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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】電気化学エネルギ蓄積セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/593 20210101AFI20220906BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20220906BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20220906BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20220906BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20220906BHJP
   H01M 10/659 20140101ALI20220906BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20220906BHJP
【FI】
H01M50/593
H01M50/586
H01M10/613
H01M10/6556
H01M10/04 W
H01M10/659
H01M50/204 401H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021530150
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2019081295
(87)【国際公開番号】W WO2020109014
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】102018130173.1
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501479868
【氏名又は名称】カール・フロイデンベルク・カーゲー
【氏名又は名称原語表記】Carl Freudenberg KG
【住所又は居所原語表記】Hoehnerweg 2-4, D-69469 Weinheim, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ペーター クリッツァー
(72)【発明者】
【氏名】マリナ ヌスコ
(72)【発明者】
【氏名】エルンスト オーゼン
(72)【発明者】
【氏名】アルミン シュトリーフラー
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ホーフマン
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-108507(JP,A)
【文献】特開2001-185225(JP,A)
【文献】特表2007-500920(JP,A)
【文献】特開2016-015248(JP,A)
【文献】特開2016-210957(JP,A)
【文献】特開2012-227072(JP,A)
【文献】実開昭54-136520(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0359209(US,A1)
【文献】国際公開第2012/117473(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/50 - 50/598
H01M 10/04
H01M 10/52 - 10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(3)に収容され、アノード(15)とカソード(17)と前記アノード(15)および前記カソード(17)を分離する2つのセパレータ(16、18)とを有する少なくとも1つの巻回型セル(2)を有する電気化学エネルギ蓄積セル(1)であって、前記ケーシング(3)は、少なくとも1つの端面(4)が、前記ケーシング(3)の一部を形成するカバー(5)によって閉じられている、電気化学エネルギ蓄積セル(1)において、
前記巻回型セル(2)と前記ケーシング(3)との間には少なくとも1つの絶縁要素(11)が配置されており、少なくとも1つの前記絶縁要素(11)は、電気絶縁性でありかつ熱伝導性である材料から構成されており、
前記絶縁要素(11)は、膨潤性材料から構成されており
