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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】絹生揚げ用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/45 20210101AFI20220906BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20220906BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
A23L11/45 108Z
A23D9/00 518
A23D9/013
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018246415
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020103192
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】富樫 博純
(72)【発明者】
【氏名】児玉 教祐
(72)【発明者】
【氏名】杉山 寛子
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-193772(JP,A)
【文献】特開平4-166053(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208331(WO,A1)
【文献】特開2017-12090(JP,A)
【文献】特開2011-152112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)食用油脂、
(B)増粘安定剤、
(C)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル及びレシチンの群から選ばれる1種又は2種以上
を含有する絹生揚げ用油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絹生揚げ用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生揚げは、厚揚げとも呼ばれ、厚切りにした豆腐をフライして得られる食品である。生揚げは、加熱してそのまま食される他、煮物やおでん等の素材として広く利用されている。生揚げの中でも、絹ごし豆腐を揚げた絹生揚げと称される製品がソフトな食感から近年好まれる傾向にある。しかし、絹生揚げの内部は絹ごし豆腐であるために、フライ調理時のみならず、フライ調理後に時間の経過と共に内部より水分が染み出し包装容器の底に溜まる、いわゆる離水が問題となっている。
【0003】
生揚げの離水を防止する従来技術としては、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、タマリンドガムからなる粘質多糖類の1種又は2種以上を添加した豆腐(特許文献1)グァーガム、タマリンドガム及びローカストビーンガムよりなる群から選択される1種又は2種以上のガムを含有するものであることを特徴とする豆腐の厚揚げ用離水防止剤(特許文献2)、豆乳100重量部に対して架橋澱粉0.3~5重量部を添加することを特徴とする厚揚げ(特許文献3)、卵白及び/又は乳清蛋白を含有することを特徴とする豆腐又は豆腐厚揚げ類の離水防止剤(特許文献4)、油脂に卵白粉末を分散させてなることを特徴とする絹生揚げ用油脂組成物(特許文献5)
等が開示されている。
【0004】
これらの技術の中でも、特許文献5に記載の油脂組成物は、絹生揚げの原料豆腐を製造する際に、予め水に分散又は溶解する等の操作が不要であり、豆乳にそのまま添加して使用できる優れたものである。しかし、この油脂組成物は、離水抑制効果において改善の余地があり、この効果が更に優れた絹生揚げ用油脂組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-169460号公報
【文献】特開平04-166053号公報
【文献】特開平10-075732号公報
【文献】特開平11-225699号公報
【文献】特開2010-193772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明らは、離水抑制効果が更に優れた絹生揚げ用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、特定の乳化剤及び増粘安定剤を含有する油脂組成物を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)食用油脂、
(B)増粘安定剤、
(C)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル及びレシチンの群から選ばれる1種又は2種以上
を含有する絹生揚げ用油脂組成物、からなっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物は、絹生揚げの離水抑制効果が優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[成分(A)]
