(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220906BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20220906BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/02 A
C12M1/34 D
(21)【出願番号】P 2019040125
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】南 達哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 祐輔
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-208663(JP,A)
【文献】特開平07-075554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0349874(US,A1)
【文献】特開平03-228672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地および細胞を収容可能な培養槽に前記培地を供給する供給部と、
前記培養槽から前記培地および前記細胞を排出する排出部と、
前記培養槽内の前記培地中の細胞密度を測定する観察部と、
該観察部によって測定された前記細胞密度が予め設定した所定の閾値を超えた場合に、前記排出部によって前記培養槽から前記培地および前記細胞の一部を排出し、かつ、前記供給部によって前記培養槽に新たな前記培地を供給することにより、前記細胞密度を前記所定の閾値以下に低減させる制御部と
、
前記培養槽内の前記培地を撹拌する撹拌機構とを備え
、
前記制御部が、前記撹拌機構による前記培地の撹拌を停止した後、または、前記撹拌機構による前記培地の撹拌速度を遅くした後に、前記排出部によって前記培地および前記細胞を排出させる細胞培養装置。
【請求項2】
前記供給部が、前記培養槽に供給する前記培地を保持する培地保持容器と、前記培地保持容器と前記培養槽とを前記培地が流通可能に接続する供給管状部材とを備え、
該供給管状部材に、前記培地保持容器から前記培養槽への前記培地の供給と非供給とを切り替える供給ポンプまたは供給バルブが設けられている請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記排出部が、前記培養槽から排出された前記培地および前記細胞を回収する培地回収容器と、前記培養槽と前記培地回収容器とを前記培地が流通可能に接続する排出管状部材とを備え、
該排出管状部材に、前記培養槽から前記培地回収容器への前記培地および前記細胞の排出と非排出とを切り替える排出ポンプまたは排出バルブが設けられている請求項1または請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記排出部が、前記培養槽から排出された前記培地および前記細胞を回収する培地回収容器と、前記培養槽と前記培地回収容器とを前記培地および前記細胞が流通可能に接続する排出管状部材と、前記培地回収容器に陰圧をかける吸引ポンプとを備える請求項1または請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記制御部が、前記観察部により測定された前記細胞密度が前記所定の閾値を超えた場合に信号を発信し、
前記供給
部および前記排出
部が、前記制御部から発せられた前記信号に基づいて制御される請求項1から請求項
4のいずれかに記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記制御部が、前記供給部および前記排出部と有線または無線によって前記信号を送受信する請求項
5に記載の細胞培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、幹細胞研究および再生医療の進展、および、抗体医薬等のバイオ医薬の発展に伴い、細胞を大量に培養することが要求されている。細胞を大量に培養する際、フラスコまたはシャーレを用いることに代え、バイオリアクター等の培養槽を用いることが多くなってきた(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
培養中の細胞は、他の細胞と接触すると接触による刺激によって悪影響を受ける可能性がある。そのため、培養中は培地中の細胞密度を最適にすることが望ましい。バイオリアクター等の培養槽を用いた従来の浮遊培養系においては、培地中の細胞密度を最適に保つために、所定の細胞密度に達する度に培地を交換したり培養を終了したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
