(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】新生腱索の経血管的埋め込み方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2019556554
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(86)【国際出願番号】 US2017069046
(87)【国際公開番号】W WO2018126188
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-17
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519236022
【氏名又は名称】パイプライン メディカル テクノロジーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビショップ ゴードン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ラシンスキ ランダル ティー.
(72)【発明者】
【氏名】グリズウォルド エリック
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0118151(US,A1)
【文献】特表2009-500105(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0011917(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0195126(US,A1)
【文献】国際公開第2010/128502(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位端部及び遠位端部を有するカテーテルと、
前記カテーテル内に挿入されるように構成され、心室アンカ及びドライバを有する心室アンカ給送サブシステムと、
前記カテーテル内に挿入されるように構成され、前記カテーテルを通って近位方向に延びる縫合
糸及び半径方向に拡大可能な弁尖アンカを有する弁尖アンカ給送サブシステムと、
を有し、
前記ドライバは、前記カテーテルを通って近位方向に延びる前記心室アンカを展開させるように構成されて
おり、
前記半径方向に拡大可能な弁尖アンカは、2つのシート状の材料の間に挿入された縫合糸を含み、かつ前記縫合糸の近位方向への後退により半径方向に拡大した構成に変形可能である、ことを特徴とする新生腱索展開システム。
【請求項2】
前記半径方向に拡大可能な弁尖アンカは綿撒糸を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の新生腱索展開システム。
【請求項3】
前記綿撒糸は、前記縫合
糸の近位への後退により、細長いストリップ状の構成から、半径方向に拡大され軸方向に縮小された構成に変形可能である、ことを特徴とする請求項2に記載の新生腱索展開システム。
【請求項4】
前記半径方向に拡大可能な弁尖アンカは、弁尖を通って前進可能な第1の縮小断面から、前記弁尖の一方の側に接触する第2の拡大断面へと拡大可能である、ことを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【請求項5】
縫合
糸ロック給送サブシステムをさらに備え、
前記縫合
糸ロック給送サブシステムは、前記弁尖アンカ給送サブシステムの前記縫合
糸及び前記心室アンカ給送サブシステムの心室アンカ縫合
糸に亘って進むように構成された縫合
糸ロックを有する、ことを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【請求項6】
前記縫合
糸ロックは、前記縫合
糸の長さを固定するためロックするように構成されている、ことを特徴とする請求項
5に記載の新生腱索展開システム。
【請求項7】
前記心室アンカ給送サブシステム及び前記弁尖アンカ給送サブシステムは、前記カテーテルを同時に又は連続的に占有するように構成されている、ことを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【請求項8】
前記心室アンカ給送サブシステム、前記弁尖アンカ給送サブシステム及び前記縫合
糸ロック給送サブシステムのいくつか又は全ては、前記カテーテルを同時に又は連続的に占有するように構成されている、ことを特徴とする請求項
5又は
6に記載の新生腱索展開システム。
【請求項9】
前記心室アンカを遠位方向に展開するように構成され、かつ前記半径方向に拡大可能な弁尖アンカを近位方向に展開するように構成されている、ことを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【請求項10】
前記半径方向に拡大可能な弁尖アンカは、前記心室アンカ及び前記ドライバが前記カテーテルから取り除かれた後、連続して前記カテーテルに挿入される、ことを特徴とする請求項1~
9のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【請求項11】
前記半径方向に拡大可能な弁尖アンカ、前記
心室アンカ及び前記ドライバは、前記カテーテル内に予め配置される、ことを特徴とする請求項1~1
0のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【請求項12】
前記弁尖アンカ給送サブシステムは、前記カテーテルの前記遠位端部を通って前進するように構成された組織貫通要素をさらに有する、ことを特徴とする請求項1~1
1のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【請求項13】
前記弁尖アンカ給送サブシステムは、組織貫通ガイド要素を有し、
前記組織貫通要素は、前記組織貫通ガイド要素から前進するように構成されている、ことを特徴とする請求項1
2に記載の新生腱索展開システム。
【請求項14】
前記組織貫通要素は、弁尖を通って前進し、前記弁尖アンカを前記組織貫通要素から展開させるように構成されている、ことを特徴とする請求項1
2又は1
3に記載の新生腱索展開システム。
【請求項15】
前記心室アンカはブレード部分を有する、ことを特徴とする請求項1~1
4のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【請求項16】
前記心室アンカは機械的に拡張可能である、ことを特徴とする請求項1~1
4のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【請求項17】
前記心室アンカは、とげのあるステント状構造
体を有する、ことを特徴とする請求項1~1
4のいずれかに記載の新生腱索展開システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2016年12月30日に出願された米国仮出願第62/441,031号の優先権を主張して2017年6月29日に出願された米国出願第15/638,176号の一部継続出願であり、上記出願はそれぞれ参照により本願に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して僧帽弁修復装置及び技術に関し、特に、僧帽弁逆流を軽減する腱索置換のための経血管的方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
心臓は4つの心臓弁を含む。これらの弁により、血液が心臓の4つの部屋を一方向に通過する。4つの弁は、三尖弁、僧帽弁、肺動脈弁及び大動脈弁である。4つの部屋は、左心房及び右心房(上側の部屋)並びに左心室及び右心室(下側の部屋)である。
【0004】
僧帽弁は、前尖及び後尖と呼ばれる2つの弁尖から形成されている。これらの弁尖は、心臓の収縮により弁尖に加わる圧力に応じて開閉する。僧帽弁に関していくつかの問題が生じ得る。問題の1つとして、僧帽弁逆流症(MR)がある。僧帽弁逆流症は、僧帽弁弁尖が適切に閉じないという症状を有しており、このため、僧帽弁からの漏洩が生じる場合がある。重度の僧帽弁逆流症は心機能に悪影響を及ぼす可能性があり、患者の生活の質及び寿命を低下させる虞がある。
【0005】
僧帽弁逆流を治療するための技術が開発されている。これらの技術には、心臓移植、弁の置換又は修復、腱索の短縮又は置換、及び、弁形成としても知られる僧帽弁輪の修復が含まれる。上記の技術はステージ及び病因に応じて選択される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
腱索の置換又は修復に関するため、ある種の外科的アプローチ及び経心尖(trans apical)アプローチが提案されている。しかし、このような提案にも関わらず、MRを減少又は排除するように、腱索の置換又は修復のための経血管的(transvascular)アプローチが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によれば、経血管的人工腱索の埋め込み方法が提供される。上記方法は、僧帽弁を通して左心房及び左心室にカテーテルを前進させるステップと、カテーテルから左心室の壁部へと心室アンカを展開させるステップであって、心室アンカに取り付けられた心室縫合部を残し、カテーテルを通して近位方向に延ばす、心室アンカを展開させるステップと、を含む。弁尖縫合部がカテーテルを通って近位方向に延びている状態で、弁尖アンカは、僧帽弁弁尖を弁尖縫合部に固定するように展開される。弁尖縫合部は、左心房の方向への弁尖の移動範囲を制限するために心室縫合部に固定される。
【0008】
弁尖アンカを前進させるステップは、弁尖接合縁部から約3mm~約10mmの範囲内で弁尖アンカを弁尖に固定することを含む。心室アンカを展開させるステップは、好ましくは心尖部から離間させて、アンカを心室隔壁又は心室壁部に取り付けることを含む。心室アンカを展開させるステップは、僧帽弁を通してアンカドライバを前進させること、心室アンカを固定するためにドライバを回転させること、及び、心室アンカにより運ばれる心室縫合部を露出させるために近位方向にアンカドライバを後退させること、を含む。
【0009】
弁尖アンカを展開させるステップは、弁尖と接触させて針ガイドを配置することと、針ガイドから弁尖を通して針を前進させることと、を含む。前記方法は、針ガイドの遠位端部を弁尖の心室側に対して配置するため、針ガイドの遠位端部を少なくとも約160°の角度で偏向させるステップをさらに含む。針ガイドは、スロット付きチューブを含み、針ガイドの偏向は、プルワイヤを近位方向に後退させることによって行われる。
【0010】
固定するステップは、心室縫合部及び弁尖縫合部に縫合部ロックを適用することを含む。前記方法は、弁尖の機能を向上させるため、固定するステップの前に、弁尖縫合部に張力を付与するステップをさらに含む。前記方法は、収縮期の弁尖の移動限界を弁輪と同等のレベルまで引き上げるため、弁尖縫合部に十分な張力を付与するステップをさらに含む。固定するステップは、弁尖縫合部及び心室縫合部を固定するために結び目を係合させることを含む。さらに、前記方法は、弁尖縫合部及び心室縫合部を残して生来の腱索(native chordae)として機能させるように、弁尖縫合部及び心室縫合部を縫合部ロック又は結び目の近位で切断するステップを含む。
【0011】
前記方法は、患者が、原発性又は変性による僧帽弁逆流症と診断されていること;患者が、二次的又は機能的僧帽弁逆流症と診断されていること;患者が、粘液腫性僧帽弁逆流症と診断されていること;患者が、動揺弁尖(flail leaflet)、腱索裂傷又は弁尖逸脱症と診断されていること;患者が、僧帽弁逆流症のグレードが1以上であること;患者が、P2弁尖+A2弁尖の総長さより少なくとも5mm小さいA2弁尖~P2弁尖の直径を有すること;患者が、少なくとも10mmのA2弁尖~P2弁尖の直径を有すること;患者が、少なくとも2mmのアクセス血管径を有すること;からなる群から選択される少なくとも3つの特徴を有する患者を特定する初期のステップをさらに含む。
【0012】
患者が少なくとも1人の心臓外科医を含む心臓チームによって評価され、従来の開胸手術による修復に適した候補者ではないと決定されていること;患者が2以上のSTS予測死亡率(STSスコア)を有すること;患者が開胸手術による修復を提示され拒否したこと;患者の年齢が18~90歳であること;患者が輸血を受けないこと;患者が、以前に開胸手術を受けたことがあること;患者が少なくとも10パーセントの駆出率を有すること;からなる群から選択される少なくとも1つの特徴を患者がさらに有する。
【0013】
本開示のさらなる態様によれば、収縮期に僧帽弁弁尖接合領域を増大させる方法が提供される。前記方法は、少なくとも第1の心室張力要素を心室の壁部に固定するステップと、少なくとも第1の弁尖張力要素を僧帽弁弁尖に固定するステップと、を含む。収縮期に弁尖の移動限界を心室の方向に動かすように近位方向に弁尖張力要素を後退させ、これにより収縮期に僧帽弁弁尖接合領域を増大させる。その後、弁尖張力要素を心室張力要素に固定する。
【0014】
心室張力要素は、心室アンカに面する遠位端部と、実質的に生来の乳頭筋の頂部の高さにある近位端部と、を有する新生乳頭筋(neo papillary muscle)を含む。固定するステップは、新生乳頭筋の近位端部において弁尖張力要素を心室張力要素に固定することを含む。新生乳頭筋は、細長い非外傷性の本体を有するとともに、ePTFEを含む。
【0015】
弁尖張力要素を固定するステップは、遠位端部を有する針ガイドを、僧帽弁を通して左心室に前進させることと、拡張期に弁尖に接触させて遠位端部を配置するために少なくとも160°の角度で針ガイドを偏向させることと、を含む。前記方法は、針ガイドの遠位端部から弁尖を通して弁尖アンカ展開針を前進させるステップと、針からアンカを展開させるステップと、をさらに含む。アンカを展開させるステップは、展開針内における第1の減少した断面から、弁尖の心房側に対して着座させるための第2の拡大した断面へとアンカを展開させることを含む。アンカを展開させるステップは綿撒糸を展開させることを含む。
【0016】
近位方向に弁尖張力要素を後退させるステップは、少なくとも弁尖張力要素が開口部を通って延びた状態で、開口部を左心室に配置することと、張力要素が弁尖を心室の方向に引き寄せるように、開口部を支点として機能している状態で、近位方向に弁尖張力要素を後退させることと、を含む。支点は、カテーテルの遠位開口部であり、近位方向に後退させるステップは、カテーテルを通して近位方向に弁尖張力要素を後退させることを含む。前記方法は、第2の弁尖張力要素を弁尖及び心室張力要素に固定するステップをさらに含む。
【0017】
本開示のさらなる態様によれば、本来の場所で組み立てる(assembled in situ)僧帽弁弁尖拘束部が提供される。拘束部は、近位端部及び遠位端部を有する細長い可撓性の新生乳頭筋と、新生乳頭筋の遠位端部に取り付けられたらせん状組織アンカと、を有する。細長い可撓性の新生腱索(neo chordae)は、新生乳頭筋から近位方向に延びており、弁尖アンカは、新生腱索の近位端部に取り付けられている。弁尖アンカは、弁尖を通って前進するための第1の減少した断面から、弁尖の心房側と接触するための第2の拡大した断面まで拡大可能である。新生腱索は、新生乳頭筋を通って遠位方向にらせん状組織アンカまで延びる縫合部に取り付けられている。
【0018】
らせん状アンカはレーザカットハイポチューブを含む。らせん状アンカは1つ又は2つ又はそれ以上のコイル状円形ワイヤを含む。新生腱索は、新生乳頭筋の近位端部から弁尖アンカまで延びている縫合部を含む。縫合部は、新生乳頭筋を通してらせん状組織アンカまで延びている。
【0019】
新生腱索は、新生乳頭筋から近位方向に延びる第1の要素と、弁尖アンカから遠位方向に延びる第2の要素と、を含む。第1の要素の近位部分及び第2の要素の遠位部分は、ロック装置により互いに結合されている。ロック装置は、ロックされた状態及びロックされていない状態を有する。ロック装置は、ロックされていない状態では第1の要素及び第2の要素に亘って前進し、ロックされた状態では第1の要素及び第2の要素を固定的にクランプするように構成されている。
【0020】
弁尖アンカは綿撒糸を含む。綿撒糸は、綿撒糸に連結された縫合部を引っ張ることで折り畳まれるように構成されており、綿撒糸は、折り畳まれたときに第2の拡大した断面となる。縫合部は、綿撒糸における少なくとも2つ、少なくとも3つ又は4つ以上の開口部を通る。開口部は、実質的に同一直線上に位置している。弁尖アンカは、Tタグバーを含む。Tタグバーはバーを含み、当該バーは、バーの回転が弁尖アンカを第1の減少した断面から第2の拡大した断面まで拡大させるように縫合部に回転可能に連結されている。弁尖アンカはハブを含む。ハブは半径方向に延びる可撓な複数のスポークを有する。複数のスポークは、長手方向軸に沿った整列位置へと曲がるように構成されて、給送針内に拘束される。複数のスポークは、拘束されていないときに半径方向外側に拡大するように付勢され、弁尖アンカを第1の減少した断面から第2の拡大した断面まで拡大させる。
【0021】
らせん状アンカは、縫合部を受容し、摩擦で固定するように構成されたハブを含む。らせん状アンカは、新生乳頭筋をらせん状アンカに固定するためのループを含む。新生乳頭筋は柔らかいリボンを含む。
【0022】
本開示のさらなる態様によれば、新生腱索展開システムは、近位端部及び遠位端部を有する、細長い可撓な管状本体部を有し、らせん心室アンカは、管状本体部内に配置され、管状本体部を通って近位方向に延びる回転ドライバを有する。半径方向に拡大可能な弁尖アンカは、管状本体部内にあり、近位方向に管状本体部を通って近位方向に延びる縫合部を有する。
【0023】
本開示のさらなる態様によれば、新生腱索展開システムが提供される。展開システムは、近位端部及び遠位端部を有するカテーテルと、カテーテル内に位置するらせん状アンカと、カテーテル内で半径方向に拡大可能な弁尖アンカと、を有する。らせん状アンカは、カテーテルを通って近位方向に延びるらせん状アンカを回転させるように構成されたドライバを有する。弁尖アンカは、カテーテルを通って近位方向に延びる縫合部を有する。
【0024】
