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特許7137183がんの治療又は予防用医薬および癌のバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】がんの治療又は予防用医薬および癌のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20220907BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20220907BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220907BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220907BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220907BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220907BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C12N15/113 110Z
C12N15/85 Z ZNA
C12N15/11 Z
A61K31/7105
A61K31/713
A61K48/00
A61P35/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018058289
(22)【出願日】2018-03-26
(65)【公開番号】P2019165706
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
(72)【発明者】
【氏名】高山 賢一
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/026843(WO,A1)
【文献】特開2016-044130(JP,A)
【文献】BMC Cancer,2011年,Vol. 11:169,P. 1-9
【文献】Oncotarget,2017年,Vol. 8, No. 4,P. 6114-6129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
A61K 31/7105
A61K 31/713
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7のセンス鎖及び配列番号8のアンチセンス鎖を含む二本鎖核酸、又は配列番号9のセンス鎖及び配列番号10のアンチセンス鎖を含む二本鎖核酸
記二本鎖核酸をコードする塩基配列を含む、DNA、及び
前記DNAを含む、発現ベクター、
からなる群から選んだ少なくとも1つの有効成分を含む、前立腺癌細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載の癌細胞増殖抑制剤を含む、前立腺癌の治療又は予防用医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COBLL1を標的とする二本鎖核酸、それをコードするDNA、前記DNAを含む発現ベクターに関し、また、これらの少なくとも1つを有効成分として含む癌細胞増殖抑制剤、前記癌細胞増殖抑制剤を含む癌の治療又は予防用医薬に関し、更には、前立腺癌の予後または進行を判定する検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は欧米において男性が罹患する最も頻度の高い癌である。日本においても、食生活の欧米化及び人口の高齢化に伴い、前立腺癌の患者数は飛躍的に増加している。その治療技術として臨床的には前立腺摘出術を始めとする外科的治療、抗癌剤による化学療法および放射線治療が広く応用されている。外科的治療が第一選択であるがすでに癌の進行した状態で診断されたとき、外科手術後の再発などにより手術が困難な場合において外科的治療以外の治療法が選択される。一般に前立腺癌の増殖はアンドロゲンにより刺激される。そのためアンドロゲン産生、機能を阻害するホルモン療法がしばしば行われる。その効果は極めてよいものの数年以内に去勢抵抗性前立腺癌(Castration-Resistant Prostate Cancer;CRPC)として再燃することが問題となる。そのため去勢抵抗性癌の制御が最も重要な課題となっている。
【0003】
アンドロゲン依存性癌から去勢抵抗性癌への進行の詳細な分子メカニズムはいまだ明らかでないが、アンドロゲン受容体(Androgen receptor;AR)の関与が示唆されている。すなわち去勢抵抗性癌は、アンドロゲン受容体の変異やスプライシング変異体、あるいは増幅により、超低濃度のアンドロゲン、抗アンドロゲン剤、その他のステロイドホルモンなどに感受性を示すことが示唆されている。このような癌では新世代のアンドロゲン受容体拮抗薬に関しても必ずしも反応せず、いずれにせよ治療中に抵抗性を獲得して無効となる。ホルモン療法不応性となった場合、現状では抗癌剤療法が奏功する例もあるが、効果を示す症例は限定的で、その効果を予測するマーカーはない。アンドロゲン受容体の機能を直接抑制するためのRNA干渉(RNA interference;RNAi)技術を応用した方法も開発されてきている(非特許文献1、2)が、臨床的に十分なものはいまだにない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Snoek R, Cheng H, Margiotti K, Wafa LA, Wong CA, Wong EC, et al. In vivo knockdown of the androgen receptor results in growth inhibition and regression of well-established, castration-resistant prostate tumors. Clin Cancer Res 2009;15:39-47.
