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特許7136784ツールの使用を支援するための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】ツールの使用を支援するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/20 20160101AFI20220906BHJP
   A61B 34/30 20160101ALI20220906BHJP
   A61B 17/16 20060101ALI20220906BHJP
   A61B 17/17 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
A61B34/20
A61B34/30
A61B17/16
A61B17/17
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019535987
(86)(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 GB2017052679
(87)【国際公開番号】W WO2018046969
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】1615438.7
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519087413
【氏名又は名称】シグネチャー ロボット リミテッド
【住所又は居所原語表記】37,Burnaby Gardens,London, W4 3DR,UK
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィーズ、ブライアン ローレンス
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-195281(JP,A)
【文献】特開昭59-146770(JP,A)
【文献】特開2014-109818(JP,A)
【文献】特開2015-128681(JP,A)
【文献】国際公開第2012/080694(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0083652(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/20
A61B 34/30
A61B 17/16
A61B 17/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用ツールの使用を支援するための装置であって、
1つ以上のモータと、
手首支持部と、
前記1つ以上のモータに結合し、ユーザが手首を前記手首支持部に載せた手の1本以上の指で医療用ツールを保持および操作できるように前記医療用ツールに結合する結合部を備えているシャフトと、
コントローラと
を備えており、
前記コントローラは、
前記結合部に結合した医療用ツールの先端部である作用端の位置を表す位置データを受信し、
前記医療用ツールの作用端を位置させるべきではない1つ以上の空間領域を表す制約データを受信し、
前記位置データおよび制約データを処理し、前記位置データによって表される位置が前記制約データによって表される領域の範囲内にあるときに、前記医療用ツールの作用端を領域外へと付勢するように前記1つ以上のモータを制御する
ように構成されている、装置。
【請求項2】
前記1つ以上のモータは、逆方向に動かすことが可能であることにより、ユーザが前記結合部に取り付けられた医療用ツールを前記1つ以上のモータを作動させることなく動かすことができる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記1つ以上の空間領域は、前記作用端の移動の範囲を制約するように構成され、
前記移動の範囲の範囲内の前記作用端の2つの位置の間の最大距離が、10cm未満であり、随意により5cm、4cm、または3cm未満である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記結合部の移動の範囲を機械的に制約するように構成されており、
前記移動の範囲の範囲内の前記結合部の2つの位置の間の最大距離が、10cm未満であり、随意により5cm、4cm、または3cm未満である、請求項1、2、または3に記載の装置。
【請求項5】
前記シャフトは、少なくとも1つの直線自由度および少なくとも1つの回転自由度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの直線自由度は、前記手首支持部へと向かいかつ前記手首支持部から遠ざかる方向に沿った自由度である、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記1つ以上のモータは、ハウジング内に配置され、前記手首支持部は、前記ハウジングに対して固定され、あるいは前記ハウジングの一部である、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
