(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/44 20060101AFI20220906BHJP
C10M 105/02 20060101ALI20220906BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20220906BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20220906BHJP
C10M 107/38 20060101ALI20220906BHJP
C10M 115/08 20060101ALI20220906BHJP
C10M 147/02 20060101ALI20220906BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20220906BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220906BHJP
F16C 27/06 20060101ALI20220906BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
F16C33/44
C10M105/02
C10M105/32
C10M107/02
C10M107/38
C10M115/08
C10M147/02
C10M169/04
F16C19/06
F16C27/06 B
F16C33/66 Z
(21)【出願番号】P 2018168713
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】古越 秋三
(72)【発明者】
【氏名】西村 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉本 充
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-228108(JP,A)
【文献】特開2013-124761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00
F16C 33/00
F16C 27/06
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のエンジンルームに搭載される蒸発燃料をエンジンに圧送する圧送機のシャフトを回転可能に支持する転がり軸受であって、外周面に円周溝が設けられた外輪と、該外輪の内側に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪の間に冠型の保持器によって周方向に等間隔で配置された複数の玉と、前記円周溝に装着されて前記外輪の外周面から一部が突出するOリングとを有し、前記保持器がポリエーテルエーテルケトン樹脂で形成され、前記Oリングがパーオキサイド加硫フッ素ゴムまたはポリオール加硫フッ素ゴムで形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記外輪と前記内輪の間の軸受空間に、潤滑剤としてフッ素油、エステル油、ウレア増ちょう剤およびポリテトラフルオロエチレンを含有するハイブリッドグリースを封入したことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記
Oリングが4フッ化エチレン-パーフルオロメチルビニルエーテルゴムで形成されている請求項1に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気や気化した燃料などの流体を圧送するための自動車用圧送機に使用されるOリングを備えた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費向上の目的で電気モータとエンジンを組み合わせたハイブリッド自動車やターボチャージャーを搭載させてエンジンの排気量を落とした自動車が増えている。通常、ガソリン等が気化した蒸発燃料は、エンジン作動中に吸気系に発生する負圧のために大気中に放出されることはない。
【0003】
しかしながら、ハイブリッド自動車では、運転中に意図的にエンジンを停止させることがあるため、吸気系に負圧が発生しない場合があり、蒸発燃料が大気中へ放出されてしまう可能性がある。これを防止するためには、気体である蒸発燃料をエンジンに圧送する圧送機が必要になる。また、ターボチャージャーを搭載した自動車では、アクセル操作をしてからターボチャージャーが作動するまでのタイムラグがある。このタイムラグを無くすためには、圧送機を用いて早いタイミングで蒸発燃料をエンジンに圧送する必要がある。
