(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】ボールエンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20220907BHJP
【FI】
B23C5/10 B
(21)【出願番号】P 2021570109
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2021000500
(87)【国際公開番号】W WO2021141116
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2020002442
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】居原田 有輝
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074542(WO,A1)
【文献】特開2005-205593(JP,A)
【文献】特開2018-126832(JP,A)
【文献】特開2007-260856(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168341(WO,A1)
【文献】特開2018-199198(JP,A)
【文献】特開2010-201607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられるエンドミル本体と、前記エンドミル本体の少なくとも先端部の表面に被覆される硬質皮膜とを備えるボールエンドミルであって、
前記エンドミル本体の先端部外周に、前記エンドミル本体の先端逃げ面に開口して後端側に延びる2つの切屑排出溝が前記軸線に関して回転対称に形成され、
前記2つの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面と、前記先端逃げ面とのそれぞれの交差稜線部に、前記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する凸半球面状の底刃が形成されており、
前記軸線回りの回転軌跡において前記底刃がなす凸半球面の直径D(mm)が2mm以下であり、
前記切屑排出溝は、前記軸線方向先端側から見て、該軸線を間にして互いに重なり合うことなく反対側に行き違っていて、行き違った前記切屑排出溝同士の間に残されたチゼル部の幅W(mm)の前記直径D(mm)に対する比W/Dが0.020~0.060の範囲内とされるとともに、前記切屑排出溝同士の行き違い量L(mm)の前記直径D(mm)に対する比L/Dが0.014~0.090の範囲内とされ、
前記チゼル部においてチゼルエッジが形成された範囲における前記底刃のすくい角が-15°~-30°の範囲内とされていることを特徴とするボールエンドミル。
【請求項2】
前記先端逃げ面は、前記底刃からエンドミル回転方向の反対側に向かうに従い逃げ角が大きくなる複数の逃げ面部によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のボールエンドミル。
【請求項3】
前記先端
逃げ面は、前記底刃からエンドミル回転方向の反対側に向かって並ぶ第1逃げ面部と第2逃げ面部とを有し、
前記第1逃げ面部の逃げ角は、5°以上10°以下であることを特徴とする請求項2に記載のボールエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールエンドミルに関する。
本発明の実施形態は、軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられるエンドミル本体の先端部外周に、エンドミル本体の先端逃げ面に開口して後端側に延びる2つの切屑排出溝が軸線に関して回転対称に形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面と、エンドミル本体の先端逃げ面との交差稜線部に、軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する凸半球面状の切刃が形成されたボールエンドミルに関するものである。
本願は、2020年1月9日に、日本に出願された特願2020-002442号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
