(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-05
(45)【発行日】2022-09-13
(54)【発明の名称】キノリン誘導体、薬学的に許容可能な塩類およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07D 471/04 20060101AFI20220906BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220906BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C07D471/04 117Z
A61K31/519
A61P29/00
C07D471/04 CSP
(21)【出願番号】P 2022514623
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(86)【国際出願番号】 US2020044410
(87)【国際公開番号】W WO2022005494
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515293333
【氏名又は名称】ブイティーブイ・セラピューティクス・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】ガッダム,バープ
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-510929(JP,A)
【文献】国際公開第2009/125809(WO,A1)
【文献】特表2002-504925(JP,A)
【文献】特表2003-520855(JP,A)
【文献】特開2016-14035(JP,A)
【文献】特表2009-500405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 471/04
A61K 31/519
A61P 29/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)を有する化合物:
【化1】
またはその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、該化合物が式(I)の化合物である化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物であって、該化合物が式(I)の化合物の酸塩である化合物。
【請求項4】
請求項3に記載の化合物であって、該化合物が式(I)の化合物のHCl塩である化合物。
【請求項5】
式(I)の化合物:
【化2】
またはその薬学的に許容可能な塩と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の医薬組成物であって、式(I)の化合物を含む医薬組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の医薬組成物であって、式(I)の化合物の酸塩を含む医薬組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の医薬組成物であって、式(I)の化合物のHCl塩を含む医薬組成物。
【請求項9】
式(I)の化合物:
【化3】
またはその薬学的に許容可能な塩を
有効成分として含む対象における炎症性疾患を処置する
のに使用するための組成物であって、該炎症性疾患が
、脂肪肝、アルコール性および非アルコール性
肝炎、ウイルス性および非ウイルス
性肝炎、肝硬変、自己免疫性肝炎、慢性活動性肝炎、ウィルソン病、重症筋無力症、特発性スプルー
、炎症性腸疾患
、内分泌性眼障害、グレーブス病、サルコイドーシス
、膵炎、腎炎、エンドトキシンショック、敗血症性ショック、血行動態ショック、敗血症症候群、虚血後再灌流障害、マラリア、マイコバクテリア感染、髄膜炎、乾癬、喘息、慢性閉塞性肺疾
患、好酸球増加症、うっ血性心不全、線維性疾患
、悪液質、移植片拒絶、移植片対宿主病、移植による拒絶
、強直性脊椎炎、自己免疫性脳脊髄炎
、溶血性貧血、再生不良性貧血、赤芽球ろう、特発性血小板減少症、全身性エリテマトーデ
ス、多発性軟骨炎、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症、皮膚筋炎、ライター症候群、非感染ぶどう膜炎、自己免疫性角膜炎、乾性角結膜炎、春季角結膜炎
、乾癬性関節炎
、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹
、ウイルス感染症
、血栓症
、変形性関節
炎、骨粗鬆症
、気腫、慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、放射線損傷、高酸素性肺胞損傷、歯周病、非インスリン依存性糖尿
病ならびにインスリン依存性糖尿
病からなる群から選択される
組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物であって、炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎、クローン病、または自己免疫性炎症性腸疾患である組成物。
【請求項11】
請求項9に記載の組成物であって、線維性疾患が嚢胞性線維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、または間質性肺線維症である組成物。
【請求項12】
請求項9に記載の組成物であって、ウィルス感染症が、SARS、MERS、COVID-19またはヒト免疫不全ウィルスである組成物。
【請求項13】
式(I)の化合物:
【化4】
またはその薬学的に許容可能な塩を
有効成分として含む対象における疾患を処置する
のに使用するための組成物であって、該疾患が、喘息、慢性閉塞性肺疾
患、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、春季結膜炎、好酸球性肉芽腫、乾癬、リウマチ様関節炎、敗血症性ショック、潰瘍性大腸炎、クローン病、心筋および脳の再灌流傷害、慢性糸球体腎炎、エンドトキシンショック、成人呼吸窮迫症候群
、神経障
害、鬱病または痛みからなる群から選択される
組成物。
【請求項14】
請求項
13に記載の
組成物であって、該疾患が、慢性閉塞性肺疾患、喘息、乾癬またはリウマチ様関節炎である
組成物。
【請求項15】
請求項13に記載の組成物であって、該疾患が、慢性閉塞性肺疾患、アトピー性皮膚炎、または乾癬である組成物。
【請求項16】
請求項13に記載の組成物であって、神経障害が、パーキンソン病、アルツハイマー病、または多発性硬化症である組成物。
【請求項17】
式(I)の化合物またはその塩:
【化5】
を合成するための方法であって、化合物:
【化6】
を加水分解することを含み、式中、R
1は、場合によりハロゲンで1~3回置換された(C1~C6)アルキルである方法。
【請求項18】
請求項
17に記載の方法であって、R
1が、メチルまたはtert-ブチルである方法。
【請求項19】
式(I)の化合物:
【化7】
の薬学的に許容可能な酸塩を合成するための方法であって、式(I)の化合物を適切な溶媒中で薬学的に許容可能な酸と反応させることを含む方法。
【請求項20】
請求項
19に記載の方法であって、該薬学的に許容可能な酸が塩酸である方法。
【請求項21】
下式の化合物:
【化8】
であって、R
1が場合によりハロゲンで1~3回置換された(C1~C6)アルキルである化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス-4-[1-(3-クロロフェニル)-7-メトキシ-2,4-ジオキソ-ピリミド[5,4-c]キノリン-3-イル]シクロヘキサンカルボン酸である化合物、薬学的に許容可能な塩類およびTNF-αまたはPDE4によって媒介される障害の処置のための療法剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子-α(TNF-α)は、TNF、DIF、TNF-アルファ、TNFA、及びTNFSF2とも称する細胞結合性サイトカインであり、26kdの前駆体型から17kdの可溶性型へプロセシングされる。TNF-αは、ヒト及び動物における炎症、発熱、及び急性感染及びショック時に観察されるものと類似の急性期反応の1次メディエーターであることが示されている。過剰なTNF-αは致死的であることが示されている。現在、可溶性TNF受容体又は特異的中和抗体の使用により、TNF-αの効果をブロックすることは、関節リウマチ(RA)、非インスリン依存性糖尿病(NIDDM又はII型糖尿病)、及びクローン病のような自己免疫疾患を含めた各種の状況に有益であり得るという考慮すべき証拠が存在する。
【0003】
ホスホジエステラーゼ(PDE)は、二次メッセンジャーである環状アデノシン一リン酸(cAMP)及び環状グアノシン一リン酸(cGMP)の加水分解及び不活性化に関与する酵素のスーパーファミリーを構成する。基質選択性、触媒活性、内在アクチベータ及び阻害因子に対する感受性、並びにコード遺伝子の異なる、異なるPDEファミリーが同定されている(PDE1、PDE2,PDE3、PDE4等)。
【0004】
PDE4アイソザイムファミリーは環状AMPに高親和性を示すが、環状GMPには低親和性である。PDE4阻害によって生ずる環状AMPレベルの増加は、リンパ球、マクロファージ、好塩基球、好中球、及び好酸球を含めた広範な炎症細胞及び免疫細胞における細胞活性化の抑制に関連している。更に、PDE4阻害はサイトカイン腫瘍壊死因子-α(TNF-α)の放出を減少させる。
