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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】流体噴霧プレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/16 20060101AFI20220906BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20220906BHJP
   B23K 1/14 20060101ALI20220906BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20220906BHJP
   F02M 61/18 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
F02M61/16 P
B23K1/00 330N
B23K1/14 B
F02M51/06 U
F02M61/18 340D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018156463
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020029827
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【弁理士】
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 武
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-517025(JP,A)
【文献】特開2015-175308(JP,A)
【文献】特開2004-042085(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0214890(US,A1)
【文献】特開2005-319503(JP,A)
【文献】特開平11-090619(JP,A)
【文献】実開平04-098366(JP,U)
【文献】特開2008-085135(JP,A)
【文献】特開2007-103909(JP,A)
【文献】特開2006-062373(JP,A)
【文献】特開2006-194136(JP,A)
【文献】特開2012-077664(JP,A)
【文献】特開2004-278464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 51/00,61/00
B23K 1/00
H01L 23/40
B21D 39/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面にろう材が形成された第1シートを取得する第1シート取得工程と、
前記第1シートの前記片面に接触する第2シートを取得する第2シート取得工程と、
流体移動を調整する機能溝を前記第1シートに形成する機能溝形成工程と、
前記第1シートおよび前記第2シートの少なくとも一方に対して、有効領域と非有効領域とを距てる距て領域を形成する距て領域形成工程と、
前記第1シートと前記第2シートとを前記ろう材により接合する接合工程と、
流体を噴霧させる噴霧孔を前記第2シートに形成する噴霧孔形成工程と、
接合された前記第1シートおよび前記第2シートから流体噴霧プレートを取り出す取り出し工程と、を有し、
前記有効領域は、前記距て領域の内縁によって定まるとともに前記取り出し工程により取り出される前記流体噴霧プレートの外形と当該外形を囲う切り離し領域とを含み、
前記接合工程は、前記距て領域の内縁と外縁との間の領域に接合ヘッドの先端の外縁が位置するように当該先端を押し当てて、前記有効領域における前記第1シートと前記第2シートとを接合することを特徴とする流体噴霧プレートの製造方法。
【請求項2】
前記距て領域形成工程は、前記有効領域の外端に沿って設けられる溝部と、当該有効領域と前記非有効領域とを接続する接続部と、を有して前記距て領域を形成することを特徴とする請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法。
【請求項3】
前記距て領域形成工程は、前記第1シートおよび前記第2シートに距て領域を形成し、当該第1シートに形成される前記接続部の位置と当該第2シートに形成される当該接続部の位置とは、当該第1シートと当該第2シートとを接合するに際して重ね合わせた際に位置がずれていることを特徴とする請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法。
【請求項4】
前記第1シートに対して加工の位置基準となる基準孔を形成する基準孔形成工程と、
前記第1シートと前記第2シートとを接合するに際して重ね合わせた際に前記基準孔を塞がない孔を当該第2シートに形成する孔形成工程と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至何れか1項記載の流体噴霧プレートの製造方法。
【請求項5】
前記基準孔形成工程により形成される前記基準孔は、前記孔形成工程により形成される前記孔に比べて外形が小さいことを特徴とする請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法。
【請求項6】
前記機能溝形成工程は、前記第1シートに形成された前記基準孔を基準として前記機能溝を形成し、
前記噴霧孔形成工程は、前記第1シートに形成された前記基準孔を基準として前記第2シートに対して前記噴霧孔を形成することを特徴とする請求項または記載の流体噴霧プレートの製造方法。
