(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】車両、特にレール車両の制動手段を操作するためのアクチュエータを制御するための制御装置および方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20220906BHJP
B60T 8/92 20060101ALI20220906BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B60T8/17 A
B60T8/92
B60T17/18
(21)【出願番号】P 2020566598
(86)(22)【出願日】2019-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2019061494
(87)【国際公開番号】W WO2019228757
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】102018112846.0
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503159597
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア シーネンファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Schienenfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80,D-80809 Muenchen,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア エツバッハ
(72)【発明者】
【氏名】マークス ボクスハンマー
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン ヘックマン
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102012219984(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011006002(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013201623(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015110053(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
15/00 - 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両、特にレール車両の制動手段を操作するための少なくとも1つのアクチュエータ(4a;4b)を制御するための制御装置であって、
第1のセンサ(7a;7b)を介して測定された、現時点の制動圧(P
B)の実際値、または前記少なくとも1つのアクチュエータ(4a;4b)の、前記制動手段を押し付けるための現時点の押付け力(F
B)から、押付け力閉ループ制御によって、
予め設定された目標値に応じて、前記少なくとも1つのアクチュエータ(4a;4b)のための調整値(ST
1)を算出し、かつ
第2のセンサ(8a;8b)を介して測定された、現時点の減速力(F
V)の実際値、または前記制動手段における現時点の減速トルク(M
V)の実際値から、制動トルク閉ループ制御によって、
予め設定された目標値に応じて、前記少なくとも1つのアクチュエータ(4a;4b)のための調整値(ST
2)を算出する、
制御装置において、
前記押付け力閉ループ制御および前記制動トルク閉ループ制御のために、カスケード式の閉ループ制御回路が設けられており、該閉ループ制御回路において、
前記押付け力閉ループ制御のための回路が、押付け力閉ループ制御ユニット(5a;5b)内に配置されていて、内部閉ループ制御回路を構成しており、かつ
前記制動トルク閉ループ制御のための回路が、制動トルク閉ループ制御ユニット(6)内に配置されていて、外部閉ループ制御回路を構成しており、