半径方向に拡大可能な弁尖アンカは綿撒糸を含む。綿撒糸は、縫合部の近位への後退により、細長いストリップ状の構成から、半径方向に拡大され軸方向に縮小された構成に変形可能である。半径方向に拡大可能な弁尖アンカは、2つのシート状の材料の間に挿入された縫合部を含む。半径方向に拡大可能な弁尖アンカは、カテーテル内に保持される偏向可能な展開チューブを有する。
【0025】
展開チューブの遠位偏向領域は、近位偏向制御の操作に応じて、少なくとも約160°の角度で偏向可能である。遠位偏向領域は、展開チューブの遠位端部から約1.5cm以内にある。遠位偏向領域は、約1.5cm以下の最適半径を有する曲線を形成するように偏向可能である。偏向可能な展開チューブは、スロット付き偏向チューブを含む。
【0026】
新生腱索展開システムは、らせん状アンカを遠位方向に展開するように構成され、かつ半径方向に拡大可能なアンカを近位方向に展開するように構成されている。拡大可能な弁尖アンカは、らせん状アンカ及びドライバがカテーテルから取り除かれた後で連続してカテーテルに挿入される。拡大可能な弁尖アンカ、らせん状アンカ及びドライバは、カテーテル内に予め配置される。
【0027】
本開示のさらなる態様によれば、弁尖アンカ給送システムが提供される。弁尖アンカ給送システムは、給送シャフト及び組織貫通要素を含む。遠位部分及び近位部分を有し、給送シャフトの遠位部分に配置された偏向領域を有する。組織貫通要素は、給送シャフトの遠位端部を通って前進するように構成されている。偏向領域は、給送シャフトの近位部分が左心房へと延びた状態で、給送シャフトの遠位端部を弁尖の心室側に配置するように構成されている。偏向領域は可撓性チューブを含む。可撓性チューブは、偏向したときに、約2cm未満の最適曲率半径を有する。
【0028】
本開示のさらなる態様によれば、心臓の弁尖に固定するための綿撒糸が提供される。綿撒糸は、実質的に重なり合った領域を含む2つのフラットシートと、2つのフラットシート間に配置された縫合部と、2つのフラットシートを通って延びる一つ又は複数の開口部と、を有する。縫合部は、近位端部及び遠位端部を有する。近位端部は、2つのフラットシートの第1の側から延びている。2つのフラットシートを通って延びる一つ又は複数の開口部は、縫合部を受容する大きさを有する。2つのフラットシートは、縫合部の両側で重なり合った領域の部分に亘って互いに接合されている。
【0029】
縫合部は、2つのシートの間で、少なくとも部分的に平坦化されている。一つ又は複数の開口部は、平坦化された縫合部を通って延びている。縫合部の遠位端部は、第1の側の反対側にある2つのフラットシートの第2の側に延びている。縫合部は、2つのフラットシートの間で略直線に沿って延びている。縫合部は、2つのフラットシートの間でジグザグ又は波状の方向に沿って延びている。2つのフラットシートは、発泡ポリテトラフルオロエチレンを含む。2つのフラットシートの少なくとも一方は、少なくとも部分的に焼結されている。
【0030】
2つのフラットシートの第1の側から延びる縫合部の近位端部は、一つ又は複数の開口部を通る。綿撒糸は折り畳み構造を有し、当該折り畳み構造では、2つのフラットシートが、半径方向に拡大した断面を形成するように少なくとも一度折り畳まれる。半径方向に拡大した断面は、縫合部が一つ又は複数の開口部を通るときに縫合部の周りに延在する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、カテーテルを介して給送された縫合部が取り付けられた僧帽弁輪を示している。
【
図2】
図2は、僧帽弁輪に接続された縫合部に取り付けられかつカテーテル介して給送された遠位アンカを示している。
【
図3】
図3は、後に僧帽弁弁尖又は僧帽弁輪に取り付けられる縫合線を含み、心臓の心尖部に向けて回転している遠位アンカを示している。
【
図4】
図4は、縫合線が僧帽弁弁尖又は僧帽弁輪に取り付けられた状態で心臓の心尖部に向けて回転している遠位アンカを示している。
【
図5】
図5は、乳頭筋の頂部と略同じ高さで心臓の心尖部の上方に取り付けられて突出した遠位アンカを示している。
【
図6】
図6は、乳頭筋の頂部と略同じ高さで心臓の心尖部の上方に取り付けられて突出し、僧帽弁輪及び/又は僧帽弁弁尖に取り付けられた遠位アンカを示している。
【
図7】
図7は、乳頭筋の頂部と略同じ高さで心臓の心尖部の上方に取り付けられて突出し、カテーテルを通して移動するループ状の縫合部に取り付けられた遠位アンカを示している。
【
図8】
図8は、僧帽弁弁尖の心室側におけるストレインリリーフを含む、僧帽弁弁尖を貫通した、カテーテルにより給送された縫合部ループと、縫合部尾部に亘って進んだ縫合ロック部により保持され最終縫合張力調節下で左心室の底部に位置する遠位アンカと、を示している。
【
図9】
図9は、僧帽弁弁尖の心室側におけるストレインリリーフを含む、僧帽弁弁尖を貫通した、カテーテルにより給送された縫合線と、縫合部を切断する前に縫合部尾部に固定された僧帽弁弁尖の心房側に進んだ縫合ロック部と、を示している。
【
図10】
図10は、僧帽弁弁尖の心室側におけるストレインリリーフを含む、僧帽弁弁尖を貫通した、カテーテルにより給送された縫合線と、縫合部尾部を固定するために僧帽弁弁尖の心房側に進んだ縫合ロック部と、を示している。縫合部尾部の他方の端部は、カテーテルを通ってカテーテルハンドルから延び、縫合部を引っ張るため左心室の底部に配置された遠位アンカを通過している。ユーザにより縫合部の張力が調節されると第2の縫合ロック部が最終縫合部尾部に亘って前進する。
【
図11】
図11は、カテーテルから給送され、僧帽弁弁尖を貫通している縫合部ループであって、僧帽弁弁尖の心室側に位置しているストレインリリーフの周囲をループ状にくくった縫合部ループと、最終的な縫合部の張力調節が縫合部尾部に亘って前進した縫合部ロックにより保持された状態で左心室の底部に配設された遠位アンカと、を示している。また、弁尖を強固に保持しストレインリリーフの貫通力に対抗する、僧帽弁弁尖に付着した冷凍カテーテルを示している。
【
図12】
図12は、カテーテルから給送され、僧帽弁弁尖を貫通している縫合部ループであって、僧帽弁弁尖の心室側に給送されるストレインリリーフの周囲をループ状にくくった縫合部ループと、最終的な縫合部の張力調節が縫合部尾部に亘って前進した縫合部ロックにより保持された状態で左心室の底部に配設された遠位アンカと、を示している。また、弁尖を強固に保持しストレインリリーフの貫通力に対抗する、僧帽弁弁尖に付着した冷凍カテーテルを示している。
【
図13】
図13は、僧帽弁輪の貫通位置及び生来の乳頭筋に対する遠位アンカの位置を心房側から示す図である。
【
図14】
図14は、僧帽弁輪の貫通位置及び生来の乳頭筋に対する遠位アンカの位置を心房側から示す図である。
【
図15】
図15は、正しい角度をより正確にシミュレートして新生コード接続を適応させるため、接続点を乳頭筋の高さに近づけるように調節する垂直ライザを備えたレーザカットハイポチューブ及びコイル状円形ワイヤを含む左心室の心尖部に取り付けるための種々のアンカを示す図である。
【
図16】
図16は、カテーテルハンドルの外側に延びている複数の置換コードを含む左心室の心尖部にアンカを給送する経中隔カテーテルを示している。
【
図17】
図17は、縫合部ループに接続されたストレインリリーフアンカを給送するように、僧帽弁弁尖を通して貫通ツールを給送する経中隔カテーテルを示している。
【
図18】
図18は、僧帽弁弁尖を通して縫合部ループを給送する経中隔カテーテルと、弁尖を貫通している縫合部ループと、を示している。
【
図19】
図19は、僧帽弁弁尖の心室側へとストレインリリーフを給送する経中隔カテーテルと、貫通ツールを通して又は貫通ツールにより給送される露出したトレインリリーフと、を示している。
【
図20】
図20は、ストレインリリーフを給送する経中隔カテーテルと、僧帽弁弁尖から引き抜かれた貫通ツールと、を示している。
【
図21】
図21は、カテーテルハンドルから後方に延びる縫合部ループ及び遠位アンカに対する接続部を有するストレインリリーフを給送する経中隔カテーテルを示している。
【
図22】
図22は、僧帽弁弁尖及び遠位心尖部アンカに接続された最終埋め込み縫合部の位置及び張力を調節するように、カテーテルハンドルを介して縫合部の近位端部から張力が付与間に縫合部尾部に亘って前進する縫合ロック部を遠位アンカへと給送する経中隔カテーテルを示している。
【
図23】
図23は、僧帽アンカが非分解図に示すように片面フランジ又は片面である、遠位心尖部アンカを僧帽弁弁尖に固定している最終縫合部ループを示す図である。
【
図24】
図24は、僧帽弁弁尖上のストレインリリーフエレメント及び遠位心尖部アンカ並びに最終位置に給送された連続ループアンカを示す図である。
【
図25】
図25は、最終的な位置決めのための縫合ロック部の給送前に縫合部の移動を制限するため、ステンレスチューブ及びシリコーン製アンカプラグで構成された遠位心尖部アンカの一例を示している。サイズ及び材料の機能強化に合わせて材料を変動及び変更してもよい。
【
図26】
図26は、右心房から中隔を貫通するカテーテル及び左心房を示している。
【
図28】
図28は、カテーテルを通って延びている縫合線が取り付けられ、所定位置にある遠位心尖部アンカと、適切に弁尖に配置されたときに発射される針で僧帽弁弁尖を捕捉するように露出した延長アームと、を示す図である。
【
図29】
図29は、僧帽弁弁尖と接触している延長アームと、僧帽弁弁尖の心房側に縫合部ループを露出させるように弁尖を貫通する縫合部ループに接続された針と、を示す図である。
【
図30】
図30は、縫合部ループの捕捉及びカテーテルを通した回収のためのループスネアを受けるように、僧帽弁弁尖を貫通し弁尖の心房側に露出した縫合部ループを示している。
【
図31】
図31は、縫合部ループの周囲で閉じている縫合部ループと、カテーテルを通して近位方向に引っ張られた縫合部と、を示している。
【
図32】
図32は、縫合部が遠位心尖部アンカを含む経路に沿ってループしているときに、僧帽弁弁尖の裏面側に縫合部ロックを給送するカテーテルを示している。
【
図33】
図33は、2つの端部に適切な張力を付与した後、縫合部をロックする縫合部ロックを弁尖に亘って給送するように縫合部端部を受ける第2のカテーテルを示している。
【
図34】
図34は、僧帽弁弁尖の上方及び下方における最終位置にある縫合部ロックと、僧帽弁弁尖に接続された遠位心尖部アンカの最終的な埋め込みを保持するように切断された縫合部端部と、を示している。
【
図35B】
図35Bは、僧帽弁を通って前進する操作可能な弁尖穿刺カテーテルを示している。
【
図35C】
図35Cは、少なくとも約180°の角度で偏向した操作可能な弁尖穿刺カテーテルを示している。
【
図35D】
図35Dは、弁尖への穿刺及び折り畳み式綿撒糸型の弁尖アンカの展開状態を示している。
【
図35E】
図35Eは、弁尖への穿刺及び折り畳み式綿撒糸型の弁尖アンカの展開状態を示している。
【
図35F】
図35Fは、弁尖への穿刺及び折り畳み式綿撒糸型の弁尖アンカの展開状態を示している。
【
図35G】
図35Gは、弁尖への穿刺及び折り畳み式綿撒糸型の弁尖アンカの展開状態を示している。
【
図35H】
図35Hは、展開カテーテルを通って近位に延びている弁尖縫合部及び心室縫合部を示している。
【
図35K】
図35Kは、新生乳頭筋の近位端部付近に位置する支点を概略的に示している。
【
図35L】
図35Lは、展開システムの取り外し前における僧帽弁機能の検証を示している。
【
図35M】
図35Mは、所望の張力を加えた後の弁尖縫合部の心室縫合部への取り付け状態を示している。
【
図35N】
図35Nは、新生コードを所定位置に残すように弁尖縫合部及び心室縫合部の切断状態を示している。
【
図35O】
図35Oは、複合的な偏向構造を有する弁尖穿刺カテーテルの操作可能な遠位部分を示している。
【
図36B】
図36Bは、切断ステップが好ましく行われる領域において、ループでくくられコードへと引き上げられた乳頭筋を示す図である。
【
図38A】
図38Aは、心室アンカ給送サブシステムを介した左心室の心尖部付近に設置されたらせん状アンカを示している。
【
図38B】
図38Bは、遠位可撓性チューブを使用した弁尖の心室側への弁尖アンカ給送サブシステムの配置を示している。
【
図38C】
図38Cは、心室弁尖給送サブシステムの遠位端部に配置された針を用いた弁尖の貫通状態を示している。
【
図38D】
図38Dは、縮小した径方向断面を有する、針を通した綿撒糸弁尖アンカの前進した状態を示している。
【
図38E】
図38Eは、拡大した径方向断面を有する綿撒糸弁尖アンカを示している。
【
図38F】
図38Fは、弁尖の心房側に縫合部を固定するために折り畳まれた綿撒糸尖アンカを示している。
【
図38G】
図38Gは、弁尖アンカを心室アンカに接続するため、弁尖アンカ縫合部及び心室アンカ縫合部に亘って縫合部ロック給送サブシステムを介して縫合部ロックを前進させた状態を示している。
【
図38H】
図38Hは、縫合部尾部が切断された状態で張力が調節された後のロック位置にある縫合部ロックを示している。
【
図39A】
図39Aは、心室アンカ給送サブシステムの遠位端部を示す斜視図である。
【
図39B】
図39Bは、心室アンカ給送サブシステムの近位端部を示す斜視図である。
【
図39C】
図39Cは、心室アンカ給送サブシステムの遠位端部の部分分解図である。
【
図40A】
図40Aは、弁尖アンカ給送サブシステムの遠位端部を示す斜視図である。
【
図40B】
図40Bは、弁尖アンカ給送サブシステムの近位端部を示す斜視図である。
【
図40D】
図40Dは、弁尖アンカ給送サブシステムの可撓性チューブを示す斜視図である。
【
図40E】
図40Eは、弁尖アンカ給送サブシステムの可撓性チューブの移行領域の側面図である。
【
図40F】
図40Fは、
図40Eに示した図の側面図であって、弁尖アンカ給送サブシステムの可撓性チューブの移行領域を示す図である。
【
図41A】
図41Aは、縫合部ロック給送サブシステムの遠位端部を示す斜視図である。
【
図41B】
図41Bは、縫合部ロック給送サブシステムの近位端部を示す斜視図である。
【
図41C】
図41Cは、縫合部ロック給送サブシステムの遠位端部の部分分解図である。
【
図41E】
図41Eは、切断前に縫合部を保持するため切断ヘッドが前進していない状態における縫合部ロック給送サブシステムの切断アセンブリの側面図である。
【
図41F】
図41Fは、縫合部の切断のため切断ヘッドが前進した状態における縫合部ロック給送サブシステムの切断アセンブリの側面図である。
【
図41G】
図41Gは、縫合部ロック及び縫合部ロックと係合するように構成されたトルクドライバの遠位端部の側面図である。
【
図42】
図42は、本来の腱索と実質的に平行に整列するように2つの乳頭筋間に埋め込まれた新生腱索を示す図である。
【
図43A】
図43Aは、綿撒糸の2つのフラットシート間に縫合部の遠位端部を一体化させることによって形成された綿撒糸を概略的に示している。
【
図43C】
図43Cは、
図43Cに示した、開口部を有する綿撒糸の概略図であって、折り畳み式アンカを形成するように縫合部尾部が上記開口部を通って延びている図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
裂傷又は動揺したコード(弦)を取り付ける実施例はカテーテルを含み、カテーテルは、大腿静脈を通して給送され、下大静脈(IVC)及び、左中房に対する中隔を横断し、そこで僧帽弁輪に対する取り付けが行われる。この取り付けは、僧帽弁弁尖が僧帽弁輪において又はその近傍で心房組織と接触する局所的な組織に対して回転、貫通又は通過する、僧帽弁に挿入されるアンカ又は僧帽弁輪組織を通した単一の縫合部ループにより行われ得る。アンカは、コードの置換又はアンカに固定された事前に取り付けられたコードのための縫合部受容部を含み組織へと回転するコイル状ワイヤアンカから構成され得る。
【0033】
僧帽弁輪に対する接続は、僧帽弁輪への接続は、貫通、フック又はコルクスクリュー型の固定装置を介した安定したアンカとして、安全かつ確実な取り付け点を提供する。この取付点に対して、コードは、僧帽弁尖を覆うように接続され、さらに左心室の心尖部に取り付けられるか又は固定される。また、任意の位置において僧帽弁前尖又は僧帽弁後尖を貫通してもよい。コードは、コード修復のための手術で従来用いられているような、丸くて平らなPTFE、PE又はナイロンから形成され得る。
【0034】
一実施例では、コードは、新生コード又は人工のコードとして機能する。特定の実施例では、コードは、標準的な縫合部であってもよい。一実施例では、一つ又は複数の付加的な人工エレメントがコードに亘って固定される。例えば、管状構造体は、給送装置を通してコードに亘って前進(例えば、スライド)する。この構造体は、コードの長さに沿って適切に自己位置決めするように構成されてもよく、あるいは、前記構造体は、適切な位置においてコードに固定されてもよい(例えば、前記構造体の近位方向及び/又は遠位方向にロック部材を配置することにより)。構造体を所定位置に配置するように任意の適切なロック部材を用いてもよい。ロック部材は、クリンプ可能であってもよく、機械的ロック機構を有していてもよく、かつ/又は、コードに亘って前進するために閾値量の力を必要とするようにコードと摩擦係合してもよい。任意の適切な形式のロック部材を用いてもよい。ロック部材は、本明細書に記載した縫合部ロックと同様であってもよい。一実施例では、ロック部材は、コードに亘って遠位方向及び近位方向に前進するように構成されてもよい。一実施例では、ロック部材は、一方向(例えば、コードに亘って遠位方向)だけに進むように構成されてもよい。一実施例では、付加的な人工構造体が、近位端部又は遠位端部において、あるいはコードの長さに沿って断続的に固定されてもよい。コードは、人工構造体の近位端部又は遠位端部に取り付けられてもよい。例えば、2つのコードを用いてもよく、一方のコードを構造体の近位端部に取り付け、他方のコードを構造体の遠位端部に取り付けてもよい。一実施例では、コードは、例えば、近位端部及び/又は遠位端部(例えば、構造体のループに挿入されるかループの周囲に巻かれる)において構造体に接続されてもよく、構造体の長さに沿って平行に延在してもよい。人工の構造体は、(例えば、弁尖と相互作用する)一つ又は複数の生理学的組織と接触するために構成されてもよいし、かつ/又は生理学的構造(例えば、乳頭筋)の機械的/構造的な特性を複製するように構成されてもよい。
【0035】
