(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】到来方向測定装置及び到来方向測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 3/46 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
G01S3/46
(21)【出願番号】P 2018116410
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】越後貫 智也
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-062506(JP,A)
【文献】特開平08-201498(JP,A)
【文献】特開2009-162689(JP,A)
【文献】特開2008-202965(JP,A)
【文献】特開2002-267728(JP,A)
【文献】特開2016-180678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00- 3/74
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信源からの各アンテナでの受信波の信号強度を推定する信号強度推定部と、
前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が所定強度以上である受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する受信波採用部と、
信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出するスペクトル算出部と、
前記信号部分空間法の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、前記送信源からの受信波の到来方向として採用する到来方向測定部と、を備え
、
前記信号強度推定部は、前記送信源からの各アンテナでの受信波について、IQ(In-phase and Quadrature-phase)強度分散を測定し、
前記受信波採用部は、前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、IQ強度分散が所定分散以下である受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する
ことを特徴とする到来方向測定装置。
【請求項2】
送信源からの各アンテナでの受信波の信号強度を推定する信号強度推定部と、
前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が所定強度以上である受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する受信波採用部と、
信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出するスペクトル算出部と、
前記信号部分空間法の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、前記送信源からの受信波の到来方向として採用する到来方向測定部と、を備え
、
前記信号強度推定部は、前記送信源からの各アンテナでの受信波について、各アンテナを搭載する移動体による死角の影響がないかどうかを判定し、
前記受信波採用部は、前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、前記移動体による死角の影響がない受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する
ことを特徴とする到来方向測定装置。
【請求項3】
前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が前記所定強度以上である受信波に基づいて、前記送信源からの受信波の到来方向を前記信号部分空間法の到来方向スペクトルの高精度算出前に低精度測定する到来方向粗測定部、をさらに備え、
前記スペクトル算出部は、前記送信源からの受信波の到来方向の低精度測定値の周辺のみにおける、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルを高精度算出する
ことを特徴とする、請求項1
又は2に記載の到来方向測定装置。
【請求項4】
前記送信源の位置の前回測定値、前記送信源からの受信波の到来方向の前回測定値、前記送信源の位置の予測値、前記到来方向測定装置の位置及び前記到来方向測定装置の運動の少なくともいずれかに基づいて、前記送信源からの受信波の到来方向を前記信号部分空間法の到来方向スペクトルの算出前に予測する到来方向予測部、をさらに備え、
前記スペクトル算出部は、前記送信源からの受信波の到来方向の予測値の周辺のみにおける、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出する
ことを特徴とする、請求項1から
3のいずれかに記載の到来方向測定装置。
【請求項5】
前記スペクトル算出部は、測定精度のより高い受信波の到来方向において、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出する受信波の到来方向の角度間隔をより小さくし、測定精度のより低い受信波の到来方向において、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出する受信波の到来方向の角度間隔をより大きくする
ことを特徴とする、請求項1から
4のいずれかに記載の到来方向測定装置。
【請求項6】
送信源からの各アンテナでの受信波の信号強度を推定する信号強度推定ステップと、
前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が所定強度以上である受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する受信波採用ステップと、
