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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】乾燥粒子耐火組成物用の焼結助剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20220906BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/00 N
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018569099
(86)(22)【出願日】2017-06-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 EP2017065883
(87)【国際公開番号】W WO2018002068
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-29
(31)【優先権主張番号】1670355
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】319006807
【氏名又は名称】イメルテック ソシエテ パル アクシオン サンプリフィエ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】テシェ ロマン
(72)【発明者】
【氏名】スディエ ジェローム
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-192777(JP,A)
【文献】特開昭52-097788(JP,A)
【文献】特開平07-138036(JP,A)
【文献】特開2002-255627(JP,A)
【文献】特開2009-067611(JP,A)
【文献】特開平10-017374(JP,A)
【文献】特表2013-534607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも70質量%の耐火骨材を含む乾燥粒子耐火組成物用の焼結助剤であって、
・1~40質量%の、20%未満の900℃における強熱減量を有する少なくとも1種のリン酸化合物;
60~99質量%の、長石を含む少なくとも1種の鉱物
を含み、
前記リン酸化合物が、アルカリリン酸塩であり、前記焼結助剤がホウ素原子を含む化合物を含まない、前記焼結助剤。
【請求項2】
少なくとも1種のリン酸化合物が、18%未満の、900℃における強熱減量を有する、請求項1に記載の焼結助剤。
【請求項3】
焼結助剤が、1~50質量%の、少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩を更に含む、請求項1又は2に記載の焼結助剤。
【請求項4】
少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸塩が、ケイ酸ナトリウムを含む、請求項に記載の焼結助剤。
【請求項5】
・少なくとも70質量%の耐火骨材;
・少なくとも0.5質量%の、請求項1~いずれか1項に記載の焼結助剤
を含む、乾燥粒子耐火組成物。
【請求項6】
耐火骨材が、酸化アルミニウム、シリカ、シリカ-アルミナ又はこれらの混合物である、請求項に記載の乾燥粒子耐火組成物。
【請求項7】
耐火骨材が、ジルコニア、ジルコン、マグネサイト、橄欖石、酸化クロム又はクロム鉱、スピネル、炭化ケイ素、珪岩、石英、石英ガラス、褐色コランダム、白色コランダム、板状アルミナ、焼成アルミナ、活性若しくは半活性アルミナ、ボーキサイト、ムライト、及び30質量%と75質量%の間のアルミナ率を有する焼成したシャモット、紅柱石、藍晶石、珪線石又はこれらの骨材の混合物からなる群から選択される、請求項に記載の乾燥粒子耐火組成物。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の乾燥粒子耐火組成物の、耐火ライニングを製造するための使用。
【請求項9】
請求項5~7のいずれか1項に記載の乾燥粒子耐火組成物を含む、炉の耐火ライニング。
【請求項10】
