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特許7136936鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を予想する方法、鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を改善する方法、およびこれらの方法を実施する装置
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  • 特許-鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を予想する方法、鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を改善する方法、およびこれらの方法を実施する装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を予想する方法、鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を改善する方法、およびこれらの方法を実施する装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/10 20060101AFI20220906BHJP
   B60T 8/174 20060101ALI20220906BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20220906BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20220906BHJP
   G01N 13/00 20060101ALI20220906BHJP
   B61K 13/00 20060101ALN20220906BHJP
   B61K 9/08 20060101ALN20220906BHJP
   B61C 15/08 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
G01M17/10
B60T8/174 C
B60T8/172 B
B60L3/00 N
G01N13/00
B61K13/00 Z
B61K9/08
B61C15/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020570741
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2019065929
(87)【国際公開番号】W WO2019243281
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】102018209920.0
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503159597
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア シーネンファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Schienenfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80,D-80809 Muenchen,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル コール
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-030897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0203735(US,A1)
【文献】特開2000-211487(JP,A)
【文献】特開2004-294303(JP,A)
【文献】特開2000-127963(JP,A)
【文献】特開平02-211007(JP,A)
【文献】特開2001-334932(JP,A)
【文献】特開2013-184526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00- 17/10
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00- 13/00
B60L 15/00- 58/40
G01N 11/00- 13/04
B61C 1/00- 17/12
B61D 1/00- 15/12
B61G 1/00- 11/18
B61J 1/00- 99/00
B61K 1/00- 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を自動的かつ最適に改善する方法であって、
レールと車輪との間の前記接触点における前記粘着係数を特定するために、
周囲空気の気圧と、
周囲空気の気温と、
周囲空気の大気湿度と、
前記気圧、前記気温および前記大気湿度から得られる露点とをパラメータとして使用する、粘着係数を予想することと、
前記粘着係数と粘着係数改善手段の強さとの一意の対応付けを含むルールに基づき、前記予想した粘着係数を前記粘着係数改善手段の強さに換算することと、
前記換算された強さで前記レールに砂撒きする粘着係数改善手段により前記粘着係数を改善すること、とを含み、
前記一意の対応付けは、粘着係数の特定の閾値以降は、前記粘着係数改善手段における砂撒きが最小量で行われることを示す、方法。
【請求項2】
前記方法において、前記予想することは、自己学習で動作するアルゴリズムを使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
衛星支援の位置測定システムを用いた位置特定を前記予想することに取り込む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
時刻および/または日付を前記予想することに取り込む、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記予想することに車両速度を取り込む、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
