(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】結晶化ガラス基板
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20220906BHJP
C03C 10/02 20060101ALI20220906BHJP
C03C 10/04 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C10/02
C03C10/04
(21)【出願番号】P 2021023337
(22)【出願日】2021-02-17
(62)【分割の表示】P 2020561111の分割
【原出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 康平
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/154973(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/144554(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/126605(WO,A1)
【文献】特表2017-506207(JP,A)
【文献】特開2018-080096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
C03C 1/00 -14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層を有する結晶化ガラス基板であって、
前記圧縮応力層の表面圧縮応力が0MPaとなるときの深さを応力深さDOLzeroとするとき、
前記圧縮応力層において、最表面から6μmまでの深さの表面圧縮応力の勾配Aが50.0~110.0MPa/μmであり、
(前記応力深さDOLzero-10μm)の深さから前記応力深さDOLzeroまでの表面圧縮応力の勾配Bが2.5~15.0MPa/μmであり、
前記圧縮応力層の最表面の表面圧縮応力CSが
870.0~1200.0MPaであ
り、
中心引張応力CTが35.0~70.0MPaである結晶化ガラス基板。
【請求項2】
前記最表面の押し込み深さ20nmの硬さが、7.50~9.50GPaである
請求項1記載の結晶化ガラス基板。
【請求項3】
前記最表面の押し込み深さ100nmの硬さが、8.00~9.50GPaである
請求項1又は2記載の結晶化ガラス基板。
【請求項4】
前記応力深さDOLzeroが30.0~70.0μmで
ある請求項1~3のいずれか記載の結晶化ガラス基板。
【請求項5】
酸化物換算の重量%で、
SiO
2成分を40.0%~70.0%、
Al
2O
3成分を11.0%~25.0%、
Na
2O成分を5.0%~19.0%、
K
2O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、並びに
TiO
2成分を0.5%~12.0%、
を含有する請求項1~4のいずれか記載の結晶化ガラス基板。
【請求項6】
前記結晶化ガラス基板の厚さが、0.1~1.0mmである請求項1~5のいずれか記載の結晶化ガラス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に圧縮応力層を有する結晶化ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、タブレット型PCなどの携帯電子機器には、ディスプレイを保護するためのカバーガラスが使用されている。また、車載用の光学機器にも、レンズを保護するためのプロテクターが使用されている。さらに、近年、電子機器の外装となる筐体などへの利用も求められている。そして、これらの機器がより過酷な使用に耐えうるよう、より高い硬度を有する材料の要求が強まっている。
【0003】
従来から、保護部材用途などの材料として化学強化ガラスが用いられている。しかし、従来の化学強化ガラスは、ガラス表面から垂直に入る亀裂に非常に弱いため、携帯機器が落下した際に破損する事故が多く発生し、問題となっている。さらに、破損の際、粉々に粉砕して飛び散るとけがの恐れがあり危険であった。破壊時に大きな破片となることが求められている。
【0004】
特許文献1には、情報記録媒体用結晶化ガラス基板が開示されている。この結晶化ガラス基板は、化学強化を施す場合、十分な圧縮応力値が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、硬く割れ難い結晶化ガラス基板を得ることにある。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、混合酸により化学強化することにより圧縮応力層の表面圧縮応力を高くしながら中心引張応力を低くでき、耐衝撃性が高くたとえ衝撃により破壊しても木端微塵(爆発破壊)になり難い結晶化ガラス基板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(構成1)