前記外部閉ループ制御回路は、前記少なくとも1つのアクチュエータ(4a;4b)の、前記内部閉ループ制御回路に対して優先された制御を実施し、さらに
前記外部閉ループ制御回路は、前記車両の特定の運転条件下において遮断可能であり、その場合に前記内部閉ループ制御回路は、前記少なくとも1つのアクチュエータ(4a;4b)を制御する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記制動トルク閉ループ制御ユニット(6)または前記押付け力閉ループ制御ユニット(5a;5b)は、前記内部閉ループ制御回路を利用するために、前記制動トルク閉ループ制御のために設定された前記目標値を、前記押付け力閉ループ制御のための目標値に換算し、これによって前記内部閉ループ制御回路のための目標
値を、前記外部閉ループ制御回路の遮断
前に
設定することができる、請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記制動トルク閉ループ制御のための回路は、前記押付け力閉ループ制御ユニット(5a;5b)とは別個にかつ該押付け力閉ループ制御ユニット(5a;5b)から位置的に離されて構成された制動トルク閉ループ制御ユニット(6)内に配置されている、請求項1または2記載の制御装置。
【請求項4】
前記制動トルク閉ループ制御ユニット(6)は、
閉ループ制御器ユニット(12)の内部に配置されており、閉ループ制御器ユニット(10)内に収容された押付け力閉ループ制御ユニット(5a;5b)よりも上位の制御レベルに
配置されており、前記制動トルク閉ループ制御ユニット(6)は、複数の押付け力閉ループ制御ユニット(5a,5b)に接続されて使用されるように構成されている、請求項3記載の制御装置。
【請求項5】
少なくとも1つの車体(1)を備えたレール車両であって、
前記車体(1)に、それぞれ割り当てられた輪軸(3a,3b)を備えた少なくとも2つの台車(2a,2b)が配置されており、
前記輪軸(3a,3b)の車輪に、請求項1から4までのいずれか1項記載の制御装置を介して制動手段を操作するための少なくとも1つのアクチュエータ(4a,4b)が割り当てられている、レール車両において、
1つ
の押付け力閉ループ制御ユニット(5a,5b)が、前記アクチュエータ(4a,4b)ごとに、前記輪軸(3a,3b)ごとに、または前記台車(2a,2b)ごとに設けられており
、少なくとも1つの制動トルク閉ループ制御ユニット(6)が、前記車体(1)ごとに設けられている、
ことを特徴とするレール車両。
【請求項6】
少なくとも1つの車体(1a~1c)を備えたレール車両であって、前記車体(1a~1c)に、それぞれ割り当てられた輪軸(3a’,3b’)を備えた少なくとも2つの台車(2a’,2b’)が配置されており、前記輪軸(3a’,3b’)の車輪に、請求項1から4までのいずれか1項記載の制御装置を介して制動手段を操作するための少なくとも1つのアクチュエータ(4a’,4b’)が割り当てられている、レール車両において、
1つ
の押付け力閉ループ制御ユニット(5a’,5b’)が、前記アクチュエータ(4a’,4b’)ごとに、前記輪軸(3a’,3b’)ごとに、または前記台車(2a’,2b’)ごとに設けられており
、少なくとも1つの制動トルク閉ループ制御ユニット(6’)が、当該レール車両ごとに設けられ
ている、
ことを特徴とするレール車両。
【請求項7】
請求項1から4までのいずれか1項記載の、カスケード式の閉ループ制御回路を有する制御装置を運転するための方法であって、下記の制御ロジック、すなわち、
車両の通常運転時に外部閉ループ制御回路が、少なくとも1つのアクチュエータ(4a,4b)を制御するために内部閉ループ制御回路に対して優先して使用される、制御ロジック、
車両の特定の運転条件下で、前記外部閉ループ制御回路が遮断される、制御ロジック、および
前記外部閉ループ制御回路の遮断時に、自動的に前記内部閉ループ制御回路が、前記アクチュエータ(4a,4b)の制御のために使用される、制御ロジック
を含んでいる、方法。
【請求項8】
前記内部閉ループ制御回路の使用のために、制動トルク閉ループ制御のために設定された目標値(S
V)が、押付け力閉ループ制御のための目標値(S
B)に換算され、これによって前記
内部閉ループ制御回路のための目標