【0004】
図2は上述の圧送機におけるモータのシャフトを支持する転がり軸受10を示す断面図である。転がり軸受10は、ハウジングHに外輪11を圧入もしくは接着で固定して、高速回転、高温環境、蒸発燃料雰囲気で使用される。モータを運転すると、アンバランスによるシャフトの振動やたわみにより、シャフト回転軸Oが転がり軸受10の中心軸Pに対して傾き、シャフト回転軸Oが転がり軸受10の中心軸Pを中心に円を描く運動(歳差運動)をする。シャフト回転軸Oが転がり軸受10の中心軸Pに対して傾くと、外輪11はハウジングHに固定されているので動かず、内輪12がシャフトと共に傾く。このとき、シャフトの歳差運動に伴ってボール13と転がり軸受10の軌道溝面11a,12aとの接触点が移動するため、ボール13と軌道溝面11a,12aの間で滑りが生じる。モータを高速で回転させると、歳差運動による滑りの影響が無視できなくなり、転がり軸受10の軌道溝11a,12aに早期摩耗が生じる。
【0005】
ここで、従来、自動車のスタータ等に使用される軸受として、外輪の外周面に形成された溝にOリングを嵌合させ、Oリングの一部が外周面から突出するようにした転がり軸受が知られている(例えば特許文献1)。上記のような外輪をハウジングに組み付けると、Oリングは、径方向に圧縮されて外輪とハウジングとを固定し、外輪のクリープ(軸方向への移動)を抑制することができる。
【0006】
上記のような外輪の外周面にOリングを設けた転がり軸受を圧送機におけるモータに用いることにより、シャフトの歳差運動の影響を軽減することができる。このような構成によれば、外輪とハウジング内周面の間のOリングが変形することによって外輪がシャフトに合わせて傾くことが可能になり、転がり軸受の中心軸に対するシャフト回転軸の傾きが小さくなってシャフトの歳差運動が軽減される。したがって、軌道溝の摩耗が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、Oリングの材料としては、ニトリルゴムを使用するのが一般的である。しかしながら、汎用の二トリルゴムは耐ガソリン性に劣るため、Oリングがガソリンなどの燃料に晒されるとOリングのゴム材料が膨潤して劣化し、転がり軸受の軌道溝の摩耗抑制が不十分となる。また、耐燃料油性の二トリルゴムは耐熱温度が約100 ℃であるため、エンジンルーム内での使用には適していない。
【0009】
一方、転がり軸受の保持器としては、ガラス繊維入りのポリアミド系樹脂を材料としたボールポケットの片側が開口する冠型保持器を使用するのが一般的である。このような保持器では、モータを高速回転させると、遠心力で保持器のボールポケット開口側が転がり軸受の半径方向に開き、保持器とボールとの間の摩擦により、保持器が摩耗しまたは摩擦熱によって溶解するおそれがある。
【0010】
また、高速回転、高温環境、蒸発燃料雰囲気で使用される転がり軸受の場合、潤滑剤としては耐熱性の高いフッ素グリースを使用するのが一般的であるが、フッ素グリースは潤滑性が劣るため、軌道溝の摩耗を引き起こしやすいという問題がある。
【0011】
したがって、本発明は、高速回転、高温環境、蒸発燃料雰囲気で使用しても長寿命な転がり軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の転がり軸受は、自動車のエンジンルームに搭載される蒸発燃料をエンジンに圧送する圧送機のシャフトを回転可能に支持する転がり軸受であって、外周面に円周溝が設けられた外輪と、該外輪の内側に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪の間に冠型の保持器によって周方向に等間隔で配置された複数の玉と、前記円周溝に装着されて前記外輪の外周面から一部が突出するOリングとを有し、前記保持器がポリエーテルエーテルケトン樹脂で形成され、前記Oリングがパーオキサイド加硫フッ素ゴムで形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、転がり軸受の外輪とハウジングとの嵌め合いを隙間嵌めにすることで、モータのシャフトのたわみやアンバランスによる振動をOリングの変形によって吸収し、内輪だけではなく外輪もシャフトの傾きに合わせて傾くことができる自由度を持つ。これによって、玉と軌道溝の間の接触点の移動が抑制され、歳差運動が抑制されることによって軌道溝の早期摩耗を抑制することができる。しかも、本発明では、Oリングの材質をパーオキサイド加硫フッ素ゴムまたはポリオール加硫フッ素ゴムとしているので、高温環境と蒸発した自動車燃料(ガソリン、軽油など)に晒されることによるOリングの劣化を抑制することができる。したがって、Oリングの振動吸収効果を維持することができ、軌道溝の摩耗抑制を維持することができる。