【文献】Yamamoto Y, Loriot Y, Beraldi E, Zhang F, Wyatt AW, Al Nakouzi N, et al.Generation 2.5 antisense oligonucleotides targeting the androgen receptor and its splice variants suppress enzalutamide-resistant prostate cancer cell growth. Clin Cancer Res. 2015;21:1675-1687.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、本発明は、新たな癌の治療法、特には、アンドロゲン受容体の拮抗薬による治療が無効となった難治性の去勢抵抗性前立腺癌に対する治療法を提供することを課題とする。また、本発明の別の課題は、前立腺癌の予後または進行を判定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前立腺癌においてアンドロゲン受容体は癌の発生、進行に大きな役割を果たしている。本発明者は、今回、前立腺癌の悪性化に伴い発現量が増加する因子として、アンドロゲン受容体の新たな標的遺伝子cordon bleu-like 1(COBLL1)を見出した。また、COBLL1はアクチン結合ドメインを持つが、その詳細な機能は不明であったが、本発明者は、COBLL1はARシグナルの増強因子として働き、前立腺癌細胞の形態を変容させることを見出した。
本発明者は、これらの知見に基づき、今回、COBLL1を標的とする複数のsiRNAを設計し、アンドロゲン依存性の前立腺癌細胞株LNCaPを用いて細胞癌細胞増殖抑制効果を調べたところ、設計したsiRNAの中でも効果に顕著な差異が認められ、特定の標的配列に対するsiRNAが癌細胞増殖抑制剤として有用であることが示唆された。更に、これらの中から効果の優れたsiRNAを選択し、難治性の去勢抵抗性前立腺癌のモデルであるLTAD細胞及び22Rv1細胞を用いて、前記前立腺癌細胞の増殖と、動物モデルでの移植された腫瘍の増殖を有意に抑制することを示した。
また、癌組織でのCOBLL1高発現は前立腺癌患者の予後不良因子であると共に、進行の程度と相関することを示し、診断学的な価値や治療薬選択法のバイオマーカーとしての利用価値を有していることを示した。
【0007】
従って、本発明は、
[1]COBLL1遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖核酸であって、配列番号1~6のいずれかの標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含む、二本鎖核酸;
[2]siRNAである、[1]の二本鎖核酸;
[3]前記[1]又は[2]の二本鎖核酸をコードする塩基配列を含む、DNA;
[4]前記[3]のDNAを含む、発現ベクター;
[5]前記[1]又は[2]の二本鎖核酸、前記[3]のDNA、及び前記[4]の発現ベクターからなる群から選んだ少なくとも1つの有効成分を含む、癌細胞増殖抑制剤;
[6]前記[5]の癌細胞増殖抑制剤を含む、癌の治療又は予防用医薬;
[7]前立腺癌の予後を判定する検査方法であって:
(1)患者の前立腺から採取した細胞におけるCOBLL1遺伝子の発現レベルを測定する工程と;
(2)前記発現レベルを正常な前立腺細胞における発現レベルと比較する工程と、
を含む方法;
[8]前立腺癌の進行を判定する検査方法であって:
(1)患者の前立腺から採取した細胞におけるCOBLL1遺伝子の発現レベルを測定する工程と;
(2)前記発現レベルを正常な前立腺細胞における発現レベルと比較する工程と、
を含む方法;
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の二本鎖核酸、それをコードするDNA、前記DNAを含む発現ベクターによれば、COBLL1を標的とする新たな癌細胞増殖抑制剤、又は癌の治療又は予防用医薬を提供することができる。
また、本発明の検査方法によれば、前立腺癌の予後または進行を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アンドロゲン受容体陽性のアンドロゲン依存性前立腺癌のモデルであるヒト前立腺癌細胞株LNCaP細胞に8種類のsiCOBLL1(siCOBLL1#A~siCOBLL1#H)を投与し、mRNAの相対的発現量を測定した結果を示すグラフである。
図2】LNCaP細胞に8種類のsiCOBLL1(siCOBLL1#A~siCOBLL1#H)を投与し、MTSアッセイにより生細胞数を測定した結果を示すグラフである。
図3】去勢抵抗性前立腺癌のモデルであるLTAD細胞に4種類のsiCOBLL1(siCOBLL1#C、siCOBLL1#D、siCOBLL1#F、siCOBLL1#G)を投与し、mRNAの相対的発現量を測定した結果を示すグラフである。
図4】LNCaP細胞に4種類のsiCOBLL1(siCOBLL1#C、siCOBLL1#D、siCOBLL1#F、siCOBLL1#G)を投与し、MTSアッセイにより生細胞数を測定した結果を示すグラフである。
図5】LNCaP細胞又はLTAD細胞に2種類のsiCOBLL1(siCOBLL1#1、siCOBLL1#2)を投与し、ウエスタンブロッティングの結果を示す図面である。
図6】皮下にLTAD細胞を移植したマウスにsiCOBLL1#1を投与し、腫瘍体積を測定した結果を示すグラフである。
図7】皮下にLTAD細胞を移植したマウスにsiCOBLL1#1を投与した後、腫瘍を摘出し、腫瘍から抽出したタンパク質溶液を用いてウエスタンブロッティングを行った結果を示す図面である。
図8】皮下に去勢抵抗性前立腺癌の別のモデルである22Rv1細胞を移植したマウスにsiCOBLL1#1又はsiCOBLL1#2を投与し、腫瘍体積を測定した結果を示すグラフである。