【請求項7】
流体噴霧プレートの製造方法であって、
片面にろう材が形成された第1シートを取得する第1シート取得工程と、
前記第1シートの前記片面に接触する第2シートを取得する第2シート取得工程と、
流体移動を調整する機能溝を前記第1シートに形成する機能溝形成工程と、
前記第1シートおよび前記第2シートの少なくとも一方に対して、前記流体噴霧プレートの外形を形成する取り出し領域よりも大きな外側に内縁を有する溝を形成する溝形成工程と、
前記第1シートと前記第2シートとを前記ろう材により接合する接合工程と、
前記接合工程の後に、流体を噴霧させる噴霧孔を前記第2シートに形成する噴霧孔形成工程と、
接合された前記第1シートおよび前記第2シートから前記流体噴霧プレートを取り出す取り出し工程と、を有し、
前記接合工程は、前記ろう材を介して重ね合わされた前記第1シートと前記第2シートとに、接合ヘッドの先端を押し当てて接合し、
前記溝形成工程では、前記接合工程にて前記第1シートおよび前記第2シートに押し当てられる前記接合ヘッドの前記先端の外縁が前記溝の前記内縁と当該溝の外縁との間に位置できる形状にて、当該溝が形成されること
を特徴とする流体噴霧プレートの製造方法。
【請求項8】
前記取り出し工程は、前記溝形成工程にて形成された前記溝よりも内側にて前記流体噴霧プレートを取り出すことを特徴とする請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法。
【請求項9】
前記溝形成工程は、前記第1シートおよび前記第2シートに、前記溝の内縁側と当該溝の外縁側とを接続する接続部を形成し、当該第1シートに形成される当該接続部の位置と当該第2シートに形成される当該接続部の位置とは、当該第1シートと当該第2シートとを接合するに際して重ね合わせた際に位置がずれるように形成されることを特徴とする請求項7または8記載の流体噴霧プレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴霧プレートの製造方法および流体噴霧プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
帯状の原材料である帯状体に対し、長手方向に沿って各種加工を施すことにより、部品等を製造することが知られている。
例えば特許文献1には、シート材に対して片面からエッチングを施して肉薄領域を形成し、この肉薄領域が予め定められた間隔を有して長手方向に配置される短冊状片をシート材に対して両面からエッチングを施して複数配列させて形成する被エッチングシート材形成工程と、被エッチングシート材から複数の短冊状片を切り離し、一の短冊状片の一端に設けられる一端係合部と、他の短冊状片の他端に設けられる他端係合部とを、被エッチングシート材形成工程による両面からのエッチングの結果で得られた壁面の形状を利用して係合させる係合工程と、係合工程により複数の短冊状片が係合された帯状体を送り出し、肉薄領域を含んだ領域に対して連続的に機械加工を施す機械加工工程と、を有することを特徴とする部材製造方法が開示されている。
また、例えば特許文献2には、金属性の薄膜(35)を準備し、薄膜(35)に同一の開口幾何学形状(27)を設け、センタリング装置(57)を用いて個々の薄膜(35)を重ね合わせ、接合法を使用して薄膜(35)を結合して、多数の円形プレート(53)を備えた孔付きディスクバンド(39)を形成し、孔付きディスクバンド(39)から孔付きディスク(21)もしくは円形プレート(53)を個別化する方法ステップを行うことを特徴とする噴射弁用の孔付きディスクの製法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6259139号公報
【文献】特表2000-517025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2枚のシートを重ねて最終的にオリフィスプレートなどの流体噴霧プレートを製造すると、溝を有する流体噴霧プレートの製造が、シートを切削して製造する場合に比べて簡易に行える。
ここで、抵抗接続などにより2枚のシートを重ね合わせる接合面は、少なくとも電極ヘッドの大きさよりも小さくなり、例えば連続したシートを用いる場合に、シートの全面を面接合することが困難となる。そのため、連続帯材を用いた場合には、接合された部分とされていない部分とが一定ピッチで交互に存在することとなり、平坦性の阻害要因となる。また、接合を加圧しながら行なった場合には、電極ヘッドの圧力で押された溶解部分が外周に押しやられ、非溶解部分との境界に溜まりこむか、隙間に染み込むこととなり、固形後にて、平坦性を阻害する原因となる。
【0005】
本発明の製造方法は、シートを重ね合わせて形成される流体噴霧プレートについて、面接合による平坦性を良好とした流体噴霧プレートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載された発明は、片面にろう材が形成された第1シートを取得する第1シート取得工程と、前記第1シートの前記片面に接触する第2シートを取得する第2シート取得工程と、流体移動を調整する機能溝を前記第1シートに形成する機能溝形成工程と、前記第1シートおよび前記第2シートの少なくとも一方に対して、有効領域と非有効領域とを距てる距て領域を形成する距て領域形成工程と、前記第1シートと前記第2シートとを前記ろう材により接合する接合工程と、流体を噴霧させる噴霧孔を前記第2シートに形成する噴霧孔形成工程と、接合された前記第1シートおよび前記第2シートから流体噴霧プレートを取り出す取り出し工程と、を有し、前記有効領域は、前記距て領域の内縁によって定まるとともに前記取り出し工程により取り出される前記流体噴霧プレートの外形と当該外形を囲う切り離し領域とを含み、前記接合工程は、前記距て領域の内縁と外縁との間の領域に接合ヘッドの先端の外縁が位置するように当該先端を押し当てて、前記有効領域における前記第1シートと前記第2シートとを接合することを特徴とする流体噴霧プレートの製造方法である。
