(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】表面処理方法及び表面処理用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20220907BHJP
B82B 1/00 20060101ALI20220907BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20220907BHJP
B24B 29/00 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
B82B1/00 ZNM
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
B24B29/00 N
(21)【出願番号】P 2019525282
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2018020546
(87)【国際公開番号】W WO2018230328
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2017117664
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】桐野 学
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-166957(JP,A)
【文献】特開2016-117829(JP,A)
【文献】特表2013-536302(JP,A)
【文献】特開2010-013523(JP,A)
【文献】特開2010-121021(JP,A)
【文献】特開2005-023171(JP,A)
【文献】特開2003-206478(JP,A)
【文献】特開平07-048560(JP,A)
【文献】特開平07-252454(JP,A)
【文献】Poly[oxy(methoxymethylsilylene)],a-(dimethoxymethylsilyl)-w-[(dimethoxymethylsilyl)oxy]-,2018年07月10日,https://www.guidechem.com/dictionary/jp/172682-46-1.html,インターネット<URL:https://www.guidechem.com/dictionary/jp/172682-46-1.html>、全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09K 3/18
B05D 3/12
B24B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に対し研磨及び被膜形成処理を行う方法であって、
(A)反応性基を有する高分子有機シランと、
(B)反応触媒と、
(C)平均一次粒径が0.1~10,000nmの研磨粒子と、
(D)C9アルキルシクロヘキサンと、
を含んでなる表面処理用組成物
(ただし、両末端にシラノール基を有する直鎖状変性ポリジメチルシロキサンを含むものを除く)を用い、ポリッシャを用いて施工を行う、表面処理方法。
【請求項2】
前記(A)1質量部に対し、
(B)の含有量が0.001~0.5質量部であり、
(C)の含有量が0.01~1.0質量部である、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記(A)が、反応性基を有するオルガノポリシロキサンである、請求項1または2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記(A)1質量部に対し、
前記(D
)を0.1~100質量部の範囲で含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記(D)の含有量が、前記(A)1質量部に対し1.0~10質量部の範囲にある、請求項4に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記(A)の反応性基が、加水分解重合性反応基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記(C)の平均一次粒径が0.1~2
,000nmの範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項8】
前記(C)の平均一次粒径が1~150nmの範囲である、請求項1~7のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記(C)が、無機化合物を含む研磨粒子である、請求項1~8のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項10】
前記(C)が、表面が疎水処理されたシリカ粒子を含む研磨粒子である、請求項1~9のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項11】
前記(C)が、カオリンおよび炭酸カルシウムから選ばれる1種以上を含む無機化合物の研磨粒子を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項12】
前記ポリッシャを用いて施工を行う表面が、予め塗装されてなる被塗装表面である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項13】
前記予め塗装されてなる被塗装表面が、自動車の車体外装に用いられている被塗装鋼板表面および/または被塗装樹脂部材表面である、請求項
12に記載の表面処理方法。
【請求項14】
前記ポリッシャが、回転式ポリッシャであ
り、
前記回転式ポリッシャが、シングルアクション、またはダブルアクションの回転式ポリッシャである、請求項1~
13のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項15】
前記施工が、マイクロファイバー製の当接部材を備えたポリッシャを用いるものである、請求項1~14のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項16】
(A)反応性基を有する高分子有機シランと、
(B)反応触媒と、
(C)平均一次粒径が0.1~10,000nmの無機化合物からなる研磨粒子と、
(D)C9アルキルシクロヘキサンと、
を含んでなる、ポリッシャ施工用の表面処理用組成物
(ただし、両末端にシラノール基を有する直鎖状変性ポリジメチルシロキサンを含むものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性の高分子有機シランを含んでなる組成物を用いた表面処理方法に関するものである。より詳しくは、金属鋼材、合成樹脂材、ガラス、セラミック等の基材、例えば自動車や電車等の車輌車体や窓及び後写鏡、道路や橋脚等の建築構造部材、家屋やビル等建造物の壁面や窓及び天面、住設部材等、特に表面が塗装された基材に対し、ポリッシャを用いた施工により美観を向上することができると同時に、優れた耐久性を有する被膜を同時に形成することで、汚れや損傷から保護することができる表面処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車体の塗装鋼板等に対して、美観向上及び保護を目的として固形、半固形または液状の硬化性組成物を塗布、施工することが行われてきた。このような硬化性組成物として例えば、湿気硬化性オルガノポリシロキサンと有機溶剤と硬化触媒に、揮発性オルガノポリシロキサンオイル及び揮発性ジメチルポリシロキサンを添加した組成物(特開2006-45507号公報)や、高粘度のシリコーンガムを添加した組成物(特開2013-194058号公報)が知られている。しかしながら、これら組成物による塗膜は、非反応性のオルガノポリシロキサンオイル成分が経時で揮発散逸したり雨等の影響で流出してしまうため、長期にわたり撥水性を発揮することが困難であった。
【0003】
前記問題を解決するために、湿気硬化性オルガノポリシロキサン、有機溶剤、硬化触媒、分子中に反応性官能基を有するシリコーンオイルとから成る組成物が種々提案されている。特開2008-75021号公報には、分子鎖両末端にカルビノール基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基(シラノール基)等から選ばれる反応性基を有する反応性シリコーンオイルを用いるものが開示されており、また特開2006-45507号公報、特開2007-161989号公報等には分子鎖の末端にアルコキシシリル基を有する低粘度の反応性オルガノポリシロキサンを、アルコール系の溶剤やパラフィン系の溶剤、芳香族系の溶剤、エステル系の溶剤、グリコール系の溶剤等に希釈してなるものが開示されている。さらに特開2010-31074号公報には、分子の側鎖にカルビノール基やアミノ基を有する反応性シリコーンオイルを用いるものが提案されており、国際公開第96/000758号(米国特許第6,000,339号明細書に相当)にはフッ素含有のアルコキシシランを含んでなるものが提案されている。特開2009-138063号公報、特開2009-138062号公報、特開2013-166957号公報、特開2010-202717号公報等には、分子鎖末端にアルコキシシリル基を有する反応性オルガノポリシロキサンを、多量のイソパラフィン系溶剤や灯油等の溶剤で希釈してなるものが開示されている。特開2012-241093号公報(米国特許出願公開第2014/065396号明細書に相当)には、反応性オルガノポリシロキサンを、高沸点のイソパラフィン系溶剤で希釈してなるものが開示されている。
【0004】
一方で特開2010-163553号公報、特開2015-059187号公報には、シリコーンレジンやシリコーンエラストマー等の樹脂成分を水中に分散または混和してなる、ポリッシャによる施工に適した研磨用の組成物が開示されている。特開2002-47455号公報には、縮合性反応基を有するシリコーン等を含んでなる組成物及びポリッシャ等の機械式連続施工装置を用いた車体表面処理方法が開示されている。ポリッシャによる表面処理は基本的に、車体表面を研磨することにより、表面を平滑に均し、その美観を向上させるというものである。
【発明の開示】
【0005】
