(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】ガス分離装置、および、膜反応器
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20220906BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20220906BHJP
B01D 63/06 20060101ALI20220906BHJP
C01B 3/56 20060101ALI20220906BHJP
C01B 3/26 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D63/00 500
B01D63/06
C01B3/56 Z
C01B3/26
(21)【出願番号】P 2019038304
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-07-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「水素利用等先導研究開発事業/エネルギーキャリアシステム調査・研究/水素分離膜を用いた脱水素」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐々 和明
(72)【発明者】
【氏名】中尾 真一
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐一郎
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-163827(JP,A)
【文献】特開2005-058950(JP,A)
【文献】特開2004-154659(JP,A)
【文献】特開2008-273764(JP,A)
【文献】米国特許第05611931(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22,61/00-71/82
C02F 1/44
C01B 3/00-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜モジュールと、混合ガスが滞留する内部空間を有し且つ前記内部空間が露呈する窓部が設けられた装置本体と、を有し、
前記分離膜モジュールは、開放端を有し、かつガス分離膜を有する複数の筒状ガス分離体と、複数の貫通孔を有する金属板と、を有し、
前記筒状ガス分離体のそれぞれの前記開放端側が前記貫通孔に挿通され、前記開放端と前記貫通孔の内側壁との間の隙間がガラスシール部により封止され、
前記分離膜モジュールの前記筒状ガス分離体が前記窓部に挿入され、前記金属板の周縁部と前記窓部との間が封止されて
おり、
前記ガラスシール部の前記金属板の厚み方向の長さH1が、前記金属板の厚みH2よりも短い、ガス分離装置。
【請求項2】
前記分離膜モジュールは、前記筒状ガス分離体の前記金属板からの植立を支持する支持部材をさらに有する、請求項1に記載のガス分離装置。
【請求項3】
前記金属板は、チタンまたはチタン合金である、請求項1または2に記載のガス分離装置。
【請求項4】
前記分離膜モジュールは、前記筒状ガス分離体の前記金属板からの植立を支持する支持部材をさらに有し
、
前記支持部材の少なくとも一部が、前記開放端と前記貫通孔の内側壁との間にあり、前記ガラスシール部の前記金属板の厚み方向の長さH1と前記金属板の厚みH2との差によりできた溝に嵌め込まれている、請求項1または3に記載のガス分離装置。
【請求項5】
前記溝の周方向の一部に、前記支持部材が設けられない空間を有する、請求項4に記載のガス分離装置。
【請求項6】
前記厚みH2に対する前記長さH1の比率H1/H2は、0.5以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のガス分離装置。
【請求項7】
前記ガス分離膜が、水素選択透過性を有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載のガス分離装置。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のガス分離装置を具備する、膜反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水素選択透過性を有するガス分離膜を備えたガス分離装置および膜反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分離装置もしくは膜反応器の多くは、混合ガスが滞留し、もしくは原料の触媒反応が進行する内部空間を有する装置本体と、内部空間に収容されたガス分離体とを具備する。ガス分離体は、筒状が一般的であり、筒状の多孔質基材と、多孔質基材に担持されたガス分離膜とで構成されている。