請求項2に記載された発明は、前記距て領域形成工程は、前記有効領域の外端に沿って設けられる溝部と、当該有効領域と前記非有効領域とを接続する接続部と、を有して前記距て領域を形成することを特徴とする請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法である。
請求項に記載された発明は、前記距て領域形成工程は、前記第1シートおよび前記第2シートに距て領域を形成し、当該第1シートに形成される前記接続部の位置と当該第2シートに形成される当該接続部の位置とは、当該第1シートと当該第2シートとを接合するに際して重ね合わせた際に位置がずれていることを特徴とする請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法である。
請求項に記載された発明は、前記第1シートに対して加工の位置基準となる基準孔を形成する基準孔形成工程と、前記第1シートと前記第2シートとを接合するに際して重ね合わせた際に前記基準孔を塞がない孔を当該第2シートに形成する孔形成工程と、を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至何れか1項記載の流体噴霧プレートの製造方法である。
請求項に記載された発明は、前記基準孔形成工程により形成される前記基準孔は、前記孔形成工程により形成される前記孔に比べて外形が小さいことを特徴とする請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法である。
請求項に記載された発明は、前記機能溝形成工程は、前記第1シートに形成された前記基準孔を基準として前記機能溝を形成し、前記噴霧孔形成工程は、前記第1シートに形成された前記基準孔を基準として前記第2シートに対して前記噴霧孔を形成することを特徴とする請求項または記載の流体噴霧プレートの製造方法である。
請求項に記載された発明は、流体噴霧プレートの製造方法であって、片面にろう材が形成された第1シートを取得する第1シート取得工程と、前記第1シートの前記片面に接触する第2シートを取得する第2シート取得工程と、流体移動を調整する機能溝を前記第1シートに形成する機能溝形成工程と、前記第1シートおよび前記第2シートの少なくとも一方に対して、前記流体噴霧プレートの外形を形成する取り出し領域よりも大きな外側に内縁を有する溝を形成する溝形成工程と、前記第1シートと前記第2シートとを前記ろう材により接合する接合工程と、前記接合工程の後に、流体を噴霧させる噴霧孔を前記第2シートに形成する噴霧孔形成工程と、接合された前記第1シートおよび前記第2シートから前記流体噴霧プレートを取り出す取り出し工程と、を有し、前記接合工程は、前記ろう材を介して重ね合わされた前記第1シートと前記第2シートとに、接合ヘッドの先端を押し当てて接合し、前記溝形成工程では、前記接合工程にて前記第1シートおよび前記第2シートに押し当てられる前記接合ヘッドの前記先端の外縁が前記溝の前記内縁と当該溝の外縁との間に位置できる形状にて、当該溝が形成されることを特徴とする流体噴霧プレートの製造方法である。
請求項8に記載された発明は、前記取り出し工程は、前記溝形成工程にて形成された前記溝よりも内側にて前記流体噴霧プレートを取り出すことを特徴とする請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法である。
請求項に記載された発明は、前記溝形成工程は、前記第1シートおよび前記第2シートに、前記溝の内縁側と当該溝の外縁側とを接続する接続部を形成し、当該第1シートに形成される当該接続部の位置と当該第2シートに形成される当該接続部の位置とは、当該第1シートと当該第2シートとを接合するに際して重ね合わせた際に位置がずれるように形成されることを特徴とする請求項7または8記載の流体噴霧プレートの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の流体噴霧プレートの製造方法によれば、2枚のシートを重ね合わせて形成される流体噴霧プレートについて、距て領域で距てられ接合される有効領域に限定して溶解させることを行なわない場合に比べて、接合した際の面接合による平坦性を良好とすることができる。
請求項2記載の流体噴霧プレートの製造方法によれば、接合される有効領域と接合されない非有効領域とを、溝と接続部とを有する距て領域によって距てない場合に比べて、電流の偏りを抑制した状態でより高い平坦性を確保できる。
請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法によれば、接続部の位置にてろう材の逃げ場を確保できる。
請求項および記載の流体噴霧プレートの製造方法によれば、加工時の位置決めを第1シートの基準孔に統一できる。
請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法によれば、第1シートに形成される機能溝の形成位置と、第2シートに形成される噴霧孔の形成位置との位置精度を、本構成を採用しない場合に比べて高めることができる。
【0008】