僧帽弁輪に対する固定は、心臓の鼓動による動きのため裂傷したコードでは捕捉が困難な僧帽弁弁尖に対する確実かつ不動の取り付け点を提供する。特定の例示の実施例に関して以下により詳細に説明するように、機械的な捕捉ツール、吸引チューブ、又は弁尖を凍結把持する冷凍カテーテルにより動揺弁尖を把持することによって、上記動きを停止することができる。上方アンカが僧帽弁輪に確実に取り付けられると、弁尖に対する横方向の位置を制限するように僧帽弁弁尖に亘って既存のコードの間を覆う。既存のコードの間に弁尖を配置することは、人工コード(人工弦)に上方アンカ点、既存のコードを通る固定された角度位置、及び左心室の心尖部における他の正位置におけるポジティブアンカを付与する。置換コードは、単一の縫合ストランド及び/又は上記のように経路を上下に横断して負荷を支持する複数のコードとし得る。
【0036】
左心室に配置され得る下方心尖部アンカは、コードを確実に保持するために回転ねじ又はプラグを介して固定され得る。アンカは、高さが低くかつ心尖部の基部の近傍に位置してもよいし、あるいは、左心室の心尖部から約20~22mm上方の生来の乳頭筋により良好に適合するように延長した長さを有してもよい。一実施例では、アンカは、心尖部の上方に約5mm未満、5mm、10mm、15mm、20mm、25mm、30mm、35mm、40mm、45mm、50mm又は50mm以上、及び/又は前記値の間の範囲に亘って延在する。単一のコード又は複数のコードは、左心室の基部において一つ又は複数のアンカに取り付けられる。アンカは、ステンレス鋼、ニチノール又はX線透視法で見ることができる他の金属材料、あるいは、PEEK、PTFEなどのポリマー材料又は他の埋め込み可能な材料から構成されてもよい。これらのポリマーは、必要に応じて視認性のために放射線不透過性マーカを含んでもよい。
【0037】
実施例における固定システムは、左心室に結合又は取り付けられた心尖部組織アンカ及び心尖部組織アンカから取付物を突出させるライザを含み、モノリシック材料又はポリマー及び金属を含む材料の組み合わせから形成されてもよい。構造体は、全体が剛性であるか、あるいは、動きを許容する柔軟なジョイント又は制御された動き及び柔軟性のための弾性領域(又は複数の弾性領域)を有していてもよい。固定システムは、円形の断面形状又は長手方向に変化する形状を含む他の外形状から構成されてもよい。直径は約6~24フレンチ(2~8mm)であり、長さは約20~40mmであり、概して中心軸に沿ったガイドワイヤを用いて又は用いることなく操作可能なカテーテルを介して給送される。上方弁尖アンカが僧帽弁輪又は弁尖に取り付けられ、僧帽弁弁尖を覆い、さらに下方アンカに連結されると、弁尖の動き及び逆流の減少を監視しながら、リアルタイムの画像化/監視(例えば、ライブエコー下で)を介した張力の調節が可能となる。最後のステップは、コードに張力を付与し、コードをロックし、給送システムからコードを切り離すことを含む。コードの張力は、接続された僧帽弁弁尖ストレインリリーフに張力を付与し、LSIソリューションズ社のCor-Knotなどのロック装置がコードに沿って前進し、最終的に縫合部尾部が切断される。
【0038】
一実施例(
図1~7参照)によれば、置換コードの給送は、以下のステップを含む:
1.給送カテーテル100の経静脈、経大腿への侵入
2.右心房10へのカテーテル100の前進
3.カテーテル100の左心房14への経中隔前進12
4.ストレインリリーフアンカ18の位置決め及び給送のための僧帽弁輪16へのカテーテル100の前進
5.僧帽弁弁尖の把持ツールの位置決め
6.僧帽弁輪16に対するストレインリリーフアンカ18の取り付け
7.既存のコード17の間における僧帽弁25に亘る置換コード22の前進
8.コード22の左心室の心尖部20への前進及び心尖部20への遠位の取り付け
9.僧帽弁弁尖の動きを監視しながらコード22に張力を付与すること
【0039】
代替例として、特定の実施例(例えば、
図26~34参照)では、給送は、多少順序が逆であってもよい:
1.給送カテーテル100の経大腿への進入
2.右心房10へのカテーテル100の前進
3.カテーテル100の左心房14への経中隔前進12
4.僧帽弁24を通した左心室の心尖部20への給送カテーテル100の前進
5.遠位心室アンカ(例えば、回転アンカ32)の心尖部20への給送
6.下方心尖部アンカ30を露出させるような給送カテーテル100の引き抜き
7.新たなコード縫合部線22又は複数の線22を露出させるように給送カテーテル100を近位に引っ張ること
8.各々の新たなコード22に亘って、僧帽弁弁尖ストレインリリーフは僧帽弁弁尖を通して、弁尖の心室側に供給され得る
9.縫合部の位置をストレインリリーフアンカの位置にロックするような縫合部尾部28に亘る縫合部ロック26の前進
10.僧帽弁弁尖アンカにおける縫合部尾部の切断
11.カテーテルハンドルから僧帽弁弁尖アンカへの縫合部尾部に亘る縫合部ロック26の前進
12.カテーテルハンドルの外側の最も遠位の縫合部尾部から加えられる張力をロックする、カテーテルハンドルから遠位心尖部アンカへの縫合部尾部に亘る縫合部ロック26の前進
13.遠位心尖部アンカにおける縫合部尾部の切断
上記方法のいくつかのステップは任意選択的なものであってもよい。適切な箇所に付加的なステップを含んでもよい。さらに、実行可能な任意の順序にステップを再配置してもよい。
【0040】
図1~7に示した実施例についてさらに詳細に説明する。
図1は、カテーテル100を介して給送され取り付けられた縫合部22及び僧帽弁輪16を示している。
図2は、僧帽弁輪16に接続された縫合部22に取り付けられ、カテーテル100を介して給送された遠位アンカ32を示している。
図3は、後の僧帽弁弁尖24又は僧帽弁輪16への取付のために取り付けられた縫合線22を含み、心臓の心尖部20に向けて回転している遠位アンカ32を示している。
図4は、縫合線22が僧帽弁弁尖24又は僧帽弁輪17に取り付けられた状態で心尖部20に向けて回転している遠位アンカ32を示している。
図5は、乳頭筋の頂部と略同じ高さで心尖部20の上方に突出し取り付けられた遠位アンカ32を示している。アンカ32は、接続点72に接続されたライザ70を有する。一実施例では、ライザ70の長さは約20~40mmである。ライザ70は、アンカ32の残部と同一又は異なる材料、直径、剛性等を有する。ライザ70は、アンカ32の残部と長手方向に整列していてもよいし、あるいはアンカ32の残部に対して所定の角度で配置されていてもよい。ライザ70は、アンカ32の残部に堅固に固定又は一体化されていてもよいし、関節式に連結されていてもよいし(例えば、ジョイント/ソケット)、あるいは柔軟に連結されていてもよい(例えば、相互接続ループ)。新生腱索の設置時にアンカ32にかかる張力により、心臓及び/又はアンカ32の残部に対するライザ70の向きが決定又は変更される。
図6は、乳頭筋の頂部と略同じ高さで心尖部20の上方に突出し取り付けられた遠位アンカ32を示している。遠位アンカ32は、一つ又は複数の縫合線を介して僧帽弁輪16及び/又は僧帽弁弁尖24に取り付けられてもよい。
図7は、乳頭筋の頂部と略同じ高さで心尖部20の上方に突出して取り付けられ、かつカテーテル100を通して移動するループ状の縫合部に取り付けられた遠位アンカ32を示している。
【0041】
図8は、ループ状をなすカテーテルにより給送された縫合部50が僧帽弁弁尖24を貫通し、ストレインリリーフ52が僧帽弁弁尖24の心室側に位置し、遠位アンカ32が、縫合部尾部56に亘って前進した縫合部ロック54により保持された最終縫合張力調節下で左心室の底部に位置している一実施例を示している。単一の縫合部ループ50は、遠位アンカ32をストレインリリーフ52に、直接的に遠位アンカに、かつ/又は他の弁尖アンカに接合する。複数のループを用いてもよい。一実施例では、縫合部50は、効果的に折り返すように、ストレインリリーフ52及び/又は遠位アンカ32におけるループ構造を通過してもよい。一実施例では、縫合部50の近位端部が一つの開口部に入り、縫合部50の遠位端部が他の開口部から出るように、縫合部50は、ストレインリリーフ52及び/又は遠位アンカ32におけるチャネルを通過してもよい。開口部は、遠位アンカ32及び/又はストレインリリーフ52の同じ側に配置することができる。開口部は、遠位アンカ32及び/又はストレインリリーフ52の同一の側に配置されてもよい。開口部は、遠位アンカ32及び/又はストレインリリーフ52の反対側に配置されてもよい。遠位アンカ32及びストレインリリーフ52から延びる縫合部尾部56の相対長さは、縫合部ロック56の有効な最終的な位置を決定する。例えば、ストレインリリーフ52から延びる縫合部尾部56の長さを最小限にすることにより、縫合部ロック54は、例えば直接的にストレインリリーフ52に亘って、僧帽弁弁尖24の心房側に効果的に配置され得る。遠位アンカ32の近位端部から延びる縫合部尾部56の長さを最小限にすることにより、縫合部ロック54は、遠位アンカ32の直上に効果的に配置され得る。縫合部ロック54は、本明細書に記載したものを含む、任意の適切な種類の縫合部ロック機構とし得る。ストレインリリーフ52が折り畳まれた状態(例えば、縮小した断面構造)で弁尖24に挿入され、弁尖24の心室側で(例えば、拡大した断面構造に)拡張するように、ストレインリリーフ52は、拡張可能構造を有していてもよい。ストレインリリーフ52は自己拡張型であってもよい。一実施例では、ストレインリリーフ52は、本明細書に記載したような綿撒糸とし得る。ストレインリリーフ52は、本明細書に記載したように、弁尖24の組織を貫通するための針又は他の適切な器具を介して挿入され得る。ストレインリリーフ52は、針の内部ルーメン(内腔)に格納されかつこれを通って前進する。針は、折り畳み構造のストレインリリーフ52を拘束し得る。ストレインリリーフ52が取り付けられたときに、ストレインリリーフから延びる縫合部50の近位端部及び遠位端部が弁尖24を通る穿刺口を通って延びたままとなるように、ストレインリリーフ52は、縫合部50が予め装填された状態で弁尖24を通して挿入され得る(例えば、ストレインリリーフを通ってループ状に)。縫合部ロック54は、縫合部尾部56が縫合部ロック54を通って前進又は後退するのを防止して、これにより、縫合部ロック54の係合後に縫合部コードを緊張状態に保持し、縫合部尾部56が縫合部ロック54の近傍で切断されることを可能にする。縫合部50の尾部56は、縫合部ロック54に直接隣接して又は縫合部ロック54の近位で切断されてもよく、これにより、縫合部尾部56の長さが縫合部ロック54から自由に延びることが可能となる。ストレインリリーフ52及び遠位アンカは、縫合部ループ50に装填され、次いでカテーテル100を通して任意の順に連続的に設置され得る。
【0042】
図9は、ストレインリリーフ52が僧帽弁弁尖24の心室側に位置した状態で、カテーテルから給送された縫合線又はループ60が僧帽弁弁尖24を貫通する一実施例を示している。ストレインリリーフ52は、
図8を参照して説明したように挿入される。本実施例では、縫合部60の切断前に縫合部尾部を固定するように、縫合部ロック62は僧帽弁弁尖24の心房側へと前進する。遠位アンカ32から延びる縫合部尾部を固定せず、ストレインリリーフ52から延びる縫合部尾部だけを固定するように、縫合部ロック62は、縫合部60の一方の尾部だけに沿って前進する。縫合部ロック62は、縫合部ロックが僧帽弁弁尖24における穿刺口を通して引っ張られるのを防ぐように(例えば、大きさ及び/又は形状が)構成され得る。遠位アンカ32から延びる縫合部尾部は、
図10を参照して説明するように固定され得る。
【0043】
図10は、
図9を参照して説明したように縫合部尾部を固定するため、ストレインリリーフ52が僧帽弁弁尖25の心室側に位置し、縫合部ロック62が僧帽弁弁尖の心房側に前進した状態で、カテーテルから給送された縫合線60が僧帽弁弁尖25を貫通する一実施例を示している。縫合部尾部の他方の端部は、縫合部に張力を付与するため左心室の底部に配置された遠位アンカ32の周囲を横断するカテーテル100を通ってカテーテルハンドルから延びている。ユーザにより縫合部の張力が調整されると、第2の縫合部ロック63は、最終縫合部尾部に亘って前進し、最終縫合部尾部における所定位置においてロックされる。縫合部ロック62が張力下で遠位アンカ32を介して引っ張られるのを防ぐように、第2の縫合部ロック62(例えば、大きさ及び/又は形状)が構成され得る。
【0044】
図11は、ストレインリリーフ52がループ状をなして僧帽弁弁尖24の心室側に位置し、遠位アンカ32が左心室の底部に位置し、最終的な縫合部の張力調節が縫合部尾部に亘って前進した縫合部ロックにより保持された状態で、カテーテルから給送された縫合部ループ60が貫通要素27(例えば、針)で僧帽弁弁尖24を貫通する一実施例を示している。本実施例の構成は、
図8~10に示した実施例の構成と同様であってもよい。僧帽弁弁尖24に付着している冷凍カテーテル(クライオカテーテル)70を用いることにより、弁尖を安定的に保持し、ストレインリリーフの貫通力に対抗することができる。冷凍カテーテル70は、同一のカテーテル100又は別個のカテーテルを通して給送される。冷凍カテーテルは、僧帽弁弁尖24に一時的に冷却効果を与え、弁尖24の組織を一時的にカテーテルに付着させる。吸引装置、組織把持装置、付加的な貫通装置等を含む他の保持装置を単独で又は組み合わせて用いてもよい。弁尖24に対する保持力の付与は、有利には、貫通要素27の挿入中における弁尖に対する対抗力の付与を補助する。
【0045】
図12は、ストレインリリーフがループ状をなして僧帽弁弁尖の心室側に位置し、遠位アンカ32が左心室の底部に位置し、最終的な縫合部の張力調節が縫合部尾部に亘って前進した縫合部ロックにより保持された状態で、僧帽弁弁尖24を貫通しているカテーテルから給送された縫合部ループ60を示している。弁尖を安定的に保持しストレインリリーフの貫通力に対抗する、僧帽弁弁尖に付着している冷凍カテーテル70が図示されている。
図12に示した実施例は、
図11に示した実施例と類似しており、貫通要素27が組織から後退している。
【0046】
図13,14は、特定の実施例に係る、僧帽弁輪16を貫通している位置及び生来の乳頭筋に対する遠位アンカ32の位置を心房側から示した図である。一実施例では、前尖又は後尖、あるいはこれに隣接する環状組織が貫通され得る。貫通の位置及びストレインリリーフ又は弁尖アンカの設置は、弁尖に加わる張力の量に影響を及ぼすように利用される。
【0047】
図15は、左心室の心尖部に取り付けるための種々のアンカ32a,32b,32c,32dを示している。アンカは、正しい角度をより正確にシミュレートして新たなコード接続を一致させるように、接続点72を乳頭筋の高さに近づけるように調整する垂直ライザ70を備えたコイル状の円形ワイヤ32a,32b,32c及びレーザカットハイポチューブ32dを有している。アンカ32aは、長手方向に延在する尖ったシャフトの外周に延びる単一のらせん状コイルを含む。一実施例では、シャフトを除外してもよい。アンカ32bは、実質的に同一のピッチで反対側に延びている2つのらせん状コイルを含む。一実施例では、32aのような尖ったシャフトがコイル間に延びていてもよい。アンカ32cは、コイルの近位端部からコイルの遠位端部に向かうにつれて外径が減少する単一のらせん状コイルを含む。アンカ32dは、レーザカットハイポチューブから形成された単一のコイルを含む。一実施例では、接続点72は単一の閉ループとし得る。縫合部は、ループをくくるか、あるいはループに取り付けられてもよい。一実施例では、縫合部に対する他の形態の接続又は他の形式のコードを用いてもよい。アンカ32cは、支柱の形態をなすライザ70と、縫合部60を受容する接続点72と、を含む。縫合部60は、シリコーンプラグ74によって接続点72内に固定され得る。プラグには適切な材料を用いてもよい。接続点72は、プラグ74を受容するように(例えば、大きさ及び形状が)構成されたチャネルを有していてもよい。コネクタは、縫合部の通過を許容するチャネルの側壁を通って延びる一つ又は複数の開口部を有していてもよい。プラグ74はチャネルと摩擦係合してもよい。一つ又は複数の縫合部は、
図15に示すように側壁における開口部及びチャネルを通って延びている。縫合部は、設置時にプラグ74が存在しないときに開口部を自由にスライドし、これにより、縫合部の長さ及び縫合部における張力が調節され得る。プラグ74はチャネル内に挿入され、チャネルと密な摩擦嵌合を形成してもよい。プラグ74は、プラグ74の外面と側壁の内面との間に一つ又は複数の縫合部を摩擦的に固定し、これにより、縫合部がアンカ32cに対して所定位置で効果的にロックされる。一つ又は複数の縫合部の長さ及び張力の調節後にプラグ74を設置してもよい。他の実施例では、縫合部は、ループを通ってチャネルの遠位端部まで延び、これにより縫合部がスライド可能となる。縫合部の近接端部及び遠位端部は、チャネルの近位開口部を通って延びてもよい。プラグ74は、前述のように縫合部を摩擦的に固定して、アンカ32dに対する縫合部のさらなるスライドを防止する。本明細書に開示したアンカ32a~32dの種々の特徴は、任意の適切な組み合わせで適用され得る。
【0048】
図16~22は、特定の実施例に係る他の方法を示している。
図16は、カテーテル100のハンドルから延びている複数の置換コード22を含む、左心室の心尖部20にアンカ32を給送する経中隔カテーテルを示している。
図17は、縫合部ループ60に接続されたストレインリリーフアンカを給送するため、僧帽弁弁尖24を通る貫通ツール80を給送する、
図16の経中隔カテーテル100を示している。
図18は、縫合部ループ60とともに僧帽弁弁尖24を通る貫通ツール80を給送する経中隔カテーテル100を示している。
図19は、ストレインリリーフ52を僧帽弁弁尖24の心室側に給送する経中隔カテーテル100を示す図であって、貫通ツール80を通して又は貫通ツール80で給送するためストレインリリーフを露出した状態を示している。一実施例では、本明細書に記載したように、ストレインリリーフ52は露出した時に自己拡張してもよい。
図20は、ストレインリリーフ52を給送する経中隔カテーテルを示す図であって、貫通ツール80が僧帽弁弁尖24から引き抜かれた状態を示している。
