(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】ヘルムホルツ共振器を備える光検出器
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0232 20140101AFI20220906BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20220906BHJP
H01L 31/108 20060101ALI20220906BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20220906BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20220906BHJP
H04N 5/369 20110101ALI20220906BHJP
【FI】
H01L31/02 D
H01L31/10 A
H01L31/10 C
H01L27/144 K
H01L27/146 F
H04N5/369
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018192268
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-09-22
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518023164
【氏名又は名称】オフィス ナショナル デテュード エ ドゥ ルシェルシュ アエロスパシアル
(73)【特許権者】
【識別番号】513015441
【氏名又は名称】サントゥル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック - セーエヌエールエス
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE - CNRS
【住所又は居所原語表記】3,rue Michel Ange,F-75016 Paris 16,France
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ストゥヴレ,エミリ
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァリエ,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ペルアール,ジャン-リュック
(72)【発明者】
【氏名】パルド,ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】ブション,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】エディアール,リアド
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルダン,ミカエル
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-532902(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0153767(US,A1)
【文献】特開2019-002919(JP,A)
【文献】Changlei Zhang et al.,"Dual-band wide-angle metamaterial perfect absorber based on the combination of localized surface plasmon resonance and Helmholtz resonance",SCIENTIFIC REPORTS,2017年07月18日,Vol.7, Article Number 5652,pp.1-6
【文献】Paul Chevalier et al.,"Optical Helmholtz resonators",APPLIED PHYSICS LETTERS,2014年,Vol.105,pp.071110-1 - 071110-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/20
H01L 27/14-27/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルムホルツ共振器を備え、0.3μmから15μmの間に含まれる波長を有する少なくとも1つの電磁放射線(R)を検出するのに有効である光検出器(10)であって、
上記ヘルムホルツ共振器は、
電気絶縁体(1)と、
上記電気絶縁体の周囲に輪を形成する少なくとも1つの輪状の経路に沿って、上記輪状の経路の2つの中断を除いて上記電気絶縁体(1)を囲む複数の金属面(11~14)であって、それにより、上記複数の金属面は少なくとも1つのギャップ(いわゆる電界集中ギャップ(ZC))によって互いから分離されている2つの電極を形成し、上記ギャップは上記輪状の経路の上記中断を含む、複数の金属面(11~14)と、
を備え、
上記電界集中ギャップ(ZC)の厚さは、両電極間の厚さであり、上記電気絶縁体(1)の厚さよりも小さく、両電極間および上記電気絶縁体(1)の厚さは、共通の方向(D3)に沿って測定されるものであり、それにより、上記電磁放射線(R)が上記ヘルムホルツ共振器に入射する場合、上記ヘルムホルツ共振器において上記電磁放射線によって生み出される電界は、上記電気絶縁体における電界よりも上記電界集中ギャップにおける電界の方が強力であり、
上記電気絶縁体(1)および上記複数の金属面(11~14)は、上記電磁放射線(R)の波長が0.3μm~15μmの間で変化する場合に、上記電界集中ギャップ(ZC)における電界の共振を生み出すのに適した寸法を有し、
上記光検出器(10)は、さらに、
少なくとも1つの感光性構造体(4)であって、少なくとも1つの半導体をベースとしており、上記電磁放射線(R)を吸収し、少なくとも部分的に上記電界集中ギャップ(ZC)内に設置され、かつ、上記2つの電極それぞれと電気的に接触している、少なくとも1つの感光性構造体(4)と、
2つの出力電気的接続(C1、C2)であって、上記2つの電極に1つずつ電気的に接続され、かつ、上記電磁放射線(R)が上記ヘルムホルツ共振器に入射する場合に、上記感光性構造体(4)において生み出される検出電気信号を伝送するのに適している、2つの出力電気的接続(C1、C2)と、を備え、
上記感光性構造体(4)は、電界の上記共振のスペクトル区間を含む検出スペクトル区間を有する、光検出器(10)。