図9】皮下に22Rv1細胞を移植したマウスにsiCOBLL1#1又はsiCOBLL1#2を投与した後、腫瘍を摘出し、腫瘍から抽出したタンパク質溶液を用いてウエスタンブロッティングを行った結果を示す図面である。
図10】102例の根治的前立腺全摘術により得られた前立腺癌検体を用いて免疫染色を行い、COBLL1の発現量と前立腺全摘術後の癌特異的生存率との関係を、Kaplan-Meier法により解析した結果を示すグラフである。
図11図10で用いた前立腺癌検体(102例)について、COBLL1の発現量、前立腺特異抗原(PSA)の発現量、前立腺癌の進行との関係を解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《二本鎖核酸》
本発明の二本鎖核酸は、COBLL1遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖核酸であって、配列番号1~6のいずれかの標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含むことを特徴とする。なお、本明細書において「二本鎖核酸」とは、所望のセンス鎖とアンチセンス鎖とがハイブリダイズしてなる二本鎖核酸領域を含む核酸分子を意味し、siRNA(small interfering RNA)であることが好ましい。
【0011】
(COBLL1遺伝子)
前記COBLL1(cordon-bleu like 1)遺伝子の塩基配列はGenBank(NCBI)などの公共データベースを通じて容易に入手することができ、例えば、ヒトCOBLL1遺伝子は、NCBI accession number NM_014900.3である。COBLL1はアクチン結合ドメインを有するが、その詳細な機能は不明であった。本発明者は、今回、COBLL1遺伝子の或る特定の配列を標的とするsiRNAが前立腺癌細胞の増殖と、動物モデルでの移植された腫瘍の増殖を有意に抑制することを示し、本発明を完成した。
参考として、ヒトCOBLL1遺伝子の塩基配列を配列番号25に示す。
【0012】
(センス鎖及びアンチセンス鎖)
本発明の二本鎖核酸は、23塩基からなる配列番号1~6のいずれかの標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含む。
ここで、「標的配列に対応する塩基配列」とは、標的配列と同一の塩基配列であるか、あるいは、前記標的配列において1若しくは数個(例えば、2~3個)の塩基が置換された塩基配列を意味する。二本鎖核酸がsiRNAである場合、1~数塩基のミスマッチを含んでいても、RNAi効果が得られることが知られている。本発明では、標的配列と同一の塩基配列だけでなく、RNAi効果が得られる限り、ミスマッチを含む塩基配列であってもよい。
【0013】
また、アンチセンス鎖における「センス鎖に相補的な塩基配列」とは、センス鎖とハイブリダイズすることができる程度に相補的な塩基配列であればよく、センス鎖に完全に相補的な塩基配列であるか、あるいは、前記センス鎖に完全に相補的な塩基配列において1若しくは数個(例えば、2~3個)の塩基が置換された塩基配列であることができる。
【0014】
(核酸の種類と修飾)
二本鎖核酸を構成する核酸の種類は、特に限定されるものではなく、適宜選択することができ、例えば、二本鎖RNA、DNA-RNAキメラ型二本鎖核酸を挙げることができる。キメラ型はRNAi効果を有する二本鎖RNAの一部をDNAに換えたものであり、血清中での安定性が高く、免疫応答誘導性が低いことが知られている。
また、二本鎖核酸は、例えば、2’-OH基の修飾、バックボーンのホスホロチオエートによる置換やボラノホスフェート基による修飾、リボースの2位と4位が架橋されたLNA(locked nucleic acid)の導入などによって、ヌクレアーゼに対する耐性や安定化を高めることもできる。あるいは、細胞への導入効率を高める等の目的から、二本鎖核酸のセンス鎖の5’端、或いは3’端に、例えば、ナノ粒子、コレステロール、細胞膜通過ペプチド等の修飾を施すこともできる。
【0015】
(siRNA)
本発明の二本鎖RNAは、siRNA(キメラ型を含む)であることが好ましい。ここで、「siRNA」とは、18塩基長~29塩基長の小分子二本鎖RNAであり、前記siRNAのアンチセンス鎖(ガイド鎖)と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。
前記siRNAは、先述したようなセンス鎖及びアンチセンス鎖を含み、かつ所望のRNAi効果を示すものであれば、その末端構造に特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、前記siRNAは、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端(オーバーハング)を有するものであってもよい。中でも、前記siRNAは、各鎖の3’末端が2塩基~6塩基突出した構造を有することが好ましく、各鎖の3’末端が2塩基突出した構造を有することがより好ましい。
【0016】
本発明のsiRNAとしては、表1に示すように、例えば、配列番号1(23塩基)を標的配列とする配列番号7(21塩基)のセンス鎖と配列番号8(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(後述する実施例におけるsiCOBLL1#1、別称としてsiCOBLL1#C)、配列番号2(23塩基)を標的配列とする配列番号9(21塩基)のセンス鎖と配列番号10(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siCOBLL1#2、別称としてsiCOBLL1#D)、配列番号3(23塩基)を標的配列とする配列番号11(21塩基)のセンス鎖と配列番号12(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siCOBLL1#E)、配列番号4(23塩基)を標的配列とする配列番号13(21塩基)のセンス鎖と配列番号14(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siCOBLL1#F)、配列番号5(23塩基)を標的配列とする配列番号15(21塩基)のセンス鎖と配列番号16(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siCOBLL1#G)、配列番号6(23塩基)を標的配列とする配列番号17(21塩基)のセンス鎖と配列番号18(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siCOBLL1#H)を挙げることができる。