請求項5~7のいずれか1項に記載の乾燥粒子耐火組成物を成形する工程、及び焼結により強化熱処理する工程を含む、炉の耐火ライニングの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般に、本発明は耐火材料の技術分野に関する。特に、本発明は、乾燥粒子耐火組成物用の焼結助剤であって、長石を含む少なくとも1種の無機化合物及び20%未満の(900℃における)強熱減量を示す少なくとも1種のリン酸塩の組み合わせから得られる、前記焼結助剤に関する。
【0002】
本発明は、耐火粒子(又は骨材)及び前記焼結助剤を含む乾燥粒子耐火組成物にも関する。そのような組成物は、特に、例えば誘導炉/坩堝の、特に金属の溶融のための、炉のライニングの製造のために使用される。
【0003】
最後に、本発明は、本発明の乾燥粒子耐火組成物から得られる強化製品及びそのような製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
乾燥粒子耐火組成物は、乾燥混合物(dry mix)又は乾燥振動混合物(DVM(dry vibrating mixes))とも呼ばれ、一般的に耐火粒子(骨材ともいう)及び焼結助剤からなる。骨材は、1種以上の鉱物からなり、一般的に量の面で製品の最重要な部分に相当する。焼結助剤は、耐火製品中の全ての構成成分を確実に凝集させる不可欠な手段を構成する。焼結助剤は、熱活性化剤とも呼ばれる。骨材に比べると耐火組成物中で比較的少ない含有量で存在するが、焼結助剤は耐火充填材の特性及び最終性能に実質的な影響を与える。
【0005】
具体的には、文書WO 2014/184145(カルデリス・フランス)に、スピネル型マグネシウム及び酸化アルミニウムという特定の鉱物種を形成するDVM粒子耐火組成物が記載されている。
【0006】
そのような組成物は、「乾燥」、すなわち、水若しくは液状バインダーを添加せず、又は非常に少ない量(例えば3%未満)の水若しくは液状バインダーを用いて行われる。乾燥混合物粉末の形成は、室温で圧縮することにより、その後の焼結加熱工程による強化を伴って、伝統的に得られる。加熱強化工程の温度は、焼結温度とも呼ばれ、一般的に焼結助剤の融点と耐火粒子の融点の間の温度である。しかしながら、ある場合において、焼結助剤及び骨材の融点未満の温度で、例えば共融混合物の形成過程で、焼結が起こり得る。加熱強化工程の間に、焼結助剤は一般的に固体状態から粘性液体状態へ変化し、それにより粒子が結合できる。
【0007】
多数の文書に、乾燥振動混合物の粒子組成物に、焼結助剤を使用することが記載されている。特に、耐火組成物用の焼結助剤としてホウ素を含む化合物の使用が良く知られている。特に、文書US 4,426,457には、40~70質量%のAl2O3、29~59質量%のSiO2、0.3~2質量%の焼結助剤、特にホウ酸(H3BO3)又は酸化ホウ素(B2O3)からなる耐火粉末が記載されている。焼結助剤としてホウ素を含む化合物の使用は、実際、粒子耐火組成物の配合者に非常に広く知られている。
【0008】
ホウ素を含むある化合物は最近、欧州で、発癌性、突然変異性及び生殖毒性(CMR)(物質及び混合物の分類、表示及び包装に関する2008年12月16日の欧州議会及び理事会のEC規制no. 1272/2008)に分類する規制の対象となった。これらの化合物は最近、REACH[化学品の登録、評価、認可及び制限に関する規則]規制の「極度の懸念」に分類される物質の候補リストにも載り、それらを扱う産業会社にとってとりわけ面倒な法的義務へと導き得る。より正確には、それらは以下の化合物:ホウ酸(CAS 10043-35-3, 11113-50-1)、三酸化ホウ素(CAS 1303-86-2)、四ホウ酸二ナトリウム無水物(CAS 1330-43-412179-04-3, 1303-96-4)、七酸化四ホウ酸二ナトリウム水和物(CAS 12267-73-1)及びこれらの物質の他の水和形態を含む。
【0009】
本発明の1つの目的は、ホウ素を含む化合物を含まず、それにも関わらず耐火材料の特性及び最終性能を維持することができる粒子耐火組成物用の焼結助剤を提供することである。
【0010】
ホウ素を含む化合物のCMRとしての分類の課題は記載されていないが、文書WO 00/01639(フォセコ)では、ホウ素含有添加剤の使用を避けることを提案し、ホルムアルデヒド樹脂又はエポキシ樹脂をベースとする熱硬化性有機バインダーを含む熱活性化乾燥耐火組成物が記載されている。
【0011】