【請求項2】
上記電気絶縁体(1)は、第1方向(D1)に直線状に伸長しており、
各電界集中ギャップ(ZC)も、上記第1方向に直線状に伸長している、請求項1に記載の光検出器(10)。
【請求項3】
上記電気絶縁体(1)は、互いに垂直である、直線状に伸長している2つの分岐(B1、B2)を有し、
各電界集中ギャップ(ZC)は、上記電気絶縁体の分岐毎に、当該分岐と平行に直線状に伸長しており、かつ上記感光性構造体(4)の一部分を含むギャップ部分を備える、請求項1に記載の光検出器(10)。
【請求項4】
上記複数の金属面(11~14)のうち、一方は、底面(13)および上記底面の両側から途切れることなく延びる2つの側面(11、12)を有する溝を形成し、他方は、上記底面と向かい合って設置される覆い面(14)を形成し、
それにより、
上記電気絶縁体(1)は、上記溝の上記底面と上記覆い面との間、および同時に上記溝の両方の側面間に設置され、
各電界集中ギャップ(ZC)は、上記覆い面の側端部と、上記溝の上記側面のうち一方の側面の端部であって、上記溝の上記底面とは反対側にある端部との間に設置される、請求項1~3のいずれか1項に記載の光検出器(10)。
【請求項5】
上記溝の両方の側面(11、12)は、平行であり、0.05μm~0.25μmの範囲にある溝幅(w
b)だけ離れ、
上記溝の上記底面(13)および上記覆い面(14)は、平行であり、0.03μm~0.25μmの範囲にある上記電気絶縁体(1)の厚さ(h
b)だけ離れている、請求項4に記載の光検出器(10)。
【請求項6】
一方の電極から他方の電極までで測定される各電界集中ギャップ(ZC)の上記厚さ(w
f)は、10nm~100nmの範囲にあり、
各電界集中ギャップは、上記電極のうちの少なくとも一方と上記電界集中ギャップにおいて平行に、測定される幅(h
f)が、10nm~50nmの範囲にある、請求項1~5のいずれか1項に記載の光検出器(10)。
【請求項7】
各電極は、以下の金属:金、銀、銅、アルミニウム、または上記金属のうちの少なくとも1つを含む合金のうちの1つから少なくとも部分的に作られる、請求項1~6のいずれか1項に記載の光検出器(10)。
【請求項8】
各感光性構造体(4)は、PiN接合体、1個の半導体材料、および量子井戸多層積層体のうち1つを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の光検出器(10)。
【請求項9】
集束レンズ構造体(7)であって、上記電磁放射線(R)が当該集束レンズ構造体に入射する場合、上記電磁放射線(R)を上記ヘルムホルツ共振器に集中させるように、上記ヘルムホルツ共振器に対して固定して設置される集束レンズ構造体(7)をさらに備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の光検出器(10)。
【請求項10】
上記電磁放射線(R)に対して透過性である透過性材料の層(6)をさらに備え、
当該層は、上記ヘルムホルツ共振器と上記集束レンズ構造体(7)との間に設置され、それにより、上記ヘルムホルツ共振器、各感光性構造体(4)、上記透過性材料の上記層、および上記集束レンズ構造体は、剛ブロック内にともにしっかり固定される、請求項9に記載の光検出器(10)。
【請求項11】
上記集束レンズ構造体(7)は、ホイヘンスレンズを形成するために、上記ヘルムホルツ共振器に面する穴部を設けられるとともに、当該穴部の周囲に配された複数のスリットをさらに設けられた金属層を備える、請求項9または10に記載の光検出器(10)。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の光検出器(10)を製造するための方法であって、
(i)一時的支持体(21)上に、上記少なくとも1つの感光性構造体(4)と、上記電気絶縁体(1)としての1個の電気的絶縁材料とを形成し、その後、上記電極のうち第1電極を上記感光性構造体および上記電気絶縁体の上方に形成する工程と、
(ii)最終的な支持体(20)を、上記第1電極の、上記一時的支持体(21)とは反対の側に接着する工程と、
(iii)上記一時的支持体(21)を取り除く工程と、
(iv)上記電極のうち第2電極を、上記感光性構造体(4)および上記1個の絶縁体の、上記最終的な支持体(20)とは反対の側に堆積する工程と、を含む方法。
【請求項13】
複数の光検出器(10)のマトリクス配列を含むイメージセンサ(100)であって、
各光検出器は、請求項1~11のいずれか1項に記載されており、
上記複数の光検出器は、上記マトリクス配列の横列および縦列の交点に設置され、
上記イメージセンサは、
各光検出器を個別に選択するのに適したアドレス指定システム(30)と、
上記複数の光検出器のいずれか1つが上記アドレス指定システムによって選択された場合、当該光検出器の上記2つの出力電気的接続(C1、C2)によって伝送される上記検出電気信号を読み取るのに適した読取システム(40)と、をさらに備える、イメージセンサ(100)。
【請求項14】
各光検出器(10)が、0.8μm~15μmの範囲にある波長を有する電磁放射線(R)を検出するのに有効である場合、横列または縦列のピッチが2μm~20μmの範囲にある、または、
各光検出器が、0.3μm~0.8μmの範囲にある波長の電磁放射線を検出するのに有効である場合、横列または縦列のピッチが0.1μm~2μmの範囲にある、請求項13に記載のイメージセンサ(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出器、そのような光検出器の製造方法、およびイメージセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
光検出器は、多くの用途(中でもデジタル写真および光通信)において欠かすことのできない重要なオプトエレクトロニクス部品である。各光検出器の機能は、電磁放射線束を検出すること、および、この電磁放射線束を、電子回路によってその後読み取られ得る電気量に変換することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在のところ、最も一般的に用いられる光検出器は、CMOS技術において製造されるフォトダイオードである。しかしながら、フォトダイオードは、入射する電磁放射線の波長に対して十分な選択性を有さない。これは、放射線が検出されるには、この波長が、用いられる半導体のバンドギャップよりも高い光エネルギーに対応すれば十分であるためである。さらに、フォトダイオードは、電磁放射線の偏光状態に対して選択性を有さない。これらの理由から、異なる色または異なる偏光状態を区別しうる放射線の検出が求められる場合、各フォトダイオードは、スペクトルフィルタまたは偏光子と組み合わせられる必要がある。これらの追加の光学部品は、追加の製造費用を発生させるとともに、光検出器に対して、特にカラーイメージセンサ内に、配置されなければならないため、組立の複雑さを増す。