表面に圧縮応力層を有する結晶化ガラス基板であって、
前記圧縮応力層の表面圧縮応力が0MPaとなるときの深さを応力深さDOLzeroとするとき、
前記圧縮応力層において、最表面から6μmまでの深さの表面圧縮応力の勾配Aが50.0~110.0MPa/μmであり、
(前記応力深さDOLzero-10μm)の深さから前記応力深さDOLzeroまでの表面圧縮応力の勾配Bが2.5~15.0MPa/μmであり、
前記最表面の押し込み深さ20nmの硬さが、7.50~9.50GPaである結晶化ガラス基板。
(構成2)
表面に圧縮応力層を有する結晶化ガラス基板であって、
前記圧縮応力層の表面圧縮応力が0MPaとなるときの深さを応力深さDOLzeroとするとき、
前記圧縮応力層において、最表面から6μmまでの深さの表面圧縮応力の勾配Aが50.0~110.0MPa/μmであり、
(前記応力深さDOLzero-10μm)の深さから前記応力深さDOLzeroまでの表面圧縮応力の勾配Bが2.5~15.0MPa/μmであり、
前記最表面の押し込み深さ100nmの硬さが、8.00~9.50GPaである結晶化ガラス基板。
(構成3)
表面に圧縮応力層を有する結晶化ガラス基板であって、
前記圧縮応力層の表面圧縮応力が0MPaとなるときの深さを応力深さDOLzeroとするとき、
前記圧縮応力層において、最表面から6μmまでの深さの表面圧縮応力の勾配Aが50.0~110.0MPa/μmであり、
(前記応力深さDOLzero-10μm)の深さから前記応力深さDOLzeroまでの表面圧縮応力の勾配Bが2.5~15.0MPa/μmであり、
前記圧縮応力層の最表面の表面圧縮応力CSが900.0~1200.0MPaである結晶化ガラス基板。
(構成4)
前記応力深さDOLzeroが30.0~70.0μmであり、
前記圧縮応力層の最表面の表面圧縮応力CSが870.0~1150.0MPaであり、
中心引張応力CTが35.0~70.0MPaである構成1又は2記載の結晶化ガラス基板。
(構成5)
酸化物換算の重量%で、
SiO2成分を40.0%~70.0%、
Al2O3成分を11.0%~25.0%、
Na2O成分を5.0%~19.0%、
K2O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、並びに
TiO2成分を0.5%~12.0%、
を含有する構成1~4のいずれか記載の結晶化ガラス基板。
(構成6)
前記結晶化ガラス基板の厚さが、0.1~1.0mmである構成1~5のいずれか記載の結晶化ガラス基板。
【0009】
本発明によれば、硬く割れ難い結晶化ガラス基板を得ることができる。
【0010】
本発明の結晶化ガラス基板は、電子機器のディスプレイやレンズのカバーガラス、車載用の光学機器用レンズプロテクター、外枠部材または筐体、光学レンズ材料、その他各種部材に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の結晶化ガラス基板の、最表面からの深さに対する、圧縮応力の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の結晶化ガラス基板の実施形態および実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
[結晶化ガラス基板]
本発明の結晶化ガラス基板は、結晶化ガラスを母材(結晶化ガラス母材ともいう)とし、表面に圧縮応力層を有する。圧縮応力層は、結晶化ガラス母材をイオン交換処理することにより形成することができる。圧縮応力層は基板の最表面から内側に所定の厚みで形成され、圧縮応力は最表面が最も高く、内側に向かって減少しゼロとなる。
【0014】
図1は、本発明の結晶化ガラス基板の表面部分にある圧縮応力層における最表面からの深さ(μm)に対する、圧縮応力(MPa)の変化の一例を示す図である。深さゼロは最表面を表す。最表面の圧縮応力(最表面圧縮応力ともいう)をCSで、圧縮応力が0MPaのときの圧縮応力層の深さ(応力深さともいう)をDOLzeroで表す。
図1では、最表面から内側へ急に(大きな傾きで)圧縮応力が減った後、緩やかに(小さな傾きで)圧縮応力が減る。
【0015】
具体的には、最表面から6μmまでの深さの圧縮応力の勾配Aは50.0~110.0MPa/μmであり、好ましくは60.0~105.0MPa/μm、または70.0~100.0MPa/μmである。(応力深さDOLzero-10μm)の深さから応力深さDOLzeroまでの圧縮応力の勾配Bは2.5~15.0MPa/μmであり、好ましくは3.0~13.0MPa/μm、または3.5~12.0MPa/μmである。