値を、前記外部閉ループ制御回路の遮断
前に
設定することができる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記車両の特定の運転条件は
、
車両の停止、
車両のスリップ、
エラーを含む制御値の出力
を含む
グループから選択される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
上位の制御レベルに配置されていて制動トルク閉ループ制御ユニット(6)を含む中央の閉ループ制御器ユニット(12)によって、制御技術的な付加機能を形成し、該付加機能は、
制御値の妥当性検査
制動手段操作の作用監視
制動力分配ユニット、摩擦値計算ユニット、プロトコルユニットを含む、少なくとも1つの他の機能ユニットへの制御値のデータ伝達
を含む、請求項7記載の方法。
【請求項11】
請求項7から10までのいずれか1項記載の方法を実施するための、プログラムコード手段を備えたコンピュータプログラ
ムであって、当該コンピュータプログラ
ムは、請求項1から4までのいずれか1項記載の制御装置の、押付け力閉ループ制御ユニット(5a;5b)および制動トルク閉ループ制御ユニット(6)において、実行されるか、またはコンピュータ読取り可能な
記録媒体において記憶されている、コンピュータプログラ
ム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、特にレール車両の制動手段を操作するための少なくとも1つのアクチュエータを制御するための制御装置であって、第1のセンサを介して測定された、現時点の制動圧の実際値PB、または少なくとも1つのアクチュエータの、制動手段を押し付けるための現時点の押付け力の実際値FBから、押付け力閉ループ制御によって、そのために設定された目標値に応じて、少なくとも1つのアクチュエータのための調整値を算出し、しかしながらまた、第2のセンサを介して測定された、現時点の減速力の実際値FV、または制動手段における現時点の減速トルクの実際値MVから、制動トルク閉ループ制御によって、そのために設定された目標値に応じて、少なくとも1つのアクチュエータのための調整値を算出する、制御装置に関する。さらに本発明は、少なくとも1つの車体を備えたレール車両であって、このような制御装置をブレーキ操作のために備えているレール車両、ならびに特殊な閉ループ制御を変換する制御装置を運転するための方法であって、コンピュータプログラム製品として形成されていてよい方法に関する。
【0002】
本発明の主要な使用分野は、レール車両構造を対象にしている。ここでは、車両の制動手段、例えばディスクブレーキを操作する空気力式、電気機械式、または電磁式のアクチュエータが使用される。ブレーキ操作には、高い安全性要求が課せられ、制動動作は、規定された目標値設定に相応して確実に再現可能に構成されていなくてはならない。この要求を満たすために、実地においては種々様々な制御アルゴリズムを備えたブレーキ制御、主として制動トルク閉ループ制御ならびに押付け力閉ループ制御が使用される。
【0003】
制動トルク閉ループ制御では、制動の作用は、制動手段、好ましくはブレーキディスクに配置された制動トルクセンサまたは制動力センサによって求められ、このような制動トルクセンサまたは制動力センサの測定値は、有効半径にわたって同様に制動トルクに換算可能である。閉ループ制御は、生ぜしめられた制動トルクを基準にして行われる。
【0004】
これに対して押付け力閉ループ制御の場合には、アクチュエータによって制動手段に加えられる押付け力が、または特に空気力式のアクチュエータの場合には、現時点の制動圧が測定され、この押付け圧または制動圧を基準にして閉ループ制御が行われる。この場合でも制動圧は、有効面積にわたって現時点において作用する押付け力に、比例的に換算可能である。
【0005】
