011】
特許文献1に開示された可逆熱発色性マイクロカプセル顔料は、時間と温度の積算による色の変化は考慮されていない。
【0012】
特許文献2に開示された温度管理部材は、時間と温度の積算による色変化の再現性について十分に検討されていない。特に、結晶化により色変化する材料の場合、色変化の再現性を検討する必要がある。結晶化は、結晶核が生成されることで生じる現象であり、材料ごとに異なる結晶核生成頻度に従いランダムに発生する現象であるためである。また、結晶化は、不純物の存在や容器の壁面などの界面の影響を強く受ける。一箇所で結晶核が生成され結晶化が始まると、その核の影響を受け、周囲に結晶化が伝播する。そのため、結晶化が速まってしまう。
【0013】
温度検知材料において、色変化から逸脱時間を検知するためには、検知材料の色が時間に対して常に一定の関係性を有して変化する必要がある。これに対し、結晶化で色が変化する示温材は、ランダムで色が変わるため、時間検知の精度が低くなってしまう。さらに、一度一箇所で結晶化が始まると、急峻に結晶化が進行するため、急峻に色変化が完了してしまう。そのため、色変化の度合いから経過時間を見積もることが困難である。
【0014】
そこで、本発明は、所定温度以上又は以下において、色濃度が時間に対して連続的に変化する温度検知材料、及びそれを用いた温度逸脱時間推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係る温度検知材料は、結晶化により色変化する示温材が分散媒に分散した構造を有する温度検知材料であって、示温材は、所定温度以上または所定温度以下で顕色を開始するとともに、温度に依存して色変化速度が変化し、示温材の平均粒子径が観察時の分解能以下であって、温度検知材料における示温材の体積分率が5%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定温度以上又は以下において、色濃度が時間に対して連続的に変化する温度検知材料、及びそれを用いた温度逸脱時間推定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る示温材の示差走査熱量測定曲線を示す図である。
図2】一実施形態に係る示温材の色濃度変化を示す図である。
図3】一実施形態に係る温度検知材料を模式的に示す図である。
図4】一実施形態に係る相分離構造体の光学顕微鏡写真である。
図5】温度インジケータの構成を示す模式図である。
図6】温度インジケータの構成を示す模式図である。
図7】温度検知材料の色濃度‐時間情報の一例を示す図である。
図8】逸脱時間推定システムの構成図である。
図9】物品管理システムの構成図である。
図10】実施例1、2、比較例1、2の温度検知材料における温度逸脱からの経過時間と色濃度を示す写真である。
図11】実施例3、4、比較例3の温度インジケータにおける温度逸脱からの経過時間と色濃度を示す写真である。
図12】実施例1~4、比較例1~3の温度検知材料の色濃度の時間依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0019】
本発明の一実施形態に係る温度検知材料は、結晶化により色変化する示温材が分散媒に分散した構造を有する。
【0020】
<示温材>
示温材としては、温度変化(昇温/降温)により色濃度が可逆的に変化する材料を用いる。示温材は、電子供与性化合物であるロイコ染料と、電子受容性化合物である顕色剤と、変色の温度範囲を制御するための消色剤と、を含む。
【0021】
図1は、一実施形態に係る示温材の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。なお、示温材Aは、融解後に急冷すると結晶化せずに非晶状態のまま凝固する材料、示温材Bは融解後に冷却すると過冷却状態の液体状態となる材料である。
【0022】
図1(a)は、示温材AのDSC曲線である。降温過程(図の左向き矢印(←))において、結晶化が起こらないため、結晶化による発熱ピークが観察されない。一方、昇温過程(図の右向き矢印(→))において、結晶化による発熱ピークが観察される。Tは昇温過程における開始温度(昇温過程における結晶化開始温度)である。Tは融点である。
【0023】
開始温度は、昇温速度や経過時間に依存する。低速で昇温すると低温に開始温度が現れ、高速で昇温すると高温に開始温度が現れるか、あるいは開始温度が現れず融点Tで融解する。結晶化が起こると顕色する。検知温度と検知時間の要求に合わせて、結晶化開始温度を設定すればよい。例えば、ある温度で1時間経過した後に結晶化が開始する示温材であれば、その温度を開始温度とし、開始温度で1時間経過したことを検知する材料として使用可能である。また、Tはガラス転移点である。ガラス転移点以下では、結晶化が開始されない。結晶化しやすい材料の場合、ガラス転移点以上の温度になると容易に結晶化するため、開始温度とガラス転移点が同じ温度になることが多い。
【0024】
図1(b)は、示温材BのDSC曲線を示す。Tは降温過程における結晶化による発熱ピークの開始温度(降温過程における結晶化開始温度)である。Tは融点である。開始温度は、降温速度や経過時間に依存する。低速で降温すると高温に開始温度が現れ、高速で降温すると低温に開始温度が現れる。結晶化が起こると顕色するため、温度検知材料としての、検知温度と検知時間の要求に合わせて、開始温度を設定する。例えば、ある温度で1時間経過した後に結晶化が開始する示温材であれば、その温度を開始温度とし、開始温度で1時間経過したことを検知する材料として使用可能である。また、過冷却状態になりにくい材料の場合、融点以下の温度になると容易に結晶化するため、開始温度と融点が同じ温度になる。このような材料は示温材として用いることができない。すなわち、過冷却状態になりやすく、結晶化開始温度と融点の差が大きい材料が好ましい。
【0025】
図2は、示温材の色濃度変化を示す図である。図2の各図において、縦軸は色濃度、横軸は温度である。
【0026】
図2(a)は、示温材Aの色濃度と温度の関係を示す図である。示温材Aは、色濃度変化にヒステリシス特性を有する。示温材Aは、消色剤に結晶化しにくい材料を用いると、示温材Aの消色開始温度T以上の溶融状態であるPから顕色開始温度T以下に急冷させた際、消色剤が顕色剤を取りこんだまま非晶状態を形成して消色状態を保持する。この状態から、昇温過程で、顕色開始温度T以上に温度を上げると、消色剤が結晶化して顕色する。したがって、示温材Aを含む温度検知材料を用いれば、顕色開始温度T未満で温度管理するときに、管理範囲を逸脱し、T以上の温度に達したか否かを検知することができる。
【0027】
図2(b)は、示温材Bの色濃度と温度の関係を示す図である。示温材Bは、色濃度変化にヒステリシス特性を有する。示温材Bは、消色温度T以上の溶融状態であるPの状態から温度が低下していくと、顕色温度Tまでは消色状態を維持している。顕色温度T以下になると、消色剤が凝固点以下で結晶状態になり、ロイコ染料と顕色剤と分離されることで、ロイコ染料と顕色剤が結合し顕色する。したがって、示温材Bを含む温度検知材料を用いれば、顕色開始温度Tより高い温度に温度管理するときに、管理範囲を逸脱し、T以下の温度に達したか否かを検知することができる。
【0028】
温度検知材料を、商品等の物品の流通時における物品の温度管理に利用する場合は、色戻りしないことが要求される。流通時に一度温度が上昇し、色が変化したとしても、流通過程で再び温度が降下又は上昇し、色が元に戻ってしまうと、温度の変化の有無を把握することができないためである。しかしながら、本実施形態に係る示温材は、消色温度T以上に加熱しない限り色戻りしないため、温度環境の変化を知ることが可能である。
【0029】
次に、各示温材のロイコ染料、顕色剤、消色剤について説明する。
【0030】
(ロイコ染料)
ロイコ染料は、電子供与性化合物であって、従来、感圧複写紙用の染料や、感熱記録紙用染料として公知のものを利用できる。例えば、トリフェニルメタンフタリド系、フルオラン系、フェノチアジン系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系、スピロピラン系、ローダミンラクタム系、トリフェニルメタン系、トリアゼン系、スピロフタランキサンテン系、ナフトラクタム系、アゾメチン系等が挙げられる。ロイコ染料の具体例としては、9-(N-エチル-N-イソペンチルアミノ)スピロ[ベンゾ[a]キサンテン-12,3’-フタリド]、2-メチル-6-(Np-トリル-N-エチルアミノ)-フルオラン6-(ジエチルアミノ)-2-[(3-トリフルオロメチル)アニリノ]キサンテン-9-スピロ-3’-フタリド、3,3-ビス(p-ジエチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、2’-アニリノ-6’-(ジブチルアミノ)-3’-メチルスピロ[フタリド-3,9’-キサンテン]、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1-エチル-8-[N-エチル-N-(4-メチルフェニル)アミノ]-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロスピロ[11H-クロメノ[2,3-g]キノリン-11,3’-フタリド]が挙げられる。
【0031】
示温材は、2種以上のロイコ染料を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
(顕色剤)
顕色剤は、電子供与性のロイコ染料と接触することで、ロイコ染料の構造を変化させて呈色させるものである。顕色剤としては、感熱記録紙や感圧複写紙等に用いられる顕色剤として公知のものを利用できる。このような顕色剤の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2′-ビフェノール、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、パラオキシ安息香酸エステル、没食子酸エステル等のフェノール類等を挙げることができる。顕色剤は、これらに限定されるものではなく、電子受容体でありロイコ染料を変色させることができる化合物であればよい。また、カルボン酸誘導体の金属塩、サリチル酸およびサリチル酸金属塩、スルホン酸類、スルホン酸塩類、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル類、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類等を用いてもよい。特に、ロイコ染料や後述する消色剤に対する相溶性が高いものが好ましく、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2′-ビスフェノール、ビスフェノールA、没食子酸エステル類等の有機系顕色剤が好ましい。
