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  • 特許-血管内皮機能向上用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】血管内皮機能向上用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20220906BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220906BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220906BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61P9/00
A61P9/10
A61K47/36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020571253
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2020004516
(87)【国際公開番号】W WO2020162532
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2019020047
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】折越 英介
(72)【発明者】
【氏名】今田 隆文
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/095675(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/132223(WO,A1)
【文献】特開2008-255075(JP,A)
【文献】特開平01-213293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7048
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物
を有効成分として含有する、FMD値として表される血管拡張率の増大用組成物(但し、抗動脈硬化用組成物及び抗高血圧組成物を除く)
【化1】
(式中、Glcはグルコース残基を表し、nは、1~11までのいずれかの整数を表す。)
【請求項2】
さらに、マルトデキストリンを含む、請求項1に記載のFMD値として表される血管拡張率の増大用組成物。
【請求項3】
中高年に経口投与するためのものである、請求項1又は2に記載のFMD値として表される血管拡張率の増大用組成物。
【請求項4】
前記式で表される、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物を、1回あたり1.0mg/kg体重~50mg/kg体重服用する為の、請求項1~3のいずれか1項に記載のFMD値として表される血管拡張率の増大用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮機能向上用組成物に関し、より詳細には、α-グルコシルイソクエルシトリンを含有する血管内皮機能向上用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本において、脳血管疾患と虚血性心疾患を含む循環器疾患は、主要な死因の1つである。さらに、循環器疾患は、死亡を引き起こすのみではなく、死亡に至らない場合にも後遺症を残し、これに苦しむ事例も多い。
【0003】
特に、脳卒中は、寝たきりの主要な要因となっており、大きな社会問題ともなっている。従って、循環器疾患の死亡や罹患率の改善が求められている。
【0004】
脳卒中等の循環器疾患の発症には生活習慣が深く関与していることが明らかとなってきている。そのため、食生活等の改善や有効なサプリメントの摂取等による予防策が重要といえる。
【0005】
一方、循環器疾患のリスク対策において、血管内皮機能を改善することは有効であると考えられており、血管内皮機能の定量的測定によりリスクを推定することが行われている。血管内皮機能を調べる方法として、血流量変化に基づくせん断応力に対する動脈の拡張反応である血流依存性血管拡張(flow-mediated vasodilation;FMD)の測定が臨床医学において用いられている(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】Joannides R, Haefeli WE, Linder L, Richard V, Bakkali EH, Thuillez C, Luscher TF. Nitric oxide is responsible for flow-dependent dilatation of human peripheral conduit arteries in vivo. Circulation. 1995;91:1314-1319
【文献】大澤俊彦ら、「血流改善成分の開発と応用」、pp.63-72、2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、血管内皮機能向上用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、一般的に酵素処理イソクエルシトリンとして知られているα-グルコシルイソクエルシトリンまたはその混合物に着目し、このような化合物に、血管の機能を著しく改善する作用があることを見出し、かかる知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下の態様を含む:
項1.
下記式で表される、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物
を有効成分として含有する、血管内皮機能向上用組成物:
【化1】
(式中、Glcはグルコース残基を表し、nは、1~11までのいずれかの整数を表す。)
項2.
血管内皮の収縮及び/又は拡張機能を向上させる為の項1に記載の血管内皮機能向上用組成物。
項3.
前記血管内皮機能向上が、血流量の調整、血管拡張、血圧の調整機能向上、動脈硬化症の予防、又は動脈硬化症のリスクの低下である、項1又は2に記載の血管内皮機能向上用組成物。
項4.
前記式で表される、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物を、1回あたり0.1~100mg/kg服用する為の、項1~3のいずれか1項に記載の血管内皮機能向上用組成物。
項5.