特開平10-36771号公報、特開2013-194058号公報、特開2008-75021号公報、特開2006-45507号公報、特開2007-161989号公報、特開2010-31074号公報、国際公開第96/000758号、特開2009-138063号公報、特開2009-138062号公報、特開2013-166957号公報、特開2010-202717号公報および特開2012-241093号公報に開示されている組成物はいずれも、金属等からなる基材表面の保護を行うことができるが、太陽光や風雨、その他各種要因で劣化した基材表面の美観を改善できるようなものでは無く、あくまで施工した時点での状態の塗膜に光沢を付与し維持するに過ぎないものである。またこれらの組成物をムラなく施工するためには、水拭きや別途拭き上げのための液剤を必要とするものであり、乾拭きのみで施工しようとするとスムーズに拭き取ることができず塗膜にムラが生じる等の問題があり、塗布時の施工性に難があるものであった。他方で、特開2010-163553号公報、特開2015-059187号公報および特開2002-47455号公報に記載の技術によるポリッシュ処理では、車体表面を研磨することによる美観向上作用に主眼をおいており、例えば、特開2010-163553号公報および特開2015-059187号公報に記載の組成物は施工後に強固な塗膜形成に寄与できる反応性のシリコーンオリゴマーを含んでいない。特開2002-47455号公報に記載の組成物は、縮合反応性基を有するシリコーンを含有しているものの硬化触媒を含んでいないため、無触媒条件の下ではシリコーン間での架橋は殆ど行われず、十分に耐久性のある塗膜の形成が困難である。そのため、特開2010-163553号公報、特開2015-059187号公報および特開2002-47455号公報に記載の技術によるポリッシュ処理では、いずれも長期間機能する塗膜を形成するには別途耐久性被膜を施工する必要が有った。
【0006】
斯様に、従来の被膜形成性の硬化性組成物では、簡易な施工方法で美観と耐久性を両立できるコーティング被膜の形成が困難であったところ、本発明ではこれらを実現するため鋭意検討した結果、以下の方法によりこれを達成するに至った。すなわち、本発明の一形態による表面処理方法は、
(A)反応性基を有する高分子有機シランと、
(B)反応触媒と、
(C)平均一次粒径が0.1~10,000nmの研磨粒子と、
を含んでなる表面処理用組成物を用い、ポリッシャを用いて施工を行う表面処理方法である。
【0007】
また本発明は以下の実施態様も含む。
【0008】
第二の実施態様は、前記(A)1質量部に対し、
(B)の含有量が0.001~0.5質量部であり、
(C)の含有量が0.01~1.0質量部である、前記の表面処理方法である。
【0009】
第三の実施態様は、前記(A)が反応性基を有するオルガノポリシロキサンである、前記の表面処理方法である。
【0010】
第四の実施態様は、前記(A)1質量部に対し、さらに(D)実質的に水を含まない有機溶剤を0.1~100質量部の範囲で含む、前記の表面処理方法である。
【0011】
第五の実施態様は、前記(D)の含有量が、前記(A)1質量部に対し1.0~10質量部の範囲にある、前記の表面処理方法である。
【0012】
第六の実施態様は、前記(A)の反応性基が加水分解重合性反応基である、前記の表面処理方法である。
【0013】
第七の実施態様は、前記(C)の平均一次粒径が0.1~200nmの範囲である、前記の表面処理方法である。
【0014】
第八の実施態様は、前記(C)の平均一次粒径が1~150nmの範囲である、前記の表面処理方法である。
【0015】
第九の実施態様は、前記(C)が、無機化合物を含む研磨粒子である、前記の表面処理方法である。
【0016】
第十の実施態様は、前記(C)が、表面が疎水処理されたシリカ粒子を含む研磨粒子である、前記の表面処理方法である。
【0017】
第十一の実施態様は、前記ポリッシャを用いて施工を行う表面が、予め塗装されてなる被塗装表面である、前記の表面処理方法である。
【0018】
第十二の実施態様は、前記予め塗装されてなる被塗装表面が、自動車の車体外装に用いられている被塗装鋼板表面および/または被塗装樹脂部材表面である、前記の表面処理方法である。
【0019】
第十三の実施態様は、前記ポリッシャが、回転式ポリッシャである、前記の表面処理方法である。
【0020】
第十四の実施態様は、前記ポリッシャが、シングルアクション、またはダブルアクションの回転式ポリッシャである、前記の表面処理方法である。
【0021】
第十五の実施態様は、前記施工が、マイクロファイバー製の当接部材を備えたポリッシャを用いるものである、前記の表面処理方法である。
【0022】
第十六の実施態様は、
(A)反応性基を有する高分子有機シランと、
(B)反応触媒と、
(C)平均一次粒径が0.1~10,000nmの研磨粒子と、
を含んでなる、ポリッシャ施工用の表面処理用組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例にて評価を行った、自動車車体表面塗装部の試験前の状態(a)と、実施例14により試験を行った後の状態(b)を比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る表面処理方法は、基材表面に対し研磨及び被膜形成処理を行う方法であって、(A)反応性基を有する高分子有機シランと、(B)反応触媒と、(C)平均一次粒径が0.1~10,000nmの研磨粒子と、を含んでなる表面処理用組成物を用い、ポリッシャを用いて施工を行うものである。また、本発明のポリッシャ施工用の表面処理用組成物は、前記(A)~前記(C)を含むものである。上記構成を有する本発明の表面処理方法および当該方法に用いられる表面処理用組成物は、自動車の車体等に用いられている基材表面、特に塗装が施された基材表面に対して、ポリッシュによる施工という、作業者の技能依存が小さく簡便な手法で、美観と耐久性が共に優れた被膜の形成することができる。
【0025】
以下より本発明の詳細について説明する。
【0026】
<(A)反応性基を有する高分子有機シラン>
本発明で用いる表面処理用組成物に含まれる成分(A)は、反応性基を有する高分子有機シランである。当該成分は、本発明の表面処理により形成される硬化被膜において、耐久性を有する被膜の主成分となるものである。ここで高分子有機シランとは、ポリシラザンのように-SiR1R2-NR3-単位による主骨格を有する高分子化合物や、オルガノポリシロキサンのようにシロキサン結合による主骨格を有する高分子化合物等、高分子主鎖骨格中に有機基とSiとを有する化合物を意味し、分子量が概ね500以上のものを指す。なかでも、硬化特性が制御しやすく、ポリッシャ施工のしやすさの観点から、反応性基を有するオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0027】
前記反応性基としては、前記成分(A)の化合物間で架橋することにより硬化に寄与できる官能基、または基材表面上の反応点と反応することによって耐久性を有する被膜の形成に寄与できる官能基であれば特段の制限はない。当該反応性基としては、例えば、加水分解重合性反応基や、ヒドロシリル基及びアルケニル基等の付加重合性反応基、アクリロイル基等のラジカル重合性反応基、エポキシ基等の官能基を選択することができる。本発明においては、常温環境下で施工処理を行うことにより基材表面上で耐久性と光沢の優れた被膜を形成できることから、加水分解重合性反応基が特に好ましい。当該反応性基としては、例えば、ケイ素原子に結合した以下の官能基:アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、メタクリロイル基、アクリロイル基、カルビノール基、カルボキシル基、アルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミド基、アセトキシ基から選ぶことができ、施工環境での硬化塗膜の形成のしやすさの観点から、好適にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フェノキシ基から選ばれるアルコキシ基であり、さらに好適にはメトキシ基、フェノキシ基から選ばれるアルコキシ基である。また前記成分(A)の化合物中には反応性を有さない以下の官能基:メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、フェニル基から選ばれる有機基を有していてもよく、高硬度で撥水性の高い塗膜を形成しやすいといった観点から、より好適にはメチル基、エチル基、フェニル基から選ばれる有機基を有することが望ましい。前記加水分解重合性反応基を分子鎖の末端または側鎖に合計2つ以上有し、その他の官能基として上記の反応性を有さない有機基を有した重合体は、系中に存在する後述の成分(B)の反応触媒の作用によって縮合反応を行い、分子間での架橋または基材表面の反応点との反応により被膜を形成し、耐久性に優れたコーティングを基材表面に施すことができる。
【0028】
本発明における前記成分(A)の高分子有機シランとして典型的には、ポリシラザンまたはオルガノポリシロキサンである。本発明で用いることのできる前記ポリシラザンには特段の制約はなく、分子内に-(SiR1R2-NR3)-の繰り返し構造を有する化合物で、鎖状、環状、或いは分子間で架橋した構造のもの等を適宜選択して用いることができる。ここで上記式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、水素原子および置換基を有しても良い炭化水素基から選ばれる有機基であって、好ましくは水素原子および置換基を有しても良い炭素数が1~6の炭化水素基から選ばれる有機基であり、より好適には水素原子および炭素数が1~4の脂肪族炭化水素基から選ばれる有機基である。ここで、上記式中R1、R2及びR3が全て水素原子であるものは一般に無機ポリシラザンまたはペルヒドロポリシラザンといい、R1、R2及びR3のいずれかに有機基を含むものを一般に有機ポリシラザンまたはオルガノポリシラザンという。本発明では有機ポリシラザン、無機ポリシラザンともに用いることができ、これらを混合して用いても構わず、硬化物に求められる特性に応じて適宜選択することができる。例えば硬化物にある程度高い硬度が求められる場合は無機ポリシラザンを多量に含む組成とし、可撓性が求められる場合には有機ポリシラザンを多量に含む組成とする等、幅広い組成での調製を行うことができる。またポリシラザンの変性物である、R1及びR2の一部が金属原子で置換された化合物のポリメタロシラザンを用いても良い。
【0029】
ポリシラザンは、空気中の水分と接触することによりゾル-ゲル反応を起こしてポリシロキサンとなることが知られている。当該ポリシロキサン層が被着体上で形成されることにより、耐水性、耐油性、耐衝撃性等に優れた被膜の主成分となる。このとき、分子内の窒素が脱離してアンモニアが生成され、これが触媒となって更に反応が促進される。当該反応は、Si-N結合がSi-O結合へと変化するものであり、アルコキシシラン分子間の架橋のように、脱離基が生成して原子間距離が縮まることに起因する硬化収縮が殆ど生じないことが特長である。よって、ゾル-ゲル反応によるポリシロキサン被膜形成の欠点であるクラック発生を低減できるため、凹凸のある基材に対しても追従性に優れた被膜を形成できるものである。
【0030】
