(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】乾性眼の予防または治療のための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/553 20060101AFI20220906BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20220906BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20220906BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20220906BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220906BHJP
A61K 31/5375 20060101ALI20220906BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20220906BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20220906BHJP
A61K 31/4453 20060101ALI20220906BHJP
A61K 31/397 20060101ALI20220906BHJP
A61K 31/40 20060101ALI20220906BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
A61K31/553
A61P27/04 ZNA
A61K31/5377
A61K31/496
A61K31/506
A61K31/5375
A61K31/4545
A61K31/551
A61K31/4453
A61K31/397
A61K31/40
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020550107
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(86)【国際出願番号】 KR2019004227
(87)【国際公開番号】W WO2019199034
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】10-2018-0041378
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514052597
【氏名又は名称】チョン クン ダン ファーマシューティカル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ヨンイル
(72)【発明者】
【氏名】ハ,ニナ
(72)【発明者】
【氏名】シン,テクファン
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-524597(JP,A)
【文献】国際公開第2012/106343(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/040564(WO,A1)
【文献】特表2010-514777(JP,A)
【文献】特表2005-533840(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0135431(US,A1)
【文献】Acta Biomaterialia,2018年03月09日,71,pp.261-270
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、乾性眼の予防または治療用の医薬組成物であって、
前
記化合物は、下記表1~表12で表される化合物である
、医薬組成物:
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【請求項2】
前記乾性眼は、シェーグレン症候群による乾性眼または非シェーグレン症候群による乾性眼を含む、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
炎症性サイトカインの発現を抑制する、請求項1
または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記炎症性サイトカインはIL-17、IL-6またはTNF-αである、請求項
3に
記載の医薬組成物。
【請求項5】
局所投与される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
点眼投与される、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
経口投与される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
乾性眼治療用医薬の製造にお
ける、請求項1に記載
の化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容される塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学式Iで表される化合物、その光学異性体、薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む乾性眼(ドライアイ)の予防または治療用の医薬組成物、前記化合物を用いた治療方法および乾性眼を治療するための薬剤の製造における前記化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乾性眼は、涙量が足りないかまたは涙成分の異常による目の不便感の症状と視力障害、涙液膜の不安定性と眼表面の損傷を伴った多因子疾患であり、涙液膜のオスモル濃度の増加および眼表面の炎症(炎症性サイトカインの増加)を伴うことが知られている。