このようなボールエンドミルとして、例えば特許文献1には、軸線回りに回転されるエンドミル本体(工具本体)の外周に一対の螺旋状の外周刃を備えるとともに、工具本体の先端部に正面視で円弧状に形成され外端部を外周刃に連絡された一対の底刃(R切削刃)を備え、各R切削刃における工具本体の中心側の端部間にチゼルエッジを設けたボールエンドミルにおいて、各R切削刃の工具本体の中心側における芯上がり厚さを工具半径の1.5%~8.0%、チゼルエッジのチゼル角度を30°~90°とし、各R切削刃の逃げ面に、逃げ角を2°~7°、逃げ幅を工具半径の0.3%~4.0%に設定したスモールリリーフを設けたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1には、エンドミル本体の母材の材質として、一般的な超硬合金のほかに、CBN焼結体やダイヤモンド焼結体を使用することも記載されている。ところが、このようなCBN焼結体やダイヤモンド焼結体を母材とするボールエンドミルは、高硬度であって長寿命な反面、高価である。
【0005】
その一方で、近年では、硬質皮膜の改良が行われている。高硬度材の切削加工においてCBN焼結体工具に匹敵する耐摩耗性を有する硬質皮膜が被覆された超硬合金を母材とする被覆切削工具が開発されてきている。耐摩耗性に優れる硬質皮膜をボールエンドミルのエンドミル本体の底刃が形成された少なくとも先端部の表面に被覆することによって、高硬度の被削材に対しても比較的長期に亙って安定した切削加工を行うことが可能となる。
【0006】
硬質皮膜は、エンドミル本体の先端部表面にしっかりと被覆されている状態では、安定した切削加工が可能である。しかし、硬質皮膜が表面から剥離して母材が露出すると、母材が露出した部分から一気にエンドミル本体が摩耗して寿命を迎えてしまう。特に、軸線回りの回転軌跡において底刃がなす凸半球面の直径D(mm)が例えば2mm以下の小径のボールエンドミルでは、底刃の回転速度が小さくなるため切削負荷が高くなり、硬質皮膜に剥離が発生し易い。
【0007】
底刃の直径が2mm以下の小径のボールエンドミルのうちでも、エンドミル本体の軸線がエンドミル本体先端部でチゼル部に交差するボールエンドミルでは、チゼル部に交差した軸線の周辺において回転速度が0になる。そのため、チゼル部の形状や寸法を硬質皮膜が剥離し難いものにしなければ、長期に亙って安定した切削加工を行うことが困難となる。
【0008】
本発明は、底刃の直径が2mm以下の小径のボールエンドミルにおいても、特にチゼル部における硬質皮膜の剥離の発生を抑制することができ、確実に長期に亙って安定した切削加工を行うことが可能なボールエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によるボールエンドミルは、軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられるエンドミル本体と、前記エンドミル本体の少なくとも先端部の表面に被覆される硬質皮膜とを備えるボールエンドミルである。前記エンドミル本体の先端部外周に、上記エンドミル本体の先端逃げ面に開口して後端側に延びる2つの切屑排出溝が上記軸線に関して回転対称に形成される。前記2つの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面と、上記先端逃げ面とのそれぞれの交差稜線部に、上記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する凸半球面状の底刃が形成される。上記軸線回りの回転軌跡において上記底刃がなす凸半球面の直径D(mm)が2mm以下である。上記切屑排出溝は、上記軸線方向先端側から見て、該軸線を間にして互いに重なり合うことなく反対側に行き違っている。行き違った上記切屑排出溝同士の間に残されたチゼル部の幅W(mm)の上記直径D(mm)に対する比W/Dが0.020~0.060の範囲内とされる。上記切屑排出溝同士の行き違い量L(mm)の上記直径D(mm)に対する比L/Dが0.014~0.090の範囲内とされる。上記チゼル部においてチゼルエッジが形成された範囲における上記底刃のすくい角が-15°~-30°の範囲内とされる。
【0010】
このように構成されたボールエンドミルでは、切屑排出溝が軸線方向先端側から見て、軸線を間にして互いに重なり合うことなく反対側に行き違っている。行き違った切屑排出溝同士の間に残されたチゼル部の幅W(mm)の上記直径(底刃の直径)D(mm)に対する比W/Dが0.020~0.060の範囲内とされる。切屑排出溝同士の行き違い量L(mm)の上記直径D(mm)に対する比L/Dが0.014~0.090の範囲内とされる。これらの構成により、チゼル部の幅Wとチゼル部の長さである行き違い量Lとに、必要以上に大きくなりすぎることのない範囲で、十分な大きさを確保することができる。このため、チゼル部における硬質皮膜の剥離を抑制することが可能となり、高硬度な被削材に対しても切刃のチッピングや欠損等を防いで長期に亙って確実に安定した切削加工を行うことができる。
【0011】
上記構成では、比W/Dをある程度大きくして、チゼルエッジの回転方向後方への皮膜の延在距離(奥行)を適度に確保することで、チゼル部の皮膜の母材への密着が保たれ、皮膜が母材から早急に剥離することを抑制できる。かつ、比W/Dを所定の範囲に抑え、チゼルエッジの回転方向後方への皮膜の延在距離(奥行)を適度に抑えることで、チゼル部の皮膜にかかる切削負荷が増大することを緩和し、チゼル部の皮膜が母材からの剥離に十分に耐えるようにする。その結果、チゼル部のチッピングや欠損を抑制することができる。
