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特許7136666難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからの成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからの成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20220906BHJP
   C08K 5/5357 20060101ALI20220906BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20220906BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/5357
C08K5/524
C08J5/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018215685
(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2020083932
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直
(72)【発明者】
【氏名】武田 強
(72)【発明者】
【氏名】常守 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】山中 克浩
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-236286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)固有粘度が0.5~1.6dL/gである芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)各物性が以下(ア)~(ウ)の条件を満たす下記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物0.1~40重量部、および(C)酸性化合物0.03~10重量部を含有し、(C)酸性化合物が、下記式(6)および/または下記式(7)で示される化合物であることを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物。
(ア)有機純度が98%以上
(イ)全含有ハロゲン成分が1000ppm以下
(ウ)全揮発性有機物含有量が800ppm以下
【化1】
(式中、R2、R5は同一または異なっていてもよく、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いナフチル基、置換基を有しても良いアントリル基または芳香族置換基を有しても良い炭素数1~4の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。R1、R3、R4、R6は同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1~4の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いナフチル基または置換基を有しても良いアントリル基である。)
【化2】
(式中R7は炭素数1~30の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基を表し、nは1または2を表す。)
【化3】
(式中R8、R9は同一もしくは異なり、炭素数1~30の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物が、下記式(2)~(5)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物である請求項1記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項3】
下記の方法で評価した増粘度が200Pa・s以下である請求項1記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
増粘度の評価方法;120℃の熱風乾燥機にて12時間乾燥したポリエステル組成物を、粘度測定装置としてTA Instruments社製Rheometer ARES-G2を用い、測定温度300℃、せん断速度1Hz、上側冶具25mmφ cone plate(0.1rad)、下側冶具25φ parallel plate、GAP0.50mmの条件で測定した。測定開始後1分後の樹脂粘度(測定値をμ1とする)と測定開始後30分後の樹脂粘度(測定値をμ2とする)の差(下記式(II)により算出される)を増粘度とした。
増粘度=|μ2-μ1| …(II)
【請求項4】
前記(A)芳香族ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂およびポリトリメチレンナフタレート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物からなるマスターバッチ。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物を紡糸して得られる繊維。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られるシートまたはフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な難燃性および良好な物性を有する難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからの成形体に関する。さらに詳しくは特定のリン系難燃剤と特定の酸性化合物を含有し、かつ実質的にハロゲンフリーの難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからの成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略す)やポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)をはじめとするポリエステル樹脂は優れた機械特性、耐熱性、耐薬品性等を有するため、電気・電子分野、機械構成部品分野、自動車分野などの用途の成形品として広く使用されている。
【0003】
これらの中でも、難燃性が要求される用途は非常に多く、従来はハロゲン含有化合物およびアンチモン化合物をそれぞれ難燃剤および難燃助剤とし、難燃性を付与した樹脂が提供されている。
【0004】
しかしながら、ハロゲン含有難燃剤は分解生成物が電気製品中の金属を腐食する場合があり、さらに近年、一部のハロゲン含有難燃剤は環境への影響が問題となっており、樹脂成形品は欧州を中心として、非ハロゲン化の動きが盛んになってきた。そのため難燃剤においても非ハロゲンの需要が高まり、各樹脂に対する非ハロゲンの難燃剤の開発が盛んになった。ポリエステル樹脂に関しても種々の非ハロゲンによる難燃化技術が報告されているが、種々の問題から、実用化には至っていない。
【0005】
非ハロゲン難燃剤としては、リン含有化合物が一般に用いられることが多く、本分野では赤リンやトリフェニルホスホネート(以下TPPと略す)などのリン酸エステルがよく用いられている。しかしながら、PBTなどのポリエステル樹脂は比較的加工温度が高く赤リンでは毒性の高いホスフィンガスの発生が指摘され、また、赤リンを用いた場合には組成物が赤リン特有の褐色になり、その使用範囲が限定されるという問題もある。一方、低分子量のTPPではブリードアウトの問題があり、さらに、TPPに代表される芳香族リン酸エステルは一般的に可塑効果を有するため、組成物の耐熱性が著しく低下する問題があった。
【0006】
次にリン含有化合物を難燃剤として使用した難燃性樹脂組成物の改良技術について知られた文献を紹介する。例えば特許文献1にポリエステル樹脂、分子内に2個以上のエポキシ基と反応しうる官能基を有するリン、窒素、ホウ素系化合物とを溶融反応してなる、ポリエステル樹脂用の非ハロゲン難燃剤が開示されている。特許文献2には上記非ハロゲン難燃剤5~50重量部をポリエステル樹脂100重量部に添加した難燃性ポリエステル樹脂組成物が開示されている。しかしながら、かかる樹脂組成物は難燃性が未だ不十分であるだけでなく、流動性に劣り、さらにコスト的にも不利であるという問題がある。
【0007】
特開平8-208884号公報にはポリスチレンやポリエステルの如き熱可塑性樹脂にリン酸エステルや亜リン酸エステルの如きリン含有化合物(具体的にはトリフェニルホスフェート)とオルト位もしくはパラ位が置換されたフェノール樹脂類を併用添加することにより得られる難燃性樹脂組成物が開示されている。この樹脂組成物はブリードアウトや耐熱性低下の問題のみならず、十分な難燃性が得られないという欠点がある。
【0008】
また、特許文献3にはPETの如き150℃以上の軟化点を有する熱可塑性ポリエステル樹脂99~34重量部、熱硬化性樹脂により被覆された赤リン1~25重量部、および強化充填剤10~55重量部からなる難燃性ポリエステル樹脂組成物が開示されている。しかしながら、この樹脂組成物は先にも述べたように着色に関する問題、成形時におけるホスフィンガス発生の問題がある。
【0009】
さらに、特許文献4には繊維形成性線状ポリエステル、アリールスピロホスフェート、および少なくとも40%の塩素原子または窒素原子を含有するハロゲン含有難燃剤からなる難燃性ポリエステル繊維組成物が開示されている。この公報は、具体的にはPETにアリールスピロホスフェートおよびハロゲン含有化合物を難燃成分として併用した繊維の難燃性が示されている。
【0010】
また、特許文献5では、特定のポリエステル樹脂とハロゲン含有スピロジホスフェートからなる難燃性繊維組成物が開示されている。この公報は、具体的にはポリエチレンナフタレート樹脂にハロゲン元素を含有するスピロジホスフェートを配合し、得られた繊維の難燃性が示されている。しかしながら、この米国特許は繊維に関するものであり、ポリエステル繊維の難燃性の向上がみられるものの、ハロゲン含有難燃剤を使用しており、前述したように環境への影響が問題となる。
【0011】