【0004】
3~5μm(ミクロン)および8~14μmのスペクトル窓において有効である量子光検出器も知られているが、これらは、通常77K(ケルビン)未満の極低温に冷却される必要がある。この冷却という制約は、特に、一般の人を対象とした装置において、量子光検出器の使用を制限する、または妨げすらし、実質的に原価を上昇させる。
【0005】
0.3μmから15μmのスペクトルバンドにおいて有効である他の種類の光検出器も知られている。その例としては、(例えば、スリット形状、または、金属‐絶縁体‐金属構造の形状を有する)四分の一波長アンテナが挙げられる。しかしながら、検出感度レベルを一方の側、検出スペクトル間隔の幅を他方の側とし、両者の間において当該光検出器が有する特徴の組合せは、撮像等の用途には適さない。
【0006】
さらに、ヘルムホルツ電磁界共振器が知られている。そのような共振器は、
電気絶縁体(electrically insulating volume)と、
この絶縁体の周囲に輪を形成する少なくとも1つの輪状の経路に沿って、上記輪状の経路の2つの中断を除いて上記絶縁体を囲む複数の金属面であって、それにより、上記複数の金属面は少なくとも1つのギャップ(いわゆる、電界集中ギャップ)によって互いに分離されている2つの電極を形成し、上記ギャップは上記輪状の経路の上記中断を含む、複数の金属面と、
を備える。
【0007】
そのようなヘルムホルツ共振器において、上記電界集中ギャップの厚さは、両電極間の厚さであり、上記絶縁体の厚さよりも小さい。なお、これらの厚さは共通の方向に沿って測定される。このため、電磁放射線が上記共振器に入射する場合、上記共振器においてこの放射線によって生み出される電界は、上記絶縁体におけるよりも上記電界集中ギャップにおける方が強力である。
【0008】
さらに、当業者ならば、そのような共振器の絶縁体および複数の金属面の寸法をどのように選択すれば、電磁放射線の所望の波長で、電界集中ギャップにおける電界の共振を生み出せるかを理解している。
【0009】
この状況から、本発明の1つの目的は、任意で選択され得る検出スペクトル間隔と検出される電磁放射線の偏光に対する選択性とをそれぞれが有する新たな光検出器を提供することにある。
【0010】
他の目的は、特に、分解能が優れたイメージセンサを生産可能にするために、大きな検出角域、および/または大きな検出断面を有する、および/または小寸法の光検出器を提供することにある。
【0011】
さらに他の目的は、低費用または適度な費用で製造され得るとともに、作動するために冷却する必要がない光検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、本発明の第1の態様は、0.3μmから15μmの間に含まれる波長を有する少なくとも1つの電磁放射線を検出するのに有効なヘルムホルツ共振器を備える光検出器を提案する。上記光検出器は、放射線の波長が0.3μm~15μmの間で変化する場合、電界集中ギャップにおける電界の共振を生み出すのに適した寸法を有する絶縁体および複数の金属面を有するヘルムホルツ共振器を備える。
【0013】
本発明の上記光検出器は、
少なくとも1つの感光性構造体であって、少なくとも1つの半導体材料をベースとしており、上記放射線を吸収し、少なくとも部分的に上記電界集中ギャップに設置され、かつ、上記2つの電極それぞれと電気的に接触している、少なくとも1つの感光性構造体と、
2つの出力電気的接続であって、上記2つの電極に1つずつ電気的に接続され、かつ、上記放射線が上記ヘルムホルツ共振器に入射する場合、上記感光性構造体において生み出される検出電気信号を伝送するのに適している2つの出力電気的接続と、をさらに備える。
【0014】
さらに、上記感光性構造体は、上記電界の上記共振のスペクトル区間を含む検出スペクトル区間を有する。音響分野で例えれば、この条件は、上記感光性構造体を上記共振器に同調させる(tuning)条件と称され得る。
【0015】
このため、本発明に係る光検出器において、ヘルムホルツ共振器の機能の1つは、電磁放射線によって生じる電界を上昇させることである。この上昇は、電界集中ギャップにおいて生み出される。このようにして、感光性構造体がこの電界集中ギャップに設置されるため、光検出器は、感度が高く、それゆえに、強度が低い、または強度が非常に低い電磁放射線を検出し得る。
【0016】
さらに、ヘルムホルツ共振器の他の機能は、入射する電磁放射線のフィルタとして、この放射線の波長に対して有効に、機能することである。ヘルムホルツ共振器によってこのように形成される当該フィルタは、電磁放射線に対するヘルムホルツ共振器の比較的低いQ係数値によって、多くの用途(特に撮像用途)に十分な共振のスペクトル幅を有する。
【0017】
さらに、ヘルムホルツ共振器は、放射線の入射方向の点では、大きい角度セクタで入射する電磁放射線に対して感度が良いため、本発明の光検出器は、それ自体で、大きい検出角域を有する。このため、本発明自身の光検出器は、放射線の集光面積を拡大させるとともに当該光検出器に放射線を集中させるために、開口数が大きなレンズと組み合わせられてもよい。
【0018】
さらに、ヘルムホルツ共振器を用いることによって、光検出器は、大きい検出断面部を有する。
【0019】
最後に、本発明に係る光検出器は、厚さが非常に小さく、特に、検出される放射線の波長よりも小さい。このように厚さが非常に小さいことにより、さらなる利点、すなわち、非常に低い暗電流値、感光性構造体において用いられる放射遷移(radiative transitions)の優れた制御、ドリフト効果によって支配される電気輸送(electrical transport)、および非常に短い光支持体(photo-supports)の通過時間(transit time)が実現される。
【0020】
本発明に係る、ヘルムホルツ共振器を備える光検出器の第1の構成において、上記電気絶縁体は、第1方向に直線状に伸長してよく、このとき、各電界集中ギャップも、上記第1方向に直線状に伸長してよい。そのような光検出器は、電磁放射線の偏光に対して選択的であり、直線偏光しているとともに絶縁体および電界集中ギャップの伸長方向と平行な磁界を有する放射線に対する感度が主に高い。
【0021】