【0003】
乾性眼は、非常に有り触れた眼疾患であって、コンピュータ使用のような近距離作業、ホルモン異常、または大気汚染のような環境的要因が関連していると考えられる。特に、乾性眼は、年齢とともに増加し、女性の場合、閉経期以後の性ホルモンの減少により高頻度で発生することが知られている。
【0004】
しかし、乾性眼は、病理学的メカニズムが未だ明らかになっていないだけでなく、症状の重症度と比例した診断方法が開発されていない。また、現在までの乾性眼の治療剤は一時的な症状緩和に限定された人工涙液剤が大部分を占めており、効果的な治療剤の開発が至急な実情である。
【0005】
このような背景下、本発明者らは、乾性眼の治療剤を開発するために鋭意努力した結果、本発明に係る化合物が乾性眼の予防または治療に有用に使用できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】大韓民国公開特許公報第10-2014-0128886号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、下記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む乾性眼の予防または治療用の医薬組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、前記化合物を治療学的有効量で投与するステップを含む乾性眼の治療方法を提供することにある。
【0009】
本発明のまた他の目的は、乾性眼を治療するための薬剤の製造における前記化合物の使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これを具体的に説明すれば次の通りである。一方、本発明に開示された各々の説明および実施形態は、各々に対する他の説明および実施形態にも適用可能である。すなわち、本発明に開示された様々な要素の全ての組み合わせは本発明の範疇に属する。また、下記に記された具体的な記述により本発明の範疇が制限されるものではない。
【0011】
本発明は、下記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む乾性眼の予防または治療用の医薬組成物を提供する。
【0012】
【化1】
前記式において、
Aは
【化2】
であり、
XaおよびXbは各々独立してCHまたはNであり、
L
1およびL
2は各々独立して水素、ハロゲン、-CF
3または-C
1-3直鎖もしくは分枝鎖のアルキルであり、
QはC(=O)、S(=O)
2、S(=O)またはC(=NH)であり、
Yは下記グループから選択され
【化3】
、
MはC、N、O、SまたはS(=O)
2であり(この時、MがCである場合、lおよびmは1であり、MがNである場合、lは1であり、mは0であり、MがO、SまたはS(=O)
2である場合、lおよびmは0である。)、
R
a1およびR
a2は各々独立して水素;ヒドロキシ;非置換もしくは一つ以上のハロゲンで置換された-C
1-4直鎖もしくは分枝鎖のアルキル;-C
1-4直鎖もしくは分枝鎖のアルコール;ベンズヒドリル;N、O、S中の1~3個のヘテロ原子を環員として含む飽和もしくは不飽和の5~7員複素環式化合物で置換された-C
1-4直鎖もしくは分枝鎖のアルキル(この時、複素環式化合物は非置換もしくは一つ以上の水素が任意にOH、OCH
3、CH
3、CH
2CH
3またはハロゲンで置換されてもよい。);N、O、S中の1~3個のヘテロ原子を環員として含む飽和もしくは不飽和の5~7員複素環式化合物(この時、複素環式化合物は非置換もしくは一つ以上の水素が任意にOH、OCH
3
、CH
3、CH
2CH
3またはハロゲンで置換されてもよい。);非置換もしくは一つ以上の水素がハロゲン、C
1-4アルコキシ、C
1-2アルキルまたはヒドロキシで置換されたフェニル;非置換もしくは一つ以上の水素がハロゲン、C
1-4アルコキシ、C
1-2アルキルまたはヒドロキシで置換されたベンジル;-S(=O)
2CH
3;ハロゲン;-C
1-6直鎖もしくは分枝鎖のアルコキシ;-C
2-6アルコキシアルキル;-C(=O)R
x、ここで、R
xは直鎖もしくは分枝鎖のC
1-3アルキルまたはC
3-10シクロアルキルであり;
【化4】
、ここで、R
cおよびR
dは各々独立して水素、C
1-3直鎖もしくは分枝鎖のアルキルであり;
【化5】
または
【化6】
であり、
nは0、1または2の整数であり、
R
bは水素;ヒドロキシ;非置換もしくは一つ以上の水素がハロゲンで置換された-C
1-6直鎖もしくは分枝鎖のアルキル;-C(=O)CH
3;-C
1-4直鎖もしくは分枝鎖のヒドロキシアルキル;-C
1-6直鎖もしくは分枝鎖のアルコキシ;-C
2-6直鎖もしくは分枝鎖のアルコキシアルキル;-CF
3;ハロゲン;または
【化7】
であり、
R
eおよびR
fは各々独立して水素または-C
1-3直鎖もしくは分枝鎖のアルキルであり、および
Zは下記グループから選択され
【化8】
、
P
aおよびP
bは各々独立して
【化9】
;水素;ヒドロキシ;非置換もしくは一つ以上の水素がハロゲンで置換された-C
1-4直鎖もしくは分枝鎖のアルキル;ハロゲン;-CF
3;-OCF
3;-CN;-C
1-6直鎖もしくは分枝鎖のアルコキシ;-C
2-6直鎖もしくは分枝鎖のアルキルアルコキシ;-CH
2F;または-C
1-3アルコールであり、
ここで、
【化10】