【0033】
示温材は、これらの顕色剤を1種、または、2種類以上組み合わせてもよい。顕色剤を組合せることによりロイコ染料の呈色時の色濃度を調整可能である。顕色剤の使用量は所望される色濃度に応じて選択する。例えば、通常前記したロイコ色素1重量部に対して、0.1~100重量部程度の範囲内で選択すればよい。
【0034】
(消色剤)
消色剤は、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能な化合物であり、ロイコ染料と顕色剤との呈色温度を制御できる化合物である。一般的に、ロイコ染料が呈色した状態の温度範囲では、消色剤が相分離した状態で固化している。また、ロイコ染料が消色状態となる温度範囲では、消色剤は融解しており、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させる機能が発揮された状態である。そのため、消色剤の状態変化温度が示温材の温度制御に対して重要になる。
【0035】
消色剤としては、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能である材料を幅広く用いることができる。極性が低くロイコ染料に対して顕色性を示さず、ロイコ染料と顕色剤を溶解させる程度に極性が高ければ、様々な材料が消色剤になり得る。代表的には、ヒドロキシ化合物、エステル化合物、ペルオキシ化合物、カルボニル化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ハロゲン化合物、アミノ化合物、イミノ化合物、N-オキシド化合物、ヒドロキシアミン化合物、ニトロ化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、アジ化合物、エーテル化合物、油脂化合物、糖化合物、ペプチド化合物、核酸化合物、アルカロイド化合物、ステロイド化合物など、多様な有機化合物を用いることができる。具体的には、トリカプリン、ミリスチン酸イソプロピル、酢酸 m-トリル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、1、4-ジアセトキシブタン、デカン酸デシル、フェニルマロン酸ジエチル、フタル酸ジイソブチル、くえん酸トリエチル、フタル酸ベンジルブチル、ブチルフタリルブチルグリコラート、N-メチルアントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、サリチル酸2-ヒドロキシエチル、ニコチン酸メチル、4-アミノ安息香酸ブチル、p-トルイル酸メチル、4-ニトロ安息香酸エチル、フェニル酢酸2-フェニルエチル、けい皮酸ベンジル、アセト酢酸メチル、酢酸ゲラニル、こはく酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、オキサル酢酸ジエチル、モノオレイン、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸エチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、酢酸リナリル、フタル酸ジ-n-オクチル、安息香酸ベンジル、ジエチレングリコールジベンゾアート、p-アニス酸メチル、酢酸 m-トリル、けい皮酸シンナミル、プロピオン酸2-フェニルエチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸メチル、アントラニル酸メチル、酢酸ネリル、パルミチン酸イソプロピル、4-フルオロ安息香酸エチル、シクランデラート (異性体混合物)、ブトピロノキシル、2-ブロモプロピオン酸エチル、トリカプリリン、レブリン酸エチル、パルミチン酸ヘキサデシル、酢酸 tert-ブチル、1、1-エタンジオールジアセタート、しゅう酸ジメチル、トリステアリン 、アセチルサリチル酸メチル、ベンザルジアセタート、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2、3-ジブロモ酪酸エチル、2-フランカルボン酸エチル、アセトピルビン酸エチル、バニリン酸エチル、イタコン酸ジメチル、3-ブロモ安息香酸メチル、アジピン酸モノエチル、アジピン酸ジメチル、1、4-ジアセトキシブタン、ジエチレングリコールジアセタート、パルミチン酸エチル、テレフタル酸ジエチル、プロピオン酸フェニル、ステアリン酸フェニル、酢酸1-ナフチル、ベヘン酸メチル、アラキジン酸メチル、4-クロロ安息香酸メチル、ソルビン酸メチル、イソニコチン酸エチル、ドデカン二酸ジメチル、ヘプタデカン酸メチル、α-シアノけい皮酸エチル、N-フェニルグリシンエチル、イタコン酸ジエチル、ピコリン酸メチル、イソニコチン酸メチル、DL-マンデル酸メチル、3-アミノ安息香酸メチル、4-メチルサリチル酸メチル、ベンジリデンマロン酸ジエチル、DL-マンデル酸イソアミル、メタントリカルボン酸トリエチル、ホルムアミノマロン酸ジエチル、1、2-ビス(クロロアセトキシ)エタン、ペンタデカン酸メチル、アラキジン酸エチル、6-ブロモヘキサン酸エチル、ピメリン酸モノエチル、乳酸ヘキサデシル、ベンジル酸エチル、メフェンピル-ジエチル、プロカイン、フタル酸ジシクロヘキシル、サリチル酸4-tert-ブチルフェニル、4-アミノ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、トリパルミチン、1、2-ジアセトキシベンゼン、イソフタル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、バニリン酸メチル、3-アミノ-2-チオフェンカルボン酸メチル、エトミデート、クロキントセット-メキシル、ベンジル酸メチル、フタル酸ジフェニル、安息香酸フェニル、4-アミノ安息香酸プロピル、エチレングリコールジベンゾアート、トリアセチン、ペンタフルオロプロピオン酸エチル、3-ニトロ安息香酸メチル、酢酸4-ニトロフェニル、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチル、くえん酸トリメチル、3-ヒドロキシ安息香酸エチル、3-ヒドロキシ安息香酸メチル、トリメブチン、酢酸4-メトキシベンジル、ペンタエリトリトールテトラアセタート、4-ブロモ安息香酸メチル、1-ナフタレン酢酸エチル、5-ニトロ-2-フルアルデヒドジアセタート、4-アミノ安息香酸エチル、プロピルパラベン、1、2、4-トリアセトキシベンゼン、4-ニトロ安息香酸メチル、アセトアミドマロン酸ジエチル、バレタマートブロミド、安息香酸2-ナフチル、フマル酸ジメチル、アジフェニン塩酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、酪酸ビニル、ビタミンK4、4-ヨード安息香酸メチル、3、3-ジメチルアクリル酸メチル、没食子酸プロピル、1、4-ジアセトキシベンゼン、メソしゅう酸ジエチル、1、4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル (cis-、 trans-混合物)、1、1、2-エタントリカルボン酸トリエチル、ヘキサフルオログルタル酸ジメチル、安息香酸アミル、3-ブロモ安息香酸エチル、5-ブロモ-2-クロロ安息香酸エチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、アリルマロン酸ジエチル、ブロモマロン酸ジエチル、エトキシメチレンマロン酸ジエチル、エチルマロン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジエチル、1、3-アセトンジカルボン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、3-アミノ安息香酸エチル、安息香酸エチル、4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル、ニコチン酸エチル、フェニルプロピオル酸エチル、ピリジン-2-カルボン酸エチル、2-ピリジル酢酸エチル、3-ピリジル酢酸エチル、安息香酸メチル、フェニル酢酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸アミル、2、5-ジアセトキシトルエン、4-オキサゾールカルボン酸エチル、1、3、5-シクロヘキサントリカルボン酸トリメチル (cis-、 trans-混合物)、3-(クロロスルホニル)-2-チオフェンカルボン酸メチル、ペンタエリトリトールジステアラート、ラウリン酸ベンジル、アセチレンジカルボン酸ジエチル、メタクリル酸フェニル、酢酸ベンジル、グルタル酸ジメチル、2-オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル、フェニルシアノ酢酸エチル、1-ピペラジンカルボン酸エチル、ベンゾイルぎ酸メチル、フェニル酢酸メチル、酢酸フェニル、こはく酸ジエチル、トリブチリン、メチルマロン酸ジエチル、しゅう酸ジメチル、1、1-シクロプロパンジカルボン酸ジエチル、マロン酸ジベンジル、4-tert-ブチル安息香酸メチル、2-オキソシクロペンタンカルボン酸エチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、4-メトキシフェニル酢酸エチル、4-フルオロベンゾイル酢酸メチル、マレイン酸ジメチル、テレフタルアルデヒド酸メチル、4-ブロモ安息香酸エチル、2-ブロモ安息香酸メチル、2-ヨード安息香酸メチル、3-ヨード安息香酸エチル、3-フランカルボン酸エチル、フタル酸ジアリル、ブロモ酢酸ベンジル、ブロモマロン酸ジメチル、m-トルイル酸メチル、1、3-アセトンジカルボン酸ジエチル、フェニルプロピオル酸メチル、酪酸1-ナフチル、o-トルイル酸エチル、2-オキソシクロペンタンカルボン酸メチル、安息香酸イソブチル、3-フェニルプロピオン酸エチル、マロン酸ジ-tert-ブチル、セバシン酸ジブチル、アジピン酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、1、1-エタンジオールジアセタート、アジピン酸ジイソプロピル 、フマル酸ジイソプロピル、けい皮酸エチル、2-シアノ-3、3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジアクリラート、トリオレイン 