図1において、最表面から深さ6μmの圧縮応力をCS1としたとき、勾配Aは、(CS-CS1)/6で求められる。応力深さDOLzeroから10μm浅い部位の圧縮応力をCS2としたとき、勾配Bは、CS2/10で求められる。
【0016】
圧縮応力層の最表面の圧縮応力CSは、通常870.0~1200.0MPaであり、例えば、900.0~1200.0MPa、930.0~1150.0MPa、950.0~1100.0MPa、または960.0~1050.0MPaとすることができる。
【0017】
曲線解析で求めた圧縮深さDOLzeroは、30.0~70.0μmであってよく、例えば35.0~60.0μm、または38.0~58.0μmとすることができる。
【0018】
直線解析で求めた圧縮深さDOLは、40.0~80.0μmであってよく、例えば45.0~75.0μm、または50.0~70.0μmとすることができる。
【0019】
曲線解析で求めた中心応力CTは、35.0~70.0MPaであってよく、例えば、38.0~65.0MPa、または40.0~60.0MPaとすることができる。
【0020】
結晶化ガラス基板の押し込み深さ20nmの硬さは、好ましくは7.50~9.50GPaであり、より好ましくは7.80~9.30GPaであり、さらに好ましくは8.00~9.10GPaである。
結晶化ガラス基板の最表面から深さ50nmまで押し込んだ時の硬さ(押し込み深さ50nmの硬さ)は、好ましくは7.50~9.50GPaであり、より好ましくは7.80~9.30GPaであり、さらに好ましくは8.00~9.10GPaである。
結晶化ガラス基板の押し込み深さ100nmの硬さは、好ましくは8.00~9.50GPaであり、より好ましくは8.30~9.30GPaであり、さらに好ましくは8.50~9.10GPaである。
結晶化ガラス基板の押し込み深さ20nmの硬さは、好ましくは8.00~9.50GPaであり、より好ましくは8.30~9.30GPaであり、さらに好ましくは8.50~9.10GPaである。
上記の硬さは実施例に記載の方法で求めることができる。
【0021】
圧縮応力層が、上記の応力勾配A,B、および硬さおよび/または最表面圧縮応力CSを有すると、基板は破壊し難くなる。応力深さ、応力勾配、硬さ、最表面圧縮応力および中心応力は、組成、基板の厚さ、および化学強化条件を調整することにより調整できる。
【0022】
結晶化ガラス基板の厚さの下限は、好ましくは0.10mm以上、より好ましくは0.30mm以上、より好ましくは0.40mm以上、さらに好ましくは0.50mm以上であり、結晶化ガラス基板の厚さの上限は、好ましくは1.00mm以下、より好ましくは0.90mm以下、より好ましくは0.70mm以下であり、さらに好ましくは0.60mm以下である。
【0023】
結晶化ガラスは、結晶相とガラス相を有する材料であり、非晶質固体とは区別される。一般的に、結晶化ガラスの結晶相は、X線回折分析のX線回折図形において現れるピークの角度、および必要に応じてTEMEDXを用いて判別される。
【0024】
結晶化ガラスは、例えば、結晶相としてMgAl2O4、MgTi2O4、MgTi2O5、Mg2TiO4、Mg2SiO4、MgAl2Si2O8、Mg2Al4Si5O18、Mg2TiO5、MgSiO3、NaAlSiO4、FeAl2O4およびこれらの固溶体から選ばれる1以上を含有する。
【0025】
結晶化ガラスにおける平均結晶径は、例えば4~15nmであり、5~13nmまたは6~10nmとすることができる。平均結晶径が小さいと研磨後の表面粗さRaを数Åレベルにスムーズに加工しやすくできる。また、透過率が高くなる。
【0026】
結晶化ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算の重量%で表示する。ここで、「酸化物換算」とは、結晶化ガラス構成成分が全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該酸化物の総重量を100重量%としたときの、結晶化ガラス中に含有される各成分の酸化物の量を、重量%で表記したものである。
【0027】
母材となる結晶化ガラスは、好ましくは、酸化物換算の重量%で、
SiO2成分を40.0%~70.0%、
Al2O3成分を11.0%~25.0%、
Na2O成分を5.0%~19.0%、
K2O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、
TiO2成分を0.5%~12.0%、
を含有する。
【0028】
SiO2成分は、より好ましくは45.0%~65.0%、さらに好ましくは50.0%~60.0%含まれる。
Al2O3成分は、より好ましくは13.0%~23.0%含まれる。
Na2O成分は、より好ましくは8.0%~16.0%含まれる。9.0%以上または10.5%以上としてもよい。