図20に示す実施例では、2つのストレインリリーフの各々が僧帽弁弁尖24の各側に配置されている。弁尖は、心房側ストレインリリーフと心室側ストレインリリーフとの間に挟まれてもよい。心室側ストレインリリーフ52が定位置に配置され、心室側ストレインリリーフ52が弁尖24と面一に接触するように張力が縫合部に付与された後、心房側ストレインリリーフを縫合部に亘って前進させてもよい。心房側ストレインリリーフは、ストレインリリーフと弁尖24の組織との間の接触を妨げ、ストレインリリーフに対する圧力を奪う弛みがストレインリリーフ間に生じないようにするため、縫合部にロックされるかあるいは固定されるように構成されてもよい。一実施例では、縫合部ロックは、心房側ストレインリリーフの背後に進み、心房側ストレインリリーフを弁尖24の組織と面一に接触させてもよい。いくつかの例では、2つのストレインリリーフを使用することにより、弁尖24を通る穿刺点における歪み(ストレイン)が減少し、弁尖24の組織に対する損傷を軽減させることができる。
図21は、ストレインリリーフ52を給送する経中隔カテーテル100を示す図であって、カテーテルハンドルから延びる縫合部ループ60及び遠位アンカ32に対する接続部を示している。
図22は、縫合部ロック62を遠位アンカ32に給送する経中隔カテーテルを示している。張力がカテーテルハンドルを介して縫合部の近位端部から付与されている間に僧帽弁弁尖24及び遠位心尖部アンカ32に接続された最終埋め込み縫合部の位置及び張力を調節するため、縫合部ロック22は縫合部尾部に亘って前進する。
【0049】
図23は、連続縫合部ループが遠位心尖部アンカ32を僧帽弁弁尖24上のストレインリリーフエレメント52に固定する最終位置における一実施例を示している。一実施例では、連続ループは、縫合部ロックをループ状縫合部の尾部に適用することによって形成され得る。また、連続縫合部ループを形成するための任意の他の適切な手段を用いてもよい。一実施例では、僧帽弁弁尖アンカ又はストレインリリーフエレメント52は、図示するように両面(例えば、両面フランジ52bを含む)を有していてもよいし、あるいは図示せぬ片面フランジ52aを有していてもよい。両面フランジ52bは、僧帽弁弁尖組織の両側に配置されるように構成された拡張可能要素(例えば、拡張可能フランジ)を有していてもよい。一実施例では、2つの対向するフランジは、弁尖24の穿刺口を横断する中間要素を介して互いに固定的に結合される。フランジは、弁尖24のより大きな表面積に亘って歪みを分配するように構成された複数のストレインリリーフエレメント(例えば、可撓性/変形可能なループ)を有していてもよい。
【0050】
図24は、連続ループ90が最終位置に給送され、ストレインリリーフエレメント52及び遠位心尖部アンカ32が僧帽弁弁尖24に対して配置された一実施例を示している。
当該実施例は、
図23に示した実施例と類似していてもよい。
【0051】
図25は、遠位心尖部アンカ32の一例を示している。この遠位心尖部アンカ32は、最終的な位置決めのために縫合部ロック62を給送する前において縫合部の移動を制限するように構成されたシリコーンアンカプラグ72及びステンレス鋼チューブ73を有している。一実施例では、プラグ72を一時的な縫合部ロックとして用いる。他の実施例では、プラグは、縫合部ロック62に加えて又はこれに替えて、縫合部に亘って前進する一時的な縫合部ロックとして機能してもよい。プラグ72を一時的に使用する場合、埋め込みが完了する前にプラグ72を取り外してもよい。大きさ及び/又は材料の強化に適応するように、材料を変更してもよい。一実装例では、アンカ32は、
図15に示したアンカ32cと同じであるか、これと類似したものである。
【0052】
図26~34は、遠位心尖部アンカ32の配置順を変更可能である実施例を示している。
図26は、右心房を通り隔壁12を貫通しているカテーテル100及び左心房14を示している。
【0053】
図27は、左心室の心尖部へと回転しているアンカ32を示している。アンカ32は、アンカの構成に応じて、時計回り又は反時計回りに回転する。本明細書に記載したように、アンカ32は、カテーテル100を通して挿入可能な給送器具(例えば、回転ドライバ)によって回転され得る。さらに、図示した実施例では、アンカ32は左心室の心尖部へと回転しているが、変更例では、左心室の他の位置にアンカ32を固定してもよい。例えば、以下でより詳細に説明するように、本明細書に記載の実施例における方法及び装置は、アンカ32が乳頭筋の間で左心室に位置する配置構成で利用され得る。そのような配置構成により、アンカ32及び僧帽弁弁尖24を通って延びる縫合部が、固定された僧帽弁弁尖24から延びる一つ又は複数の腱索と有利に整列される。
【0054】
図28は、所定位置にある遠位心尖部アンカ32を示す図であって、縫合線22がカテーテル100を通って体外側の給送装置の近位端部へと延びている状態を示している。本明細書に記載したように、縫合部は、アンカ32を通ってループ状をなしている。カテーテル100の延長アーム94は、カテーテル100の遠位端部よりやや近位側においてカテーテルの側方に露出している。延長アーム94は、カテーテル100の側方から近位方向に延びるように角度付けられてもよい。延長アームは、例えば、弁尖24の心室側における僧帽弁弁尖24を捕捉するように構成されてもよい。延長アーム94は尖った先端を有してもよい。あるいは、延長アーム94は、針を有していてもよく、針がカテーテル100及び延長アーム94を通ることができるようにしてもよい。弁尖24は、弁尖24に対して適切に配置されたときに適用される針と係合してもよい。一実施例では、延長アームは、カテーテル100を通って独立して遠位方向に前進可能でありかつ近位方向に後退可能であるように構成された別個のカテーテルに形成されてもよい。
【0055】
図29は、僧帽弁弁尖24と接触している延長アーム94と、縫合部ループ60に接続され弁尖24を貫通している針96と、を示す図であって、縫合部ループ60が僧帽弁弁尖24の心房側に露出した状態を示している。一実施例では、縫合部ループは、遠位アンカ32を通って延びる縫合部の一方の尾部から形成されてもよい。他方の端部は、給送カテーテルを通って近位方向に給送カテーテル100の近位端部まで延びかつ体外に延びていてもよい。一実施例では、縫合部ループ60はリングであり、このリングを通って縫合部がループでくくられる。一実施例では、縫合部ループ60は、針96と係合する縫合部におけるループであってもよく、針96は、縫合部ループ60を保持し、かつ縫合部ループが針96を通って近位方向に後退するのを防止するように構成されてもよい。一実施例では、4つのストランドが遠位アンカ32から延び、そのうち2つのストランドがカテーテル100の近位端部まで延び、他の2つのストランドが延在して縫合部ループ60を形成するように、連続的な縫合部が遠位アンカ32を通って延びていてもよい。
【0056】
図30は、縫合部ループ60を捕捉し、カテーテル100を通って後退するループスネア99を受けるように僧帽弁弁尖を貫通して弁尖の心房側に露出した縫合部ループ60を示している。ループスネアは、延長アーム94の近位に配置されたカテーテル100の他の開口部を通って給送される。延長アーム94及びループスネアの開口部は、カテーテル100の同一の側に配置されてもよい。ループスネア99は、縫合部ループ60の周囲で収縮して、ループスネア99が縫合部ループ60を保持してループスネア開口部を通してカテーテル100内へと近位方向に後退する(延長アーム94を通して遠位方向に縫合部ループを前進させる)ように構成されてもよい。
【0057】
図31は、縫合部ループ60の周りで閉じている縫合部ループスネア99と、カテーテル100を通って近位方向に引き抜かれている縫合部と、を示している。
図32は、縫合部が遠位心尖部アンカ32を含む経路に沿ってループしているときに、縫合部ロック62を僧帽弁弁尖の裏面側に給送しているカテーテル100を示している。縫合部ロック62が遠位アンカ32の接続点を自由に通過して弁尖24の心室側に達するように、縫合部ロック62及び遠位アンカ32が構成されてもよい。例えば、縫合部ロック62は、遠位アンカ32のループを通過するように構成されてもよい。弁尖24が延長アーム94によって捕捉されないように、延長アーム94は上記ステップの前又は間に後退してもよい。一実施例では、本明細書に記載したように、延長アームは、カテーテル100を通って前進しかつカテーテル100を通して引き抜かれる内側カテーテルの一部として形成されてもよい。
【0058】
図33は、縫合部端部を受容し、2つの端部に適切な張力を付与した後に弁尖に亘って縫合部をロックする縫合部ロックを給送する第2のカテーテル101を示している。カテーテル100が引き抜かれて縫合部ループ60を体外に運び、そこで縫合部の他の端部と整列する。第2の縫合部ロックは、縫合部端部に適用され、次いで第2のカテーテル101を用いて体内に給送される。
図34は、僧帽弁弁尖35の上方及び下方における所定の最終位置に位置する縫合部ロック62と、僧帽弁弁尖24に接続された遠位心尖部アンカの最終埋め込みを残して切断された縫合部端部と、を示している。第2の縫合部ロック62は、2つの縫合部ロック間の縫合部の長さに応じて、弁尖24に対して代替的な位置に配置されてもよい。2つの縫合部ロックを弁尖24の両側に配置することにより、縫合部ロックがストレインリリーフとして機能し得る。一実施例では、弁尖24の心室側に配置された第1の縫合部ロック62を省いてもよい。
【0059】
腱索終端並びに縫合部ロック構造及び装置は、取り付け点における焦点応力を低減するため、一つ又は複数の結び目、綿撒糸又は他の終端技術を含む。環状組織及び弁尖の貫通は、鋭利な針の挿入によって達成することができる。僧帽弁弁尖を通して針を押し、位置決めしかつ駆動するように、操作可能なカテーテル及びコアシャフトを介して、上記貫通が制御される。上記の処置は、蛍光透視法、エコーガイダンス、任意の他の適切な視覚化又は監視処置下で案内され得る。弁尖の検索及び特定は、弁尖を掴むか又は摘む機械的技術により、あるいは冷凍カテーテルを用いた吸引又は凍結捕捉によって実現し得る。これらの技術には、例えば
図12を参照して説明したように、焦点組織を凍結させるアブレーションのために用いられる冷凍カテーテル(クライオカテーテル)が含まれる。心房細動のために用いられる冷凍アブレーションカテーテルは、誤って僧帽弁弁尖に付着することがあり、このため付着した弁尖を解放するため動作を停止しなければならないことがある。同じ冷凍(クライオ)アタッチメントを使用して、再配置して修復するため、問題となっている弁尖を検索し特定することができる。冷凍カテーテルは、カテーテルの先端部の温度を減少させるために気体置換(酸化窒素又はアルゴン)を行い、マイナス75℃程度の低温となる。
【0060】
下方の心尖部アンカ構造は、平坦又は丸いワイヤ構造を有して左心室の心尖部へと回転するコイル状の遠位部分からなるか、あるいは、
図6及び
図15の例について説明したものと同様のワインコルクに似たコルクスクリューを模倣したレーザカットチューブからなる。スクリューの可変ピッチにより、周囲の組織に対するより強固な取り付けが可能となる。組織に対する固定のための他の装置には、同様の固定を実現するため、スクリューアンカの加締め又は楕円化が含まれる。アンカライザへの取り付けは、他の機械装置を介したピン留め、溶接又は接合により行われる。代替例では、アンカは、ステンレス鋼、ニチノール(登録商標)又は他の埋め込み可能な材料からなるチューブと同じ材料から形成され、レーザカットされてなる。最近位端部に、
図15の接続部72に示すように置換コードを受容するためのループ又はチューブを設けてもよく、あるいは複数の置換コードが給送のため予め設けられ、カテーテルハンドルから延びていてもよい。
【0061】
他の実施例では、遠位アンカは、アンカにループでくくられかつカテーテルの最も近位のハンドル部分へと延びている複数の置換コードとともに左心室の心尖部に給送され得る。これにより、左心室の心尖部から垂直に延びる複数のアンカの単一の原点への給送が可能となり、置換コードの自由端がロック又は切断のための他のツールのアクセス及び前進のため給送カテーテルから延在する。給送貫通要素又はチューブは、前記自由端に亘って僧帽弁弁尖まで前進して貫通し、弁尖を通って綿撒糸又は拘束要素を弁尖の裏面側(心室側)に給送する。これにより、弁尖を通した引っ張りからループを保持するようにループ及び拘束要素を固定し、ストレインリリーフエレメントとして機能する。置換コードの同一の自由端に亘って、ロック要素が給送され、コード及び綿撒糸の位置が弁尖の位置に対して確実に保持される。給送後に自由端を切断してもよい。弁尖を発見して保持することは、心房側から弁尖を保持する冷凍カテーテルによって実現され、あるいは自由縁部から弁尖を把持する把持具を用いてもよい。第1の貫通が行われ綿撒糸が給送されると、遠位心尖部アンカの周囲で他方の自由端に張力が付与され、心尖部アンカの端部に対する位置を保持するように第2のロック要素が給送される。コード又は縫合部アンカは、締まりばめにより遠位心尖部アンカに及び/又は僧帽弁弁尖まで延びる他のコードラインに固定され得る。図は後尖への僧帽弁弁尖アンカの給送及び設置を示しているが、アンカ及び置換コードは、前尖に給送されてもよく、あるいは、自由縁、接合領域又は僧帽弁輪を含む僧帽弁弁尖における任意の位置に給送されてもよい。
【0062】
他の方法では、ゴムバンドのような縫合部の連続ループに接続される遠位回転アンカが左心室に配置される。一方の端部は遠位アンカに固定される。他方の端部は僧帽弁弁尖を貫通し、ストレインリリーフエレメントに接続され、僧帽弁弁尖の心室側に力を分配する。これにより、弁尖を通して置換コードが引っ張られること又は弁尖が引き裂かれることを防止する。ストレインリリーフエレメントは、弁尖を通過すると圧縮軸方向力を介して小さな形状から大きな形状へと拡張するレーザカットチューブでもよい。あるいは、ストレインリリーフエレメントは、ニチノールなどの形状記憶金属から構成されてもよく、給送直径が小さく、給送直径が大きく拡大する形状に予め設定されていてもよい。給送直径は約0.5ミリメートルであり、約2~3ミリメートルまで拡大する。給送の長さは約2~5ミリメートルであり、約1~2ミリメートルまで短縮され得る。また、ストレインリリーフエレメントは、形状記憶金属から構成され、アンプラッツ(Amplatz)装置のように円形にセットされるか、あるいは、弁尖の心室側に配置される単純又は複雑な縫合部の結び目とし得る。他の構成は、ニチノール製ワイヤペダルを含むデイジーのようなニチノール製の巻きループワイヤである。また、この装置は、弁尖を通過したループ端部を巻くことによってループコードの最終的な長さを調節するために使用され得る。例えば、縫合部又はコードが装置の周囲に巻かれる回数により、縫合部又はコードの自由長が徐々に減少し得る。また、この巻き取り機構は、左心室に配置された遠位コイルアンカに配置することもできる。この調節は、コードの長さを調節するために給送中に行われ、かつ/あるいは、処置後に短縮又は延長の調節を行ってもよい。駆動シャフト又はワイヤに連結された回転ラチェット駆動装置は、調整が必要なときに連結及び連結解除することによって体の外部で回転され得る。駆動軸は、ステンレス鋼又はニチノールから構成された丸形ワイヤとしもよく、駆動軸と巻取り機構との間の六角形の連結インターフェースを用いて2つの要素を係合又は非係合とすることができる。2つの要素は、作動のため互いに噛み合った状態で給送され、後に、巻き取り機構を把持するようにループスネアを用いて結合され、六角形の駆動装置と係合している駆動軸を結合する。巻き取り機構は、回転防止のための歯型ストッパを備えた単純な回転スプールを用いてもよいし、あるいは緊張位置を保持するために摩擦抵抗を利用してもよい。代替例として、遠位アンカの外側本体が心尖部組織に打ち込まれるように、コードに結合された内側整合ピッチ調整ねじを受容するように遠位コイルアンカを設計すること、並びに、内側整合ピッチねじを回転させることにより、2つのねじ要素の間の相対的な距離を短くすることでコードに張力を付与することができる。最も単純な構成は他のコイル内にコイルを配置することであり、当該構成では、両コイルは右ねじ又は左ねじを有し、回転運動を並進運動又は軸方向運動に加えるため互いに結合される。処理後に2つのコイルを共にロックすることにより、弁尖と遠位アンカシステムとの間にコード長の確実な位置をもたらすことができる。
【0063】
患者の選定
【0064】
一実施例では、患者を治療する方法は、適切な患者を選定することから開始される。しかし、本明細書に記載した方法、装置及びシステムは、好ましい又は適切な患者に対する適用に限定されない。好ましくは、患者は、以下の第1の群の特徴のうち少なくとも1つ、3つ、5つの特徴を有する:
・原発性又は変性による僧帽弁逆流症と診断されていること。
・二次的又は機能的僧帽弁逆流症と診断されていること。
・粘液腫性僧帽弁逆流症と診断されていること。
・動揺弁尖(flail leaflet)、腱索裂傷又は弁尖逸脱症と診断されていること。
・僧帽弁逆流症のグレードが1以上、2以上、3以上、4以上であること。
・A2弁尖~P2弁尖の直径がP2+A2弁尖の総長さより少なくとも5,10,15,20,30,50mm小さいこと。
また、耐久性のある修復を行うため、修復後に適切な冗長な接合を保証する同様の数学的関係を用いてもよい。
・A2~P2弁尖の直径が、10~50mm、好ましくは24~36mm、又は最も好ましくは26~33mmであること。
・アクセス血管径が少なくとも直径2~10mmであること。
好ましくは、患者は、以下の第2の群の特徴のうち少なくとも1つ、3つ又は5つの特徴を有する:
・少なくとも1人、好ましくは2人の心臓外科医を含む心臓チームによって評価され、従来の開胸手術による修復に適した候補者ではないと決定されていること。
・STSが予測した手術死亡率(胸部外科学会のスコア、STSスコア)が2~20以上であること。
・患者は開胸手術による修復を提示され拒否した。
・年齢が、18~90歳、好ましくは35~85歳、より好ましくは40~85歳であること。
・患者が輸血を受けないこと。
・以前に開胸手術が行われていること。
・駆出率が少なくとも10~60パーセントであること。
装置の実施例について、患者は実質的に以下の要件(第3の群)を有していないことが好ましい:
・中等度又は重度のCOPD
・凝固亢進性疾患
・全身性変性膠原病(すなわち、マルファン症候群)
・アンカ領域に影響を与える以前の中隔梗塞
・心室中隔欠損
・造影剤に対する既知のアレルギー
・以前の僧帽弁置換
【0065】
一実施例では、選ばれた患者は、少なくとも1つ、2つ又は3つの第1の群の基準及び少なくとも1つ、2つ又は3つの第2の群の基準を満たす。一実施例では、選ばれた患者は、少なくとも1つ、2つ又は3つの第1の群の基準並びに少なくとも1つ、2つ又は3つの第2の群の基準を満たし、かつ少なくとも1つ、2つ又は3つの第3の群の要件を満たさない。