また、本発明に係る、ヘルムホルツ共振器を備える光検出器の第2構成において、上記電気絶縁体は、互いに垂直である、直線状かつ伸長する2つの分岐を有してよい。この場合、各電界集中ギャップは、上記絶縁体の分岐毎に、この分岐と平行に直線状かつ伸長し、かつ上記感光性構造体の一部分を含む区間部分を備え得ると有益である。そのような第2構成を有する光検出器は、電磁放射線のすべての可能な偏光状態に対して、同時に同程度に感度が高い。このように、光検出器は、放射線のすべての偏光状態にわたって合計した放射線の強度を表わす検出信号を生み出す。
【0022】
通常、上記のヘルムホルツ共振器の上記複数の金属面のうち、一方は、底面および上記底面の両側から途切れることなく延びる2つの側面を有する溝(cuvette)を形成し得、他方は、上記底面と向かい合って設置される覆い面を形成し得る。そのとき、上記絶縁体は、上記溝の上記底面と上記覆い面との間、および、同時に上記溝の両方の側面間に設置される。さらに、各電界集中ギャップは、上記覆い面の側端部と、上記溝の上記側面のうち1つの側面の端部であって、上記溝の上記底面とは反対側にある端部との間に設置される。好ましくは、上記溝の両方の側面は、平行であり、0.05μm~0.25μmの範囲にある溝幅だけ離れ得る。同時に、上記溝の上記底面および上記覆い面は、平行であり、0.03μm~0.25μmの範囲にある上記絶縁体の厚さだけ離れ得る。この目的を達成するために、絶縁体の高さ方向は、溝の幅方向に垂直に測定される。
【0023】
また、本発明では通常、各電界集中ギャップの上記厚さは、一方の電極から他方の電極まで測定される場合、10nm~100nmの範囲にあり得、各電界集中ギャップは、関係する上記電界集中ギャップにおいて少なくとも一方の上記電極と平行に測定される幅が、10nm~50nmの範囲にあり得る。
【0024】
また、本発明では通常、各電極は、以下の金属:金、銀、銅、アルミニウム、またはこれらの金属の少なくとも1つを含む合金のうちの1つから少なくとも部分的に作られ得る。
【0025】
本発明の様々な諸実施形態において、各感光性構造体は、PiN接合体、1個の半導体材料、および量子井戸多層積層体のうち1つを含み得る。
【0026】
あるいは、上記光検出器は、上記ヘルムホルツ共振器に対して固定して設置される集束レンズ構造体をさらに備え得る。そのようなレンズ構造体は、上記放射線が上記レンズ構造体に入射する場合、この放射線を上記ヘルムホルツ共振器に集中させ得る。また、この場合において、上記光検出器は、上記放射線に対して透過性である材料の層をさらに備え得、当該層は、上記ヘルムホルツ共振器と上記レンズ構造体との間に設置される。この層は、上記ヘルムホルツ共振器と上記レンズ構造体との間のスペーサとして機能する。このため、上記ヘルムホルツ共振器、各感光性構造体、上記透過性材料の上記層、および上記レンズ構造体は、剛ブロック内にすべて、ともにしっかり固定される。これにより、上記光検出器の取り扱いおよび装置への組み込みが容易になる。特に、上記レンズ構造体は、ホイヘンスレンズを形成するために、上記ヘルムホルツ共振器に面する穴部を設けられるとともに、当該穴部の周囲に配された複数のスリットをさらに設けられた金属層を備え得る。
【0027】
本発明の第2の態様は、光検出器が本発明の第1の態様に係る場合に、この光検出器を製造するための方法を提案する。当該方法は、
(i)一時的支持体上に、各感光性構造体と、上記絶縁体としての1個の電気的絶縁材料とを形成し、その後、上記電極のうち第1電極を上記感光性構造体および上記絶縁体の上方に形成する工程と、
(ii)最終的な支持体を、上記第1電極の、上記一時的支持体とは反対の側に接着する工程と、
(iii)上記一時的支持体を取り除く工程と、
(iv)上記電極のうち第2電極を、上記感光性構造体および上記1個の絶縁体の、上記最終的な支持体とは反対の側に堆積する工程と、を含む。
【0028】
最後に、本発明の第3の態様は、イメージセンサを提案する。当該イメージセンサは、
複数の光検出器のマトリクス配列であって、各検出器は本発明の第1の態様に係り、これらの光検出器が当該マトリクス配列の横列および縦列の交点に設置される、マトリックス配列と、
各光検出器を個別に選択するのに適したアドレス指定システムと、
上記複数の光検出器のいずれか1つが上記アドレス指定システムによって選択された場合に、当該光検出器の上記2つの出力電気的接続によって伝送される上記検出電気信号を読み取るのに適した読取システムと、
を備える。
【0029】
そのようなイメージセンサの横列または縦列のピッチは、各光検出器が、光赤外領域に相当する、0.8μm~15μmの範囲にある波長を有する放射線を検出するのに有効である場合、2μm~20μmの範囲にあり得る。
【0030】
または、上記横列または縦列のピッチは、各光検出器が、可視光領域に相当する、0.3μm~0.8μmの範囲にある波長の放射線を検出するのに有効である場合、0.1μm~2μmの範囲にあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明の他の特徴および利点は、非限定的かつ例示的な諸実施形態の、添付図面を参照して提供される以下の説明から明らかになるだろう。
【
図2b】
図2bの光検出器から異なる構成を有する、本発明に係る光検出器の斜視図である。
【
図3a】本発明に係る光検出器の感光性構造体の第1の実施形態の図である。
【
図3b】
図3aの光検出器のスペクトル反射率のグラフである。
【
図4】感光性構造体の第2の実施形態における、
図3bに相当する図である。
【
図5a】感光性構造体の第3の実施形態における、
図3aに相当する図である。
【
図5b】感光性構造体の第3の実施形態における、
図3bに相当する図である。
【
図6a】本発明に係る光検出器を製造する方法の各工程を示す、製造中の光検出器のアレイの断面図である。
【
図6b】本発明に係る光検出器を製造する方法の各工程を示す、製造中の光検出器のアレイの断面図である。
【
図6c】本発明に係る光検出器を製造する方法の各工程を示す、製造中の光検出器のアレイの断面図である。
【
図6d】本発明に係る光検出器を製造する方法の各工程を示す、製造中の光検出器のアレイの断面図である。
【
図6e】本発明に係る光検出器を製造する方法の各工程を示す、製造中の光検出器のアレイの断面図である。
【
図6f】本発明に係る光検出器を製造する方法の各工程を示す、製造中の光検出器のアレイの断面図である。
【
図6g】本発明に係る光検出器を製造する方法の各工程を示す、製造中の光検出器のアレイの断面図である。
【
図6h】本発明に係る光検出器を製造する方法の各工程を示す、製造中の光検出器のアレイの断面図である。