【0014】
さらに、保持器の材料として一般的に用いられているガラス繊維含有ポリアミド系樹脂よりも曲げ弾性率の大きいポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いているので、保持器の剛性が高く、転がり軸受を高速回転させても遠心力で保持器が半径方向に開き難くなり、保持器の摩耗と摩擦熱による溶解を抑制することができる。よって、本発明によれば、高速回転、高温環境、蒸発燃料雰囲気で使用しても長寿命な転がり軸受を得ることができる。
【0015】
本発明においては、外輪と内輪の間の軸受空間に、潤滑剤としてフッ素油、エステル油、ウレア増ちょう剤およびポリテトラフルオロエチレンを含有するハイブリッドグリースを封入することを好ましい態様とする。このような転がり軸受を高温環境で使用すると、グリース中のウレア増ちょう剤によって軌道面やボール表面との間で強固な化学吸着が生じ、高温環境下でも軌道溝の摩耗を抑制することができる。また、ハイブリッドグリースがさらに合成炭化水素油を含有することをさらに好ましい態様とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高速回転、高温環境、蒸発燃料雰囲気で使用しても長寿命な転がり軸受が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態の転がり軸受を示す断面図である。
【
図2】従来の転がり軸受を示す断面図である。
図1に示す遠心ファンの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の実施形態の転がり軸受(深溝玉軸受)20を示す断面図である。この転がり軸受20は、外輪21と、内輪22と、外輪21の軌道溝21aと内輪22の軌道溝22aとの間に周方向に等間隔に配置された複数の玉23を備えている。複数の玉23は、図中右側が開放された冠型の保持器24のポケット24aにそれぞれ保持されている。
【0019】
外輪21と内輪22との間の軸受空間は金属製のシール部材25でシールされている。シール部材25は、C状のスナップリング26によって外輪21の内側に取り付けられている。また、外輪21の外周面には軸方向に離間して2つの円周溝27が形成されている。これらの円周溝27には、それぞれOリング28が装着されている。これらOリング28は、外輪の外周面から径方向外方に一部が突出し、転がり軸受20がハウジングHに嵌合されていない状態では、この突出寸法は、例えば、Oリング28の直径の5~40%に設定される。本実施形態では、突出寸法は、10%程度に設定されている。
【0020】
Oリング28の材料としてはフッ素ゴムが一般的である。市販されているフッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン系(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系(FFKM)等が挙げられる。この中でもフッ化ビニリデン系フッ素ゴム(FKM) と四フッ化エチレン-パーフルオロメチルビニルエーテルゴム(FFKM)が特に耐ガソリン性に優れるのでより好ましい。フッ化ビニリデン系フッ素ゴム(FKM)には2フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの二元共重合体、いわゆる二元系フッ素ゴムと、これに4フッ化エチレンを加えた三元共重合体、いわゆる三元系フッ素ゴムがあり、いずれもFKMの略称で知られている。これらは圧縮永久歪みが小さいのでOリングに適している。また、4フッ化エチレン-パーフルオロメチルビニルエーテルゴム(FFKM)は、化学薬品や高温に関して、フッ化ビニリデン系フッ素ゴム(FKM)であっても劣化するような過酷な条件下でも使用できる。フッ素ゴムの加硫は、通常ポリアミン加硫、パーオキサイド加硫およびポリオール加硫の3つのうちのいずれかの方法で行われるが、本発明においては加硫剤として有機過酸化物を用いるパーオキサイド加硫と、加硫剤としてビスフェノールを用いるポリオール加硫のいずれかが好適である。これらの加硫方法により圧縮永久歪み性、耐熱性および耐ガソリン性に優れたフッ素ゴムが得られるからである。
【0021】