【0066】
心エコー検査イメージング及び/又はCT画像化(イメージング)を用いて患者を評価してもよい。また、MRI画像化を用いてもよい。少なくとも32,64又は128スライスのコントラストゲート型心臓CT(contrast gated cardiac CT)を処置前に設定し、患者の選定及び/又はケースプランニングのために使用することが好ましい。画像化ソフトウェアを用いることにより、A2のヒンジ点からP2弁尖のヒンジ点まで直径が測定され、弁尖の自由長が測定され得る。これらの測定値を比較することにより、処置の完了後に耐久性のある修復をもたらす十分に冗長な接合の存在を確実にすることができる。一実施例では、十分に小さい直径を形成するために経カテーテル弁形成装置などの他の装置又は方法を用いて環状の寸法を減少させることができる。
【0067】
画像化
【0068】
本開示は、処置中における縫合部の配置及び張力について、優れたリアルタイム評価及び調整を可能にする可能性を有している。画像化方法に係る実施例は、心臓切開手術中に利用可能な方法と比べて、視覚化において有意な利点をもたらす。
【0069】
張力の最適化
【0070】
開胸外科的僧帽弁修復の間、心臓は停止し、弛緩し、収縮するため、外科医は経験に基づいて動的構造の動きを推定しなければならない。外科医の最初の評価段階は、僧帽弁弁尖を閉鎖位置に押しやるように心室を生理食塩水で満たすこと、並びに、漏洩、脱出及び/又は不適切な接合の領域を視覚的に評価することを含む。
【0071】
上記評価は、鼓動している心臓では行われないため限定的である。しかし、縫合部は上記評価に基づいて結ばれて固定され、次いで、心房を閉じて心臓を蘇生させ、鼓動している心臓に対して最終的なエコー評価又は他のモニタリングを行う。問題が特定された場合、外科医は心臓を再び止め、心房を再び開き、既に完了している修復を修正する必要がある。縫合部は結ばれかつトリミングされているので、単純に再び張力を付与することはできない。したがって、一般的に縫合部を置換するかあるいは追加の人工コードを追加する。本開示の一実施例では、縫合部の張力を個別に調整するため、リアルタイムの心エコー評価が可能である。
【0072】
一実施例では、人工コードを埋め込む方法は、第1に、複数の人工コードの一方の端部を、僧帽弁弁尖又は周囲組織の弁輪に固定し、他の端部を左心室に機械的に接続されたアンカ点に固定するステップと、第2に、心エコー画像及び僧帽弁の他の画像を見ながら人工コードの張力を調節するステップと、を含む。
【0073】
前記方法の一実施例では、心エコー画像は、速度及び/又は流れのカラードップラー評価を含む。一実施例では、心エコー画像は、リアルタイム3D又は4Dエコーを含む。一実施例では、カラーフロードップラー画像及び3D画像は、融合又は結合される。一実施例では、エコープローブは、患者の食道に沿って配置される。一実施例では、エコープローブは、患者の胸部上に配置されるサーフェスプローブである。他の実施例では、エコープローブは、患者の血管系(脈管系)に配置される。
【0074】
一実施例では、以下の機能のうちの少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ又は5つの機能は、人工コードに張力が付与されているときに心エコー検査下で確認される。他の実施例では、以下の機能は、人工コードに張力が付与された後で、コードが給送システムから恒久的に切断される前に確認される。必要に応じて簡単に再び張力を付与することが可能である。
・左心室流出路の閉塞又は制限を引き起こす収縮期前尖運動がないこと
・僧帽弁勾配
・逆流ジェットの出現
・逆流ジェストの速度
・逆流ジェットの長さ
・MRグレード
・少なくとも3,5,9,12又は15mmの最小弁尖接合距離が接合線に亘って実現すること
・弁尖逸脱の程度又は僧帽弁弁尖の一部が僧帽弁平面より上方に移動する高さの測定値
・心房、心室又は心耳内における「スモーク」又はうっ血(ステイシス)の領域
・左心室と右心室との間、特に、アンチョ(ancho)の位置又は他の中隔セクションにおける閉鎖
【0075】
さらに、縫合部の張力は容易に調節可能である一方で、縫合部の最初の張力付与後でかつ給送システムから縫合部を切断する前又は余分な縫合部の切り取り前の評価期間の間に、以下のうち少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ又は5つが評価される。
・血圧
・心拍出量
・ACT 実際の凝固時間
・EKG心電図
・心臓酵素ckmb及びトロポニン
・冠状動脈の開存性
・アンカ又は経心室アクセスからの潜在的な心室シャント(短絡)の透視評価。
・心室アンカの透視図
・給送システムの透視位置
・心房圧又は楔入圧
・患者の血液中の酸素含有量
【0076】
測定値から得られた情報に基づいて評価ステップが完了した後、医師又は医療チームは、結果を永続させること、張力を再調節すること、付加的な修復要素を追加すること、あるいは処置を中止することを決定する。一実施例では、医師は、埋め込み部(インプラント)全体を除去するオプションを有する。他の実施例では、医師は、心室アンカを埋め込んだ状態のままで埋め込み部のうち人工コードを除去するオプションを有する。一実施例では、評価ステップはストレスエコー要素を含むことによりさらに補強される。ストレスエコー要素では、圧力調整剤などの薬物を患者に与えて、心拍数、心拍出量及び心室圧を調整して、異なる血行力学的条件において修復がどのように機能するかをさらに評価する。
【0077】
モニタリング
【0078】
処置中、患者は意識下鎮静状態であることが好ましい。これにより、経食道心エコー検査が困難なものとなるが、麻酔のリスクが最小限になるとともに、患者の早期の帰宅が可能となる。処置中の全身麻酔又は意識下鎮静では、動脈圧、EkG、ACT、血液ガス等を含む標準的なカテーテル室のモニタリングを行う必要がある。さらに、この処置には楔入圧又は左心房圧が有用である。上記処置のため、動脈圧を注意深くモニタリングすることにより、僧帽弁装置に対する損傷、腱索における装置のもつれ、及び/又は中隔壁に対する損傷に関する指標が早期に提供される。左心房圧を測定することにより、適切な心エコー図を得ることに関連する課題を伴うことなく、僧帽弁機能の改善に関する簡単でかつ定量化可能な評価基準が提供され得る。
【0079】
アクセス
【0080】
血管は、インターベンショナル心臓学において標準的な従来の方法によってアクセスされる。好ましくは、血管は静脈である。一実施例では、血管は大腿静脈である。他の実施例では、血管は、橈骨上腕又は鎖骨下静脈である。アクセスは、カットダウン又は経皮的針刺しによるものとし得る。一実施例では、血管は、パークローズ(Percolse)又はプロスター(Prostar)(アボットバスキュラー社)等の血管閉鎖装置の事前挿入による閉鎖のために準備される。
【0081】
ガイドワイヤは、任意選択としてガイドカテーテルを用いて、弁を通って右心室へと進む。本開示の装置は、ガイドワイヤに亘って心室の心尖部付近の位置まで前進することができる。
【0082】
装置の先端を鋭く湾曲させてもよい。湾曲は、出口ルーメンが心臓の中隔壁を向くように配向され得る。完全に湾曲したシステムの曲率半径は、好ましくは約3~30mm未満であり、曲率は、好ましくはシステムの先端から約5~50mm未満の位置に位置する。
【0083】
一実施例では、上記の湾曲は操作可能なカテーテルを用いて形成される。操作可能なカテーテルの特定の実施例には、引っ張られたときにカテーテルの内側半径を形成するプルワイヤが含まれる。また、いくつかの実施例は、コイル、ブレード及び/又は軸補強部を含む。
【0084】
実施例では、曲線は、異なる形状を有しかつ同軸のシースを用いて形成される。例えば、実質的に直線状又は先端部近傍に大きな曲率半径を有する外側シースと、遠位先端部に小さな曲率半径を有する内側シースとを組み合わせて使用してもよい。外側シースから内側シースを前進させることにより、カテーテルの先端に所望の湾曲が形成される。より湾曲したシースを前進させることによって、より大きな湾曲角度が得られる。
【0085】
一実施例では、双方のシースは、長さにおける異なる点において異なる相対剛性を有する。特定の実施例では、外側シースは心室の心尖部にアクセスしかつ大静脈を通って安定するように湾曲している。これを可能にするため、シースの遠位先端部から7~50cm戻る形状としてもよい。内側シースは、遠位先端部から約7~55cmの範囲では外側シースよりも実質的により柔軟である(例えば、ASTMの三点曲げ試験による曲げ剛性で約30,50,70又は90%未満)。これにより、心臓及び大静脈における外側シースの方向を実質的に変えることなく、内側シースが外側シースに対して移動可能となる。内側シースの遠位部分は、好ましくは、前述した部分よりも固く、内側シースが外側シースから延在しているときに、おおよその形状部分が心臓の構造部分と接触するにもかかわらず十分な強度を有している。
【0086】
カテーテルの出口が右心室の心尖部の近傍に位置し、中隔壁を指し、好ましくは、僧帽弁に向かって上方を向くように、装置が方向づけられてもよい。シースの位置は画像化によって確認され得る。一実施例では、4室心エコー図が用いられる。他の実施例では、短軸僧帽像が用いられる。一実施例では、蛍光透視画像法が用いられる。修復が必要な領域の位置に応じて、所望の穿刺部位が選択され、計画した置換コードの方向に基づいて適切な角度が選択される。
【0087】
一実施例では、より高く、乳頭筋の付着点により近く、心室の心尖部から離れた穿刺が好ましい。この位置は、心臓がリモデリングし、心室の容量がより正常な生理的レベルに減少するときに、心尖部近傍の取付けの場合と比べて、コードの張力の変化が小さいという利益をもたらす。
【0088】
針及び/又は拡張器は、1つ又は複数のシース及び心臓の中隔壁を通して前進し得る。一実施例では、針及び拡張器が一緒に使用される。針及び拡張器の双方は、針が左心室内に留まり、僧帽弁装置を避けるように、遠位先端部近傍の湾曲を有して予め形成され得る。左心室における針の存在は、心エコー検査、蛍光透視法、及び/又は針の近位端部における赤色(酸素化)拍動性血液の存在によって確認することができる。
【0089】
心室へのアクセスが行われた後、隔壁に亘ってガイドワイヤを前進させることができる。一実施例では、ガイドワイヤは僧帽弁に亘って心房へとさらに前進し、他の実施例では、ガイドワイヤは、肺静脈までさらに前進する。心エコー検査及び/又はワイヤ操作を用いて、ワイヤが僧帽装置において絡んでいないことが確認され得る。一実施例では、バルーン又はシースなどの装置は、ワイヤに亘って前進し、ワイヤがコード構造を通って通過しないことが確認され得る。
【0090】
心室アンカ
【0091】
本開示は、心室アンカに係る複数の実施例を含む。
【0092】
一実施例では、心室アンカは、隔壁の両側で拡張するブレード部分からなるアンプラッツ中隔閉塞器(Amplatz septal occluder)(STジュードメディカル社)に類似している。
【0093】
他の実施例では、アンカは、心室壁内で展開されることを意図した、とげのあるステント状の構造である。ステント構造は、自己拡張型又は機械的拡張型(すなわち、バルーン拡張型)であってもよく、エンデュラント(Endurant)(メドトロニック社)などのステントグラフトにおけるものと類似したとげのあるアンカを含んでいてもよい。
【0094】
他の実施例では、アンカは、フランジ付きでカバー付きのステントであり、右心室側は、ステントの軸に実質的に垂直な平面に方向づけられた実質的に平らな構造に対して開いている。
【0095】
他の実施例では、フランジは、フランジの周囲に亘るリングから構成され、フランジ自体は織物(ファブリック)の層である。フランジは、楕円形に折りたたまれ、ルーメンを通して給送される。リングは、ニチノール・チタンステンレス鋼又はコバルトクロム合金から構成され得る。ファブリックルーメンは、フランジの中心を通って経中隔穿刺内に延び得る。一実施例では、コードの埋め込み後、隔壁に対してフランジを添わせる張力がコードを介して付与される。処置中、フランジを隔壁に押し付けるように給送システムの一部を使用することができる。他の実施例では、ファブリックスリーブが、隔壁内で安定化させるように、ステント又はバーブ(barb)などを組み込んで固定する。
【0096】
心室アンカは、ガイドワイヤに亘って展開する。アンカの展開後、コード給送アンカ及びその給送システムは、心室アンカを介してガイドワイヤに亘って給送され得る。
【0097】
ポジショニング
【0098】
新たなコードを配置するように、心エコー検査を使用して正しい位置の特定が実行される。逆流ジェット又は弁尖逸脱又は動揺の領域は、2D又は3Dエコー及び/又はカラーフロードプラを用いて特定され得る。好ましくは、これらの画像化様式の組み合わせが使用される。
【0099】
コードを給送するための装置は、中隔穿刺に亘って前進し得る。一実施例では、中隔穿刺を形成するために使用される同じ操作可能な又は成形可能なシステムは、穿刺に亘って前進する。他の実施例では、装置は他のシースを通過可能な別個の装置とし得る。
【0100】
装置の遠位先端部の位置は、以下のように僧帽弁構造に対して配向され得る。装置は、隔壁を通って左心室へと入るシステムの曲率を増加させることによって前方に偏らされ得る。装置は、隔壁を通って左心室へと入るシステムの曲率を小さくすることによって、より後方に偏らされ得る。装置は、シースを通過する湾曲部分を回転させることにより、交連から交連へと偏らされ得る。装置は、装置の遠位部分を延ばすことにより縦方向に、あるいは後退させることにより心室方向に偏らされ得る。
【0101】
プライマリー
【0102】
主コード、弁尖の自由端の近傍に位置するコードを置換するため、僧帽弁弁尖と係合するいくつかの方法が可能である。一実施例では、ハープーン・メディカル社の大きいノットシステムを使用してもよい。他の実施例では、ネオコード社(Neochord Inc.)のループ縫合部を使用してもよい。これら双方の方法は、初期の臨床経験ではうまく機能するようである。好ましい実施例は、開胸手術の経験に基づき開発された臨床的に証明された縫合部組織界面を複製することを意図している。
【0103】
他の実施例では、分岐カテーテルを用いる。カテーテルの一方の側は弁尖の下方で係合し、当該側は、縫合部が通る弁尖の領域の特定を助けるように押される。他方の側は心房に向けて通過する。1つの針又は一対の針は、カテーテルの第1の側から弁尖を穿刺し、スネアは、カテーテルの第2の側から、針又は針からの縫合部を捕捉する。一実施例では、縫合部の針端が引き戻されたときに周囲ヒッチを形成するように、縫合部のループ端はスネアに亘り通過する。他の実施例では、縫合部のループ端がねじられて、2度に亘って二重となり、プルージックはダブル周囲ヒッチとして知られる結び目(ノット)を形成する。
【0104】
セカンダリ
【0105】
第2のコード、弁尖の自由縁部からさらに後方に位置するコードを置換するため、主コードを置換するために説明した装置及び方法を適用させる必要がある。大きなノットを利用した固定方法は、修正を必要としない第2のコードの置換に適している。
【0106】
分岐カテーテル法は、スネア側が弁尖を穿刺するのを許容するための軽微な適応を伴う第2のコードの置換に適している。
【0107】
切除
【0108】
僧帽弁の修復中、外科医は弁尖組織の一部を切除することがある。前述の分岐カテーテルシステムを用いて同様の効果が得られる。弁尖を通して縫合部を配置し、縫合部を締め付けるときに組織をまとめることにより、同様の効果が得られる。縫合部は、切除される弁尖の近くにあるか、延長されて新たなコードとしても使用されることに注意されたい。
【0109】
部分的弁輪形成
【0110】
あるケースでは、外科的縫合弁輪形成術と同様の効果を得るために、弁尖のヒンジ点に近い弁輪に対する二重穿刺法を用いることが望ましい。一実施例では、弁輪全体を取り囲む一連の縫合部ループが形成される。一実施例では、大動脈弁、冠状動脈及び伝導経路の安全な領域にのみ縫合部ループが形成される。一実施例では、縫合部ループは、心臓が最も拡張する可能性が高い領域(つまり、以前の梗塞の領域)又は僧帽弁交連付近の領域に形成される。
【0111】
評価
【0112】
一つ又は複数修復縫合部を僧帽構造に配置した後、結果を評価する。所望とする弁尖の動きが得られるまで、各々の人工コードに張力が選択的に付与される。好ましくは、心エコー検査により対象とする接合高さが得られる。一実施例では、過度及び過少の張力が均衡しているとき、リモデリングが生じ得るように縫合部が過度の張力を受ける。
【0113】
結び(ノッティング)
【0114】
一実施例では、クリンプされた結び目(ノット)がアンカの開口部を通過するのを防止する十分な大きさを有するクリンプ可能な結び目を用いて、縫合部がアンカの右心室側で結ばれる。
【0115】
他の実施例では、人工コードは、縫合部で縫われた又は結びつけられたアンカに直接圧着(クリンプ)される。
【0116】
縫合部調節
【0117】
一実施例では、同様の手法で人工コードの張力を調節することができる。一実施例では、これは、隔壁を再横断することなく、右心室から完全に実現することができる。一実施例では、クリンプ可能な結び目は、捕捉され、基部から引き離されて、ねじられる。人工コードを形成する一対の縫合部のうち1つの縫合部のねじれ動作により人工コードが効果的に短縮される。他の実施例では、クリンプ可能な結び目は、捕捉されて引っ張られ、付加的なクリンプ可能な結び目が配置される。
【0118】
複数のシステム
【0119】
一実施例では、1~約10の人工コードを単一の中隔アンカを取り付けることができる。一実施例では、コードの引っ張り方向を最適化するため、あるいは、中隔アンカへの負荷を最小化するために、1つ以上の心室アンカが用いられる。
【0120】
代替方法
【0121】