、ベンゾイル酢酸エチル、p-アニス酸エチル、スベリン酸ジエチル、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレート、ステアリン酸アミド、モノステアリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、3-(tert-ブトキシカルボニル)フェニルボロン酸、ラセカドトリル、4-[(6-アクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]-4’-シアノビフェニル、2-(ジメチルアミノ)ビニル3-ピリジルケトン、アクリル酸ステアリル、4-ブロモフェニル酢酸エチル、フタル酸ジベンジル、3、5-ジメトキシ安息香酸メチル、酢酸オイゲノール、3、3’-チオジプロピオン酸ジドデシル、酢酸バニリン、炭酸ジフェニル、オキサニル酸エチル、テレフタルアルデヒド酸メチル、4-ニトロフタル酸ジメチル、(4-ニトロベンゾイル)酢酸エチル、ニトロテレフタル酸ジメチル、2-メトキシ-5-(メチルスルホニル)安息香酸メチル、3-メチル-4-ニトロ安息香酸メチル、2、3-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、4’-アセトキシアセトフェノン、trans-3-ベンゾイルアクリル酸エチル、クマリン-3-カルボン酸エチル、BAPTA テトラエチルエステル、2、6-ジメトキシ安息香酸メチル、イミノジカルボン酸ジ-tert-ブチル、p-ベンジルオキシ安息香酸ベンジル、3、4、5-トリメトキシ安息香酸メチル、3-アミノ-4-メトキシ安息香酸メチル、ジステアリン酸ジエチレングリコール、3、3’-チオジプロピオン酸ジテトラデシル、4-ニトロフェニル酢酸エチル、4-クロロ-3-ニトロ安息香酸メチル、1、4-ジプロピオニルオキシベンゼン、テレフタル酸ジメチル、4-ニトロけい皮酸エチル、5-ニトロイソフタル酸ジメチル、1、3、5-ベンゼントリカルボン酸トリエチル、N-(4-アミノベンゾイル)-L-グルタミン酸ジエチル、酢酸2-メチル-1-ナフチル、7-アセトキシ-4-メチルクマリン、4-アミノ-2-メトキシ安息香酸メチル、4、4’-ジアセトキシビフェニル、5-アミノイソフタル酸ジメチル、1、4-ジヒドロ-2、6-ジメチル-3、5-ピリジンジカルボン酸ジエチル、4、4’-ビフェニルジカルボン酸ジメチル、オクタン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ノナン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、デカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ウンデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ドデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、トリデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、テトラデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ペンタデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ヘキサデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、ヘプタデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、オクタデカン酸-4-ベンジルオキシフェニルエチル、オクタン酸1、1-ジフェニルメチル、ノナン酸1、1-ジフェニルメチル、デカン酸1、1-ジフェニルメチル、ウンデカン酸1、1-ジフェニルメチル、ドデカン酸1、1-ジフェニルメチル、トリデカン酸1、1-ジフェニルメチル、テトラデカン酸1、1-ジフェニルメチル、ペンタデカン酸1、1-ジフェニルメチル、ヘキサデカン酸1、1-ジフェニルメチル、ヘプタデカン酸1、1-ジフェニルメチル、オクタデカン酸1、1-ジフェニルメチルなどのエステル化合物や、コレステロール、コレステリルブロミド、β-エストラジオール、メチルアンドロステンジオール、プレグネノロン、安息香酸コレステロール、酢酸コレステロール、リノール酸コレステロール、パルミチン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール、n-オクタン酸コレステロール、オレイン酸コレステロール、3-クロロコレステン、trans-けい皮酸コレステロール、デカン酸コレステロール、ヒドロけい皮酸コレステロール、ラウリン酸コレステロール、酪酸コレステロール、ぎ酸コレステロール、ヘプタン酸コレステロール、ヘキサン酸コレステロール、こはく酸水素コレステロール、ミリスチン酸コレステロール、プロピオン酸コレステロール、吉草酸コレステロール、フタル酸水素コレステロール、フェニル酢酸コレステロール、クロロぎ酸コレステロール、2、4-ジクロロ安息香酸コレステロール、ペ
ラルゴン酸コレステロール、コレステロールノニルカルボナート、コレステロールヘプチルカルボナート、コレステロールオレイルカルボナート、コレステロールメチルカルボナート、コレステロールエチルカルボナート、コレステロールイソプロピルカルボナート、コレステロールブチルカルボナート、コレステロールイソブチルカルボナート、コレステロールアミルカルボナート、コレステロール n-オクチルカルボナート、コレステロールヘキシルカルボナート、アリルエストレノール、アルトレノゲスト、9(10)-デヒドロナンドロロン、エストロン、エチニルエストラジオール、エストリオール、安息香酸エストラジオール、β-エストラジオール17-シピオナート、17-吉草酸β-エストラジオール、α-エストラジオール、17-ヘプタン酸β-エストラジオール、ゲストリノン、メストラノール、2-メトキシ-β-エストラジオール、ナンドロロン、(-)-ノルゲストレル、キネストロール、トレンボロン、チボロン、スタノロン、アンドロステロン、アビラテロン、酢酸アビラテロン、デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロンアセタート、エチステロン、エピアンドロステロン、17β-ヒドロキシ-17-メチルアンドロスタ-1、4-ジエン-3-オン、メチルアンドロステンジオール、メチルテストステロン、Δ9(11)-メチルテストステロン、1α-メチルアンドロスタン-17β-オール-3-オン、17α-メチルアンドロスタン-17β-オール-3-オン、スタノゾロール、テストステロン、プロピオン酸テストステロン、アルトレノゲスト、16-デヒドロプレグネノロンアセタート、酢酸16、17-エポキシプレグネノロン、11α-ヒドロキシプロゲステロン、17α-ヒドロキシプロゲステロンカプロアート、17α-ヒドロキシプロゲステロン、酢酸プレグネノロン、17α-ヒドロキシプロゲステロンアセタート、酢酸メゲストロール、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸プレグネノロン、5β-プレグナン-3α、20α-ジオール、ブデソニド、コルチコステロン、酢酸コルチゾン、コルチゾン、コルテキソロン、デオキシコルチコステロンアセタート、デフラザコート、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、17-酪酸ヒドロコルチゾン、6α-メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、酢酸プレドニゾロン、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、コール酸メチル、ヒオデオキシコール酸メチル、β-コレスタノール、コレステロール-5α、6α-エポキシド、ジオスゲニン、エルゴステロール、β-シトステロール、スチグマステロール、β-シトステロールアセタートなどのステロイド化合物などが挙げられる。ロイコ染料および顕色剤との相溶性の観点から、これらの化合物を含むことが好ましい。勿論、これらの化合物に限定されるものではなく、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能である材料であれば何でもよい。
【0036】
また、これらの消色剤を1種、または2種類以上組み合わせてもよい。消色剤を組合せることにより、凝固点、結晶化速度、融点の調整が可能である。
【0037】
示温材Aに用いる消色剤としては、消色剤が融解している温度から、急冷過程において結晶化せず、ガラス転移点近傍で非晶化する必要がある。そのため、結晶化しにくい材料が好ましい。急冷速度を非常に速くすればほとんどの材料で非晶状態を形成するが、実用性を考慮すると、汎用的な冷却装置による急冷で非晶状態を形成する程度に結晶化しにくい方が好ましい。融点以上の融解状態から自然に冷却する過程で非晶状態を形成する程度に結晶化しにくい材料がさらに好ましい。具体的には、1℃/分以上の速度で融点からガラス転移点まで冷却したときに非晶状態を形成する消色剤が好ましく、20℃/分以上の速度で融点からガラス転移点まで冷却したときに非晶状態を形成する消色剤がさらに好ましい。
【0038】
示温材Bに用いる消色剤としては、過冷却状態の温度範囲が広いこと、すなわち消色剤の凝固点と融点の温度差が大きいことが望ましい。また、融点または凝固点の温度は、対象とする温度管理範囲に依存する。
【0039】
色を初期化するためには、示温材の消色剤の融点以上に温度を上げる必要がある。色の初期化温度としては、管理温度付近では起こりづらい程度に高温である必要があるが、実用性を考慮すると、汎用的な加熱装置により加熱可能な温度域であることが望ましい。また温度検知材料としては、示温材を分散するためにマイクロカプセルやマトリックス材料を用いるため、これらの耐熱性も考慮する必要がある。具体的には、40℃~250℃程度が好ましく、60℃~150℃程度が最も好ましい。
【0040】
示温材には、少なくとも上記のロイコ染料、顕色剤、消色剤を含む。ただし、顕色作用および消色作用を1分子中に含む材料を含む場合、顕色剤および消色剤は無くてもよい。また、結晶化により色が変わる性能が保持されれば、ロイコ染料、顕色剤、消色剤以外の材料を含むこともできる。例えば、顔料を含むことで、消色時、顕色時の色を変更することが可能である。
