(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】順送プレス加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 19/08 20060101AFI20220906BHJP
B21D 28/02 20060101ALI20220906BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20220906BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20220906BHJP
B30B 13/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B21D19/08 D
B21D28/02 C
B21D22/26 A
B21D22/20 E
B30B13/00 F
(21)【出願番号】P 2020024706
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000144821
【氏名又は名称】アピックヤマダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135677
【氏名又は名称】澤井 光一
(72)【発明者】
【氏名】月岡 敏幸
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-219613(JP,A)
【文献】特開平08-232944(JP,A)
【文献】特開平04-017929(JP,A)
【文献】特開2017-163703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 19/08
B21D 28/02
B21D 22/26
B21D 22/20
B30B 13/00
B21D 43/04
H02K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔を順送プレス加工する方法であって、
前記金属箔がアモルファス箔材であり、
前記アモルファス箔材は、パイロット孔の開口端部においてフランジ部を有し、
前記フランジ部における板厚が、前記パイロット孔の周辺領域の板厚よりも薄
く、
前記フランジ部の先端部における板厚が、前記周辺領域の板厚の0.7倍以上かつ0.9倍以下である、
順送プレス加工方法。
【請求項2】
前記パイロット孔を形成することは、前記アモルファス箔材にバーリング加工しながら前記フランジ部を絞り加工することを含む、
請求項1に記載の順送プレス加工方法。
【請求項3】
前記周辺領域の板厚が、15μm以上かつ40μm以下である、
請求項1
又は2に記載の順送プレス加工方法。
【請求項4】
前記アモルファス箔材のビッカース硬さが、700以上かつ900以下である、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の順送プレス加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔の順送プレス加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
順送プレス加工では、帯状の材料にパイロット孔を形成し、該パイロット孔に金型のパイロットピンを挿通して材料と金型とを位置決めする。パイロット孔の強度が低く変形すると、金型と材料との正確な位置決めができないため、パイロット孔の変形を抑えることが望まれている。パイロット孔の変形を抑えるため、例えば、バーリング加工によってパイロット孔の開口端部にフランジ部を形成し、材料とパイロットピンとの接触面積を大きくすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような従来構成においては、例えば、薄くて硬い金属箔に十分な強度を有するパイロット孔を形成することが難しい場合があった。そこで、本発明は、パイロット孔の強度を確保することにより位置精度を向上させることができる順送プレス加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る順送プレス加工方法は、金属箔を順送プレス加工する方法であって、金属箔がアモルファス箔材であり、アモルファス箔材は、パイロット孔の開口端部においてフランジ部を有し、フランジ部における板厚が、パイロット孔の周辺領域の板厚よりも薄い。
【0006】
この態様によれば、フランジ部における板厚がパイロット孔の周辺領域の板厚よりもさらに薄くなるように構成することにより、薄くて脆いアモルファス箔材であってもフランジ部を有したパイロット孔を形成できる。パイロット孔の周囲がアモルファス箔材の厚み方向に張り出すことによってパイロット孔の強度が増す。さらに、アモルファス箔材とパイロットピンとの接触面積が大きくなる。従来は、塑性加工に不向きな薄くて硬いアモルファス箔材を張り出すように加工してパイロット孔を補強するという発想は皆無だった。この着想により、パイロット孔の変形を抑えることができるため、アモルファス箔材に順送プレス加工を適用できるようになる。
【0007】
