(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】ファイバレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/067 20060101AFI20220906BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01S3/067
G02B6/02 411
G02B6/02 431
(21)【出願番号】P 2021502190
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007066
(87)【国際公開番号】W WO2020171205
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2019029366
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中西 康生
(72)【発明者】
【氏名】益子 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】阪本 真一
(72)【発明者】
【氏名】島 研介
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/141766(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003604(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/207615(WO,A1)
【文献】特開2010-003896(JP,A)
【文献】国際公開第99/032909(WO,A1)
【文献】特開2013-242309(JP,A)
【文献】特開2010-197730(JP,A)
【文献】国際公開第2009/057309(WO,A1)
【文献】特開2012-238781(JP,A)
【文献】特開2008-205161(JP,A)
【文献】特開2014-225584(JP,A)
【文献】特開2018-041792(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0058250(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 -3/02
H01S 3/04 -3/0959
H01S 3/098-3/102
H01S 3/105-3/131
H01S 3/136-3/213
H01S 3/23 -4/00
G02B 6/00 -6/036
G02B 6/10
G02B 6/245-6/25
G02B 6/44 -6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を出力する励起光源と、前記励起光源からの励起光により励起される希土類元素が添加されたコアを有する増幅用ファイバと、
前記増幅用ファイバの入力側に融着接続され、HR-FBGが形成された入力側ファイバと、
前記増幅用ファイバの出力側に融着接続され、前記HR-FBGよりも反射率が小さいOC-FBGが形成された出力側ファイバと、
レーザ光を出力する出力端と、
前記増幅用ファイバの前記コアから
LP11よりも高次のモードの少なくとも一部を除去するモードフィルタと、を備え、
前記入力側ファイバ、または、前記増幅用ファイバと前記入力側ファイバとの間に配置された中間ファイバは、融着接続部によって前記増幅用ファイバに融着接続され、
前記融着接続部と、
LP01と前記LP11よりも高次のモードとの間のモード間干渉によって生じるビートのコヒーレント長だけ離れた位置と、の間の領域に、前記モードフィルタの少なくとも一部が配置されている、ファイバレーザ装置。
【請求項2】
前記出力側ファイバと前記出力端との間に設けられ、前記出力端から出力される前記レーザ光のモードを制限する外側モードフィルタを有する、請求項
1に記載のファイバレーザ装置。
【請求項3】
前記モードフィルタは、前記外側モードフィルタが制限する対象である高次モードを少なくとも除去するように構成されている、請求項
2に記載のファイバレーザ装置。
【請求項4】
前記融着接続部を補強する補強器をさらに備え、
前記モードフィルタは、前記補強器の出力側の端部から前記増幅用ファイバを曲げることで構成されている、請求項1から
3のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項5】