【0041】
<温度検知材料>
上記の示温材Aは、開始温度T以上になると温度に依存して色変化速度が変化する材料であり、示温材Bは、開始温度T以下になると温度に依存して色変化速度が変化する材料である。これらの色変化は結晶化よりに生じる。そのため、色変化は、結晶化速度に依存してランダムで発生する現象であり、時間的な再現性が低い。
【0042】
図3は、一実施形態に係る温度検知材料の形態を示す模式図である。温度検知材料は、多数の示温材が分散媒に分散した形態である。
【0043】
結晶化は、結晶核が生成されることで生じる現象であり、材料ごとに温度に依存した結晶核生成頻度(結晶化速度)に従い、ランダムに発生する現象である。そのため、結晶核が生成する、すなわち結晶化する時間は一定ではなく、時間的な再現性が低い。しかしながら、結晶化速度が等しい示温材が多数存在し、それぞれの示温材が結晶化する時間を測定した場合、その平均時間は、測定する示温材の数が多くなるにつれて、一定値に近づくと考えられる。そのため、示温材が多数に存在すれば、示温材が結晶化する平均時間は常に均一になる。したがって、示温材が多数に存在する形態を有する温度検知材料を用いれば、観察時の色が多数の示温材の平均の色になるため、色の変化の再現性を上げることができる。
【0044】
また、結晶化は、不純物の存在や容器の壁面などの界面の影響を強く受け、発生しやすくなるため、結晶化速度が等しい示温材を多数存在させるためには、すべての示温材において、界面から結晶化が受ける影響を均一にする必要がある。さらに、示温材同士が近くに存在している場合、結晶化は一箇所で結晶核が生成されると、その核の影響を受け周囲に伝播することで結晶化速度が速まるため、示温材同士の結晶化速度が等しくなくなってしまう。そのため、多数の示温材において、それぞれの示温材同士の結晶化の影響を無視できる程度に隔離された状態が必要になる。
【0045】
一度、一箇所で示温材の結晶化が始まると、急峻に色変化が完了してしまうため、色変化の度合いから経過時間を見積もることが困難である。そのため、色濃度が時間に対して連続的に(緩やかに)変化する温度検知材料が求められる。色濃度が時間に対して連続的に変化する材料であれば、材料の色濃度から、経過時間を推定することが可能になる。示温材を多数存在させ、多数の示温材の平均の色を観察することによって、時間に対して色濃度が連続的に(緩やかに)変化する温度検知材料を提供することができる。
【0046】
上記の条件を満足するため、温度検知材料は、図3に示したように、多数の示温材が分散媒に分散した形態である。
【0047】
温度検知材料における分散媒としては、示温材を分散させることができれば、どんな材料でも用いることができる。しかし、分散した全ての示温材の結晶化に対し、示温材と分散媒の界面から受ける影響を均一にする必要がある。そのため、示温材と接する界面が単一材料で形成されていることが好ましい。示温材の結晶化に対して影響を与えない材料のみで形成されていても良い。
【0048】
上記の条件を満たす分散化の手法として、示温材を直接マトリックス材料中に分散させる手法と、示温材をマイクロカプセル化して、マイクロカプセルを分散媒に分散させる手法がある。また、示温材をマトリックス材料中に分散させた材料をさらに他の材料に分散させても良い。マイクロカプセル膜を分散媒と考え、マイクロカプセル化した示温材をそのまま用いることも可能である。
【0049】
色濃度から経過時間を推定するためには、温度検知材料の分散媒中に分散した示温材のサイズが重要になる。具体的には、示温材の粒子の直径が、観察時の分解能以下であることが好ましい。観察時の分解能より示温材の粒子の直径が大きい場合、多数存在する示温材の平均の色を観察することが難しい。観察時の分解能より示温材の粒子径が小さく、多数存在する示温材の平均の色を観察することで、色変化の時間的な再現性が高く、色濃度が時間に対して連続的に(緩やかに)変化する温度検知材料を得ることができる。特に実用性を考慮すると、示温材の粒子の直径の平均値は、目視及びカメラの分解能以下であることが好ましい。そのため、示温材の平均粒子径が20μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0050】
温度検知材料は、示温材が多数に存在すればするほど、観察する示温材の色変化の平均時間が一定値に近づくため、時間的な再現性が高くなり、温度検知材料としての性能が向上する。そのため、温度検知材料内の示温材の数が多いことが好ましい。したがって、示温材の平均粒子径は小さく、分散媒に対する示温材の体積分率は高い方が好ましいと考えられる。ただし、分散媒に対する示温材の体積分率が高すぎると、示温材を分散させることが困難になる。そのため、温度検知材料における示温材の体積分率は5%以上90%未満であることが好ましく、10%以上50%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
(マイクロカプセル化)
温度検知材料を形成するために、示温材をマイクロカプセル化する手法がある。マイクロカプセル化することにより、示温材と接する界面がカプセル材のみに限定されるため、様々な分散媒に分散させることが可能になる。この場合、分散媒の種類は特に限定されない。また、マイクロカプセル化することにより、示温材の光や湿度等に対する耐環境性が向上し、保存安定性、変色特性の安定化等も可能となる。また、温度検知材料を溶媒に分散しインクを調製した際に、ロイコ染料、顕色剤、消色剤が他の樹脂剤、添加剤等の化合物から受ける影響を抑制することが可能である。
【0052】
マイクロカプセル化には、公知の各種手法を適用することが可能である。例えば、乳化重合法、懸濁重合法、コアセルベーション法、界面重合法、スプレードライング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、2種以上異なる方法を組み合わせてもよい。
【0053】
マイクロカプセルに用いる樹脂被膜としては、多価アミンとカルボニル化合物から成る尿素樹脂被膜、メラミン・ホルマリンプレポリマ、メチロールメラミンプレポリマ、メチル化メラミンプレポリマーから成るメラミン樹脂被膜、多価イソシアネートとポリオール化合物から成るウレタン樹脂被膜、多塩基酸クロライドと多価アミンから成るアミド樹脂被膜、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、塩化ビニル等の各種モノマー類から成るビニル系の樹脂被膜が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、形成した樹脂被膜の表面処理を行い、インクや塗料化する際の表面エネルギーを調整することで、マイクロカプセルの分散安定性を向上させる等、追加の処理をすることもできる。
【0054】
(相分離構造体化)
温度検知材料の形成手法は、マイクロカプセル化に限定されない。例えば、示温材を色および消色作用のないマトリックス材料で保護して固体材料(相分離構造体)化する方法がある。マトリックス材料で保護することにより、マイクロカプセル化ではない簡便な手法により、マイクロカプセル同様に保存安定性、変色特性の安定化等が可能となる。また、温度検知材料を溶媒に分散しインクを調製した際に、ロイコ染料、顕色剤、消色剤が他の樹脂剤、添加剤等の化合物から受ける影響を抑制することが可能である。
【0055】
マトリックス材料は、示温材と混合したときに、示温材の顕色性および消色性を損なわない材料である必要がある。そのため、それ自身が顕色性を示さない材料であることが好ましい。このような材料として、電子受容体ではない非極性材料を用いることができる。
【0056】
また、マトリックス材料中に示温材が分散した相分離構造を形成させるために、マトリックス材料としては次の3つの条件を満たす材料を用いる必要がある。3つの条件とは、温度検知材料の使用温度で固体状態であること、融点が示温材の融点よりも高いこと、ロイコ染料、消色剤、および顕色材と相溶性の低い材料であること、である。ロイコ染料、顕色剤、消色剤、いずれかの材料がマトリックス材料と相溶した状態では、温度及び時間検知機能は損なわれてしまうためである。また、取扱性の観点から、使用温度で固体状態のマトリックス材料を用いる。
【0057】
以上の条件を満たすマトリックス材料としては、ハンセン溶解度パラメーターにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギーδdおよび分子間の水素結合によるエネルギーδhがそれぞれ3以下である材料を好ましく用いることができる。具体的には、極性基を有さない材料、炭化水素のみで構成される材料を好ましく用いることができる。具体的には、パラフィン系、マイクロクリスタリン系、オレフィン系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系などのワックスや、プロピレン、エチレン、スチレン、シクロオレフィン、シロキサン、テルペンなどの骨格を多く持つ低分子材料や高分子材料、これらの共重合体などが挙げられる。
【0058】
これらの中でも、融点以上で低粘度の溶融液になり、融点以下で容易に固体化する材料が取扱い性がよい。また、有機溶媒に溶け、有機溶媒の揮発過程で固体化する材料も取扱い性がよい。具体的には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン、ポリスチレン、テルペン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0059】
ポリオレフィンとしては、例えば、低分子ポリエチレン、低分子ポリプロピレンなどが挙げられる。ポリオレフィンの分子量および液体状態での粘度は特に限定されないが、液体状態で低粘度であると気泡の内包が少なく成形性がよい。具体的には、分子量5万以下であって、融点近傍での粘度が10Pa・S以下であることが好ましく、分子量1万以下であって、融点近傍での粘度が1Pa・S以下であることがさらに好ましい。
【0060】
また、これらのマトリックス材料は、複数種を併用することも可能である。
【0061】
また、使用温度において液体状態であるマトリックス材料でも、示温材と相分離構造を示せば、温度検知材料として用いることが可能である。マトリックス材料が高粘度の液体であれば、固体状態のマトリックス材料と同様に取り扱い性に優れる。しかしながら、マトリックス材料が高粘度液体の場合、長期間の使用においてマトリックス材料中の示温材の沈降は避けられず、最終的には2相に分離してしまう。そのため、温度検知材料としての長期安定性は低い。