培地を交換したり培養を終了したりする場合は、遠心分離によって、培養槽内の細胞を回収する必要がある。従来の浮遊培養系のように、所定の細胞密度に達する度に培地を交換したり培養を終了したりするのでは、遠心分離を頻繁に行う必要があり、作業者の手間とコストがかかるとともに、細菌およびウィルス等によって細胞培養系が汚染されるリスクを生じるという不都合がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、培地中の細胞密度を簡易に最適に保ち、細胞の生産効率の向上を図ることができる細胞培養装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、培地および細胞を収容可能な培養槽に前記培地を供給する供給部と、前記培養槽から前記培地および前記細胞を排出する排出部と、前記培養槽内の前記培地中の細胞密度を測定する観察部と、該観察部によって測定された前記細胞密度が予め設定した所定の閾値を超えた場合に、前記排出部によって前記培養槽から前記培地および前記細胞の一部を排出し、かつ、前記供給部によって前記培養槽に新たな前記培地を供給することにより、前記細胞密度を前記所定の閾値以下に低減させる制御部とを備える細胞培養装置である。
【0008】
本態様によれば、培養槽に培地とともに細胞が収容されて細胞が培養されている状態で、観察部によって培養槽内の培地中の細胞密度が測定される。そして、観察部により、所定の閾値を超える細胞密度が測定されると、制御部により、排出部が制御されることによって培養槽から培地および細胞の一部が排出されるとともに、供給部が制御されることによって培養槽に新たな培地が供給される。これにより、培養槽内の培地中の細胞密度が所定の閾値以下に低減される。この結果、培地中の細胞密度を簡易に最適に保ち、細胞の生産効率の向上を図ることができる。また、細胞の培養中において、培養槽内の培地の一部が新しい培地に交換されることによって、培養槽内の培地の劣化を遅らせることができる。
【0009】
上記態様においては、前記供給部が、前記培養槽に供給する前記培地を保持する培地保持容器と、前記培地保持容器と前記培養槽とを前記培地が流通可能に接続する供給管状部材とを備え、該供給管状部材に、前記培地保持容器から前記培養槽への前記培地の供給と非供給とを切り替える供給ポンプまたは供給バルブが設けられていることとしてもよい。
【0010】
この構成によって、培地保持容器内に保持されている培地が供給管状部材を経由して培養槽に供給される。この場合において、供給ポンプまたは供給バルブを作動させるだけの簡易な構成で、培地保持容器から培養槽への培地の供給を開始したり停止したりすることができる。
【0011】
上記態様においては、前記排出部が、前記培養槽から排出された前記培地および前記細胞を回収する培地回収容器と、前記培養槽と前記培地回収容器とを前記培地が流通可能に接続する排出管状部材とを備え、該排出管状部材に、前記培養槽から前記培地回収容器への前記培地および前記細胞の排出と非排出とを切り替える排出ポンプまたは排出バルブが設けられていることとしてもよい。
【0012】
この構成によって、培養槽内の培地および細胞が排出管状部材を経由して培地回収容器に排出される。この場合において、排出ポンプまたは排出バルブを作動させるだけの簡易な構成で、培養槽から培地回収容器への培地よび細胞の排出を開始したり停止したりすることができる。
【0013】
上記態様においては、前記排出部が、前記培養槽から排出された前記培地および前記細胞を回収する培地回収容器と、前記培養槽と前記培地回収容器とを前記培地および前記細胞が流通可能に接続する排出管状部材と、前記培地回収容器に陰圧をかける吸引ポンプとを備えることとしてもよい。
【0014】
この構成によって、培養槽内の培地および細胞が排出管状部材を経由して培地回収容器に排出される。この場合において、吸引ポンプによって培地回収容器に陰圧をかけることにより、培養槽内の培地および細胞を培地回収容器へ引き込むことができる。また、吸引ポンプによる培地回収容器への陰圧の付与を解除することにより、培養槽内から培地回収容器へ培地および細胞が引き込まれるのを停止させることができる。したがって、吸引ポンプの作動を制御するだけの簡易な構成で、培養槽から培地回収容器への培地および細胞の排出を開始したり停止したりすることができる。
【0015】