衛星支援の位置測定システムを介して、または車両固有のデータを使用して車速を得る、請求項記載の方法。
【請求項7】
レインセンサのデータおよび/または特定の時間間隔における手動のウィンドウワイパ操作の回数を前記予想することに取り込む、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
輝度センサを介して検出した周囲の輝度を前記予想することに取り込む、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を自動的かつ最適に改善する装置の感度の調整を手動で実行可能であり、これにより、粘着係数改善手段の強さに影響を及ぼす、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記レールの温度を前記予想することに取り込む、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記予想することに使用される前記パラメータの実際値に加えて、前記パラメータの時間的な経過も取り込む、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
サービスブレーキ命令によって前記粘着係数の計算を起動する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項4に記載した位置特定と、前記位置特定によって識別可能でありかつ反復する、考えられ得る危険箇所とに基づき、考えられ得る前記危険箇所に入る直前に、先を見越して前記粘着係数の計算を起動する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
固定された時間間隔で連続して、前記粘着係数の前記計算を実行する、請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
請求項に記載の前記方法を実行するように構成された、鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を自動的かつ最適に改善する装置であって、前記装置は、
請求項1から14までに記載された、粘着係数を予想する方法に使用されるそれぞれの前記パラメータに対するインタフェースを有するデータ入力部と、
請求項に記載された、鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を自動的かつ最適に改善する方法を実行する計算ユニットと、
車輪とレールとの間の接触点における前記粘着係数を改善するために、請求項に記載された前記方法によって特定された強さを供給するデータ出力部と、
前記装置を操作するための操作ユニットと、を有する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を予想し、これにより、これに引き続いて粘着係数改善手段、特にレールの砂撒きを講じる方法に関する。
【0002】
工場および道路交通からイミシオンによるレールの汚染は、また多くの場合に葉または花粉のような自然の原因によるレールの汚染も、水分と組み合わされると、鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を大きく下げてしまう油膜を形成する。これは、車輪が転動することなくレールの上で滑るいわゆる滑走に結び付いてしまうことがある。結果的に鉄道車両は、停留所を発車する際または危険な状況において、濡れた条件では、大きくより不都合に遅延してしまうことがあり、これにより、このことは事故の確率を高めてしまうか、また信号の通過またはプラットホームの通過の危険性、ひいては運行フローに遅延を必然的に生じさせてしまう。
【0003】
増大される危険な状況を考慮するために、多くの牽引車両運転者は、相応の天候の際には、より滑りやすい条件にその運転行動を適合させる。したがって特に、短い間隔で車両が次々に多くの停車場を発車する都会の鉄道交通では、より急速に延着および運行フローにおける遅延になってしまう。さらに乗客は、主たる遅延よりも、駅もしくは停車場への特に遅い乗り入れを感じ取り、このことは、怒りや不満に結び付き得る。
【0004】
砂撒き装置は、以前から従来技術において、特に濡れたレールにおいて、レールと鉄道車両の車輪との間の粘着を高める1つの選択肢として公知である。砂は、レール表面に、しかもレールと車輪との間の接触点に、多くの場合に圧縮空気システムを介して投入され、これにより、レール上の車輪の粘着係数を改善することができる。しかしながら車輪とレールとの間の粘着係数を増大させるために別の手段も考えられる。例えば、汚れを取り除いて汚れたレールを浄化し、これによって粘着係数を増大させるために圧縮空気を使用可能である。
【0005】
砂撒き装置の操作は、多くの場合に牽引車両運転者によって手動で行われ、したがって人間の経験および主観的な判断に依存しており、またこの操作には人間の誤った判断の危険性が加わる。別の特定のケースにおいて、この操作は、自動的に起動することも可能である。例えば、滑走保護システムにより、レール上の車輪の「滑走」を識別し、結果として砂撒き装置を操作可能である。砂撒きシステムは、数秒の応答時間を有するため、速度が高い場合には滑走を識別した後、車両は、改善された粘着係数を伴わずにさらに長い区間を進んでしまい、このことは、必然的に制動距離に、ひいては最悪の場合には安全性にマイナスの影響を及ぼしてしまうことになる。さらに多くのシステムでは、自動的な砂撒きは、非常ブレーキの際に実行される。
【0006】
レールの砂撒きのような粘着係数を改善する手段を講じなければならないか否かを可能な限りに早期に識別するためには、粘着係数を可能な限りに早く特定するのが有効である。
【0007】
特許文献独国特許発明第19542872号明細書には、光センサを介して汚れの膜を測定する方法が開示されており、この光センサは、レールで反射したレーザビームを検出して評価し、これによって車輪とレールとの間の粘着係数についての推測を出力することができる。これにより、レールの性質に基づいて、例えば、砂撒き装置の操作のような対抗手段を実行可能である。この方法の欠点は、鉄道車両の床下領域の光センサは、特に、油膜の形成について特にクリティカルと評価される不利な天候条件では、すぐに汚れてしまい、したがってレールの状態についての確実な推測がもはやできなくなってしまうことである。さらにこの方法については、測定センサまたはレーザ源のような付加的な装置を準備しなければならない。