前記増幅用ファイバの前記コアにはYbが添加されており、
前記励起光源が出力する光は、970~980nmの波長の光を含む、請求項1から
4のいずれか1項に記載のファイバレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバレーザ装置に関する。
本願は、2019年2月21日に日本に出願された特願2019-029366号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、励起光を出力する励起光源と、Ybなどの活性元素が添加された増幅用ファイバと、HR-FBGと、OC-FBGと、を備えたファイバレーザ装置が開示されている。このようなファイバレーザ装置を高出力化させる一つの方法として、複数のモードを有する増幅用ファイバをシングルモード発振させ、非線形光学効果などの制限を取り除くことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のモードを有する増幅用ファイバを用いたファイバレーザ装置では、高ビーム品質化を妨げる要因の一つとして、TMI(Transverse Mode Instability。なお、Thermal modal Instabilityともいう)現象が挙げられる。TMI現象とは、増幅用ファイバに投入する励起光のパワーを増大させていくと、熱の影響で励起光からレーザ光への変換効率が減少し、線形性が失われる現象である。この現象が生じると、基本モードから高次モードへモード間の結合が生じるため、レーザ光のビーム品質が低下する。さらに、高次モードのレーザ光が増幅されることによって基本モードのレーザ光の増幅に寄与するエネルギーが減少するため、基本モードのレーザ光の増幅効率が低下してしまう。
特許文献1では、TMI現象を考慮しておらず、ビーム品質を向上させつつ増幅効率を高めることについて改善の余地があった。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、ビーム品質を向上させつつ増幅効率を高めることができるファイバレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るファイバレーザ装置は、励起光を出力する励起光源と、前記励起光源からの励起光により励起される希土類元素が添加されたコアを有する増幅用ファイバと、前記増幅用ファイバの入力側に融着接続され、HR-FBGが形成された入力側ファイバと、前記増幅用ファイバの出力側に融着接続され、前記HR-FBGよりも反射率が小さいOC-FBGが形成された出力側ファイバと、レーザ光を出力する出力端と、前記増幅用ファイバの前記コアから所定の高次モードの少なくとも一部を除去するモードフィルタと、を備え、前記入力側ファイバ、または、前記増幅用ファイバと前記入力側ファイバとの間に配置された中間ファイバは、融着接続部によって前記増幅用ファイバに融着接続され、前記融着接続部と、前記融着接続部から前記増幅用ファイバを伝播する信号光のモード間干渉によって生じるビートのコヒーレント長だけ離れた位置と、の間の領域に、前記モードフィルタの少なくとも一部が配置されている。
【0007】
上記態様のファイバレーザ装置によれば、共振器内における高次モードの発生源である融着接続部の近傍に設けられたモードフィルタを用いて、早い段階で不要な高次モードを除去し、増幅用ファイバ内における高次モードの光量を減少させることで、熱グレーティングの振幅に影響を与えるビート変調度を小さくすることができる。したがって、TMI現象の発生を抑制することが可能となる。このようにTMI現象の発生を抑制することで、基本モードから高次モードへのモード間の結合を抑制して、レーザ光のビーム品質を向上させることができる。また、励起光源が入力したエネルギーのうち、基本モードのレーザ光の増幅に寄与する割合が減少することを抑制できるため、基本モードの増幅効率を高めて高出力化することができる。
また、この構成は、例えば励起光のピーク波長を増幅用ファイバの吸収ピーク波長からずらす場合と比較して、出力端から出射されるレーザ光の強度が低下しにくいため、ファイバレーザ装置の高出力化を図ることが可能となる。
【0008】
ここで、前記所定の高次モードは、LP01よりも高次のモード、またはLP11よりも高次のモードであってもよい。この場合、よりファイバレーザ装置の高出力化を図ることが可能となる。
【0009】
また、上記態様のファイバレーザ装置は、前記出力側ファイバと前記出力端との間に設けられ、前記出力端から出力される前記レーザ光のモードを制限する外側モードフィルタを有してもよい。
