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特許7136852糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20220906BHJP
   C12C 11/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C12C5/02
C12C11/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020127801
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2021006027
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2021-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】廣政 あい子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優
(72)【発明者】
【氏名】米田 俊浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 景平
(72)【発明者】
【氏名】土屋 友理
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-154438(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196265(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/055652(WO,A1)
【文献】特開平05-068529(JP,A)
【文献】特開2009-142233(JP,A)
【文献】特開2017-216999(JP,A)
【文献】特開2019-126298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
A23L
C12G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芽を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.136mg/mL以上であり、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度が0.02~0.15g/100mLである、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
麦芽使用比率が50%以上である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
風味が改善された、麦芽を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.136mg/mL以上に調整し、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.02~0.15g/100mLに調整することを含んでなる製造方法。
【請求項4】
ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造工程において、麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを添加する工程並びに/或いはイソマルトースおよび/またはパノースを添加する工程を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
芽を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.136mg/mL以上に調整し、前記ペプチドが麦芽を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.02~0.15g/100mLに調整することを含んでなる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料に関し、より詳細には分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度とイソマルトースおよびパノースの合計濃度が所定濃度に調整された、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりにより、糖質含有量が低減されたビールテイスト飲料が求められている。これまでに、糖質含有量が低減されたビールテイスト飲料を目指して様々な技術が開発されてきた。
【0003】
例えば、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料を安定的に製造する技術として、資化性単糖類と資化性二糖類を糖源として用いる技術(特許文献1)が知られている。また、糖質ゼロのビールテイスト飲料を微生物汚染リスクが著しく低い方法で製造する技術として、糖質原料中のオリゴ糖含有率を特定の範囲で使用する技術(特許文献2)が知られている。また、飲料中の分子量800~1500Daのペプチドの比率を特定範囲内に調整することで、ビールテイスト発酵アルコール飲料において味の厚みを実現する技術(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-131202号公報
【文献】特開2012-157323号公報
【文献】特開2019-154438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
糖質が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料のうち糖質濃度が0.5g/100mL未満のいわゆる「糖質ゼロ」のビールテイスト発酵アルコール飲料は、かなりの量の糖質が削減されているため、特に、水っぽい、薄い香味印象となってしまう。特許文献3では、特定分子量のペプチドの比率を調整することにより味の厚みを付与することができるが、その一方で本発明者らは、ペプチド濃度の増加に伴い、雑味も増加傾向にあるという課題を認識するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、味の厚みが実現され、かつ、雑味が低減された糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、糖質濃度が0.5g/100mL未満まで低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において、分子量800~1500Daのペプチド濃度および非資化性糖濃度を特定範囲内に調整することで、当該ビールテイスト発酵アルコール飲料において前記ペプチドに起因する雑味を低減しつつ、味の厚みを実現できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.136mg/mL以上であり、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度が0.01~0.15g/100mLである、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