本発明の絹生揚げ用油脂組成物は、成分(A)として食用油脂を含有する。食用油脂としては、食用に適した動物性、植物性の油脂及びそれらのエステル交換油、分別油等であって、常温(15~25℃)で液状の食用油脂であることが好ましい。そのような食用油脂としては、例えばサフラワー油、大豆油、綿実油、コメ油、ナタネ油、コーン油、オリーブ油等が挙げられる他、グリセリンジ脂肪酸エステルもこれらに含まれる。これら食用油脂は、いずれか1種類のみを用いても良いし、2種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0011】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物100質量%中の成分(A)の含有量に特に制限はないが、通常50~95質量%、好ましくは60~85%である。
【0012】
[成分(B)]
本発明の絹生揚げ用油脂組成物は、成分(B)として増粘安定剤を含有する。増粘安定剤としては、例えばアラビアガム、アルギン酸ナトリウム、カシアガム、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、スクシノグリカン、タマリンドシードガム、タラガム、トラガントガム、プルラン、ペクチン、ローカストビーンガム等が挙げられ、好ましくはキサンタンガム、グァーガム、ジェランガム、スクシノグリカン等が挙げられる。これら増粘安定剤は、いずれか1種類のみを用いても良いし、2種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0013】
成分(B)としては、K-OB(商品名;キサンタンガム;DSP五協フード&ケミカル社製)、メイプログァーCSA200/50(商品名;グァーガム;三晶社製)、ケルコゲルHM(商品名;ジェランガム;DSP五協フード&ケミカル社製)、ケルコゲルDGA(商品名;ジェランガム;DSP五協フード&ケミカル社製)、サクシノグリカンJ(商品名;スクシノグリカン;DSP五協フード&ケミカル社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明にはこれらを用いることができる。
【0014】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物100質量%中の成分(B)の含有量に特に制限はないが、通常4~40質量%、好ましくは10~30%である。
【0015】
[成分(C)]
本発明の絹生揚げ用油脂組成物は、成分(C)としてソルビタン不飽和脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル及びレシチンの群から選ばれる1種又は2種以上を含有する。
【0016】
本発明で成分(C)として用いられるソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、ソルビタンを主成分とするソルビトールの分子内縮合物と不飽和脂肪酸とのエステル化生成物である。該エステルは、エステル化率が好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満であるのが良い。該エステル化率(%)は下式により算出される。ここで、エステル価及び水酸基価は、「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.3.3-1996 エステル価]及び[2.3.6-1996 ヒドロキシル価]に準じて測定される。
<エステル化率の計算式>
エステル化率(%)=〔エステル価/(エステル価-水酸基価)〕×100
【0017】
ソルビタン不飽和脂肪酸エステルを構成する不飽和脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とし、炭素原子間の結合に1つ以上の二重結合を含む脂肪酸であれば特に制限はなく、例えばパルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、リシノール酸又は縮合リシノール酸等が挙げられる。これら不飽和脂肪酸はいずれか1種のみを用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いても良いが、好ましくはオレイン酸又はオレイン酸を50質量%以上含む不飽和脂肪酸混合物である。また、不飽和脂肪酸としては、不飽和脂肪酸を主体とし飽和脂肪酸を含む混合脂肪酸であっても良く、その場合、不飽和脂肪酸の含有量は通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上である。
【0018】
ソルビタン不飽和脂肪酸エステルとしては、ポエムO-80V(商品名;エステル化率:41.8%;構成脂肪酸:オレイン酸;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明にはこれを用いることができる。
【0019】
本発明で成分(C)として用いられるプロピレングリコール脂肪酸エステルは、プロピレングリコールと脂肪酸のエステル化生成物である。該エステルは、好ましくはモノエステルであり、混合物であればモノエステルを50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上含むのが良い。
【0020】
プロピレングリコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が挙げられる。これらの中でも、炭素数14~22の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が一般的に用いられる。
【0021】
プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては、リケマールPS-100(商品名;プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル;構成脂肪酸:ステアリン酸;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明にはこれを用いることができる。
【0022】
本発明で成分(C)として用いられるグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、グリセリンと有機酸と脂肪酸とのエステル化生成物である。
【0023】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する有機酸としては、食用可能なものであれば特に制限はなく、例えばコハク酸、ジアセルチル酒石酸、乳酸、クエン酸、酢酸等が挙げられる。
【0024】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が挙げられる。これらの中でも、炭素数14~22の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が一般的に用いられる。
【0025】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、例えばポエムB-10(商品名;グリセリンコハク酸脂肪酸エステル;構成脂肪酸:ステアリン酸;理研ビタミン社製)、ポエムK-37V(商品名;グリセリンクエン酸脂肪酸エステル;構成脂肪酸:オレイン酸;理研ビタミン社製)、パノダンAB-100 VEG-FS(商品名;グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル;構成脂肪酸:オレイン酸;Danisco社製)等が商業的に販売されており、本発明にはこれらを用いることができる。
【0026】
本発明で成分(C)として用いられるポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと不飽和脂肪酸とのエステル化生成物である。
【0027】
ポリグリセリンの平均重合度に特に制限はないが、例えば平均重合度が2~10のもの、具体的にはジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ペンタグリセリン(平均重合度5)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、オクタグリセリン(平均重合度8)、デカグリセリン(平均重合度10)等が挙げられ、好ましくは、トリグリセリン又はジグリセリンであり、より好ましくはジグリセリンである。ポリグリセリンがトリグリセリン又はジグリセリンの場合、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、好ましくはモノエステルであり、混合物であればモノエステルを50%以上、好ましくは80%以上含むのが良い。
【0028】
また、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを構成する不飽和脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とし、炭素原子間の結合に1つ以上の二重結合を含む脂肪酸であれば特に制限はなく、例えばパルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、リシノール酸又は縮合リシノール酸等が挙げられる。これら不飽和脂肪酸はいずれか1種のみを用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いても良いが、好ましくはオレイン酸又はオレイン酸を50質量%以上含む不飽和脂肪酸混合物である。また、不飽和脂肪酸としては、不飽和脂肪酸を主体とし飽和脂肪酸を含む混合脂肪酸であっても良く、その場合、不飽和脂肪酸の含有量は通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上である。
【0029】
ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルとしては、例えばポエムDO-100V(商品名;ジグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル;構成脂肪酸:オレイン酸;理研ビタミン社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0030】
本発明で成分(C)として用いられるレシチンは、糧種子又は動物原料から得られるリン脂質〔例えば、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸又はこれらの酵素処理物(例えば、フォスファチジルコリンの酵素分解物であるリゾフォスファチジルコリン等)〕を主成分とするものであり、例えば、油脂を含む液状又はペースト状レシチン、液状又はペースト状レシチンから油脂を除去し乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン又はレシチンを酵素で処理した酵素分解レシチン若しくは酵素処理レシチン等が挙げられる。
【0031】
レシチンとしては、例えばYelkinTS(商品名;ペースト状レシチン;エー・ディー・エム・ファーイースト社製)、レシチンDX(商品名;ペースト状レシチン;日清オイリオグループ社製)、レシオンLP-1(商品名;粉末レシチン;理研ビタミン社製)、レシマールEL(商品名;酵素分解レシチン;理研ビタミン社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明にはこれらを用いることができる。