前記絶縁要素(11)は、前記巻回型セル(2)を包囲する電解質に接触することにより膨潤し、前記アノード(15)と前記カソード(17)と前記セパレータ(16、18)とに接触する、
電気化学エネルギ蓄積セル(1)。
【請求項2】
前記絶縁要素(11)は、少なくとも0.5W/(m K)の熱伝導率を有する、
請求項1記載の電気化学エネルギ蓄積セル。
【請求項3】
前記絶縁要素(11)は、ポリマー材料から構成されている、
請求項1または2記載の電気化学エネルギ蓄積セル。
【請求項4】
前記絶縁要素(11)は、エラストマー材料から構成されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の電気化学エネルギ蓄積セル。
【請求項5】
前記絶縁要素(11)は、シリコーンベースのエラストマーから構成されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の電気化学エネルギ蓄積セル。
【請求項6】
前記絶縁要素(11)は、ポリオレフィンベースのエラストマーから構成されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の電気化学エネルギ蓄積セル。
【請求項7】
前記絶縁要素(11)は、熱伝導性粒子を具備している、
請求項1から6までのいずれか1項記載の電気化学エネルギ蓄積セル。
【請求項8】
前記ケーシング(3)は、底部(13)を有し、前記底部(13)と前記巻回型セル(2)との間には、絶縁要素(11)が配置されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の電気化学エネルギ蓄積セル。
【請求項9】
前記絶縁要素(11)は、蓄熱性粒子を有する、
請求項1から8までのいずれか1項記載の電気化学エネルギ蓄積セル。
【請求項10】
前記蓄熱性粒子は、相変化材料として構成されている、
請求項9記載の電気化学エネルギ蓄積セル。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の複数の電気化学エネルギ蓄積セル(1)の装置を含む、バッテリシステム(20)。
【請求項12】
前記電気化学エネルギ蓄積セル(1)を温度調節する装置(21)は、前記電気化学エネルギ蓄積セル(1)に対応付けられている、
請求項11記載のバッテリシステム(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングに収容された少なくとも1つの巻回型セルを有する電気化学エネルギ蓄積セルに関し、ケーシングは、少なくとも1つの端面がカバーによって閉じられている。
【背景技術】
【0002】
このようなエネルギ蓄積セルは、例えば、独国特許出願公開第102008025884号明細書から公知であり、技術において多様に使用されている。このようなエネルギ蓄積セルは、上から見ると円形に構成されていることが多く、したがって丸型セルという名称でも知られている。丸型セルは、例えば、バッテリ駆動のハンドツールを駆動するために使用される。しかしながら、多数の丸型セルを1つのユニットにまとめることも公知であり、このユニットそれ自体は、電動車両用のエネルギを供給するのに適している。さらに角型セルも公知である。丸型セルおよび角型セルでは、巻回型セルは、固体の材料から成る、多くの場合にアルミニウムまたはステンレス鋼から成る、円筒形状または直方体形状に構成されている固体のケーシングに設けられている。
【0003】
巻回型セルの内部における電気化学反応により、エネルギ蓄積セルを充電もしくは放電する際に熱が放出される。動作条件に応じて、巻回型セルの内部において発生する熱を排出しなければならないことがある。従来、これは、多くの場合にケーシングの底部または側壁の領域において外部に対応付けられている冷却装置によって行われている。
【0004】
しかしながら構造に起因して、巻回型セルの内部における熱流は、1つの層または特に複数の層を貫通するものよりも、層に沿うもの方が格段に多い。これにより、ケーシングにおいて垂直に立っている巻回型セルでは、熱流は、ケーシングの被覆部の方向における熱流よりも、ケーシングの底部およびカバーの方向の熱流の方が格段に多い。これにより、側壁に対応付けられている冷却装置を介する排熱の可能性が限定されてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の根底にある課題は、改善された排熱が行われるように電気化学エネルギ蓄積セルをさらに発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1の特徴的構成によって解決される。従属請求項は、有利な実施形態に関する。