下記式で表される、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物
を含有する、血管内皮機能向上の為の飲食品組成物、医薬組成物、又は飼料:
【化2】
(式中、Glcはグルコース残基を表し、nは、1~11までのいずれかの整数を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、α-グルコシルイソクエルシトリンを有効成分とする血管内皮機能向上用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例にかかる組成物によるFMDの評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特に限定されない限り、本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、室温で実施され得る。本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味する。
【0013】
[血管内皮機能向上用組成物]
(α-グルコシルイソクエルシトリン)
本発明では、下記の定義に該当するα-グルコシルイソクエルシトリンの混合物等を酵素処理イソクエルシトリンとも称する。
すなわち、本発明で、酵素処理イソクエルシトリンという時には、下記式で表される化合物又はその混合物であって、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物である。
【0014】
【化3】
(式中、Glcはグルコース残基を表し、nは、1~11までのいずれかの整数を表す。)
ここで、限定はされないが、好ましくは、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物は、nが1~7から選ばれる2種以上の化合物の混合物である。なお、nが1のα-グルコシルイソクエルシトリンは、単に「イソクエルシトリン」とも称される。本発明においては、酵素処理イソクエルシトリンは、好ましくは、n=1の単一の化合物である場合を除く。
【0015】
ここで、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物は、n=2~11又はn=1~11の単数又は複数の化合物を任意の割合で含む混合物であり得る。混合物の場合には、例えば、n=1~n=11までのそれぞれの化合物を均等な割合で含む化合物であっても良い。少なくとも、例えば、n=1の化合物を、混合物全体の20~40質量%程度含有し、n=2の化合物を10~30質量%程度含有する混合物であることが好ましい。この他に、n=1の化合物を、混合物全体の20~40質量%程度含有し、n=2の化合物を10~30質量%程度含有し、n=3の化合物を10~40質量%程度含有し、n=4の化合物を5~20質量%程度含有し、n=5の化合物を5~15質量%程度含有し、n=6の化合物を3~10質量%程度含有し、n=7の化合物を2~8%質量%程度含有する混合物であってもよく、あるいは、n=1の化合物を、混合物全体の20~40質量%程度含有し、n=2の化合物を10~30質量%程度含有し、n=3の化合物を10~40質量%程度含有し、n=4の化合物を5~20質量%程度含有し、n=5の化合物を5~15質量%程度含有し、n=6の化合物を3~10質量%程度含有し、n=7の化合物を2~8%質量%程度含有し、n=8の化合物を1~5%質量%程度含有し、n=9の化合物を0.2~4%質量%程度含有し、n=10の化合物を0.1~2%質量%程度含有し、n=11の化合物を0.1~2%質量%程度含有する混合物であっても良い。
【0016】
(調製方法)
本発明の酵素処理イソクエルシトリンは、限定はされないが、ルチンを酵素によって処理して得ることができる。例えば、ルチンを加水分解酵素でイソクエルシトリンとし、このイソクエルシトリンをさらにデキストリンの存在下で糖転移酵素を作用させ、酵素処理イソクエルシトリンとしたものでもよい。
【0017】
本発明では、α-グルコシルイソクエルシトリンをルチンの量に換算して、少なくとも60質量%以上含む酵素処理イソクエルシトリンを用いることが好ましい。なお、酵素処理イソクエルシトリン中のα-グルコシルイソクエルシトリン含量をルチン換算量で示すのは、波長351nmにおけるα-グルコシルイソクエルシトリンとルチンのモル吸光係数が同じであること、α-グルコシルイソクエルシトリンよりもルチンのほうが入手容易であることが理由である。このため、当業界では、ルチンを標準試料として紫外可視吸光度測定法により酵素処理イソクエルシトリン中のα-グルコシルイソクエルシトリン含量をルチンとして定量することが慣用されている。
【0018】
具体的には、酵素処理イソクエルシトリン中のα-グルコシルイソクエルシトリン含量は、食品添加物公定書第9版(日本国厚生労働省)の「酵素処理イソクエルシトリン」の欄に記載されている下記の定量法によりルチン換算量として算出することができる。
【0019】
(定量法)