チゼル部の幅W(mm)の上記直径D(mm)に対する比W/Dが0.020を下回ると、チゼル部が幅狭となりすぎて硬質皮膜を十分な厚さで被覆することができなくなる。切削負荷によるチッピングが生じるおそれがある。また、比W/Dが0.060を上回ると、チゼル部において硬質皮膜が厚くなりすぎて回転軌跡が軸線上に中心を有する凸半球面から突出してしまい、被削材の加工面精度の低下を招くおそれがある。切屑排出溝の容量が小さくなるために切屑排出性が損なわれてしまうおそれがある。
【0012】
上記構成では、比L/Dをある程度の大きさに抑えることで、行き違った2つの切屑排出溝同士の間に残されて薄肉となるチゼル部が長くなり過ぎないようにして、皮膜が母材から早急に剥離することを抑制している。かつ、比L/Dをある程度大きくすることで、チゼルエッジ付近の切屑排出性も得られ、チゼル部付近に切屑が滞留することによる皮膜の剥離も抑制することができる。その結果、チゼル部のチッピングや欠損を抑制することができる。
チゼル部の長さとなる切屑排出溝同士の行き違い量L(mm)の上記直径D(mm)に対する比L/Dが0.014を下回っても、切屑排出溝の容量が小さくなるために切屑排出性を損なうおそれがある。また、比L/Dが0.090を上回ると、行き違った2つの切屑排出溝同士の間に残されて薄肉となるチゼル部が長くなる。硬質皮膜が被覆されていてもエンドミル本体の母材部分の強度が低下して欠損等を生じ易くなる。
【0013】
上記構成によれば、底刃のすくい角をネガ方向に大きくすることで刃物角を大きくし、回転速度が0に近く切削抵抗の大きなチゼル部の強度を向上させ、皮膜の剥離を抑制できる。かつ、底刃のすくい角を、ネガ方向において、ある程度の大きさ以下に抑えることで、切削抵抗が過大となることも抑えて、皮膜の剥離を抑制できる。
上記構成のボールエンドミルでは、チゼル部においてチゼルエッジが形成された範囲における底刃のすくい角が-15°~-30°の範囲内と負角側に大きく設定されている。これにより、チゼル部周辺を含めた底刃の刃物角を大きくすることができる。切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面(すくい面)と先端逃げ面との交差稜線部である底刃の上にも十分な厚さの硬質皮膜を被覆することが可能となる。底刃自体の強度を向上させてチッピングや欠損等が発生するのを防止することができる。
【0014】
底刃のすくい角が-15°よりも正角側に大きいと、刃物角を十分に確保することができなくなる。短時間の切削加工によりすくい面が摩耗してすくい角が極端な負角となるために切削抵抗の増大を招くことになる。エンドミル本体の回転駆動力も増大する。また、底刃のすくい角が-30°よりも負角側に大きいと、切削加工の当初からの切削抵抗が大きくなりすぎてしまい、エンドミル本体の回転駆動力が増大する。
【0015】
なお、このように底刃の刃物角を確保しつつ、切削抵抗の低減を図るには、上記先端逃げ面は、上記底刃からエンドミル回転方向の反対側に向かうに従い逃げ角が大きくなる複数の逃げ面部によって形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、底刃の直径が2mm以下の小径のボールエンドミルにおいても、チゼル部における硬質皮膜の剥離の発生を抑制することが可能となる。高硬度な被削材に対しても切刃にチッピングや欠損等が発生するのを防いで長期に亙って確実に安定した切削加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態の概略を示す側面図である。
【
図2】
図1に示す実施形態の先端部の拡大側面図である。
【
図3】
図1に示す実施形態の先端部を軸線方向先端側から見たときの拡大正面図である。
【
図4】
図3に示す拡大正面図のチゼル部周辺をさらに拡大した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1~
図4は、本発明の一実施形態を示す図である。本実施形態のエンドミルは、
図1に示すエンドミル本体1と、エンドミル本体1の表面に形成される硬質皮膜とを有する。本実施形態において、エンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料によりなる母材から軸線Oを中心とした
図1に示すような多段の概略円柱状に一体形成されている。エンドミル本体1の後端部(
図1および
図2において右側部分)は大径円柱状のシャンク部2とされる。エンドミル本体1の先端部(
図1および
図2において左側部分)はシャンク部2よりも小径の略円柱状の切刃部3とされている。また、シャンク部2と切刃部3との間は、軸線Oを中心とする先細りの円錐台状のテーパーネック部4によって繋がれている。
【0019】