また、前記モードフィルタは、前記外側モードフィルタが制限する対象である高次モードを少なくとも除去するように構成されていてもよい。
【0010】
この場合、外側モードフィルタが制限する対象である不要なモードが、モードフィルタによって増幅用ファイバ内から除去されるため、当該不要なモードが増幅用ファイバ内で増幅されることを抑制して、励起光からレーザ光への変換効率をより向上させることができる。また、モードフィルタおよび外側モードフィルタの2つのフィルタによって不要なモードを除去することで、最終的に出射されるレーザ光からより確実に不要なモードが除去され、ビーム品質をより向上させることができる。
【0011】
また、上記態様に係るファイバレーザ装置は、前記融着接続部を補強する補強器をさらに備え、前記モードフィルタは、前記補強器の出力側の端部から前記増幅用ファイバを曲げることで構成されていてもよい。
【0012】
この場合、補強器によって融着接続部を補強することができる。さらに、融着接続部からなるべく近い距離にモードフィルタを配置することで、TMI現象の抑制効果を高めることができる。
【0013】
また、前記増幅用ファイバの前記コアにはYbが添加されており、前記励起光源が出力する光は、970~980nmの波長の光を含んでいてもよい。
【0014】
この場合、Ybが添加された増幅用ファイバの吸収ピーク波長(976nm)と、励起光のピーク波長とを一致させることで、より効率よく励起光をレーザ光に変換することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記態様によれば、ビーム品質を向上させつつ増幅効率を高めることができるファイバレーザ装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係るファイバレーザ装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第2実施形態に係るファイバレーザ装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施例および比較例に係るファイバレーザ装置において、投入電流と変換効率との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例および比較例に係るファイバレーザ装置において、励起光の波長ごとの強度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態のファイバレーザ装置について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ファイバレーザ装置1Aは、複数の励起光源2と、コンバイナ3と、入力側ファイバ4と、増幅用ファイバ5と、出力側ファイバ6と、外側モードフィルタ7と、出力端8と、を備えている。増幅用ファイバ5、入力側ファイバ4、および出力側ファイバ6は、光デバイスRを構成している。光デバイスRは、励起光源2が出射する励起光によってレーザ光を生成する共振器である。なお、光デバイスRに、他の構成要素(例えば外側モードフィルタ7、出力端8など)を含めてもよい。
本実施形態のファイバレーザ装置1Aは、後方励起光源を有していない片側励起型(前方励起型)である。
【0018】
(方向定義)
本明細書では、増幅用ファイバ5から見たとき、励起光源2側を入力側といい、出力端8側を出力側という。
【0019】
励起光源2としては、レーザダイオードなどを用いることができる。コンバイナ3は、複数の励起光源2が出射した励起光を、1本の光ファイバに結合し、入力側ファイバ4に入力する。入力側ファイバ4の入力側の端部は、コンバイナ3に接続されている。入力側ファイバ4の出力側の端部は、融着接続部F1によって、増幅用ファイバ5に融着接続されている。
なお、入力側ファイバ4と増幅用ファイバ5とは、不図示の中間ファイバを介して接続されていてもよい。中間ファイバの端部は、それぞれ入力側ファイバ4または増幅用ファイバ5に融着接続されている。この場合、中間ファイバと増幅用ファイバ5との融着接続部を、融着接続部F1とする。
増幅用ファイバ5の出力側の端部は、融着接続部F2によって、出力側ファイバ6に融着接続されている。図示は省略するが、融着接続部F1、F2は剛性の高い補強器によって保持されており、曲げなどが生じにくくなっている。補強器によって融着接続部F1、F2を補強することで、例えば融着接続部F1、F2で破断が生じることを抑止できる。
【0020】