また、特許文献6ではポリエステル樹脂とメラミンピロホスフェートと有機環状リン化合物からなる難燃性樹脂組成物が開示されている。この公報では、上記2種の難燃剤を併用することにより高い難燃効果が得られている。この難燃効果はメラミンピロホスフェートによるものが大きいが、このメラミンピロホスフェートを用いた場合には、成形品の外観不良が起こるため、実用化が困難であるという問題がある。
【0012】
また、特許文献7および特許文献8には、(1)式の難燃剤を使用することによって難燃性が発現する樹脂組成物および繊維の例が記載されているが、樹脂組成物の熱履歴後の粘度上昇に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平7-126498号公報
【文献】特開平7-278267号公報
【文献】特公平2-37370号公報
【文献】特開昭50-58319号公報
【文献】米国特許3,866,405号明細書
【文献】米国特許4,257,931号明細書
【文献】特開2003-160722号公報
【文献】特開2017-179654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は上記従来の問題を解消し、実質的にハロゲンを含有せず、高度な難燃性を有し、且つ工業的に有用な耐熱性および機械的特性等のバランスを兼ね備え、さらに熱履歴後に粘度上昇しない難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからの成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らの研究によれば、前記本発明の目的は、下記<1>~<9>によって達成される。
【0016】
<1>(A)固有粘度が0.5~1.6dL/gである芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)各物性が以下(ア)~(ウ)の条件を満たす下記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物0.1~40重量部、および(C)酸性化合物0.03~10重量部を含有し、(C)酸性化合物が、下記式(6)および/または下記式(7)で示される化合物であることを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物。
(ア)有機純度が98%以上
(イ)全含有ハロゲン成分が1000ppm以下
(ウ)全揮発性有機物含有量が800ppm以下
【化1】
(式中、R2、R5は同一または異なっていてもよく、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いナフチル基、置換基を有しても良いアントリル基または芳香族置換基を有しても良い炭素数1~4の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。R1、R3、R4、R6は同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1~4の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いナフチル基または置換基を有しても良いアントリル基である。)
【化2】
(式中R7は炭素数1~30の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基を表し、nは1または2を表す。)
【化3】
(式中R8、R9は同一もしくは異なり、炭素数1~30の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基を表す。)
【0017】
<2>前記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物が、下記式(2)~(5)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物である前項1記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0019】
>下記の方法で評価した増粘度が200Pa・s以下である前項1記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
増粘度の評価方法;120℃の熱風乾燥機にて12時間乾燥したポリエステル組成物を、粘度測定装置としてTA Instruments社製Rheometer ARES-G2を用い、測定温度300℃、せん断速度1Hz、上側冶具25mmφ cone plate(0.1rad)、下側冶具25φ parallel plate、GAP0.50mmの条件で測定した。測定開始後1分後の樹脂粘度(測定値をμ1とする)と測定開始後30分後の樹脂粘度(測定値をμ2とする)の差(下記式(II)により算出される)を増粘度とした。
増粘度=|μ2-μ1| …(II)
【0020】
>前記(A)の芳香族ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂およびポリトリメチレンナフタレート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前項1記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
>前項1~のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物からなるマスターバッチ。
>前項1~のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形体。
>前項1~のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物を紡糸して得られる繊維。
>前項1~のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られるシート又はフィルム。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、実質的にハロゲンを含有せず、高度な難燃性を有し、且つ工業的に有用な耐熱性および機械的特性等のバランスを兼ね備え、且つ熱履歴後に粘度上昇しない難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれからの成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物についてさらに詳細に説明する。
【0023】
(ポリエステル樹脂)
本発明の難燃性ポリエステル繊維製造に用いるポリエステル樹脂としては、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールおよびそのエステル形成性誘導体とを主たる出発原料として得られるポリエステルを主とするものである。ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体として、具体的には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、4,4-ジフェニルジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、5-テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸等のジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体などをあげることができる。エステル形成性誘導体としては、上記のジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジペンチルエステル、ジヘキシルエステル、ジフェニルエステル、ジカルボン酸の酸ハロゲン化物をあげることができる。これらの化合物の1種または2種以上を併用してもよい。なかでも、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体を用いることが好ましく、より好ましくは、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体を得られるポリエステルにおける全ジカルボン酸成分に対して80モル%以上を用いることが耐熱性の点から好ましい。
【0024】
ジオールおよびそのエステル形成性誘導体として、具体的には、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、オクタメチレングリコール、デカンジオール、ドデカンジオール、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2-ビス(p-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(p-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホンのジヒドロキシ化合物などをあげることができる。
【0025】
芳香族ポリエステル樹脂(A)の好ましい例としては、主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸と、主たるジオール成分がエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノールから選ばれる少なくとも1種のジオールからなるエステル単位を有するポリエステルである。
【0026】
具体的な芳香族ポリエステル樹脂(A)は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂およびポリトリメチレンナフタレート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0027】
特に好ましくは、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である。とりわけポリエチレンテレフタレート樹脂が特に好ましい。
【0028】
また、本発明の芳香族ポリエステル樹脂(A)として、上記繰り返し単位をハードセグメントの主たる繰り返し単位とするポリエステルエラストマーを用いることもできる。
【0029】