上記態様においては、前記培養槽内の前記培地を撹拌する撹拌機構を備え、前記制御部が、前記撹拌機構による前記培地の撹拌を停止した後、または、前記撹拌機構による前記培地の撹拌速度を遅くした後に、前記排出部によって前記培地および前記細胞を排出させる。
【0016】
この構成によって、撹拌機構により、培養槽内の培地が撹拌される。この場合において、制御部により、培養槽内の培地および細胞を排出させる際に培地の撹拌を止めたり撹拌速度を遅くしたりしておくことによって、培地中の細胞を自重によって沈殿させ、培地中の細胞をまとめることができる。これにより、培地中に細胞が散乱している状態と比較して、細胞を効率よく排出することができる。
【0017】
上記態様においては、前記制御部が、前記観察部により測定された前記細胞密度が前記所定の閾値を超えた場合に信号を発信し、前記供給部および前記排出部が、前記制御部から発せられた前記信号に基づいて制御されることとしてもよい。
この構成によって、培地中の細胞密度が所定の閾値を超えた場合において、供給部および排出部を迅速に作動させて、細胞密度を調整することができる。
【0018】
上記態様においては、前記制御部が、前記供給部および前記排出部と有線または無線によって前記信号を送受信することとしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、培地中の細胞密度を簡易に最適に保ち、細胞の生産効率の向上を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る細胞培養装置の概略構成図である。
【
図4】本発明の一実施形態の変形例に係る細胞培養装置の概略構成図である。
【
図5】本発明の一実施形態の第2変形例に係る供給部の概略構成図である。
【
図6】本発明の一実施形態の第3変形例に係る供給部の概略構成図である。
【
図7】本発明の一実施形態の第3変形例に係る別の供給部の概略構成図である。
【
図8】本発明の一実施形態の第5変形例に係る別の排出部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る細胞培養装置について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞培養装置1は、培地Wおよび細胞Sを収容可能な培養槽3に培地Wを供給する供給部5と、培養槽3から培地Wおよび細胞Sを排出する排出部7と、培養槽3内の培地W中の細胞密度を測定する観察部9と、培養槽3内の培地Wを撹拌する撹拌機構11と、供給部5、排出部7および観察部9を制御する制御部13とを備えている。
【0022】
培養槽3は、例えば、上面3aが閉塞された有底筒状の容器である。この培養槽3は、光学的に透明な材質によって形成されている。培養槽3には、例えば
図2に示すように、供給部5が接続される供給口3bが上面3aに設けられている。また、培養槽3には、例えば
図3に示すように、排出部7が接続される排出口3cが底面3dに設けられている。
【0023】
供給部5は、例えば、
図1および
図2に示すように、培地Wを保持する培地保持容器15と、培地保持容器15と培養槽3とを繋ぐチューブ等の管状部材(供給管状部材)17とを備えている。
図2においては排出部7を省略している。
培地保持容器15は、例えば、有底筒状の容器である。この培地保持容器15は、培地Wを排出するための排出口15aを底面近傍に有している。
【0024】
管状部材17は、長手方向の一端が培地保持容器15の排出口15aに接続され、長手方向の他端が培養槽3の供給口3bに接続され、培地保持容器15から培養槽3へ培地Wを供給する流路を形成する。管状部材17には、培地保持容器15から培養槽3への培地Wの供給と非供給とを切り替えるペリスタポンプ等の送液ポンプ(供給ポンプ)19が設けられている。
【0025】
送液ポンプ19は、制御部13からの信号を受信する受信部(図示略)を有している。この送液ポンプ19は、受信部が制御部13からの信号を受信することによって作動のON/OFFが切り替えられる。送液ポンプ19は、ON状態に切り替えられると培地保持容器15内の培地Wを管状部材17を経由させて培養槽3へ供給し、OFF状態に切り替えられると培地保持容器15から培養槽3への培地Wの供給を停止する。
【0026】
排出部7は、例えば、
図1および
図3に示すように、培地Wおよび細胞Sを回収する培地回収容器21と、培地回収容器21と培養槽3とを繋ぐチューブ等の管状部材(排出管状部材)23とを備えている。
図3においては供給部5を省略している。
【0027】
培地回収容器21は、例えば、上面が閉塞された有底筒状の容器であり、培地Wとともに細胞Sが流入する流入口21aを上面に有している。この培地回収容器21は、培養槽3よりも重力方向における下方に配置されている。