(i)対象とする酵素処理イソクエルシトリン(対象試料)を乾燥し、その約50mgを精密に量り、水に溶かして正確に100mlとする。必要な場合には、ろ過する。この液4mlを正確に量り、リン酸溶液(1gのリン酸を水に溶解して全量を1000mlにした水溶液。以下同じ)を加えて正確に100mlとし、検液とする。
(ii)別に定量用ルチンを135℃で2時間乾燥し、その約50mgを精密に量り、メタノールに溶かして正確に100mlとする。この液4mlを正確に量り、リン酸溶液を加えて正確に100mlとし、標準液とする。
(iii)検液及び標準液につき、紫外可視吸光度測定法により、リン酸溶液を対照として、波長351nmにおける吸光度A及びAsを測定し、次式によりルチンとしてα-グルコシルイソクエルシトリンの含量を求める。
【数1】
【0020】
さらに、本発明の酵素処理イソクエルシトリンは、一般に、イソクエルシトリンとでん粉又はデキストリンの混合物に、シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼを用いてグルコースを付加して調製することができる(例えば、特開平1-213293号公報等)。また酵素処理イソクエルシトリンは、一般に、ルチンの酵素分解によって得られるが、その他公知の方法(例えば、ルチンの分解、植物からの抽出単離、ケルセチンの配糖化等)によっても得ることができる。また酵素処理イソクエルシトリンを含む製剤は、簡便には商業的に入手することができ、例えば三栄源エフ・エフ・アイ(株)の「サンエミック R-20」を挙げることができる。なお、「サンエミック」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標である。
【0021】
(血管内皮機能向上)
本発明における血管内皮機能向上の効果は、血管内皮の収縮・拡張機能を向上する作用を有することを意味し、循環器系疾患、特に動脈硬化や血管弾力性低下等に起因する血管内皮機能の低下によってもたらされる疾患、症状、又はこれらの疾患に関連する周辺疾患の症状の予防、改善、又は緩和に寄与し得る。
【0022】
血管内皮細胞は、血流量の増減によるせん断応力に応答して産生される一酸化窒素(NO)に応答して血管径を拡張させる作用を有する。従って、例えば血管内皮細胞から生成される一酸化窒素量によって、腕等を圧迫した後の開放後(駆血後)にどの程度動脈が拡がるかを超音波でみる検査などで検知され得る。
【0023】
血管内皮機能の向上の程度は、具体的には、血管径の増大率、すなわち、血流依存性血管拡張(Flow-mediated dilatation;FMD値(%))として定量的に評価することができる。FMD値の求め方は以下の式による。
【数2】
【0024】
ここで、最大拡張血管径は、駆血後血管径であり、安静時血管経は、駆血前血管径である。
【0025】
FMD値は、大きいほど血管の応答性機能が高く、柔軟性が高い血管と評価され、低いほど柔軟性が低い血管であると評価される。さらに、FMD値(%)は、循環器系疾患の発症リスクと相関することが知られている。すなわち、動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者のFMD値(%)は健常人よりも低値であると言われている。
【0026】
本発明において血管内皮機能を向上させる作用や改善させる作用とは、健常人並びに動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者に対してそれぞれ用いられるものとする。例えば、健常人のFMD値が上昇した場合にはその者の血管内皮機能が向上したと判断することができる。また動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者のFMD値が上昇した場合にはその者の血管内皮機能が改善されたと判断することができる。
【0027】
本発明の血管内皮機能向上用組成物に含まれる酵素処理イソクエルシトリンの含有量は、組成物の種類及び水分含量、並びに目的や用途に応じて適宜調整することができる。例えば、本発明の血管内皮機能向上用組成物中に含まれる酵素処理イソクエルシトリンの含有量が、0.01~100質量%であることが好ましい。より好ましくは、1~95質量%であり、さらに好ましくは5~90質量%であり、10~85質量%であることがさらにより好ましい。
【0028】
なお、本明細書において酵素処理イソクエルシトリンの含有量は、特別の記載がない限り、上述の通り、その中に含まれるα-グルコシルイソクエルシトリンの含有量(ルチン[C273016]として)(質量%)として示す。従って、本願発明(本件明細書)において、「酵素処理イソクエルシトリン1質量部」とは、酵素処理イソクエルシトリンに含まれるα-グルコシルイソクエルシトリンの量をルチン[C273016]の量に換算して1質量部とした場合の量を意味する。
【0029】
本発明の血管内皮機能向上用組成物には、酵素処理イソクエルシトリン以外の成分として、希釈剤、担体またはその他の添加剤を含有していてもよい。
【0030】