【
図7】レンズ構造体を備える、本発明に係る光検出器の断面図である。
【
図8】本発明に係るイメージセンサの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
分かりやすくするために、これらの図に示される要素の寸法は、実際の寸法にも実際の寸法比にも一致しない。さらに、様々な図に示される同一の参照番号は、同一の要素または同一の機能を有する要素を示す。
【0033】
図1、
図2aおよび
図2bに示されるように、本発明に係る光検出器10は、平面Sを有する基層2と、電気絶縁体(electrically insulating volume)1と、覆い部3と、中間構造体4とを備える。基層2は金属、好ましくは高い導電率を有する金属で作られる。例えば、基層2は、金(Au)または銅(Cu)で作られてもよい。絶縁体1は、大部分が基層2に埋め込まれている1個の電気絶縁性材料(例えばシリカ(SiO
2))から成ってもよい。また、覆い部3も、金属、好ましくは高い導電率を有する金属で作られる。そのため、覆い部3は、金で作られることもある。このため、基層2は、その面Sから平行六面体の溝形状が盛り上がっており、当該平行六面体の溝形状は、向かい合う側面11および側面12と、溝底13と、覆い部3の底面14と、を有する。この底面14は、当該溝の内部の方へ向けられている。
【0034】
中間構造体4は、以下で詳細に説明される。中間構造体4は、基層2の面Sと覆い部3の底面14との間の、絶縁体1の周りに設置される。中間構造体4は、一方で基層2と電気的に接触し、かつ他方で覆い部3と電気的に接触する。基層2および覆い部3は、中間構造体4の外側において、互いに電気的に絶縁される。以降、特に言及のない限り、中間構造体4は、途切れることなく、絶縁体1の周りにあってよい。しかしながら、基層2および覆い部3が中間構造体4の外側において互いから電気的に絶縁されているならば、中間構造体4は、絶縁体1の周囲の1つ以上の部分に限定されてよい。
【0035】
面Sと覆い部3との間の周囲スペーシングを形成する中間構造体4と共に基層2の内部に形成される溝を、当該1個の絶縁性材料が満たす。
図1に示された記号は、以下の意味を持つ:
w
b 側面11と側面12との間で、方向D2と平行に測定された、絶縁体1の幅。
h
b 溝底13と覆い部3の底面14との間で、方向D3と平行に測定された、絶縁体1の厚さ。
W
f 方向D3と平行に測定された、中間構造体4の厚さ。
h
f 方向D2と平行に測定された、中間構造体4の幅。
【0036】
図1に示される輪Bは、基層2および覆い部3に含まれつつ、中間構造体4を基層2および覆い部3間に位置する2箇所で貫通することにより、絶縁体1を取り囲む。中間構造体4に含まれる輪Bの各部分の長さは、厚さw
fに略等しい。さらに、中間構造体4のこの厚さw
fは絶縁体1の厚さh
bよりも小さく、好ましくは厚さh
bよりも非常に小さい。これらの条件下において、覆い部3の周辺端部に面して位置する、基層2の面Sの一部は、この覆い端部とともに、コンデンサの2つの電極を形成する。これらの2つのコンデンサ電極の中間のスペースは、ZCと示される。当該スペースは、絶縁体1の両側に分配されており、電界集中ギャップを形成する。当該電界集中ギャップにおいて、電界は、絶縁体1内に存在し得る電界強度に対して集中される。この電界集中効果は、本明細書全体において上昇と称されている。これは、上昇係数Gによって数値で表される。当該上昇係数Gは、集中ギャップZCにおける電界強度の、絶縁体1における電界強度に対する商の二乗に等しい。このとき、この上昇係数の近似値は、以下の式G=λ
2/(ε
SC・w
f・h
f)により求められる。式中、λは電磁放射線Rの波長であり、ε
SCは、中間構造体4を形成する材料の真空に対する相対誘電率である。
【0037】
このような構造は、ヘルムホルツ共振器を形成する。当該ヘルムホルツ共振器において、集中ギャップZCにおける電界強度は、この構造全体に入射する電磁放射線Rの波長の関数としての共振を示す。共振の中心波長は、当業者に周知の式:λ
r=2・π・[ε
SC・w
b・h
b・h
f/(2・w
f)]
1/2によって求められる。今提示されたGおよびλ
rの式において、
図1の平面と垂直、すなわち方向D1と平行な絶縁体1および中間構造体4のそれぞれの長さは、寸法w
b、h
b、w
fおよびh
fよりもずっと大きいと想定される。言い換えれば、絶縁体1および中間構造体4は、方向D1と平行に伸長されており、方向D1は伸長方向と称される。
【0038】
例えば、基層2および覆い部3は金(Au)からなり、絶縁体1はシリカ(SiO2)からなり、中間構造体4の平均屈折率が約3.5である場合、以下の寸法が、ヘルムホルツ共振器に用いられてよい:wb=0.11μm(ミクロン)、hb=0.10μm、wf=15nm(ナノメートル)、hf=30nm。これらの条件下において、電磁放射線Rがその磁界が伸長方向D1と平行であるように直線偏光を有する場合、共振波長λrは約3.25μmに等しく、この波長の上昇係数Gは100よりも高いが、ヘルムホルツ共振器の品質係数Qは約10でしかない。ヘルムホルツ共振器の品質係数Qのこの低値により、光検出器10に、多くの用途(特に撮像用途)のために十分な検出スペクトル幅をもたせることができる。さらに、λr、GおよびQについてのこれらの数値は、面Sと垂直な方向D3に対して0°(度)~40°の間で変化する放射線Rの入射方向の傾きに対して著しくは変更されない。このため、光検出器10は、開口数値が高い集束レンズと効果的に組み合せられてもよい。このため、電磁放射線Rの検出は、この放射線の集光面積が拡大されて効果的に行われる。
【0039】
前述したように、集中ギャップZCにおける放射線Rの電界を上昇させるためのヘルムホルツ共振器の効率は、この放射線が、その磁界が絶縁体1の伸長方向と平行であるように直線偏光を有する場合、高い。このため、
図2aの光検出器10は、放射線Rが、その磁界が方向D1と平行であるように直線偏光を有する場合、この放射線に対して感受性が高い。
【0040】
図2bの光検出器10において、絶縁体1は、2つの分岐B1および分岐B2を有する。当該分岐B1および分岐B2は、直線状に伸長しており、互いに垂直であり、それぞれ、方向D1および方向D2と平行である。このため、分岐B1は、電磁放射線Rが、その磁界が方向D1と平行であるように直線偏光を有する場合に、この放射線の電界を上昇させる能力がより高い。同時に、分岐B2は、電磁放射線Rが、その磁界が方向D2と平行であるように直線偏光を有する場合に、この放射線の電界を上昇させる能力がより高い。組み合わせることによって、このような光検出器10は、放射線Rの偏光が何であれ、当該放射線Rを上昇させることができ、このため、自然偏光を有する放射線を検出するのに特に適する。好ましくは、電界集中ギャップZCは、アームB1およびアームB2それぞれの少なくとも1つの部分に沿って延びており、このため、方向D1および方向D2とそれぞれ平行に直線状に伸長する少なくとも2つの区間部分を備える。