【0032】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物100質量%中の成分(C)の含有量に特に制限はないが、通常0.3~30質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%である。
【0033】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物は、成分(A)、(B)及び(C)を含有する油脂組成物である。該油脂組成物は、例えば、成分(A)、(B)及び(C)を混合し、例えば60~90℃に加熱及び溶解し、室温まで冷却することにより製造することができる。
【0034】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えばトコフェロール、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、茶抽出物、ルチン等の酸化防止剤を加えることができる。
【0035】
また、本発明の絹生揚げ用油脂組成物には、絹生揚げの表面のキメが細かく仕上がる効果と、後述する原料豆腐及び絹生揚げ用豆腐生地の硬度を高め、欠けによる製造ロスを防止する効果を得るために、トランスグルタミナーゼを加えることができる。この場合、トランスグルタミナーゼの失活を防ぐため、成分(A)、(B)及び(C)を含有する油脂組成物を室温まで冷却した後に加えることが好ましい。
【0036】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物は、原料豆腐(絹ごし豆腐)を製造する際、豆乳に添加して用いられる。絹生揚げ用油脂組成物の使用量に特に制限はないが、豆乳100質量部に対して該油脂組成物を通常0.5~12.0質量部、好ましくは0.7~6.0質量部添加することができる。
【0037】
原料豆腐は、例えば(1)大豆を水に浸漬して膨潤させ、大豆に吸収されなかった水を除く工程、(2)これに挽き水を加えながらグラインダー等で物理的に破砕した呉(ご)を得る工程、(3)呉を加熱した後、豆乳とおからに分離する工程、(4)豆乳に本発明の絹生揚げ用油脂組成物と凝固剤を入れ、凝固する工程により得ることができる。
【0038】
上記(4)の工程としては、より具体的には、(4A)60~90℃の豆乳に本発明の絹生揚げ用油脂組成物と凝固剤を入れ、直ちに型箱へ流し込み凝固する工程、又は(4B)5~30℃の豆乳に凝固剤を加え、容器に充填し密閉した後に加熱して凝固する工程を実施することができる。これらの工程により得られる絹ごし豆腐は、木綿豆腐の製造で行われる圧搾工程を経ておらず水分を多く含むため、本発明の絹生揚げ用油脂組成物を用いて製造される絹生揚げの原料豆腐として好ましく用いられる。尚、前記(4B)の工程により得られる豆腐は、「充填絹ごし豆腐」とも称せられる。
【0039】
凝固に用いる凝固剤としては、例えば塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、グルコノデルタラクトン、硫酸マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウム等が挙げられる。
【0040】
得られた原料豆腐を、必要に応じて、水切りや適当な大きさにカットする等して得た絹生揚げ用豆腐生地を油ちょうして絹生揚げを製造することができる。油ちょうの温度及び時間は、絹生揚げ用豆腐生地の大きさによっても異なるが、例えば150~220℃、好ましくは180~200℃で1~10分間、好ましくは2~5分間である。
【0041】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0042】
[絹生揚げ用油脂組成物の調製]
(1)原材料
1)菜種油(日清オイリオグループ社製)
2)キサンタンガム(商品名:K-OB;DSP五協フード&ケミカル社製)
3)グァーガム(商品名:メイプログァーCSA200/50;三晶社製)
4)ジェランガム1(商品名:ケルコゲルHM;DSP五協フード&ケミカル社製)
5)ジェランガム2(商品名:ケルコゲルDGA;DSP五協フード&ケミカル社製)
6)スクシノグリカン(商品名:サクシノグリカンJ;DSP五協フード&ケミカル社製)
7)ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;構成脂肪酸:オレイン酸;理研ビタミン社製)
8)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(商品名:ポエムO-80V;構成脂肪酸:オレイン酸;理研ビタミン社製)
9)プロピレングリコール脂肪酸エステル(商品名:リケマールPS-100;理研ビタミン社製)
10)グリセリン有機酸脂肪酸エステル1(商品名:ポエムB-10;グリセリンコハク酸脂肪酸エステル;理研ビタミン社製)
11)グリセリン有機酸脂肪酸エステル2(商品名:ポエムK-37V;グリセリンクエン酸脂肪酸エステル;理研ビタミン社製)
12)グリセリン有機酸脂肪酸エステル3(商品名:パノダンAB-100 VEG-FS;グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル;Danisco社製)
13)レシチン(商品名:YelkinTS;ペースト状レシチン;エー・ディー・エム・ファーイースト社製)