一部の患者の生体構造について、中隔壁ではなく左心室の異なる領域にコードを固定する必要があるか、あるいは固定することが望ましい。一実施例では、固定箇所は乳頭筋である。好ましくは、乳頭筋又は心室壁への縫合部の取り付けは、開コード置換中に外科医によって一般的に行われるように、8の字の縫合部を作成することによって行われる。このタイプのアンカは、前述の経中隔心室穿刺を介して経カテーテル方法により配置され得るか、あるいは、より一般的な心房経中隔穿刺を介して配置され得る。乳頭筋に縫合するのに適したシステムの一実施例は、針及びスネアの端部が互いに向けて内側に湾曲している分岐弁尖縫合システムに対する簡単な変更であって、これにより、動作したときに、針及びスネアの端部は乳頭筋を通して縫合部を配置する。他の実施例では、心室アンカは、アプトス血管内ステープル(Aptos Endovascular staple)(メドトロニック社)又はペースメーカーのリードを固定するために使用される任意の構成のいずれかに類似したコルクねじ形状のアンカである。
【0122】
離脱
【0123】
一実施例では、心室アンカは回収可能である。一例としては、再捕捉可能な自己拡張型ステント又はアンプラッツのような装置が挙げられる。
【0124】
一実施例では、人工コードは、血流力学評価期間に亘って回収可能である。一実施例において、これは、永続的な埋め込みのために周囲ヒッチを係合する前に、評価のため縫合部の両端部を引っ張ることによって実現する。
【0125】
付随する修復リングアルフィエーリ(Alfieri)法
【0126】
一実施例では、上記処置は、他の僧帽弁修復処置と組み合わせて実行される。これは、外科医が通常使用する複数の技術をシミュレートする。心臓寸法冠状静脈洞ベースのアプローチ(cardiac dimension coronary sinus based approaches)、Mitralign社及びValtech(バルテック)社の縫合ベースアプローチなど、弁輪形成リングをシミュレートする臨床用途のいくつかの装置が存在している。さらに、マイトラクリップ(Mitraclip)(アボット社)は、2つのオリフィスを形成するあまり使用されない外科的技術であるアルフィエーリステッチをシミュレートする。
【0127】
装置
【0128】
特定の実施例の装置は、大静脈及び右心室の形状に係合するように湾曲した外側シースを含む。外側シースの近位端部は、給送システムのハンドルに接続されている。外側シース内には、血管にアクセスするための従来の拡張器が配置される。右心室にアクセスすると、拡張器は、比較的柔軟な近位部分と、短い先細りの無線不透明先端部を有する硬く鋭く湾曲した遠位部分と、を備えた特別な経心室拡張器に変化する。ハンドルは、拡張器にロックするための部材を含み、これより、軸方向及び回転方向への移動を防止する。拡張器の内径(ID)は、長く柔軟な、好ましくは中空の針のためのクリアランスを許容する。一実施例では、針は湾曲している。針は、針の先端が拡張器の遠位先端部を通って前進して、穿刺を正確に配置することを可能にするように構成される。一実施例では、針は、0.009,0.014,0.018又は0.035インチの直径を有するガイドワイヤを収容する大きさである。他の実施例では、拡張器は穿刺口を通り針に亘って前進し、針が引き抜かれる。一実施例では、針は、拡張器と一体であり、拡張器内で後退するか、あるいは拡張器の先端部を超えた限定的な長さに延長される。一実施例では、長さは約2~20mmである。他の実施例では、長さは約4~40mmである。一実施例では、長さは約2mm未満であってもよいし、約40mmを超えていてもよい。
【0129】
前述の1つの例示的な用途について、
図35A~
図35Oを参照して以下に説明する。
図35Aを参照すると、カテーテル100(本明細書において細長い柔軟な管状体ともいう)は、遠位端部及び近位端部を有する。カテーテル100の遠位端部は、従来技術により左心房102に進入している。カテーテル100は、僧帽弁104を通り、左心室106の心尖部112の近傍まで進む。らせん状組織アンカ110などの組織アンカ108は、回転ドライバ(図示せず)の形態をなすアンカドライバ(図示せず)によって筋肉壁に向けて回転し、カテーテル100を通って遠位方向に前進する。特定の実施例では、アンカドライバ又は回転ドライバは、カテーテル100を通って近位方向に延びている。組織アンカ108を固定した後、カテーテル100及び/又はアンカドライバは、壁部に固定されかつアンカ縫合部114に取り付けられたアンカ110を残すようにして、近位方向に後退する。アンカ縫合部114は、カテーテル100の長さ全体に亘って近位に延びている。アンカ縫合部114の遠位部分は、任意選択的に僧帽乳頭筋の大きさに近似した、柔らかいリボン又は本体118を含み得る新生乳頭筋116を運ぶ。新生乳頭筋116は、縫合部114よりも実質的により大きな直径を有する。縫合部114は、新生乳頭筋116(例えば、中央のチャネルを通って)を通って延びるように構成されてもよいし、本明細書に記載したように、新生乳頭筋の近位端部に取り付けられてもよい。特定の実施例では、新生乳頭筋置換部品118は、柔らかいPTFE材料から形成され得る。
【0130】
好ましくは、アンカ108は、心尖部112の薄い組織からオフセットした点に取り付けられ、概してより厚い心室の隣接壁部に埋め込まれる。好ましくは、埋め込まれた新生コードの長手方向軸が生来のコードの元の経路と実質的に平行に整列するかあるいは上記元の経路と同心となるように、アンカが配置される。そのような配列では、組織アンカ108は、乳頭筋の間で左心室に配置され得る。本明細書において説明したように、組織アンカは、らせん状心室アンカの形態をなしている。
【0131】
図35Bを参照すると、操作可能な弁尖捕捉カテーテル120は、カテーテル100を超えて、僧帽弁104を通って左心室106へと遠位方向に前進し得る。操作可能なカテーテル120は、カテーテル100を通って送られる。代替例では、操作可能なカテーテル120は、カテーテル100に沿って送られる。特定の実施例では、操作可能な弁尖捕捉カテーテル120は、組織アンカ(例えば、らせん状心室アンカ)に連結されたドライバ(例えば、回転ドライバ)に沿ってカテーテル100内に配置され得る。特定の実施例では、組織アンカ(例えば、らせん状心室アンカ)に連結されたドライバ(例えば、回転ドライバ)は、カテーテル100を通して挿入され、展開後にカテーテル100から取り除かれるか、部分的に取り除かれる。次いで、操作可能な弁尖捕捉カテーテル120は、目的の場所に向けてカテーテル100を通って前進する。
【0132】
弁尖捕捉カテーテル120の遠位部分には偏向領域122が含まれる。偏向領域122は、種々の偏向機構を含んでいてもよい。例えば、カテーテル120の第1の側に沿って互いに離間した複数の横断スロット124を設けてもよい。反対側となるカテーテルの第2の側126は、軸方向に非圧縮性の背部を有していてもよい。一つ又は複数のプルワイヤ(図示せず)を近位方向に後退させると、スロット124が軸方向に潰れ、これにより、例えば
図35Cに示すようにカテーテルが偏向する。スロット124は、弁尖アンカの挿入に適した運動の種類及び範囲を許容するように構成されてもよい。
【0133】
好ましくは、偏向領域122は、単純曲線又は複合曲線で少なくとも約160°、好ましくは少なくとも約180°又は約190°又はこれ以上の角度に亘って偏向可能であってもよい。偏向領域122の最適曲率半径は約2cm未満であり、一実施例では1.5cm未満であり、他の実施例では、好ましくは、約1cm未満である。一実施例では、弁尖接合縁部から所望の後退位置に弁尖アンカを配置するため、遠位先端部128とカテーテルシャフトとの間の最短の直線距離Dは、約0.5cm~約1.5cmの範囲内にあり、任意選択的に約1cmである。
【0134】
操作可能な弁尖捕捉カテーテル120は、動揺弁尖132の心室側130に接触して遠位先端部128を配置するように、僧帽弁104を通して前進し、
図35Cに示すように偏向する。
【0135】
図35Dに示すように、近位マニホルドの制御装置は、遠位端部128から動揺弁尖132を通して針134を前進させるように操作され得る。針134による弁尖132の穿刺は、心臓拡張期の間で弁尖132が左心室106の方向に偏っているときに行われる。
【0136】
カテーテル120及び/又は針134は、縫合部を弁尖132に固定するために、種々の組織アンカを展開させるように利用される。特定の実施例では、本明細書において説明したように、組織アンカは、カテーテル100を通して近位方向に延びる縫合部に連結された半径方向に拡大可能な弁尖アンカである。図示した実施例では、弁尖アンカ縫合部138により運ばれる綿撒糸136は、針134から弁尖132の心房側に展開される。綿撒糸は、近位端部及び遠位端部を有する細長いリボンの形態をなしている。遠位端部は、弁尖アンカ縫合部138に対して固定される。弁尖アンカ縫合部138は、細長いリボンにおける1又は2又は4又はそれ以上の開口部に通されてもよい。
図35E~
図35Gに示すように、弁尖アンカ縫合部138の近位方向の後退により、リボンが軸方向に折り畳まれて、十分な横断面積を有する塊が形成され、結果生じる綿撒糸を弁尖縫合部に対する近位張力が弁尖を通して引っ張るのに不十分なものとなる。したがって、特定の構成では、縫合部138の近位方向への後退により、綿撒糸136は、細長いストリップ構成から半径方向に拡大され、軸方向に縮小された構成に変形可能である。
【0137】
その後、弁尖捕捉カテーテル120は、近位方向に後退して
図35Hに示すような構造体を残す。
【0138】
種々の弁尖アンカのうち任意の弁尖アンカが用いられ、弁尖を交差する低交差プロファイルから、弁尖を通る後退に抵抗するためのより大きな横断プロファイルまで、横方向に拡大可能であるという特徴が共有される。横方向の拡大は、Tアンカを傾けるか、あるいは、拘束から解放された後の制御ワイヤ又は弾性変形による能動的な変形によって実現する。
【0139】
図35I1~35I4は、動揺弁尖132を通したTタグ型アンカの展開状態を示している。縫合部138に固定された単一のTタグバー140などのアンカエレメントは、プッシュワイヤ142により針134を通して遠位方向に前進し得る。プッシュワイヤ142には遠位プッシュプラットフォーム144が設けられており、当該プラットフォームには縫合部138を収容する切り欠き146が設けられている。針134からバー140が退出すると、バーは縫合部取付点を中心に回転して、弁尖縫合部138が近位方向に引っ張られたときに弁尖132の心房側に着座する。バー140は、所望の性能特性に応じて、図示したような単一のエレメント、又は「X」字形の又はマルチ支柱構造を有していてもよい。
【0140】
代替的な弁尖アンカを
図35J1~35J3に示す。組織アンカは、縫合部138に固定されたハブ150を有する。ハブ150は、複数のスポーク152を有する。スポークは、針134内に拘束されたときの低プロファイル線形構造から、弁尖132を通る近位方向への後退に抵抗するための
図35J3に示した拡張構造まで横方向に拡大可能である。少なくとも2つの、好ましくは4つ又は6つ又はそれ以上のスポーク又は支柱152が設けられ、弁尖に対する設置面積を提供するため、展開状態時にハブ150から半径方向外側に延びる。支柱は近位方向へと半径方向外側に傾斜して、心収縮期中に、埋め込まれた新生コードにより弁尖132が移動限界に達するときなどに、張力スパイクに応じてハブ150を一時的に弁尖132に近づける力のダンパをもたらす。スポーク152及びハブ150は、NiTiチューブからレーザカットされ、弁尖縫合部138に接着結合、圧着又は他の方法で取り付けられてもよい。
【0141】
図35Kを参照すると、支点154は、新生コードの遠位端部及び新生乳頭筋の近位端部の付近に配置され得る。支点154は、弁尖アンカ136と遠位アンカ110との間の長さ及び/又は張力が調節され得る点を提供する。少なくとも弁尖縫合部138は、支点を横切って通過するため、弁尖縫合部138の近位への後退により、心室方向への動揺弁尖の移動限界が心房方向に引っ張られる。支点154は、弁尖縫合部及び潜在的に心室アンカ縫合部に亘って遠位方向に前進する調節カテーテルのルーメンの遠位開口部の縁部であってもよい。代替例では、支点は、ハイポチューブ又はサポートワイヤなどの支点指示部の遠位端部に目又はループを含んでいてもよい。あるいは、支点154は、縫合部ロックに位置し、これを通して、アンカ縫合部及び弁尖縫合部の双方が通過し得る。
【0142】
縫合部ロックの係合前、弁尖縫合部は、ゆっくりと近位方向に後退して、動揺弁尖の左心房への逸脱を徐々に制限してもよい。僧帽弁逆流は、透視画像で観察でき、僧帽弁逆流(MR)が除去されるかあるいは十分に最小化されるまで、弁尖縫合部を後退させることができる。
【0143】
図35Lを参照すると、カテーテル100は、アンカ縫合部及び弁尖縫合部のたわみを誘発するように遠位方向に前進し、これにより、弁尖機能に対するカテーテル100の影響が最小限に抑えられる。これにより、医師は、弁尖縫合部の現在の張力レベルで僧帽弁逆流に対する効果を評価することができる。必要に応じて、弁尖の移動範囲をさらに調整するため、弁尖縫合部を後退又は前進させてもよい。
【0144】
所望の心臓機能が実現すると、
図35Mに示すように、組織アンカ108と弁尖アンカとの間の最大距離を固定するため、周知の技術又は本明細書に記載した技術を利用して縫合部ロックが係合する。代替例では、調節カテーテルが支点として使用された場合、縫合部ロック又は結び目は、新生乳頭筋の近位端部及び新生コードの遠位端部の近傍の位置へとカテーテルを通して遠位方向に前進して、調整カテーテルの後退前に固定される。
【0145】
図35Nを参照すると、弁尖縫合部138及びアンカ縫合部114は、周知の技術又は本明細書に記載した技術を利用して、縫合部ロックの近位で切断され、カテーテル100が患者から引き抜かれる。これにより、左心室内の所定の位置に新生コード及び新生乳頭筋が残存する。
【0146】
図35Oを参照すると、変更された弁尖捕捉カテーテル120の遠位偏向領域122が図示されている。
図35Cに示した偏向領域と同様に、
図35Oの実装例には、折り畳み可能でない背部126の反対側に、軸方向に圧縮可能な複数のスロット124が含まれる。上記構造は、プルワイヤの近位への後退時に第1の凹部150を形成する。前述したように、偏向領域122の最大屈曲時における最小距離Dは、概して約0.5~約1.5cmの範囲にある。
【0147】
所望の性能に応じて、第2の複数のスロット154を軸方向に折り畳むことにより動作可能な第2の凹部152を設けてもよい。第2の凹部152の屈曲は、第2のプルワイヤの近位への後退によって実現するようにしてもよい。代替例では、単一のプルワイヤを引くことにより、第1の凹部150及び第2の凹部152を同時に曲げることができる。
【0148】
図示した実施例では、第2の凹部152は、同一平面において第1の凹部150とは反対方向にくぼんでいる。代替例では、第2の凹部152は、第1の凹部150と同一の方向にくぼんでいる。いずれの構成においても、第1の凹部は第1の平面に位置し、第2の凹部152は、所望の性能に応じて第1の平面から回転方向にオフセットした第2の平面に位置する。複合湾曲カテーテルシャフトの付加的な詳細は、米国特許公開公報第2014/0243877号に開示されており、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0149】
図36A~37を参照すると、一実施例では、純粋な変性僧帽弁逆流を治療するのではなく、本明細書に記載した実施例に係る方法及び装置は、機能的僧帽弁逆流を有する患者の小集団を治療するために使用し得る。ここで、患者には係留弁尖型の欠陥がある。この生体構造では、漏洩に対して閉鎖及びシールするために適切な長さの僧帽弁弁尖があるが、腱索が短すぎるために弁尖は僧帽弁輪の平面まで移動することができない。腱索は略同一の長さのままである一方で、輪が拡張しかつ/又は心室が拡大するため、この種の生体構造が通常生じる。これらの患者の治療は、処置中のステップとして、生来のコードの全て又は一部を切断することにより行われる。
【0150】
一実施例では、コード切断ステップは、装置注入ステップより前に、最初のステップとして実行される。これにより、埋め込み部に対する偶発的な損傷の可能性を防ぐことができるが、処置中に重度の逆流状態を引き起こす可能性がある。代替例では、生来のコードは、人工コードの埋込み中又は人工コード埋込みが完了した後の他のステップで任意の点で切断され得る。最後のステップとしての切断は、コードが埋め込まれた後まで正確な結果の評価が実現し得ない不利益を生じさせる可能性がある。注入された装置は、本明細書に記載した実施例の1つと同一であるか類似したものとし得る。
【0151】
特定の実施例では、最初の弁尖及び心室アンカを配置した後、最終張力の付与前に生来の腱索を切断してもよい。特定の実施例では、これは、コードを埋め込む前に、まず、各々の乳頭筋の周囲にガイドワイヤを通すことによって生来のコードを分離し、ワイヤの端部を捕捉し、ワイヤに亘ってシースを前進させることで、乳頭筋の周囲にスナッグループを形成することによって実現する。これらのループは、心室及び弁尖アンカの通常の埋込みの間、無傷のままとなる。心室及び弁尖アンカが所定の位置にあるとき、本明細書に記載した装置及び方法の1つを用いて、好ましくは部分的に張力をかけて、生来のコードが切断される。これは、ループが乳頭頭部を越えて腱索の基部まで移動するように乳頭筋の周囲でループを操作し、ループを切断することにより実現する。一実施例では、ガイドワイヤは、単純にガイドへと引っ張られて切断動作が生じる。他の実施例では、ガイド内に嵌合し、ガイドワイヤ用のルーメンを有するブレード型のツールが提供される。ガイドワイヤの両端部を引っ張ることにより、腱索がブレードに対して引っ張られて切断される。当業界では多くの他の組織切断装置が説明されているが、本明細書に記載した装置及び方法をそのような組織切断装置に適用してもよい。生来の腱索が切断された後、埋め込み部の張力が調節される。結果に満足する場合、本明細書に記載したように又は同様の方法で、縫合部ロックをロックし、縫合部尾部を切断することにより埋め込み部を永続的なものとすることができる。結果に満足しない場合、付加的な腱索を付加するか、あるいは他の僧帽弁修復処置を一緒に実行してもよい。
【0152】
腱索を直接ループでくくる代わりに、乳頭筋をループでくくることにより、全ての腱索が確実に捕捉される。これは、全ての通常の腱索が乳頭筋の頭部に取り付けられているためである。ループしたガイドワイヤを用いた切断は生来の腱索の切断方法の1つであるが、種々のタイプの経血管的縫合カッターなどの他の方法及び装置を用いてもよい。
【0153】
次に
図36A~37を参照すると、
図36Aは、最初に捕捉された構成におけるループでくくられた乳頭筋200を示す図である。