【0005】
これらの生理学的効果に鑑み、慢性及び急性の炎症性疾患、並びにPDE4阻害により改善しやすいことが知られている他の病状、疾患及び障害を処置するために、多様な化学構造のPDE4阻害剤が開示されている。
【0006】
PDE4阻害剤は、ヒトのような哺乳動物における各種の疾患/病状、特に炎症性疾患及び/又はアレルギー疾患、例えば:ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(例えば慢性気管支炎及び/又は気腫)、アトピー性皮膚炎、じんましん、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、春季カタル、好酸球性肉芽腫、乾癬、関節リウマチ、敗血性ショック、潰瘍性大腸炎、クローン病、心筋及び脳の再灌流障害、慢性糸球体腎炎、エンドトキシンショック、成人呼吸窮迫症候群、多発性硬化症、認識機能障害(例えばアルツハイマー病のような神経障害における)、うつ病、又は疼痛の処置及び/又は予防に有効であると考えられる。潰瘍性大腸炎及び/又はクローン病はまとめて炎症性腸疾患と称することも多い。
【0007】
さらに、TNF-αの産生を阻害する化合物は、機能ベース処置介入を通じて多様な疾患及び障害で有用であると信じられる。TNF-α阻害剤が有用である疾患としては、非限定的な例として以下を挙げることができる:ウイルス性、アルコール性または薬物誘発性の急性および劇症肝炎、脂肪肝、アルコール性および非アルコール性、ウイルス性および非ウイルス性両方の肝炎、肝硬変、自己免疫性肝炎、慢性活動性肝炎、ウィルソン病、重症筋無力症、特発性スプルー、自己免疫性炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患、内分泌性眼障害、グレーブス病、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、膵炎、腎炎、エンドトキシンショック、敗血症性ショック、血行動態ショック、敗血症症候群、虚血後再灌流障害、マラリア、マイコバクテリア感染、髄膜炎、乾癬、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、好酸球増加症、うっ血性心不全、線維性疾患、嚢胞性線維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、悪液質、移植片拒絶、移植による拒絶、がん、血管新生を伴う疾患、自己免疫疾患、強直性脊椎炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性血液障害、溶血性貧血、再生不良性貧血、赤芽球ろう、特発性血小板減少症、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性軟骨炎、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症、皮膚筋炎、ライター症候群、非感染ぶどう膜炎、自己免疫性角膜炎、乾性角結膜炎、春季角結膜炎、間質性肺線維症、乾癬性関節炎、乾癬および他の良性または悪性の増殖性皮膚疾患、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、神経変性障害、パーキンソン病、アルツハイマー病、急性および慢性の多発性硬化症、がん、ウイルス感染症、例えばSARS、MERSまたはCOVID-19、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、悪液質、血栓症、皮膚炎症性疾患、変形性関節炎(OA)、骨粗鬆症、RA、気腫、慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、放射線損傷、高酸素性肺胞損傷、歯周病、非インスリン依存性糖尿病(II型糖尿病)ならびにインスリン依存性糖尿病(若年性またはI型糖尿病)。
【0008】
PDE4阻害剤は、炎症促進性/抗炎症性バランスの制御と共に複数のサイトカインシグナル伝達経路の上流阻害をもたらすそれらの独特の作用機序により呼吸器系ウイルス感染症を処置するための、例えばSARS、MERSまたはCOVID-19処置のための貴重な療法的選択肢であり得る。さらに、PDE4阻害剤は、気道および肺の炎症を特異的に改善し、挿管および高い死亡率につながる随伴する急性肺損傷および重度の呼吸不全から患者を保護することができる。
【0009】
従って、PDE4酵素活性および/またはTNF-αの産生を阻害する新規化合物を同定し、開発することが引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
化合物Iおよびその薬学的に許容可能な塩、それらの調製、ならびにPDE4活性の阻害剤としての、および様々な医学的状態の処置におけるそれらの使用が、本明細書において開示される。
【0011】
一側面において、本発明は、トランス-4-[1-(3-クロロフェニル)-7-メトキシ-2,4-ジオキソ-ピリミド[5,4-c]キノリン-3-イル]シクロヘキサンカルボン酸(“化合物I”)およびその薬学的に許容可能な塩を提供する。一態様において、本発明は、化合物IおよびそのHCl塩を提供する。
【0012】
別の側面において、本発明は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。
別の側面において、本発明は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を作製する方法を提供する。
【0013】
別の側面において、本発明は、化合物Iもしくはその薬学的に許容可能な塩をそれを必要とする対象に投与すること、または化合物Iもしくはその薬学的に許容可能な塩と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、TNF-αまたはPDE4によって媒介される障害の処置の方法を提供する。一態様において、本発明は、COPD、アトピー性皮膚炎、乾癬、IBDおよびクローン病からなる群から選択される疾患を処置する方法を提供する。
【0014】
別の側面において、本発明は、TNF-αまたはPDE4によって媒介される障害の処置のための医薬品の製造における使用のための化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を提供する。
【0015】
本発明のこれらおよび他の側面および態様は、以下でより詳細に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書で用いられる際、化合物Iまたは式(I)の化合物は、以下で示される構造を有する化合物を指し:
【0017】
【0018】
それは、トランス-4-[1-(3-クロロフェニル)-7-メトキシ-2,4-ジオキソ-ピリミド[5,4c]キノリン-3-イル]シクロヘキサンカルボン酸として同定され得る。
【0019】
別途記載されない限り、本明細書で描写される構造は、1個以上の同位体濃縮された原子の存在においてのみ異なる化合物を含むことも意味されている。例えば、水素原子の重水素もしくはトリチウムによる置き換えまたは炭素原子の13Cもしくは14C濃縮された炭素による置き換えを除いて本発明の構造を有する化合物は、本発明の範囲内である。
【0020】
用語“療法上有効量”は、本明細書において、求められている対象の療法的反応を引き出すであろう化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の量を示すために用いられる。一態様において、療法的反応は、対象の個々の細胞、組織、器官におけるPDE4酵素活性を阻害することおよび/またはTNF-αの産生を阻害することであり得る。一態様において、療法上有効量は、対象において1日あたり1グラム未満の、または100mg未満の化合物の用量を投与することによって達成され得る。別の態様において、投与の用量レベルは、1日あたり1mgの化合物より大きい。一態様において、投与される化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の用量は、1~100mgまたは1~50mgまたは10~50mgまたは30~50mgである。他の態様において、投与される化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の用量は、1~20mgまたは5~15mgまたは10~20mgまたは20~30mgである。
【0021】
用語“処置”は、本明細書で使用される際、対象が罹患している所与の病状または障害に関する処置の完全な範囲を指し、それは、その障害の結果もたらされる症状の1以上の緩和または改善から障害の発症または進行の遅延までを含む。
【0022】
用語“対象”は、あらゆる哺乳類、例えばヒトを指し得るが、ヒトに限定されない。一態様において、対象は、ヒトである。別の態様において、対象は、処置されるべき病状に特徴的な1以上の症状を示すヒトである。用語“対象”は、いずれかの病院、診療所または研究施設に関して(例えば入院患者、試験参加者等として)いずれかの特定の身分を有することを要求しない。一態様において、対象は、“それを必要とする対象”であることができる。
【0023】
