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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】加熱器および定着装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20220906BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20220906BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20220906BHJP
   H05B 3/16 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H05B3/20 393
G03G15/20 505
H05B3/00 335
H05B3/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018246305
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020107529
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰史
(72)【発明者】
【氏名】中川 秀信
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-092831(JP,A)
【文献】特開2011-151252(JP,A)
【文献】特開2012-032380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02-3/18
H05B 3/20-3/38
H05B 3/40-3/82
H05B 3/84-3/86
H01F 17/00-19/08
H01F 27/00-27/02
H01F 27/06-27/08
H01F 27/23
H01F 27/26-27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 38/42
H01L 21/68
H01L 21/447-21/449
H01L 21/60-21/607
G01N 27/406-27/413
G01N 27/417-27/419
G03G 13/20
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面を有する基板と、
前記第1面上に位置する発熱部と、
前記第1面上に位置し、前記発熱部と電気的に接続される電極と、
前記基板に対向する厚み方向の端部に複数のボイドを有するボイド領域を含み、前記第1面を覆う保護層と
前記電極または前記発熱部と前記保護層との間に配置され、前記ボイド領域に接触する中間層と
を備え
前記中間層は、チッ化珪素を含む、加熱器。
【請求項2】
前記中間層は、前記発熱部と前記保護層との間に配置され、
前記ボイド領域は、前記発熱部に面する前記ボイドを有する
請求項1に記載の加熱器。
【請求項3】
前記発熱部は、表面に第1凹部を有し、
前記ボイド領域は、前記第1凹部と連通する前記ボイドを有する
請求項に記載の加熱器。
【請求項4】
前記中間層は、前記電極と前記保護層との間に配置され、
前記電極は、表面に第2凹部を有し、
前記ボイド領域は、前記第2凹部と連通する前記ボイドを有する
請求項1~のいずれか1つに記載の加熱器。
【請求項5】
前記複数のボイドは、前記発熱部の表面に面していない前記ボイドを有する
請求項2または3に記載の加熱器。
【請求項6】
前記電極は、前記保護層に接触する第1電極と、前記第1電極を挟んで前記保護層の反対側に配置される第2電極とを含み、
前記ボイド領域は、前記第1電極の一部が位置しない露出部分を介して前記第2電極に面する前記ボイドを有する
請求項2、3または5に記載の加熱器。
【請求項7】
軸周りに回転しながら媒体上のトナーを加熱する定着部材と、
軸周りに回転しながら前記媒体上のトナーを加圧する加圧部材と、
前記定着部材を挟んで前記加圧部材に対応して配置され、前記定着部材を加熱する請求項1~のいずれか1つに記載の加熱器と
を備える、定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、加熱器および定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上の発熱部を覆い、物理的または化学的に保護する保護層を備える加熱器が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-9720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記に記載の加熱器では、熱膨張係数の差により、基板や発熱部から保護層が剥離する懸念があった。