以上により、Oリングの材料としては、耐熱性と耐燃料油性に優れたパーオキサイド加硫によるフッ素ゴム(パーオキサイド加硫フッ素ゴム)またはポリオール加硫によるフッ素ゴム(ポリオール加硫フッ素ゴム)を用いる。本実施形態では、Oリングの材料を三元系フッ素ゴム(FKM)からなるパーオキサイド加硫フッ素ゴムとしている。パーオキサイド加硫フッ素ゴムは耐熱温度が220℃で耐燃料油性も優れているので、高温下で蒸発したガソリン等に晒されても劣化しにくい。したがって、最近の自動車において特に燃料供給系の高温化などの影響がある箇所に適している。より苛酷な高温環境の場合は、耐熱温度が300℃である4フッ化エチレン-パーフルオロメチルビニルエーテルゴム(FFKM)を用いることができる。
【0022】
この転がり軸受20の軸受空間20aには潤滑剤としてフッ素油、エステル油、ウレア増ちょう剤およびポリテトラフルオロエチレンを含有するハイブリッドグリースが封入されている。この組み合わせによって高温条件でも良好な潤滑性を有するグリースを得ることができる。また、ハイブリッドグリースにはさらに合成炭化水素油を含有してもよい。
【0023】
保持器24はポリエーテルエーテルケトン樹脂で形成されている。保持器24の材料として一般的に用いられているガラス繊維含有ポリアミド系樹脂の曲げ弾性率は4.6GPaであるのに対して、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の曲げ弾性率は8GPaである。曲げ弾性率の大きいポリエーテルエーテルケトン樹脂を使用することで保持器24の剛性が高くなり、転がり軸受20を高速回転させても遠心力で保持器24が半径方向に開きにくくなり、保持器24の摩耗と摩擦熱による溶解を抑制することができる。
【0024】
上記構成の転がり軸受20の内輪22の孔部22bには、モータのシャフト(図示略)が圧入もしくは接着によって固定される。その状態で外輪21がハウジングHの孔部に挿入される。これにより、Oリング28がハウジングHの内周面により圧縮され、Oリング28の反発力によって転がり軸受20がハウジングHの所定位置に保持される。この状態で、ハウジングHの内周面と外輪21の外周面との間には隙間Cが確保されている。
【0025】
そして、シャフトが高速回転し、シャフトのたわみやアンバランスによる振動をOリング28の変形によって吸収し、シャフト回転軸Oが転がり軸受20の中心軸Pに対して傾いても、内輪22だけではなく外輪21もシャフトの傾きに合わせて傾く。これによって、玉23と軌道溝21a,22aの間の接触点の移動が抑制され、歳差運動が抑制されることによって軌道溝21a,22aの早期摩耗を抑制することができる。
【0026】
しかも、上記転がり軸受20では、Oリング28の材質をパーオキサイド加硫フッ素ゴムとしているので、高温環境と蒸発した自動車燃料(ガソリン、ディーゼル油など)に晒されることによるOリング28の劣化を抑制することができる。したがって、Oリング28の振動吸収効果を維持することができ、軌道溝21a,22aの摩耗を抑制することができる。
【0027】
さらに、上記実施形態では、保持器24の材料として一般的に用いられているガラス繊維含有ポリアミド系樹脂よりも曲げ弾性率の大きいポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いているので、保持器24の剛性が高く、転がり軸受20を高速回転させても遠心力で保持器24が半径方向に開き難くなり、保持器24の摩耗と摩擦熱による溶解を抑制することができる。よって、上記転がり軸受20によれば、高速回転、高温環境、蒸発燃料雰囲気で使用しても長寿命とすることができる。
【0028】
特に、上記実施形態では、外輪21と内輪22の間の軸受空間20aに、潤滑剤としてフッ素油、合成炭化水素油、ウレア増ちょう剤およびポリテトラフルオロエチレンを含有するハイブリッドグリースを封入しているので、グリース中のウレア増ちょう剤によって軌道面やボール表面との間で強固な化学吸着が生じ、高温環境下でも軌道溝21a,22aの摩耗を抑制することができる。
【0029】
なお、上記実施形態では、外輪21の外周面にOリング28を2つ装着しているが、1つあるいは3つ以上装着しても良い。また、ハウジングHの内周面にOリング28が嵌合する円周溝を形成することができる。これにより、ハウジングHに対する転がり軸受20の軸方向への移動を阻止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の転がり軸受は、空気や気化した燃料などの流体を圧送するための自動車用圧送機に使用することができる。
【符号の説明】
【0031】
20…転がり軸受、21…外輪、21a…軌道溝、22…内輪、22a…軌道溝、23…玉、24…保持器、24a…ポケット、25…シール部材、26…スナップリング、27…円周溝、28…Oリング、H…ハウジング。