【0017】
この中でも、配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#1、siCOBLL1#C)、配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#2、siCOBLL1#D)、配列番号13のセンス鎖と配列番号14のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#F)、配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#G)が好ましく;配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#1、siCOBLL1#C)、配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#2、siCOBLL1#D)、配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#G)がより好ましく;配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#1、siCOBLL1#C)、配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#2、siCOBLL1#D)が更に好ましく;配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(siCOBLL1#2、siCOBLL1#D)が特に好ましい。
【0018】
【表1】
〔表1において、「標的配列」は、配列番号25で表されるヒトCOBLL1遺伝子(NM_014900.3)における塩基番号による。塩基配列欄の3種類の塩基配列は、上から順に、標的配列(23塩基)、センス鎖(21塩基)、アンチセンス鎖(21塩基)である。〕
【0019】
(製造方法)
本発明の二本鎖RNA(特にはsiRNA)は、従来公知の手法に基づき作製することができる。
例えば、所望のセンス鎖とアンチセンス鎖とに相当する18塩基長~29塩基長の一本鎖RNAを、それぞれ既存のDNA/RNA自動合成装置等を利用して化学的に合成し、それらをアニーリングすることにより作製することができる。また、後述する本発明のベクターのような、所望のsiRNA発現ベクターを構築し、前記発現ベクターを細胞内に導入することにより、細胞内の反応を利用してsiRNAを作製することもできる。
【0020】
《DNA、発現ベクター》
本発明のDNAは、先述した、本発明の二本鎖核酸(特にはsiRNA)をコードする塩基配列を含むことを特徴とするDNAであり、本発明の発現ベクターは、前記DNAを含むことを特徴とする発現ベクターである。
【0021】
(DNA)
前記DNAとしては、先述した、本発明の二本鎖核酸をコードする塩基配列を含むDNAであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記二本鎖核酸をコードする塩基配列の上流(5’側)に、前記二本鎖核酸の転写を制御するためのプロモーター配列が連結されていることが好ましい。前記プロモーター配列としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、CMVプロモーター等のpol II系プロモーター、H1プロモーター、U6プロモーター等のpol III系プロモーターなどが挙げられる。
【0022】
また、更に、前記二本鎖核酸をコードする塩基配列の下流(3’側)に、前記二本鎖核酸の転写を終結させるためのターミネーター配列が連結されていることがより好ましい。前記ターミネーター配列としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
前記プロモーター配列、前記二本鎖核酸をコードするヌクレオチド配列、及び前記ターミネーター配列を含む転写ユニットは、前記DNAにおける好ましい一態様である。なお、前記転写ユニットは、従来公知の手法を用いて構築することができる。
【0024】
(発現ベクター)
前記ベクターとしては、前記DNAを含むものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。前記ベクターは、前記二本鎖核酸(特にsiRNA)を発現可能な発現ベクターであることが好ましい。
前記二本鎖核酸の発現様式としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば二本鎖核酸としてsiRNAを発現させる方法として、短い一本鎖RNAを二本発現させる方法(タンデム型)、shRNA(short hairpin RNA)として一本鎖RNAを発現させる方法(ヘアピン型)等が挙げられる。ここで、shRNAとは、18塩基~29塩基程度のdsRNA領域と3塩基~9塩基程度のloop領域を含む一本鎖RNAであるが、shRNAは、生体内で発現されることにより、塩基対を形成してヘアピン状の二本鎖RNAとなる。その後、shRNAはDicer(RNase III酵素)により切断されてsiRNAとなり、標的遺伝子の発現抑制に機能することができる。
【0025】