【0005】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、保護層の剥離が少ない加熱器および定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る加熱器は、基板と、発熱部と、電極と、保護層とを備える。基板は、第1面を有する。発熱部は、前記第1面上に位置する。電極は、前記第1面上に位置し、前記発熱部と電気的に接続される。保護層は、前記基板に対向する厚み方向の端部に複数のボイドを有するボイド領域を含み、前記第1面を覆う。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様の加熱器および定着装置は、保護層の剥離が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るプリンタを示す概略図(正面図)である。
図2図2は、実施形態に係る定着装置を模式的に示す断面図である。
図3図3は、実施形態に係るヒータを模式的に示す底面図である。
図4図4は、図3のIV-IV断面図である。
図5図5は、図3のV-V断面図である。
図6図6は、図4の部分拡大図である。
図7図7は、図5の部分拡大図である。
図8図8は、実施形態の第1変形例に係るヒータを模式的に示す断面図である。
図9図9は、実施形態の第2変形例に係るヒータを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。なお、各図に示す「Fr」は「前」を示し、「Rr」は「後」を示し、「L」は「左」を示し、「R」は「右」を示し、「U」は「上」を示し、「D」は「下」を示している。
【0010】
[プリンタの全体構成]
図1を参照して、画像形成装置の一例としてのプリンタ1について説明する。図1は、プリンタ1を示す概略図(正面図)である。
【0011】
プリンタ1は、略直方体状の外観を構成する装置本体2を備える。プリンタ1は、装置本体2の下部に、例えば、普通紙等のシートS(媒体)を収容する給紙カセット3を有する。プリンタ1は、装置本体2の上面に、排紙トレイ4を有する。なお、シートSは、紙製に限らず、樹脂製等であってもよい。
【0012】
また、プリンタ1は、給紙装置5と、作像装置6と、定着装置7とを備える。給紙装置5は、給紙カセット3から排紙トレイ4まで延びた搬送路8の上流端部に位置する。作像装置6は搬送路8の中間部に位置する。定着装置7は搬送路8の下流側に位置する。
【0013】
作像装置6は、トナーコンテナ10と、ドラムユニット11と、光走査装置12とを含む。トナーコンテナ10は、例えば、黒色のトナー(現像剤)を収容する。ドラムユニット11は、感光体ドラム13と、帯電装置14と、現像装置15と、転写ローラ16とを含む。転写ローラ16は、下側から感光体ドラム13に接触して転写ニップを形成する。なお、トナーは、トナーとキャリアとを混合した二成分現像剤であってもよいし、磁性トナーから成る一成分現像剤であってもよい。
【0014】
プリンタ1の制御装置(図示せず)は各装置を適宜制御し、以下のように画像形成処理を実行する。帯電装置14は、感光体ドラム13の表面を帯電させる。感光体ドラム13は、光走査装置12から出射された走査光を受け、静電潜像を担持する。現像装置15は、トナーコンテナ10から供給されたトナーを用いて感光体ドラム13上の静電潜像をトナー像に現像する。シートSは給紙装置5によって給紙カセット3から搬送路8に送り出され、感光体ドラム13上のトナー像は転写ニップを通過するシートSに転写される。定着装置7は、トナー像をシートSに定着させる。その後、シートSは、排紙トレイ4に排出される。
【0015】
[定着装置]
次に、図2図5を参照して、定着装置7について説明する。図2は、定着装置7を模式的に示す断面図である。図3は、ヒータ23を模式的に示す底面図である。図4は、図3のIV-IV断面図である。図5図3のV-V断面図である。
【0016】
図2に示すように、定着装置7は、定着ベルト21と、加圧ローラ22と、ヒータ23とを備える。定着ベルト21および加圧ローラ22は、筐体20(図1参照)の内部に位置する。ヒータ23は、定着ベルト21を加熱するための熱源である。
【0017】
<定着ベルト>