このようなボールエンドミルは、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りに図中に符号Tで示すエンドミル回転方向に回転させられつつ、軸線Oに交差する方向に送り出されることにより、切刃部3に形成された切刃5によって被削材に切削加工を施す。
【0020】
切刃部3の外周部には、エンドミル本体1の先端面である先端逃げ面6に開口して後端側に延びる2つの切屑排出溝7が軸線Oに関して回転対称に形成されている。切屑排出溝7は、エンドミル本体1の後端側に向かうに従い、軸線O回りにエンドミル回転方向Tとは反対側に向かうように螺旋状に捩れて形成されている。なお、エンドミル本体1は、軸線Oに関して180°回転対称形状に形成されている。
【0021】
また、これらの切屑排出溝7の先端部には、先端側に向かうに従いエンドミル本体1の内周側に延びるように、断面略V字の凹溝状のギャッシュ8が形成されている。ギャッシュ8の壁面8aは、切屑排出溝7のエンドミル回転方向Tを向く壁面である。ギャッシュ8のエンドミル回転方向Tを向く壁面8aと先端逃げ面6との交差稜線部には、底刃5aが形成されている。底刃5aは、軸線O回りの回転軌跡が
図2に示すように軸線O上に中心を有する凸半球面状をなす。底刃5aの回転軌跡がなす凸半球面の直径D(mm)は、2mm以下とされている。ただし、底刃5aの直径D(mm)が小さくなりすぎると、後述するチゼル部10の幅W、およびチゼル部10の長さとなる切屑排出溝7同士の行き違い量Lを制御することが困難になる。そのため、底刃5aの直径D(mm)は、0.2mm以上とされるのが望ましい。
【0022】
切刃部3の外周面には、切屑排出溝7のエンドミル回転方向Tとは反対側に連なるように外周逃げ面9が形成されている。外周逃げ面9と、ギャッシュ8よりも後端側の切屑排出溝7のエンドミル回転方向Tを向く壁面との交差稜線部には、切刃5のうちの外周刃5bが形成されている。外周刃5bは、軸線O回りの回転軌跡が、底刃5aの回転軌跡がなす凸半球面の直径D(mm)と等しい直径の軸線Oを中心とした円筒面状をなす。切刃5のうちの外周刃5bは、底刃5aの後端に連なるように形成されている。
【0023】
図3および
図4に示すように、2つの切屑排出溝7の先端部の2つのギャッシュ8同士は、軸線O方向先端側から見て、軸線Oを間にして互いに重なり合うことなく反対側に行き違っている。従って、ギャッシュ8のエンドミル回転方向Tを向く壁面8aの内周部は、
図2に示すように、壁面8aに対向する方向から見た側面視において、軸線Oを越えて延びている。
【0024】
切刃部3の先端内周部には、こうして行き違った2つのギャッシュ8の間にチゼル部10が残されるように形成されている。チゼル部10には、軸線Oに交差するチゼルエッジ10aが形成される。チゼルエッジ10aは、2つの底刃5aのエンドミル回転方向Tとは反対側に連なる2つの先端逃げ面6同士が交差した交差稜線として規定される。
【0025】
先端逃げ面6は、本実施形態では底刃5aからエンドミル回転方向Tとは反対側に向かうに従い逃げ角が段階的に大きくなる第1逃げ面部6aと第2逃げ面部6bの複数(2つ)の逃げ面部により形成されている。2つの逃げ面部のうち第1逃げ面部6a同士の交差稜線にチゼルエッジ10aが形成される。
【0026】
軸線O方向先端側から見て
図4に示すように、2つの切屑排出溝7のギャッシュ8同士の間に残されたチゼル部10の幅W(mm)は、チゼル部10の直径D(mm)に対する比W/Dが0.020~0.060の範囲内となる長さに設定されている。また、チゼル部10の長さである2つの切屑排出溝7のギャッシュ8同士の行き違い量L(mm)は、行き違い量Lの直径D(mm)に対する比L/Dが0.014~0.090の範囲内となる長さに設定されている。
【0027】
チゼル部10の幅W(mm)は、軸線O方向先端側から見て
図4に示すように、行き違った2つの切屑排出溝7のギャッシュ8におけるエンドミル回転方向Tを向く壁面8a同士の間の最も薄い部分の幅とされる。また、2つの切屑排出溝7のギャッシュ8同士の行き違い量L(mm)は、軸線O方向先端側から見て
図4に示すように、チゼル部10側の底刃5aに垂直で、2つのギャッシュ8にエンドミル本体1の外周側から接する互いに平行な2本の直線M同士の間隔とされる。
【0028】
ギャッシュ8のエンドミル回転方向Tを向く壁面8aは、底刃5aから離れて底刃5aの回転軌跡がなす凸半球面の中心側に向かうに従いエンドミル回転方向T側に向かう傾斜面とされている。これにより、チゼル部10においてチゼルエッジ10aが形成された範囲における底刃5aには負のすくい角が与えられている。本明細書における底刃5aのすくい角は、底刃5aに垂直な断面における底刃5aの真のすくい角を意味する。底刃5aのすくい角は-15°~-30°の範囲内とされている。
【0029】