はフェニル、ピリジン、ピリミジン、チアゾール、インドール、インダゾール、ピペラジン、キノリン、フラン、テトラヒドロピリジン、ピペリジンまたは下記グループから選択された環であり
【化11】
、
x、yおよびzは各々独立して0または1の整数であり、
R
g1、R
g2およびR
g3は各々独立して水素;ヒドロキシ;-C
1-3アルキル;-CF
3;-C
1-6直鎖もしくは分枝鎖のアルコキシ;-C
2-6直鎖もしくは分枝鎖のアルキルアルコキシ;-C(=O)CH
3;-C
1-4直鎖もしくは分枝鎖のヒドロキシアルキル;-N(CH
3)
2;ハロゲン;フェニル;-S((=O)
2)CH
3;または下記グループから選択される
【化12】
。
【0013】
本発明の具体例によれば、前記化学式Iで表される化合物は、下記表1~表12に記載された通りである。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
本発明において、前記化学式Iで表される化合物は、大韓民国公開特許公報第2014-0128886号に開示された方法により製造できるが、これに制限されるものではない。
【0027】
本発明において、薬学的に許容可能な塩は、医薬業界で通常用いられる塩を意味し、例えば、カルシウム、カリウム、ナトリウムおよびマグネシウムなどから製造された無機イ
オン塩、塩酸、硝酸、リン酸、臭素酸、ヨウ素酸、過塩素酸および硫酸などから製造された無機酸塩、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、酒石酸、フマル酸、マンデル酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、ガラクツロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、グルクロン酸、アスパラギン酸、アスコルビン酸、カルボン酸、バニリン酸、ヨウ化水素酸などから製造された有機酸塩、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などから製造されたスルホン酸塩、グリシン、アルギニン、リジンなどから製造されたアミノ酸塩、およびトリメチルアミン、トリエチルアミン、アンモニア、ピリジン、ピコリンなどから製造されたアミン塩などが挙げられるが、列挙されたこれらの塩により、本発明で意味する塩の種類が限定されるものではない。
【0028】
本発明において、「乾性眼」とは、目に刺激を引き起こす涙液膜疾患であり、例えば、涙液が足りないか、涙液が過度に蒸発するか、または涙液の構成成分の均衡が取れないために発生し、異物感、灼熱感、かゆみ、刺激、発赤、目の疼痛、霞んだ視野、視力低下および過度な涙液の発生のような乾性眼症状を示す眼疾患を意味する。本発明における乾性眼は、シェーグレン症候群のような他の基礎疾患が乾性眼を引き起こした結果であってもよく、眼瞼縁の炎症や目内の異質物の合併症であってもよい。さらに、本発明における乾性眼は、感染の結果であるかまたは投薬の副作用であってもよく、毒素、化学物質または他の物質への露出が乾性眼の症状または疾患の原因になってもよい。すなわち、本発明における乾性眼は、シェーグレン症候群による乾性眼または非シェーグレン症候群による乾性眼を全て含むことができる。
【0029】
本発明において、乾性眼は、本発明に係る医薬組成物の投与により予防または治療できる。例えば、本発明に係る医薬組成物は、免疫調節を媒介することにより乾性眼を予防または治療することができる。本発明の一実施様態において、前記免疫調節は、炎症性サイトカインの発現を抑制することであってもよい。
【0030】
本発明の実施例において、化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、乾性眼疾患誘発動物モデルにおいて、角膜びらん(corneal erosion)を改善するだけでなく(
図1および
図2)、乾性眼に関与する炎症性サイトカインの発現を効果的に抑制できるため(
図3)、乾性眼の治療に効果が優れることが確認された。
【0031】
本発明の医薬組成物は、投与のために、前記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩の他に、薬学的に許容可能な担体を1種以上さらに含むことができる。薬学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールおよびこれらの成分のうちの1成分以上を混合して用いることができ、必要により、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および潤滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。したがって、本発明の組成物は、パッチ剤、液剤、丸薬、カプセル、顆粒、錠剤、坐剤などであってもよい。これらの製剤は、各疾患に応じておよび/または成分に応じて、本発明が属する技術分野で製剤化に用いられる通常の方法またはRemington’s Pharmaceutical Science(最近版)、Mack Publishing Company、Easton PAに開示された方法により製剤化できる。
【0032】
本発明の医薬組成物を用いた経口投与用製剤の非制限的な例としては、錠剤、トローチ剤(troches)、ロゼンジ(lozenge)、水溶性懸濁液、油性懸濁液、調製粉末、顆粒、エマルション、ハードカプセル、ソフトカプセル、シロップまたはエリキシ