希釈剤または担体としては、特に制限されず、シュクロース、グルコース、デキストリン、澱粉類、トレハロース、乳糖、マルトース、水飴、液糖などの糖類;エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の糖アルコール;アラビアガム、ガティガム、キサンタンガム、カラギーナン、グァーガム、ジェランガム、セルロース類等の多糖類;または水を挙げることができる。
【0031】
本発明の血管内皮機能向上用組成物は、ヒトを含む動物に接種、又は投与した場合に、血管内皮機能向上機能を発揮し得る。血管内皮機能は、動脈硬化、高血圧、心血管疾患、動脈硬化等の発症リスクと密接に関連することが知られており、血管内皮機能を向上させることで、血管の柔軟性を確保でき、血流量を調整することができる。さらには、動脈硬化を予防し、高血圧症を予防し得る。本発明の血管内皮機能向上用組成物は、限定はされないが、動脈硬化、糖尿病、高血圧、又は脂質異常症などの他、メタボリックシンドローム、肥満症、インスリン抵抗性、耐糖能異常、糖尿病性末梢神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性大血管症、心血管疾患、アテローム性動脈硬化症、心不全、心筋梗塞、冠動脈疾患、脳血管疾患等の疾患の予防又は治療のために用いることができる。さらに、肌の乾燥シミ、シワ、たるみ、むくみの改善、冷え症、肩凝りの改善、頭皮環境の改善などにも用いることができる。さらに、本発明の血管内皮機能向上用組成物は、健常な対象者に対しても、特に予防的な観点から有効である。
【0032】
本発明の血管内皮機能向上用組成物は、血管内皮機能向上作用に優れており、場合により、短時間に症状等の緩和に導くことも可能である。
【0033】
例えば、一般的なフラボノイドの1つである、イソクエルシトリンについて、ヒトに投与しても、FMD値や血圧に影響がないことが報告されている(Nicola P Bondonno et. al, (2016). Accute effects of que4rcetin-3-gulucoside on endothelial function and blood pressure: a randomized dose-response study. Am J Clin Nutr, 104, 97-103)。同報告書ではまた、イソクエルシトリンの投与量を増加させても、これらの影響がないことも報告されている。
【0034】
(飲食品組成物、医薬組成物、又は飼料)
本発明において、酵素処理イソクエルシトリンは、ヒト又は動物用の医薬組成物、医薬部外品、飲食品組成物、又は飼料に含有されていてもよい。あるいは、酵素処理イソクエルシトリンは、まず、当該医薬組成物、医薬部外品、飲食品組成物又は飼料に配合して使用される素材又は製剤(血管内皮機能向上用組成物)とした後に、これらに配合され得る。本発明の酵素処理イソクエルシトリンを含む組成物は、飲食品組成物、医薬組成物、又は飼料等として、血管内皮機能向上機能を発揮し得る。血管内皮機能は、動脈硬化、高血圧、心血管疾患、動脈硬化等の発症リスクと密接に関連することが知られており、血管内皮機能を向上させることで、血管の柔軟性を確保でき、血流量を調整することができる。さらには、動脈硬化を予防し、高血圧症を予防し得る。本発明の酵素処理イソクエルシトリンを含む組成物は、限定はされないが、動脈硬化、糖尿病、高血圧、又は脂質異常症などの他、メタボリックシンドローム、肥満症、インスリン抵抗性、耐糖能異常、糖尿病性末梢神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性大血管症、心血管疾患、アテローム性動脈硬化症、心不全、心筋梗塞冠動脈疾患、脳血管疾患等の疾患の予防又は治療のために用いることができる。さらに、本発明の組成物は、健常な対象者に対しても、特に予防的な観点から有効である。例えば、限定はされないが、血中コレステロールが高めの人の血中コレステロールを低下させる作用、血圧が高めの人に適した機能、血中中性脂肪の上昇を抑える機能、血圧が高めな人の健康な血圧をサポートする機能、血中コレステロールが気になる人をサポートする機能、健やかな血流を保つ機能、健やかな末梢血流を保つ機能、体温を維持する機能、血圧改善、血圧維持、肌の乾燥、シワ、たるみの改善、頭皮環境の改善などに好適に使用することが可能である。
【0035】
<飲食品組成物>
本発明の飲食品組成物には、必要に応じて、血管内皮機能向上の旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品が包含される。
【0036】
上記飲食品組成物の形態としては、乳飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、果実飲料(例:果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果汁入り炭酸飲料、果肉飲料)、野菜飲料、野菜及び果実飲料、リキュール類等のアルコール飲料、コーヒー飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料等の飲料類;