信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出するスペクトル算出ステップと、
前記信号部分空間法の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、前記送信源からの受信波の到来方向として採用する到来方向測定ステップと、
をコンピュータに実行させ
、
前記信号強度推定ステップは、前記送信源からの各アンテナでの受信波について、IQ(In-phase and Quadrature-phase)強度分散を測定し、
前記受信波採用ステップは、前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、IQ強度分散が所定分散以下である受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する
ことを特徴とする到来方向測定プログラム。
【請求項7】
送信源からの各アンテナでの受信波の信号強度を推定する信号強度推定ステップと、
前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が所定強度以上である受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する受信波採用ステップと、
信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出するスペクトル算出ステップと、
前記信号部分空間法の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、前記送信源からの受信波の到来方向として採用する到来方向測定ステップと、
をコンピュータに実行させ
、
前記信号強度推定ステップは、前記送信源からの各アンテナでの受信波について、各アンテナを搭載する移動体による死角の影響がないかどうかを判定し、
前記受信波採用ステップは、前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、前記移動体による死角の影響がない受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する
ことを特徴とする到来方向測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ソノブイ等の送信源からの受信波の到来方向を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ソノブイ等の送信源からの受信波の到来方向を測定する技術が、特許文献1、2に開示されている。MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等の信号部分空間法の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、ソノブイからの受信波の到来方向として採用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5730473号明細書
【文献】特許第5730506号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の到来方向測定時のMUSICスペクトルを
図1に示す。ここで、受信レベルが高いときには、最大ピークを与える受信波の到来方向を、ソノブイからの受信波の到来方向として採用すれば、ソノブイからの受信波の到来方向を高精度で測定することができる。一方で、受信レベルが低いときには、最大ピークを与える受信波の到来方向を、ソノブイからの受信波の到来方向として採用しても、ソノブイからの受信波の到来方向を高精度で測定することができない。さらに、受信レベルが低いときには、類似強度ピークを与える受信波の到来方向が複数(
図1では、最大ピーク及び第2ピーク)存在することがあるため、最大ピークを与える誤った受信波の到来方向を、ソノブイからの受信波の到来方向として誤って採用することがあり、第2ピークを与える正しい受信波の到来方向を、ソノブイからの受信波の到来方向として誤って不採用とすることがある。
【0005】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、ソノブイ等の送信源からの受信波の到来方向を測定するにあたり、一部のアンテナでの受信レベルが低いときでも、送信源からの受信波の到来方向を高精度で測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、送信源からの各アンテナでの受信波の信号強度を推定したうえで、送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が所定強度以上である受信波を、送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用することとした。
【0007】
具体的には、本開示は、送信源からの各アンテナでの受信波の信号強度を推定する信号強度推定部と、前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が所定強度以上である受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する受信波採用部と、信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出するスペクトル算出部と、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、前記送信源からの受信波の到来方向として採用する到来方向測定部と、を備えることを特徴とする到来方向測定装置である。
【0008】