前記ポリシラザンの市販品として、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製のアクアミカ(登録商標)NN110、NN120-10、NN120-20、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL120-20、NL150A、NP110、NP140-01、NP140-02、NP140-03、SP140、KiON(登録商標) HTT1880、KiON(登録商標) HTA1500 rapid cure、KiON(登録商標) HTA1500 slow cure、tutoProm(登録商標) matt HD、tutoProm(登録商標) bright G、CAG 37、tutoProm(登録商標) bright、及び前記AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社の事業を継承したメルク株式会社製のDurazane(登録商標)1500Rapid Cure、Durazane1(登録商標)500Slow Cure、Durazane(登録商標)1800、NAX120、NL120A、NN120等の周知の材料を本発明では使用することができ、これらは単独で用いても複数種を併用しても構わない。
【0031】
本発明で用いることのできる前記オルガノポリシロキサンには特段の制約はなく、Si-Oの骨格構造である重合体中に反応性基を有する構造の化合物、好ましくは当該反応性基を合計2個以上有する構造の化合物であれば、必要な特性に合わせた材料を適宜選択することができる。当該化合物として例えば、分子鎖の末端または側鎖に反応性基を合計2個以上有する鎖状重合体の、所謂反応性シリコーンオイルや、分子内に三次元網目構造を有し、反応性基を多数有する重合体の所謂反応性シリコーンオリゴマー、さらに大きな重合度と複雑な網目構造を有する重合体の所謂反応性シリコーンレジン等が該当し、必要な特性に応じてこれらを組み合わせて用いることができる。
【0032】
前記反応性シリコーンオイルを単独で硬化被膜形成成分として用いる場合の典型としては、シロキサン骨格の直鎖分子末端または側鎖に前記反応性基を合計2個以上有し、その他のケイ素原子上の官能基として前記非反応性の有機基が結合した構造の重合体である。硬化被膜形成成分として反応性シリコーンオイルをシリコーンオリゴマーやシリコーンレジンと混合して用いる場合には、前記の構造に制限されず、例えば分子中に存在する反応性基が1個のものであってもよい。当該化合物の市販品としては、信越化学工業株式会社製のX-22-161A、X-22-161B、X-22-162C、X-22-163A、X-22-163B、X-22-164A、X-22-164B、X-22-167B、X-22-167C、X-22-169B、KF-8012、KF-8008、KF-6000、KF-6001、X-21-5841、KF-9701等、東レ・ダウコーニング株式会社製のBY16-750、BY16-201、BY16-853U、BY16-873、SF8427、FZ-3736、FZ-3704等、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のYF3800、XF3905、YF3057、YF3807、YF3802、YF3897、XC96-723等を選択することができる。
【0033】
前記反応性シリコーンオリゴマー及び反応性シリコーンレジンとして典型的には、三次元網目構造を有するシロキサン骨格の重合体中のSi上に前記の反応性基を1個以上有し、その他のSi上の官能基として前記非反応性の有機基が結合した構造の重合体である。当該化合物の市販品としては、信越化学工業株式会社製のKR-500、KC-89S、X-40-9225、X-40-9250、X-40-9227、KR-510、KR-511、X-41-1805、X-41-1810、X-24-9590、KR-251、KR-255、KR-112、同社製の硬化触媒含有製のKR-400、KR-401、X-40-2327、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のXC96-B0446、XR31-B1410、XR31-B2733、XR31-B2230、TSR165、XR31-B6667、XR31-B1763、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製のSILRES MSE100、SILRES H44、東レ・ダウコーニング株式会社製のSH550等を挙げることができ、これらは単独で用いても複数種を併用しても構わない。
【0034】
本発明において特に好適な前記成分(A)の高分子有機シランとしては、オルガノポリシロキサンであり、さらに好適には反応性シリコーンオリゴマーまたは反応性シリコーンレジンから選ばれるものであり、最も好適には反応性シリコーンオリゴマーである。反応性シリコーンオリゴマーを用いることにより、本発明の方法による表面処理は、適度な可使時間、液粘度に基づく作業性を保持することができ、また形成される硬化被膜についても適度な強靭性と柔軟性を備えた、耐久性に優れたものとすることができる。
【0035】
本発明における前記成分(A)の高分子有機シランとして特に好適には、反応性シリコーンオリゴマーであって、典型的には、下記構造式(1)で表されるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物である。
【0036】
【0037】
ここでR4、R5は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基から選ばれる置換基であることが望ましく、より好適にはメチル基、フェニル基から選ばれる置換基であり、特に好適にはそれぞれがメチル基である。またxは、0~3の整数、好適には0、1を含むものであり、特に好適には1を含むものである。当該成分(A)の高分子有機シランの製法としては、上記構造式で示される化合物に公知の加水分解触媒を加え、水分の存在下で加温しながら攪拌することにより部分加水分解縮合を起こさせることで得ることができる。ここで上記構造式において、xが0、1の場合には、当該化合物の重合体は直鎖となった場合に側鎖中に(OR5)で示されるアルコキシ基を有することとなる。あるいは重合体は直鎖構造とならず三次元架橋体となる場合もあり、そのときは構造中に部分的にアルコキシ基を含有することとなる。当該化合物としてxが2、3のものを含んでいてもよいが、当該成分(A)の高分子有機シランの構造中に効果的にアルコキシ基を追加するためには、xが0または1のものを含んでいることが特に好ましい。また当該化合物は製造時のハンドリング性の観点から、当該成分はJIS Z 8803:2011に準拠した、25℃における化合物単独の動粘度測定値が、0.1~1,000mm2s-1程度の範囲にあるもの、より好適には0.5~500mm2s-1の範囲にあるものを用いることが好ましい。前記成分(A)の高分子有機シランの動粘度が上記範囲内にあることにより、表面処理用組成物の硬化被膜が特に良好な撥水性または滑水性、摩耗耐久性等の特性を保有するとともに、施工時の作業性も適切なものとすることができる。
【0038】
<(B)反応触媒>
本発明で用いる表面処理用組成物に含まれる成分(B)は、反応触媒であって、前記成分(A)の高分子有機シランに含まれる反応性基を反応させるためのものである。当該成分(B)の反応触媒である化合物として典型的には、前記反応性基が加水分解重合性反応基(Si-OR5)である場合に、当該加水分解重合性反応基を空気中の湿気等と反応させて縮合反応させるための加水分解反応触媒である。当該加水分解反応触媒としては、有機錫化合物、有機チタニウム化合物、有機ニッケル化合物、有機アルミニウム化合物のような有機金属化合物や、塩酸、硫酸等の無機酸類、p-トルエンスルホン酸や各種脂肪族または芳香族カルボン酸等の有機酸類、アンモニア、水酸化ナトリウム等の無機塩基類、トリブチルアミン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等の有機塩基類等から適宜選択して用いることができる。
【0039】
本発明における成分(B)の反応触媒としては、有機金属化合物が望ましく、具体的にはジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート等の有機錫化合物、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート、テトラキスエチレングリコールメチルエーテルチタネート、テトラキスエチレングリコールエチルエーテルチタネート、ビス(アセチルアセトニル)ジプロピルチタネート等の有機チタニウム化合物、オクチル酸アルミニウム、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムトリステアレート等のアルミニウム塩化合物、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリアリルオキシド、アルミニウムトリフェノキシド等のアルミニウムアルコキシド化合物、アルミニウムメトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムメトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムエトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムエトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムイソプロポキシビス(メチルアセトアセテート)、アルミニウムイソプロポキシビス(t-ブチルアセトアセテート)、アルミニウムブトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジメトキシ(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジメトキシ(アセチルアセトネート)、アルミニウムジエトキシ(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジエトキシ(アセチルアセトネート)、アルミニウムジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジイソプロポキシ(メチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムオクチルアセトアセテートジイソプロプレート等の有機アルミニウム化合物、ニッケル(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート水和物等の有機ニッケル化合物を例示することができ、これらは単独で用いても複数種を併用しても構わない。これらの化合物中でも特に有機アルミニウム化合物が好ましく、さらに好ましくはアルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)、アルミニウムオクチルアセトアセテートジイソプロプレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)から選ばれる有機アルミニウム化合物である。
【0040】