【0028】
管状部材23は、長手方向の一端が培養槽3の排出口3cに接続され、長手方向の他端が培地回収容器21の流入口21aに接続され、培養槽3から培地回収容器21へ培地Wとともに細胞Sを排出する流路を形成する。管状部材23には、培養槽3から培地回収容器21への培地Wおよび細胞Sの排出と非排出とを切り替えるバルブ等のゲート開閉部(排出バルブ)25が設けられている。
【0029】
ゲート開閉部25は、制御部13からの信号を受信する受信部(図示略)を有している。このゲート開閉部25は、受信部が制御部13からの信号を受信することによって開閉が切り替えられる。ゲート開閉部25は、開状態に切り替えられると管状部材23の流路を開放し、培養槽3内の培地Wおよび細胞Sを重力によって管状部材23を経由させて培地回収容器21へ排出し、OFF状態に切り替えられると管状部材23の流路を閉塞し、培養槽3から培地回収容器21への培地Wおよび細胞Sの排出を停止する。
【0030】
観察部9としては、培地中の細胞密度を測定する既存の技術を採用でき、例えば、複数の微小な反射要素が配列されたアレイを有する再帰性反射部材を備える構成を採用することができる。この観察部9は、例えば、培養槽3の側方に配置される対物レンズと、培養槽3の外部から対物レンズを経由して培養槽3内の培地Wに照明光を照射する照明光学系と、培養槽3を透過した照明光を反射によって入射経路と同一の経路を経由させて培養槽3に戻す再帰性反射部材と、培養槽3内の培地Wを再び透過した後に対物レンズによって集光された照明光を撮影する撮像部と、撮像部によって取得された画像に基づいて培養槽3内の培地W中の細胞密度を算出する画像解析部(いずれも図示略)とを備えている。
【0031】
この観察部9によれば、照明光学系から培養槽3内の培地Wに照明光が照射されると、その培地Wを透過した照明光が、再帰性反射部材によって反射されることにより再帰性反射部材に入射した経路と同一の経路を経由して培養槽3に戻る。そして、培養槽3に戻された照明光が、培養槽3内の培地Wを再び透過した後、対物レンズによって集光されて撮像部によって撮影される。そして、画像解析部により、撮像部によって取得された画像中に含まれる細胞Sの数に基づいて、培養槽3内の培地W中の細胞密度が算出される。
【0032】
撹拌機構11は、例えば、培養槽3の上面3aを貫通することによって培養槽3内に挿入された撹拌軸27と、撹拌軸27に設けられた複数の撹拌翼28と、撹拌軸27を軸線回りに回転させるモータ29とを備えている。
【0033】
この撹拌機構11は、モータ29によって撹拌軸27を軸線回りに回転させると、培地W中で撹拌軸27と共に撹拌翼28が回転することにより、培養槽3内の培地Wを撹拌することができる。そして、撹拌機構11によって培地Wを撹拌することにより、培地W中において細胞Sを浮遊させることができる。
【0034】
制御部13は、例えば、タイマーと、ハードディスクドライブ等の記憶部と、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)(いずれも図示略)とを備えている。制御部13は、例えばPC(Personal Computer)であってもよい。また、制御部13は、
図1に示すように、供給部5および排出部7に信号を送信する送信部13aを備えている。この制御部13は、メモリに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することによって、以下の機能を実現する。
【0035】
例えば、制御部13は、観察部9を定期的に作動させ、培養槽3内の培地W中の細胞密度を経時的に測定させる。また、制御部13は、観察部9によって測定された細胞密度が予め設定しておいた閾値に達したときに、送信部13aによって排出部7および供給部5に駆動信号を送る。そして、制御部13は、排出部7によって培養槽3から培地Wおよび細胞Sの一部を排出する一方、供給部5によって培養槽3に新たな培地Wを供給することにより、培養槽3内の培地W中の細胞密度を所定の閾値以下に低減させる。
【0036】
この制御部13は、観察部9に隣接して配置されていてもよいし、観察部9とは離れて配置されていてもよい。また、制御部13は、排出部7および供給部5の両方に同時に駆動信号を送信してもよいし、排出部7と供給部5とで時間差をつけて駆動信号を送信してもよい。例えば、制御部13は、排出部7に駆動信号を送信してから一定時間後に供給部5に駆動信号を送信してもよい。また、例えば、制御部13が排出部7と供給部5の両方に同時に駆動信号を送信し、排出部7が駆動信号を受信すると同時に作動する一方で、供給部5が駆動信号を受信してから一定時間後に作動してもよい。