また、本開示は、送信源からの各アンテナでの受信波の信号強度を推定する信号強度推定ステップと、前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が所定強度以上である受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用する受信波採用ステップと、信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出するスペクトル算出ステップと、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、前記送信源からの受信波の到来方向として採用する到来方向測定ステップと、をコンピュータに実行させるための到来方向測定プログラムである。
【0009】
これらの構成によれば、一部のアンテナでの受信レベルが低いときでも、他のアンテナでの受信レベルが高いときには、他のアンテナでの高い受信レベルのみを抽出したうえで、最大ピークを与える受信波の到来方向を、送信源からの受信波の到来方向として採用すれば、送信源からの受信波の到来方向を高精度で測定することができる。
【0010】
また、本開示は、前記信号強度推定部は、前記送信源からの各アンテナでの受信波について、IQ(In-phase and Quadrature-phase)強度分散を測定し、前記受信波採用部は、前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、IQ強度分散が所定分散以下である受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用することを特徴とする到来方向測定装置である。
【0011】
この構成によれば、各アンテナでの受信レベルを測定する検出回路等を要さなくても、各アンテナでの受信波についてのIQ強度分散を測定することにより、各アンテナでの受信レベルを疑似的に測定することができる。なお、各アンテナでの受信波についてのIQ強度分散の測定は、受信波のIQ強度が位相約2πradに渡って測定されれば足りる。
【0012】
また、本開示は、前記信号強度推定部は、前記送信源からの各アンテナでの受信波について、各アンテナを搭載する移動体による死角の影響がないかどうかを判定し、前記受信波採用部は、前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、前記移動体による死角の影響がない受信波を、前記送信源からの受信波の到来方向の測定用に採用することを特徴とする到来方向測定装置である。
【0013】
この構成によれば、各アンテナでの受信レベルを測定する検出回路等を要さなくても、各アンテナでの受信波についての移動体の死角の影響を判定することにより、各アンテナでの受信レベルを疑似的に測定することができる。なお、各アンテナでの受信波についての移動体の死角の影響の判定は、各アンテナの位置、移動体の姿勢及び受信波の到来方向が既知であれば足りる。
【0014】
また、本開示は、前記送信源からの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が前記所定強度以上である受信波に基づいて、前記送信源からの受信波の到来方向を前記信号部分空間法の到来方向スペクトルの高精度算出前に低精度測定する到来方向粗測定部、をさらに備え、前記スペクトル算出部は、前記送信源からの受信波の到来方向の低精度測定値の周辺のみにおける、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルを高精度算出することを特徴とする到来方向測定装置である。
【0015】
この構成によれば、信号部分空間法の到来方向スペクトルを広範囲で低精度算出してから限定範囲で高精度算出するため、信号部分空間法の到来方向スペクトルの算出負担を軽減することができる。なお、この構成は、到来方向測定装置の周囲の全方位角方向における信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出するため、送信源からの受信波の到来方向をまだ高精度で予測することができていない初期処理時に特に適用することができる。
【0016】
また、本開示は、前記送信源の位置の前回測定値、前記送信源からの受信波の到来方向の前回測定値、前記送信源の位置の予測値、前記到来方向測定装置の位置及び前記到来方向測定装置の運動の少なくともいずれかに基づいて、前記送信源からの受信波の到来方向を前記信号部分空間法の到来方向スペクトルの算出前に予測する到来方向予測部、をさらに備え、前記スペクトル算出部は、前記送信源からの受信波の到来方向の予測値の周辺のみにおける、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出することを特徴とする到来方向測定装置である。
【0017】
この構成によれば、信号部分空間法の到来方向スペクトルの算出間隔を小さくするときでも、信号部分空間法の到来方向スペクトルの算出負担を軽減することができる。なお、この構成は、送信源からの受信波の到来方向の予測値の周辺のみにおける信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出するため、送信源からの受信波の到来方向をすでに高精度で予測することができている定常処理時に特に適用することができる。
【0018】
また、本開示は、前記スペクトル算出部は、測定精度のより高い受信波の到来方向において、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出する受信波の到来方向の角度間隔をより小さくし、測定精度のより低い受信波の到来方向において、前記信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出する受信波の到来方向の角度間隔をより大きくすることを特徴とする到来方向測定装置である。
【0019】