欧州特許第2890596号明細書に基づいて、冒頭に述べた形式の、アクチュエータを制御するための制御装置が公知であり、この制御装置は、ここでは分散された制御構造物(Steuerungsarchitekur)の意味で、直接ブレーキアクチュエータにおいて実行されている。しかしながら目標値設定は、中央のユニットによって、つまり車体ごとに設けられたブレーキ制御を介して行われる。分散されてブレーキアクチュエータに配置された制御装置は、目標値閉ループ制御装置を含んでおり、この目標値閉ループ制御装置は、遅延値の設定された目標値FVまたはMVに相応して、アクチュエータのための調整値を生ぜしめ、アクチュエータはこの調整値を押付け力に変換する。後続の制動手段は、押付け力のこの実際値をさらに、車両を制動するために遅延値に変換する。閉ループ制御の枠内には第1のセンサが設けられており、この第1のセンサは、押付け力の実際値を求める。第2のセンサが遅延値の実際値を求める。目標値閉ループ制御装置は、車両の設定された運転条件の場合に遅延値を閉ループ制御するために調整値を、遅延値の検出された実際値が遅延値の目標値に相当するように調節するのに適した構成を有している。さらに上に述べた目標値閉ループ制御装置は、車両の設定された別の運転条件の場合に、例えば車両の停止時に、押付け力を閉ループ制御するために調整値を、押付け力の検出された実際値が押付け力の設定された目標値に相当するように調節するのにも適した構成を有している。これによって分散されてブレーキアクチュエータに配置された目標値閉ループ制御装置は、車両の運転条件に応じて、制動トルク閉ループ制御と押付け力閉ループ制御とを実施する。したがって従来技術では、ブレーキアクチュエータごとに押付け力閉ループ制御と遅延値閉ループ制御との間において、種々様々な運転条件に応じてアクティブに切換が行われる。
【0006】
従来技術における欠点としては次のことが挙げられる。すなわち従来技術では、上に述べた目標値閉ループ制御装置によって処理されたまたは計算された制御値、例えばセンサ技術的に求められた実際値、および目標値からの偏差を補償するための、閉ループ制御の枠内においてその都度計算された調整値のような制御値は、例えば妥当性検査、作用監視、およびこれに類したことを目的として、中央のユニットにおいてまとめ、そこで使用可能にすることができない。さらに局部的なブレーキアクチュエータ内に組み込まれた計算容量は、しばしば制限されているので、複雑な閉ループ制御機能または上に述べた付加機能をそこで実施することは不可能である。さらにブレーキアクチュエータの損傷が発生したような場合には、両閉ループ制御回路、つまり制動トルク閉ループ制御および押付け力閉ループ制御がそれによって損傷してしまうおそれがあり、極端な場合には単になお、これらの閉ループ制御に比べて不快な緊急ブレーキ機能を用いることしかできなくなる可能性がある。
【0007】
ゆえに本発明の課題は、冒頭に述べた形式の、車両の制動手段を操作するための少なくとも1つのアクチュエータを制御するための制御装置、もしくはこの制御装置によって実施される、制御装置を運転するための方法をさらに改良して、比較的大きな機能範囲および比較的高い故障防止性能を実現することができる、制御装置もしくは方法を提供することである。
【0008】
この課題は、請求項1の前提部に記載された制御装置を起点として、請求項1の特徴との関連において解決される。この制御装置を含むレール車両に関しては、並列的な請求項4および請求項5に記載される。課題は方法技術的には、請求項6によって解決され、請求項10は、方法を具現化するコンピュータプログラム製品を提供する。それぞれの引用形式の従属請求項は、本発明の好適な発展形態を含む。
【0009】
本発明は、特殊なカスケード式の閉ループ制御回路が設けられており、この閉ループ制御回路では、押付け力閉ループ制御のための回路は内部閉ループ制御回路を形成しており、制動トルク閉ループ制御のための回路は、押付け力閉ループ制御とは別個にかつ位置的に離されて形成された制動トルク閉ループ制御ユニット内に配置されていて、外部閉ループ制御回路を形成しているという技術的な教示を含む。外部閉ループ制御回路は、少なくとも1つのアクチュエータの、内部閉ループ制御回路に対して優先された制御を実施し、さらに外部閉ループ制御回路は、車両の特定の運転条件下において遮断可能であるので、外部閉ループ制御回路の遮断時に内部閉ループ制御回路は、自動的に少なくとも1つのアクチュエータを制御する。
【0010】