紅茶飲料、緑茶、ブレンド茶等の茶飲料類(なお、飲料類と茶飲料類は、「飲料」に包含される。);
カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;
アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、及び氷菓等の冷菓類;
チューインガム及び風船ガム等のガム類(例:板ガム、糖衣状粒ガム);
コーティングチョコレート(例:マーブルチョコレート等)、風味を付加したチョコレート(例:イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等)等のチョコレート類;
ハードキャンディー(例:ボンボン、バターボール、マーブル等)、ソフトキャンディー(例:キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等)、糖衣キャンディー、ドロップ、及びタフィ等のキャンディー類;
クッキー、ビスケット等の菓子類;
コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;
セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース等の液体調味料類;
ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ、シロップ等のジャム類;
赤ワイン等の果実酒;
シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;
漬物等の農産加工品;
水産練り製品等の水産加工品;及び
パン、麺(ノンフライ麺を含む)、饅頭生地、米等の穀類加工食品;
を包含する。
当該飲食品組成物の例は、これらの製品の半製品、及び中間製品等も包含する。さらには、医薬品と同様の形態である、錠剤、カプセル剤、シロップ等の栄養補給用組成物も飲食品組成物の例として挙げられる。
【0037】
飲食品組成物には、通常の飲食品と同様に、食品添加物として用いられるものを添加することもできる。限定はされないが、特に、酵素処理イソクエルシトリンの風味との組み合わせとして好適な添加物として、アセスルファムK、スクラロース、アスパルテーム、アドバンテーム、サッカリン、ネオテーム、ソーマチン、モネリン、モナチン、羅漢果抽出物、甘草抽出物、グリチルリチン、ステビア抽出物、ステビア酵素処理物、レバウディオサイドAおよびステビオサイドなどの高甘味度甘味料が挙げられる。その他にも、酸類、脂肪酸、糖類、糖アルコール、アルコール類、抗酸化剤、タンパク質、ペプチド類、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル類、増粘安定剤;キレート剤等の助剤;香料;香辛料抽出物;防腐剤;保存料;pH調整剤;安定剤;界面活性剤等を含有させることができる。
【0038】
本発明の飲食品組成物に含まれる酵素処理イソクエルシトリン含量は、0.01~100質量%であること好ましく、0.1~50質量%であることがさらに好ましく、0.2~25質量%であることがさらにより好ましい。
【0039】
<医薬組成物>
本発明の組成物は、血管内皮機能向上用の医薬組成物であり得る。医薬組成物(医薬部外品も含む)の剤型は、錠剤(トローチ剤、チュアブル剤を含む)、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、静脈内注射剤、筋肉注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤、などを挙げることができる。
「医薬部外品」の例としては、栄養助剤、各種サプリメント、歯磨き剤、口中清涼剤、臭予防剤、養毛剤、育毛剤、皮膚用保湿剤などを挙げることができる。
【0040】
また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、酵素処理イソクエルシトリンを他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤、他の薬効成分等を適宜組み合わせることができる。また、これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口用液体製剤は、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤等を加えて常法により調製することができる。
【0041】
本発明の医薬組成物に含まれる酵素処理イソクエルシトリン含量は、0.01~100質量%であること好ましく、0.1~50質量%であることがさらに好ましく、0.2~25質量%であることがさらにより好ましい。
【0042】
<飼料>
本発明の組成物は、血管内皮機能向上用の飼料であり得る。飼料としては、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫等に用いるペットフード等の飼料等が挙げられ、ペットが摂食できる限り、上記飲食品組成物と同様の形態に調製できる。
【0043】