ル剤などが挙げられる。本発明の医薬組成物を経口投与用に製剤化するために、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アミロペクチン、セルロースまたはゼラチンなどのような結合剤;ジカルシウムホスフェートなどのような賦形剤;トウモロコシデンプンまたはサツマイモデンプンなどのような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウムまたはポリエチレングリコールワックスなどのような潤滑油などを用いることができ、甘味剤、芳香剤、シロップ剤なども用いることができる。さらに、カプセル剤の場合は、上記で言及した物質の他に、脂肪油のような液体担体などをさらに用いることができる。
【0033】
本発明の医薬組成物を用いた非経口用製剤の非制限的な例としては、注射液、坐剤、呼吸器吸入用粉末、スプレー用エアロゾル剤、軟膏、塗布用パウダー、オイル、クリームなどが挙げられる。本発明の医薬組成物を非経口投与用に製剤化するために、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、外用剤などを用いることができ、前記非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性オイル、エチルオレエートのような注射可能なエステルなどを用いることができ、例えば、点眼用組成物を含む眼科用溶液またはエマルション、眼科用ゲル、眼科用軟膏または油性ローションが使用できるが、これらに制限されるものではない。
【0034】
本発明の医薬組成物は、経口投与または非経口投与されてもよく、非経口投与時には局所投与、例えば点眼投与されてもよいが、これに制限されるものではない。
【0035】
本発明の医薬組成物が点眼用組成物の形態で用いられる場合、前記点眼用組成物は、本発明に係る化学式Iの化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩を無菌水性溶液、例えば、塩水、緩衝溶液などに懸濁させることによって、またはその利用に先立ち、溶解する粉末組成物を化合させることによって製造できる。他の添加剤、例えば、等張化剤(例えば、塩化ナトリウムなど)、緩衝剤(例えば、ホウ酸、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなど)、保存剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノールなど)、濃厚剤(例えば、糖類、例えば、ラクトース、マンニトール、マルトースなど;例えば、ヒアルロン酸またはその塩、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウムなど;例えば、ムコ多糖類(mucopolysaccharide)、例えば、コンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate)など;例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニル重合体、架橋ポリアクリル酸塩など)が点眼用組成物内に含まれる。
【0036】
本発明の実施例において、化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、乾性眼疾患誘発動物モデルにおいて、角膜びらんを改善するだけでなく、乾性眼に関与する炎症性サイトカインの発現を効果的に抑制できるため、乾性眼の治療に効果が優れることが確認された。
【0037】
本発明の化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩の1日投与量は、例えば、約0.1~10,000mg/kgの範囲、約1~8,000mg/kgの範囲、約5~6,000mg/kgの範囲、または約10~4,000mg/kgの範囲であってもよく、好ましくは、約50~2,000mg/kgの範囲であってもよいが、これらに制限されず、1日に1回~数回に分けて投与できる。
【0038】
本発明の医薬組成物の薬学的有効量、有効投与量は、医薬組成物の製剤化方法、投与方式、投与時間および/または投与経路などに応じて様々であり、医薬組成物の投与により達成しようとする反応の種類と程度、投与対象となる個体の種類、年齢、体重、一般的な健康状態、疾病の症状や程度、性別、食餌、排泄、該個体に同時または異時に共に用いられる薬物その他の組成物の成分などをはじめとする様々な因子および医薬分野で周知の類
似因子に応じて様々であり、当該技術分野における通常の知識を有した者であれば、目的とする治療に効果的な投与量を容易に決定し処方することができる。
【0039】
本発明の医薬組成物の投与は、1日に1回投与されてもよく、数回に分けて投与されてもよい。本発明の医薬組成物は、個別治療剤として投与するか、または他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは順次にまたは同時に投与されてもよい。前記要素を全て考慮して副作用なしに最小限の量で最大の効果を得ることができる量をもって投与することができ、これは本発明が属する技術分野における通常の技術者により容易に決定できる。
【0040】
本発明の医薬組成物は、単独で用いても優れた効果を発揮することができるが、治療効率を増加させるためにさらにホルモン治療、薬物治療などの様々な方法と併用して用いることができる。
【0041】
また、本発明は、前記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩を、それを必要とする個体に治療学的に有効な量で投与するステップを含む乾性眼の治療方法を提供する。
【0042】
本発明で用いられる用語「治療学的に有効な量」とは、乾性眼の治療に有効な前記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩の量を示す。