【0041】
本発明によれば、少なくとも部分的に電界集中ギャップZCに設けられる中間構造体4は、感光性であり、一方で基層2と電気的に接触し、他方で覆い部3と電気的に接触する。
図2aおよび
図2bにおける記号C1およびC2は、2つの出力電気的接触を示す。C1の場合は基層2につながる出力電気的接触、C2の場合は覆い部3につながる出力電気的接触である。これらの出力電気的接触C1および出力電気的接触C2は、感光性構造体4において放射線Rによって生み出された電圧または電流を、例えば読取回路に伝達することを意図している。本明細書全体において、基層2および覆い部3を、出力電気的接触C1および出力電気的接触C2の基層2および覆い部3における配置に関連して、電極と称している。
【0042】
集中ギャップZCにおける放射線Rの電界の上昇の効果により、検出効率が低いかもしれないが、より寸法が小さく、かつ/またはより簡易かつ安価に製造できる諸実施形態を、感光性構造体4に対して用いることが可能である。
(第1の実施形態)
【0043】
第1の可能な諸実施形態において、本発明に係る光検出器10に対して、感光性構造体4は、PiN接合体でもよい。頭字語のPiNは3つの区域(zone)を表し、そのうちの一区域はP型にドープされており、別の一区域はN型にドープされており、中間区域は真性導電率を有する。
図3aに示すように、そのようなPiN接合体は、方向D3に沿って積層される、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、およびヒ素(As)の合金の3層からなる積層体(例えば、おおよそ、In
0.53Ga
0.47Asの化学量論を有する)によって形成され得る。暗電流の拡散成分を低減させるためには、PiN接合体に用いられる合金のバンドギャップよりもバンドギャップが広い材料からなる2層(例えば、インジウム(In)およびリン(P)の合金からなる2層)を追加することが好都合であり得る。具体的には、合金In
0.53Ga
0.47Asおよび合金InPのバンドギャップは、それぞれ0.74eV(電子ボルト)および1.27eVである。その結果、感光性構造体4は、
図3aに示される構成を有する。
図3aにおいて、(P)はP型にドープされた層を示し、(N)は、N型にドープされた層を示す。また、
図3aは、方向D3に沿って測定された、ナノメートル(nm)で表される厚さを示す。
図3aに示される厚さは、上で定義した厚さw
fに等しい総厚さが約80nmに対応する、感光性構造体4の各層に適用可能である。
【0044】
ヘルムホルツ共振器の寸法は、この共振器が感光性構造体4に同調するように選択される。共振波長λ
rに対応する光エネルギーは、PiN接合体に用いられる合金のバンドギャップにk
B・T/2を足し合わせたものよりも高い。なお、k
Bはボルツマン定数を示し、Tは光検出器10の動作温度(例えば、室温での使用では300K(ケルビン)に等しい)を示す。これらの条件下において、放射線Rの磁界がヘルムホルツ共振器の伸長方向と平行である場合、このように得られる光検出器10の最大感度に対応する波長は約1.650μmに等しく、上昇係数Gはこの波長に対して約140である。ヘルムホルツ共振器の寸法は、以下の寸法であり得る:w
b=0.080μm、h
b=0.075μm、w
f=80nm、およびh
f=25nm。これらの寸法を有し、
図2aまたは
図2bに係り、かつ方向D1または方向D2にオフセットされながら面Sに並列される複数の光検出器10間のオフセットピッチpは、1.1μmであり得る。
図3bは、垂直に入射する放射線Rに対する、このようにして得られた光検出器のアレイの反射率のグラフを再現する。横軸は、ミクロンで表される波長λの値を示す。また、縦軸は、「反射率」と表示され、パーセントで表される反射率の値を示す。放射線Rの検出を可能にする吸収共振は、波長値1.65μmに対応する。
【0045】
本発明以前に知られている他の光検出器と比較すると、本発明の方が、各光検出器の個々の検出効率は低いかもしれない。しかしながら、各光検出器の、面Sと平行な寸法(これらも同様に本発明の方が小さい)によって、単位面積当たりの検出効率値は、従前の光検出器を用いて得られる値よりも高くなることができる。
【0046】
感光性構造体4の横方向の境界に近接して生じる寄生電流による効率損失を低減するために、この感光性構造体4は、絶縁体1と覆い部3との間において連続していてもよく、かつ/または、覆い部3の側端部を越えて横方向に突き出していてもよい。
(第2の実施形態)
【0047】
本発明に係る光検出器10について同様に可能な第2の諸実施形態において、感光性構造体4は、1個の半導体であってもよい。この1個の半導体は、一方で基層2と接触し、他方で覆い部3と接触し、これにより、金属‐半導体‐金属の積層体を形成する。そのような積層体において、この1個の半導体の機能は、上昇された電界のエネルギーを吸収することであり、2つの金属‐半導体接触面は、2つのショットキーダイオードを形成する。そのような感光性構造体4の半導体は、この場合もInGaAs合金であってもよく、以下の寸法にすることで、ヘルムホルツ共振器の共振波長λ
rとして1.650μmの値が得られることになる:w
b=0.060μm、h
b=0.050μm。w
f=30nm、およびh
f=20nm。このとき、上昇係数Gは、共振波長1.650nmにおいて、約350に等しい。係数Gのこの値は、中間構造体4の厚さw
fが低値であるために、上述の第1の実施形態での値よりも高い。1.1μmの値は、この場合も、面Sにおいて並列される複数の光検出器のオフセットピッチpに用いられ得る。
図4は、これらの条件下において得られる反射率スペクトルを示す。
【0048】
そのような第2の諸実施形態は、各光検出器10に対して個々に、上述の第1の諸実施形態の検出効率値よりも低い検出効率値を生み出し得る。しかしながら、より低いこれらの個々の検出効率値は、面Sにおける光検出器の密集度がより高いことによって補償され得る。面Sにおける光検出器の密集度がより高いことは、オフセットピッチpのより小さい値に対応する。
【0049】