入力側ファイバ4のコアには、HR-FBG(High Reflectivity-Fiber Bragg Grating)4aが形成されている。HR-FBG4aは、励起状態にされた増幅用ファイバ5の活性元素が放出する光のうち信号光の波長の光をほぼ100%の反射率で反射するように調整されており、入力側ファイバ4の長手方向に沿って一定の周期で高屈折率の部分が繰り返される構造となっている。
【0021】
出力側ファイバ6のコアには、OC-FBG(Output Coupler-Fiber Bragg Grating)6aが形成されている。OC-FBG6aは、HR-FBG4aとほぼ同様の構造を有しているが、HR-FBG4aよりも低い反射率で、信号光を反射するように調整されている。
【0022】
増幅用ファイバ5は、1種類または2種類以上の活性元素が添加されたコアと、コアを覆う第1クラッドと、第1クラッドを覆う第2クラッドと、第2クラッドを覆う保護被覆と、を有している。増幅用ファイバ5は、ダブルクラッドファイバである。コアに添加する活性元素としては、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、あるいはネオジム(Nd)などの希土類元素が使用される。これらの活性元素は、励起状態で光を放出する。コアおよび第1クラッドとしてはシリカガラスなどを用いることができる。第2クラッドとしては、ポリマーなどの樹脂を用いることができる。保護被覆としては、アクリル樹脂やシリコーン樹脂などの樹脂材料を用いることができる。
増幅用ファイバ5は、いわゆるフューモード光ファイバであり、複数のモードを伝搬可能となっている。
【0023】
増幅用ファイバ5内では、HR-FBG4aおよびOC-FBG6aで反射した信号光が、増幅用ファイバ5の長手方向で往復する。信号光は、この往復に伴って増幅されてレーザ光となる。このように、共振器R内では、光が増幅されてレーザ光が生成される。レーザ光の一部は、OC-FBG6aを透過し、外側モードフィルタ7を介して出力端8に到達する。レーザ光に含まれる不要な高次モードは、外側モードフィルタ7によって除去される。ここで、レーザ光に含まれる不要な高次モードとは、例えば、基本モード(LP01)およびLP11以外のモード、または基本モードより高次モードである。また、外側モードフィルタ7は、不要な高次モードをすべて除去してもよいが、不要な高次モードの少なくとも一部を除去すればよい。例えば、不要な高次モードとは、LP01よりも高次のモード、またはLP11よりも高次のモードである。
このように、外側モードフィルタ7は、出力端8から出射されるレーザ光に含まれるモードを最終的に制限する役割を有する。
【0024】
外側モードフィルタ7は、出力側ファイバ6の一部が曲げられることで構成されていてもよい。あるいは、高次モードを選択的に除去可能な他の種類のフィルタを外側モードフィルタ7として採用し、当該外側モードフィルタ7を出力側ファイバ6に融着接続してもよい。
【0025】
先述の通り、増幅用ファイバ5は、HR-FBG4aが形成された入力側ファイバ4またはOC-FBG6aが形成された出力側ファイバ6とは異なるファイバである。このため、増幅用ファイバ5の両端部には、融着接続部F1、F2が設けられている。
ここで、本願発明者らが鋭意検討した結果、融着接続部F1でTMI現象の発生源となる高次モードが生じており、このTMI現象を抑制するために、増幅用ファイバ5内における融着接続部F1の近傍にモードフィルタ5aを設けることが効果的であることが判った。以下、より詳しく説明する。
【0026】
TMI現象については、例えばPhysical origin of mode instabilities in highpower fiber laser systems;Optics Express, Vol. 20, No. 12, pp.12912-12925に示されるように、定性的な考察がいくつかなされている。本願発明者らが検討したところ、TMI現象については、共振器内での現象を以下に示すステップ(1)~(6)で考えることができる。
【0027】
(1)増幅用ファイバ5内で基本モードと高次モードとの間でモード間干渉が生じることにより、ビートが生じる。なお、ここでいうビートとは、増幅用ファイバ5内を伝搬する光の進行方向における光強度のうねりを指す。
(2)生じたビートにより、励起光の量子欠損に起因した、熱グレーティングが生じる。
なお、ここでいう熱グレーティングとは、増幅用ファイバ5の長手方向における温度ムラを指す。
(3)熱グレーティングがファイバの熱-屈折率依存性により、長周期グレーティングとなり、基本モードから高次モードへのモード間の結合が生じる。