【0003】
ガス分離体は、一般に、第1の処理空間と第2の処理空間とを有し、第1の処理空間と第2の処理空間との間は多孔質基材およびガス分離膜によって仕切られている。目的ガスを含む被処理ガスが、第1の処理空間に供給される。ガス分離膜は、被処理ガスのうち目的ガスを選択的に第2の処理空間に透過させる。結果、目的ガスがガス分離体の第2の処理空間に移動し、濃縮され、分離される。第1の処理空間と第2の処理空間との間は、ガス分離膜が介在する領域を除いて、隙間なく封止されている必要がある(特許文献1、2参照)。
【0004】
ガス分離装置および膜反応器において、原料ガスから目的ガスが生成する反応が進行する装置本体の内部空間を第1の処理空間とすることもできる。その場合、第2の処理空間である中空空間を有するガス分離体が、装置本体に取り付けられる。ガス分離体の中空空間に移動した目的ガスは、ガス分離体の開放端から外部へ送られる。ガス分離体を装置本体に取り付けるために、例えば、内部空間を形成する側壁には、ガス分離体を挿通するための窓部が設けられる。ガス分離体の開放端と装置本体の窓部との間は、隙間なく封止されている必要がある。
【0005】
ガス分離膜と接触する表面積を稼ぎ、分離効率を高める観点から、複数の中空空間を有するガス分離体を取り付けることが行われる。この場合、それぞれの開放端と装置本体の窓部との間が隙間なく封止されていることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-126662号公報
【文献】特開2011-189335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多くの場合、ガス分離や触媒反応を効率的に進行させるには、混合ガスが滞留する空間内を高温かつ高圧に維持する必要がある。従って、ガス分離体の開放端と装置本体の窓部との間を隙間なく封止する材料には、高温かつ高圧下での信頼性が要求される。
【0008】
ガス分離装置等の本体は、通常、金属で形成されている。一方、ガス分離体は、セラミックス材料で形成されている。従って、封止材料としては、耐熱性が高く、金属およびセラミックス材料の両者と接合可能なガラスが適している。
【0009】
実用上、複数のガス分離体の開放端と窓部との間を一括してガラスで封止することが望まれる。しかし、1本のガス分離体をガラスで封止する場合とは異なり、原理上、複数のガス分離体の開放端の束と装置本体の窓部との間隙面積は大きくなる。また、隙間を埋める封止材料の厚みも均一ではなくなる。そのため、材料の線膨張率の差による不具合が発生しやすく、ガス分離装置もしくは膜反応器に要求される高度な封止信頼性を確保することが困難である。
【0010】
中でも水素は分子レベルの僅かな隙間でも通過し得るため、水素を回収することを目的とするガス分離装置等では封止信頼性の確保が大きな課題となる。従って、現状では、作業性を犠牲にしてガス分離体を1本ずつガラスで封止するか、気密性を犠牲にしてガラス以外の封止材料(例えば、ゴム、グラファイト等)を用いざるを得ないことが多い。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、その一側面は、分離膜モジュールと、混合ガスが滞留する内部空間を有し且つ前記内部空間が露呈する窓部が設けられた装置本体と、を有し、前記分離膜モジュールは、開放端を有し、かつガス分離膜を有する複数の筒状ガス分離体と、複数の貫通孔を有する金属板と、を有し、前記筒状ガス分離体のそれぞれの前記開放端側が前記貫通孔に挿通され、前記開放端と前記貫通孔の内側壁との間の隙間がガラスシール部により封止され、前記分離膜モジュールの前記筒状ガス分離体が前記窓部に挿入され、前記金属板の周縁部と前記窓部との間が封止されており、前記ガラスシール部の前記金属板の厚み方向の長さH1が、前記金属板の厚みH2よりも短い、ガス分離装置に関する。
【0012】
本発明の別の側面は、上記ガス分離装置を具備する、膜反応器に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るガス分離装置もしくは膜反応器は、封止信頼性が高く、メンテナンスが容易であり、維持コストの削減が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ガス分離装置の構造の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】分離膜モジュールの構造の一例を示す模式的な断面図である。