“薬学的に許容可能な担体”は、生物学的に活性な薬剤の哺乳類、例えばヒトへの送達に関して当該技術で一般的に受け入れられている媒体である。そのような担体は、一般的に当業者が決定および説明できる要因の範囲内に十分入るいくつかの要因に従って配合される。これらは、限定されることなく、配合されている有効薬剤のタイプおよび性質;薬剤を含有する組成物が投与されるべき対象;組成物の意図される投与経路;ならびに標的とされている療法的指標を含む。薬学的に許容可能な担体は、水性および非水性の液体媒体の両方ならびに様々な固体および半固体の剤形を含む。そのような担体は、有効薬剤に加えていくつかの異なる成分および添加剤を含むことができ、そのような追加の成分は、当業者に周知の様々な理由(例えば有効薬剤の安定化)で配合物に含まれる。適切な薬学的に許容可能な担体の記載およびそれらの選択に関わる要因は、様々な容易に入手可能な源、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences, 第17版, Mack Publishing Company, ペンシルベニア州イーストン1985において見付けられ、その内容は、参照により本明細書に援用される。
【0024】
用語“薬学的に許容可能な塩”は、薬学的に許容可能な無機および有機の酸および塩基から調製された塩を指す。例えば、化合物Iは、いくつかの無機酸および有機酸、例えば(それらに限定されないが)塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸および安息香酸と反応して薬学的に許容可能な酸付加塩を形成することができる。薬学的に許容可能な塩基付加塩類は、無機および有機塩基から調製されることができる。無機塩基由来の塩類は、例としてナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウムおよびマグネシウム塩類を含む。有機塩基由来の塩類は、第一級、第二級および第三級アミンの塩類を含むが、それらに限定されない。そのようなアミンの具体的な例は、例として、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリ(イソプロピル)アミン、トリ(n-プロピル)アミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、トロメタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、コリン、ベタインおよびエチレンジアミンを含む。そのような薬学的に許容可能な塩類およびそれらを調製するための一般的な方法論は、当該技術で周知である。例えば、P. Stahl, et al., HANDBOOK OF PHARMACEUTICAL SALTS: PROPERTIES, SELECTION AND USE, (VCHA/Wiley-VCH, 2002); S. M. Berge, et al., “Pharmaceutical Salts”, Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol. 66, No. 1, January 1977を参照。
【0025】
1.化合物
一側面において、本発明は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を提供する。一態様において、本発明は、化合物Iを提供する。別の態様において、本発明は、化合物Iの薬学的に許容可能な塩を提供する。さらなる態様において、本発明は、化合物Iの酸塩を提供する。さらなる態様において、本発明は、化合物IのHCl酸塩を提供する。
【0026】
別の側面において、本発明は、化合物
【0027】
【0028】
を提供し、式中、R1は、場合によりハロゲンで1~3回置換された(C1~C6)アルキルである。一態様において、R1は、メチルまたはtert-ブチルである。
【0029】
2.医薬組成物
別の側面において、本発明は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0030】
一態様において、本発明は、化合物Iを含む医薬組成物を提供する。別の態様において、本発明は、化合物Iの薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物を提供する。さらなる態様において、本発明は、化合物Iの酸塩を含む医薬組成物を提供する。さらなる態様において、本発明は、化合物IのHCl酸塩を含む医薬組成物を提供する。
【0031】
別の態様において、本発明は、前の態様のいずれかの医薬組成物であって、さらに1種類以上の追加の療法剤(単数または複数)を含む医薬組成物を提供する。1種類以上の追加の療法剤は、ステロイド類、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、非ステロイド系抗炎症薬またはTNF-α抗体、例えばアセチルサリチル酸、ブフェキサマク、ジクロフェナクカリウム、スリンダク、ジクロフェナクナトリウム、ケトロラク・トロメタモール、トルメチン、イブプロフェン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、チアプロフェン酸、フルルビプロフェン、メフェナム酸、ニフルミン酸(nifluminic acid)、メクロフェナメート、インドメタシン、プログルメタシン、ケトプロフェン、ナブメトン、パラセタモール、ピロキシカム、テノキシカム、ニメスリド、フェニルブタゾン、トラマドール、ベクロメタゾンジプロピオネート、ベタメタゾン、ベクラメタゾン、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、インフリキシマブ、レフルノミド、エタネルセプト、メトトレキサート、スルファサラジン、抗リンパ球性(antilymphocytory)免疫グロブリン、抗胸腺細胞性(antithymocytory)免疫グロブリン、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス物質(substances)、アスコマイシン、ラパマイシンまたはムロモナブ-CD3(muromonab-CD3)から選択される。
【0032】
本発明は、さらに療法上有効量の化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、前記の態様のいずれかの医薬組成物を提供する。
本発明の別の側面によれば、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を1種類以上の薬学的に許容可能な担体と混合することを含む医薬製剤の調製のためのプロセスも提供される。
【0033】
医薬製剤は、単位用量あたりに予め決定された量の有効成分を含有する単位用量形態で与えられることができる。そのような単位は、非限定的な例として、処置される病状、投与経路ならびに患者の年齢、体重および状態に応じて0.5mg~1gの化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を含有することができる。典型的な単位用量製剤は、本明細書において上記で列挙された通りの1日量もしくは下位用量(sub-dose)またはその適切な割合の有効成分を含有する製剤である。そのような医薬製剤は、薬学の技術分野において周知の方法のいずれかによって調製されることができる。
【0034】
一態様において、医薬組成物の個々の用量形態は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を1mgより大きい量の化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩で含むことができる。別の態様において、医薬組成物は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を1~100mgまたは1~50mgまたは10~50mgまたは30~50mgの量で含むことができる。他の態様において、医薬組成物は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を1~20mgまたは5~15mgまたは10~20mgまたは20~30mgの量で含むことができる。
【0035】
医薬製剤は、任意の適当な経路、例えば経口(口腔内又は舌下を含む)、直腸、鼻腔、局所(口腔内、舌下、経皮を含む)、膣内、又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内、又は皮内を含む)経路による投与に適合させることができる。そのような製剤は、調剤分野において公知の方法によって、例えば活性成分を担体又は賦形剤と組み合わせることによって調製することができる。例として、発明を限定することを意味するものではないが、本発明の化合物が有用であると考えられるいくつかの病状及び障害に関し、いくつかの経路が他よりも好ましいであろう。
【0036】
経口投与に適合させた医薬製剤は、カプセル又は錠剤のような別個の単位;粉末又は顆粒;それぞれ水性液若しくは非水性液の、溶液又は懸濁液;食用の泡若しくはホイップ;又は水中油液体エマルジョン若しくは油中水液体エマルジョンとして提供することができる。例えば、錠剤又はカプセルの形態での経口投与の場合、活性薬物成分は、経口用で非毒性の医薬的に許容可能なエタノール、グリセロール、水などの不活性担体と組み合わせることができる。一般に、粉末は、化合物を好適な微粒子径の粉末状にし、例えばデンプン又はマンニトールのような食用炭水化物などの適当な医薬担体と混合することによって調製される。香料、保存料、分散剤、及び着色料が存在してもよい。