14)ソルビタン飽和脂肪酸エステル1(商品名:ポエムS-60V;構成脂肪酸:パルミチン酸及びステアリン酸;理研ビタミン社製)
15)ソルビタン飽和脂肪酸エステル2(商品名:ポエムB-150;構成脂肪酸:ベヘン酸、ステアリン酸及びパルミチン酸;理研ビタミン社製)
16)ポリグリセリン飽和脂肪酸エステル1(商品名:ポエムTR-FB;トリグリセリン脂肪酸エステル;構成脂肪酸:ベヘン酸;理研ビタミン社製)
17)ポリグリセリン飽和脂肪酸エステル2(商品名:ポエムJ-46B;テトラグリセリン脂肪酸エステル;構成脂肪酸:ベヘン酸;理研ビタミン社製)
18)グリセリン脂肪酸エステル(商品名:Type P(V);構成脂肪酸:パルミチン酸;理研ビタミン社製)
19)ショ糖脂肪酸エステル1(商品名:リョートーシュガーエステルL-195;構成脂肪酸:ラウリン酸;三菱ケミカルフーズ社製)
20)ショ糖脂肪酸エステル2(商品名:リョートーシュガーエステルS-370;構成脂肪酸:ステアリン酸;三菱ケミカルフーズ社製)
21)ショ糖脂肪酸エステル3(商品名:リョートーシュガーエステルER-290;構成脂肪酸:エルカ酸;三菱ケミカルフーズ社製)
22)トランスグルタミナーゼ(商品名:アクティバTG-K;味の素社製)
【0043】
(2)絹生揚げ用油脂組成物の配合
上記原材料を用いて調製した絹生揚げ用油脂組成物1~24の配合組成を表1~3に示す。このうち、表1及び2に示す絹生揚げ用油脂組成物1~14は本発明に係る実施例であり、表3に示す絹生揚げ用油脂組成物15~24はそれらに対する比較例である。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
(3)絹生揚げ用油脂組成物の調製方法
(3-1)絹生揚げ用油脂組成物1~7及び9~24について
表1~3に示した原材料の配合割合に基づいて、所定の原材料を300mL容量のガラス製ビーカーに入れ、スリーワンモーター(型式:BL600;5cm径4枚羽根型;新東科学社製)を用いて400rpmで攪拌しながら80℃まで加熱して溶解した後、室温まで冷却し、絹生揚げ用油脂組成物1~7及び9~24を調製した。これら絹生揚げ用油脂組成物の作製量は各200gとした。
【0048】
(3-2)絹生揚げ用油脂組成物8について
表2に示した原材料の配合割合に基づいて、トランスグルタミナーゼ以外の原材料を300mL容量のガラス製ビーカーに入れ、スリーワンモーター(型式:BL600;5cm径4枚羽根型;新東科学社製)を用いて400rpmで攪拌しながら80℃まで加熱して溶解した後室温まで冷却し、これにトランスグルタミナーゼを入れて同スリーワンモーターを用いて400rpmで均一に分散するまで攪拌し、絹生揚げ用油脂組成物8を調製した。この絹生揚げ用油脂組成物の作製量は200gとした。
【0049】
[絹生揚げ用油脂組成物の評価]
(1)絹生揚げの調製
大豆8kgを流水中に10時間浸漬し、水切りした。水切り後の浸漬大豆に全量が40kgとなるように水を加えながらグラインダーで浸漬大豆を磨砕した。磨砕後の呉を煮釜に入れ水蒸気吹き込みにて加熱し、102℃に達温後、30秒間煮沸した。煮沸後の呉を脱水機(型式:アトムMTS-SP1;丸井工業社製)を用いて濾過し、豆乳(固形分13質量%)を得た。尚、磨砕から煮沸までの一連の操作は小型豆乳プラント(ミニホープS;高井製作所製)を用いて実施した。
得られた豆乳を5℃に冷却し、豆乳400gに対して絹生揚げ用油脂組成物1~24のうちいずれか4gと凝固剤(商品名:ホワイトにがり;ナイカイ塩業製)1.6gとを加え、スリーワンモーター(型式:BL600;7cm径4枚羽根型;新東科学社製)を用いて500rpmで60秒間攪拌及び混合し、略半球状の容器(商品名:88-120Mシボ;88Φ×32.5mm;シンギ社製)に満杯量充填してフィルムでシールした。これを80℃の温水中で40分間保持し、その後冷水で冷却して充填絹ごし豆腐(原料豆腐)を得た。得られた充填絹ごし豆腐を容器から取り出し、これを絹生揚げ用豆腐生地として180℃の油中で3分間フライし、絹生揚げ1~24を得た。また、対照として、絹生揚げ用油脂組成物を使用しないこと以外は同様に調製し、絹生揚げ25を得た。
【0050】
(2)離水抑制効果の評価試験
得られた絹生揚げ1~25を保存し、保存後の質量を測定することにより離水抑制効果を評価した。具体的には、絹生揚げ1~25の表面に付着する油をキッチンペーパーで軽く拭き取った後に絹生揚げ1~25をプラスチック容器に入れて蓋をし、5℃の冷蔵庫にて3日間保存した。保存した絹生揚げ1~25の表面に付着する水をキッチンペーパーで軽く拭き取った後に保存後の絹生揚げ1~25の質量を測定し、乳化剤を含有しない絹生揚げ用油脂組成物24を添加した絹生揚げ24の質量を基準として、下記式にて絹生揚げ1~25の離水抑制度を算出し、以下の基準に従って記号化した。結果を表4に示す。
【0051】
<離水抑制度の計算式>
離水抑制度(%)=(A/B)×100
A:絹生揚げ1~25のうちいずれかの質量
B:絹生揚げ24の質量
【0052】
<記号化基準>
◎:極めて良好 離水抑制度105%以上
○:良好 離水抑制度103%以上、105%未満
△:やや悪い 離水抑制度101%以上、103%未満
×:悪い 離水抑制度101%未満
【0053】
【表4】
【0054】
表4の結果から明らかなように、絹生揚げ用油脂組成物1~14を添加した絹生揚げ1~14は、「○」以上の結果を得たことから、本発明の絹生揚げ用油脂組成物は、離水抑制効果が優れていた。これに対し、比較例の絹生揚げ用油脂組成物15~24を添加した絹生揚げ15~24及び対照の絹生揚げ25は、「△」以下の結果であり、本発明のものに比べて劣っていた。