【0008】
このような背景から本発明の課題は、すなわち、車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を予想する方法を提供することであり、これにより、この粘着係数予想に基づき、制動過程において、可能な限りに最適な粘着係数改善手段、例えばレールの自動的な砂撒きを行えるようにし、これにより、鉄道車両の安全性および信頼性をさらに高められるようにすることである。
【0009】
この課題は、粘着係数を特定する方法と、粘着係数改善手段の強さを特定する方法と、独立請求項に記載された、これらの方法を実施する装置とによって成し遂げられる。
【0010】
車輪とレールとの間の粘着係数の予想は、少なくとも、気圧と、気温と、大気湿度と、これらから結果として得られる露点とから特定される。
【0011】
粘着係数改善手段の強さを特定する方法には、一意の対応付けルールが含まれており、この対応付けルールにより、粘着係数を予想する方法に基づいて特定された粘着係数を粘着係数改善手段の強さに換算可能である。
【0012】
上記の2つの方法を実施する装置には、関連するデータを受け取るデータ入力部と、粘着係数改善手段の強さに粘着係数を換算する計算部、計算ユニットによって特定された結果を供給して転送するためのデータ出力部と、これらの方法を操作しかつ監視する操作ユニットとが含まれる。
【0013】
有利な発展形態は、従属請求項の対象である。
【0014】
本発明の好ましい一実施形態では、車輪とレールとの間にスリップが発生したときに識別される、滑走保護システムのデータが、車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を特定する方法にも同様に提供される。
【0015】
さらに、この方法では、粘着係数を特定するために好適には、例えばニューラルネットワークのようなアルゴリズムが使用され、このアルゴリズムは、自律的に学習することができ、したがって情報を取り込み、さらに処理し、将来の計算のために一緒に取り込むことが可能である。自律学習は、特に、滑走保護システムからアルゴリズムに供給される情報に基づいて実行可能である。この方法によってクリティカルな粘着係数が予想されなかった状況において、車輪とレールとの間のスリップが識別された際には、このアルゴリズムは、その誤った予想を識別して、これを今後のためにこれを適合させることができる。
【0016】
好適には、付加的に車両の位置を検出して予想モデルに伝達可能である。この位置データに基づき、第1には、変化した高度または識別した走行に基づいて気圧データを修正可能であり、第2には、砂撒きの使用をさらに改善可能である。例えば転轍機のような禁止された箇所における砂撒きを阻止するか、または低い粘着係数ゆえに特に危険であると評価され得る特定の位置(例えば、葉がレールに到達する高い危険性がある、植生の多い森林地帯)にシステムを適合させることが可能である。
【0017】
さらに、好適には、季節または時刻に応じた影響を一緒に考慮できるようにするために、日付および時刻を予想モデルに一緒に組み入れることができる。ここでは、特に、春または秋の朝に霧の危険性が高いことが示される。
【0018】
別の点として、好適には、予想モデルに速度を一緒に取り込むことができる。この速度は、場合によっては同様に考慮される位置特定によるか、または車両固有のデータによって供給可能である。速度に基づいて、例えば、低速時に砂撒きをやめるなどの操作指示を自動的に実行することができる。
【0019】
好適には、予想モデルによる計算の際に、付加的にレインセンサのデータまたは時間間隔当たりの手動のウィンドウワイパ操作の回数が考慮される。これにより、雨の強さ、ひいてはレール上の水分を推測可能である。強くかつ数分にわたって持続するにわか雨は、一般に、車輪とレールとの間の粘着係数を低下させる油膜を洗い落とし、したがって粘着係数が元のように増大する。
【0020】
好適には、持続する日光を識別可能な輝度センサが、予想モデルに取り込まれ、したがってこの予想モデルをさらに改善することができる。ここでの想定は、日光が持続すると、濡れたレールの確率が下がり、したがって粘着係数が増大するということである。状況によっては、この想定はさらに、すでに挙げた温度、および/または時点(日付、時刻)を考慮してさらに改良される。というのは、2つの要因も同様にレールの乾燥に影響を及ぼすからである。
【0021】
さらに、好適に牽引車両運転者に可能になるのは、予想モデルの感度、ひいては砂撒き装置の強さに影響を及ぼすことであり、これにより、この牽引車両運転者は、その個人的な感覚およびその経験にしたがってつねに介入できるようになる。
【0022】
粘着係数の悪化に結び付く、レールにおける大気湿度の凝縮の確率をさらに正確に特定できるようにするために、好適には付加的にレールの温度をこの方法の計算に取り込む。このことの利点は、周囲温度を介してレールの温度を推測する必要がなく、したがって予測の信頼性が高まることである。
【0023】
予想精度をさらに改善するために、好適には、測定されるもしくは計算に取り込まれるパラメータの時間的な経過を記憶する。したがって、データ保護法の点から可能であれば、砂撒きの強さに影響を及ぼすために、サービスブレーキ命令の経過も、すなわち牽引車両運転者がどのくらいの速さで種々異なるブレーキレベルを通り抜けるかも、モデルに含めることができる。この付加的な情報に基づき、上記のアルゴリズムのより高速な学習行動が達成可能である。
【0024】
好適には、サービスブレーキ命令または加速命令の操作によって車輪とレールとの間の粘着係数の計算を起動し、場合によっては砂撒き装置を操作する。
【0025】
さらに、好適には、反復する危険箇所として上記の方法によって識別され得た位置では、制動時に時間の遅れなく粘着係数改善手段を実行できるようにするために、すでに先を見越して車輪とレールとの間の粘着係数の計算を起動する。
【0026】