(4)モード間結合により、基本モードが減少して高次モードが増大し、熱グレーティングの振幅(高温部分と低温部分との温度差)も大きくなる。
(5)熱グレーティングの振幅が大きくなることでさらにモード間結合が進み、基本モードが減少して高次モードが増大する。
(6)上記(4)、(5)が繰り返される。
【0028】
以上のステップにより、時間の経過に伴って基本モードから高次モードへのモード間結合が累積的に進行するとともに、ファイバレーザ装置1A内での曲げによる損失やファイバ同士の接続による損失が大きい高次モードの割合が増加するため、出力端8までの総合的な損失量が増加する。
上記TMI現象における熱グレーティングの生成には、影響を与えるパラメータがいくつか考えられる。ここで本明細書では、以下のように各パラメータを表す。
ΔT:熱グレーティングの振幅(高温部と低温部との温度差)
αpump:増幅用ファイバ5における励起光の吸収率
Ppump:増幅用ファイバ5に入力される励起光のパワー
a:信号光密度と励起光密度の比
ω:ビート変調度(モード間干渉によって生じる増幅用ファイバ5内の光強度のうねりにおける、山部と谷部との差または比)
【0029】
信号光損失が、励起光吸収に起因した量子欠損で発生する熱よりも十分小さいとし、励起光光量よりも信号光光量が十分に大きい状態を考えると、各パラメータには以下の関係が成り立つと考えられる。
ΔT∝(αpump×Ppump)÷a×ω
すなわち、ビート変調度ωを小さくすることで、ΔTを小さくすることが可能であると考えらえる。
【0030】
上記したステップ(1)~(6)を考慮すると、ビート変調度ωを小さくするためには、増幅用ファイバ5内における高次モード光を早い段階で除去することが有効である。
そこで、本実施形態の増幅用ファイバ5は、モードフィルタ5aを有している。モードフィルタ5aは、増幅用ファイバ5のコアから、不要な高次モード(例えば基本モード(LP01)およびLP11以外のモード、または基本モードより高次モード)を除去する。また、モードフィルタ5aは、不要な高次モードをすべて除去してもよいが、不要な高次モードの少なくとも一部を除去するすればよい。例えば、不要な高次モードとは、LP01よりも高次のモード、またはLP11よりも高次のモードである。モードフィルタ5aの構成としては種々選択可能であるが、例えば増幅用ファイバ5のうち、高次モードを除去するように所定の曲率で曲げられた部分をモードフィルタ5aとしてもよい。
【0031】
外側モードフィルタ7と異なり、モードフィルタ5aは共振器である光デバイスRの内部に設けられている。なお、増幅用ファイバ5の長さ調整部5bは、曲げによる損失が発生しない程度の緩やかな曲率で巻かれるなどによって、単に増幅用ファイバ5の長さを調整する部分であり、モードフィルタ5aのように特定のモードを除去する役割を有していない。
【0032】
モードフィルタ5aは、高次モードの発生個所である融着接続部F1の近傍に配置されることが好ましい。その理由を以下に説明する。本実施形態のようなファイバレーザ装置1Aは、一般的に、非線形光学効果を抑えるため、縦モード(発振波長)もマルチモードになっている。その為、融着接続部F1で波長に関わらず基本モード(LP01)から高次モードが展開されるが、しばらく導波すると、波長毎に伝搬速度が違うことに起因し、コヒーレンシーが失われてしまう。逆に言うと、融着接続部F1からコヒーレント長以上に離れた箇所では、各基本モードと高次モードが、可干渉性を失っているため、熱グレーティングが小さくなり、結果として高次モードへの結合が小さくなる。コヒーレント長以上に離れた箇所で高次モードを除去させたとしても、これまでの領域で高次モードへの結合が起きている為、効率低下の抑制という観点では効果を発現しにくい。その為、融着接続部F1近傍の増幅用ファイバ5内でモードフィルタ5aを配置することが好適である。
【0033】
このことを踏まえると、モードフィルタ5aは共振器である光デバイスRの内部に設けられ、融着接続部F1とモードフィルタ5aとの間の間隔は、増幅用ファイバ5を伝播する信号光の波長の光においてモード間干渉により生じるビートの持続長であるコヒーレント長よりも短いとよい。すなわち、モードフィルタ5aの少なくとも一部は、融着接続部F1と、融着接続部F1から増幅用ファイバ5を伝播する信号光のモード間干渉によって生じるビートのコヒーレント長だけ離れた位置と、の間の領域に配置されているとよい。