【0062】
図4は、温度検知材料の相分離構造を示す光学顕微鏡写真であり、(a)は顕色している状態の場合、(b)は消色している状態の場合である。光学顕微鏡写真から、温度検知材料1が、マトリックス材料3中に示温材2が分散した相分離構造を形成していることが確認できる。
【0063】
示温材の融点よりも高い融点を有するマトリックス材料を用いることにより、示温材が固体から液体、液体から固体への状態変化を伴い、色変化が生じたとしても、温度検知材料は固体状態を保持することができる。また、マトリックス材料と示温材とは相分離しており、且つマトリックス材料が示温材の色変化に影響を与えないことから、示温材の温度及び時間検知機能をそのまま保持することが可能である。
【0064】
相分離構造体は、乳鉢などで砕いて、粉体化することが可能である。これによりマイクロカプセルと同様の取り扱いが可能になる。
【0065】
相分離構造体およびマイクロカプセルは、インク化のための分散安定化や、溶剤への耐性向上や、光や湿度等に対する耐環境性が向上などのため、シランカップリング処理、表面グラフト化、コロナ処理などにより表面処理をしても構わない。また、相分離構造体およびマイクロカプセルを、さらにマトリックス材料やマイクロカプセルで被覆することも可能である。
【0066】
相分離構造体は、例えば、ロイコ染料と、顕色剤と、消色剤と、マトリックス材料と、をマトリックス材料の融点以上の温度に加温し、混合した後、得られた混合物をマトリックス材料の凝固点以下の温度に冷却することによって得ることができる。冷却過程において、マトリックス材料と示温材とが速やかに相分離し、マトリックス材料中にロイコ染料と、顕色剤と、消色剤とからなる相が分散した相分離構造が形成する。
【0067】
マトリックス材料の融点以上に加温し液体状態にする際、示温材と、マトリックス材料の相溶性次第で、示温材と非顕色性材料が相溶する場合と、相溶しない場合がある。このとき、相溶している方が取扱いやすさの観点において好ましい。使用温度で示温材とマトリックス材料が相分離し、加温状態で示温材とマトリックス材料が相溶するためには、特に含有量の多い消色剤の極性を調整するとよい。消色剤の極性が小さすぎると使用温度でマトリックス材料と相溶してしまい、極性が大きすぎると、加温状態でマトリックス材料と分離してしまう。具体的な極性の計算方法として、ハンセン溶解度パラメーターにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギーδdおよび分子間の水素結合によるエネルギーδhがそれぞれ1以上10以下である消色剤を好ましく用いることができる。しかしながら、消色剤の極性が大きく、加温状態でも示温材とマトリックス材料が相溶しない材料についても、撹拌しながら冷却することで、相分離構造を形成させることは可能である。また、界面活性剤を添加して、相溶させてもよい。
【0068】
マトリックス材料の凝固点以下に冷却し、相分離構造を形成させる際、示温材と、マトリックス材料の相溶性次第で、示温材の分散構造の大きさが異なる。特に含有量の多い消色剤とマトリックス材料について、ある程度相溶性がよいと細かく分散し、相溶性が悪いと大きく分散する。温度検知機能を維持する観点から分散構造の大きさは、100nm以上20μm以下であることが好ましい。冷却過程において、撹拌しながら冷却することや界面活性剤を添加することで、分散構造の大きさを小さくすることも可能である。
【0069】
<インク化>
予めマトリックス材料中に示温材が分散した相分離構造体や、マイクロカプセル化した温度検知材料を作製し、溶剤と混合することにより、温度検知インクを作製することが可能である。温度検知インクは、ペン、スタンプ、クレヨン、インクジェットなどのインクや印刷用の塗料に適用することが可能となる。
【0070】
温度検知インクは、溶剤中に温度検知材料が分散した形態を示す。そのためには、示温材を包含するマトリックス材料やマイクロカプセルと相溶性が低い溶剤を用いる必要がある。
【0071】
マトリックス材料を用いた相分離構造体を温度検知材料として用いる場合、溶剤としては、極性の高い溶媒を用いることが好ましい。極性の高い溶媒としては、水、グリセリン、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類を好ましく用いることができる。他にも、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類、ジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等を用いることができる。
【0072】
マイクロカプセル化した温度検知材料を用いる場合、溶剤としては、マイクロカプセルの材質が耐性をもつ溶媒を用いることが好ましい。マイクロカプセルの材質として極性の高い材質を用いた場合、極性の低い有機溶媒を用いたほうが良く、具体的には、ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの無極性溶媒、石油、鉱物油、シリコーンオイルなどの油類が特に好ましく、他には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類、ジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等があげられる。
【0073】
マイクロカプセルの材質として極性の低い材質を用いた場合、極性の高い溶媒を用いたほうが良く、具体的には、水、グリセリン、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類を好ましく用いることができる。他にも、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類、ジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等を用いることができる。
【0074】
これらの温度検知インクは液体状態においても温度及び時間検知機能を有し、さらに被印字対象等に印字、筆記、押印等することにより溶媒が揮発することで、温度検知材料のみが印字物を構成する。この印字物を、温度及び時間検知インジケータとして使用することができる。
【0075】
温度検知インクには、温度及び時間検知機能に影響しない程度であれば、有機溶媒や水などの溶液に添加物をさらに添加してもよい。例えば、顔料を含むことで、消色時、顕色時の色を変更することが可能である。
【0076】
温度検知インクは、各種添加剤や溶媒が使用可能である。また温度検知材料や添加剤の量を変えることで、粘度を調整することも可能である。これにより、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、ラベルプリンタ、サーマルプリンタなどの様々な印刷装置用インクとして適用可能である。
【0077】
<インクジェット用インク>
温度検知インクは、帯電制御式インクジェットプリンタ用インクに適用することができる。帯電制御式インクジェットプリンタ用インクは、温度検知材料と、揮発性の有機溶媒と、樹脂と、導電剤と、を含む。
【0078】
インク溶液の抵抗が高い場合、帯電制御式インクジェットプリンタにおけるインクの吐出部において、インク粒子がまっすぐ飛ばず、曲がる傾向がある。そのため、インク溶液の抵抗は概ね2000Ωcm以下にする必要がある。
【0079】
インクに含まれる樹脂、顔料、有機溶媒(特に、インクジェットプリンタ用インクの有機溶媒としてよく用いられる2-ブタノン、エタノール)は導電性が低いので、インク溶液の抵抗は5000~数万Ωcm程度と大きい。抵抗が高いと、帯電制御式インクジェットプリンタでは所望の印字が困難となる。そこで、インク溶液の抵抗を下げるために、インクに導電剤を添加する必要がある。
【0080】
導電剤としては、錯体を用いることが好ましい。導電剤は用いる溶剤に溶解することが必要で、色調に影響を与えないことも重要である。また導電剤は一般には塩構造のものが用いられる。これは分子内に電荷の偏りを有するので、高い導電性が発揮できるものと推定される。
【0081】
以上のような観点で検討した結果、導電剤は塩構造で、陽イオンはテトラアルキルアンモニウムイオン構造が好適である。アルキル鎖は直鎖、分岐どちらでもよく、炭素数が大きいほど溶媒に対する溶解性は向上する。しかし炭素数が小さいほど、僅かの添加率で抵抗を下げることが可能となる。インクに使う際の現実的な炭素数は2~8程度である。
【0082】
陰イオンはヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン等が溶剤に対する溶解性が高い点で好ましい。
【0083】
なお、過塩素酸イオンも溶解性は高いが、爆発性があるので、インクに用いるのは現実的ではない。それ以外に、塩素、臭素、ヨウ素イオンも挙げられるが、これらは鉄やステンレス等の金属に接触するとそれらを腐食させる傾向があるので好ましくない。
【0084】
以上より、好ましい導電剤は、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、テトラプロピルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、テトラペンチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、テトラヘキシルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、テトラオクチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラプロピルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラペンチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラヘキシルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラオクチルアンモニウムテトラフルオロボレート等が挙げられる。
【0085】
<温度インジケータ>
図5は、温度インジケータの構成を示す模式図である。温度インジケータは、基材(支持体)5と、基材上に配置された温度検知材料1と、温度検知材料上に配置された透明基材(保護層)6と、スペーサ7を備え、温度検知材料1を、基材5と透明基材6で挟んだ構造である。
【0086】