テトラメチレンテレフタレートまたはテトラメチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートをハードセグメントの主たる繰り返し単位とするポリエステルエラストマーのソフトセグメントとしては、例えばジカルボン酸がテレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸およびアジピン酸より選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸からなり、ジオール成分が炭素数5~10の長鎖ジオールおよびH(OCHCH)iOH(i=2~5)よりなる群から選ばれる少なくとも1種のジオールからなり、さらに融点が100℃以下または非晶性であるポリエステルまたはポリカプロラクトンからなるものを用いることができる。なお、主たる成分とは、全ジカルボン酸成分または全グリコール成分の80モル%以上、好ましくは90モル%以上の成分であり、主たる繰り返し単位とは、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上の繰り返し単位である。
【0030】
本発明における芳香族ポリエステル樹脂の分子量は、通常成形品として使用しうる固有粘度を有していればよく、35℃、オルトクロロフェノール中で測定した固有粘度が0.5~1.6dL/gであり、好ましくは0.55~1.5dL/gであり、より好ましくは0.6~1.4dL/gであり、さらに好ましくは0.62~1.3dL/gである。
(ペンタエリスリトールジホスホネート化合物)
本発明における難燃ポリエステル樹脂組成物に用いるリン系難燃剤として、下記式(1)で示されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物が使用される。
【0031】
【化8】
式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物において、R2、R5は同一または異なっていてもよく、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いナフチル基、置換基を有しても良いアントリル基、または芳香族置換基を有しても良い炭素数1~4の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基である。
【0032】
R1、R3、R4、R6は同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1~4の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いナフチル基または置換基を有しても良いアントリル基である。
【0033】
好ましくは、R2、R5は、同一または異なっていても良いフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ベンジル基、フェネチル基であり、R1、R3、R4、R6が同一または異なっていても良い水素原子、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、フェニル基、各種トルイル基、ナフチル基、アントリル基である。さらに好ましくは、R2、R5は、同一または異なっていても良いフェニル基、ベンジル基であり、R1、R3、R4、R6が同一または異なっていても良い水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基である。
【0034】
かかる化合物の具体例としては、3,9-ビス(フェニルメチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2-メチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((3-メチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((4-メチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2,4-ジメチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2,6-ジメチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((3,5-ジメチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2,4,6-トリメチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2-sec-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((4-sec-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2,4-ジ-sec-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2,6-ジ-sec-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2,4,6-トリ-sec-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2-tert-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((4-tert-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((4-ビフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((1-ナフチル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2-ナフチル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((1-アントリル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((2-アントリル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス((9-アントリル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(1-フェニルエチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2-メチル-2-フェニルエチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(ジフェニルメチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(トリフェニルメチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3-フェニルメチル-9-((2,6-ジメチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3-フェニルメチル-9-((2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3-フェニルメチル-9-(1-フェニルエチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3-フェニルメチル-9-ジフェニルメチル-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3-((2,6-ジメチルフェニル)メチル)-9-(1-フェニルエチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3-((2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)メチル)-9-(1-フェニルエチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3-ジフェニルメチル-9-(1-フェニルエチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3-ジフェニルメチル-9-((2,6-ジメチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3-ジフェニルメチル-9-((2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)メチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンが挙げられる。
【0035】
特に好ましくは下記式(2)~(5)に示される、3,9-ビス(フェニルメチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(下記式(2)の化合物)、3,9-ビス(1-フェニルエチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(下記式(3)の化合物)、3、9-ビス(2-フェニルエチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(下記式(4)の化合物)、3,9-ビス(ジフェニルメチル)-3,9-ジオキソ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(下記式(5)の化合物)が好ましい。
【0036】
【化9】
【0037】
【化10】
【0038】
【化11】
【0039】
【化12】
【0040】
(i)有機純度
式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物の(i)有機純度は98%以上であり、好ましくは98.5%以上、より好ましくは99.0%以上の純度である。有機純度がこの範囲の前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物を使用することにより、高度な難燃性と良好な物性を両立するポリエステル樹脂組成物を得ることが可能となる。特に有機純度は得られたポリエステル樹脂組成物の難燃性に影響し、有機純度が低い場合、高度な難燃性が得られない。さらに、有機純度の低い前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物は、不純物の影響により得られたポリエステル樹脂組成物の色相悪化や物性の低下、特に耐熱性の低下が発現する。
【0041】
(ii)全含有ハロゲン成分