また、融着接続部F1を補強器で保持している場合には、当該補強器における出力側の端部の直後から、増幅用ファイバ5にマイクロベンドが生じない程度の曲げを設けることが好ましい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態のファイバレーザ装置1Aは、励起光を出力する励起光源2と、励起光源2からの励起光により励起される希土類元素が添加されたコアを有する増幅用ファイバ5と、増幅用ファイバ5の入力側に融着接続され、HR-FBG4aが形成された入力側ファイバ4と、増幅用ファイバ5の出力側に融着接続され、HR-FBG4aよりも反射率が小さいOC-FBG6aが形成された出力側ファイバ6と、レーザ光を出力する出力端8と、出力側ファイバ6と出力端8との間に設けられ、出力端8から出力されるレーザ光のモードを制限する外側モードフィルタ7と、増幅用ファイバ5のコアから所定の高次モードの少なくとも一部を除去するモードフィルタ5aと、を備えている。そして、入力側ファイバ4、または、増幅用ファイバ5と入力側ファイバ4との間に配置された中間ファイバは、融着接続部F1によって増幅用ファイバ5に融着接続され、融着接続部F1と、融着接続部F1から増幅用ファイバ5を伝播する信号光のモード間干渉によって生じるビートのコヒーレント長だけ離れた位置と、の間の領域に、モードフィルタ5aの少なくとも一部が配置されている。
【0035】
この構成によれば、共振器内における高次モードの発生源である融着接続部F1の近傍に設けられたモードフィルタ5aを用いて、早い段階で不要な高次モードを除去し、増幅用ファイバ5内における高次モードの光量を減少させることで、熱グレーティングの振幅ΔTに影響を与えるビート変調度ωを小さくすることができる。したがって、TMI現象の発生を抑制することが可能となる。このようにTMI現象を抑制することで、基本モードから高次モードへのモード間の結合を抑制して、レーザ光のビーム品質を向上させることができる。また、励起光源2が入力したエネルギーのうち、基本モードのレーザ光の増幅に寄与する割合が減少することを抑制できるため、基本モードの増幅効率を高めてファイバレーザ装置1Aを高出力化することができる。この構成は、従来技術のように励起光のピーク波長を増幅用ファイバ5の吸収ピーク波長とずらす場合と比較して、出力端8から出射されるレーザ光の強度が低下しにくいため、ファイバレーザ装置1Aの高出力化を図ることが可能となる。
【0036】
また、モードフィルタ5aが除去する所定の高次モードは、LP01よりも高次のモード、またはLP11よりも高次のモードであってもよい。この場合、よりファイバレーザ装置の高出力化を図ることが可能となる。
【0037】
また、モードフィルタ5aは、外側モードフィルタ7が制限する対象である高次モードを少なくとも除去するように構成されていてもよい。あるいは、モードフィルタ5aと外側モードフィルタ7とで、除去する対象となる高次モードが同一であってもよい。このように、外側モードフィルタ7が制限する対象である不要なモードを、モードフィルタ5aによって増幅用ファイバ5内から除去することで、当該不要なモードが増幅用ファイバ5内で増幅されることを抑制して、励起光からレーザ光への変換効率をより向上させることができる。また、モードフィルタ5aおよび外側モードフィルタ7の2つのフィルタによって不要なモードを除去することで、最終的に出射されるレーザ光からより確実に不要なモードが除去され、ビーム品質をより向上させることができる。
【0038】
また、モードフィルタ5aは、融着接続部F1を補強する補強器の出力側の端部から、増幅用ファイバ5を曲げることで構成されていてもよい。この場合、融着接続部F1を補強しつつ、融着接続部F1からなるべく近い距離にモードフィルタ5aを配置して、TMI現象の抑制効果を高めることができる。
【0039】
また、増幅用ファイバ5のコアにはYbが添加されており、励起光源2が出力する光のは970~980nmの波長の光を含んでいてもよい。このように、Ybが添加された増幅用ファイバ5の吸収ピーク波長(976nm)と、励起光のピーク波長とを一致させることで、より効率よく励起光をレーザ光に変換することができる。
【0040】
また、増幅用ファイバ5、入力側ファイバ4、出力側ファイバ6、および増幅用ファイバ5のコアから所定の高次モードを除去するモードフィルタ5aにより、光デバイスRを構成してもよい。このような光デバイスRを用いることで、上記のような作用効果を有するファイバレーザ装置を構成することができる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態のファイバレーザ装置1Bは、後方励起光源を有する双方向励起型である。
【0042】