本発明の飼料に含まれる酵素処理イソクエルシトリン含量は、0.01~100質量%であること好ましく、0.1~50質量%であることがさらに好ましく、0.2~25質量%であることがさらにより好ましい。
【0044】
(用量等)
本発明の酵素処理イソクエルシトリンまたは血管内皮機能向上用組成物等の摂取量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定され得るが、成人に対して1日あたり、上記酵素処理イソクエルシトリンとして、一般的に好ましくは、100μg/kg体重以上、より好ましくは500μg/kg体重以上、更に好ましくは1.0mg/kg体重以上、好ましくは100mg/kg体重以下、より好ましくは75mg/kg体重以下、更に好ましくは50mg/kg体重以下である。また、好ましくは100μg~100mg/kg体重、より好ましくは500μg~75mg/kg体重、更に好ましくは1.0mg/kg体重~50mg/kg体重である。
【0045】
(投与又は摂取対象者)
投与又は摂取対象者としては、病者又は健常者に関わらず、それを必要若しくは希望する人であれば特に限定されない。血管の機能が気になる人や中高年者も対象として好ましい。また、本発明の血管内皮機能向上用組成物は、血管保護強化が必要な対象者、あるいは血管保護強化を望む対象者に適用することができる。
【0046】
(血管内皮機能向上用組成物、飲食品組成物、医薬組成物、又は飼料の製造方法)
本発明の血管内皮機能向上用組成物、飲食品組成物、医薬組成物、又は飼料の製造方法に制限はなく、任意の公知方法で製造することができる。これらの製造方法において、各成分の内容や含有量は、前述の血管内皮機能向上用組成物、飲食品組成物、医薬組成物、又は飼料の説明に準ずる。
【0047】
(血管内皮機能向上方法等)
本発明は、酵素処理イソクエルシトリンを含有する組成物を投与又は摂取させることで、血管内皮機能を向上させる方法にも関する。
ここで、血管内皮機能向上の定義、関連疾患の詳細、投与又は摂取対象者、用量等は、上記の血管内皮機能向上用組成物の項に記載の内容に準じる。
【0048】
(酵素処理イソクエルシトリンの、血管内皮機能向上用組成物を製造する為の使用)
本発明はまた、酵素処理イソクエルシトリンの、血管内皮機能向上用組成物又は薬剤を製造する為の使用、に関する。ここで、血管内皮機能向上の定義、関連疾患の詳細、投与又は摂取対象者、用量等は、上記の血管内皮機能向上用組成物の項に記載の内容に準じる。
すなわち、本発明は、
[1]
下記化学式で表される、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物を、血管内皮機能向上用組成物又は薬剤の製造の為に使用することに関する。
【化4】
(式中、Glcはグルコース残基を表し、nは、1~11までのいずれかの整数を表す。)
[2]
前記血管内皮機能向上が、血管内皮の収縮及び/又は拡張機能を向上させることである、[1]に記載の使用。
[3]
前記血管内皮機能向上が、血流量の調整、血管拡張、血圧の調整機能向上、動脈硬化症の予防、又は動脈硬化症のリスクの低下である、[1]又は[2]に記載の使用。
[4]
前記式で表される、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物を、1回あたり0.1~100mg/kg服用する、[1]~[3]のいずれかに記載の使用。
[5]
血管内皮機能向上用組成物又は薬剤が、糖尿病、高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドローム、肥満症、インスリン抵抗性、耐糖能異常、糖尿病性末梢神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性大血管症、心血管疾患、アテローム性動脈硬化症、心不全、心筋梗塞、冠動脈疾患、脳血管疾患の予防又は治療のためのものである、[1]~[4]のいずれかに記載の使用。
[6]
前記血管内皮機能向上用組成物又は薬剤が、肌の乾燥シミ、シワ、たるみ、むくみの改善、冷え症、肩凝りの改善、頭皮環境の改善のためのものである、[1]~[5]のいずれかに記載の使用。
【0049】
[7]
血管内皮機能向上用組成物又は薬剤が、短時間に症状等の緩和に導くためのものである、[1]~[6]のいずれかに記載の使用。
【0050】
(血管内皮機能向上用組成物)
本発明はまた、以下の態様を含む:
[8]
下記式で表される、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上;又はnが1のイソクエルシトリンと、nが2~11のα-グルコシルイソクエルシトリンの1種又は2種以上との混合物
を有効成分として含有する、血管内皮機能向上用組成物:
【化5】
(式中、Glcはグルコース残基を表し、nは、1~11までのいずれかの整数を表す。)
[9]
前記組成物は、該混合物をα-グルコシルイソクエルシトリン換算で30質量%の割合で含み、その他成分としてマルトデキストリンを含む、[8]に記載の血管内皮機能向上用組成物。
[10]