言い換えれば本発明によれば、カスケード式の閉ループ制御が提供され、この閉ループ制御によれば、内部閉ループ制御回路に対して外部閉ループ制御回路を優先させているのみならず、両閉ループ制御回路を含む構造ユニットを互いに場所的に隔てている。これによって従来技術に比べて、高レベルの故障防止性能が得られ、ただ1つの構造ユニットの計算容量だけに、制御技術的な機能を満たすという負荷が加えられることはなくなり、その結果場合によっては、別の制御技術的な付加機能をも、本発明の対象の制御兼調整構造物の枠内において実施することができる。
【0011】
本発明に係る解決策では、車両の、通常制動時を含む通常運転時に、外部閉ループ制御回路は、少なくとも1つのアクチュエータを制御するために内部閉ループ制御回路に優先して設けられている。つまり通常運転時には、制動トルク閉ループ制御された制動が行われる。しかしながら車両の、特定の走行状態をも含む特定の運転条件下では、例えば車両の停止時には、制動トルクは、制動トルク閉ループ制御のための実際値としては測定不能である。このような事象が発生している場合に、外部閉ループ制御回路は遮断され、これによって自動的に内部閉ループ制御回路が、押付け力閉ループ制御を行うアクチュエータの制御を引き受け、押付け力閉ループ制御は、現時点の制動圧の、または現時点において制動手段に加えられる押付け力の通常の使用可能な測定値に基づく。なぜならば例えば車両の停止時にも、これらの測定値を求めることができるからである。
【0012】
本発明を改善する処置によれば、好ましくは、制動トルク閉ループ制御ユニットまたは押付け力閉ループ制御ユニットは、内部閉ループ制御回路を使用するために、優先される制動トルク閉ループ制御のために設定された目標値を、押付け力閉ループ制御のために適した目標値に換算し、これによって内部閉ループ制御回路のための目標値設定を、外部閉ループ制御回路の遮断時に簡単に保証することができることが提案される。これによって内部閉ループ制御回路のための別個の目標値設定を省くことができる。
【0013】
故障防止性能を改善するために、制動トルク閉ループ制御ユニットは、押付け力閉ループ制御ユニットよりも上位の制御レベルに位置づけられていて、下位の制御レベルの複数の押付け力閉ループ制御ユニットに接続されて使用されるように構成されていることが提案される。したがって制動トルク閉ループ制御ユニットと押付け力閉ループ制御ユニットとの1:1の対応関係は不要であり、これによって本発明の実現のために必要な機器技術的なコストが節約される。車両または走行状態の、既に上において述べられた特定の運転条件、つまり制動トルク閉ループ制御が押付け力閉ループ制御のために遮断される運転条件は、車両の停止の状態だけに制限されていない。例えば車両のスリップのような、制動トルク閉ループ制御を実施するために不適当な他の条件、または例えば妥当ではないセンサ測定値または予想範囲外にある調整値のような、明らかにエラーを含む制御値の出力によって、制動トルク閉ループ制御を遮断することができ、これによってカスケード式の閉ループ制御の枠内において自動的に、内部閉ループ制御回路は、押付け力閉ループ制御ごとにアクチュエータの制御を引き受ける。
【0014】
本発明を改善する別の処置によれば、特に上位の制御レベルに配置された制動トルク閉ループ制御ユニットにおいて、制御技術的な付加機能が実施されることが提案され、これらの付加機能は、制御値の妥当性検査、制動手段操作の作用監視、少なくとも1つの他の機能ユニット、例えば制動力分配ユニット、摩擦値計算ユニット、またはプロトコルユニットへのデータ伝達を含んでいる。このようにしてセンサ技術的に求められた制動トルク測定値の妥当性判断を、複数の押付け力閉ループ制御ユニットの測定値との比較によって実施することができる。制動手段操作の作用監視は、例えば制動距離の予想範囲を実際と比較するように実施することができ、このことはまた摩耗監視のためにも使用可能である。さらに他の機能ユニットによる制御値のさらなる使用は、ブレーキシステムの枠内に設けられた制動力分配ユニットが、フィードバック情報を局部的に実現された制動力を介して得るように、または摩擦値計算ユニットがセンサ測定値を起点として列車に沿った車輪・レール接触を計算するように行うことができ、これによって摩擦値復旧の効果を評価することもできる。
【0015】