それでもなお、そのような樹脂、すなわち有機熱硬化性の又は熱可塑性の樹脂の使用は、一般的に適切ではない。実際、そのような樹脂は焼結温度未満(100~400℃の範囲の温度)の温度で結合できるのみであり、通常1000℃を超える温度範囲で確実には粒子混合物は凝集しない。更に、そのような樹脂の使用は、一度完全に熱分解されると、耐火材料の性能に特に有害な、粒子混合物内部の空隙を促進する。
【0012】
したがって、本発明の1つの目的は、乾燥粒子耐火組成物用の焼結助剤としてホウ素を含む化合物の使用の代替を提供することである。そのような乾燥耐火組成物は、金属を溶融するための炉を覆うために用いられ、溶融金属による浸入及び液体スラグ(金属酸化物混合物)による浸入に対して有効な抵抗性を特に提供するはずである。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、少なくとも70質量%の耐火骨材を含む乾燥粒子耐火組成物用の焼結助剤であって、
・1~99質量%の、20%未満の(900℃における)強熱減量を有する少なくとも1種のリン酸化合物;
・1~99質量%の、長石を含む少なくとも1種の鉱物
を含む、前記焼結助剤に関する。
【0014】
この焼結助剤は、アルカリケイ酸塩を含んでもよい。
【0015】
本発明の1つの態様によれば、前記焼結助剤は、ホウ酸、三酸化ホウ素、四ホウ酸二ナトリウム無水物、七酸化四ホウ酸二ナトリウム水和物、又はこれらの物質の他の水和形態を含まない。
【0016】
本発明は、乾燥粒子耐火組成物であって、
・少なくとも70質量%の耐火骨材;
・少なくとも0.5質量%の、本発明の焼結助剤
を含む、前記乾燥粒子耐火組成物にも関する。
【0017】
本発明の1つの態様によれば、耐火骨材は酸化アルミニウム、シリカ、シリカ-アルミナ又はこれらの混合物である。
【0018】
本発明は、耐火充填剤のための、特に誘導炉用耐火ライニングのための本発明の乾燥粒子耐火組成物の使用にも関する。
【0019】
本発明は、本発明の乾燥粒子耐火組成物、又は上述した使用から得られる誘導炉の耐火ライニングにも関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
焼結助剤
本発明は、少なくとも70質量%の耐火骨材を含む乾燥粒子耐火組成物用の焼結助剤であって、
・1~99質量%の、20%未満の(900℃における)強熱減量を有する少なくとも1種のリン酸化合物;
・1~99質量%の、長石を含む少なくとも1種の鉱物
を含む、前記焼結助剤に関する。
【0021】
本発明に関して、焼結助剤は、少なくとも70質量%の耐火骨材、例えば少なくとも80質量%、少なくとも90質量%、又は少なくとも95質量%の耐火骨材を含む乾燥粒子耐火組成物にとって特に好適である。これらの百分率は、乾燥耐火組成物の合計質量と比較して表される。
【0022】
この焼結助剤は、少なくとも2種の成分、すなわち、少なくとも1個のリン酸基を含む有機成分、及び長石を含む鉱物からなる。これら2種の最低限の成分の各百分率は、焼結助剤の合計質量と比較して表される。
【0023】
「20%未満の(900℃における)強熱減量を有するリン酸化合物」とは、少なくとも1個のリン酸基を含み、20%未満の900℃で測定した強熱減量(又は「加熱による重量減少」)を示す天然に存在する化学物質である化合物を意味する。
【0024】
強熱減量は、空気下又は酸化性雰囲気下で、900℃±25℃の温度で試料を焼成することにより測定する。したがって、強熱減量は質量の差を意味するか、又はより正確には、焼成前の質量m0から焼成後の質量m1を差し引いたものを意味する。
【0025】
これは時には以下のように百分率で表される。
強熱減量(%)=100×(m0-m1)/m0
【0026】
本発明の1つの実施形態によれば、焼結助剤は18%未満、例えば15質量%の(900℃における)強熱減量を有する少なくとも1種のリン酸化合物を含む。
【0027】
本発明の他の実施形態によれば、前記リン酸化合物はアルカリリン酸塩であり、特に、以下の化学化合物(NaPO3)n、KH2PO4、K2HPO4、K3PO4又はこれらの化合物の混合物の少なくとも1種を含む。
【0028】
本発明の焼結助剤は、長石を含む鉱物も使用する。
【0029】
「長石を含む鉱物」という用語は、「長石」又は「準長石」をも意味する。
【0030】