請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法によれば、流体噴霧プレートの外形を形成する取り出し領域よりも大きな外側に内縁を有する溝を形成し接合後に噴霧孔を形成する構成を採用しない場合に比べて、平坦性が良好になるとともに、機能溝と噴霧孔との位置精度が良好となる。
請求項8記載の流体噴霧プレートの製造方法によれば、本構成を採用しない場合に比べて、第1シート、第2シート、および溶解した後のろう材の取り出し面を揃えることができる。
請求項記載の流体噴霧プレートの製造方法によれば、接続部の位置にてろう材の逃げ場を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)、(b)は、燃料噴霧オリフィスプレートの製造方法を示す図である。
図2】(a)、(b)は、抜き工程による加工後のシートを示した図である。
図3】重ね工程にて、シートAとシートBとが重ね合わされた状態を示した図である。
図4】(a)、(b)は、接合工程を説明するための図である。
図5】噴霧孔形成工程を説明するための図である。
図6】(a)、(b)は、本実施の形態が適用される燃料噴霧オリフィスプレートの構成を説明するための図である。
図7】(a)、(b)は、電極ヘッドの先端の位置と距て領域の位置との関係による接合部の状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態では、図示しない内燃機関のシリンダ内に、渦状に燃料を噴霧するために用いられる燃料噴霧オリフィスプレート100(後述する図6参照)を例とし、その製造方法および構成に関する説明を行う。
【0011】
〔燃料噴霧オリフィスプレートの製造方法〕
図1図5を用いて、本実施の形態が適用される燃料噴霧オリフィスプレートの製造方法について説明する。
図1(a)、(b)は、流体噴霧プレートの一つとしての燃料噴霧オリフィスプレートの製造方法を示す図である。ここで図1(a)はシートAの片面にメッキ処理を施すろう材処理工程210を示した図であり、図1(b)は、ろう材処理工程210にて、ろう材の一つであるメッキが片面に形成されたロール状のシートA20と、ろう材が形成されていないロール状のシートB30とから、燃料噴霧オリフィスプレート100を製造する製造工程を示した図である。
【0012】
〔ろう材処理工程〕
図1(a)に示すろう材処理工程210では、ロール状に巻かれた部材であるシート10を準備する準備工程211と、シート10の一方の面に保護膜216を付ける保護膜形成工程212と、シート10にろう材21の層を形成するメッキ処理工程213と、保護膜216を剥離する保護膜剥離工程214と、片面にろう材21が形成されたシート10をロール状に巻いてシートA20として巻き取る巻き工程215とを有している。
【0013】
準備工程211にて準備されるシート10は、導電材である金属の板材であり、腐食が無く、加工し易く、世の中に広く普及されていて廉価であるもの、といった観点から、ステンレス鋼を採用することができる。例えばSUS304がロール状に巻かれた状態で準備される。選定されるシート10としては、燃料噴霧オリフィスプレート100に形成されるスワール溝の深さを決定するものとして、好ましい厚さのものが選定される(後述)。なお、メッキ処理工程213に入る前にて、良好なメッキ面を得るために脱脂を兼ねた洗浄や活性化処理が行われる。
【0014】
保護膜形成工程212では、準備工程211にて準備されたシート10の一方の面に、保護膜216が付加される。この保護膜216としては、例えばポリエステルを基材とするフィルムであって貼り付け面に粘着剤が付与されているもの等が用いられる。
【0015】
メッキ処理工程213では、保護膜216が一方の面に付けられたシート10を、ニッケルメッキ浴217に通し、保護膜216が形成されていない他方の面にろう材21を形成する。無電解ニッケルに求められるパラメータとしては、その後の抵抗接合を考慮して、
・ 抵抗値が高いことで溶解が優先的に起こること、
・ 融点が低いこと、
・ 数μの膜厚でよいこと、
などが求められる。この抵抗と融点とに関して、ニッケル・リンのメッキを用いることが好ましい。なお、リンのパーセンテージが高く、純度が低下するほど、抵抗値が高くなり、融点が低くなる。一般の無電解ニッケルメッキ液は、リンの濃度により幾つかのランクに分類されているが、本実施形態では、例えばリン濃度の高い、10~13%の高リンタイプが用いられる。
このように、ニッケルメッキ浴217では、例えば次亜リン酸塩を還元剤としたメッキ浴が用いられ、形成されるろう材21としては、Ni-P合金のメッキ膜で構成される。なお、以下では、無電解Ni-Pメッキを、単に「無電解ニッケルメッキ」と呼ぶ場合がある。
【0016】
保護膜剥離工程214では、メッキ処理工程213を経由し、ろう材21が形成されたシート10の一方の面から、保護膜216を剥離する。
【0017】
その後、巻き工程215では、一方の面から保護膜216が剥離され、他方の面である片面にろう材21が形成されたシート10を巻き取り、第1シートであるシートA20が形成され、取得される。なお、このように形成して取得されるシートA20の無電解ニッケルメッキ層の厚さは、例えば1~2μmである。
【0018】
〔燃料噴霧オリフィスプレートの製造工程〕