K2O成分は、より好ましくは0.1%~7.0%、さらに好ましくは1.0%~5.0%含まれる。
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上は、より好ましくは2.0%~15.0%、さらに好ましくは3.0%~13.0%、特に好ましくは5.0%~11.0%含まれる。MgO成分およびZnO成分から選択される1以上は、MgO成分単独、ZnO成分単独またはその両方でよいが、好ましくはMgO成分のみである。
CaO成分は、より好ましくは0.01%~3.0%、さらに好ましくは0.1%~2.0%含まれる。
TiO2成分は、より好ましくは1.0%~10.0%、さらに好ましくは2.0%~8.0%含まれる。
結晶化ガラスは、Sb2O3成分、SnO2成分およびCeO2成分から選択される1以上を0.01%~3.0%(好ましくは0.03%~2.0%、さらに好ましくは0.05%~1.0%)含むことができる。
上記の配合量は適宜組み合わせることができる。
【0029】
SiO2成分、Al2O3成分、Na2O成分、MgO成分およびZnO成分から選択される1以上、TiO2成分を合わせて90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは98.5%以上とできる。
SiO2成分、Al2O3成分、Na2O成分、K2O成分、MgO成分およびZnO成分から選択される1以上、CaO成分、TiO2成分、並びにSb2O3成分、SnO2成分およびCeO2成分から選択される1以上を合わせて90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上とできる。これら成分で100%を占めてもよい。
【0030】
結晶化ガラスは、本発明の効果を損なわない範囲で、ZrO2成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。配合量は、0~5.0%、0~3.0%または0~2.0%とできる。
また、結晶化ガラスは、本発明の効果を損なわない範囲で、B2O3成分、P2O5成分、BaO成分、FeO成分、SnO2成分、Li2O成分、SrO成分、La2O3成分、Y2O3成分、Nb2O5成分、Ta2O5成分、WO3成分、TeO2成分、Bi2O3成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。配合量は、各々、0~2.0%、0以上2.0%未満または0~1.0%とできる。
【0031】
本発明の結晶化ガラスは、清澄剤として、Sb2O3成分、SnO2成分、CeO2成分の他、As2O3成分、およびF、Cl、NOx、SOxの群から選択された一種または二種以上を含んでもよいし、含まなくてもよい。ただし、清澄剤の含有量は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.2%以下、最も好ましくは0.1%以下を上限とする。
【0032】
また、母材となる結晶化ガラスは、好ましくは、酸化物換算のモル%で、
SiO2成分を43.0モル%~73.0モル%、
Al2O3成分を4.0モル%~18.0モル%、
Na2O成分を5.0モル%~19.0モル%、
K2O成分を0モル%~9.0モル%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を2.0モル%~22.0モル%、
CaO成分を0モル%~3.0モル%、
TiO2成分を0.5モル%~11.0モル%、
を含有する。
SiO2成分、Al2O3成分、Na2O成分、MgO成分およびZnO成分から選択される1以上、TiO2成分を合わせて90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上とできる。
【0033】
本発明の結晶化ガラスには、上述されていない他の成分を、本発明の結晶化ガラスの特性を損なわない範囲で、必要に応じ、添加することができる。例えば、本発明の結晶化ガラス(及び基板)は無色透明であってよいが、結晶化ガラスの特性を損なわない範囲にてガラスを着色することができる。
【0034】
さらに、Pb、Th、Tl、Os、Be及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあるため、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0035】
[製造方法]
本発明の結晶化ガラス基板は、以下の方法で作製できる。すなわち、原料を均一に混合し、熔解成形して原ガラスを製造する。次にこの原ガラスを結晶化して結晶化ガラス母材を作製する。さらに結晶化ガラス母材を化学強化する。
【0036】
原ガラスは、熱処理しガラス内部に結晶を析出させる。この熱処理は、1段階でもよく2段階の温度で熱処理してもよい。