【0037】
カプセルは、粉末、液体、又は懸濁液の混合物を準備し、ゼラチン又は他の適当な殻物資とともに封入することによって作製される。コロイド状シリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又は固体ポリエチレングリコールなどの流動促進剤及び潤滑剤を封入前に混合物へ加えることができる。カプセルを摂取するときの医薬の利用可能性を改善するために、アガー-アガー、炭酸カルシウム、又は炭酸ナトリウムなどの崩壊剤又は可溶化剤を加えることもできる。更に、所望の又は必要な場合、好適な結合剤、潤滑剤、崩壊剤、及び着色料を混合物へ組み込むこともできる。好適な結合剤の例としては、デンプン、ゼラチン、グルコース又はβ-ラクトースなどの天然糖、コーンシロップ、アカシア、トラガカントなどの天然及び合成ゴム、又はアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどが挙げられる。
【0038】
これらの剤形に有用な潤滑剤には、例えばオレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが含まれる。崩壊剤には、限定されるものではないが、デンプン、メチルセルロース、アガー、ベントナイト、キサンタンゴムなどが含まれる。
【0039】
錠剤は、例えば粉末混合物を準備し、粒状又はスラグにし、潤滑剤及び崩壊剤を加え、そして錠剤に圧迫することによって処方される。粉末混合物は、好適に粉砕された化合物を希釈剤又は上記塩基と混合することによって調製することができる。任意成分には、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、又はポリビニルピロリドンなどの結合剤、パラフィンなどの溶解抑制剤、第四級塩などの再吸収促進剤、及び/又はベントナイト、カオリン、又はリン酸ニカルシウムなどの吸収剤が含まれる。粉末混合物は、シロップ、デンプンペースト、アラビアゴム粘液、又はセルロース性若しくはポリマー性物質の溶液のような結合剤とともに湿潤粒状にし、スクリーンを通して押し付けることができる。粒状化に代わるものとして、粉末混合物は、錠剤機を通すことができ、結果物は不完全に形成されるスラグであり、顆粒に分解される。顆粒は、錠剤形成ダイスへの粘着を妨げるために、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、又はミネラルオイルの添加によって滑らかにすることができる。次に、滑らかにした混合物を錠剤へ圧縮する。本発明の化合物は、自由流動不活性担体と組み合わせ、粒状化又はスラグ化工程を行うことなく直接錠剤へ圧縮することもできる。セラックのシーリングコート、糖又はポリマー性物質のコーティング、及びワックスの光沢コーティングから成る透明な又は不透明な保護コーティングを提供することができる。異なる単位用量を区別するために、これらのコーティングに色素を加えることができる。
【0040】
必要に応じて、経口投与用用量単位製剤をマイクロカプセル化することができる。製剤は、例えば微粒子物質をポリマー、ワックスなどにコーティング又は包埋することによって処方し、放出を延長又は持続させることもできる。
【0041】
溶液、シロップ、及びエリキシルなどの経口輸液は、与えられた分量が所定量の化合物を含有する用量単位形態に調製することができる。シロップは、例えば好適に風味付けされた水溶液中に化合物を溶解することによって調製することができ、一方、エリキシルは、非毒性アルコール性ビヒクルの使用により調製される。懸濁液は、一般に、化合物を非毒性ビヒクル中に分散させることによって調製することができる。エトキシ化イソステアリルアルコール及びポリオキシエチレンソルビトールエーテルなどの可溶化剤及び乳化剤、保存料、ペパーミントオイルなどの香味用添加物、又は天然甘味料、サッカリン、又は他の人口甘味料などを加えることもできる。
【0042】
医薬溶液製剤に好適な包装は、プラスチック及びガラス容器、用時調製注射器などの非経口用途を意図した全ての認可容器であり得る。1つの態様では、容器はバイアル又はアンプルのような密閉ガラス容器である。密閉ガラスバイアルは密閉ガラス容器の一例である。本発明の態様によれば、化合物Iまたは薬学的に許容可能なその塩を生理的に許容可能な溶媒中に含み、安定のために適当なpHを有する滅菌注射溶液が密閉ガラス容器中に提供される。本発明の化合物の酸性塩は、それらの遊離塩基カウンターパートよりも水溶液に可溶性であり得るが、酸性塩が水溶液に加えられる場合、溶液のpHは投与に好適であるには低すぎるかもしれない。したがって、pHが4.5より上の溶液製剤は、投与前にpHが7より大きい希釈剤溶液と組み合わせることができ、投与される組み合わせ製剤のpHは4.5以上である。1つの態様では、希釈剤溶液は、医薬的に許容可能な水酸化ナトリウムなどの塩基を含み、投与される組み合わせ製剤のpHは5.0~7.0である。溶液を滅菌フィルターに通す前に、例えば先に特定した種類のうち共溶解剤、等張剤、安定剤及び保存料などの1以上の追加成分を溶液に加えることができる。
【0043】
局所投与に適合された医薬製剤は、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、粉末、溶液、ペースト、ジェル、スプレー、エアロゾル、又はオイルとして処方することができる。
眼又は他の外部組織、例えば口及び皮膚を処置する場合、製剤は局所用軟膏又はクリームとして適用することができる。軟膏に処方する場合、活性成分はパラフィン系又は水混和性の軟膏基剤とともに使用することができる。あるいは、活性成分は、水中油クリーム基剤又は油中水基剤とともにクリームに処方することができる。眼への局所投与に適合された医薬製剤には、活性成分が好適な担体、特に水性溶媒に溶解又は懸濁している点眼薬が含まれる。
【0044】
口内への局所投与に適合された医薬製剤には、ロゼンジ、トローチ、及び口内洗浄液が含まれる。
担体が固体である鼻腔投与に適合された医薬製剤には、粒径が例えば20~500μの範囲の粗粉末が含まれる。粉末は、嗅ぎ薬を吸う方法で、即ち鼻に密接させて維持した粉末容器から鼻腔を通した急速な吸入によって投与される。担体が液体である鼻腔用スプレーとして又は点鼻薬としての投与に好適な製剤には、活性成分の水溶液又は油性溶液が含まれる。
【0045】
吸入による投与に適合された医薬製剤には微粒子の粉塵又は霧が含まれ、これらは各種タイプの定量加圧型のエアロゾル、噴霧器、又は吸入器によって作製することができる。
更に、本発明の組成物は、本発明の化合物を直腸投与するための坐薬の形態でもあり得る。これらの組成物は、通常温度では固体であるが直腸温度では液体であるため直腸で融解して薬物を放出する好適な非刺激性賦形剤と薬物を混合することによって調製することができる。そのような物質には、例えばココアバター及びポリエチレングリコールが含まれる。直腸投与に適合された医薬製剤は、坐薬又は浣腸剤として提供することができる。
【0046】
非経口投与に適合された医薬製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び製剤を意図するレシピエントの血液と等張にする溶質を含有することができる水性及び非水性滅菌注射液;並びに懸濁剤及び増粘剤を含むことができる水性及び非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量又は複数用量の容器、例えば密閉アンプル及びバイアルで提供することができ、使用直前に滅菌液性担体、例えば注射用水の添加のみを必要とする凍結乾燥状態で保存することができる。
【0047】
即時調製注射液及び懸濁液は、滅菌粉末、顆粒、及び錠剤から調製することができる。
先に具体的に記載した成分に加えて、製剤は、問題の製剤のタイプを考慮して、当該技術分野において慣用の他の薬剤を含むことができる。例えば経口投与に好適な製剤は、香味料又は着色料を含むことができる。
【0048】
3.合成法
化合物IおよびそのHCl塩の調製のための方法は、下記の実施例の節において記載されている。
【0049】
別の側面において、本発明は、化合物:
【0050】
【0051】
を加水分解することを含む化合物Iまたはその塩を作製するための方法を提供し、式中、R1は、場合によりハロゲンで1~3回置換された(C1-C6)アルキルである。一態様において、R1は、メチルまたはtert-ブチルである。別の態様において、R1は、エチルである。
【0052】
別の側面において、本発明は、適切な溶媒中で化合物Iを薬学的に許容可能な酸と反応させることを含む化合物Iの薬学的に許容可能な酸塩を作製するための方法を提供する。一態様において、薬学的に許容可能な酸は、塩酸である。さらなる態様において、化合物Iは、塩酸と反応させられて化合物IのHCl塩を形成する。
【0053】
4.処置の方法
別の側面において、本発明は、化合物Iもしくはその薬学的に許容可能な塩をそれを必要とする対象に投与すること、または化合物Iもしくはその薬学的に許容可能な塩およびと、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を投与することを含む処置の方法を提供する。一態様において、方法は、療法上有効量の化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を投与することを含む。