1つ以上の位置エンコーダを備えており、前記1つ以上のモータの各々が、それぞれの自由度に沿った前記シャフトの構成を明らかにすることができる位置エンコーダに組み合わせられており、
位置データを受信することは、
前記1つ以上の位置エンコーダからエンコーダデータを受信すること、
前記1つ以上の位置エンコーダからのデータと前記医療用ツールの作用端との間の関係を表す較正データを受信すること、および
前記エンコーダおよび較正データを使用して前記位置データを得ること
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記医療用ツールは、切削ツール、穿孔ツール、バーツール、加熱ツール、および測定ツールのうちの1つ以上を備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記医療用ツールは、手術用ツールである、請求項1~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記制約データおよび位置データは、前記医療用ツールによる作業対象物に位置合わせされた座標系におけるデータである、請求項1~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記作業対象物は、患者の一部分である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
手術用ロボットとして構成された、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記コントローラは、
前記位置データおよび制約データを処理し、前記位置データによって表される位置が前記制約データによって表される領域内にあるときに、前記作用端を無効化するための前記医療用ツールの制御信号を生成する
ように構成されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
医療用ツールの使用を支援するための方法であって、
手首支持部で手首を支持することと、
コントローラが、
1つ以上のモータが結合するシャフトが備える結合部が結合する医療用ツールであって、ユーザが手首を前記手首支持部に載せた手の1本以上の指で保持および操作できるように前記結合部が結合する医療用ツールの先端部である作用端の位置を表す位置データを受信することと、
前記作用端を位置させるべきではない1つ以上の空間領域を表す制約データを受信することと、および
前記位置データおよび制約データを処理し、前記位置データによって表される位置が前記制約データによって表される領域の範囲内にあるときに、前記医療用ツールの前記作用端を前記領域の外へと付勢するように前記1つ以上のモータを制御することと、
を含む、方法。
【請求項16】
前記1つ以上の空間領域は、前記作用端の移動の範囲を制約するように構成され、
前記移動の範囲の範囲内の前記作用端の2つの位置の間の最大距離が、10cm未満であり、随意により5cm、4cm、または3cm未満である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1つ以上のモータは、ハウジング内に配置され、前記手首支持部は、前記ハウジングに対して固定され、あるいは前記ハウジングの一部である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記医療用ツールは、切削ツール、穿孔ツール、バーツール、加熱ツール、および測定ツールのうちの1つ以上を備える、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記制約データおよび位置データは、前記医療用ツールによる作業対象物に位置合わせされた座標系におけるデータである、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記作業対象物は、患者の一部分である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記位置データおよび制約データを処理し、前記位置データによって表される位置が前記制約データによって表される領域内にあるときに、前記作用端を無効化するための前記医療用ツールの制御信号を生成すること