図1(b)に示す製造工程では、加工を施す板材であるシートを準備する準備工程220と、シートA20とシートB30とに、抜き型である金型231を用いて各種の孔を形成する抜き工程230とを有する。また、抜き工程230による打ち抜きがなされたシートA20とシートB30とを、ろう材21を挟んで重ねる重ね工程240と、重ねられたシートA20とシートB30とを電極ヘッド251を用いて接合する接合工程250とを有する。更に、接合工程250により接合されたシートに対して金型261によって噴霧孔を形成する噴霧孔形成工程260と、噴霧孔が形成されたシートから金型271を用いて外形を打ち抜く打ち抜き工程270と、打ち抜かれた燃料噴霧オリフィスプレート100を取り出す取り出し工程280と、を有する。打ち抜き工程270と取り出し工程280とを一つとして「取り出し工程」とすることもできる。本実施の形態が適用される燃料噴霧オリフィスプレートの製造工程では、ロール状に巻かれた金属シートを送り出し、巻き取る過程で加工を施す、所謂ロールtoロールを用いて、金属フープ材を面接合している。
【0019】
〔準備工程220〕
準備工程220は、第1シート取得工程と、第2シート取得工程とを含んで構成される。第1シート取得工程は、例えば図1(a)に示すようなろう材処理工程210にて片面にろう材21が形成された第1シートであるシートA20を取得する。また、第2シート取得工程では、導電材である金属の板材であって、ろう材が形成されていない第2シートであるシートB30を取得する。シートB30は、導電材である金属の板材であり、シートA20の基材と同様な、例えばSUS304のステンレス鋼がロール状に巻かれた状態で準備される。選定されるシートB30としては、燃料噴霧オリフィスプレート100に形成される噴霧孔を形成するものとして、また、基材としての剛性を考慮して、好ましい厚さのものが選定される(後述)。
【0020】
〔抜き工程230〕
抜き工程230では、シートA20とシートB30とに各種の孔を形成する。片面にろう材21が形成された第1シートであるシートA20には金型231を用いて加工を施し、第2シートであるシートB30には金型235を用いて加工を施している。
図2(a)、(b)は、抜き工程230による加工後のシートを示した図であり、図2(a)はシートA20に施される加工を示し、図2(b)はシートB30に施される加工を示している。なお、抜き工程230は、本発明における機能溝形成工程、距て領域形成工程、溝形成工程、基準孔形成工程、孔形成工程、等の一つとして機能する。
【0021】
図2(a)に示すように、シートA20には、シートB30やシートA20に施される加工箇所を決定する基準位置となる基準孔22と、流体移動の調整、すなわち燃料流体に旋回を与えるための機能溝であるスワール溝23と、が、シートA20への打ち抜きにより形成される。
基準孔22は、連続した帯材であるシートA20の、加工場所へのピッチ送りの基準になる。また、シートA20には、シートA20とシートB30との接合領域の外端に沿って設けられる複数の溝部24と、隣接する溝部24の間にある接続部25とが、打ち抜きにより形成される。溝部24は、溝の内縁241と外縁242とを有している。接続部25は、複数の溝部24によって仕切られる内側のチップ形状が、ロール状の帯材であるシートA20から分離しないように設けられた「ブリッジ」である。このブリッジとなる接続部25は、分離を抑制するために数カ所、設けられ、図2(a)に示す例では、4箇所、形成されている。
【0022】
また、図2(b)に示すように、シートB30には、孔32と、シートA20とシートB30との接合領域の外端に沿って設けられる複数の溝部34と、隣接する溝部34の間にある接続部35とが、打ち抜きにより形成される。複数の溝部34によって形成される溝領域の内縁341と外縁342との位置は、シートA20の複数の溝部24によって形成される溝領域の内縁241と外縁242との位置にほぼ一致している。接続部35は、複数の溝部34によって仕切られる内側のチップ形状が、ロール状の帯材であるシートB30から分離しないように設けられた「ブリッジ」である。このブリッジとなる接続部35は、分離を抑制するために数カ所、設けられ、図2(b)に示す例では、4箇所、形成されている。また、接続部35は、シートA20とシートB30とが重ね合わされた際に、シートA20の接続部25とは重ならないように配置されている。
【0023】
孔32は、シートB30がシートA20と重ね合わされた際に、シートA20の基準孔22による孔をシートB30にも連続させて貫通させ、その孔を塞がないように、重ね合わされた際の基準孔22の位置に合わせてその位置が決定されている。そして、孔32は、基準孔22よりも若干、大きい孔径で形成される。すなわち、基準孔22の外形は、孔32の外形に比べて小さい。
なお、シートB30の幅(幅方向の長さ)と、シートA20の幅(幅方向の長さ)とは異ならせてもよい。例えば、
シートB30の幅 < シートA20の幅
とし、シートB30の孔32の形成されている領域が存在しない幅の板材を用いることも可能である。
【0024】
ここで、図2(a)に示す溝部24、および図2(b)に示す溝部34は、接合工程250にて用いられる電極ヘッド251の先端の外縁に囲まれる先端251aの大きさに合わせて形成される。より詳しくは、溝部24および溝部34によって形成される溝領域は、電極ヘッド251の先端251aが当接する際の先端251aの外端よりも内側と、この外端より外側との間に位置する領域に形成されている。そして、この溝部24および溝部34は、接合工程250により接合される有効領域と接合されない非有効領域とを距てる「距て領域」の一例として機能している。なお、電極ヘッド251は本発明の接合ヘッドの一例である。
【0025】
なお、図2(a)、(b)には、打ち抜き工程270にて打ち抜かれる燃料噴霧オリフィスプレート100の切断面101の位置が破線で示されている。この図2(a)に示すシートA20にて、後に打ち抜かれる切断面101の外側と「距て領域」を構成する溝部24の内縁241とによって定められる略ドーナツ状の領域が切り離し領域28であり、この切り離し領域28と燃料噴霧オリフィスプレート100との領域を含めて有効領域と定義する。また、「距て領域」を構成する溝部24の外縁242の外側の領域を非有効領域29と定義する。したがって、「距て領域」は、「有効領域」と「非有効領域」とを距てるものと言える。