[2]麦芽使用比率が50%以上である、上記[1]に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
[3]風味が改善された、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.136mg/mL以上に調整し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.01~0.15g/100mLに調整することを含んでなる製造方法。
[4]ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造工程において、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを添加する工程並びに/或いはイソマルトースおよび/またはパノースを添加する工程を含む、上記[3]に記載の製造方法。
[5]麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.136mg/mL以上に調整し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.01~0.15g/100mLに調整することを含んでなる方法。
【0009】
本発明によれば、糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料において、分子量800~1500Daのペプチド濃度と非資化性糖濃度を特定範囲内に調整することによって、前記ペプチドに由来する雑味を低減しつつ、味の厚みが実現された糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】参考例2において実施した、HPLC分析用ゲル濾過法の保持時間と既知物質の分子量から作成した検量線を示した図である。
図2】実施例1の官能評価結果を示した図である。分子量800~1500Daのペプチド画分の添加と非資化性糖の添加による味の厚みや雑味に与える影響を官能評価スコアで示した。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明において「ビールテイスト」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを意味する。
【0012】
本発明において、「ビールテイスト発酵アルコール飲料」は、炭素源、窒素源、および水などを原料として酵母により発酵させたビールテイストの発酵アルコール飲料であり、ビール、発泡酒および原料として麦芽を使用するビールや発泡酒にアルコールを添加してなる飲料(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類されるリキュール系新ジャンル飲料)が挙げられる。
【0013】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とするものであり、いずれの麦芽使用比率をも取ることができるが、例えば、麦芽使用比率を25%未満、25%以上、50%未満、50%以上、60%以下、70%以下、80%以下または95%以下とすることができ、これらの上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。本明細書において「麦芽使用比率」とは、醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。
【0014】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、糖質濃度が低減された糖質ゼロの飲料であり、具体的には、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の糖質濃度は、0.5g/100mL未満である。
【0015】
糖質濃度の測定は公知の方法によって行うことができ、当該試料の質量から、水分、タンパク質、脂質、灰分および食物繊維量を除いて算出する方法(栄養表示基準(平成21年12月16日 消費者庁告示第9号 一部改正)参照)に従って行うことができる。
【0016】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では、飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度の下限値(以上または超える)を0.136mg/mL、0.14mg/mL、0.15mg/mL、0.20mg/mLまたは0.30mg/mLとすることができ、また、上限値(以下または未満)を2.50mg/mL、2.00mg/mL、1.50mg/mL、1.20mg/mL、1.00mg/mL、0.70mg/mL、0.65mg/mLまたは0.60mg/mLとすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を、例えば、0.136~2.50mg/mL、0.20~2.00mg/mL、0.20~1.50mg/mLまたは0.30~1.50mg/mLとすることができる。
【0017】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチド質量に対する飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド質量の比率(百分率)を特定範囲内とすることができる。当該比率は、飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度(mg/mL)をHPLC分析用ゲル濾過法で分画された飲料由来の全ペプチド濃度(mg/mL)で除することで算出することができる。本発明において、当該ペプチド比率の下限値(以上または超える)は、味の厚みの付与の観点から15%、16%または17%とすることができ、また、上限値(以下または未満)は、45%、35%または25%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、当該ペプチド比率の範囲は15~45%、16~45%、17~45%、17~25%または17%以上25%未満とすることができる。