この構成によれば、測定精度の高い受信波の到来方向において、信号部分空間法の到来方向スペクトルの算出精度を向上することができ、測定精度の低い受信波の到来方向において、信号部分空間法の到来方向スペクトルの算出負担を軽減することができる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本開示は、ソノブイ等の送信源からの受信波の到来方向を測定するにあたり、一部のアンテナでの受信レベルが低いときでも、送信源からの受信波の到来方向を高精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来技術の到来方向測定時のMUSICスペクトルを示す図である。
【
図2】本開示のソノブイ位置標定システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】本開示の到来方向測定の初期処理を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の到来方向測定の定常処理を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の信号強度推定の処理内容を示す図である。
【
図6】本開示の信号強度推定の処理内容を示す図である。
【
図7】本開示の到来方向測定の初期処理時のMUSICスペクトルを示す図である。
【
図8】本開示の到来方向測定の定常処理時のMUSICスペクトルを示す図である。
【
図9】本開示の到来方向予測の処理内容を示す図である。
【
図10】本開示のMUSICスペクトルの算出間隔を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0023】
本開示のソノブイ位置標定システムの構成を
図2に示す。ソノブイ位置標定システムSは、航空機に搭載され、ソノブイ電波受信装置1、到来方向測定装置2及びソノブイ位置標定装置3から構成される。ソノブイ電波受信装置1は、N本のアンテナ11-1、11-2、・・・、11-N、N個のRF受信部12-1、12-2、・・・、12-N及びN個のIQ検波部13-1、13-2、・・・、13-Nから構成される。到来方向測定装置2は、スペクトル算出部21、到来方向測定部22、信号強度推定部23、受信波採用部24、到来方向粗測定部25及び到来方向予測部26から構成される。到来方向測定装置2は、到来方向測定プログラムをコンピュータにインストールすることにより、実現することができる。ソノブイ位置標定装置3は、ソノブイ位置標定プログラムをコンピュータにインストールすることにより、実現することができる。
【0024】
各アンテナ11-1、11-2、・・・、11-Nは、ソノブイからの電波を受信する。各RF受信部12-1、12-2、・・・、12-Nは、各RF信号を出力する。各IQ検波部13-1、13-2、・・・、13-Nは、各IQ信号を出力する。
【0025】
スペクトル算出部21は、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等の信号部分空間法の到来方向スペクトルを算出する。到来方向測定部22は、MUSIC法等の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、ソノブイからの受信波の到来方向として採用する。信号強度推定部23、受信波採用部24、到来方向粗測定部25及び到来方向予測部26については、
図3から
図9までを用いて後述する。
【0026】
ソノブイ位置標定装置3は、カルマンフィルタ等を用いて、ソノブイからの受信波の到来方向の測定値、航空機の位置及び姿勢、並びに、ソノブイの標定位置の前回値に基づいて、ソノブイの標定位置の今回値及び収束指標を算出する。
【0027】
本開示の到来方向測定の初期処理を
図3に示す。本開示の到来方向測定の定常処理を
図4に示す。なお、
図3に示した到来方向測定の処理は、本実施形態では、到来方向測定の初期時に適用されているが、変形例として、到来方向測定の定常時に適用されてもよい。また、
図4に示した到来方向測定の処理は、本実施形態では、到来方向測定の定常時に適用されているが、変形例として、到来方向測定の初期時に適用されてもよい。
【0028】
まず、本開示の到来方向測定の初期処理及び定常処理のうちの受信波採用について説明する。本開示の信号強度推定の処理内容を
図5及び
図6に示す。信号強度推定部23は、ソノブイからの各アンテナでの受信波の信号強度を推定する。そして、受信波採用部24は、ソノブイからの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が所定強度以上である受信波を、ソノブイからの受信波の到来方向の測定用に採用する。
【0029】
ここで、各アンテナでの受信波についてのIQ強度分散の測定は、受信波のIQ強度が位相約2πradに渡って測定されれば足りる。そして、各アンテナでの受信波についての航空機の死角の影響の判定は、各アンテナの位置、航空機の姿勢及び受信波の到来方向(
図9で詳述)が既知であれば足りる。
【0030】
そこで、信号強度推定部23は、ソノブイからの各アンテナでの受信波について、IQ強度分散を測定する(ステップS1、S21)。
図5において、受信レベルが低いときには、規格化IQ強度の標準偏差が大きく、規格化IQプロットが分散するが、受信レベルが高いときには、規格化IQ強度の標準偏差が小さく、規格化IQプロットが円を描く。
【0031】
そして、信号強度推定部23は、ソノブイからの各アンテナでの受信波について、航空機による死角の影響がないかどうかを判定する(ステップS2、S22)。
図6において、ソノブイBと空中線A1とを結ぶ直線上では、航空機Pによる死角の影響が大きいため、空中線A1での受信レベルは低くなるが、ソノブイBと空中線A2とを結ぶ直線上では、航空機Pによる死角の影響が小さいため、空中線A2での受信レベルは高くなる。
【0032】
受信波採用部24は、ソノブイからの各アンテナでの受信波のうちの、IQ強度分散が所定分散以下である受信波であり(ステップS3、S23でYES、
図5の右欄)、かつ、航空機による死角の影響がない受信波を(ステップS4、S24でNO、
図6の右欄)、ソノブイからの受信波の到来方向の測定用に採用する(ステップS5、S25)。
【0033】
受信波採用部24は、ソノブイからの各アンテナでの受信波のうちの、IQ強度分散が所定分散より大きい受信波であり(ステップS3、S23でNO、