【0054】
本発明の医薬組成物は、用量あたりまたは1日あたり1g未満の化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の用量レベルで投与されることができる。別の態様において、投与の用量レベルは、用量あたりまたは1日あたり1mgより大きい化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩である。担体材料と組み合わせられて1回用量を生成することができる有効成分の量は、処置される宿主および特定の投与方式に応じて変動するであろう。例えば、ある非限定的な態様において、ヒトへの経口投与を意図された用量単位形態、例えば錠剤またはカプセルは、100mg未満の化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩を適切かつ好都合な量の担体材料と共に含有することができる。別の態様において、投与の用量レベルは、1日あたり1mgの化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩より多い。一態様において、投与される化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の用量は、1~100mgまたは1~50mgまたは10~50mgまたは30~50mgである。他の態様において、投与される化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の用量は、1~20mgまたは5~15mgまたは10~20mgまたは20~30mgである。
【0055】
1日あたりの用量および/もしくは投与頻度(1日1回、1日2回等)または期間あたりの用量および/もしくは投与頻度(1週間に1回、1週間に2回等)は、処置されている対象の特定の臨床状態に基づいて臨床医により個別に設定されることができる。従って、あらゆる特定の対象に関する特定の用量レベルおよび投与頻度は様々な要因、例えば年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄率、薬物の組み合わせおよび療法を受けている特定の疾患の重症度に、それらに限定されることなく、依存し得ることは、理解されるであろう。
【0056】
本発明の別の態様は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の投与によりそれを必要とする対象においてTNF-αの活性を阻害する方法を含む。
本発明の別の態様は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の投与によりそれを必要とする対象においてPDE4を阻害する方法を含む。
【0057】
本発明の別の態様は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の投与によるTNF-αの活性によって媒介される病状または障害の処置のための方法を含む。
本発明の別の態様は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の投与によるPDE4によって媒介される病状または障害の処置のための方法を含む。
【0058】
本発明の別の態様は、化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の投与による炎症性疾患の処置のための方法を含む。炎症性疾患は、非限定的な例として、ウイルス性、アルコール性または薬物誘発性の急性および劇症肝炎、脂肪肝、アルコール性および非アルコール性、ウイルス性および非ウイルス性両方の肝炎、肝硬変、自己免疫性肝炎、慢性活動性肝炎、ウィルソン病、重症筋無力症、特発性スプルー、自己免疫性炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患、内分泌性眼障害、グレーブス病、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、膵炎、腎炎、エンドトキシンショック、敗血症性ショック、血行動態ショック、敗血症症候群、虚血後再灌流障害、マラリア、マイコバクテリア感染、髄膜炎、乾癬、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、好酸球増加症、うっ血性心不全、線維性疾患、嚢胞性線維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、悪液質、移植片拒絶、移植片対宿主病、移植による拒絶、がん、血管新生を伴う疾患、自己免疫疾患、強直性脊椎炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性血液障害、溶血性貧血、再生不良性貧血、赤芽球ろう、特発性血小板減少症、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性軟骨炎、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症、皮膚筋炎、ライター症候群、非感染ぶどう膜炎、自己免疫性角膜炎、乾性角結膜炎、春季角結膜炎、間質性肺線維症、乾癬性関節炎、乾癬および他の良性または悪性の増殖性皮膚疾患、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、神経変性障害、パーキンソン病、アルツハイマー病、急性および慢性の多発性硬化症、がん、ウイルス感染症、例えばSARS、MERSまたはCOVID-19、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、悪液質、血栓症、皮膚炎症性疾患、変形性関節炎(OA)、骨粗鬆症、RA、気腫、慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、放射線損傷、高酸素性肺胞損傷(hyperoxic alveolar injury)、歯周病、非インスリン依存性糖尿病(II型糖尿病)ならびにインスリン依存性糖尿病(若年性またはI型糖尿病)を含み得る。
【0059】
別の態様において、そのような処置は、PDE4の阻害によって媒介される病状に関する。そのような病状は、哺乳類、例えばヒトにおける様々な病状、特に炎症性および/またはアレルギー性疾患、例えば:喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(例えば慢性気管支炎および/または肺気腫)、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、春季結膜炎、好酸球性肉芽腫、乾癬、リウマチ様関節炎、敗血症性ショック、潰瘍性大腸炎、クローン病、心筋および脳の再灌流傷害、慢性糸球体腎炎、エンドトキシンショック、成人呼吸窮迫症候群、多発性硬化症、(例えば神経障害、例えばアルツハイマー病における)認知機能障害、鬱病または痛みを含む。潰瘍性大腸炎および/またはクローン病は、まとめてしばしば炎症性腸疾患と呼ばれる。
【0060】
本発明の一態様において、炎症性および/またはアレルギー性疾患は、哺乳類(例えばヒト)における慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、乾癬またはリウマチ様関節炎である。別の態様において、本発明は、COPD、アトピー性皮膚炎、乾癬、IBDおよびクローン病からなる群から選択される疾患を処置する方法を提供する。
【0061】
本発明の化合物は、他の従来の抗炎症剤または免疫抑制剤、例えばステロイド類、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、非ステロイド系抗炎症薬、TNF-α抗体または他のTNF結合タンパク質、例えばアセチルサリチル酸、ブフェキサマク、ジクロフェナクカリウム、スリンダク、ジクロフェナクナトリウム、ケトロラク・トロメタモール、トルメチン、イブプロフェン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、チアプロフェン酸、フルルビプロフェン、メフェナム酸、ニフルミン酸(nifluminic acid)、メクロフェナメート、インドメタシン、プログルメタシン、ケトプロフェン、ナブメトン、パラセタモール、ピロキシカム、テノキシカム、ニメスリド、フェニルブタゾン、トラマドール、ベクロメタゾンジプロピオネート、ベタメタゾン、ベクラメタゾン、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、インフリキシマブ、レフルノミド、エタネルセプト、メトトレキサート、スルファサラジン、抗リンパ球免疫グロブリン、抗胸腺細胞免疫グロブリン、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス物質、アスコマイシン、ラパマイシン、アダリムマブ、ムロモナブ-CD3またはT細胞の機能を調節する他の抗体もしくは融合タンパク質、例えばアバタセプト、アレファセプトおよびエファリズマブとの組み合わせで投与されることもできる。
【0062】