【0018】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、飲料中のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する、飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度(mg/mL)の比率の下限値(以上または超える)を0.02(好ましくは0.03)とすることができ、また、上限値(以下または未満)を0.50(好ましくは、0.30、0.15、0.12、0.10または0.08)とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、飲料中のOE濃度(°P)に対する飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度(mg/mL)の比率を0.02~0.50(好ましくは0.03~0.30)とすることができる。
【0019】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料中のOE濃度の下限値(以上または超える)は2°P(好ましくは4°P)とすることができ、また、上限値(以下または未満)を20°P(好ましくは14°P、より好ましくは10°P)とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料中のOE濃度を2~20°P(好ましくは4~14°P)とすることができる。本発明において「オリジナルエキス濃度」は、市販の機器(例えば、アルコライザー(アントンパール社製))を用いて測定することができる。なお、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料では「オリジナルエキス濃度」を「原麦汁エキス濃度」と言い換えることができる。
【0020】
飲料中のペプチドの分子量は高速液体クロマトグラフィーによるゲル濾過法(本明細書において「HPLC分析用ゲル濾過法」ということがある)により測定される。具体的には、HPLC分析用ゲル濾過法の検量線(例えば、図1)を用いて保持時間から分子量を算出し、保持時間により分子量の異なるサンプルを分取できる。HPLC分析用ゲル濾過法による分子量の測定の具体例は後記参考例2に示される通りである。また、ペプチドの定量はLowry法(ローリー法)により実施することができる。
【0021】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料ではまた、飲料中のイソマルトースおよびパノースの合計濃度の下限値(以上または超える)を0.01g/100mL、0.02g/100mL、0.03g/100mL、0.04g/100mL、0.05g/100mLとすることができ、また、上限値(以下または未満)を0.15g/100mL、0.14g/100mL、0.13g/100mL、0.12g/100mL、0.11g/100mL、0.10g/100mLとすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、飲料中のイソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.01~0.15g/100mL、0.01~0.10g/100mL、0.02~0.15g/100mLまたは0.02~0.10g/100mLとすることができる。なお、イソマルトースおよびパノースの合計濃度は、飲料中のイソマルトースの濃度とパノースの濃度を足し合わせて算出することができる。
【0022】
飲料中のイソマルトースおよびパノースの濃度はイオンクロマトグラフ法により測定することができる。
【0023】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料中のアルコール含有量の下限値(以上または超える)を1v/v%、2v/v%または3v/v%とすることができ、また、上限値(以下または未満)を9v/v%、8v/v%または7v/v%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、例えば、飲料中のアルコール含有量を1~9v/v%、2~8v/v%、3~7v/v%とすることができる。
【0024】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、糖質濃度が低減されているにもかかわらず、味の厚みが付与され、かつ、分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドに起因する雑味が低減していることを特徴とする。ここで、「味の厚み」とは、味の広がり、複雑さ、ボディ感付与等により認識される香味感覚を意味する。「雑味」とは、渋味、エグ味および収斂味を意味する。
【0025】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、飲料中の糖質濃度が所定の範囲内に低減され、かつ、飲料中の800~1500Daのペプチド濃度とイソマルトースおよびパノースの合計濃度がそれぞれ所定の範囲内に調整される限り、通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる。
【0026】
例えば、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、得られた発酵液を低温にて貯蔵した後、濾過工程により酵母を除去することによりビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。なお、ビールテイスト発酵アルコール飲料のうちオールモルトビールは、麦芽、ホップ、水から製造できることはいうまでもない。
【0027】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と醸造用水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。また、麦汁は、糖化工程中に市販の酵素製剤を添加して作製することもできる。例えば、タンパク分解のためにプロテアーゼ製剤を、糖質分解のためにα-アミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等を、繊維素分解のためにβ-グルカナーゼ製剤、繊維素分解酵素製剤等をそれぞれ用いることができ、あるいはこれらの混合製剤を用いることもできる。