を含む、請求項15~20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば切削ツールまたはバーツールなどのツールの使用を支援するための装置および方法に関する。具体的には、これらに限られるわけではないが、本開示は、手術ツールの使用を支援するための手術ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットの支援によるツールの使用が、人間によるツールの直接使用が不利であるいくつかの分野において利用されることが知られている。一例は、放射性環境において行われ、遠隔制御のロボットが、遠方の場所でユーザによって行われるツールの使用の動作を再現することができる。別の例は、ロボット手術であり、例えば最小限の侵襲の手術においてより容易なアクセスを可能にし、あるいは動作の大きさを縮小することによって動きの細かな制御を可能にするために、ユーザインターフェースとやり取りをする外科医の動作をロボットが再現する。さらに、外科用ロボットを、ロボットの座標系を患者の座標系に位置合わせすることによって手術計画を支援するために使用することもできる。次いで、ロボットは、例えば、ロボットに取り付けられたツールの使用可能領域を制限する能動的拘束(「仮想の壁」)を適用することによって外科医を案内することができ、したがって周囲の組織への損傷を回避することができる。いずれも本明細書に援用されるS.A.Bowyer,B.L.Davies,F.Rodriguez y Baena,IEEE Transactions on Robotics,Vol.30,No.1,page 138,February 2014;国際公開第2002/060653号パンフレット;国際公開第2003/043515号パンフレット;S.C.Ho,R.D.Hibberd and B.L.Davies,IEEE Engineering in Medicine and Biology,May/June 1995,page 292を参照されたい。
【文献】国際公開第2002/060653号パンフレット
【文献】国際公開第2003/043515号パンフレット
【文献】S.A.Bowyer,B.L.Davies,F.Rodriguez y Baena,IEEE Transactions on Robotics,Vol.30,No.1,page 138,February 2014
【文献】S.C.Ho,R.D.Hibberd and B.L.Davies,IEEE Engineering in Medicine and Biology,May/June 1995,page 292
【発明の概要】
【0003】
本開示のいくつかの態様が、独立請求項に記載される。開示される実施形態の随意による特徴が、従属請求項に記載される。
【0004】
いくつかの態様において、ツールの使用を支援するための装置が提供される。この装置は、1つ以上のモータと、手首支持部と、例えば直接駆動、または歯車による構成、あるいはケーブルまたはベルト駆動の構成にて1つ以上のモータに結合したシャフトとを備える。シャフトは、ユーザが手首を手首支持部に載せた手の2本以上の指でツールを保持および操作できるように、例えば切削、穿孔、バー、加熱、または他の材料成形ツール、あるいは測定ツールなどのツールに結合する結合部を備える。この装置は、
結合部に結合したツールの作用端の位置を表す位置データを受信し、
ツールの作用端を位置させるべきではない1つ以上の空間領域を表す制約データを受信し、
位置データおよび制約データを処理し、位置データによって表される位置が制約データによって表される領域の範囲内にあるときに、ツールの作用端を制約データによって表される領域の外へと付勢するように1つ以上のモータを制御する
ように構成されたコントローラをさらに備える。
【0005】
好都合なことに、この装置は、ツールの使用時に作用端を作業領域内に保つための制約を提供しつつ、小スケールでのロボットによって支援された精密なツールの使用を可能にするために、指の動きの高い精度を利用する。手首を固定された位置に置くことによって、微細かつ正確な指の動きがさらに容易になる。ツールの作用端が、例えば材料を成形するために、ツールが材料と相互作用する端部であることを、理解できるであろう。例えば、切削ツールの作用端は、ブレードまたはバーであってよい。
【0006】
いくつかの実施形態において、1つ以上のモータは、逆方向に動かすことが可能であることにより、ユーザが結合部に取り付けられたツールを1つ以上のモータを作動させることなく動かすことができる。好ましくは、抵抗が、ユーザの動作を偏らせることがないように、モータ/アクチュエータ間で実質的に同じである。好都合なことに、これは、モータが能動的制約の生成に必要な力/またはトルクをもたらすだけでよく、すなわち作用端を制約データによって表される領域の外へと付勢するための力/トルクを生み出すだけでよい一方で、ユーザがツールの動きおよびツールによって加えられる力を直接制御するため、1つ以上のモータの制御を単純化する。モータを逆方向に動かすことができない他の実施形態においては、ユーザがツール、したがって結合部に生じさせる正味の力/トルクを感知し、ユーザが加えた力を再現または補助するように力/トルクを発生させるべくモータを制御することができる。
【0007】
手首が支持された状態でのユーザの指による操作に合致して、移動の範囲内の作用端の2つの位置の間の最大距離は、10cm未満であってよく、随意により5cm、4cm、または3cm未満であってよい。これに加え、あるいはこれに代えて、装置を、いくつかの実施形態においては、結合部の移動の範囲を、この移動の範囲内の結合部の2つの位置の間の最大距離が10cm未満になり、随意により5cm、4cm、または3cm未満になるよう、機械的に制約するように構成することができる。機械的制約と能動的制約との任意の組み合わせが可能であり、本明細書に開示されていることを、理解できるであろう。とくには、4cmまたは5cmの範囲が、手首を固定した状態における精密な把持での指の動きの典型的な範囲に相当するため、適切である。