前記タンデム型siRNA発現ベクターは、前記siRNAを構成するセンス鎖をコードするDNA配列と、アンチセンス鎖をコードするDNA配列とを含み、かつ、各鎖をコードするDNA配列の上流(5’側)にプロモーター配列がそれぞれ連結され、また、各鎖をコードするDNA配列の下流(3’側)にターミネーター配列がそれぞれ連結されたDNAを含む。
【0026】
また、前記ヘアピン型siRNA発現ベクターは、前記siRNAを構成するセンス鎖をコードするDNA配列と、アンチセンス鎖をコードするDNA配列とが逆向きに配置され、前記センス鎖DNA配列とアンチセンス鎖DNA配列とがループ配列を介して接続されており、かつ、それらの上流(5’側)にプロモーター配列が、また、下流(3’側)にターミネーター配列が連結されたDNAを含む。
前記各ベクターは、従来公知の手法を用いて構築することができ、例えば、前記DNAを、予め制限酵素で切断したベクターの切断部位に連結(ライゲーション)することにより構築することができる。
【0027】
前記DNA又は前記ベクターを細胞に導入(トランスフェクト)することにより、プロモーターが活性化され、前記二本鎖核酸を生成することができる。例えば、前記タンデム型ベクターにおいては、前記DNAが細胞内で転写されることにより、センス鎖及びアンチセンス鎖が生成され、それらがハイブリダイズすることによりsiRNAが生成される。前記ヘアピン型ベクターにおいては、前記DNAが細胞内で転写されることにより、まずヘアピン型RNA(shRNA)が生成され、次いで、ダイサーによるプロセシングにより、siRNAが生成される。
【0028】
《癌細胞増殖抑制剤》
本発明の癌細胞増殖抑制剤は、先述した本発明の二本鎖核酸、DNA、又はベクターの少なくともいずれか1つの有効成分を含み、更に必要に応じてその他の成分を含むことができる。
【0029】
(癌細胞)
前記癌細胞増殖抑制剤の適用対象となる細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前立腺癌細胞が好適に挙げられ、前記前立腺癌細胞は、アンドロゲン依存性前立腺癌細胞であっても、ホルモン療法の効かない難治性の去勢抵抗性前立腺癌細胞であってもよく、特に去勢抵抗性前立腺癌細胞に適用することが好ましい。前記癌細胞増殖抑制剤は、先述した本発明の二本鎖核酸、DNA、又はベクターの少なくともいずれかを含むため、COBLL1遺伝子の発現抑制を介して、癌細胞の増殖を効果的に抑制することができる。
【0030】
(投与方法、投与量)
前記癌細胞増殖抑制剤は、例えば、癌細胞に導入(トランスフェクト)することによって、前記細胞に作用させることができる。前記導入の方法としては、特に制限はなく、従来公知の手法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トランスフェクション試薬を用いる方法、エレクトロポレーションによる方法、磁気粒子を用いる方法、ウイルス感染を利用する方法などが挙げられる。
癌細胞に対して作用させる癌細胞増殖抑制剤の量としても、特に制限はなく、細胞の種類や所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、1×10個の細胞数に対し、二本鎖核酸の量として、0.1μg程度が好ましく、5μg程度がより好ましく、15μg程度が特に好ましい。
【0031】
(その他の成分)
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記二本鎖核酸、DNA、及びベクターの少なくともいずれかを所望の濃度に希釈するための生理食塩水、培養液等の希釈用剤や、対象とする細胞内に前記二本鎖核酸、DNA、及びベクターの少なくともいずれかを導入(トランスフェクト)するためのトランスフェクション試薬などが挙げられる。
前記癌細胞増殖抑制剤中の前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
《医薬》
本発明の医薬(医薬組成物)は、癌を治療又は予防するための医薬であり、先述した本発明の癌細胞増殖抑制剤を含み、更に必要に応じてその他の成分を含むことができる。
【0033】
(癌)
前記癌治療又は予防用医薬の適用対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前立腺癌及び/又はその転移癌が好適に挙げられ、前記前立腺癌は、アンドロゲン依存性前立腺癌であっても、ホルモン療法の効かない難治性の去勢抵抗性前立腺癌であってもよく、特に去勢抵抗性前立腺癌細胞に適用することが好ましい。
【0034】
(剤形、投与方法)
前記医薬の剤型としては、特に制限はなく、所望の投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤等)、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤などが挙げられる。
また、有効成分以外のその他の成分として、所望の医薬添加物、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を含むことができる。
【0035】
前記医薬の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記医薬の剤型、疾患の種類、患者の状態等に応じて、局所投与、全身投与のいずれかを選択することができる。例えば、局所投与においては、前記医薬を、所望の部位(例えば、腫瘍部位)に直接注入することにより投与することができる。前記注入には、注射等の従来公知の手法を適宜利用することができる。また、全身投与(例えば、経口投与、腹腔内投与、血液中への投与等)においては、前記医薬の有効成分が所望の部位(例えば、腫瘍部位)まで安定に、かつ効率良く送達されるよう、従来公知の薬剤送達技術を適宜応用することが好ましい。
【0036】
前記医薬の投与量としては、特に制限はなく、投与対象である患者の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、成人への1日の投与あたり、二本鎖核酸の量として、1mg~100mgが好ましい。