さらにまた、エンドミル本体1の先端部の少なくとも切刃部3の表面には、符号は略するが硬質皮膜が被覆されている。本実施形態では、シャンク部2やテーパーネック部4も含めたエンドミル本体1の全体の表面に、硬質皮膜が被覆されている。本実施形態の硬質皮膜は、被覆温度が比較的低い物理蒸着法を用いて被覆されている。また、物理蒸着法の中でも皮膜の密着性が優れるアークイオンプレーティング法で被覆することが望ましい。硬質皮膜の膜種としては、耐熱性と耐摩耗性に優れる膜種である金属(半金属を含む)の窒化物または炭窒化物が望ましい。具体的には、耐熱性と耐摩耗性に優れる膜種であるAlの含有比率が最も多く、AlとCrの合計の含有比率が90原子%以上の窒化物または炭窒化物よりなる硬質皮膜を被覆することが望ましい。また、硬質皮膜の中でも皮膜組織を微細化した硬質皮膜を被覆することが望ましい。なお、この硬質皮膜は、エンドミル本体1を形成する母材よりも硬度が高い。
【0030】
硬質皮膜としては、例えば特許第6410797号公報に記載されている硬質皮膜が好適に用いられる。上記文献に記載の硬質皮膜は、金属(半金属を含む)元素の総量に対して、アルミニウム(Al)の含有比率が50原子%以上68原子%以下であり、クロム(Cr)の含有比率が20原子%以上46原子%以下であり、ケイ素(Si)の含有比率が4原子%以上15原子%以下である窒化物又は炭窒化物からなる。かつ、金属(半金属を含む)元素、窒素、酸素および炭素の合計を100原子%とした場合の金属(半金属を含む)元素の原子比率(原子%)Aと窒素の原子比率(原子%)Bとが1.03≦B/A≦1.07の関係を満たす。X線回折パターンまたは透過型電子顕微鏡の制限視野回折パターンから求められる強度プロファイルにおいて、面心立方格子構造の(200)面または(111)面に起因するピーク強度が最大強度を示す。
【0031】
なお、硬質皮膜の膜厚は、1.0μm以上であることが望ましく、2.0μm以上であることがより望ましい。また、硬質皮膜の膜厚は、3.0μm以下であることが望ましい。さらに、特許第6410797号公報に記載されているように、硬質皮膜の上には、保護皮膜が被覆されていてもよい。保護皮膜は、金属(半金属を含む)元素の総量に対して、Tiの含有比率が50原子%以上であり、Siの含有比率が1原子%以上30原子%以下である窒化物又は炭窒化物からなる膜である。保護皮膜を被覆することで、高硬度な被削材に対しても耐摩耗性をより高めることができる。
【0032】
また、硬質皮膜は、特許第6410797号公報に記載されている被覆方法によってエンドミル本体1の表面に被覆することができる。上記文献に記載の被覆方法は以下の工程を有する。金属(半金属を含む)元素の総量に対して、アルミニウム(Al)の含有比率が55原子%以上70原子%以下であり、クロム(Cr)の含有比率が20原子%以上35原子%以下であり、ケイ素(Si)の含有比率が7原子%以上20原子%以下である合金ターゲットをカソードに設置する。基材に印加するバイアス電圧が-220V以上-60V以下、かつ、カソード電圧が22V以上27V以下である条件、または、基材に印加するバイアス電圧が-120V以上-60V以下、かつ、カソード電圧が28V以上32V以下である条件にて、アークイオンプレーティング法により、窒化物又は炭窒化物を基材の表面に被覆することで、基材の表面に硬質皮膜を形成する。
【0033】
本実施形態のボールエンドミルでは、切屑排出溝7のギャッシュ8がエンドミル本体1の軸線O方向先端側から見て、軸線Oを間にして互いに重なり合うことなく反対側に行き違っている。行き違った切屑排出溝同士の間に残されたチゼル部の幅W(mm)の直径(底刃5aの直径)D(mm)に対する比W/Dが0.020~0.060の範囲内とされる。切屑排出溝7のギャッシュ8同士の行き違い量L(mm)の直径D(mm)に対する比L/Dが0.014~0.090の範囲内とされる。本実施形態のボールエンドミルによれば、チゼル部10の幅Wとチゼル部10の長さである行き違い量Lとに、必要以上に大きくなりすぎることのない範囲において、十分な大きさを確保することができる。
【0034】
このため、切刃5(底刃5a)の直径が2mm以下と小さく、特に回転速度が遅くなるために切削負荷が大きくなるチゼル部10の周辺において硬質皮膜の剥離を抑制することが可能となる。従って、高硬度な被削材に対しても切刃5(底刃5a)にチッピングや欠損等が発生するのを防ぐことができ、長期に亙って確実に安定した切削加工を行うことが可能となる。
【0035】
チゼル部10の幅W(mm)の直径D(mm)に対する比W/Dは、大きすぎても小さすぎても硬質皮膜の剥離が生じやすくなる。そのため、比W/Dを適切な範囲とすることが工具寿命を高める上で重要である。本実施形態では、比W/Dをある程度大きくして、チゼルエッジ10aのエンドミル回転方向T後方への硬質皮膜の延在距離(奥行)を適度に確保することで、チゼル部10における硬質皮膜のエンドミル本体1(母材)への密着が保たれる。これにより、硬質皮膜が母材から早急に剥離することを抑制できる。かつ、比W/Dを所定の範囲に抑え、チゼルエッジ10aのエンドミル回転方向T後方への硬質皮膜の延在距離(奥行)を適度な範囲に抑えることで、チゼル部10の硬質皮膜にかかる切削負荷が増大することを緩和し、チゼル部10の硬質皮膜が母材からの剥離に十分に耐えるようにしている。その結果、チゼル部10のチッピングや欠損を抑制することができる。