2段階熱処理では、まず第1の温度で熱処理することにより核形成工程を行い、この核形成工程の後に、核形成工程より高い第2の温度で熱処理することにより結晶成長工程を行う。
1段階熱処理では、1段階の温度で核形成工程と結晶成長工程を連続的に行う。通常、所定の熱処理温度まで昇温し、当該熱処理温度に達した後に一定時間その温度を保持し、その後、降温する。
2段階熱処理の第1の温度は600℃~750℃が好ましい。第1の温度での保持時間は30分~2000分が好ましく、180分~1440分がより好ましい。
2段階熱処理の第2の温度は650℃~850℃が好ましい。第2の温度での保持時間は30分~600分が好ましく、60分~300分がより好ましい。
1段階の温度で熱処理する場合、熱処理の温度は600℃~800℃が好ましく、630℃~770℃がより好ましい。また、熱処理の温度での保持時間は、30分~500分が好ましく、60分~300分がより好ましい。
【0037】
結晶化ガラス母材から、例えば研削および研磨加工の手段等を用いて、薄板状結晶化ガラス母材を作製できる。
【0038】
この後、化学強化法によるイオン交換により、結晶化ガラス母材に圧縮応力層を形成する。
【0039】
結晶化ガラス母材をカリウム塩とナトリウム塩の混合溶融塩(混合浴)で化学強化し、さらに、混合浴に続けて、カリウム塩の単独の溶融塩(単独浴)で化学強化する。具体的には、例えば、結晶化ガラス母材を、カリウムまたはナトリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO3)と硝酸ナトリウム(NaNO3)などの混合塩または複合塩を350~600℃(好ましくは380~570℃、より好ましくは400~500℃、さらに好ましくは430~490℃)に加熱した溶融塩に、100分以上、例えば200分~800分、好ましくは300分~700分、さらに好ましくは450~550分接触または浸漬させる。カリウム塩とナトリウム塩の混合割合は、例えば、重量比で、1:1~50:1、1.5:1~30:1、または2:1~20:1または3:1~15:1とする。さらに、好ましくは、続けて、カリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO3)を380~550℃(より好ましくは400~500℃、さらに好ましくは430~490℃)に加熱した溶融塩に、短時間、例えば、1分以上、3分~40分、4分~30分、又は5分~20分接触または浸漬させる。このような化学強化により、表面付近に存在する成分と、溶融塩に含まれる成分とのイオン交換反応が進行する。この結果、表面部に圧縮応力層が形成される。
【実施例】
【0040】
実施例1,2
結晶化ガラスの各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の原料を選定し、これらの原料を以下の組成の割合になるように秤量して均一に混合した。
(酸化物換算の重量%)
SiO2成分を54%、Al2O3成分を18%、Na2O成分を12%、K2O成分を2%、MgO成分を8%、CaO成分を1%、TiO2成分を5%、Sb2O3成分を0.1%
【0041】
次に、混合した原料を白金坩堝に投入し溶融した。その後、溶融したガラスを攪拌して均質化してから金型に鋳込み、徐冷して原ガラスを作製した。
【0042】
得られた原ガラスに対し、核形成および結晶化のために、1段階の熱処理(650~730℃、5時間)を施して母材となる結晶化ガラスを作製した。得られた結晶化ガラスについて、200kV電界放射型透過電子顕微鏡FE-TEM(日本電子製JEM2100F)による解析を行った結果、平均結晶径6~9nmの析出結晶を観察した。さらに電子回折像による格子像確認、EDXによる解析を行い、MgAl2O4,MgTi2O4の結晶相が確認された。平均結晶径は、透過電子顕微鏡を用いて、180×180nm2の範囲内の結晶粒子の結晶径を求め平均値を計算して求めた。
【0043】
作製した結晶化ガラス母材について切断および研削を行い、厚さ0.61mmおよび0.54mmの基板となるように対面平行研磨した。結晶化ガラス母材は無色透明であった。
【0044】
対面平行研磨した結晶化ガラス母材に、化学強化を行って、結晶化ガラス基板を得た。具体的には、実施例1では、KNO3:NaNO3=3:1(重量比)の混合比率のKNO3とNaNO3の混合溶融塩中に、460℃で500分浸漬した後、KNO3のみの溶融塩中に、460℃で15分浸漬した。実施例2では、KNO3とNaNO3の混合比率をKNO3:NaNO3=10:1(重量比)に変えた他は実施例1と同じように化学強化した。
【0045】
得られた基板について以下の評価をした。