【
図3】
図2において、分離膜モジュールの一部を拡大した模式的な構造断面図である。
【
図4】支持部材を備える分離膜モジュールの構造の一例を示す模式図である。
【
図5】分離膜モジュールおよびガス分離装置の一例を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態に係るガス分離装置は、分離膜モジュールと、混合ガスが滞留する内部空間を有し、且つ内部空間が露呈する窓部が設けられた装置本体と、を有する。分離膜モジュールは、ガス分離膜を有する複数の筒状ガス分離体と、複数の貫通孔を有する金属板と、を有する。筒状ガス分離体は、それぞれが、少なくとも1つの開放端を有する。すなわち、筒状ガス分離体の一方の端部は開放端であり、他方の端部は封止端でもよく、開放端でもよい。
【0016】
筒状ガス分離体は、例えば、筒状の多孔質基材と、多孔質基材に担持されたガス分離膜とを具備する。多孔質基材およびガス分離膜は、例えば金属酸化物もしくはセラミックス材料により形成されている。ガス分離膜は、例えばシリカ膜、ゼオライト膜、パラジウム膜などであり得る。
【0017】
筒状ガス分離体は、それぞれの開放端側が金属板の貫通孔に挿通されている。開放端と金属板の貫通孔の内側壁との隙間にはガラスが充填されることによりガラスシール部が形成されている。これにより、複数の筒状ガス分離体の開放端を一括して金属板の貫通孔に挿通して封止することができるため、ガス分離装置等の製造もしくはメンテナンスの作業性が高くなり、低コストのシステムを容易に構築し得る。分離膜モジュールは、金属板が窓部を塞ぐように装置本体に取り付けられる。このとき、ガラスシール部は、金属板の貫通孔と開放端との間の隙間を封止しており、窓部と開放端との間の空間のうち僅かな一部を封止しているに過ぎないため、膨張率の差による不具合は低減され、封止信頼性を高め易い。
【0018】
さらに、分離膜モジュールがガス分離装置本体に対して着脱可能であるため、分離膜モジュールのガラスシール部が破損した場合には、分離膜モジュールの交換が可能である。よって、分離膜モジュールの交換を適宜に行うことにより、長期間にわたって高い封止信頼性を維持することが可能である。また、複数の分離膜モジュールを具備する大型のガス分離装置もしくは膜反応器の場合には、不具合を有する分離膜モジュール毎の交換が可能である。
【0019】
ガラスシール部の金属板の厚み方向の長さは、金属板の厚みよりも短くてもよい。換言すると、筒状ガス分離体と貫通孔の内側壁との隙間は、ガラスシール部で完全に埋められておらず、筒状ガス分離体と貫通孔の内側壁との間に溝が形成されていてもよい。
【0020】
金属板の貫通孔に筒状ガス分離体を挿通し、筒状ガス分離体と金属板との間をガラスシールにより封止する場合、金属板の厚みを厚くするほど、金属板の熱膨張の影響を受け易くなり、金属板の熱膨張によりガラスシールが割れ、封止性を損なう場合がある。一方で、金属板の厚みが薄いと、機械的強度が低下し、高温かつ高圧環境が想定される膜反応器内において反応室の気密を維持することが困難になる場合がある。ガラスシールの割れを抑制する観点からは、金属板を一定の厚み以下に薄くすることが望ましい一方で、薄い金属板を用いて十分な機械的強度を得るために、金属部分の装置本体への取付および封止部分の構造に工夫を要する。
【0021】
本実施形態の分離膜モジュールでは、金属板の厚みH2に対し、ガラスシール部の金属板の厚み方向の長さ(以下において、ガラスシール部の「高さ」ともいう)H1を短くすることで、機械的強度を維持したまま、金属板の熱膨張によるガラスシールの割れが抑制される。よって、高温かつ高圧下においても高度な封止信頼性を確保することができる。金属部分の装置本体への取付および封止は、例えば、ガスケットを用いて行うことができる。
【0022】
金属板には、例えば、チタンまたはチタン合金などを用いることができる。チタンまたはチタン合金は、熱膨張率が低く、且つ十分な強度を有しており、分離膜モジュールとしての使用に適している。
【0023】
ガラスシール部の高さH1は、金属板の厚みH2より低く、例えば、0.1cm~3cmである。ガラスシール部の幅(すなわち、金属板の貫通孔の内側壁と筒状ガス分離体との間の隙間(溝)の幅)は、例えば、1mm~10mmである。
【0024】
金属板の厚みH2は、例えば、0.5cm~5cmである。金属板は、1枚の板であってもよく、所定の厚みを得るため、複数枚の薄い金属板を積層した積層板であってもよい。
【0025】