定着部材の一例としての定着ベルト21は、無端状のベルトであって、前後方向(軸方向)に長い略円筒状である。定着ベルト21の表層は、例えば、ポリイミド樹脂等の耐熱性および弾性を有する合成樹脂材料等で構成される。定着ベルト21は、筐体20の内部上方に配置される。定着ベルト21の軸方向両端部には、略円筒状の一対のキャップ(図示せず)が装着されている。なお、定着ベルト21の内部に、定着ベルト21の略円筒形状を保持するためのベルトガイド(図示せず)を有していてもよい。
【0018】
定着ベルト21の内部には、押圧部材24が位置する。押圧部材24は、軸方向に長い略角筒状である。押圧部材24は、定着ベルト21(およびキャップ)を軸方向に貫通して筐体20に支持される。上記した定着ベルト21は、押圧部材24に対して回転可能に支持される。そして、押圧部材24は、例えば、金属材料によって構成される。
【0019】
<加圧ローラ>
加圧部材の一例としての加圧ローラ22は、前後方向(軸方向)に長い略円筒状である。加圧ローラ22は、筐体20の内部下方に位置する。加圧ローラ22は、金属製の芯金22Aと、その外周面に積層されたシリコーンスポンジ等の弾性層22Bとを含む。芯金22Aの軸方向両端部は、筐体20に回転可能に支持される。芯金22Aにはギア列等を介して駆動モータ(図示せず)が接続され、加圧ローラ22は駆動モータによって回転駆動される。なお、定着装置7は、加圧ローラ22を昇降させて定着ベルト21に対する加圧ローラ22の接触圧を調整する圧力調整部(図示せず)を備える。加圧ローラ22が定着ベルト21に押し付けられることで、定着ベルト21と加圧ローラ22との間が加圧領域Nである。また、加圧領域Nとは、圧力が0PaであるシートSの搬送方向上流側の位置から最大圧力となる位置を経由して再び圧力が0PaとなるシートSの搬送方向下流側の位置までの領域を指している。
【0020】
<ヒータ>
加熱器の一例としてのヒータ23は、前後方向(軸方向)に長い略矩形の板状部材である。図2に示すように、ヒータ23は、保持部材25を介して押圧部材24の下面に固定される。保持部材25は、軸方向に直交する断面が半円状、かつ軸方向に長い形状である。保持部材25は、定着ベルト21の下側内面に沿うように湾曲している。そして、保持部材25は、例えば、耐熱性材料から構成される。
【0021】
図3図5に示すように、ヒータ23は、基板30と、断熱層31と、発熱接触部32とを含む。基板30は、保持部材25の下面に固定される。断熱層31は、基板30の第1面としての下面上に位置する。発熱接触部32は、基板30の第1面上に位置し、断熱層31の下面上に位置する。
【0022】
なお、本明細書において、「通過方向(第2方向)」とは、軸方向(第1方向)に交差する方向であって、シートSが定着装置7の加圧領域Nを通過する方向(搬送される方向)を指す。また、以下の説明では、「上流」および「下流」並びにこれらに類する用語は、通過方向における「上流」および「下流」並びにこれらに類する概念を指す。
【0023】
ヒータ23は、保持部材25の下面に保持される。ヒータ23における発熱接触部32は、加圧ローラ22に対向しており、定着ベルト21の内面に接触する部位である。そして、定着ベルト21と加圧ローラ22との接触部分が加圧領域Nである。ヒータ23は、定着ベルト21を挟んで加圧領域Nに対応して位置しており(図2参照)、定着ベルト21を加熱する機能を有する。なお、図1に示す筐体20に、定着ベルト21の表面温度またはヒータ23の温度を検知するための温度センサ(図示せず)を有していてもよい。
【0024】
図3図5に示すように、基板30は、例えば、セラミック等の電気絶縁性を有する材料で軸方向に長い略矩形板状である。基板30の上下両面は、略平滑である。
【0025】
断熱層31は、基板30の第1面(下面全域)上に積層(成膜)されている。断熱層31は、例えば、セラミックあるいはガラス等の電気絶縁性を有すると共に熱伝導率の低い材料により構成される。断熱層31は、発熱接触部32で発生した熱が基板30に伝達することを規制する機能を有する。
【0026】
発熱接触部32は、基板30の第1面上に位置する。詳細には、発熱接触部32は、基板30上に配置された断熱層31の一面(下面)上に積層されている。発熱接触部32は、発熱部40と、電極50と、保護層60とを含む。
【0027】
発熱部40は、複数の発熱部41~43を含む。発熱部40は、断熱層31の下面上に位置する。図3に示すように、複数の発熱部41~43は、軸方向に一列に並ぶ複数の抵抗発熱体45で構成されている。複数の抵抗発熱体45は、それぞれ、通過方向に細長い略長方形状である。全ての抵抗発熱体45は、略同じ大きさであってもよい。そして発熱部41~43は、例えば電極50よりも抵抗値の高い金属等の導電性を有する材料で構成される。
【0028】