また、前記医薬の投与回数としても、特に制限はなく、投与対象である患者の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて、適宜選択することができる。
【0037】
(癌の治療又は予防方法等)
また、本発明は、癌の治療又は予防用医薬に加えて、
癌の治療又は予防の必要がある対象に、その有効量で、本発明の癌細胞増殖抑制剤を投与することを含む、癌の治療または予防方法;
本発明の癌細胞増殖抑制剤の、癌の治療又は予防用医薬の製造への使用;
癌の治療又は予防用である、本発明の癌細胞増殖抑制剤
にも関する。
【0038】
《検査方法》
本発明の前立腺癌の予後を判定する検査方法は、患者の前立腺から採取した細胞におけるCOBLL1遺伝子の発現レベルを測定する工程と、その発現レベルを正常な前立腺細胞における発現レベルと比較する工程と、を含む。
また、本発明の前立腺癌の進行を判定する検査方法は、患者の前立腺から採取した細胞におけるCOBLL1遺伝子の発現レベルを測定する工程と、その発現レベルを正常な前立腺細胞における発現レベルと比較する工程と、を含む。
【0039】
本発明の前立腺癌の予後または進行を判定する検査方法は、測定値(又は予め決定した閾値)等を比較することにより、医師の判断を仰ぐことなく判定結果を得ることができるものであり、前立腺癌の予後または進行の判断を補助するための検査方法である。また、本発明の検査方法は、患者から採取した試料を用いてイン・ビトロで行う検査方法でもある。
【0040】
(予後の判定)
本発明者は、患者の前立腺癌細胞において、COBLL1遺伝子の発現量の上昇が予後不良と相関関係を有することを見出した。従って、本発明の検査方法による検査の結果、COBLL1遺伝子の発現が正常細胞に比較して有意に高い場合、予後は不良となる可能性が高いものと予測することができる。
【0041】
(進行の判定)
また、本発明者は、患者の前立腺癌細胞において、COBLL1遺伝子の発現量の上昇が、前立腺特異抗原(PSA)の発現量の上昇、あるいは、グリーソンスコア(Gleason Score)の上昇と相関関係を有することを見出した。従って、本発明の検査方法による検査の結果、COBLL1遺伝子の発現が正常細胞に比較して有意に高い場合、前立腺癌が進行していると判断することができる。
【0042】
(発現レベルの測定)
本発明の検査方法において、COBLL1遺伝子の発現レベルは、常法により測定することができる。例えば、定量的リアルタイムPCR又はノーザンブロッティング等によりmRNAレベルで測定することもできるし、あるいは、ウエスタンブロッティング又は免疫組織染色等によりタンパク質レベルで測定することもできる。
【0043】
(正常値との比較)
このようにして測定した患者由来の前立腺癌細胞における測定値と、正常な前立腺細胞における発現レベルとの比較は、常法により行うことができ、例えば、それぞれ別々に採取した各細胞における発現レベルを測定し、それらを比較することもできるし、あるいは、予め決定した正常な前立腺細胞における閾値と比較することもできる。
【実施例
【0044】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
《実施例1:siCOBLL1の設計》
GenBank(NCBI)から入手した、配列番号25で表されるヒトCOBLL1遺伝子(NM_014900.3)の塩基配列から、表1に示す8種類のsiRNAを設計し、SIGMA-Aldrichに合成を委託した。なお、前記塩基配列(NM_014900.3)は9488塩基からなり、コード領域(CDS)は223番~3723番である。また、siRNA#A~siRNA#H(以下、siCOBLL1#A~siCOBLL1#Hと称する)は、いずれも、標的配列は23塩基であり、21塩基からなるセンス鎖及びアンチセンス鎖は、その3’末端側の2塩基は突出末端(オーバーハング)である。
【0046】
【表2】
〔表2において、「開始位置」及び「終了位置」は、それぞれ、標的配列の開始位置および終了位置を意味し、配列番号25で表されるヒトCOBLL1遺伝子(NM_014900.3)における塩基番号で示す。〕
【0047】
《実施例2:mRNAレベルにおけるsiCOBLL1によるCOBLL1ノックダウン効率の検証》
実施例1で合成したsiRNAによるCOBLL1発現抑制の効果を検証するため、RNAレベルでの発現量の測定を行った。アンドロゲン受容体(AR)陽性のヒト前立腺癌細胞株LNCaP細胞(ATCC CRL-1740)を、10%ウシ胎児血清(FBS;Sigma)、100μg/mLストレプトマイシン、100U/mLペニシリン(Invitrogen)を含むRPMI-1640培地(Sigma)にて培養し、6ウェルプレートに3×10細胞/ウェルになるようにまき、24時間以内にLipofectamine RNAi MAX(Thermofisher)を用いて計8種類のsiRNAのトランスフェクションを行った。siRNAは、20μmol/Lネガティブコントロール(siControl;Ambion)と、8種類の50μmol/L siCOBLL1(SIGMA-Aldrich)を10nmol/Lになるように調整し、細胞へ加えた。トランスフェクション後72時間以内にISOGEN(日本ジーン)でRNAの回収を行った。500ng RNAをPrimescript RT reagent kit(TaKaRa Bio)を用いてcDNA合成した。cDNA合成後、10倍希釈し、そのうちの2μLを用いて定量的リアルタイムPCRを行った。内部コントロールにはGAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)を用いて補正を行い発現レベルの解析を行った。
【0048】
結果を図1に示す。8種類のsiCOBLL1配列(siCOBLL1#A~siCOBLL1#H)は、ネガティブコントロール(siControl)に比べてmRNAレベルでCOBLL1がノックダウンされていた。その中でもsiCOBLL1#B、siCOBLL1#C、siCOBLL1#D配列が特に効果が高かった。