以下では添付の図面に基づき、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】予想モデルの関連する入力パラメータ、および車輪とレールとの間の粘着係数の出力量を有する予想モデルの概略図である。
図2】砂撒き量と、車輪-レール間の粘着係数との間の例示的な関係を説明する線図である。
【0028】
図1には、予想モデルおよび関連する入力パラメータを有する上記の方法の概略図が示されている。これらのパラメータは、予想モデルにおける計算ロジックによって処理され、したがって粘着係数μが特定される。
【0029】
前に述べたように粘着係数μについての予想を行えるようにするためには、主請求項で挙げたパラメータで十分である。しかしながら、別の数多くの要因が考慮されていないため、上記の値にはいくらかの不確定要素をはらんでいることに注意しなければならない。すなわち予想の品質をさらに改善するために、従属請求項に挙げたパラメータも同様に使用される。粘着係数μの可能な限りに正確な予測、ひいては、例えば、砂撒き装置のより正確な使用が、これによって可能になる。
【0030】
図2には、車輪-レール間の粘着係数と、この実施例において粘着係数改善手段として使用しようとしている砂撒きの強さとの間の例示的な関係を示す線図が示されている。ここでより大きな粘着係数μは、車輪とレールとの間の接触点において油膜が少ないことに相当し、したがって粘着係数改善手段は不要である。
【0031】
ここで識別されるのは、粘着係数の特定の閾値以降、跳躍的にレールの砂撒きが最小量で行われることである。高い粘着係数における一定の部分の原因と考えられるのは、特定の限界粘着係数までは、通常の制動過程を実行するために、十分に大きな粘着性が、車輪とレールとの間に存在することを前提とすることができることである。確かにこの領域では少量の砂撒きでも同様に粘着係数を改善させることになり得るが、鉄道車両が備えることが可能な砂のストックは限られているため、砂撒き操作は、調量されて行われるべきである。境界値μGrenz以降の跳躍は、粘着係数μの所望の改善を達成するために、砂撒き操作によって供給しなければならない砂の最小量から得られる。この後、この関係は直線的に経過する。このことが意味するのは、粘着係数μの低下に伴って、砂撒きの強さが均一に増大することである。このような関係に基づき、粘着係数改善手段の強さを特定する方法によって1つの結果が求められる。
【0032】
以下では、本発明の一実施形態を詳しく説明する。
【0033】
自己学習アルゴリズムに基づく本発明の方法では、一定の間隔で、鉄道車両の車輪とレールとの間の接触点における粘着係数を計算し、砂撒き量とそれぞれの粘着係数との間の格納されている関係(図2を参照されたい)に基づき、制動時に供給すべき砂撒き量を特定する。この際にはこの自己学習アルゴリズムには、パラメータとして、それぞれエアコンディショナシステムから取り出し可能な気圧および気温と、制動装置のエアドライヤから取り出し可能な大気湿度とが利用可能である。
【0034】
さらに、この方法は、GPSシステムを介し、例えば列車統合管理装置(TCMS:Train Control & Management System)から特定される位置を使用可能である。位置特定および学習システムを使用することにより、特に、粘着係数μが、例えば植生による特別な影響を受ける路線区間における粘着係数をより正確に推定して予測可能である。さらに、操作指示によって砂撒きが禁止されている箇所における、例えば転轍機における砂撒きを阻止可能である。TCMSからの速度を使用することにより、砂撒きについての最大速度に関して別の操作指示を守ることができる。
【0035】
ブレーキ制御部から取り出すことが可能な日付および時刻のパラメータを追加することにより、さらに、粘着係数のより正確な計算の達成に役立てることができる。
【0036】
この方法はさらに、レインセンサまたは特定の時間間隔における手動のウィンドウワイパ操作の回数を使用することができ、これにより、雨の強さを推測可能である。粘着係数はレールの湿り気に大きく依存するため、これにより、粘着係数のより正確な計算が可能になる。さらに、雨の識別に基づき、にわか雨の特殊事情を考慮することができる。にわか雨が持続する場合、レールは洗浄されて汚れの膜がなくなり、粘着係数が元のように大きく増大する。
【0037】
輝度センサのデータを追加することにより、太陽の影響も同様に考慮することができる。日が照っている場合、レールはより迅速に元のように乾き、したがって粘着係数に影響が及ぼされるため、計算結果をさらに改善させることができる。
【0038】
牽引車両運転者の経験および個人的な感覚を上記の方法に一緒に取り入れる機会をつねに牽引車両運転者に提供するために、計算の感度レベルを手動であらかじめ設定可能である。感度レベル「0」では、粘着係数μはつねに最大値(すなわち1)にセットされ、感度レベル「10」により、粘着係数μは、最小値(すなわち0)に設定される。これらの間の対応する感度レベルにより、図2の曲線が、押し潰されるまたは引き伸ばされる。
【0039】
さらに、レール上での車輪のスリップについての滑走保護の情報は、自己学習アルゴリズムに返される。これらの情報により、レールに砂撒きが行われることなく車輪がスリップしてしまった場合、明らかに誤った粘着係数が計算されていたことを推測することができる。これにより、計算を修正して改善することができる。
【0040】
実際の砂撒きは、図2の線図による粘着係数により、砂撒きおよびひいては粘着係数の改善が必要でありかつサービスブレーキ命令が与えられた場合に行われる。鉄道車両では一般に制動力は連続的に形成され、したがって粘着係数が低くても一般には制動命令の直後に車輪はロックされず、したがって滑走保護システムが起動されるため、レールの砂撒きは、従来技術による滑走保護システムによる従来の起動の場合よりも数秒前に起動される。したがって、従来であれば滑走を引き起こし得たような制動力が供給される場合、粘着係数を改善する十分な砂がレール上にあることを前提とすることができる。これにより、安全性および快適性が改善される。
【0041】
高速ブレーキング時に砂撒きが強制的に行われない場合、この場合にもこの方法を使用可能である。しかしながらこのためには安全性を検証する必要がある。
図1
図2