長石は二塩基のケイ酸塩、アルミニウム、カリウム、ナトリウム又はカルシウムを有する鉱物である。長石はテクトケイ酸塩の群に由来する。多くの長石が存在するが、主たるものは生長石、曹長石及び灰長石である。特に、本明細書における「長石」は、斜長石(例えば曹長石、灰曹長石、中性長石、曹灰長石、斑銅鉱(bonite)及び灰長石)、瑠璃長石、微斜長石及び曹微斜長石を含む生長石及びカリウムの他の長石、ペタライト、重土氷長石(hyalophane)及び重土長石(celsian)等のバリウムを含む長石並びに花崗岩、閃緑岩、花崗閃緑岩、長石質白粒岩、曹長岩、長石質砂及び他の同様の材料内で見出される他の同様の鉱物等の鉱物を意味する。
【0031】
「長石を含む鉱物」は、「準長石」をも意味する。準長石は、長石と似た鉱物の一種だが、構造は異なっており、典型的にはシリカの量がはるかに少ない。特に、黝方石(noseane)、方沸石、カンクリナイト、白榴石、霞石(例えば、霞石閃長岩)、方ソーダ石(例えば、アウイン)及び斜長石(plagiocalses)、正長石、葉長石、重土氷長石並びに花崗岩、閃緑岩、花崗閃緑岩、長石質白粒岩、曹長岩、長石質砂及び他の同様の材料内に生成される青金石等の他の同様の材料等の鉱物を参照してもよい。
【0032】
特定の実施態様では、長石を含む前記鉱物は、長石を含むか、又は主に長石からなる。本発明の実施態様のある方法では、長石を含む前記鉱物は、準長石鉱物を含むか、又は主に準長石鉱物からなる。ある実施態様では、長石を含む前記鉱物は、長石及び準長石鉱物の混合物を含むか、又は長石及び準長石鉱物の混合物からなる。1つの態様では、充填材料に含まれる長石は、曹長石鉱物であり、すなわち、押湯材料は、曹長石、例えば、トルコ曹長石鉱物、例えば、トルコのムーラ地方のミラース市の曹長石堆積物(albite deposit)を含む。ある実施態様では、押湯材料に含まれる長石は、曹長石、1種以上の鉄含有鉱物及び1種以上のチタン含有鉱物を含む曹長石堆積物、例えば、曹長石、黒雲母、金紅石及び/又は楔石、及び1種以上の石英、白雲母及び燐灰石を含む曹長石堆積物、例えば、曹長石、黒雲母、金紅石、石英、白雲母、楔石及び燐灰石を含む堆積物である。
【0033】
本発明者らは、2種の成分の組み合わせ、すなわち20%未満の(900℃における)強熱減量を有するリン酸化合物及び長石を含む鉱物の組み合わせが、乾燥粒子耐火組成物用の焼結助剤としてのホウ素を含む化合物の使用の代替を提供することを理解した。そのような乾燥粒子耐火組成物は、金属の溶融のために使用される炉をライニングするために使用され、下記に与えられる実施例に示されるように、溶融金属の浸入に対して有効な抵抗性を提供する。
【0034】
本発明の焼結助剤は、焼結段階を低温、例えば約700℃で開始させるものである。
【0035】
更に、本発明の焼結助剤は、異なる物質の混合物を含み、そのため広い温度域にわたる焼結温度、例えば、焼結助剤としてシリカタイプの骨材の系の場合に500℃と900℃の間の焼結温度を提供するという利点を提供する。これは、焼結温度が固定され、SiO2-B2O3系の共融温度により定義される焼結温度を有するホウ素原子を含む化合物の使用と比較して特に利点を構成する。これは、溶融している金属と接触することが意図された焼結層と、耐火製品の裏にある粉末層/脆い層の間の良好なバランスを促進するという利点を有する。焼結層の存在は、(焼結の厚みが増加した)接触域内で溶融している金属の不透過性に導くという利点を有する。更に、粉末層/脆い層の存在は、溶融している金属の貫通を阻止し、結果として設備をそのままに保つ。粉末層の存在により、耐火ライニングの柔軟性に関与することもでき、すなわち、亀裂を生じることなく、使用中の幾何学的変形に抵抗することができ、設備の耐久性を保つ。更に、溶融している金属と接触される表面が有効な機械的抵抗を有し、炉に装填する際の衝撃から構造を守るという利点がある。本発明の焼結助剤の使用は、少なくとも1個のリン酸基を含む化学組成を有する焼結助剤と、長石を含む鉱物焼結助剤とを組み合わせることであり、耐火材料の強化、及びそれによる長期にわたる耐火材料の持続性の確保において、上記で参照した利点の全てを提供する。
【0036】
本発明の1つの実施態様によれば、焼結助剤は、
・10~50質量%、例えば12~40質量%又は15~30質量%の、20%未満の(900℃における)強熱減量を有する少なくとも1種のリン酸化合物、