【0049】
《実施例3:COBLL1ノックダウンによるLNCaP細胞増殖への影響》
次にCOBLL1発現抑制によるLNCaP細胞の増殖能への影響を検討した。LNCaP細胞は96ウェルプレートに3×10細胞/ウェルになるように継代し、24時間以内にsiRNAをトランスフェクションした。siRNAは、20μmol/Lネガティブコントロール(siControl;Ambion)と、8種類の50μmol/L siCOBLL1(SIGMA-Aldrich)を10nmol/Lになるように調整し、細胞へ加えた。細胞の継代後1日後、4日後、5日後、6日後に細胞増殖アッセイを実施した。前記アッセイはMTSアッセイにより行い、PES(phenazine ethosulfate)を介して、テトラゾリウム塩[MTS;3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium, inner salt]を発色物質であるホルマザン産物へ変換する還元反応に基づいて、生細胞数を測定した。マイクロプレートリーダーにて吸光度490nmで細胞増殖能を測定した。
【0050】
結果を図2に示す。siCOBLL1#C、siCOBLL1#D、siCOBLL1#E、siCOBLL1#F、siCOBLL1#G、siCOBLL1#Hでは、試薬のみ(n.c.)、ネガティブコントロール(siControl)と比較して、有意に細胞増殖が抑えられていた。増殖抑制効果が顕著かつ発現抑制効果も顕著なsiCOBLL1#C、siCOBLL1#D、siCOBLL1#F、siCOBLL1#Gを次の実験に使用することとした。
【0051】
《実施例4:去勢抵抗性前立腺癌モデルLTAD細胞におけるmRNAレベルでのsiCOBLL1によるCOBLL1ノックダウン効率の検証》
LNCaP細胞の代わりに、難治性の去勢抵抗性前立腺癌(Castration-Resistant Prostate Cancer;CRPC)のモデルであるLTAD(long-time androgen deprived)細胞を用いること、8種類のsiCOBLL1の代わりに4種類のsiCOBLL1を用いること以外は、前記実施例2の手順に従って、mRNAの発現レベルを解析した。前記LTAD細胞は、LNCaP細胞をアンドロゲン枯渇培地で6か月間培養して得られたCRPCモデル細胞である(Takayama, K. et al., EMBO J 2013, 32, 1665-1680.)。
【0052】
結果を図3に示す。4種類のsiCOBLL1配列は、ネガティブコントロール(siControl)に比べてmRNAレベルでCOBLL1がノックダウンされていた。その中でもsiCOBLL1#C、siCOBLL1#D、siCOBLL1#G配列が特に効果が高かった。
【0053】
《実施例5:COBLL1ノックダウンによるLTAD細胞の去勢抵抗性増殖への影響》
LNCaP細胞の代わりにLTAD細胞を用いること、8種類のsiCOBLL1の代わりに4種類のsiCOBLL1を用いること以外は、前記実施例3の手順に従って、細胞増殖能を解析した。結果を図4に示す。siCOBLL1#C、siCOBLL1#D、siCOBLL1#Gでは、試薬のみ(n.c.)、ネガティブコントロール(siControl)と比較して、有意に細胞増殖が抑えられていた。以下、発現抑制効果の強いsiCOBLL1#C、siCOBLL1#D(以下、それぞれ、siCOBLL1#1、siCOBLL1#2と称する)を選択しさらに詳細な実験を行った。
【0054】
《実施例6:タンパク質レベルにおけるsiCOBLL1によるCOBLL1ノックダウン効率の検証》
発現抑制効果の強かったsiCOBLL1#1、siCOBLL1#2によるCOBLL1発現抑制の効果を検証するため、タンパク質レベルでの発現量の測定を行った。LNCaP細胞又はLTAD細胞を6ウェルプレートに3×10細胞/ウェルになるようにまき、24時間以内にsiRNAのトランスフェクションを行った。siRNAは、20μmol/Lネガティブコントロール(siControl;Ambion)と、2種類の50μmol/L siCOBLL1(siCOBLL1#1、siCOBLL1#2;SIGMA-Aldrich)を10nmol/Lになるように調整し、細胞へ加えた。内部コントロールにはβ-アクチンを用いて補正を行い、ウエスタンブロッティングによりタンパク質レベルでの発現レベルの解析を行った。その結果を図5に示す。2種類のsiCOBLL1配列に関して、ネガティブコントロール(siControl)に比べてCOBLL1が顕著にノックダウンされており、siCOBLL1#1、siCOBLL1#2の両配列とも効果が高かった。
【0055】
《実施例7:イン・ビボにおける腫瘍(LTAD細胞)増殖に対するsiCOBLL1の投与の効果》
イン・ビボでの腫瘍増殖への影響を調べるため、マウス皮下への腫瘍移植モデルを使用し、siCOBLL1による効果を検討した。腫瘍移植のためにLTAD細胞を1×10細胞に調整した後、マトリゲル(BD bioscience)と1:1で混合し、5週齢雄性ヌードマウスへ皮下注射した。マウス皮下注射後5~8週間、腫瘍体積が100~200mmくらいに達したところで精巣摘除を行い、難治性の去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)治療効果を検討するモデルとした。順次週3回のsiCOBLL1投与で治療を開始した。ネガティブコントロール(siControl;SIGMA-Aldrich)と比較し、この動物での検討にはsiCOBLL1#1を用いた。siRNAはそれぞれ5μg/匹になるように使用した。siRNAはフェノールレッド不含OPTI-MEM(Thermo Fisher Scientific)とRNAiMAX(Invitrogen)15μLと混合して100μLを腫瘍に注射した。siRNA剤による治療は3回/週を4週間繰り返し、腫瘍径(長径r1、短径(2か所)r2、r3)を測定し、v=0.5×r1×r2×r3の式により腫瘍体積を算出した。結果を図6に示す。siCOBLL1の投与はマウスにおける腫瘍の増殖を有意に抑制することを見出した。