前記成分(B)の反応触媒としては、公知の市販品を用いることができる。例えば、有機アルミニウム化合物であれば、信越化学工業株式会社製のDX-9740(アルミニウムアルコキシド化合物の混合物)、CAT-AC(アルミニウムアルコキシド化合物の混合物、50質量%のトルエン希釈品)、川研ファインケミカル株式会社製のアルミキレートA(W)(アルミニウムトリス(アセチルアセトネート))、アルミキレートD(アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、有効成分量76質量%)、AIPD(アルミニウムイソプロピレート)、ALCH(アルミニウムジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート))、ALCH-TR(アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート))、東京化成工業株式会社製のA0246(アルミニウムイソプロポキシド)、有機チタニウム化合物であれば、マツモトファインケミカル株式会社製のオルガチックスTA-10(チタンテトライソプロポキシド)、オルガチックスTA-25(チタンテトラノルマルブトキシド)、有機ジルコニウム系化合物であれば、マツモトファインケミカル株式会社製のオルガチックスZA-40(ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド)、オルガチックスZA-65(ジルコニウムテトラノルマルブトキシド)等を用いることができる。これらは単独で用いても複数種を併用しても構わない。
【0041】
本発明における前記成分(B)の反応触媒の含有量は、特段制限するものでは無いが、前記成分(A)1質量部に対して、好適には0.001~0.5質量部の範囲、より好適には0.003~0.3質量部、さらに好適には0.005~0.2質量部である。当該含有量の下限以上であることにより、本発明の表面処理用組成物は硬化に不良が生じず、十分な強度を持った硬化被膜を形成することができる。他方で当該含有量の上限以下であることにより、本発明の表面処理用組成物は常温での貯蔵性に問題を生じる可能性を低減することができる。また前記成分(A)の高分子有機シランに含まれる反応性基が加水分解重合性反応基でない場合には、それぞれの反応基が架橋反応する為に必要な触媒を適宜選択して用いることができる。例えば、前記反応性基が、(i)ヒドロシリル基及びアルケニル基からなる組合せの付加重合性反応基である場合には、白金系化合物等からなる付加重合触媒を、(ii)アクリロイル基のようなラジカル重合性反応基の場合には、アゾ化合物や有機過酸化物またはアシロイン系化合物やベンゾフェノン等を、(iii)エポキシ基の場合には、アミン系化合物やアリールオニウム塩系化合物等を、それぞれ選択することができ、反応後に系に取り込まれて失活するものであっても構わない。
【0042】
<(C)平均一次粒径が0.1~10,000nmの研磨粒子>
本発明で用いる表面処理用組成物に含まれる成分(C)は、平均一次粒径が0.1~10,000nmの研磨粒子であり、ポリッシュでの研磨処理において基材表面を平滑に均すと同時に、硬化反応後には、耐久性に優れた硬化被膜の形成に寄与する機能を発現する成分である。ここで前記成分(C)の研磨粒子としては、無機化合物または有機化合物から選択される粒子である。このうち、無機化合物の粒子としては、例えば、焼成または未焼成のカオリン、アルミナ、シリカ、タルク、ガラス、マイカ、ダイヤモンド、ベントナイト、モンモリナイト、セライト、シラスバルーン、セラミック、硅石、珪藻土、パーライト、炭酸カルシウム、ゼオライト、含水珪酸、酸化クロム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、弗化カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸ジルコニウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、各種金属コロイド、スメクタイト、炭化硅素、トリポリ燐酸アルミニウム、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等の球状粉、鱗片状粉または不定形粉、またコロイダルシリカ、フュームドシリカ、アルミナ、シリカゲル等の中空球状粉、及びこれらを有機化合物等表面処理や被覆した微粉が挙げられるが、これらの限りではない。前記有機化合物の粒子としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリオレフィン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、スチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、ナイロン(登録商標)、ポリアミド、セルロース、ポリカーボネート、フッ素樹脂及びこれらの架橋ポリマー等の微粒子、またこれらの粒子を無機化合物や金属等で表面を被覆したもの、或いは官能基導入等の処理を行ったもの等を挙げることができるが、これらの限りではない。本発明における当該成分(C)の研磨粒子は、表面処理用組成物において必要な特性に応じ、これら2種以上を併用することを妨げるものではない。これらの無機化合物、有機化合物の粒子の形状は、特に限定されるものではなく、球状、鱗片状、不定形、針状、繊維状等の種々の形状をとることができる。また粒子内部に空隙があるいわゆる中空粒子を用いても良い。また本発明における当該成分(C)の研磨粒子は、傷消し性の良好さといった観点から、前記の無機化合物を含む研磨粒子が望ましく、前記の無機化合物から選択される研磨粒子がより望ましく、更に好適にはカオリン、タルク、シリカ、マイカ、アルミナ、セライト、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄から選ばれる1種以上、特に好適には、カオリン、アルミナ、シリカ、セライト、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛から選ばれる1種以上、なかでも好適にはカオリン、アルミナ、シリカ、セライトから選ばれる1種以上、最も好適にはカオリン、シリカから選ばれる1種以上を含む研磨粒子である。
【0043】
前記カオリン粒子としては、含水カオリン粒子と焼成カオリン粒子とが知られており、本発明ではどちらも用いることが可能であるが、焼成カオリン粒子を用いることが望ましい。カオリン粒子の市販品として、例えば、含水カオリン粒子には、BASF社製のASP-G92、ASP-200、ASP-170、ASP-600、ASP-900、イメリス スペシャリティーズ ジャパン株式会社製のHydrite(登録商標) PXN-LCS、Hydrite(登録商標) RS、Hydrite(登録商標) Flat-DS、Barrisurf HX Eckalite 1、Eckalite ED等が知られている。また、未処理焼成カオリン粒子には、BASF社製のSatintone(登録商標) W、Satintone(登録商標) SP-33、Satintone(登録商標) 5HB、Satintone(登録商標) SPECIAL、No.5、Satintone(登録商標) PLUS、イメリス スペシャリティーズ ジャパン株式会社製のNeogen(登録商標)2000、Polestar(登録商標)400、Glomax(登録商標)LL、Polestar(登録商標)200Rが知られている。さらに、表面疎水処理焼成カオリン粒子には、BASF社製のTranslink(登録商標)37、Translink(登録商標)77、Translink(登録商標)445、Translink(登録商標)555、イメリス スペシャリティーズ ジャパン株式会社製のPolarite(登録商標)103A、Polarite(登録商標)503S、Polarite(登録商標)102A等が知られている。前記カオリン粒子としては、これら公知の材料を適宜組み合わせて用いることができる。
【0044】
また前記シリカ粒子としては、その表面が疎水処理されたシリカ粒子(疎水性シリカ粒子ともいう)と、無処理の親水性シリカ粒子が知られており、本発明ではどちらも用いることが可能である。前記成分(C)には、硬化後の塗膜の撥水性の観点から、より好適には、前記疎水性シリカ粒子を含む研磨粒子を用いることが望ましく、更に好適には、前記疎水性シリカ粒子からなる研磨粒子を用いることが望ましい。当該表面が疎水処理されたシリカ粒子とは、粗製シリカ粒子の表面が疎水化処理剤により修飾処理されたシリカ粒子を意味する。当該疎水化処理剤としては、脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤等のアルコキシシリル化合物、シラザン化合物、シリコーンオイル等が知られている。特に好ましい疎水化処理剤は、アルコキシシリル化合物またはシラザン化合物である。当該アルコキシシリル化合物としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシラン類が公知である。前記シラザン化合物としては、ヘキサメチルジシラザン等が公知である。これら疎水化処理剤またはその希釈溶液中で、適宜条件を選んだ上で前記粗製シリカ粒子を攪拌することにより、当該粗製シリカ粒子表面の修飾処理がなされる。
【0045】
当該シリカ粒子の市販品としては、例えば、親水性シリカ粒子には、日本アエロジル株式会社製のAerosil(登録商標) 90、Aerosil(登録商標) 130、Aerosil(登録商標) 150、Aerosil(登録商標) 200、Aerosil(登録商標) 255、Aerosil(登録商標) 300、Aerosil(登録商標) 380、Aerosil(登録商標) OX50、Aerosil(登録商標) TT600、Aerosil(登録商標) 200F、Aerosil(登録商標) 380F、ワッカー社製のHDK(登録商標) S13、HDK(登録商標) V15、HDK(登録商標) N20、HDK(登録商標) N20P、HDK(登録商標) T30、HDK(登録商標) T40等が知られている。また、疎水性シリカには、日本アエロジル株式会社製の、Aerosil(登録商標) R972、Aerosil(登録商標) R974、Aerosil(登録商標) R104、Aerosil(登録商標) R106、Aerosil(登録商標) R202、Aerosil(登録商標) R208、Aerosil(登録商標) R805、Aerosil(登録商標) R812、Aerosil(登録商標) R7200、Aerosil(登録商標) RY50、Aerosil(登録商標) RY200、Aerosil(登録商標) R、Aerosil(登録商標) RX200、Aerosil(登録商標) RX300、Aerosil(登録商標) RX380S、Aerosil(登録商標) R976、Aerosil(登録商標) R976S、ワッカー社製のHDK(登録商標) H15、HDK(登録商標) H18、HDK(登録商標) H20、HDK(登録商標) H30等が知られている。前記シリカ粒子としては、これら公知の材料を適宜組み合わせて用いることができる。
【0046】