・50~90質量%、例えば60~88質量%又は70~85質量%の、長石を含む少なくとも1種の鉱物を含む。
【0037】
本発明の他の実施態様によれば、焼結助剤は、更に、1~50質量%、例えば2~40質量%又は3~30質量%の少なくとも1種のアルカリケイ酸塩を含む。
【0038】
本発明の1つの実施態様によれば、アルカリケイ酸塩は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム及びこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる。
【0039】
本発明の他の実施態様によれば、本発明の焼結助剤は、
・1~98質量%、例えば10~48質量%の、20%未満の(900℃における)強熱減量を有する少なくとも1種のリン酸化合物、
・1~98質量%、例えば50~88質量%の、長石を含む少なくとも1種の鉱物、及び
・1~50質量%、例えば2~40質量%の、少なくとも1種のアルカリケイ酸塩
を含むか、または主にそれらからなる。
【0040】
本発明の他の実施態様によれば、焼結助剤は、ホウ素原子を含む化合物を含まない。特に、この態様では、焼結助剤は、ホウ酸、三酸化ホウ素、四ホウ酸二ナトリウム無水物、七酸化四ホウ酸二ナトリウム水和物、又はこれらの物質の他の水和形態を含まない。
【0041】
本発明の1つの利点は、REACH規制に従って、ホウ素を含む化合物を含まず、それにも関わらず耐火材料の特性及び最終性能を維持することができる粒子耐火組成物用の焼結助剤を提供することである。
【0042】
乾燥粒子耐火組成物
本発明は、乾燥粒子耐火組成物に関する。この組成物は、特に乾燥混合物又は乾燥振動混合物の組成物である。そのような組成物は、様々な産業用途、例えば鋳造用及び/又は受湯金属用の取鍋等における耐火ライニングとして使用される。そのような組成物は、一般には冶金ポケットの内部に配置され、次いで例えば機械振動ツールを用いて機械的に圧縮される。圧縮された組成物は、その結果、時にグリーンライニング(green lining)又は圧縮後ライニング(lining after compacting)と呼ばれる中間ライニング(intermediate lining)を形成するのに十分安定であり、次いで、鋳造用取鍋の使用の間に、例えば1500℃以上のオーダーの高温で鉄鋼又は溶融鉄を導入することによって焼結される。したがって、耐火ライニングの焼結は、鋳造用取鍋を使用する作業の間に行われてもよい。
【0043】
これらの組成物は、乾燥粒子耐火組成物と呼ばれる。本明細書で用いているように、単語「乾燥」は、1質量%未満、例えば0.5質量%の湿度のレベルを有すると理解されるはずであり、それは、焼結助剤を添加していない乾燥粒子耐火組成物を110℃で乾燥させた後の強熱減量により測定される。
【0044】
本発明は、
・少なくとも70質量%、例えば少なくとも80質量%又は少なくとも95質量%の耐火骨材、
・少なくとも0.5質量%、例えば少なくとも1質量%又は少なくとも1.5質量%の本発明の焼結助剤
からなる乾燥粒子耐火組成物に関し、質量百分率は、乾燥耐火組成物の合計質量と比較して計算される。
【0045】
乾燥粒子耐火組成物は、乾燥耐火組成物の合計乾燥質量に対して少なくとも70質量%の耐火骨材(耐火粒子とも呼ぶ)を含む。用語「耐火骨材」は、その大きさに関わりなく、焼結助剤とは別の任意の鉱物材料を意味する。本発明に関して、用語「骨材」は、特に、100ミクロン未満の大きさの微粒子をも意味する(鋳型の一部になっていると考えられる場合もある)。実現手法の1つでは、乾燥粒子耐火組成物は、70~99.5質量%、例えば、75~99質量%又は80~98質量%の骨材を含む。例えば、乾燥粒子耐火組成物は、約75質量%、約80質量%、約85質量%、又は約90質量%の骨材を含む。
【0046】
乾燥粒子耐火組成物は、一度容器の中に置かれ、圧縮されれば、高度の緻密具合を提供しなければならない。換言すると、耐火粒子の粒度分布を最適化して、大粒子、微粒子及び超微粒子を良好な比率にし、一方で、長期にわたるいかなる遅い又は非効率な圧縮を回避しなければならない。
【0047】