【0043】
本発明の治療方法において、前記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩の好適な総1日使用量は正しい医学的な判断範囲内で処置医によって決定され、例えば、約0.1~10,000mg/kgの範囲、約1~8,000mg/kgの範囲、約5~6,000mg/kgの範囲、または約10~4,000mg/kgの範囲であってもよく、好ましくは、約50~2,000mg/kg範囲の量を1日に1回~数回に分けて投与することができる。しかし、本発明の目的上、特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によっては他の製剤が用いられるか否かをはじめとする具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食餌、投与時間、投与経路および組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と共に用いられるかまたは同時に用いられる薬物をはじめとする様々な因子と医薬分野で周知の類似因子に応じて異に適用することが好ましい。
【0044】
本発明の乾性眼の治療方法は、前記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩を投与することにより、兆候の発現前に疾病そのものを取り扱うだけでなく、その兆候を阻害するか避けることもまた含む。疾患の管理において、特定の活性成分の予防的または治療学的な用量は、疾病または状態の特性と深刻度、そして活性成分が投与される経路に応じて様々である。用量および用量の頻度は、個別患者の年齢、体重および反応に応じて様々である。好適な用量用法は、このような因子を当然に考慮する本分野の通常の知識を有した者により容易に選択できる。また、本発明に係る乾性眼の治療方法は、前記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩と共に疾患の治療に役に立つ更なる活性製剤の治療学的に有効な量の投与をさらに含むことができ、更なる活性製剤は、前記化学式Iの化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩と共にシナジー効果または相加効果を奏することができる。
【0045】
また、本発明は、乾性眼を治療するための薬剤の製造において、前記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩の使用を提供する。薬剤を製造するための前記化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩は、薬学的に許容される補助剤、希釈剤、担体などを混合することができ、その他の活性製剤と共に複合製剤に製造されて相乗作用を有することができる。
【0046】
本発明の医薬組成物、治療方法および使用において言及された事項は、互いに矛盾しない限り同様に適用される。
【発明の効果】
【0047】
本発明の化学式Iで表される化合物、その光学異性体またはその薬学的に許容可能な塩を含有する医薬組成物は、優れた乾性眼の治療効果を示し、乾性眼の予防または治療用として広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】乾性眼誘発マウスでの角膜びらんテスト(corneal erosion test)を行った結果を示す。
【
図3】炎症性乾性眼誘発マウスでのサイトカインの発現レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下では、本発明について製造例および実施例を通じてより詳しく説明する。ただ、これらの製造例および実施例は本発明を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの製造例および実施例に限定されるものではない。
【0050】
製造例1.化合物374 N-(4-(ヒドロキシカルバモイル)ベンジル)-N-(3-(トリフルオロメチル)フェニル)モルホリン-4-カルボキサミド(carboxamide)}の合成
【0051】
[ステップ1]メチル4-((3-(トリフルオロメチル)フェニルアミノ)メチル)ベンゾエート)の合成
【化13】
【0052】
3-(トリフルオロメチル)ベンゼンアミン(0.30g、1.84mmol)と炭酸カリウム(0.76g、5.53mmol)をジメチルホルムアミド(DMF)(5mL)に溶かした後、メチル4-(ブロモメチル)ベンゾエート(0.42g、1.84mmol)を入れた。常温で1日間反応し、エチルアセテートで薄めた。反応物を水と飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥濾過し減圧濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(二酸化珪素;エチルアセテート/ヘキサン=20%)により精製して表題化合物(0.37g、65%)を得た。
【0053】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.93 (d, 2 H, J = 8.3 Hz), 7.49 (d, 2 H, J = 8.3 Hz), 7.24 (t, 1 H, J = 7.9 Hz), 6.88-6.78 (m, 4 H), 4.42 (d, 2 H, J = 6.1 Hz), 3.83 (s, 3H), MS (ESI) m/z 310 (M+ + H).