【0037】
また、制御部13は、排出部7および供給部5の作動を開始させてから一定時間経過後に、これら排出部7および供給部5に停止信号を送信することによって、排出部7および供給部5の作動を停止させることとしてもよい。また、排出部7および供給部5が、それぞれ作動を開始してから一定時間経過後に自動的に作動を停止することとしてもよい。また、観察部9により検出される培養槽3内の培地W中の細胞密度が所定の閾値以下に低減したときに、制御部13が排出部7および供給部5を停止させてもよい。
また、制御部13は、排出部7および供給部5に対して、有線で信号を送信してもよいし、無線で信号を送信してもよい。
【0038】
次に、本実施形態に係る細胞培養装置1の作用について説明する。
上記構成の細胞培養装置1によって細胞Sを培養する場合は、培養槽3に培地Wおよび細胞Sを収容し、撹拌機構11によって培養槽3内の培地Wを撹拌することにより、培地W中において細胞Sを浮遊させる。
【0039】
次いで、培養槽3内において細胞Sが培養されている状態で、制御部13によって観察部9が制御され、培養槽3内の培地W中の細胞密度が経時的に測定される。そして、観察部9によって所定の閾値を超える細胞密度が測定されると、制御部13から排出部7および供給部5に駆動信号が送信される。
【0040】
そして、制御部13からの駆動信号をトリガにして、排出部7のゲート開閉部25が開状態に切り替えられることにより、培養槽3内の培地Wおよび細胞Sの一部が管状部材23を経由して培地回収容器21へ排出される。また、制御部13からの駆動信号をトリガにして、供給部5の送液ポンプ19がON状態に切り替えられることにより、培地保持容器15から管状部材17を経由して培養槽3に新たな培地Wが供給される。これにより、培養槽3内の培地W中の細胞密度が所定の閾値以下に低減される。
【0041】
培養槽3内の培地W中の細胞密度が所定の閾値以下に低減すると、排出部7による培養槽3からの培地Wと細胞Sの排出、および、供給部5による培養槽3への新たな培地Wの供給が停止され、細胞Sの培養が継続される。そして、培養槽3内の培地W中の細胞密度が所定の閾値を再び超えると、制御部13によって排出部7および供給部5が制御されることにより、培養槽3内の培地W中の細胞密度が所定の閾値以下に低減される。
【0042】
したがって、本実施形態に係る細胞培養装置1によれば、培養槽3内の培地W中の細胞密度を簡易に最適に保ち、細胞Sの生産効率の向上を図ることができる。また、細胞Sの培養中において、培養槽3内の培地Wの一部が新しい培地Wに交換されることにより、培養槽3内の培地Wの劣化を抑制することができる。
【0043】
本実施形態においては、例えば、
図4に示すように、培養槽3が、深さ方向の途中位置から底面3dに向かってテーパ状に窄むテーパ部3eを有することとしてもよい。
この構成によって、培養槽3の下部において浮遊する細胞Sがテーパ部3eの傾斜に倣って移動することにより、底面3dの排出口3c付近に細胞Sを集め易い。したがって、細胞Sが回収し易くなる。
【0044】
本実施形態は以下の構成に変形することができる。
第1変形例としては、制御部13が、撹拌機構11の駆動を制御することとしてもよい。この場合、制御部13が、撹拌機構11による培地Wの撹拌を停止した後、または、撹拌機構11による培地Wの撹拌速度を遅くした後に、排出部7によって培養槽3内の培地Wおよび細胞Sの一部を排出させることとしてもよい。
【0045】
本変形例によれば、制御部13によって、培養槽3内の培地Wおよび細胞Sを排出させる際に培地Wの撹拌を止めたり撹拌速度を遅くしたりしておくことにより、培地W中の細胞Sを自重によって培養槽3の底面3d付近に纏まった状態で沈殿させることができる。これにより、培地W中に細胞Sが散乱している状態と比較して、培養槽3の底面3dに配置されている排出口3cから細胞Sを効率よく排出することができる。
【0046】
第2変形例としては、例えば、
図5に示すように、培養槽3よりも重力方向における上方に培地保持容器15を配置することとしてもよい。そして、重力により、培地保持容器15から管状部材17を経由させて培養槽3に培地Wを供給することとしてもよい。
図5においては排出部7を省略している。
【0047】
この場合、送液ポンプ19に代えて、管状部材17にその流路を開閉するためのバルブ等のゲート開閉部(供給バルブ)31を設けることとしてもよい。また、ゲート開閉部31は、制御部13からの信号を受信する受信部(図示略)を有し、制御部13からの信号を受信部が受信することによって開閉が切り替えられることとしてもよい。
【0048】