チゼル部10の幅W(mm)の直径D(mm)に対する比W/Dが0.020を下回ると、チゼル部10が幅狭となりすぎて硬質皮膜を十分な厚さで被覆することができなくなる。エンドミル本体1の母材が早期に露出して切削負荷によるチッピングが生じるおそれがある。一方、比W/Dが0.060を上回ると、チゼル部10において硬質皮膜が厚くなりすぎる。軸線O回りの回転軌跡が軸線O上に中心を有する半凸球面から突出してしまい、被削材の加工面精度の低下を招くおそれがある。また、切屑排出溝7の容量が小さくなるので、切屑排出性が損なわれて切屑詰まりが発生するおそれも生じる。
【0036】
さらに、ギャッシュ8同士の行き違い量L(mm)の直径D(mm)に対する比L/Dも、大きすぎても小さすぎても硬質皮膜の剥離が生じやすくなる。そのため、上記した比W/Dに加えて、比L/Dを適切な範囲とすることも工具寿命を高める上で重要である。本実施形態では、比L/Dをある程度の大きさに抑えることで、行き違った2つの切屑排出溝7同士の間に残されて薄肉となるチゼル部10が長くなり過ぎないようにして、硬質皮膜が母材から早急に剥離することを抑制している。かつ、比L/Dをある程度大きくすることで、チゼルエッジ10a付近において良好な切屑排出性も得られ、チゼル部10付近に切屑が滞留することによる硬質皮膜の剥離も抑制することができる。その結果、チゼル部10のチッピングや欠損を抑制することができる。
チゼル部10の長さである切屑排出溝7のギャッシュ8同士の行き違い量L(mm)の直径D(mm)に対する比L/Dが0.014を下回っても、切屑排出溝の容量が小さくなるために切屑排出性を損なうおそれがある。一方、比L/Dが0.090を上回ると、行き違った2つの切屑排出溝7のギャッシュ8同士の間に残されて薄肉となるチゼル部10が長くなる。硬質皮膜が被覆されていてもエンドミル本体1の母材部分の強度が低下して欠損等を生じ易くなる。
【0037】
本実施形態において、チゼル部10においてチゼルエッジ10aが形成された範囲における底刃5aのすくい角も、大きすぎても小さすぎても硬質皮膜の剥離が生じやすくなる。そのため、上記した比W/Dおよび比L/Dに加えて、底刃5aのすくい角を適切な範囲とすることも工具寿命を高める上で重要である。本実施形態では、底刃5aのすくい角をネガ方向に大きくすることで刃物角を大きくし、回転速度が0に近く切削抵抗の大きなチゼル部の強度を向上させ、皮膜の剥離を抑制できる。かつ、底刃のすくい角を、ネガ方向において、ある程度の大きさ以下に抑えることで、切削抵抗が過大となることも抑えて、皮膜の剥離を抑制できる。
また、上記構成のボールエンドミルにおいては、チゼル部10においてチゼルエッジ10aが形成された範囲における底刃5aのすくい角(真のすくい角)が-15°~-30°の範囲内と負角側に大きく設定されている。このため、チゼル部10における底刃5aの刃物角を大きく確保することができる。チゼル部10は、切屑排出溝7のギャッシュ8のエンドミル回転方向を向く壁面8a(すくい面)と先端逃げ面6との交差稜線部である。チゼル部10においてチゼルエッジ10aが形成された範囲における底刃5aの上にも十分な厚さの硬質皮膜を被覆することが可能となるとともに、底刃5a自体の強度を向上させることができる。底刃5aにチッピングや欠損等が発生するのを防止すること可能となる。
【0038】
ここで、チゼル部10においてチゼルエッジ10aが形成された範囲における底刃5aのすくい角が-15°よりも正角側に大きいと、底刃5aの刃物角を十分に確保することができなくなる。短時間の切削加工によって壁面8a(すくい面)が摩耗してすくい角が極端な負角となるために切削抵抗の増大を招くことになり、エンドミル本体1の回転駆動力も増大する。また、チゼル部10においてチゼルエッジ10aが形成された範囲における底刃5aのすくい角が-30°よりも負角側に大きいと、切削加工の当初からの切削抵抗が大きくなりすぎてしまう。エンドミル本体1の回転駆動力が増大する結果となる。なお、底刃5aのすくい角は、チゼル部10から外周刃5b側に向けては漸次変化していてもよい。外周刃5b側の底刃5aのすくい角は負角でもよいし、正角でもよい。
【0039】
さらに、本実施形態では、先端逃げ面6が、底刃5aからエンドミル回転方向Tの反対側に向かうに従い逃げ角が大きくなる複数(2つ)の第1、第2逃げ面部6a、6bによって形成されている。このため、第1逃げ面部6aによって底刃5aの刃物角をさらに大きく確保して強度を一層向上させつつ、逃げ角の大きな第2逃げ面部6bによって切削抵抗の確実な低減を図ることができる。なお、第1逃げ面部6aの逃げ角が小さすぎると加工面粗さが低下するので、第1逃げ面部6aの逃げ角は5°~10°の範囲内であることが好ましい。第1逃げ面部6aの逃げ角は7°~10°の範囲内であることが望ましい。また、第2逃げ面部6bの逃げ角は、10°~20°の範囲内であることが望ましい。