【0026】
また、図2(b)に示すシートB30にて、後に打ち抜かれる切断面101の外側と「距て領域」を構成する溝部34の内縁341とによって定められる略ドーナツ状の領域が切り離し領域38であり、この切り離し領域38と燃料噴霧オリフィスプレート100との領域を含めて「有効領域」と定義する。また、「距て領域」を構成する溝部34の外縁342の外側の領域を非有効領域39と定義する。
なお、本実施の形態では、シートA20およびシートB30の両者に、「有効領域」と「非有効領域」とを距てる「距て領域」を形成したが、何れか一方に形成し、他方には「距て領域」を形成しない態様を採用することも可能である。
【0027】
〔重ね工程240〕
重ね工程240では、抜き工程230にて各種の孔が形成されたシートA20とシートB30とが重ね合わされる。
図3は、重ね工程240にて、シートA20とシートB30とが重ね合わされた状態を示した図である。図3では、紙面の表面側がシートA20となり、裏面側がシートB30となるように、重ね合わされている様子が示されている。シートA20の基準孔22と、シートB30の孔32とは中心位置がほぼ一致するように配置されているが、基準孔22の外形は孔32の外形よりも小さく、すなわち径が小さく構成され、孔32が基準孔22を塞がない。その結果、次の接合工程250にてシートA20とシートB30とが接合された後には、基準孔22を基準として、後の工程である各種の抜き処理などが行なわれる。また、溝部24と溝部34とは重ね合わせによってほぼ位置が一致しているが、ブリッジとなる接続部25と接続部35との互いの位置は、ずれるように配置されている。本実施の形態では、互いに約45度、ずれている。
【0028】
〔接合工程250〕
接合工程250では、重ね工程240にて重ね合わされたシートA20とシートB30とが、接合ヘッドである電極ヘッド251によって上下から挟み込まれ、ろう材21により接合される。
図4(a)、(b)は、接合工程250を説明するための図である。図4(a)は図1(b)と同様に側方から接合工程を眺めた拡大図であり、図4(b)は上下方向(鉛直方向)の上方からシートA20とおよびシートB30を眺めた図である。
【0029】
シートA20の片面には、図1(a)に示すろう材処理工程210にて、無電解ニッケルメッキ層からなるろう材21が形成されている。図2(b)および図3に示す重ね工程240にて、ろう材21を介して重ね合わされた導電材であるシートA20とシートB30とは、図4(a)に示す電極ヘッド251によって、上下から挟み込まれる。この状態で電流を流すことで、接触面が高抵抗により昇温し、界面が溶解して接合される。すなわち、2枚の金属フープ材を重ねて最終的に燃料噴霧オリフィスプレート100になる領域の上下を電極ヘッド251で挟み込み、そこに高電流を流すと、シート10およびシートB30よりも導通抵抗の高いろう材21に優先的に抵抗熱が加わって自己融解し、冷却による再固定化にて接合が完了する。
【0030】
この接合工程250にて行われる接合は「抵抗溶接」を前提としている。ここで、上下に置かれた同材質シートの互いの接触界面にて隙間が必然的に発生するが、一般の抵抗溶接では、その隙間に電流を流した場合の接触不良部分が高抵抗となり、この高抵抗部分が熱を持って自ら溶融することで、接合を完了させている。しかしながら、本実施の形態では、一般の抵抗溶接に加えて、その溶融を加速させ、短時間で溶解と接合とを完了させるために、同材質シートの中間層として、接合溶融層としてのニッケル層を設けており、それをろう付け部材として機能するように構成している。すなわち、シートA20に形成される厚さ1~2μmの無電解ニッケルメッキ層(ろう材21)をろう付け部材として用いて抵抗接合を行なうことで、SUSより抵抗の高いニッケルが、優先的にろう付け部材として溶解接合されるために、比較的大きな面積の接合が可能となる。なお、SUSの融点は1400℃以上、無電解ニッケルの融点は890℃程度である。
【0031】
ここで、図4(a)、(b)に示すように、この電極ヘッド251によって上下から挟まれる領域は、最終的に製品となる領域を含んでおり、製品として取り出す燃料噴霧オリフィスプレート100の領域を含んでいる。そして、電極ヘッド251の先端251aの外縁は、燃料噴霧オリフィスプレート100の切断面101より大きい。また、電極ヘッド251の先端251aの外縁(一点鎖線で示す円形部分)は、シートA20の溝部24の内縁241と溝部24の外縁242との間、およびシートB30の溝部34の内縁341と溝部34の外縁342との間、に位置している。
【0032】
図7(a)、(b)は、電極ヘッド251の先端251aの位置と距て領域の位置との関係による接合部の状態を説明するための図である。図7(a)は距て領域よりも電極ヘッド251の先端251aが小さい場合を示した図であり、図7(b)は距て領域に電極ヘッド251の先端251aの外縁が位置している場合を示した図である。
【0033】