【0028】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造の一態様においては、糖化工程または発酵工程において、エンド型プロテアーゼ活性が高い麦芽および/またはエンド型プロテアーゼ活性を保有する酵素製剤をタンパク分解のために使用することができ、また、エンド型プロテアーゼの至適な糖化工程の時間を延長することもできる。このような工程を実施することによりビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を増加させて、所定値の範囲内に調整することができ、ひいては糖質ゼロでありながら、味の厚みが付与されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば糖化工程または発酵工程においてエンド型プロテアーゼ活性が高い麦芽および/またはエンド型プロテアーゼを含む酵素製剤を使用することを含んでなる、ビールテイスト飲料の製造方法が提供される。上記の麦芽や酵素製剤の酵素活性の特徴は、エンド型プロテアーゼ活性に基づいて特定することができる。
【0029】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造の一態様においてはまた、糖化工程においてグルコアミラーゼ酵素製剤やグルコアミラーゼ活性を有する酵素製剤を糖質分解のために使用することができ、また、糖化時間を調整したり、醪濃度を調整したりすることができ、これらの全部または一部を実施することにより、ビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれるイソマルトースおよびパノースの濃度を増加させて、所定値の範囲内に調整することができ、ひいては分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドによる味の厚みの付与をさらに強めるとともに、該ペプチドに起因する雑味が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。
【0030】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、麦芽および未発芽の麦類のいずれかまたは両方を原料の少なくとも一部とするものであり、好ましくは、麦芽または麦芽および未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするものである。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料においては、麦芽として大麦麦芽を原料の一部として使用することができる。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料においてはまた、未発芽の麦類として、未発芽大麦(エキス化したものを含む)や、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を原料として使用することができる。
【0031】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽および未発芽の麦類以外に、米、とうもろこし、大豆、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)、果実(例えば、果汁、濃縮果汁)、コリアンダーまたはその種、香辛料またはその原料(例えば、こしょう、シナモン、さんしょう)、ハーブ(例えば、カモミール、セージ、バジル)、野菜(例えば、かんしょ、かぼちゃ)、そばまたはごま、含糖質物(例えば、ハチミツ、黒糖)、食塩、みそ、花、茶、コーヒー、ココア(茶、コーヒーおよびココアはその調製品を含む)、海産物(例えば、牡蠣、こんぶ、わかめ、かつお節)等の副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。
【0032】
本発明においては、穀物類(例えば、麦芽および/または未発芽の麦類や大豆)から分子量800~1500Daのペプチドが含まれる画分を調製し、該画分を糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量800~1500Daのペプチド濃度を所定値の範囲内に調整し、かつ、非資化性糖(イソマルトースおよび/またはパノース)を前記ビールテイスト飲料に添加することによって該非資化性糖濃度を所定値の範囲内に調整することができ、ひいては糖質ゼロでありながら、味の厚みが付与され、かつ、前記ペプチドに起因する雑味が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば、穀物類から分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが含まれる画分を調製し、該画分を糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料に添加すること、および、非資化性糖を前記ビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することを含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法が提供される。上記ペプチド画分および上記非資化性糖のビールテイスト発酵アルコール飲料への添加は、該飲料の製造工程(例えば、発酵液への調合工程)において行うことができる。なお、穀物類由来の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドは、例えば、穀物類をペプチダーゼ等のタンパク分解酵素で加水分解処理することにより調製することができ、大豆タンパク加水分解物のような穀物類のタンパク加水分解物から得てもよい。また、非資化性糖のイソマルトースとパノースは食品素材から得たものや市販のものを使用することができる。
【0033】
本発明においてはまた、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、該飲料から分子量800~1500Daのペプチドが含まれる画分を調製し、該画分を糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量800~1500Daのペプチド濃度を所定値の範囲内に調整し、かつ、非資化性糖(イソマルトースおよび/またはパノース)を前記ビールテイスト飲料に添加することによって該非資化性糖濃度を所定値の範囲内に調整することができ、ひいては糖質ゼロでありながら、味の厚みが付与され、かつ、前記ペプチドに起因する雑味が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。すなわち、本発明によれば、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し、次いで、前記飲料から分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドが含まれる画分を調製し、該画分を糖質濃度が0.5g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料に添加すること、および、非資化性糖(イソマルトースおよび/またはパノース)を前記ビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することを含んでなる、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法が提供される。上記ペプチド画分および上記非資化性糖のビールテイスト発酵アルコール飲料への添加は、該飲料の製造工程(例えば、発酵液への調合工程)において行うことができる。