金属板の厚みH2に対する、ガラスシール部の高さH1の比率H1/H2は、ガラスシールの割れを抑制する観点から、例えば、0.8以下であり、0.5以下、あるいは0.2以下であってもよい。また、H1/H2は、筒状ガス分離体を金属板から植立させた状態を維持しやすくする観点から、例えば、0.04以上であり、0.1以上であってもよい。
【0026】
ガラスシール部を構成するガラスの材料は、特に限定されない。一般的なケイ酸塩ガラスを用いてもよい。他に、アクリルガラスなどの有機ガラス、リン酸塩ガラス、カルコゲン化物ガラスなどを用いてもよい。ガラスシール部は、例えば、金属板の貫通孔内に筒状ガス分離体を挿通し、金属板から筒状ガス分離体を植立させた状態で、ガラス原料の粉末またはガラスペーストを貫通孔の内側壁と筒状ガス分離体との間の隙間に充填した後、モジュールをガラス軟化点以上に加熱してガラス原料を溶融させ、その後冷却させることで形成され得る。
【0027】
金属板に設けられた貫通孔の数(すなわち、モジュール内の筒状ガス分離体の数)は、2つ以上であればよいが、3つ以上であってもよく、7つ以上でもよい。ただし、ガラスシール部の信頼性を高める観点からは50以下とすることが好ましい。
【0028】
分離膜モジュールは、筒状ガス分離体の金属板からの植立を支持するための支持部材をさらに有していてもよい。筒状ガス分離体は、開放端側の端部が金属板の貫通孔に挿通され、ガラスシール部を介して、筒状ガス分離体の残部が金属板から植立した状態で金属板に支持される。このとき、筒状ガス分離体の金属板からの植立が不安定になる場合がある。支持部材により、筒状ガス分離体を、金属板から安定に植立させることができる。支持部材は、例えば接着などの方法により筒状ガス分離体および/または金属板に固定され得る。
【0029】
H1<H2を満たす場合、ガラスシール部の金属板の厚み方向の長さと金属板の厚みとの間に差があることから、開放端と金属板の貫通孔の内側壁との間に溝が生じ得る。支持部材は、その少なくとも一部がこの溝に嵌め込まれていてもよい。
【0030】
なお、支持部材は、筒状ガス分離体と金属板との間の封止に用いられるものではないので、溝の全周に嵌め込まれている必要はない。むしろ、周方向の一部に支持部材が設けられない空間を設けることによって、支持部材はその空間に熱膨張することができる。よって、支持部材の熱応力が低減され得る。支持部材の一部は、溝の外方に突出して延在していてもよい。延在部分が、金属板および/または筒状ガス分離体と接着されていてもよい。
【0031】
分離膜モジュールは、ガス分離装置の本体に取り付けられる。ガス分離装置の本体は、混合ガスが滞留する内部空間を有する。内部空間が露呈する窓部が、装置本体に設けられている。分離膜モジュールの筒状ガス分離体が窓部に挿入され、金属板の周縁部と窓部との間が封止される。これにより分離膜モジュールが装置本体に着脱可能に設置される。
【0032】
筒状ガス分離体が具備するガス分離膜は、ガス分離装置の内部空間に滞留する混合ガス、もしくは当該内部空間に導入される原料と、分離対象である目的ガスとに応じて適宜選択すればよい。
【0033】
中でも水素を目的ガスとして分離回収するガス分離装置もしくは膜反応器では、封止信頼性の確保が重要であるため、本実施形態に係る構成を採用することが望ましい。この場合、筒状ガス分離体が具備するガス分離膜は、水素選択透過性を有するものであり、水素を優先的に透過し、水素以外のガス透過をできるだけ許容しない水素分離膜であればよい。
【0034】
ガラスシール部は、優れた耐熱性を有することに加え、化学的安定性にも優れているため、装置本体の内部空間に滞留する混合ガス、もしくは内部空間に導入される原料は特に限定されない。例えば内部空間内で水素生成を伴う触媒反応を進行させる膜反応器においては、目的ガスの原料としてメチルシクロヘキサン(MCH)を用いてもよい。メチルシクロヘキサンは、触媒反応により水素を脱離し、副生成物としてトルエンを生成する。目的ガスである水素は、水素分離膜を透過して筒状ガス分離体の中空空間に移動し、ガス分離体の開放端から回収される。一方、副生成物であるトルエン(TOL)は、別ルートを通って内部空間から外部に排出され、再利用される。
【0035】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明するが、以下の実施形態は本発明を限定するものではない。ここでは、メチルシクロヘキサン(MCH)を原料として利用し、所定の触媒によりMCHの脱水素反応を進行させてトルエンと水素とを生成し、分離膜モジュールにより水素を回収する膜反応器を例にとって説明する。
【0036】
図1に、本実施形態に係るガス分離装置を利用した膜反応器10の構造を示す。膜反応器10は、基本的構成要素として、分離膜モジュール20と、ガス分離装置の本体に対応する反応器30とを備える。