耐火骨材は、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ又はこれらの混合物が好ましい。それらがアルミナタイプ(例えば、板状アルミナ、焼成アルミナ、白色又は褐色コランダム、ボーキサイト、活性アルミナ、半活性アルミナ)の場合、耐火骨材は、52~99質量%、例えば60~99質量%又は70~99質量%のAl2O3を含む。それらがシリカタイプの場合、耐火骨材は、最小で90質量%のSiO2、例えば最小で95質量%又は最小で96質量%若しくは97質量%のSiO2を含む。それらがシリカ-アルミナ(例えば、シャモット、ムライト、藍晶石、紅柱石)である場合、耐火骨材は5~70質量%、例えば10~60質量%のAl2O3を含み、40~75質量%のSiO2を含む。
【0048】
本発明の1つの実施態様によれば、乾燥粒子耐火組成物は、ジルコニア、ジルコン、マグネサイト、橄欖石、酸化クロム又はクロム鉱、スピネル、炭化ケイ素、珪岩、石英、石英ガラス、褐色コランダム、白色コランダム、板状アルミナ、焼成アルミナ、活性若しくは半活性アルミナ、ボーキサイト、焼結した焼結体若しくは電鋳焼結体、及び30質量%と75質量%の間のアルミナ率を有する焼成したシャモット、紅柱石、藍晶石、珪線石又はこれらの骨材の混合物からなる群から選択される。
【0049】
好ましい実施態様によれば、乾燥粒子耐火組成物は、石英、珪岩、石英ガラス又はこれらの混合物の骨材を含む。石英は、構造の幾何学的手法に起因する、元素の微結晶の大きさによって珪岩と区別される。石英ガラスは、石英又は珪岩を溶融することで得られる。
【0050】
骨材の選択は、一般的に、鉱物組成、化学組成、密度、粒度分布及び形態を含む技術的特性の組み合わせに基づく。
【0051】
耐火骨材は、適切な大きさの篩上で保存された材料の量により測定され、材料の合計初期乾燥質量の百分率として表される、0.5μmと45mmの間又は0.5μmと40mmの間の大きさの粒度分布を有する粒子を含み、それから主になり、又はそれからなる。
【0052】
ある実施態様では、骨材は、
約10mmまでの粒子、
約6mmまでの粒子、
約4mmまでの粒子、
約2mmまで、約1mmまでの大きさの粒子を含み、それから主になり、又はそれからなる。
【0053】
他の実施態様では、骨材は、
100%の、約10mmまでの粒子、
80%の、約6mmまでの粒子、
75%の、約4mmまでの粒子、
60%の、約1mmまでの大きさの粒子を含み、それから主になり、又はそれからなる。
【0054】
他の実施態様では、骨材は、
100%の、約10mmまでの粒子、
80%の、約6mmまでの粒子、
60%の、約4mmまでの粒子、
40%の、約1mmまでの大きさの粒子を含み、それから主になり、又はそれからなる。
【0055】
更に他の実施態様では、骨材は、
100%の、約6mmまでの粒子、
95%の、約4mmまでの粒子、
65%の、約1mmまでの大きさの粒子を含み、それから主になり、又はそれからなる。
【0056】
骨材粒子は様々な形態であってもよく、特に球状又は角張った形状でもよい。骨材の形状は、粒のスタッキングに良好な影響を与え、したがって配置された製品の乾燥振動密度(dry vibrated density)に良好な影響を与える。
【0057】
1つの実施態様によれば、粒子の粒度分布は、すなわち配置された乾燥混合物製品の大きさの各範囲の割合であり、100%圧縮(粒子間の孔がゼロ)の開始骨材混合物の理論密度の少なくとも78%、好ましくは80~82%に等しい。用語「振動密度」は、専門家に知られており、このパラメータを測定する方法を知っている。目安として、それは、乾燥混合物を内部体積が1dm3の剛体のシリンダー状の鋳型に入れ、次いで振幅0.8mm、振動数50hz及び90秒の間、振動テーブル上で振動することによって、4kPaの圧力下で圧縮した後の乾燥材料の質量を測定する。
【0058】
本発明の乾燥粒子耐火組成物は、乾燥耐火組成物の合計乾燥質量に対して、少なくとも0.5質量%の本発明の焼結助剤を含む。1つの実施態様では、乾燥粒子耐火組成物は、少なくとも1質量%又は少なくとも1.5質量%の焼結助剤を含む。例えば、本発明の乾燥粒子耐火組成物は、1~30質量%、例えば、1.5~25質量%又は2~20質量%の焼結助剤を含む。例えば、乾燥粒子耐火組成物は、約1質量%、約1.5質量%、約2質量%又は約5質量%の焼結助剤を含む。
【0059】
乾燥耐火組成物は、1種以上の添加剤、特に、1種以上の以下の添加剤:防塵剤、防湿潤滑剤及び/又は仮結合剤を含んでもよい。