【0007】
この課題を解決するために、本発明による電気化学エネルギ蓄積セルは、ケーシングに収容された少なくとも1つの巻回型セルを有し、ケーシングは、少なくとも1つの端面が、ケーシングの一部を形成するカバーによって閉じられており、巻回型セルとケーシングとの間には絶縁要素が配置されており、絶縁要素は、電気絶縁性でありかつ同時に熱伝導性である材料から構成されている。この点において、本発明における絶縁要素という用語の絶縁の構成要素は、電気的な絶縁だけに関係している。
【0008】
絶縁要素の電気絶縁特性により、巻回型セルの構成要素とケーシングとの間の電気的な短絡が阻止される。例えばケーシング構成部分であるカバーには多くの場合に、巻回型セルの導体に接続されている極部分が対応付けられている。この点において、絶縁要素は、カバーもしくはカバーの極部分と巻回型セルとの間の導電性の接続が、導体だけを介して行われるようにする。さらに絶縁要素により、巻回型セルの個々の層間の電気的な短絡が阻止される。
【0009】
絶縁要素を熱伝導性に構成することにより、巻回型セルに生じる熱を絶縁要素の方向に移送し、絶縁要素により、カバー、絶縁要素に対応付けられているケーシングの側壁、または底部の方向に転送することができる。エネルギ蓄積セルの対応する領域において外部に配置されている冷却装置を介し、絶縁要素によって移送された熱を排出することができる。巻回型セルの内部における熱流は、半径方向よりも軸線方向の方が格段に多いことにより、絶縁要素は、大きな熱量を吸収して転送することができる。これにより、巻回型セルの効率的な冷却が可能になる。
【0010】
丸型セルにおける巻回型セルの配置は、丸型セルの形状に起因して多くの場合に縦型である。この際に電気的な極部分は、2つの極部分およびそれらの端子が、一方向、例えばカバーの方向を向くように構成可能である。2つの極部分が、反対方向を向くことも考えられ、この際には一方の極部分がカバーの方向を向き、他方の極部分が底部の方向を向く。角型セルにおいて巻回型セルは、同様に縦型にケーシングに配置可能である。この場合、特に、比較的大型の角型セルでは2つの極部分は、多くの場合にカバー方向を向いている。この際には1つのケーシングに並列な複数の巻回型セルを配置することも可能である。択一的には、ケーシングにおいて横方向に巻回型セルを配置することも可能である。導体は、この場合、ケーシングの側壁の方向に突き出し、ケーシングの内部で、カバーに配置された極部分の方向に方向転換される。
【0011】
好適には絶縁要素は、巻回型セルとケーシングとの間、特に巻回型セルとカバーとの間の空間が充填されるように構成される。絶縁要素は、巻回型セルの端面にも、カバーの内側面およびケーシングの側壁にも接触する。これらの構成要素が直接に接触することにより、巻回型セルとケーシングもしくはカバーとの間で妨げられることのない熱流が得られる。
【0012】
好適には、絶縁要素は、少なくとも0.5W/(m K)の熱伝導率を有する。特に好ましくは、熱伝導率は少なくとも1W/(m K)である。このような熱伝導率を有する絶縁要素により、巻回型セルの効率的の温度調節、もしくは巻回型セルに発生する熱の効率な排熱が可能になる。
【0013】
外気温度が低い場合にはさらに、最適な能力の範囲に巻回型セルを温度調節できるようにするために、エネルギ蓄積セルの外部に配置された熱源により、絶縁要素を介して巻回型セルに熱を入れることも考えられる。加熱は、特に、比較的高い温度においてはじめてそのフルの性能を発揮するタイプのエネルギ蓄積セルにおいて関係していてよい。これは、例えば、固体バッテリの場合である。ここでは、固体電解質を通るイオン伝導率を改善するために、多くの場合に高い温度が必要である。
【0014】
セル内部とセル外部との間の温度調節の他に、本発明による絶縁要素は、セルそれ自体における温度の均一化にも役立つ。例えば、巻回型セルの外側の温度に、巻回型セルの内側の温度をより良好に合わせることができる。これにより、2つの領域の異なる経年変化を回避することができる。
【0015】
好適には絶縁要素は、膨潤性材料から構成されている。シール要素において従来、材料選択は一般に、シーリングされるべき媒体に鑑み、シール要素において可能な限りに膨れが生じないように行われている。
【0016】