式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物の(ii)全含有ハロゲン成分は1000ppm以下であり、好ましくは800ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、特に好ましくは100ppm以下である。かかる(ii)全含有ハロゲン成分は、JIS K 7229に準拠した方法で測定する。
【0042】
本発明の目的の一つとしては、ノンハロゲン難燃性ポリエステル組成物を提供することが挙げられるため、ハロゲン含有量がこの範囲の前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物を用いることが好ましい。さらに塩素に代表されるハロゲン含有量がこの範囲の前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物を用いることにより、熱安定性の良好なポリエステル樹脂組成物が得られ、かつ色相に優れたポリエステル樹脂組成物が得られる。ハロゲン含有量がこの範囲を超える場合、ポリエステル樹脂組成物の熱安定性が低下し、押出時や高温成形時のヤケ発生による色相の低下が発現する。
【0043】
(iii)全揮発性有機物含有量
式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物の(iii)全揮発性有機物含有量は、800ppm以下であり、好ましくは600ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは400ppm以下である。
【0044】
全揮発性有機物含有量がこの範囲の前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物を用いることにより、高度な難燃性を有するポリエステル樹脂組成物を得ることができる。残存溶媒量がこの範囲を超える前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物を用いた場合、所望の難燃性を得ることが困難となる。
【0045】
(iv)△pH値
式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物の(iv)△pH値は、好ましくは1.0以下であり、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下である。△pHがこの範囲の前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物を用いることにより、pHが変動するような微量の不純物の含有量が少ないために、熱安定性の良好なポリエステル繊維が得られ、かつ色相に優れたポリエステル樹脂組成物が得られる。△pHがこの範囲を超える場合、ポリエステル樹脂組成物の熱安定性が低下し、高温成形時のヤケ発生による色相の低下が発現することがある。
【0046】
(v)酸価
式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物の(v)酸価は好ましくは0.7mgKOH/gであり、より好ましくは0.5mgKOH/g、さらに好ましくは0.4mgKOH/gである。酸価がこの範囲の前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物を使用することにより、高度な難燃性および色相に優れた成形品が得られ、かつポリエステル樹脂の分解がおこり難く、熱安定性の良好な成形体が得られる。ここで酸価とは、サンプル1g中の酸成分を中和するのに必要なKOHの量(mg)を意味する。
【0047】
前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物は、芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対して0.1~40重量部、好ましくは0.3~38重量部、より好ましくは0.5~35重量部、さらに好ましくは1~30重量部、特に好ましくは2~25重量部の範囲で配合される。前記配合量が少なすぎると難燃性に劣り、配合量が多すぎると耐熱性が低下する。
【0048】
前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物の配合割合は、所望する難燃性レベル、ポリエステル樹脂の種類などによりその好適範囲が決定される。これら組成物を構成するポリエステル樹脂および前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物以外であっても必要に応じて他の成分を本発明の目的を損なわない限り使用することができ、他の難燃剤、難燃助剤、フッ素含有樹脂の使用によっても前記ペンタエリスリトールジホスホネート化合物の配合量を変えることができる。
【0049】
(ペンタエリスリトールジホスホネート化合物の製造方法)
本発明で使用されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物は、以下の方法で合成した後、洗浄し、所望により粉砕することにより製造することができる。
【0050】
<合成工程>
式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物は以下の方法で合成することができる。
【0051】
ペンタエリスリトールジホスホネート化合物は、例えばペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、続いて酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属化合物により処理し、次いでアラルキルハライドを反応させることにより得られる。
【0052】
また、ペンタエリスリトールにアラルキルホスホン酸ジクロリドを反応させる方法や、ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させることによって得られた化合物にアラルキルアルコールを反応させ、次いで高温でArbuzov転移を行う方法により得ることもできる。後者の反応は、例えば米国特許第3,141,032号明細書、特開昭54-157156号公報、特開昭53-39698号公報に開示されている。
【0053】
合成は例えば以下の方法で行うことが出来る。
(I)ペンタエリスリトールジホスホネート化合物中の式(2)で表される化合物;
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、得られた生成物とベンジルアルコールの反応生成物に、ベンジルブロマイドを添加し、高温でArbuzov転移反応を行うことにより得られる。
(II)ペンタエリスリトールジホスホネート化合物中の式(3)で表される化合物;
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、次いでターシャリーブタノールにより酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシドにより処理し、1-フェニルエチルブロマイドを反応させることにより得ることができる。
(III)ペンタエリスリトールジホスホネート化合物中の式(4)で表される化合物;
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、次いでターシャリーブタノールにより酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシドにより処理し、2-フェニルエチルブロマイドを反応させることにより得ることができる。
(IV)ペンタエリスリトールジホスホネート化合物中の式(5)で表される化合物;
ペンタエリスリトールにジフェニルメチルホスホン酸ジクロリドを反応させることにより得ることができる。
また別法としては、ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、得られた生成物とジフェニルメチルアルコールの反応生成物に触媒を添加し、高温でArbuzov転移反応を行うことにより得られる。
【0054】
<洗浄工程1および2>
洗浄工程は、合成したペンタエリスリトールジホスホネート化合物を、溶剤で洗浄し不純物を除去する工程である。洗浄工程は、洗浄工程1および2を含む。
【0055】
洗浄工程1は、ペンタエリスリトールジホスホネート化合物をキシレン、トルエン等の芳香族系有機溶剤で洗浄する工程である。洗浄工程1では、洗浄、ろ過を数回繰り返すリパルプ洗浄することが好ましい。この洗浄工程1により、臭素化合物等の不純物を効率的に除去できる。芳香族系有機溶剤の使用量は、本発明で使用するペンタエリスリトールジホスホネート化合物のモル濃度で表すと、好ましくは0.1~5モル/L、より好ましくは0.3~3モル/Lである。
【0056】
洗浄工程2は、得られた粗精製物を下記式(8)もしくは(9)で表される化合物で、洗浄温度35℃~120℃で還流洗浄する工程である。
【0057】
【化13】
【0058】
【化14】
(R10は、水素原子または炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、R11およびR12は同一または異なっていてもよく、炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。)
【0059】
還流洗浄は、コンデンサーおよび攪拌機を備えた反応容器中で、粗精製物と溶剤とを攪拌しながら加熱し、溶剤を蒸発させ、蒸発した溶剤をコンデンサーで冷却し反応容器へ戻しながら粗精製物を精製する方法である。
【0060】
式R10-OHで表される化合物としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等が挙げられる。式R11-C(O)-R12で表される化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。なかでも、経済的観点、操作性の観点からメタノールが好ましい。
【0061】
洗浄温度は35℃~120℃である。かかる洗浄温度の範囲内では生成したペンタエリスリトールジホスホネート化合物が分解する可能性が低く、また、洗浄効果が高く、残留揮発物の含有量を低減したペンタエリスリトールジホスホネート化合物を得る為には洗浄を何度も繰り返す必要が無く、生産効率の点で好ましい。上記洗浄方法を採用することにより、粉末状のペンタエリスリトールジホスホネート化合物は鱗片状の結晶となり、乾燥性に優れたものとなる。