前記混合物を、α-グルコシルイソクエルシトリンとして、1回あたり、1.0mg/kg体重~50mg/kg体重で投与させるための、[8]又は[9]に記載の血管内皮機能向上用組成物。
[11]
短時間に症状等の緩和に導くための[8]~[10]のいずれかに記載の血管内皮機能向上用組成物。
[12]
単回投与で血漿ケルセチン濃度を増加させるための[8]~[11]のいずれかに記載の血管内皮機能向上用組成物。
[13]
糖尿病、高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドローム、肥満症、インスリン抵抗性、耐糖能異常、糖尿病性末梢神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性大血管症、心血管疾患、アテローム性動脈硬化症、心不全、心筋梗塞、冠動脈疾患、脳血管疾患の予防又は治療のためのものである、[8]~[12]のいずれかに記載の血管内皮機能向上用組成物。
[14]
肌の乾燥シミ、シワ、たるみ、むくみの改善、冷え症、肩凝りの改善、頭皮環境の改善のためのものである、[8]~[13]のいずれかに記載の血管内皮機能向上用組成物。
【実施例
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」、「部数」等の数値は、質量基準の数値を表す。
【0052】
(酵素処理イソクエルシトリンを含む組成物)
以下の血管内皮機能向上を評価するにあたり、サンエミック(登録商標)R-20:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)(酵素処理イソクエルシトリンをα-グルコシルイソクエルシトリン換算で30質量%の割合で含み、その他成分としてマルトデキストリンを含む)を使用した。
【0053】
(血管内皮機能評価方法)
酵素処理イソクエルシトリンの投与が、ヒト志願者の血管機能を改善するかを評価した。
【0054】
詳細には、心血管疾患の危険因子を少なくとも1つ有する25人の健康なボランティアにおいて、無作為に対照クロスオーバー試験を実施した。試験日の間に最低1週間の休薬期間があった。試験被験者は、酵素処理イソクエルシトリン(α-グルコシルイソクエルシトリンとして、摂取量は4.89mg/kg体重またはプラセボ対照)を受けた。マルトデキストリンを酵素処理イソクエルシトリンの担体として使用し、マルトデキストリン単独をプラセボ対照とした。生成物を水200mlに溶解し、経口投与した。内皮機能と血圧を、摂取の前後2時間後に評価した。
【0055】
<FMD測定及び血圧測定>
FMDを測定する前に、被験者の血圧を、電子血圧計(Dinamap 1846SX/P)を用いて測定した。
FMD測定は上腕動脈の血流を停止させるために、水銀血圧計のカフを用いて5分間、圧力(血圧+40mmHg)を前腕部に適用した。その後、カフを収縮させることによって圧力を解放し、超音波診断装置(Acuson Aspen 128、Acuson Corporation)によって上腕動脈を同時にモニターした。動脈径測定に基づいて、FMD膨張率(%FMD)を計算した。
【0056】
<統計処理>
統計処理はSPSS15.0ソフトウェア(SPSS)により実施し、分析値は、平均±標準偏差として表される。平均値の差異を複合モデル分散分析、続いてBonferroni多重比較検定で評価した。
【0057】
(血管内皮機能評価結果)
実施例で調製した酵素処理イソクエルシトリンを含む組成物の投与では、血管径の増大率(FMD値)として測定される血管機能の有意な改善をもたらした(P<0.04、図1)。すなわち、図1は、投与後2時間で240秒にわたるFMDの変化を示す。結果は平均値として提示されている(n=24)。
被験者は、平均年齢64歳、心血管危険因子および内皮機能不全の証拠(ピークFMD<3%)を有していた。実施例の組成物の投与によって、FMDを改善することができた。血漿ケルセチンは、酵素処理イソクエルシトリン投与後に10倍増加した。
【0058】
これらの結果から、単回投与での酵素処理イソクエルシトリンが血漿ケルセチン濃度を増加させ、被験者において血管機能の有意な改善を引き起こすと結論づけられた。
このような効果は、イソクエルシトリンのヒトへの投与がFMDになんらの影響も与えないとされた報告と比較すると、驚くべきことである。
【0059】
以下に処方例を示す。
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表中の成分は以下の通りである。
*高甘味度甘味料製剤:「サンスイート(登録商標) SA-8020」
(24質量%スクラロース、18質量%アセスルファムカリウム及び58質量%還元パラチノース含有) 三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
**酵素処理イソクエルシトリン製剤:「サンエミック(登録商標)R-20」
(20質量%α-グルコシルイソクエルシトリン(ルチン換算)、その他成分としてデキストリン含有) 三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
図1