図7(a)に示す例では、溝によって形成される距て領域71が存在し、電極ヘッド251の先端251aが位置する領域が接合部72となる。また、電極ヘッド251の先端251aの外縁より外側は非接合部73となるが、この非接合部73は、接合部72と距て領域71との間の領域である。この図7(a)に示す例では、接合部72と非接合部73との間での熱歪により、接合部72がゆがみ、平坦に接合することができない。また、接合は、加圧しながらの接合であることから、無電解ニッケルメッキ層であるろう材21の溶解時に電極ヘッド251のヘッド圧で押された溶解部分が外周に押しやられる。この押しやられた溶解部分は、非溶解部分である非接合部73との境界に溜まり込むか、隙間に挟み込むようになり、固形後に、この溶解部分も平坦性を阻害する要因となる。また、溶解したニッケルが非溶解ニッケルに阻まれて逃げ場を失い、溶解ニッケルは中央のスワール溝23側に逃げるようになるので、スワール溝エッジへのはみ出しニッケル量が増してしまい、場合によっては燃料流体の流体移動に影響が出る。
なお、距て領域を全く形成せずに、電極ヘッド251の先端251aを押し当てる場合も、同様な問題が生じる。
【0034】
一方、図7(b)に示す本実施の形態の例では、シートA20の溝部24とシートB30の溝部34とで形成される距て領域に、電極ヘッド251における先端251aの外縁(一点鎖線で示す円形部分)が位置している。その結果、距て領域を含んだ、溝部24,34の内縁241,341の内側にて、その全ての領域が接合される。この接合される領域を有効領域77とすると、この有効領域77には、燃料噴霧オリフィスプレート100の領域と、この燃料噴霧オリフィスプレート100の外形(切断面101)を囲う切り離し領域28とが含まれる。このように、燃料噴霧オリフィスプレート100として最終的に必要となる外形(切断面101)よりもやや大きめの外周円の位置に、抜き溝である溝部24および溝部34が張り巡らされている。これによって、溝部24および溝部34の内側は電極ヘッド251が全面接触するので、この全面接触する部分の無電解ニッケルメッキ層も全面溶解して接合される。このとき、溝部24および溝部34が、溶解してヘッド圧により押し出されたニッケルの逃げ場となり、この溶解部分による平坦性の阻害現象が抑制される。
【0035】
なお、前述のように、複数の溝部24,34には接続部25,35が設けられているが、シートA20とシートB30とが重ね合わされた際、これらの接続部25,35が互いに重ならない位置に設けられている。この接続部25,35の位置がずれていることから、接続部25,35にて溶解したニッケルの逃げ場を維持できる。
【0036】
〔噴霧孔形成工程260〕
図5は、噴霧孔形成工程260を説明するための図である。噴霧孔形成工程260では、接合工程250によってろう付け接合されたシートA20およびシートB30のうち、シートB30に対して噴霧孔36を形成する。
【0037】
この噴霧孔形成工程260にて貫通孔である噴霧孔36を開けるのに際し、シートA20とシートB30とを、金型261を有するプレス機械の位置まで搬送する必要がある。搬送では、移動(非プレス加工時)と停止(プレス加工時)とが繰り返される。このとき、接合されたシートA20とシートB30とからなる帯状体は、複数の基準孔22の各々に挿入されたパイロットピン(図示せず)を用いて、停止時すなわちプレス加工時の位置決めが行われる。噴霧孔36の加工位置は、機能溝であるスワール溝23の位置に合わせて設定される。複数の基準孔22とスワール溝23とは、抜き工程230にて、シートA20上に正確な位置合わせがなされて形成されている。そのため、第1シートであるシートA20に設けられた複数の基準孔22に合わせて、第2シートであるシートB30に噴霧孔36を開けることで、シートA20のスワール溝23に対して位置が定まった状態で、シートB30に噴霧孔36が形成される。
【0038】
なお、図5に示す例では、噴霧孔36は4箇所に形成されており、得られた噴霧孔36のそれぞれの内周面は、例えば円筒形状を呈している。この4つの噴霧孔36は、一度にまとめて形成されるが、4つの噴霧孔36を、複数回に分けて順次形成するように構成してもかまわない。これら4つの噴霧孔36は、燃料噴霧オリフィスプレート100として使用される際に、霧状化した燃料が通過する領域であり、これらの壁面に突起が存在していると、燃料の流れが乱される懸念がある。このため、本実施の形態では、これら4つの噴霧孔36をプレス加工で形成することで、これらの壁面を、突起が生じ難い形状としている。
【0039】
〔打ち抜き工程270および取り出し工程280〕
打ち抜き工程270では、シートA20およびシートB30からなる帯状体について、図1(b)に示すように金型271を用いて外形を打ち抜く。この打ち抜き工程270では、接合工程250により接合され噴霧孔形成工程260にて噴霧孔が形成されたシートA20およびシートB30の帯状体を引き出すとともに、引き出された部位に対し、金型271を用いて順次プレス加工による打ち抜きを行うことで燃料噴霧オリフィスプレート100を作製する、という手順を繰り返し行う。なお、燃料噴霧オリフィスプレート100が打ち抜かれた帯状体(切断屑)は、再度ロール状に巻き取られ、その後廃棄される。
【0040】
打ち抜き工程270において、帯状体は、噴霧孔形成工程260と同じく、移動(非プレス加工時)と停止(プレス加工時)とを繰り返す。このとき、帯状体は、噴霧孔形成工程260と同じく、複数の基準孔22に挿入されたパイロットピン(図示せず)を用いて、停止時すなわちプレス加工時の位置決めが行われる。
【0041】
打ち抜き工程270にて打ち抜かれる領域は、図5および図7(b)の破線で示す切断面101である。図7(b)に示すように、この切断面101の位置は、溝部24および溝部34によって構成される「距て領域」よりも内側の有効領域77であって、さらに切り離し領域28よりも内側である。切断面101によって燃料噴霧オリフィスプレート100が打ち抜かれ、取り出された際に、切り離し領域28は、ブリッジである接続部25および接続部35により、ロール状の帯材であるシートA20およびシートB30から離れることなく、回収される。