【0008】
いくつかの実施形態において、シャフトは、少なくとも1つの直線自由度および少なくとも1つの回転自由度を有する。例えば、シャフトは、例えば1つの直線自由度および2つの回転自由度など、少なくとも1つの直線自由度および少なくとも1つの回転自由度を含む3つの自由度を有することができる。少なくとも1つの直線自由度は、手首支持部へと向かいかつ手首支持部から遠ざかる方向に沿った自由度であってよい。
【0009】
いくつかの実施形態において、1つ以上のモータは、ハウジング内に配置され、手首支持部は、ハウジングの一部であり、あるいはハウジングに固定されるなど、ハウジングに対して固定される。例えば、いくつかの実施形態において、手首支持部は、装置が使用されるときにハウジングの上に位置し、1つ以上のモータは、ハウジング内で手首支持部の下方に配置され、シャフトはハウジングの上壁の開口部を通って突出する。手首支持部は、例えばハウジングが存在するのであればハウジングの一態様に固定され、1つ以上のモータと所定の関係にあるクッションまたはパッドの形態で設けられてよく、あるいは単にハウジングの表面であってよい。手首支持部は、いくつかの実施形態においては、支持部に対してユーザの手を固定するためのストラップまたは他の機構を備えることができる。
【0010】
いくつかの実施形態において、装置は、例えば絶対エンコーダまたは相対エンコーダなどの1つ以上の位置エンコーダを備え、1つ以上のモータの各々は、それぞれの自由度に沿ったシャフトの構成を割り出すことができる位置エンコーダに組み合わせられている。これらの実施形態において、位置データを受信することは、
1つ以上の位置エンコーダからエンコーダデータを受信すること、
1つ以上の位置エンコーダからのデータとツールの作用端との間の関係を表す較正データを受信すること、および
エンコーダおよび較正データを使用して位置データを得ること
を含む。
相対エンコーダが使用される実施形態においては、動作開始時のゼロ調整ステップが必要とされる可能性がある。
他の実施形態において、位置データは、例えば、ツールまたはシャフトに固定されたいくつかのマーカと、カメラシステムとを含む光学式位置検出システムを使用して取得される。
【0011】
いくつかの実施形態において、ツールは外科用ツールであってよい。制約データおよび位置データは、例えば外科用ツールの場合における患者の一部分など、ツールによる作業対象物に位置合わせされた座標系におけるデータである。いくつかの実施形態においては、装置を、外科用ロボットとして構成することができる。
【0012】
いくつかの実施形態においては、コントローラを、位置データおよび制約データを処理し、位置データによって表される位置が制約データによって表される領域内にあるときに、作用端を無効化するためのツールの制御信号を生成するように構成することができる。作用端を無効にすることが、ツールをオフにし(例えば、バーを回転させるモータを停止させる、加熱エネルギーを取り除く、など)、あるいは作用端の切削、バー、穿孔、などの作用を防止するために作用端をシールドおよび鞘で覆う信号をツールへと送信することを含むことができることを、理解できるであろう。
【0013】
いくつかの態様においては、ツールの使用を支援するための装置であって、
1つ以上の位置エンコーダと、
手首支持部と、
1つ以上の位置に結合し、ユーザが手首を手首支持部に載せた手の1本以上の指でツールを保持および操作できるようにツールに結合する結合部を備えているシャフトと、
コントローラと
を備えており、
コントローラは、
1つ以上の位置エンコーダからエンコーダデータを受信し、
1つ以上の位置エンコーダからのデータとツールの作用端との間の関係を表す較正データを受信し、
エンコーダおよび較正データを使用して、結合部に結合したツールの作用端の位置を表す位置データを取得し、
ツールの作用端を作動させるべきではない1つ以上の空間領域を表す制約データを受信し、
位置データおよび制約データを処理し、位置データによって表される位置が制約データによって表される領域の範囲内にあるときに、作用端を無効化するツールの制御信号を生成する
ように構成されている、装置が提供される。
【0014】
これらの態様におけるエンコーダは、モータを置き換えるものと見なすことができるので、1つ以上のモータを有する実施形態の文脈における上記の開示は、モータを有さない実施形態にも同様に当てはまることが理解されよう。
【0015】
いくつかの態様においては、ツールの使用を支援するための方法であって、
手首支持部で手首を支持するステップと、
ユーザが手首を手首支持部に載せた手の1本以上の指でツールを保持および操作するときに、ツールの作用端の動きを制約するように、手首支持部に対して固定された関係に配置された1つ以上のモータを使用して、ツールに力および/またはトルクを加えるステップと