図36Bは、切断ステップが好ましく実行される領域におけるコード202上に引き上げられたループでくくられた乳頭筋200を示している。
図37は、腱索切断ツール210の一実施例を図示している。図示した実施例は、ループしたガイドワイヤ216の各端部に1つずつ、計2つのルーメン212,214を含むとともに、刃先218及びエレメント220を含み、刃先218がシース210並びに切断することを意図していない患者及び装置の他の部分と接触しないように保護する。乳頭筋をループでくくった後、ガイドワイヤは、第1のルーメン212を通して給送され、スネアは第2のルーメン214を通して給送され、ガイドワイヤを捕捉する。スネアは、ガイドワイヤを第2のルーメン214に引き込む。前述のように、ループしたガイドワイヤを用いた切断は、生来の腱索を切断する一方法であるが、種々のタイプの経血管縫合カッターなどの他の装置及び方法を用いてもよい。
【0154】
一実施例では、本明細書に記載した処置は、特化した給送システム及び装置により実行されてもよい。給送システムは、上記処置の種々のステップを実行するように構成された複数のサブコンポーネントを含んでいてもよい。一実装形態では、カテーテル100などの細長く柔軟な管状の本体を有する新生腱索展開システムを患者の心臓(例えば、左心房)にアクセスするために用いてもよい。複数のサブシステムは、給送カテーテル100を介して心臓に導入され得る。サブシステムは、給送カテーテル100の内部ルーメンよりも小さい直径を有するカテーテルを含んでいてもよく、給送カテーテル100を通して挿入されるように構成される。一実装形態では、種々のサブシステムのいくつか又は全ては、本明細書に記載した操作を実行するため、給送カテーテル100を同時に占有してもよい。一実装形態では、種々のサブシステムのいくつか又は全ては、本明細書に記載した操作を実行するため、その後の方法で給送カテーテル100を占有してもよい。例えば、給送システムは、本明細書に記載したように、心室アンカ給送システム300、弁尖アンカ給送システム330、及び/又は縫合部ロック給送システム370を含む。
図38A~38Hは、心室アンカの給送、弁尖アンカの給送及び縫合部ロックの給送のためのサブシステムを含む給送システムを介して新生腱索を埋め込む方法を概略的に示している。
図38A~38Hに示した処置は、
図35A~35Oに示したものと同一であるか実質的に同一であってもよい。一実施例では、
図38A~38Hに示すように、新生腱索(又は人工腱索)は縫合部を含む。他の実施例では、新生腱索は、他の柔軟なエレメントである。柔軟なエレメントは、心室アンカ及び/又は弁尖アンカに結合するために、近位端部及び/又は遠位端部において縫合部に取り付けられる。
【0155】
図38Aは、左心室196の心尖部112の近傍におけるらせん状アンカ302の設置を示している。以下の図ではらせん状アンカ302は心尖部112の近傍に配置されて示されているが、アンカ302は、心尖部の薄い組織からオフセットした点において取りつけられ、2つの乳頭筋間など概してより厚い心室の隣接壁部に埋め込むことができる。埋め込まれた新生コードの長手方向軸が生来のコードのオリジナルの経路と略平行又は同心になるように、アンカを配置することが好ましい。例えば、
図42に示されているように、そのような配置では、組織アンカ302は、乳頭筋の間で左心室に配置され得る。さらに、らせん状アンカを図示したが、アンカは、前述したように心臓の組織と係合するように異なる構造を有していてもよく、他の構造は、らせん構造の替わりに、組織と係合するための種々の貫通又はフック構造を有していてもよい。
【0156】
らせん状アンカ302は、心室アンカ給送サブシステム300により給送され得る。
図39A~39Cは、心室アンカ給送サブシステム300及びその構成要素をそれぞれ示す図である。
図39Aは、サブシステム300の遠位端部の斜視図である。
図39Bは、サブシステム300の近位端部の斜視図である。
図39Cは、サブシステム300の遠位端部の部分分解図である。サブシステム300は、給送カテーテル100を通して給送され得る。給送カテーテル100は、心房中隔穿刺などの従来の技術により左心房にアクセスしてもよい。種々のサブシステムが配置され、給送カテーテル100から取り除かれると、給送カテーテル100は、処置の間中に亘って実質的に一定の位置に維持されてもよい。例えば、給送カテーテル100の遠位端部は、左心房に配置されてもよい。他の実装例では、給送カテーテル100の遠位端部は、処置期間の間、左心室に位置する。
【0157】
図39A,39Cに示すように、心室アンカ給送サブシステム300は、外側シース304、ガイドシャフト305、ドライバ309(シャフト307及びヘッド306を含む)、アンカハブ308及びアンカを有する。アンカはらせん状アンカ302であり、ドライバ309がらせん状アンカ302を回転させるように構成されるように、ドライバ309は、アンカ302を回転させるように構成され得る。らせん状アンカ302は、アンカハブ308の外径に配置されるように構成された内径を有していてもよい。らせん状アンカ302は、締まりばめ又は摩擦係合によりアンカハブ308に固定されてもよい。アンカハブ308は、らせん状アンカ302とともに埋め込まれたままにしてもよい。アンカハブ308は、縫合部311(図示せず)を受容するとともに、縫合部311をらせん状アンカ302に取り付けるため、実質的にアンカハブ308の中心軸に沿って配置されたルーメンを有していてもよい。一実施例では、縫合部311は、縫合部311がアンカハブ308のルーメンを通して近位方向に引っ張られるのを防止する大きさの直径を有する取付要素(例えば、結び目又はワッシャ)を含んでいてもよい。例えば、縫合部311は、ルーメンの遠位側において結ばれる。一実施例では、縫合部311は、アンカハブ308に結ばれてもよい(例えば、ルーメンを通過して、外側面を覆って結ばれる)。らせん状アンカ302は、羽根部の遠位セクション及び羽根部の近位セクションを含む。羽根部の近位セクションは、羽根部の遠位セクションよりも互いにより近くに離間していてもよく、らせん状アンカ302をアンカハブ308に固定するように構成されていてもよい。羽根部の遠位セクションは、羽根部の近位セクションよりもさらに離れて離間していてもよく、心室組織に挿入するように構成されてもよい。アンカハブ308は、らせん状アンカ302に当接しかつ/又はらせんアンカ302がアンカハブ308の近位端部に亘って近位方向に前進するのを防ぐように構成された、拡大した断面を近位端部に有していてもよい。本明細書に記載したものなどの他のらせん状アンカは、本明細書に記載した心室アンカ給送サブシステム300とともに使用されるように構成される。
【0158】
らせん状アンカ308の近位面は、ドライバヘッド306の延長部分306’を受ける凹部(リセス)を有していてもよい。凹部は、非円形(例えば、横長又は多角形)であり、ドライバ309の回転時にトルクをドライバ309からアンカハブ308に伝達するように構成されている。アンカハブ308の中央ルーメンの周囲に凹部を配設してもよい。他の実施例では、アンカハブ308は延長部分を含み、ドライバヘッド306は、凹部を有する。ドライバヘッド306は、概して円筒形である。ドライバヘッド306は、ドライブシャフト307に固定的に結合されてもよい。ドライバ309は、ドライバヘッド306を通る中央ルーメンと、縫合部311を受けるように構成されたドライブシャフト307を、を有する。ドライバ309の中央ルーメンは、アンカハブ308の中央ルーメンと整列するように構成される。ドライブシャフト307はガイドシャフト305内に受容される。ドライバヘッド306の径は、ガイドシャフト305の内径より大きい。外側シース304は、ガイドシャフト305、ドライバヘッド306、アンカハブ308及びらせん状アンカ302を受ける大きさを有していてもよい。
【0159】
外側シース304は、給送カテーテル100を介して、左心室及び心室取付位置の近くまで送られる。一実施例では、外側シース304は、給送カテーテルを用いることなく給送される。一実装例では、外側シース304が心室取付位置の近位に配置され、次いで外側シース304を通して遠位方向に押されて、らせん状アンカ302が露出するまで、らせん状アンカ308は外側シース304内に隠れている。らせん状アンカ302は、心室組織と接触するように配置される。ドライブシャフト307の回転は、ドライバヘッド306、アンカハブ308及びらせん状アンカ302を回転させ、これにより、心室アンカ302が心室組織にねじ込まれる。ドライバ309の回転は、ドライバ309、アンカハブ308及び螺旋ねじ302を外側シース304に対して軸方向に遠位方向へと前進させる。
図39Bに示すように、ドライブシャフト307は、ドライブハンドル312を用いてユーザによって手動で回転され得る。心室アンカ給送サブシステム300の近位端部は、
図39Bに示すように、第1及び第2の止血弁314,316を有する。第1の止血弁314は、ドライブハンドル312に対して遠位側に配置され、ガイドシャフト305へのアクセスを提供する。第2の止血弁316は、ドライブハンドル312に対して近位側に配置され、ドライバの中央ルーメンへのアクセスを提供する。心室アンカ縫合部311は、第2の止血弁316を通って延びていてもよい。
【0160】
一実施例では、心室給送サブシステム300は、外側シース304の遠位端部の周囲に配置されるシールドつまりガード部303(
図38Aに示す)を有する。ガード部303は、開放した遠位端部を有し、管状のシース304に取り付けられるか、あるいはシース304から退出して前進し得る管状壁部を含んでいてもよい。ガード部303は、経腔的ナビゲーションのための減少した第1の断面から、アンカの回転を許容する拡大した第2の断面まで拡大可能であってもよい。
【0161】
ガード部303の内径が、ガード部303の遠位端部において、外側シース304の遠位端部における外径よりもより大きくなるように、ガード部303が遠位方向に拡大する直径を有していてもよい。ガード部303の拡大した直径は、ガード部303の内側面に接触せずに、らせん状アンカ302が回転するための十分なスペースを提供する。らせん状アンカ302の設置時に、ガード部303は、心室組織に接触して配置されるか、あるいは、心室組織に近接して配置されてもよい。有利には、らせん状アンカ302の回転挿入の間、ガード部303は、らせん状アンカ302に隣接した腱索又は他の組織がらせん状アンカ302の羽根部に巻き込まれないように防止する。らせん状アンカ302が適切な深さまで心室組織に挿入されると、らせん状アンカ302が心室アンカ給送サブシステム300の残部と非係合となるように、ドライバ309をアンカハブ308から取り出してもよい。
【0162】
一実装形態では、ドライバヘッド306の挿入部分306’及びアンカハブ308の凹部は、2つの要素を互いに一時的に保持する摩擦係合を有する。らせん状アンカ302が挿入されると、心室組織からの反力により、ドライバの近位への後退時に摩擦係合を克服することができる。一実装形態では、縫合部311の近位張力は、近位ハブ308とドライバヘッド306との間に係合力をもたらし、ドライバ309の交代時に解放される。外側シース304が給送カテーテル100へと引き込まれる前に、ドライバヘッド306は外側シース304へと近位方向に引き込まれてもよい。
【0163】
心室アンカ給送サブシステム300の非埋込要素は、給送カテーテル100から取り除かれてもよく、サブシステムは、新生腱索の埋め込みを完了させるために給送カテーテル100に配置されてもよい。変形例では、心室アンカ給送サブシステム300と、弁尖アンカ給送サブシステム330などのサブシステムとは、給送カテーテル100内に同時に配置されてもよく、特定の配置では、組織及び弁尖アンカの双方を給送カテーテルに予め組み込んでもよい。他の実施例では、心室アンカの埋め込みは、異なる順番で(例えば、弁尖アンカの埋め込み後に)行われてもよい。心室アンカ給送要素は、縫合部311の近位端部に亘って近位方向に後退してもよく、給送カテーテル100を通って心室アンカ302へと延びたままであってもよい。
図38A~38Hは、新生腱索の設置を示しているが、例えば
図35Aに示した新生乳頭筋116を示していない。しかし、新生乳頭筋116と組み合わせて処置を行ってもよい。新生乳頭筋116は、例えば、心室アンカ302の設置後に縫合部311に亘って前進してもよい。一実施例では、新生乳頭筋は、アンカハブ308に結合される。
【0164】
図38B~38Fは、弁尖アンカ給送サブシステム330を介した弁尖アンカの設置を含む種々のステップを示している。弁尖アンカは、心室アンカの設置後に給送される。弁尖アンカ給送サブシステム330は、心室アンカ302に接続されたままの心室アンカ縫合部311に沿って給送カテーテル100を通して給送される。一実施例では、弁尖アンカは、心室アンカ302の設置前に給送される。代替例では、弁尖給送サブシステム330は、例えば、経心尖的に(transapically)左心室に又は経中隔的に(transseptally)右心室から左心室に心室壁部を通して給送されてもよい。
【0165】
図40A~40Fは、弁尖アンカ給送サブシステム330及びその構成要素を示す図である。
図40Aは、サブシステム330の遠位端部の斜視図を示している。
図40Bは、サブシステム330の近位端部の斜視図を示している。
図40Cは、サブシステム330の遠位端部の分解図を示している。
図40Dは、可撓性チューブ332の斜視図である。
図40E,40Fは、可撓性チューブ332の移行領域の異なる側面図を示している。
【0166】
図40A,40Cに示すように、弁尖アンカ給送サブシステム330は、給送シャフト334を有する。偏向可能な可撓性チューブ332を給送シャフト334の遠位端部に連結させてもよい。
図40Dは、可撓性チューブ332の一実装例を示している。偏向可能な可撓性チューブ332は、本明細書に記載したように、偏向領域122を形成する。本明細書に記載したように、偏向可能な可撓性チューブ332は、オペレータにより、例えば、可撓性チューブ332の種々の側に沿った1つ又は2つ又はそれ以上のプルワイヤ(図示せず)の近位への後退などにより操作可能であるように構成されてもよい。
図40Bに示すように、オペレータは、ノブ352を介して、あるいは弁尖アンカ給送サブシステム330の近位端部におけるハンドル部350に配置された他の作動機構又はレバーを介して可撓性チューブの屈曲を制御することができる。
【0167】
図40Dに示すように、可撓性チューブは横断スロットを有している。可撓性チューブ332の一方の側には開口部又はスロットが設けられておらず、相対的に堅い又は軸方向に非圧縮性の背部が形成される。横断スロットは、上記一方の側と実質的に反対の側において、可撓性チューブ332の種々の長さ位置に配置されている。横断スロットの軸方向の間隔、横断スロットの軸方向の幅、横断スロットの形状、横断スロットの周方向の向き、及び/又は横断スロットの周方向の長さは、可撓性の程度に影響を与え、及び/又は可撓性チューブ332の方向は、局所的領域において又は実質的に可撓性チューブ332の全長に沿って曲がりやすくなる。
【0168】
可撓性チューブ332は、異なるパターンの横断スロット及び/又は異なる屈曲特性を有する、可撓性チューブ332の長さに沿った2つ又はそれ以上のセクションを有していてもよい。例えば、
図40Dに示した可撓性チューブ332では、遠位セクション及び近位セクションにそれぞれ設けられた横断スロットのパターンが異なっている。
図40E,40Fは、遠位セクションと近位セクションとの間の移行部分近傍の可撓性チューブ332を示す拡大側面図である。
図40E,40Fに示す例では、可撓性チューブ332の長手方向の軸に対して互いに回転方向に約90°オフセットしている。
【0169】
弁尖アンカ給送サブシステム330の遠位端部を弁尖へと向かわせるか又は案内するように、可撓性チューブ332を用いてもよい。可撓性チューブ332は、サブシステムが右心房から心臓へと給送されるときに、弁尖の心室側に遠位端部を配置する場合に特に有利である。
図38Bに示すように、サブシステムの近位への後退によって弁尖の心室面に圧力が加わるように、弁尖アンカ給送サブシステム330の遠位端部が偏向してもよい(例えば、少なくとも約180°)。偏向した可撓性チューブ332の曲率半径又は最適な曲率半径は、概して約2cm未満、好ましくは約1.5cm又は1.0cm未満である。
【0170】
可撓性チューブ332及び給送シャフト334を覆うフレキシブルジャケット333を用いてもよい。針先を有して遠位端部において終端する内側フレキシブルシャフト336は、給送シャフト334及び可撓性チューブ333を通って延びていてもよい。内側フレキシブルシャフト336は、ブレード(編組)チューブ、又は可撓性チューブ332の形状に適合するのに十分に柔軟性のあるカテーテルを有していてもよい。針先338は、内側フレキシブルシャフト336の遠位端部に連結されてもよい。
図40Bに示すように、内側フレキシブルシャフト336の近位端部は、針ハンドル部354に接続されている。針ハンドル部354は止血弁356を含んでいてもよい。弁尖縫合部344は、弁356を通して挿入される。弁356は硬膜外(touhy)型であってもよい。針ハンドル部354は、内側フレキシブルシャフト336のルーメンにアクセスするための付加的なポート358を有していてもよい。内側フレキシブルシャフト336がハンドル部350及び給送シャフト334のルーメンを通って延びるように、針ハンドル部354は、ハンドル部350に対して近位方向に配置されてもよい。ハンドル部350は、内側フレキシブルシャフト336を受容しかつハンドル部の内部要素を周囲環境からシールするために止血弁を有していてもよい。止血弁は、給送シャフト334に対する開口部を有している。針338は、ハンドル部350に向けて針ハンドル部354を延長させることにより、あるいは、ハンドル部350から針ハンドル部354を後退させることにより拡張可能及び後退可能であってもよい。
【0171】
図38Cに示すように、針先338が可撓性チューブ332及びフレキシブルジャケット333を超えて遠位方向に延びているときの弁尖に対する圧力の付加により、針先338が弁尖の反対側(例えば、心房側)を通って延びるように、針先338が弁尖を穿刺する。この圧力は、針先338を延長させること、及び/又は針先338が拡大位置にある状態で給送装置330全体を近位方向に後退させることにより付加される。