発熱部41は、加圧領域Nを通過する第1サイズのシートSの前後幅に対応する範囲に並べられた複数の抵抗発熱体45によって構成されている。発熱部42は、加圧領域Nを通過する第2サイズのシートSの前後幅に対応する範囲に並べられた複数の抵抗発熱体45によって構成されている。発熱部43は、加圧領域Nを通過する第3サイズのシートSの前後幅に対応する範囲に並べられた複数の抵抗発熱体45によって構成されている。
【0029】
複数の抵抗発熱体45は、それぞれ、軸方向に同じ寸法であってもよく、かつ通過方向に同じ寸法であってもよい。なお、本明細書において「同じ寸法」とは、完全に同じ寸法であることを要求するものではなく、製造上の僅かな誤差を許容する意味である。
【0030】
図3に示すように、電極50は、複数の電極51~54を含む。複数の電極51~54は、例えば、金属等の導電性を有する材料(抵抗発熱体45よりも抵抗値の低い)で構成される。複数の電極51~54は、断熱層31の下面上に位置する。複数の電極51~54は、発熱部41~43の通過方向両側に電気的に接続されている。詳細には、電極50は、複数の発熱部41~43にそれぞれ接続される複数(例えば3つ)の個別電極51~53と、発熱部41~43に共通して接続されるコモン電極54とを含む。
【0031】
個別電極51は、発熱部41を構成する各抵抗発熱体45の下流端部(右端部)に接続されている。同様に、その他の個別電極52、53は、それぞれ、発熱部42、43を構成する各抵抗発熱体45の下流端部に接続されている。一方、コモン電極54は、全ての抵抗発熱体45の上流端部(左端部)に接続されている。
【0032】
なお、本明細書では、個別電極51~53とコモン電極54とで共通する後述の説明では、「電極50」と称する場合がある。同様に、発熱部41~43で共通する後述の説明では、「発熱部40」と称する場合がある。
【0033】
各々の電極51~54は、引出部51B~54Bと、電極端末部51A~54Aとを有する。引出部51B~54Bは、それぞれ発熱部41~43に接続された部分(接続部分51C~54C)から、それぞれ電極端末部51A~54Aに向かって延びる部位である。換言すると、引出部51B~54Bは、それぞれ発熱部41~43の軸方向外端と電極端末部54Aとの間に位置する。電極端末部51A~54Aは、それぞれ引出部51B~54Bの先端部に接続される。電極端末部51A~54Aは、電源等の外部機器と電気的に接続するための端子である。
【0034】
詳細には、個別電極51の引出部51Bは、発熱部41との接続部分51Cから軸方向の片側(上側)に延びている。電極端末部51Aは、引出部51Bの端部に接続され、上流側(左側)に屈曲している。個別電極52の引出部52Bと個別電極53の引出部53Bは、発熱部42、43との接続部分52C、53Cからそれぞれ軸方向の片側(上側)に延びている。電極端末部52A、53Aは、引出部52B、53Bにそれぞれ接続されている。電極端末部52Aは、電極端末部51Aよりも軸方向内側に位置し、電極端末部53Aは、電極端末部52Aよりも軸方向内側に位置している。一方、コモン電極54の引出部54Bは、発熱部41~43との接続部分54Cから軸方向の片側(上側)に延びている。電極端末部54Aは、引出部54Bに接続されている。電極端末部54Aは、電極端末部53Aよりも軸方向内側に位置している。
【0035】
図4図5に示すように、保護層60は、発熱部40および電極50(電極端末部51A~54Aを除く)を被覆する。保護層60は、例えば、セラミック等の電気絶縁性を有すると共に定着ベルト21に対して滑り摩擦力の小さな材料で形成されている。保護層60の第1面60Cは、定着ベルト21の内面に接触する摺動面を構成する。なお、保護層60は、発熱部40や電極50が積層されない部分にも、基板30の第1面を覆うように積層されている。
【0036】
以上説明したヒータ23の製造には、例えば、スパッタリング等の成膜技術、プリント基板の製造技術、またはスクリーン印刷技術、若しくはこれらの技術の組み合せを用いることができる。例えば、断熱層31および発熱接触部32(発熱部40、電極50、保護層60)がスパッタリングによって基板30上に成膜されてもよい。また、例えば、断熱層31および発熱接触部32は、プリント基板の製造技術であるフォトマスクを用いた露光、現像、エッチング、剥離、積層等の工程を繰り返すことによって基板30上に形成されてもよい。また、例えば、断熱層31および発熱接触部32は、電気絶縁性塗料または導電性塗料を基板30上に塗布(スクリーン印刷)することによって形成されてもよい。これらの製法であれば、断熱層31、発熱部40および電極50を精度良く形成することができる。
【0037】
なお、ヒータ23の電極50や駆動モータ等は、各種の駆動回路(図示せず)を介して電源(図示せず)に電気的に接続されている。また、ヒータ23(電極50)、駆動モータおよび温度センサ等は、各種の回路を介してプリンタ1の制御装置に電気的に接続されている。制御装置は、接続された装置等を制御する。