を含んでおり、
作用端の動きを制約することは、
作用端の位置を表す位置データを受信すること、
作用端を位置させるべきではない1つ以上の空間領域を表す制約データを受信すること、および
位置データおよび制約データを処理し、位置データによって表される位置が制約データによって表される領域の範囲内にあるときに、ツールの作用端を領域の外へと付勢するように1つ以上のモータを制御すること
を含む、方法が提供される。
【0016】
この方法は、ツールによる作業対象物に座標系を位置合わせすることを含むことができ、制約データおよび位置データは、対象物に位置合わせされた座標系におけるデータであってよい。対象物は、例えば、患者の一部分であってよい。したがって、ツールを、例えば小児外科手術などの外科手術を実施するために保持および操作することができる。あるいは、ツールを、手術以外の作業を実施するために保持および操作することができる。
【0017】
いくつかの態様においては、ツールの使用を支援するための方法であって、
作用端を有するツールを保持および操作する手の手首を手首支持部において支持するステップと、
作用端の位置を表す位置データを、手首支持部に対して固定に配置された1つ以上の位置エンコーダから受信するステップと、
作用端を位置させるべきではない1つ以上の空間領域を表す制約データを受信するステップと、
位置データおよび制約データを処理し、位置データによって表される位置が制約データによって表される領域の範囲内にあるときに、作用端を無効化するためのツールの制御信号を生成するステップと
を含む、方法が提供される。
【0018】
いくつかの態様においては、手術を実行し、随意により小児科手術を実行する方法であって、
手の手首を手首支持部に載せることと、手の2本以上の指でツールを保持することと、対象領域内でツールの作用端によって外科手術を実行することとを含んでおり、
ツールの作用端は、1つ以上のモータを使用してツールに復元力および/またはトルクを加えることによって対象領域に制約され、復元力および/またはトルクは、作用端が対象領域の外側にあるときに作用端を対象領域に向かって付勢する、方法が提供される。
【0019】
いくつかの態様においては、被加工物を製作する方法であって、
手の手首を手首支持部に載せることと、手の2本以上の指でツールを保持することと、被加工物を製作する対象物の対象領域内でツールの作用端によって手術以外の作業を実行することとを含んでおり、
ツールの作用端は、1つ以上のモータを使用してツールに復元力および/またはトルクを加えることによって対象領域に制約され、復元力および/またはトルクは、作用端が対象領域の外側にあるときに作用端を対象領域に向かって付勢する、方法が提供される。
【0020】
いくつかの実施形態においては、ツールの使用を支援するための装置であって、1つ以上のモータと、手首支持部と、1つ以上のモータに結合したシャフトとを備える装置が提供される。シャフトは、ユーザが手首を手首支持部に載せた手の1本以上の指でツールを保持および操作できるように、ツールに結合する結合部を備える。装置は、1つ以上のモータが配置されたハウジングをさらに備える。ハウジングは、開口部を定めており、シャフトは、開口部を通って配置され、1つ以上のモータに結合する。手首支持部は、ハウジング上に設けられ、あるいはハウジングの上面によってもたらされる。
【0021】
この態様と上記の態様および実施形態のいずれかとの組み合わせも開示され、以下の実施形態は、上記の態様および実施形態のすべてと組み合わせて開示される。
【0022】
いくつかの実施形態において、シャフトは、手首支持部から遠ざかるように傾斜し、いくつかの実施形態において、開口部は、前後方向に沿った細長いスロットである。いくつかの実施形態においては、1つ以上のモータのうちの2つが、それぞれの回転軸を中心とする回転の自由度をそれぞれ駆動し、2つのモータのうちの1つは、前後に整列した直線軸に沿った直線の自由度を駆動し、回転軸は、直線軸に実質的に一致する地点において交わる。いくつかの実施形態において、ハウジングは、動作時にハウジングを実質的に固定された位置に保つための重りベースまたはクランプ機構を備える。1つ以上のモータは、逆方向に動かすことが可能であることにより、ユーザが結合部に取り付けられたツールを1つ以上のモータを作動させることなく動かすことができる。
【0023】
次に、特定の実施形態を、添付の図面を参照して、記載される態様および実施形態を例示するために、あくまでも例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ツールの使用を支援するための装置を示している。
図2】ツールの使用を支援するための装置を示している。
図3】ツールの使用を支援するための装置を示している。
図4】ハウジングの一部が取り除かれた状態の装置の図を示している。
図5】装置のコントローラを示している。