しかしながらこの実施形態において、意外にも有利であると判明したのは、ケーシングに配置した後、また特に巻回型セルを包囲する電解質に接触した後、絶縁要素がある程度に膨潤することである。この膨潤過程によって実現することができるのは、絶縁要素により、巻回型セルとカバーとケーシングの側壁との間の空間が充填されることである。これにより、絶縁要素と隣接する構成要素との直接的な接触が得られ、熱流が改善される。
【0017】
絶縁要素は、エラストマー材料から構成可能である。エラストマー材料から成る絶縁要素は、隣接する構成要素の形状に適合可能であり、したがって、利用可能な空間を最適に充填可能である。
【0018】
絶縁要素は、シリコーンベースのエラストマーから構成されていてよい。有利なシリコーンベースのエラストマーは、例えば、シリコーンゴム(VMQ)またはフロロシリコーンゴム(F-VMQ)である。シリコーンベースのエラストマーは、一方において弾性材料であり、フレキシブルな絶縁要素の作製を可能にする。他方においてシリコーン材料は、電気化学エネルギ蓄積セルの多くの電解質、例えばリチウム・イオン蓄電池の電解質に接触した際に膨潤する。シリコーンベースのエラストマーと、ケーシング内の巻回型セルに隣接しかつ巻回型セルを包囲する電解質と、が接触することにより、絶縁要素は、膨れてその体積を増大させる。これにより、絶縁要素は、カバーと巻回型セルとケーシングの側壁との間の空間を完全に充填し形状結合を保証することができる。
【0019】
絶縁要素は、ポリオレフィンベースのエラストマーから構成されていてよい。特に好ましいポリオレフィンベースのエラストマーは、ブチル/イソブチレンゴム(IIR)である。IIRは、特に電解質に関して化学的に安定である。さらにIIRは、電解質などに接触する際に妨害物質、例えば可塑剤の放出を低減させるように構成可能である。別のポリオレフィンベースのエラストマーは、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)である。EPDMも同様に電解質に関して化学的に安定である。
【0020】
基本的には絶縁要素が、ポリマー材料から構成されていると有利である。別の材料として、場合によってはさらに、フッ素ゴム(FKM)、ポリアクリレートゴム(ACM)ベースの材料が対象となる。基本的には、例えば、ポリオレフィン、ポリアミドまたはポリエステルベースの熱可塑性エラストマーを使用することも考えられる。
【0021】
さらに、絶縁要素は、膨潤過程が終了した後、予荷重を伴って隣接する構成要素に当接し、これにより、巻回型セルと絶縁要素とカバーもしくはケーシングの被覆面との間の熱伝導率が改善される。
【0022】
絶縁要素が熱伝導性粒子を具備している場合、絶縁要素の熱伝導率を改善することができる。熱伝導性粒子としては好適には、非導電性の鉱物粒子が対象となる。このような熱伝導性粒子は、例えば、酸化アルミニウム(Al)、水酸化酸化アルミニウム(AlOOH)、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシム(Mg(OH))、酸化マグネシウム(MgO)、窒化アルミニウム(AlN)または窒化ホウ素(BN)から成る粒子である。別の卑金属の酸化物、水酸化物または窒化物も考えられる。
【0023】
金属・水酸化物またはオキシ水酸化物の形態の熱伝導性粒子により、確かに一般に、酸化物に比べて熱伝導率がより小さくなるが、このような化合物の使用は有利になり得る。というのは、これらは、特定の温度を上回った際に、熱を吸収して吸熱分解し、その際に大きなエネルギ量を吸収し、水を放出するからである。この際には1kJ/gよりも多くの、材料による吸熱が可能である。この反応は、熱を一時的に蓄えて熱がセルを通過することを阻止するのに役立つ。さらに、隣接セルに熱エネルギが不利に伝達されてしまう危険性を低減することができる。
【0024】
ケーシングは、底部であって、この底部と巻回型セルとの間に別の絶縁要素が配置されている底部を有していてよい。これにより、エネルギ蓄積セルの温度調節をさらに改善することできる。この実施形態では、巻回型セルは、熱伝導性の2つの絶縁要素の間にサンドイッチ状に配置される。絶縁要素によって移送される熱の排熱は、巻回型セルと絶縁要素とケーシング壁との間で行われる。
【0025】
別の有利な一実施形態によれば、絶縁要素は、巻回型セルを包囲することができる。この際に絶縁要素は、丸型セルでは円筒形壁である側壁と巻回型セルとの間に配置されている。これにより、エネルギ蓄積セルを側方から冷却する際には巻回型セルとケーシング壁との間の伝熱を改善することができる。
【0026】