上記態様において、パイロット孔を形成することは、アモルファス箔材にバーリング加工しながらフランジ部を絞り加工することを含んでいることが好ましい。
【0008】
この態様によれば、フランジ部を有したパイロット孔をアモルファス箔材に好適に形成できる。
【0009】
上記態様において、フランジ部の先端部における板厚が、周辺領域の板厚の0.7倍以上かつ0.9倍以下であることが好ましい。
【0010】
この態様によれば、フランジ部を有したパイロット孔をアモルファス箔材に好適に形成できる。
【0011】
上記態様において、周辺領域の板厚が、15μm以上かつ40μm以下であってもよい。
【0012】
この態様のように薄くて脆いアモルファス箔材であっても、上記態様の順送プレス加工を適用できる。
【0013】
上記態様において、アモルファス箔材のビッカース硬さが、700以上かつ900以下であってもよい。
【0014】
この態様のように硬くて脆いアモルファス箔材であっても、上記態様の順送プレス加工を適用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アモルファス箔材に適用できる順送プレス加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の順送プレス加工に用いられる金型の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたアモルファス箔材の一例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示されたパイロット孔を拡大して示す断面図である。
【
図4】
図4は、バーリング加工のための下穴を形成する工程を説明する断面図である。
【
図5】
図5は、バーリング加工しながらフランジ部を絞り加工する工程を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。本発明の一実施形態に係る順送プレス加工方法は、アモルファス箔材に対してバーリング加工しながら絞り加工することが特徴の一つである。
【0018】
例えば、リードフレームに用いられる銅合金や鉄系の合金のような軟らかい材料は、バーリング加工時に材料が板厚の例えば0.7倍程度に延びてフランジ部が割れにくい。アモルファス箔材は硬くて延びにくいため、フランジ部が割れやすくバーリング加工が困難であると考えられていた。アモルファス箔材は、バーリング加工に限らず塑性加工に不向きである。そのため、バーリング加工時に絞り加工を併用するしごきバーリング加工は、塑性加工が複雑になる分アモルファス箔材にとってなおさら不利と考えられていた。
【0019】
本発明は、バーリング加工時にあえて絞り加工を併用することで、アモルファス箔材であってもフランジ部が割れにくいという新たな知見に基づいている。以下、図面を参照して本発明について詳しく説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態の順送プレス加工に用いられる金型(順送型)1の一例を示す断面図である。図示した例では、金型1がダイセット付き金型として構成され、ガイドポスト(アウターガイド4)によって位置決めされた上下のダイセットプレート(パンチホルダ2、ダイホルダ3)の内側に主要なプレート(バッキングプレート21,31、パンチプレート22、ストリッパプレート23、ダイプレート32等)が固定されている。
【0021】
以下の説明において、パンチホルダ2に固定された各種プレートとその部品等をまとめて上型20と呼び、ダイホルダ3に固定された各種プレートとその部品等をまとめて下型30と呼ぶことがある。金型1の構成は、図示した例に限定されず、公知の構成を適宜選択できる。
【0022】
上型20に含まれるパンチプレート22には、抜き、曲げ、絞り等の加工を行う各種パンチ24、パイロットピン25等が固定されている。下型30に含まれるダイプレート32には、パンチ24の受け孔が形成されたダイインサート24等が固定されている。ダイプレート32ではなく、バッキングプレート31にダイインサート24を固定してもよい。その場合、ダイプレート32を省略してもよい。ストリッパプレート23は、パンチ24を案内し、プレス加工される材料をダイインサート24に押さえ込む。バッキングプレート21,31は、パンチ24やダイインサート34の荷重を受け止めてダイセットの変形を抑えている。
【0023】
本発明の一実施形態に係る順送プレス加工方法は、プレス加工される材料がアモルファス箔材10であることが特徴の一つである。アモルファス箔材10は、例えば、鉄を主成分にしたアモルファス金属材料の金属箔である。アモルファス箔材10は、主成分の鉄に加えて、シリコン、ボロン等、他の元素を含有していてもよい。似たような物性であれば、鉄以外を主成分にしたアモルファス金属材料の金属箔であってもよい。
【0024】
アモルファス箔材10は、JIS Z2244:2009に準拠したビッカース硬さが800程度(700以上かつ900以下)であり、ステンレス箔材等と比べて硬くて脆いため塑性加工に不向きである。プレス加工前のアモルファス箔材10の板厚t0は、例えば15μm以上かつ40μm以下である。図示した例では、25μmである。このような板厚t0のアモルファス箔材10は、パイロット孔15が変形しやすいため、従来の方法では順送プレス加工を適用できなかった。