あるいは、そのような第2の諸実施形態に係る光検出器10は、2つの縮退光子(すなわち、同一の波長の2つの光子)を必要とする非線形吸収機構を用いて、電磁放射線を検出するために用いられてもよい。この場合、2つの光子それぞれのエネルギーは、感光性構造体4の半導体のバンドギャップの幅からこのバンドギャップの幅の半分までの範囲にある。例えば、0.41eVに等しく、3μmの波長に対応する光エネルギーは、半導体合金InGaAsが用いられる場合、2つの光子の吸収による検出を可能にする。これは、当該半導体合金InGaAsのバンドギャップが約0.74eVであるためである。このとき、ヘルムホルツ共振器は、光子の波長(すなわち、この例においては3μm)において共振するように寸法を決定される必要がある。以下の寸法:wb=0.150μm、hb=0.135μm、wf=30nm、およびhf=20nmである場合、上昇係数Gは、3μmの波長に対して約1950に等しい。このとき、2.0μmのオフセットピッチpは、面S一面に並列されるそのような光検出器10間において用いられ得る。上昇係数Gの二乗が、2つの縮退光子を必要とする吸収機構を介した放射線Rの検出効率における係数であるならば、本発明の第2の諸実施形態に係るとともに、2つの縮退光子を含むこの吸収機構を用いる光検出器10は、より長い波長値において放射線を検出するのに特に適し得る。
(第3の実施形態)
【0050】
また、本発明に係る光検出器10に対して可能である第3の諸実施形態において、感光性構造体4は、頭字語QWIP(量子井戸赤外光検出器,quantum-well infrared photodetector)として知られる量子井戸構造であり得る。電磁放射線を検出するためのそのような量子井戸構造の操作原理は、よく知られていると思われるため、ここで繰り返す必要はない。必要であれば、読者は、豊富かつ広く入手可能である関連科学文献を参照してもよい。そのような第3の諸実施形態について、バイアス電圧は出力電気的接触C1と出力電気的接触C2との間に印加される必要があるということが、簡単に示される。
図5aは、そのような感光性構造体の例を示す。厚さ10nmのインジウム-リン合金の層は、陰極を形成する。厚さ6nmのインジウム-ガリウム-リン合金の中間層は、量子井戸を形成する。また、厚さ30nmのインジウム-リン合金の他の層は、QWIP構造の陽極を形成する。これらの条件下において、感光性構造体4は、約9μmの波長を有する電磁放射線を検出するのに有効である。ヘルムホルツ共振器をこの検出波長値に同調させるために、以下の寸法:w
b=0.500μm、h
b=0.620μm、w
f=46nm、およびh
f=20nmを用い得る。面Sに並列されるそのような光検出器間のオフセットピッチpは、6.0μmであり得る。これらの条件下において、上昇係数Gは、9μmの波長に対して、量子井戸において約3710に等しく、かつ、この井戸の量(volume)における放射線Rの光子の吸収効率は、約60%である。この吸収効率値は、関連文献で報告されているような複数の量子井戸を備える構造によって生み出される他の吸収効率値よりも低い。しかし、上述のようなQWIP感光性構造体4の小領域は、暗電流を非常に大幅に減少させることができる。さらに、そのような第3の諸実施形態は、各光検出器も極めて小さい寸法であるために、面Sにおいて光検出器の密集度を高くすることができる。
図5bは、第3の諸実施形態に係り、かつ上述した寸法値を有する、そのような並列される光検出器を含む領域の吸収共振を示す。
【0051】
あるいは、そのような第3の諸実施形態に係る光検出器10は、複数の縮退光子を必要とする非線形吸収機構を用いて電磁放射線を検出するために用いられ得る。このようにして、より長い波長(特に、スペクトルバンド8~12μmの範囲の波長)を有する放射線を検出すること、および暗電流値をより一層低減することが可能である。
【0052】
図6a~
図6hを参照して、本発明に係る並列された光検出器10を製造するための、可能な方法(process)が以下に説明される。
【0053】
第1の工程(
図6aに図示)において、感光性構造体4は、一時的支持体21(例えば、単結晶シリコンウエハ)の表面に、一時的支持体21をベタに(continuously)覆うように、作られる。この構造の実施形態(特に、上述した3つの実施形態のうちの1つである実施形態)に応じて、感光性構造体4を、単一の材料または複数の材料を必要に応じて連続して重ね合わせた層として堆積させることによって作ることができる。あるいは、エピタキシャル堆積プロセスを用いてもよい。
【0054】
その後、金属分離部2a(例えば、金製)を、例えば、電子ビームリソグラフィプロセスを用い、続いて金の堆積およびリフトオフ工程を行うことによって、感光性構造体4の上部に作り得る(
図6b)。分離部2aは、面Sにおいて隣接する光検出器10の2つのヘルムホルツ共振器の間に介在する、基層2の部分を形成するように意図される。
【0055】
その後、感光性構造体4を、構造体4の1つ以上の材料に適したエッチングプロセスを用いて、分離部2a間において選択的に取り除く(
図6c)。そのようなプロセスは、特に、適したエッチング剤の溶液を使用するウェットプロセスであってもよい。しかしながら、分離部2a間の感光性構造体4を取り除くこの工程は、感光性構造体4が覆い部3の下において途切れることなく延びる状態を維持するために省略されてもよい。
【0056】
このように、隣接する積層体が感光性構造体4の残余部分および分離部2aからそれぞれ形成され、この隣接する積層体の間に空き空間(free volume)が作り出される。作り出された空き空間を、絶縁レジストで満たしてもよい(
図6d)。このレジストは、絶縁体1の材料を形成する。
【0057】
この後、金属(特に金)のさらなる堆積を行って(
図6e)、分離部2aおよび絶縁体1をベタに覆う、追加層2bを形成する。分離部2aおよび追加層2bは、各光検出器10について本明細書の上記で紹介され、第1電極とも称される基層2を形成する。
【0058】
その後、例えば炭化ケイ素で作られた絶縁体の最終的な支持体20、または予め設けられた電気的接続を含む最終的な支持体20を、追加層2bの上部に接着して接合する。その後、一時的支持体21を、例えば、研磨およびその後のウェットエッチングによって、取り除く。反転(flipping)後、
図6fの構成が得られる。最終的な支持体20が最初から電気的接続を有する場合、これらの電気的接続は、製造されている光検出器10用の出力電気的接続C1を形成し得る。
【0059】
その後、覆い部3(第2電極とも称される)を、例えば、マスキング工程と、それに続く金属(本例では金)堆積工程を用いて、形成する(
図6g)。
【0060】