【0060】
1つの実施態様によれば、本発明の乾燥耐火組成物は、以下を含む:
・0.1~1.5質量%の防塵剤、及び/又は
・0.1~1.5質量%の潤滑剤、及び/又は
・0.1~5質量%、例えば0.1~3質量%又は0.1~1.5質量%の防湿剤、及び/又は
・0.1~5質量%の仮バインダー。
【0061】
乾燥耐火組成物は、1種以上の防塵剤を含んでもよい。これらは特に以下の化合物:重油、炭化水素、鉱物油、例えば菜種油を含んでもよい。
【0062】
乾燥耐火組成物は、1種以上の潤滑剤を含んでもよい。これらは特に、以下:ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛等のステアリン酸金属塩、灰墨、黒鉛又はこれら化合物の混合物を含んでもよい。
【0063】
乾燥耐火組成物は、1種以上の防湿剤を含んでもよい。これらは特に、以下:シリコン、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、灰墨、黒鉛、コークス又はこれらの化合物の混合物を含んでもよい。
【0064】
乾燥耐火組成物は、120℃と500℃の間の温度で加熱した後の粒子混合物を確実に結合させる目的で、仮結合剤を含んでもよい。仮バインダーは、例えば熱硬化性樹脂を用いて、加熱して得てもよい。代替として、この仮結合は、結合剤を溶融させるための温度で加熱し、次いで例えば熱可塑性樹脂を用いて冷却した後に得られてもよい。仮結合は、すなわち、焼結の開始温度未満の温度での粉状混合物の凝集であり、焼結に起因する機械的抵抗の発達の前に耐火ライニングの機械的抵抗を保証するのに有用であり得る。仮結合剤によって発達される機械的特性は、設備の動作範囲の撤回又は液体若しくは固体金属の導入時に有利かもしれず、未だ焼結されていない耐火ライニングの損傷を回避する。
【0065】
本発明の乾燥粒子耐火組成物は、設備及び配置を容易にする流れによって特徴づけられる。
【0066】
本発明の乾燥耐火組成物は、原料を数分間の間、混合することにより調製される。
【0067】
用途
本発明は、本発明の乾燥粒子耐火組成物を使用して、容器内に取り付けることによって耐火ライニング(耐火コーティング)を形成することにも関する。単語「容器」は、誘導炉を意味し、例えば坩堝形の炉、セメント窯、アルミニウム又はそのアロイを作り出し精錬するための炉、鉄鋼及び鋳鉄、鉄並びに非鉄アロイを変換又は精錬するための炉、誘導炉又は溝形炉を意味する。
【0068】
本発明の1つの実現手法によれば、本発明の乾燥粒子耐火組成物は、耐火ライニング、特に、鉄及び非鉄金属の精錬産業において見出される坩堝形誘導炉、均熱炉のインダクタ及び均熱炉又は鋳造炉のタンクの耐火ライニングに使用される。
【0069】
そのような乾燥耐火組成物は、金属の溶融のために使用される炉をライニングするために使用され、特に溶融金属による浸入及び摩耗に対して有効な抵抗性を提供するはずである。乾燥耐火組成物は、炉の冷面上に厚く脆い安全層をも許容する。
【0070】
他の態様によれば、又は上述した使用によれば、本発明は、本発明の乾燥粒子耐火組成物から得られてもよい耐火ライニングに関する。
【0071】
本発明は、本発明の乾燥粒子耐火組成物から得られ、及びそのような製品を製造するために使用されるプロセスから得られる強化製品にも関する。
【0072】
更に正確には、本発明の焼結製品の製造方法は、以下の段階を含む:
a)本発明の乾燥粒子耐火組成物を調製する段階;
b)前記乾燥粒子耐火組成物を、特に加圧、充填又は振動により成形する段階;
c)焼結によって強化熱処理する段階。
【0073】
このプロセスは、坩堝形誘導炉の側壁及び底の製造に使用されてもよい。そのような坩堝の側壁及び底は、炉のコーティング又はライニングを構成する。
【0074】
1つの実施態様によれば、本発明の焼結助剤の使用により、熱衝撃に対する抵抗性が改善され、結果として耐火製品の寿命が改善される。
【0075】
好ましい実施態様によれば、本発明の乾燥粒子耐火組成物は、振動により圧縮される。圧縮は、ライニングされる容器への組成物の移動の進行に準じて行われてもよい。温度上昇により、焼結助剤を活性化させることができ、すなわち、焼結助剤粒子が融解するか、又は耐火粒子と反応することができ、確実に耐火粒子を凝集させる。
【0076】
段階c)において、強化熱処理又は焼結は、好ましくは使用温度よりも高い温度で行う。