【0062】
溶剤の使用量は、本発明で使用するペンタエリスリトールジホスホネート化合物のモル濃度で表すと、好ましくは0.1~5モル/L、より好ましくは0.3~3モル/Lである。かかる範囲では洗浄に使用する溶剤量が少なく、経済的観点から好ましく、また、スラリー濃度が低く粘度も適当であるため、攪拌機への負荷が小さくなり好ましい。さらに、スラリー濃度が低くなるため、洗浄効率が高くなり、高純度の該ペンタエリスリトールジホスホネート化合物を得る為には洗浄を何度も繰り返す必要が無く、生産効率の点で好ましい。
【0063】
洗浄の時間は、好ましくは4時間以上、より好ましくは6時間以上である。洗浄工程2では、溶剤の追加や入れ替えは行わず、コンデンサーで冷却した溶剤は単に反応器内に戻しているだけである。洗浄工程2の最後に、反応容器の温度を室温まで冷却し、結晶をろ過により分離し、溶剤で洗浄することが好ましい。
【0064】
<乾燥工程>
乾燥工程は、洗浄されたペンタエリスリトールジホスホネート化合物を乾燥する工程である。ペンタエリスリトールジホスホネート化合物は、粉砕工程の前に、乾燥することが好ましい。
【0065】
<粉砕工程>
粉砕工程は、得られた洗浄されたペンタエリスリトールジホスホネート化合物を粉砕し、最大粒径、体積基準メジアン径などの紛体特性を調整する工程である。
粉砕は、高速回転する回転部背面に生じる高速渦流、並びに高周波圧力振動により原料を粉砕する気流粉砕機で行うことが好ましい。洗浄されたペンタエリスリトールジホスホネート化合物を、空気と共に気流粉砕機へ供給し、旋回流を与え、ディストリビューターによって加速・分散させ、粉砕室へ均等に分配され、粉砕室内で、ブレードとライナーの間で生じる衝撃及び高速渦流によって粉砕することが好ましい。気流粉砕機としてフロイントターボ社製ターボミルが挙げられる。回転体の回転数は、3,000~7,000rpmであることが好ましい。
【0066】
(酸性化合物)
本発明における難燃性ポリエステル樹脂組成物中に酸性化合物を含有する。酸性化合物としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などに代表される無機酸または、カルボン酸、スルホン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、アミノ酸、コハク酸、有機リン化合物、フタル酸に代表される有機酸が挙げられる。その中でも本発明に用いる酸性化合物は有機酸が望ましく、その中でも特に有機リン化合物が望ましい。
有機リン化合物としては、例えば、ホスファイト系化合物、ホスフェート系化合物が挙げられる。
【0067】
ホスファイト系化合物の具体例としては、テトラキス〔2-tert-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル〕-1,6-ヘキサメチレン-ビス(N-ヒドロキシエチル-N-メチルセミカルバジド)ジホスファイト、テトラキス〔2-tert-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル〕-1,10-デカメチレンジカルボン酸 ジヒドロキシエチルカルボニルヒドラジドジホスファイト、テトラキス〔2-tert-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル〕-1,10-デカメチレンジカルボキン酸ジサリチロイルヒドラジドジホスファイト、テトラキス〔2-tert-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル〕-ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジドジホスァイト、テトラキス〔2-tert-ブチル-4-チオ(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル〕-N,N’-ビス(ヒドロキシエチル)オキサミドジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、サイクリックネオペンタテトライルビス(2,6―tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトが挙げられる。
【0068】
ホスファイト系化合物の中でも、少なくとも1つのP-O結合が芳香族基に結合しているホスファイト系化合物が好ましい。その具体例としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジトリデシルホスファイト-5-tert-ブチル-フェニル)ブタン、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(フェニル-ジアルキルホスファイト)が挙げられる。中でも、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイトが好ましい。
【0069】
ホスファイト系化合物の市販品の商品名としては、例えば、ADEKA製のアデカスタブC、PEP-4C、PEP-8、PEP-11C、PEP-24G、PEP-36、HP-10、2112、260、522A、329A、1178、1500、C、135A、3010、TPP、チバスペシャリティケミカル製のイルガフォス168、住友化学製のスミライザーP-16、クラリアント製のサンドスタブPEPQ、GE製のウエストン618、619G、624が挙げられる。
【0070】
ホスフェート系化合物の具体例としては、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルホスフェートが挙げられる。中でも、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェートが好ましい。
【0071】
ホスフェート系化合物の市販品の商品名としては、例えば、BASF製のイルガノックスMD1024、イーストマン・コダック製のインヒビターOABH、ADEKA製のアデカスタブCDA-1、CDA-6、AX-71が挙げられる。
【0072】
本発明では酸性化合物として下記式(6)および/または下記式(7)で示される有機リン化合物を使用することが好ましい。
【0073】
【化15】
(式中R7は炭素数1~30の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基を表し、nは1または2を表す。)
【0074】
【化16】
(式中R8、R9は同一もしくは異なり、炭素数1~30の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基を表す。)
【0075】
上記式(6)および式(7)において、R7、R8およびR9は、炭素数4~26の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数8~24の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基がより好ましく、炭素数12~22の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基がさらに好ましく、炭素数16~20の分岐状もしくは直鎖状のアルキル基が特に好ましい。
【0076】
なかでも、炭素数16~20の直鎖状のアルキル基である、オクタデシルホスフェート(市販品としては、ADEKA(株)社製、アデカスタブAX-71(商品名)が例示される)および/または3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(市販品としては、ADEKA(株)社製、アデカスタブPEP-8(商品名)が例示される)が好ましい。
【0077】
これら酸性化合物の配合量は、芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対して0.03~10重量部、好ましくは0.035~5重量部、より好ましくは0.04~4重量部、さらに好ましくは0.05~3.5重量部、特に好ましくは0.1~3重量部の範囲で配合される。配合量が上記範囲よりも少ない場合には、酸性酸化物としての十分な効果が得られず、ポリエステル樹脂組成物の増粘度が上昇してしまう。配合量が上記範囲を超えるとポリエステル樹脂組成物の良好な物性並びに難燃性を保持することが難しい。
【0078】
(難燃性ポリエステル樹脂組成物の特性)
本発明における難燃性ポリエステル樹脂組成物の分子量は、通常成形品として使用しうる固有粘度を有していればよく、35℃、オルトクロロフェノール中で測定した固有粘度が好ましくは0.4~1.5dL/gであり、好ましくは0.45~1.4dL/gであり、より好ましくは0.5~1.3dL/gであり、さらに好ましくは0.52~1.2dL/gである。
【0079】
本発明において、下記の方法で測定される難燃性ポリエステル樹脂組成物の増粘度は、好ましくは200Pa・s以下であり、より好ましくは180Pa・s以下であり、さらに好ましくは160Pa・s以下であり、特に好ましくは140Pa・s以下であり、最も好ましくは120Pa・s以下である。前記増粘度が大きいと、糸やシート、フィルムを連続生産する際、押出機の樹脂圧力が上昇し易くなるため、各製品を連続して生産を行うことが困難となることがある。
【0080】
増粘度の測定方法は、難燃性ポリエステル樹脂組成物は120℃の熱風乾燥機にて12時間乾燥したものを測定に用い、粘度測定装置としてTA Instruments社製Rheometer ARES-G2を使用し、測定温度300℃、せん断速度1Hz、上側冶具25mmφ cone plate(0.1rad)、下側冶具25φ parallel plate、GAP0.50mmの条件で測定する。測定開始後1分後の樹脂粘度(測定値をμ1とする)と測定開始後30分後の樹脂粘度(測定値をμ2とする)の差を増粘度とする。本発明の増粘度は下記式(II)により算出される。
増粘度=|μ2-μ1| …(II)
本発明における難燃性ポリエステル樹脂組成物の難燃性は、実質的にハロゲンを含有せず、非常に高い難燃性能を有する。本発明の難燃性樹脂組成物は、厚さ1/32インチ(0.8mm)におけるUL-94規格の難燃レベルにおいて、少なくともV-2を達成することができる。
【0081】
(その他)