【0056】
《実施例8:イン・ビボ腫瘍(LTAD細胞)内におけるsiCOBLL1投与によるCOBLL1タンパク質のノックダウン効率の解析》
腫瘍におけるsiRNAがCOBLL1を抑制しているかの確認をウエスタンブロッティングにより検証した。タンパク質の抽出のため腫瘍だけを取り除き、さらに5~10mmの大きさに分けた。腫瘍に500μL NP40溶解緩衝液(150mmol/L NaCl、1%NP40、50mmol/L Tris-HCl[pH8.0])を加え、ホモジナイザーですりつぶした。その溶液を15,000rpm、4℃で30分間遠心し、上清を回収した。タンパク質をSDS溶解緩衝液により可溶化した後、ウエスタンブロッティングによるCOBLL1タンパク質発現量の解析を行った。その結果、図7に示すようにsiCOBLL1の腫瘍内への投与はCOBLL1の発現レベルを抑制させた。興味深いことに、siCOBLL1は腫瘍内においてアンドロゲン受容体(AR)の活性化の指標であるリン酸化AR(p-AR)の発現量を抑制していた。以上よりsiCOBLL1は腫瘍内においてもCOBLL1を抑制しCOBLL1を標的として阻害することで腫瘍増殖の抑制を促すことが示唆された。
【0057】
《実施例9:イン・ビボにおける腫瘍(22Rv1細胞)増殖に対するsiCOBLL1の投与の効果》
イン・ビボでの腫瘍増殖への影響を調べるため、実施例7(LTAD細胞)とは別の難治性の去勢抵抗性前立腺癌によるマウス皮下への腫瘍移植モデルを使用し、siCOBLL1による効果を検討した。腫瘍移植のために22Rv1細胞(ATCC CRL-2505)を1×10細胞に調整した後、マトリゲル(BD bioscience)と1:1で混合し、5週齢雄性ヌードマウスへ皮下注射した。マウス皮下注射後1週間、腫瘍体積が100~200mmくらいに達したところで精巣摘除を行い、難治性の去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)治療効果を検討するモデルとした。順次週3回のsiCOBLL1投与で治療を開始した。ネガティブコントロール(siControl;SIGMA-Aldrich)と比較し、この動物での検討には、実施例7(LTAD細胞)で使用したsiCOBLL1#1に加えて、siCOBLL1#2も使用した。siRNAはそれぞれ5μg/匹になるように使用した。siRNAはフェノールレッド不含OPTI-MEM(Thermo Fisher Scientific)とRNAiMAX(Invitrogen)15μLと混合して100μLを腫瘍に注射した。siRNA剤による治療は3回/週を2週間繰り返し、腫瘍径(長径r1、短径(2か所)r2、r3)を測定し、v=0.5×r1×r2×r3の式により腫瘍体積を算出した。結果を図8に示す。siCOBLL1#1及びsiCOBLL1#2の投与は共に本腫瘍モデル実験においてもマウスにおける腫瘍の増殖を有意に抑制することを見出した。
【0058】
《実施例10:イン・ビボ腫瘍(22Rv1細胞)内におけるsiCOBLL1投与によるCOBLL1タンパク質のノックダウン効率の解析》
腫瘍におけるsiRNAがCOBLL1を抑制しているかの確認をウエスタンブロッティングにより検証した。タンパク質の抽出のため腫瘍だけを取り除き、さらに5~10mmの大きさに分けた。腫瘍に500μL NP40溶解緩衝液(150mmol/L NaCl、1%NP40、50mmol/L Tris-HCl[pH8.0])を加え、ホモジナイザーですりつぶした。その溶液を15,000rpm、4℃で30分間遠心し、上清を回収した。タンパク質をSDS溶解緩衝液により可溶化した後、ウエスタンブロッティングによるCOBLL1タンパク質発現量の解析を行った。その結果、図9に示すようにsiCOBLL1の腫瘍内への投与はCOBLL1の発現レベルを抑制させた。興味深いことに、siCOBLL1は、腫瘍内においてアンドロゲン受容体(AR)の活性化の指標であるリン酸化AR(p-AR)の発現量と、去勢抵抗性前立腺癌の発症に関わるAR-V7を含むアンドロゲン受容体の変異体(AR-V)のタンパク質発現を抑制していた。以上よりsiCOBLL1は腫瘍内においてもCOBLL1を抑制しCOBLL1を標的として阻害することで腫瘍増殖の抑制を促すことが示唆された。
【0059】
《実施例11:COBLL1の発現と癌特異的生存率との関連性》
COBLL1のヒト前立腺癌組織内における発現について、臨床検体を用いた免疫染色により検討を行った。免疫染色は、102例の根治的前立腺全摘術により得られた前立腺癌検体を用いて行った。発現の定量は発現強度と発現の割合をスコアリングしたものを用いた。具体的には、染色強度を3段階に、1視野における発現の割合を4段階に分類し、それぞれ加算したものを用いた。結果を図10図11に示す。COBLL1高発現群(+)では前立腺全摘術後の癌特異的生存率が有意に低く(図10)、また、前立腺全摘患者において、COBLL1の発現が、有意にグリーソンスコア(Gleason Score)と相関し、前立腺特異抗原(PSA)とも相関した(図11)。以上よりCOBLL1は前立腺癌の進行に関連し、予後予測因子となりうることが示された。またこのCOBLL1を標的とした治療法選択する際のバイオマーカーともなりうることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の二本鎖核酸は、COBLL1遺伝子に対してRNAi効果を有し、癌の治療又は予防に使用することができる。また、前記COBLL1遺伝子は、前立腺癌の予後または進行の判定のバイオマーカーとして使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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