【0038】
[定着装置の作用]
ここで、主に図2を参照して、定着装置7の作用(定着処理)について説明する。
【0039】
まず、制御装置は、駆動モータやヒータ23を駆動制御する。加圧ローラ22は駆動モータの駆動力を受けて回転し、定着ベルト21は加圧ローラ22に従動して回転する(図2の実線細矢印参照)。各々の抵抗発熱体45は、発熱部40を挟む複数の電極50の間で通過方向に電流を流すことで発熱する。これにより、定着ベルト21の加圧領域Nが加熱される。
【0040】
この際、制御装置は、シートSのサイズに応じて発熱させる発熱部41~43(図3参照)を制御する。例えば、定着装置7で処理可能な最大サイズのシートSが加圧領域N(図2参照)を通過する場合、制御装置は、全ての発熱部41~43に電力を供給し、全ての発熱部41~43を発熱させる。また、例えば、制御装置は、最大サイズよりも小さい中サイズのシートSが加圧領域Nを通過する場合には発熱部41,42を発熱させ、中サイズよりも小さい小サイズのシートSが加圧領域Nを通過する場合には発熱部41を発熱させる。これにより、シートSのサイズに合せて定着ベルト21(加圧領域N)の必要な部分のみを加熱することができる。その結果、定着ベルト21の過昇温を低減することができる。
【0041】
温度センサは、定着ベルト21の表面温度を検出し、入力回路を介して検出信号を制御装置に送信する。制御装置は、温度センサから設定温度(例えば150~200℃)に達したことを示す検出信号を受信すると、その設定温度を維持するようにヒータ23を制御しながら、既に説明した画像形成処理の実行を開始する。トナー像が転写されたシートSは筐体20内に進入し、定着ベルト21は、軸周りに正回転しながら加圧領域Nを通過するシートS上のトナー(トナー像)を加熱する。加圧ローラ22は、軸周りに回転しながら加圧領域Nを通過するシートS上のトナーを加圧する。すると、トナー像がシートSに定着する。そして、トナー像が定着したシートSは、筐体20の外部に送り出されて排紙トレイ4に排出される。
【0042】
ところで、ヒータ23は、温度変化によって生じる熱応力を受ける。特に、発熱部40や電極50を覆う保護層60では、発熱部40や電極50との熱膨張係数の差により、発熱部40や電極50との界面で保護層60が剥離するおそれがあった。そこで、図4に示すように、本実施形態に係る定着装置7(ヒータ23)は、発熱部40と対向する保護層60の端部に複数のボイド70を有するボイド領域60Aを有することにより、発熱部40との界面付近において、保護層60に生じる応力が緩和されるため、保護層60の剥離が少ない。
【0043】
図4に示すように、発熱部40に接する保護層60は、発熱部40と対向する端部にボイド領域60Aを有する。ボイド領域60Aは、ボイド70の面積率が10%以上35%以下であり、さらに16%以上29%以下であってもよい。このような構成により、発熱部40との接触面積を確保しつつ発熱部40からの保護層60の剥離を低減することができる。ここで、ボイド70の面積率は、ヒータ23を厚み方向に切断した断面の拡大写真(SEM)において、画像処理を行うことで測定されたボイド70の面積率をいう。具体的には、所定のエリア65(保護層60の厚みh2に対し、端面60Bからの厚みh1=0.1×h2(例えば、厚みh1=9.6μm)、幅L1=20×h2(例えば、幅L1=190μm)の範囲)において、ボイド70の外形をトレースし、ボイド70の総面積をエリア65の面積にて除することにより測定した面積率を、異なるエリア65ごと(例えば、5ヶ所)にそれぞれ測定し、その平均値をボイド領域60Aにおけるボイド70の面積率と規定する。
【0044】
また、ボイド領域60Aは、平均径が10μm以下、例えば、1μm以上5μm以下、さらに2.63μm以上3.81μm以下のボイド70を有してもよい。このような構成により、保護層60と発熱部40との間の接触面積を確保しつつ発熱部40からの保護層60の剥離を低減することができる。ここで、ボイド領域60Aの平均径は、上記した所定のエリア65において、直径が1μm以上のボイド70の直径をそれぞれ測定し、その値を平均したものをいう。なお、ボイド70の直径は、ボイド70の外形に外接する外接円相当径として規定した。
【0045】
ここで、保護層60の厚みh2が大きくなると、発熱部40との界面に生じる応力は高くなる傾向にある。そのため、ボイド領域60Aは、平均径が保護層60の厚みh2の10%以下のボイド70を有してもよい。このような構成により、保護層60に生じる応力を緩和することができ、発熱部40からの保護層60の剥離を低減することができる。