また研磨粒子としては、上記した最も好適なカオリンおよびシリカから選ばれる1種以上を含む研磨粒子以外にも、実施例で用いたような研磨粒子の市販品を用いることが可能である。詳しくは、無機化合物から選択される研磨粒子の例のうち、アルミナ粒子の市販品としては、昭和電工株式会社製のAL1600SG3、AL43M等が知られている。表面を疎水処理した酸化チタン粒子の市販品としては、日本アエロジル株式会社製のアエロキサイドTiO2 T805等が知られている。表面複合処理した酸化亜鉛粒子の市販品としては、堺化学工業株式会社製のFINEX-33W-LP2等が知られている。セライト粒子の市販品としては、IMERYS社製のCelite(登録商標)209等が知られている。重質炭酸カルシウム粒子の市販品としては、白石カルシウム株式会社製のソフトン1800等が知られている。軽質炭酸カルシウム粒子の市販品としては、白石カルシウム株式会社製のBrilliant-1500F等が知られている。また、有機化合物から選択される研磨粒子の例のうち、4フッ化エチレン樹脂粉末の市販品としては、株式会社喜多村製のKLT-500F等が知られている。
【0047】
前記成分(C)の研磨粒子は、その平均一次粒径が0.1~10,000nmの範囲にあるものである。本発明においてより好適には、0.1~2,000nmの範囲、さらに好適には0.1~500nmの範囲、特に好適には0.1~200nmの範囲、最も好適には1~150nmの範囲に、前記成分(C)の研磨粒子の平均一次粒径があることである。当該範囲内にあれば、平均一次粒径が異なる複数の種類を混合したものでもあってもよい。研磨粒子の平均一次粒径が、前記範囲の下限以上にあることにより、研磨処理を行う際に基材表面を適切に平滑化することができる。他方で、研磨粒子の平均一次粒径が、前記範囲の上限以下であることにより、処理後の塗膜に凹凸を生じることが無く、平滑で美観に優れた塗膜を形成することができる。ここで前記平均一次粒径とは、電子顕微鏡で無作為に10個以上の一次粒子の直径(球相当径)を測定した際の平均値を意味する。また当該成分(C)の研磨粒子として2種以上の異なる原料を混合して用いた場合には、当該混合粉体から無作為に10個以上の一次粒子を抜き出して測定した直径(球相当径)の平均を平均一次粒径として取り扱う。なおここで一次粒子とは、粒が複数個で凝集していない状態の粒子を意味する。特に前記成分(C)の研磨粒子の平均一次粒径が、0.1~200nmの範囲にあれば、上記効果がより顕著に得られる点で優れている。中でも前記成分(C)の研磨粒子の平均一次粒径が、1~150nmの範囲にあれば、上記効果が最も顕著に得られる点で特に優れている。
【0048】
本発明における前記成分(C)の研磨粒子の含有量は、特段制限するものでは無いが、前記成分(A)1質量部に対して、好適には0.01~1.0質量部の範囲、より好適には0.02~0.8質量部、さらに好適には0.025~0.75質量部である。当該含有量の下限以上であることにより、本発明の表面処理用組成物は、硬化後の塗膜に十分な強度と耐久性を付与することができる。他方で当該含有量の上限以下であることにより、本発明の表面処理用組成物を用いて表面処理された基材表面は、平滑で光沢のある、美観に優れた塗膜を形成することができる表面となる。
【0049】
本発明において、前記成分(C)の研磨粒子の硬度は、特定するものでは無いが、好適には基材表面の硬度と同等かそれ以下のものであることが望ましい。本発明における当該(C)の研磨粒子の作用は、前記の通りポリッシング処理の際に当該粒子と基材表面との間で摩擦が生じ、その結果ポリッシャだけでは不十分な範囲まで前記基材表面を研磨して均すことができ、平滑な表面を形成することができるようになる。さらに前記成分(A)の高分子有機シランが硬化して塗膜を形成した後も当該塗膜中に留まることにより、当該塗膜を補強する作用を奏し、耐久性に優れた塗膜の形成に寄与することができるのである。
【0050】
さらに本発明に用いる表面処理用組成物には、施工時の作業性等を改善する目的で、成分(D)として実質的に水を含まない有機溶剤を更に加えることができる。当該成分(D)としては、前記成分(A)及び成分(B)を均一に溶解し、希釈することができる常温で液体の物質であり、また常温常圧下で薄膜塗布した状態で、数分乃至数日の間で揮発するものであれば特段の制限はない。また表面処理用組成物の貯蔵時の安定性を維持する為にも、前記成分(A)の高分子有機シランと成分(D)との反応を避ける目的で、成分(D)として実質的に水を含まない有機溶剤を用いるものである。当該成分(D)としては、例えば、ソルベントナフサ、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、石油系炭化水素化合物(C9アルキルシクロヘキサンの混合物)、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、イソオクタン、n-デカン、n-ペンタン、プロピルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,2,3-トリメチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、1,1,3,5-テトラメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、イソドデカン、イソノナン(C9アルカンの異性体混合物)、トルエン、キシレン、スチレン、イソパラフィン、水添軽質ナフサ系炭化水素化合物等の炭化水素化合物、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ブロモプロパン等のハロゲン化炭化水素化合物、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、シクロヘキサノール、ブタンジオール、2-エチル-1-ヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコール化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン化合物、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、乳酸メチル、乳酸ブチル等のエステル化合物、ジエチルエーテル、プロピルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1,4-ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル化合物、フッ素系溶剤等を挙げることができ、これらは単独で用いても複数種を混合した混合物を用いても構わない。
【0051】
本発明において前記成分(D)を含む場合の当該成分の含有量は、前記成分(A)1質量部に対して、好適には0.1~100質量部の範囲、より好適には0.2~75質量部、さらに好適には0.5~50質量部、最も好適には1.0~10質量部の範囲である。当該含有量の範囲であることにより、本発明の表面処理用組成物を用いて表面処理する際に、適度な作業性が付与されるため塗布が容易なものとなり、さらに硬化塗膜の膜厚も適切なものとなる。特に前記成分(D)を含む場合の当該成分の含有量が、前記成分(A)1質量部に対して、1.0~10質量部の範囲であれば、上記効果がより顕著に得られる点で優れている。
【0052】
その他、本発明の表面処理用組成物において、その特性を毀損しない範囲で適宜に本発明の前記(A)~(D)の構成成分に含まれない任意の添加成分を加えることができる。たとえば、反応性または非反応性のシリコーンオイル、アルコキシシラン化合物、長鎖アルキルの炭化水素化合物、フッ化アルキル化合物等の撥水性付与剤、シランカップリング剤等の密着付与剤、老化防止剤、防錆剤、着色剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光剤、香料、充填剤等、目的に応じた成分を選択することができる。
【0053】
本発明の表面処理方法のポリッシャを用いて施工を行う基材表面としては、自動車や二輪自動車、電車、農耕作業車、船舶、航空機、等の車輌車体や窓及び後写鏡、前照灯、方向指示器灯、車幅灯、その他灯火器、ホイール等の外装部材、また道路、橋脚、橋梁、隧道、防護壁、信号機等の構造部材、家屋やビル、発電所、ソーラーパネル、アンテナ、ガスタンク、自動販売機、ビニールハウス等建造物の壁面や天面及び窓といった建築・住設部材における、金属、ガラス、セラミックス、樹脂等の任意の部材を基材とする当該基材表面、及びこれら任意の部材の表面上に塗装が施された被塗装(塗膜ともいう)部材を基材とする当該基材表面に対して適用することができる。本発明の表面処理方法のポリッシャを用いて施工を行う基材表面として特に好適には、予め塗装された被塗装(塗膜)部材を基材とする表面であり、最も好適には、予め塗装されてなる被塗装(塗膜)部材を基材とする表面である。本発明の表面処理方法のポリッシャを用いて施工を行う基材表面の具体的な部材の材質としては、金属鋼板または樹脂である。好ましくは、これらの材質からなる部材表面上に塗装が施された被塗装(塗膜)部材を基材とする表面であり、特に好適には、自動車のボデー、バンパー等の車体外装に用いられている被塗装鋼板を基材とする表面(被塗装鋼板表面ともいう)および/または被塗装樹脂部材を基材とする表面(被塗装樹脂部材表面ともいう)への利用が望ましい。
【0054】
本発明の表面処理方法は、その使用方法を限定するものでは無いが、前記自動車の車体外装に用いられている被塗装鋼板表面および/または被塗装樹脂部材表面への適用に際し、通常の塗料による塗装が行われた直後の状態、すなわち新車の状態の車輌に使用してもよい。また自動車が屋外におかれた状態で時間が経過し、紫外線や風雨、煤塵、熱、その他外気の影響で塗装の劣化が進んだ状態の車輌、すなわち中古車や長期展示に供された車輌に使用しても構わない。新車の車輌に使用する場合、通常の塗料により塗装が施された塗装表面、例えばボデー、バンパーに対して処理を行うことでその光沢、色彩等を長期間保持し、褪色劣化を遅らせることができる。中古車等の車輌に使用する場合、褪色したボデー、バンパー等の塗装表面を再塗装する必要無く、本発明の表面処理方法による処理のみで塗装直後に近い状態に復元することができ、当該塗膜の状態を長期間にわたり保護することができるという、簡便な作業で有用な効果を奏するものである。
【0055】