【0077】
実施例
乾燥耐火混合物の組成
本発明及び本発明以外の乾燥粒子耐火組成物は、以下に記載されるように調製した。
【0078】
以下の原料を全ての実施例で使用した:
表1
【0079】
以下の化合物を使用した。
・灰長石(Sibelcoにより製造
・FFB393(登録商標)(Budenheimにより製造):オルトリン酸二水素カリウム(主にリン酸カリウム)
・Budit8(登録商標)(Budenheimにより製造):ポリリン酸、クエン酸ナトリウム(主にリン酸ナトリウム)
・FFB252(登録商標)(Budenheimにより製造):リン酸、クエン酸三ナトリウム、10水和物
・FFB493(登録商標)(Budenheimにより製造):オルトリン酸二水素ナトリウム
・Portil A(登録商標)(Care Chemicalsにより製造):ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3
・表2に従う組成及び強熱減量のFERRO Frit TF 9015 SE及びFrit TF 90 5158 M
【0080】
表2
【0081】
リン酸化合物の例の強熱減量:
表3
【0082】
坩堝形誘導炉における耐食試験
浸入及び摩耗に対する抵抗性と、耐火コーティングの背表面上の脆い安全層の厚みとを、以下に記載の方法に従って誘導坩堝炉における耐食試験を行うことで評価する。
【0083】
種々の原料及び焼結助剤をミキサーに導入し、1分間に44回転の速度で5分間混合乾燥する。
【0084】
次いで、乾燥混合物を高さ約20cmの迫石(voussoir)を組み立てるための適切な鋳型内に注ぐ。次いで、振動ベンチ(振幅0.5mm)上で1分30秒の間、圧縮段階を行う。準備された迫石を、誘導坩堝炉の耐火コーティング用の試験片として使用する。
【0085】
一度配置されると、材料は、以下に定義される熱サイクルに従って、フィルター段階を経る。耐火コーティングの焼結に必要な熱量の供給は、坩堝内に存在する高温の液状の鉄を用いて、以下のように行う。
・3時間で1550℃まで温度上昇
・1550℃で3時間の温度レベル
・温度の排熱及び低下。
【0086】
焼結段階は、続いて、上記に定義された同様の熱サイクルに従って、鉄スラグ混合物の少なくとも3つの連続的な溶融が行われる。次いで、様々な組成の迫石が解体され、2つの等しい部分を得るために切断される。
【0087】
得られた乾燥混合物の特性
前述の切断された迫石を用いて、耐食(摩耗及び浸入)に対する抵抗性と、炉の冷面上の脆い安全層の厚みとを、処方の比較画像を分析することにより評価する。
【0088】
2種のパラメータを、耐食に対する抵抗性を評価するにあたって考慮する。結果を、少量の摩耗及び/又は少量の浸入から多量の摩耗及び/又は多量の浸入までの間で変化する規模に従って分類する。
【0089】
炉の冷面上の脆い安全層を、耐火材料の性能を評価のために考慮する。この脆い層は、液体金属の浸入を阻止するため、及び炉の破壊を促進するために必要である。それは以下の3つの基準に従って分類される:存在しない、細い(fine)又は厚い。
【0090】
種々の組成物を用いて行われた比較耐食試験に関する結果を、以下の表に提示する。
【0091】
乾燥粒子耐火組成物の例は、2種の不可欠な成分、すなわち、骨材及び焼結助剤(各量は質量百分率で表されている)を含む。従って、例えば、実施例A1は97.5%の石英及び珪岩骨材(表1)並びに2.5%の焼結助剤(性質及び量は(表4に)示されている)からなる。
【0092】
表4:実施例A1及びA2は本発明に従う。比較例A1及び比較例A2は本発明外である。この表で提示される試験は、同じ試験内で行われる。
++:浸入及び摩耗に対して非常に良い抵抗性
-:浸入及び摩耗に対して乏しい抵抗性
【0093】
注目すべきは、A2乾燥混合物の組成物は、組成物A1よりも優れている機械的抵抗性を示すことであり、これは誘導炉のタンクの外側部分に対する耐火コーティングとして追加の利点を与える。
【0094】
表5:実施例Bは本発明に従う。比較例Bは本発明外である。
【0095】
表6:比較例C1及び比較例C2は本発明外である。
【0096】
表7:比較例D1及び比較例D2は本発明外である。
【0097】
表8:比較例E1は本発明外である。
【0098】
表9:比較例F1は本発明外である。