上記で特筆されたように、本発明の化合物は、単独で、または他の療法剤との組み合わせで利用されることができる。そのような薬学的に有効な薬剤の組み合わせは、一緒に投与されることができ、または別々に投与されることもでき、別々に投与される場合、投与は、同時に行われることができ、またはあらゆる順序で順次行われることもできる。化合物または薬剤の量および投与の相対的なタイミングは、所望される療法的作用を達成するように選択されるであろう。本発明の式の化合物(その塩類を含む)の他の処置剤との組み合わせでの投与は、(1)両方の化合物を含む単一の医薬組成物または(2)それぞれが化合物の一方を含む別々の医薬組成物での同時投与による組み合わせであることができる。あるいは、組み合わせは、順次の様式で別々に投与されることができ、ここで、一方の処置剤がまず投与され、他方の処置剤が2番目に投与され、または逆もまた同様である。そのような順次の投与は、時間的に近いことも時間的に遠いこともできる。本発明の化合物は、様々な障害および病状の処置において用いられることができ、従って本発明の化合物は、それらの障害または病状の処置または予防において有用な様々な他の適切な療法剤との組み合わせで使用されることができる。
【0063】
5.医薬品の製造方法における使用
別の側面において、本発明は、炎症性疾患の処置における使用のための医薬品の製造における化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の使用を提供する。炎症性疾患は、非限定的な例として、ウイルス性、アルコール性または薬物誘発性の急性および劇症肝炎、脂肪肝、アルコール性および非アルコール性、ウイルス性および非ウイルス性両方の肝炎、肝硬変、自己免疫性肝炎、慢性活動性肝炎、ウィルソン病、重症筋無力症、特発性スプルー、自己免疫性炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患、内分泌性眼障害、グレーブス病、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、膵炎、腎炎、エンドトキシンショック、敗血症性ショック、血行動態ショック、敗血症症候群、虚血後再灌流障害、マラリア、マイコバクテリア感染、髄膜炎、乾癬、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、好酸球増加症、うっ血性心不全、線維性疾患、嚢胞性線維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、悪液質、移植片拒絶、移植片対宿主病、移植による拒絶、がん、血管新生を伴う疾患、自己免疫疾患、強直性脊椎炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性血液障害、溶血性貧血、再生不良性貧血、赤芽球ろう、特発性血小板減少症、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性軟骨炎、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症、皮膚筋炎、ライター症候群、非感染ぶどう膜炎、自己免疫性角膜炎、乾性角結膜炎、春季角結膜炎、間質性肺線維症、乾癬性関節炎、乾癬および他の良性または悪性の増殖性皮膚疾患、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、神経変性障害、パーキンソン病、アルツハイマー病、急性および慢性の多発性硬化症、がん、ウイルス感染症、例えばSARS、MERSまたはCOVID-19、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、悪液質、血栓症、皮膚炎症性疾患、変形性関節炎(OA)、骨粗鬆症、RA、気腫、慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、放射線損傷、高酸素性肺胞損傷、歯周病、非インスリン依存性糖尿病(II型糖尿病)ならびにインスリン依存性糖尿病(若年性またはI型糖尿病)を含み得る。
【0064】
別の態様において、本発明は、哺乳類、例えばヒトにおける炎症性および/またはアレルギー性疾患、例えば以下の疾患の処置における使用のための医薬品の製造における化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の使用を提供する:喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(例えば慢性気管支炎および/または肺気腫)、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、春季結膜炎、好酸球性肉芽腫、乾癬、リウマチ様関節炎、敗血症性ショック、潰瘍性大腸炎、クローン病、心筋および脳の再灌流傷害、慢性糸球体腎炎、エンドトキシンショック、成人呼吸窮迫症候群、多発性硬化症、(例えば神経障害、例えばアルツハイマー病におけるような)認知機能障害、鬱病または痛み。潰瘍性大腸炎および/またはクローン病は、まとめてしばしば炎症性腸疾患と呼ばれる。一態様において、炎症性および/またはアレルギー性疾患は、哺乳類(例えばヒト)における慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、リウマチ様関節炎またはアレルギー性鼻炎である。
【0065】
化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩は、医薬品の製造において他の従来の抗炎症剤または免疫抑制剤、例えばステロイド類、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、非ステロイド系抗炎症薬、TNF-α抗体または他のTNF結合タンパク質、例えばアセチルサリチル酸、ブフェキサマク、ジクロフェナクカリウム、スリンダク、ジクロフェナクナトリウム、ケトロラク・トロメタモール、トルメチン、イブプロフェン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、チアプロフェン酸、フルルビプロフェン、メフェナム酸、ニフルミン酸(nifluminic acid)、メクロフェナメート、インドメタシン、プログルメタシン、ケトプロフェン、ナブメトン、パラセタモール、ピロキシカム、テノキシカム、ニメスリド、フェニルブタゾン、トラマドール、ベクロメタゾンジプロピオネート、ベタメタゾン、ベクラメタゾン、ブデソニド、フルチカゾン、モメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、インフリキシマブ、レフルノミド、エタネルセプト、メトトレキサート、スルファサラジン、抗リンパ球免疫グロブリン、抗胸腺細胞免疫グロブリン、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス物質、アスコマイシン、ラパマイシン、アダリムマブ、ムロモナブ-CD3またはT細胞の機能を調節する他の抗体もしくは融合タンパク質、例えばアバタセプト、アレファセプトおよびエファリズマブとの組み合わせで使用されることができる。
【0066】
本発明の別の態様は、それを必要とする対象におけるTNF-αの活性の阻害における使用のための医薬品の製造における化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の使用を含む。
【0067】
本発明の別の態様は、それを必要とする対象におけるPDE4の阻害における使用のための医薬品の製造における化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の使用を含む。
本発明の別の態様は、TNF-αの活性によって媒介される病状または障害の処置における使用のための医薬品の製造における化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の使用を含む。
【0068】
本発明の別の態様は、PDE4によって媒介される病状または障害の処置における使用のための医薬品の製造における化合物Iまたはその薬学的に許容可能な塩の使用を含む。
本明細書は以下の発明の態様を包含する。
[1] 式(I)を有する化合物:
【化6】
またはその薬学的に許容可能な塩。
[2] [1]に記載の化合物であって、該化合物が式(I)の化合物である化合物。
[3] [1]に記載の化合物であって、該化合物が式(I)の化合物の酸塩である化合物。
[4] [3]に記載の化合物であって、該化合物が式(I)の化合物のHCl塩である化合物。
[5] 式(I)の化合物:
【化7】
またはその薬学的に許容可能な塩と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
[6] [5]に記載の医薬組成物であって、式(I)の化合物を含む医薬組成物。
[7] [5]に記載の医薬組成物であって、式(I)の化合物の酸塩を含む医薬組成物。
[8] [7]に記載の医薬組成物であって、式(I)の化合物のHCl塩を含む医薬組成物。
[9] 式(I)の化合物:
【化8】