絶縁要素は、蓄熱性粒子を有していてよい。特に急速充電過程では、殊に短時間内に大きな熱量が発生することがある。蓄熱性粒子は、この場合、巻回型セルを介して絶縁要素に持ち込まれる熱の一部を吸収して蓄積することができる。これにより、絶縁要素と、ケーシングもしくはカバー、底部およびケーシングの側壁と、の間の熱流を一様にすることができる。この際に考えられるのは、例えば、相間移動材料であり、この相間移動材料は、これがエネルギ蓄積セルの上方の動作温度領域において相変化を有するように選択される。相変化の間、相間移動材料は、エネルギ蓄積セルにおける温度上昇をさせることなく、熱エネルギを吸収することができる。
【0027】
絶縁要素は、熱緩衝部材として機能し、急速充電過程中に放出される熱を部分的に吸収し、引き続いてこの熱をエネルギ蓄積セルのケーシングに徐々に放出する。これにより、温度ピークの発生を少なくすることかできる。
【0028】
蓄熱の有利なこの作用は、特に蓄熱性粒子が、相変化材料として構成されている場合に得られる。相変化材料の形態の有利な蓄熱性粒子は、例えば、カプセルの形態をしたワックスまたは有機もしくは無機塩類である。相変化材料として構成された蓄熱性粒子は、好適には、30℃~50℃の範囲の、好適には40℃の相変化温度を有する。
【0029】
基本的には絶縁要素は、独立した構成部材である。しかしながら択一的には、エネルギ蓄積セルの作製中にケーシング表面に絶縁要素の材料を直接に被着することも考えられる。これは、例えば、加硫または射出成形中に行うことが可能である。ここから絶縁要素とケーシングとから成る熱結合体が結果的に得られる。
【0030】
さらに、圧縮可能な構造から成る絶縁要素も考えられる。これは、例えば、母材にセラミック粒子が取り込まれている不織布であってよい。
【0031】
以下では複数の図に基づき、電気化学エネルギ蓄積セルのいくつかの実施形態を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】絶縁要素を有するエネルギ蓄積セルの断面図である。
図2】2つの絶縁要素を有するエネルギ蓄積セルの断面図である。
図3】角型セルの形態のエネルギ蓄積セルの第1実施形態を示す図である。
図4】角型セルの形態のエネルギ蓄積セルの第2実施形態を示す図である。
図5】角型セルの形態のエネルギ蓄積セルの第3実施形態を示す図である。
図6】巻回型セルと絶縁要素との間の接触領域を詳細に示す図である。
図7】第2実施例にしたがい、巻回型セルと絶縁要素との間の接触領域を詳細に示す図である。
図8】エネルギ蓄積セルのカバー領域の詳細を示す図である。
図9】棒状の中間部分を有する絶縁要素の詳細を示す図である。
図10】固体材料から成る棒状の中間部分を有する絶縁要素を示す図である。
図11】複数のエネルギ蓄積セルを有するバッテリシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1および図2には、丸型セルの形態の電気化学エネルギ蓄積セル1が示されている。図3から図5には、角型セルの形態の電気化学エネルギ蓄積セル1が示されている。
【0034】
上述の実施例においてエネルギ蓄積セル1は、ケーシング3に収容されている巻回型セル2を有する。エネルギ蓄積セル1がリチウム・イオン蓄電池として構成されている場合、巻回型セル2は、2つの導電体、すなわちアノード15およびカソード17と、2つのセパレータ16、18と、を有し、導電体15、17は、セパレータ16、18によって互いに分離されている。
【0035】
導電体15、17には活物質が被着されており、セパレータ16、18によって分離されている2つの導電体15、17は、1つの丸型の構成体(巻回型セル2)に巻回されている。
【0036】
ケーシング3は、金属製材料から構成されており、図1および図2による実施形態では円筒状に、図3による実施形態では直方体状に構成されている。一方の端面において、ケーシング3は、側壁14と同一の材料でかつ一体に構成された底部13を有する。底部13とは反対側の端面4において、ケーシング3はカバー5によって閉じられている。
【0037】
カバー5は、ケーシング3にカバー5を固定するための固定部分6を有する。さらにカバー5は、巻回型セル2の導体8に接触接続する極部分7を有する。巻回型セル2の第2導体8’は、ケーシング3の底部13に対応付けられている。
【0038】
カバー5は、ケーシング3にカバー5を固定するための固定部分6を有する。固定部分6と極部分7とは、補償要素9を介して互いに接続されている。補償要素9は、弾性的にかつ電気絶縁性に構成されている。これらの実施形態において補償要素9は、エラストマー材料から構成されている。