図5の左欄)、又は、航空機による死角の影響がある受信波を(ステップS4、S24でYES、
図6の左欄)、ソノブイからの受信波の到来方向の測定用に採用しない(ステップS6、S26)。
【0034】
このように、一部のアンテナでの受信レベルが低いときでも、他のアンテナでの受信レベルが高いときには、他のアンテナでの高い受信レベルのみを抽出したうえで、最大ピークを与える受信波の到来方向を、ソノブイからの受信波の到来方向として採用すれば、ソノブイからの受信波の到来方向を高精度で測定することができる。
【0035】
そして、各アンテナでの受信レベルを測定する検出回路等を要さなくても、各アンテナでの受信波についてのIQ強度分散を測定することにより、各アンテナでの受信レベルを疑似的に測定することができる。さらに、各アンテナでの受信レベルを測定する検出回路等を要さなくても、各アンテナでの受信波についての航空機の死角の影響を判定することにより、各アンテナでの受信レベルを疑似的に測定することができる。
【0036】
次に、本開示の到来方向測定の初期処理のうちの到来方向測定について説明する。本開示の到来方向測定の初期処理時のMUSICスペクトルを
図7に示す。到来方向粗測定部25は、ソノブイからの各アンテナでの受信波のうちの、信号強度が所定強度以上である受信波に基づいて、ソノブイからの受信波の到来方向をMUSIC法等の到来方向スペクトルの高精度算出前に低精度測定する(ステップS7)。
図7の上段において、ステップS1~S6に示した受信波採用処理により受信レベルが高くなっており、高強度ピークを与える受信波の到来方向が1方向のみ存在している。
【0037】
スペクトル算出部21は、ソノブイからの受信波の到来方向の低精度測定値の周辺のみにおける、MUSIC法等の到来方向スペクトルを高精度算出する(ステップS8)。
図7の下段において、ステップS1~S6に示した受信波採用処理により受信レベルが高くなっており、高強度ピークを与える受信波の到来方向が1方向のみ存在している。
【0038】
到来方向測定部22は、ソノブイからの受信波の到来方向の低精度測定値の周辺のみにおける、MUSIC法等の到来方向スペクトルのうちの、最大ピーク値を検出する(ステップS9)。
【0039】
そして、到来方向測定部22は、最大ピーク値が所定値以上であるときに(ステップS10でYES)、ソノブイからの受信波の到来方向の低精度測定値の周辺における、MUSIC法等の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、ソノブイからの受信波の到来方向として採用する(ステップS11)。
図7の下段において、ステップS1~S6に示した受信波採用処理により受信レベルが高くなっており、受信波の到来方向の低精度測定値の周辺のうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向が、ソノブイからの受信波の到来方向として正しく採用されている。
【0040】
一方で、到来方向測定部22は、最大ピーク値が所定値より小さいときに(ステップS10でNO)、ソノブイからの受信波の到来方向の低精度測定値が誤りである、又は、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出範囲が狭いと判定する(ステップS12)。そして、
図3に示した初期処理を再度実行した後に、
図4に示した定常処理を後に実行する。
【0041】
ここで、ソノブイからの受信波の到来方向の測定精度が低いときには、所定値以上である最大ピークを抽出することができるように、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出範囲を広くすることが望ましい。一方で、ソノブイからの受信波の到来方向の測定精度が高いときには、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出範囲を狭くしたとしても、所定値以上である最大ピークを抽出することができると考えられる。
【0042】
このように、MUSIC法等の到来方向スペクトルを広範囲で低精度算出してから限定範囲で高精度算出するため、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出負担を軽減することができる。なお、
図3及び
図7に示した構成は、航空機の周囲の全方位角方向におけるMUSIC法等の到来方向スペクトルを算出するため、ソノブイからの受信波の到来方向をまだ高精度で予測することができていない初期処理時に特に適用することができる。
【0043】
次に、本開示の到来方向測定の定常処理のうちの到来方向測定について説明する。本開示の到来方向測定の定常処理時のMUSICスペクトルを
図8に示す。到来方向予測部26は、ソノブイの位置の前回測定値、ソノブイからの受信波の到来方向の前回測定値、ソノブイの位置の予測値、並びに、航空機の位置、姿勢及び運動の少なくともいずれかに基づいて、ソノブイからの受信波の到来方向を予測する(ステップS27、
図9で詳述)。
【0044】
スペクトル算出部21は、ソノブイからの受信波の到来方向の予測値の周辺のみにおける、MUSIC法等の到来方向スペクトルを算出する(ステップS28)。
図8において、ステップS21~S26に示した受信波採用処理により受信レベルが高くなっており、高強度ピークを与える受信波の到来方向が1方向のみ存在している。
【0045】
到来方向測定部22は、ソノブイからの受信波の到来方向の予測値の周辺のみにおける、MUSIC法等の到来方向スペクトルのうちの、最大ピーク値を検出する(ステップS29)。
【0046】
そして、到来方向測定部22は、最大ピーク値が所定値以上であるときに(ステップS30でYES)、ソノブイからの受信波の到来方向の予測値の周辺における、MUSIC法等の到来方向スペクトルのうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向を、ソノブイからの受信波の到来方向として採用する(ステップS31)。