(1)結晶化ガラス基板の圧縮応力層の厚さ(応力深さDOLzero)とその圧縮応力層の最表面からDOLzeroまでの表面圧縮応力値を、折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEを用いて測定した。試料の屈折率1.54、光学弾性定数29.658[(nm/cm)/MPa]で算出した。最表面から6μmまでの深さの表面圧縮応力の勾配A(MPa/μm)と、(応力深さDOLzero-10μm)の深さから応力深さDOLzeroまでの表面圧縮応力の勾配B(MPa/μm)を求めた。中心引張応力値(CT)は、曲線解析(Curve analysis)により求めた。さらに、直線解析によっても圧縮応力層の厚さ(応力深さDOL)を求めた。結果を表1に示す。
【0046】
(2)ブルカー社製ナノインデンテーションシステム(TI
Premier)を用いて、基板の最表面から深さ20nm,50nm,100nm,200nmまで押し込んだ時の硬さを測定した。結果を表1に示す。
【0047】
(3)結晶化ガラス基板について、以下の方法でサンドペーパーを用いた落球試験を行った。この落球試験はアスファルト上への落下を擬している。
大理石の基台の上に粗さ#180のサンドペーパーを敷き、結晶化ガラス基板(縦15cm×横7cm)を置いた。そして、16.5gのSUS製鉄球を、基板から10mm(1cm)の高さから基板に落下した。落下後、基板が破壊しなければ、高さを10mm(1cm)高くし、同様の試験を破壊するまで継続した。破壊後、破片の状態を観察した。結果を表2に示す。破壊しないときは○、破壊したときは×で示す。
【0048】
破片の状態を以下の基準で評価をした。結果を表2に示す。
A:1cm2以上の破片が4個以上、又は10cm2以上の破片が1個以上
B:1cm2以上の破片が1~3個
C:1cm2以上の破片が0個(全て1cm2未満の細かい破片であった)
表2から本発明の基板は硬く破壊し難く、たとえ破壊したとしても木端微塵になり難いことがわかる。
【0049】
比較例1,2
比較例1,2ではアモルファスガラスを用いた。
ガラスの各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の原料を選定し、これらの原料を以下の組成の割合になるように秤量して均一に混合した。
(比較例1の酸化物換算の重量%)
SiO2成分を62.4%、Al2O3成分を21%、Na2O成分を12%、K2O成分を0.1%、MgO成分を1.5%、B2O3成分を2.9%、Sb2O3成分を0.1%
(比較例2の酸化物換算の重量%)
SiO2成分を62.2%、Al2O3成分を16%、Na2O成分を8.3%、K2O成分を5.7%、MgO成分を4.8%、B2O3成分を2.9%、Sb2O3成分を0.1%
【0050】
次に、混合した原料を白金坩堝に投入し溶融した。その後、溶融したガラスを攪拌して均質化してから金型に鋳込み、徐冷して原ガラスを作製した。
【0051】
得られた原ガラスに対し、アニール処理を行いガラスに残存する歪を取り除いた。作製したアモルファスガラス母材について切断および研削を行い、厚さ0.66mmとなるように対面平行研磨した。アモルファスガラス母材は無色透明であった。
【0052】
対面平行研磨したアモルファスガラス母材に、化学強化を行って、アモルファスガラス基板を得た。具体的には、比較例1では、KNO3:NaNO3=2:1(重量比)の混合比率のKNO3とNaNO3の混合溶融塩中に、450℃で300分浸漬した後、KNO3のみの溶融塩中に、450℃で15分浸漬した。比較例2では、KNO3:NaNO3=1:1(重量比)の混合比率のKNO3とNaNO3の混合溶融塩中に、450℃で500分浸漬した後、KNO3のみの溶融塩中に、410℃で15分浸漬した。
【0053】
得られた基板について以下の評価をした。
(1)アモルファスガラス基板の圧縮応力層の厚さ(応力深さDOLzero)とその圧縮応力層の最表面からDOLzeroまでの表面圧縮応力値を、折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEを用いて測定した。比較例1では試料の屈折率1.50、光学弾性定数30.3[(nm/cm)/MPa]で算出した。比較例2では試料の屈折率1.51、光学弾性定数28.2[(nm/cm)/MPa]で算出した。最表面から6μmまでの深さの表面圧縮応力の勾配A(MPa/μm)と、(応力深さDOLzero-10μm)の深さから応力深さDOLzeroまでの表面圧縮応力の勾配B(MPa/μm)を求めた。中心引張応力値(CT)は、曲線解析(Curve analysis)により求めた。さらに、直線解析によっても圧縮応力層の厚さ(応力深さDOL)を求めた。結果を表1に示す。
【0054】
(2)実施例1,2と同様にして、押し込み硬さを測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(3)実施例1,2と同様にして、落球試験を実施した。結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献の内容を全てここに援用する。