図2に示すように、本実施形態のファイバレーザ装置1Bは、第2コンバイナ3Bと、後方励起光源2Bと、をさらに備えている。また、本実施形態の増幅用ファイバ5は、第1モードフィルタ5a、長さ調整部5bに加えて、第2モードフィルタ5cを有している。
【0043】
後方励起光源2Bは、光デバイスRよりも出力側に配置されている。本実施形態では、前方励起光源2は前方励起光を増幅用ファイバ5に向けて出射し、後方励起光源2Bは後方励起光を増幅用ファイバ5に向けて出射する。後方励起光源2Bとしては、前方励起光源2と同様に、例えばレーザダイオードを用いることができる。
【0044】
第2コンバイナ3Bは、各後方励起光源2Bが出射した励起光を、1本の光ファイバに結合し、増幅用ファイバ5に向かわせる。なお、各後方励起光源2Bの励起光が結合した光を伝播する光ファイバと、増幅用光ファイバ5とは、不図示の中間ファイバを介して接続されていてもよい。この場合、中間ファイバと増幅用ファイバ5との融着接続部を、融着接続部F2とする。
本実施形態では、第2モードフィルタ5cが、共振器である光デバイスRの内側であって、融着接続部F2に近い位置に配置されている。より具体的には、第2モードフィルタ5cの少なくとも一部は、融着接続部F2と、融着接続部F2から増幅用ファイバ5を伝播する信号光のモード間干渉によって生じるビートのコヒーレント長だけ離れた位置と、の間の領域に、配置されている。第1モードフィルタ5aと同様、第2モードフィルタ5cは、融着接続部F2で発生する不要な高次モードを除去する。詳細な説明は省略するが、第2モードフィルタ5cは、第1モードフィルタ5aと同様の構成を採用することができる。
【0045】
本実施形態のように、双方向励起型のファイバレーザ装置においても、共振器内に設けられたモードフィルタ5a、5cを用いて不要な高次モードを除去し、増幅用ファイバ5内における高次モードの光量を減少させることで、熱グレーティングの振幅ΔTに影響を与えるビート変調度ωを小さくすることができる。したがって、TMI現象の発生を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0046】
以下、具体的な実施例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0047】
実施例として、
図1に示すような構成のファイバレーザ装置1Aを用意した。HR-FBG4aの反射率を99%とし、OC-FBG6aの反射率を10%とした。外側モードフィルタ7として、LP01およびLP11以外のモードを除去し、出力端8から出力されるモードをLP01およびLP11に制限するモードフィルタを採用した。増幅用ファイバ5のコアに添加する添加剤として、Ybを用いた。増幅用ファイバ5のうち、融着接続部F1の直後の部分を所定の曲率で曲げて、モードフィルタ5aを構成した。ここで、モードフィルタ5aの少なくとも一部は、融着接続部F1と、融着接続部F1から増幅用ファイバ5を伝播する信号光のモード間干渉によって生じるビートのコヒーレント長だけ離れた位置と、の間の領域に、配置されている。
励起光源2として、
図4に示すような強度分布を有する励起光を出射する光源を用いた。
図4に示すように、本実施例における励起光の強度がピークとなる波長は976nmである。また、励起光は、970~980nmの波長の光を含んでいる。
【0048】
比較例として、モードフィルタ5aを有さないファイバレーザ装置を用意した。その他の点は、上記した実施例のファイバレーザ装置1Aと同様である。
上記した実施例および比較例のファイバレーザ装置について、増幅用ファイバ5に入力する励起光のパワーと、励起光からレーザ光への変換効率と、の関係を測定した結果を以下に説明する。
【0049】
図3は、実施例および比較例のファイバレーザ装置についての、投入電流値と変換効率との関係を示すグラフである。
図3の横軸は、励起光源2に投入した電流値(A)である。この投入電流値が大きいほど、増幅用ファイバ5に入力される励起光のパワーが大きくなる。
図3の縦軸は、励起光からレーザ光への変換効率(%)である。
【0050】
図3に示すように、比較例のファイバレーザ装置については、投入電流値が30Aを超えた所で、投入電流値と変換効率との線形性が崩れ、変換効率の急峻な低下が確認された。
これに対して、実施例のファイバレーザ装置1Aについては、投入電流値が30Aを超えても投入電流値と変換効率との線形性がほぼ維持され、変換効率の低下を抑制することができた。
【0051】