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、並びにフェノキシまたはエポキシ樹脂など)、酸化防止剤(ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、ヒンダートフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物など)、難燃助剤(シリコーンオイルなど)、無機充填剤(ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、タルク、ワラストナイトなど)、有機充填剤(アラミド繊維、ケナフ繊維など)、衝撃改質剤(コアシェル型アクリルゴム、コアシェル型ブタジエンゴムなど)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系など)、光安定剤(HALSなど)、離型剤(飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、パラフィンワックス、蜜蝋など)、流動改質剤(ポリカプロラクトンなど)、着色剤(カーボンブラック、二酸チタン、各種の有機染料、メタリック顔料など)、末端封鎖剤(エポキシ化合物やカルボジイミド化合物など)、帯電防止剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの第4級アンモニウム塩系、ポリエーテルエステルアミドなど)、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛など)、赤外線吸収剤、相溶化剤、並びにフォトクロミック剤紫外線吸収剤などを配合してもよい。これら各種の添加剤は、周知の配合量で利用することができる。
【0082】
(マスターバッチ)
本発明の上記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物を配合したポリエステル組成物は、上記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物の濃度が濃い難燃性ポリエステル樹脂マスターバッチを作成し、そのマスターバッチと任意の種類のポリエステル樹脂と所定量ブレンドすることにより、全体としての(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物濃度を所定量となるようにして難燃性ポリエステル樹脂組成物を得る方法も好適に用いられる。この方法であれば、ペンタエリスリトールジホスホネート化合物含有量の調整が容易に行えると言う利点がある。また、顔料や機能性剤などの添加剤によって当初想定していた含有割合よりも減ってしまうという事態が回避できるので、ハンドリング性が高いという利点も有する。
【0083】
上記式(1)で表されるペンタエリスリトールジホスホネート化合物の濃度が濃いポリエステル樹脂マスターバッチを作る方法は限定されないが、例えば、ベント付の二軸押出機を用いて、200~280℃の条件下にて、ポリエステル樹脂を溶融させたところに、粉体のペンタエリスリトールジホスホネート化合物を投入し、混練する方法が挙げられる。しかし方法はこれに限らず、例えば、あらかじめ、ポリエステル樹脂とペンタエリスリトールジホスホネート化合物をドライブレンドした上で、二軸押出機に投入する方法なども用いられる。溶融混練する際の温度は240~320℃とすることが好ましい。
【0084】
(繊維製品)
本発明難燃性ポリエステル樹脂組成物は、実質的にハロゲンを含有せず、非常に高い難燃性能を有しており、ポリエステル繊維として有用である。ポリエステル繊維を製造するに際しては溶融紡糸法を行い、次いで延伸操作を行う方法にて製造することが好ましい。本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、溶融紡糸工程に導入することができる。紡糸後、未延伸糸を巻き取り別途延伸する方法、未延伸糸をいったん巻き取ることなく連続して延伸を行う方法、溶融紡糸後、凝固浴中で未延伸糸を冷却固化させた後、加熱媒体中又は加熱ローラー等の接触加熱下、あるいは非接触型ヒーターで延伸する方法などが採用される。
【0085】
紡糸速度については、好ましくは紡糸速度800~4000m/分で引き取られる。紡糸速度が800m/分未満では、比較的高配向度の未延伸糸を得る事が困難であり、紡糸速度が4000m/分を超える場合には、未延伸糸の配向結晶化が促進され、高強力化に適さない。ここで、溶融紡糸した未延伸糸を延伸する際に、トータル延伸倍率(総延伸倍率)が好ましくは2.5~6.0倍の範囲内となるように設定すれば、最終的に得られる繊維の引張強度を高い水準にて達成させることができると共に、延伸工程における断糸率も低く、生産性が更に向上する。該トータル延伸倍率はより好ましくは2.8~5.5倍の範囲であり、特に好ましくは3.0~5.0倍の範囲である。該延伸工程は一段延伸のみでも、また二段以上の延伸段階を経ても良く、例えば二段延伸する方法を採用する場合は一段目の延伸倍率を2.0~5.5倍、二段目の延伸倍率を1.0~2.0倍程度とし、トータル延伸倍率を2.5~6.0倍に調整すればよい。
【0086】
この様にして得られるポリエステル繊維は、そのまま、あるいは嵩高加工を施した後に織編用途等に用いても、他の繊維と混繊あるいは複合加工した後に織編用途等に用いてもよい。また、これらポリエステル繊維中には少量の他の任意の重合体や酸化防止剤、制電剤、染色改良剤、染料、顔料、艶消し剤その他の添加剤が含有されていても良い。
【0087】
ポリエステル繊維はそのまま、あるいは上記の加工を施した後に、そのポリエステル繊維を含む各種の繊維構造体用途等に用いることができる。繊維構造体とは、糸、繊維状、紐状、織物、編物、不織布、フェルト、抄紙、三次元網状、綿状、シート状物など繊維の取りうる構造体は全て好ましく使用できる。中でも好ましくは、糸、紐、加工糸、網、編物、不織布および織物からなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維構造物である。これらの繊維構造体の製法としては、通常当業者間で知られている製造方法の中から目的に応じて任意に選択することができる。
【0088】
(成形体)
また、本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、その優れた難燃性能から、家電製品部品、電気・電子部品、自動車部品、機械・機構部品、化粧品容器などの種々の成形体を成形する材料としても有用である。具体的には、ブレーカー部品、スイッチ部品、モーター部品、イグニッションコイルケース、電源プラグ、電源コンセント、コイルボビン、コネクター、リレーケース、ヒューズケース、フライバクトランス部品、フォーカスブロック部品、ディストリビューターキャップ、ハーネスコネクターなどに好適に用いることができる。さらに、薄肉化の進むハウジング、ケーシングまたはシャーシ、例えば、電子・電気製品(例えば電話機、パソコン、プリンター、ファックス、コピー機、ビデオデッキ、オーディオ機器などの家電・OA機器またはそれらの部品など)のハウジング、ケーシングまたはシャーシに有用である。特に優れた耐熱性、難燃性が要求されるプリンターの筐体、定着ユニット部品、ファックスなど家電・OA製品の機械・機構部品などとしても有用である。
【0089】
成形体の成形方法としては射出成形、ブロー成形、圧縮成形等、特に限定されるものではないが、好ましくはペレット状の樹脂組成物を射出成形機を用いて、射出成形することにより製造される。
【0090】
(シート、フィルム)
さらに、本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、その優れた難燃性能からシートまたはフィルムの材料としても有用である。
【0091】
シートまたはフィルムの成形としては、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、圧縮成形等、特に限定されるものではないが、好ましくはペレット状の樹脂組成物を押出機を用いて、押出成形することにより製造される。
【実施例
【0092】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、評価は下記の方法で行った。
【0093】
(A)有機純度
HPLC装置としてWaters社製Separations Module 2690、検出器としてWaters社製Dual λ Absorbance Detector 2487(UV-264nm)、カラムとして東ソー(株)製TSKgel ODS-120T 2.0mm×150mm(5μm)を用い、溶離液に蒸留水とアセトニトリルとの混合液を用いて、カラム温度40℃で0→12min:アセトニトリル50%、12→17min:アセトニトリル50→80%、17→27min:アセトニトリル80%、27→34min:アセトニトリル80→100%、34→60min:100%のグラジエントプログラムにて測定した。測定は、ペンタエリスリトールジホスホネート化合物50±0.5mgをアセトニトリル25mlに溶解させた後、孔径0.2μmのPTFEフィルターでろ過し、測定した。測定結果より、面積比をもって有機純度とした。
【0094】
(B)全含有ハロゲン成分
ペンタエリスリトールジホスホネート化合物の全含有ハロゲン成分はJIS K 7229に準拠した方法で測定した。
【0095】
(C)全揮発性有機物含有量
HPLC装置としてWaters社製Separations Module 2690、検出器としてWaters社製Dual λ Absorbance Detector 2487(UV-264nm)および示差屈折検出器、カラムとして東ソー(株)製TSKgel ODS-120T 2.0mm×150mm(5μm)を用い、溶離液に蒸留水とアセトニトリルとの混合液を用いて、カラム温度40℃で0→12min:アセトニトリル50%、12→17min:アセトニトリル50→80%、17→27min:アセトニトリル80%、27→34min:アセトニトリル80→100%、34→60min:100%のグラジエントプログラムにて測定した。測定は、ペンタエリスリトールジホスホネート化合物50±0.5mgをアセトニトリル25mlに溶解させた後、孔径0.2μmのPTFEフィルターでろ過し、測定した。当該化合物製造時に使用する揮発性有機物に関して、あらかじめ検量線を作成し、ペンタエリスリトールジホスホネート化合物中の揮発性有機物の残存量を求めた。
【0096】