このような制御技術的な付加機能を上位の制御レベルに与えることによって、中央に対して局所的な下位の制御レベルに制限されて設けられた計算容量が大切に扱われる。制動トルク閉ループ制御のアルゴリズムおよび押付け力閉ループ制御のアルゴリズム、ならびに場合によっては設けられている制御技術的な付加機能は、プログラムコード手段を備えたコンピュータプログラム製品の形態で実現することができ、このとき相応の制御ソフトウエアは、好ましくは、割り当てられた機能に応じて、押付け力閉ループ制御ユニットおよび制動トルク閉ループ制御ユニットに分配されている。
【0016】
本発明に係る制御装置は、原則的にアクチュエータごとに、輪軸ごとに、台車ごとに、または車体ごとに作業することができるが、しかしながら好ましくは好適な第1実施形態によれば、アクチュエータごと、輪軸ごと、または台車ごとに、この限りにおいて車輪近傍の1つの押付け力閉ループ制御ユニットが配置されており、これに対して少なくとも1つの制動トルク閉ループ制御ユニットが、車体ごとに設けられている。これとは択一的に、少なくとも1つの制動トルク閉ループ制御ユニットが、さらに中央に、つまりレール車両ごとに設けられてもよい。この場合には制動トルク閉ループ制御ユニットは、好ましくはレール車両のリード車両に配置されている。しかしながらいずれの場合でも、内部閉ループ制御回路の押付け力閉ループ制御は、車輪近傍で、割り当てられた押付け力閉ループ制御ユニットにおいて行われる。
【0017】
また、上位の制御レベルに配置された中央の閉ループ制御器ユニットの枠内において、複数の制動トルク閉ループ制御器が同時に作動することも考えられる。
【0018】
次に本発明を改善するさらなる処置を、図面を参照しながら本発明の好適な実施例の記載と共に一緒に詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ただ1つの車体から成るレール車両であって、それぞれ割り当てられた制動手段を操作するための複数のアクチュエータの制御のための制御装置が配置されているレール車両を概略的に示す図である。
【
図2】複数の車体から成るレール車両であって、それぞれ割り当てられた制動手段を操作するための複数のアクチュエータの制御のための制御装置が配置されているレール車両を概略的に示す図である。
【
図3】制御装置の枠内において使用される、異なる制御レベルにおける制動トルク閉ループ制御および押付け力閉ループ制御のためのカスケード式の閉ループ制御を概略的に示す回路図である。
【0020】
図1によればレール車両は、ただ1つの車体1から成っており、この車体1は、2つの台車2a,2bを備えていて、両台車2a,2bは、それぞれ2つの輪軸3a,3b(ここでは台車2aに対する例だけが示されている)を有しており、輪軸3a,3bの車輪にはそれぞれ1つのアクチュエータ4a;4bが割り当てられていて、このアクチュエータ4a;4bは、ここではさらには示されていない制動手段の操作のために働く。本実施例では例示されたアクチュエータ4a,4bは、空気力式のブレーキシリンダとして形成されている。以下においては、台車2aのブレーキ制御のための制御装置について記載するが、その記載は、他方の台車2bに対しても同様に通用する。
【0021】
それぞれのアクチュエータ4a,4bには、この限りにおいて車輪近傍の押付け力閉ループ制御ユニット5a;5bが割り当てられている。カスケード式の閉ループ制御の枠内において使用される制動トルク閉ループ制御ユニット6が、車体1の中央に設けられている。同様に構成された複数の車体1が、互いに接続されて牽引車列(Zugverband)を形成していてもよい。
【0022】
またそれぞれの押付け力閉ループ制御ユニット5a;5bは、内部閉ループ制御回路のために、現時点の制動圧の実際値PBを測定するための第1のセンサ7a;7bに接続されている。これに対して制動トルク閉ループ制御ユニット6は、外部閉ループ制御回路を実現するために、制動手段によって車輪に実際に加えられた減速トルクMVを測定するための第2のセンサ8a;8bに、接続されている。
【0023】
図2によれば、レール車両は複数の車体1a~1cから構成されており、ここではそれぞれ1つの車輪近傍の押付け力閉ループ制御ユニット5a’;5b’が、アクチュエータ4a’,4b’ごとに設けられている。これらのアクチュエータ4a’,4b’には、ただ1つの制動トルク閉ループ制御ユニット6’が、レール車両ごとに割り当てられており、この制動トルク閉ループ制御ユニット6’は、リード車両として働く前方の車体1a内に配置されている。その他の構成においてこの実施例は、上に記載された実施例に同様に同じである。