【0025】
図2は、
図1に示されたアモルファス箔材10の一例を示す平面図である。図示した例では、プレス加工品としてモーターの固定子鉄心用の薄板を加工している。図示した薄板を積層すると固定子鉄心を構成できる。アモルファス箔材10を積層した固定子鉄心は、鉄心の内部で流れる電流(鉄損)が通常の鉄の1/10と小さいため、高効率のモーターを構成できる。
【0026】
本実施形態により製造されるプレス加工品は、図示した例に限定されず、例えば、モーターの回転子鉄心を構成する薄板であってもよいし、変圧器等の静止誘導機器の積層鉄心を構成する薄板であってもよい。アモルファス箔材10の物性に好適なプレス加工品を適宜選択できる。
【0027】
前述したパイロットピン25は、順送プレス加工に含まれる一連のプレス加工で半加工製品を位置決めするために使用される。プレス加工される材料には、最初又は二回目のプレス加工でパイロットピン25を挿通するためのパイロット孔15が形成される。パイロット孔25のプレス加工については、
図4及び
図5を参照して後で説明する。
図2に示すように、パイロット孔15は、帯状のアモルファス箔材10の長手方向に沿って等間隔に複数形成されている。
【0028】
図3は、
図2に示されたパイロット孔15を拡大して示す断面図である。パイロット孔15の直径は、例えば1.5mmから3.0mm程度である。パイロット孔15は、その開口端部においてフランジ部16を有している。ここで、フランジ部16とは、バーリング加工(穴フランジ加工)等の加工によって形成された立ち上がる縁の部分を指す。フランジ部16の高さhは、後述する下穴17の大きさと絞り加工の程度によって調整できる。図示した例では、フランジ部16の高さhが周辺領域14の板厚t0の4倍程度である。
【0029】
パイロット孔15の周辺には、アモルファス箔材10がほとんど変形していない周辺領域14が区画されている。周辺領域14における板厚t0は、プレス加工前のアモルファス箔材10の板厚と略同一であり、例えば25μmである。パイロット孔15の開口端部に形成されたフランジ部16は、先端に向かうに従い僅かに板厚が薄くなる。フランジ部16の先端及びその近傍の部分を含む先端部は、パイロット孔15の周辺領域14の板厚t0よりも薄く形成されている。
【0030】
先端部におけるフランジ部16の板厚t1は、周辺領域14の板厚t0の0.7倍以上かつ0.9倍以下が好ましい。図示した例では、フランジ部16の先端部における板厚t1が、周辺領域14の板厚t0の0.8倍に形成されている。先端部として測定した部位は、例えば、フランジ部16の先端から基端側へフランジ部16の高さhの10%ずれた部位である。
【0031】
図4は、バーリング加工のための下穴17を形成する工程を説明する断面図であり、
図5は、バーリング加工しながらフランジ部を絞り加工する工程を説明する断面図である。
図4及び
図5に示すように、下穴17の抜き加工を行うパンチ24Aとバーリング加工を行うパンチ24Bとが別々であると、同一のパンチで下穴17の抜き加工とバーリング加工とを行う場合と比べて加工精度に優れたパイロット孔15を形成できる。なお、同一のパンチで下穴17の抜き加工とバーリング加工とを行うこともできる。図示した例では、下穴17の直径が2.300mmであり、パイロット孔15が直径2.510mmである。
【0032】
前述したように、バーリング加工しながらフランジ部を絞り加工することにより、アモルファス箔材10であってもフランジ部16が割れにくいパイロット孔15を形成できる。
図5に示すように、バーリング加工を行うパンチ24Bによってダイインサート34の受け孔に押し込まれたアモルファス箔材10は、パンチ24Bの外周面とダイインサート34の受け孔の内周面とによって絞り加工される。
【0033】
絞り加工の程度は、パンチ24Bとダイインサート34とのクリアランスt2によって任意に調整できる。前述したように、フランジ部16の先端部における板厚t1は、周辺領域14の板厚t0の0.7倍以上かつ0.9倍以下が好ましい。フランジ部16の先端部における板厚t1が、周辺領域14の板厚t0の0.7倍未満であると、絞り加工による変形量が大きすぎてフランジ部16が割れやすい。フランジ部16の先端部における板厚t1が、周辺領域14の板厚t0の0.9倍超であると、絞り加工が不十分であるためフランジ部16が割れやすい。
【0034】
本実施形態の順送プレス加工方法によれば、割れにくいフランジ部16を形成してアモルファス箔材10に順送プレス加工方法を適用できる。
【0035】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…金型、2…パンチホルダ、3…ダイホルダ、4…アウターガイド、10…アモルファス箔材、14…周辺領域、15…パイロット孔、16…フランジ部、17…下穴、20…上型、21…バッキングプレート、22…パンチプレート、23…ストリッパプレート、24,24A,24B…パンチ、25…パイロットピン、30…下型、31…バッキングプレート、32…ダイプレート、34,34A,34B…ダイインサート、h…フランジ部の高さ、t0…周辺領域の板厚、t1…フランジ部の板厚、t2…絞り加工のクリアランス。