【0054】
[ステップ2]メチル4-((((4-ニトロフェノキシ)カルボニル)(3-(トリフルオロメチル)フェニル)アミノ)メチル)ベンゾエートの合成
【化14】
【0055】
メチル4-((3-(トリフルオロメチル)フェニルアミノ)メチル)ベンゾエート(0.26g、0.82mmol)と4-ニトロフェニルカルボノクロリダート(0.33g、1.65mmol)をアセトニトリル(10ml)に溶かし、炭酸カリウム(0.34g、2.47mmol)を入れた。常温で1日間反応し、エチルアセテートで薄めた。反応物を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥濾過し減圧濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(二酸化珪素;エチルアセテート/ヘキサン=20%)により精製して無色オイル形態の表題化合物(0.35g、89%)を得た。
【0056】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.20 (d, 2 H, J = 10.2 Hz), 8.01 (d, 2 H, J = 7.8 Hz), 7.56-7.46 (m, 3H), 7.35 (d, 3 H, J = 8.0 Hz), 7.26 (d, 2 H, J = 8.1 Hz), 5.01 (bs, 2H), 3.90 (s, 3H).
【0057】
[ステップ3]メチル4-((N-(3-(トリフルオロメチル)フェニル)モルホリン-4-カルボキシアミド(carboxamido)メチル)ベンゾエートの合成
【化15】
【0058】
メチル4-((((4-ニトロフェノキシ)カルボニル)(3-(トリフルオロメチル)フェニル)アミノ)メチル)ベンゾエート(0.29g、0.60mmol)をジメチルホルムアミド(10mL)に溶かし、炭酸カリウム(0.25g、1.81mmol)とモルホリン(0.05mL、0.60mmol)を入れた。60℃で2日間反応させた後、飽和塩化アンモニウム溶液で薄めた。エチルアセテートで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥濾過し減圧濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(二酸化珪素;エチルアセテート/ヘキサン=50%)により精製して表題化合物(0.15g、60%)を得た。
【0059】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.97 (d, 2 H, J = 8.2 Hz), 7.43-7.32 (m, 5H), 7.20 (d, 1 H, J = 8.0 Hz), 4.94 (s, 2H), 3.90 (s, 3H), 3.50 (t, 4 H, J = 4.8 Hz), 3.25 (t, 4 H, J = 4.8 Hz); MS (ESI) m/z 423 (M+ + H).
【0060】
[ステップ4]N-(4-(ヒドロキシカルバモイル)ベンジル)-N-(3-(トリフルオロメチル)フェニル)モルホリン-4-カルボキサミド(carboxamide)の合成
【化16】
【0061】
メチル4-((N-(3-(トリフルオロメチル)フェニル)モルホリン-4-カルボキシアミド(carboxamido)メチル)ベンゾエート(0.15g、0.36mmol)をメタノール(5ml)に溶かし、ヒドロキシルアミン水溶液(50wt%、1mL)と水酸化カリウム(0.10g、1.81mmol)を入れて一晩攪拌した。反応終了後、メタノールを減圧蒸留して除去し、エチルアセテートと水を用いて抽出(work up)した。無水硫酸ナトリウムで乾燥濾過し減圧濃縮した。残渣をジエチルエーテルにおいて攪拌して固体生成物を作り、濾過した後に乾燥して白色固体形態の表題化合物(0.082g、54%)を得た。
【0062】
1HNMR (400 MHz, MeOD-d3) δ 11.14 (brs, 1 H), 8.99 (brs, 1 H), 7.85 (d, 2 H, J
=8.0 Hz), 7.66-7.27 (m, 6 H), 4.94 (s, 2 H), 3.41 (s, 2 H), 3.15 (s, 2 H). MS (ESI) m/z 424 (M+ + H).