【0172】
図38D~38Fは、弁尖アンカの展開を示している。弁尖アンカは、本明細書に記載した綿撒糸340としてもよい。綿撒糸340は、縫合部344の遠位端部に連結又は取り付けられてもよい。綿撒糸は、織物などの柔らかくかつ/又は柔軟な材料から形成されてもよい。縫合部344は、内側フレキシブルシャフト336を通って延びている。
図38D,40Aに示すように、綿撒糸340は、給送のために内側フレキシブルシャフト336内に配置され得るように、減少した半径方向の断面を含む形態に折り畳まれるか圧縮されてもよい。
図38Eに示すように、綿撒糸340は、針先338の遠位端部から展開されるときにより大きな半径方向の断面を有するように拡張する。一実施例では、綿撒糸340は、
図35Eに示したものと同様であり、プッシュワイヤ又はリリースワイヤ(図示せず)を介して、内側フレキシブルシャフト336を通って押される。
図38Fに示すように、針先338を通して給送するとき、弁尖縫合部344の近位への後退により、弁尖アンカは、軸方向に折り畳まれ、半径方向に拡大した形態となり、弁尖アンカが弁尖における穿刺口を通して後退することを防ぎ、これにより弁尖縫合部344を弁尖に固定する。
【0173】
図40Cは、弁尖縫合部344の遠位端部に接続された綿撒糸340を概略的に示している。綿撒糸340は、2つの羽根部341,342を有していてもよく、当該羽根部は、断面が減少した形態を形成するように、綿撒糸340の長手方向軸の周囲において折り畳まれる/巻かれる(例えば、時計回り又は反時計回りに)。一実施例では、弁尖縫合部344は、本明細書に記載したように、綿撒糸340と一体的に形成される(
図43A~43C)。折り畳み可能又は組み立て可能な構造を形成するため、
図38Eに示すように、綿撒糸340から延びている縫合部344の近位端部は、綿撒糸340に形成された一つ又は複数の開口部(例えば、2つの開口部、3つの開口部、4つの開口部など)を通ってもよい。一実施例では、開口部は、綿撒糸340の中心に沿って配設される。開口部は、綿撒糸340を貫通しており、綿撒糸340と一体的な縫合部344の埋め込み部分を通る。縫合部344の埋め込み部分は、少なくとも部分的に綿撒糸340内に平らにされる。一実施例では、開口部は、実質的に綿撒糸の中心に近くに(例えば、埋め込まれた縫合部344のすぐ左側又は右側に、あるいは縫合部344の左側と右側との間に交互に)配置される。展開されると、縫合部344は、綿撒糸340の遠位端部に効果的に接続される(例えば、縫合部344は、綿撒糸シートの間の挿入箇所へと戻る)。羽根部341,342が略同じ大きさ又は異なる大きさとなるように、綿撒糸340が形成されてもよい。
図38Fに示すように、弁尖縫合部344の近位への後退時に、綿撒糸340は、アコーディオンのような形態に折り畳まれてもよい。綿撒糸340は、弁尖縫合部344の長手方向軸に対して実質的に直交する実質的に平らな平面を含む形態をなしてもよい。この形態は、弁尖における縫合部344の固定を促進する。弁尖縫合部344を弁尖に固定するとき、弁尖アンカ給送サブシステム340は給送カテーテル100から引き抜かれてもよい。弁尖アンカ給送要素は、縫合部344の近位端部に亘って近位方向に後退してもよく、縫合部344は、給送カテーテル100を通って弁尖アンカ340へと心室アンカ縫合部311に沿って依然として延びていてもよい。
【0174】
新生腱索の埋込部を形成するか又は新生腱索の埋込部の2つのセクションを互いに結合するように張力をかけた状態で、心室アンカ縫合部311及び弁尖アンカ縫合部344を互いに結合してもよい。これにより、新生腱索が心室アンカ302と弁尖アンカ340との間に延びる。心室アンカ302により張力が維持された状態で、適切な張力が弁尖に適用されるように新生腱索の全長が調整されてもよい。縫合部311,344は、給送カテーテル100を通して体外の所定の位置まで延びたままであってもよい。一実施例では、縫合部ロックの配置及び縫合部311,344の切断の間、縫合部311,344の近位端部は、ハンドル部又は縫合部ロック給送システム370の近位部分へと供給されてもよい。一実施例では、近位端部は自由端のままであってもよいし、あるいは他の手段により結合又は固定されてもよい。
【0175】
図41A~41Iは、縫合部ロック給送サブシステム370及びその構成要素の種々の図を示している。
図41Aは、サブシステム370の遠位端部の斜視図である。
図41Bは、サブシステム370の近位端部の斜視図である。
図41Cは、サブシステム370の遠位端部の部分分解図である。
図41Dは、切断アセンブリの遠位端部の斜視図である。
図41E,41Fは、サブシステム370の切断アセンブリ部分の側面図である。
図41Gは、縫合部ロック376及び縫合部ロック376と係合するように構成されたトルクドライバ388の遠位端部の側面図である。
図41H,41Iは、縫合部ロック376の近位端部及び遠位端部をそれぞれ図示している。
【0176】
縫合部ロック給送サブシステム370は、縫合部311,344の双方(又は付加的な縫合部)に亘って、縫合部311,344を互いに固定する縫合部ロック376を前進(例えば、スライド)させるように構成されてもよい。縫合部311,344に張力を加え、縫合部ロック376と各々の組織アンカ302,340との間における縫合部311,344の各々の長さを調節するように、縫合部311,344の各々は近位方向に後退してもよい。新生腱索の埋込部の長さ及び張力が最適化されると、縫合部311,344が縫合部ロック376に対して移動しないように、縫合部ロック376は、縫合部311,344の長さを固定するためにロックされる。縫合部311,344は、縫合部ロック376に近接した点において切断されてもよい。縫合部311,344は、縫合部ロック376を給送した同一の縫合部ロック給送サブシステム370により切断されてもよい。他の実施例では、縫合部ロックが所定の位置にロックされた後、別個の切断装置を給送カテーテル100に挿入してもよい。
【0177】
図38Gは、心室アンカ縫合部311及び弁尖縫合部344に亘る縫合部ロック376の前進を示している。縫合部ロック給送サブシステム370は、給送カテーテル100を通して前進してもよいし、縫合部ロック376を縫合部311,344の遠位方向に沿って押して、縫合部311,344の近位部分を縫合部ロック376の遠位端部において近接させてもよい。縫合部ロック376は、保持カテーテル373により縫合部に沿って前進する。保持カテーテル373の遠位端部は、保持エレメント377(
図41C)に連結されてもよい。保持エレメントは、フランジ371又は縫合部ロック376と係合するように構成された他の機械的特徴部を含んでいてもよい。例えば、フランジ371は、縫合部ロック376近位端部における凹部(リセス)に挿入されてもよい。一実施例では、保持カテーテル373の回転及び/又は保持カテーテル373の軸方向に実質的に直交した移動を用いて、保持カテーテル373を縫合部ロック376から外してもよい。縫合部311,344は、縫合部ロック376を通るように各々の組織アンカから延び、
図41Iに示す縫合部ロック376の遠位面における遠位チャネル395から進入し、
図41Hに示す縫合部ロック376の近位面における近位チャネル394から退出する。縫合部311,344は、縫合部ロック376の近位のカッターヘッド375におけるチャネルを通り、保持カテーテル373の外側に沿って、給送カテーテル100を通って延びてもよい。カッターヘッド375は、カッターカテーテル372の遠位端部に連結されてもよい。2つのカテーテル372,373が互いに延長可能又は後退可能であるように、保持カテーテル373はカッターカテーテル372の内部ルーメンを通って延びてもよい。
【0178】
縫合部311,344が縫合部ロック376内でロック(固定)されると、縫合部311,344の近位端部は、縫合部ロックの近位面に隣接して切断され得る。カッターヘッド375に連結されたカッターカテーテル372を縫合部ロック376の近位面に向けて前進させることにより、縫合部311,344を切断してもよい。
図41E~41Fに概略的に示すように、カッターヘッド375が保持エレメント377に向けて保持カテーテル373に沿って前進するとき、カッターヘッドは、縫合部311,344を保持エレメント377に配置された切断ブレード379に近接させる。縫合部311,344を保持しているカッターヘッド375におけるチャネルがブレード379によって徐々に空間的に占有されるように、カッターヘッド375は保持エレメント377に亘って前進するように構成されている。ブレード379がカッターヘッド375のチャネルに押し込まれると、ブレード379は、縫合部311,344を剪断する。縫合部311,344に対する近位張力の適用は、縫合部311,344の切断を促進する。他の実施例では、縫合部311,344を切断するように、異なる作動(例えば、切断カテーテルの回転)を構成してもよい。一実装例では、2つを超える縫合部を採用してもよく、縫合部ロック376内でロックされて、同じ方法で縫合部ロック給送サブシステム370により切断されてもよい。一実施例では、保持エレメント377に亘るカッターヘッド375の前進は、縫合部ロック376からの保持カテーテル373の非係合を促進する。例えば、カッターヘッド375は、縫合部ロック376を安定させるように構成された遠位位置まで前進してもよく、これにより、保持カテーテル373が軸方向に及び/又は回転方向に縫合部ロック376から外れることが可能となる。
【0179】
図41Gは、縫合部ロック376(外側ケーシング/シェルを取り除いた状態で示す)の一例の側面図である。本明細書に記載したように、縫合部は、遠位端部から近位端部まで縫合部ロック376を通って延びていてもよい。縫合部ロック376は、ねじの回転方向に応じてプッシュウェッジ384を遠位方向に前進させるかあるいは近位方向に後退させるように構成されたねじ382を有していてもよい。ねじ382は、トルクシャフト388により回転してもよい。トルクシャフト388は、ドライバヘッドを有していてもよい。このドライバヘッドは、トルクシャフト388の回転によりねじ382が回転するように、縫合部ロック376の近位端部に配置された凹部381(例えば、
図41Hに示すように、多角形の凹部又は他の非円形の凹部)に嵌合する。トルクシャフト388は、保持カテーテル373の内部ルーメンを通って延びてもよい。トルクシャフト388は、ノブ398又はサブシステムハンドル396の近位端部に配置された他の作動機構によって、近位端部において回転され得る。ハンドル396は、止血弁397を有していてもよい。一実装例では、縫合部311,344は、止血弁397を通過する。
【0180】
トルクシャフト388によるプッシュウェッジ384の前進により、ランプ又は傾斜面386がスプリングピン388などの一つ又は複数のばねを徐々に圧縮させる。一つ又は複数のスプリング388の圧縮により、クランプ390が縫合部311,344に対して押し下げられ、2つの対向する面の間で縫合部311,344が圧縮される。一実施例では、クランプ390及び対向面392は、離散的な増分で互いに噛み合うように構成されたノッチ付き面を有してもよい。噛み合ったノッチ付き面は、縫合部ロック376から近位方向に又は遠位方向に引き込まれないように、対向する面の間における縫合部311,344の保持を強化してもよい。一実施例では、トルクシャフトを反対方向に回転させることにより締め付けを戻すことができる。
【0181】
縫合部ロックが縫合部311,344に亘って適切に配置され、所定位置にロックされたときに、縫合部311,344は、本明細書に記載したように切断されてもよい。
図38Hは、縫合部311,344が切断された後の縫合部ロック給送サブシステム370の後退を示している。縫合部ロック給送サブシステム370が給送カテーテル100から取り除かれると、給送カテーテル100が体から引き抜かれる。
【0182】
図42は、2つの乳頭筋の間で相対的に厚い組織を有する心室の一部に埋め込まれたらせん状アンカ110を概略的に示している。本明細書に記載したように、埋め込まれた新生コード構成、オプションの新生乳頭筋及び/又はらせん状アンカは、周囲の生来の腱索の経路及び/又は生来のコードの初期の経路と実質的に平行又は同心の長手方向軸に沿って配置されてもよい。特定の実施例では、埋め込まれた新生コード構成、オプションの新生乳頭筋及び/又はらせん状アンカは、生来のコードの初期の経路及び/又は周囲の生来の腱索の経路に対する平行位置から5°,10°又は15°以内にある長手方向軸に沿って配置される。
【0183】
図43A~43Cは、特に
図38E,38Fを参照して本明細書で説明したような綿撒糸の例を概略的に示している。
図43Aは、右の羽根部341,342のシートなど2つのフラットシートの間に縫合部344の遠位端部(破線で示す)を取り付けることによって形成された綿撒糸340を概略的に示している。
図43Bは、
図43Aに示した軸B-Bに沿った綿撒糸340の断面を示している。一実施例では、縫合部344は、2つのシートの間に挿入され(例えば、実質的にシートの中央を下方に)、プレスされ、かつ/又は前記3つの構成要素を一緒に(例えば、熱及び/又は圧力下で)結合するように積層されてもよい。少なくとも1つの層は、部分的に焼結されてもよい。縫合部344は、縫合部の引き裂きに対する抵抗を向上させるために平坦化及び/又は高密度化されてもよい。シートは、平坦なポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート(例えば、薄い未硬化発泡PTFE(ePTFE)シート)であってもよいし、他の適切な材料から形成されてもよい。一実装形態では、弁尖縫合部344は、ジグザグ又はS字形の構造などの代替構造のシートの間に配設されてもよい。
図43Cは、縫合部344の近位尾端部が通る複数の開口部343を有する、
図43Aの綿撒糸340を示している。一実施例では、一つ又は複数の開口部343は、本明細書に記載したように、縫合部344を僧帽弁弁尖に対して固定するように構成された折り畳み可能な構造を形成するため、種々の構成で綿撒糸を通して形成されてもよい。
図43Cは、縫合部344の両側で交互に配置された開口部343を示している。一実施例では、開口部343は、縫合部344(例えば、羽根部341又は羽根部342)と同一の側に形成される。一実施例では、開口部343は、縫合部344を通して形成される。開口部343は、綿撒糸340の中心に沿って配置され得る。開口部343は、縫合部344の長さに沿って配置され得る(例えば、直線を形成する)。縫合部344は、2つの対向するシートの間で少なくとも部分的に平坦化され、これにより、縫合部344を通る開口部343の配置が促進される。前述した配置を含む開口部343の種々の組み合わせを用いてもよい。
【0184】
本開示は特定の実施例及び例を記載しているが、上記のシステム及び方法の種々の態様は、さらに別の実施例又は許容可能な実施例を形成するように、異なる組み合わせとしてもよいし、かつ/あるいは修正してもよい。そのような修正及び変形の全てが本開示の範囲内に含まれる。実際に多種多様な設計及び手法が可能であり、これらは本開示の範囲内に含まれる。
【0185】
また、本開示の範囲内に含まれ、上記又は本明細書の他の箇所に明示的に列挙していない複数の実施例が存在し得るが、本開示は、本開示により説明する範囲内に含まれる全ての実施例を含む。さらに、本開示は本明細書のある箇所に開示されている任意の構造、材料、ステップ又は他の特徴と、本明細書の他の箇所に開示されている任意の他の構造、材料、ステップ又は他の特徴とを任意に組み合わせてなる実施例を含む。
【0186】
さらに、別々の実施例の文脈において本開示に記載されている特定の特徴は、単一の実施例において組み合わせて実施され得る。または、単一の実施例の文脈で記載されている様々な特徴は、別々に又は任意の適切な組み合わせで複数の実施例で実施され得る。さらに、特定の組み合わせにより特徴が作用すると記載しているが、クレームに記載した組み合わせの一つ又は複数の特徴は、必要に応じて組み合わせから独立させてもよく、組み合わせは下位の組み合わせ又は下位の組み合わせの変形として主張され得る。
【0187】
本開示の目的のため、特定の態様、利点及び特徴を本明細書に記載している。必ずしもそのような態様、利点及び特徴の全てが任意の特定の実施例に従って実現されるわけではない。当業者であれば、本明細書で教示又は示唆するような他の利点を必ずしも実現することなく、本明細書で教示する1つの利点又は一群の利点を実現する方法で本開示を実施することができることを理解されるであろう。
【0188】
種々の実施例に関連した任意の特定の特徴、態様、方法、特性、品質、属性、要素等の本明細書における開示は、本明細書に記載した他の全ての実施例において使用することができる。また、本明細書に記載した任意の方法は、列挙したステップを実施するのに適した任意の装置を使用して実施し得る。
【0189】
さらに、構成要素及び動作を特定の配置又は順序で図示するか又は明細書に記載しているが、そのような構成要素及び動作は、望ましい結果を得るために図示、記載した特定の配置及び順序で配置又は実行される必要はないし、全ての構成要素及び動作を含む必要はない。図示又は説明していない他の構成要素及び動作は、実施例及び例に組み込まれ得る。例えば、一つ又は複数の付加的な動作を説明した動作のうちのいずれかの前、後、同時に又は動作の間に実行してもよい。さらに、他の実施例では、動作の並べ替え又は再配置を行ってもよい。また、上記実施例における様々なシステム構成要素の分離は、全ての実施例においてそのような分離を必要とするものと理解されるべきではなく、説明した構成要素及びシステムは概して単一の製品に統合されるか、あるいは複数の製品にパッケージ化され得る。
【0190】
すなわち、例示的な種々の実施例及び例を本明細書に記載している。上記実施例及び例に関連させてシステム及び方法を開示しているが、本開示は、具体的に開示した実施例以外の他の代替的な実施例及び/又は実施例の他の用途並びに修正及び等価物に及ぶものである。本開示は、開示した実施例における種々の特徴及び態様を互いに組み合わせてもよく又は置換してもよいことを明確に意図している。したがって、本開示の範囲は、開示した特定の実施例に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲及びこれらの均等物の全範囲を公正に読むことによってのみ決定されるべきである。