(D)ΔpH
市販のpH測定装置を使用し、次に示す方法により測定した。測定に使用する蒸留水99gに1gの分散剤を加え撹拌し、得られた水溶液のpHを測定した(測定値をpH1とする)。当該水溶液に本発明のペンタエリスリトールジホスホネート化合物(1)を1g加え1分間撹拌した後に、ペンタエリスリトールジホスホネート化合物(1)を濾過する。得られた濾液のpHを測定した(測定値をpH2とする)。本発明の△pH値は下記式(I)により算出される。
△pH値=|pH1-pH2| …(I)
【0097】
(E)酸価
ペンタエリスリトールジホスホネート化合物の酸価はJIS-K-3504に準拠した方法で測定した。
【0098】
(F)固有粘度(IV値)
固有粘度数は、サンプルを一定量計量し、o-クロロフェノールに0.012g/mlの濃度に溶解した後、一旦冷却させ、その溶液をウベローデ式粘度計を用いて35℃の温度条件で測定した溶液粘度から算出した。
【0099】
(G)難燃性(UL-94評価)
難燃性は厚さ1/32インチ(0.8mm)のテストピースを用い、難燃性の評価尺度として、米国UL規格のUL-94に規定されている垂直燃焼試験に準じて評価を行った。どの試験片も有炎又は赤熱燃焼が保持クランプまで達することなく、炎を取り去った後の燃焼が10秒以内で消火し、且つ、滴下物が綿着火をおこさないものがV-0、燃焼が30秒以内で消火し、且つ、滴下物が綿着火をおこすものがV-2であり、この評価基準以下のものをnotVとした。
テストピースの成形は各実施例、比較例で得られたペレットを120℃の熱風乾機にて12時間乾燥を行い、乾燥したペレットを射出成形機((株)日本製鋼所製 J75-ELII)を用いて、シリンダ温度240~320℃の条件にて成形した。
【0100】
(H)酸素指数(LOI評価)
酸素指数はJIS-K-7201に準拠した方法で測定した。数値が高いほど難燃性に優れる。
【0101】
(I)増粘度
ポリエステル組成物は120℃の熱風乾燥機にて12時間乾燥したものを測定に用いた。粘度測定装置としてTA Instruments社製Rheometer ARES-G2を使用し、測定温度300℃、せん断速度1Hz、上側冶具25mmφ cone plate(0.1rad)、下側冶具25φ parallel plate、GAP0.50mmの条件で測定した。測定開始後1分後の樹脂粘度(測定値をμ1とする)と測定開始後30分後の樹脂粘度(測定値をμ2とする)の差を増粘度とした。
本発明の増粘度は下記式(II)により算出される。
増粘度=|μ2-μ1| …(II)
【0102】
[製造例1]
2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイド(式(2)で表される化合物、FR-1)の調製
<合成工程>
攪拌機、温度計、コンデンサーを有する反応容器に、3,9-ジベンジロキシ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン22.55g(0.055モル)、ベンジルブロマイド19.01g(0.11モル)およびキシレン33.54g(0.32モル)を充填し、室温下攪拌しながら、乾燥窒素をフローさせた。次いでオイルバスで加熱を開始し、還流温度(130~140℃)で4時間加熱、攪拌した。
【0103】
<洗浄工程1>
加熱終了後、室温まで放冷し、キシレン20mLを加え、30分攪拌し結晶を析出させた。析出した結晶をろ過により分離し、ろ取した結晶を、撹拌装置を具備したビーカーに移し、キシレン20mLを添加しスラリーとし、撹拌した。その後スラリーを再度ろ過し、ろ取した結晶を、再度撹拌装置を具備したビーカーに移し、キシレン20mLを添加しスラリーとし、撹拌した。最後にスラリーをろ過し粗精製物を得た。
【0104】
<洗浄工程2>
得られた粗精製物とメタノール40mLをコンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に入れ、6時間還流した(内温63℃)。室温まで冷却後、結晶をろ過により分離し、メタノール20mLで洗浄した。
【0105】
<乾燥工程>
その後、得られたろ取物を120℃、1.33×10Paで19時間乾燥し、白色の鱗片状結晶20.60g(0.050モル)を得た。生成物は質量スペクトル分析、1H、31P核磁気共鳴スペクトル分析および元素分析で2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイドであることを確認した。
【0106】
<粉砕工程>
得られた白色鱗片状結晶を粉砕機(フロイントターボ社製ターボミルT400)により、5,000rpmの条件で粉砕した。
【0107】
<特性>
本文記載の方法で測定した(A)有機純度は99.5%、(B)全含有ハロゲン成分は100ppm、(C)全揮発性有機物含有量は200ppm、(D)△pH値は0.5、(E)酸価は0.06mgKOH/gであった。
【0108】
[製造例2]
2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジα-メチルベンジル-3,9-ジオキサイド(式(3)で表される化合物、FR-2)の調製
<合成工程>
温度計、コンデンサー、滴下ロートを備えた反応容器にペンタエリスリトール816.9g(6.0モル)、ピリジン19.0g(0.24モル)、トルエン2250.4g(24.4モル)を仕込み、攪拌した。該反応容器に三塩化リン1651.8g(12.0モル)を該滴下ロートを用い添加し、添加終了後、60℃にて加熱攪拌を行った。反応後、室温まで冷却し、得られた反応物に塩化メチレン5180.7g(61.0モル)を添加し、氷冷しながらターシャリーブタノール889.4g(12.0モル)および塩化メチレン150.2g(1.77モル)を滴下した。得られた結晶をトルエンおよび塩化メチレンにて洗浄しろ過した。得られたろ取物を80℃、1.33×10Paで12時間乾燥し、白色の固体1341.1g(5.88モル)を得た。得られた固体は1H、31P核磁気共鳴スペクトル分析により2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジヒドロ-3,9-ジオキサイドである事を確認した。
【0109】
温度計、コンデンサー、滴下ロートを備えた反応容器に得られた2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジヒドロ-3,9-ジオキサイド1341.0g(5.88モル)、DMF6534.2g(89.39モル)を仕込み、攪拌した。該反応容器に氷冷下ナトリウムメトキシド648.7g(12.01モル)を添加した。氷冷にて2時間攪拌した後に、室温にて5時間攪拌を行った。さらにDMFを留去した後に、DMF2613.7g(35.76モル)を添加し、該反応混合物に氷冷にて1-フェニルエチルブロマイド2204.06g(11.91モル)滴下した。氷冷下3時間攪拌した後、DMFを留去した。
【0110】
<洗浄工程1>
室温まで放冷し、キシレン2Lを加え、30分攪拌し結晶を析出させた。析出した結晶をろ過により分離し、ろ取した結晶を、撹拌装置を具備したビーカーに移し、キシレン2Lを添加しスラリーとし、撹拌した。その後スラリーを再度ろ過し、ろ取した結晶を、再度撹拌装置を具備したビーカーに移し、キシレン2Lを添加しスラリーとし、撹拌した。最後にスラリーをろ過し粗精製物を得た。
【0111】
<洗浄工程2>
得られた粗精製物とメタノール4Lをコンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に入れ、6時間還流した(内温63℃)。室温まで冷却後、結晶をろ過により分離し、メタノール2Lで洗浄した。
【0112】
<乾燥工程>
その後、得られたろ取物を120℃、1.33×10Paで19時間乾燥し、白色の鱗片状結晶1845.9g(4.23モル)を得た。生成物は質量スペクトル分析、1H、31P核磁気共鳴スペクトル分析および元素分析で2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9-ジα-メチルベンジル-3,9-ジオキサイドであることを確認した。
【0113】
<粉砕工程>
得られた白色鱗片状結晶を粉砕機(フロイントターボ社製ターボミルT400)により、5,000rpmの条件で粉砕した。
【0114】
<特性>
本文記載の方法で測定した(A)有機純度は99.0%、(B)全含有ハロゲン成分は150ppm、(C)全揮発性有機物含有量は220ppm、(D)△pH値は0.6、(E)酸価は0.08mgKOH/gであった。
【0115】
[製造例3]
2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジ(2-フェニルエチル)-3,9-ジオキサイド(式(4)で表される化合物、FR-3)の調製
<合成工程>
温度計、コンデンサー、滴下ロートを備えた反応容器にペンタエリスリトール816.9g(6.0モル)、ピリジン19.0g(0.24モル)、トルエン2250.4g(24.4モル)を仕込み、攪拌した。該反応容器に三塩化リン1651.8g(12.0モル)を該滴下ロートを用い添加し、添加終了後、60℃にて加熱攪拌を行った。反応後、室温まで冷却し、得られた反応物に塩化メチレン5180.7g(61.0モル)を添加し、氷冷しながらターシャリーブタノール889.4g(12.0モル)および塩化メチレン150.2g(1.77モル)を滴下した。得られた結晶をトルエンおよび塩化メチレンにて洗浄しろ過した。得られたろ取物を80℃、1.33×10Paで12時間乾燥し、白色の固体1341.1g(5.88モル)を得た。1H、31P核磁気共鳴スペクトル分析により2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジヒドロ-3,9-ジオキサイドである事を確認した。
【0116】
温度計、コンデンサー、滴下ロートを備えた反応容器に得られた2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジヒドロ-3,9-ジオキサイド1341.0g(5.88モル)、DMF6534.2g(89.39モル)を仕込み、攪拌した。該反応容器に氷冷下ナトリウムメトキシド648.7g(12.01モル)を添加した。氷冷にて2時間攪拌した後に、室温にて5時間攪拌を行った。さらにDMFを留去した後に、DMF2613.7g(35.76モル)を添加し、該反応混合物に氷冷にて(2-ブロモエチル)ベンゼン2183.8g(11.8モル)滴下した。氷冷下3時間攪拌した後、DMFを留去した。