本発明におけるポリッシャを用いた施工は、従来公知の工法を用いることができる。一般にポリッシャとは、空気圧や電力を駆動源として、一定の範囲で回転動作、往復摺動、その他任意方向の振動といった周期動作を行う駆動部を有する器具であって、主に研磨を目的に用いる器具を指す。同様の機能を有する器具のうち、研削を主な目的とするものはサンダーというが、本発明ではこれら機能を有するものは特段区別せず、纏めてポリッシャという。当該ポリッシャの駆動部には、対象物の表面に直接接触する当接部材が配置されている。前記当接部材としては、天然繊維や合成樹脂繊維等の繊維物をスポンジ状、ブラシ状、厚みのある帯状等の形状に加工したバフと呼ばれるものを用いることができる。また、既製の不織布、マイクロファイバークロス等の繊維物を前記バフ等を介して、または介さずに用いることができる。対象物の表面に前記ポリッシャの前記当接部材が配置された駆動部を当接させ、回転動作や往復摺動を行うことにより対象物表面を研磨し、平滑化や光沢発現等の施工処理を行うことを、本明細書中では、ポリッシュ処理やポリッシャ施工、あるいはポリッシングという。当該ポリッシュ処理の際にはポリッシング剤と呼ばれる液材を前記当接部材に含浸させて処理する。しかしながら、従来知られているポリッシング剤は一般に、対象物表面を研磨して平坦に均すことを目的としたものであって、研磨特性の改善や、摩擦抵抗の調整といった作業性の改善を図るものであり、耐久性に優れた塗膜を形成させることに主眼を置いたものでは無かった。本発明の表面処理方法では、従来のポリッシング剤に代えて本発明に係る表面処理用組成物を用いることにより、ポリッシングの作業性向上を図れると同時に、処理が行われた塗装表面の光沢、色彩と言った美観を長期にわたり保持できる、耐久性に優れた被膜を形成することができるようになる。
【0056】
本発明で用いることのできるポリッシャに特段の制限は無く、公知の市販品を用いることができる。当該ポリッシャの周期動作についても回転動作、往復摺動、その他任意方向の振動のいずれであっても構わないが、作業の容易性と仕上がりの美観の観点から、回転動作であることが特に好ましい。当該回転動作を行うポリッシャを本発明では回転式ポリッシャとも言い、当該回転式ポリッシャは目的に応じ回転軌道の異なる製品、具体的にはシングルアクションポリッシャ、ダブルアクションポリッシャ、ギアアクションポリッシャ等から選択することができる。シングルアクションポリッシャは、単一の軌道を周期的に回転するものであって、回転トルクを高められることから塗装表面の研磨効率が高く、付着物等の汚れを比較的短時間で落とすことができる。しかし、ポリッシャの回転による摩擦発熱が大きいといった、操作をおこなう上である程度熟練度が必要であるという特徴がある。ダブルアクションポリッシャは、公転軌道上を自転しながら周期的に回転するというものであって、一般に回転トルクを高めにくいことから、塗装表面の研磨効率としてはシングルアクションポリッシャより劣る。しかし、発熱が少ないことや研磨中の当接部材の暴れが少ない等、操作をおこなう上で比較的熟練度が求められないという特徴がある。ギアアクションポリッシャは、公転軌道上を振動・偏心回転しながら周期的に回転するというものであって、シングルアクションポリッシャとダブルアクションポリッシャとの中間の特性をもっている。本発明においては、作業者の熟練度に応じて前記の各ポリッシャを適宜使い分けることが特に好ましい。なかでも、研磨力の制御のしやすさの観点から、シングルアクション、またはダブルアクションの回転式ポリッシャが好ましい。なお回転式ポリッシャの回転速度は目的に応じ任意の回転速度で良いが、大面積処理の場合は、一般に100~20,000回転/分(1.67~333.33s-1)の回転数が用いられる。また小面積の処理や小さな部品の処理の場合はより小型のポリッシャを用いたり、より低速回転で処理を行ってもよい。ここでポリッシャの駆動源としては、AC電源、蓄電池、圧縮空気等作業現場の設備や作業のしやすさに応じ、任意のものを使用して良い。またポリッシャの寸法についても、被処理面の面積、形状、作業者の取り扱いやすさに応じ、任意の大きさのものを使用して良い。
【0057】
シングルアクションポリッシャの市販品としては、リョービ株式会社製のPE-1400、PE-2010、PE-2100等のPEシリーズ、信濃機販株式会社製のSI-2400、SI-2009、SI-2009H、SI-2224等のSIシリーズ、コンパクト・ツール株式会社製のC-150N、C-201等のCシリーズ、ダブルアクションポリッシャの市販品としては、リョービ株式会社製のPED-130KT等のPEDシリーズ、コンパクト・ツール株式会社製のP-150N、P-185N等のPシリーズ、ギアアクションポリッシャの市販品としては、リョービ株式会社製のPEG-130等のPEGシリーズ、信濃機販株式会社製のSI-2415、コンパクト・ツール株式会社製のG-150N等が知られており、これら公知の機器を目的に応じ適宜選択することができる。
【0058】
本発明で用いることのできる当接部材においても特段の制限は無く、公知の市販品を前記のポリッシャと組み合わせて用いることができる。前記当接部材としては、天然繊維や合成樹脂繊維等の繊維物をスポンジ状、ブラシ状、厚みのある帯状(これらを纏めてバフともいう)、不織布、マイクロファイバークロスに加工したものが好適である。これらの材質としては、木綿、絹、麻、ウール、ポリウレタン、ポリエステル(好ましくは、ポリエチレンテレフタレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリスチレン、等から選択することができる。本発明において好適な当接部材の形状は、スポンジ状またはマイクロファイバークロスであり、また好適な材質はポリエステル(好ましくは、ポリエチレンテレフタレート)、ナイロンから選ばれるものである。特に好適な形状はマイクロファイバークロスであるが、これは繊維径が10μm以下の分割型複合紡糸繊維が織り合わされてなる布状物のことを指し、特に0.1μm以下の径の場合はナノファイバ-クロスとも呼ばれる。このような非常に微細な繊維径であることにより広大な表面積を有しており、ポリッシュ処理の際に表面研磨において極めて滑らかに表面を均すことができ、また均質に液剤が浸透するためムラ無く作業を行うことができる。さらに、マイクロファイバー自体の特性として、繊維細さが汚れ被膜に近い寸法であるために、油膜状汚れの削り取り効果が高いという特徴を有している。
【0059】
なお前記当接部材は、任意の方法でポリッシャの駆動部に配置して使用できるが、好適には一般的にパッドと呼ばれる、ポリッシャの駆動部に取り付けられた平面部材を介し、これに貼り付け等して結合し使用することが望ましい。本発明における前記当接部材の厚みに制限は無いが、好適には1~70mmの範囲であることが望ましい。当接部材の厚みが小さい場合には、作業性向上のため適切な厚みをもつ任意の素材(以下、スペーサーとも言う)と前記当接部材を結合して厚みを補ってもよく、その場合は当接部材とスペーサーとの合計の厚みが前記の範囲にあることが望ましい。ここで、当該スペーサーとしては前記バフと同じ材質の部材で代用することができる。またスペーサーを用いる場合の当接部材とスペーサーの結合手段、当接部材とポリッシャまたはパッドとの結合手段、当接部材・スペーサー結合体とポリッシャまたはパッドとの結合手段は、接着剤による接着、粘着剤による粘着、熱溶融、縫合、面ファスナー、ゴムや紐での締結、カバーによる被覆等、適宜好適な方法を選択することができるが、作業性と結合強度の観点から、面ファスナーによる結合が特に望ましい。ここで、前記当接部材にマイクロファイバークロスを用いる場合、パッドまたはスペーサーを柔軟な材質として、当該パッドまたはスペーサーの表面に前記面ファスナーのフック状起毛部の裏側を接着剤で接着する。そして、当該フック状起毛部をマイクロファイバークロスと直接に当接させて、当該マイクロファイバークロスのループ状になった繊維と絡み合うことでこれらを結合させることが望ましい。この際、前記マイクロファイバークロスの表面は、面ファスナーのフック状起毛部と絡み合う程度の長さに起毛した材料を用いることがより好適である。当該起毛の長さは、前記面ファスナー起毛部とマイクロファイバークロスの表面共に0.5~10mm程度の長さであることが特に好適である。前記マイクロファイバークロスの市販品としては、KBセーレン株式会社製のナイロン及びポリエステルからなる分割型複合紡糸繊維のBelima(登録商標)シリーズ、東レ株式会社製の、ポリエステルからなる海島型複合繊維のトレシー(登録商標)シリーズ等が知られており、これらから目的に応じ適宜選択することができる。これら当接部材、パッド、スペーサー等の寸法は、被処理面の面積、形状、作業者の取り扱いやすさに応じ、任意の大きさのものを使用して良い。
【0060】
本発明の表面処理方法は、前記当接部材上、または被処理面である基材表面に対して前記表面処理用組成物を適量滴下し、処理対象の塗装表面である基材表面に対してポリッシュ処理を行うことにより、当該基材表面の研磨と表面処理用組成物の塗布を同時に行うものである。前記塗布量としては、一回のポリッシュにつき0.01~25ml、好適には0.1~10ml程度を当接部材に含ませ、処理対象である基材表面にポリッシングを行う。ある程度ポリッシュ処理が進み当接部材から表面処理用組成物が無くなってきたら、再度、前記の表面処理用組成物を当接部材に滴下する等して、再び処理を行うという工程で実施することが望ましい。一度に当接部材に含浸させる量が適正な範囲にあることで、均質で平坦な硬化塗膜を比較的容易に得ることができる。ここでのポリッシュ処理により、前記表面処理用組成物中の研磨粒子によって油脂や固形分等からなる汚れが研磨作用により取り除かれていき、処理が進むに従って当該汚れ及び脱落した研磨粒子は前記当接部材に吸着される。その結果、処理が行われた塗装表面である基材表面には汚れが残留せず、代わって本発明における塗膜形成に係る成分である表面処理用組成物のみが、前記塗装表面である基材表面に付着した状態となる。美観を有し耐久性に優れた塗膜を形成する技術として従来公知の方法では、ポリッシュ処理による研磨を行った後に、別途反応性シリコーン等を含んでなる表面処理剤を塗布する、という二段階での作業が必要であった。しかしながら、本発明ではポリッシュ処理を行った後に別途、表面処理剤の塗布を行う工程を削減でき、生産性を大幅に高めることができるようになるのである。
【0061】
なお前記の表面処理用組成物はポリッシュ処理による塗布の後、常温又は加熱環境下に静置することにより、揮発成分を含む場合はここで当該揮発成分が揮発し、これと併せて架橋硬化反応が進行して塗装表面である基材表面に硬化塗膜を形成する。その後、必要に応じ当該硬化塗膜表面を乾いた布等により払拭する後処理を行うことにより、さらに美観に優れた硬化塗膜の表面を形成することができる。前記硬化塗膜の表面を水や、シリコーンエマルジョン等を含む液体を含ませた布等で払拭した後に乾拭きを行うという、従来公知の後処理方法により施工を行っても良く、適宜好ましい方法で後処理を行うことができる。
【0062】
また本発明は、前記表面処理方法に用いるための表面処理用組成物にも関する。本発明の表面処理用組成物とは、前記ポリッシャにより施工するためのものであって、以下の各成分を含んでなる組成物である:
(A)反応性基を有する高分子有機シラン、
(B)反応触媒、
(C)平均一次粒径が0.1~10,000nmの研磨粒子。
【0063】
上記の各成分は、表面処理方法に関する本発明に含まれる表面処理用組成物の構成と同一のものであり、またその他の任意構成もこれに準じる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明の効果を詳説するが、これら実施例は本発明の態様の限定を意図するものでは無い。