【0046】
また、図5に示すように、電極50の一例としての電極51に接する保護層60は、電極51と対向する端部にボイド領域60Aを有していてもよい。このような構成により、電極50との界面付近において、保護層60に生じる応力を緩和できるため、保護層60の剥離が低減される。すなわち、電極50を構成する材料と、保護層60を構成する材料との熱膨張率が異なる場合においても、ボイド領域60Aが、保護層60に生じる応力を緩和することができる。
【0047】
図5に示す保護層60の厚みh4は、図4に示す保護層60の厚みh2と同じであってもよく、異なってもよい。また、ボイド領域60Aの空隙率やボイド70の平均径の測定に利用されるエリア66の厚みh3、幅L2については、図4に示すエリア65と同様に厚みh4を基準として規定することができる。
【0048】
次に、保護層60が有するボイド70について、図6図7を用いてさらに説明する。図6は、図4の部分拡大図である。
【0049】
図6に示すように、ボイド領域60Aは、発熱部40の表面401に面していないボイド71を有していてもよい。換言すると、ボイド71は、発熱部40の表面401と離間していてもよい。ボイド71は、発熱部40の表面401に面していないため、保護層60が有する応力が発熱部40との界面に伝わりづらい。また、発熱部40に面していないボイド71の変形により、保護層60内の応力を緩和できる。しかも、発熱部40と保護層60との接触面積は、ボイド71を有することで減少せず、発熱部40と保護層60との接合力は低下しない。このため、発熱部40からの保護層60の剥離を低減させることができる。
【0050】
また、ボイド領域60Aは、発熱部40の表面401に面するボイド72を有してもよい。換言すると、ボイド72は、発熱部40の表面401に接触していてもよい。このような構成により、発熱部40で発生する熱を直接ボイド72で蓄熱できる。それにより、発熱部40の温度を上昇させるのに要する時間を短くすることができ、熱応答性が向上する。
【0051】
また、ボイド領域60Aは、発熱部40の表面401に位置する第1凹部401aと連通するボイド73を有してもよい。換言すると、ボイド73は、第1凹部401aの内部に収容されている。このような構成により、保護層60だけでなく、第1凹部401aの縁に生じる発熱部40の応力も緩和することができる。このため、発熱部40からの保護層60の剥離をさらに低減させることができる。
【0052】
なお、図6に示すように、発熱部40と対面する保護層60が有するボイド70は、1または複数のボイド71~73をすべて含んでもよく、一部のみを含んでもよい。
【0053】
図7は、図4の部分拡大図である。図7に示すように、電極50は、ヒータ23の厚み方向に積層する第1電極50aおよび第2電極50bを有してもよい。電極50が第1電極50aおよび第2電極50bを有することにより、例えば電流量の増大に対応することができる。すなわち、第1電極50aにより微細な配線パターンを実現するとともに、第2電極50bにより電極50自体の配線抵抗を小さくできる。
【0054】
また、ボイド領域60Aは、電極50の表面、すなわち第1電極50aの表面501に面していないボイド74を有していてもよい。このような構成により、保護層60が有する応力が電極50との界面に伝わりづらい。また、電極50に面していないボイド74の変形により、保護層60内の応力を緩和できる。しかも、電極50と保護層60との接触面積は、ボイド74を有することで減少せず、電極50と保護層60との接合力は低下しない。このため、電極50からの保護層60の剥離を低減させることができる。
【0055】
また、ボイド領域60Aは、第1電極50aの一部が位置しない露出部分501bを介して第2電極50bに面するボイド77を有していてもよい。このような構成により、第1電極50aよりも低い熱伝導性を有するボイド77が部分的に位置することとなり、保護層60または第1電極50aを介して伝わった熱をボイド77で蓄熱する。その結果、第1電極50aを伝わって発熱部40の熱が放熱されにくくなる。
【0056】
また、ボイド領域60Aは、第2電極50bの表面502に位置する第2凹部502aと連通するボイド78を有してもよい。このような構成により、保護層60だけでなく、電極50、特に第2凹部502aの縁に生じる第2電極50bの応力も緩和することができる。このため、電極50からの保護層60の剥離をさらに低減させることができる。
【0057】
なお、図7に示すように、電極50と対面する保護層60が有するボイド70は、1または複数のボイド74、77、78をすべて含んでもよく、一部のみを含んでもよい。また、ボイド領域60Aは、電極50(第1電極50a)の表面501に面するボイド75を有してもよい。また、ボイド領域60Aは、第1電極50aの表面501に位置する第3凹部501aと連通するボイド76を有してもよい。