【0034】
また、本発明によれば、穀物類あるいは麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来する分子量800~1500Daの1種または2種以上のペプチド並びに非資化性糖(イソマルトースおよび/またはパノース)が配合されてなる糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料が提供され、該飲料は本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の一部である。上記ペプチドおよび上記非資化性糖が配合されてなる飲料は糖質ゼロでありながらビールテイスト発酵アルコール飲料としての風味が改善あるいは向上されており、具体的には、味の厚みが付与され、かつ、前記ペプチドに起因する雑味が低減された飲料である。
【0035】
ビールテイスト発酵アルコール飲料における糖質の低減は公知の方法に従って行うことができ、例えば、糖化工程中にグルコアミラーゼを添加する方法、発酵工程中にグルコアミラーゼを添加する方法(酵素利用技術大系 基礎・解析から改変・高度機能化・産業利用まで(小宮山 眞 監修、株式会社エヌ・ティー・エス、2010年)など参照)、酵母に資化される糖質を多く含む液糖を使用して酵母による資化性を高めることにより糖質を低減する方法(特開2009-131202号公報参照)、糖化工程中に麦汁濾過を行う方法(特開2012-147780号公報参照)により飲料中の糖質濃度を所定値にすることができる。
【0036】
本発明により提供される飲料は、場合によっては炭酸ガスを添加する工程に付し、さらに、充填工程、殺菌工程などの工程を経て容器詰め飲料として提供することができる。殺菌は容器への充填前であっても充填後であってもよい。また、飲料のpHが4未満に調整されている場合には殺菌工程を経ずにそのまま充填工程を行って容器詰め飲料とすることもできる。
【0037】
本発明による飲料に使用される容器は、飲料の充填に通常使用される容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは、金属缶・樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル)、瓶である。
【0038】
本発明の別の面によれば、風味が改善された、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.136mg/mL以上に調整し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.01~0.15g/100mLに調整することを含んでなる方法が提供される。本発明においてビールテイスト発酵アルコール飲料の「風味が改善された」あるいは「風味改善」とは、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料において味の厚みが実現され、かつ、前記ペプチドに起因する雑味が低減されることを意味するものとする。上記の本発明の製造方法は、好ましくは味の厚みが付与され、かつ、前記ペプチドに起因する雑味が低減された糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法である。上記の本発明の製造方法は本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法についての記載に従って実施することができる。
【0039】
本発明の別の面によればまた、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法が提供される。本発明の風味改善方法は、前記飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチド濃度を0.136mg/mL以上に調整し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.01~0.15g/100mLに調整することにより実施できる。本発明の風味改善方法は、好ましくは糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料に味の厚みを付与し、かつ、前記ペプチドに起因する雑味を低減する方法である。本発明の風味改善方法は、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【実施例
【0040】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0041】
糖質濃度の分析
栄養表示基準に基づく糖質濃度の測定は、公知の五訂日本食品標準成分表分析マニュアルに記載の方法に従って行った。すなわち、サンプル飲料の質量から、水分(減圧加熱乾燥法)、タンパク質(自動分析装置による方法)、脂質(ソックスレー抽出法(3))、灰分(マッフル炉による燃焼法)および食物繊維量(プロスキー酵素重量法)を除いて算出する方法により測定した。
【0042】
参考例1:ビールテイスト飲料に好ましい香味を付与するペプチド画分の特定
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
大麦麦芽、ホップ、酵素製剤を用いて、インフュージョン法にてビールテイスト発酵アルコール飲料を製造した。具体的には、65℃の湯300mLに大麦麦芽100gを入れ、60分保持し、さらに78℃に昇温して5分保持後、濾過して麦汁を得た。続いて、ホップを0.8g/L投入して100℃で90分煮沸したのち、濾過して発酵前液を得た。
【0043】
その後、常法に従ってビール酵母により発酵を行い、発酵液の香味確認を行った。その結果、得られた発酵液は、雑味が抑制され、ビールらしく柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、調和のとれた味わいがあることが確認された。
【0044】
(2)ゲル濾過分画
上記(1)で得られた発酵液を0.45μmフィルターで濾過し、濾過済み発酵液を計量して凍結乾燥した。乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとした。サンプルは、以下の条件にてゲル濾過分画を行った。