【実施例】
【0040】
[第1実施例]
(実施例1,2)
次に、本発明の実施例を挙げて、特に本発明におけるチゼル部10の幅W(mm)の直径D(mm)に対する比W/Dと、切屑排出溝7(ギャッシュ8)同士の行き違い量L(mm)の直径D(mm)に対する比L/Dの効果について実証する。本実施例では、上述した実施形態に基づいた底刃5aの直径D(mm)が0.6mm、チゼル部10においてチゼルエッジ10aが形成された範囲における底刃5aのすくい角が-20°のボールエンドミルにおいて、比W/Dを0.023、比L/Dを0.075としたボールエンドミルと、比W/Dを0.045、比L/Dを0.077としたボールエンドミルとを製造した。これらを順に実施例1、2とする。
【0041】
(実施例3,4)
また、上述した実施形態に基づいた底刃5aの直径D(mm)が0.6mmのボールエンドミルにおいて、チゼル部10においてチゼルエッジ10aが形成された範囲における底刃5aのすくい角が-25°であり、比W/Dを0.040、比L/Dを0.052としたボールエンドミルと、チゼル部10においてチゼルエッジ10aが形成された範囲における底刃5aのすくい角が-15°であり、比W/Dを0.040、比L/Dを0.052としたボールエンドミルとを製造した。これらを順に実施例3、4とする。なお、これら実施例1~4のボールエンドミルでは、第1逃げ面部6aの逃げ角は6°、第2逃げ面部6bの逃げ角は14°であった。
【0042】
(比較例1~6)
一方、これら実施例1~4に対する比較例として、実施例1、2と同じく底刃の直径D(mm)が0.6mm、チゼル部においてチゼルエッジが形成された範囲における底刃のすくい角が-20°のボールエンドミルを6本製造した。比較例のボールエンドミルは、比W/Dを0.020よりも小さい0.007として比L/Dは0.067としたボールエンドミルと、比W/Dを0.060よりも大きい0.070として比L/Dは0.052としたボールエンドミルと、比W/Dは0.040として比L/Dを0.014よりも小さい0.010としたボールエンドミルと、比W/Dは0.040として比L/Dを0.090よりも大きい0.100としたボールエンドミルと、比W/Dを0.020よりも小さい0.012として比L/Dは0.048としたボールエンドミルと、比W/Dを0.020よりも小さい0.008として比L/Dは0.022としたボールエンドミルである。これらを順に比較例1~6とする。
【0043】
(比較例7)
さらに、実施例1~4に対する比較例として、実施例1~4および比較例1~6と同じく底刃の直径D(mm)が0.6mmのボールエンドミルにおいて、チゼル部においてチゼルエッジが形成された範囲における底刃のすくい角が-5°であり、比W/Dを0.040として比L/Dは0.052としたボールエンドミルも製造した。これを比較例7とする。なお、これら比較例1~7のボールエンドミルにおいても、第1逃げ面部6aの逃げ角は6°、第2逃げ面部6bの逃げ角は14°であった。
【0044】
(切削試験および損傷観察)
実施例1~4および比較例1~7のボールエンドミルにより、硬度64HRCのASP23よりなる被削材に8mm×8mmの正方形の底面を有する凹部を切削する切削加工を30分間行い、その際のボールエンドミルの切削状況と損傷状況を観察した。切削条件は、エンドミル本体1の回転数40000min-1、回転速度75m/min、切削速度800mm/min、1刃当たりの送り量0.01mm/t、軸方向切り込み深さ0.005mm、半径方向切り込み深さ0.01mmで、クーラントとしてミストをブローして切削加工を行った。
【0045】
実施例1~4および比較例1~7のボールエンドミルでは、エンドミル本体の表面に共通組成の硬質皮膜を形成した。硬質皮膜としては、上述した特許第6410797号公報に記載されたもの(AlCrSiN)を平均膜厚2μmで被覆し、その上に保護皮膜として同じく特許第6410797号公報に記載されたもの(TiSiN)を平均膜厚1μmで被覆した。
【0046】
損傷観察の結果、比W/Dが0.020よりも小さい0.007であった比較例1のボールエンドミル、比W/Dが0.020よりも小さい0.012であった比較例5のボールエンドミル、比W/Dが0.020よりも小さい0.008であった比較例6のボールエンドミルでは、底刃の特にチゼル部にチッピングが生じていた。また、比W/Dが0.060よりも大きい0.070であった比較例2のボールエンドミルでは、切屑排出性が低下してエンドミル本体の回転駆動力が増大するとともに、被削材に形成された凹部の底面の加工面精度が悪化していた。
【0047】
比L/Dが0.014よりも小さい0.010であった比較例3のボールエンドミルでも、切屑排出性の低下によるエンドミル本体の回転駆動力の増大が認められた。比L/Dが0.090よりも大きい0.100であった比較例4のボールエンドミルでは、底刃の特にチゼル部周辺における強度の低下によってエンドミル本体に欠損が発生しているのが認められた。