最後に、感光性構造体4を、覆い部3間において、基層2までエッチングする。(
図6h)。
【0061】
製造方法のこの例において、基層2は、同時に製造された光検出器10に共通する第1電極を形成する。また、各覆い部3は、各光検出器10の専用に個別になっている別々の第2電極を形成する。代替の諸実施形態において、基層2は、隣接する2つの光検出器10間において、中間電気絶縁を用いて中断され得る。この時、覆い部3は、隣接する2つの光検出器10間において途切れずにあり得、それによって、これらの光検出器に共通する1つの第2電極を形成し得る。
【0062】
図7aに示されるように、本発明に係る光検出器10は、集束レンズ構造体7が付随され得る。レンズ構造体7を、検出対象の放射線Rに対して透過性である材料からなる中間層6を用いて光検出器10にしっかり固定するのが好都合である。層6は、そして、方向D3に沿って測定される、レンズ構造体7の焦点距離Fに略等しい厚さを有する。このため、レンズ構造体7は、この光検出器10の断面にしたがって、放射線Rを光検出器10に集中させる。一方では層6を光検出器10に固定し、他方ではレンズ構造体7を層6に固定する複数の組立方法(assembly methods)が、当業者に知られている。
【0063】
集束レンズ構造体7は、平凸マイクロレンズ、またはフレネル構造体であってもよい。しかしながら、好ましくは、レンズ構造体7は、当業者によりよく知られているホイヘンスレンズであってもよい。そのようなホイヘンスレンズは、透明材料の層6によって保持されるとともに中央の穴部および周囲の複数のスリットを有する金属層によって形成され得る。ホイヘンスレンズは、方向D3に沿って位置合わせされて光検出器10に面して設置される。中央の穴部および周囲の複数のスリットは、放射線Rに対する集光機能を生み出す光透過パターンを形成する。特に、中央の穴部は、円形であるとともに、光検出器10の中心に対して置かれてもよい。このとき、波長λを有する放射線Rのスペクトル成分に対して効果的であるホイヘンスレンズの焦点距離Fは、式:F=D0
2/(3・λ)(式中、D0は中央の穴部の直径)によって求められる。本発明のこの事例において、方向D3に沿った層6の厚さは、共振波長λrに対する焦点距離Fに略一致する必要がある。
【0064】
例えば
図7に示される、レンズ構造体7を設けられた光検出器10は、イメージセンサ100の画素を形成するのに特に適している。このとき、そのような画素は、横列および縦列に、
図8に示されるようなマトリクス配列で配置される。この図を分かりやすくするために、すべての光検出器10をベタに覆い得る透明材料6の層、および光検出器10の1つ1つの専用となっている集束レンズ構造体7は、図示されていない。示されるイメージセンサ例において、すべての光検出器10は、同一の金属層を共有し、この層がすべての覆い部3を形成する。この層は、正方形のセルを備える格子を形成するようにパターン化される。これは、放射線Rが電界集中ギャップZCに到達することを可能にするためである。このとき、この層は、イメージセンサ100のすべての光検出器10に共通する電極を形成する。この場合、基層2は、互いから電気的に分離され、かつ、光検出器10の1つ1つの専用となる複数個に分割される。参照符号5は、シリカ等の絶縁体から形成され、かつ複数個の基層2を互いから電気的に分離する格子を示す。
【0065】
参照符号20’は、複数個の基層2と支持体20の基部20”との間に設置される一組の層を示す。一組の層20’は、アドレス指定(addressing)回路30に接続される出力電気的接続C1を含む。また、そのようなアドレス指定回路30は、入力側で出力接続C2を介して覆い部3に接続されるとともに、出力側で読取回路40に接続され、これにより、アドレス指定回路30は、センサ100によって撮られた各画像に対応する画像データを送る。イメージセンサ用に設計されるそのようなアドレス指定回路および読取回路は、よく知られているため、ここで重ねて説明する必要はない。
【0066】
イメージセンサ100のマトリクス配列における画素の横列および縦列のオフセットピッチpは、検出対象である1つ以上の放射線の1つ以上の波長に応じて選択されてもよい。このオフセットピッチpは、特に、用いられるヘルムホルツ共振器の分岐B1および分岐B2の、方向D1および方向D2における長さに依存する。
【0067】
最後に、イメージセンサ100のマトリクス配列において、本発明に係る各光検出器10であるが、電磁放射線を検出する最大感度波長が各々異なるように設計された各光検出器10を、交互に配置することができる。このようにして、カラーイメージセンサまたはマルチスペクトルイメージセンサが得られる。本発明に係る、所望の波長近傍の電磁放射線を検出するように設計された光検出器とは、感光性構造体がこの波長で十分な吸収を有するように設計されていること、および、ヘルムホルツ共振器が当該波長で共振を有するように寸法を決められていることを意味することに留意されたい。
【0068】
本発明は、上述の利点のうち少なくともいくつかを維持しながら、詳細に説明された例示的な諸実施形態に関する本発明の二次的な態様を変更して再現されてもよいと理解されるであろう。これらの利点の中で、主要なものを以下に再掲する。
-電界の高い上昇により、検出効率を高くし得ること。
-ファブリーペロー共振器等の他の共振器を使用する場合とは反対に、高調波(harmonic)共振がないこと。
-ヘルムホルツ共振器のQ係数値がかなり低いため、光検出器が、かなり広い検出スペクトル区間(特に、撮像用途に適しているであろうスペクトル幅を有する検出スペクトル区間)で有効であること。
-検出対象である電磁放射線の入射方向の傾斜に対する許容度が高いため、光検出器を開口数の高い集束レンズと組み合わせて用い得ること。
-ヘルムホルツ共振器の形状によって、検出対象である電磁放射線の偏光に対する光検出器の選択性を選び得ること、すなわち、この偏光に対して選択的ではない光検出器を製造し得ること。
-各光検出器の寸法が小さいこと。
-光検出器を、既知であるとともに既によく修得された技術(集積回路を製造するための技術を含む)で製造し得ること。
【0069】
特に、感光性構造体4を、面Sと平行な平面に突出した状態に、絶縁体1の周辺の限られた部分にのみ設置することができる。このとき、覆い部3は、1個の絶縁性材料の層によって、感光性構造体4の外側の基層2から電気的に分離される。当該絶縁性材料の層は、方向D3において極めて薄い、特に、感光性構造体4よりも薄いことが好都合である。このとき、感光性構造体4を含む集中区域ZCにおける電界の上昇は、これによりさらに高くなる。