図6】装置の使用方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1図3を参照すると、ユーザによる手6を用いたツール4の操作を支援するための装置2が、ハウジング8を備える。手首支持部10が、使用時に装置2の上部に位置するハウジング8の表面12に設けられている。手首支持部は、手首を快適に支持するために、例えばメモリフォームなどの弾性発泡体材料のパッドを備えることができる。ツール4は、本体14と、例えばバー(burr)として構成された作用端16とを有する。いくつかの実施形態において、ツールは、被加工物または患者から例えば骨または関節のサイズなどのデータを集めるために使用することができる測定ツールである。装置2は、ハウジング8の表面12のスロット20を通って延びるシャフト18を備える。シャフト18の一端に、ツール4の本体14との係合のための結合部22が形成されている。例えば、いくつかの実施形態において、結合部22は、本体14を受け入れるためのリングとして構成され、本体14を結合部22の内側に固定するための1つ以上の止めねじ(図示せず)を備える。当然ながら、本体14を固定するための結合部22の種々の他の実施形態が、当業者にとって明らかであろう。
【0026】
スロット20は、ツール4の本体14を保持するユーザの手の指の曲げ伸ばしによってシャフト18を後方および前方にそれぞれ移動させることができるように、ユーザが手を手首支持部10に載せたときの前腕におおむね沿う方向に細長い。さらに、スロット20は、以下で詳しく説明されるように、シャフト18の左右への移動を可能にするための前後方向に対して垂直な範囲を有する。いくつかの実施形態において、スロットは、シャフトの移動の範囲を機械的に制限する。シャフト18は、とくには指が曲げられたときの後方位置において、手首を手首支持部10に載せたときのユーザの手のひらの傾きに対応するように、前後方向に傾けられ、手首支持部10から前方へと遠ざかる方向に立ち上がる。
【0027】
ハウジング8は、作業中にハウジングを作業対象物に対して実質的に固定された位置に配置するための重りベースまたはクランプ機構(図示せず)を備える。装置2は、装置2の位置決めを補助するための機械式または電動の可動位置決め機構を備えてもよい。
【0028】
図4を参照すると、シャフト18は、シャフト18の3つの自由度、すなわち図4に示されているとおりのヨー、ピッチ、および前後移動のそれぞれを制御するための3つのモータに結合している。第1のモータ機構24が、ハウジング8のベース26に固定され、ヨーの運動およびトルクを制御する。第1のモータ機構24の出力は、プラットフォーム28へと接続され、プラットフォーム28は、ピッチの運動およびトルクを制御する第2のモータ機構30を備えている。第2のモータ機構30の出力は、プラットフォーム32に固定され、プラットフォーム32は、前後の運動および力を制御する第3のモータ機構34を備えている。モータ機構34の出力が、シャフト18に接続されている。モータ機構24、30、34は、電気モータと、電気モータのトルクを出力へと伝達する低摩擦ギアボックスとを備える。第3のモータ機構34の場合、ギアボックスは、例えばトルクの出力を前後方向の直線運動/直線力の出力へと変換するためのウォームギアまたは再循環ボールねじを備える。当然ながら、他の実施形態においては、リニアモータなど、直線的な出力を生成するための他の機構を使用してもよい。
【0029】
モータ機構24、30、34は、電気モータによる力またはトルクの生成を必要とすることなくユーザがツールを操作できるよう、ユーザがツール4、したがって結合部22に力またはトルクを加えることによって逆方向に駆動することができるように充分に低摩擦である。この目的のために、モータ機構24、30、34の逆方向の駆動への抵抗を打ち負かすために結合部において必要とされる力は、0.4N未満であり、好ましくは0.3N、0.2N、0.1N、または0.05N未満である。いくつかの実施形態において、モータ機構24および30の回転軸は、モータ機構34の平行移動の直線軸に整列(公差は許される)した場所において交わる。
【0030】
図5を参照すると、モータ機構24、30、34のためのコントローラ36が、位置モジュール36を備える。位置モジュール36は、位置データを受け取り、ツール4の作用端16の位置を表すデータを導出するように構成される。位置データは、いくつかの実施形態においては、モータ機構24、30、34に組み合わせられたエンコーダから受信され、作用端16の位置が、当業者にとって周知のとおり、おそらくは較正ルーチン(必要であれば)の後で、装置2およびツール4の構成に関する知識に基づいて、このデータから導出される。いくつかの実施形態においては、ツール4および/またはシャフト18上の光学マーカが、エンコーダを用いる代わりに、ツール4の位置および向きを測定するために、光学検出システムを使用して空間内で検出される。
【0031】
制約モジュール40が、いくつかの実施形態においては、作業対象物のモデルおよび1つ以上の領域を定義するユーザ入力を入力として得て、ツール4の作用端16を進入させるべきではない1つ以上の空間領域を定義する。