またはその薬学的に許容可能な塩を投与することを含む対象における炎症性疾患を処置する方法であって、該炎症性疾患が、ウイルス性、アルコール性または薬物誘発性の急性および劇症肝炎、脂肪肝、アルコール性および非アルコール性、ウイルス性および非ウイルス性両方の肝炎、肝硬変、自己免疫性肝炎、慢性活動性肝炎、ウィルソン病、重症筋無力症、特発性スプルー、自己免疫性炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患、内分泌性眼障害、グレーブス病、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、膵炎、腎炎、エンドトキシンショック、敗血症性ショック、血行動態ショック、敗血症症候群、虚血後再灌流障害、マラリア、マイコバクテリア感染、髄膜炎、乾癬、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、好酸球増加症、うっ血性心不全、線維性疾患、嚢胞性線維症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、悪液質、移植片拒絶、移植片対宿主病、移植による拒絶、がん、血管新生を伴う疾患、自己免疫疾患、強直性脊椎炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性血液障害、溶血性貧血、再生不良性貧血、赤芽球ろう、特発性血小板減少症、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性軟骨炎、強皮症、ウェゲナー肉芽腫症、皮膚筋炎、ライター症候群、非感染ぶどう膜炎、自己免疫性角膜炎、乾性角結膜炎、春季角結膜炎、間質性肺線維症、乾癬性関節炎、乾癬および他の良性または悪性の増殖性皮膚疾患、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、神経変性障害、パーキンソン病、アルツハイマー病、急性および慢性の多発性硬化症、がん、ウイルス感染症、例えばSARS、MERSまたはCOVID-19、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、悪液質、血栓症、皮膚炎症性疾患、変形性関節炎(OA)、骨粗鬆症、RA、気腫、慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、放射線損傷、高酸素性肺胞損傷、歯周病、非インスリン依存性糖尿病(II型糖尿病)ならびにインスリン依存性糖尿病(若年性またはI型糖尿病)からなる群から選択される方法。
[10] 式(I)の化合物:
【化9】
またはその薬学的に許容可能な塩を投与することを含む対象における疾患を処置する方法であって、該疾患が、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(例えば慢性気管支炎および/または肺気腫)、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、春季結膜炎、好酸球性肉芽腫、乾癬、リウマチ様関節炎、敗血症性ショック、潰瘍性大腸炎、クローン病、心筋および脳の再灌流傷害、慢性糸球体腎炎、エンドトキシンショック、成人呼吸窮迫症候群、多発性硬化症、(例えば神経障害、例えばアルツハイマー病における)認知機能障害、鬱病または痛みからなる群から選択される方法。
[11] [10]に記載の方法であって、該疾患が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、乾癬またはリウマチ様関節炎である方法。
[12] 式(I)の化合物またはその塩:
【化10】
を合成するための方法であって、化合物:
【化11】
を加水分解することを含み、式中、R
1
は、場合によりハロゲンで1~3回置換された(C1~C6)アルキルである方法。
[13] [12]に記載の方法であって、R
1
が、メチルまたはtert-ブチルである方法。
[14] 式(I)の化合物:
【化12】
の薬学的に許容可能な酸塩を合成するための方法であって、式(I)の化合物を適切な溶媒中で薬学的に許容可能な酸と反応させることを含む方法。
[15] [14]に記載の方法であって、該薬学的に許容可能な酸が塩酸である方法。
[16] 下式の化合物:
【化13】
であって、R
1
が場合によりハロゲンで1~3回置換された(C1~C6)アルキルである化合物。
【実施例】
【0069】
化合物IおよびそのHCl塩の合成
工程1:
40mLの反応バイアルに、エチル-4-クロロ-8-メトキシキノリン-3-カルボキシレート(1.25g、4.7mmol)、m-クロロアニリン(0.69g、5.4mmol、1.15当量)、1-ブタノール(10mL)および酢酸(0.3mL)を充填した。混合物を95℃で5時間撹拌し、IPC LCMSは、反応が完了したことを示した。1-ブタノールを真空下で除去し、混合物を酢酸エチル(75mL)で希釈した。有機層を飽和重炭酸ナトリウム水溶液(25mL)で洗浄し、濃縮して乾燥させた。残留物をDCM/酢酸エチル(1:0~1:1)で溶出させるフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製すると、エステル中間体であるエチル 4-(3-クロロアニリノ)-8-メトキシ-キノリン-3-カルボキシレート(1.05g)が得られた。収率62%。LCMS m/e 357.1 (M+1)+; 1H NMR, 300 MHz (CDCl3) δ 1.45 (t, 3H), 4.08 (s, 3H), 4.44 (q, 2H), 6.84 (br d, 1H), 6.99 (t, 1H), 7.04 (dd, 1H), 7.05 (d, 1H), 7.16 (t, 1H), 7.20 s, 1H), 7.22 (dd, 1H), 9.29 (s, 1H) , 10.25 (s, 1H) ppm。
【0070】
工程2:
250mL丸底フラスコに、工程1からのエステル(1.05g、2.94mmol)、THF/MeOH(40mL、1:1)、4N水性NaOH(3mL、12.0mmol)および水(17mL)を充填した。反応を60℃で1.0時間撹拌し、IPC LCMSは、反応が完了したことを示した。混合物を濃縮して乾燥させ、2N HCl(8mL)で酸性化し、水(50mL)で希釈した。スラリーを濾過し、湿ったケーキを水で洗浄した。固体を18時間乾燥させ、工程2の酸である4-(3-クロロアニリノ)-8-メトキシ-キノリン-3-カルボン酸(0.77g)を得た(収率79%)。注:NMRおよびLCMS分析のために37%HClを1滴添加した。
【0071】
LCMS m/e 329.0 (M+1)+; 1H NMR, 300 MHz (d6-DMSO) δ 4.10 (s, 3H), 7.34 (m, 1H), 7.40 (m, 1H), 7.45 (d, 1H), 7.52 (m, 1H), 7.76 (m, 1H), 7.77 (s, 1H), 7.78 (dd, 1H), 8.80 (s, 1H) , 11.78 (s, 1H) ppm (COOHのプロトンは見えない)。
【0072】
工程3:
40mLの反応バイアルに、工程2からの酸(0.73g、2.22mmol)、EDC-HCl(0.64 g、3.33mmol、1.5当量)、HOBt(0.45g、3.33mmol、1.5当量)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.41g、3.33mmol、1.5当量)および無水DMF(9mL)を充填した。スラリーを25℃で30分間撹拌し、tert-ブチル トランス-4-アミノシクロヘキサン-1-カルボキシレート(0.84g、4.21mmol、1.9当量)を添加した。混合物を25℃で3時間撹拌した。3時間後のLCMSによるIPC分析は、16%の変換を示した。混合物を37℃で24時間撹拌した。IPC分析が97%の変換を示した後、反応を酢酸エチル(75mL)で希釈し、ブライン(3×25mL)で洗浄した。有機層を濃縮して乾燥させた。残留物を酢酸エチル/メタノール(100/0~100/10)で溶出させるシリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製すると、下記で示されるアミド1(0.96g)が得られた。収率84%。
【0073】
LCMS m/e 510.2 (M)+; 1H NMR, 300 MHz (CDCl3) δ 1.24 (m, 2H), 1.34 (m, 2H) 1.44 (s, 9H), 1.57 (m, 3H), 2.05 (br d, 1H), 2.17 (m, 1H), 3.97 (m, 1H), 4.08 (s, 3H), 6.13 (br d, 1H), 6.80 (d, 1H), 6.89 (t, 1H), 7.02 (m, 2H), 7.14 (t, 1H), 7.25 (m, 2H), 8.84 (s, 1H) , 10.14 (s, 1H) ppm。
【0074】
【0075】
工程4:
40mLの反応バイアルに、工程3からのアミド1(510mg、1.0mmol)、4-ニトロフェニル クロロホルメート(605mg、3.0mmol、3.0当量)、DMAP(489mg、4.0mmol、4.0当量)およびNMP(5mL)を充填した。混合物を95℃で18時間撹拌し、18時間後のIPC LCMSは、90%の変換を示した。反応混合物を酢酸エチル(75mL)で希釈し、水(35mL)およびブライン(2×35mL)で洗浄した。有機層を濃縮して乾燥させた。残留物をヘプタン/酢酸エチル(3:1~1:1)で溶出させるシリカゲル上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製すると、下記で示される環状尿素1(350mg)が得られた。収率65.3%。
【0076】