【0058】
<第1変形例>
上記した実施形態に係るヒータ23は、保護層60の端面60Bが発熱部40または電極50と接触するとして説明したが、これに限らない。図8は、実施形態の第1変形例に係るヒータを模式的に示す断面図である。図8に示すように、保護層60と発熱部40との間に中間層80を有してもよい。このような構成により、中間層80を介した保護層60と発熱部40との剥離、具体的には、中間層80と保護層60との剥離、または中間層80の損傷を伴う保護層60と発熱部40との剥離を低減することができる。
【0059】
中間層80の材料としては、例えばチッ化珪素(Si)あるいは酸化ケイ素(SiO)など、電気絶縁性を有するセラミックを使用できる。また、保護層60と発熱部40との密着性を高める電気絶縁性の樹脂材料を使用してもよい。なお、図8では、保護層60と発熱部40との間に中間層80を有する例について示したが、保護層60と電極50との間に中間層80を有してもよい(図9参照)。
【0060】
<第2変形例>
上記した実施形態に係るヒータ23は、保護層60の第1面60Cが定着ベルト21に接触するとして説明したが、これに限らない。図9は、実施形態の第2変形例に係るヒータを模式的に示す断面図である。図9に示すように、保護層60の外面(第1面60C)側に被覆層90を有してもよい。被覆層90は、例えば、保護層60よりも定着ベルト21に対する滑り摩擦力が小さく、電気絶縁性を有する樹脂材料で構成することができる。なお、図9では、中間層80および被覆層90を有する例について示したが、中間層80を有さず、被覆層90のみを有してもよい。また、図9では、保護層60を挟んで電極50と向かい合うように位置する被覆層90を有する例について示したが、保護層60を挟んで発熱部40と向かい合うように位置する被覆層90を有してもよい。
【0061】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、本実施形態に係る上記した定着装置7では、発熱部41~43が、3種類のシートSのサイズに対応していたが、本発明はこれに限定されない。発熱部40(抵抗発熱体45)は、2種類以上のシートSのサイズに対応するように形成されていればよい。また、本実施形態に係る定着装置7では、加圧領域Nの軸方向中央をシートSが通過するように構成されていたが、これに限らず、加圧領域Nの軸方向一方に寄った位置をシートSが通過するように構成されていてもよい。また、本実施形態に係る定着装置7では、引出部51B~54Bが、軸方向に長く延びた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、引出部51B~54Bが、上流側(左側)や下流側(右側)に延びる部分を有していてもよい。
【0062】
また、本実施形態においては、発熱部41~43が延びる方向は、基板30の短手方向としたが、この構成に限られない。例えば、個別電極51~53およびコモン電極54を櫛歯状に形成し、かかる櫛歯状の個別電極51~53とコモン電極54との間で発熱部40を長手方向に延ばしてもてもよい。
【0063】
また、本実施形態に係る定着装置7では、加圧ローラ22を回転駆動させ、定着ベルト21を従動回転させていたが、これに限らず、定着ベルト21を回転駆動させ、加圧ローラ22を従動回転させてもよい。
【0064】
また、本実施形態に係る定着装置7では、定着ベルト21に対して加圧ローラ22を昇降(接近または離間する方向に移動)させていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、加圧ローラ22に対して定着ベルト21を接近または離間する方向に移動させる構成としてもよい。
【0065】
また、本実施形態の説明では、一例として、本発明をモノクロのプリンタ1に適用した場合を示したが、これに限らず、例えば、カラープリンタ、複写機、ファクシミリまたは複合機等に本発明を適用してもよい。
【0066】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 プリンタ(画像形成装置)
7 定着装置
21 定着ベルト(定着部材)
22 加圧ローラ(加圧部材)
23 ヒータ(加熱器)
30 基板
31 断熱層
40~43 発熱部
45 抵抗発熱体
51~53 個別電極(電極)
54 コモン電極(電極)
60 保護層
60A ボイド領域
70 ボイド
80 中間層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9