【0032】
位置合わせモジュール42が、位置データおよび制約データを共通の座標系において定義でき、あるいは共通の座標系へと変換できるように、装置2および作業対象物の相対的な位置および向きに関する情報を含む。この情報を、当業者にとって周知のとおり、設置手順における較正を使用して、例えば装置の座標における物体上の点を取得するための既知の構成の較正ツールを使用して、導出することができる。例えば、装置が外科手術において使用される場合、物体上の点は、ツール4によって作業される身体領域のモデルとの位置合わせに使用することができる身体構造上の目印であってよい。
【0033】
処理モジュール44は、作用端16の位置を表す情報と、1つ以上の領域を示す情報とを組み合わせて、作用端16を1つ以上の領域から作用端16の存在が望ましくない領域へと移動させ、すなわちツールの使用を案内する能動的制約または「仮想の壁」を生成するように、ツール4を付勢する力/トルクを発生させるように構成される。いくつかの実施形態においては、これに加え、あるいはこれに代えて、処理モジュールは、作用端が1つ以上の領域のうちの1つに進入する場合に、作用端を無力化する。後者の場合、モータは不要かもしれず、装置はモータを省略してもよい(ただし、必要に応じてエンコーダは残される)。
【0034】
いくつかの特定の実施形態において、1つ以上の領域の生成および定義を含む能動的制約は、いずれも本明細書に援用されるS.A.Bowyer,B.L.Davies,F.Rodriguez y Baena,IEEE Transactions on Robotics,Vol.30,No.1,page 138,February 2014;国際公開第2002/060653号パンフレット;国際公開第2003/043515号パンフレット;S.C.Ho,R.D.Hibberd and B.L.Davies,IEEE Engineering in Medicine and Biology,May/June 1995,page 292のうちの任意の1つ以上に開示された技術を使用して実行される。いくつかの実施形態において使用される位置合わせ技術は、どちらも本明細書に援用される国際公開第2003/04515号パンフレットおよび/または国際公開第2006/048651号パンフレットに記載されている。いくつかの実施形態においては、本明細書に援用される国際公開第2002/061688号パンフレットに開示されているとおりのシミュレーションを使用したツールの使用の計画が採用される。
【0035】
次に、図6を参照して、装置2の動作の方法を、外科手術の文脈において説明する。しかしながら、この開示が、患者の身体部分以外の対象物におけるツールの使用にも同様に当てはまることは、明らかであろう。
【0036】
ステップ46において、典型的には外科手術の場合における患者の身体部分である作業対象物が、装置2に対して位置決めされる。周知のように、身体部分を動かぬように固定することができる。患者を、装置2に対して移動させることができる動力付きのベッドに載せることができ、あるいは、いくつかの実施形態においては、装置2を単に患者の隣に配置し、摩擦またはクランプ機構によって動かぬように保持することができる。ツール4が、まだ存在していないのであれば、装置2に組み合わせられる。これらの準備を、例えば、手術室の看護師が行うことができる。ステップ48において、周知かつ上記で簡単に説明したように、装置2の基準枠/座標系が対象物と位置合わせされ、制約領域がコントローラ36へとロードされる。
【0037】
ステップ50において、外科医が、例えば切除または焼灼など、手術によって必要とされるとおりに組織を修正するために、手首を手首支持部10に載せ、ツール4を2本以上の指(あるいは、ツールに固定されたストールまたはスリーブ内の1本の指)で操作することによって、手術を実行する。外科医が手術を実行するときに、例えば上述のようにツールの作用端16の位置が取得され、ツールの作用端を手術のための所望の領域に留め、周囲の組織の損傷を回避するために、制約が適用される。外科医がツール4によって処置を実行している限りにおいて、位置が取得され、制約が適用される。
【0038】
上述の装置2によって実行され、あるいは上述の装置2に関連して実行される種々の方法は、コンピュータプログラムによって実施することが可能である。コンピュータプログラムは、上述のさまざまな方法のうちの1つ以上の方法の機能を実行するようにコンピュータに命令するように構成されたコンピュータコードを含むことができる。そのような方法を実行するためのコンピュータプログラムおよび/またはコードを、1つ以上のコンピュータ可読媒体、あるいはより一般的にはコンピュータプログラム製品にて、コンピュータなどの装置へと提供することができる。コンピュータ可読媒体は、一時的または非一時的であってよい。1つ以上のコンピュータ可読媒体は、例えば、電子、磁気、光学、電磁気、赤外線、または半導体システムであってよく、あるいは例えばインターネットを介してコードをダウンロードするためのデータ伝送用の伝搬媒体であってよい。あるいは、1つ以上のコンピュータ可読媒体は、半導体または固体メモリ、磁気テープ、取り外し可能なコンピュータディスケット、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、剛体磁気ディスク、ならびにCD-ROM、CD-R/W、またはDVDなどの光ディスクなど、1つ以上の物理的なコンピュータ可読媒体の形態をとることができる。