【0048】
また、チゼル部においてチゼルエッジが形成された範囲における底刃のすくい角が-5°の比較例7のボールエンドミルでは、刃先強度が低下したために早期にチッピングが生じた。これら比較例1~7のボールエンドミルに対して、実施例1~4のボールエンドミルでは、底刃5aを含めた切刃5のチッピングや欠損は認められず、安定した正常摩耗であった。
【0049】
(実施例5,6)
次に、実施例1のボールエンドミルを基本として、第1逃げ面部6aの逃げ角を3°としたボールエンドミルと、第1逃げ面部6aの逃げ角を9°としたボールエンドミルとを製造した。これらを順に実施例5、6とする。実施例5、6のボールエンドミルと実施例1のボールエンドミルとにより、仕上げ加工における加工面粗さの評価として、上述した切削条件と同じ条件で切削加工を60分行い、その際の被削材の凹部の底面の加工面粗さを測定した。
【0050】
その結果、実施例1、5、6のいずれのボールエンドミルでも、60分加工後の被削材の加工面粗さRz(μm)は0.3μm程度であった。第1逃げ面部6aの逃げ角が3°の実施例5のボールエンドミルでは、送り速度が低くなる箇所で第1逃げ面部6aが長く擦れて加工面が部分的に荒れている箇所があるのが認められた。一方、第1逃げ面部6aの逃げ角が9°の実施例6のボールエンドミルでは、均一な加工面が形成されているのが認められた。従って、上述したように、第1逃げ面部6aの逃げ角は5°~10°の範囲内であることが望ましいことが分かる。第1逃げ面部6aの逃げ角が7°~10°の範囲であれば、加工面の品位をさらに高めることができる。
【0051】
[第2実施例]
(市販品との比較)
さらに、実際の金型の加工を想定して、市場で流通している底刃の直径D(mm)が0.6mm、チゼル部においてチゼルエッジが形成された範囲における底刃のすくい角が-18°であり、比W/Dが0.035、比L/Dが0.070とされたCBNボールエンドミルと、実施例1のボールエンドミルとを用いた切削試験と、摩耗量測定を行った。切削試験は、硬度64HRCのASP23よりなる被削材に縦4mm、横73mm、深さ1.5mmで底面の隅部に半径0.5mmの凹曲面を有するポケット形状の凹部を2つ仕上げ加工する切削加工を行い、その際の被削材の加工精度を1つ目と2つ目の凹部で比較する評価を行った。摩耗量測定は、切削加工後のボールエンドミルの逃げ面摩耗を測定した。
【0052】
なお、切削条件は、第1実施例の切削条件と同じく、エンドミル本体1の回転数40000min-1、回転速度75m/min、切削速度800mm/min、1刃当たりの送り量0.01mm/t、軸方向切り込み深さ0.005mm、半径方向切り込み深さ0.01mmで、クーラントとしてミストをブローして切削加工を行った。
【0053】
その結果、凹部の縦壁部の削り量は、実施例1のボールエンドミルでは、1つ目が0.012mmであり、2つ目が0.014mmであった。これに対し、CBNボールエンドミルでは、凹部の縦壁部の削り量は、1つ目が0.012mmであり、2つ目は0.016mmであった。また、1つ目と2つ目の凹部の底面の削り残し量の差は、実施例1のボールエンドミルでは、直線部と隅部で0.001mmであった。これに対し、CBNボールエンドミルでは、1つ目と2つ目の凹部の底面の削り残し量の差は、直線部で0.002mm、隅部では0.003mm~0.005mmであった。
【0054】
さらに、底面の加工面粗さは、実施例1のボールエンドミルでは、1つ目の加工面粗さRz(μm)は0.5μm、2つ目の加工面粗さRz(μm)が0.69μmであった。これに対し、CBNボールエンドミルでは、底面の加工面粗さは、1つ目の加工面粗さRzが0.62μm、2つ目の加工面粗さRzが2.20μmであった。なお、逃げ面摩耗幅は、実施例1のボールエンドミルが0.017mmであり、CBNボールエンドミルは0.029mmであった。これらの結果より、本発明に係わる実施例1のボールエンドミルでは、市場に流通しているCBNボールエンドミルと比べても遜色がない、あるいは優れた加工精度と耐摩耗性が得られていることが分かる。
【0055】
【符号の説明】
【0056】
1 エンドミル本体
2 シャンク部
3 切刃部
4 テーパーネック部
5 切刃
5a 底刃
5b 外周刃
6 先端逃げ面
6a 第1逃げ面部
6b 第2逃げ面部
7 切屑排出溝
8 ギャッシュ
8a 切屑排出溝7(ギャッシュ8)のエンドミル回転方向Tを向く壁面(底刃5aの
すくい面)
9 外周逃げ面
10 チゼル部
10a チゼルエッジ
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
D 軸線O回りの回転軌跡において底刃5aがなす凸半球面の直径
W チゼル部10の幅
L 切屑排出溝7(ギャッシュ8)同士の行き違い量