【0065】
本発明で用いる表面処理用組成物の特性は、以下の方法による実施例、参考例および比較例にてその評価を行った。ここで被膜形成用途に好適な組成物としては、全ての特性が合格となっていることが望ましい。また本発明の実施例、参考例および比較例にて評価した各表面処理用組成物(以下、単に「組成物」ともいう)又は処理剤は、表1に示す原料を同表中に記載の質量比で混合し、25℃で20分間攪拌することにより調製した。なお、表1の空欄は、その原料を使用しなかったことを表す。
【0066】
[試験片の調製]
・傷消し性評価試験片
傷消し性の評価を行う上で、塗装表面上に傷を有する材質を再現した試験片を以下の方法により作製した。JIS G 3141:2017に準拠した黒色塗装板(材質:SPCC-SD(冷間圧延鋼板)、寸法:0.8mm×70mm×150mm、化成電着後片面にアミノアルキド黒色塗装を行い、トップクリアコートを施したもの、株式会社アサヒビーテクノ製)の塗装面に対し、株式会社ソフト99コーポレーション製の液体コンパウンド(キズ消し用3000)、当接部材として細目用ウレタンスポンジバフ、リョービ株式会社製のダブルアクションポリッシャーPED-130を用いて8,000rpm(1335s-1)の回転速度で20秒間ポリッシュ処理を行い十分に研磨することで、予め平滑な表面を形成した。さらにこの被処理面に対し、JIS Z 8901:2006に準拠した、試験用粉体1の7種(関東ロームの泥粉体)を5質量%含む水懸濁液を含ませたネル布で10往復、手で強く擦りつけ、泥粉による擦り傷をつけた。その後、当該表面を流水で十分に洗浄し、さらに当該表面をイソプロパノールを用いて脱脂洗浄して、これを傷消し性評価試験片とした。
【0067】
・雨染み除去性評価試験片の調製
雨染み除去性の評価を行う上で、塗装表面上に雨染みを有する材質を再現した試験片を以下の方法により作製した。当該試験片は前記の傷消し性評価試験片の傷側面にスポイトを用いて水道水1滴(0.05ml)を滴下し、50℃に設定した恒温乾燥炉に1時間放置し、水分を揮発させて得た。当該表面には、水道水のカルキ成分に由来する残渣が残留してシミ様の状態として観察される仮想雨染みを形成し、雨染み除去性評価用試験片とした。
【0068】
[傷消し性、雨染み除去性評価試験]
ポリッシュ処理に用いた当接部材として、直径180mmで厚み30mmのポリウレタン製スポンジバフ(株式会社ソヴリン製、「ポリッシャー用ウレタンスポンジバフ(細目用)」、以下「スポンジバフ」ともいう)または当該スポンジバフをスペーサーとして用い、これにマイクロファイバークロスを貼着したもの(以下、「ファイババフ」ともいう)を用いた。後者は以下の手順より調製した。
【0069】
ファイババフの調製:ポリエチレンテレフタレート75質量%、ポリアミド25質量%で、厚さが0.5mmの布状物であるマイクロファイバークロス(株式会社スリーボンド製の「スリーボンド6649G」)を直径185mmの円形に切り抜き、これを前記のポリウレタン製スポンジバフに貼り付け、ファイババフを作製した。なお前記貼り付けは、当該スポンジバフ表面にエラストマー系接着剤で面ファスナーのフック状起毛部側の裏面を接着し、当該面ファスナー起毛部表面にマイクロファイバークロスを直接当接することにより行った。
【0070】
これらそれぞれの当接部材表面に、後述の実施例5、9~11、参考例1~4、6~8、12、及び比較例1に示す表面処理用組成物を3g(約2.5ml)スポイトで滴下して軽く含浸させた。当該当接部材をリョービ株式会社製のダブルアクションポリッシャーPED-130の駆動部に配置し、前記の傷消し性評価試験片及び雨染み除去性評価試験片それぞれの塗装表面に対して、8000rpm(1335s-1)の回転速度で20秒間ポリッシュ処理を行った。当該処理後5分以内に、当該処理面を乾いた清浄なマイクロファイバークロス(スリーボンド6649G)にて満遍なく拭き取ることにより、それぞれの評価を行った。他方、比較例2、3における試験片への施工は、次のようにして行った。それぞれ表面処理用組成物または処理剤を含浸させた前記のスポンジバフを、各試験片の塗装表面に対してポリッシャを用いずに、20秒間かけて手で回転させるように擦り上げ、然る後5分以内に、表面を乾いた清浄なマイクロファイバークロス(スリーボンド6649G)にて満遍なく拭き取ることで処理した。
【0071】
[傷消し性、雨染み除去性評価基準]
・傷消し性評価
前記傷消し性、雨染み除去性評価試験を行った傷消し性評価試験片の塗装表面を、評価試験前後の状態比較観察により評価した。当該観察手段としては目視による傷の残存状態の確認、及び分光測色計を用いた色差比較で以て実施した。前記分光測色計は、コニカミノルタ株式会社製のCM-2600dを用い、測定径8mm、測定モードSCE、視野10°および「CIE標準光源D65」を測定条件とし、評価試験前後の色差ΔL値を測定した。結果は以下の評価基準に従い、表1中に併せて記載した。ここで、前記色差ΔL値とは白色度の指標であって、本発明の表面処理方法により塗装表面の擦過傷が消されることにより当該傷由来の乱反射が低減する為、当該値が小さくなる、すなわち白色度が下がるに従い傷消し性が大きくなるものと判断される。なお目視による観察では、いずれの表面処理用組成物による評価であっても、前記試験後の状態は大きな深い傷が明らかに低減し、光沢が増大していた:
評価結果が可・・・-3.0<ΔL≦-2.0の範囲、○として表記した
評価結果が良・・・-4.0<ΔL≦-3.0の範囲、◎として表記した
評価結果が優・・・-6.0<ΔL≦-4.0の範囲、◎◎として表記した。
【0072】
・雨染み除去性評価
前記傷消し性、雨染み除去性評価試験を行った雨染み除去性評価試験片の塗装表面に存在する仮想雨染みの状態を、目視観察により評価試験前の状態と比較することにより評価した。結果は以下の評価基準に従い、表1中に併せて記載した。なお、仮想雨染みの面積が30%以上100%の範囲で減少・消失していれば実用可能と判断し、合格とし、仮想雨染みの面積が30%未満で減少、及び塗布前と変化なければ実用困難と判断し、不合格とした。
【0073】
評価結果が著しく不可(不合格)・・・塗布前と変化が見られない、×として表記した
評価結果が不可(不合格)・・・仮想雨染みの面積が30%未満の範囲で減少、△として表記した
評価結果が良(合格)・・・仮想雨染みの面積が30%以上100%未満の範囲で減少、または100%消失しているが、様々な角度から観察した場合に当該仮想雨染みの痕跡が僅かに認められる、○として表記した
評価結果が優(合格)・・・仮想雨染みの面積が100%消失し、様々な角度から観察しても痕跡が認められない、◎として表記した。
【0074】
[撥水性評価試験及び当該評価基準]
前記傷消し性、雨染み除去性評価試験でポリッシュ処理を行った各傷消し性評価試験片を25℃環境下で1日静置し、その後、当該試験片の被処理面に対する純水(1μL)の接触角を、全自動で接触角が測定できるKRUSS社製の接触角計「MSA」を用いて測定した。これを初期接触角(°)として、結果を表1に併せて記載した。撥水性(防汚性)に優れた被膜としての特性値は、概ね95以上の数値となるものである。
【0075】
[耐久撥水性評価試験及び当該評価基準]
前記傷消し性、雨染み除去性評価試験でポリッシュ処理を行った各傷消し性評価試験片を25℃環境下で7日静置した。その後、当該試験片の被処理面に対し、簡易摩擦試験機(井本製作所株式会社製)を用いて30回/分の速度、100mmの移動距離、荷重500gにて摩擦物を設置し、100回ストロークさせることにより摩耗をかけ、当該摩耗処理後の塗装表面における水接触角を耐久試験後接触角(°)として測定し、耐久撥水性を評価した。ここで当該試験に用いた摩擦物は、幅が40mmの乾燥した清浄な布帛(セルロース/木綿複合繊維からなる吸水布、スリーボンド社製「スリーボンド6644E」)に蒸留水を充分に含ませたものを、直径20mmのステンレスの円柱に巻き付けたものとした。これを、摺動する方向と直交する方向に円柱の軸が向くよう設置して、当該摩擦物の摺動を行った。摺動処理後、室温で30分静置して乾燥させ、前記撥水性評価試験と同じ方法で測定した耐久試験後接触角を表1に併せて記載した。耐久撥水性(耐久防汚性)に優れた被膜としての特性値は、概ね90以上の数値となるものである。
【0076】
各実施例、参考例および比較例の表面処理用組成物または処理剤に含まれる原料は、以下のものを用いた。
【0077】
〔表面処理用組成物〕
<成分(A):反応性基を有する高分子有機シランの市販品>
・KR-500:前記式(1)において、R4、R5がいずれもメチル基のアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物で、重量平均分子量が約1,000の化合物、25℃での動粘度が25mm2s-1である反応性シリコーンオリゴマー、信越化学工業株式会社製
・X-40-9250:前記式(1)において、R4、R5がいずれもメチル基のアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物で、重量平均分子量が約2,100、25℃での動粘度が160mm2s-1の反応性シリコーンオリゴマー、信越化学工業株式会社製
・X-40-2327:前記式(1)において、R4、R5がいずれもメチル基のアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物で、25℃での動粘度が0.9mm2s-1である反応性シリコーンオリゴマーで、成分(B)である反応触媒;X-40-2309Aを30質量%含有する混合物、信越化学工業株式会社製
・X-22-170DX:片末端カルビノール変性のジメチルシリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン)、25℃での動粘度が40mm2s-1、信越化学工業株式会社製
・A-1:25℃における粘度が5,100mPa・sの両末端シラノール基含有ジメチルシリコーンオイル。
【0078】
<成分(B):反応触媒の市販品>
・DX9740:アルミニウムアルコキシド化合物、信越化学工業株式会社製
・D25:有機チタニウム化合物、信越化学工業株式会社製
・X-40-2309A:リン酸塩、信越化学工業株式会社製。
【0079】
<成分(C):平均一次粒径が0.1~10,000nmの研磨粒子の市販品>
・Satintone(サテントン)(登録商標) 5HB:BASF社製、未焼成カオリン粒子、平均一次粒径0.8μm
・Translink(トランスリンク)(登録商標)77:BASF社製、表面疎水処理焼成カオリン粒子 平均一次粒径0.8μm
・AL1600SG3:昭和電工株式会社製、アルミナ粒子 平均一次粒径0.5μm不定形
・AL43M:昭和電工株式会社製、アルミナ粒子 平均一次粒径1.5μm不定形
・Aerosil(登録商標) R972:日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径16nm、ジメチルジクロロシランにより表面を疎水処理したヒュームドシリカ粒子