LCMS m/e 536.2 (M)+; 1H NMR, 300 MHz (CDCl3) δ 1.45 (s, 9H), 1.56 (qd, 2H), 1.83 ( br d, 2H), 2.10 (br d, 2H), 2.25 (tt, 1H), 2.54 (qd, 2H), 4.07 (s, 3H), 4.92 (tt, 1H), 6.48 (dd, 1H), 7.06 (dd, 1H) 7.10 (t, 1H), 7.24 (dd, 1H), 7.39 (t, 1H), 7.50 (t, 1H), 7.54 (ddd, 1H), 9.54 (s, 1H) ppm。
【0077】
【0078】
工程5:
40mLの反応バイアルに、前の工程からの環状尿素1(350mg)、AcOH(20mL)および6N HCl(10mL)を入れた。反応を20℃で18時間撹拌し、18時間の時点でのIPC LCMSは、反応が完了したことを示した。反応を水(20mL)およびDCM(75mL)で希釈し、層を分離した。有機層を濃縮して乾燥させた。残留物を酢酸エチル(25mL)でスラリー化した。スラリーを濾過した。収集した固体をヘプタンで洗浄し、真空オーブン中で窒素の流れの下で24時間乾燥させると、220mgの化合物Iが得られた(収率70%)。
【0079】
LCMS m/e 480.1 (M+1)+;
1H NMR, 300 MHz (CDCl3) δ 1.64 (dt, 2H), 1.88 ( br d, 2H), 2.20 (br d, 2H), 2.42 (tt, 1H), 2.58 (dt, 2H), 4.07 (s, 3H), 4.95 (br t, 1H), 6.48 (dd, 1H), 7.07 (dd, 1H), 7.11 (t, 1H), 7.26 (m, 1H), 7.40 (t, 1H), 7.48 (t, 1H) 7.54 (d, 1H), 9.55 (s, 1H) ppm (COOHおよびHClのプロトンは見えない)。
【0080】
1H NMR, 300 MHz (d6-DMSO) δ 1.44 (br dd, 2H), 1.79 ( br d, 2H), 2.04 (br d, 2H), 2.20 (br t, 1H) 2.40 (br dd, 2H), 3.96 ( s, 3H), 4.1 (br, 水および/またはHClおよび/またはCOOH), 4.74 (br tt, 1H), 6.37 (d, 1H), 7.20 (t, 1H), 7.27 (d, 1H), 7.52 (dt, 1H), 7.61 (t, 1H), 7.67 (見かけのs, 1H), 7.68 (見かけのd, 1H), 9.27 (s, 1H) ppm。
【0081】
PDE4阻害アッセイ
BPS BioSciences(商標)からのPDE4B2蛍光偏光アッセイキット(カタログ番号60343)およびPDE4D7 TR-FRETアッセイキット(カタログ番号60708)を用いてPDE4B2およびPDE4D7酵素の阻害に関して化合物IのHCl塩をスクリーニングした。
【0082】
BPS BioSciencesの製品情報によると、PDE4B2蛍光偏光アッセイキットのアッセイは、PDE4B2により生成される蛍光ヌクレオチド一リン酸の結合剤への結合に基づいている。ホスホジエステラーゼは、色素標識された環状モノホスフェートにおけるホスホジエステル結合の加水分解を触媒する。ビーズは、ヌクレオチド生成物中のホスフェート基に選択的に結合する。これは、未反応の環状モノホスフェートと比較してヌクレオチドの大きさを増大させる。偏光アッセイでは、直線偏光した励起光に平行な吸収遷移ベクトルを有する色素分子が、選択的に励起される。急速に回転する環状モノホスフェートに結合した色素は、ランダムな配向を得て低い偏光を有する光を発するであろう。遅く回転するヌクレオチド-ビーズ複合体に結合した色素は、再配向する時間がないと考えられ、従って高く偏光した光を発するであろう。
【0083】
BPS Biosciencesの製品情報によると、PDE4D7 TR-FRETアッセイは、TR-FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー移動)技術を用いるPDE4D7の阻害剤の同定のために設計されている。そのアッセイは,ホスホジエステラーゼによるFAM標識されたヌクレオチド一リン酸の生成に基づいている。これらのホスフェート基がテルビウム標識されたナノ粒子に結合し、結果としてテルビウムからFAMへのエネルギー移動をもたらし、それは、520nmにおいて蛍光シグナルを発する。蛍光強度における変化は、蛍光プレートリーダーを使用して容易に測定され得る。
【0084】
PDE4B2蛍光偏光アッセイ
下記の実験データを得るために使用されたPDE4B2蛍光偏光アッセイに関する一般的なアッセイプロトコルは、2つの工程を含む:まず、蛍光標識されたcAMPがPDE4B2を含有する試料と共に1時間インキュベートされる。次に、結合剤が反応混合物に添加されて蛍光偏光における変化を生じさせ、次いでそれは、蛍光偏光の測定のために装備された蛍光リーダーを用いて測定されることができる。詳細なプロトコルは、以下の通りである:
工程1:20μM FAM-環状-3’,5’-AMPストックをPDE緩衝液で100倍希釈し、200nMの溶液を作る。アッセイに必要とされる十分な量のみを作り;残りの20μMストック溶液を分割量に分けて-20℃において保管する。25μlのFAM-環状-3’,5’-AMP(200nM)を、“陽性対照”、“試験阻害剤”および“基質対照”と指定された各ウェルに添加する。20μlのPDEアッセイ緩衝液を“基質対照”と指定された各ウェルに添加し、45μlのPDEアッセイ緩衝液を“ブランク”と指定された各ウェルに添加する。5μlの阻害剤溶液を“試験阻害剤”と指定された各ウェルに添加する。“陽性対照”、“基質対照”および“ブランク”とラベルを貼られたウェルに関して、阻害剤を含まない同じ溶液(阻害剤緩衝液)5μlを添加する。PDE4B2を氷上で解凍する。最初に解凍した際に、チューブの全内容物を回収するために酵素を収容しているチューブを短時間遠心分離する。PDE4B2酵素を単回使用の分割量に分注する。残りの未希釈の酵素を分割量に分けてすぐに-70℃で保管する。注:PDE4B2は、凍結/融解サイクルの影響を非常に受けやすい。PDE4B2をPDE緩衝液中で7.5pg/μl(0.15ng/反応)に希釈する*。20μlのPDE4B2(7.5pg/μl)を“陽性対照”および“試験阻害剤”と指定されたウェルに添加することにより反応を開始する。*注:最適な酵素濃度は、酵素の特異的な活性によって異なり得る。室温で1時間インキュベートする。
【0085】
工程2:結合剤を完全に混合し、結合剤を結合剤希釈液で1:100に希釈する。100μlの希釈された結合剤を各マイクロウェルに添加する。室温でゆっくりと振盪しながら1時間インキュベートする。485±5nmの範囲の波長での励起および528±10nmの範囲の放出光の検出が可能である蛍光偏光の測定のために装備されたマイクロタイタープレートリーダーにおいて試料の蛍光偏光を読み取る。ブランクの値が全ての他の値から差し引かれる。
【0086】
PDE4D7 TR-FRETアッセイ
下記の実験データを得るために使用されたPDE4D7 TR-FRETアッセイに関する一般的なアッセイプロトコルは、2つの工程を含む:まず、蛍光標識されたcAMPをPDE4D7を含有する試料と共に1時間インキュベートする。次に、結合剤およびテルビウム供与体を反応混合物に添加し、1時間インキュベートする。次いで、蛍光リーダーを用いて蛍光強度を測定することができる。詳細なプロトコルは、以下の通りである。
【0087】
工程1:20μM FAM-環状-3’,5’-AMP基質ストック溶液をPDE緩衝液で100倍希釈し、200nM溶液を作製する。アッセイに必要とされる十分な量のみを作り;残りのストック溶液を分割量に分けて-20℃において保管する。25μlのFAM-環状-3’,5’-AMP(200nM)を、“基質対照”、“陽性対照”および“試験阻害剤”と指定された各ウェルに添加する。25μlのPDEアッセイ緩衝液を“Tbのみの対照”と指定された各ウェルに添加する。5μlの阻害剤溶液を“試験阻害剤”と指定された各ウェルに添加する。阻害剤を含まない同じ溶液(阻害剤緩衝液)5μlを“Tbのみの対照”、“基質対照”および“陽性対照”に添加する。PDE4D7を氷上で解凍する。最初に解凍した際に、チューブの全内容物を回収するために酵素を収容しているチューブを短時間遠心分離する。PDE4D7酵素を単回使用の分割量に分注する。残りの未希釈の酵素を分割量に分けてすぐに-80℃で保管する。PDE4D7をPDE緩衝液中で5pg/μl(100pg/反応)となるようにPDE緩衝液中で希釈する*。20μlのPDEアッセイ緩衝液を“Tbのみの対照”および“基質対照”と指定されたウェルに添加する。20μlのPDE4D7(5pg/μl)を“陽性対照”および“試験阻害剤”に指定されたウェルに添加することにより反応を開始する。*注:最適な酵素濃度は、酵素の特異的な活性によって異なり得る。
【0088】
工程2:等量の結合緩衝液Aおよび結合緩衝液Bを混合することにより結合希釈緩衝液を作製する。例えば、1mlの結合緩衝液Aを1mlの結合緩衝液Bと混合する。結合剤を完全に混合し、結合剤を工程1で作製した結合希釈緩衝液で1:50に希釈する。Tb供与体(1:1000希釈)を工程2における混合物に添加する。100μlを各ウェルに添加する。室温でゆっくりと振盪しながら1時間インキュベートする。TR-FRETが可能なマイクロタイタープレートリーダーにおいて蛍光強度を読み取る。
【0089】
下記のデータは、化合物I*HClの様々なバッチで上記のスクリーニング手順を用いて得られた。PDE4の既知の阻害剤であるアプレミラストも使用し、スクリーニングした。
【0090】