図2に、
図1の膜反応器10が具備する分離膜モジュール20の構造を示す。
図3は、
図1および
図2の破線部分Aを拡大した分離膜モジュールの構造の模式図である。
【0037】
分離膜モジュール20は、複数の貫通孔が設けられた金属板22と、開放端23aと封止端23bとを有する複数の筒状ガス分離体23を具備する。筒状ガス分離体23のそれぞれは、開放端23a側において、金属板22の貫通孔に挿通されている。開放端23aと貫通孔の内側壁との隙間はガラスシール部21により封止されている。
金属板22は、2つの主面を有し、貫通孔は2つの主面との間を貫通している。ここで、筒状ガス分離体23の開放端23aに対して封止端23b側の金属板22の主面を第1の主面とし、筒状ガス分離体23の封止端23bに対して開放端23a側の金属板22の主面を第2の主面とする。
【0038】
筒状ガス分離体23は、
図2に示すように、例えば、開放端23a側に位置する根元シール部23Aと、封止端23b側に位置する先端シール部23Bと、根元シール部23Aと先端シール部23Bとの間の分離膜部23Cを有する。分離膜部23Cにおいて、筒状ガス分離体23の外表面にガス分離膜が設けられている。一方、ガス分離膜が設けられない根元シール部23Aおよび先端シール部23Bは、水素選択性がないため、ガラス等でシールされる。
【0039】
封止端23bは、例えば、ガス分離膜を形成する前の筒状多孔質基材の一方の端部にガラスを塗布し、中空空間24と連通する開口をガラスで塞いだ後、焼成することで形成される。このとき、封止端23bの近傍に先端シール部23Bが形成される。一方、開放端23aから封止端23bに向かう多孔質基材の一定領域には、端部の開口を塞がないようにガラスが塗布され、根元シール部23Aが形成され得る。根元シール部23Aを形成することで、開放端23aと金属板22の貫通孔の内側壁との隙間にガラスシール部21を形成し易くなり、密閉性を高められる。
【0040】
根元シール部23Aおよび先端シール部23Bでは、多孔質基材の細孔がガラスで閉塞されている。これによりガス分離体23の中空空間24への目的ガス以外の侵入が防止される。
【0041】
筒状の多孔質基材の材質は、特に限定されないが、α-アルミナ、γ-アルミナ、シリカ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタニア、ゼオライトなどのセラミックス材料を用い得る。中でも安価で熱的に安定なα-アルミナが好ましい。
【0042】
反応器30は、ガス分離装置の本体に対応する。反応器30は、内部空間を有する反応室31を有する。
図1の例では、反応室31の内部空間にMCHの脱水素反応を促進する触媒33が充填されている。また、反応室31には、原料(MCH)を導入するための入口31aと、目的ガス以外のガス(主にTOL)を内部空間から放出するための出口31bとが設けられている。なお、触媒33は、筒状ガス分離体23と別体である必要はなく、ガス分離体23もしくはガス分離膜に担持させてもよい。反応器30は、また、反応室31の上壁が反応室31の側壁の位置よりも外方に突出していることによって、フランジ部分34を有する。
【0043】
反応室31の内表面の一部(ここでは、上面)には窓部31cが設けられ、窓部を介して内部空間が露呈している。分離膜モジュール20の筒状ガス分離体23は、窓部31cに挿入され、反応室31の中央部分に取り付けられている。
【0044】
反応器30に隣接して、ガス取出部40が設けられている。ガス取出部40は、筒状の側壁部41を有し、側壁部41の一方の端部にはフランジ42が設けられている、筒状ガス分離体23の開放端23aは、側壁部41により形成される中空空間43と連通している。
【0045】
反応室31の上壁と分離膜モジュール20の金属板22との間には、ガスケット51が介在し、フランジ42と分離膜モジュール20の金属板22との間には、ガスケット52が介在している。反応室31の上壁のフランジ部分34とガス取出部40のフランジ42との間は、ボルト締結等の方法によって締め付けられている。これにより、金属板22と反応室31の上壁とがガスケット51を介して密着し、金属板22と反応器30との間が封止されている。
【0046】
反応器30およびガス取出部40は、例えばステンレス鋼(SUS)のような耐食性を有する金属で形成されている。
【0047】
図3に示すように、分離膜モジュール20において、金属板22の貫通孔の内壁面と筒状ガス分離体23(根元シール部23A)との間は、ガラスシール部21で隙間なく封止されている。ガラスシール部21の高さH1は、金属板22の厚みH2よりも小さい(H1<H2)。この場合、筒状ガス分離体23と金属板22の貫通孔の内側壁との間に溝25が存在する。これにより、機械的強度を維持しながら、金属板22の熱膨張によるガラスシール部21の割れが抑制される。