【0042】
取り出し工程280では、以上のようにして製造された燃料噴霧オリフィスプレート100が取り出される。図6(a),(b)には、取り出し工程280にて取り出された燃料噴霧オリフィスプレート100が示されている。
【0043】
〔燃料噴霧オリフィスプレート100の構造〕
図6(a)、(b)は、上述の製造方法により製造され、本実施の形態が適用される一例としての燃料噴霧オリフィスプレート100の構成を説明するための図である。図6(a)は上面から燃料噴霧オリフィスプレート100を眺めた上面図、図6(b)は、図6(a)に示す上面図の断面BBを示した図である。
【0044】
燃料噴霧オリフィスプレート100は、円形状、円板状を呈しており、表面且つ中央部には、シートA20に形成されたスワール溝23が設けられている。そして、スワール溝23における4枚羽根の各々の羽根の内部には、シートB30の表裏面すなわち厚さ方向に貫通する4つの貫通孔である噴霧孔36が設けられている。なお、シートB30の裏面は、噴霧孔36が設けられている部位を除き、平坦となっている。燃料噴霧オリフィスプレート100の直径はφ10~φ20程度である。そして、切断面101により形成される外周面は、円筒形状を呈するようになっている。さらに、4つの噴霧孔36は同一の直径(例えば1mm程度)に設定されている。そして、噴霧孔36の内周面は、円筒形状を呈するようになっている。
【0045】
図6(b)に示すように、シートA20とシートB30との間には、ろう材21が溶解した後に固着した接合部50が存在し、この接合部50によって、シートA20とシートB30とが固着接合されている。スワール溝23は、シートA20にて形状が打ち抜かれ、シートB30によって底面が形成され、これらによって凹み容積が決定されている。微視的に観察すると、接合部50は、スワール溝23が形成されるくぼみ側にて、凹み側に向けて押し出された後に固着した形状、例えば凸形状を有している。一方、微視的に観察すると、接合部50は、切断面101側にて、シートA20およびシートB30と同様に切断された形状を有している。すなわち、ろう材21が溶解した後に固着した接合部50は、燃料噴霧オリフィスプレート100の外形部分にてシートA20およびシートB30の取り出し面と同一の取り出し面を形成する。
【0046】
なお、この燃料噴霧オリフィスプレート100は、表面側すなわちスワール溝23が設けられている側に燃料噴霧装置が対向し、裏面側に内燃機関のシリンダが対向した状態で使用される。
【0047】
ここで、このスワール溝23の総凹み容積が、燃料の噴霧量と関わるため、対象とするシリンダの容積に合わせて最適な凹み容積が決定される。加えて、スワール溝23による「取り得る凹みの形状」が「平面積」となり、
平面積 × 深さ = 容積
である。上記の深さは、設計上、最適値として容積が決定された場合に、平面積の大きな凹みなら浅い溝となり、平面積の小さな凹みなら深い溝が必要となる。但し、燃料流体に旋回を与えるといった流体移動を調整する機能溝としては、ある程度の容積が必要であり、シートA20の肉厚t1としては、最小値として0.15mm程度、最大値としては2mm程度である。
【0048】
また、シートB30の肉厚t2は、噴霧孔36の長さに関係する。この噴霧孔36の長さが長くなると、折角、スワール溝23で特殊な対流を発生させても、孔を通過している最中に「単なる孔通過液体」になってしまうことから、肉厚t2は、薄い方が良いと言うこととなる。しかしながら、あまりに薄くなると、液圧そのもので変形してしまう問題が生じてしまう。そこで、適度な強度が保てる厚さは必要となる。シートB30の肉厚t2としては、最小値として0.1mm程度、長期耐久性を考慮した場合の最大値としては0.5mm程度である。
【0049】
このように、スワール溝23による流体移動の調整と、噴霧孔36の流体噴霧機能とを考慮すると、第2シートであるシートB30の肉厚t2は、第1シートであるシートA20の肉厚t1よりも薄くなることが好ましい。例えば、シートA20の肉厚t1として0.15mmが選択された場合には、シートB30の肉厚t2として0.1mm程度が選定される。また、例えば、シートA20の肉厚t1として2mm程度が選択された場合には、シートB30の肉厚t2として0.5mm程度までが選定される。
【0050】
なお、本実施の形態では、ガソリンや軽油等の燃料を噴霧する燃料噴霧オリフィスプレート100を例として説明を行ったが、噴霧するのは燃料に限られるものではなく、各種流体の噴霧に用いることもできる。
【0051】
また、本実施の形態では、シートB30には、シートA20の片面に形成されていたろう材21が形成されていない。シートB30にろう材21を形成すると、シートB30のシートA20との接合側はスワール溝23の底面を構成することから、その箇所にろう材21が残ることとなり、流体移動の調整の際に問題となる可能性がある。
【符号の説明】
【0052】
20…シートA、21…ろう材、22…基準孔、23…スワール溝、24…溝部、25…接続部、28…切り離し領域、29…非有効領域、30…シートB、32…孔、34…溝部、35…接続部、36…噴霧孔、38…切り離し領域、50…接合部、77…有効領域、78…切り離し領域、100…燃料噴霧オリフィスプレート、101…切断面、210…ろう材処理工程、220…準備工程、230…抜き工程、240…重ね工程、250…接合工程、260…噴霧孔形成工程、270…打ち抜き工程、280…取り出し工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7