本実施例および比較例では、強度のピークが976nmで、970~980nmの波長の光を含む励起光を用いている。この波長(976nm)は、Ybが添加されている増幅用ファイバ5における吸収ピーク波長と一致しているため、比較例ではビートによる熱グレーディングが生じ、先述のTMI現象によって変換効率の低下が起きたと考えられる。一方、実施例ではモードフィルタ5aによって余分な高次モードが除去されたことで、ビートによる熱グレーティングの形成を抑制することができたと考えられる。
このように、モードフィルタ5aを用いて不要な高次モードを除去することによる効果を確認することができた。
【0052】
(コヒーレント長の算出方法)
ファイバレーザ装置1Aにおいて、以下に説明する数式により算出されたコヒーレント長よりも、融着接続部F1とモードフィルタ5aとの間隔を短くすることで、レーザ光のビーム品質を向上させることができる。以下、具体的な数値を用いて、コヒーレント長の算出方法を説明する。
【0053】
任意の2つのモードの伝搬波E01、E02は、伝搬定数β、2つのモードにおける伝搬定数βの差をΔβ、2つのモードにおける伝搬定数βの平均をβaveとしたときに、下記の数式(1)および(2)で表すことができる。(Aは定数であり、Zについての詳細は後述する。)
E01 = Asin(βave +Δβ/2)Z
= AsinβaveZ×cos(Δβ/2×Z) - AcosβaveZ×sin(Δβ/2×Z) (1)
E02 = Asin(βave -Δβ/2)Z
= AsinβaveZ×cos(Δβ/2×Z) + AcosβaveZ×sin(Δβ/2×Z) (2)
【0054】
数式(1)および数式(2)から、伝搬波E01、E02には、以下の関係が成り立つ。
E01+E02 ∝ sinβaveZ×cos(Δβ/2×Z) (3)
数式(3)において、第1項のsinβaveZは一般波を表し、第2項のcos(Δβ/2×Z)は、ビートの振動を表している。
ここで、数式(3)の第2項のビートの振動に着目し、Δβ/2×Z = 2πを満たすZをビート長λbと定義する。λは、光ファイバの伝搬波長λである。ここでビート長λbは、
λb = 4π/Δβ (4)
と表される。
【0055】
伝搬波長λおよび実行屈折率Neffには、
β=2π/λ×Neff (5)
との関係があるため、2つのモード間における実行屈折率Neffの差をΔNeffとすると、数式(4)および(5)より、
λb = 2λ/ΔNeff (6)
と、考えることができる。
【0056】
また、ビートの持続長であるコヒーレント長Lcは、ビート長の幅Δλbを用いて、
Lc = (λb)2/Δλb (7)
と、考えることができる。数式(7)は、数式(6)より、
Lc= (λb)2/Δλb = 2/ΔNeff × (λ)2/Δλ (8)
と表される。
【0057】
例えば、増幅用ファイバ5における比屈折率差が0.3%、コア媒体屈折率が1.45、コア径が50μm、伝搬波長λが1070nm、波長幅Δλが1nmのファイバレーザ装置1Aにおいて、この時のLP01モードとLP02モードとにおけるΔNeffは0.00028となる。ここで、数式(8)から、ビートの持続長であるコヒーレント長Lcは、8.18mと算出される。
【0058】
また、ファイバレーザ装置1Bにおいて、融着接続部F1と第1モードフィルタ5aとの間の間隔、および、融着接続部F2と第2モードフィルタ5cとの間の間隔が、上記の数式により算出されたコヒーレント長よりも短くてもよい。
【0059】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0060】
例えば、
図1のファイバレーザ装置1Aは複数の励起光源2を備えているが、励起光源2の数は1つであってもよい。この場合、コンバイナ3は設けられていなくてもよい。
また、モードフィルタ5a、5cにおいて少なくとも一部が、それぞれ融着接続部F1、F2と、融着接続部F1、F2から増幅用ファイバ5を伝播する信号光のモード間干渉によって生じるビートのコヒーレント長だけ離れた位置と、の間の領域に配置されていればよい。
また、ファイバレーザ装置1A、1Bでは、増幅用ファイバ5が、モードフィルタ5a、5cを有しているが、例えば、モードフィルタ5a、5cは、それぞれHR-FBG4aと融着接続部F1との間、または、OC-FBG6aと融着接続部F2との間に配置されていてもよい。
【0061】
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1A、1B…ファイバレーザ装置 2…励起光源 4…入力側ファイバ 4a…HR-FBG 5…増幅用ファイバ 5a…モードフィルタ 6…出力側ファイバ 6a…OC-FBG 7…外側モードフィルタ 8…出力端 R…光デバイス