【0039】
一実施例においては、本明細書に記載のモジュール、構成要素、および他の特徴を、個別の構成要素として実装することができ、あるいはASIC、FPGA、DSP、または同様のデバイスなどのハードウェア構成要素の機能に統合することができる。
【0040】
「ハードウェア構成要素」は、特定の動作を実行することができる有形の(例えば、非一時的な)物理的な構成要素(例えば、1つ以上のプロセッサの組)であり、特定の物理的なやり方で構成または配置されてよい。ハードウェア構成要素は、特定の動作を実行するように恒久的に構成された専用の回路または論理を含むことができる。ハードウェア構成要素は、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)またはASICなどの専用プロセッサであってよく、あるいはそのような専用プロセッサを含むことができる。さらに、ハードウェア構成要素は、特定の動作を実行するためにソフトウェアによって一時的に構成されるプログラマブルな論理または回路も含むことができる。
【0041】
したがって、「ハードウェア構成要素」という表現は、本明細書に記載の特定のやり方で動作し、あるいは本明細書に記載の特定の動作を実行するように、物理的に構築でき、恒久的に構成(例えば、配線)でき、あるいは一時的に設定(例えば、プログラム)できる有形の実体を包含するものと理解されるべきである。
【0042】
さらに、モジュールおよび構成要素を、ハードウェアデバイス内のファームウェアまたは機能回路として実装することができる。さらに、モジュールおよび構成要素を、ハードウェアデバイスおよびソフトウェア構成要素の任意の組み合わせにて実装することができ、あるいはソフトウェア(例えば、機械可読媒体または伝送媒体に格納または別のやり方で具現化されたコード)のみにて実装することができる。
【0043】
本開示の方法を実施するコンピューティングデバイスを、ハウジング8内に組み込むことができ、あるいは本開示の装置は、コンピューティングデバイスを別個の構成要素または別個の分散型構成要素として含んでもよい。コンピューティングデバイスは、クライアント-サーバネットワーク環境におけるサーバまたはクライアントマシンの役割にて動作することができ、あるいはピアツーピア(または、分散型)ネットワーク環境におけるピアマシンとして動作することができる。コンピューティングデバイスは、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレットコンピュータ、ウェブアプライアンス、サーバ、ネットワークルータ、スイッチまたはブリッジ、あるいは一連の(順次的またはその他の)命令を実行して、それらの命令によって指定される動作を行うことができる任意のマシンであってよい。さらに、単一のコンピューティングデバイスについてのみ言及したが、用語「コンピューティングデバイス」は、本明細書に記載の方法のうちの任意の1つ以上を実行すべく1組(または、複数組)の命令を個別に、または共同して実行するマシン(例えば、コンピュータ)の任意の集合を含むように解釈されるべきである。
【0044】
とくに断らない限り、以下の説明から明らかなように、本明細書の全体を通して、「処理する」、「受信する」、「導出する」、「組み合わせる」、などの用語を利用した説明が、コンピュータシステムまたは同様の電子コンピューティングデバイスの動作および処理であって、コンピュータシステムのレジスタおよびメモリ内の物理的(電子的)な量として表されるデータを、コンピュータシステムのメモリまたはレジスタあるいは他のそのような情報記憶、伝送、または表示装置における物理的な量として同様に表される他のデータへと操作および変換する動作および処理を指すことを、理解すべきである。
【0045】
以上の説明が例示を意図しており、限定を意図していないことを、理解すべきである。以上の説明を検討および理解することで、多数の他の実施例が、当業者にとって明らかであろう。本開示を、特定の典型的な実施例を参照して説明したが、本開示が、説明した実施例に限定されず、むしろ添付の特許請求の範囲の技術的思想および技術的範囲の範囲内で、変更および調整を伴って実施可能であることを、理解できるであろう。したがって、本明細書および図面は、限定の意味ではなく、例示の意味で考慮されるべきである。したがって、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照して、そのような特許請求の範囲に与えられる均等物の全範囲とともに決定されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6