基材と透明基材の材料は特に限定されず、温度検知材料を、透明基材と基材で挟み込み、且つ温度検知材料の変色を視認できれば良い。また、透明基材は用いないことも可能である。この場合、スペーサを用いないでも良い。
【0087】
基材の材料は、要求される機能によって自由に選択できる。紙やプラスチックなどの有
機材料や、セラミックスや金属などの無機材料や、それらの複合材料など自由に選択可能
である。数種の材料で層構造を形成しても良い。高強度、耐熱性、耐候性、耐薬品性、断
熱性、導電性など、温度及び時間インジケータに要求される特性に合わせて選択する。シールを用いることで、検知したい対象物に対して密着させることも可能である。基材は、温度検知材料を挟み込めればよいので、温度検知材料よりも大きいことが好ましい。
【0088】
また、基材として、連続多孔質材料を用いてもよい。この場合、連続多孔質材料に温度検知材料を含浸させた構造とする。温度検知材料を連続多孔質材料に含浸させることにより、連続多孔質材料の加工性に応じて、温度インジケータの加工性を変更することができる。連続多孔質材料としては、温度検知材料が長期間接触していても変性しないような材質が求められる。そのため、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロースなど、通常の有機溶媒に溶解しにくい材質が好適である。無機化合物としては、二酸化珪素も好適である。
【0089】
連続多孔質材料の構造としては、スポンジ、不織布、織布等が挙げられる。セルロースの場合は書籍、書類を作成時に用いられる用紙でもかまわない。二酸化珪素、ポリエチレン、ポリプロピレンの粉体を同様の化学構造のバインダーで保持して連続多孔質体を形成し、使用することも可能である。連続多孔質体は空隙の密度が大きい程、温度検知材料が浸透する密度が大きくなるため、色濃度が減少を抑えることが可能である。
【0090】
透明基材の材料についても、要求される機能によって自由に選択できる。紙やプラスチ
ックなどの有機材料や、セラミックスや金属などの無機材料や、それらの複合材料など自
由に選択可能である。温度及び時間検知インクの少なくとも一部の箇所の変色を視認する必要があるため、透明性が必要である。たとえば、透明性の高い紙、アクリル、ポリカーボネート、シクロオレフィンなどの透明性の高いプラスチックなどの有機材料や、ガラス、透明電極膜などの透明性の高い無機化合物などが挙げられる。これらの透明性の高い材料以外にも、薄膜化して透明性を高めた材料も可能である。数種の材料で層構造を形成しても良い。これらの中から、高強度、耐熱性、耐候性、耐薬品性、断熱性、導電性や、急冷に対する熱衝撃への耐性など、温度及び時間インジケータに要求される特性に合わせて選択できる。
【0091】
透明基材の大きさは、温度及び時間検知体を視認できればよいため、大きさについては限定されない。視認性の観点からは、透明基材が長方形の場合は短手方向、楕円の場合は短径が30μm以上が好ましい。
【0092】
温度インジケータは温度検知材料が視認できる程度の範囲で、透明基材と温度検知材料の間または透明基材の上部に他の材料を備えていてもよい。例えば、透明基材と温度検知材料の間に印字紙を備えることにより、印字紙に印字された印字情報を表示することができる。透明基材および基材には、穴をあけるなどの加工がされていてもよい。穴をあけることにより、透明基材とスペーサの間の印字紙が剥き出しとなる。このような構造とすることにより、輸送途中などに剥き出しになった印字紙に情報を記入することができる。
【0093】
また、温度インジケータは透明基材と温度検知材料の間に断熱層を備えていても良い。
断熱層としては、例えば、空気層、アルゴンや窒素などのガス層、真空層、スポンジ、エアロゲルなどの多孔性材料、グラスウール、ロックウール、セルロースファイバーなどの繊維材料、ウレタン、ポリスチレン、発泡ゴムなどの発泡材料を用いることができる。断熱層を配置することにより、温度検知材料の外部の温度が、管理温度を逸脱してから(温度検知材料の検知温度に達してから)温度検知材料が変色するまでの時間を調整できる。また、この時間は、基材と透明基材の材質および厚さによって調整することができる。また、断熱層を設置するのではなく、基材と透明基材のどちらかを断熱材料で構成してもよい。以上のように、断熱層を設けること、基材と透明基材の材質や厚さを調整することにより、基材から温度検知材料までの熱伝導率と、透明基材から温度検知材料までの熱伝導率を制御することが可能になる。
【0094】
基材5をシールにして対象物に貼る場合、外気の温度と対象物表面の温度が異なることが想定される。対象物表面の温度を検知したい場合は、基材から温度検知材料までの熱伝導性を良くし、透明基材から温度検知材料までの熱伝導率を悪くすればよい。例えば、温度検知材料の上部に断熱層を設けたり、透明基材および基材の材質や厚さを調整し、透明基材の熱伝導率よりも基材の熱伝導率を高くすればよい。一方、外気の温度を検知したい場合、基材から温度及び時間検知体までの熱伝導性を悪くし、透明基材から温度及び時間検知体までの熱伝導率を良くすればよい。例えば、温度検知材料の下部に断熱層を設けたり、透明基材および基材の材質や厚さを調整し、基材の熱伝導率よりも透明基材の熱伝導率を高くすればよい。
【0095】
温度インジケータには、温度検知材料を複数種類用いても良い。図6に3種類の温度検知材料を用いた温度インジケータを示す。温度インジケータは凹部(窪み)4を有する基材5と、基材の表面に設けられた保護層6を備える。保護層は、例えばシートフィルムである。凹部4は、それぞれ温度検知材料を保持する。
【0096】
<色の初期化プロセス>
温度検知材料は、示温材の融点以上の温度に温度検知材料を加熱し、その後所定の速度以上で冷却することにより初期化できる。なお、温度検知インクの場合は、示温材の融点以上かつ溶剤の沸点未満の温度に温度検知インクを加熱する。
【0097】
加熱方法は特に限定されない。インク容器中のインクを加熱する場合、例えば、ヒーター、ホットプレート、加熱した溶媒中などでインク容器を加熱する手段などが挙げられる。温度インジケータ中の材料を加熱する場合は、ラミネータなどを用いてもよい。
【0098】
加熱後の冷却方法についても特に限定されない。例えば、自然冷却、クーラー、フリーザーなどでインク容器を冷却する手段などが挙げられる。示温材の結晶化速度によって一定以上の冷却速度が必要になり、結晶化速度が速い材料では冷却装置による急冷が必要であり、結晶化速度が遅い材料では自然冷却による冷却を好ましく用いることができる。
【0099】
冷却装置による冷却速度を調整することで、温度検知材料の検知時間を調整することも可能である。温度検知材料は、結晶化速度に応じて時間と温度の積算で色が変化する。そのため、冷却速度をあえて遅くすることで、温度管理に使用する前に予め結晶化を進め、僅かに顕色させることができる。これにより、同一の温度及び時間検知インクについて、急冷処理を行ったものよりも、検知時間を早めることが可能である。
【0100】
<温度逸脱時間の推定方法及び推定システム>
上記温度検知材料を用いた温度逸脱時間の推定方法について説明する。
【0101】
上限温度を検知する示温材Aを用いた温度検知材料の場合、所定温度(顕色開始温度T)以上になると顕色し、高温になるほど顕色速度が速くなる。このことから、温度検知材料が顕色していなければ、所定温度以上には短時間しか晒されていないことが推定できる。
【0102】
また、下限温度を検知する示温材Bを用いた温度検知材料の場合、所定温度(顕色開始温度T)以下になると顕色し、低温になるほど顕色速度が速くなる。このことから、温度検知材料が顕色していなければ、所定温度以下には短時間しか晒されていないことが推定できる。
【0103】
温度検知材料の温度ごとの時間と色濃度の関係を予め記憶しておくことで、温度検知材料が顕色していた場合、その色濃度から、温度逸脱時の温度と時間の関係を逆算することができる。図7に一実施形態に係る温度検知材料の色濃度と時間の関係を示す。図7に示すように、温度検知材料は、結晶化開始温度に達すると、時間に対して色が連続的に変化する。温度検知材料を初期化し、再度同じ温度に曝すと、初期化前の同じ変化を繰り返す。したがって、あらかじめ、温度毎の時間と色濃度の関係を記録しておくことにより、色濃度から、温度を逸脱してから経過した時間(以下、温度逸脱時間という。)を推定することができる。
【0104】
温度逸脱時間の推定には、複数の温度検知材料を組み合わせても良い。例えば、顕色開始温度が10℃の上限温度検知材料と、顕色開始温度が20℃の上限温度検知材料の2つを併用した場合に、顕色開始温度が10℃の上限温度検知材料の色しか変化していなければ、10℃以上20℃未満に曝されたことが特定できるため、温度逸脱時間の推定精度が向上する。
【0105】
また、温度逸脱時間の推定には、温度計や気象情報などから入手できる温度を用いることにより、推定精度が向上する。たとえば、外気温が20℃の中、0℃で輸送している物品に顕色開始温度が10℃の上限温度材料を備える温度インジケータを貼り付けた場合、インジケータの色が変化していれば、10℃~20℃に曝されたことが特定できる。この場合も、温度逸脱時間の推定精度を向上できる。
【0106】
上記温度検知材料を用いた温度逸脱時間の推定システムについて説明する。
【0107】
温度逸脱時間の推定システムは、温度検知材料の色情報を取得する読取装置11、入力装置12、出力装置13、通信装置14、記憶装置15と、読取装置により取得された色情報と、温度検知材料が温度を逸脱してから経過した時間を推定する処理装置16と、を備える。
【0108】
読取装置11は、温度検知材料の色情報を取得する。温度検知材料の色情報の読取方法は特に限定されない。例えば、温度検知材料をカメラで撮影し、撮影した画像の階調から井戸濃度を算出することができる。また、温度検知材料にレーザーなどで光を投光し、投光された光の反射量若しくは吸収量から色情報を算出しても良い。なお、色調の数値情報としては、LやLなどのCIE色空間の他にRGB色空間、HSV色空間、マンセル色空間などが挙げられる。
【0109】
記憶装置15は、温度検知材料の温度毎の色濃度と時間の関係とを記憶している。そのほかにも温度検知材料や温度インジケータの識別情報や、読取装置により読み取られた温度検知材料の色情報を格納していても良い。
【0110】
処理装置16は、読取装置により取得された温度検知材料の色情報と、記憶部に記憶された温度検知材料の温度毎の色濃度と時間の関係と、に基づいて温度検知材料が温度を逸脱してから経過した時間を推定する。処理装置は、さらに、通信装置などにより取得された外気温等の温度情報を用いて温度逸脱時間を推定してもよい。また、検知温度(顕色開始温度)が異なる複数の温度検知材料の色情報を用いて温度逸脱時間を推定しても良い。温度情報や、検知温度が異なる複数の温度検知材料の色情報を用いることにより、推定精度を向上できる。