【0039】
図1による実施形態では、巻回型セル2とカバー5との間に絶縁要素11が配置されている。絶縁要素11は、絶縁性かつ熱伝導性の材料から構成されている。絶縁要素11の基材は、これらの実施形態において、金属・水酸化物(ここではアルミニウム・水酸化物)から形成された熱伝導性粒子によって構成されているシリコーンゴムである。この実施形態により、絶縁要素11は、1.5W/(m K)の熱伝導率を有する。現在利用可能な材料をベースにすると、10W/(m K)の絶縁要素の熱伝導率が達成可能であり、75W/(m K)まで熱伝導率も考えられる。択一的には絶縁要素11の基材は、IIRから構成される。
【0040】
急速充電過程において発生する温度ピークを受け止めるために、絶縁要素11はさらに、粒子状の相変化材料を有する。この相変化材料は、ここでは有機塩類から構成されている。択一的な一実施形態において、絶縁要素11は、有機ワックスをベースとするカプセル化された相変化材料を有する。
【0041】
特に、リチウム・イオン蓄電池の巻回型セル2に関連して、巻回型セル2を包囲する電解質と、絶縁要素11のシリコーン・エラストマーと、の相互作用により、シリコーン・エラストマーの膨潤が生じる。この際に絶縁要素11は、巻回型セル2とカバー5の内側面とケーシング3の側壁とに全面的に当接する。これによって保証されるのは、絶縁要素11が、巻回型セル2、カバー5およびケーシング3に接触することである。これにより、巻回型セル2と絶縁要素11とカバー5もしくはケーシング3との間の熱流が保証される。巻回型セル2は、ケーシング3の底部13の上に直接に配置されている。
【0042】
図2には、巻回型セル2と底部13との間に別の絶縁要素11’が配置されている、図1によるエネルギ蓄積セル1の一実施形態が示されている。別の絶縁要素11’は、巻回型セル2とカバー5との間に配置されている絶縁要素11と同様に構成されている。2つの絶縁要素11、11’を貫通して、巻回型セル2と、カバー5および底部13の極部分7、7’と、を接触接続するための導体8、8’が突き出ている。
【0043】
上から見てカバー5は円形に構成されている。極部分7は、カバー5において中央かつ中心に配置されており、補償要素9によって包囲されている。補償要素9は、形状結合かつ素材結合で極部分7に結合されている。固定部分6は、円盤状の部分を有し、その開口部には補償要素9および極部分7が配置されている。補償要素9は、固定部分6の開口部の縁部の領域において素材結合で固定されている。固定部分6はさらに、ケーシング3の端面側の縁部に載置される円筒形部分を有する。互いに接触する2つの縁部の領域では、カバー5およびケーシング3が、電磁パルス成形により、素材結合で互いに接合されている。
【0044】
図3には、角型セルの形態の電気化学エネルギ蓄積セル1の第1の択一的な実施形態が示されている。この実施形態では、2つの極部分7、7’がカバー5に配置されている。第1の絶縁要素11’は、巻回型セル2と底部13との間に配置されている。2つの極部分7、7’は、補償要素9、9’を介して、カバー5の固定部分6に接続されている。補償要素9、9’は、弾性的かつ電気絶縁性に構成されており、これにより、2つの極部分7、7’は互いに電気的に絶縁されている。
【0045】
図4には、角型セルの形態の電気化学エネルギ蓄積セル1の第2の択一的な実施形態が示されている。この実施形態では、2つの極部分7、7’がカバー5に配置されている。第1の絶縁要素11は、巻回型セル2とカバー5との間に、また別の絶縁要素11’は、巻回型セル2と底部13との間に配置されている。2つの極部分7、7’は、補償要素9、9’を介して、カバー5の固定部分6に接続されている。補償要素9、9’は、弾性的かつ電気絶縁性に構成されており、これにより、2つの極部分7、7’は互いに電気的に絶縁されている。
【0046】
図5には、角型セルの形態の電気化学エネルギ蓄積セル1の第3の択一的な実施形態が示されている。この実施形態では、2つの極部分7、7’がカバー5に配置されている。第1の絶縁要素11は、巻回型セル2とカバー5との間に、第2の絶縁要素11’は、巻回型セル2と底部13との間に、また第3の絶縁要素11’’は、巻回型セル2とケーシングの側壁14との間に配置されている。2つの極部分7、7’は、補償要素9、9’を介して、カバー5の固定部分6に接続されている。補償要素9、9’は、弾性的かつ電気絶縁性に構成されており、これにより、2つの極部分7、7’は互いに電気的に絶縁されている。