【0024】
図3には、下位の制御レベルの、局部的な閉ループ制御器ユニット10a,10b内に配置された複数の内部閉ループ制御回路と、上位の制御レベルの、ほぼ中央の閉ループ制御器ユニット12内に配置された外部閉ループ制御回路との協働形式が示されている。このカスケード式の閉ループ制御は、レール車両の、上に記載された両実施例に適用することができる。
【0025】
第1の内部閉ループ制御回路の枠内において、アクチュエータ4aは空気力式のブレーキシリンダであり、このブレーキシリンダの押付け力は、自体公知のディスクブレーキアセンブリの形態の制動手段9aに作用する。第1のセンサ7aは、アクチュエータ4aが押付けのために制動手段9aに加える現時点の制動圧の実際値PBを測定する。第1のセンサ7aによって求められた測定値は、押付け力閉ループ制御の、押付け力閉ループ制御ユニット5a内に格納されたアルゴリズムに、実際値として供給され、押付け力閉ループ制御は、設定された目標値に応じて、アクチュエータ4aのための調整値ST1を求め、つまり発生している制御差を補償するための圧力上昇分または圧力下降分を算出する。押付け力閉ループ制御ユニット5aのこの押付け力閉ループ制御は、このカスケード式の閉ループ制御の枠内において内部閉ループ制御回路を形成している。
【0026】
これに対して外部閉ループ制御回路は、制動トルク閉ループ制御によって構成され、この制動トルク閉ループ制御は、第2のセンサ8aを介して制動手段9aにおける現時点の減速トルクMVを測定し、制動トルク閉ループ制御ユニット6に提供する。制動トルク閉ループ制御ユニット6は、それぞれ車輪ごとに割り当てられた内部閉ループ制御回路10a,10bに対して上位の制御レベルに位置づけられていて、内部閉ループ制御回路10a,10bに、双方向通信のためにデータバス線路11によって接続されている。制動トルク閉ループ制御ユニット6は、制御差を補償するために調整値ST2を求め、この調整値ST2は、通常運転においてアクチュエータ4aの制御のために設けられていて、押付け力閉ループ制御ユニット5aを介してアクチュエータ4aにさらに導かれる。
【0027】
カスケード式の閉ループ制御の機能によれば、外部閉ループ制御回路は、アクチュエータ4a;4bの、内部閉ループ制御回路に対して優先された制御を行うものであり、その場合に、車輪から離れて配置された外部閉ループ制御回路は、車両の特定の運転条件下において遮断可能であるので、結果として自動的にそれぞれのアクチュエータ4a,4bの内部閉ループ制御回路が、制御を引き受ける。
【0028】
上位の制御レベルの、中央に位置決めされた制動トルク閉ループ制御ユニット6は、本実施例では、複数の押付け力閉ループ制御ユニット5a,5bに共通の外部閉ループ制御回路として割り当てられている。
【0029】
本発明は、上に記載された好適な実施例に制限されるものではない。むしろ、以下に記載の請求項の保護範囲によって一緒に包含されている変化形態も考えられる。例えば制動トルク閉ループ制御ユニットの内部に複数の制動トルク閉ループ制御アルゴリズムを並列的に形成することも可能であり、または2つよりも多くの局部的な押付け力閉ループ制御ユニットが、1つの中央の制動トルク閉ループ制御ユニットに割り当てられていることも可能である。本発明に係る解決策は、さらに車両の、台車の枠内に配置されていない車輪がブレーキ操作される、構造物をも可能にする。
【符号の説明】
【0030】
1 車体
2 台車
3 輪軸
4 アクチュエータ
5 押付け力閉ループ制御ユニット
6 制動トルク閉ループ制御ユニット
7 第1のセンサ
8 第2のセンサ
9 制動手段
10 局所的な閉ループ制御器ユニット
11 データバス線路
12 中央の閉ループ制御器ユニット
PB 制動圧の実際値
FB 押付け力の実際値
FV 減速力の実際値
MV 減速トルクの実際値
ST1 押付け力閉ループ制御の調整値
ST2 制動トルク閉ループ制御の調整値
SV 制動トルク閉ループ制御のための目標値
SB 押付け力閉ループ制御のための目標値