【0063】
製造例2.乾性眼誘発動物モデルの確立
C57BL/6マウスに毎日0.5mg/0.2mLの臭化水素酸スコポラミン(scopolamine hydrobromide)を皮下注射し、40%以下の湿度環境で毎日18時間風通しをさせながら7日間マウスを保持して、乾性眼誘発マウスモデルを確立した。
【0064】
前記マウスモデルに対し、製造例1で製造された本発明の化合物374を10%エタノール(ビヒクル-1)または5%ポリエチレングリコール300(ビヒクル-2)溶液に0.1%溶解させた後、乾性眼マウスに1日1回で7日間点眼投与した(表13)。
【0065】
【0066】
実施例1.乾性眼マウスでの角膜びらん改善効果の確認
本発明に係る化合物の乾性眼の治療効果を確認するために、乾性眼誘発マウスにfluorescene dyeで角膜染色(corneal staining)後マウスの角膜を染色した後にslit lamp biomicroscopyで確認しながらOxford schemeを利用してcorneal erosion gradeを評
価した(Bron AJ、Evans VE、Smith JA.Grading of
corneal and conjunctival staining in the context of other dry eye tests.Cornea.2003;22(7):640-50、Grade 0:正常、Grade 5:最も深刻な角膜損傷)(**p=0.036。p数値はDunn多重比較検定法によりpost
hocテストによるKruskall-Wallis方式で計算)。
【0067】
その結果、乾性眼が誘発されたマウス(ビヒクル無し、ビヒクル-1、ビヒクル-2)は角膜びらん症状が最大Grade 4まで悪化したが、本発明の化合物を点眼投与した実験群マウスは溶媒(ビヒクル-1、ビヒクル-2)に関わらず角膜びらん等級がGrade 1~Grade 2のレベルに顕著に改善されたことを確認した(
図1)。マウスの眼球を肉眼で観察した結果、ビヒクル-1を点眼投与したかまたは点眼投与していない乾性眼誘発マウスには相当な角膜損傷が現れたが、本発明の化合物を点眼投与したマウスは角膜損傷の程度が顕著に緩和したことを確認した(
図2)。
【0068】
前記結果は、本発明の化合物が乾性眼の治療に効果的に使用できることを示す。
【0069】
実施例2.乾性眼マウスでの炎症性サイトカインの発現抑制効果
乾性眼に発現が増加すると知られた炎症性サイトカイン数値が本発明の化合物の投与により抑制されるか否かを確認するために、乾性眼誘発マウスの角膜組織に対してReal-time PCRを行った。
【0070】
Real-time PCRを行うために、先ず、摘出された乾性眼マウスの眼球から角膜を分離してトリゾール試薬(Trizol reagent)で細胞を溶解させた。その次に、RNAサンプルに対してPrimeSctipt RT Master(TAKARA)を利用してcDNAを合成した。その後、SYBR Premix Ex Tap(TAKARA)と各遺伝子(IL-17、IL-6、TNF-α)に特異的なプライマーを用いてStepOnePlusReal-Time PCR System(Applied Biosystems)でreal-time PCRを行った。実験に用いたプライマーの塩基配列は次の通りである(表14)。
【0071】
【0072】
その結果、ビヒクル-1を点眼投与したかまたは点眼投与していない乾性眼誘発マウスは炎症性サイトカインであるIL-17、IL-6およびTNF-αのmRNA発現レベ
ルがいずれも相当に上昇したが、本発明の化合物を点眼投与したマウスは正常マウスと同じレベルにIL-17、IL-6およびTNF-αの発現レベルが顕著に減少するということを確認した(
図3)。前記実験結果は、乾性眼における本発明の化合物の投与が炎症性サイトカインレベル、特に乾性眼の重症程度と相関性が公知されたIL-6を効果的に減少させて効果的な乾性眼治療剤として活用できることを示す。
【0073】
以上で本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当該技術分野における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な記述は単に好ましい実現例に過ぎず、これに本発明の範囲が制限されるものではないことは明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は添付の請求の範囲とその等価物により定義される。
【配列表】