【0117】
<洗浄工程1>
室温まで放冷し、キシレン2Lを加え、30分攪拌し結晶を析出させた。析出した結晶をろ過により分離し、ろ取した結晶を、撹拌装置を具備したビーカーに移し、キシレン2Lを添加しスラリーとし、撹拌した。その後スラリーを再度ろ過し、ろ取した結晶を、再度撹拌装置を具備したビーカーに移し、キシレン2Lを添加しスラリーとし、撹拌した。
最後にスラリーをろ過し粗精製物を得た。
【0118】
<洗浄工程2>
得られた粗精製物とメタノール4Lをコンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に入れ、6時間還流した(内温63℃)。室温まで冷却後、結晶をろ過により分離し、メタノール2Lで洗浄した。
【0119】
<乾燥工程>
その後、得られたろ取物を120℃、1.33×10Paで19時間乾燥し、白色鱗片状結晶1924.4g(4.41モル)を得た。生成物は質量スペクトル分析、1H、31P核磁気共鳴スペクトル分析および元素分析で2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9-ジ(2-フェニルエチル)-3,9-ジオキサイドであることを確認した。
【0120】
<粉砕工程>
得られた白色鱗片状結晶を粉砕機(フロイントターボ社製ターボミルT400)により、5,000rpmの条件で粉砕した。
【0121】
<特性>
本文記載の方法で測定した(A)有機純度は99.1%、(B)全含有ハロゲン成分は120ppm、(C)全揮発性有機物含有量は250ppm、(D)△pH値は0.3、(E)酸価は0.07mgKOH/gであった。
【0122】
[製造例4]
2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9-ビス(ジフェニルメチル)-3,9-ジオキサイド(式(5)で表される化合物、FR-4)の調製
<合成工程>
攪拌装置、攪拌翼、還流冷却管、温度計を備えた10リットル三つ口フラスコに、ジフェニルメチルホスホン酸ジクロリドを2058.5g(7.22モル)とペンタエリスリトール468.3g(3.44モル)、ピリジン1169.4g(14.8モル)、クロロホルム8200gを仕込み、窒素気流下、60℃まで加熱し、6時間攪拌した。
【0123】
<洗浄工程1>
室温まで放冷し、キシレン2Lを加え、30分攪拌し結晶を析出させた。析出した結晶をろ過により分離し、ろ取した結晶を、撹拌装置を具備したビーカーに移し、キシレン2Lを添加しスラリーとし、撹拌した。その後スラリーを再度ろ過し、ろ取した結晶を、再度撹拌装置を具備したビーカーに移し、キシレン2Lを添加しスラリーとし、撹拌した。最後にスラリーをろ過し粗精製物を得た。
【0124】
<洗浄工程2>
得られた粗精製物とメタノール4Lをコンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に入れ、6時間還流した(内温63℃)。室温まで冷却後、結晶をろ過により分離し、メタノール2Lで洗浄した。
【0125】
<乾燥工程>
その後、得られたろ取物を120℃、1.33×10Paで19時間乾燥し、白色鱗片状結晶1156.2g(2.06モル)を得た。生成物は質量スペクトル分析、1H、31P核磁気共鳴スペクトル分析および元素分析で2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9-ビス(ジフェニルメチル)-3,9-ジオキサイドであることを確認した。
【0126】
<粉砕工程>
得られた白色鱗片状結晶を粉砕機(フロイントターボ社製ターボミルT400)により、5,000rpmの条件で粉砕した。
【0127】
<特性>
本文記載の方法で測定した(A)有機純度は98.9%、(B)全含有ハロゲン成分は200ppm、(C)全揮発性有機物含有量は250ppm、(D)△pH値は0.7、(E)酸価は0.10mgKOH/gであった。
【0128】
[製造例5]
2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイド(式(2)で表される化合物、FR-5)の調製
<合成工程>
攪拌機、温度計、コンデンサーを有する反応容器に、3,9-ジベンジロキシ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン22.55g(0.055モル)、ベンジルブロマイド19.01g(0.11モル)およびキシレン33.54g(0.32モル)を充填し、室温下攪拌しながら、乾燥窒素をフローさせた。次いでオイルバスで加熱を開始し、還流温度(約130℃)で4時間加熱、攪拌した。加熱終了後、室温まで放冷し、
<洗浄工程>
キシレン20mLを加え、さらに30分攪拌した。析出した結晶をろ過により分離し、キシレン20mLで1回洗浄し、白色結晶をろ取した。
【0129】
<乾燥工程>
120℃、1.33×10Paで24時間乾燥し、白色の結晶21.22g(0.052モル)を得た。生成物は質量スペクトル分析、1H、31P核磁気共鳴スペクトル分析および元素分析で2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイドであることを確認した。
【0130】
<粉砕工程>
得られた白色結晶を粉砕機(フロイントターボ社製ターボミル)にて粉砕した。
【0131】
<特性>
本文記載の方法で測定した(A)有機純度は96.0%、(B)全含有ハロゲン成分は1300ppm、(C)全揮発性有機物含有量は1100ppm、(D)△pH値は1.3、(E)酸価は2.52mgKOH/gであった。
【0132】
製造例1~5で得られたペンタエリスリトールジホスホネート化合物の特性を表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
[実施例1~12、比較例1~4]
表2記載の各成分を表2記載の量(重量部)でタンブラーにて配合し、15φ二軸押出機(テクノベル製、KZW15)にて220~280℃の温度条件下でペレット化した。得られたポリエステル樹脂組成物の各種評価結果を表3に示した。
【0135】
[実施例13]
実施例3記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物(マスターペレット)と表2記載の芳香族ポリエステル樹脂を表2記載の量(重量部)でドライブレンドし、15φ二軸押出機(テクノベル製、KZW15)にて240~260℃の温度条件下でペレット化し、難燃性ポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の各種評価結果を表3に示した。
【0136】
なお、表2記載の各記号は下記の化合物を示す。
(I)ポリエステル樹脂(A成分)
Pest-1;固有粘度0.80dL/gのポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人(株)製TR-BB)
Pest-2;固有粘度0.75dL/gのポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人(株)製TRN-8855)
Pest-3;固有粘度0.65dL/gのポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人(株)製TRN-RT JC)
Pest-4;固有粘度1.22dL/gのポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人(株)製TRN-8890AD)
(II)ペンタエリスリトールジホスホネート化合物(B成分)
FR-1;製造例1で合成した2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイド
FR-2;製造例2で合成した2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジα-メチルベンジル-3,9-ジオキサイド
FR-3;製造例3で合成した2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジ(2-フェニルエチル)-3,9-ジオキサイド
FR-4;製造例4で合成した2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9-ビス(ジフェニルメチル)-3,9-ジオキサイド
FR-5;製造例5で合成した2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン,3,9-ジベンジル-3,9-ジオキサイド
(III)酸性化合物(C成分)
P-1;オクタデシルホスフェート(ADEKA(株)社製:アデカスタブAX-71(商品名))
P-2;3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA(株)社製;アデカスタブPEP-8(商品名))
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
[実施例14]
実施例1で得られた難燃性ポリエステル樹脂組成物を雰囲気温度250~280℃中に口金より紡出せしめ、引取り速度1000m/分で引き取った。引き続き1段、または2段で4.0±0.5倍になるように延伸し、80~88デシテックスのフィラメントを得た。このフィラメントのLOI値は25.5であった。得られたポリエステル繊維(フィラメント)を下記操作に沿って各種の繊維構造体を製造し、LOI評価を行った。結果を表4に示した。
(織物)
実施例14で得られたポリエステル繊維を経糸および緯糸に全量を配し、通常の製織方法により平組織の織物を得た。
(編物)
実施例14で得られたポリエステル繊維を、フロント筬、ミドル筬、バック筬に用い、通常の経編機を使用して編物を得た。
(不織布)
実施例14で得られた難燃ポリエステル組成物を240~280℃で溶融紡糸し、エジェクターで高速で引き取った長繊維を、移動するネットコンベア上に連続的に供給して搬送し、エンボスローラで熱圧着(100~200℃)し、長繊維不織布を得た。
【0140】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、その優れた難燃性能から、各種繊維製品や家電製品部品、電気・電子部品、自動車部品、機械・機構部品、化粧品容器などの種々の成形体を成形する材料として有用である。