本変形例によれば、ゲート開閉部31が開状態に切り替えられると、管状部材17の流路が開放され、培地保持容器15内の培地Wが重力によって管状部材17を経由して培養槽3に供給される。一方、ゲート開閉部31が閉状態に切り替えられると、管状部材17の流路が閉塞され、培地保持容器15から培養槽3への培地Wの供給が停止される。
したがって、ゲート開閉部31によって管状部材17の流路を開閉するだけの簡易な構成により、培養槽3への培地Wの供給と非供給とを切り替えることができる。
【0049】
第3変形例としては、供給部5が、培地保持容器15内の培地Wの温度を制御する温度制御手段(図示略)を備えることとしてもよい。
温度制御手段によって、培地保持容器15において、培地Wを培養に適した温度に保持したり保存に適した温度に保持したりすることができる。
【0050】
本変形例においては、例えば、
図6に示すように、供給部5が、培地保持容器15に培地Wを供給する培地保持容器33および管状部材35をさらに備えることとしてもよい。以下、培地保持容器15および管状部材17を第1培地保持容器15および第1管状部材17ともいい、培地保持容器33および管状部材35を第2培地保持容器33および第2管状部材35ともいう。
図6においては排出部7を省略している。
【0051】
第2培地保持容器33および第2管状部材35は、第1培地保持容器15および第1管状部材17と同様の構成を有することとしてもよい。例えば、第2培地保持容器33が、底面近傍に排出口33aを有することとしてもよい。また、第2管状部材35が、第2培地保持容器33から第1培地保持容器15への培地Wの供給と非供給とを切り替えるペリスタポンプ等の送液ポンプ37を有することとしてもよい。
【0052】
この場合、温度制御手段によって、第1培地保持容器15は、培地Wを細胞S培養に適した温度、例えば37℃に保持することができることとし、もう一方の第2培地保持容器33は、培地Wを保存に適した温度、例えば4℃に保持することができることとしてもよい。
【0053】
第2培地保持容器33において培地Wを例えば4℃に保持しておくことにより、培地Wの劣化を防ぐことができる。また、第2培地保持容器33から第1培地保持容器15に供給されてきた培地Wを第1培地保持容器15において例えば37℃まで温めることにより、培養に適した温度の培地Wを培養槽3に供給することができ、温度変化による細胞Sへのストレスを低減することができる。
【0054】
本変形例においては、例えば、
図7に示すように、第1培地保持容器15よりも重力方向における上方に第2培地保持容器33を配置することとしてもよい。そして、重力によって、第2培地保持容器33から第2管状部材35を経由させて第1培地保持容器15に培地Wを供給することとしてもよい。
図7においては排出部7を省略している。
【0055】
この場合、送液ポンプ19に代えて、管状部材17にゲート開閉部31を設け、また、送液ポンプ37に代えて、第2管状部材35にその流路を開閉するためのバルブ等のゲート開閉部39を設けることとしてもよい。そして、制御部13によって、ゲート開閉部31による第1管状部材17の流路の開閉、および、ゲート開閉部39による第2管状部材35の流路の開閉をそれぞれ制御することとしてもよい。
【0056】
第4変形例としては、排出部7が、ゲート開閉部25に代えて、管状部材23に設けられた送液ポンプ等の排出ポンプ(図示略)を備えることとしてもよい。
この場合、培地回収容器21は、培養槽3よりも重力方向における下方に配置されている必要はないので任意の位置に配置できる。
この構成においては、制御部13からの信号を排出ポンプの受信部が受信することによって、排出ポンプの作動のON/OFFが切り替えられ、培養槽3からの培地Wの排出が制御されることとしてもよい。
【0057】
第5変形例としては、排出部7が、ゲート開閉部25に代えて、例えば、
図8に示すように、培地回収容器21に陰圧をかける吸引ポンプ41等の陰圧供給手段を備えることとしてもよい。
図8においては供給部5を省略している。
【0058】
この場合、吸引ポンプ41が受信部(図示略)を有し、受信部が制御部13からの信号を受信することによって、吸引ポンプ41の作動のON/OFFが切り替えられることとしてもよい。そして、吸引ポンプ41がON状態に切り替わると、培地回収容器21に陰圧がかけられることによって培養槽3内の培地Wおよび細胞Sが管状部材23を経由して培地回収容器21に吸引され、吸引ポンプ41がOFF状態に切り替わると、培養槽3内の培地Wおよび細胞Sの吸引が停止されることとしてもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【0060】