【0045】
<ゲル濾過分画条件>
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:5mL
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1mL(フラクション0)、その後0.35cvから5mLずつ分画(フラクション1~51)
【0046】
分画物の官能評価により、香味の特徴の違いによって、表1のようにフラクションをプレ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた。また、各画分の香味特徴は5名の訓練されたパネラーのディスカッションにより決定した。
【0047】
【表1】
【0048】
(3)ペプチド画分の精製
上記(2)で得られた画分CおよびDは、固相抽出カラム(Bond Elute C18、Agilent technologies社製)にて吸着処理を行い、脱塩水で洗浄した後、50%エタノール水溶液にて溶出して、濃縮乾固を行い、これを脱塩水にて復水し、濃縮液とした。これをペプチド画分とした。
【0049】
(4)ローリー法によるタンパク定量
上記(2)のゲル濾過分画と上記(3)のペプチド画分の精製によって得られたペプチド画分のタンパク定量は、市販のキット(DCプロテインアッセイ、Bio-Rad社製)を用いたLowry法で行った。まず、上記分画液を適切な範囲になるように濃度調整した。濃度調整したサンプル5μLに対し、A液を50μL加えて撹拌し、続いてB液を400μL加えて攪拌した。室温で15分発色反応を行った後、96ウェルプレートに350μL移して750nmの吸光度を測定した。得られた吸光度と予め作成した検量線に基づき、ペプチド濃度(mg/mL)を算出した。なお、検量線はBSA(ウシ血清アルブミン)を用いて作成した。
【0050】
(5)結果
ペプチド分画物は、Superdex 75 10/300カラムにて分析を行い、分子量を推定したところ、画分CおよびDのペプチドが分子量約800~1500Daに分布していた。
【0051】
以上の結果より、ビールテイスト発酵アルコール飲料から分画・精製した分子量約800~1500Daのペプチド画分CおよびDは、飲み応え(すなわち、味の厚み)の付与に有効であることが示唆された。
【0052】
参考例2:ビールテイスト飲料に好ましい香味を付与するペプチド画分の調製
(1)ペプチド画分の調製
市販のビールテイスト飲料をガス抜きした上で計量して凍結乾燥した。凍結乾燥物を100mM NaCl溶液に溶解して5倍濃縮液を調製し、ゲル濾過分画用サンプルとした。参考例1(2)の記載に従ってゲル濾過分画を実施し、得られた画分C(フラクション番号:F25~29)を、参考例1(3)の記載に従って精製した。この際、精製での回収率向上に向け、固相抽出カラムの素通り画分を合成吸着材(セパビーズSP207、三菱ケミカル社製)による回収も行った。タンパク定量は参考例1(4)に記載のローリー法により行った。
【0053】
(2)HPLC分析用ゲル濾過画分の調製
上記(1)の凍結乾燥物を50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0、150mM NaCl含む)で溶解して2.5倍濃縮液を調製し、ゲル濾過分画用サンプルとした。ペプチド画分に関しては、10倍濃縮液相当になるよう上記の緩衝液で溶解し、ゲル濾過分画用サンプルとした。分画サンプルについて、それぞれ、以下の条件にてゲル濾過分画を行い、分画フラクション(フラクション1~10)を得た。
【0054】
HPLC分析用ゲル濾過法の条件は以下の通りであった。
<HPLC分析用ゲル濾過法分析条件>
カラム:Superdex 75 10/300(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量:100μL
溶離液組成:50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)、20%(v/v)アセトニトリル、150mM NaCl
流速:0.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
【0055】
分画液のタンパク定量は参考例1(4)に記載のローリー法により行った。
【0056】
(3)HPLC分析用ゲル濾過法による分子量の測定
ア HPLC分析用ゲル濾過のサンプル調製
上記(2)で得られた分画フラクション(フラクション1~10)をサンプルとして使用した。
【0057】
イ 分子量の検量線作成
上記HPLC分析用ゲル濾過条件記載のカラム、溶離液、流速、検出波長において、分子量既知のペプチドを0.1~5mg/mLで適宜超純水に溶解したものを50μL注入してHPLC分析を行い、保持時間を確認した(表2)。その保持時間、分子量から検量線(図1)を作成した。
【0058】
【表2】
【0059】
ウ 分子量の算出
分子量測定の結果、フラクション1~10のうちフラクション7に含まれるペプチドは分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の範囲であることが確認された。
【0060】
(4)分子量800~1500Daのペプチド比率の算出
HPLC分析用ゲル濾過法で分画された飲料由来の全ペプチドの質量に対する飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)(ペプチド比率)は各分画フラクションにおける製品相当のペプチド濃度を用いて以下の算出式にて求めた。
【数1】
【0061】
実施例1:糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料におけるペプチドおよび非資化性糖の香味に与える影響の分析(1)
(1)糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料
本実施例の糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料は、市販のビールテイスト飲料(麦芽使用比率25%未満、使用原料:麦芽、ホップ、大麦、糖類等、糖質0.2g/100mL)をベース飲料として使用した。
【0062】
(2)分子量800~1500Daのペプチド
分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドには、参考例2で得たフラクション7のペプチドを使用した。
【0063】
(3)非資化性糖
非資化性糖には、イソマルトース(純度97.0%)およびパノース(純度99.4%)を使用した。
【0064】
(4)成分分析
飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの成分分析は参考例2に従って行った。飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの濃度はLowry法(ローリー法)により測定した。飲料中のイソマルトースおよびパノースの濃度はイオンクロマトグラフ法により測定した。具体的には、各種試料を超純水で所定倍率に希釈後、0.45μmフィルター濾過することで得たろ液を分析用サンプル液とした。該サンプルについて、イオンクロマトグラフICS-6000(ダイオネクス社製)を用いて分析した。イソマルトースおよびパノース濃度は、スタンダードにて検量線を作成したものから濃度を算出した。
【0065】
(5)官能評価
上記(1)の糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料を希釈し、酒類原料用アルコール(第一アルコール社、アルコール濃度95%)を添加してアルコール濃度4v/v%のサンプル飲料(サンプル番号1)を調製した。また、このサンプル飲料のオリジナルエキス濃度(OE濃度)は6.37°Pであった。なお、オリジナルエキス濃度(OE濃度)はBCОJビール分析法(ビール酒造組合(2013年)、8.3.6、8.4.3および8.5に準じて測定した。測定はアルコライザー(アントンパール社製)を用いて行った。
【0066】
サンプル番号1のサンプル飲料に上記(2)のペプチドおよび上記(3)の非資化性糖を飲料にもともと含まれている濃度を考慮して表3に示す通りの濃度となるよう添加して各種サンプル飲料を調製した(サンプル番号2~17)。これらのサンプル飲料の糖質濃度は0.5g/100mL未満であった。
【0067】
官能評価は5名の訓練されたパネラーにより実施した。具体的には、「味の厚み」および「雑味」について1~9点の0.5点刻みによる17段階で評価を行い、パネラー5名の評価スコアの平均値を計算した。ここで、「味の厚み」とは、味の広がり、複雑さ、ボディ感付与等により認識される香味感覚をいう。「味の厚み」についてはサンプル番号1の市販品を1点とし、1.5点以上を「やや味の厚みがある」と判断した。また、「雑味」は、渋味、エグ味、収斂味を総合して評価した。「雑味」についてはサンプル番号1の市販品を3点とし、点数が低くなるにつれて雑味が低減したと判断した。
【0068】
(6)結果
飲料中の各種成分の濃度と官能評価の結果は表3と図2に示される通りであった。
【表3】
【0069】
表3の結果から、分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドにより付与される「味の厚み」が非資化性糖(イソマルトースおよびパノース)を添加することで濃度依存的にさらに向上するとともに、前記ペプチドに起因する「雑味」が濃度依存的に低減することが確認された。ただし、非資化性糖を0.15g/100mL添加するとわずかに甘さが舌に残ったことから、飲料中の非資化性糖の濃度の上限値は0.15g/100mLとすることが望ましいと考えられた。すなわち、表3の結果から、ビールテイスト発酵アルコール飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの濃度を0.136mg/mL以上の範囲内に調整し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.01~0.15g/100mLの範囲内に調整することで、前記ペプチドに起因する雑味を抑えつつ、味の厚みを付与できることが示された。
【0070】
実施例2:糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料の製造と、該飲料におけるペプチドおよび非資化性糖の香味に与える影響の分析
(1)糖質ゼロビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
本実施例ではビールテイスト発酵アルコール飲料を製造した。製造に当たっては主原料として大麦麦芽を使用した(麦芽使用比率50%)。糖化に際してはグルコアミラーゼを主体とした酵素製剤を用い、イソマルトースおよびパノースの濃度変化が平衡に達するように糖化の温度および時間を調整し、濾過することで麦汁を得た。
【0071】
上記の麦汁調整工程に続いて、得られた麦汁にホップおよび資化性糖を主体とした液糖を投入して、100℃で煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加し、常法に従って主発酵および後発酵を行った。続いて、後発酵の発酵液を、より低温で維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄なビールテイスト発酵アルコール飲料を得た。
【0072】
(2)成分分析
上記(1)で得られたビールテイスト発酵アルコール飲料中の各種成分の濃度測定は参考例2および実施例1に記載された手順に従って行った。
【0073】
(3)官能評価
上記(1)で得られたビールテイスト発酵アルコール飲料の官能評価は実施例1(5)に記載された手順に従って行った。
【0074】
(4)結果
上記(1)で得られたビールテイスト発酵アルコール飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの濃度は0.37mg/mLであり、イソマルトースおよびパノースの合計濃度は0.03g/100mLであり、OE濃度は6.6°Pであった。
【0075】
上記(1)で得られたビールテイスト発酵アルコール飲料についての「味の厚み」の評価スコアは4.9であり、「雑味」の評価スコアは2.4であった。すなわち、本実施例の結果からも、ビールテイスト発酵アルコール飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの濃度を0.136mg/mL以上の範囲内に調整し、かつ、イソマルトースおよびパノースの合計濃度を0.01~0.15g/100mLの範囲内に調整することで、前記ペプチドに起因する雑味を抑えつつ、味の厚みを付与できることが示された。
【0076】
なお、上記(1)に従ってビールテイスト発酵アルコール飲料を別途調製し、参考例2および実施例1の手順に従って成分分析を行ったところ、分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの濃度は0.37mg/mLであり、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された飲料由来の全ペプチドの質量に対する飲料中の分子量800~1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率は17.3%であり、イソマルトースおよびパノースの合計濃度は0.03g/100mLであり、アルコール濃度は3.72v/v%であった。
図1
図2