・Aerosil(登録商標) R976:日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径7nm、ジメチルジクロロシランにより表面を疎水処理したヒュームドシリカ粒子
・Aerosil(登録商標) R805:日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径12nm、オクチルシランにより表面を疎水処理したヒュームドシリカ粒子
・Aerosil(登録商標) 200:日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径12nm、表面無処理のヒュームドシリカ粒子
・Aerosil(登録商標) RX380S:日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径7nm、ヘキサメチルジシラザンにより表面を疎水処理したヒュームドシリカ粒子
・アエロキサイドTiO2 T805:日本アエロジル株式会社製、平均一次粒径40nm、オクチルシランにより表面を疎水処理した酸化チタン粒子
・FINEX-33W-LP2:堺化学工業株式会社製 表面複合処理酸化亜鉛粒子、平均一次粒径35nm
・KLT-500F:株式会社喜多村製 4フッ化エチレン樹脂粉末 平均一次粒径1μm
・Celite(登録商標)209:IMERYS社製、セライト粒子 平均一次粒径8μm
・ソフトン1800:白石カルシウム株式会社製、重質炭酸カルシウム粒子 平均一次粒径1.25μm
・Brilliant-1500F:白石カルシウム株式会社製、軽質炭酸カルシウム粒子 平均一次粒径150nm。
【0080】
<成分(D):実質的に水を含まない有機溶剤の市販品>
・スワクリーン 150:C9アルキルシクロヘキサンの混合物、初留点145℃、乾点170℃、丸善石油化学株式会社製
・マルカゾールR:2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、沸点177℃、丸善石油化学株式会社製
・キョーワゾールC-900:イソノナン(C9アルカンの異性体混合物)、初留点131℃、乾点141℃、KHネオケム株式会社製
・Exxsol(登録商標) D40:水添軽質ナフサ系炭化水素化合物からなる有機溶剤、初留点166℃、乾点191℃、ExxonMobil社製
・アイソパー(登録商標)E:イソパラフィンからなる有機溶剤、初留点114℃、乾点139℃、ExxonMobil社製
・n-プロパノール:富士フィルム和光純薬株式会社製、試薬
・ソルブ55:フッ素系溶剤、株式会社ソルベックス製
・PMA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、三協化学株式会社製。
【0081】
〔処理剤:比較例2で使用の材料〕
・市販の研磨剤含有半固形型ワックス:リンレイ株式会社製 コンパウンドワックス ダーク&メタリック車用。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
注1)表1-1、表1-2の各実施例、参考例及び比較例1の組成物の各成分の原料の含有量を表す数値の単位は、全て「質量%」である。
【0087】
注2)表1-1、表1-2の各実施例、参考例及び比較例1の組成物の各成分の原料の空欄部分は、当該原料が含有されていないことを表す。即ち、空欄部分の原料の含有量は0質量%である。
【0088】
注3)表1-1、表1-2の参考例1~4の組成物の成分(D)及び比較例1の組成物の成分(C)、(D)は、各原料が含有されていないことを表す。そのため、当該成分(C)、(D)の全体の含有量を「0」(質量%)として表記した。
【0089】
注4)表1-2の比較例2、3では、組成物の各成分の原料の含有量を表すのに代えて、処理剤(比較例2)又は組成物とその施工方法(比較例3)を記載した。
【0090】
注5)表1-1の参考例8の成分(A)の「X-40-2327」製品:30質量部中には、成分(B)の反応触媒「X-40-2309A」が9質量部含有されている。
【0091】
[ポリッシャ条件、バフ種類の検討]
実施例5に記した表面処理用組成物を用い、表2の実施例13~20及び比較例4に示す種々の条件で試験体にポリッシュ処理を行った。前記試験体としては、乗用車として使用していた自動車(本田技研工業株式会社製、エアウェイブ(黒色、2007~2016年の期間継続して乗用、走行距離106,000km))の車体表面塗装部全体を用いた。当該自動車は、車体表面塗装部全体にわたって細かな擦過傷と雨染みが均一に多量認められる状態であった。この車体表面の塗装部を30cm×30cmの寸法で区切り、各区画に対して表2に示した条件で前記の表面処理用組成物によるポリッシュ処理を適用した。なお当該処理後5分経過するまでの間に、表面を乾いた清浄なマイクロファイバークロス(スリーボンド6649G)にて満遍なく拭き取った後、処理後の各部について以下の項目を評価し、その結果を表2中に記載した。なお、当該評価で用いたポリッシャの種類と製品名は以下の通りである。
【0092】
・リョービPED-130:リョービ株式会社製、電動ダブルアクションポリッシャ
・マキタPV7001C:株式会社マキタ製、電動シングルアクションポリッシャ
・リョービPEG-130:リョービ株式会社製、電動ギアアクションポリッシャ
・コンパクトツールP-150N:コンパクト・ツール株式会社製、電動ダブルアクションポリッシャ
・コンパクトツールMODEL942:コンパクト・ツール株式会社製、エアー駆動式ミニダブルアクションサンダー
・コンパクトツールMODEL813:コンパクト・ツール株式会社製、エアー駆動式オービタルサンダー。
【0093】
上記、「電動」、「エアー駆動式」はそれぞれ駆動源が電力であるか空気圧であるかを表し、「シングルアクション」「ダブルアクション」「ギアアクション」はそれぞれ前述の駆動方式を表す。「ミニ」は駆動部の寸法が通常のものより小径であることを表し、「オービタルサンダー」は振動しながら偏心運動する駆動方式のものであることを表す。
【0094】
[研磨効率]
前記試験体の処理部における擦過傷が、目視による観察でほとんど見られなくなるまでに必要な時間で以て研磨効率の評価を行った。結果は以下の評価基準に従い、表2中に併せて記載した:
評価結果が不可・・・5分超かかる、×として表記した
評価結果が可・・・1~5分の範囲、○として表記した
評価結果が良・・・1分未満、◎として表記した。
【0095】
なお当該評価は、目視で処理部の傷がほぼ見えなくなった時点で乾布による拭き取りを行って詳細に表面状態を観察し、微細な傷の残存が確かめられたら再度ポリッシュ処理を行う、という工程で実施し、実際にポリッシュ処理を行った時間の合計で評価した。
【0096】
[作業容易性]
実際の作業者が、車体を傷つけることなくポリッシャを塗布に適正な位置に保つ制御がしやすいかどうかの評価を行った。結果は以下の評価基準に従い、表2中に併せて記載した:
評価結果が良・・・制御に必要な労力が小さく疲労を感じにくい場合、◎として表記した
評価結果が可・・・制御に必要な労力が大きく疲労を感じやすいが制御が可能な場合、○として表記した
評価結果が不可・・・制御が不可能な場合もしくは制御に必要な労力が著しく大きく疲労が大きい場合、×として表記した。
【0097】
[撥水性]
前記各条件で処理を行った塗装表面に対し、処理後1時間経過してからハンドスプレーにより水道水を10ml噴射し、撥水の様子を目視で観察し、評価を行った。結果は以下の評価基準に従い、表2中に併せて記載した:
評価結果が良・・・当該噴射された箇所の水滴形状が円形となっており、速やかに滴下する状態であれば優れた撥水性と判断し、◎として表記した
評価結果が不可・・・当該噴射された箇所の水滴形状が円形とならず、速やかに滴下しないものは撥水性に劣ると判断し、×として表記した。
【0098】
【0099】
表2中、当接部材のスポンジバフ及びファイババフは、上記表1と同様のものを用いた。但し、ファイババフにおいて(*)を付したものは、土台のポリウレタン製スポンジの厚さを30mmに代えて10mmとしたものである。
【0100】
表1の結果から、参考例1~4の、本発明の表面処理方法を用いる、すなわちポリッシュ処理により表面処理用組成物を施工した場合、傷消し性、雨染み除去性が良好で、なおかつ初期及び耐久試験後の接触角がいずれも十分な値となっていることがわかった。このことから防汚性、耐久防汚性にも優れていることが確認された。他方で比較例1~2のように、本発明の表面処理用組成物を用いない表面処理方法の場合では、雨染み除去性が不十分であるため、十分に汚れを落とす性能が不足していることがわかる。さらに比較例2では、耐久試験後の接触角が不十分なものとなっていることから、耐久防汚性においても必要な特性を満たさないものであることがわかる。比較例3のように、本発明の表面処理方法によらない場合、雨染み除去性が不十分であるため、十分に汚れを落とす性能が不足していることがわかる。実施例5、参考例6~8、実施例9~11および参考例12によると、本発明で用いる表面処理用組成物中に(D)をさらに含ませても使用可能であることが確認でき、また様々な種類と組成比で(A)、(B)、(C)、(D)の各成分を組み合わせても、本発明の範囲内であれば、各特性が高い性能でバランスが取れた、優れた機能を発揮するものであることがわかる。
【0101】
さらに、表2の結果から、実施例13~20によれば、本発明の表面処理方法を用いると、自動車表面塗装面に代表される設備、構造物に対し、様々な種類と条件のポリッシャ、あるいはバフ等の当接部材の適用が可能であることが確認された。これにより、本発明の表面処理方法の有用性が示された。他方で比較例4のように本発明の表面処理方法によらない場合、撥水性は問題ないものの、研磨効率と作業容易性がいずれも不十分で有り、作業効率を高められる方法ではないことが確認された。
【0102】
なお
図1には、実施例14での処理を行う前後の自動車表面塗装部を撮影した写真を掲示しており、aが処理前、bが処理後の状態を示している。該写真中の白い点は、外観検査用のためのLEDライトの映り込みである。処理前の状態であるaは全体に小キズが多く、また表面のシミ状の汚れや小キズによる光の乱反射によって全体的に白く霞んだ状態であり、かつ前記LEDライトの映り込みの輪郭が不明瞭で写像性に欠けていることが認められる。処理後の状態であるbは、前記小キズが見えなくなり、乱反射が抑えられるためより漆黒で深い艶のある表面状態となっている。また前記LEDライトの輪郭が明瞭で、写像性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の表面処理方法は、自動車の車体等や種々の建築構造物部材、設備部材等に用いられている基材表面に対し、作業者の力量依存度の少ない簡易な施工により、美観の向上と耐久性に優れた被膜の形成を一度に実現することができる、極めて有用なものである。
【0104】
本出願は、2017年6月15日に出願された日本国特許出願第2017-117664号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。