【0111】
<物品管理システム>
次に、温度インジケータを用いた品質管理システムについて説明する。品質管理システムは、物品が置かれた環境を管理する管理装置と、温度検知材料の色調情報を取得する管理端末と、を備える。管理端末は、色調情報を取得した際に、管理装置に物品識別情報と色調情報を取得した時刻と色変化があったか否かの旨とを関連付けて送信する。
【0112】
図9は、品質管理システムの構成を示す図である。ここでは、工場で製造された物品が、店舗に搬送され、店舗で物品が管理されたのち顧客に物品がわたる流通ルートにおける品質管理を例にあげて説明する。
【0113】
品質管理システム(物品管理システム)は、物品に添付されたコード(物品識別情報)(例えば、バーコード)および温度インジケータの色調情報を取得する管理端末、管理サーバ20(管理装置)を含んで構成される。管理端末、管理サーバ20は、ネットワークNWを介して通信可能に接続されている。
【0114】
流通ルートは、物品を製造する工場、物品を保管する倉庫、出荷場、搬送車、物品を他の搬送車に積み替える積替場、搬送車、店舗である。各場所で、作業者は管理端末を用いて品質管理データの収集をする。
【0115】
品質管理データの収集は、工場において物品が製造されたとき、倉庫で保管されているとき、出荷場で出荷されるとき、搬送車で搬送されているとき、積替場で積替え作業が行われたとき、搬送車で搬送されているとき、店舗に入荷されるとき、店舗で販売のために保管されているときなどに行われる。
【0116】
各場所で作業者は、温度検知材料の色調を確認することで各過程の温度管理状況や物品の温度負荷状態を視覚的に確認することができる。また、作業者の視覚的な確認のみならず、色調として数値情報を得るとよい。
【0117】
作業者は、出荷、搬送、保管など各過程において、物品とその温度検知インクの光学状態およびその画像や読取り場所、時間などの品質管理情報として、管理端末を用いて管理サーバ20に送信する。
【0118】
温度検知材料の光学状態の読取りには、管理端末を使用するとよい。これにより、物品の流通に関する各者が、管理対象の物品の流通過程での各状態を、示温材料の色調を数値情報として取得することにより、定量的に管理したり、共有することができる。
【0119】
店舗では、搬送された物品について、温度検知材料の色調状態を確認することで工場の出荷時から搬送などの過程後の温度管理状況や物品の温度負荷状態を視覚的に確認することができる。さらに、管理端末などを介して管理サーバ20に接続して、物品の納品時までの品質管理情報などの情報を確認することができる。
【0120】
管理端末は、温度インジケータの色調情報に基づき、品質が保持されているか否かを判定し、判定結果を表示する。つまり、色変化があった際に、表示部に物品の流通が適さない旨を表示し、色変化がなかった際に、表示部に物品の流通が適する旨を表示する。判定結果は管理サーバから管理端末に送信される。判定結果を含む品質管理データは管理サーバに品質管理情報として記憶される。
【0121】
本実施形態では、品質が保持されているか否かの品質判定を管理端末側で処理している。これは、多数の物品を対象とするシステムでは、判定処理などの集中を分散させるためである。管理サーバ20の処理能力が高ければ、品質判定を管理サーバ側で実行してもよい。
【0122】
管理サーバ20は、処理部、記憶部、入力部、出力部、通信部を有する。管理サーバの記憶部には、管理対象の各物品の詳細な情報である物品情報、温度インジケータ情報、流通条件情報、流通管理情報、生産情報、品質管理情報などが記憶されている。管理サーバは、管理端末との間で情報の授受を行う。
【0123】
管理サーバには、物品に添付された温度検知材料の色濃度とその環境に置かれた時間との関係を示す色濃度-時間情報を記憶部に記憶しておくことが好ましい。管理サーバに色濃度-時間情報を記憶しておくことによって、管理端末は、取得した物品識別情報に基づく色濃度時間情報を管理装置から取得し、取得した色調情報の色濃度と色濃度時間情報に基づきその環境に置かれた時間を算出することができる。また、算出した時間を表示部に表示するとともに、管理装置に物品識別情報と算出した時間とを関連付けて送信することができる。なお、その環境に置かれた時間の算出は、管理サーバ側で行っても良い。
【0124】
管理サーバに記憶されている物品情報の例としては、管理対象の物品の情報である物品情報は、コード(物品識別情報)、名称(品名)、生産日、流通期限日、サイズ、価格、表面色調、温度インジケータに関する温度管理要否、適正温度、温度インジケータの箇所(マーキング箇所)などが挙げられる。温度インジケータ情報としては、コード(物品識別情報)、適正温度、判定温度などが挙げられる。
【0125】
以上をまとめると、品質管理システム(物品管理システム)は、物品に添付された温度検知材料の色調情報を収集し、色調情報に基づいたその物品が置かれた環境を管理する管理装置(例えば、管理サーバ20)と、物品に添付された該物品を識別する物品識別情報を取得するとともに、温度検知インクの色調情報を取得する管理端末(と、を有する。管理端末は、取得した色調情報を取得した際に、管理装置に物品識別情報と色調情報を取得した時刻と色変化があったか否かの旨とを関連付けて(例えば、示温データ)送信する。これにより、流通段階の各場所で取得した示温データを一元的に管理することができる。
【0126】
次に、実施例および比較例を示しながら、温度検知材料を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0127】
<温度検知材料の作製>
ロイコ染料として3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(山田化学工業製CVL)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤としてp-トルイル酸メチルとフェニル酢酸2-フェニルエチルを重量比8:2で混合したものを100重量部、マトリックス材料として三井化学製ハイワックスNP105を100重量部用いた。これらの材料を、消色剤およびマトリックス材の融点以上である150℃で溶かして混合し、自然冷却により固化させることで、相分離構造を有する温度検知材料を作製した。
【0128】
<示温材の平均粒子径の評価>
作製した温度検知材料について、示温材の平均粒子径を評価した。相分離構造を有する温度検知材料の示温材の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S4800)を用いて評価した。走査型電子顕微鏡により温度検知材料の断面を観察し、その観察画像から各粒子の粒度分布を測定することで、メディアン径として評価した。
【0129】
<温度と時間の検知機能の評価>
作製した温度検知材料を容器に入れ、消色剤の融点以上の環境下に静置することにより、色の初期化を行った。初期化後に、顕色開始温度以下の環境下に静置し、色変化する様子を観察した。
【0130】
(比較例1)
ロイコ染料として3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(山田化学工業製CVL)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤としてp-トルイル酸メチルとフェニル酢酸2-フェニルエチルを重量比8:2で混合したものを100重量部用いた。これらの材料を、消色剤の融点以上である150℃で溶かして混合した後、自然冷却により固化させることで、示温材のみから構成される温度検知材料を作製した。実施例1と同様に温度と時間の検知機能を評価した。
【0131】
(比較例2)
ロイコ染料として3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(山田化学工業製CVL)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤としてp-トルイル酸メチルとフェニル酢酸2-フェニルエチルを重量比8:2で混合したものを100重量部、マトリックス材料として三井化学製ハイワックスNP105を10重量部用いた。これらの材料を、消色剤およびマトリックス材の融点以上である150℃で溶かして混合し、自然冷却により固化させることで、温度検知材料を作製した。実施例1と同様に温度と時間の検知機能を評価した。
【実施例2】
【0132】
ロイコ染料として6’-[エチル(3-メチルブチル)アミノ-3’-メチル-2’-(フェニルアミノ)スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-(H)キサンテン]-3-オン(山田化学工業製S-205)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤としてp-トルイル酸メチルとフェニル酢酸2-フェニルエチルを重量比8:2で混合したものを100重量部用いた。これらの材料を、重合開始剤の2,2´-アゾビス(イソブチロニトリル)と、樹脂被膜の構成するスチレンとを、アクリル酸-2-エチルヘキシルに溶解させた油相を、界面活性剤であるソルビタン脂肪酸エステル、ナトリウム塩を添加した水相中に投入し、スターラーにより攪拌することでマイクロカプセル化した。以上のように、示温材をマイクロカプセルで内包した構造を有する温度検知材料を作製した。
【0133】
マイクロカプセル化された温度検知材料の示温材の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布計((株)堀場製作所,LA-920)を用いて評価した。測定した粒度分布からメディアン径を評価した。また、実施例1と同様に温度と時間の検知機能を評価した。
【実施例3】
【0134】
3種の温度検知材料を用いた温度インジケータを作製した。
【0135】
ロイコ染料として3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(山田化学工業製CVL)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤として東京化成工業製ビタミンK4を100重量部、マトリックス材料として三井化学製ハイワックスNP105を100重量部用いた。これらの材料を、消色剤およびマトリックス材の融点以上である150℃で溶かして混合し、アクリル板の窪み4に注ぎ込み、自然冷却させることで、相分離構造を有する第1温度検知材料を作製した。