図8において、ステップS21~S26に示した受信波採用処理により受信レベルが高くなっており、受信波の到来方向の予測値の周辺のうちの、最大ピークを与える受信波の到来方向が、ソノブイからの受信波の到来方向として正しく採用されている。
【0047】
一方で、到来方向測定部22は、最大ピーク値が所定値より小さいときに(ステップS30でNO)、ソノブイからの受信波の到来方向の予測値が誤りである、又は、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出範囲が狭いと判定する(ステップS32)。そして、
図3に示した初期処理を再度実行した後に、
図4に示した定常処理を再度実行する。
【0048】
ここで、ソノブイからの受信波の到来方向の予測精度が低いときには、所定値以上である最大ピークを抽出することができるように、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出範囲を広くすることが望ましい。一方で、ソノブイからの受信波の到来方向の予測精度が高いときには、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出範囲を狭くしたとしても、所定値以上である最大ピークを抽出することができると考えられる。
【0049】
このように、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出間隔を小さくするときでも、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出負担を軽減することができる。なお、
図4及び
図8に示した構成は、ソノブイからの受信波の到来方向の予測値の周辺のみにおけるMUSIC法等の到来方向スペクトルを算出するため、ソノブイからの受信波の到来方向をすでに高精度で予測することができている定常処理時に特に適用することができる。
【0050】
本開示の到来方向予測の処理内容を
図9に示す。ステップS2、S22、S27に示した本開示の到来方向予測の具体例を、第1から第3までの方法として示す。
【0051】
第1の方法では、信号強度推定部23及び到来方向予測部26は、ソノブイBの位置の前回測定値及び航空機Pの現在位置に基づいて、ソノブイBからの受信波の到来方向を予測する。つまり、ソノブイBの真位置が短期間ではほぼ移動しないと考えられるときに、ソノブイBの位置の前回測定値と航空機Pの現在位置とを結ぶことにより、ソノブイBからの受信波の到来方向の今回値を予測することができる。
【0052】
第2の方法では、信号強度推定部23及び到来方向予測部26は、ソノブイBからの受信波の到来方向の前回測定値及び航空機Pの運動に基づいて、ソノブイBからの受信波の到来方向を予測する。つまり、ソノブイBの真位置が短期間ではほぼ移動しないと考えられるときに、ソノブイBからの受信波の到来方向の前回測定値に航空機Pの運動を加味することにより、ソノブイBからの受信波の到来方向の今回値を予測することができる。
【0053】
第3の方法では、信号強度推定部23及び到来方向予測部26は、ソノブイBの位置の予測値及び航空機Pの位置に基づいて、ソノブイBからの受信波の到来方向を予測する。つまり、ソノブイBの真位置が長期間では移動すると考えられるときに、パーティクルフィルタ等を用いて、ソノブイBの位置の予測値と航空機Pの現在位置とを結ぶことにより、ソノブイBからの受信波の到来方向の今回値を予測することができる。
【0054】
本開示のMUSICスペクトルの算出間隔を
図10に示す。航空機Pは、ソノブイ電波受信装置1のアンテナとして、機首・機尾方向の長い間隔を有する複数の空中線ALと、主翼方向の短い間隔を有する複数の空中線ASと、を胴体の下部に配置している。
【0055】
ここで、
図10の左欄において、ソノブイ電波が主翼方向から到来するときには、機首・機尾方向の長い間隔を有する複数の空中線ALを用いることにより、ソノブイからの受信波の到来方向の測定精度が高くなる。一方で、
図10の右欄において、ソノブイ電波が機首・機尾方向から到来するときには、主翼方向の短い間隔を有する複数の空中線ASを用いることにより、ソノブイからの受信波の到来方向の測定精度が低くなる。
【0056】
そこで、スペクトル算出部21は、
図7及び
図8に示したMUSIC法等の到来方向スペクトルのうちの、測定精度のより高い受信波の到来方向において、MUSIC法等の到来方向スペクトルを算出する受信波の到来方向の角度間隔をより小さくする。一方で、スペクトル算出部21は、
図7及び
図8に示したMUSIC法等の到来方向スペクトルのうちの、測定精度のより低い受信波の到来方向において、MUSIC法等の到来方向スペクトルを算出する受信波の到来方向の角度間隔をより大きくする。
【0057】
このように、測定精度の高い受信波の到来方向において、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出精度を向上することができ、測定精度の低い受信波の到来方向において、MUSIC法等の到来方向スペクトルの算出負担を軽減することができる。
【0058】
本実施形態では、ソノブイからの受信波の到来方向を測定している。変形例として、ソノブイに限定されない送信源からの受信波の到来方向を測定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示の到来方向測定装置及び到来方向測定プログラムは、ソノブイ等の送信源からの受信波の到来方向を測定するにあたり、一部のアンテナでの受信レベルが低いときでも、送信源からの受信波の到来方向を高精度で測定することができる。
【符号の説明】
【0060】
S:ソノブイ位置標定システム
B:ソノブイ
P:航空機
A1、A2、AL、AS:空中線
1:ソノブイ電波受信装置
2:到来方向測定装置
3:ソノブイ位置標定装置
11-1、11-2、11-N:アンテナ
12-1、12-2、12-N:RF受信部
13-1、13-2、13-N:IQ検波部
21:スペクトル算出部
22:到来方向測定部
23:信号強度推定部
24:受信波採用部
25:到来方向粗測定部
26:到来方向予測部