また、本実施形態においては、観察部9として、再帰性反射部材を備える構成を採用することとしたが、これに代えて、例えば、ステレオ光学系を備える構成、または、内視鏡観察光学系を備える構成等を採用することができる。また、培地Wの濁度を測定する構成を採用することとしてもよい。
【0061】
内視鏡観察光学系を備える構成としては、観察部9が、例えば、培養槽3内の細胞Sに照射する照明光を発生する照明部と、照明光が照射された細胞Sからの観察光を結像させる結像光学系と、結像光学系により結像された観察光を撮影する撮像部と、照明光および観察光を透過可能な透明部を有し、照明部、結像光学系および撮像部を収容する筐体とを備える内視鏡と、撮像部によって取得された画像を処理する画像処理部(いずれも図示略。)とを備えることとすればよい。
【0062】
この場合、培養槽3内の培地W中に筐体を挿入し、培地W中に浮遊している細胞Sに対して筐体内の照明部から筐体の透明部を透過させて照明光を照射する。そして、照明光が照射された細胞Sから透明部を透過することにより筐体内に入射した観察光を結像光学系によって結像し、観察光の光学像を撮像部によって撮影する。そして、画像処理部により、内視鏡によって取得された画像内に含まれる細胞Sの数に基づいて、培養槽3内の培地W中の細胞密度を推定することとしてもよい。
【0063】
ステレオ測定光学系を備える構成としては、観察部9が、例えば、培地W中に浮遊している同一の細胞Sに対して、異なる視点から見た互いに視差がある2つの像を結像させるステレオ光学系と、ステレオ光学系によって結像された2つの像をそれぞれ撮影する撮像部とを備えるステレオ撮像光学系と、ステレオ撮像光学系を収容する光学的に透明な筐体と、ステレオ撮像光学系によって取得された複数の画像に基づいて培養槽3内の細胞密度を算出する画像解析部とを備えることとしてもよい。
【0064】
この場合、培養槽3内の培地W中に筐体を挿入し、培地W中に浮遊している同一の細胞Sに対して、筐体内のステレオ光学系によって異なる視点から見た互いに視差がある2つの像を結像させ、結像した2つの像を撮像部によって撮像する。そして、画像解析部により、撮像部によって取得された2つの像の各画像に含まれている細胞Sの位置を特定し、所定の領域内に存在する細胞Sの数に基づいて、培養槽3内の培地W中の細胞密度を算出することとしてもよい。
【0065】
培養槽3内の培地Wの濁度を測定する構成としては、観察部9が、例えば、培養槽3内の培地Wに照明光を照射する光源と、培地Wを透過した照明光を受光する受光部と、受光部によって受光された光の透過度を指標にすることによって、培養槽3内の培地W中の細胞密度を測定する演算処理部(いずれも図示略)とを備えることとしてもよい。
【0066】
また、上記実施形態においては、光学的に透明な材質によって形成された有底円筒状の培養槽3を例示して説明したが、培養槽は、袋状、球状または箱状等、任意の形状のものを採用することができる。例えば、使い捨て可能な袋状の培養槽を採用することとしてもよい。また、培養槽は、硬質またはビニール等の軟質等、任意の材質のものを採用することができる。また、培養槽3は、全体が透明である必要はなく、培養槽3が照明光および観察光等の光を透過させる透明部を部分的に有するものであってもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、撹拌機構として、モータ29が撹拌軸27を軸線回りに回転させる態様を示したが、マグネティックスターラーのように培養槽3内部に配置された撹拌子を培養槽3外部からの磁力により回転させてもよい。培養槽3の底面3dから培養液Wまたは気体を供給することによって上昇流を発生させることにより、培養液Wを撹拌してもよい。できるだけ細胞Sにストレスを与えずに細胞Sを浮遊させることができる機構が好ましい。
【0068】
図2および
図6の供給部5において、培地保持容器15,33が排出口15a,33aを底面近傍に有している例を示したが、排出口15a,33aが底面近傍でない場所に開口していてもよい。この場合、排出口15aから管状部材17を培養槽3の内部に挿入すればよい。管状部材17,35の開口端を培地保持容器15,33の底面近傍に配置することが好ましい。
【符号の説明】
【0069】
1 細胞培養装置
5 供給部
7 排出部
9 観察部
11 撹拌機構
13 制御部
15 第1培地保持容器(培地保持容器)
17 第1管状部材(供給管状部材)
19 送液ポンプ(供給ポンプ)
21 培地回収容器
23 管状部材(排出管状部材)
25 ゲート開閉部(排出バルブ)
31 ゲート開閉部(供給バルブ)
41 吸引ポンプ
S 細胞
W 培地