【0048】
溝25には、支持部材が嵌め込まれていてもよい。筒状ガス分離体23の金属板22から安定に植立させることができる。結果、振動あるいは衝撃によって筒状ガス分離体23が金属板22から傾き、ガラスシール部21に応力が加わってガラスシール部が割れてしまうことが抑制され得る。
図4に、支持部材28を有する分離膜モジュールの例を示す。
図4(A)は、
図3と同様、筒状ガス分離体23の近傍を拡大した構造断面図である。
図4(B)は、
図4(A)の分離膜モジュールを先端シール部23B側から見た図である。
【0049】
図4(A)に示すように、支持部材28は、少なくとも一部が溝25と嵌合する形状に形成され得る。支持部材28を溝25に嵌め込む際に、支持部材28とガラスシール部21との間に空隙が介在していてもよい。支持部材28は、溝25の内部を埋めるほか、溝25から外方に突出して延在していてもよい。
図4(A)および
図4(B)に示す例では、支持部材28は、筒状ガス分離体23の外周面を覆う第1部分28aと、第1部分28aから金属板の表面に沿って延出する第2部分28bを有する。第1部分28aは、その一部が溝25の一部を塞ぐとともに、残部が封止端23bに向かって外方に延在している。第1部分28aは、筒状ガス分離体23(根元シール部23A)と接着等により固定されていてもよい。第2部分28bは、金属板22と接着等により固定されていてもよい。また、
図4(B)に示すように、支持部材28は、溝25の周方向の一部に設けられていればよい。複数の支持部材28を、周方向において角度的に等価となる位置に配置してもよい。
【0050】
なお、
図3の例では、溝25は金属板22の第1の主面側(反応室31と対向する側)に形成されている。しかしながら、金属板22の第2の主面側(ガス分離装置の外表面)に溝が存在していてもよい。
【0051】
ガス分離膜が水素選択透過性を有し、反応器30の反応室31の入口31aから原料としてメチルシクロヘキサン(MCH)が導入され、内部空間内に触媒33としてMCHの脱水素触媒が充填されている場合、出口31bからは主にトルエン(TOL)が排出される。一方、MCHの脱水素反応で生成した水素は、筒状ガス分離体23の分離膜部23Cに形成されたガス分離膜を透過し、ガス分離体23の中空空間24を通過して、ガス取出部40の中空空間43に排出され、回収される。
【0052】
MCHの脱水素反応は300℃程度の高温および高圧下で進行させることが好ましい。上記構成によれば、トルエンの存在下、300℃以上の高温かつ高圧においても、分離膜モジュールと反応器との結合部分からのガス漏れ(特に水素ガスの漏れ)を高度に抑制することが可能である。
【0053】
図5に、本実施形態の構造を有する分離膜モジュールを作製した一例を示す。
図5(A)は、分離膜モジュール20の外観を示す写真である。
図5(B)は、分離膜モジュール20を装置本体に取り付けたガス分離装置(膜反応器)の写真である。
図5(A)では、正六角形の頂点位置に配置された6つの筒状ガス分離体23が、金属板22から植立している。筒状ガス分離体23はα-アルミナであり、高さは45cm、外径は1cmである。金属板22は純チタン板であり、厚みは1cm、筒状ガス分離体23を挿通させる貫通孔の内径は1.3cmである。ガラスシール部21の高さは4mmであり、溝25の幅は1.5mmである。
【0054】
この分離膜モジュールを反応器30に取り付け、反応室31内でMCHの脱水素反応を進行させたところ、320℃、400kPa(A)の高温かつ高圧環境においても、ガス漏れが発生しないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係るガス分離装置もしくは膜反応器は、例えば、混合ガスから水素を分離回収し、もしくは原料から触媒反応により水素を生成させた後、水素を分離回収するシステムの構築において有用である。また、システムの封止信頼性が高く、メンテナンスが容易で維持コストも削減し易い。
【符号の説明】
【0056】
10:膜反応器
20:分離膜モジュール
21:ガラスシール部
22:金属板
23:筒状ガス分離体
23A:根元シール部
23B:先端シール部
23C:分離膜部
23a:開放端
23b:封止端
24:中空空間
25:溝
28:支持部材
30:反応器
31:反応室
31a:入口
31b:出口
31c:窓部
34:フランジ部分
33:触媒
40:ガス取出部
41:側壁部
42:フランジ
43:中空空間
51、52:ガスケット