【0136】
ロイコ染料を2´-メチル-6´-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9´-[9H]キサンテン]-3-オン(山田化学工業製RED520)に変えたこと以外第1温度検知材料と同様にして、相分離構造を有する第2温度検知材料を作製した。
【0137】
ロイコ染料を6’-[エチル(3-メチルブチル)アミノ-3’-メチル-2’-(フェニルアミノ)スピロ[イソベンゾフラン-1(3H), 9’-(H)キサンテン]-3-オン(山田化学工業製S-205)に変えたこと以外第1温度検知材料と同様にして、相分離構想を有する第3温度検知材料を作製した。
【0138】
図6のように透明のPET製のシールフィルムを、温度検知材料の上からアクリル板に貼ることで、温度インジケータを作製した。
【0139】
第1~第3の温度検知材料の示温材の平均粒子径は実施例1と同様の方法で評価した。第1~第3の温度検知材料の温度と時間の検知機能は、温度インジケータを消色剤の融点以上の環境下に静置することにより、色の初期化を行った後、顕色開始温度以上、消色剤の融点未満の環境下に静置し、色変化する様子を観察した。
【実施例4】
【0140】
ロイコ染料として2´-メチル-6´-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9´-[9H]キサンテン]-3-オン(山田化学工業製RED520)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤として東京化成工業製ビタミンK4を100重量部用いた。これらの材料を、重合開始剤の2,2´-アゾビス(イソブチロニトリル)と、樹脂被膜の構成するスチレンとを、アクリル酸-2-エチルヘキシルに溶解させた油相を、界面活性剤であるソルビタン脂肪酸エステル、ナトリウム塩を添加した水相中に投入し、スターラーにより攪拌することでマイクロカプセル化した。以上のように示温材をマイクロカプセル化した温度検知材料を作製した。
【0141】
作製した温度検知材料を用いて温度検知インクを調製した。攪拌羽根を設けた容器に純水、樹脂として数平均分子量(Mn)10,000のポリビニルアルコールとポリ酢酸ビニルの共重合物(ポリビニルアルコールユニットの繰り返し数:ポリ酢酸ビニルユニットの繰り返し数≒36:64、水酸基価は285)、マイクロカプセルを投入し、約1時間混合することにより、温度検知インクを調製した。このインクをアクリル板の窪み4に注ぎ込み、透明のPET製のシールフィルを、インクを注いだアクリル板の上に貼ることで、温度インジケータを作製した。
【0142】
温度検知材料の示温材の平均粒子径は実施例2と同様の方法で評価した。温度インジケータの温度と時間の検知機能は実施例3と同様の方法で評価した。
【0143】
(比較例3)
ロイコ染料として6’-[エチル(3-メチルブチル)アミノ-3’-メチル-2’-(フェニルアミノ)スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-(H)キサンテン]-3-オン(山田化学工業製S-205)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤として東京化成工業製ビタミンK4を100重量部用いた。これらの材料を、消色剤の融点以上である150℃で溶かして混合し、アクリル板の窪み4に注ぎ込み、自然冷却させた。図6のように透明のPET製のシールフィルムを、示温材を注いだアクリル板の上から貼ることで、インジケータを作製した。インジケータの温度と時間の検知機能は実施例3と同様の方法で評価した。
【0144】
実施例1~4、比較例1~3で作製した温度検知材料の、示温材の体積分率及び示温材の平均粒子径を表1に示す。
【0145】
【表1】
【0146】
温度と時間の検知機能の確認結果を図10図12を用いて説明する。
【0147】
図10は、実施例1、2、比較例1、2に係る温度検知材料おける温度逸脱時間と色濃度を示す写真である。なお、実施例1、2、比較例1、2で用いた示温材は、図1及び2で説明した示温材Bのように、所定温度以下になると結晶化することにより顕色開始する材料である。実施例1、2に係る温度検知材料については、-10℃の環境に置くことにより、時間に対して色が連続的に変化する様子が確認できた。
【0148】
一方、比較例1、2に係る温度検知材料では、ある箇所で色が変わると、その色変化が周囲に進展し、急峻に色変化する様子が確認できた。また、色変化が終わった後に、消色剤の融点以上でもう一度色を初期化した後、再度観察すると、異なる箇所及び時間で色変化が始まることが確認できた。このことより、比較例1、2に係る温度検知材料では、色変化の度合いから経過時間を見積もることは困難である。比較例1に係る温度検知材料は示温材のみから構成されており分散構造を形成しないためであると考えられる。また、比較例2は、実施例1と同様の材料で作製されているが、分散媒であるマトリックス材料が実施例1より少ないために、分散構造を形成していないためである考えられる。
【0149】
図11は、実施例3、4、比較例3に係る温度検知材料における温度逸脱時間と色濃度を示す写真である。なお、実施例3、4、比較例3で用いた示温材は、図1及び2で説明した示温材Aのように、所定温度以上になると結晶化することにより顕色開始する材料である。
【0150】
実施例3、4に係る温度検知材料については、10℃の環境に置くことにより、時間に対して色が連続的に変化する様子が確認できた。
【0151】
一方、比較例3に係る温度検知材料では、ある箇所で色が変わると、その色変化が周囲に進展し、急峻に色変化する様子が確認できた。また、色変化が終わった後に、消色剤の融点以上でもう一度色を初期化した後、再度観察すると、異なる箇所及び時間で色変化が始まることが確認できた。このことより、比較例3に係る温度検知材料では、色変化の度合いから経過時間を見積もることは困難である。これは、比較例3に係る温度検知材料が示温材のみから構成されており、分散構造を形成していないためであると考えられる。
【0152】
以上の結果から、示温材が分散媒中に分散した構造を有する温度検知材料を用いることにより、所定温度以上又は以下において、時間に対する色変化が連続的となることが分かった。
【0153】
図12に実施例及び比較例に係る温度検知材料の色濃度の時間依存性を測定したグラフを示す。図12(a)は、実施例1、2、比較例1、2に係る温度検知材料の-10℃での色濃度の時間依存性を示すグラフである。なお、-10℃は、実施例1、2、比較例1、2に係る温度検知材料の顕色開始温度以下の温度である。
【0154】
実施例1、2、比較例1、2は時間経過ともに色濃度が変化していることが確認できる。実施例1の相分離構造を有する温度検知材料、および実施例2のマイクロカプセル化した温度検知材料では、色が時間に対して連続的に変化する様子が確認できた。また、実施例1および実施例2の温度検知材料を、顕色開始温度よりも高い温度である0℃に静置しても、色変化は全く見られないことが確認できた。このことより、実施例1および実施例2の温度検知材料は、所定温度以下となったことを検知できることが分かった。また、色変化が終わった後に、消色剤の融点の以上に加熱し、色を初期化した後、再度-10℃に静置して観察した結果、図12(a)のグラフと全く同じ変化を示すことが確認できた。このことより、実施例1および実施例2の温度検知材料は、色濃度から温度逸脱時間を推定することが可能である。たとえば、実施例1の温度検知材料の色濃度が95であった場合、図12(a)のグラフより、-10℃に20分曝されたことが推定可能である。
【0155】
一方、比較例1および比較例2の温度検知材料では、色がある時間において急峻に変化する様子が確認できた。また、色変化が終わった後に、消色剤の融点以上でもう一度色を初期化した後、再度-10℃に静置して観察した結果、異なる時間で色濃度が変化することが確認できた。これらのことから、比較例1および比較例2の温度検知材料では、色濃度から温度逸脱時間を推定することは困難である。
【0156】
図12(b)は、実施例3、4、比較例3に係る温度検知材料の10℃における色濃度の時間依存性を示すグラフである。なお、10℃は実施例3、4及び比較例3に係る温度検知材料の顕色開始温度以上の温度である。
【0157】
実施例3の相分離構造を有する温度検知材料、および実施例4のマイクロカプセル化した温度検知材料では、色が時間に対して連続的に変化する様子が確認できた。また、実施例3、4の温度検知材料を、顕色開始温度よりも低い温度である0℃に静置しても、色変化は全く見られないことが確認できた。このことより、実施例3、4の温度検知材料は、所定温度以上となったことを検知できることが分かった。また、色変化が終わった後に、消色剤の融点の以上に加熱し、色を初期化した後、再度10℃に静置して観察した結果、図12(b)のグラフと全く同じ変化を示すことが確認できた。このことより、実施例3、4の温度検知材料は、色濃度から温度逸脱時間を推定することが可能である。たとえば、実施例3の温度検知材料の色濃度が75であった場合、図12(b)のグラフより、10℃に50分晒されたことが推定可能である。
【0158】
一方、比較例3の温度インジケータでは、色がある時間において急峻に変化する様子が確認できた。また、色変化が終わった後に、消色剤の融点以上でもう一度色を初期化した後、再度10℃に静置して観察した結果、異なる時間で色濃度が変化することが確認できた。これらのことから、比較例3の温度検知材料では、色濃度から温度逸脱時間を推定することは困難である。
【0159】
以上より、本実施例に係る温度検知材料を用いることにより、逸脱温度下において、色濃度が時間に対して連続的に変化する温度検知材料、それを用いた温度逸脱情報及び温度逸脱時間推定が可能であることを確認できた。
【符号の説明】
【0160】
1…温度検知材料、2…示温材(ロイコ染料、顕色剤、消色剤の組成物)、3…分散媒、
4…凹部(窪み)、5…基材(支持体)、6…透明基材(保護層)、7…スペーサ、8…印字紙、9…断熱層、10…温度逸脱時間の推定システム、11…読取装置、12…入力装置、13…出力装置、14…通信装置、15…記憶装置、16…処理装置、20…管理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12