【0047】
図6には、巻回型セル2と絶縁要素11との間の接触領域が詳細に示されている。巻回型セル2は、平坦に構成されたアノード15と、平坦に構成された第1のセパレータ16と、平坦に構成されたカソード17と、平坦に構成された第2のセパレータ18と、から成る螺旋状に巻回された配置構成を有する。これらの平坦に構成された構成部材は、1つの巻回型セル2に螺旋状に巻回される。材料選択に起因して、少なくともセパレータ16、18の熱伝導率は比較的良好でない。この点において、セパレータ16、18に対して横方向の熱伝導率は格段に劣る。上側の図に示した実施形態において、取り付け直後、絶縁要素11は、端面側だけがセパレータ16、18に当接している。巻回型セル2を包囲する電解質に接触することにより、絶縁要素11の材料は膨潤し、これにより、絶縁要素11は、(下側の図に示したように)最終的に、アノード15と、2つのセパレータ16、18と、カソード17と、に端面側で接触する。ここでは、特に有利には、アノード15およびカソード17によって放出される熱が、絶縁要素11に吸収されて排出されることが可能である。
【0048】
図7には、図4による巻回型セル2の択一的な一実施形態が示されている。この実施形態では、アノード15は、端面側において第1のセパレータ16を越えて突き出ている。このような一実施形態により、より良好な空間利用が可能になり、ひいてはエネルギ蓄積セル1の容量を増大させることが可能である。しかしながらこれが唯一可能になるのは、絶縁要素11が、端面側においてアノード15を包囲し、これにより、例えば、樹状突起形成によってアノード15とカソード17との間に短絡が生じることが阻止されるからである。巻回型セル2を包囲する電解質に接触することにより、絶縁要素11の材料は膨潤し、これにより、絶縁要素11は、(下側の図に示したように)最終的に、アノード15と、2つのセパレータ16、18と、カソード17と、に端面側で接触する。ここでは、特に有利には、アノード15およびカソード17によって放出される熱が、絶縁要素11に吸収されて排出されることが可能である。この実施形態では、絶縁要素11により、アノード15が端面側において埋め込まれている。したがってこの実施形態により、熱伝導性のアノード15と絶縁要素11との直接的な熱的な接触が行われる。
【0049】
図8には絶縁要素11の択一的な一実施形態が示されている。ここでは導体8が絶縁要素11に一体化されている。有利な一実施形態によれば、導体8は金属製の挿入部材として構成されており、この挿入部材には、絶縁要素11のエラストマー材料が噴霧されている。しかしながら、種々異なる材料の複合物から絶縁要素11を構成することも考えられ、この際には導体8を形成する領域には導電性ポリマーが含まれる。
【0050】
図9には、基台19および棒状の延長部12を有する絶縁要素11が示されている。延長部12は、巻回型セル2のコアを形成し、巻回型セル2の作製を容易にする。さらに、延長部12により、巻回型セル2のコアから、絶縁要素11に隣接するケーシング3の構成要素への熱伝達が改善される。丸型セルの形態のエネルギ蓄積セル1では、延長部12は好適には回転対称であり、角型セルの形態のエネルギ蓄積セル1では、延長部12は好適には軸対称である。
【0051】
図10には、図7による絶縁要素11の一発展形態が示されており、上側の実施形態では、延長部12の材料は、絶縁要素11の基台19とは異なっている。下側の実施形態において延長部12は、別の材料、好適には固体材料から成るコアを有し、このコアは、基台19のエラストマー材料によって包囲されている。
【0052】
図11には、前に説明した実施形態による複数のエネルギ蓄積セル1を備えたバッテリシステム20が示されている。エネルギ蓄積セル1は、エネルギ蓄積セル1を温度調節する装置21に配置されている。エネルギ蓄積セル1は、装置21に横に寝かせてまたは縦型に配置可能である。この実施形態において装置21は、温度調節流体が通流するチャネルである。このチャネルは、プラスチックまたは金属から成る固体材料から構成される。チャネルとエネルギ蓄積セル1との間には、弾性材料から成る熱伝達要素22が配置されている。これにより、巻回型セル2と、絶縁要素11と、ケーシング3と、熱伝達要素22と、チャネルおよび温度調節流体を有する装置21と、の間で良好な熱伝達が行われる。
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図11